大阪大学大学院経済学研究科
中川功一
Allegro_assai@hotmail.com
経営戦略論
第14回
戦略を組み立てる(1/2)
センスメーキングと挑戦
最終章
戦略を総合的に作り込む
よい戦略に求められる、
もうひとつの条件。
あなたの戦略は、
人々を導くことができるか。
「センスメーキング」と「挑戦」
戦略
将来の活動方針
の表明
協力者や顧客の
理解と支援を得る
内部メンバーの
目的・方針・動機
づけ
戦略とは、成功に至るための作戦であると同時に、
集団を望ましい方向に導く「リーダーシップ行動」である
再掲:GE ジャック・ウェルチの
「ナンバーワンorナンバーツー戦略」(1981)
ナンバーワンかナンバーツーでなければ、
「再建か、売却か、さもなければ閉鎖」
サービス
・金融
・情報
・建設・土木
・原子力
ハイテク
・医療機器
・素材
・産業用電子
・航空宇宙
・航空機エンジン
中核
・大型家電
・照明
・タービン
・輸送機器
・モーター
・建設機械
・エアコン
・大型変電装置
・AV機器
・携帯無線機器
・小型家電
・受配電機器
・ケーブル
・テレビ局
・マイクロエレクトロニクス
・石油掘削・精製
出所:J・ウェルチ(2005)『わが経営(上)』日経ビジネス人文庫,p.194.
世界最大の電機企業GEに20年君
臨したウェルチの著名な“戦略”。
数十に上る事業を、わずかに「サー
ビス、ハイテク、中核の3分野を軸
に、売上と品質、サービスにおいて
ナンバー1か2になれなければ売却
か閉鎖」というだけのミッションで経
営再建に導く。実際にGEの中核事
業であったエアコン事業の売却に
よって、その「戦略」が単なるお飾り
の文言でないことを示す。
実効性は、
知的な鋭さよりも、
相手への働きかけの大きさで決
まる。
実効性、相手への働きかけの強さとは
“センスメーキング”=行動への納得
=策略の魅力+実行コミット+説得
①策略の
魅力
②実行による
コミット
+
=
③人々の
「説得」
+
組織が動く
Sensemaking
人々に対して、現在と将来のありかたについて意味を与えること。
センスメーキングは、以下の2つによって引き起こされる。
(1)魅力的な策略の創発
(2)その自己の解釈に即した、積極的な行動
Follow!
Follow!
Follow!Act!
まとめ(1/3)
• すぐれた戦略家・経営者たらんと願うならば、知的
な鋭さよりも、人々を揺さぶる力を持たねばならな
い。
• そのためのポイントが、センスメーキング。魅力的
な策略に、実行力を乗せ、人々を先導・扇動する。
センスメーキングは経営者の条件。
だが、重要なのはそれによって
いかなる戦略が先導されていくか。
優秀で合理的、妥当で無難な戦略は、
実は戦略としては非常に危険。
日本のビジネスパーソンは、
“優秀”すぎるのだ
事業プランA
国内市場の維持
期待売上 1000億円±200億円
期待利益 100億円±50億円
事業プランB
海外市場への進出
期待売上 500億円±500億円
期待利益 0億円±200億円
優秀、妥当、無難とは「リスク回避」の力。
だが、それが経営戦略の行き詰まりをもたらす。
優秀で合理的な判断が
積み重ねられたとき
~米国コンデンサ業界の物語~
15
Yageo(台)
5%
京セラ・AVX
7%
SEMCO(韓)
8%
太陽誘電
12%
TDK
15%
村田製作所
28%
その他
23%Vishay・
Sprague
2%
積層セラミックコンデンサ世界シェア(2008年第2Q)
出所:『日経エレクトロニクス』2008年10月20日号.
日系が50%以上。利益も高い。産業規
模も単独の電子部品としては最大規
模
歴史的には、かつて米国が圧倒的で
あったが、1960年代から長い時間をか
けて日系が逆転。現在、米国勢はせ
いぜい10%以下
16
日米格差(1960年頃)
日米主要セラコン企業の売上高
技術的にも日米には数年の差があった。当時の日米の部品品
質の差は「テストするまでもなく、購買担当者が見ただけでわか
るほど」。
1956 年 1957 年 1958 年 1959 年 1960 年
村田製作所 248 351 506 1195 1246
TDK 553 825 1193 2437 2874
セントララブ 21121 23414 21330 23461 21852
デュービラー 14134 17842 19775 31482 36068
エリー 8388 8906.4 7632 8823.6 9396
スプラーグ 16078 16628 15548 20286 24300
エアロボックス 9036 7520 6296 7997 7388
単位:百万円
日本企業の侵攻と、米国企業の反応
17
民生市場(ラジオ・テレビ)向け
に、低価格・低性能品を販売
民生市場で売るにはとにかく
コストと製造安定性だ。
性能は低くても良い
10年前のスペック品を激安販売する
企業とはまともに戦えない。
高性能化・高付加価値化を図り、自
社の製品の価値を理解している産業
用・軍事用に絞り込もう
民生市場から撤退し、
産業(コンピュータ・通信・医療)、
軍事宇宙向けに高価格・高品質
品を販売
繰り返される意思決定
1970s
10年遅れで日系がチップ化・積層化を実現。低価格攻勢。
→米系は、安価な市場での競争を止め、産業用・軍事用に集中。
1980s
コンピュータ・通信分野に日系が本格進出。
→米系は、積層セラミックを捨て、より大容量のコンデンサで軍事・
宇宙領域に絞り、収益安定化。
その都度行われた意思決定は、「自社・他社の強み弱みを的確に比
べ」、「利潤最大化を目的とした」最善な判断だった。
次第に市場領域を狭め、1990年頃には軍需を残すのみに。
優秀で合理的、妥当で無難な戦略は、
実は戦略としては非常に危険。
リスクをとらない守りの戦略は、
リスクをとらない守りの組織を作り出し、
「やらない」が「やらなくてもよい」になり
次第に「できない」になっていく。
「人々を主導する」センスメーキングの力を考えるならば…
まとめ(2/3)
• 戦略が人々に働きかけ、行動をうながす「センス
メーキング」の側面があるならば、守りに入った戦
略が、むしろ組織を危機に陥れる可能性がある。
• トップの発する「守り」の号令は、人々に「守りに入
る」ことに正当性を与え、会社はしだいに変われな
くなってしまう。
• 健全な競争力を維持するために、組織には常に
チャレンジが必要なのだ。
挑戦し続ける
人々は強い。
シリコンバレーの
静かな大変化:
大企業からのスピンアウ
トをスタートとするモデル
から、
大企業による買収を
ゴールとするモデルへ
23
データ出所:NVCA
シリコンバレーは、
なぜ変化し続けられるのか
~センスメーキングが駆動する革新の連鎖~
VCの資金回収方法
1980-90年代初頭のシリコンバレー・システム
(Saxenian,1996)
24
ベンチャー企業
大規模事業会社
知識・人材の(デッド)ストッ
ク
大学・公的研究機関
知識・人材のストック
VC・エンジェル
資金
IPO
スピンアウト
事業創造
インテル
MS
最初の変化は、大企業から
インテル、マイクロソフト、シスコ
25
1998年にはインテル・マイクロソフトがベンチャー株市場における最大プレーヤー
群となる。1997年-1998年における2社のベンチャー投資額は全米VCによる情報
技術(IT)向け投資の約25%に相当に達した。
ベンチャー投資は当社のソフトビジネスを加速させるため。
(1998年、ホットメール買収に際して)
本体事業と相乗効果狙う。出資先にインテル本体の経営ノウハウや
技術を提供し、株式値上がり益と事業への相乗効果を狙う。
シスコ
A&D
“ベンチャー企業買収を、
企業の成長エンジンとする“
多数のフォロワーが登場。グーグルも、アップルも、米国IT企業はみな
ベンチャー買収に乗り出す。
次なる変化:
ベンチャー企業は、買収を前提に「技術の確立」に活動をフォーカスさ
せる
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ドットコムバブル崩壊
バイオベンチャーの増大、
バイオ系の投資・買収スキームの流入
事業会社によるベン
チャーM&Aの加速
“ベンチャー投資は研究
開発の外部委託”
“デス・バレー”
「技術開発と事業化で
は求められるものが
違い過ぎる」ベンチャー企業
事業化まで行わず
技術開発→売却が
一般的に
「独立企業としてIPOまでこぎ着くのは難し
くなってきた。[一方で事業売却ならば]約
束された巨大市場が目の前にあり、IPO
の煩雑なプロセスを経ずに巨額の富を手
にできる」
(1997年サン・マイクロシステムズに買収
されたたディバ社の創業者ディバチ氏)
変化は、連鎖していく
ベンチャーキャピタルの「買収仲介業」化、進行
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VCの資金回収のほとんどがM&Aとなっていく。その過程で、収益向上のために、①事
業会社に接近し、彼らの技術ニーズを収集、その意向に沿ってベンチャー探索をする、
②ベンチャーの情報も収集し、彼らの技術の売り先として事業会社を探索する、という、
双方を仲介する役を担うようになっていく。その傍証として、事業会社のVCへの出資(リ
ミテッド・パートナー契約)が進行した。
ドットコムバブル後、
VC資金繰りの悪化
VCの「金融機関」化=
利回り改善圧力
“ホームランでなく単打を重ねる”
“収益還元するには今後実行する投資のほとんどを成功させる必要がある。安全で高い
リターンが見込める投資案件のみを選ぶ傾向が強い。『リスクが高いから投資ができな
い』などと銀行のようなことを言うVCすら出てきた”
インスティテューショナル・ベンチャー・パートナーズ、マネージングディレクター、ピー
ター・トーマス氏(2003/01/16 日経金融新聞)
大学は「海外人材受け入れ&基本教育の窓口」に
• スピンアウトに代る知識・人材
の供給源として、アジアを中心
とした新興国からSVへの人材
流入(正確には、新陳代謝)が
加速。
• 背景には、新興国での知的人
材層の充実と、Saxenianに代表
される「SVのスポークスマン」の
活動によるSVの名声確立があ
る
28
23% 30%アジア系人口比率
SV人口
スタンフォード大留学生数
これが意味することは…
「知識・人材の源泉をSV外部に求
めるようになっている」
2000-10年代のシリコンバレー・システム
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ベンチャー企業
大規模事業会社
買収技術の事業化
大学・公的研究機関
域外人材の受け入れ
VC・エンジェル
仲介
M&A
創業
技術開発
システム機能比較、役割分担の表
30
1980年代システム 2000年代システム
システム全体の機能 新技術創造、事業化
大企業の役割 スピンアウト元
技術を生む母体
M&Aによる売却先
事業化を担う
ベンチャー企業の役割 事業化
IPOをゴールとする
技術開発
M&Aをゴールとする
VCの役割 ベンチャーへの資金提供、
インキュベーション
ベンチャーと事業会社の
技術需給を仲介
大学・公的研究機関
の役割
技術を生む母体 技術を生む母体
外部人材の受入機関
シリコンバレーから、学べること
集団の思いを、常にチャレンジに据える
• 人々が常に変革に信念を置くこと
• その人が周囲を巻き込みながら行動を起こせること
• その新しい発想・行動に周囲が賛同し、後に続くこと
まとめ(3/3)
• シリコンバレーが昔も今もイノベーションを起こし続け
られるのは、人々の信念が枯れることなく挑戦にあ
るから。周りの人々はその挑戦に巻き込まれることを
前向きにとらえ、挑戦を支援する。
• もし自分たちの組織を、挑戦するセンスメーキングに
満ち溢れた集団にできたとしたら…とても、素晴らし
いと思いませんか?
経営戦略論14

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