経営戦略論
第1回
経営戦略の基本①
経営戦略論とは何か
大阪大学・立命館大学
中川功一
Allegro_assai@hotmail.com
経営戦略とは
何でしょうか?
経営戦略とは
時間の経過
目
標
の
達
成
水
準
変革のシナリオ
あるべき姿
企業や事業の将来のあるべき姿と、そこに
至るまでの変革のシナリオを描いた設計図
現状
この戦略を評価して下さい
20/20プラン
• お客さまに選ばれる会社となる
• 売上高を毎年20%伸ばす
• 利益率を最低でも20%確保する
「具体性」に乏しい。
「あるべき姿」と「そこに至るシナリオ」がない。
ハーレー・ダビットソン・ジャパンの戦略
• 巨象(ホンダとヤマハ)と同じこ
とはしない、ライフスタイルマー
ケティングに徹する
– ハーレーの提供する独自の世界
観を大切にし、それに魅せられた
顧客・販売店と生涯にわたる「絆」
を作る
• 審査して販売協力店を整理する
• 販売店とユーザーとメーカーを結ぶ
データベースを作る
• HDJがユーザーのイベントをリード
する
→1985年以来20年以上一貫成長
では、この戦略はどうですか。
「変革のシナリオ」ではない。
当社の目指す未来は、いつまでも社会に愛される飲料メーカーで
ある。当社製品を愛してくれている既存顧客の要望にこたえ、味・
品質を常に磨き続けていく。
コストダウンにも熱心に取り組み、環境負荷低減にも取り組んで
いく。従業員のワーク・ライフ・バランスにも配慮し、日本の飲料の
リーディングカンパニーとしてこれからも皆に愛され続ける企業で
あり続ける。
経営戦略において「変革」は必須要素
時間
目標
望ましくないあるべき姿:
従来の努力で到達可能
望ましいあるべき姿:
従来の継続では
到達できない!
望ましくないシナリオ:標
準的な努力・
改善の積み重ね
望ましいシナリオ:
企業活動にも
変化を伴う
戦略とは、会社の未来を好転させるために知恵を絞って策定・実行されるべきもの。
莫大な労力と知恵を使って練られた戦略が「これまで通りの努力」であっては、戦略をたてる意
味がない。「これまで通り」ではとうてい辿り着けない高い目標を達成するために、経営戦略が
必要とされる。
「経営そのもの」は、人類が経済的な交換を始めた頃より、数千年の歴
史がある。
「経営学」は、学問として整備されていくのは20世紀初頭から。
これに対し、「経営戦略」が出てきたのは1960年代のこと。
長大な経営そのもの・経営学の歴史に比して、戦略論の歴史は短く、
せいぜい半世紀程度しかない
→戦略という概念とは無縁ながらも、経営はずっと機能し続けてきた。
→現代の企業が抱える問題の多くは戦略“以前”の問題
→生産やマーケティングがちゃんとできているのに解決できない経営
課題のために、経営戦略がある。
経営戦略など無くとも、人類の経済活動は機能
し続けてきた
(まとめ 1/3)
• 経営戦略とは、
• 経営に変革をもたらすべく、
• 企業や事業の将来のあるべき姿と、
• そこに至るまでのシナリオを描いたもの
経営戦略のステップ
時間の経過
目
標
の
達
成
水
準
③変革のシナリオ
①あるべき姿
①あるべき姿を描き、
②現状を分析したうえで、
③その間を結ぶシナリオを描く
②現状
①「あるべき姿」設定が第一!
日本全国にその名が知れ渡る有名居酒屋となり、売上高を現在の5倍にする。
関東一円でその名が知れ渡る高級居酒屋となり、
売上高を現在の2倍、営業利益率20%を達成する。
知る人ぞ知る通好みの高級店となり、リピーターが足しげく通う隠れた名チェーンとして長く愛
好される店になる
あなたは関東だけで展開している中堅居酒
屋チェーンの社長です。
下記それぞれの「5年後のあるべき姿」に合
わせた戦略を考えてみましょう。
「あるべき姿」を曖昧にしない
「スポーツ選手になる」では、トレーニングメニューは決められない。
「陸上選手になる」でもまだダメ
「マラソン選手になる」でようやくOK
「終盤で粘り強く、トラック勝負にもつれ込んでもスピードで負けないマラソン選手」という
具体性が望ましい。
②現状を把握する
戦略は、古来より、自分(内部状況)と相手(外部状況)とをよく分析し、
そこから策定するものとされる。
現代の経営戦略論も同様。自社のことをよく知り、同時に自社をとりま
く周辺状況も分析することで、よい戦略を生むための土台が作られる。
彼を知りて己を知れば、百戦して危うからず
『孫子』
SWOT分析
内部要因 外部要因
良い要因 強み
(Strength)
機会
(Opportunity)
悪い要因 弱み
(Weakness)
脅威
(Threat)
現状分析ためのもっとも基本的な手法。自社の内部・外部要因を、「良
い要因」と「悪い要因」に分類する。
・きわめてカジュアルな手法であり、SWOT分析だけを単独で運用しても、企業の置か
れた状況を精確・詳細に把握することはできないことに注意。
・だが、SWOT分析の魅力はカジュアルさにある。誰しも理解しやすく実行が簡単で、バ
ランスよく企業の内側・外側、良い要因・悪い要因に目を配れる。
・高度な分析を使う前の準備段階として、ざっと現状考察をすることができる
③シナリオを描く:「フォーカス(焦点)」を定める
“ボウリングのセンターピンを狙う”
– 最も効果的な1点を見つける。
– その1点は、近くてわかりやすい目標がよい。
– その点の攻略に資源を集中する。
– 攻略出来たら、
そこを起点に連鎖を起こしていく。
(まとめ 2/3)
• 戦略立案のステップは、①あるべき姿を定め、②現状
を分析し、③その間を結ぶシナリオを描く。
• あるべき姿には具体性が求められる
• 現状分析の基本はSWOT分析にある(内部・外部・良
い要因・悪い要因をバランスよく)
• シナリオを描くにあたっては、ボウリングのセンターピン
を狙う
実践演習 戦略立案
SWOT分析を使いながら、
基本ステップに沿って戦略を作ってみよう
• ビール業界 1985年
– キリン 60%
– A社 20%
– B社 10%
– C社 8%
スマートフォン(2014、日本)
アップル 43.6%
ソニー 18.3%
シャープ 14.3%
京セラ 6.1%
参考
自動車(2014、日本)
トヨタ 50.3%
日産 16.3%
ホンダ 11.5%
三菱 6.1%
課題
2016/10/19 19
圧倒的戦力のキリン
• 圧倒的なシェア
– 売上が圧倒的で、広告宣伝費
なども莫大
• コクと苦味の「キリンラガー」
ブランドの確立
• 「酒屋さんの宅配」形式での
販売。「顧客密着」
• 日本のメイン市場である中高
年男性に圧倒的支持
業界最下位C社の危機
• かつてはキリンを上回る業界第2位のシェアを誇っていたが、キ
リンの攻勢に押され、じりじりとシェアを低下。規模に劣るように
なったC社は、広告宣伝、ビール生産、営業人員などあらゆる
面で質・量ともに劣るようになり、その差は開く一方であった。
• こうした中、C社はキリンとの製品差別化のために独自のろ過
技術による「ドライビール」を完成。雑味が少なく純度の高いビ
ールで、炭酸・アルコールを強めたものである。だが、それは市
場で売れ筋のキリンビールの味「深いコクと苦み」とは正反対
の特徴をもつ、さっぱりした味わいのビールであった。
その他の業界状況
• 競合A社、B社はキリンに追随するのみで、積極的にキリンのシェ
アを脅かそうとはしていない。味や営業地域で微妙な差別化を図
るのみ。
• スーパーマーケットやコンビニエンスストアが新しい流通として成長
。特に都心部では普段の買い物をスーパーで済まし、従来の酒屋
や八百屋を使わない傾向が進んでいた。
• 若者のビール離れ。当時、日本社会の価値観は大きく変貌。女性
の社会進出の加速、年功序列の考え方への若者の反発。こうした
流れの中で、妻や部下に酌をしてもらいながら飲むビールに対し
て若者は嫌気し、その代わりにサワーやハイボールなどの軽い酒
を仲間で飲むようになった。
戦略を立ててみましょう
内部状況 外部状況
良い要因 ドライビール技術 キリン以外のライバルはあ
まり強くない
若者のビール離れ
新しい販路の台頭
悪い要因 生産能力、営業人員、広
告費、チャネル掌握、ブ
ランド力に劣る
キリンの豊富な戦力
キリンが従来販売チャネル
(酒屋)掌握
あるべき姿
キリンビールの提供する従来のビール文化を否定し、若い世代に合わ
せた新しいビール文化を提案して、シェアで逆転する
センターピンはどこか…?
センターピンを攻略する
• キリンがまだ掌握していないスーパーやコンビニ
など、新しい販路を活用する。
• ドライビールを用いてブランドイメージを刷新し、
それを通じて若者向けの新しいビールの世界観
を提案する/キリンビールの世界観と味を否定
する。
2016/10/19 24
アサヒ スーパードライ(1987~)
• 「キリンラガー」の否定
• 「コクと苦味」に対し「すっ
きり爽快、ドライ」
より若々しく、スポーティな
イメージ
• 宅配から店頭販売へ。
スーパー、コンビニに進
出
2016/10/19 25
(まとめ 3/3)
• 経営戦略は、未来を拓く力。いままで通りの努力では
達成できない目標にたどり着くための、変革のための
技法。
うまくできましたか?

経営戦略論1