学術変革領域研究 (B)『デジタル‐人間融合による精神の超高精細ケア』の領域成果発表会 (2022年2月24日) の発表資料です。4つの研究班が連動するプロジェクトのうち，樫原 潤が代表者を務める「ネットワーク班」の概要をお示ししています。

1. 2022年2月24日 領域成果発表会
樫原 潤 (東洋大学)
ネットワーク解析による
心理療法の高精細な作用機序の解明
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2. 研究代表者の自己紹介
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◼ 樫原 潤 (1988年生)
◼ 専門：臨床心理学
• うつ病の潜在的スティグマとその低減方法
(Kashihara & Sakamoto, 2018)
• 「新型うつ」の偏見についての実態調査
(Kashihara et al., 2019)
• ネットワーク解析による心理療法のテイラー化
(樫原, 2019; 樫原・伊藤, 印刷中)
※「多様性」が通底するキーワード

3. 研究分担者・研究協力者
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◼ 研究分担者
• 国里 愛彦 (専修大学)
• 菅原 大地 (筑波大学)
◼ 研究協力者
• 竹林 由武 (福島県立医科大学)
• 伊藤 正哉・重枝 裕子・山口 慶子 (NCNP)
※ 臨床心理学者たちの，機関を越えた協働体制

4. 今日お話しすること
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◼ 研究の背景
◼ ネットワーク班のメイン研究
◼ ネットワーク班の拡大戦略
◼ 長期スパンでの課題

5. 研究の背景
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6. 既存の心理療法研究への批判
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◼ 「疾患カテゴリ別に治療プロトコルを作成 → エビデンス
を蓄積」という戦略は頭打ち
• 治療プロトコルが乱立しても，すべては使いこなせない
• 「疾患のカテゴリ分類」そのものが，実データと乖離している
◼ 「うつ病には認知行動療法が有効」といった形での概括的
な議論しかできていない
• 「うつ病」「認知行動療法」の中身は，本当は多様
• 「なぜ，どういったプロセスを経て効くのか」という作用機序が
明らかでない

7. 代替アプローチの隆盛・同時多発
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◼ 「カテゴリ別治療プロトコル」戦略の見直し
• 統一プロトコル (UP) による，診断横断的治療
(Barlow et al., 2011)
• HiTOPプロジェクトによる，実データに基づくカテゴリ分類
(Conway et al., 2019)
◼ 「治療プロセスの解明」「心理療法のテイラー化」戦略
• Process-Based Therapyという，治療の新機軸の提案
(Hofmann et al., 2021)
• ネットワーク解析による，作用機序の「見える化」
(Borsboom et al., 2011)

8. 心理ネットワークアプローチとは？
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◼ ネットワーク科学 (e.g., Barabási, 2012) が土台
• 「友人関係の広がり」「脳神経同士のつながり」「感染症の拡大
経路」などの複雑系を，ネットワークの形にして「見える化」
• ハブ (中核) の特定と選択的介入，臨界点の予測 etc.
◼ ネットワーク科学の理論と技法を，心理療法研究に応用
• 「実体をもたない疾病概念」ではなく，「個別症状の連鎖」を
捉え，ネットワークとして「見える化」する
• 「中心性指標」「ネットワーク密度」等の数量的根拠を，治療
計画の策定に役立てる

9. 疾病概念からネットワークへ
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うつ病
抑うつ 不眠 無価値観
e1 e2 e4
食欲不振
e3
抑うつ 不眠
食欲不振
無価値観
臨床実践の現実に則した理論・
モデルへの転換
患者は，「概念」ではなく「症状の連
鎖」に苦しんでいる
治療者が介入できるのは，「症状」や
「連鎖」のみであり，「概念」は直接
攻撃できない
※ 樫原 (2021) より引用

10. ネットワーク班のメイン研究
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11. ネットワーク班のメイン研究
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◼ 心理療法 (UP) の詳細な作用機序を明らかにする
• 下記①～③の順に，徐々に発展
① UP研究の質問紙尺度データの解析
• UPが進むにつれ，どの症状がまず改善し，どう波及していくか
② 「各介入技法の実施状況」のデータを①に加えて解析
• 「各回，各技法に何分程度割いていたか」のレベルで解析
③ 音響班・自然言語班のデータを②に加えて解析
・倫理審査済 (B2021-085)
・解析計画の事前登録完了
・日本心理学会エントリー
予定 (5月上旬〆切)

12. 研究①～③全体のイメージ
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左図のように，治療の
作用機序を「見える化」
する
「患者が報告した症状」
「治療技法の実施状況」
「音響」「自然言語」
同士の相互作用と，それぞれ
の内部構造を明らかにする
※ Lunansky et al. (2021)
より引用

13. 研究①のイメージ
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「患者200名強の，最大23
週にわたる質問紙データ」
を解析
「時点の影響を統制した
上での症状の関連 (左)」と，
「症状間の，時点をまたぐ
予測関係 (右)」の双方を，
ネットワークとして図示
※ Borsboom et al. (2021)
より引用

14. ネットワーク班の拡大戦略
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15. 心理学研究の様々な潮流との接続
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◼ 臨床心理学の新しい潮流との接続
• Process-Based Therapyの普及・ツール開発
• HiTOPプロジェクトで生み出された尺度の翻訳
• 質的な「プロセス研究」との照らし合わせ
◼ 心理学全体の潮流との接続
• 精神疾患や治療プロセスについての，「理論構築」「定式化」
「シミュレーション」に挑戦
※ 「理論の危機」「再現性の危機」が念頭

16. 接続例：Process-Based Therapy
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◼ Process-Based Therapy勉強会の発足
• 月1で課題図書を輪読するところから，生きの良い人を見つけて
つながりを構築していく
• 25名参加中 (2月21日時点)
• 下記URLから継続募集中
https://urlzs.com/MU66D

17. 長期スパンでの課題
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18. 長期課題：2024年度以降を見据えて
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◼ 他分野の研究者と協働関係を構築する
• 特に，ネットワーク科学に携わる研究者と協働したい
◼ 臨床心理学の若手研究者をうまく巻き込む
• 「自分もネットワーク研究をやりたい！」という人が増えてこそ，
学問分野が日本に定着するはず
◼ 臨床実践の現場に還元していく
• 「ネットワークのおかげで臨床が変わった！」という人が増えて
初めて，真に社会的意義のある研究と呼べる

19. 「巻き込み」絡みの問題意識
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◼ 「搾取」ではなく，Win-Winの関係を築くためには，
どのような工夫やルールを採り入れると良いか？
• 「金」や「業績」だけで人を釣りたくはない
• 「ネットワーク班への参与がきっかけで，その人の才能が開花」
という展開を実現するために，できることはないか？
◼ 「自分も頑張ればネットワーク研究ができる」という
期待を持ってもらうための仕掛けを何か作れないか？
• 「統計嫌いの文系学生」をどう乗せていくか？
• 「卒後の継続的な学び」をどう支えるか？

20. 「現場還元」絡みの問題意識
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◼ 「研究知見やデータの活用」にかかるコストをどう低減
していくか？
• 「測定」「解析実施」「結果の解釈」をアプリでできると良い？
• 「ネットワーク研究の知見をまとめ，現場での活用例を紹介する
Webサイト」があると良い？
◼ 「データを活用しながらの臨床実践」という文化をいかに
作っていくか？
• 「臨床の職人芸」と「ネットワークが示唆するもの」を，いかに
融合させていくか？

21. 文献
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Barabási, A. L. (2012). The network takeover. Nature Physics, 8, 14–16.
https://doi.org/10.1038/nphys2188
Barlow, D. H., Farchione, T. J., Fairholme, C. P., Ellard, K. K., Boisseau, C. L.,
Allen, L. B., & Ehrenreich-May, J. (2011). Unified protocol for transdiagnostic
treatment of emotional disorders: Therapist guide. Oxford, UK: Oxford
University Press.
Borsboom, D., Cramer, A. O. J., Schmittmann, V. D., Epskamp, S., & Waldorp,
L. J. (2011). The small world of psychopathology. PLOS ONE, 6(11), e2740.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0027407
Borsboom, D., Deserno, M. K., Rhemtulla, M., Epskamp, S., Fried, E. I., McNally,
R. J., ... & Waldorp, L. J. (2021). Network analysis of multivariate data in
psychological science. Nature Reviews Methods Primers, 1, 58.
https://doi.org/10.1038/s43586-021-00055-w

22. 文献
22
Conway, C. C., Forbes, M. K., Forbush, K. T., Fried, E. I., Hallquist, M. N., Kotov,
R., ... Eaton, N. R. (2019). A hierarchical taxonomy of psychopathology can
transform mental health research. Perspectives on Psychological Science,
14(3), 419–436. https://doi.org/10.1177/1745691618810696
Hofmann, S. G., Hayes, S. C., & Lorscheid, D. N. (2021). Learning process-based
therapy: A skills training manual for targeting the core processes of
psychological change in clinical practice. Oakland, CA: New Harbinger.
樫原 潤 (2019). 精神病理ネットワークの応用可能性―うつ病治療のテイラー化を
促進するために― 心理学評論, 62(2), 143–165.
https://doi.org/10.24602/sjpr.62.2_143
樫原 潤 (2021). 理論構築の観点から紐解く心理ネットワークアプローチの活用上
の留意点―松本論文へのリプライ― 心理学評論, 64(2), 204–223.

23. 文献
23
樫原 潤 (2019). 精神病理ネットワークの応用可能性―うつ病治療のテイラー化を
促進するために― 心理学評論, 62(2), 143–165.
樫原 潤・伊藤 正哉 (印刷中). 心理ネットワークアプローチがもたらす「臨床
革命」―認知行動療法の文脈に基づく展望― 認知行動療法研究
https://doi.org/10.24468/jjbct.20-015
Kashihara, J., & Sakamoto, S. (2018). Reducing implicit stigmatizing beliefs and
attitudes toward depression by promoting counterstereotypic exemplars. Basic
and Applied Social Psychology, 40(2), 87–103.
https://doi.org/10.1080/01973533.2018.1441714

24. 文献
24
Kashihara, J., Yamakawa, I., Kameyama, A., Muranaka, M., Taku, K., & Sakamoto,
S. (2019). Perceptions of traditional and modern types of depression: A cross-
cultural vignette survey comparing Japanese and American undergraduate
students. Psychiatry and Clinical Neurosciences, 73(8), 441–447.
https://doi.org/10.1111/pcn.12838
Lunansky, G., van Borkulo, C. D., Haslbeck, J. M. B., van der Linden, M. A., Garay,
C. J., Etchevers, M. J., & Borsboom, D. (2021). The mental health ecosystem:
Extending symptom networks with risk and protective factors. Frontiers in
Psychiatry, 12, 640658. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2021.640658

25. Thank you!
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※本研究班の科研費課題番号は，21H05068です。
※本発表および発表内で紹介した研究計画について，開示すべ
き利益相反関連事項はありません。