日本心理学会第87回大会の公募シンポジウム「心理療法研究の最前線：エビデンスと個別性の双方を尊重するために」で用いられたスライド資料です (8つある資料の2個目)。 菅原 大地 先生 (筑波大学) に，プロセス・ベースト・セラピーの観点から話題提供をいただきました。臨床心理学に携わるみなさまに，ぜひ目を通していただきたい内容です！

1. プロセス・ベースド・セラピー
におけるエビデンスと個別性
菅原大地
（筑波大学）

2. 話題提供の要点
・Process-Based Therapy（PBT）とは？
・PBTの特徴
・PBTにおけるエビデンスと個別性

3. これまでの心理療法のまなび
学部 大学院 今
(認知）
行動療法 多次元的
アプローチ PBT
色々とかじった程度
（修得はできたか？）

4. Process-Based Therapy(PBT)
・社交不安症のCBTでステファン・ホフマン氏と
ACTの創始者のスティーブン・ヘイズ氏が
提唱した新たな心理療法の「モデル」
・診断・プロトコルベースから，
個別性とプロセスベースへのパラダイムシフト
・Process-Based CBT（2018）
→Process-Based Therapy(2021)
→ Process-Based Approach?
(2022/ACBS・SIG)
Process-Based Therapyとは？

5. PBTの熱・ムーブメント(海外）
解説書 論文
2018
2020
2021
2023
2019 2022
2021 2023

6. PBTの熱・ムーブメント（国内）
勉強会・コロキアム 紹介論文
PBT勉強会
2020 2021
菅原大地・増山晃大・福井晴
那・能渡綾菜・水野雅之・松
本昇 (2020). Process-Based
Therapy―認知行動療法の新
たな展開― 精神医学,
62(11), 1539-1547
樫原 潤 (2021). 「プロセスに
基づくセラピー」事始め：
「エビデンスに基づくセラ
ピー」の先を行く，臨床心理
学の新たな枠組み 臨床心理学,
21(4), 489–492.
有志での勉強会

7. PBTを提唱する至った経緯
潜在疾患モデル/DSMへの批判
・遺伝子などのバイオマーカーは本当にあるのか？
→全ゲノム解析でも特定できなかった（Border et al., 2019）
・特定の障害に対するプロトコル開発
→すべての障害に対するプロトコルを
身につけられるのか？
研究領域基準（RDoC）への批判
・潜在疾患モデルがベースであり，エビデンスに
基づいたケアの方法を示すまで至っていない
Hofmann, Hayes, & Lorschid (2021)

8. 研究と臨床のギャップ
クライエントの個別性を重視しつつ，
エビデンスに基づいた心理療法を提供する
パッケージ→テーラーメイド
効果検証
臨床現場
・障害/疾患の併存
・症状の多様性
・症状の変化
しかし，その理論的な基盤は？実践方法は？
Hofmann, Hayes, & Lorschid (2021)

9. PBTの特徴
・進化論に基づくメタモデル
・ネットワーク思考（モデル）

10. PBTの特徴
・進化論に基づくメタモデル
・ネットワーク思考（モデル）

11. 拡張進化論メタモデル
（Extended Evolutionary Meta-Model; EEMM）
次
元
水
準
非適応的
適応的
システム バリエーション
（選択肢）
セレクション
（選択）
リテンション
（保持）
コンテクスト
（文脈）
情動
認知
注意
自己
動機づけ
外顕的行動
生物生理学的
社会文化的
Hofmann, Hayes, & Lorschid (2021)

12. 拡張進化論メタモデル
（Extended Evolutionary Meta-Model; EEMM）
次
元
水
準
非適応的
適応的
システム バリエーション
（選択肢）
セレクション
（選択）
リテンション
（保持）
コンテクスト
（文脈）
情動
認知
注意
自己
動機づけ
外顕的行動
生物生理学的
社会文化的
様々な形態
変異する
短・長期的利益
淘汰される
習慣化
パターン構築
環境・目標
文化適応
Hofmann, Hayes, & Lorschid (2021)

13. 拡張進化論メタモデル
（Extended Evolutionary Meta-Model; EEMM）
次
元
水
準
非適応的
適応的
システム バリエーション
（選択肢）
セレクション
（選択）
リテンション
（保持）
コンテクスト
（文脈）
情動
認知
注意
自己
動機づけ
外顕的行動
生物生理学的
社会文化的
様々な形態
変異する
短・長期的利益
淘汰される
習慣化
パターン構築
環境・目標
文化適応
様々な目標や
ゴール
短期的な目標
長期的な目標
動機づけや
行動の維持
文脈における
動機づけと行
動の相互作用
Hofmann, Hayes, & Lorschid (2021)

14. EEMMを導入した目的は？
進化生物学的に
精神障害や
治療論を考える
・・・
行動・学習
モデル
行動療法
認知モデル 認知療法
様々な心の
モデル
様々な
心理療法
・・・
Hofmann, Hayes, & Lorschid (2021)

15. PBTの特徴
・進化論に基づくメタモデル
・ネットワーク思考（モデル）

16. ネットワーク思考（モデル）
EEMM グリッド

17. 媒介からネットワークへ
失恋 落ち込み
反すう

18. 媒介からネットワークへ
失恋 落ち込み
反すう
孤独感

19. 媒介からネットワークへ
失恋 落ち込み
反すう
孤独感
どのような支援（治療）が考えられるか？

20. 媒介からネットワークへ
失恋 落ち込み
反すう
孤独感
自尊心

21. 介入方法の選択
Hofmann, Hayes, & Lorschid (2021)
一部改変

22. 治療選択
Hofmann, Hayes, & Lorschid (2021)
一部改変

23. PBTのケース論文
クライエントの語りに基づく
ネットワークモデル
介入効果の変動
経験サンプリングのデータによる
仮説モデルの検証

24. PBTが目指す方向
PBTが目指す方向
問題解決＋繁栄，成功，ウェルビーイング
→アウトカム指標が有意に改善した！ △
→セラピーがクライエントに役立ったか？〇
心理療法のプロセスをまとめあげる
＋
個々人のネットワーク セラピー中のダイナミクス
(経験サンプリング/生体データ)
=
癒しや成長のプロセス
変化のパターンの可視化

25. まとめ
・進化論に基づくことで心理療法の垣根を
越えようとしている
・ネットワーク思考によってクライエントの
個別性を重視しながら，エビデンスに
基づいた支援を提供する
・PBTは開発途中！
→今からでも世界的な議論に参入できる

26. 引用・謝辞
・Border, R., Johnson, E. C., Evans, L. M., Smolen, A., Berley, N., Sullivan, P. F., & Keller, M. C.
(2019). No Support for Historical Candidate Gene or Candidate Gene-by-Interaction
Hypotheses for Major Depression Across Multiple Large Samples. The American journal of
psychiatry, 176(5), 376–387.
・Hofmann S. G., Hayes S. C., Lorscheid D. N. (2021). Learning process-based therapy: A
skills training manual for targeting the core processes of psychological change in clinical
practice. New Harbinger.
・樫原 潤 (2021). 「プロセスに基づくセラピー」事始め：「エビデンスに基づくセラピー」の先を
行く，臨床心理学の新たな枠組み 臨床心理学, 21(4), 489–492.
・Ong, C. W., Hayes, S. C., & Hofmann, S. G. (2022). A process-based approach to cognitive
behavioral therapy: A theory-based case illustration. Frontiers in psychology, 13, 1002849.
・菅原大地・増山晃大・福井晴那・能渡綾菜・水野雅之・松本昇 (2020). Process-Based Therapy―
認知行動療法の新たな展開― 精神医学, 62(11), 1539-1547
・本発表は科研費課題 (20K14215) の一環で行われた。