日本心理学会第87回大会のチュートリアル企画「心理ネットワークアプローチ入門：縦断データ解析を中心に」用に作成したスライド資料です (5つある資料の5個目)。 心理ネットワークアプローチについて知るとともに，縦断データ解析の実施手続きを学べる内容となっています。心理学や精神医学だけではなく，社会科学の様々な領域で生かせる手法ですので，ぜひ目を通してみてください！

1. 解析の実例２.
社会心理学的研究
小杉考司（専修大学）
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2. 自己紹介
• 名前；小杉考司（こすぎこうじ）
• 所属；専修大学人間科学部
• 専門；心理統計，統計モデリング,数理社会心理学
• 学位；博士（社会学）
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3. 社会心理学×
• ミクロレベル；実験室実験における対人行動の反復測定
（ex.反復囚人のジレンマゲームなど）
• メゾレベル；小集団研究（ex.リーダーシップ，規範，意思決
定）における変化の記録，測定
• マクロレベル；流言，世論（含SNS)の趨勢の記述・説明
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個人の内部にフォーカスすることは少なく，状況・環
境変数で説明するのが主なので，あまり積極的に経
時性・同時性・個人間特性を扱ってこなかった
ネットワーク
時系列

4. 4
Wardenaar, Klaas & Jonge, Peter. (2013). Diagnostic heterogeneity in psychiatry: Towards an
empirical solution. BMC medicine. 11. 201. 10.1186/1741-7015-11-201.

5. 今後の発展に期待
• 因子分析による「社会的態度空間」の分析は時系列的な影響
が含まれるものであり，社会の変化を論じる上で時系列的
発想は重要→動的因子分析やDSEMなどのモデルも
• 階層線形モデルは社会心理学的データと相性がよく，反復
測定から時系列的なデータへの展開も期待される→ミクロ
レベルでのモデリング研究に時間的変数を取り込む
• データ収集デバイスの発展なども踏まえると，今後は社会心
理学×時系列データの研究事例も増えていくだろう
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社会心理学の時系列データ分析への冒険は始まったばかりだ！
完

6. 小集団とネットワーク
6
A
B
C
F
E
D
• そもそも，集団力学における場の理論，グループダイナミク
スは社会関係ネットワークのダイナミクスがテーマ
• 集団力学の祖・レヴィンの場の理論における生活空間の表現
は，ネットワーク表現と等価
レヴィンの表現 ネットワーク表現

7. 集団力学とネットワーク分析
• 集団力学(Group Dynamics)を名乗っているので，当然時
系列的な変化を扱う学問
• 研究を困難にするのは主にデータの収集方法；その質と量
• 評価する側，される側，いずれも集団成員
• 小集団は対象者を特定して評価するため，回答側も心理的
負担が大きいし，データ収集・管理上の困難もある
• 項目数・時点数の増加は回答者の負担に直結する一方，推
定には多くのデータが必要というジレンマ
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8. とある大学での事例
• ある大学における初年次生対象の宿泊研修において，研修
開始の前日および，研修期間中に個別に調査票を配布。
• 調査票は他成員に対する印象を問うもので，22項目からな
る形容詞対を8段階で評定してもうもの。
• ある人に対する評価データだけ抜き出し，RのmlVARパッ
ケージ，mlVAR()関数で変数間関係の推定を行った
8
mlVAR::mlVAR(data, idvar =“ID”, vars = Vars)
• コード自体は簡単で，たった一行で書けてしまいます！

9. A氏に対する評定
9
経時的ネットワーク 同時性ネットワーク
好き 好き
良い 良い
感じのいい
安定した 感じのいい 安定した
冷たい
親切な 親切な
冷たい
人がいい 人がいい

10. 10
経時的ネットワーク 同時性ネットワーク
好き 好き
良い 良い
感じのいい
安定した 感じのいい 安定した
冷たい
親切な 親切な
冷たい
人がいい 人がいい
B氏に対する評定

11. 結果の解釈
• 経時的ネットワークでは，対人的印象が時間と共に変化するプ
ロセスが見て取れる
• ほぼ見知らぬ関係→宿泊研修の中で「いい人かも」とおもっ
てたら「冷たい側面もあるんだな」と気付いたり，というよう
なことがある
• 同時性ネットワークでは，時間的変化の影響を除いた変数間関
係が見て取れる
• ある人についてはある程度固まった印象ができていたり，
「親切さ」といったところでは評価できない（変化しない）と
いったことが見えてきたりする
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12. 限界と難しさ
• データの質的問題 ； 人に対する印象評定は変化しやすく，
社会的望ましさなど回答のバイアスも多く含まれる。
• データの量的問題 ； 各項目の分散の小ささ，サンプルサイ
ズの小ささなどから，モデルの推定が不安定になることが
少なくない
• 実際，Rの他のパッケージや関数ではうまく推定できな
ケースがあり，パラメタ等オプションの設定をチューニン
グしてくのは結構大変
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13. 更なる展望
• ネットワークモデルの延長線上に，状態空間モデルや仮想空
間上でのモデリング（表象力学）などもみえてくる
• これまでの社会心理学で「時間」や「空間」を扱うことは少な
く，集団力学いっても個人心理学と大きな違いがみられな
かった
• 分析モデルの可能性は本人の想像力次第！
• データ収集デバイスの発展なども踏まえると，今後は社会心
理学×時系列データの研究事例も増えていくだろう
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社会心理学の時系列データ分析への冒険は始まったばかりだ！
完