日本心理学会第87回大会の公募シンポジウム「心理療法研究の最前線：エビデンスと個別性の双方を尊重するために」で用いられたスライド資料です (8つある資料の6個目)。 4件の話題提供を受けて，杉原 保史 先生 (京都大学) に，心理療法の統合を推進してこられたお立場からの指定討論をいただきました。臨床心理学に携わるみなさまに，ぜひ目を通していただきたい内容です！

1. 心理療法研究の最前線
エビデンスと個別性の双方を尊重するために
指定討論
実践の効果を高めるよう導く
リサーチエビデンスとは？
京都大学 学生総合支援機構 教授
日本心理療法統合学会 副理事長
杉原保史
2023.9.13
日本心理学会第87回大会公募シンポジウム

2. 自己紹介
• 京都大学・大学院で洞察志向的で対話的な心理療法
を学ぶ。
• Paul Wachtelの循環的心理力動論に啓発される。
• 心理療法統合にコミット。
• 特定の学派の心理療法に忠誠はなく、幅広く多様な
クライエントに対して実際の効果を高めることに関
心がある。
• 2017 AEDP Level１セラピスト
• 2019 EFT Level 1 トレーニング終了
• 2021 MBT ベーシックトレーニング終了

3. 心理療法の研究方法は発展してきた
• 事例や逸話
• 準実験
• ランダム化デザインの発達 1920-1930
• プラシーボ対照群デザインの発達 1950
• メタアナリシスの導入（Smith ＆ Glass, 1977）
• これらの研究方法を用いて、数十年にわたって数多くの研究が
なされてきた。
• それによって心理療法の効果は上がったのか？

4. 研究の積み重ねは心理療法の効果を向上
させてこなかった
• 心理療法の効果研究にメタアナリシスが導入された1960年代か
ら現在までの半世紀あまりの間、心理療法の全体的な効果は
まったく向上していない。
(Duncan, Miller, Sparks,2007; Prochaska, Norcross, &
Saul,2019; Thomas,2013; Wampold & Imel, 2015;
Miller,Hubble,Chow,2020）。

5. 特定のセラピーの技法コンピテンス
を高めたら、有効性は高まるのか？
• Branson, Shafran, & Myles (2015）
臨床家は300時間以上の訓練、スーパーヴィジョン、
実践を含むインテンシヴなコースに参加。CBTを実施
できるコンピテンスを定期的に測定し、コースの間に
有意に改善したことが確認された。
莫大な時間、資金、リソースが投入されたが、臨床的
な効果は改善しなかった。
5

6. 感想・コメント
• 心理学者は様々な研究方法を開発し、その都度、新たな研究方法
で心理療法を研究してきましたが、残念ながら、多くの要因が複
雑に相互作用する心理療法の現象を十分に洗練された仕方で扱う
ことはできておらず、研究は積み重ねられても、現場のセラピス
トの治療効果を目にみえる形で高めることには寄与してきません
でした。
• 心理療法をどのようにリサーチ・エビデンスに基づかせ、リサー
チ・エビデンスに導かせるかについて、これまでに多くの議論が
あり、APAの「心理学におけるエビデンスに基づく実践」はその
一定のまとめですが、なお議論は続いています。
• 今回の発表では、新たな研究モデルの開発や、研究と実践の間の
新たな結びつきにより、こうした状況に変化が起きるのかもとい
う可能性を感じさせられました。

7. 感想・コメント
• 身体医療をベースとしながら発展してきた医療モデルを超える、
心の理解にふさわしい新たな科学的モデルの構築が、洗練された
心理学的な研究によって試みられていることの可能性は大きいと
思います。

8. ディスカッションのための問い
• ご紹介いただいたアプローチがセラピストの間に大きく普及した
として、20年後の心理療法の効果（メタアナリシスで示される効
果量）は、今よりも高まっているでしょうか？
• 高まっているとしたら、それは過去半世紀のアプローチとはどこ
が違っているからでしょうか？
• もし高まっていないとしたら、（あるいは、高まっているとして
ももっと高めるには）何が足りないと考えられますか？
• クライエント要因、セラピスト要因、関係要因、それぞれの特性
と状態についてのデータに相応の位置が与えられているでしょう
か？
• トレーニングの方法は？