パーキンソン病の救急医療 
ー外科手術への対応ー 
下畑享良 
新潟大学脳研究所神経内科
PDと手術 
PD患者の 
手術管理 
内服の 
代替薬 
講演の内容
PDと手術 
講演の内容 
1. PD → 手術 
2. 手術→ PD
1. PDが手術に及ぼす影響 
PD 
危険因子 
①術後合併症 
②入院期間延長
①開腹手術:入院期間・死亡率↑ 
PD患者非PD患者 
234名40,979名 
開腹手術 
(腸切除,胆嚢摘出,前立腺切除) 
入院期間↑,死亡率↑ 
米国 
さらに 
Pepper PV, et al. J Am Geriat Soc 47:967-972, 1999
PDは合併症リスクを増加する 
オッズ比P値 
誤嚥性肺炎3.8 < 0.001 
術後せん妄2.6 0.009 
低血圧2.5 0.044 
尿路感染症2.0 < 0.001 
Pepper PV, et al. J Am Geriat Soc 47:967-972, 1999
②さまざまな手術:術後の転倒↑ 
PD患者非PD患者 
51名51名 
さまざまな手術 
術後の転倒が多い 
ドイツ 
Mueller MC, et al. Langenbeck’s Arch Surg 394:511-515, 2009
転倒リスクが高い 
*P<0.05 
Mueller MC, et al. Langenbeck’s Arch Surg 394:511-515, 2009
小括1 
PDは,術後合併症,入院期間延長,転倒 
の危険因子である
2. 手術がPDに及ぼす影響 
手術 
とくに消化管手術 
①さまざまな合併症 
②Parkinsonism-hyperpyrexia syndrome
①抗パ薬中止は様々な合併症を来す 
筋強剛・ 
無動の増悪 
運動制限 
呼吸筋筋力低下 
喀痰排出低下 
嚥下障害 
胃腸蠕動低下 
Akinetic crisis 
(48h以上のオフ) 
深部静脈血栓症 
肺塞栓症 
誤嚥性肺炎 
便秘 
術後イレウス 
⇒ 入院期間延長・リハビリの遅れ
②Parkinsonism-hyperpyrexia syndrome 
•抗パ薬の突然の中止や減量で生じる 
•神経遮断性悪性症候群(Neuroleptic 
malignant syndrome)に類似した病態
最初の症例報告は日本から 
Toru M, et al. J Nerv Ment Dis. 1981;169:324-7.
様々な名称がある 
Neuroleptic-like malignant syndrome 
Malignant syndrome in parkinsonism 
Dopaminergic malignant syndrome 
Levodopa-withdrawal hyperthermia 
Acute dopamine depletion syndrome 
Acute akinesia 
Parkinsonism-hyperpyrexia syndrome
PHSの誘因 
1. 抗パ薬の中止・減量 
2. 感染 
3. 食欲低下 
4. 嚥下障害 
5. 明らかな誘因なし 
病名に神経遮断やドパミン欠乏は不適切 
Newman EJ, et al. Neurocritical care. 2009;10:136-40.
神経遮断やドパミン欠乏は好ましくない 
Neuroleptic-like malignant syndrome 
Malignant syndrome in parkinsonism 
Dopaminergic malignant syndrome 
Levodopa-withdrawal hyperthermia 
Acute dopamine depletion syndrome 
Acute akinesia 
Parkinsonism-hyperpyrexia syndrome
PHSの危険因子 
1. PDが重症 
2. L-DOPA内服量が多い 
Ueda M, et al. Neurology. 1999;52:777-81.
PHSの予後は良くない 
死亡率 
後遺症 
4% 
31% 
99 エピソード 
(93人) 
Takubo et al. Parkinsonism Relat Disord 9; S31-41, 2003
PHSは二次性パーキンソニズムでも生じる 
Takubo et al. Parkinsonism Relat Disord 9; S31-41, 2003
PHSの臨床所見 
発熱(38℃以上) 
パーキンソニズム増悪 
意識障害 
幻覚 
自律神経症状 
(血圧変動,頻脈,発汗,尿失禁) 
構音障害,嚥下障害 
Newman EJ, et al. Neurocritical care. 2009;10:136-40.
PHSの検査所見・合併症 
検査所見 
CK 上昇 
白血球増多 
肝機能障害 
代謝性アシドーシス 
合併症 
急性腎不全 
横紋筋融解症 
誤嚥性肺炎 
深部静脈血栓症 
肺塞栓症 
DIC 
呼吸不全 
Newman EJ, et al. Neurocritical care. 2009;10:136-40.
PHSの治療① 
• L-DOPA(経鼻胃管,静注) 
• ドパミンアゴニスト 
ブロモクリプチン(パーロデル®;7.5-15.0 mg,分3) 
ロピニロール(レキップ®;1-2 mg,分3) 
プラミペキソール(ビ・シフロール®;0.18-0.36 mg,分3) 
ロチゴチン(ニュープロパッチ®;2-4 mg/日) 
アポモルフィン(アポカイン®皮下注;1.0-2.0mg/時) 
Newman EJ, et al. Neurocritical care. 2009;10:136-40.
全身管理 
PHSの治療② 
輸液,解熱剤,冷却 
筋強剛が高度 
ダントロレン(ダントリウム®;10mg/kg,分3)静注 
合併症 
感染⇒ 抗菌薬 
呼吸不全⇒ 人工呼吸器管理 
急性腎不全⇒ 人工透析 
Newman EJ, et al. Neurocritical care. 2009;10:136-40.
1. 手術(とくに消化管手術)はパーキンソン 
症状の増悪とさまざまな合併症(肺塞栓症, 
誤嚥性肺炎,イレウス)を招く. 
2. 術後のPHSの発症に注意し,適切な治療 
を行う. 
小括2
PD患者の 
手術管理 
1 術前 
2 手術当日 
3 術後
① 術前管理 
1. 外科医,麻酔科医と連携をとる 
2. 患者さんの不安に対処する 
3. 注意すべき薬剤を知る
1.外科医・麻酔科医と連携をとる 
外科手術はPD患者に大きな影響を及ぼす 
という共通認識を持つ 
情報提供 
気軽に 
術前コンサルト 
共同での術前リスク把握・治療計画
外科医の術前コンサルト⇒予後を改善,入院期間を短縮 
• 人工膝関節形成術 
膝の機能スコアが改善,入院期間が2.5日短縮 
Mehta et al. Am J Orthped 37; 513-6, 2008(米国)
2.患者さんの不安に対処する 
スケジュール通りの内服? 
スタッフのPDの専門知識? 
PDへの手術・麻酔薬の影響? 
神経内科医不在の病院・病棟に 
入院した患者さんの心配事 
Anderson et al. Am J Nursing 113; 26-32, 2013(米国)
パーキンソン病友の会(新潟)でのアンケート 
質問:手術のための入院した際,困ったことを教えて下さい 
• 子宮がんの手術の時,2日間,薬を内服させてもらえず, 
動けなくなってしまった. 
• 病院に薬の管理をしてもらったが,定時に届かなかった. 
自分で管理すればよかった. 
• オンとオフを説明しても,理解してもらえなかった. 
• トイレに近い病室を用意してもらえなかった.
Get it on time キャンペーン(英国) 
正しい時間に内服することの大切さを訴える
3.注意すべき薬剤を知る 
MAOB阻害薬 
セレギリン(エフピー®) 
術後鎮痛 
オピオイド 
相互作用 
分解酵素阻害→ セロトニン← 再取り込み阻害 
セロトニン症候群 
Gilman. Brit J Anesthesia 95; 434-441, 2005
セロトニン症候群 
自律神経 
症状 
神経・筋 
症状 
精神症状 
体温上昇,異常発汗 
高血圧,頻脈 
興奮,錯乱,昏睡 
ミオクローヌス 
筋強剛,振戦
セレギリンは漸減・中止が望ましい 
セレギリン: オピオイドを使用するため, 
術前1~2週で漸減・中止する 
緊急手術: 術中・術後もオピオイドを避ける 
Gilman. Brit J Anesthesia 95; 434-441, 2005
小括3 
1. 神経内科医は,外科医,麻酔科医との連携 
をとる必要がある. 
2. 患者さんは入院に対する不安を持っており, 
とくに通常通りに内服できるかは重要である. 
3. 術前,注意すべき薬剤にセレギリンがある.
② 手術当日 
1. 内服はギリギリまで行う 
2. 麻酔方法をリクエストしてよい 
3. 麻酔薬の作用に注意する
1.内服はギリギリまで行う 
術前2時間麻酔導入の直前まで 
可能な限り内服 
症状の増悪やPHSを予防
手術は午前の早い時間を依頼する 
午前中の早い時間を依頼する午後の手術 
朝昼 
朝の内服後, 
禁食 
昼の分も内服
2.麻酔方法をリクエストしてよい 
① 局所麻酔の利点 
全身麻酔に伴う合併症の予防が可能 
振戦をマスクする全身麻酔薬や筋弛緩薬を 
避けることができる 
② 全身麻酔+気管内挿管の利点 
高度のジスキネジアを伴う症例 
せん妄,不穏が予想される症例では安全 
流涎・嚥下障害を伴う症例
3.麻酔薬の作用に注意する 
導入薬⇒ 鎮痛薬⇒ 吸入麻酔
3.麻酔薬の作用に注意する 
安全性・副作用 
導入薬プロポフォールディプリバン® 振戦改善作用,脳定位手術では避ける* 
チオペンタールラボナール® おそらく安全 
*12-24h前から抗パ薬中止しDBSの効果を見るが, 
プロポフォールで改善しうるため使用を避ける.
3.麻酔薬の選択 
安全性・副作用 
導入薬プロポフォールディプリバン® 振戦改善作用,脳定位手術では避ける 
チオペンタールラボナール® おそらく安全 
鎮痛薬フェンタニルフェンタニル® 筋強剛の増悪* 
レミフェンタニルアルチバ® 筋強剛の増悪* 
モルフィン 
アンペック® 
プレペノン® 
筋強剛の増悪* 
*麻薬,μアゴニストで,特に力価の高い麻薬である 
フェンタニル,レミフェンタニルは,前シナプスドパミン 
放出阻害により筋強剛を来す,
3.麻酔薬の選択 
安全性・副作用 
導入薬プロポフォールディプリバン® 振戦改善作用,脳定位手術では避ける 
チオペンタールラボナール® おそらく安全 
鎮痛薬フェンタニルフェンタニル® 筋強剛の増悪 
レミフェンタニルアルチバ® 筋強剛の増悪 
モルフィン 
アンペック® 
プレペノン® 
筋強剛の増悪 
吸入 
麻酔 
イソフルレンフォーレン® おそらく安全 
セボフルレンセボフレン® おそらく安全 
ハロセンフローセン® 
L-DOPA内服例では心感受性上昇による 
不整脈誘発
4.その他の注意点 
自律神経症状が強い症例 
⇒ 術中管理を注意するよう伝える 
発汗異常 
→ 体温調節障害 
血圧調節異常 
→ 脱水,出血・輸血,手術体位で 
血圧の急激な変化
逆Trendelenburg 体位(頭部高位) 
血圧低下に注意 
臥位高血圧→ 血圧調節に使用
小括4 
1. 手術当日は,麻酔導入の直前まで,可能な限り, 
内服をしていただく. 
2. 患者の状態によっては麻酔方法についてリクエスト・ 
相談する. 
3. プロポフォールの振戦改善作用,鎮痛薬の筋強剛 
誘発,ハロセンとL-DOPAの併用による不整脈には 
注意が必要.
③ 術後管理 
1. 鎮痛 
2. 嘔気・嘔吐 
3. 精神症状 
4. その他
1.術後鎮痛 
オピオイド 
セロトニン再取り込み阻害作用 
セロトニン症候群 
オピオイド過量状態 
肝におけるオピオイドの 
代謝を阻害 
MAOB阻害薬 
両者の併用を避ける
セロトニン再取り込み阻害作用の強い薬剤は避ける 
強い弱いなし 
メペリジン 
(禁忌) 
トラマドール 
メタドン 
デクストロメトロファン 
プロポキシフェン 
モルフィン 
コデイン 
オキシコドン 
ブプレノルフィン
2.術後嘔気・嘔吐 
術中から制吐剤は使用される 
→ パーキンソン症状の増悪の懸念 
末梢性抗ドパミン作用中枢性抗ドパミン作用 
Brennann et al. BMJ 341; 990-993, 2010 
ドンペリドン(ナウゼリン®) 
メトクロプラミド(プリンペラン®) 
プロクロルペラジン(ノバミン®) 
使用可能(主に坐薬) 使用を避ける
3.術後精神症状 
• 術後せん妄,興奮,幻覚 
PD患者> 一般高齢者 
• 注意力の日内変動,幻視,まとまりのない 
思考,睡眠・覚醒のリズム障害が多い 
Golden et al. Ann Int Med 111; 218-22, 1989
αシヌクレイノパチーは精神症状をきたしやすい 
パーキンソン 
病 
Incidental 
LB disease 
びまん性 
レビー小体病 
認知症を伴う 
PD 精神症状
胃がん術後のせん妄はシヌクレイン病理のせい? 
胃切除術後せん妄と関連する因子 
⇒ ICU入室,胃の神経節細胞のαシヌクレイン病理 
Sunwoo et al. Neurology 80:810-3, 2013
精神症状への対処 
1. 誘発因子(感染など)があれば抗パ薬は変更せず, 
誘発因子の治療を行う. 
2. 困難であれば,PDを悪化させにくい向精神薬を使用. 
①クロザピン(クロザリル®) 
無顆粒球症,心筋炎,糖尿病性ケトアシドーシス, 
糖尿病性昏睡等の重篤な副作用 
②クエチアピン(セロクエル®) 
著しい血糖値上昇,糖尿病性ケトアシドーシス, 
糖尿病性昏睡等の副作用
4.その他の注意すべきこと 
1. 早期の抗パ薬内服開始 
2. 早期の尿道カテーテル抜去 
3. 早期のリハビリ開始 
DVTや肺塞栓,便秘,拘縮,褥瘡,肺炎予防 
4. 腸蠕動を促進する薬 
術後イレウス予防
小括5 
1. 術後鎮痛ではオピオイドとMAOB阻害薬の 
相互作用に注意する. 
2. 術後嘔気・嘔吐には末梢性抗ドパミン作用 
のドンペリドン坐薬を使用する. 
3. 術後精神症状に対しては,誘因除去と,PD 
を悪化させにくい向精神薬を使用する.
内服の 
代替薬
周術期の抗パ薬の非経口薬を要するケース 
厳密な禁食 
(消化管手術) 
頻回の嘔吐 
胃排出遅延 
イレウス
非経口薬として何を使用すればよいか? 
パーキンソン病治療ガイドライン2011 
その後,海外論文では,非経口新規抗パ薬である 
ロチゴチン,アポモルフィンも選択肢となっている.
① L-DOPA注射剤(ドパストン®静注用) 
• 添付文書上,1日量25~50mg → 明らかに少ない. 
• ガイドライン2002では「合剤100mgにつき,L-ドパ50~ 
100mgの割合で,1回2~3時間で経静脈的投与」. 
• 1日2,3回に分けて1~3時間で点滴静注することが, 
一般的だが,24時間かけて持続点滴をしてもよい. 
• ドパミンアゴニストを内服している場合はL-DOPA換算 
等量を用いる.
② ロチゴチン(ニュープロパッチ®) 
• 複数の抗パーキンソン病薬を使用している場合も, 
L-DOPA換算量を計算の上,切り替えは可能である. 
• 手術前日の切り替えは容易で,副作用(幻覚,嘔気, 
眠気)の頻度は少ないという報告もある. 
• 利点は手技が容易であること,忍容性が高いこと. 
• 欠点は効果が強力ではないことで,とくに高用量の 
抗パ薬を内服する患者においては不十分となりうる. 
• 切り替えの際のL-DOPA対ロチゴチン比は20~30:1
③ アポモルフィン(アポカイン®皮下注) 
• 2 mgから開始し,1 mgずつ増量する. 
• 効果は強力であるため,抗パ薬を高用量内服している 
患者でも,良好なコントロールが得られる. 
• 副作用は嘔気,幻覚などの精神症状,一過性血圧低下. 
嘔気に対しては,ドンペリドン(ナウゼリン®)など制吐薬 
の併用が必要で,通常,数日前より開始する.
小括6 
1. 非経口薬としては,L-DOPA注射剤,ロチゴ 
チン貼付剤,アポモルフィンがある. 
2. ロチゴチンは簡便だが,効果は強くない. 
3. アポモルフィンは強力だが,嘔気等の 
副作用の対策が必要である.
総括 
1. PDは,術後合併症,転倒,入院期間延長の危険 
因子である. 
2. 手術は,PD患者に症状の増悪・合併症とPHSを 
もたらす. 
3. 術前・術中・術後管理として注意すべき点がある. 
4. 周術期の内服薬の代替薬として,ロチゴチンや 
アポモルフィンも選択可能である.

パーキンソン病における外科手術の対応