筋萎縮性側索硬化症(ALS)を知ろう! 
1. 
ALSに関する基礎知識 
2. 
ALSに対するケア 
3. 
人工呼吸器療養をめぐる倫理的問題 
4. 
神経難病に関してできること 
下畑享良 
新潟大学脳研究所神経内科
1. ALSに関する基礎知識
ALSの病名は症状と病理変化をあらわす 
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis) 
神経所見 
病理所見 
脊髄前角の萎縮 
(下位運動ニューロン) 
側索 
(上位運動ニューロン) 
淡い色調 
=神経変性 
Klüver-Barrera染色 
筋萎縮 
側索の硬化
疾患概念が確立したのは1925年 
1869年、シャルコー(Jean Martin Charcot;1825~93)が報告 
1925年、シャルコー生誕100年記念シンポジウム(パリ) 
シャルコーの基準がALS の概念として受け入れられる
シャルコー先生の記載したALSの概念・症状 
■概念上位運動ニューロンと、その情報を筋肉に伝える 
下位運動ニューロンが障害される変性疾患。 
■症状上肢の機能障害、歩行障害、 
球麻痺(構音障害・嚥下障害)、呼吸筋麻痺など
上位運動ニューロン変性による症状 
痙性(つっぱり)、腱反射亢進、病的反射陽性
下位運動ニューロン変性による症状 
筋力低下、筋萎縮、線維束性攣縮(筋肉のぴくつき) 
A 
B 
C 
A. 
背側骨間筋 
B. 
母指球、小指球 
C. 
肩甲帯
球麻痺・呼吸筋麻痺は生命を脅かす 
■球麻痺 
嚥下障害(ものが飲み込みにくい、むせる) 
構音障害(ろれつが回らない、声が鼻に抜ける) 
舌の筋力低下・萎縮 
■呼吸筋麻痺 
労作時の息切れ 
肺活量の低下 
呼吸困難
日本のALS患者数は増加している 
日本では現在,約8500人の患者さんがいて, 
かつ増加している
人工呼吸器開発前(1970年台)は告知されなかった 
■呼吸筋麻痺の出現=死を意味した 
→全経過約3年という病気 
■NO CAUSE, NO CURE, NO HOPE 
→病名を患者さん自身に伝えないことが主流 
医療父権主義(Medical paternalizm) 
患者の最善の利益の決定の権利は医師側にある。 
患者も病気のことが分からないため医師に依存する。 
→その後,告知に関する考え方の変化が生じた
ALS の病名告知はどのように行われるべきか? 
椿忠雄 
新潟大学初代神経内科教授 
新大神経内科開講20周年 
記念講演(1985.6.22) 
なぜ告知をする必要があるかという と、理由はただひとつですよね。この 方が今後、より良い人生を送るため、 充実した人生、生きている間にこれ もやりたい、あれもやりたいと思うこ とをやる、それが目的でございます。 
しかし、そのときの条件、いつ患者さ んに言うかということは、診断が確定 したときにいうのが常識的。その次 の条件としては、患者とこちらの信 頼関係ができている。もっと大事なこ とは、この患者さんと自分とが一体 になって生きていこうという覚悟が できていることです。
人工呼吸器登場後,ALSの臨床像は大きく変化した 
■1980年代ポータブル人工呼吸器の登場 
→呼吸筋麻痺(終末)≠死 
→10年以上の生存が可能 
■ポータブル人工呼吸器の 
もたらしたもの 
①長期の在宅を含めた呼吸療養 
②新しいALS の臨床像 
③患者主権主義(Patient sovereignty) 
自分のこと、自分の健康にかかわることは 
自分で決める権利=自己決定(autonomy)
新しいALS の臨床像(1)人工呼吸器のもたらしたもの 
コミュニケーション困難ないし不能状態 
(a) Minimal communication state 
最小限のコミュニケーション状態 
小指を動かしたり,瞬きだけで意思を伝える 
(b)全随意筋麻痺 
=Totally locked-in state (TLS) 
感覚や思考は病前と同じにも関わらず、 
一切の筋肉が動かず,コミュニケーションは おろか,瞬きすらできない状態
呼吸筋麻痺=死 
約3年 
約10年 
人工呼吸器 
装着 
呼吸療養生活 
発症 
発症 
従来のALS観 
新しいALS観 
Minimal 
communication 
state 
全随意筋 
麻痺=TLS 
新しいALS の臨床像(1)人工呼吸器のもたらしたもの
新しいALS の臨床像(2)高齢化が起きている 
ALS は高齢発症化している(当科38年間280例の検討) 
さらに高齢者では球麻痺発症例が有意に多い(オッズ比5.40 ) 
新潟大学データ.下畑ら.臨床神経2006
新しいALS の臨床像(3)認知症を合併する 
前頭側頭型認知症を合併しうる 
①日常生活での遂行機能障害 
(銀行に行って手順よくお金をおろすなど) 
②行動異常(問題行動) 
③言語障害 
出展http://www.als.gr.jp/staff/dementia/dementia_05.html 
A健常者 
B 認知症を伴うALS患者 
(脳萎縮を伴う)
リルゾールが唯一の治療薬 
• 
1996年,ALSではじめての治療薬として 米国FDAで認可を受けた(本邦1999年). 
• 
1錠=1,746.1円(1日2回) 
• 
疾患の進行を抑え,2~3ヶ月の延命効果 をもたらすが,筋力・機能に効果はない 
• 
副作用;倦怠感,消化器症状,肝障害 
リルゾールの重要性 
1. 
初めてのALS治療薬としての歴史的意義 
2. 
診断告知における神経内科医の負担の軽減 
3. 
第2の治療薬を開発しようという動きを促進 
→しかし1996年以降,これにつづく薬剤はない
2006年,運動神経細胞 の細胞質に糸状に蓄積 する構造物の正体が TDP43であることが判明 
ALS の運動ニューロンに蓄積するTDP43 
ALS 研究の突破口TDP43タンパク 
TDP43が治療薬開発の 突破口になる可能性
2. ALSに対するケア
ALS患者さんに対し、われわれは何ができるか? 
「治らない患者に普通の意味の医学はだめであっても 医療の手は及ばないことはない」 
「私は神経系の神経変性疾患を治癒することはできない。 しかし、患者に何らかの助けを与えることはできる」 
椿忠雄教授 
1.医療(ケア) 
2.原因の解明 
3.治療法の開発 
狭義の医学 
=サイエンス 
医療 
広義の医学
• 
コミュニケーション障害 
• 
栄養の障害 
• 
呼吸筋マヒ 
• 
生活サポート 
まだ治せないALSに何ができるか?
どうやってコミュニケーションするか? 
文字板 
眼球運動が保たれ ていれば、意思の 疎通が可能
視線入力装置 
マイトビー® 
眼球運動が可能で あれば,視線で パソコン操作が可能 
入力が速く便利だが, 高価であり普及でき ていない 
どうやってコミュニケーションするか? 
http://www.k-kijun.jp/kis25-06.html
眼が動かなくなったらどうするか? 
「伝の心」 
眼球運動以外のどこかが動け ば、意思の疎通が可能。患者 さんのまぶたや口元などの微 細な動きを感知してスイッチの 役目を果たす。
全随意筋麻痺の場合どうするか? 
「心語り」 
TLSの患者向けに、問い かけに対するYes/Noを、 脳の血液量を測定して判 定する装置。 
Yes →前頭葉活性化 
→血流増加 
→血流による近赤外光 
の吸収 
→散乱透過光の減少
栄養管理をどうするか? 
■食物形態の工夫 
■経鼻胃管 
■胃瘻(PEG)、腸瘻 
チューブが邪魔にならないので 経口摂取のリハビリや言語訓練 が可能。 
咽頭部の不快感が軽減される。 
経鼻胃管より管理が容易。 
(PEG) 
(PTEG) 
経食道胃管
呼吸をどのようにサポートするか? 
気管切開下陽圧換気療法 
(TPPV) 
Tracheostomized 
positive pressure ventilation
気管切開をしたくない場合どうするか? 
非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)は鼻マスクを使用する 
簡便な人工呼吸器 
→睡眠障害・呼吸苦・認知機能・活動力・QoLの改善 
1年以上の延命効果 
→ただし自発呼吸微弱や排痰困難で継続不可能
痰を自分で出せなくなったらどうするか? 
パーカッション・ベンチレーターは 
ジェット気流で痰を出しやすくする
ALSの医療に求められるもの 
治療薬開発だけではなく, 
工学やIT分野等の知識をもとにした工夫で 
患者さんの生活の質を改善できる. 
ぜひアイデアを!
3. 人工呼吸器療養をめぐる倫理的問題
人工呼吸器を装着するか? 
呼吸筋麻痺 
=死 
約3年 
約10年 
呼吸器装着の問題 
人工呼吸器装着 
発症 
人工呼吸器装着の選択=生きるか死ぬかの選択
尊厳死の立場から 
尊厳死(Dignified death / Natural death) 
患者さんが自分の意思で延命措置を行わず、自然な形で 最期を迎えること.薬物を投与するなど積極的関与によっ て死に至らしめる安楽死と異なる 
患者さん・家族の言葉 
「人工呼吸器はいたずらな延命だと思う」 
「一生天井を見て暮らして幸せとは思えない」 
「患者にも死ぬ権利はある」
終末期医療の中でも自分が考える人間としての尊厳を 保ちつつ,自分らしく最期の時を生きるという新しい概念. しかし,そうありたいと思っても,介護力不足や,経済的 な問題で,在宅医療を行うことができず,人工呼吸器を 装着したくてもできない患者さんもいる. 
患者さん・家族の言葉 
「夫には私の面倒を見させられないよ」 
「人工呼吸器をつけたいと思ったけど,息子が お金がないからやめてくれと言うんだ.だからやめたよ」 
「生きたくても生きられない私の生きる権利をどうしたら 良いのか?」 
尊厳生(そんげんい)の立場から
呼吸筋麻痺=死 
約3年 
約10年 
人工呼吸器 
装着 
呼吸療養生活 
発症 
発症 
従来のALS観 
Minimal 
communication 
state 
人工呼吸器を離脱して良いか? 
全随意筋 
麻痺=TLS 
一度,人工呼吸器を装着したら外せないのか?
Quality of Death 
ある患者さん(68歳)の事例 
49歳でALSを発症,その3年後に人工呼吸器装着 
意志の疎通ができなくなった時点=精神的な死・自分の死 
「私の病状が重篤になったら人工呼吸器を外してください. 
意思の疎通ができなくなるまでは当然のことながら精いっ ぱい生きる.そのあと,人生を終わらせてもらえることは 『栄光ある撤退』と確信している」 
人工呼吸器を外すこと=殺人? 
「人工呼吸器を離脱できないなら,最初から装着しないほう が良い」という意見もある.これも間接的な殺人?
全随意筋麻痺でも意思の表出ができる 
全随意筋麻痺は 
もはやTLS(閉じ込め状態)ではない!? 
Brain Machine Interface (BMI)は意思を読み取る 
脳波を解析して電気信号の形で出入力する
全随意筋 
麻痺=TLS 
科学技術の進歩は事態をさらに複雑化した 
呼吸筋麻痺=死 
約3年 
約10年 
人工呼吸器 
装着 
呼吸療養生活 
発症 
発症 
従来のALS観 
Minimal 
communication 
state 
意志伝達困難 
=人の死の理由になるか? 
意思を 
読み取れる 
Brain Machine Interface
4. 神経難病に関してできること
ALSを知ろう! 
• 
生きる力―神経難病ALS患者たちからの 
メッセージ(岩波ブックレット) 
• 
99%ありがとうALSにも奪えないもの 
ポプラ社 
• 
ALS患者さんのノーマライゼーション. 西澤正豊 
http://www.jalsa-niigata.com/
ALSに限らず患者会のボランティアに参加しよう! 
日本ALS協会以外にも神経疾患だけでもいろいろな患者会がある 
総会,交流会などに参加してみよう.自分の得意分野で役に立てることが分かるかも! 
PADM遠位型ミオパチー患者会 
全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会 
SMA(脊髄性筋萎縮症)家族の会 
なるこ会ナルコレプシー 
全国多発性硬化症友の会 
ほっとMS 
もやもや病の患者と家族の会 
ウィルソン病友の会 
ミトコンドリア病患者・家族の会 
全国パーキンソン病友の会 
全国筋無力症友の会 
日本ハンチントン病ネットワーク 
日本筋ジストロフィー協会 
日本の患者会(http://kanja-undosi.jp/) 
2015年日本ALS協会新潟県支部総会
ブレインバンクを知ろう! 
神経難病の原因解明,治療薬開発 のためには人の脳が必要 
患者さんの脳,および比較のための 病気のない人の脳も必要で,ドナー 登録が可能. 
家族が決める解剖ではなく, 
元気なうちに自分の意思で決めるこ とができる 
神経疾患ブレインバンク 
http://www.brain-bank.org/brain-bank/
まとめ 
1. 
ALS の臨床像は時代とともにどんどん変化している 
2. 
治らない病気に対して、医療の手が及ばないという ことはない(No cure doesn't mean no hope.) 
3. 
人工呼吸器療法を巡って,国民的に考えるべき倫理 的問題が存在する. 
4. 
ALSを含めた神経難病をまず知って,できることから はじめよう.

ALSを知ろう!