肺塞栓症
疾患各論
聖路加国際病院
救命救急センター
清⽔ 真⼈
聖路加国際病院 救急部について
l 年間11,000台の救急⾞と 45,000⼈の外来患者を
ほぼ全て救急部初療(⼩児科や産婦⼈科を除く)にて診療.
l 都内では珍しい⼤規模ER型救命センターです.
l スタッフ構成 (指導医3名, 専⾨医2名, 後期研修医7名)
l ⾒学, 研修はいつでも募集中です!
l 連絡先:清⽔真⼈ (  shimasa@luke.ac.jp)
肺塞栓症疑いのマネジメント
l  ERでの肺塞栓症の診断と治療の流れについて再確認
–  2009年 ⽇本循環器学会 ガイドライン
–  2014年 ESC欧州⼼臓病学会 ガイドライン
–  2016年 ACCP⽶国胸部医学会 ガイドライン
l  明らかな右⼼負荷所⾒や循環不全を伴う肺塞栓症に
関しては今回は割愛. 微妙な症例が難しい.
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
PE疑い (循環不全を伴わない)
Point!
肺塞栓症を疑う症状
l 特異的所⾒は皆無 (常に疑う!)
l 呼吸苦, 胸痛が典型的症状である.
– 呼吸苦61~83%, 胸膜痛40~48%, ⾎痰5~22%
l 胸膜痛, ⾎痰は肺梗塞で多い
– 末梢でのPEでは胸膜摩擦⾳など
l 失神, ⼀過性意識消失もありえる
– 失神 4~26%
– Massive PEで多い(20-80%)
肺塞栓症を疑う⼼電図所⾒
⼼電図所⾒ 感度(%) 特異度(%) LR(+)
①SⅠQⅢTⅢ
­  I誘導でS波(+)
­  III誘導でQ波(+)
­  III誘導で陰性T波
8.5
22.3
24.6
30.5
97.7
82.9
85.8
85.5
3.7 [2.5-5.4]
1.5 [1.3-1.9]
1.7 [1.4-2.1]
1.8 [1.5-2.1]
②陰性T波
­  V1-4誘導
­  V1-3誘導
­  V1-2誘導
­  V1誘導
7.35
10.5
14.4
37.9
98.0
96.0
91.9
66.0
3.7 [2.4-5.5]
2.6 [1.9-3.6]
1.8 [1.3-2.3]
1.1 [1.0-1.3]
③右脚ブロック
­  完全右脚ブロック
­  不完全右脚ブロック
4.8
3.1
97.2
97.7
1.7 [1.0-2.7]
1.4 [0.8-2.5]
④頻脈(>100回/分) 28.8 84.3 1.8 [1.5-2.2]
※6049名のPE疑い患者の⼼電図を評価(内354名がPEと診断)
Ann Emerg Med 2010;55:331-5
肺塞栓症を疑う⼼電図所⾒※6049名のPE疑い患者の⼼電図を評価(内354名がPEと診断)
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
① SⅠQⅢTⅢ ② 陰性T波
V1
V2
V3
③ 右脚ブロック
V1
V2
V3
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
低リスク ⾼リスク中リスク
PEらしくない PEらしい
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
Point!
Original,Modified
JAMA 2003;290:2849-58.
JAMA. 2006;295:172-79.
Simplified
Ann Intern Med. 2011;154:709-18.
臨床的にDVTの症状がある +3 +1
診断がPEらしい +3 +1
PEかDVTの既往 +1.5 +1
⼼拍数 > 100回/分 +1.5 +1
4週以内の⼿術または固定 +1.5 +1
喀⾎ +1 +1
癌(6ヶ⽉以内治療, 緩和状態) +1 +1
­  Original : 0~1点 低(3.6%), 2~6点 中(20.5%), 7点以上 ⾼(66.7%)
­  Modified : 4点以上で, PEらしい
­  Simplified: 2点以上で, PEらしい
Well’s score
Geneva score
Revised
Intern Med 2006;144:165-71
Simplified
Ann Intern Med. 2011;154:709-18.
65歳以上 +1 +1
PEやDVTの既往 +3 +1
1ヶ⽉以内の⼿術や⾻折 +2 +1
活動性の悪性腫瘍 +2 +1
⽚側の下肢痛 +3 +1
⾎痰 +2 +1
⼼拍数 75−94回/分 +3 +1
⼼拍数 95回/分以上 +5 +2
DVTを疑う痛みや浮腫 +4 +1
­  Revised :0~3点 低(8%), 4~10点 中(28%), 11点以上 ⾼(74%)
­  Simplified: 3点以上で, PEらしい
各ルールの⽐較
Original
Well’s
Simplified
Well’s
Revised
Geneva
Simplified
Geneva
PE unlikely
(うち, PEと診断)
72%[69-76]
(15%[13-18])
62%[59-65]
(13%[10-16])
69%[65-72]
(16%[13-19])
71%[68-75]
(17%[14-20])
PE likely
(うち, PEと診断)
28%[25-31]
(43%[36-49])
38%[35-41]
(39%[34-44])
32%[28-35]
(38%[32-44])
29%[26-32]
(39%[32-45])
PE unlikely
+D dimer
(うち, PEと診断)
23%[20-26]
(0.5%[0.0-3.0])
22%[19-25]
(0.6%[0.0-3.1]
23%[20-26]
(0.5%[0.0-3.0]
24%[21-27]
(0.5%[0.0-2.9])
­  ERに来た807名の急性PE疑い患者を対象
­  4つのPrediction ruleとDダイマーでPEを除外.
­  造影CTでPE所⾒あり, 3ヶ⽉以内のVTE発症を評価した
Ann Intern Med. 2011;154:709-718.
各ルールの⽐較
Original
Well’s
Simplified
Well’s
Revised
Geneva
Simplified
Geneva
PE unlikely
(うち, PEと診断)
72%[69-76]
(15%[13-18])
62%[59-65]
(13%[10-16])
69%[65-72]
(16%[13-19])
71%[68-75]
(17%[14-20])
PE likely
(うち, PEと診断)
28%[25-31]
(43%[36-49])
38%[35-41]
(39%[34-44])
32%[28-35]
(38%[32-44])
29%[26-32]
(39%[32-45])
PE unlikely
+D dimer
(うち, PEと診断)
23%[20-26]
(0.5%[0.0-3.0])
22%[19-25]
(0.6%[0.0-3.1]
23%[20-26]
(0.5%[0.0-3.0]
24%[21-27]
(0.5%[0.0-2.9])
­  807名の急性PE疑い患者
­  4つのPrediction ruleとDダイマーでPEを除外.
­  造影CTでPE所⾒あり, 3ヶ⽉以内のVTE発症を評価した
Ann Intern Med. 2011;154:709-718.
Unlikelyと判断された内, 13-17%でPEが診断
各ルールの⽐較
Original
Well’s
Simplified
Well’s
Revised
Geneva
Simplified
Geneva
PE unlikely
(うち, PEと診断)
72%[69-76]
(15%[13-18])
62%[59-65]
(13%[10-16])
69%[65-72]
(16%[13-19])
71%[68-75]
(17%[14-20])
PE likely
(うち, PEと診断)
28%[25-31]
(43%[36-49])
38%[35-41]
(39%[34-44])
32%[28-35]
(38%[32-44])
29%[26-32]
(39%[32-45])
PE unlikely
+D dimer
(うち, PEと診断)
23%[20-26]
(0.5%[0.0-3.0])
22%[19-25]
(0.6%[0.0-3.1]
23%[20-26]
(0.5%[0.0-3.0]
24%[21-27]
(0.5%[0.0-2.9])
­  807名の急性PE疑い患者
­  4つのPrediction ruleとDダイマーでPEを除外.
­  造影CTでPE所⾒あり, 3ヶ⽉以内のVTE発症を評価した
Ann Intern Med. 2011;154:709-718.
+D-dimer正常という条件を加えれば0.5%に減少.
ほぼ⾒逃しはなし,もしくは0.5%は⾒逃し!
どのルールを使ってもほとんど差はない.
Dダイマーカットオフ値 (ADJUST-PE trial)
カットオフ値は, 50歳以上なら【10x年齢µg/L】が良い
l  ERでPEを疑われた3346例を対象.
­  除外:⼊院24時間以上経過した症例でPE疑い
­  除外:Af等で抗凝固療法を施⾏中の患者
l  3ヶ⽉で最終診断PEは19%.
l  PEらしくなかったのは, 2898例.
­  817例が,Dダイマー<500µg/L
­  337例が,Dダイマー 500µg/L~10x年齢
l  感度, 偽陰性は同等であった.
l  Cutoffを年齢x10(50歳以上)なら,
10%程度多くDダイマー除外できる.
JAMA. 2014;311(11):1117-1124
Dダイマーカットオフ値 (ADJUST-PE trial)
l 検査前確率が低い場合のDダイマー陰性的中率は,
99%と素晴らしく, 除外にはほぼ完璧!
l しかし, 特異度が25%以下と低い…
l 何でもかんでもD-Dimerをチェックしていると
CTの⼤量⽣産に・・・
いかに無駄なDダイマー測定, CT造影検査を
減らせるかと発明されたのが, 次のPERCルール
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
精査不要
(−)
除外スコア
PERC rule
低リスク
PEらしくない
Point!
PERC rule
全て当てはまれば, 検査前確率1%未満
 50歳未満
 ⼼拍数 < 100回/分
 SpO2 > 94%
 ⽚側の下肢腫脹なし
 ⾎痰なし
 4週以内の⼿術もしくは外傷なし
 肺塞栓や深部静脈⾎栓の既往なし
 エストロゲン製剤の使⽤なし
感度96−100% PERC陰性なら, ほぼ除外可能.
J Thromb Haemost. 2008 Mar 3
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
中リスク
画像精査は必要ない
(−)
擬陽性が多い…
Dダイマー
除外スコア
PERC rule (+)
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
精査不要 画像精査を⾏う画像精査は必要ない
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
⾼リスク
画像精査を⾏う
(+)
擬陽性が多い…
Dダイマー
PEらしい
Point!
種々の検査法 尤度⽐
PEルールインの陽性尤度⽐
CTAで⽋損像 24.1 (95%CI 12.4-46.7)
V/Q シンチで異常 18.3 (95%CI10.3-32.5)
⼤腿圧迫エコーが陽性 16.2 (95%CI 5.6-46.7)
PEルールアウトの陰性尤度⽐
CTAが正常 0.11 (95%CI 0.06-0.19)
CTAと⼤腿エコーが正常 0.04 (95%CI 0.03-0.06)
V/Q シンチで正常 0.05 (95%CI 0.03-0.10)
⼤腿圧迫エコーが正常 0.67 (95%CI 0.50-0.89)
D-dimer < 500µg/L 0.08 (95%CI 0.04-0.18)
Lancet. 2012 May 12; 379(9828):1835-46
肺塞栓診断後の流れ
1.  早期に循環器内科コンサルト
2.  PESI, ⼼エコー所⾒, ⼼筋バイオマーカーより
早期死亡率に基づく重症度分類
3.  重症度分類から治療法の検討
※ガイドラインにより再灌流療法の推奨が異なる
PESIPulmonary embolism severity index
Original
Chest 2007;132(1): 24–30.
Simplified
Arch Intern Med 2010;170(15):1383–89.
年齢 年齢x1
(65歳なら65点)
80歳以上→1
80歳未満→0
男性 10 −
悪性腫瘍の既往 30 1
⼼不全 10
1
慢性肺疾患 10
脈拍数 ≧ 110回/分 20 1
収縮期⾎圧 < 100mmHg 30 1
呼吸回数 ≧ 30回/分 20 −
体温 < 36℃ 20 −
意識状態の変容 60 −
SpO2 < 90% 20 1
PESIPulmonary embolism severity index
Original
Chest 2007;132(1): 24–30.
Simplified
Arch Intern Med 2010;170(15):1383–89.
年齢 年齢x1
(65歳なら65点)
80歳以上→1
80歳未満→0
男性 10 −
悪性腫瘍の既往 30 1
⼼不全 10
1
慢性肺疾患 10
脈拍数 ≧ 110回/分 20 1
収縮期⾎圧 < 100mmHg 30 1
呼吸回数 ≧ 30回/分 20 −
体温 < 36℃ 20 −
意識状態の変容 60 −
SpO2 < 90% 20 1
Original PESIと30⽇死亡率
l  Low Risk
–  Class I <66点 (0-1.6%)
–  Class II 66~85点 (1.7-3.5%)
l  High Risk
–  Class III 86~105点 (3.2-7.1%)
–  Class IV 106~125点 (4.0-11.4%)
–  Class V >125点 (10.0-24.5%)
Simplified PESIと30⽇死亡率
l  0点なら30⽇死亡率1.0%
l  1点以上なら30⽇死亡率10.9%
早期死亡率に基づく重症度分類
ESC欧州⼼臓学会GL2014では,
①PESI, ②⼼エコー所⾒, ③⼼筋バイオマーカー
より重症度を4分類し, 治療⽅針を決定
ESC欧州⼼臓学会GL2014
重症度分類と治療法
重症度 治療法
High risk
l 抗凝固療法
l 積極的な再灌流療法
­  ①tPA, ②外科⼿術, ③カテーテル⾎栓除去
­  ②③はtPA禁忌やtPA治療で改善ない場合に検討
Intermediate-high risk
l 抗凝固療法(集中治療管理)
l 再灌流療法の追加を検討※
※最も議論の分かれるところ
Intermediate-low risk l 抗凝固療法 (⼊院加療)
Low risk l 抗凝固療法 (外来通院, 早期退院可)
ESC欧州⼼臓学会GL2014
抗凝固療法
l 2009年 肺⾎栓塞栓症・深部静脈⾎栓症GL
l 他ガイドラインも概ね同様の使い⽅
l 肺塞栓症の検査前確率が極めて⾼い時には,
画像診断確定前のヘパリン使⽤検討しても良い
l 未分画ヘパリン80単位/kgまたは5,000単位静注
l 18単位/kg/時 または1,300単位/時で持続静注
l ⾄適値 APTT 1.5-2.5倍
l 初回投与の6時間後にAPTTの測定を⾏い, 変更
があればさらに6時間後にAPTTを測定
まとめ
PE疑い (循環不全を伴わない)
低リスク ⾼リスク
除外スコア
PERC rule
検査前確率を評価
Well’s score, Geneva score
中リスク
擬陽性が多い…
Dダイマー
PE精査不要
他の原因を考える
画像精査を⾏う
(+)
(−) (+)(−)
PEらしくない PEらしい
肺塞栓症の診断
(−)
(+)
早期死亡率に基づく重症度分類と治療法選択
①PESI, ②⼼エコー所⾒, ③⼼筋バイオマーカー
High risk
l  抗凝固(集中治療室)
l  再灌流療法
Intermediate-High
l  抗凝固(集中治療室)
l  再灌流療法の追加検討
Intermediate-Low
l  抗凝固 (⼊院加療)
Low risk
l  抗凝固
(外来通院, 早期退院可)

肺塞栓症