経営分析論Ⅱ③
投下資本利益率とデュポンシステム(1)
投下資本利益率
• 基本的な考え方
預金の利子率
利子率 = 利子の受取額 ÷ 預金高
→ 利子の受取額は運用の成果を表すので,投資の元手である預金高と
利子の受取額を割った値 = 利子率は投資の成果を測定するための
指標と言える。
• この考え方を企業経営 = 財務諸表を用いた数値評価に当てはめてると,
企業の投資の成果を測定するための一般式は以下のようになる。
投下資本利益率 =
利益
投下資本
つまり,企業経営の場合,成果は利益として計算され,資本はその成果を
得るための投下資金量を表すので,投下資本利益率は企業経営の成果を
測定するための最も基本的な尺度となる。
投下資本利益率
• 利益も資本も複数の尺度がある。
利益概念:売上総利益,営業利益,経常利益,税引前当期純利益,
当期利益
資本概念:総資本,経営資本,自己資本(株主資本)
→ 利益と資本をランダムに比較するのではなく,相互に因果関係が
ある利益と資本によって比率を計算しなければならない。
資本とリターンの関係
他人資本(負債) ⇔ 支払利息
自己資本(株主資本) ⇔ 当期純利益
総資本 ⇔ 支払利息+当期純利益
投下資本利益率
• 総資本利益率(ROCE: Return On Capital Employed)
計算式
投下資本利益率
総資本利益率 =
利益
総資本
※ 総資本= 負債 + 自己資本 = (総)資産
→ よって,総資本利益率(ROCE)と総資産利益率(ROA:Return On
Asset)とは同じ利益を用いて計算すれば同じ値になる。
計算には期末の総資本,あるいは期首と期末の総資本の平均値を用いる。
利益は営業利益あるいは当期純利益に利子費用(支払利息)を加えたものを
用いる。
• 総資本営業利益率(ROCEの一形態として)
投下資本利益率
総資本営業利益率 =
営業利益
総資本
• 修正総資本営業利益率
修正総資本営業利益率 =
支払利息+当期純利益
有利子負債+自己資本
• 総資産利益率(ROA:Return On Asset)
資本を投下した資産(棚卸資産,建物・機械装置等)を活用しながら,
経営者と従業員が効率的に財・サービスを製造販売することで利益を
生み出されると考えれば,企業経営の観点からはROCEよりもROAと
いう用語を使うことで投下した総資本の効率性を表現したほうが良い。
投下資本利益率
総資産営業利益率
=
営業利益
総資産
計算式
• 経営資本営業利益率
総資本の中には建設仮勘定や繰延資産のように,企業の本業に利用
されていない資産が含まれている。
また,「投資その他の資産」の部には持ち合い株式などがあり,
これも本業に不可欠な資産とはいえない。そこで,これらの値を
差し引いた経営資本を求め,これと営業利益を割ることによって
本業の効率性を正確に測定することができる。
投下資本利益率
経営資本営業利益率 =
営業利益
経営資本
計算式
※ 経営資本 = 総資本 − 建設仮勘定 − 投資有価証券 − 繰延資産
• 株主資本利益率(ROE:Return On Equity)
当期純利益:企業所有者の手元に最後に残る金額
株主資本:払込資本と内部留保からなり,ともに所有者=株主に帰属
する。
→ 企業所有者にとっての投資利回りが算出できる。
投下資本利益率
株主資本当期純利益率 =
当期純利益
株主資本
計算式
• 総資本利益率(ROCE=ROA)を分解する。
総資本利益率
=
売上高
利益 売上高
総資本
×
売上高利益率 資本回転率
=
総資本
利益
デュポンシステム
→ ROCE・ROAを分解すると,売上高利益率と資本回転率に分解できる
。
すなわち,ROCE・ROAの最大化はマークアップによる利益の最大化
と
営業循環の回数を増やす(回転率増)ことによって実現する。
• 具体的な数値例で考えよう。
前提
達成結果
回転率増 利益率増
総資本 10,000 10,000 10,000
売上高 10,000 12,000 10,000
営業費用 9,000 10,800 8,800
営業利益 1,000 1,200 1,200
売上高利益率 10% 10% 12%
総資本回転率 1.00回 1.20回 1.00回
総資本利益率 10% 12% 12%
デュポンシステム
利益率と回転率には
逆相関の関係がある
デュポンシステム
• デュポンシステム
米国化学メーカーのデュポンは,自社内における管理会計の仕組みと
して投資利益率(ROI:Return On Investment)を活用し,それを分
解していくことによって企業全体の目標と部・課・係(=現場)で働
く管理職・従業員の行動や目標との同期化を図った。
デュポンシステム
経営者
中級管理者
下級管理者
一般従業員
企業組織 デュポン・システム
ROE
売上高利益率 資本回転率
売上高 投資額利益
費用 キャッシュフロー
デュポン・システムは,
各階層に付与される権限を表す。
各階層の目標・行動計画を会計数値に関連付け,
動機付けに活用する。
デュポンシステム
• 株主資本利益率(ROE:Return On Equity)の分解
株主資本
ROE=
利益
=
売上高
利益 売上高
総資本
総資本
株主資本
× ×
売上高利益率 総資本回転率 レバレッジ
収益性 資本の効率性 財務体質
財務指標(ROE)を分解することで,
経営上の課題を明らかにすることができる。
デュポンシステム
• ROEを分解すると,レバレッジ(比率)という要素が出てくる。
→レバレッジってどういうこと?
• 例題
当期利益500億円,総資産(総資本)2,000億円の企業がある。
このとき,
①同企業の株主資本比率が100%の場合のROEを求めよ。
②同企業の株主資本比率が50%の場合のROEを求めよ。
デュポンシステム
• 解答
①同企業の株主資本比率が100%の場合のROEを求めよ。
総資産
2,000億円
株主資本
2,000億円
当期利益
500億円
ROE
=
2,000
500
= 25%
②同企業の株主資本比率が50%の場合のROEを求めよ。
総資産
2,000億円
株主資本
1,000億円
当期利益
500億円
ROE
=
1,000
500
= 50%
負債
1,000億円
デュポンシステム
スターバックス ニトリ サイゼリヤ 西日本鉄道 任天堂
負債合計 15,274 100,149 17,087 290,346 352,435
純資産合計 33,061 146,038 58,375 106,604 1,281,861
負債純資産合計 48,335 246,187 75,462 396,950 1,634,297
売上高 107,754 314,291 99,860 323,891 1,014,345
営業利益 7,796 52,666 11,553 10,983 171,077
当期純利益 3,844 30,822 5,874 5,782 77,621
総資本営業利益率(ROA) 16.13% 21.39% 15.31% 2.77% 10.47%
自己資本当期利益率(ROE) 11.63% 21.11% 10.06% 5.42% 6.06%
売上高営業利益率 7.23% 16.76% 11.57% 3.39% 16.87%
売上高当期利益率 3.57% 9.81% 5.88% 1.79% 7.65%
総資本回転率 2.229 1.277 1.323 0.816 0.621
自己資本比率 68.4% 59.32% 77.36% 26.86% 78.44%
財務レバレッジ 1.462 1.686 1.293 3.724 1.275
• 前期に学習してきた企業のROEとROAを算出する。
練習問題

2016経営分析論Ⅱ③