経営分析論Ⅰ⑪
貸借対照表と損益計算書による資本運用効率の分析
資本の運用効率:回転率の基本的な考え方
• 回転率のイメージ
商企業の営業循環
商品仕入 → 仕入原価にマークアップ → 販売して利益を得る
☞ これを元に利益を最大化するにはどうすれば良いのだろうか?
① いかにマークアップする利益を大きくするか
1. 高値をつけても売れるような営業力,高い付加価値の創出
2. 同水準の販売価格を維持しながらコストを削減する
② 営業循環の回数を増やす
利益の獲得回数が増える=回転数が高ければマークアップが
低くても利益を上げることができる。
☞ 薄利多売型の経営スタイルを選択する。
→ 棚卸資産へ投下した資金をいかに効率的に活用して売上を
上げるか
資本の運用効率:回転率の基本的な考え方
• 回転率指標の計算構造
回転率 =
資産
売上高
例)2つのラーメン屋の比較
A店の売上高
600円 × 10席 × 3回転 =18,000円
B店の売上高
600円 × 10席 × 4回転 =24,000円
☞ 売上高の差は席数の回転数によって生まれる。
→ 限られた資源を有効に活用すれば売上高が増加する。
棚卸資産回転率:在庫水準の妥当性を見る
• 棚卸資産:営業循環において,企業が販売するために保有したり,
販売を目的として製造中のもの。いわゆる在庫。
例)商品・製品,半製品,原材料,仕掛品,貯蔵品など
• 棚卸資産回転率の計算式
棚卸資産回転率 =
棚卸資産
売上高
棚卸資産回転率:在庫水準の妥当性を見る
• 棚卸資産回転率の意義
商品や製品などが売上を得るために,棚卸資産が何回転したのかを
捉える指標であり,在庫の妥当性や販売活動の能率などが把握できる。
→ 回転数が多いほど在庫のムダが少なく,販売活動の能率が高い。
回転数が少なければ在庫水準が高くなり,販売活動の能率が低い。
• 応用編としての棚卸資産回転期間(日数)の計算式
棚卸資産回転期間 =
棚卸資産
売上高
365 ÷
売上債権回転率:売上債権の回収速度を見る
• 売上債権:売上代金の対価として生じる債権で,受取手形や売掛金
からなる。
• 売上債権回転率の計算式
売上債権回転率 =
売上債権
売上高
→ 売上債権は最終的に現金預金で回収しなければならない。
そうでなければ,その資金を投資や資金返済などに活用できない。
→ 売上債権が回収できない=貸倒れのリスクが生じる
• 売上債権回転率の意義
売上債権の値が小さくなると回転率は上昇する。
売上高に占める売上債権の値が小さい=売上高の多くが現金預金で
回収されていることを意味する。
→ 回転数が大きいほど,売上債権の回収スピードが早い。
回転数が小さいほど,売上債権の回収スピードが遅く,売上代金の
多くを売上債権のまま残している。
• 応用編としての売上債権回転期間(日数)の計算式
売上債権回転期間 =
売上債権
売上高
365 ÷
売上債権回転率:売上債権の回収速度を見る
有形固定資産回転率:設備投資の効率性を見る
• 有形固定資産:目に見える形の資産で,長期にわたって企業に利用
される資産のこと。
例)建物,機械装置,構築物,車両運搬具 など
• 有形固定資産の計算式
有形固定資産回転率=
有形固定資産
売上高
→ 有形固定資産は長期にわたって利用され,生産活動の基盤となる。
• 有形固定資産回転率の意義
有形固定資産回転率は,有形固定資産として投下された資産がどれほど
売上高を生み出しているかを示した指標
→ 回転数が大きいほど,収益獲得のために有形固定資産が効率的に
利用されていることを意味する。
回転数が小さいほど,収益獲得のために有形固定資産が効率的に
活用されていないことを意味する。
有形固定資産回転率:設備投資の効率性を見る
→ 不適切に過大な設備投資が行われている可能性がある。
ただし,重厚長大産業や巨大な設備を必要とするサービス業や
小売業では有形固定資産回転率が小さくなる傾向がある。
総資本回転率:回転率の総合指標
• 総資本とは?
貸借対照表の貸方 = 負債+純資産(自己資本)の合計額
• 総資本回転率の計算式
総資本回転率 =
総資本
売上高
→ 総資本回転率は企業全体の効率性を総合的に示す指標
• 総資産回転率という言い方
貸借対照表の構造から明らかなように,総資産=総資本となるので,
総資産回転率と総資本回転率は同じ値になる。解釈を加えるときには
言葉の意味(資産か,資本か)に注意すること。
• 解答:単位はすべて「回」
練習問題
スターバックス ニトリ コマツ サイゼリヤ 西日本鉄道 オリエンタルランド 任天堂
棚卸資産回転率 48.32 12.91 3.89 25.27 15.47 28.96 10.94
棚卸資産回転期間(日) 7.55 28.27 93.84 14.45 23.59 12.6 33.36
売上債権回転率 20.8 23.57 5.97 26.24 10.4 29.95 4.73
売上債権回転期間(日) 17.55 15.49 61.19 13.91 35.1 12.19 77.24
有形固定資産回転率 9.38 2.35 3.63 3.26 1.18 0.75 12.54
総資本回転率 2.23 1.28 0.86 1.32 0.82 1.64 0.62
棚卸資産回転率:小売業が高く,製造業・鉄道が低い
売上債権回転率:製造業が低い。
有形固定資産回転率:ニトリ,西鉄,オリエンタルランドが低い。
→ 莫大な投資(店舗,鉄道・バス,テーマパーク)を必要とする。

2017経営分析論Ⅰ⑪