非専門医が行うパーキンソン病診療
のポイントについて
医療法人橘井堂津和野共存病院
副院長
内科・神経内科
飯島献一
パーキンソン病の疫学
• 筋萎縮性側索硬化症(ALS):10万人に3-4人
(≒神経専門医数)
• 脊髄小脳変性症(SCD):10万人に5-10人
• パーキンソン病(PD):10万人に100-200人
65歳以上10万人に1000人
• 全国のパーキンソン病患者数は15-20万人と推定
(≒医師数、脳卒中年間発症患者数)
• アルツハイマー病(AD):10万人に1000-2000人
65歳以上10万人に5000-10000人
パーキンソン病とは
• パーキンソン病は原因不明の進行性の神経変性疾患
• 病理学的には中脳黒質緻密質のドパミン神経細胞内にレビー小体が形
成され、神経細胞が変性脱落する
• ドパミン放出が低下するため運動障害症状が出現しパーキンソニズム
を呈する
• ドパミン受容体が温存されているので、ドパミン系の活動を上げる薬
物や手術によって運動障害が改善
• パーキンソン病以外のパーキンソニズムを呈する疾患の多くは、後シ
ナプスのドパミン受容体も併せて変性するので、薬物反応が不良
パーキンソン病の臨床診断
• 4大症状
1. 無動(動作緩慢と運動量の減少)
2. 典型的な左右差のある安静時振戦(4-6Hz)
3. 筋強剛(筋固縮)
4. 体幹バランスと姿勢反射障害:進行期
• 緩徐進行性の臨床経過
• 頭部MRIなどによる他のパーキンソニズムを除外
• L-DOPAの臨床効果
パーキンソニズムを呈する疾患
I.特発性パーキンソニズム(①パーキンソン病)
• 孤発性パーキンソン病
[・レビー小体型認知症(剖検脳の病理組織学的初見はパーキンソン病と共通)]
II.家族性パーキンソニズム
III.パーキンソニズムを呈する他の神経変性疾患
• 線条体黒質変性症(多系統萎縮症)
• 進行性核上性麻痺
• 大脳皮質基底核変性症
IV.症候性(二次性)パーキンソニズム
• ③薬剤性:抗精神病薬、制吐薬、消化器病薬、抗うつ薬
• ②脳血管障害:血管障害性パーキンソニズム
• 中毒性:一酸化炭素、マンガン、MPTP (1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒ
ドロピリジン)
• 代謝性:副甲状腺機能低下症、ウイルソン病、肝硬変
• 脳腫瘍、頭部外傷後
パーキンソニズムを疑ったら
• 診察室入室時から椅子に座るまでの動作の観察
• 薬剤性パーキンソニズムを鑑別
• 画像診断
• 頭部CT、MRI(除外診断)
• MIBG心筋シンチ
• DATスキャン(ドパミントランスポーターシンチ)
• L-DOPA投与
パーキンソン病の非運動症状
• 自律神経障害(便秘、頻尿、起立性低血圧)
• 抑うつ
• 不眠症、レム睡眠行動障害
• 嗅覚障害
• 痛み
パーキンソン病の重症度分類
Stage
0
症状なし。
Stage
1
症状は一側性で体幹障害なし。
機能障害はないか、あってもごく軽度
にとどまる。
Stage
2
症状は両側性だが姿勢反射障害なし。
Stage
3
姿勢反射障害を伴う軽度から中等度の
両側の障害。
身体的には自立している。
Stage
4
かなり進んだ障害。日常生活に著しい
制限がある。
介助なしに何とか起立歩行が可能。
Stage
5
介助なしでは車椅子あるいはベッド生
活。
Ⅰ度
日常生活、通院にはほとんど
介助を要しない。
Ⅱ度
日常生活、通院に
部分的介助を要する。
Ⅲ度
日常生活に全面的介助を要し
独力では歩行起立不能。
Hoehn & Yahr 修正重症度分類 生活機能障害度(厚生労働省研究班基準)
パーキンソン病の治療
• 初期治療
• L-DOPAとドパミンアゴニスト
• L-DOPA:安価、効果が早くて明らか、長期投与で効果が不安
定、運動系副作用が出やすい
• ドパミンアゴニスト:高価、効果が遅くて穏やか、運動系副作
用少ないが突発性睡眠の副作用あり
• 進行期治療
• ウェアリングオフとジスキネジアを考慮
• 外科療法(脳深部刺激deep brain stimulation:DBS)
• ADLとQOLの維持
• 治療の目的は長期にわたるADLの維持と進行期にはむしろQOL
の維持が重要
ケース検討:外来編(診断)
• 症例提示:68歳男性、元教師、性格几帳面
• 主訴:右手が動かしにくい、寝言
• 現病歴:健診にて血圧上昇、血糖上昇指摘され受診。受診時に農作業を
していて右手がどうも使いにくい、夜寝言の訴えあり、服薬歴なし。
• 現症:血圧140/90、極軽度の筋固縮(右>左)
• 検査:FBS124、HbA1c5.9%。頭部MRI:異常なし
• 経過:3か月ごとの外来診察で、1年後右手の震え出現、右足の運びも悪
くなりやや前傾姿勢の歩行となる。
• ドパミンアゴニストのプラミペキソール0.25㎎1錠朝食後より開始し漸
増、3錠毎食後内服し症状改善
• パール:パーキンソン病の軽度の症状を見逃さず経過をみて薬物効果で
診断
ケース検討:外来編(臨床経過)
• 経過:症状緩徐進行性
• 発症5年後(73歳):両手の振戦、筋固縮中等度、動作緩慢(ヤール2
度)。プラミペキソール0.25㎎3錠毎食後に加えてドパコール100㎎
3錠毎食後追加。
• 発症10年後(78歳):すくみ足、前方突進現象加わり、易転倒性(ヤ
ール3度)。プラミペキソール0.25㎎6錠毎食後に増量。
• 発症12年後(80歳)、移動に軽介助必要、経口摂取に時間がかかり食
べこぼし、時々むせるようになる(ヤール4度)。ウェアリングオフ
あり、10時15時にドパコール100㎎0.5錠追加投与。週3回デイサー
ビス利用。
• パール:ウェアリングオフ出現時はL-DOPA を分割投与、ADL悪化時
は介護保険利用。
ケース検討:入院編
• 発症15年後(83歳)、易転倒性増強、全介助で車いす、食事摂取も介助で
むせることが多い状態(ヤール5度)。プラミペキソール0.25㎎6錠毎食
後+ドパコール100㎎4錠(毎食後1錠+10時15時0.5錠)内服中。
• 38度の発熱で受診、軽度の誤嚥性肺炎にて入院。
• 絶食(内服中止)、持続点滴、酸素投与、抗菌薬投与にて2日後解熱し酸素
投与も中止となる。その後再度39度の発熱、全身筋硬直、発汗多量あり。
抗パーキンソン病薬中止による悪性症候群と診断。
• ドパストン100㎎+生食100ml1日3回点滴投与開始し徐々に全身筋硬
直改善し解熱、全身状態も改善し、内服再開し経口摂取も可能となった。
• パール:抗パーキンソン病薬の急激な減量や中止は悪性症候群を考慮。
※ドパストン点滴用量はL-DOPA合剤100㎎1錠に対して50-100㎎の換算:ドパコール
100㎎*4=400㎎、L-DOPA以外の薬剤はレボドパ合剤換算量(LED)を算出:プラミ
ペキソール0.25㎎*100*6=150㎎、合計550㎎/日(本ケース300㎎/日投与)
パーキンソン病の生活支援
• 特定疾患医療費助成制度
• Hoehn & Yharの重症度分類Ⅲ度以上、生活機能障害度Ⅱ
度以上
• 介護保険制度(40歳以上)
• 身体障害者福祉法、障害者総合支援法(40歳未満)
• 自動車運転(QOLに影響)
• 疾患自体の運転技術に及ぼす影響と疾患治療のために用いられ
る薬剤が及ぼす影響が関与(ドパミンアゴニストの突発性睡眠
の副作用)
総合診療医とパーキンソン病
• パーキンソン病は慢性疾患であり、高血圧や糖尿病と同じように、薬剤
の組み合わせで長期にわたって、経過をみていく疾患である。
• 運動障害を主徴とし、しかも高齢化とともに高齢者に多く認められる疾
患のため、ロコモ、フレイルのなかに隠れている可能性がある。
• 通院歴のない場合、誤嚥性肺炎で入院時パーキンソン病が判明すること
もある。
• 運動障害以外にも多彩な非運動症状を呈すことが明らかになり、発症早
期の軽症例を見逃さないような臨床眼を培っていくことが大切である。
• 進行期には治療をしてもADLの維持は望めなくなりQOLの維持に頭を切
り替えて診療していかなければならないこともあり、地域で多職種連携
しなががら関わっていく必要がある。
まとめ
• 認知症、脳血管疾患につぐコモンな老年期
神経疾患
• 診察室入室時から観察
• 薬剤性パーキンソニズムを除外する
• 薬物の短期的、長期的効果を見極める
• 非運動症状を見逃さない
• 高血圧、糖尿病、認知症と同様に高齢慢性
疾患として多職種連携しながらの対応する

非専門医が行うパーキンソン病診療のポイントについて【ADVANCED】