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中毒診療ことはじめ
よしか病院
佐々木弥生
中毒診療の実際は
 救急科だけが対応しているわけではない。
 救急専従部門以外での診療が意外に多い。
 専門性によらず習得すべし。
 中毒診療のポイント
 初期対応と治療
そもそも中毒を
いつ疑うのか?
急性中毒患者が受診する場面
急性中毒患者が受診する場面として、大きく2パターンある。
① 何らかの 薬物を過剰に服用したことが
初めから疑われる場合
② 意識障害 や血圧 , 心拍数 , 呼吸数など、
呼吸・循環障害 が前面に出ており
鑑別として 中毒 を疑う場合
どうやって原因を
突き詰めるのか?
中毒によって起こる様々な異常や症状の組み合わせのこと
トキシドローム
※ トキシドロームとは toxic syndrome からつくられた造語。症状や徴候から中毒原因物質を分類して
緊急対処を行うための概念として用いられており、分類の仕方は様々だが大きく5つに分類。
Toxin HP/BP Resp 体温 瞳孔 皮膚 / 分泌物 意識
交感神経作動性
コカイン アンフェタミン カフェイン エフェドリン
テオフィリン 合成カンナビノイド
PCP LSD MDMA PPA
↑↑ ↑ ↑ 発汗 興奮
抗コリン性
抗ヒスタミン薬 抗パーキンソン薬 アトロピン
三環系抗うつ薬 向精神薬 カルバマゼピン
スコポラミン ベラドンナアルカロイド
↑ ↑ ↑ Dry 興奮
コリン作動性
サリンなど有機リン化合物 ウブレチド ドネペジル
ピロカルピン カーバメート化合物
→↓ →↓ ー
wet wet
wet
傾眠
鎮静 / 催眠性
ベンゾジアゼピン Z ドラッグ アルコール
バルビツレート 包水クロラール ー ー /↓ ー normal
傾眠
昏睡
オピオイド
フェンタニル ヘロイン メサドン モルヒネ
ペンタゾシン ↓ ↓↓ ー ー
傾眠
昏睡
Toxin HP/BP Resp 体温 瞳孔 皮膚 / 分泌
物
意識
交感神経作動性
コカイン アンフェタミン カフェイン エフェドリン
テオフィリン 合成カンナビノイド
PCP LSD MDMA PPA
↑↑ ↑ ↑ 発汗 興奮
抗コリン性
抗ヒスタミン薬 抗パーキンソン薬 アトロピン
三環系抗うつ薬 向精神薬 カルバマゼピン
スコポラミン ベラドンナアルカロイド
↑ ↑ ↑ Dry 興奮
コリン性
サリンなど有機リン化合物 ウブレチド ドネペジル
ピロカルピン カーバメート化合物
→↓ →↓ ー
wet wet
wet
傾眠
鎮静 / 催眠性
ベンゾジアゼピン Z ドラッグ アルコール
バルビツレート 包水クロラール ー ー /↓ ー normal
傾眠
昏睡
オピオイド
フェンタニル ヘロイン メサドン モルヒネ
ペンタゾシン ↓ ↓↓ ー ー
傾眠
昏睡
※ トキシドロームとは toxic syndrome からつくられた造語。症状や徴候から中毒原因物質を分類して
緊急対処を行うための概念として用いられており、分類の仕方は様々だが大きく5つに分類。
特徴をおさえて 見当をつける
アゲアゲ系
乾燥著明
縮瞳 体液 / 分泌物すごい
縮瞳
これらも 離脱症候群 , 悪性症候
群
該当 !! セロトニン症候群
1. よくわからないバイタル異常は中毒を疑え
2. 目と皮膚・分泌物はヒントである
3. トキシドロームからあたりをつけよ
中毒診療ことはじめ①
 中毒診療のポイント
 初期対応と治療
• 全身管理
• 吸収の阻害 → 予後改善のエビデンス乏しい
• 排泄の促進 → 予後改善のエビデンス乏しい
• 解毒薬拮抗薬 → 有効な薬がある毒薬物はほんの一部
急性中毒治療の5大原則
• 精神科的評価と治療
• 全身管理
• 吸収の阻害 → 予後改善のエビデンス乏しい
• 排泄の促進 → 予後改善のエビデンス乏しい
• 解毒薬拮抗薬 → 有効な薬がある毒薬物はほんの一部
急性中毒治療の5大原則
急性中毒治療の成否は
「全身管理」で決まる
• 精神科的評価と治療
全身管理 +α
支持療法(全身管理)
除染
(吸収阻害)
排泄
促進
拮抗薬
急性中毒診療
安全確保、避難と除染判断
( 安全の優先: self > scene > survivor)
A 気道:分泌物や嘔吐
B 呼吸:呼吸抑制、誤嚥、 SpO2 は信頼できるのか
C 循環:不整脈など一般的評価
D 神経症状:意識障害や痙攣、中毒以外の要因はないか
E 体温:異常体温
全身管理
除染効果
乾的除染で 80-90%
汚染部位を拭うと 99% 近く
+ 身体診察、トキシドローム、病歴聴取
新版 急性中毒標準診療ガイド
病歴聴取のポイント
MATTERS
MA : medication Amount (薬物摂取量)
TT : Time Taken (いつ飲んだか)
E : Emesis (嘔気はあるか)
R : Reason (摂取理由は)
S : Signs , Symptoms (症状、徴候)
支持療法(全身管理)
除染
(吸収阻害)
排泄
促進
拮抗薬
急性中毒診療
全身管理 +α 中毒診療の特徴的な治療
支持療法(全身管理)
排泄
促進
拮抗薬
急性中毒診療
除染 =それ以上吸収されないようにすること
除染
吸収の阻害
催吐 ×
胃洗浄 △
活性炭投与 ◯
全腸洗浄 ◯
消化管除染( GID : gastrointestinal decontamination )
1980 年代半ばから「 GID 法は本当に有効か?」と議論。
その後、アメリカとヨーロッパで臨床中毒学の学術団体( AACT/EAPCCT )よりガイドライン策定。
適応:中毒量の腸溶剤・徐放剤、 body packer など
消化管からの吸収を阻害すれば、全身毒性は減弱して症状改善と予後改善するだろうと考えられた。
 絶対的な適応基準はない
 禁忌
・意識障害や咽頭反射の消失した患者で確実な気道確保がされていない
・石油製品などの炭化水素の場合
・酸アルカリの場合
・基礎疾患や最近の手術歴により消化管出血・穿孔リスクがある場合
合併症は誤嚥が多い。症例報告では生命を脅かすようなものもあり。
胃洗浄
AACT/EAPCCT
1980~1990 年代の study の 1 つに、
“ 意識障害があった症例で 1 時間以内に胃洗浄できた群では臨床的な改善が見られた”
という報告があったことに由来。
「生命を脅かす可能性のある量の毒・薬物を服用してから
1 時間以内に施行することができなければ考慮すべきではない」
 絶対的な適応基準はない
 禁忌
・意識障害や咽頭反射の消失した患者で確実な気道確保がされていない
・石油製品などの炭化水素の場合
・酸アルカリの場合
・基礎疾患や最近の手術歴により消化管出血・穿孔リスクがある場合
合併症は誤嚥が多い。症例報告では生命を脅かすようなものもあり。
胃洗浄
AACT/EAPCCT
1980~1990 年代の study の 1 つに、
“ 意識障害があった症例で 1 時間以内に胃洗浄できた群では臨床的な改善が見られた”
という報告があったことに由来。
「生命を脅かす可能性のある量の毒・薬物を服用してから
1 時間以内に施行することができなければ考慮すべきではない」
胃洗浄を考慮
 相当量の薬毒物が胃内貯留
 それらが致死的影響を及ぼす可能性
 その他に治療選択肢がない
and
 胃洗浄のメリット>副作用
禁忌
・意識障害や咽頭反射の消失した患者で確実な気道確保がされていない場合
・石油製品などの炭化水素の場合
・酸アルカリの場合で内視鏡が予定される場合
・活性炭に吸着されない毒薬物
・消化管が機能していない場合(消化管穿孔や腸閉塞・イレウス)
活性炭の投与量は 50~100g (または 1g/kg )
ほとんど合併症ない
活性炭 「中毒をきたしうる量の ( 活性炭に吸着される ) 毒・薬物を服用し
服用後 1 時間以内に施行することができれば考慮する」
• 活性炭は不活性物質で吸収されず消化管内にとどまる。
• 非常に吸着力が強く表面積が大きい。
( 1g あたり約 800~1200m2 でテニスコート 4~6 面程度)
• 味はしないが砂のような感じ。
A fickle (ア フィックル:気まぐれ)
A : alcohols( アルコール類 )
alkalis( アルカリ類 )
F : fluorides( フッ化物 )
I : iron( 鉄 ) 、 iodide( ヨウ化物 )
inorganic acids( 無機酸類 )
K : kalium( カリウム )
L : lithium( リチウム )
E : ethylene glycol( エチレングリコール )
・活性炭量:服用量= 10 : 1
・活性炭 25g に対して微温湯 200ml
・多すぎる時は分割や繰り返し投与
AACT/EAPCCT
禁忌
・意識障害や咽頭反射の消失した患者で確実な気道確保がされていない場合
・石油製品などの炭化水素の場合
・酸アルカリの場合で内視鏡が予定される場合
・活性炭に吸着されない毒薬物
・消化管が機能していない場合(消化管穿孔や腸閉塞・イレウス)
活性炭の投与量は 50~100g (または 1g/kg )
ほとんど合併症ない
活性炭 「中毒をきたしうる量の ( 活性炭に吸着される ) 毒・薬物を服用し
服用後 1 時間以内に施行することができれば考慮する」
• 活性炭は不活性物質で吸収されず消化管内にとどまる。
• 非常に吸着力が強く表面積が大きい。
( 1g あたり約 800~1200m2 でテニスコート 4~6 面程度)
• 味はしないが砂のような感じ。
A fickle (ア フィックル:気まぐれ)
A : alcohols( アルコール類 )
alkalis( アルカリ類 )
F : fluorides( フッ化物 )
I : iron( 鉄 ) 、 iodide( ヨウ化物 )
inorganic acids( 無機酸類 )
K : kalium( カリウム )
L : lithium( リチウム )
E : ethylene glycol( エチレングリコー
ル )
・活性炭量:服用量= 10 : 1
・活性炭 25g に対して水 200ml
・多すぎる時は分割や繰り返し投与
AACT/EAPCCT
A fickle (ア フィックル:気まぐれ)
A : alcohols( アルコール類 )
alkalis( アルカリ類 )
F : fluorides( フッ化物 )
I : iron( 鉄 ) 、 iodide( ヨウ化物 )
inorganic acids( 無機酸類 )
K : kalium( カリウム )
L : lithium( リチウム )
E : ethylene glycol( エチレングリコー
ル )
病着時は服用後 1h 過ぎていること多い
注意は適応外と禁忌に該当しないこと
合併症はあまりない
→ 中毒量懸念時は常に考慮される
全身管理 +α 中毒診療の特徴的な治療
支持療法(全身管理)
除染
(吸収阻害)
拮抗薬
急性中毒診療
排泄
促進
排泄の促進
強制利尿 ×
尿のアルカリ化 △
血液浄化 ◯
活性炭の繰り返し投与 ◯
適応
・アスピリン / サリチル酸塩、フェノバルビタール、プリミドン
・ただし、後者 2 つは活性炭の繰り返し投与の方が有効
投与法
・炭酸水素ナトリウム 1 ~ 2mEq/kg iv
・尿の pH>7.5 に維持
アスピリン中毒では尿のアルカリ化で排泄率が 100 倍 up
尿のアルカリ化
「血液透析法の適応のない中等症〜重症の
アスピリン / サリチル酸塩の中毒では第一選択として考慮」
AACT/EAPCCT
腸肝循環する毒薬物が対象:“腸管透析”
肝代謝されて腸管内に分泌される毒薬物や代謝物が腸管内で活性炭に吸着
血中の毒薬物が腸管粘膜を介した拡散メカニズムで腸管内の活性炭に吸着
初回 1g/kg 、その後 0.5g/kg を 4~6 時間ごとに 12~24 時間投与
下剤は投与するとしても初回のみ
その他の適応
アマトキシン ( ドクツルタケやタマゴテングダケなどの毒成分 ) 、アミオダロン、コルヒチン
ジゴキシン、フェニトイン、クエチアピン、ソタロール、バルプロ酸、ベラパミル など
※ カフェインはテオフィリンに構造が類似するため有効
活性炭の繰り返し投与
「生命を脅かす量のダプソン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、
キニーネ、テオフィリンの場合は考慮」
MDAC : multiple-dose-activated charcoal
AACT/EAPCCT
分子量が小さく、分布容積が小さく、蛋白結合率が低い が透析好条件
透析膜が高性能になり除去効率 up (灌流が優先される状況は減少)
血液透析の決断はいかに?
・支持療法で良くなるか?
・肝機能、腎機能が良好か?
・著明な電解質異常やアシドーシスを合併しているか?
血液浄化法
血液灌流「カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、テオフィリンの中毒では考慮」
血液透析「メタノール、エチレングリコール、アスピリン / サリチル酸塩、リチウムの中毒では考慮」
CAMEL (ラクダ=「透析楽だ」)
C : caffeine( カフェイン )
A : aspirin( アスピリン)
M : methanol( メタノール )
E : ethylene glycol( エチレングリコール )
L : Lithium( リチウム )
CAT-MEAL (猫の食事) : 血液灌流法・血液透析法の適応
C : carbamazepine( カルバマゼピン ),caffeine( カフェイン )
A : anticonvulsants : phenobarbital( フェノバルビタール )
phenytoin( フェニトイン ),[ カルバマゼピン ]
T : theophylline( テオフィリン )
M : methanol( メタノール )
E : ethylene glycol( エチレングリコール )
A : aspirin( アスピリン / サリチル酸塩 )
L : lithium( リチウム )
AACT/EAPCCT
全身管理 +α 中毒診療の特徴的な治療
支持療法(全身管理)
除染
(吸収阻害)
排泄
促進
拮抗薬
急性中毒診療
解毒・拮抗薬 中毒
N アセチルシステイン アセトアミノフェン中毒
炭酸水素ナトリウム 三環系抗うつ薬などナトリウムチャネル遮断薬
アスピリン中毒
脂肪製剤 局所麻酔中毒
脂溶性物質で重篤な中毒症状をきたしている場合
インスリン カルシウムチャネル拮抗薬中毒
メチレンブルー メトヘモグロビン血症
ジヒドロピリジン系カルシウムチャネル拮抗薬中毒
グルカゴン β 拮抗薬中毒
オクトレオチド スルホニル尿素中毒
アトロピン 神経剤、有機リン中毒
PAM 有機リン中毒
ヒドロキソコバラミン / 亜硝酸塩 シアン中毒、硫化水素中毒
ナロキソン オピオイド中毒
フルマゼニル ベンゾジアゼピン中毒
酸素 一酸化炭素中毒
エタノール メタノール中毒、エチレングリコール中毒
ジメルカプロール 水銀中毒
拮抗薬
解毒薬
全身管理 +α 中毒診療の特徴的な治療
支持療法(全身管理)
除染
(吸収阻害)
排泄
促進
拮抗薬
急性中毒診療
 強制利尿 ×
 尿のアルカリ化 △
 血液浄化 ◯
 活性炭の繰り返し投与 ◯
 催吐 ×
 胃洗浄 △
 活性炭投与 ◯
 全腸洗浄 ◯
有効な薬は
ほんの一部
中毒診療ことはじめ②
1 . 安全確保と除染 全身管理が超重要
2 . 胃洗浄 適応少なし ほぼやらない
3 . 活性炭 適応外・禁忌なければ 常考慮
4 . 血液透析 CAMEL で想起 決断は柔軟に
《 補足 》
 血液分析ガス:状態評価と鑑別に有用。
 ECG :不整脈評価、鑑別のヒントになることあり。
 腹部 CT 検査:必須ではないが胃内の毒薬物残渣の評価になる。
 上部消化管内視鏡:
CT と同様 + 残渣除去が可能 ( 特に中毒量摂取時や重篤症状出現時 ) 。
 簡易尿中薬物検査キット:
種類があるので特徴を知っておく。偽陽性・偽陰性に注意。
 日本中毒情報センター:
化学物質による急性中毒に関する情報の提供と収集を行う専門機関。
電話相談窓口「中毒 110 番」は 365 日 24 時間、相談に応じている。
Take Home Message
急性中毒診療
 救急だけじゃない中毒は 常に頭に中毒を
 中毒にも使える ABCD
 バイタルだけじゃない 目を見て身体に触れよ
 3 大治療の 吸収阻害・排泄促進・解毒拮抗薬

中毒診療ことはじめ 【ADVANCED2024】 by よしか病院 佐々木弥生

Editor's Notes

  • #1 中毒診療ことはじめ  よしか病院の佐々木弥生です
  • #2 中毒診療は、実は、救急科だけが対応しているわけではありません。 初めから中毒だ とわかっているわけでもないため、救命センターのような救急専従部門だけが中毒診療を行なっているわけではないのです。 専門性によらず 初期の介入ができるようになっているのが望ましいと言えます。
  • #4 そもそも 中毒を いつ疑うのでしょうか
  • #5 急性中毒患者が受診する場面として、大きく2パターンに分けられます。 ①何らかの薬物を過剰に服用したことが 初めから 疑われる場合 そして ②意識障害、呼吸循環の障害が前面に出ており、原因がよくわからないような場合で、 こういった場合は中毒も鑑別に入れる必要があります。
  • #6 中毒を疑ったら、どうやってその原因を突き詰めるのでしょうか。
  • #7 トキシドローム という言葉を聞いたことがあるでしょうか これは、中毒によって起こる様々な異常や症状の組み合わせのことで、臨床的に原因物質を推定することに役立てられます。 (toxidrome:toxicとsyndromeの合成語) 〜〜〜 トキシドロームとはtoxic syndromeからつくられた造語であり1970年ごろから使われ始めた。 症状や徴候から中毒原因物質を分類して緊急対処を行うための概念として用いられており、分類の仕方は様々である
  • #8 分類の仕方は様々ですが、大きく5つに分類されます。 交感神経作動性、抗コリン性、コリン作動性、鎮静・催眠性、オピオイド 着目するのは、脈拍と血圧、呼吸数、体温、瞳孔、皮膚や分泌物、意識の状態です。 これらの所見からどの部類の毒薬物が原因となっていそうか見当をつけていきます。 〜〜〜〜 [交感神経系]:HR↑,BP↑、散大、発汗↑、腸蠕動↓  アンフェタミン(覚醒剤)、コカイン、LSD [抗コリン作用]:HR↑,BP↑、散大、発汗↓、腸蠕動↓  抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬 [アセチルコリン作用]:HR,BP→、縮瞳、発汗↑、腸蠕動↑  有機リン、サリン、VXガス   ※体液めっちゃでる。 下痢、排尿、嘔吐、流涙、唾液分泌、 [鎮静作用]:HR↓,BP↓、瞳孔不変、発汗↓、腸蠕動↓  ベンゾ系、バルビツール系 [オピオイド作用]:HR↓,BP↓、縮瞳、発汗↓、腸蠕動↓  モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル
  • #9 この表の使い方のポイントは、丸暗記するのではなく、「特徴をおさえる」、ということです。 ・交感神経作動性は、いわゆる「アゲアゲ系」です ・抗コリン性も アゲアゲ気味なのですが、他と比較して特徴的なのは「体がカラカラの乾燥状態」ということです ・瞳孔に着目すると、「縮瞳」となるのはコリン性とオピオイドですが、この2つの違いは、コリン性では「体液や分泌物が垂れ流し状態」になることです こういったことから見当をつけて、治療に繋げていきます。 〜〜〜〜 [交感神経系]:HR↑,BP↑、散大、発汗↑、腸蠕動↓  アンフェタミン(覚醒剤)、コカイン、LSD   瞳孔散大あるが対光反射ある [抗コリン作用]:HR↑,BP↑、散大、発汗↓、腸蠕動↓  抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬   ★特徴★皮膚が乾燥(脇の下も)、口腔内が乾燥、腸蠕動低下、瞳孔散大かつ対光反射消失 [アセチルコリン作用]:HR,BP→、縮瞳、発汗↑、腸蠕動↑  有機リン、サリン、VXガス   ※体液めっちゃでる。 下痢、排尿、嘔吐、流涙、唾液分泌 ムスカリン作用:分泌物過多 ニコチン作用:筋線維束性収縮(筋肉のピク付き)や痙攣、頻脈になることも Killer B:bronchorrhea起動分泌物の増加、bronchospasm気管支収縮、bradycardia徐脈 [鎮静作用]:HR↓,BP↓、瞳孔不変、発汗↓、腸蠕動↓  ベンゾ系、バルビツール系 [オピオイド作用]:HR↓,BP↓、縮瞳、発汗↓、腸蠕動↓  モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル
  • #10 前半のまとめは、 ・よくわからないバイタルサインの異常は中毒を疑え ・評価の際には、目と皮膚・分泌物についてもみる癖をつける ・中毒かなあと思ったら、トキシドロームからあたりをつける
  • #11 後半は、中毒を疑った時の初期対応と治療について、です
  • #12 中毒を起こす原因はたくさんありますが、中毒における治療の基本原則は共通です。 吸収の阻害と排泄の促進については、予後改善の強いエビデンスがあるわけでなく、解毒拮抗薬も有効な薬がありますが毒薬物の全体に比べるとほんの一部になります。 〜〜〜 中毒は、無数に存在する起因物質により発現する症状や重症度が異なるのは当然であるが、その一方で、基本的な診断・治療の進め方には共通したものがある。 急性中毒治療の原則 急性中毒に対する初期診療手順 ①安全確保、避難と除染判断を確認 ②全身管理と対症療法(primary survey,secondary survey)により全身を安定化、それとともに状況確認やトキシドロームにより中毒原因物質を推定 ③吸収阻害 ④排泄促進 ⑤解毒拮抗薬の投与 体温管理、痙攣対策が必要になる。心電図、モニター装着。 ●AB&3Cs A 気道 B 呼吸 C 循環  C 中枢神経 C 合併症 合併症:3As  Aspiration pneumonias Abnormal body temperature Atraumatic crush syndrome/Compartment syndrome
  • #13 そうなると、急性中毒治療の成否は、ほとんど「全身管理」で決まると言っても過言ではありません。 5大原則の 5つ目は 精神科的評価とその治療です 中毒患者の背景には、自殺企図など精神科的プロブレムがあることが多いからです
  • #15 全身管理に入る前に、まず「安全の確保」という視点が大事です。 過去には、地下鉄サリン事件のような、中毒による大事件もありました。毎日の診療で毎度毎度「安全」を徹底するというよりは、「あれ?なんか変だな」といったもしもの時に、安全の優先順位を知っておくことや避難や除染の判断ができることが重要になります。 安全確保の優先順位は、自分、現場、救助者、となります。 病院に運ばれてきたという状況では、病院での二次被害や二次汚染を防ぐため、医療者と医療施設の安全を最大限に優先させます。 乾的除染とは水を使わず除染することで、最も簡便なのは脱衣です。 安全の確認の後は、ABCDEの評価と介入を行なっていきます。 全身の評価と介入の仕方は、中毒以外の場合と同様なので、中毒診療のための全身管理、と捉える必要はありませんが、ここには中毒で特に注意すべきことを記載しておきます。 Bの呼吸状態では、SpO2をあてにできない時があることを知っておきましょう。有名なのは一酸化炭素中毒で、この場合、低酸素血症をSpO2で拾い上げることはできません。 〜〜〜 除染とは、被害原因となった危険物を除去することで、 乾的除染、ふき取り除染、水除染がある。 乾的除染により、80-90%が除染可能であり、汚染部位を拭うことにより99%近い除染効果が得られる。
  • #16 病歴聴取では MATTERS と呼ばれるゴロがあります 薬物摂取量は、中毒量や致死量かどうかの推定に役立ち いつ飲んだかは、飲んでからの時間経過によって治療選択肢が変わってきます 嘔気嘔吐の有無は、体内摂取量の予想に寄与し 摂取理由では、自殺企図なのか、精神科的評価に加えて患者管理においての注意事項の抽出にも役立ちます 〜〜〜 中毒診療においては、「いつ(時間)、何に(原因物質)、どれだけ(量)、どのように(暴露経路)、中毒物質に曝されたか」、が問題となる。
  • #17 全身管理+α  中毒診療の特徴的な治療として、除染・排泄促進・拮抗薬 があります
  • #18 除染とは それ以上吸収されないようにすること ガスであれば吸入しないように、汚染されていないところへ連れて行ったり 皮膚に薬物が付着していれば、拭いたり洗い流したり 経口摂取していたら、消化管から吸収されないようにする、、、、という具合です
  • #19 吸収の阻害では、「消化管除染」を考えます。 大きく4つありますが、催吐は昔は行っていたこともあるようですが今は推奨されません。 胃洗浄と活性炭投与についてはこれから説明します。 全腸洗浄というのは、中毒量の腸溶剤や除法剤、body-packerと言われる違法薬物などを飲み込んで運ぶ人たちにおいて、適用されます 〜〜〜 the American Association of Poison Control Centers (AAPCC) the European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists (EAPCCT) 服用して直ちに施行されるのであれば有効な可能性あり 催吐や胃洗浄、下剤投与は推奨されない 「毒薬物を服用して直ちに施行されるのであれば有効な可能性がある」 「第一選択として活性炭の投与を施行し、いくつかの適応のあるものには全腸洗浄を施行するが吐根シロップによる催吐、胃洗浄、下剤の投与は推奨されない」 全腸洗浄(WBI:whole bowel irrigation)は 「中毒をきたしうる量の徐放剤、腸溶剤、鉄、ボディパッカー/スタファーによる違法薬物のパッケージを服用した場合であれば考慮する」とAACT/EAPCCTのガイドラインで表記 吐根シロップは、「医療施設では投与しない」とガイドライン 下剤は「GID法として投与しない」とガイドライン 下剤は、Mg製剤やポリエチレングリコール製剤などがあるが、単独投与は無効。 活性炭と懸濁して投与するなど活性炭の投与と組み合わせて下剤を投与することが有効であるエビデンスはない。 2002年11月 1日  株式会社ツムラ(本社:東京、社長:風間八左衛門)では、催吐剤 トコンシロップ 「ツムラ」(日本薬局方トコンシロップ)を、11月26日に新発売します。  トコンシロップ「ツムラ」の効能・効果は、"タバコ、医薬品等の誤飲時における催吐" で、生薬トコンを原料とする、国内唯一の催吐剤です。  国内における誤飲時の処置としては、誤飲物質によっても異なりますが、主に胃洗浄や 誤飲物質を吸着させるための活性炭の投与が行われています。
  • #20 胃洗浄とは、太い胃管を入れて、胃の内容物を吸引、そして生理食塩水を入れて引いてを繰り返し胃内を洗う、という手法です。 絶対的な適応基準はないですが、禁忌に注意すべきであり、合併症では誤嚥が多いと報告されています。 アメリカとヨーロッパのガイドラインでは、「生命を脅かす可能性のある量の毒薬物を服用してから、1時間以内に実施できなければ考慮すべきでない」とされています。 〜〜〜〜 Kulig K, et al : Management of acutely poisoned patients without gastric emptying. Ann Emerg Med. 1985 : 562-567.
  • #21 実際の現場では、患者が過量摂取から1時間以内に病院に到着することは多くないため、胃洗浄はほとんど適応にならないということになります。 そんな中で、胃洗浄を考慮する場合というのは、 ・相当量の毒毒物が胃内に貯留しており、 ・それらが致死的影響を及ぼす可能性があり、 ・他に治療の選択肢がない状況で、 ・かつ、胃洗浄のメリットがデメリットを上回る時、と言えます 〜〜〜〜 Kulig K, et al : Management of acutely poisoned patients without gastric emptying. Ann Emerg Med. 1985 : 562-567. 活性炭に吸着されない毒薬物 A fickle(ア フィックル:気まぐれ) A alcohols(アルコール類)、alkalis(アルカリ類) F fluorides(フッ化物) I iron(鉄)、iodide(ヨウ化物)、inorganic acids(無機酸類) K kalium(カリウム) L lithium(リチウム) E ethylene glycol(エチレングリコール)
  • #22 活性炭は、不活性物質で、体内に吸収されないため消化管内に留まります。 そして、非常に吸着力が強く、表面積が大きいという特徴のため、活性炭に吸着される毒薬物の場合は、治療として効果的です。 ・活性炭を投与する場合は、 18Fr程度の太めの経鼻胃管を留置し、ベッドアップ45°にして、胃内容物を吸引したら、微温湯で溶かした活性炭を注入します。意識清明であれば経口摂取をさせても問題ありません。 禁忌は胃洗浄と同様ですが、活性炭に吸着されない物質とわかっている場合には、活性炭投与は意味がないことに注意です。 合併症はほとんどないと言われているので、原因物質がわからない時にはほとんどにおいて投与の適応になりえます。 〜〜〜〜 1g/kg(または服用量の10倍)の活性炭を300ml程度(200-400ml)の微温湯で懸濁し、経鼻胃管から投与。意識清明は経口でもOK 活性炭を投与する前に胃洗浄を施行すると、気管挿管・誤嚥・集中治療室の入院の頻度が有意に高かった。 18Fr程度の経鼻胃管、挿入後に胃内容物を吸引、45度ベッドアップしておく
  • #23 活性炭投与についても、過量服用後1時間以内が望ましいという表記ですが、 適応外と禁忌に注意できれば、中毒量を摂取していると思われる場合には、活性炭投与は常に考慮することが許容されると考えます 〜〜〜 1g/kg(または服用量の10倍)の活性炭を300ml程度(200-400ml)の微温湯で懸濁し、経鼻胃管から投与。意識清明は経口でもOK 活性炭を投与する前に胃洗浄を施行すると、気管挿管・誤嚥・集中治療室の入院の頻度が有意に高かった。 18Fr程度の経鼻胃管、挿入後に胃内容物を吸引、45度ベッドアップしておく
  • #25 排泄促進は、毒薬物の体外への排出を促進させるということです。 強制利尿とは、利尿薬を使用して排泄促進を図るわけですが、ほとんど臨床的意義は薄く、排泄目的の使用は不適です。ただし、支持療法としての体液管理では使用されることがあります。 〜〜〜〜 尿のアルカリ化:アスピリン中毒が良い適応、アルカリ化で排泄量が100倍アップ
  • #26 尿のアルカリ化、とは、 炭酸水素ナトリウムを投与して、尿のpHを7.5より大きく維持するということですが、  アスピリン中毒が良い適応で、アルカリ化により排泄量が100倍アップすると言われています。 〜〜〜〜 ・代謝経路が腎排泄の弱酸性の毒薬物が対象。それらはアルカリ性の尿中では陰イオン型の割合増加し、陰イオン型は尿細管を再通過しにくいため、尿細管内にトラップされて尿排泄促進となる。 ・アンフェタミンなど弱塩基性の毒薬物は、酸性の尿中では陽イオン型となり排泄促進されるがそもそも尿は本来酸性 尿のアルカリ化: アスピリン、サリチル酸塩、フェノバルビタール、プリミドンに有用な可能性 ただし、フェノバルビタールとプリミドンでは活性炭繰り返し投与の方が有効 (プリミドンはバルビツール系の抗てんかん薬) 尿のpH>7.5に維持 炭酸水素ナトリウム200mEqを1時間以上かけて静注(8.4%は1ml=1mEq)
  • #27 吸収阻害で活性炭投与が出てきましたが、排泄促進でも活性炭投与が選択肢になります。 ここでは、繰り返し投与、です。 腸管循環する毒薬物が対象で、腸管透析とも表現されています。 活性炭の繰り返し投与、という治療方法があることを知っておくと良いでしょう。 〜〜〜 ダプソン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、キニーネは腸管循環 テオフィリンは分布容積が小さい 至適投与量は確立してないが、 活性炭の初期投与後に、 4時間ごとに0.5〜1g/kgを投与 もしくは 経鼻胃管より≧12.5g/h以上の速度で持続投与
  • #28 血液浄化法は、すべての中毒患者で適応になるわけではありません。 ここでも対象となる毒薬物の語呂合わせがありますので参考にしてください。 血液浄化を行うか決断するポイントは、 支持療法で良くなっているのか、肝腎機能は良好なのか、著明な電解質異常やアシドーシスはあるのか、といった全身の状態と重篤度、時間経過を考慮することになります。 〜〜〜〜〜 アセトアミノフェンは分布容積小さい、蛋白結合率低い 透析適応だが 半減期が短い 血液灌流法は吸着、血液透析法では拡散のメカニズムで、半減期が短い毒薬物は有効ではない 組織内よりも血液内または細胞外液中に分布している(主として水溶性)ものの方が有効 毒薬物が組織内より血液内または細胞外液中に分布していればVd<1となっており、分布容積が小さい物は血液浄化が有効 血液灌流:分子量や蛋白結合率にはあまり影響受けない  血液透析:分子量が小さく、蛋白結合率が低い方が効率的 カフェインはテオフィリンと構造式や薬物動態も類似のため血液灌流が有効な可能性あり 灌流(吸着)では、 活性炭に吸着されないものは除去不可、カラムが高価で常備してない可能性、アシドーシスや電解質補正できない、透析よりも合併症が多い(溶血、血小板減少、低血糖など)、長時間施行できない 分布容積(Vd:distribution volume[L/kg])は、 毒薬物がどの程度血液内または細胞外液中に分布しているかの指標。 体重あたりの体内総薬物量(mg/kg)を薬物の血中濃度(mg/L)で割った値。
  • #30 拮抗薬、解毒薬については、 どの中毒に対してどれが治療薬なのか、ということを知っておく必要があります。 〜〜〜〜 メタノールは、多くの工業物質の溶媒やウィンドウウォッシャー液などに用いられている エチレングリコールは、車の不凍液や保冷剤、エアコンの冷却剤などに含まれる
  • #32 後半のまとめは、 ・中毒診療では、安全の確保と除染という概念があること、そして全身管理が重要であることを押さえましょう ・胃洗浄は、適応となる場面が少ないので、やるべき時はどんな時かを知っておくこと ・活性炭は、常に考慮し ・血液透析の判断は柔軟に行いましょう
  • #34 中毒診療ことはじめ を 終わります。