コロナ禍が公共交通にもたらすもの:
交通崩壊を乗り越えた先で再びMaaSの夢を見られるか
東京大学 生産技術研究所
伊藤昌毅
SICE ポストコロナ未来社会ワーキンググループ
第5回ワークショップ「コロナ時代のモビリティ」
2020年10月30日
伊藤 昌毅
• 東京大学 生産技術研究所 特任講師
– ユビキタスコンピューティング
– 交通情報学
• 経歴
– 静岡県掛川市出身
– 2002 慶應義塾大学 環境情報学部卒
– 2009 博士(政策・メディア) 指導教員: 慶應義塾大学 徳田英幸教授
– 2008-2010 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別研究助教
– 2010-2013 鳥取大学 大学院工学研究科 助教
– 2013-2019 東京大学 生産技術研究所 助教
– 2019- 現職
• 委員(国土交通省)
– バス情報の効率的な収集・共有に向けた検討会 座長
– 公共交通分野におけるオープンデータ推進に関する検討会 委員
– MaaS関連データ検討会 委員
– 交通政策基本研究小委員会 委員 他
• 委員(その他)
– 経済産業省 官民データの相互運用性実現に向けた検討会 座長
– 沖縄 観光2次交通の利便性向上に向けた検討委員会 委員長 他
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• 標準フォーマット関連
– バス情報の効率的な収集・共有に向けた検討会 座長(H28年度)
– 標準的なバス情報フォーマット利活用検討会 座長(H29年度)
– バス情報の静的・動的データ利活用検討会 座長(H30年度)
– GTFS-JPに関する検討会 委員(R2年度)
• オープンデータ関連
– 公共交通分野におけるオープンデータ推進に関する検討会 委員(H29年度-R1年度)
• MaaS関連
– 都市と地方における新たなモビリティサービスのあり方懇談会 委員(H30年度)
– 新モビリティサービス推進事業有識者委員会 委員(R1年度)
• 交通政策審議会
– 交通政策基本計画小委員会 委員(R1年度-)
• シェアサイクル
– シェアサイクルの在り方検討委員(R1年度-)
伊藤×国土交通省
• 経済産業省 オープンデータ関連
– 官民データの相互運用性実現に向けた検討会 座長(H29年度)
– 情報共有基盤 利用促進ワーキンググループ 委員(H30年度)
• 総務省 オープンデータ関連
– 地域情報化アドバイザー(R2年度〜)
伊藤×経済産業省・総務省
• 沖縄観光2次交通の利便性向上に向けた検討委員会 座長(H30年度-R2年
度)
• 群馬県バスロケーションシステム実証実験 アドバイザー(R1年度)
• さいたま市 スマート駅広研究会 副会長(R2年度〜)
• 佐賀市 街なか未来技術活用モデルプラン策定業務有識者会議 委員(R2年
度〜)
• 東京都 東京都における地域公共交通の在り方検討会 委員(R2年度〜)
• その他自治体主催のイベントでの講演多数
– 静岡県掛川市、石川県能美市、群馬県、島根県安来市、沖縄県、富山県、岐阜県、北海道な
ど
伊藤×地方自治体
• 公共交通に限らず、交通は限られた移動資源をどう共有するかの技術や制度で成り
立つ
• コロナにより、移動需要の減少と感染拡大対策が必要になり、前提が大きく変わっ
た
公共交通の意味や価値: モビリティ提供に必要な
車両・エネルギー・空間などを共有し有効活用
出典: i-SUSTAIN https://www.i-sustain.com/projects
新型コロナウイルスの影響で公共交通も大変
連休中の昼間の小田急新宿駅連休中の昼間の小田急電車内
乗客が減ったバスは減便
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• マスクの利用(運転手・乗客にも要請)
• 窓の開放
• バス最前席の使用禁止
• 運転席にビニールシート
• 頻繁な消毒
• 間隔を空けた着席
従業員や乗客の感染予防策を試行錯誤
https://mainichi.jp/articles/20200424/ddl/k33/040/401000c
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/412730
8
• 日本の公共交通の原則は独立採算制
– 民間企業が競争し合い、運賃収入で利益を上げて運営するのが制度の基本
– 欧米では市など行政が主体で運営することが多い(特に都市・地域交通)
• 運賃収入の減少が経営難に直結
– 鉄道・バスは運行継続が期待されており、運行コストは変わらない
– 多くの利用者が「不要不急の外出を避け」たらどうなるか?
• 事業者の窮状は一般に理解されていない?
– 地域の老舗・大企業だから大丈夫だろう
– どうせ税金が投入されているんだろう
• いざという時も事業者が声を上げにくい雰囲気?
– 支援して欲しい、資金が欲しい、という声が出てこない
独立採算による経営が限界に
9
そもそも公共交通は転換点にあった
公共交通の裾野の広がりと弱体化
新幹線
都市間鉄道
都市内・地域鉄道
都市間バス
路線バス・コミュニティバス
スピード、運賃、
1便当たり旅客数
デジタルデータがすでに存在
(経路検索など)
データが無く、検索も出来ない
• 全体:年間約900億人
• 公共交通:年間約300億人
– 近年増加傾向
公共交通利用:全移動の約1/3 (人員ベース)
http://www.mlit.go.jp/statistics/details/tetsudo_list.html
※旅客の輸送分野別分担率、公共輸送機関別分担率より
※古い数字だが翌年より調査方法が変わったためこの年を採用
2009年 国内輸送人員
自動車 66,599,647
鉄道 22,984,742
旅客船 92,200
航空 83,872
合計 89,760,461
(千人)
• x
外出・移動は減少傾向
https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi07_hh_000117.html
第6回全国都市交通特性調査結果(とりまとめ)
若者(20代)の1日あたり移動回数
20代男性は30年間で47%減少
バスの事業規模
黒字 赤字 合計 収入 支出 損益 経常収支
率
民営 66 153 219 5770億円 6011億円 -241億円 96.0%
公営 2 16 18 1551億円 1650億円 -98億円 94.0%
合計 68 169 237 7322億円 7662億円 -339億円 95.6%
• 特に地方において経営が
成り立たない状況
– 多くの赤字路線を抱え補助金
により運営している
(調査対象事業者は保有車両数30両以上の237者)
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000294.html
平成29年度乗合バス事業の収支状況について
• 地域公共交通活性化再生法(2007年
制定)により、行政が主導して地域
公共交通を計画、実現する枠組みが
明確化。
• 特徴(伊藤の理解)
– 地域のことは地域(事業者、住民、行政な
ど)で
– 全体をネットワークで考える
– やる気のある地域を金や制度でサポート
– まちづくりとの連携
行政の役割の高まり
• 市町村が主体となり、地域の交通事業者や利用者などを集めた
協議会を開催できる
地域公共交通会議など
出展: 中部運輸局愛知運輸支局
「地域公共交通会議等運営マニュアル」
• 2020年法改正
で示された方針
https://www.mlit.go.jp/common/001352013.pdf
• 岡山では新規参入の妥
当性をめぐってストや
法廷闘争も
競争前提の地域公共
交通運営
https://toyokeizai.net/articles/-/213178
• 複数の交通事業者を一体運用し統一的な公共交通サービスを実現する組織
– 交通事業者、自治体などが主導し結成される
• 公費を投入しての運営が前提、運賃収入は半分以下
• ドイツ、フランスなどで導入が進む
– 1965年にドイツ ハンブルグで始まる
• 運輸連合の役割(例)
– 統一的な運賃システムの構築と販売のマネジメント
– 事業者間での運賃調整
– 地方自治体や事業者との契約に関するマネジメント
– ローカル線の維持管理と品質管理
– 旅客輸送の計画策定
– マーケティングと乗客への情報提供
ヨーロッパなどでは運輸連合を形成
https://www.itej.or.jp/assets/seika/jijyou/201209_00.pdf
運輸連合の概要と日本への示唆 −ドイツ・ベルリンを例に−(渡邉亮) 参照
• モータリゼーションが先行したヨーロッパにおいて、中心市街
地を公共交通によって活性化する施策が一般化
– 数十万人規模の都市でもトラムを整備、赤字前提の運営
• LRT導入、歩行者専用道路、トランジットモール…
公共交通を活かしたまちづくりの成熟
フランス オルレアン
http://uemuraakifumi.com/machi/858
フランス ストラスブール
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Heilbronn_Bah
nhofsvorplatz_Stadtbahn01_2002-09-08.jpg
ドイツ カールスルーエ
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rue_Jeanne_dArc_Tramw
ay_Orleans.jpg
コロナ禍は時間の歩みを早めた
「くらしの足をなくさない!
緊急フォーラム」
オンラインで開催
4/24:1,000人が登録
• 川鍋一朗・全タク連会長があいさつ
• 現状の整理、当面の危機をどう乗り切るか議論
• 提言「社会崩壊を招く『交通崩壊』を防ご
う!」を作成し、国土交通大臣に提出、業界団
体から賛同
5/29:820人が登録
• 赤羽一嘉・国土交通大臣(録画)、藤井直樹・
国土交通審議官があいさつ
• 感染防止策、事業者支援策を中心に議論
• 主体別行動マトリックス「withコロナ環境での
『おでかけの足』確保に向けた枠組」を公表
https://zenkokuforum.jimdofree.com/
にて録画視聴・資料閲覧可能
この種のフォーラムは初。オンラインもかなり早い取組 232020/8/8 加藤博和・伊藤昌毅ほか
• 全員がそれぞれの場所か
ら出演(主会場なし)
• Zoomで議論。YouTube
で送出。途中で録画も挟
む(放送同然)
• 進行中、出演者とスタッ
フはFBのmessengerで
連絡をとりあう
242020/8/8 加藤博和・伊藤昌毅ほか
• x
交通事業者の現状紹介(バス)
谷島賢(イーグルバス社長)
高田晋(熊本都市バス社長)
25
• xx
交通事業者の現状紹介(鉄道)
太田恒平(トラフィックブレイン)
加藤博和(名古屋大学)
26
• xx
交通事業者の現状(タクシー)
とりまとめ: 井原雄人(早稲田大学)
27
• xx
交通事業者の現状紹介(介護タクシー・福祉運送)
28
「緊急に必要」と
社会に対して訴えていかなければならないこと
1. 「くらしの足」が危機的であり、いったん失えば戻すのは困難
– このままだと、収束後に元通りの運行はできなくなる可能性が高い
– そうなれば、外出が自由になっても、実質的に外出が制約される人が多数出てしま
う
2. 現段階でも確保すべき「くらしの足」があり、移動中の乗客や
職員の感染防止が必要
– 社会を維持するために働いていただいている方が、そのために安全に移動できるよ
うにしなければならない
3. そのために、「くらしの足」確保維持への公的支援が必要
– 現状の制度では対応できないところがあり、一刻を争う
「後」でなく、とりあえず「今」に集中
「主張」「要求」の前に「現状」「問題」を知ってもらう 292020/8/8 加藤博和・伊藤昌毅ほか
提言書作成
• セッション中40分+
公開延長戦50分+ク
ローズ後約1時間徹
底ディスカッション
– Google Docsを共有し
てライブで作成
• 当日中に国土交通大
臣宛の提言書にまと
める
– 疲れ果ててZoom飲み会
する気力が…
30
2020/8/8 加藤博和・伊藤昌毅ほか 31
公共交通業界はITが苦手・遅れてる?
私がいる限りそんなことはない
進行の連絡・指示
講演・司会進行・画面共有
質問・回答SNS #交通崩壊
映像
反応・意見
視聴者 登壇者・運営者
Facebook Message
参加申込
完全分散
全国十数箇所からの接続
アンケート
Google Form
「日本版MaaS」は
どれだけ交通の本質的な問題に
向き合ってきたか?
MaaS
Mobility as a Service
都市・社会におけるモビリティのあり方の方向性
• ドア・ツー・ドアの移動に対し、 様々な移動手法・サービスを組み合わ
せて1つの移動サービスとして捉えるものであり、ワンストップでシーム
レスな移動が可能となる。
• 加えて、様々な移動手段・サービスの個々のサービス自体と価格を統合
して、 一つのサービスとしてプライシングすることにより、いわば「統
合一貫サービス」 を新たに生み出すものであり、価格面における利便性
の向上により利用者の移動行動に変化をもたらし、移動需要・交通流の
マネジメント、さらには、供給の効率化も期待できる。
• 小売・飲食等の商業、宿泊・観光、物流などあらゆるサービス分野との
連携や、医療、福祉、教育、一般行政サービスとの連携により、移動手
段・サービスの高付加価値化、より一層の需要の拡大も期待できる。
MaaSとは?
(国交省 都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会中間とりまとめより)
Whim by MaaS Global
• ヘルシンキ(フィンランド)でMaaSを実現
• Whim というアプリを通して鉄道、バス、タ
クシー、自転車などの組み合わせ検索や予約決
済を実現
https://time-space.kddi.com/digicul-column/world/20161209/1772
• xx
統合の度合いで4段階のレベルが提唱されている
http://www.tut.fi/verne/aineisto/ICoMaaS_Proceedings_S6.pdf
• 経産省+国交省
• 99自治体
• 132事業者
• その他26団体
• 登録料・年会費なし
スマートモビリティチャレンジ推進協議会
事務局 :国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域
ヒューマンモビリティ研究センター スマートモビリティチャレンジ協議会 事務局
https://www.mobilitychallenge.go.jp/aboutsmcpc
https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731005/20200731005.html
公募段階から
課題別に6分類
https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731005/20200731005.html
2020年6月1日応募締切
2020年7月31日発表
2019年度
国交省事業
2020年度 日本版MaaS推進・支援事業 38事業を選定
より本質的なデジタル化と
向き合おう
運輸局への紙による膨大な申請・届出業務
バス会社(永井運輸@前橋) 関東運輸局
太田恒平, 水野羊平, 三浦公貴, 伊藤昌毅, "GTFS-JPデータを用いた乗合
バス事業の電子申請に向けた基礎検討 〜帳票地獄からの脱却による働き
方改革を目指して〜", 第59回土木計画学研究発表会, 2019年6月9日.
書式の例
• x
https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/bus/procedure/noriai/style.html
利用者向けのデジタル化を進めたところで…
運輸行政のデジタル化を目指して
電子化すればいいのに、なぜできない?
• 今でもできている。大きな問題だとは思っていない
• 相当の費用が掛かるが予算が付かない
• 国交省における担当部署が不明
• 使われる気がしない。メリットが見えない
• 許認可、申請業務が複雑であり、分かっている人が少ない
規制改革推進に関する
答申(2020年7月)
• 内閣府 規制改革推進会議
• 交通事業者のデータ整備・連携
の推進
• 交通事業者から国への申請のオ
ンライン化
– 交通業界におけるDX(デジタルトランス
フォーメーション)推進
令和3年度 国土交通省
自動車局関係
予算概算要求概要
2020年9月25日公開
https://www.mlit.go.jp/page
/content/001364071.pdf
• 業務分析、要件定義ができる発注側の人材がいるか
• アジャイル的な開発手法が必要なのではないか。それを実践出
来るIT企業や発注制度があるか
• 交通事業者のシステム開発がついてくるか
• 期限を決めて電子化に一本化出来るか
• 2年ローテーション人事で大丈夫か
期待とともに懸念も大きい
明るい兆し
55
標準的なバス情報フォーマットのオープンデータ整備が進行中
路線 時刻 運賃
「標準的なバス情報フォーマット」(世界標準のGTFS互換)でデータ整備
リアルタイム
乗換案内・MaaS サイネージ・印刷物等 交通分析・計画
バス業界において「標準化」「オープン化」が同時に進行中
• x
57
2018年11月:30
2019年2月:90 2019年7月:126
0
50
100
150
200
250
300
17年7月
17年10月
18年1月
18年4月
18年7月
18年10月
19年1月
19年4月
19年7月
19年10月
20年1月
20年4月
20年7月
件数
2018年7月:23
• 標準的なバス情報フォーマット
(GTFS-JP)データ整備に関わる有志
によるコミュニティ
– 2017年夏頃から、国交省検討会の関係者らを
中心に自然発生的に誕生
– 普及に関わるツール開発、勉強会やイベント
開催、関係者への働きかけなどを継続的に実
施
– チャットなどによる活発な情報交換
• 参加者
– 大学研究者
– 乗換案内サービスデータ整備担当
– バス事業者向けツール開発者
– 公共交通コンサルタント
– 交通事業者職員
– 自治体職員 等 20名程度
標準的なバス情報フォーマット広め隊
• バスロケやアラートを標準フォーマットで積極公開、利便性向上へ
GTFSリアルタイムで攻めの情報発信
• アナログな現場オペレーションにGTFSだけを導入しても求めら
れる情報提供ができない
• 業務フロー全体を捉えたデジタル化を進めている
GTFS整備からバス事業のDX推進へ
(みちのりホールディングス)
【国土交通省主催】標準的なバス情報フォーマット/GTFSオンラインセミナー(2020年9月)
https://www.youtube.com/watch?v=vQV3kXBtAAs
行政によるデータ活用の可能性:
「地域が自らデザインする地域の交通」
のために
データの流れからみたバス事業
公共交通
事業者
運輸局
(国)
利用者
自治体
アプリ
事業者
標準化+オープン化
許認可・申請
紙ベース
情報提供の義務は無い
許認可権限
形式的な要件は確認はするが
地域の状況を踏まえた判断はしない
自治体が地域の交通をデザイン
することが法的に求められている
ダイヤ改正・臨時便
路線やバス停の新設・廃止
新規参入・撤退
この体制のままよりよい交通は作れるのか?
利用の実態は
自治体に届かない
都バスのサービスレベルを把握するマップを作成
高松駅13:00発の到達圏
https://qiita.com/niyalist/items/1d3941761df3969f16a2
インフラとしての交通を
技術と制度をITとデータ中心に
再構築して
支えよう

コロナ禍が公共交通にもたらすもの: 交通崩壊を乗り越えた先で再びMaaSの夢を見られるか