熟議を
シミュレーションする
授業のデザイン
阿部学[敬愛大学]・市川秀之・土田雄一・藤川大祐[千葉大学]
日本教育工学会第31回全国大会@大阪大学 2016.9.17 一般研究発表3 ポスター P1p-02
――問題解決的な道徳授業のモデル構築へ向けて
解決的な授業と
熟議民主主義問題
道徳の教科化
 →心情追究型の授業は批判される
 →問題解決的な授業が推奨される傾向
しかし、
問題解決的な道徳授業の実践例は
まだ少ない[柳沼2012]→多様な実践の開発を!
[文部科学省2015;柳沼2015;押谷ほか2015]
ただし、指導法を増やすだけでなく
授業を支える体系的理論も整備すべき[市川2016]
ここでは、市川にならい
背景理論として熟議民主主義を採用する。
熟議民主主義→「人々の間の理性的な熟慮と討議、すなわち熟議を通して合意を形成
することによって、集合的な問題解決を行おうとする民主主義の考え方」[田村2008]
さて、
熟議民主主義なるものを背景とする時
一体どのように授業をデザインすべきか?
そうすることで、指導・評価の妥当性に根拠をもって答えていける。
授業
やはり、
授業で子どもたちに熟議をさせることが
基本となるはず。
では、どのような仕方で熟議をさせるか?
大まかには2つの方法が想定される。
デザインの基本方針
真正性の可能性と課題
リアルな熟議をそのまま行わせる。
【今回は不採用】
もともと熟議では、
現実的で社会的な問題の解決が
実際に目指される→真正性(authenticity)
形式的な議論でなく、
身に迫る問題の解決策を探るような授業。
これが理想的に思える。しかし……
1
1
現実の社会問題と同等レベルの
真正性あるテーマが存在することは稀。
ひとまず、汎用性を考慮する。
うまくファンタジーを忍び込ませられれば
シミュレーションであっても、
リアリティをもって熟議を行えるはず。
阿部[2014]の発想を援用
熟議をうまくシミュレーションする
【こちらを採用】2
熟議
シミュレーションであるが故、
リアルな熟議と同じにはならない。
授業に取り入れるべき要素を、選ぶ。
シミュレーションの
デザイン方針
a 熟議の要素を意図的に選択する
ここでは次のa,b,c3つの要素
1
根本的選好(fundamental preferences)
=問題解決にあたっての考えを
 背後で支えている価値づけのこと。
ただし、根本的選好という言葉は難しい。
a
熟議では、この変容を経ながらの意思決定が重視される。
ex. そもそも、ルールって何のためにあるの?
そこで、
そもそもという平易な言葉で問いかけ、
根本的選好をあぶり出すことをねらう。
[Elster 1998]
議論に結論を出す(決定する)
よくある「オープンエンド」方式
ではなく、クラスで1つの意思決定をする
なぜか→決定をめざすからこそ議論が深まる。決定に多様な意見を反映させる
    もとより民主主義社会は人々による決定が不可欠。なお、投票も可。
b
[荒木1988]
少数派・消極派の意見を確認する
熟議では選好の変容のために
できるだけ多くの声を必要とするから。
c
一般的な授業では、多数派・積極派の声で議論が進みがち? だからこそ。
熟議である/でない という二元論でなく
熟議っぽさに幅があると考えると、
デザインの幅が広がる。
a
「熟議っぽさ」チェックリスト試案
の作成と活用
2
阿部[2014]の発想を援用
自身のデザイン案にどれほど
熟議の要素が編み込まれてい
るかが認識でき、授業デザイ
ンや、カリキュラム開発の参
考にすることができる。
ex. 熟議度低→高 と少しずつ
レベルアップしていくカリキ
ュラムを組む
✔
✔
✔
✔
✔
✔
✔
✔
ファンタジー設定を導入する3
構成・演出上の課題と解決策。
● 集団で意思決定する必然性があるか?
 →教室を主人公の「脳内」と設定。
  子どもらは「脳内物質」になってしまった!
● 架空のテーマでも議論したいものか?
 →判断に迷う場面のあるドラマ教材を活用
NHK Eテレ『ココロ部!』「おくれてきた客」を借用
「脳内物質」同士で議論する必要がある、制限時間内に主人公の行動を決定
しないと困る……という設定。映画『インサイド・ヘッド』の設定と類似。
画像は http://www.nhk.or.jp/doutoku/kokorobu/より
「脳内物質」として意思表示途中「そもそも」を掲示
ドラマの主人公が[A.入れる]
[B.入れない]で迷っている
コジマは美術館の警備員となり、ピ
ンチに遭遇。「思いやり」と「決ま
りを守ること」について考える。美
術館の閉館後、おばあさんが娘に付
き添われて訪ねてきた。「悪天候で
電車が遅れてしまって…でも、⃝⃝
の絵をどうしても見せてほしいんで
す」。話を聞くと、その絵は亡くな
ったおじいさんとの思い出の絵。お
ばあさんは入院中で、一時帰宅の今
回が絵を見られる最後の機会だと言
う。絵画展は今日までで、その絵も
明日フランスに戻されてしまう。し
かし、部外者を勝手に中に入れるこ
とは規則で許されない…キミならど
うする?
http://www.nhk.or.jp/doutoku/kokorobu/teacher/program/
モデル
デザイン方針をもとに、
授業プランを作成・実施。
小5・60程度のプランを基本とした。
授業の実践
成果と課題
大まかな展開は、
 設定確認→ドラマ視聴→AかBか議論→
 「そもそも」を踏まえ再度議論→決定。
※ 指導案は別紙参照
小5・39名・60分
授業者:大学教員(小学校講師経験あり)
Q「コジマの脳内」で話し合うのは楽しかったですか?
とても34、まあまあ5、あまり0、まったく0
1
実践1
Q 今日のような話し合いをする授業をまたやりたいですか?
  とても34、まあまあ5、あまり0、まったく0
Q 友だちの意見をよく聞くことができましたか?
  とても29、まあまあ10、あまり0、まったく0
【考察】アンケート項目からすると、概ねプランの妥当性が認められる。実際の様子で
も、子どもらは設定に入り込み笑いも絶えず、しかし議論の際には時に授業者の声が通
らないほど熱中していた。ファンタジー設定のもと議論に熱中させるということは達成
できていた。ただし、根本的選好「そもそも」について扱う時間が少なくなり、そこま
で思考が深まったかは少々疑わしい。それでも自由記述には「そもそも」に言及する記
述が多く、デザインの方針とそれにもとづく授業プランは概ね妥当であったと考えられ
る。この方向性でチェックリストを参考に、プランを微修正をすることで、他でも同じ
ような授業が展開できると期待される。
※詳細な結果は別紙参照
小5・39名・40分 2コマ
授業者:教育学部生1
実践2
同様のデザイン方針のもと、
教育学部学生が、授業の開発・実践に取り組んだ。(アレンジ有)
しかし、授業者や筆者らの実感として、
実践1ほど上手くいかなかったと思われた。
ex. T「またグループで話し合ってください」→C「えー」
授業経験の少なさに起因するであろう技術面での課題もあるが……
【考察】授業のデザインという観点からすると、ファンタジー設定への誘いを丁寧に行
ったかどうかが、両授業の大きな違いであった。実践1では、映画『インサイド・ヘッ
ド』の紹介や、主人公の大きな画像の提示など、子どもを世界観に誘おうと手をつくし
た。実践2では、あっさりと口頭で伝えるのみであった。ファンタジー設定の中で議論
をさせるならば、その設定への誘いは徹底すべきということが示唆された。デザイン方
針をもとにつくったモデル授業があったため、授業は構想しやすかったはずだが、かた
ちをなぞるだけになってしまった面もあるのかもしれない。シミュレーションという形
態上、普段の授業ではあまり重視されないことにも注力すべきと示唆された。
総合的考察
今回は、
熟議をシミュレーションする授業を企図し、
その授業デザインの一つのあり方を提案した。
設定したシミュレーションの枠組においては、
デザイン方針自体の妥当性は概ね示された。
異なる設定(熟議っぽさ)でのデザイン方針を
導くことは今後の課題である。
他方、デザイン原則を抽出し、
誰でも適切に使えるものにするには至っていない。
授業づくりの指導を重ね、モデル化を目指す。
ex.ファンタジー設定のコツなどのモデル化を目指す。
授業づくり一般への示唆もある。
真正性ある授業を行いたい時
 →リアリティある場面を設定する(ありがち)
 →ファンタジーを取り込み、
  シミュレーションをデザインする(本稿)
という、後者の道の可能性を示すことができた。
授業のリアリティとファンタジーの関係について議論を重ねることで、
授業デザインの幅が広がることや、より適切なモデル化が目指せるのでは?
参考文献‣ 阿部学(2014)「ある「自由保育」実践のエスノグラフィー―〈リアリティ―ファン
タジー〉構造の再検討」千葉大学大学院人文社会科学研究科博士学位論文
‣ 荒木紀幸(1988)「授業モデルと教師の発問」、荒木紀幸(編)『道徳教育はこうす
ればおもしろい―コールバーグ理論とその実践』北大路書房、pp. 26-35
‣ 市川秀之(2016)「熟議民主主義は道徳授業に何をもたらすか―問題解決的な学習に
焦点を当てて」千葉大学教育学部研究紀要、64、pp.119-139
‣ 押谷由夫・諸富祥彦・柳沼良太編(2015)『新教科・道徳はこうしたら面白い―道徳
科を充実させる具体的提案と授業の実際』図書文化社
‣ 田村哲樹(2008)『熟議の理由―民主主義の政治理論』、勁草書房
‣ 文部科学省(2015)「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」http://
www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/
2016/08/10/1375633_6.pdf(2016年9月1日確認)
‣ 柳沼良太(2012)『「生きる力」を育む道徳教育―デューイ教育思想の継承と発展』
慶応義塾大学出版会
‣ 柳沼良太(2015)『実効性のある道徳教育―日米比較から見えてくるもの』教育出版
‣ Elster, Jon(1998) Deliberation and Constitution Making, in Elster, Jon,
ed., Deliberative Democracy, Cambridge: Cambridge University Press, pp.
97-122.

熟議をシミュレーションする授業のデザイン