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1. アクターの多様性
– 理科教育関係者、科学館・博物館関係者、研究
者コミュニティ、科学ジャーナリスト、サイエンスライ
ター、研究機関広報関係者、科学技術行政担当
者、産業界、科学技術社会論研究者、市民団体
など、さまざまなアクターが関与していること。
2. 対象の複雑性
– 科学技術コミュニケーション実践が扱う対象自体
のトランスサイエンス的な複雑性。
8. 他分野の評価手法の援用は可能か(2)
• 科学技術コミュニケーションは、
– (伝統的な)広報の一方向的なコミュニケーション手法と異
なり、双方向性を重視する。
– 健康増進、貧困克服などを扱うソーシャル・マーケティング
と異なり、「何が良きことか」について基本的な合意が得ら
れないことが多い。
– 具体的な知識やスキルの獲得を目標としたカリキュラムの
枠組みが存在する教育の分野とは異なり、一般に、きわめ
て多様な文脈の元でコミュニケーションが行われる。
• 部分的にこれらの関連諸分野の評価手法を参考にす
ることは可能であるとはいえ、それをそのまま援用する
ことは難しい(石村 2011)。
13. 実践の事後的再解釈(2)
• むしろ「実践の現場で生起した現象」を起点にして、そ
こから事後的に、その実践が“結果として”科学技術コ
ミュニケーションのどのような目的にかなう、どのような
手段によって構成されていたのかを“再解釈”し、それ
に基づいた「目的―手段の階層構造のモデル」(=プロ
グラム理論)を描出し、そのプログラム理論の観点から
評価を行う手法を開発することを目指すべきではない
か。
• このような再解釈はともすれば機会主義的な自画自賛
を招きかねないが、プログラム理論を明示することに
よって第三者の検証に耐えるものとなりうる。
15. プログラム理論 (program theory)
• 社会プログラムの代表的な評価手法である「プログラム評
価」の構成要素(Rossiら 2004)。
• 社会プログラムの想定する目的ー手段関係ならびに因果
関係を論理的に概念化したもの。
• そのプログラムが採用してきた戦略や戦術と、期待される
社会的便益との関係に関する一連の仮説。
• プログラムの運営計画、そのプログラム活動が意図したアウ
トカムにつなげる論理、プログラムの実施理由に対す理論
的根拠などからなる。
• 代表的なプログラム理論の記述法として「ロジック・モデル」
がある。
• この概念構造自体が評価の対象・焦点となる。
– プログラムの概念化が明確でかつ説得力があるほど、評価が焦
点を当てるべきプログラムの機能と効果を、評価者が識別する
ことは容易になるであろう。
16. ロジックモデルの例
2012年度CoSTEP 防災コミュニケーション実習 開始時のロジックモデル
インプット 活動 アウトプット アウトカム アウトカム アウトカム インパクト
(近位) (中位) (遠位)
組織
実践上の成果
予算
参加者の
適切な避 地域における防
参加者 知識と意
実習の 難行動 災文化の醸成
識の変化
年間計画 防災集会1
企画 準備 の実施
(予定)
スタッフ
2名
防災集会2
の実施 実践 実践
受講生 実践の
(予定) ノウハウの ノウハウの
5名 普及
獲得 形式知化
プロジェクト
依頼者(専
門家)
教育上の成果
科学技術コ 科学と社会の
知識・スキ
実践体験 人材育成 ミュニケーショ よりよい関係
ルの向上
ンの質的向上 の実現
(※因果関係、目的ー手段関係のある要素をすべて書き出したものではない。)
17. 「プログラム評価」の問題点
• 「計画主義」的である。
– 以下のことを前提とする。
• 正しい目的・目標が自明である。
• 目的・目標を実現するための適切な手段、下位手段を
事前にすべて設計できる。
• 設計した手段は実行されるのが当然であり、実行され
なかった場合には実行の担い手に問題がある。
• プログラムを実施するに当たり、「外乱」は無視できるほ
ど小さい。
• 実行結果・効果は比較的容易に測定可能である。
• 評価のための人的・時間的・金銭的コストが大
きい。
18. 「事後的なプログラム理論の描出」に
よる実践評価の可能性
1. 実践に先立って(あるいは実践の一部として)プログラム
理論(ロジックモデル)を策定する。
2. 実践を実施する。
3. 参加者やステークホルダーとの相互作用によってダイナ
ミックに変化した種々の条件を取り入れて、いわば実践の
「再解釈」として、再びプログラム理論を描出する。
4. 描出した「事後的なプログラム理論」の観点から、「プログ
ラム評価」の手法を援用して実践の評価を行う。
5. 異なる実践間で「事後的なプログラム理論」を比較する。
6. Temporal Logic Model (den Heyer, M. 2002)
7. 科学技術コミュニケーション実践は、その特質から考えて、
評価においてTemporal Logic Modelを利用すべき典型的
な対象である。
19. 「事後的なプログラム理論」の描出例
2012年度CoSTEP 防災コミュニケーション実習 開始時のロジックモデル
インプット 活動 アウトプット アウトカム アウトカム アウトカム インパクト
(近位) (中位) (遠位)
組織
実践上の成果
予算
参加者の
適切な避 地域における防
参加者 知識と意
実習の 難行動 災文化の醸成
識の変化
年間計画 防災集会1
企画 準備 の実施
(予定)
スタッフ
2名
防災集会2
の実施 実践 実践
受講生 実践の
(予定) ノウハウの ノウハウの
5名 普及
獲得 形式知化
プロジェクト
依頼者(専
門家)
教育上の成果
科学技術コ 科学と社会の
知識・スキ
実践体験 人材育成 ミュニケーショ よりよい関係
ルの向上
ンの質的向上 の実現
(※因果関係、目的ー手段関係のある要素をすべて書き出したものではない。)
20. 「事後的なプログラム理論」の描出例
2012年度CoSTEP 防災コミュニケーション実習 現時点でのロジックモデル
インプット 活動 アウトプット アウトカム アウトカム アウトカム インパクト
(近位) (中位) (遠位)
組織
適切な避
難行動
実践上の成果
予算
参加者の 非参加者
約50名の 地域における防
知識と意 へのリー
実習の 参加者 災文化の醸成
識の変化 ダーシップ
年間計画 防災集会1
企画 準備 口コミによ
の実施
る参加者
スタッフ
層の拡大
1名
防災集会2
の実施 実践 実践
受講生 実践の
(予定) ノウハウの ノウハウの
5名 普及
獲得 形式知化
プロジェクト 教育プログ
依頼者(専 ラムの改善
門家)
教育上の成果
過去の活
科学技術コ 科学と社会の
動の蓄積 知識・スキ
実践体験 人材育成 ミュニケーショ よりよい関係
ルの向上
ンの質的向上 の実現
現地の
協力者 (※因果関係、目的ー手段関係のある要素をすべて書き出したものではない。)
23. 文献
石村源生 2011: 「科学技術コミュニケーション実践の評価手
法 : 評価の一般的定義と体系化の試み」『 科学技術コミュニ
ケーション』 10, 33-49
den Heyer, M. 2002, “The Temporal Logic Model
Concept,“ The Canadian Journal of Program Evaluation
Vol.17 No.2: 27-47.
Rossi et al. 2004: Evaluation: A Systematic Approach, 7th
edition
田原敬一郎 高橋真吾 2012:「プログラム評価のための生存可
能システムモデルによる事例分析」,第27回研究・技術計画
学会発表論文集
25. 評価とは何か(1)
• 評価とは
– ある対象の情報を、その対象に影響を与える意思
決定において利用可能な情報に、変換する行為
• 実践の評価とは
– 狭義には、実践の目的・目標がどの程度達成され
たかを測定する行為
– 広義には、実践の情報を、実践に影響を与える意
思決定において利用可能な情報に、変換する行為
26. 評価とは何か(2)
• 評価の機能
– 評価→情報の取得→学習→環境への適応度向上→
生存可能性向上
– “何が”生存すべきなのか?
• 評価対象
– 何らかの機能システム
– 第一義的には、「人」や「組織」ではない
• 機能システムの階層構造
– 上位システムと下位システム
– 階層構造の恣意性、仮設性