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学校選択問題のマッチング
理論分析	
政策研究大学院大学
安田洋祐	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 1
講演の流れ	
•  はじめに
•  学校選択制とは
•  マーケットデザイン
•  基本モデル
•  マッチング理論による定式化
•  効率性と安定性
•  代表的な2つの制度
•  DA方式
•  ボストン方式
•  インセンティブの問題
	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 2
講演の流れ(つづき)	
•  学校選択問題の新展開(1) - 理論編
•  くじ + DA方式
•  事後の非効率性
•  SIC方式
•  事前の非効率性
	
•  学校選択問題の新展開(2) - 実践編
•  ボストン方式の再評価
•  シグナル付きDA方式
•  “ナイーブな”生徒
•  その他の論点
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 3
公立学校選択制
- 制度的な背景
•  伝統的に各生徒は「どこに住んでい
るか」に応じて公立の小中学校に自
動的に入学していた
•  「通学指定校」(いわゆる地元校)
•  1980年代に米国で選択制が開始
•  生徒・保護者の希望に従って、より広い範
囲から学校を選択できるように
•  諸外国にも同様の制度が浸透
•  日本(の自治体)は1998年に初めて制度を導入
•  各自治体が選択制の採否に対する決定権限を持つ
•  2割くらいの自治体が学校選択制を採用している
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 4
なぜ経済学・ゲーム理論の問題なの?
- 学校と生徒をどうやって「マッチング」させるか
•  学校のイス(定員)は限られている
•  希望する生徒を全員第一希望の学校
に入れることは不可能
•  どの学校を希望する/しないかを戦
略的に考える必要がある
•  制度設計が重要! なぜなら…
•  生徒・保護者のインセンティブやマッ
チング結果が変わってくるから
•  学校選択制のアイデア自体は支持が広がっている
•  具体的にどのマッチング方式が良いかは依然議論が
•  マッチング理論が現在積極的に取り組んでいる問題!
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 5
学校選択制のデザイン
- ニューヨーク市とボストン市での制度変更	
•  ニューヨーク市
•  2003年,公立高校が対象
•  マッチング理論が提唱する「DA方式」(後述)に変更
•  ボストン市
•  2005年,公立小中学校が対象
•  通称「ボストン方式」から「DA方式」に変更
•  ハーバード大学のロス教授ら経済学者たちの活躍
•  ニューヨーク – Abdulkadiroğlu, Pathak and Roth [2005; 2009]
•  ボストン – Abdulkadiroğlu, Pathak, Roth and Sönmez [2005; 2006]
•  採用されたDA方式はGale-Shapley [1962]が提唱
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 6
2012年度ノーベル経済学賞
- ロス&シャプレー「マーケットデザイン」で受賞!
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 7
マーケットデザインの実践例
- すでにたくさんの成功事例が!
•  オークション設計
•  周波数オークション
•  国債の販売方法
•  アドワーズ (Google)
•  マッチング・メカニズム
•  研修医マッチング
•  臓器交換メカニズム
•  公立学校選択制
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 8
マーケットデザインの実践例
- すでにたくさんの成功事例が!
•  「お金」を使う
•  周波数オークション
•  国債の販売方法
•  アドワーズ (Google)
•  「お金」を使わない
•  研修医マッチング
•  臓器交換メカニズム
•  公立学校選択制
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 9
文献案内	
•  マッチング理論のバイブル
•  Roth and Sotomayor [1990]
•  マッチング理論の近年の発展+現実の制度設計への応用
•  Abdulkadiroğlu and Sönmez [2013],Sönmez and Ünver [2011],論文集
(Handbook)にVulkan, Roth and Neeman [2013]
•  日本語による解説
•  小島・安田 [2009],安田 [2013],書籍に坂井 [2010; 2013]
•  学校選択制に焦点をあてた展望論文
•  Abdulkadiroğlu [2013]やPathak [2011],書籍に安田編著 [2010]
•  日本の学校選択制について
•  Kawagoe et al. [2013],書籍に安田編著 [2010]	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 10
基本モデル	
•  マッチング理論による定式化
•  効率性と安定性
	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 11
マッチング理論と学校選択制	
•  Gale-Shapley [1962]がマッチング理論を切り開いた
•  2つのグループのメンバー同士をどうやってうまくマッチされるか?
•  望ましい仕組みとしてDA方式(受入保留方式)を提案
•  DA = Deferred Acceptance
•  選好情報を下に中央集権的なマッチングを決定
•  Abdulkadiroğlu and Sönmez [2003]の学校選択モデル
•  伝統的なマッチングモデルと微妙に分析が異なる
•  望ましいDA方式が現実の学校選択制に採用される
•  学校選択問題の新展開
•  DA方式の問題点が明らかになりつつある
•  既存の研究成果や政策提言を再検討する必要性も…	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 12
基本モデルの5つの要素	
1.  有限の生徒の集合
2.  有限の学校の集合
3.  個々の学校の定員
4.  個々の生徒の学校に対する(厳密な)選好
•  【例】 生徒1: 学校A — 学校B — 学校C
5.  個々の学校の生徒に対する(厳密な)優先順位
•  【例】 学校A: 生徒1 — 生徒2 — 生徒3   定員 2 	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 13
マッチングとは	
•  「どの生徒がどの学校に行くか」を指定した関数
•  マッチングの具体例
•  学校A - 生徒1,生徒2
•  学校B - 生徒3
•  学校C
•  マッチング問題の分類
•  一対一: 結婚市場,ダンス・ペア
•  多対一: 学校選択,労働市場
•  多対多: 小売と卸売,著者と編集者
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 14
具体的な学校選択問題 – 例1	
•  生徒1: 学校B — 学校A — 学校C
•  生徒2: 学校A — 学校B — 学校C
•  生徒3: 学校A — 学校B — 学校C
•  学校A: 生徒1 — 生徒3 — 生徒2   定員 1
•  学校B: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3   定員 1
•  学校C: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3   定員 1
•  注意点
•  定員はすべて1,一対一マッチング
•  全部で 3×2 = 6通りのマッチングがある	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 15
2つのマッチングを比較	
学校A - 生徒1
学校B - 生徒2
学校C - 生徒3
【マッチング M1】	
• 生徒1と2の割り当てが
入れ替わっている
• 生徒3はどちらも同じ	
学校A - 生徒2
学校B - 生徒1
学校C - 生徒3
【マッチング M2】	
• 全員の希望順位が同じ
か改善している
• M1よりM2がベター	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 16
定義1 – マッチングの効率性
•  任意の2つのマッチングAとBを考える.
•  マッチングAにおいて,
•  どの生徒もマッチングBで割り当てられている学校よりも低い選好順位
の学校に割り当てられることなく,
•  少なくとも1人の生徒がマッチングBで割り当てられている学校よりも厳
密に高い選好順位の学校に割り当てられるとき,
 マッチングAはマッチングBをパレート支配すると言う.
•  あるマッチングがパレート効率的であるとは,それをパレート
支配するマッチングが一切存在しないことを言う.
•  注意点
•  経済学で出てくるパレート効率/最適と全く同じ	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 17
例1における効率性のチェック	
•  M2はM1をパレート支配する
•  (定義から)M2はパレート効率的ではない
•  M1はパレート効率的
•  生徒1と2は第1希望の学校とマッチ
•  他のマッチングでは彼らの選好順位が下がる=パレート改善されない
•  どんなマッチング問題にも効率的なマッチングが必ず存在
•  すべてのマッチングがパレート支配されることはないから
•  効率的なマッチングは複数存在するかもしれない
•  M2は望ましいマッチングと言えるだろうか?	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 18
効率的だけど実は不公平	
学校A (3位) - 生徒2 (1位)
学校B (2位) - 生徒1 (1位)
学校C (3位) - 生徒3 (3位)
【M2における順位】
•  生徒3の抱える理不尽な思い
•  自分よりも学校Aにおける優先順位が低い生徒2が学校Aに行けるのに,
自分が学校Aよりも選好順位の低い学校Cに行かされるのはおかしい
•  学校Aにとって生徒3は第2希望,3にとってAは第1希望
•  お互いにパートナーを組み直すとどちらも状況が改善
•  このような不公平の生じないマッチングはあるのか?	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 19
定義2 – マッチングの安定性	
•  任意のマッチングにおいて,
•  生徒iが現在割り当てられている学校とは別の学校sをより好み,
•  さらにsの定員に空きがある,あるいはsに割り当てられている生徒の誰
かよりもiの優先順位の方が高い場合に,
 生徒iと学校sの組は元のマッチングをブロックする,と言う.
•  あるマッチングが安定(stable)であるとは,それをブロックす
る組が一切存在しないことを言う.
•  注意点
•  (自動的に満たされる)個人合理性については省略
•  「正当化される羨望(justified envy)がない状態」とも表現される	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 20
定理1 – 安定マッチングの存在	
•  学校選択問題には,必ず安定マッチングが存在する.
•  複数存在しうる安定マッチングのうちのひとつは,DA方式とい
うアルゴリズムによって見つけることができる.
•  注意点
•  より正確には「生徒提案の(student proposing)」DA方式
•  考案者たちの名前を取って「Gale-Shapleyアルゴリズム」とも
•  DA方式は,マッチング理論におけるもっとも重要なアルゴリズム
•  学校選択問題だけでなく,研修医マッチング制度などにも応用	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 21
代表的な2つの制度	
•  DA方式
•  ボストン方式
•  インセンティブの問題
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 22
DA方式の手順	
•  ステップ1 
•  各生徒は,自分の第1希望の学校に応募.
•  各学校は,応募してきた生徒の中から学校の優先順位の高い順に収容定
員の範囲内で応募者たちに“暫定的に”席を割り当て,残りの応募者を拒否.
•  ステップt 
•  ステップt – 1で拒否された各生徒は,まだ自分を拒否していない学校の中
から自分の第1希望の学校に応募.
•  各学校は,すでに暫定的に席を与えている生徒たちと新たな応募者の両方
を合わせて考慮に入れて,学校の優先順位の高い順に収容定員の範囲内
で応募者たちに暫定的に席を割り当て,残りの応募者を拒否.
•  終了ルール 
•  新たに学校から拒否される生徒がいなくなった時点でアルゴリズムが終了.
•  各学校は,その時点で席を割り当てている生徒たちの入学を正式に許可. 	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 23
定理1の証明	
•  ブロックできる生徒がいないことを示そう!
1.  生徒1がDA方式でマッチした学校よりも学校Aを好むと仮定.
2.  生徒1はどこかのステップで学校Aから拒否されていなけれ
ばならない.
3.  そのステップで学校Aの定員は生徒1よりも望ましい生徒で
すでに埋まっている.
4.  アルゴリズムの性質から,各学校に暫定的にやってくる生
徒はステップを重ねるごとに改善していく一方.
5.  最終的に実現したマッチングでも,学校Aは生徒1よりも望ま
しい生徒を定員いっぱいまで受け入れている.
6.  生徒1(と学校A)がブロックすることはできない! 	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 24
定理2 – DA方式の制約付き効率性 	
•  DA方式が見つけ出すマッチングは,安定マッチングを(常に)
導く他のどのようなマッチング方式によって生み出されるマッ
チング結果もパレート支配する.
•  注意点
•  DA方式は,安定マッチングの中で生徒たち全員にとって最も望ましい
マッチング(「生徒最適な安定マッチング」と呼ぶ)を実現
•  安定性を重視する限り,DA方式は最も効率的なマッチング方式
•  安定では“ない”マッチング結果によってパレート支配される危険性も
•  例1でDA方式を行うとM1が実現
•  M1は安定ではないM2によってパレート支配される
•  効率性と安定性の避けられないトレードオフ
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 25
DA方式と効率性	
•  Ergin [2002] – DA方式が(すべてのマッチングの中で)パ
レート効率的になるための条件を導出
•  Kesten [2010] – 安定性と効率性のトレードオフを分析
•  Kesten [2010],Alcalde and Romero-Medina [2011] – DA
方式をパレート支配する具体的なマッチング方式を提案
•  Kojima and Manea [2010] – 安定性が絶対視されないような
場合にDA方式の公理的な特徴づけを行い,どのような意味
でDA方式が効率性を犠牲にするのかを理論的に分析 	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 26
ボストン方式	
•  “暫定的”にはならないDA方式
•  各ステップでの割り当てが暫定的ではなく,そのステップごとに確定
•  それ以外はDA方式と完全に同じ
•  制度変更前にボストン市が行っていた学校選択制の仕組み
•  通称「ボストン方式」と呼ばれるように
•  他にも多くの自治体で(今日においても)採用されている
•  直感的で分かりやすい
•  理論的に様々な欠点が…
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 27
【再掲】具体的な学校選択問題 – 例1	
•  生徒1: 学校B — 学校A — 学校C
•  生徒2: 学校A — 学校B — 学校C
•  生徒3: 学校A — 学校B — 学校C
•  学校A: 生徒1 — 生徒3 — 生徒2   定員 1
•  学校B: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3   定員 1
•  学校C: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3   定員 1
•  ボストン方式を用いると…
•  学校A - 生徒3
•  学校B - 生徒1
•  学校C - 生徒2
【マッチング M3】 	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 28
インセンティブの問題	
•  M3は各生徒の真の選好順位をもとに導出
•  正直に申告しようとしない生徒がいる場合は?
•  第3希望の学校Cに割り当てられてしまう生徒2が,ステップ1
で第2希望のBに応募したとすると?
•  生徒1と3の行動は以前と変わらないとする
•  生徒2は学校Bに行くことができる!
•  学校Bでの生徒2の優先順位が生徒1より高いから
•  戦略的にランキングを操作して自分の状況が改善!
•  生徒や保護者は戦略的な熟慮に頭を悩ませることに
•  事後的に間違った戦略を選ぶリスクも	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 29
定義3 – 耐戦略性 	
•  あるマッチング方式が耐戦略性を満たすとは,
•  すべての生徒にとって,
•  他の生徒たちがどのようなランキングを申告していた場合でも,
•  自分の選好順位を偽って申告しても絶対に得できない
 ことを言う.
•  注意点
•  Strategy-proofnessの訳で,「戦略的操作不可能性」とも呼ばれる
•  対戦略的なマッチング方式では,嘘をつくメリットが全くない
•  ボストン方式は対戦略性を満たさない
•  一方のDA方式は…?
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 30
定理3 – DA方式の耐戦略性	
•  DA方式は耐戦略性を満たす.
•  注意点
•  Dubins and Friedman [1981]およびRoth [1982]が証明
•  DA方式のもとでは,各生徒は真の選好順位を申告するとみなせる
•  耐戦略性が満たされない場合には,真実表明は期待できない
•  インセンティブの問題を考慮に入れた理論予測とは?
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 31
定義4 – 学校選択問題のナッシュ均衡	
•  すべての生徒にとって,
•  他の生徒の申告順位はそのままで,
•  自分ひとりだけが申告順位を変えても得することができないとき,
 生徒たちの申告順位の組をナッシュ均衡と呼ぶ.
•  注意点
•  ナッシュ均衡では“ない”状況では,生徒のうちの少なくとも一人は,自
分の申告順位を変えるインセンティブを持っている
•  そのため,理論予測としては相応しくない
•  ナッシュ均衡は,学校選択問題を超えて,戦略的状況における結果の
予測や説明に幅広く使われている
•  情報構造や環境が変化するとナッシュ均衡も変化しうる	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 32
定理4 – DA方式 vs. ボストン方式	
•  DA方式の結果は,ボストン方式のナッシュ均衡におけるマッ
チング結果を(弱い意味で)パレート支配する.
•  注意点
•  Ergin and Sönmez [2006]によって示された定理
•  すべての生徒がお互いの選好順位や学校の(厳密な)優先順位という
情報を把握している,という完備情報の仮定にもとづいている
•  ナッシュ均衡の集合が,安定マッチングの集合と一致することを証明
•  すべての安定マッチングがボストン方式では実現しうる
•  一方で,DA方式では生徒最適な安定マッチングが常に実現	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 33
まとめ – DA方式の性質	
1.  DA方式は安定マッチングを常に見つけ出す
2.  DA方式は他の安定マッチング方式をパレート支配する
3.  DA方式は耐戦略性を満たす
4.  DA方式はボストン方式を(弱い意味で)パレート支配する
•  効率性とインセンティブの両面で文句のつけようが無い
•  より現実の学校選択制に近い状況を分析すると…
•  これらの性質の多くが成り立たない,
•  あるいは修正を迫られることに!
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 34
学校選択問題の新展開(1)	
•  くじ + DA方式
•  事後の非効率性
•  事前の非効率性
	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 35
ボストン市の優先順位ルール	
•  各学校の生徒に対する優先順位
1.  その学校の学区内(徒歩通学圏)に住んでおり,かつ兄弟や姉妹が
同じ学校に通っているグループ
2.  兄弟や姉妹が同じ学校に通っているグループ
3.  学校の学区内に住んでいるグループ
4.  上記のいずれにも該当しないグループ
•  くじ+DA方式
•  最初にくじを用いて同順位に属する生徒たちを順位付け
•  優先順位を人工的に厳密なものに変えてDA方式を実行
•  共通同順位解消(single tie-breaking)
•  複数同順位解消(multiple tie-breaking)
•  くじ引き前後どちらの優先順位に対しても安定なマッチングに!	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 36
Erdil and Ergin [2008] – 例2	
•  生徒1: 学校B — 学校A — 学校C
•  生徒2: 学校C — 学校B — 学校A
•  生徒3: 学校B — 学校C — 学校A
•  学校A: 生徒1 —(生徒2と3が同順位)    定員 1
•  学校B: 生徒2 —(生徒1と3が同順位)    定員 1
•  学校C: 生徒3 —(生徒1と2が同順位)    定員 1
•  同順位の解消(「生徒1 — 生徒2 — 生徒3」の場合)
•  学校A: 生徒1 — 生徒2 — 生徒3    定員 1
•  学校B: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3    定員 1
•  学校C: 生徒3 — 生徒1 — 生徒2    定員 1	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 37
事後の非効率性	
学校A - 生徒1
学校B - 生徒2
学校C - 生徒3	
【くじ+DA方式】
• くじ引き後の優先順位に
対しても安定的
• しかし,右側のマッチン
グにパレート支配される
学校A - 生徒1
学校B - 生徒3
学校C - 生徒2
【別のマッチング】
• くじ引き後の優先順位に
大しては不安定
• くじ引き前の優先順位に
対しては安定的	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 38
安定改善サイクル(SIC)方式	
•  安定改善サイクル(stable improvement cycles)方式
•  Erdil and Ergin [2008]が提案
•  くじ+DA方式で安定マッチングを見つけたあと,安定性を損なわずに生
徒間で学校を交換して効率性を改善できるなら交換を繰り返す
•  最終的に最も効率性の高い安定マッチングを見つけ出す
•  残念ながらSIC方式は対戦略性を満たさない
•  Abdulkadiroğlu, Pathak, and Roth [2009]
•  ボストン市に関してはほとんどマッチング結果に変化が見られない
•  ニューヨーク市については無視できない効率性の改善が見られる
•  くじ+DA方式をパレート支配し,かつ耐戦略性を満たすようなマッチン
グ方式が存在しないことを証明
•  耐戦略性を諦めない限り,DA方式の非効率性を改善することは不可能
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 39
ACYが注目した選好の“強さ” – 例3	
Abdulkadiroğlu, Che and Yasuda [2008]
•  「A — B — C」という共通の選好順位を学校に対して持つ
•  どれだけ各学校に行きたいか好みの強さが異なる 	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 40
学校A	
 学校B	
 学校C	
生徒1	
 4	
 1	
 0	
生徒2	
 4	
 1	
 0	
生徒3	
 3	
 2	
 0
DA方式の結果 – M4	
•  全員が同じランキングを提出 – 割り当てはランダムに
•  M4のもとでの生徒の期待効用
•  生徒1,2: 4×1/3 + 1×1/3 = 5/3
•  生徒3: 3×1/3 + 2×1/3 = 5/3
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 41
学校A	
 学校B	
 学校C	
生徒1	
 1/3	
 1/3	
 1/3	
生徒2	
 1/3	
 1/3	
 1/3	
生徒3	
 1/3	
 1/3	
 1/3
(確率的な)マッチング – M5	
•  M5のもとでの生徒の期待効用
•  生徒1,2: 4×1/2 + 0×1/2 = 2
•  生徒3: 2×1 = 2
•  M5はM4よりも(すべての生徒にとって)望ましい
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 42
学校A	
 学校B	
 学校C	
生徒1	
 1/2	
 0	
 1/2	
生徒2	
 1/2	
 0	
 1/2	
生徒3	
 0	
 1	
 0
定義5 – 事前の効率性	
•  任意の確率的なマッチングAとBを考える.
•  すべての生徒にとって,
•  Aのもとでの期待効用がBにおける期待効用の値以上で,
•  少なくとも1人の生徒の期待効用が厳密に大きい場合には,
 AがBを事前の意味でパレート支配すると言う.
•  ある確率的なマッチングが事前の意味でパレート効率的であ
るとは,それを事前の意味でパレート支配する確率的なマッチ
ングが一切存在しないことを言う.
•  注意点
•  事前のパレート効率性 => 事後のパレート効率性
•  逆は必ずしも成り立たない
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 43
学校選択問題の新展開(2)	
•  ボストン方式の再評価
•  シグナル付きDA方式
•  その他の論点	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 44
DA方式 vs. ボストン方式	
•  実はM5はボストン方式のナッシュ均衡
•  生徒1と2は正直申告が支配戦略(最適戦略)
•  生徒3はウソをついて学校Bを第1希望にするのが最適反応
•  唯一のナッシュ均衡(の結果)としてM5が実現
•  DA方式 – 耐戦略性を満たす
•  各生徒は自分の選好順位“だけ”に基づいてランキングを提出
•  (選好順位を超えた)選好の強さを一切くみ取ることができない
•  ボストン方式 – 耐戦略性を満たさない
•  各生徒は自分の選好の強さに応じて申告順位を変更できる可能性が
•  例3でも選好の強さの違いが戦略決定にうまく反映
•  生徒1,2: リスクをとって学校Aを第1希望に指定
•  生徒3: 確実に席を確保することができる学校Bを第1希望に
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 45
ACY [2011]の不完備情報モデル	
•  どの学校においてもすべての生徒が同順位
•  事前の優先順位が全くない(同順位の多さを単純化)
•  各生徒の選好の強さ(vNM効用)は共通の事前分布に従う
•  他の生徒の選好は不確実にした分からない
•  ただしすべての生徒で選好順位は共通
•  学校間での人気/不人気を反映
•  ランキングを提出した後に同順位がランダムに解消される
•  事後的な優先順位について生徒は知らない
•  現実の学校区選択制のプロセスを定式化	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 46
定理5 – ボストン方式 vs. DA方式 	
•  ACYモデルにおいて,
•  ボストン方式のベイジアン・ナッシュ均衡がもたらすマッチングは,
•  DA方式のもとで実現するマッチング(ランダムな割り当て)を
 事前の意味でパレート支配する.
•  注意点
•  耐戦略性と事前の効率性のトレードオフ
•  効率性の改善は,DA方式などの耐戦略的なマッチング方式では不可能	
•  定理4(同順位が存在しない場合にDA方式がボストン方式を事後的に
パレート支配する)と対照的
•  同順位に関する仮定が学校選択制の効率性評価に大きな影響を与える
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 47
ボストン方式の再評価	
•  事前の効率性の視点からボストン方式とDA方式を比較
•  Miralles [2008] – ACY [2008]の分析手法を踏襲
•  Featherstone and Niederle [2011] – 正直申告均衡に注目
•  ボストン方式がDA方式をパレート支配する状況をそれぞれ発見
•  さらに事前(「無知のヴェール」)の視点から比較
•  Akyol [2013] – 学校に対する好みの分布が完全に対称的
•  Troyan [2012] – 実際の選好順位が同一,優先順位を導入
•  ボストン方式がDA方式をより一般的な状況でパレート支配する
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 48
“ナイーブな”生徒	
•  Abdulkadiroğlu et al. [2006] – 実際の学校選択では熟慮せ
ず正直な選好を報告している“ナイーブな”生徒が多い
•  Pathak and Sönmez [2008] – ナイーブな生徒の満足度が戦
略的に報告をする生徒のせいで下がることを証明
•  これもボストン方式の(追加的な)欠点だと主張
•  厳密な優先順位と完備情報を前提にしている点に注意
•  ACY [2011] – 同順位が存在する場合には,生徒の一部が戦
略的な虚偽申告をすることによって,むしろナイーブな生徒の
確率的な割り当てが改善されるような例を発見	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 49
シグナル付きDA方式	
•  ACY [2008]は第3のマッチング方式を提案
•  シグナル付きDA(Choice-Augmented Deferred Acceptance)方式
•  耐戦略性をできるだけ崩さずに事前の効率性を改善
•  DA方式とボストン方式,双方の利点をくみ取る仕組み
•  選好順位の提出の他に,(1つだけ)選んだ学校に対して自分
の優先順位を上げることのできる指定校オプションを追加
•  この修正された優先順位をもとにDA方式を実行
•  同順位が全く存在しない場合にはDA方式に正確に一致
•  同順位が増えるに従って,オプションの戦略的な決定が(ボストン方式と
似たロジックで)効率性を高める
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 50
シグナル付きDA方式の性質	
•  指定校オプションの提出 – 戦略的
•  第1希望の学校にシグナルを送るのが最適とは限らない
•  選好順位の提出 – 耐戦略的
•  正直に申告するのが常に得
•  これはDA方式を使っているから
•  この指定校オプションの導入が事前の効率性を大きく改善
•  理論 – 事前の効率性が達成される環境(範囲)が大きい
•  シミュレーション – DA方式よりも平均利得が十分に大きい
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 51
ACYが切り開いた論点	
•  同順位の存在を明示的に分析
•  学校選択問題の顕著な特徴
•  既存のマッチング研究では不十分
•  事後の厚生評価に加えて事前の厚生評価も
•  生徒が受け取るのは確率的な割り当て
•  政策提言にも大きな影響
•  旧理論はDA方式の利点を解明
•  ニューヨーク市とボストン市の採用に繋がる
•  新理論ではDA方式の問題点が浮き彫りに
•  現実の状況を虚心坦懐に分析すべし!
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 52
その他の論点	
•  大きな市場 – Large market
•  生徒の人数が増えると理論的な特徴がより鮮明に
•  アファーマティブ・アクション – Controlled school choice
•  追加的な制約がもたらす影響を分析
•  申告リストの上限制約 – Constrained school choice
•  リストが短くなるとDA方式も耐戦略的はなくなる…
•  経済実験 – Experimental studies
•  頑健な結果 – 耐戦略的な方式でも正直申告の割合は低い
•  曖昧な結果 – マッチング方式間の優劣はケース・バイ・ケース
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 53
『学校選択制のデザイン』(NTT出版)	
既存の研究書と比較した本書の最大の特徴は、
従来の研究から一線を画したその斬新なアプ
ローチにある。単なる現状分析や、選択制を導
入あるいは廃止すべきか、という是非論にとど
まらず、制度をデザインするという視点から、望
ましい学校選択制の制度設計について、ゲーム
理論の応用研究で得られた最先端の学術的な
知見に基づいて分析を行っている。また、これら
の考察をふまえた上で、より望ましい学校選択
制のあり方について、我々独自の視点から具体
的な政策提言を試みている点も大きな特徴であ
る。(まえがきより)	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 54
参考文献	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 55
【英語文献】
•  Abdulkadiroğlu, A., Che, Y-K., and Yasuda, Y. [2008] “Expanding
‘Choice’ in School Choice,” mimeo.
•  Abdulkadiroğlu, A., Che, Y-K., and Yasuda, Y. [2011] “Resolving
Conflicting Preferences in School Choice: the “Boston” Mechanism
Reconsidered,” American Economic Review, 101, 399-410.
•  Abdulkadiroğlu, A., Pathak, P. A., and Roth, A. E. [2005] “The NYC
High School Match,” American Economic Review P&P, 95. 364–367.
•  Abdulkadiroğlu, A., Pathak, P. A., and Roth, A. E. [2009] “Strategy-
Proofness versus Efficiency in Matching with Indifferences:
Redesigning the NYC High School Match,” American Economic
Review, 99. 1954–78.
•  Abdulkadiroğlu, A., Pathak, P. A., Roth, A. E., and Sönmez, T. [2005]
“The Boston Public School Match,” American Economic Review P&P,
95, 368–371.
•  Abdulkadiroğlu, A., Pathak, P. A., Roth, A. E., and Sönmez, T. [2006]
“Changing the Boston School Choice Mechanism: Strategy-proofness
as Equal Access,” mimeo.
•  Abdulkadiroğlu, A. and Sönmez, T. [2003] “School Choice: A
Mechanism Design Approach,” American Economic Review, 93,
729-747.
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 56
•  Abdulkadiroğlu, A. and Sönmez, T. [2013] “Matching Markets: Theory
and Practice,” in Acemoglu, D., Arello, M., and Dekel, E. (eds.),
Advances in Economics and Econometrics, Vol.1, Cambridge.
•  Akyol, E. [2013] “Welfare Comparison of School Choice Mechanism
under Incomplete Information,” mimeo.
•  Alcalde, J. and Romero-Medina, A. [2011] “Fair School Placement,”
mimeo.
•  Dubins, L. E. and Freedman, D. A. [1981] “Machavelli and the Gale-
Shapley Algorithm,” American Mathematical Monthly, 88, 485-494.
•  Erdil, A. and Ergin, H. [2008] “What’s the Matter with Tie-breaking?
Improving Efficiency in School Choice,” American Economic Review,
98, 669-689.
•  Ergin, H. and Sönmez, T. [2006] “Games of School Choice under the
Boston Mechanism,” Journal of Public Economics, 90, 215-237.
•  Featherstone, C. and Niederle, M. [2011] “School Choice
Mechanisms under Incomplete Information: An Experimental
Investigation,” mimeo.
•  Gale, D. and Shapley, L. S. [1962] “College Admissions and the
Stability of Marriage,” American Mathematical Monthly, 69, 9-15.
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 57
•  Kawagoe, T., Narita, Y., Tomoeda, K., and Yasuda, Y. [2013] “An
Experimental Study of the ‘Tokyo’ Mechanism,” mimeo.
•  Kesten, O. [2010] “School Choice with Consent,” Quarterly Journal of
Economics. 125, 1287-1348.
•  Kojima, F. and Manea, M. [2010] “Axioms for Deferred Acceptance,”
Econometrica, 78, 633-653.
•  Miralles, A. [2008] “School Choice: The Case for the Boston
Mechanism,” mimeo.
•  Pathak, P. A [2011] “The Mechanism Design Approach to Student
Assignment,” Annual Reviews of Economics, 3, 513-536.
•  Pathak, P. A. and Sönmez, T. [2008] “Leveling the Playing Field:
Sincere and Sophisticated Players in the Boston Mechanism,”
American Economic Review, 98, 1636-1652.
•  Roth, A. E. [1982] “The Economics of Matching: Stability and
Incentives,” Mathematics of Operations Research, 7, 617-628.
•  Roth, A. E. and Sotomayor, M. [1990] Two-Sided Matching: A Study in
Game-Theoretic Modeling and Analysis, Econometric Society
Monograph Series, Cambridge University Press, 1990.
•  Sönmez, T. and Ünver, U. [2011], “Matching, Allocation, and
Exchange of Discrete Resources,” in Benhabib, J., Bisin, A., and
Jackson, M. (eds.), Handbook of Social Economics, Vol.1A, Elsevier.
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 58
•  Troyan, P. [2012] “Comparing School Choice Mechanisms by
Interim and Ex-Ante Welfare,” Games and Economic Behavior,
75, 936-947.
•  Vulkan, N., Roth, A. E. and Neeman, Z. [2013] The Handbook
of Market Design, Oxford University Press.
【日本語文献】
•  小島武仁・安田洋祐 [2009] 「マッチング・マーケットデザイン」『経済
セミナー』第647号(4・5月号), 135-145.
•  坂井豊貴 [2010] 『マーケットデザイン入門 オークションとマッチン
グの経済学』ミネルヴァ書房
•  坂井豊貴 [2013] 『マーケットデザイン 最先端の実用的な経済学』
ちくま新書
•  安田洋祐 [2013] 「マーケットデザインの理論とビジネスへの実践」
『一橋ビジネスレビュー』第61巻5号, 6-21.
•  安田洋祐編著 [2010] 『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプ
ローチ』NTT出版.	
2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 59

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学校選択問題のマッチング理論分析

  • 2. 講演の流れ •  はじめに •  学校選択制とは •  マーケットデザイン •  基本モデル •  マッチング理論による定式化 •  効率性と安定性 •  代表的な2つの制度 •  DA方式 •  ボストン方式 •  インセンティブの問題 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 2
  • 3. 講演の流れ(つづき) •  学校選択問題の新展開(1) - 理論編 •  くじ + DA方式 •  事後の非効率性 •  SIC方式 •  事前の非効率性 •  学校選択問題の新展開(2) - 実践編 •  ボストン方式の再評価 •  シグナル付きDA方式 •  “ナイーブな”生徒 •  その他の論点 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 3
  • 4. 公立学校選択制 - 制度的な背景 •  伝統的に各生徒は「どこに住んでい るか」に応じて公立の小中学校に自 動的に入学していた •  「通学指定校」(いわゆる地元校) •  1980年代に米国で選択制が開始 •  生徒・保護者の希望に従って、より広い範 囲から学校を選択できるように •  諸外国にも同様の制度が浸透 •  日本(の自治体)は1998年に初めて制度を導入 •  各自治体が選択制の採否に対する決定権限を持つ •  2割くらいの自治体が学校選択制を採用している 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 4
  • 5. なぜ経済学・ゲーム理論の問題なの? - 学校と生徒をどうやって「マッチング」させるか •  学校のイス(定員)は限られている •  希望する生徒を全員第一希望の学校 に入れることは不可能 •  どの学校を希望する/しないかを戦 略的に考える必要がある •  制度設計が重要! なぜなら… •  生徒・保護者のインセンティブやマッ チング結果が変わってくるから •  学校選択制のアイデア自体は支持が広がっている •  具体的にどのマッチング方式が良いかは依然議論が •  マッチング理論が現在積極的に取り組んでいる問題! 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 5
  • 6. 学校選択制のデザイン - ニューヨーク市とボストン市での制度変更 •  ニューヨーク市 •  2003年,公立高校が対象 •  マッチング理論が提唱する「DA方式」(後述)に変更 •  ボストン市 •  2005年,公立小中学校が対象 •  通称「ボストン方式」から「DA方式」に変更 •  ハーバード大学のロス教授ら経済学者たちの活躍 •  ニューヨーク – Abdulkadiroğlu, Pathak and Roth [2005; 2009] •  ボストン – Abdulkadiroğlu, Pathak, Roth and Sönmez [2005; 2006] •  採用されたDA方式はGale-Shapley [1962]が提唱 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 6
  • 8. マーケットデザインの実践例 - すでにたくさんの成功事例が! •  オークション設計 •  周波数オークション •  国債の販売方法 •  アドワーズ (Google) •  マッチング・メカニズム •  研修医マッチング •  臓器交換メカニズム •  公立学校選択制 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 8
  • 9. マーケットデザインの実践例 - すでにたくさんの成功事例が! •  「お金」を使う •  周波数オークション •  国債の販売方法 •  アドワーズ (Google) •  「お金」を使わない •  研修医マッチング •  臓器交換メカニズム •  公立学校選択制 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 9
  • 10. 文献案内 •  マッチング理論のバイブル •  Roth and Sotomayor [1990] •  マッチング理論の近年の発展+現実の制度設計への応用 •  Abdulkadiroğlu and Sönmez [2013],Sönmez and Ünver [2011],論文集 (Handbook)にVulkan, Roth and Neeman [2013] •  日本語による解説 •  小島・安田 [2009],安田 [2013],書籍に坂井 [2010; 2013] •  学校選択制に焦点をあてた展望論文 •  Abdulkadiroğlu [2013]やPathak [2011],書籍に安田編著 [2010] •  日本の学校選択制について •  Kawagoe et al. [2013],書籍に安田編著 [2010] 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 10
  • 12. マッチング理論と学校選択制 •  Gale-Shapley [1962]がマッチング理論を切り開いた •  2つのグループのメンバー同士をどうやってうまくマッチされるか? •  望ましい仕組みとしてDA方式(受入保留方式)を提案 •  DA = Deferred Acceptance •  選好情報を下に中央集権的なマッチングを決定 •  Abdulkadiroğlu and Sönmez [2003]の学校選択モデル •  伝統的なマッチングモデルと微妙に分析が異なる •  望ましいDA方式が現実の学校選択制に採用される •  学校選択問題の新展開 •  DA方式の問題点が明らかになりつつある •  既存の研究成果や政策提言を再検討する必要性も… 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 12
  • 13. 基本モデルの5つの要素 1.  有限の生徒の集合 2.  有限の学校の集合 3.  個々の学校の定員 4.  個々の生徒の学校に対する(厳密な)選好 •  【例】 生徒1: 学校A — 学校B — 学校C 5.  個々の学校の生徒に対する(厳密な)優先順位 •  【例】 学校A: 生徒1 — 生徒2 — 生徒3   定員 2 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 13
  • 14. マッチングとは •  「どの生徒がどの学校に行くか」を指定した関数 •  マッチングの具体例 •  学校A - 生徒1,生徒2 •  学校B - 生徒3 •  学校C •  マッチング問題の分類 •  一対一: 結婚市場,ダンス・ペア •  多対一: 学校選択,労働市場 •  多対多: 小売と卸売,著者と編集者 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 14
  • 15. 具体的な学校選択問題 – 例1 •  生徒1: 学校B — 学校A — 学校C •  生徒2: 学校A — 学校B — 学校C •  生徒3: 学校A — 学校B — 学校C •  学校A: 生徒1 — 生徒3 — 生徒2   定員 1 •  学校B: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3   定員 1 •  学校C: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3   定員 1 •  注意点 •  定員はすべて1,一対一マッチング •  全部で 3×2 = 6通りのマッチングがある 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 15
  • 17. 定義1 – マッチングの効率性 •  任意の2つのマッチングAとBを考える. •  マッチングAにおいて, •  どの生徒もマッチングBで割り当てられている学校よりも低い選好順位 の学校に割り当てられることなく, •  少なくとも1人の生徒がマッチングBで割り当てられている学校よりも厳 密に高い選好順位の学校に割り当てられるとき,  マッチングAはマッチングBをパレート支配すると言う. •  あるマッチングがパレート効率的であるとは,それをパレート 支配するマッチングが一切存在しないことを言う. •  注意点 •  経済学で出てくるパレート効率/最適と全く同じ 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 17
  • 18. 例1における効率性のチェック •  M2はM1をパレート支配する •  (定義から)M2はパレート効率的ではない •  M1はパレート効率的 •  生徒1と2は第1希望の学校とマッチ •  他のマッチングでは彼らの選好順位が下がる=パレート改善されない •  どんなマッチング問題にも効率的なマッチングが必ず存在 •  すべてのマッチングがパレート支配されることはないから •  効率的なマッチングは複数存在するかもしれない •  M2は望ましいマッチングと言えるだろうか? 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 18
  • 19. 効率的だけど実は不公平 学校A (3位) - 生徒2 (1位) 学校B (2位) - 生徒1 (1位) 学校C (3位) - 生徒3 (3位) 【M2における順位】 •  生徒3の抱える理不尽な思い •  自分よりも学校Aにおける優先順位が低い生徒2が学校Aに行けるのに, 自分が学校Aよりも選好順位の低い学校Cに行かされるのはおかしい •  学校Aにとって生徒3は第2希望,3にとってAは第1希望 •  お互いにパートナーを組み直すとどちらも状況が改善 •  このような不公平の生じないマッチングはあるのか? 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 19
  • 20. 定義2 – マッチングの安定性 •  任意のマッチングにおいて, •  生徒iが現在割り当てられている学校とは別の学校sをより好み, •  さらにsの定員に空きがある,あるいはsに割り当てられている生徒の誰 かよりもiの優先順位の方が高い場合に,  生徒iと学校sの組は元のマッチングをブロックする,と言う. •  あるマッチングが安定(stable)であるとは,それをブロックす る組が一切存在しないことを言う. •  注意点 •  (自動的に満たされる)個人合理性については省略 •  「正当化される羨望(justified envy)がない状態」とも表現される 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 20
  • 21. 定理1 – 安定マッチングの存在 •  学校選択問題には,必ず安定マッチングが存在する. •  複数存在しうる安定マッチングのうちのひとつは,DA方式とい うアルゴリズムによって見つけることができる. •  注意点 •  より正確には「生徒提案の(student proposing)」DA方式 •  考案者たちの名前を取って「Gale-Shapleyアルゴリズム」とも •  DA方式は,マッチング理論におけるもっとも重要なアルゴリズム •  学校選択問題だけでなく,研修医マッチング制度などにも応用 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 21
  • 22. 代表的な2つの制度 •  DA方式 •  ボストン方式 •  インセンティブの問題 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 22
  • 23. DA方式の手順 •  ステップ1  •  各生徒は,自分の第1希望の学校に応募. •  各学校は,応募してきた生徒の中から学校の優先順位の高い順に収容定 員の範囲内で応募者たちに“暫定的に”席を割り当て,残りの応募者を拒否. •  ステップt  •  ステップt – 1で拒否された各生徒は,まだ自分を拒否していない学校の中 から自分の第1希望の学校に応募. •  各学校は,すでに暫定的に席を与えている生徒たちと新たな応募者の両方 を合わせて考慮に入れて,学校の優先順位の高い順に収容定員の範囲内 で応募者たちに暫定的に席を割り当て,残りの応募者を拒否. •  終了ルール  •  新たに学校から拒否される生徒がいなくなった時点でアルゴリズムが終了. •  各学校は,その時点で席を割り当てている生徒たちの入学を正式に許可. 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 23
  • 24. 定理1の証明 •  ブロックできる生徒がいないことを示そう! 1.  生徒1がDA方式でマッチした学校よりも学校Aを好むと仮定. 2.  生徒1はどこかのステップで学校Aから拒否されていなけれ ばならない. 3.  そのステップで学校Aの定員は生徒1よりも望ましい生徒で すでに埋まっている. 4.  アルゴリズムの性質から,各学校に暫定的にやってくる生 徒はステップを重ねるごとに改善していく一方. 5.  最終的に実現したマッチングでも,学校Aは生徒1よりも望ま しい生徒を定員いっぱいまで受け入れている. 6.  生徒1(と学校A)がブロックすることはできない! 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 24
  • 25. 定理2 – DA方式の制約付き効率性  •  DA方式が見つけ出すマッチングは,安定マッチングを(常に) 導く他のどのようなマッチング方式によって生み出されるマッ チング結果もパレート支配する. •  注意点 •  DA方式は,安定マッチングの中で生徒たち全員にとって最も望ましい マッチング(「生徒最適な安定マッチング」と呼ぶ)を実現 •  安定性を重視する限り,DA方式は最も効率的なマッチング方式 •  安定では“ない”マッチング結果によってパレート支配される危険性も •  例1でDA方式を行うとM1が実現 •  M1は安定ではないM2によってパレート支配される •  効率性と安定性の避けられないトレードオフ 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 25
  • 26. DA方式と効率性 •  Ergin [2002] – DA方式が(すべてのマッチングの中で)パ レート効率的になるための条件を導出 •  Kesten [2010] – 安定性と効率性のトレードオフを分析 •  Kesten [2010],Alcalde and Romero-Medina [2011] – DA 方式をパレート支配する具体的なマッチング方式を提案 •  Kojima and Manea [2010] – 安定性が絶対視されないような 場合にDA方式の公理的な特徴づけを行い,どのような意味 でDA方式が効率性を犠牲にするのかを理論的に分析 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 26
  • 27. ボストン方式 •  “暫定的”にはならないDA方式 •  各ステップでの割り当てが暫定的ではなく,そのステップごとに確定 •  それ以外はDA方式と完全に同じ •  制度変更前にボストン市が行っていた学校選択制の仕組み •  通称「ボストン方式」と呼ばれるように •  他にも多くの自治体で(今日においても)採用されている •  直感的で分かりやすい •  理論的に様々な欠点が… 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 27
  • 28. 【再掲】具体的な学校選択問題 – 例1 •  生徒1: 学校B — 学校A — 学校C •  生徒2: 学校A — 学校B — 学校C •  生徒3: 学校A — 学校B — 学校C •  学校A: 生徒1 — 生徒3 — 生徒2   定員 1 •  学校B: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3   定員 1 •  学校C: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3   定員 1 •  ボストン方式を用いると… •  学校A - 生徒3 •  学校B - 生徒1 •  学校C - 生徒2 【マッチング M3】 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 28
  • 29. インセンティブの問題 •  M3は各生徒の真の選好順位をもとに導出 •  正直に申告しようとしない生徒がいる場合は? •  第3希望の学校Cに割り当てられてしまう生徒2が,ステップ1 で第2希望のBに応募したとすると? •  生徒1と3の行動は以前と変わらないとする •  生徒2は学校Bに行くことができる! •  学校Bでの生徒2の優先順位が生徒1より高いから •  戦略的にランキングを操作して自分の状況が改善! •  生徒や保護者は戦略的な熟慮に頭を悩ませることに •  事後的に間違った戦略を選ぶリスクも 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 29
  • 30. 定義3 – 耐戦略性  •  あるマッチング方式が耐戦略性を満たすとは, •  すべての生徒にとって, •  他の生徒たちがどのようなランキングを申告していた場合でも, •  自分の選好順位を偽って申告しても絶対に得できない  ことを言う. •  注意点 •  Strategy-proofnessの訳で,「戦略的操作不可能性」とも呼ばれる •  対戦略的なマッチング方式では,嘘をつくメリットが全くない •  ボストン方式は対戦略性を満たさない •  一方のDA方式は…? 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 30
  • 31. 定理3 – DA方式の耐戦略性 •  DA方式は耐戦略性を満たす. •  注意点 •  Dubins and Friedman [1981]およびRoth [1982]が証明 •  DA方式のもとでは,各生徒は真の選好順位を申告するとみなせる •  耐戦略性が満たされない場合には,真実表明は期待できない •  インセンティブの問題を考慮に入れた理論予測とは? 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 31
  • 32. 定義4 – 学校選択問題のナッシュ均衡 •  すべての生徒にとって, •  他の生徒の申告順位はそのままで, •  自分ひとりだけが申告順位を変えても得することができないとき,  生徒たちの申告順位の組をナッシュ均衡と呼ぶ. •  注意点 •  ナッシュ均衡では“ない”状況では,生徒のうちの少なくとも一人は,自 分の申告順位を変えるインセンティブを持っている •  そのため,理論予測としては相応しくない •  ナッシュ均衡は,学校選択問題を超えて,戦略的状況における結果の 予測や説明に幅広く使われている •  情報構造や環境が変化するとナッシュ均衡も変化しうる 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 32
  • 33. 定理4 – DA方式 vs. ボストン方式 •  DA方式の結果は,ボストン方式のナッシュ均衡におけるマッ チング結果を(弱い意味で)パレート支配する. •  注意点 •  Ergin and Sönmez [2006]によって示された定理 •  すべての生徒がお互いの選好順位や学校の(厳密な)優先順位という 情報を把握している,という完備情報の仮定にもとづいている •  ナッシュ均衡の集合が,安定マッチングの集合と一致することを証明 •  すべての安定マッチングがボストン方式では実現しうる •  一方で,DA方式では生徒最適な安定マッチングが常に実現 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 33
  • 34. まとめ – DA方式の性質 1.  DA方式は安定マッチングを常に見つけ出す 2.  DA方式は他の安定マッチング方式をパレート支配する 3.  DA方式は耐戦略性を満たす 4.  DA方式はボストン方式を(弱い意味で)パレート支配する •  効率性とインセンティブの両面で文句のつけようが無い •  より現実の学校選択制に近い状況を分析すると… •  これらの性質の多くが成り立たない, •  あるいは修正を迫られることに! 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 34
  • 35. 学校選択問題の新展開(1) •  くじ + DA方式 •  事後の非効率性 •  事前の非効率性 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 35
  • 36. ボストン市の優先順位ルール •  各学校の生徒に対する優先順位 1.  その学校の学区内(徒歩通学圏)に住んでおり,かつ兄弟や姉妹が 同じ学校に通っているグループ 2.  兄弟や姉妹が同じ学校に通っているグループ 3.  学校の学区内に住んでいるグループ 4.  上記のいずれにも該当しないグループ •  くじ+DA方式 •  最初にくじを用いて同順位に属する生徒たちを順位付け •  優先順位を人工的に厳密なものに変えてDA方式を実行 •  共通同順位解消(single tie-breaking) •  複数同順位解消(multiple tie-breaking) •  くじ引き前後どちらの優先順位に対しても安定なマッチングに! 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 36
  • 37. Erdil and Ergin [2008] – 例2 •  生徒1: 学校B — 学校A — 学校C •  生徒2: 学校C — 学校B — 学校A •  生徒3: 学校B — 学校C — 学校A •  学校A: 生徒1 —(生徒2と3が同順位)    定員 1 •  学校B: 生徒2 —(生徒1と3が同順位)    定員 1 •  学校C: 生徒3 —(生徒1と2が同順位)    定員 1 •  同順位の解消(「生徒1 — 生徒2 — 生徒3」の場合) •  学校A: 生徒1 — 生徒2 — 生徒3    定員 1 •  学校B: 生徒2 — 生徒1 — 生徒3    定員 1 •  学校C: 生徒3 — 生徒1 — 生徒2    定員 1 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 37
  • 39. 安定改善サイクル(SIC)方式 •  安定改善サイクル(stable improvement cycles)方式 •  Erdil and Ergin [2008]が提案 •  くじ+DA方式で安定マッチングを見つけたあと,安定性を損なわずに生 徒間で学校を交換して効率性を改善できるなら交換を繰り返す •  最終的に最も効率性の高い安定マッチングを見つけ出す •  残念ながらSIC方式は対戦略性を満たさない •  Abdulkadiroğlu, Pathak, and Roth [2009] •  ボストン市に関してはほとんどマッチング結果に変化が見られない •  ニューヨーク市については無視できない効率性の改善が見られる •  くじ+DA方式をパレート支配し,かつ耐戦略性を満たすようなマッチン グ方式が存在しないことを証明 •  耐戦略性を諦めない限り,DA方式の非効率性を改善することは不可能 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 39
  • 40. ACYが注目した選好の“強さ” – 例3 Abdulkadiroğlu, Che and Yasuda [2008] •  「A — B — C」という共通の選好順位を学校に対して持つ •  どれだけ各学校に行きたいか好みの強さが異なる 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 40 学校A 学校B 学校C 生徒1 4 1 0 生徒2 4 1 0 生徒3 3 2 0
  • 41. DA方式の結果 – M4 •  全員が同じランキングを提出 – 割り当てはランダムに •  M4のもとでの生徒の期待効用 •  生徒1,2: 4×1/3 + 1×1/3 = 5/3 •  生徒3: 3×1/3 + 2×1/3 = 5/3 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 41 学校A 学校B 学校C 生徒1 1/3 1/3 1/3 生徒2 1/3 1/3 1/3 生徒3 1/3 1/3 1/3
  • 42. (確率的な)マッチング – M5 •  M5のもとでの生徒の期待効用 •  生徒1,2: 4×1/2 + 0×1/2 = 2 •  生徒3: 2×1 = 2 •  M5はM4よりも(すべての生徒にとって)望ましい 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 42 学校A 学校B 学校C 生徒1 1/2 0 1/2 生徒2 1/2 0 1/2 生徒3 0 1 0
  • 43. 定義5 – 事前の効率性 •  任意の確率的なマッチングAとBを考える. •  すべての生徒にとって, •  Aのもとでの期待効用がBにおける期待効用の値以上で, •  少なくとも1人の生徒の期待効用が厳密に大きい場合には,  AがBを事前の意味でパレート支配すると言う. •  ある確率的なマッチングが事前の意味でパレート効率的であ るとは,それを事前の意味でパレート支配する確率的なマッチ ングが一切存在しないことを言う. •  注意点 •  事前のパレート効率性 => 事後のパレート効率性 •  逆は必ずしも成り立たない 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 43
  • 44. 学校選択問題の新展開(2) •  ボストン方式の再評価 •  シグナル付きDA方式 •  その他の論点 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 44
  • 45. DA方式 vs. ボストン方式 •  実はM5はボストン方式のナッシュ均衡 •  生徒1と2は正直申告が支配戦略(最適戦略) •  生徒3はウソをついて学校Bを第1希望にするのが最適反応 •  唯一のナッシュ均衡(の結果)としてM5が実現 •  DA方式 – 耐戦略性を満たす •  各生徒は自分の選好順位“だけ”に基づいてランキングを提出 •  (選好順位を超えた)選好の強さを一切くみ取ることができない •  ボストン方式 – 耐戦略性を満たさない •  各生徒は自分の選好の強さに応じて申告順位を変更できる可能性が •  例3でも選好の強さの違いが戦略決定にうまく反映 •  生徒1,2: リスクをとって学校Aを第1希望に指定 •  生徒3: 確実に席を確保することができる学校Bを第1希望に 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 45
  • 46. ACY [2011]の不完備情報モデル •  どの学校においてもすべての生徒が同順位 •  事前の優先順位が全くない(同順位の多さを単純化) •  各生徒の選好の強さ(vNM効用)は共通の事前分布に従う •  他の生徒の選好は不確実にした分からない •  ただしすべての生徒で選好順位は共通 •  学校間での人気/不人気を反映 •  ランキングを提出した後に同順位がランダムに解消される •  事後的な優先順位について生徒は知らない •  現実の学校区選択制のプロセスを定式化 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 46
  • 47. 定理5 – ボストン方式 vs. DA方式  •  ACYモデルにおいて, •  ボストン方式のベイジアン・ナッシュ均衡がもたらすマッチングは, •  DA方式のもとで実現するマッチング(ランダムな割り当て)を  事前の意味でパレート支配する. •  注意点 •  耐戦略性と事前の効率性のトレードオフ •  効率性の改善は,DA方式などの耐戦略的なマッチング方式では不可能 •  定理4(同順位が存在しない場合にDA方式がボストン方式を事後的に パレート支配する)と対照的 •  同順位に関する仮定が学校選択制の効率性評価に大きな影響を与える 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 47
  • 48. ボストン方式の再評価 •  事前の効率性の視点からボストン方式とDA方式を比較 •  Miralles [2008] – ACY [2008]の分析手法を踏襲 •  Featherstone and Niederle [2011] – 正直申告均衡に注目 •  ボストン方式がDA方式をパレート支配する状況をそれぞれ発見 •  さらに事前(「無知のヴェール」)の視点から比較 •  Akyol [2013] – 学校に対する好みの分布が完全に対称的 •  Troyan [2012] – 実際の選好順位が同一,優先順位を導入 •  ボストン方式がDA方式をより一般的な状況でパレート支配する 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 48
  • 49. “ナイーブな”生徒 •  Abdulkadiroğlu et al. [2006] – 実際の学校選択では熟慮せ ず正直な選好を報告している“ナイーブな”生徒が多い •  Pathak and Sönmez [2008] – ナイーブな生徒の満足度が戦 略的に報告をする生徒のせいで下がることを証明 •  これもボストン方式の(追加的な)欠点だと主張 •  厳密な優先順位と完備情報を前提にしている点に注意 •  ACY [2011] – 同順位が存在する場合には,生徒の一部が戦 略的な虚偽申告をすることによって,むしろナイーブな生徒の 確率的な割り当てが改善されるような例を発見 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 49
  • 50. シグナル付きDA方式 •  ACY [2008]は第3のマッチング方式を提案 •  シグナル付きDA(Choice-Augmented Deferred Acceptance)方式 •  耐戦略性をできるだけ崩さずに事前の効率性を改善 •  DA方式とボストン方式,双方の利点をくみ取る仕組み •  選好順位の提出の他に,(1つだけ)選んだ学校に対して自分 の優先順位を上げることのできる指定校オプションを追加 •  この修正された優先順位をもとにDA方式を実行 •  同順位が全く存在しない場合にはDA方式に正確に一致 •  同順位が増えるに従って,オプションの戦略的な決定が(ボストン方式と 似たロジックで)効率性を高める 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 50
  • 51. シグナル付きDA方式の性質 •  指定校オプションの提出 – 戦略的 •  第1希望の学校にシグナルを送るのが最適とは限らない •  選好順位の提出 – 耐戦略的 •  正直に申告するのが常に得 •  これはDA方式を使っているから •  この指定校オプションの導入が事前の効率性を大きく改善 •  理論 – 事前の効率性が達成される環境(範囲)が大きい •  シミュレーション – DA方式よりも平均利得が十分に大きい 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 51
  • 52. ACYが切り開いた論点 •  同順位の存在を明示的に分析 •  学校選択問題の顕著な特徴 •  既存のマッチング研究では不十分 •  事後の厚生評価に加えて事前の厚生評価も •  生徒が受け取るのは確率的な割り当て •  政策提言にも大きな影響 •  旧理論はDA方式の利点を解明 •  ニューヨーク市とボストン市の採用に繋がる •  新理論ではDA方式の問題点が浮き彫りに •  現実の状況を虚心坦懐に分析すべし! 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 52
  • 53. その他の論点 •  大きな市場 – Large market •  生徒の人数が増えると理論的な特徴がより鮮明に •  アファーマティブ・アクション – Controlled school choice •  追加的な制約がもたらす影響を分析 •  申告リストの上限制約 – Constrained school choice •  リストが短くなるとDA方式も耐戦略的はなくなる… •  経済実験 – Experimental studies •  頑健な結果 – 耐戦略的な方式でも正直申告の割合は低い •  曖昧な結果 – マッチング方式間の優劣はケース・バイ・ケース 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 53
  • 54. 『学校選択制のデザイン』(NTT出版) 既存の研究書と比較した本書の最大の特徴は、 従来の研究から一線を画したその斬新なアプ ローチにある。単なる現状分析や、選択制を導 入あるいは廃止すべきか、という是非論にとど まらず、制度をデザインするという視点から、望 ましい学校選択制の制度設計について、ゲーム 理論の応用研究で得られた最先端の学術的な 知見に基づいて分析を行っている。また、これら の考察をふまえた上で、より望ましい学校選択 制のあり方について、我々独自の視点から具体 的な政策提言を試みている点も大きな特徴であ る。(まえがきより) 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 54
  • 56. 【英語文献】 •  Abdulkadiroğlu, A., Che, Y-K., and Yasuda, Y. [2008] “Expanding ‘Choice’ in School Choice,” mimeo. •  Abdulkadiroğlu, A., Che, Y-K., and Yasuda, Y. [2011] “Resolving Conflicting Preferences in School Choice: the “Boston” Mechanism Reconsidered,” American Economic Review, 101, 399-410. •  Abdulkadiroğlu, A., Pathak, P. A., and Roth, A. E. [2005] “The NYC High School Match,” American Economic Review P&P, 95. 364–367. •  Abdulkadiroğlu, A., Pathak, P. A., and Roth, A. E. [2009] “Strategy- Proofness versus Efficiency in Matching with Indifferences: Redesigning the NYC High School Match,” American Economic Review, 99. 1954–78. •  Abdulkadiroğlu, A., Pathak, P. A., Roth, A. E., and Sönmez, T. [2005] “The Boston Public School Match,” American Economic Review P&P, 95, 368–371. •  Abdulkadiroğlu, A., Pathak, P. A., Roth, A. E., and Sönmez, T. [2006] “Changing the Boston School Choice Mechanism: Strategy-proofness as Equal Access,” mimeo. •  Abdulkadiroğlu, A. and Sönmez, T. [2003] “School Choice: A Mechanism Design Approach,” American Economic Review, 93, 729-747. 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 56
  • 57. •  Abdulkadiroğlu, A. and Sönmez, T. [2013] “Matching Markets: Theory and Practice,” in Acemoglu, D., Arello, M., and Dekel, E. (eds.), Advances in Economics and Econometrics, Vol.1, Cambridge. •  Akyol, E. [2013] “Welfare Comparison of School Choice Mechanism under Incomplete Information,” mimeo. •  Alcalde, J. and Romero-Medina, A. [2011] “Fair School Placement,” mimeo. •  Dubins, L. E. and Freedman, D. A. [1981] “Machavelli and the Gale- Shapley Algorithm,” American Mathematical Monthly, 88, 485-494. •  Erdil, A. and Ergin, H. [2008] “What’s the Matter with Tie-breaking? Improving Efficiency in School Choice,” American Economic Review, 98, 669-689. •  Ergin, H. and Sönmez, T. [2006] “Games of School Choice under the Boston Mechanism,” Journal of Public Economics, 90, 215-237. •  Featherstone, C. and Niederle, M. [2011] “School Choice Mechanisms under Incomplete Information: An Experimental Investigation,” mimeo. •  Gale, D. and Shapley, L. S. [1962] “College Admissions and the Stability of Marriage,” American Mathematical Monthly, 69, 9-15. 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 57
  • 58. •  Kawagoe, T., Narita, Y., Tomoeda, K., and Yasuda, Y. [2013] “An Experimental Study of the ‘Tokyo’ Mechanism,” mimeo. •  Kesten, O. [2010] “School Choice with Consent,” Quarterly Journal of Economics. 125, 1287-1348. •  Kojima, F. and Manea, M. [2010] “Axioms for Deferred Acceptance,” Econometrica, 78, 633-653. •  Miralles, A. [2008] “School Choice: The Case for the Boston Mechanism,” mimeo. •  Pathak, P. A [2011] “The Mechanism Design Approach to Student Assignment,” Annual Reviews of Economics, 3, 513-536. •  Pathak, P. A. and Sönmez, T. [2008] “Leveling the Playing Field: Sincere and Sophisticated Players in the Boston Mechanism,” American Economic Review, 98, 1636-1652. •  Roth, A. E. [1982] “The Economics of Matching: Stability and Incentives,” Mathematics of Operations Research, 7, 617-628. •  Roth, A. E. and Sotomayor, M. [1990] Two-Sided Matching: A Study in Game-Theoretic Modeling and Analysis, Econometric Society Monograph Series, Cambridge University Press, 1990. •  Sönmez, T. and Ünver, U. [2011], “Matching, Allocation, and Exchange of Discrete Resources,” in Benhabib, J., Bisin, A., and Jackson, M. (eds.), Handbook of Social Economics, Vol.1A, Elsevier. 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 58
  • 59. •  Troyan, P. [2012] “Comparing School Choice Mechanisms by Interim and Ex-Ante Welfare,” Games and Economic Behavior, 75, 936-947. •  Vulkan, N., Roth, A. E. and Neeman, Z. [2013] The Handbook of Market Design, Oxford University Press. 【日本語文献】 •  小島武仁・安田洋祐 [2009] 「マッチング・マーケットデザイン」『経済 セミナー』第647号(4・5月号), 135-145. •  坂井豊貴 [2010] 『マーケットデザイン入門 オークションとマッチン グの経済学』ミネルヴァ書房 •  坂井豊貴 [2013] 『マーケットデザイン 最先端の実用的な経済学』 ちくま新書 •  安田洋祐 [2013] 「マーケットデザインの理論とビジネスへの実践」 『一橋ビジネスレビュー』第61巻5号, 6-21. •  安田洋祐編著 [2010] 『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプ ローチ』NTT出版. 2013/9/15 日本経済学会秋期大会@神奈川大学 59