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樋口 大
問診・診断 パート2
腹痛
問診による症候へのアプローチ
症状問診:OPQRST
•Onset 発症様式
•Provocation/Palliative factors 増悪・寛解因子
•Quality 性状
•Region, Radiation/Related symptom 場所、関連症状
•Severity 程度
•Time course 時間経過
症状に関わらない問診
•既往歴、常用薬、アレルギー歴、家族歴、ADL、生活背景、嗜好(飲酒・喫煙)
•女性への問診:最終月経・期間、月経周期、不正出血の有無、避妊薬の有無、不妊治療歴
Thomas SA.Spinal stenosis;history and physical examination.Phys Med Rehabil Clin N Am 2003;14:29-39.PM 12622480
Fishman MB,Aronson MD,History and physical examination in adults with abdominal pain.UpToDate.This topic last up,2014.
症例:21歳女性 腹痛を主訴に受診
「今朝からおなかが痛いんです。吐き気もあって、吐きました。
19時頃、痛み止めを飲んだんですけど、良くならなくて・・・。 」
今朝からの腹痛、嘔気の患者さんです。
胃腸炎かと思いますので整腸剤で対応をしようと
思うのですが、いいですか。
ある研修医の上記医へのプレゼン
これでは医療情報が不足
OPQRSTを確認 O(今朝から)とR(嘔気)しかなかった。
②症状に関わらない問診
①症状問診
さらなる情報をOPQRSTを意識して引き出す
 発症様式(Onset):起床時から急に
 増悪・寛解(Palliative/Provocation factors):ずっ
と痛い
 性状(Quality):じわーっと痛い
 場所、関連症状(Region、Related symptom):上
腹部痛、嘔気がある
 程度(Severity):痛み止めが効かないくらい痛い
 時間経過(Time course):だんだん痛くなってきて
いる
 アレルギー歴:なし
 既往歴:特になし
 常用薬:なし
 家族歴:特になし
 妊娠:していない
 性交渉:特定の彼氏とあり
 結婚・妊娠歴:なし
 最終月経:4週間前に5日間
OPQRSTを意識した上級医へのプレゼン
今朝7時に発症(=O)した
上腹部痛(=R)を主訴とした21歳女性です。
じわーっとした痛み(=Q)が
増悪傾向(=T)にあり、次第に嘔気嘔吐を伴います(=R) 。
増悪寛解因子はなく(=P)、
鎮痛薬内服下でも痛みの持続(=S)があり、
急性腹症を疑いますので、一緒に診察をしてもらえませんか?
身体所見
•意識清明
•血圧 90/50mmHg、脈拍数 90回/分
•呼吸数 22回/分、SpO2 100%
•体温 37.8度
•胸部:異常なし。
•腹部:平坦・軟。上腹部に加えて、右下腹部にも圧痛あり。筋性防御あり。
「21歳女性」右下腹部痛:パート1より
重症度:高
重症度:低
頻度:高
頻度:低
急性大動脈解離/大動脈瘤破裂
虫垂炎
卵巣茎捻転
卵巣出血
大腸憩室炎
絞扼性イレウス
尿路感染症
重症度:高
重症度:低
頻度:高
頻度:低
ウイルス性腸炎
排卵痛
子宮内膜症
過敏性腸症候群
尿管結石
後腹膜線維症
異所性妊娠破裂
さらに「SQ=Semantic Qualifier」を意識
直訳:「意味のある限定詞」
「症状や所見を抽象度の高い医学用語に置き換えた情報」
例)73歳男性
今朝からの突然の胸の痛みで受診。
SQ:高齢男性・突然発症・胸痛
医者がイメージする疾患 「急性心筋梗塞」
虫垂炎に対する臨床診察法
手技 感度(%) 特異度(%) 陰性尤度比(95%CI) 陽性尤度比(95%CI)
右下腹部痛 84 90 7.3-8.5 0.00-0.28
筋硬直 20 89 3.0-4.8 0.73-0.85
痛みの移動 64 82 2.4-4.2 0.42-0.59
嘔吐よりも腹痛が先行 100 64 1.9-3.9 適用できず
腸腰筋徴候 16 95 1.2-4.7 0.83-0.98
発熱 67 79 1.6-2.3 0.51-0.67
反跳痛 63 69 1.1-6.3 0.00-0.86
筋性防御 73 52 1.7-1.8 0.00-0.54
以前に同じ痛みがない 86 40 1.5-1.7 0.25-0.42
直腸診での圧痛 41 77 0.8-5.3 0.36-1.10
食欲不振 68 36 1.2-1.4 0.54-0.75
嘔気 58 37 0.7-1.2 0.70-0.84
嘔吐 51 45 0.8-1.0 0.95-1.30
Loening-Baucke V,Swidsinski A.Constipation as cause of acute abdominal pain in children.J Pediatr 2007;151:666ー9
Alvarado score(MANTRELS記載法)
項目 点数
Migration(痛みの移動) 1
Anorexia-acetone(食欲不振あるいはケトン尿) 1
Nausea-vomiting(嘔気、嘔吐) 1
Tenderness in RLQ(右下腹部の圧痛) 2
Rebound pain(反跳痛) 1
Elevation of temperature(口腔温≧37.3度) 1
Leukocytosis(WBC>10000/μL) 2
Shift to the left(好中球>75%) 1
Curless R,French J,Williams GV,et al.Comparison of gastrointestinal symptoms in colorectal carcinoma patients and
community controls with respect to age.Gut 1994;35:1267-70
合計の最高点 10
陽性基準 ≧7(陽性尤度比3.1,陰性尤
度比 0.26)
「SQ」を意識してレベルアップしたプレゼン
今朝7時に発症の、
上腹部から移動する右下腹部痛を主訴とした21歳女性です。
痛みに続き、嘔気嘔吐を自覚するようになりました。
診察所見上、鎮痛薬内服下でも自覚する腹痛で、
腹膜刺激徴候を伴います。
急性虫垂炎による腹膜炎を疑いますので、一緒に診察をして
治療の検討をしてもらえませんか。
パート2:問診・診断
まとめ
❶OPQRSTを意識し、漏れのない症状問診をとる
❷症状に関わらない問診で、患者に応じた情報を集める
❸「SQ=Semantic Qualifier」を意識した診療で診断に近づく
❹パート1と合体させることで最強になる

腹痛 パート2 問診・診断

Editor's Notes

  • #2 腹痛の症候の問診・診断のパートを扱う樋口大です。 よろしくお願いします。
  • #3 問診で得る情報は、症状に関した情報と、症状に関係なくルーチンで聴取するべき情報に分かれます。 症状に関した情報は、患者さんからまずは「今日はどうされましたか」というようなオープンクエスチョンで情報を引き出します。そののち、患者さんから出てこなかった情報を、OPQRSTに準じてクローズドクエスチョンで尋ねていくと、漏れのない重要点を押さえた問診になっていきます。 また、症状に関与せず、既往歴、アレルギー歴、家族歴などは聴取すべき問診内容です。高齢者においては、患者さんのADLや生活背景などを問診内容に含めることで、患者さんの生活状況がみえてくるのできわめて重要な問診内容です。たとえ疾患として軽症であっても、ADLの低下した高齢者はそれだけでも入院対応とすべき状況は多々あります。 また、特に救急外来の現場などでは緊急でCTなどの放射線検査をする可能性もあり、女性においては妊娠に関与する情報の聴取は忘れないうちにまず行いましょう。
  • #4 さて、実際に症例に接してみることで、皆さんも問診の取り方を実習してみましょう。
  • #5 さらなる情報を、OPQRSTを意識して聞きだしてみると、たくさんの情報が得られました。痛みは起床時からあり、ずっとじわーっとした痛みが続いているようです。嘔気を伴う上腹部痛で、痛み止めを飲んでもだんだん痛みが増強傾向にありました。 既往歴や家族歴に特記事項はありませんでした。妊娠はしていないということでした。
  • #6 さて、先ほどの研修医の先生が、患者さんから得た問診内容を、自分なりにOPQRSTを意識してプレゼンしてみました。 「、、、」 先ほどとは違い、上級医の先生にとっても患者さんの状況が手に取るようにわかるプレゼンに生まれ変わりました。これだけきちんとプレゼンができれば、それ以上の情報もきちんと取れているんだろうな、と感じられる、要点を付いたプレゼンになりました。
  • #7 身体所見をとってみると、体温は37.8度で少ししんどそうにはぁはぁとした呼吸をしておられます。 患者さんは当初は上腹部痛を訴えておられましたが、実際にお腹を診察してみると、右下腹部にも圧痛を訴えられました。
  • #8 さて、これはパート1で扱った、右下腹部痛をきたした21歳女性の鑑別診断を、重症度と頻度を意識して振り分けたイメージ図です。 このイメージ図と、実際に問診や身体所見から得られた情報をまとめていきましょう。 そうすると、この患者さんは、発熱があり、右下腹部痛があり、妊娠をしている可能性が低いという情報からは、虫垂炎の可能性が高いのではないか、とイメージができてくると思います。 もちろん他の重症度の高い疾患も、エコー検査や尿検査などで除外をしていくことにはなりますが、疾患のゴール像がイメージしやすくなってきました。
  • #9 もう一つ、問診をとるときにポイントになる言葉があります。SQ、Semantic Qualiferという言葉があります。 直訳すると「意味のある限定し」という言葉になりますが、ちょっと何を言っているか分かりませんよね。 具体例を提示します。 73歳男性が、今朝からの突然の胸の痛みを主訴に救急外来を受診されました。 高齢男性、突然発症、胸痛という3つのキーワードが並ぶと、お医者さんはすぐに急性心筋梗塞ではないか、と疑います。すなわち、急性心筋梗塞という疾患にとって、これらの単語がSQになると、いうことです。 ある特定の疾患を積極的に疑うための、キーワード、それがSQです。
  • #10 さて、虫垂炎という診断をより確からしいものにするために、先人たちの知恵を生かして診察をしていきましょう。きっと慣れたベテラン先生たちは少しお腹を触るだけで、「虫垂炎っぽいね」となるのでしょうが、経験が十分にない間は、せっかく先人たちが作ってくれた私たちへのメッセージをありがたく使わせてもらいましょう。 たとえば、「右下腹部痛」や「嘔吐よりも腹痛が先行」というのはとても感度が高い所見ですので、虫垂炎の患者さんの多くが呈する症状なわけです。ちなみに、胃腸炎は腹痛より先にむかむかとした嘔気や嘔吐を自覚することが多いため、胃腸炎と虫垂炎で鑑別に迷う患者さんに「嘔吐と腹痛はどちらが先にきましたか?」と聞くことは有用だとわかります。 また、右下腹部痛や、上腹部から右下腹部への痛みの移動、腸腰筋徴候などは陰性尤度比が高い徴候ですので、それらがすべてない患者さんは虫垂炎らしくない、ということがわかります。 なお、赤文字は本患者さんが呈していた症状です。これだけ多くの虫垂炎らしい症状を呈していると、本患者さんは虫垂炎の可能性が高いとCTをとる前から確信できるわけです。
  • #11 それらをまとめたスコアとして、アルバラドスコアというスコアがあります。痛みの移動、食欲不振、嘔気嘔吐、右下腹部痛、反跳痛、高体温、血液検査での白血球数や好中球数の上昇、の項目を点数付けして、総合点数を出してみます。10点満点で、本患者さんは9点でした。7点以上で虫垂炎の可能性が高いとされるスコアですので、このスコアをもってして、本患者さんは虫垂炎の可能性が高いと自信を持っていえます。 多くの疾病にはこのようなスコアがあります。このような先人たちの知恵を使わない手はありませんので、ぜひ皆さん、勉強をしてみてください。
  • #12 さて、OPQRSTを意識した先ほどのプレゼンテーションを、SQや先人たちの知恵を生かして、さらにレベルアップさせてみましょう。 「上腹部から移動する右下腹部痛」や「腹膜刺激徴候」というのは虫垂炎にとって重要なSQです。先ほどのプレゼンテーションにこの2つのキーワードを入れるだけで、上級医は、この研修医は虫垂炎の診療の重要点を抑えているな、と、感じます。また、疑わしいと思っている虫垂炎という疾患について、このようなSQがないかと留意して患者さんの診療を行うことで、診療の質が高くなり、患者さんにとっても医者にとっても良い結果につながると言えます。
  • #13 問診、診断のパートのまとめです。 OPQRSTを意識し、漏れのない症状問診をとりましょう、加えて、症状に関わらない問診で、患者に応じた情報を集めましょう。「SQ=Semantic Qualifier」を意識した診療で診断に近づきます。これらを、パート1と合体させることで最強になります。 腹痛を呈する疾患は多岐にわたりますが、2つのパートで説明した基本的な診療方法をおさえることですべての疾患に対応ができるようになりますので、日々の診療の中で実践してみてください。 いつか、このスライドをみたあなたと共に島根県で診療ができる日を楽しみにしていますね。ばーい。