振り返り会話練習の場としての心肺蘇生術コース

ICLSコースで日々役立つ
「振り返り学習訓練」の場を創ろう
東京慈恵会医科大学麻酔科
松本尚浩
takahiro_matsumoto@jikei.ac.jp

こんな訓練を続けますか？
• 【設定】あなたは社長で、従業員は5000名。
• 【現状】希な事例だが、あなたの会社に重要な
モンダイがあるので、訓練で解決したい。
• 【訓練方法】ある施設へ社員を出向かせ、訓
練。費用は年間1000万円。
• 【成果】アンケートで社員の訓練満足度は高
い。
• 【あなた】翌年以降もこの訓練を続けますか？
25 Feb 2012 第7回 ICLSシンポジウム 2

カークパトリックの研修効果の4段階
１．反応研修参加者の満足度
（アンケート調査など）
２．学習受講者の知識理解度や学習到達度
（筆記試験や実技試験）
３．行動変容現場での行動変化
（インタビューや他者評価）
４．結果組織の業績向上
（医療過誤減少，病院内死亡減少）

現場外での成果
現場での成果

一般的に，現場で効果のない訓練は存続困難
現場外での成果
現場での成果

【第6回 ICLSシンポジウム】
ICLSは現場で役立つのか？
• 心肺蘇生術後生存退院率は改善せず
– N Engl J Med 2009; 361: 22-31
• 二次救命処置コース後、技能維持は数ヶ月
– Resuscitation 2010;81S: e1–e25
第7回 ICLSシンポジウム 625 Feb 2012

院内CPRは生存退院を改善せず
(N Engl J Med 2009; 361: 22-31)
25 Feb 2012 7第7回 ICLSシンポジウム
生存退院率（％）
院内心肺蘇生術後，生存退院率の年次変化

(N Engl J Med 2009; 361: 22-31)
ガイドライン2000後CPR教育増加

(N Engl J Med 2009; 361: 22-31)
ガイドライン2000後CPR教育増加
CPR教育効果で
CPR後の生存退院率増加？

ALS（二次救命処置）講習会後すぐ
CPR出来なくなる可能性
• 科学的根拠
– BLS, ALSの知識技術は3-6ヶ月で低下
• p17, Resuscitation 81S, e1–e25, 2010
• 推奨：BLS
– BLS講習受講者に対する技術評価や再講習は、現
在一般的に推奨されている12～24か月ごとより頻回
に行うべきである（日本ガイドライン, ClassⅠ推奨）
• 推奨：ALS
– ALS講習受講者の技術評価や再訓練は、現在の講
習で推奨されているよりも短い間隔で行うべきである
（日本ガイドライン, ClassⅠ推奨）

院内CPRの問題点
• 胸骨圧迫が浅すぎる：施行時間の37%
• 換気回数が多すぎる：施行時間の61%
• 胸骨圧迫の中断が永い
• 胸骨圧迫が遅すぎる：施行時間の28%
– (New Way to Teach CPR. Guidelines CPR ECC 2005, AHA)
11第7回 ICLSシンポジウム25 Feb 2012

二次救命処置コース後の成果は？
二次救命処置コースの現場成果を追求しましょう
楽しいＩＣＬＳ
AHA ACLS
CPRの質は低い
CPR後退院率不変

日本救急医学会ICLSコースの目標と
その解釈
• ICLSコースの一般目標（ICLSホームページ）
– 突然の心停止に対して最初の10分間の（処置）
– 適切なチーム蘇生を習得する。
• http://www.icls-web.com/icls/icls_about.html
• 【私見】コース目標の解釈
– 心停止後10分間に実施する心肺蘇生術技能
– 心停止後10分間のチーム技能

ICLSで実施する技能と
その現場での維持可能性
• 実施内容分類
– 心肺蘇生術の技能
• （スキル）BLS、除細動、気道管理
• （複合スキル）シナリオ訓練
– チームワーク
– 振り返り
• 技能の維持
– 【困難】心肺蘇生術技能（科学的記述あり）
– 【可能かも】チームワーク、振り返りは現場で実践機会が
多い

ICLSで現場チームワークが改善？

医療人はチームワーク出来てない！
• 専門家のエゴが専門領域
超えるチームワーク作りを
邪魔している
– P18, UNMET NEEDS,
http://www.npsf.org/downlo
ad/LLI-Unmet-Needs-
Report.pdf
「ICLSで医療界のチームワーク改善！」は
大きすぎるテーマかも

「医療者の学び」の基本は、
「イベント後に振り返って学ぶ」

「医療者は振り返って学ぶ」の
勧め・根拠
• プロフェッショナルは”Reflective Practice”から学ぶ
– Schon D. The Reflective Practitioner. New York: Basic Books, 1983.
• デブリーフィングは心肺蘇生術教育・実施に有用
(Resuscitation 81S (2010) e1–e25)
– CoSTR 2010(心肺蘇生術ガイドライン根拠)
• MGH（マサチューセッツ総合病院）では最近2年間
2000回以上デブリーフィング実施して研究中
– ”debriefing with good judgment” approach開発
• Simul Healthcare 2006;1: 49–55

【提案】ICLSで振り返り技法を訓練！

「効果的・効率的・魅力的」な振り返り
• 【効果的振り返り】：目的を共有
– 「振り返りの目的」は「将来の、よりよい実践」
– 「よりよい実践」への改善策を明示する
• 【効率的振り返り】：限られた時間内にゴールへ
– 手順を決めて共有する
– 手順を守る
• 【魅力的振り返り】：振り返りたくなる、辛くない場
– 反省ばかりにならない
– 「責めの雰囲気」を除く

見える振り返り
（構造化デブリーフィング）
• 手順に従って（効率的）
– GAS method、GREAT method
• 強みを活かす（魅力的）
– 長所・得意なことを抽出し、さらなる発展へ
– 短所・改善の余地を分析し、改善策模索
• 長所>>短所
• 次に活かすまとめで終わる（効果的）

構造化デブリーフィングの例
• GAS method
– Gather
– Analyze
– Summary
• WISER
– http://www.wiser.pit
t.edu/sites/wiser/ns0
8/day1_PP_JOD_Deb
riefingInSimEdu.pdf
• GREAT method
– Guidelines
– Recommendations
– Events
– Analysis
– Transfer of knowledge to
clinical practice
• Harry Owen & Val Follows
– http://onlinelibrary.wiley.c
om/doi/10.1111/j.1365-
2929.2006.02421.x/pdf
22第7回 ICLSシンポジウム

GAS デブリーフィング
• 情報を集める（Gather information）
– 客観的・具体的情報を集める
– シナリオで何が起こったか
• 情報を分析する（Analysis of information）
– 上手く出来たことは、何故上手くいったのか
– 改善すべき点は、どうしたら改善できるか
• 次に活かすまとめ（Summary for future practice）
– 同じような状況で、得意な点をどう活かすか
– 同じような状況で、改善すべき点をどう変えるか？

ICLSで「構造化デブリーフィング」
実践！

ICLSでデブリーフィング実践例１
• VF(心室細動)/脈なしVT（心室頻拍）の時限
• 受講生6名、シナリオ6個

シナリオ１回目の後の
デブリーフィング
• インストラクター
– 皆さんお疲れ様でした。シナリオ終わってどう感じました
か？
– 【情報を集める】リーダーさん、このシナリオで、どんなア
ルゴリズムを使って、どんな手順で心肺蘇生術が行われ
たか、1分程度でまとめてみましょう。救急外来受診した70
歳男性が、、、、、
– 【情報を分析する】このシナリオで皆さんはVFを認識でき、
適切なアルゴリズムを、、、
– 【次に活かすまとめ】次のシナリオではVFのアルゴリズム、
特に早期除細動を安全に実施しましょう。改善点としては、
薬剤投与の、、、、
• インストラクターが司会して、デブリーフィング誘導

シナリオ２－４回目の後の
• インストラクター
– 今回は、リーダーさんに司会役をお願いします。
テーマを「質の高いCPR」にして【情報をあつめ】て
みましょう。
• リーダー役
– はい、それでは、今回のシナリオで、、、
• インストラクターが「テーマ」と「手順」を示し、受
講生が話し合う。インストラクターは適宜介入。

シナリオ５，６回目の後の
• インストラクター：
– 今回のテーマはこのシナリオでの皆さんの「チーム
ワーク」と「コミュニケーション」についてデブリーフィン
グをお願いします。
• 受講生：
– では僕が司会を務めます。まず、【情報を集める】段
階から始めましょう。
• インストラクターは「テーマ」を与えたあと、デブ
リーフィングの進行、議論の方向を見守るだけ。

ICLSコースシナリオ時限での
デブリーフィングの中心話題の例
５，６回目：チーム技能
３，４回目：質の高いCPR
１，２回目：アルゴリズム
同
じ
グ
ル
ー
プ
で
シ
ナ
リ
オ
の
繰
り
返
し
デブリーフィングの中心話題

学習者のデブリーフィング技能と
デブリーフィング支援の方略
司会
適宜介入
見守り学
習
者
の
デ
ブ
リ
ー
フ
ィ
ン
グ
技
能デブリーフィング支援者の役割

デブリーフィングでチーム技能を
振り返る
• チーム技能項目を挙げる
– 例】職務や経験に適切な役割分担
– 例】指示と復唱
– 例】他者を助ける
– 例】実施と再評価
– 例】情報の共有
• チーム技能項目チェックリスト
– チェックリストを使ってデブリーフィング

振り返り焦点型ICLS受講後の
技能の維持・発展（願望図）
0
50
100
150
心肺蘇生術技能
チーム技能
振り返り技能

振り返り焦点型ICLS後の成果（予測）
ICLSが現場で成果をあげる可能性が大きい
楽しいＩＣＬＳ
現場で構造化デブリーフィング応用
患者安全の促進？

どうしても、心肺蘇生術技能は
長期維持出来ないのか？
• 輪状甲状切開は希な気道確保技能
• 従来は、訓練後6ヶ月以内に技能低下が一般的

希（まれ）で複雑な技能の維持
• 【方法】輪状甲状切開の訓練とデブリーフィング1時間
• 【結果】訓練12ヶ月後も技能が維持されていた
• 【考察】現実味のある設定とデブリーフィングが技能維
持に効果的
• 【私見】ICLSを現場（部署内）でデブリーフィングと組み
合わせると技能維持が促進するのではないか？

デブリーフィング支援者養成

お勧めの資料
• ibstpi インストラクターコンピテンシー
– 特に、以下のコンピテンシー
• 1. コミュニケーション、9. 議論管理、
• 10. 効果的質問、11. フィードバック、
• DASH:デブリーフィング評価システム
– http://www.harvardmedsim.org/debriefing-
assesment-simulation-healthcare.php
– 日本語訳発表予定（武田聡先生らによる）
6 February 2016
Feedback and Debriefing for Health
Professionals
37

「デブリーフィング支援者」への道
• 「医療者のためのフィードバック・デブリーフィング学習会
＠慈恵医大」
– 2012年1月から試行版開催中（既に3回開催）
– SlideShareに資料掲載中
– http://www.slideshare.net/matstaro/
• 愛宕救急医療研究会「ICLS指導者養成ワークショップ」
– デブリーフィングに焦点をおいた内容
– http://www.atagoqq.or.jp/
• ご希望あれば「医療者のためのフィードバック・デブリー
フィング学習会」開催可能です。ご相談下さい。
2015年以後は、以下からご相談を
http://www.zenkanan.com/お問い合わせ/

従来のICLSコースから
受講生が現場に持ち帰るもの
心肺蘇生術
チーム技能
？（楽しかった、etc.）

振り返り焦点型ICLSコースから
受講生が現場に持ち帰るもの
振り返り技能
チーム技能
心肺蘇生術

お持ち帰り頂きたい
メッセージ
• ICLSから現場へ持ち帰ることが出来ることは、
– 【従来】心肺蘇生術技能、チーム技能
– 【これから】学習方法としてのデブリーフィング技能
• デブリーフィングは医療者学習の重要技能
– ICLSでデブリーフィング訓練の場を提供可能
– ICLSが現場での医療者教育へ新たな貢献を

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