2016.7.29 吐気に対するイソプロピルアルコール吸入の効果
- 5. METHODS
• San Antonio Military Medical
Center にて試験は行われた
• 対象とする患者は嘔気嘔吐がある救急患
者であり、昼夜を問わず来院された方で次
の条件を満たす患者を対象とする
Editor's Notes
- Annals of emergency medicine 2016-07-01 より
- 背景ですが嘔気嘔吐はアメリカにて一年で480万人が訪れるcommon diseaseである
多くはオンダンセトロン、プロメタジン、メトクロプラミドが使われているが有効性は限られている
救急で嘔気嘔吐患者に対して上記薬剤とプラセボとの比較試験で有効性は認められなかった
- 続きですが麻酔科領域にて術後の嘔気、嘔吐に対してイソプロピルアルコールの鼻からの吸入は生理食塩水より有効であることは複数のメタアナライシスにて証明されている
救急の場で不特定多数の嘔気、嘔吐に対してこの治療の研究はなされていなかった
- 疑問はイソプロピルアルコール吸入の救急の嘔気患者に効果があるのか
PICOは
Pitient:救急を訪れる嘔気患者を対象に
Intervension:イソプロピルアルコールを鼻から吸入して
Comparison:生理食塩水の吸入と比較して
Outcome:嘔気の改善が認められるか
- MethodsですがSan Antonio Military Medical
Center にて無作為化試験を行った
救急外来患者数は年間8万人
対象とする患者は嘔気嘔吐がある救急患者であり、昼夜を問わず来院された方で次の条件を満たす患者を対象とする
- 適応条件
嘔気、嘔吐を主訴としてきた18歳から65歳の患者でverbal numeric response scale(VNRS)で3点以上の方
Verbal numeric response scaleは
0-10点で自身の主観的な評価であり
0が全くない状態、10が考えられる最大の状態
- 除外条件としては
イソプロピルアルコールに対してアレルギーがある方、
鼻から吸入できない方、
英語の読み書きができない方、
意識障害の方。
24時間以内に制吐剤、ジスルフィラム、メトロニダゾール、スルペラゾンの使用された方
ジスルフィラム アルデヒドデヒドロゲナーゼを阻害するので肝臓におけるエタノール(エチルアルコール)代謝を抑制し、悪酔いの原因となるアセトアルデヒドを体内に蓄積させる。このため少量の酒でも苦しい目に遭い、断酒、節酒の効果がもたらされる。
- この試験で行った方法ですが生食/イソプロピルアルコールをパッドにテープでカバーをして判別できないようにして使用
ナンバリングしてランダムに割り付け
開始時、2分、4分後にパッドから2.5cm離して鼻から60秒未満で吸入する。
- 評価方法
評価はVNRSにて開始時と吸入後2分、4分、6分、10分の時点で評価。
また10分後には満足度をLikert Scaleで5点満点で評価(最も満足5点、まったく満足でない1点)
リッカート尺度では、提示された文に回答者がどの程度合意できるかを回答する
例アイスクリームは朝食に適している
全く同意できない
同意できない
どちらともいえない
同意できる
非常に同意できる
- そして
介入期間後
吸入後10分後やそれ以降、医師の判断で嘔気嘔吐改善が認められない場合制吐剤を使用を許可し。
後にカルテにて制吐剤の使用の有無、量を検証する
- Primary outcomeは
介入10分後の嘔気のVNRS
Secondary outcomesは
介入10分後の痛みのVNRSと
介入10分後の満足度と
介入後制吐剤を用いたか
- VNRS(0-10点)で臨床的に有意な差は2点以上の差と定義
primary outcomeはノンパラメティックに比較
ITT解析であり
制吐剤使用の有無はフィッシャー直接検定にて比較
制吐剤の使用数は両側t検定にて比較
記述統計とは、統計の手法のひとつで、収集したデータの平均や分散、標準偏差などを計算して分布を明らかし、データの示す傾向や性質を把握する手法のことである。
- まず84人の患者が基準を満たしこの研究に選択され
そのうち4人の患者はすでに治療を受けており除外された
無作為化されイソプロピルアルコール群に37例、プラセボ群に43例割り付けられた研究が開始そのまま変わらず終了解析された
- イソプロピルアルコール群とプラセボ群で年齢、男女比、重症度、随伴症状(腹痛、嘔吐、下痢、頭痛)は基本的に同様であるが、当初の痛みのVNRSの有効範囲(四分位範囲( interquartile range)には差が認められる
- 10分後の嘔気のVNRS中央値はプラセボ群で6 イソプロピルアルコール群で3点で
10分後の痛みのVNRS中央値はプラセボ群で6 イソプロピルアルコール群で6点
10分後の満足度のスコアはプラセボ群で2、イソプロピルアルコール群で4点
制吐剤の使用は プラセボ群で72.1% 89.2%であり
制吐剤の数としては プラセボ群1.2 イソプロピルアルコール群1.2
- 縦軸は嘔気嘔吐のVNRSの値を示し、横軸に患者を取り右がイソプロピルアルコール群、左がプラセボ群で
それぞれの○は開始時VNRSであり。
縦線は試験開始から最終測定までの嘔気のVNRSの変化でありbox plotsはそれぞれの群での介入前と介入後について中心の線が中央値を示し、boxは有効な範囲を示し、その上下の線の範囲は研究群での最大、最小のVNRS値を表す。
- Figure4ではfigure3と基本的には同様で縦軸を痛みのVNRSとし
○はそれぞれの患者の開始時の痛みのVNRSを示し
縦線は最終結果までの痛みのVNRSの変化を意味する。
この図のbox plotsはそれぞれの群での介入前後のbox plotsであり、真ん中の線が中央値を示し、boxは範囲を示し、上下の線はそれぞれの研究群での最大、最小のVNRS値を表す。
介入後10分後の痛みのVNRSの中央値の二つの群での比較はで0点( Hodges-Lehmann estimatornite95%信頼区間-1から2)
- 先ほどの嘔気のVNRSのbox plot をそれぞれの研究群での介入直後、2分後、4分後、6分後、10分後にわけ分析
イソプロピルアルコール群でよりVNRS低下をみとめる
- 同様に痛みのVNRSのそれぞれの群での介入直後、2分後、4分後、6分後、10分後での分析ですが明らかな有意差は認めない
- イソプロピルアルコール群とプラセボ群において試験ののち制吐剤が使用されたかについての結果ですが制吐剤使用は制吐剤1剤、2剤、3剤使用がそれぞれの群で31例と33例、5例と6例、1例と1例であり
2群間に差はありませんでした。
このことはプラセボ群と同様に時間がたった段階では嘔気は残存または再度出現していることが示唆されます。
- RESULTSですが
Primary outcome は
イソプロピルアルコール群に割り当てられた患者はプラセボ群と比較して10分後VNRSが改善した
介入後10分後の嘔気のVNRSの中央値はイソプロピルアルコール群で3点プラセボ群より低値となった。(P値<0.01)
- Secondary outcomes
介入後10分後の痛みのVNRSの中央値は2群間で優位差は認められなかった
イソプロピルアルコール群でより満足度が高かった
制吐剤の使用、制吐剤の量は2群間で優位差は認められなかった。
- 介入後10分までの評価のため、期間外のイソプロピルアルコール吸入による有害事象が分からない。
同様に症状の改善の有効時間も期間外が分からない
※ただしカルテ上は死亡やイソプロピルアルコールによる有害事象は認められなかった。
においでプラセボ群の患者が自身がプラセボ群だと考える可能性がある。
10分に制限され、期間外のイソプロピルアルコールによる有害事象が認識されない。
後のこの研究のchart reviewにて患者の死亡、イソプロピルアルコールが関与する副作用の臨床所見はなかった。
2との研究群において制吐剤をなされた患者の割合に明らかな差はみられなかった
10分の試験期間はまた症状の改善の期間についても制限する。2との研究群において制吐剤をなされた患者の割合に明らかな差はみられなかった
このことはイソプロピルアルコールの嘔気を和らげる作用は10分は続いているが、救急の外来に滞在している時間は続かない可能性を示唆する。
プラセボ群の患者であることがにおい刺激がないことで推測でき二重盲検ができていないことは考えられる。
- 過去の嘔気の研究との評価方法が異なり比較が困難
Primary outcomeは主観的であり、といった嘔吐の回数、救急外来滞在時間、患者性質、嘔気の症状の期間他覚的な計測がされていない
Secondary outcomeはカルテ書き忘れや推定バイアスの可能性がある
医師はプラセボ群の可能性を考え制吐剤の使用がなされた可能性がある
VNRSのスケールは過去の麻酔科でのイソプロピルアルコールの論文にて使用されており今回も用いられた。
このスケールが救急の研究にて使われていたが嘔気の治療の多くの論文はVASがつかわれていた。最近の 研究で嘔気のVNRSとVASの相関が示されこれらの比較が意味があるとされる。
例えば嘔吐の回数、救急外来滞在時間、患者性質、嘔気の症状の期間といった患者に関して重要な他の多くの客観的測定がこの試験にて取られていない
診察した医師は積極的にこの試験にて患者に情報を伝えられていないが、この試験に関して気が付くことがあり制吐剤の使用に関して影響を及ぼす可能性を否定できない、患者に対して吸入したものに関して何もしゃべらないようにしてもらい観察者や診察する医師が気が付く可能性を最小限しようとした
- 救急領域での嘔吐の研究との比較
この研究と過去の救急での一般の制吐剤無作為化試験との比較で、嘔気の軽減効果の違いはプラセボ効果の違いである。
過去の救急の研究ではプラセボにて嘔気の改善効果を制吐剤と同様に認めた。
- 一方今回の研究ではプラセボ群で嘔気の改善効果が優位に小さく
このことからイソプロピルアルコールはプラセボより有意差のある有効な治療であるといえる
- イソプロピルアルコールの麻酔科領域での過去の研究との比較
イソプロピルアルコールのVNRSを用いた
過去の研究では中央値は
吸入前5.7から吸入後2.7であり、
今回の中央値6から3と同様である
結果の測定法、統計方法が同一でなく、過去の麻酔科領域の研究と今回の研究の効果を比較することは困難である。
11点のVNRSを用いた多くの研究がprimary outcomeを嘔気が50%減少までに要した時間とした。
範囲としては6.5から15分で今回の結果よりわずかに長く、最大の効果は吸入後4分で最大になると提言されている。
- 制吐作用考察としては
イソプロピルアルコール制吐作用のメカニズムはにおいにて気がまぎれるため、
吸入により呼吸のコントロールによると考えられる。
作用時間としては多くの研究でイソプロピルアルコールで短期間で嘔気嘔吐の改善が認められたが吸入後6時間以上での症状の再発も多く 長時間の作用には研究が必要である
イソプロピルアルコール制吐作用のメカニズムはにおいにて気がまぎれるため、
吸入により呼吸のコントロールによると考えられる。
作用時間としては多くの研究でイソプロピルアルコールで短期間で嘔気嘔吐の改善が認められたが吸入後6時間以上での症状の再発も多い
イソプロピルアルコール制吐作用のメカニズムは嗅覚にて気が散ることに関係すると感がられる。
アロマオイルの吸入はイソプロピルアルコールの経鼻吸入と比較して同じかより良い結果を示した複数の研究はこの仮説を支持する
統計的に重要でないがプラセボ群と比較してイソプロピルアルコール群の今回の患者での痛みの軽減はこの説を支持する。
- Conclusionですが
イソプロピルアルコールは救急の患者の嘔気の治療においてプラセボより優れる
今後の研究必要だが
救急でのイソプロピルアルコール吸入は低侵襲で、安価で簡便な嘔気の治療となりうる