1. 南蒲生貞山堀の底生動物群集
「第2回・フォーラム 仙台湾/海岸エコトーンの復興を考える
－2011年南蒲生/砂浜海岸エコトーン調査報告、そしてこれから－」
東北大学大学院生命科学研究科 鈴木孝男
東北学院大学土樋キャンパス
2012年1月21日配布資料

2. 仙台湾沿岸域の海岸林は、東日本大震災にともなう大津波によって、
甚大な被害を受けた。
この海岸林一帯は、植栽されたクロマツとアカマツを主体とする防潮
林であるが、実際には海岸エコトーン領域にあり、そこには浅海、汀線、
砂丘、砂浜堤、潟湖、干潟、塩性湿地、底層湿原、水路・運河、道路、耕
作地などが立地する多様な「環境小領域の集合体」である。
海岸林地域の復旧、再構築をめざす場合には、このような多様な小領
域を内包していることを認識しつつ、防災・減災機能を含む生態系サー
ビスを持続的に享受できるように考えていかなければならない。
また、地域の暮らしや経済に係わる観点はもちろんのこと、多様な生
物の生育ならびに生息場所として利用されている実態も考慮すべきで
ある。
このためには、自然環境が受けた被害の程度を把握をした上で、今後
の生物の回復過程をモニタリングしていくことが肝要である。特に、自然
の自己修復力を評価する視点が重要である。

3. 大津波では、貞山堀の水体や底質も大きく撹乱されたと思われる。
そこで、そこに生息する底生動物について現状の把握を行った。
◆調査地点と方法
南蒲生地区（仙台市宮城野区岡田）の貞山堀において、３地点を設定し、各
地点において水質（塩分、水温、溶存酸素、pH）を測定した。
また、採泥器を用いて底土を採取し（４回）、酸化還元電位を測定した後、
1mm目でふるい、ふるい上のサンプルを固定して持帰った。後日、採集された
底生動物の同定・計数を行った。
1997年と1998年に行った貞山堀（井土浦周辺）での同様の調査結果と比較

4. 0 10 20 30 40
塩分（‰）
0
0.5
1
1.5
2
貞山堀水質比較
2011年7月
1998年10月
1998年8月
1998年5月
1997年10月
0 2 4 6 8
溶存酸素（mg/l)
0
0.5
1
1.5
2
10 15 20 25
水温（℃）
0
0.5
1
1.5
2
5 6 7 8 9 10 11
pH
0
0.5
1
1.5
2

5. 0
50
100
150
200
97年9月 97年10月 98年5月 98年8月 98年10月 11年7月
貞山堀底質比較（酸化還元電位）

6. 0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
貞山堀に出現したベントス
2011年97・98年
14倍
27倍
30倍
53倍

7. 1
10
100
1,000
10,000
貞山堀に出現したベントス
2011年97・98年
32種 → 8種
（対数目盛りにした図）

8. 調査結果
１．塩分は、垂直方向で増加しており、1m以深には海水が滞留しているが、表層
は汽水であった。これは七北田川や名取川の河口域あるいは二郷堀や井
土浦川から河川水が流入していることを示している。季節や降水によって変
動するものと思われる。
２．溶存酸素濃度が低いことから、水質が悪化している可能性がある。これには、
南蒲生下水処理場から簡易処理しかされていない処理水が排水され続けて
いることが関係しているのかもしれない。
３．底土上には軟泥が薄く堆積しており、ところによっては黒色を呈していた。津
波による撹乱で、砂泥質の底土は流失したと考えられることから、この軟泥
は津波後に堆積し始めたものと考えられる。水体の溶存酸素が低いためも
あって、底土の酸化還元電位は低い値であった。
４．底生動物は限られた種類が高密度で生息していた。いずれも汽水性の種類
である。これらは津波後に繁殖し、幼生加入があって着底したものと考えら
れる。甲殻類や二枚貝類はこれから徐々に加入してくるものと思われる。
５．以上から、貞山堀の底生動物は思いのほか早く回復してきているように見受
けられる。底生動物が棲み込むようになれば、水質浄化が促進されるだろう
し、これらを餌とする甲殻類や魚が生息できるようになると思われる。