マイニング・インタビュー・パターン
効果的にパターンを聞き出すためのパターン・ランゲージ
2014 年 7 月 11 日バージョン
井庭 崇
iba@sfc.keio.ac.jp
パターン・ランゲージ 3.0 研究会(第 2 回)
パターン・ランゲージをつくるために、他の人から経験を聞いて秘訣を抽出する「マイ
ニング・インタビュー」では、まず、そのテーマについて後輩や新人に「どうしても伝
えたいこと」を聞く。そして、それがどうして重要なのかという理由を聞くことで「問
題の掘り起こし」をし、さらにその問題が生じる「状況の特定」を行う。このとき、こ
うだろうかと想像がつくことでもあえて質問することで、「本人の言葉で」語ってもら
うことが重要である。また、語り手に一方的に語ってもらうだけでなく、「なるほど∼!」、
「わかる、わかる!」、「へぇ、面白い!」など「共感のレスポンス」をしっかりし、自
らの経験に似ていることがあれば「経験の重ね合わせ」をすることで会話を盛り上げ、
内容を深めていく。最終的には、聞き手が情熱をもってインタビューするためにも、「自
分の聞きたいこと」をしっかり聞いていくことが大切である。
No.0 マイニング・インタビュー
No.1 どうしても伝えたいこと
No.2 問題の掘り起こし
No.3 状況の特定
No.4 本人の言葉で
No.5 共感のレスポンス
No.6 経験の重ね合わせ
No.7 自分の聞きたいこと
No.0
マイニング・インタビュー
他の人の経験からパターンを掘り起こしていく。
自分には実体験が少ないテーマのパターン・ランゲージを作成しようとしている。
▼ その状況において
自分のわずかな経験や文献などからパターンを起こすと、内容がいまいちだったり、力
のないパターンになってしまったりする。だからといって、その人にパターン・ランゲ
ージをつくってもらうのは、忙しさや、パターン・ランゲージへの関心の問題で非現実
的である。
▼ そこで
そのテーマについての経験が豊富な人にインタビューをしながら、パターンを書
くために必要な情報を聞き出していく。インタビューでは、そのテーマの創造・実
践において、後輩や新人に「どうしても伝えたいこと」を聞く。そして、それをしない
とどうなってしまうのかを聞くことで「問題の掘り起こし」を行う。さらに、その問題
がどういうときに生じるのかという「状況の特定」を行う。このように聞いていくこと
で、パターンの状況・問題・解決の情報が得られることになる。これらの情報は、出て
きた時点でホワイトボードやノートにメモしていく。
▼ その結果
経験者が意識的に行っていた秘訣を聞き出すとともに、暗黙的に考えていたことも引き
出すことができる。しかも、それを経験の少ない人が聞き出すことで、未経験者でもわ
かる言語化を促すことができる。
No.1
どうしても伝えたいこと
「後輩や新人に、どうしても伝えたいことは何ですか?」
「マイニング・インタビュー」において、対象としているテーマについての秘訣を聞き
出そうとしている。
▼ その状況において
単に「秘訣は何ですか?」という聞き方をすると、答えるのが難しかったり、よくある
わかりやすい返答が返ってきたりしてしまう。そのような質問では、自分の奥の方に視
点がいってしまい、まとまりにくくなる
▼ そこで
「後輩や新人が新しくできたとして、その人たちにどうしても伝えたいと思う本
質的なことは何ですか」というように聞く。どのようなことを言えばよいのか困っ
ていそうなときには、「例えば、……というようなことなど、重視していることや、や
るべきだということは何ですか?」と具体例を出して考えやすくするとよい。また、ひ
とつだけに絞ってもらう必要はなくいくつも出してもらってよいので、そのことを伝え
ると、より話しやすくなるかもしれない。そうやって複数の話が出てきた場合には、そ
れらはホワイトボードやメモのなかで、お互いに少し離れた場所にメモしておく。
▼ その結果
単に自分の経験や秘訣をまとめるという視点ではなく、他の人に伝えるということで考
えやすくなり、まとまりやすくなる。こうして得られた「どうしても伝えたいこと」は、
パターンの「解決」(Solution)の候補となる。
No.2
問題の掘り起こし
「それをしないと、どうなってしまうのですか?」
「マイニング・インタビュー」において、「どうしても伝えたいこと」を聞き出した。
▼ その状況において
「何かをすることがよい」というだけでは、パターンにはならない。パターンでは、そ
れがどのような問題を解決するのかを記述しなければならないからである。
▼ そこで
「どうしても伝えたいこと」が重要な「理由」を知るために、それをしないとど
うなってしまうのかを尋ねる。「それがよいというのは、何らかの理由があるからだ
と思うのですが、それはなぜよいのでしょうか?それをしないと、どうなってしまうの
でしょうか? どのような問題が生じるのでしょうか?」と質問する。このとき、いく
つかの理由が出てくるかもしれないが、その場合には、最も重要なものひとつに絞るか、
抽象化してまとめる。
▼ その結果
「どうしても伝えたいこと」がどうしてよいのかの理由が明らかになる。こうして得ら
れた理由は、パターンの「問題」(Problem)の候補となる。また、自分が実践してい
ることの理由は、本人にとっては自明のこととして片付けられていたという場合も多く、
この質問とやりとりによって、語り手自身が、自分の重視していること・やっているこ
との意義に気づく(再発見する)こともしばしばある。
No.3
状況の特定
「それはどういうときに起きるのでしょうか?」
「マイニング・インタビュー」において、「どうしても伝えたいこと」とそれが重要な
「理由」を聞き出した。
▼ その状況において
「何かをすることがよい」ということとその「理由」だけでも、まだパターンにはなら
ない。パターンでは、その問題がどのような状況で生じるのかを記述しなければならな
いからである。
▼ そこで
「どうしても伝えたいこと」が解決する問題が、どのような「状況」で生じるの
かを尋ねる。「その問題が生じるのはどういうときなのでしょうか? おそらくいつで
も生じるわけではないですよね。それはどのような場やシチュエーションで生じるのか、
そこに登場する人たちがどのような場合なのか、問題が生じる条件を特定したいのです。
その問題が生じるのはどういうときなのでしょうか?」と質問する。このとき、どのよ
うなことを言えばよいのか困っていそうなときには、「例えば、……というときは生じ
るけれども、……の場合は起きないという感じでしょうか?」と具体例を出して考えや
すくするとよい。
▼ その結果
「どうしても伝えたいこと」が解決する問題が、どのような状況で生じるのかが明らか
になる。こうして得られた理由は、パターンの「状況」(Context)の候補となる。この
やりとりもまた、語り手自身の気づき・発見につながることがある。
No.4
本人の言葉で
「おそらくこうだろう」と想像がついても、あえて質問して語ってもらう。
「マイニング・インタビュー」において、「どうしても伝えたいこと」について聞いた
り、「問題の掘り起こし」をしたり、「状況の特定」をしたりしている。
▼ その状況において
聞き手からみて「明らか」だと思うことについても、質問を省いてしまうと、後にパタ
ーンに落とすときに書けなくなってしまうことがある。頭のなかでわかっていると思っ
ていることが、必ずしも言葉でうまく説明できるとは限らないからである。
▼ そこで
「おそらくこうだろう」と想像がつくことでも、あえて質問して、本人の言葉で
語ってもらう。あえて質問するのもはばかられるときや、話をどんどん進めていきた
いときには、自分で言語化できそうであればそれを言葉にして「こういうことですか?」
という質問に置き換えてもよい。「どうしても伝えたいこと」の場合には「……という
ことを大切にされているように思うのですが、それはどうしても伝えたいことでしょう
か?」、「問題の掘り起こし」の場合には「それは……ということにならないようにでし
ょうか?」、「状況の特定」の場合には「そういう問題が起きるのは……というときでし
ょうか?」というように質問することで、本人の言葉で語ってもらうことの代替になる。
▼ その結果
パターンに書くべき内容が、「マイニング・インタビュー」の段階で言語化されるので、
パターン・ライティングの際に迷うことが少なくなる。
No.5
共感のレスポンス
「なるほど∼!」、「わかる、わかる!」、「へぇ、面白い!」
「マイニング・インタビュー」において、「どうしても伝えたいこと」について聞いた
り、「問題の掘り起こし」をしたり、「状況の特定」をしたりしている。
▼ その状況において
質問と返答を繰り返すうちに、無味乾燥なインタビューになり、語り手が面白味を感じ
られず退屈になってしまうことがある。そうなってしまうと、いきいきとした秘訣を引
き出すことができなくなってしまう。
▼ そこで
語り手が話していることに対する自分の「素直な反応」を、しっかりと表明する。
相手が語ったことに対して、「なるほど∼」、「わかる、わかる」、「へぇ、面白い!」と
いうように言って反応するのである。「マイニング・インタビュー」は尋問ではないの
で、わくわくしたり面白いと思ったら笑顔を、わからないことや不思議なことがあった
ら不思議そうな表情をするように心がける。多少オーバーリアクションくらいがよいが、
あまり心がこもってない感じになると、逆効果になるので注意が必要である。あくまで
も、自分の「素直な反応」を増幅させてしっかりと表明する、ということが大切である。
▼ その結果
「マイニング・インタビュー」が盛り上がり、会話が加速し、あっという間に時間が過
ぎていくことになる。マイニングのプロセスがいきいきとしている方が、それをもとに
つくられるパターンもいきいきしたものになる。
No.6
経験の重ね合わせ
「あぁ、それって、もしかしたら僕のこの経験と似ているかも」
「マイニング・インタビュー」において、「どうしても伝えたいこと」について聞いた
り、「問題の掘り起こし」をしたり、「状況の特定」をしたりしている。
▼ その状況において
個別の事例に特化しすぎて広がりのない内容になってしまうと、パターンにならない。
複数の事例に共通するパターンを抽出することが大切であり、また、そのようなスコー
プをもつことで他の人の役に立つパターンになる。
▼ そこで
語り手が語った内容に似ていると思う「自分の経験」を語ってみることで、話を
深めていく。「あぁ、それって、もしかしたら僕のこの経験と似ているかもしれません。」
というかたちで自分の経験を話し、「こういうのも同じですかね?」と聞いて語り手の
反応をみる。そうすると、同じことであるという反応か、似ているが少しニュアンスが
違う、というような反応が返ってくるだろう。そうなれば、語り手の語った内容につい
ての理解がさらに深まることになる。
▼ その結果
そこで語られていることに関連する事例が増えることで、その内容と範囲が洗練されて
いく。また、語り手も自分のことをひたすら語るというのではなく、聞き手との共鳴が
起きることでインタビューが盛り上がっていく。さらに、聞き手の経験との重なりが見
えることで、後にパターン・ライティングをする際に、自分で自信をもって書くことが
できるようになる。
No.7
自分の聞きたいこと
自分さえ面白み・重要性を感じない内容を
わざわざパターンにする意味があるだろうか?
「マイニング・インタビュー」をしたりしている。
▼ その状況において
語り手がこだわっていることでも、聞き手が「面白い」とか「重要である」と思えない
内容は、よいパターンにはならない。というのは、語り手が個人的にこだわっているだ
けの可能性があるからである。また、「面白い」「重要である」と思えない内容は、パタ
ーンに書くというモチベーションにもつながらない。
▼ そこで
自分が聞いて「面白い」とか「重要である」ということをひとつの基準として、
聞き出す内容を選んでいく。このことが正当化されるのは、自分が聞いて面白くな
い・重要性を感じないというものは、他の人にとっても面白くなく・重要性を感じない
かもしれないということによる。パターンを読んだ読者にとっても、面白さや重要性が
感じられないのでは、わざわざパターンにする意味がない。そこで、自分が聞いて面白
いか・重要だと思うかということを基準として質問し、掘り下げていくのである。
▼ その結果
少なくとも1人以上(つまり聞き手)は面白みを感じたり重要だと思えたりするパター
ンの内容を得ることができる。また、「マイニング・インタビュー」を聞き手が前のめ
りで楽しむことができ、その姿勢は語り手にも伝わり、インタビューそのものがよいも
のになる。また、聞き手自身が面白みや重要性を感じているので、このあとのパターン・
ライティングのモチベーションがアップする。

マイニング・インタビュー・パターン