ライブラリー・リソース・ガイド
第13号/2015年 秋号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
Library Resource Guide
総特集
Library of the Yearの軌跡と
これからの図書館
福林靖博、岡野裕行
司書名鑑 No.9 平賀研也(県立長野図書館長)
マガジン航 Pick Up Vol.3
私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機[ツカダ マスヒロ]
LRG Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド
第13号/2015年 秋号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
総特集
Library of the Yearの軌跡と
これからの図書館
福林靖博、岡野裕行
マガジン航 Pick Up Vol.3
私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機
[ツカダ マスヒロ]
司書名鑑 No.9 平賀研也(県立長野図書館長)
002 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
巻頭言
2015年も終わりに近づきました。読者の方によっては、本誌をお読みいただ
いている頃は、もう2016年かとも思います。鬼に笑われてしまうかもしれませ
んが、新年のご挨拶も申し上げておきたいと思います。本年もご愛読のほどよろ
しくお願いいたします。
さて、第13号はLibrary of the Year総特集となっています。今回のラインナッ
プは以下の通りです。
・総特集「Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館」(福林靖博・岡野裕行)
・Library of the Year10年の記録(LRG編集部)
・直前スペシャルトークセッション
 「Library of the Year 2015から考える、未来の図書館」
(伊東直登、内沼晋太郎、岡本真、河瀬裕子、熊谷雅子、仲俣暁生)
・司書名鑑 No.9「平賀研也」(県立長野図書館長)(インタビュー:ふじたまさえ)
・マガジン航Pick Up Vol.3「私設雑誌アーカイブ『大宅文庫』の危機」
(ツカダマスヒロ)
・私設アーカイブがもつ公共性〜大宅文庫の未来のために(仲俣暁生)
・連載「図書館資料の選び方・私論」〜予告編(嶋田学)
2015年11月の第17回図書館総合展で10周年を迎えたLibrary of the Year2015
は、同時に同展において、この賞の授与の休止が宣言されました。この宣言を受
け、LRG編集部は本特集を編集するにあたり、Library of the Yearという取り組み
の過去と現在をみつめるだけでなく、未来を見渡すのに欠かせないガイドブック
となることを目指しました。
なぜなら、私自身、長年Library of the Yearの選考委員を務めてきたこともあり、
日々、日本中を旅して様々な「図書館」を訪ね、表彰に値するOnly Oneな存在と
巻頭言 未来につながるガイドブック
003ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
巻頭言
して際立った図書館に少なからず出会うにつけ、Library of the Yearに通底する
精神を持った同種の取り組みが新たに興ってくることも、あるいはLibrary of the
Yearが復活することも、この先にはありえると思うからです。
その未来がそれなりに遠くにあるのか、思いのほか近くにあるのか、いまは誰
にも分かりませんが、未来につながるガイドブックとして、この第13号を手許
に置いていただければと思います。
なお、今回、Library of the Year総特集の編集に際して、同賞を実施するNPO
法人知的資源イニシアティブ(IRI)の皆さまから多大なご理解とご支援を賜りま
した。ここに記しつつ、御礼申し上げます。
さて、今回の第13号には、弊社が企画・準備に関わった富山市立図書館新本
館(設計・隈研吾)の開館を記念して刊行した本誌別冊第1号が同梱されています。
同館の豊富な写真とともに、設計者と私の対談を収録していますので、こちらも
ぜひお楽しみください。
そして、2016年からは新たな連載が始まります。2015年は図書館の資料の選
び方やコレクションのあり方が広く社会の関心を集めました。こういった背景も
受けて、私が心から信頼し尊敬するライブラリアンのお一人である嶋田学さんに、
年間を通じて選書論、コレクション論の連載をお願いしました。掲載開始は次の
第14号からですが、本号ではその予告をご執筆いただきました。ぜひご期待く
ださい。
それでは、この1年ありがとうございました。そして、新たな1年もよろしく
お願いします。
編集兼発行人:岡本真
巻頭言 未来につながるガイドブック[岡本真] ………………………………………………………………… 002
総特集 福林靖博、岡野裕行
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 ………………………………………………… 005
 
直前スペシャルトークセッション
Library of the Year 2015から考える、未来の図書館 …………………………………………… 090
    ゲスト:伊東直登(塩尻市立図書館/えんぱーく)、内沼晋太郎(B&B)、河瀬裕子(くまもと森都心プラザ図書館)、
        熊谷雅子(多治見市図書館/ヤマカまなびパーク)
    司 会:岡本真(アカデミック・リソース・ガイド株式会社)、仲俣暁生(「マガジン航」編集人)
連載 図書館資料の選び方・私論 ∼予告編[嶋田学]…………………………………………………………… 112
LRG CONTENTS
Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド 第13号/2015年 秋号
司書名鑑 No.9 平賀研也(県立長野図書館長)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告
定期購読・バックナンバーのご案内
次号予告
………………………………………………………………… 134
…………………………………………………… 144
……………………………………………………………………………… 148
…………………………………………………………………………………………………………… 159
マガジン航 Pick Up Vol.3 
   私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機[ツカダ マスヒロ]
   私設アーカイブがもつ公共性∼大宅文庫の未来のために[仲俣暁生](「マガジン航」編集人)
…………………………………………… 117
……… 132
Library of the Yearとは何か ──10年間の経緯を振り返って[福林靖博]
「良い図書館」を「良い」と言い続ける未来のこと[岡野裕行]
Library of the Year10年の記録[LRG編集部]
……………………………… 006
…………………………………………… 015
……………………………………………………………… 055
総特集
Library of the Yearの軌跡と
これからの図書館
福林靖博、岡野裕行
Library of the Yearとは何か
──10年間の経緯を振り返って [福林靖博]
「良い図書館」を「良い」と言い続ける未来のこと[岡野裕行]
006 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
Library of the Yearとは、NPO法人知的資源イニシアティブ(IRI)が2006年に立
ち上げた事業で、下記のような選考基準を掲げ、毎年さまざまな取り組みを表彰
してきた。選考委員が自ら推薦する候補と公募された候補の中から優秀賞を選び、
図書館総合展のフォーラムの一つとして開催される最終選考会において大賞が決
定される。2015年11月12日の10周年記念フォーラムで発表したように、第10
回をもって一度休止し、「次のあるべき姿」をさぐることとなった――。
【Library of the Year選考基準】
①今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている。
②公立図書館に限らず、公開された図書館的活動をしている機関、団体、活動
を対象とする。
③最近の1 ~ 3年間程度の活動を評価対象期間とする。
外形的な説明を端的にまとめてしまうとこれだけのことである。しかし、この
事業が図書館に関わる有志の手で立ち上げられ、ボランタリーベースの活動とし
て様々な矛盾や課題を孕みつつも10年間にわたり継続され、そしてこの賞の受
賞を目指す図書館が少なからず出ている程度にまで認知度が向上してきた軌跡を
振り返るには、この説明だけでは不十分だろう。
Library of the Yearとは何か
10年間の経緯を振り返って
1978 年、奈良県生まれ。大阪大学文学部卒。国立国会図書館勤務の傍ら、
Library of the Yearに2006年の立ち上げより参画し、2009年から2015年まで選
考委員会副委員長を務めた。また、2013年より図書館総合展運営協力委員。著
書に『最新の技術と図書館サービス』(共著、青弓社、2007年)など。
福林靖博(ふくばやし・やすひろ)
007ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
本特集では、Library of the Year10年間の歩みを振り返り、その記録を整理す
るとともに、この取り組みがどのような爪あとを残したのかを総括する。それは、
Library of the Yearの「次のあるべき姿」を考える上で必要であるというだけでなく、
これからの図書館(あるいは「図書館的なもの」)を考える上でも不可欠なものだと
考えるからだ。具体的には、本稿での運営サイドからの経緯の整理に加え、選考
委員の一人でもある岡野裕行氏による過去の受賞機関インタビューとLibrary of
the Yearの分析を掲載する(P.15)。
1. Library of the Yearの狙い
まずは、Library of the Yearを運営するNPO法人知的資源イニシアティブ(IRI)
について紹介しておきたい。IRI(代表理事:高山正也)は、図書館、博物館、文
書館などを地域の知的資源と捉え、知的資源を中核とする地域社会づくりについ
ての提案を行うことを目的としている非営利団体である★1
。Library of the Year
は、ここに集う高山正也氏・大
おおぐし
串夏
なつ
身
み
氏・田村俊作氏・坪井賢一氏・柳与志夫
第17回図書館総合展で行われたLibrary of the Year2015の最終選考会の会場風景。 撮影=岡本真
008 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
氏・小田光宏氏といったメンバーが立ち上げたものだ(当初は、「図書館コンサル
ティング」というタスクフォースによる事業であったが、途中から独立した委員
会[Library of the Year委員会]による事業となった)。
その狙いは、これからの公共図書館のあり方を示唆するような先進的な活動
(「図書館」に限らないことに留意してほしい)をその道のプロフェッショナルで
あるIRIが表彰することを通じて、公共図書館の今後について議論し、それを共
有することにある。ざっくばらんに言ってしまうと「良い」★2
と言うことで、私
たちの身の回りにある「図書館」という場をより良いものにしていくということ
だ。この「良い」と言い切ってしまうことがポイントで、これを既存の公的機関で
行うことはなかなか難しい。IRIという勝手連的な集まりだからできることだろう。
ただ、Library of the Yearとして「総合的に良い」ということではなく、「ここが良い」
という、その突出した点に着目して表彰していることは改めて強調しておきたい。
無論、選考委員もみな図書館に一家言のあるメンバーばかりなので、その「良
い」というものが全員一致しているわけではない。毎年の選考でも必ず選考委員
の間で「ここが選ばれる/選ばれなかったのは納得がいかない」という声も出て
くる。けれども、我々は「どこが良いのか」「なぜ良いのか」を議論していく過程
そのものにより意味があると考えている。非公開の場で行われる第一次選考会
や、最終選考会において議論の時間を取っているのはそのためだ。とりわけ第1
回(2006年)及び第2回(2007年)の最終選考会で、審査員を置かずに壇上のプレ
ゼンターによる議論と互選で大賞を決定しているところに、その考えがよく出て
いるのではないだろうか(もっとも、第一次選考会でも議論で決着がつかない場
合は多数決を採る場合もある)。
やや強引にまとめると、「図書館のプロによる勝手連的な議論と独断」こそが、
Library of the Yearが本来志向していたものだと言えるだろう。
2. 継続的な運営をするための資金問題
Library of the Yearは、選考委員や事務局スタッフのボランタリーベースの活
動によって支えられてきた。たとえば、初回から九州地方や中国地方の図書館を
表彰しているが、それらはいずれも選考委員がIRIからの資金援助なしに視察し
た結果に基づくものだ。また、最終選考会が行われる図書館総合展の会場にして
009ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
も、同展の運営委員会のご好意により、無償提供を受けたものだ。
スタッフの交通費や会場はボランタリーベースで何とかできたとしても、受賞
機関に進呈する賞状や記念品までは賄えないので何らかの財源が必要となる。そ
もそも、運営母体であるIRI自体も潤沢な資金があるわけではないので、その財
源は外部から調達する必要があった。そのため、第4回(2009年)まで、最終選
考会参加費として500円を徴収していた。
しかし、無料のイベントが当たり前の図書館総合展において有料のイベントで
多くの参加者を募ることには限度がある。また、選考のための視察経費や受賞機
関関係者の最終選考会会場までの交通費を自腹で賄ってもらうことも限界に達し
ていた。そこで、第5回(2010年)から、図書館総合展運営委員会から年間20万
円を上限とした資金援助を仰ぐことにした(これに伴いLibrary of the Yearを「図
書館総合展運営委員会が主催し、IRIが企画・運営する」こととなった)。この資
金援助が実現した背景には、4年間の運営を経て、Library of the Yearの持つコン
テンツとしての価値がそれなりに高まってきたことがあるだろう。
しかし、その資金援助も長く続かなかった。第7回(2012年)をもって資金援
助は打ち切られることになり、新たに財源を調達する必要に迫られた。そこで取
り組んだのがクラウドファンディングによる資金調達で、第8回(2013年)以降
3回にわたり、READYFORを利用した資金調達を行った★3
。この毎年の選考と並
行して行うクラウドファンディングという手法は、単発のイベントならともかく、
継続的に実施するLibrary of the Yearのような事業の財源としては不安定である
ことは否めない。しかし、Library of the Yearという事業が多くの方々に注目さ
れ、そして支えられているということが、「支援」という形で可視化されることで
より実感できるものとなったという点では、運営サイドとしても励みになるもの
であった。
3. 試行を繰り返した選考方法
Library of the Yearの選考について、ここでは制度的な側面を中心に振り返っ
てみたい。
010 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
(1)優秀賞選考まで
優秀賞受賞機関(大賞候補機関)の選考まで(第一次選考)を担う選考委員(10数
名)は、IRIの理事や選考委員からの推薦を受けて選考委員長が委嘱している。毎
年多少の入れ替わりはあるが、研究者や図書館員、あるいは民間企業の社員など
多様な肩書きを持っており、いずれも「図書館に一家言ある」という点では共通し
ている。既に述べたように、選考委員は対面・メールなどのチャネルを通じて議
論を行うだけでなく、時には候補機関への視察も行い(原則として、優秀賞受賞
機関は、最近の1 ~ 2年の間に複数名の選考委員の訪問があることを必須として
いる)、優秀賞の選考を行っている。毎年およそ30数機関挙げられる優秀賞受賞
機関候補の中から、3 ~ 4機関の優秀賞を絞り込んでいるのだ。
とはいえ、選考委員としても国内の全ての図書館ないし、図書館的な取り組
みの動向を把握しているわけではない。これはLibrary of the Yearの課題として
継続的にいただく意見の一つであるが、この課題に対応するため、第4回(2009
年)において「地方協力員」という制度を設けた。これは、関東を除く各地方(北海
道・東北・中部・近畿・四国・中国・九州)に1名ずつ置かれた地方協力員(各地
方の公共図書館員のなかから選考委員長が選び、委嘱)がそれぞれの地方の候補
機関を選考委員に推薦するものであった。しかし、狙いどおり候補機関が挙がら
ないケースも見られたことから、この制度は第5回(2010年)限りとし、翌第6回
(2011年)からはインターネットで広く自薦・他薦を受け付ける公募方式に切り
替えることとなった。
優秀賞選考までの段階で最も多く寄せられてきた意見は、「選考過程が不透明」
というものである。選考委員会内での論点整理などのために非公開で行っている
のだが、議事録も公開していないため、運営サイドとしてもこうした声が出てく
るのはやむを得ないと考えている。こういった意見に対応すべく、第9回(2014
年)から9月の優秀賞受賞機関発表に先駆けて、優秀賞授賞候補機関を公表する
こととした。
(2)大賞決定まで
最終選考会において、優秀賞受賞機関(大賞候補機関)のプレゼンテーションと
ディスカッションを行うのがプレゼンターである。プレゼンターは優秀賞受賞機
011ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
関決定後に、選考委員が選任している。受賞機関自らが登壇するのではなく第三
者が登壇する点がポイントで、これはより客観的でポイントの絞ったプレゼン
テーションとディスカッションを期待しているためだ。受賞機関関係者には会場
への参加をお願いしているが、応援コメントをその場でいただく以上のことはな
い。大賞はあくまでもプレゼンテーションとディスカッションをもとに、5 ~ 6
名の審査員各1票と、会場票(最多得票機関に1ないし2票の加算)により決定さ
れる。このため、プレゼンターは非常に大きな役割を持つのだが、このこと自体
がLibrary of the Yearの課題であるとする意見をいただくことも多い。
次に最終的に大賞を決定する審査員について述べたい。先に述べたように、審
査員を置いたのは第3回(2008年)からで、それまでは壇上のプレゼンターの互
選により大賞を決定していた。この変更は、さすがに「内輪ノリ」が強すぎるから
第三者的な視点から選考したほうが良いだろうということでこの方式にしたもの
だ。
では、審査員はどのように選任されるのか。これについては、審査員長は選考
委員長が務める、総合展運営委員会からの推薦を1名受けるという慣例・原則を
除いては、選考委員により、優秀賞受賞機関との利害関係のない方という前提で、
職業や性別、年齢などのバランスを考慮しながら選任されている(外部からの推
薦は受け付けていない)。Library of the Yearの選考は「プロフェッショナルが議
論し、選ぶ」ということを重視している以上、図書館ないし関連する分野からの
選任が多くなっている。
面白いのは、とりわけ近年、審査員の投票結果と公共図書館関係者が多数を占
める会場の投票結果が一致しないケースが多いことで、「会場票の比重をもっと
大きくすべきだ」という意見をしばしばいただくのも、こういった状況を踏まえ
てのものだろう(この投票結果の不一致は、審査員が図書館員に限らず選ばれて
いるのに対し、来場者の大半が図書館司書であることによるのではと推測してい
る)。もっとも、Library of the Yearとしては「プロフェッショナルが議論し、選ぶ」
というスタンスを取る以上、会場票の比重を大きくするという対応は取ってこな
かったわけではあるが。
最後に、最終選考会に参加いただいた方々についても言及しておきたい。既に
述べたように、第3回(2008年)までは有料であったが、申し込めば誰でも参加
012 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
できる。受賞機関の関係者や応援団が多く参加することもあるが、基本的には図
書館総合展の来場者が参加するフォーラムとして、ここ数年の参加者は200人を
超えており、図書館総合展の風物詩の一つとして定着していた感もある。Library
of the Year単独イベントとして集客を期待することは極めて難しいという判断か
ら、図書館総合展のフォーラムとして開催してきたのだが、集客という点では非
常に恵まれていたと言えるだろう。とはいえ、ある程度安定的に集客できるよう
になったのは、Library of the Year自体の認知度も高まり、アクセスの容易な展
示会場で開催することができるようになったここ数年のことであり、それまでは
参加者の確保は大きな課題であった。
(3)会場賞と特別賞
第2回(2007年)に会場賞、第5回(2010年)と第8回(2013年)に特別賞の表彰
を行っているので、この2つの賞も紹介しておこう。
会場賞は、最終選考会の参加者だけでなく、広く図書館総合展来場者が参与
することでLibrary of the Yearを盛り上げられないかという趣旨で試みたものだ。
第17回図書館総合展でいったん中止が宣言されたLibrary of the Year2015終了後の集合写真。
写真提供=ライブラリー・オブ・ザ・イヤー事務局
013ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
展示会場にパネルを置いて3日間の総合展期間のうち最初の2日間の来場者が投
票できるようにしたもので、3日目午後に開催された最終選考会で最多得票機関
に会場賞を授与した。残念ながら翌年以降に引き継がれることはなかったが、図
書館総合展全体としてLibrary of the Yearを盛り上げるという意味では、意義の
ある取り組みだったと考えている。
また、特別賞は優秀賞・大賞の選考の趣旨・基準からは外れるが、図書館界に
特に影響を与えた取り組みを表彰するものである。毎年授与するというルールが
あるわけではなく、選考委員による優秀賞選考の過程で議論が高まった際に適宜
設けられたものだ。
こうして振り返ると、Library of the Yearは折々の課題や要請に対応しつつも、
選考の大きな枠組みは変えていないことがわかる。本特集後半の岡野氏の分析は、
詳細な選考プロセスや選考傾向の経年変化が紹介されているため、そちらも参照
していただきたい。
4. これから
ここまで、運営サイドからの目線で、内外からご指摘いただいた課題を挙げつ
つ、Library of the Yearについて振り返ってきた。こういった表彰事業には、選
考の過程や結果に対する不満がつきものだが、Library of the Yearの場合は、突
き詰めるとその本来の志向そのものに起因していると感じている。それは、「図
書館のプロによる勝手連的な議論と独断」という先に述べた志向だ。「勝手連的な
議論と独断」はやっている方も楽しいし、見ている方も「この人はそういう見方を
するのだな」とわかって面白いものだ。「勝手連だからこそ面白い」という意見は
選考委員の間でも根強い。
開催の実績を重ねるにつれ、マスコミからの取材や選考に対する様々なチャネ
ルから選考に対する意見が寄せられることが増えてきた。現状をより良く変えて
いくための取り組みである以上、Library of the Year自体の社会的な認知度は上
げていかなければいけないし、そもそも安定的な運営を継続していくためにも認
知度の向上は必須だ。その意味では、運営サイドからすれば狙いどおりの展開で
もある。
014 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
しかしこれは同時に、Library of the Yearという存在の社会的認知度が向上す
るとともに、「公器」としての側面が強くなり、様々な説明責任や対応が求められ
るようになったということでもある。「勝手連的な議論と独断」という内輪的な論
理に基づいたコンテンツが洗練されて社会的に受け入れられるほど、その「内輪
な論理」が通用しなくなるという皮肉な状況が生まれてしまったのだ。
冒頭に述べたように、Library of the Yearは10回を一つの区切りとしていっ
たん休止し、IRIにおいて「次のあるべき姿」をゼロベースから検討することにし
た。そこでは、この10年間で解消し切れなかったこの矛盾をどう解決するかと
いうことも一つの論点となるだろうし、他にも安定的な財源や運営スタッフの確
保という運営基盤など、検討・解決すべき論点は多い。さらに言えば、そもそも
“Library”という言葉に縛られる必要はあるのか、ということも再考されなければ
ならないだろう。
同時に、区切りをつける大前提として、「(公共)図書館観の変化を先取りしつつ、
文部科学省が2006年に打ち出した「これからの図書館像」★4
以後の図書館像をあ
る程度提示できたのではないか」と田村俊作氏が評価するように★5
、たとえ十分
ではないにせよ、この10年間のLibrary of the Yearの活動が社会的に根付いてきた、
当初目的としていた役割は果たせた、という自負も運営サイドにはある。Library
of the Yearの活動が図書館界とそこに関わる各人に何を投げかけたかについては、
岡野氏の分析を参照いただければと思う。
最後に、この10年間、Library of the Yearの運営に関わってきた選考委員・運
営スタッフ、関係団体、受賞機関、そしてLibrary of the Yearに着目し、ときに
はご支援をしてくださった皆さんのご協力に厚く御礼申し上げたい。
★1	 http://www.iri-net.org/about/syushi.html
★2	 田村俊作「Library of the Year:良い図書館を良いと言う」『カレントアウェアネス』No.297,2008-09.
	 http://current.ndl.go.jp/ca1669
★3	 「Library of the Year 2013を開催したい!」https://readyfor.jp/projects/loy2013
	 「Library of the Year 2014を開催したい」https://readyfor.jp/projects/loy2014
	 「【第3弾】全国の良い図書館を表彰するLibrary of the Yearを開催」https://readyfor.jp/projects/loy2015
★4	 図書館未来構想研究会「これからの図書館像(実践事例集)」
	 http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06040715.htm
★5	 Library of the Year 10周年記念フォーラム(2015年11月12日、第17回図書館総合展)
015ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
はじめに 受賞機関インタビュー
Library of the Yearの意義を考えるにあたり、歴代の受賞機関(大賞・優秀賞を
問わず)の関係者にインタビューを行った。受賞当時とは組織やサービス体制な
どの事情が大きく変わっている機関も多く、また、その数も多いことから、すべ
ての機関についてのインタビューを行うことは難しかった。そのため、次の三つ
の方針を立てて7機関を選択することにした。
選択方針の一つ目は、「館長のリーダーシップが受賞に対して大きな影響力を
持っていたと考えられる事例」である。この観点については、第6回(2011年)大
賞の前・小布施町立図書館館長の花井裕一郎氏と、第8回(2013年)大賞の前・
伊那市立図書館館長の平賀研也氏のお二人にお願いした。現在は両者とも当時の
受賞機関の館長職を離れているが、Library of the Yearの歴史の中でも、指折り
の名物館長としてそのお名前を残してきた方々である。二つ目の選択方針は、「受
賞当時の理念が現在でも継続されていること」であり、三つ目は、「初期から最近
にいたるまでの受賞機関を幅広く揃えること」である。鳥取県立図書館(2006年
の第1回大賞受賞)から始まり、インタビュー時点でもっとも新しい機関となる
京都府立総合資料館(2014年の第9回大賞受賞)とオープンデータ(2015年の第
10回一次選考通過)までを対象とした。
注目すべき受賞機関はこのほかにもあるが、取材時間や予算の都合により、今
「良い図書館」を「良い」と言い続ける
未来のこと
1977年、茨城県生まれ。筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課
程修了。博士(学術)。専門は図書館情報学と日本近現代文学で、文学資料・地
域資料のアーカイブや活用に関心を持つ。2011年からビブリオバトル普及委員
会の活動に関わり始め、2015年から同会の代表を務める。また、2011年から
Library of the Yearの選考にも関わっている。著書に『文学館出版物内容総覧:図
録・目録・紀要・復刻・館報』(日外アソシエーツ、2013年)、『デジタル文化資
源の活用:地域の記憶とアーカイブ』(勉誠出版、2011年)、『ビブリオバトルハ
ンドブック』(子どもの未来社、2015年)など。
岡野裕行(おかの・ひろゆき)
016 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
回のインタビュー対象は以上のような顔ぶれとなった。
1. 館長はLibrary of the Yearをどう見てきたか
(1)花井裕一郎氏(演出家/前・小布施町立図書館館長)
Library of the Yearという活動に対する花井さんの認識は、「大賞を狙ってい
た」と公言されていることが印象的である。著書の『はなぼん――わくわく演出マ
ネジメント』(文屋、2013年)の中でも、大賞受賞を喜ぶ様子が冒頭から描かれ
ている。この発言をされたときの気持ちを率直にうかがってみると、「Library of
the Yearは本気で欲しいと思っていた賞」「こんなふうに外部から認めてもらえ
たのが嬉しかった」と話す。
Library of the Yearでは、ノミネートにあたって短い「評価理由」が必ず付けら
れる。「その評価理由をどのように受け止めたのか?」と尋ねると、「新図書館建
築の構想を練る段階から始まり、実際に図書館が開館して以降も、町民と一緒に
図書館の方向性をつくり上げてきたことを評価されたいと思っていた。その点に
触れていただけたのはありがたかった」と話された。大賞決定直後の会場インタ
ビューでも、「町民力で取った」と発言されていたが、図書館が単独で大賞を取っ
たのではなく、「町の人たちみんなで」という思いが込められていることがわかる。
Library of the Yearの大賞を受賞して良かったこととしては、「形として残る盾
と賞状をいただけたこと」だと話す。「形として目に見えるもの」は直接訴えかけ
てくるインパクトがあり、「ほんとに大賞を取ったんだね」と図書館を訪れる方に
言われるたびに、「町民のみんなで取ったんですよ」と誇ることができたという。
Library of the Yearの受賞をきっかけとして、「館として変化したことはありま
すか?」という質問に対しては、「目先のことを変えよう」というよりも、「もっと
チャレンジしよう」という気持ちになったと話す。受賞する以前は、自分たちが
やっていることを信じながらも、心の中では揺れ動く部分もあったのだそうだ
が、受賞を機にその信念が確信へと変わってきたそうだ。これについては、『は
なぼん』の中でも「お墨付きをもらったような心地がした」と記している。さらに
は、「小布施がそういう活動をしているなら」というように、長野県内の他の図書
館も変わっていくような手応えがあったという。
017ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
現在、花井さんはNPOを立ち上げ、全国各地の図書館やまちづくりの仕事に
携わっている。小布施で10年間、図書館づくり・まちづくりに関わってきたこ
ともあり、「図書館をまちづくりの中心においてほしい」という気持ちが強いとい
う。そしてその際に、図書館の中心的な仕事になるのは「まちのできごとをアー
カイブする機能だと思います」ということを強調して話し、小布施での活動実績
を活かしている様子がうかがえた。
今後のLibrary of the Yearの活動に対しての期待をうかがうと、「自分たちが受
賞した当時よりも賞の知名度が上がっているので状況は異なるが」と前置きしつ
つ、小布施町立図書館を含めた歴代の受賞機関に対して、「何を期待していたの
か」を継続的に情報発信してほしいということだった。花井さんは「賞をあげた
側の責任」という言い方もしていたが、これはつまりNPO法人知的資源イニシア
ティブ(IRI)が掲げてきたLibrary of the Yearの活動目的やその意図を、これまで
以上に強調していくことの必要性を指摘しているだろう。
「これからの図書館的な活動」についてどう思うかを問うと、単に「図書館づく
り」だけを考えるのではなく、「まちづくり」という視点を意識すること、そして
また、「まちづくりは30年くらいの物差しで見る必要があって、そういった時間
軸を大切にすること」の重要性を話された。
小布施町立図書館 「交流と創造を楽しむ文化の拠点」としての活動が評価され、第6回(2011年)の大賞に選出された。
撮影提供=小布施町立図書館
018 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
最後に、『はなぼん』の中で花井さんが「一等賞」「日本一」と表現をされていた
ことについてうかがった。Library of the Yearは総合的な評価をもとにした「ナン
バーワン」ではなく、何らかの突出した点に注目した「オンリーワン」の活動を選
ぶものだと思うが、「一等賞」「日本一」という言い方は、「ナンバーワンというニュ
アンスが強いのでは?」と思ったためである。この質問に対して花井さんは、「多
様性のある図書館活動においては、確かに一等賞というのはありえないとは思う
が、それでも2011年という時間軸の中のあの瞬間においては、間違いなく一等
賞だったと思う」「Library of the Yearには受賞側にそう思わせるだけの大きな力
がある」と話した。
(2)平賀研也氏(県立長野図書館館長/前・伊那市立図書館館長)
伊那市立図書館が優秀賞受賞(2013年の第8回最終選考会ノミネート)の連絡
を聞いた際、平賀さんは「えっ、なんで?」「いったい誰が推したんだろう?」と
いう反応だったそうだ。Library of the Yearという賞の存在については、2011年
に小布施が大賞を取ったときに初めて知ったとのことで、その当時はどのような
人たちがいかなる意図でこういう賞のために動いていたのかがまったく見えてこ
なかったらしい。審査員の反応や会場の様子を実際に見たり、賞に関わっている
人たちと話したりするなかで、Library of the Yearの趣旨を納得していったという。
小布施町立図書館の花井さんが2011年の時点でこの賞を「狙っていた」と話して
いたことと比べても、ノミネートされた段階から反応が大きく違っていたことが
わかる。
「受賞時の評価理由をどのように受け止めましたか?」という質問には、表面的
なことだけではなく、しっかりと自分たちの目論見が反映されている良い文章だ
ととらえたという。
地元の人たちの反応としては、みんなが「おめでとう」と祝福してくれたそうだ。
その理由は、「図書館が」評価されたことではなく、「このまちが」ほめられたこと
に対して「おめでとう」という気持ちだったのではないかと平賀さんは回想する。
新しいことをいろいろと始めたり言い出したりする立場にいたので、行政サイド
から見れば「めんどうな公募の館長だなぁ」と思っていたのではと推測されている
が、受賞をきっかけにそういう人たちも向きを正してくれた印象があったそうだ。
019ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
学校の先生たちの意識も大きく変わり、受賞した後には「何か一緒にできません
か」と相談されるようになったという。子どもたちの地域学習やデジタル教材の
活用など、新しい取り組みの話題でお互いに盛り上がったそうだ。
「Library of the Yearの受賞をきっかけとして変化したことはありますか?」と
いう問いについては、「図書館でやっていたこと、やりたかったこと、それらを
そのまますくい上げてくれたので、僕たちの日常は特に何も変わらなかった」と
答えた。前・小布施町立図書館の花井さんと同じく、それまでの活動に対する
「お墨付きをもらった感じがする」という表現がもっともしっくりくるようだ。そ
の一方で、Library of the Yearの受賞によって図書館改革のための事業予算や職
員の処遇が良い方向に変わればと期待していたそうだが、大きな変化は特になく、
その点では期待はずれだったという気持ちもあるらしい。平賀さんが2015年3
月に館長職を離れる前に、嘱託の図書館専門員を設置できたそうだが、これも行
政サイドにお願いしてようやく実現できたものであり、受賞後の変化としてはこ
れが精一杯だったという。
「今後、積極的に取り組んでみたいことは?」という質問に対しては、現在は県
立長野図書館の館長になっているが、基本的に「やりたいことは変わらない」と
のことで、「本の世界が大好きな人、知ることが面白いと気づく人が増えてほし
「日本ジオパーク南アルプス大会」の会場となった伊那市立伊那図書館 撮影提供=伊那市立伊那図書館
020 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
い」「それをサポートできる方法はないかを図書館の立場から考えたい」、さらに
は「図書館の活動をまちの中の人や組織とつなげること」「図書館=本という概念
をもう少し打ち壊してみたい」という野望があるそうだ。また、ナショナル型の
アーカイブだけではなく、信州という枠組みで「分散型の地域アーカイブをつく
りたい」という構想もあるようで、伊那市という行政単位から、長野県という県
レベルの単位で考える立場になったことの責務を感じているようだ。
最後に、「これからのLibrary of the Yearに期待すること」についてうかがって
みると、「基本的にとてもよくできた仕組みだ」と前置きした上で、大賞を選んで
いくプロセスを含めて、「評価の言葉を紡ぎ出していく過程をプレゼンター任せ
にしすぎないと良いのではないか」と話された。たとえば、「課題解決型」という
キーワードも言葉だけだと実感が湧かないが、図書館の現場にはそういう言葉
をより現実的なものとして表現できるような可能性があるという。Library of the
Yearという仕組みが、そのような言葉を探すきっかけとして機能すれば良いの
ではないかと平賀さんは話した。
2. 職員の立場から見たLibrary of the Yearとは
(1)小林隆志氏、三田祐子氏(鳥取県立図書館)
「Library of the Yearの会場には行ってないんですよ」と話す小林さん。そもそ
も第1回(2006年)の受賞だったため、「それっていったいどんな賞なの?」とい
う感じだった。「うちの図書館が大賞をもらえたの?」と、賞の実態がよくわから
ないままに第1回の大賞受賞機関という立場に選ばれたのが鳥取県立図書館であ
る。
その当時を振り返って、「私たちは県立図書館として何をすべきかを意識して
いて、そこをしっかりと見てくれたという印象はありました」と語る小林さん。
新しい館長がやって来て改革が始まったのが2002年で、ビジネス支援サービス
をキーとした事業を形にするために、2003年から具体的に動き出すことになっ
た。2004年から2006年にかけて法律情報や医療情報などのサービスを始めたそ
うで、鳥取県立図書館としては自分たちのやろうとしていたことが形になってき
たタイミングで評価されたことになる。「新しい方向ばかりを向いてきたわけで
021ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
はないですが」と前置きしつつ、「自分たちの方向性に確信を持てたし、やってき
たことに間違いはなかったと思えた」と、既存のサービスと新しいサービスとを
活動の両輪として育ててきたことを小林さんと三田さんは振り返る。
翌年の第 2 回に愛荘町立愛知川図書館が大賞を取ったことに触れながら、
「Library of the Yearという賞の評価がそこでようやく納得できた」という感じが
したそうだ。現在はLibrary of the Yearの知名度も高まっているが、創設当初は
受賞機関にとっても「どう受け取ったら良いのかがわかりづらい」という賞に過ぎ
なかったわけである。受賞当時の地元の反応についても、プレスリリースを出す
こともなく、それほど騒がれた感じもなかったという状態だったらしい。そのあ
たりの事情については、第1回の受賞機関であるがゆえに、賞としての権威も目
立つことなく、大賞という結果を図書館のPRへとつなげることの難しさがあっ
たようだ。
とはいえ、「もちろん賞をいただけたのは良かったですよ」「図書館の客観的な
評価がほとんどないなかで、こういった賞をもらえるくらいの活動をしている図
書館だと周囲に説明できるのはありがたかった」と小林さんは振り返る。鳥取県
立図書館を説明するときに、大賞受賞という実績はその後の活動を後押しするこ
とにつながっているようだが、その一方で「より一層頑張らないといけない」「受
鳥取県立図書館 地域の役に立つ図書館をめざすというこれからの図書館のあり方を示した点が評価。第1回(2006年)
の大賞受賞機関。撮影=岡本真
022 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
賞機関としてしっかりやらないといけない」という気持ちにもなったそうだ。
「受賞後、図書館の組織体制や運営方針などに変化はありましたか?」という質
問には、特に変化はなかったが、「自分たちは大賞を受賞した図書館なんだ」とい
うことを大事にして、しっかりとした活動をしていかなければという気になった
そうだ。とはいえ、Library of the Year 2006の大賞機関に選ばれたという事実は、
自分たちにとっての一つの通過点に過ぎないということも強調されている。「そ
の後の方向性は変わらない」という小林さんの言葉からは、結局は「自分たちが信
じている方法をやり続ける」という意識に結びついているように思える。「続けて
いくことは苦労があり、どうやってつないでいくかを問い続けたい」が、「連携ほ
ど簡単に壊れるものはない」ことも十分に認識された上で、それでも「連携のない
課題解決というものはありえない」ということを小林さんは強調する。「長い年月
続けていくことで成熟していくサービスもあるかもしれないですが」と前置きし
ながら、「サービスに完成形はないですから変え続けるしかないですね、常に動
き回る覚悟が必要だと思います」とまとめている。
「今後のLibrary of the Yearについて期待することは?」という問いには、「とて
も良い活動だと思うし、今後ずっと第1回の大賞受賞機関という記録は残るので、
ぜひこのままの形で続けてほしいです」と、このような賞を継続していくことで、
受賞機関に良いインパクトを与えることの意義を述べられた。
(2)井
い
戸
ど
本
もと
吉
よしのり
紀氏・中川清裕氏(三重県立図書館)
「Library of the Yearという賞を意識したことはなかった」「報告文を読み、賞
の重みを知るにつれて、これは凄いことになったなと思った」と話す中川さんと
井戸本さん。当時のお二人の上司で、現在にいたる同館の方向性を推し進めてき
た平野昌さん(県の他施設へ異動した後、現在は県職員を退職されている)は、受
賞の連絡が届いたときに、「自分たちが今取り組んでいることは計画全体のなか
ではまだ途中の段階であり、完成しているわけではない」「この段階で賞をいた
だいてしまうことで、職員の間に気持ちの緩みがでてしまうかもしれない」とい
う懸念から、「このような賞は返上しよう」とまで言っていたという。
理念として「すべての県民の方に届ける」というところを意識して活動をしてお
り、そのために「市町の図書館を県立図書館が支援する」ではなく、「市町の図書
023ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
館と連携して届ける」というところの意識の違いはとても大事にしていたそうだ。
受賞にあたっては、「2011年から進めていた三重県立図書館改革実行計画『明日
の県立図書館』に注目して下さったのは嬉しかった」という★1
。いろんな計画が全
国の図書館でつくられているなかで、あえて三重県立図書館を評価してもらえた
のは、「そのあたりの理念を理解してもらえたからでしょうか」とインタビューの
なかで何度も話題に上がった。
Library of the Yearを受賞して良かったのは、「自分たちがやっていることの方
向性に間違いはないという自信につながった」ということだ。それによって緊張
感も生まれることになったが、「外から評価してもらえた」ということは大きな励
みとなり、「知事をはじめ、県庁の中で県立図書館の仕事が注目されたのはあり
がたかった」と話す。
また、受賞によって県外からの視察も増えたらしく、そのなかのエピソードと
して、「図書館そのものにあまり目を引くものがないですね(オーソドックスで注
目するところがよくわからない)」という反応がよく見られたそうである。その際
は、館内に目立つものがないのは当然で、「Library of the Year 2012の優秀賞受
賞は三重県立図書館が単独で評価されたわけではなく、三重県内の市町全体が頑
張っていることが評価されたわけなので、ここ(県立図書館内)に目を引くものが
三重県立図書館 第7回(2012年)の優秀賞受賞機関。県立図書館が県内の図書館活動を積極的に推進している点が評価
された。 写真提供=三重県立図書館
024 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
あるわけではないのです」と答えるようにしているそうだ。このことは、「県内各
地の公共図書館と共催する形で活動を展開していること」「県立図書館が県内の
図書館活動を積極的に推進している」という受賞理由から考えても納得の回答と
考えられるだろう。
「Library of the Yearを受賞してみて、県立図書館としては運営方針や組織体制
に大きな変化はなかった」とのことだが、市町の図書館がそれに引っ張られる形
で、「県が受賞したので、次は自分たちが市町の図書館として評価されるように
頑張る」と言われるようになったことが嬉しかったそうだ。三重県立図書館とし
ても、「市町と一緒にやっていく」(三重県は1998年度末に69あった市町村が、
旧合併特例法下での取り組みにより、2005年度末に29市町に再編された)とい
うところはそれまで以上に意識的に取り組むようになったという。
受賞から3年が経ったが、現在は全県域へのサービスを念頭に計画を立てなが
ら、これまでに県内各地でいろいろと取り組んできたことを、「そのまま続けて
いくだけではなくて、そこから少しでもステップアップをしていく」ことを考え
ながら、積極的に市町の図書館と関わっていく姿勢を大事にしていきたいそうだ。
「Library of the Yearという取り組みに対して何か思うことは?」との質問には、
普段の図書館活動について期待して賞を与えることで、「背中を押す」「気を引き
締める」という力があるという印象を抱いており、受賞機関も建物を有する図書
館だけを選ぶのではないところがすばらしいと感じられるということだった。三
重県立図書館としては、やはり三重県内の市町の図書館が輝くことを目指したい
ので、Library of the Year 2012の優秀賞機関という名前に恥じない活動を今後も
続けていくつもりだそうである。
(3)磯谷奈緒子氏(海士町中央図書館)
「Library of the Yearをいただけたことはとても名誉なことです」と話す磯谷さん。
当初は「うちが賞をいただいても良いのか」という気持ちがあったそうだが、町内
では図書館が頑張っていることがなかなか伝わらないこともあり、外部の図書館
関係者からの評価はとてもありがたいもので、「ご褒美をいただいたようなもの
ですね」と磯谷さんは話す。
受賞時の評価理由に書かれている「分散型」というキーワードについてうかがっ
025ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
てみると、これは実際に事業が始まったときにはそれしか方法がなかったとい
うことであり、「苦肉の策です」と振り返りをされた。苦肉の策とはいえ、「一生
懸命やってきたことですし、ひとつのモデルをつくりたかった」という気持ちも
あったそうで、Library of the Yearの関係者にも「そのあたりの思いが伝わったの
かもしれない」と話す。
受賞して良かったことは、町の行政内部に図書館事業の頑張りを知ってもらえ
たことが大きいらしい。それによって予算がつきやすくなったという好影響も
あったそうだ。ご自身がこの図書館であと何年働くことになるのかもわからない
なかで、「島まるごと図書館構想」の価値を高め、全国に海士町の図書館を知って
もらえたことはとても大きな成果だったようだ★2
。
受賞に対する地元の反応としては、町内のコミュニティチャンネルで放送され
たり、町の広報誌に載せてもらえたりと、「全国的に注目されている図書館だと
町内にPRできた」という。そして受賞前よりも、地元の人に好意的な受けとめ方
をしてもらえるようになったことが嬉しかったそうだ。また、受賞後に意識して
きたことは、評価された取り組みが弱まってしまわないように「現状維持、もし
くはより良く」を心がけるようにしてきたと語る。
現在、海士町中央図書館は「しまとしょサミット」などを開催するなど、島内外
海士町中央図書館 第9回(2014年)の優秀賞に選出。館内に優秀賞の盾を立て掛け、利用者とともに受賞を祝す。
撮影=岡本真
026 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
の人たちと一緒に新しい活動の形を目指しているそうだ★3
。また、「海士町には
いろんなアイデアが持ち込まれますが、それらにできるだけ柔軟に対応できるよ
うに」との思いから、幅広さを持っていけるような姿勢を持ちたいとも述べてい
た。
最後に、これからのLibrary of the Yearの活動についてうかがったところ、「図
書館の活動を盛り上げるイベントとしてはとても良い試み」として、「図書館は一
般に真面目で堅苦しいとか、面白みがないというイメージがありますが、新しい
図書館の側面を見せるのはとても良いこと」という印象があるらしい。これから
期待することとして、「図書館関係ではない人たちにも、新たな目線で図書館を
見てもらえるようなイベントであってほしい」と話された。
(4)福島幸宏氏(京都府立図書館/前・京都府立総合資料館)
  是住久美子氏(京都府立図書館/ししょまろはん)
「博物館っぽいけど博物館ではなく、アーカイブズっぽいけどアーカイブズで
はなく、図書館っぽくないけど図書館ではない。多くの人が想定する図書館像か
京都府立総合資料館「東寺百合文書WEB」は京都の東寺に伝えられた日本中世の古文書「東寺百合文書」をCCライセンスに
準拠する「オープンデータ」で公開し「OpenGLAM」の格好の先駆的事例となった。 写真=東寺百合文書WEBより
027ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
らは離れている京都府立総合資料館が、図書館界で評価を受けたというのが面白
いできごとですよね」と福島さんが語り出す。もともとは京都府立図書館の新館
として計画された建物が、紆余曲折を経て京都府立総合資料館として今日にい
たっている。
京都府立総合資料館の受賞理由にも記されている「オープンデータ」は、Library
of the Year 2015の第一次選考を通過している(インタビューの時点[2015年9月
7日]では最終選考会に残る4機関は公表されていなかった)。その受賞理由の中
に「ししょまろはん」の名前が入っているが、そのことに是住さんは「オープン
データという概念がまだそれほど広まっていないなかで取り上げられたのはとて
も意外です」と話す★4
。「ししょまろはん」は、もともと2013年6月から京都府の
人材育成制度の中で取り組んできたことで、府の職員が業務外活動することに対
する補助がきっかけとなったものだ(LRG12号 司書名鑑「是住久美子」参照)。若
手職員が地域のために動くことが推奨されていた状況に加え、自分よりも下の世
代の職員が増えてきたこともあり、「タイミング的にうまく動き出すことができ
た」と語る。
Library of the Yearを受賞して良かったこととしては、「図書館界の中で京都府
立総合資料館の名前を知ってもらえたことが大きい」と福島さんは話す。その一
方で、なぜLibrary of the Yearを受賞できたかが理解されずに、単に盛り上がっ
ているだけに留まってしまっているのではという懸念もあり、「MLAいずれの機
関も、クリエイティブ・コモンズを制度として上手に使えそうということがわ
かったが、著作権のことを含めてデジタルアーカイブのことを理解していない人
も多い」として、もう少し戦略的に物事を進めていく必要性を感じたそうだ。
是住さんは今後、「ししょまろはん」の取り組みも含めて、地域情報の活用の問
題をどうにかしていきたいと考えているそうだ。図書館は資料を集めるだけで終
わるのではなく、「つくるとか探してくるという積極的な姿勢が必要になる」と話
す。そういう活動の結果として今までの図書館像が変化していくとは思うが、「今
後の日本社会に必要な仕組みになるはず」と福島さんと是住さんのお二人は口を
揃えて語った。
これからのLibrary of the Yearの活動については、「ライブラリーの概念自体が
広がっている傾向がある」と述べた上で、今後は「ライブラリー的な活動をつかま
える・発見する作業」が大事になるのではと指摘された。言い換えれば、「ライブ
ラリーの概念の拡張」ということになるだろう。その概念を単に「共有すること」
028 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
を示すだけではなく、「それをどう広めていくか」というところまで想定していけ
れば良いのではないかと語る。
最後に、「『中小レポート』(1963年)や『市民の図書館』(1970年)から考えて
も、今日の図書館像というのはここ50年程度の時間でしかない。それはいずれ
終わってしまうものだと思う」「図書館という装置、その中にいるライブラリア
ンが何をするかを真面目に考えるということが必要なのではないか」と福島さん
はこれからの図書館についての意見を述べた。
「物事を図書館だけで考えていてはだめだと思う。地域やほかの施設との関わ
りの中で考えていくことが必要になるはず」という言葉からは、いろんな人と考
える、図書館も一緒に考える、そんな活動が求められているように感じられる。
インタビューの最後に、「図書館のような贅沢な資産を持っている機関は社会の
中でそんなに多くはないし、そこで働く人たちにはその強みを活かすことが求め
られると思う」と、お二人は図書館の未来の可能性に期待するコメントを残され
た。
D . 分析
1. 歴代受賞機関から見る「良い図書館」のトレンド
話題となる図書館サービスには時代ごとに流行りがあり、時代ごとに取り上
げられ、注目されるキーワードがある。それはたとえば「貸出サービス」や「移動
図書館」のような図書館としての基本的なサービスだったり、「児童サービス」や
「障害者サービス」などのような利用者のターゲットを想定したりするものもある。
あるいはここ数年の中では、「課題解決支援」「レファレンスサービス」「コミュ
ニティづくり」「場としての図書館」「まちづくり」「地域との連携」「デジタルアー
カイブ」「ラーニングコモンズ」「指定管理者制度」など、図書館界の中でトレン
ドとなった言葉を思い浮かべることができる。当然ながらLibrary of the Yearの
活動も図書館界の話題の移り変わりと連動しており、その時代ごとの影響を強く
受けている。
では、この10年間のLibrary of the Yearの歴史を振り返ってみて、「良い図書館」
029ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
の大まかなトレンドを掴んでみたいと思う。あくまで私見だが、それらは以下の
ように変化してきているといえる。
第一期 第1回(2006年)~第4回(2009年)
公共図書館を中心とした施設・活動に対する評価が行われていた時期。主
に具体的なサービス内容が評価される傾向が強く、選考理由を振り返ってみ
ても、たとえば鳥取県立図書館の「ビジネス支援サービス」、愛荘町立愛知川
図書館の「図書館員それぞれの専門分野」、千代田区立千代田図書館の「コン
シェルジュ」、大阪市立中央図書館の「データベースの利用」などに注目が集
まった。
第二期 第5回(2010年)~第7回(2012年)
施設・活動に対する評価に加え、「ウェブサービス」や「場」の仕組みにも注
目が集まった時期。また、前・小布施町立図書館の花井さんの「大賞を狙う」
という発言からもうかがえるように、Library of the Yearが賞としての価値
を高めてきた時期でもある。
第三期 第8回(2013年)~第10回(2015年)
再び公共図書館を中心とした施設・活動に対する評価が行われていた時期。
ただし第一期と異なり、たとえば伊那市立図書館の「新しい公共空間」、京都
府立総合資料館の「オープンデータ」など、「公共空間」や「公共性」というキー
ワードが取り上げられるようになってきている。
第一期は、誰もが「Library of the Yearとは何か」がわかっていない時期であり、
Library of the Yearというイベントの趣旨を形づくっていく過程とも重なってい
る。つまり、このイベントで「優秀賞・大賞機関に選ばれることの意義」を受賞者
側が理解するだけではなく、主催者側にとっても「Library of the Yearとは何か」
を社会に対して問いかけなくてはならなかったわけである。主催者側としても、
「Library of the Yearという仕掛けがうまく軌道に乗るだろうか?」ということを
模索しながら進めていたことだろう。このことは第1回の大賞受賞機関である鳥
取県立図書館の小林さんが、第2回で愛荘町立愛知川図書館が大賞を取ったこと
で「ようやく自分たちが貰った賞の価値について納得することができた」と回想し
030 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
大阪市立中央図書館 第9回(2009年)に大賞受賞。図書館でのデータベース利用のモデルを示している点が評価された。
写真提供=大阪市立中央図書館
千代田区立千代田図書館 都心型図書館の新しいモデルとなることを意識したサービスで第8回(2008年)に大賞受賞。
写真提供=千代田区立千代田図書館
031ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
ているエピソードからも推察できる。そこには、Library of the Yearの趣旨を明
確に定着させようとするという意図が込められているようにも感じられる。
それに続く第二期には、カーリルやCiNii、saveMLAKなどのウェブサービスの
ほか、ビブリオバトルや住み開きのようなコミュニティづくりのアイデアなど、
建物を有する図書館ではなく、いわゆる「図書館的」な機関に大きな注目が集まっ
た時期でもある。ブレイクスルーを感じさせる力を持つ動きが、公共図書館以外
の領域から出てきたといえるだろう。
また、別の言い方をするならば、「建物を有する図書館からの面白い取り組み
が、相対的に弱まっていた時期」と見ることもできるかもしれない。なぜならば、
Library of the Yearとは、「今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動」
を重視して評価するものだが、言い換えれば、候補機関が総体的に良いかどうか
(平均点が高いかどうか)ではなく、「突出した評価ポイントによる一点突破」に
よって評価されることになるということでもある。図書館全体としての評価は抜
きにして、「ここの取り組みが面白い」「公共図書館にとって示唆的である」と判
断されればLibrary of the Yearの受賞につながることになるのだ。
そういった選考方針を考慮に入れながら、この時期の受賞機関数の増減にも
注目してみよう。原則的に優秀賞機関の数は毎年4機関だが、第4回(2009年)と
第5回(2010年)のみ3機関となっている。これは第一期から第二期へと移り変わ
るなかで、「突出した何か」を持つ機関が少なくなっていた時期とも推測できる。
2010年3月に登場したカーリルは公開からわずか半年で大賞を受賞しているが、
これはLibrary of the Yearの歴史の中でも突出して早い段階で評価された図書館
的活動の事例である。それは時代的に公共図書館側の面白い取り組みがあまり目
立たなくなっていたという事情も含まれているように思える★5
。
また、第二期にあたる第7回(2012年)においては4つの候補機関のうち、3つ
が建物を持たない機関となっている。この点について当時の選考過程の内情を少
し明かしてしまうと、優秀賞についてはビブリオバトル、saveMLAK、CiNiiの3
機関が先に決まり、残り1枠を争うなかで三重県立図書館が最後に確定したとい
う順番となっている。建物を有する図書館は最後になっていたわけだが、これも
実は「1枠は図書館に」という配慮が選考委員の意見としてまとまったものとなっ
ている。つまり第7回は第二期の傾向がもっとも顕著に表れた時期だと言えるだ
ろう。
032 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
第三期については、第一期と同様に建物を有する図書館に注目が集まるという
回帰が見られるが、その注目のされ方が変わってきたように思う。社会の中にお
ける図書館への期待が変化してきたという時代的な要因もあると思うが、全体的
に「公共」や「コミュニティ」などのキーワードへの関心が高まってきたような印象
を受ける。言い換えれば、「図書館はどんなサービスをすべきか」ではなく、「図
書館は地域の中でどんな役割を担うべきか」が問われるようになり、それが評価
されるようになったということだろう。
つまり、「個別のサービス事例」で優秀賞や大賞に選ばれることが難しくなり、
「地域の中での図書館の役割」を体現しているような機関が選ばれるようになって
きたわけである。賞というものは、その時代が求めている出来事を色濃く反映す
るものだが、それはLibrary of the Yearにも同じようなことが言える。このことは、
後述する審査員の選考理由からもうかがい知ることができる。
皇學館大学でのビブリオバトルの様子。ビブリオバトルサークル「ビブロフィリア」を主な活動場所としているほか、講義
やゼミの中でも実施している。 写真提供=岡野裕行
033ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
2. 評価のポイントをLibrary of the Yearの仕組みから考える
次に、Library of the Yearが設定している選考基準を以下に確認してみよう。
①今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている。
②公立図書館に限らず、公開された図書館的活動をしている機関、団体、活
動を対象とする。
③最近の1 〜 3年間程度の活動を評価対象期間とする。
これら3つのうち、もっとも重要となるのは①の基準である。単純に「今年度、
優秀な活動をした図書館」というように、選考の時点までの取り組みの良し悪し
を評価するのではなく、あくまで「今後の公共図書館のあり方を示唆する」という
条件がついていることが、Library of the Yearという賞を考える上で欠かすこと
のできない視点である。
このような選考基準を設けている理由については、創設メンバーの一人でもあ
る田村俊作氏が次のようにまとめている★6
。
①公共図書館の今後の方向性を考える上でヒントとなる活動を積極的に発掘
したいと考えたこと。
②発掘するプロセスの中で、IRI(NPO法人知的資源イニシアティブ)および
LTF(図書館コンサルティング・タスクフォース)のメンバー間で、今後の
公共図書館のあり方について積極的かつ具体的な議論の場を持ちたいと考
えたこと。
③IRIの議論と見解を広く関係者・国民一般に提示し、対話を通じて今後の
公共図書館の方向性を明らかにしたいと考えたこと。
④公共図書館の今後の方向性に対して示唆を与える活動は、公共図書館界の
外にもあると考えたこと。
田村氏の提示した以上のまとめから重要なキーワードを抜き出し、それらを整
理し直してみると、以下のような点が指摘できるだろう。
034 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
●発掘
  過去1 〜 3年くらいの取り組みから、注目すべき事例をすくい上げること。
Library of the Yearという仕組みを設けることで、選考委員や一般の人たち
に、「全国各地の図書館的な活動の中から、面白い取り組みを探し出そう」と
いう動機づけが生まれることになる。
 ●議論
  選考委員同士のクローズドな議論の中で、注目すべき事例を納得のいく形
に言語化し、共通理解をつくり上げていくこと。「図書館的な活動の面白い
取り組み」というものを、感覚的なレベルに留めることなく、他者に説明で
きる形で伝わる言葉を探す必要性が生まれてくる。
 ●対話
  注目すべき事例をオープンな最終選考会の場で取り上げることで、さらに
視点を広げ、その見解を公のものとしていくこと。また、「大賞を決める」と
いう仕組みを設けることにより、「ほかの候補機関よりも抜きん出た特徴を
探す」という思考を会場にいる全員へ促すことで、より良い意見が出てくる
ようなしかけとなっている。
 ●示唆
  最終選考会でのプレゼンおよび、審査員の講評などのやり取りを通じて、
先進的な事例を未来の公共図書館に通用するようなより一般化した形へと整
理していくこと。その際に、公立図書館以外の機関や団体などを含む「図書
館的活動」というように枠を大きくすることで、公共図書館の可能性をより
良い方向へと広げられる可能性が生まれてくる。
つまり、過去の優れた取り組みに倣うために先進事例を探し、現在(選考の時
点)の視点で選考委員が何度かの議論を経て注目すべき点を見出し、選ばれたプ
レゼンターがプレゼンをする過程でその言葉をさらに洗練して公開することで、
未来の公共図書館のあり方をみんなで探っていくという仕組みになっているわけ
である。
Library of the Yearの選考方法は、最終選考会に残るまでに二段階の手続きを
とっている。まずは第一次選考として、選考委員や一般からの推薦によって集
まった30機関ほどの中から8機関程度を選び出し、少し時間をおいて選考委員
が各自で要点をまとめ上げ、さらに検討を続けながら最終選考会に残る優秀賞4
035ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
機関を第二次選考として選び出す仕組みとなっている。
第一期の中では、特に第1回(2006年)の選考過程が特徴的で、第一次選考を
通過した機関の数が歴代の開催の中でももっとも多く、全部で11機関となって
いる。新しく始まった取り組みということもあり、どの程度の数まで絞り込めば
良いのかについて、選考委員同士でも落としどころを探っていたように感じられ
る★7
。
これまで公にしてこなかったが、3回目のエントリーでようやく優秀賞を受賞
したという事例もある。長崎市立図書館は第3回(2008年)、第7回(2012年)と
候補機関として名前が挙がりながらも、残念ながら最終選考会には進んでいない。
最終選考に残っていないため、候補機関として名前が挙がっていたことやその推
薦理由は選考委員以外には知られることもなかった。その後、第8回(2013年)
の開催のときにようやく優秀賞を受賞することになった。推薦理由も「PFI」や「大
型公共図書館」というものから、「がん情報サービス」というものに変わっており、
時代に合わせて多様な視点から注目されてきたことがわかる(表1)。
年度ごとにライバルとなる機関も変わってくるので、単純に「推薦理由が変
わったから」優秀賞に選ばれるようになるわけではない。年度ごとに最大でも4
機関という枠があるので、ギリギリの判断で枠から漏れてしまうということもあ
り得る。たとえば第7回(2012年)の際には、優秀賞の最後の一枠が三重県立図
書館に決まるまで、長崎市立図書館が最有力候補になっていたが、議論を詰めて
いくなかで最終的な結論に至ったという経緯がある。審査員同士の議論では「ど
ちらを優秀賞に選ぶか」という議論になる場面が意外と多く、すんなりと優秀賞
受賞が決まる機関のほうが少ないように思われる。
もちろん、全国の図書館数や「図書館的」機関の数を考えてみれば、Library of
the Yearの候補機関として名前が挙がるだけでもとてもすばらしいことではある。
また、繰り返し候補機関に名前が挙がってくるところもそう多くないので、長崎
市立図書館は長年にわたってポテンシャルの高い機関の一つだったともいえるだ
ろう。その一方で、最初に候補になった年から時間を隔てて優秀賞を受賞してい
ることからも、「良い」と思える図書館の取り組みは、同時代の中で即座に評価に
つながることが難しいことも示している。
それとは反対に、「複数回名前が挙がったものの、選ばれなかった」という機関
もある。第1回目(2006年)と第4回目(2009年)に候補機関として名前が挙がっ
036 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
た岡山県立図書館などがその事例である。「1回だけ名前が挙がったことがある
(第一次選考を通過した)」という図書館も結構な数に上るが、これまでの最終選
考会の顔ぶれを見ればわかるように、第二次選考を通過するのはほんの限られた
機関でしかないことがわかる。
3. 優秀賞と大賞を「選ぶ人」
冒頭から単純に「選ぶ人」という言い方をしているが、Library of the Yearにお
いては、「選ぶ人」が意味する対象には違いがある。以下に示すとおり、いくつか
の立場に分けることができるだろう。
回数 結果 推薦理由
第3回
(2008年) 候補
民間企業の資金とノウハウを利用するPFI方式で2008年1月5日に
開館した。効率的な運営を考慮した設計によって、高いコストパ
フォーマンスを実現し、入館者は1日平均5,000人を記録する。オー
ソドックスな図書館サービスを志向し、原爆資料、地域資料や外国
語資料の収集に力を注いでいる。これからの大型公共図書館のモデ
ルとしてLibrary of the Yearに推薦する。
第7回
(2012年) 候補
図書館PFIの5例目であるが、そのなかでは最大規模であり、そのよ
うな規模でのPFIの可能性を立証した。運営にあたって民間事業者
からの提案として、自動貸出機、自動閉架書庫、返却本の自動仕分
機の導入など最新の機械化を行った。これによって、本館160万冊、
分館・分室60万冊、計220万冊の貸出・返却業務の効率化、安定化
を果たした。広範な市民サービスを展開しつつ、本館がビジネス街
という好立地にあるため、おしゃれなレストランを含め、利用者の
来館時間のピークが12時〜 14時と17時〜 18時であるなど、本館来
館者数が年間100万人を超える新しい都市型図書館の好ましい像を
確立した。
第8回
(2013年)
優秀賞
地域の課題として「がん情報サービス」を取り上げ、県・市の行政担
当部課、医療機関などと協力して展開してきた事業(がん情報コー
ナーの設置、レファレンスの充実、がんに関する講演会など)が、市
民はもとより県・市医療機関からも高い評価を得ている点が評価さ
れた。
表1 長崎市立図書館の推薦理由の変遷
037ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
①選考委員
  第一次選考会・第二次選考会を通じて、優秀賞4機関(大賞を決定するた
めの最終選考会に選出される機関)を直接的に選ぶ人たち。第二次選考会で
優秀賞4機関を選ぶに際しては、選考委員が一人につき2票の投票権を持っ
ている。さらに、普段はあまり意識されないが、審査員とプレゼンターを選
ぶ立場にもあるのがこの人たちである。選考委員がプレゼンターを兼ねて最
終選考会のステージに上がることもあるが、その多くは表舞台には現れず、
ほとんどは陰の存在としてLibrary of the Yearに関わっている。メンバーに
は追加や退任もあるが、それほど顔ぶれが変化するわけではなく、基本的に
は継続的に関わっていることが多い。なお、座長を除いて最終選考会におけ
る審査員を引き受けることはないため、大賞を決めるための最終的な投票権
を持つこともない。
②審査員
  大賞機関を選ぶために1票の投票権を有する人たち。年度によって人数は
異なるが、各回とも5・6人によって構成される。メンバーの選出にあたっ
ては、なるべく異なる立場にいる者(図書館総合展運営委員会、学識経験者、
前年度大賞受賞機関の代表者、現場経験者など)、なるべく異なる年齢層の
者(たとえば若手のメンバーを意識的に入れる)、男女の割合のバランスなど、
さまざまな要因が考慮される。審査員は選考委員によって選ばれることで、
最終選考会で公の舞台に登場する。
③プレゼンター
  候補機関が優秀賞として選ばれた理由や、その年の大賞に推すために、最
終選考会でのプレゼンを担当する人たちである。基本的には候補機関とゆか
りがある人が選ばれることが多いが、プレゼン準備のために候補機関に一
度は足を運ぶ必要があるため、予算の都合上、なるべく近場の人が選ばれる
ケースもある。第二次選考会が終わり、最終選考会に残った4機関が確定次
第に、即座に人選がなされる。
④来場者(会場票)
  Library of the Yearには会場票という仕組みがある。第3回(2008年)から
導入されており、現在のような最終選考会の会場に来場した人たちによる会
場票方式になった。過去のLibrary of the Yearでは、最終的に1票差で大賞
が決まることも実際に起こっており、ギリギリのところで評価が分かれるポ
038 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
イントとなる票でもある。また、第3回(2008年)のみ、会場票が2票となっ
ていた。
⑤寄付者(READYFOR票)
  第9回(2014年)のみ導入された投票の仕組みで、会場票と並んで一般か
らの投票の機会となっている。Library of the Yearは基本的にメンバーが手
弁当で運営しているため、慢性的に活動資金が不足しており、クラウドファ
ンディングサービスであるREADYFORで活動資金を募り、寄付をしてくれ
た一般の人に投票の権利を拡充するために考案された。従来は一般からの投
票は当日の来場者による会場票のみなので、READYFOR票の設置による投票
機会の増加は、最終的な結果に一般からの評価が入る余地が増えることに
なった。しかし、第10回(2015年)ではREADYFOR票はなくなったので、結
果的に第9回(2014年)のみの投票方式となった。
⑥推薦者
  Library of the Yearは基本的に選考委員が候補機関を出すが、一般からの
推薦も受け付けている。選考委員だけでは全国各地の取り組みをフォローす
ることができないためである。また、「良い図書館」を探す活動はみんなに取
り組んでほしいことであり、選考委員も気づかなかったさまざまな図書館活
動をすくい上げるためにも、このような広範な事例を収集する仕組みが必要
となる。最終選考会には一般推薦機関からのものが毎年いくつか選ばれてい
るので、その影響力は決して小さくはない。
以上のように整理してみると、「Library of the Yearの大賞を選ぶ」ということ
がそれほど単純なものではないことがわかるだろう。関係者それぞれに個人の思
惑があるのは当然だが、誰かが意図的に選考結果を操作できるような余地は残さ
れていない。
Library of the Year 2013の審査員を務めた川口市メディアセブン(当時)の氏
うじはら
原
茂
しげゆき
将氏は、このような選考方法について以下のようにまとめている。
Library of the Yearでは、まず第一次選考候補をひろく公募する。自薦も
あれば他薦もある。事実、ぼくがディレクターを務める川口市メディアセブ
ンも2011年には一次選考を通過していたそうだが、当時はまったく知らず、
今回審査員を引き受けるにあたってはじめて知ったぐらいだ。
039ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
一次選考から絞り込まれた4 ~ 5つの候補は優秀賞となり、図書館総合展
での公開選考会に臨むこととなるのだが、ここで活動をプレゼンテーション
するのも、関係者ではない。プレゼンターが自らの推す候補を7分ほどで紹
介し、それを審査員と会場で審査する。
まな板の鯉とはまさにこのことで、活動主体の自己評価が入り込む隙間が
なく、団体票も機能しない設計となっているのは好ましい。
審査員経験者に「まな板の鯉」と評されるLibrary of the Yearの選考方法だが、
多様なプレーヤーがそれぞれの立場で関わっているため、大賞を受賞する機関を
コントロールする(意図的に推す)ことは不可能な仕組みになっている。
Library of the Yearの選考委員は候補機関を選び出し、推薦理由を書くという
大きな道筋をつくる部分を担当しているが、最終的な投票権を持っていない。プ
レゼンターは与えられた推薦理由をもとに候補機関を推す理由をまとめ上げ、最
終選考会の会場でプレゼンをするが、役目としてはそこまでであり、最終的な投
票には関わることができない。審査員は投票の権利を有すが、事前に与えられる
情報は選考委員から示された推薦理由だけであり、当日の会場でのプレゼンをも
とに大賞候補機関を選ぶことになる。そして、プレゼンターも審査員も、選考委
員によって選出されるという突然の指名のもとに会場に赴くことになる。
また、来場者は会場票の権利を持っているが、審査員票とは異なり、会場全体
で1票分とカウントされるため、結果に影響を与えるには小さく、1票の重みが
抑えられている。もちろん第6回(2011年)や第7回(2012年)のように、審査員
票が同数のために、会場票で結果が左右されることもあったので、重要な1票で
あることの価値は変わらない。そして氏原氏が「まな板の鯉」と指摘するように、
活動主体となる候補機関は何もすることができず、会場から結果を見守る立場に
しかないわけである。
Library of the Yearの結果が面白いのは、このように多様なプレーヤーがそれ
ぞれの立場で与えられた役目を務め、それらが絡み合いながら「大賞を決定する」
という一つの目標に向かって議論を進めていく過程が大事にされているためであ
ろう。Library of the Yearはそこに関わる誰もが当事者でありながら、それでい
て誰もが結果をコントロールする立場にはない。最終選考会の結果は、まさに
「神のみぞ知る」と言えるだろう。
040 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
4. 選考方法の変化がもたらしたものとは?
Library of the Yearの選考方法は、各年度の終了後に反省点を洗い出し、毎年
のように微調整している。表2のように変化のポイントをまとめてみた。
選考方法の変化としてもっとも大きなものは、第2回までと第3回目以降であ
ろう。最初期の第1・2回目については、プレゼンターが審査員の役割もかねて
おり、互選方式での大賞決定となっていた。これはLibrary of the Yearの初期に
おいて、「選考の過程の中で議論の場を設ける」ことが念頭にあったためと言える
だろう。しかし、こういった選考方法だと、「みんなで選ぶ」というよりも、「一
部の人たちが選ぶ」という印象も強くなる。また、審査員という存在がいないた
めに議論の内容や評価の幅も狭くなりがちであり、会場票が考慮されることもな
いために「みんなで選ぶ」という印象も薄くなる。「互選方式」による選考過程は、
「公的」「公平」を目指すよりも、Library of the Yearの選考委員(プレゼンター兼
審査員である)同士で「勝手に盛り上がっている」という印象が強かったのではな
いかと思われる。
そのような反省も踏まえて、第3回目以降から投票の方法が大きく変わり、現
在まで続いている「候補機関を選出する選考委員」「最終選考会でのプレゼンを行
うプレゼンター」「最終選考会での評価を行う審査員」「会場票を投じる来場者」
という分業制が確立し、第3回(2008年)の会場票が2票となっているところ、第
9回のREADYFOR票が加わっているところを例外として、ほぼ「審査員票6票+
会場票1票」という構成になっている。
Library of the Yearにおいては、選考委員が「候補機関を選ぶ」だけではなく、「審
査員を選ぶ」「プレゼンターを選ぶ」ことも行われている仕組みになっている。最
終的にどの候補機関に票を投じるかは各審査員の判断によることは当然だが、そ
もそも「なぜその審査員を選んだのか」については説明されることがない。
また、Library of the Yearへの批判の一つに、「優秀賞発表までの選考過程が不
透明」というものがある★8
。これについても修正が施されていて、第9回(2014
年)以降は、第一次選考の結果を途中経過として公にする方針に変更している。
これによる変化は審査過程にも表れることになり、たとえばLibrary of the Year
2014の審査員の一人を務めた平賀研也氏(現・県立長野図書館長)は、以下のよ
うに胸の内を綴っている★9
。
041ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
開催回数 大賞選考の投票方式 第一次選考結果の公表
第1回
(2006年)
プレゼンター 4人による互選方式。唯一の会場票なし。 なし
第2回
(2007年)
プレゼンターによる互選方式。
パネルを設置しての来場者投票による会場賞も授与。
なし
第3回
(2008年)
審査員5票+会場票2票 なし
第4回
(2009年)
審査員6票+会場票1票 なし
第5回
(2010年)
審査員6票+会場票1票 なし
第6回
(2011年)
審査員6票+会場票1票 なし
第7回
(2012年)
審査員6票+会場票1票 なし
第8回
(2013年)
審査員6票+会場票1票 なし
第9回
(2014年)
審査員5票+会場票1票+READYFOR票1票
第一次選考結果として
8機関を公表した。
第10回
(2015年)
審査員6票+会場票1票
第一次選考結果として
6機関を公表した。
表2 選考方法の変化
042 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
ボクが審査員を依頼されたのは、4つの優秀賞・大賞候補がプレスリリー
スされた直後の9月末だった。ボクはこの4件ではなく、その前の8件に遡
り、その選定理由を読み、さらに知り得る情報を加えて3つのグループに分
けて考えた。Library of the Year委員会メンバーが選択にあたって論議した
であろう“先進性”の視点を読み解き、ボク自身の考える“これからの図書館”
の視点とたたかわせ、重ね合わせたかったからだ。
平賀氏が行ったような「この4件ではなく、その前の8件に遡り」という作業は、
第一次選考結果を非公開にしていた2013年まではできなかったことで、審査員
の行動にも影響を与えることになったということが見てとれる。すべての審査員
が平賀氏のように深く考えていたのかどうかは別としても、優秀賞の4機関だけ
ではなく、第一次選考を通過したほかの機関をも含めて選考委員の意図を読み取
ろうとするのは、Library of the Yearの新しい楽しみ方の一つであるように思う。
今年度のLibrary of the Year 2015も、第一次選考結果として6機関を公表し、そ
の上で優秀賞を4機関に絞っているが、そのことが果たしてどのような影響を審
査結果に及ぼすことになったのだろうか。
次に審査結果に大きな影響力を持つ審査員とプレゼンターについて考えてみた
い。表3に示しているのは、審査員またはプレゼンターとしてLibrary of the Year
の舞台に2回以上登壇している人の名前である。このうち第1回(2006年)と第
2回(2007年)については、プレゼンターが審査員も兼ねている互選方式のため、
両方にカウントしている。
こうして並べて見ると、以下のような特徴が見えてくる。
●大
おおぐし
串夏
なつ
身
み
氏と小林麻実氏の二人が、ほぼ全般的にLibrary of the Yearの最
終選考会に関わってきた。
●柳与志夫氏、福林靖博氏、田村俊作氏、長
は
谷
せ
川
がわ
豊
とよひろ
祐氏らは、初期のLibrary
of the Yearの最終選考会に関わることで形をつくってきた。
●糸
いと
賀
が
雅
まさ
児
る
氏と千
ち の
野信
のぶひろ
浩氏の二人は、特に第二期の最終選考会に深く関わっ
ていた。
審査結果はほかの審査員の票も絡むため、「誰が大賞を選んできたのか」につい
043ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
氏名 審査員回数 プレゼンター回数 合計 担当回
1 大
おおぐし
串夏
な つ み
身 6 4 10 1, 2, 3, 6, 7, 8, 9, 10
2 小林麻実 4 1 5 3, 4, 5, 7, 8
3 柳与志夫 2 3 5 1, 2, 3
4 糸
い と が
賀雅
ま さ る
児 2 1 3 4, 5, 6
5 福林靖博 1 2 3 1, 3
6 千
ち の
野信
のぶひろ
浩 1 2 3 4, 6, 8
7 佐々木秀彦 2 0 2 3, 4
8 佐藤達生 2 0 2 4, 5
9 水
みずたに
谷長
た け し
志 2 0 2 5, 6
10 田村俊作 1 1 2 1
12 宇
う だ
陀則
のりひこ
彦 1 1 2 2
13 長谷川豊祐 1 1 2 2
14 村井良子 1 1 2 3, 7
15 岡本真 1 1 2 3, 4
16 内沼晋太郎 1 1 2 5, 9
17 野
の ず え
末俊
と し ひ こ
比古 1 1 2 6, 7
18 小田光宏 1 1 2 7, 8
19 平賀研也 1 1 2 9, 10
20 岡野裕行 0 2 2 6, 7
表3 審査員およびプレゼンターの登壇回数
044 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
てまで踏み込んだ言い方はできないが、特に3回以上の登壇実績がある上記のメ
ンバーは、Library of the Yearの大きな流れをつくってきた人たちと評価できる
だろう。
余談になるが、小林麻実氏は第1回(2006年)にアカデミーヒルズ六本木ライ
ブラリーとして、平賀研也氏は第8回(2013年)に伊那市立図書館として、また、
内沼晋太郎氏は第10回(2015年)にB&B(東京・下北沢にある書店)として、それ
ぞれ優秀賞に挙げられた受賞機関の関係者としてLibrary of the Yearに関わって
いる。これまでのLibrary of the Yearの歴史の中で、受賞機関の当事者、プレゼ
ンター、審査員のすべての役割を担ったことがあるのは、この3名だけとなって
いる。プレゼンターと審査員の役目は選考委員による指名になっているとしても、
そういった役回りが巡ってくる立場にいることも評価されるところだろう。
5. 受賞を狙うことは果たして可能なのか
さて、審査員には一人につき1票の投票権が与えられているが、基本的には
B&Bの店内 写真提供=B&B
045ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
「誰がどの機関に投票したのか」は公にされない仕組みのため、審査員がどういう
判断で最終的に票を投じたのかを知ることはできない。だが、各審査員がどうい
う基準を設定していたのかについては、結果発表前のコメントによって、ある程
度把握することは可能である。
Library of the Year初期の頃については振り返りが困難だが、2011年から2015
年までの5年分についてはYouTubeに動画が残されているので、そこからコメン
トを抜き出すことができる。審査員のコメントについては、大まかに次の3形態
に分けることができる。
①個々の候補機関についてコメントを述べるのではなく、審査員としての評
価基準を簡潔に述べたもの。
②すべての候補機関についてのコメントを順に述べていくもの。
③投票した機関のみに言及することで、投票した候補機関をほのめかしてし
まったもの。
コメントとしては②は感想に近いものであり、話が冗長になりすぎることも
あって、観客の立場としてはあまり面白いものにはならない印象がある。また、
③はあまりにも正直にネタバレしすぎて、イベント進行への配慮が感じられず、
コメントとしては白けてしまう要因にもなってしまう。審査員という役目を担う
からには、やはり①のように「その審査員ならではの評価基準」を明確に示しても
らえると会場で聴いていても楽しいコメントとなるように思える。
過去の開催事例の中から、注目に値するいくつかの判断基準を以下にまとめて
みた。
第6回(2011年)
●鳴
な る み
海雅
ま さ と
人氏「リアルな場所として空間の魅力があるかどうか」
●野末俊比古氏「我々人間が育っていく場として機能しているか」
●吉本龍司氏「場としてのコミュニティがつくれるかどうか」
●水
みずたに
谷長
た け し
志氏「どういうふうにしたいか(コンセプト)、言葉として伝えるこ
と(メッセージ)、形に見えるしくみ(デザイン)という三つが連動している
か」
046 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
第7回(2012年)
● 林
はやし
賢
たかのり
紀氏「誰に対しての活動なのかを意識しているか」
●村井良子氏「みんなが幸せになれるような今後の可能性を感じられるか」
第8回(2013年)
●氏原茂将氏「本の形になっていない、形になりえない知というものにどの
ように関わっているのか」
●高野明彦氏「図書館側から何らかのブレイクスルーとなるものをつくれて
いるか」
●山崎博樹氏「地域に対してどれだけの活性化を図っていけるか、そして真
似ができるか」
第9回(2014年)
●平賀研也氏「オープン(これからの図書館や知をめぐる活動)やコラーニン
グ(共に学ぶ、共につくる、共に知る)が実現できているか」
 ●内沼晋太郎氏「先進事例になっているか」
第10回(2015年)
●大串夏身氏「図書館とは何かを考えるきっかけになるか」
●飯
いいかわ
川昭
あきひろ
弘氏「身近にあったときに利用したいと思えるか」
●池谷のぞみ氏「何かしたいという利用者の気持ちをそっと支援してくれる
か、本と空間を結びつけてくれるているか」
●岡直樹氏「過去から伝わってきたものを未来に繋げようとしているか」
●小
お の
野永
は る き
貴氏「多様性を吸収できているか、利用者のフィールドについて考
えているか、人・物・空間のバランスが取れているか」
●鎌倉幸子氏「その地域にとっての100年後に何を残したいか、100年後に
私たちがどうあるのかを考えさせてくれるか」
実施時期や大賞候補として選出された優秀賞機関が年度ごとに違っているため、
評価において何を優先しているのかが違うのは当然だと思われる。そのため、そ
れぞれの回の候補機関がどこだったかを照らし合わせながらコメントを読んでほ
しいが、各審査員がどういうものの見方や覚悟でもってLibrary of the Yearでの
047ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
役目を引き受けているのかがわかるだろう。
最後にもう一つ別の視点から、「受賞を狙う」ということについて考えてみたい。
前・小布施町立図書館の花井さんのもとには、「どうすればLibrary of the Year
の大賞を取れるのか?」という相談が来るようになったというエピソードがある。
筆者が関わっているビブリオバトルでも 、「どうすればチャンプ本を取ることが
できるのか?」といった質問がよく寄せられるが、そのたびに「必勝法と呼べるも
のはない」「1回のゲームの中でチャンプ本に選ばれないほうが多い」といった答
えを返している。単純な勝ち負けよりも、「面白い」という気持ちが込められた言
葉を引き出し、楽しいコミュニティがつくれるかどうかを重視したいためである。
Library of the Yearには議論や対話という目的があることを考えれば、大賞ばか
りに注目が集まるのは、本来の趣旨からもずれることになる。
優秀賞にしろ大賞にしろ、受賞機関には長年にわたる地道な取り組みが根底
にあり、Library of theYearの仕組みがそこに注目することで結果として評価さ
れるものである。多治見市図書館の熊谷雅子館長は、Library of the Year 2015の
大賞受賞後のインタビューの中で、受賞理由となった地元の人に向き合った10
年間の活動に触れながら、「ご褒美をいただいたような気持ち」とコメントして
いる。この言葉は大賞を受賞する機関にもっともふさわしい表現のように思え
る。
「どうすればLibrary of the Yearの大賞を取れるのか?」に対する明確な答えは
ないが、「それでも何かできることは?」という視点になるならばできることは
ある。それは受賞を狙っている図書館のサービスを徹底的に見つめなおし、そ
の取り組みが利用者にとって、あるいはそのコミュニティにとってどういった
好影響をもたらすのかを考えてみることだ。先の3.のところで「選ぶ人」を整理
したが、実はそこにもう一つ追加することができる項目がある。それはその図
書館や図書館的活動を、普段から使っている「利用者」の存在である。「どうすれ
ば大賞が取れるのか?」を考えたいならば、図書館や図書館的活動が主体となり、
そのコミュニティを利用者とともに魅力的な場として地道に育てていくしかな
いだろう。
048 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
E . 課題・展望
1. Library of the Yearがもたらす好循環
Library of the Yearは図書館界に関わる賞だが、「図書館的活動」も選考の対象
になっていることからも、単に建物を有する図書館のみが選ばれるわけではない。
歴代のLibrary of the Yearを振り返ってみたとき、もっとも広い意味で図書館的
活動を評価したのは、第5回(2010年)のカーリルと、第7回(2012年)のビブリ
オバトルだろう。両サービスを生み出した受賞機関はともにLibrary of the Year
をきっかけとして広く図書館界に認識されることになった。その後の飛躍的な活
動の拡張にもLibrary of the Yearが影響を与えているものと考えられる。
カーリルについては「カーリルアカデミア★10
」「カーリルローカル★11
」「カー
リルレシピ★12
」「カーリルタッチ★13
」「カーリル図書館API★14
」などの展開を繰り
広げており、図書館界における情報検索について、さまざまな提案を出し続けて
いる。
また、ビブリオバトルがLibrary of the Year 2012の大賞を得たことについては、
筆者自身がビブリオバトル普及委員会の関係者の一人として、全国的な普及活動
に大きな力を得たことを強く感じている。現在、ビブリオバトルは図書館界だけ
ではなく、学校教育や地域のコミュニティ活動の一つとしても大きな広がりが出
てきている。2012年のタイミングで高く評価を得たことは、受賞した側のビブ
リオバトルにとっても、「今後の公共図書館のあり方を示唆する」ことを強く意識
しているLibrary of the Yearにとっても、両者にとって良い結果になったのでは
ないかと思う。
2.「良い図書館」を「良い」と言い続ける未来のこと
前述した氏原氏は、Library of the Yearの意義について、以下のように述べて
いる★15
。
①「良い図書館を良いと言う」ことで先進的な取り組みを知らしめ、図書館に
049ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
関わる人たちが真似るためのきっかけを提供すること。
②知識の収集、保存、公開のノウハウを共有し、それらを資源として再活用
し、知識の再生産を促していくこと。
③本に限定されない知識の全体性を捉え、知識の生産と発信を行って公にし
ていくこと。
また、田村氏はLibrary of the Yearの意義について、以下のようにもまとめて
いる★16
。
図書館に対する賞は、「学習へのアクセス賞」(ビル・アンド・メリンダ・
ゲイツ財団が授与する賞で、対象は情報への自由で平等なアクセスを実現す
るための活動を行っている図書館など)のように、賞金が図書館振興にとっ
て無視できないものとなることもあれば、顕著な実績の承認、有識者による
優秀性の評価、図書館を外部にPRする絶好の機会、といったさまざまな効
果を持つこともできる。賞の持つ意義を理解し、活かす知恵と工夫があれば、
こうした賞は図書館界の発展にとって効果的な手段となるに違いない。
カーリルのフライヤーより
050 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
上記のような二人の意見、また、関係者のインタビュー記録を踏まえながら、
Library of the Yearがもたらすものをまとめてみると、以下のようになるだろう。
①外部評価による事業の承認をする。
②外部評価による優秀性の評価をする。
③「良い」取り組みを言語化する。
④「良い」図書館の存在を公に周知する。
⑤人々の知識の再生産を促す。
⑥図書館活動におけるノウハウを共有する。
⑦図書館のPR活動に寄与する。
⑧人々に「良い」図書館を探す動機づけを促す。
⑨「良い」図書館を目指すきっかけを与える。
⑩「良い」図書館について考えるきっかけを与える。
Library of the Yearという活動の成果は、現実的にはそれほど大きなインパク
トはないかもしれない。しかし、10年間もの時間をかけて継続的に行ってきた
評価活動は、「変わり続ける図書館」についての視点を提示してきたことは間違い
ない。
また、「選考過程が不透明である」といった批判も寄せられているようだが、
Library of the Yearはもともと仲間内で好き勝手に楽しんでいたものから始まり、
その規模が若干大きなものへと変わってきた経緯がある。批判の声が多くなって
いるということは、それだけLibrary of the Yearに期待されるものも大きくなっ
てきたということでもあるだろう。それでも初期の頃は「大賞になるのが公立図
書館ばかりでつまらない★17
」と言われながら、かといって公立図書館以外のとこ
ろを選出すると「図書館以外の目立つものに飛びつく傾向がある★18
」と批判され
たりもしてきており、運営する側も判断に迷う部分もあっただろう。
だがこれは結局のところ、みんながそれぞれ「自分だったらここの図書館を選
ぶのに!」という強い思いを何かしら持っているということだろう。多様な図書
館(や図書館的活動)があり、それらの良いところを照らし合わせ、「一番良かっ
た」というところに票を入れることができる。「良い図書館」を選ぶという土壌が
育っていることは、とてもすばらしい文化であるようにも思える。
たとえばビブリオバトルのルールを参考にし、オススメの図書館を紹介する
051ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
「ビブリオテーク・バトル」というものが既に行われている事例があるように、「良
い図書館」を「良い」と言うことは実は誰にでも気軽にできることでもある★19、20
。
Library of the Yearのように公の賞として形づくるかは別としても、「図書館の面
白さについて自由に語る」という文化は、もっと世の中に広まってもいいのかも
しれない。「うまく言葉にできないんだけど、あの図書館はなんだか最近すごく
いいんだよね」というような場面で、Library of the Yearは「大賞を目指す」という
過程を大事にすることで、その図書館の良さを「うまく言葉にする」ことを目指し
てきた仕組みだったようにも思う。
ビブリオバトルはゲームという形式を取りながら、「面白い本」をシンプルに「面
白い」と話題にすることを促す仕組みだが、Library of the Yearは「良い図書館」を
シンプルに「良い」と言い続ける仕組みのように思える。ビブリオバトルは「書評」
という行為を身近なものへと変えてきた。それと同様に、この10年間でLibrary
of the Yearは、「図書館評」を身近なものへと変えてきている。「図書館について
語る」という行為がもっと世の中に広まっていけば、そこに新しい図書館のあり
方が見えてくるように思う。
「今後の公共図書館のあり方を示唆する」ものはいったいどこにあるのか。田村
氏は「賞の持つ意義を理解し、活かす知恵と工夫があれば」図書館界の発展にも効
果的だと述べている★21
。
つまり私たちに求められているのは、Library of the Yearが提示したものを活
かすための「知恵と工夫」なわけで、それは毎年のLibrary of the Yearが終了した
後に、私たちみんなに突きつけられた宿題だったわけである。図書館職員と図書
館利用者が一緒になり、私たちみんなが「知恵と工夫」について話し合いながら適
切な言葉を探り、これから先の未来の図書館のことを話題にしていけたらどうな
るだろうか。おそらく図書館という存在がますます楽しい場所になっていくに違
いない。
「今後の公共図書館のあり方を示唆する」活動のその先にある「知恵と工夫」には、
正解と呼べるものはないだろう。そこに必要となるのは、「正しい」でも「一番」で
もなく、シンプルに「良い」と言うことであり、「良い」と呼べるものを探すことだ。
それについては、これから先の図書館に関わっていく私たち一人ひとりが考え続
け、探し続けなければならないことだろう。「良い」と呼べるような図書館活動の
ヒントは、私たちの身近なところでも旅先でも見つけることができるはずである。
052 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
3. 未来につながる「良い図書館」
Library of the Year 2015は、くまもと森都心プラザ図書館、塩尻市立図書館/
えんぱーく、多治見市図書館、B&Bの4機関が優秀賞を受賞し、2015年11月12
日に行われた最終選考会でプレゼンが行われた。塩尻市立図書館/えんぱーくと
多治見市図書館の2館がそれぞれ3票ずつ獲得し、最終的に会場票を獲得してい
た多治見市図書館が大賞に選ばれるという結果になった。
多治見市図書館はその受賞理由のなかでも、そしてプレゼンターを務めた小嶋
智美さんのスライドのなかでも、「司書が足で稼ぐ」というキーワードが大きく
注目された★22、23
。多治見市図書館の熊谷雅子館長は今回の大賞受賞を振り返り、
次のようなメッセージを筆者宛に寄せてくださった。転載の許可をいただいたの
で、本稿の締めとして以下にご紹介したいと思う。
愛知川図書館が受賞された翌年に見学に行って、「足で稼ぐ」ということを
当時の渡部館長から直接お話しいただきました。ちょうど月末頃に来館され
る予定だそうですので、今回の受賞をご報告できることが嬉しいです。
Library of the Yearの大賞・優秀賞を受賞した機関の関係者が、どのようなこ
とを考えながら日々の仕事をされてきたのかは外部の人間にはわからないことも
多い。受賞機関を評価するポイントは、第一次選考から最終選考会を通じて言語
化されてはいるが、それはあくまで外部から見た「良い」取り組みでしかない。そ
こからさらにもう一歩踏み込み、受賞機関の関係者に公にしてもらいたいのは、
「自分たちの取り組みがどこから影響を受けてきたのか」というような「良い」取り
組みの系譜である。
前述したとおり、第8回(2013年)の審査員を務めた秋田県立図書館の山崎博
樹氏は、審査基準として「真似ることができるものであること」を掲げていた★24
。
「良い」図書館サービスは真似ができるというのは確かにそのとおりだろう。しか
し、真似をすることができるのは目に見える具体的な取り組みだけではなく、図
書館サービスを展開するに際しての心構えや考え方も含まれる。2015年に注目
された「足で稼ぐ」というキーワードは、実は2008年の時点で愛知川図書館から
多治見市図書館に伝わっていたものであり、その後の数年間のなかで、多治見市
図書館の地道で着実な活動を通して大きく育まれ、今日へとつながってきたもの
053ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
である。目に見えるものだけではなく、限られた視察の機会から目に見えないも
のをいかにして吸収してくるのか。Library of the Yearの大賞・優秀賞機関に学
ぶべきところは、このような図書館活動の基本的な理念の部分ではないだろうか。
Library of the Yearは10回目の開催をもって一旦休止となった。しかし、私た
ちはこれからも未来につながるような「良い図書館」を社会の中でつくらなければ
ならないし、そのヒントを探し続けなければならない。図書館活動の表面的な部
分を真似するだけではなく、根源となる理念の部分が真似をされ、さまざまな図
書館へと広がっていくことを期待しつつ、次の時代のLibrary of the Yearが登場
している世の中を夢見てみたい。
そして、もしそのような次の動きが現実のものとなるようならば、そのときは
ぜひあなたが見つけた「良い図書館」をあなた自身に語ってもらいたいと思うし、
そのことをみんなにも伝えてもらいたいとも思う。私たち一人ひとりが「良い図
書館」について語ってみることで、その世界を少しずつでも変えていけることは、
この10年間のLibrary of the Yearの活動の蓄積が教えてくれているはずである。
★1	 三重県立図書館「明日の県立図書館〜三重県立図書館改革実行計画〜」,http://www.library.pref.mie.lg.jp/info/
kenritsu/asu.htm
★2	 「島まるごと図書館構想」とは、“図書館のない島”というハンディキャップを逆に活かし、中央図書館と島の学校
(保育園〜高校)を中心に地区公民館や港、診療所などの人が集まる場所を「図書分館」と位置づけ、それらをネット
ワーク化することで、島全体を一つの『図書館』とする構想のこと。
★3	 国立国会図書館「【イベント】「しまとしょサミット2015 in 海士町」開催(4月12日、島根県海士町)」『カレントアウェ
アネス・ポータル』2015-02-24.http://current.ndl.go.jp/node/28044
★4	 「ししょまろはんラボ」http://libmaro.kyoto.jp/
★5	 選考条件の3つ目に「最近の1 ~ 3年間程度の活動を評価対象期間とする」とあるが、カーリルはサービスをリリー
スしてから即座に候補に取り上げられ、その年のうちにLibrary of the Year 2010の大賞を取ることになった。
★6	 田村俊作「Library of the Year:良い図書館を良いと言う」『カレントアウェアネス』No.297,2008-09.http://
current.ndl.go.jp/ca1669
★7	 ただし、実態としては「最初に選考委員から出たすべてが11機関」ということで、第1回目はリストに上げられたす
べての機関がその後の「第一次選考通過」と同じ扱いになっていたという事情がある。ここでは便宜上「第一次選考
通過」としたが、現在ほどにシステム化された形式にはなっていたなかった草創期ならではの選考の流れと言える。
054 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館
★8	 福林靖博「Library of the Year 2012最終選考会が終了」『Traveling LIBRARIAN-旅する図書館』2012-11-20.http://
d.hatena.ne.jp/yashimaru/20121120
★9	 平 賀 研 也「Library of the Year 2014 が 投 げ か け た も の 」2014-11-08.https://www.facebook.com/kenya.hiraga/
posts/740269646051744
★10	 カーリル「大学図書館対応『カーリル・アカデミア』スタート!」2010-09-10.http://blog.calil.jp/2010/09/blog-
post_09.html
★11	 カーリル「「カーリルローカル」をリリース。図書館検索を変えていきます。もう一度。」2011-02-01.http://blog.
calil.jp/2011/02/blog-post.html
★12	 カーリル「新機能「レシピ」を開始しました」2010-07-06.http://blog.calil.jp/2010/07/blog-post.html
★13	 国立国会図書館「本棚とウェブをスマートフォンの“タッチ”でつなげる新サービス「カーリルタッチ」が開始」『カ
レントアウェアネス・ポータル』2102-11-12.http://current.ndl.go.jp/node/22297
★14	 カーリル「図書館API仕様書」https://calil.jp/doc/api_ref.html
★15	 氏 原 茂 将「Library of the Year 2013 が 投 げ か け る ヒ ン ト 」『 マ ガ ジ ン 航 』2013-11-25.http://magazine-k.
jp/2013/11/25/library-of-the-year-2013/
★16	 田村俊作「Library of the Year:良い図書館を良いと言う」『カレントアウェアネス』No.297,2008-09.http://
current.ndl.go.jp/ca1669
★17	 福林靖博「勝手に総括する"Library of the Year 2006-2009"」『Traveling LIBRARIAN-旅する図書館屋』2009-12-09.
http://d.hatena.ne.jp/yashimaru/20091209
★18	 福林靖博「Library of the Year 2012 最終選考会が終了」『Traveling LIBRARIAN -旅する図書館屋』2009-11-20.
http://d.hatena.ne.jp/yashimaru/20121120
★19	 明治大学和泉図書館「北欧の図書館に行ってみたくなる話(行ってみたくなる図書館シリーズ No.1)」2014-03-06
★20	 室 蘭 工 業 大 学 附 属 図 書 館「 ビ ブ リ オ テ ー ク バ ト ル 」2015-01-23.https://www.facebook.com/MuroranIT.lib/
posts/800493100031040
★21	 田村俊作「Library of the Year:良い図書館を良いと言う」『カレントアウェアネス』No.297,2008-09.http://
current.ndl.go.jp/ca1669
★22	 知的資源イニシアティブ「Library of the Year 2015」http://www.iri-net.org/loy/loy2015.html
★23	 小嶋智美「多治見市図書館のご紹介:あなたも足で稼いでみよう」2015-11-12.http://www.slideshare.net/
satomikojima750/library-of-the-year-20151720151112
★24	 氏 原 茂 将「Library of the Year 2013 が 投 げ か け る ヒ ン ト 」『 マ ガ ジ ン 航 』2013-11-25.http://magazine-k.
jp/2013/11/25/library-of-the-year-2013/
Library of the Year10年の記録
 今回の総力特集にあたり、過去の Library of the Year の実施状況についての記
録と、Library of the Year の候補を含めたすべての受賞機関に向けられた講評を、
主催である NPO 法人 知的資源イニシアティブ(IRI)の全面協力により集約した。
 論考の分析にもあるように、Library of the Year は単に一等賞を決めるためだけ
の賞ではなく、その時代の流れとともに変化する「良い図書館」とは何かを象徴す
る一つの指標だととらえる。その中にはずっと変わらないこともあるかもしれな
いが、これらの記録から時代の変遷を読み解き、これからの新しい未来の図書館を
探る材料になれば幸いである。                 ふじたまさえ
056 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
回
年
(総合展)
主催/
企画運営
第一次選考:
選考1/選考2
最終選考
優秀賞♯1
プレゼンター
優秀賞♯2
プレゼンター
1
2006年
(第8回)
IRI/IRI
2015.7.11/
-
2015.11.20
鳥取県立図書館/
田村俊作
アカデミーヒルズ
六本木ライブラリー /
柳与志夫
2
2007年
(第9回)
IRI/IRI
2015.7.13/
-
2015.11.9
矢祭もったいない図書館/
柳与志夫
愛荘町立愛知川図書館/
大串夏身
3
2008年
(第10回)
IRI/IRI
2015.6.24/
-
2015.11.26
恵庭市立図書館/
大串夏身・福林靖博
旅する絵本カーニバル/
村井良子
4
2009年
(第11回)
IRI/IRI
2015.6.25/
2015.9.8
2015.11.12
渋沢栄一記念財団実業史
研究情報センター /
岡本真
大阪市立中央図書館/
糸賀雅児
5
2010年
(第12回)
総合展
運営委員会
/IRI
2015.6.29
-
2015.11.26
カーリル/
内沼晋太郎
京都国際
マンガミュージアム/
岡本明
6
2011年
(第13回)
総合展
運営委員会
/IRI
2015.6.7/
-
2015.11.11
小布施町立図書館/
大串夏身
東近江市立図書館/
岡野裕行
7
2012年
(第14回)
総合展
運営委員会
/IRI
2015.6.14/
-
2015.11.20
ビブリオバトル/
岡野裕行
saveMLAK/
熊谷慎一郎
8
2013年
(第15回)
総合展
運営委員会
/IRI
2015.6.25/
2015.9.13
2015.10.29
伊那市立図書館/
小田光宏
千代田区立日比谷
図書文化館/
小林麻実
9
2014年
(第16回)
総合展
運営委員会
/IRI
2015.6.20/
-
2015.11.7
京都府立総合資料館/
阿児雄之
海士町中央図書館/
天野由貴
10
2015年
(第17回)
総合展
運営委員会
/IRI
2015.6.10/
-
2015.11.12
多治見市図書館/
小嶋智美
くまもと森都心プラザ図書館
/
澁田勝
057ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
優秀賞3機関/
プレゼンター
優秀賞4機関/
プレゼンター
大賞 会場票最多
会場賞
(総合展来場者)
諫早市立たらみ図書館/
大串夏身
農林水産研究情報総合
センター /
福林靖博
鳥取県立図書館 - -
静岡市立御幸町図書館/
長谷川豊祐
横芝光町立図書館/
愛荘町立愛知川
図書館
愛荘町立愛知川
図書館
静岡市立御幸町
図書館
ジュンク堂書店池袋本店/
柳与志夫
千代田区立千代田図書館/
宇陀則彦
千代田区立千代田
図書館
旅する絵本
カーニバル
-
奈良県立図書情報館/
宮川陽子
- / - 大阪市立中央図書館 大阪市立中央図書館 -
神戸大学附属図書館
デジタルアーカイブ事業/
坪井賢一
- / - カーリル カーリル -
住み開き/
千野信浩
森ビルによる
ライブラリー事業/
満尾哲広
小布施町立図書館 小布施町立図書館 -
三重県立図書館/
高倉一紀
CiNii/
野末俊比古
ビブリオバトル CiNii -
長崎市立図書館/
舟田彰
まち塾@
まちライブラリー /
千野信浩
伊那市立図書館
まち塾@
まちライブラリー
-
NPO法人情報ステーション
「民間図書館」/
礒井純充
鯖江市図書館「文化の館」/
坪内一
京都府立総合資料館 海士町中央図書館 -
塩尻市立図書館/えんぱーく
/平賀研也
B&B/仲俣暁生 多治見市図書館 多治見市図書館
058 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
回 特別賞 選考1通過
選考委員長
(座長)
インター
ネット公募
地方協力員
1 -
味の素食の文化センター 芦屋市立図書館 諫早市立たら
み図書館 市川市立中央図書館 岡山県立図書館 光町立
図書館 つくばみらい市立図書館 六本木ライブラリー 
農林水産研究情報センター OZONE情報バンク 鳥取県立
図書館
田村俊作 - -
2 -
愛知川図書館 矢祭町もったいない図書館 横芝光町立図
書館 上田情報ライブラリー 静岡市立御幸町図書館
田村俊作 - -
3 -
千代田区立図書館 ジュンク堂書店池袋本店 旅する絵本
カーニバル 恵庭市立図書館 長崎市立図書館
大串夏身 - -
4 -
渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター 大阪市立図書
館 奈良県立図書情報館 エル・ライブラリー 岡山県立
図書館 東京女子医科大学病院からだ情報館
糸賀雅児 - ○
5
置戸町
生涯学習
情報センター
京都国際マンガミュージアム 東近江市立図書館 神戸大
学附属図書館デジタルアーカイブ事業 カーリル ゆうき
図書館
糸賀雅児 ○ ○
6 -
住み開き 森ビルによるライブラリー事業 小布施町立図
書館 文化学園大学図書館 福井県立図書館 東近江市立
図書館
糸賀雅児 ○ -
7 -
ビブリオバトル CiNii 長崎市立図書館 三重県立図書館 
saveMLAK
大串夏身 ○ -
8 図書館戦争
まちライブラリー 長崎市立図書館 リブライズ 日比谷
図書館 エルライブラリー 伊那市立伊那図書館
大串夏身 ○ -
9 -
京都府立総合資料館 オガールプロジェクト 海士町中央
図書館 武雄市図書館 福島県立図書館「東日本大震災福島
県復興ライブラリー」と同館職員の活動 鯖江市図書館「文
化の館」 NPO法人情報ステーション「民間図書館」 リブラ
イズ
大串夏身 ○ -
10
くまもと森都心プラザ図書館 塩尻市立図書館/えんぱー
く 多治見市図書館 千葉大学附属図書館/アカデミック・
リンク・センター B&B オープンデータに関する図書館の
動向
大串夏身 ○ -
059ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
審査員 会場票
READYFOR
票
クラウドファン
ディング
総合展運営
委補助
最終選考会
入場料
備考
プレゼンターによる互選 500円
プレゼンターによる互選 ○ - - - 500円
パネルを設置し、総合展来
場者に投票してもらい会場
賞を設置
高山正也/小林麻実/
佐々木秀彦/中谷正人/
岡本真
○ - - - 500円
2008年のみ会場票は2票
加算
小林麻実/佐々木秀彦/
佐藤達生/新谷迪子/
千野信浩/南亮一
○ - - - 500円
来場者に抽選で図書カード
を進呈
糸賀雅児/佐藤潔/佐藤達生/
小林麻実/小出いずみ/
水谷長志
○ - - 200,000円 - 展示会場にパネル設置
糸賀雅児/新田満夫/
鳴海雅人/吉本龍司/
水谷長志/野末俊比古
○ - - 200,000円 -
大串夏身/安田清晃/村井良
子/林賢紀/小田光宏/
小林麻実
○ - - 200,000円 -
大串夏身/山上昌彦/
猪谷千香/氏原茂将/
高野明彦/山崎博樹
○ - 200,000円 - -
大串夏身/松本吉史/
内沼晋太郎/柴野京子/
平賀研也
○ ○ 300,000円 - -
大串夏身/飯川昭弘/岡直樹/
小野永貴/池谷のぞみ/
鎌倉幸子
○ - 250,000円 - -
060 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第1回(2006年)
講評
第1回の"Library of the Year 2006"の大賞は、鳥取県立図書館が受賞。県全域
を対象として、学校、企業、公的機関など様々な県内の機関と連携しながら、地
域に関わって活動することにより、地域の役に立つ図書館をめざすというこれか
らの図書館のあり方を示した点が評価された。
大賞
■鳥取県立図書館
ビジネス支援サービスを始めとしためざましいサービス活動を展開するとともに、市町立図書
館および学校図書館との連携により、県全体の図書館サービスのレベルアップに積極的に取り
組んでいる。地域の中で、地域に関わって活動することにより、地域の役に立つ図書館をめざ
すというこれからの図書館のあり方を示した点が評価された。
優秀賞
■諫早市立たらみ図書館
図書館本来の活動と、社会教育的な集会・行事活動がうまく融合し、渾然一体となって、地域
の生活に溶け込んでいるところが一番の推薦理由。秋に訪問した際、図書館の外に干し柿が吊
してあったので尋ねたところ、利用者から「最近の子どもたちは、干し柿のつくり方も知らな
い」という声があったので、近所から渋柿を分けてもらい、子どもを集めてつくったとのこと。
こうした小さなイベントを日常的に気軽に行っているところが良い。
■六本木ライブラリー
「有料であること、会員制であること」は、公共図書館であることと矛盾しないばかりか、ある
程度の質を保証していくためには不可欠の要件のような気がする。図書館が提供するものが必
ずしも資料そのものでなくても、展示などでテーマ性を提供する、あるいは推薦本を通じて会
員相互の交流を図る、ゆったり本を読む、あるいはただぼんやりすることも含めて、ものを考
える(あるいは考えない)空間と時間を提供するという機能を、これからの公立図書館も取り込
んでいく必要があると思った。すべての公共図書館の見本というわけにはいかないが、見習う
べき点は多い。
061ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
■農林水産研究情報センター
RSSを活用して、各種情報(新着図書情報・ニュース・目次情報など)の発信や他機関の情
報の取り込みを行い、「web2.0 時代」に相応しい図書館サービスを模索している。また、
AGROPEDIA(農学情報資源システム)により、当機関の持つ情報・コンテンツも積極的にイ
ンターネットで提供している。
候補
・味の素食の文化センター
蔵書図書をほとんど開架で利用できるようにしている。利用しやすさ。書誌活動も活発。レファレンス
サービスも行っている。特徴としては、ライブラリーを利用しての総合学習のサポートを行っているこ
と。グループでの自主学習や修学旅行を兼ねての総合学習での利用もある。
・芦屋市立図書館
Webページを用いたサービスに力を入れていて、紙の資料とWeb上の資料を組み合わせたハイブリッ
ドサービスを明確に意識している。
・市川市立中央図書館
HPによる「お知らせ」の充実と、「レファレンス事例集」が月報として掲載され、「GIVE UP! 御存じの方は
お教え下さい」では利用者との双方向性も志向されている。システム系でない現場の図書館員がつくって
いる感じが伝わってくる。また、当局側からの業務委託に対応して、図書館の仕事を説明し、増員を勝ち
取った職員力も素晴らしい。
・岡山県立図書館
かつてあった場所よりも便利な現在の場所にわざわざ移した。岡山城・後楽園と隣接してそれらとともに
観光コースとして看板が立てられている。また、県庁と道路を隔てて隣同士で、県行政のためのサービス
拠点としても望ましい場所と言えるだろう。路面電車の停車駅から歩いて5分、利用者のアクセスにも優
れていると思う。
・横芝光町立図書館
図書館経営に対して町の行政としての支援が固いこと、施設面での充実が図られていること、諸サービス
がバランスよく実践されていること、HPの充実など情報発信型の図書館として期待できること、職員の
資質が高いものと予測されること。
・つくばみらい市立図書館
①「新聞記事にみる伊奈町&つくばエクスプレス&2町村合併」記事目録を制作し、HPで公開、②「つくば
エクスプレス&伊奈町行政情報コーナー」の運営など地域資料コレクションの整備充実を図っている。
・OZONE情報バンク
建築に関する専門図書館として、図書や雑誌のほか、建材や家具などのショールーム機能、コンサルテー
ション機能を備えており、様々な手段・メディアにより求める情報を探すことができる。運営は株式会社
リビング・デザインセンター(東京ガスの出資)。
062 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
諫早市立たらみ図書館 野外劇場では様々なイベントが行われる。 写真提供=諫早市立たらみ図書館諫早市立たらみ図書館 野外劇場では様々なイベントが行われる。 写真提供=諫早市立たらみ図書館
063ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
064 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
六本木ライブラリーのマイライブラリーゾーン。 写真提供=六本木ライブラリー
065ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
066 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第2回(2007年)
講評
第 2 回の "Library of the Year 2007" の大賞は、愛荘町立愛知川図書館が受賞。
図書館員がそれぞれの専門分野を持ち、町づくりに積極的に関わっている点が評
価された。
大賞
■愛荘町立愛知川図書館
図書館員がそれぞれの専門分野を持ち、町づくりに積極的に関わっている点が評価された。
優秀賞
■矢祭町もったいない図書館
図蔵書のすべてを寄贈により収集するという手法の独自性と、その実効性が評価された。
■横芝光町立図書館
インターネットを活用し、資料の利用を掘り起こすとともに、双方向の情報発信を行っている
点が評価された。
■静岡市立御幸町図書館
立地条件を生かして、ビジネス支援サービスなどを計画的に展開し、基本構想に基づいた運営
を実現している点が評価された。
候補
・上田情報ライブラリー
長野新幹線上田駅前という抜群の立地条件のもと、平日は20時30分まで開館。市民参加のNPO上田図
書館倶楽部との協働により、暮らしとビジネス支援、千曲川地域文化の創造と発信に力を入れ、各種セミ
ナーや文化事業を展開。
067ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
静岡市立御幸町図書館 立地条件を生かして、ビジネス支援サービスを展開する。 撮影=岡本真
愛荘町立愛知川図書館館内風景。 写真提供=愛荘町立愛知川図書館
068 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第3回(2008年)
講評
第3回"Library of the Year 2008"の大賞は、千代田区立千代田図書館が受賞。
都心型図書館の新しいモデルとなることを意識し、図書館コンシェルジュ、古書
店と連携した展示・販売仲介、電子図書貸出サービスなど数多くの新規サービス
を展開し、地域の様々な機関との連携を進めたことが評価された。
大賞
■千代田区立千代田図書館
指定管理者制度を採用して、22時までの開館やコンシェルジュなど都心型公共図書館の新し
い姿を提案している点。地元出版界・古書店・ミュージアムなどとも連携した幅広い活動を展
開している点が評価された。
優秀賞
■ジュンク堂書店池袋本店
調べものに利用できる十分な「蔵書」があり、本に詳しい、レファレンスサービスのできる社員
を擁して、講演、展示、「想」検索参加などの企画を展開している点が評価された。
■旅する絵本カーニバル
広域的な巡回図書館活動と美術館など各種機関との連携を通じた幅広い活動によって、子ども
や地域を育む「種」となる図書館のあり方を示している点が評価された。
■恵庭市立図書館
2002 年から始めたブックスタート事業による「子どもが幸福になれる」街づくりを図書館が中
心となって、各世代が関わる全市民的な読書振興活動として進めている点が評価された。
候補
・長崎市立図書館
民間企業の資金とノウハウを利用するPFI方式で、2008年1月5日に開館。効率的な運営を考慮した設
計によって高いコストパフォーマンスを実現し、入館者は1日平均5,000人を記録する。オーソドック
スな図書館サービスを志向し、原爆資料、地域資料や外国語資料の収集に力を注いでいる。これからの大
型公共図書館のモデルとして推薦。
069ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
千代田区立千代田図書館の学習コーナー。写真提供=千代田区立千代田図書館
千代田区立千代田図書館 地元出版界・古書店・ミュージアムなどと連携した幅広い活動を展開する。写真提供=千代田区立千代田図書館
070 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第4回(2009年)
講評
第4回"Library of the Year 2009"の大賞は、大阪市立中央図書館が受賞。HP が
四ヶ国語でつくられるなど「開かれた図書館」を実践している点、データベースの
数が多く利用が簡単であるなど、図書館でのデータベース利用のモデルを示して
いる点が評価された。
大賞
■大阪市立中央図書館
HPが四ヶ国語でつくられるなど「開かれた図書館」を実践している点、データベースの数が多
く利用が簡単であるなど、図書館でのデータベース利用のモデルを示している点が評価された。
優秀賞
■奈良県立図書情報館
奈良が持つ豊かな歴史と文化に着目し、伝統文化産業や関連NPOとの連携を進めるなど、従
来の公共図書館サービスを超えた新たな歴史・文化との結びつきを模索し、成功している点が
評価された。
大阪市立中央図書館のデータベース検索コーナー。 
写真提供=大阪市立中央図書館
071ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
■渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
単に資料を収集するだけはなく、研究機能をもつことによって情報・知識の生産を行っている
点、アーカイブ・博物館と連携し、WEB配信を駆使して、図書館の枠を超えた活動をしてい
る点が、今後の公共的な図書館のあり方について一つの考え方を示していると評価された。
候補
・エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)
年度中の行政による支援打ち切りという苦境にありながら、利用者を支援者へと変え、新たな形の民間公
共の専門図書館として順調に活動している。インターネットを積極的に活用することで、小規模かつ専門
的な図書館であっても、公共的な存在として成り立つ可能性があることを示している。また、ただ図書館
の有効性・有用性を訴えるだけの神学論争に陥ることなく、具体的な施策(ライブラリアンの待遇引き下
げや、一般利用者・支持者からの支援獲得、企業製品の販売促進など)に訴えることで、図書館の存続を
実現したことも評価したい。
・岡山県立図書館
一般の公共図書館が忌避している映像資料に積極的に取り組んでいること、特に既成の資料を収集するだ
けでなく、館内にメディア工房を設置して、各種講座を開催し、県民のなかから映像資料を創出していく
ことを支援しようとする姿勢が評価できる。実際に、映像コンテスト「デジタル岡山グランプリ」を主催
し、県民による新しい映像資料の創造・発掘に力を入れ、その成果は「デジタル岡山大百科」に蓄積されて
いる。
・東京女子医科大学病院からだ情報館
看護師と司書がカウンターにおり、医者と会う前に勉強できる。他の病院に比べて規模が大きい。外来患
者、入院患者、外部利用者など、利用者が幅広い。
渋沢栄一記念財団公式サイトより。
072 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
大阪市立中央図書館館内風景。 写真提供=大阪市立中央図書館
073ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
074 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第5回(2010年)
講評
第5回"Library of the Year 2010"の大賞は、カーリルが受賞。全国 5,000館を
超える図書館・図書室蔵書の横断検索サービスとして、従来の図書館系のサイト
Web サービスを凌駕している点、図書館界に留まらず大きな話題となった点が
評価された。
大賞
■カーリル
全国5,000館を超える図書館・図書室蔵書の横断検索サービスとして、従来の図書館系のサイ
トWebサービスを凌駕している点、図書館界に留まらず大きな話題となった点が評価された。
https://calil.jp/
優秀賞
■京都国際マンガミュージアム
京都市と京都精華大学の官民共同事業モデルとして、立地を活かした観光客もターゲットにし
たサービス・イベントを積極的に展開している点、豊富な漫画資料を所蔵して国内の類例機関
の嚆矢となった点が評価された。
歴史や社会・産業などが分野別に理解できる仕立てになっている京都国際マンガミュージアムの展示。
写真提供=京都国際マンガミュージアム
075ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
■神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ事業
国内研究機関有数のデジタルアーカイブ事業として、戦前の新聞記事や震災関係資料などのコ
ンテンツが充実している点、教員が作成したデータを、退職後に図書館が引き継いで事業化し
ている点などが評価された。
候補
・東近江市立図書館
「滋賀の図書館」を代表するような図書館だが、今回推薦するのは、市民の自主グループとの協同によっ
て、町づくりに図書館が関わろうとしている点。他の図書館にはない点として、取り上げるに値すると考
えた。
・ゆうき図書館
ウェブを使った情報発信にも力を入れており、かつ2009年頃からそれらのマニュアルを公開するように
なり、各館に影響を与えている。
特別賞
・置戸町生涯学習情報センター
「過疎の町における図書館」のモデルの一つとして、過疎地域自立促進特別措置法における地方債(過疎債)
の対象に図書館が含まれるようになったことに貢献したことが評価された。
置戸町生涯学習情報センター館内風景。 写真提供=置戸町生涯学習情報センター
076 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
京都国際マンガミュージアム 館内の漫画を屋外に持ち出して、芝生の上で読むことができる。 写真提供=京都国際マンガミュージアム
077ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
078 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第6回(2011年)
講評
第6回の"Library of the Year 2011"大賞は、小布施町立図書館が受賞。「交流と
創造を楽しむ文化の拠点」として、各種イベントの実施や地元の方100人のイン
タビューの電子書籍化を行うなど、小布施文化や地域活性化の拠点としての活動
を進めている点が今後の地域の公共図書館の在り方の参考となる点が評価された。
大賞
■小布施町立図書館
「交流と創造を楽しむ文化の拠点」として、各種イベントの実施や地元の方100人のインタ
ビューの電子書籍化を行うなど、小布施文化や地域活性化の拠点としての活動を進めている点
が、今後の地域の公共図書館の在り方の参考となるとして評価された。
小布施町立図書館館内風景。 撮影=岡本真
079ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
優秀賞
■住み開き
住み開き(すみびらき)とは、大阪と東京で行われている、自宅や事務所などのプライベートな
生活空間を、個人図書館や博物館などセミパブリックとして開放する活動のこと。公からの一
方的な情報提供から市民同士による情報提供への変化の一形態としてこれからの図書館のあり
方参考になる点が評価された。
■森ビルによるライブラリー事業
私立公共図書館(有料)として、利用者の知的生産活動を促す空間の創出をサービスの明確な目
標として掲げ、公共図書館事業を企業活動の一環として展開し、一時の話題になることなく、
利用者の増加や平河町ライブラリーの開館など継続的な成功を収めている点が評価された。
■東近江市立図書館
「市民の方が生まれてから亡くなるまで、豊かな生活ができるように支えるのが図書館の使命」
と考え、市民の自主グループと協同し、市民が地域の問題を発見・学習できる環境を整備する
ことで、図書館がリーダーシップをとる町づくりを積極的に進めていこうとしている点が評価
された。
候補
・文化学園大学図書館
服飾関係の膨大かつ貴重なコレクション・資料・映像などを収集、整理し、公開している。この度、図書
館が所蔵する貴重書関係をデジタル化して公開した。学園のコレクション総体の価値を高めるとともに、
世界の関係者が活用できるように、資料のタイトルなどを各国語に翻訳提供している。
・福井県立図書館
広く話題となった「覚え違いタイトル集」を始め、図書館の日常業務の中から紡ぎ出した知を還元するサー
ビス姿勢がハッキリしている。また、最近では公共図書館では初となるFacebookの本格的な利用を開
始するなど、新たな事業領域へのチャレンジもみられる。同時にレファレンス協同データベース事業への
顕著な貢献や、東日本大震災以前から実施していた他地域からのレファレンス対応など、県域を越えた図
書館間協力にも精力的に取り組んでいる。
080 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
講評
第7回"Library of the Year 2012"の大賞は、ビブリオバトルが受賞。「人を通じ
て本を知る/本を通じて人を知る」というコンセプトを掲げた知的書評合戦とし
て、全国大会が行われるほどの盛り上がりを見せており、継続的に行われている
こと、各地で開催されていることなども評価された。
大賞
■ビブリオバトル
発表者による好きな本のプレゼンやディスカッションを行うイベント。「人を通じて本を知る
/本を通じて人を知る」というコンセプトを掲げた知的書評合戦として、全国大会が行われる
ほどの盛り上がりを見せている。継続的に行われていること、各地で開催されていることなど
も評価された。
優秀賞
■CiNii
大学に限らず極めて広範に利用されるサービスとして、日本における学術コンテンツ発信の
先進事例となっている点が評価された。2011年11月にリニューアルされ、CiNii Articlesと
CiNii Booksの2本立て構成になったことを機会とし、今年の候補となった。
■三重県立図書館
県立図書館のあるべき姿をめざす「明日の県立図書館」をオープンな手法で策定し進めているこ
と、旬の企画を率先してプロデュースし、県内各地の公共図書館と共催する形で活動を展開し
ていることなど、県立図書館が県内の図書館活動を積極的に推進している点が評価された。
■saveMLAK
東日本大震災における博物館・美術館(M)、図書館(L)、文書館(A)、公民館(K)についての被
災・救援情報を収集・提供する活動、支援者と受援者をつなぐ中間支援活であるsaveMLAK
は、多数の有志の参加により幅広い活動として行われたことが、今後の災害支援の在り方のモ
デルになるとして評価された。
http://savemlak.jp/
第7回(2012年)
081ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
候補
・長崎市立図書館
図書館PFIの5例目であるが、そのなかでは最大規模であり、そのような規模でのPFIの可能性を立証し
た。運営にあたって民間事業者からの提案として、自動貸出機、自動閉架書庫、返却本の自動仕分機の導
入など最新の機械化を行った。これによって、本館160万冊、分館・分室60万冊、計220万冊の貸出・
返却業務の効率化、安定化を果たした。広範な市民サービスを展開しつつ、本館がビジネス街という好立
地にあるため、おしゃれなレストランを含め、利用者の来館時間のピークが12時~ 14時と17時~ 18
時であるなど、本館来館者数が年間100万人を超える新しい都市型図書館の好ましい像を確立した。
三重県立図書館 県立図書館が県内の図書館活動を積極的に推進している点が評価された。
写真提供=三重県立図書館
saveMLAK チラシ
082 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第8回(2013年)
講評
第 8 回 "Library of the Year 2013" の大賞は、伊那市立図書館が受賞。iPad/
iPhone アプリケーション「高遠ぶらり」を活用した「街中探索ワークショップ」や、
地域通貨「りぶら」の活用など、図書館というハコや仕組みの枠を超えた新鮮な提
案とその推進により、新しい公共空間としての地域図書館の可能性を広げている
点が評価された。
大賞
■伊那市立図書館
iPad/iPhone ア プ リ
ケーション「高遠ぶら
り」を活用した「街中
探索ワークショップ」
や、 地 域 通 貨「 り ぶ
ら」の活用など、図書
館というハコや仕組
みの枠を超えた新鮮
な提案とその推進に
より、新しい公共空
間としての地域図書
館の可能性を広げて
いる点が評価された。
森の中で読書活動を行う伊那市立図書館による「森の図書館」。
写真提供=伊那市立図書館
083ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
特別賞
■図書館戦争
図書館について関心を大いに高めた功績の大きさが評価された。
優秀賞
■まちライブラリー
「まち」毎に「まちライブラリー」(学びあいの場)を設け、そこで受講者自らが課題を持ち込み、
グループで議論し、「まち」を元気にするプランをつくり、実行していくことを目指した活動。
情報・知識の交換・創造の場を作る取り組みが広がっていることが評価された。
■長崎市立図書館
地域の課題として「がん情報サービス」を取り上げ、県・市の行政担当部課、医療機関などと協
力して展開してきた事業(がん情報コーナーの設置、レファレンスの充実、がんに関する講演
会など)が、市民はもとより県・市医療機関からも高い評価を得ている点が評価された。
■千代田区立日比谷図書館
館の目的として掲げた「図書館機能」「ミュージアム機能」「文化活動・交流機能」「アカデミー
機能」という、従来の図書館機能に博物館・学習・交流の機能を統合した複合施設として、そ
れぞれの分野で新しい事業・業務展開に意欲的に取り組んでいる点が評価された。
候補
・リブライズ
2012年に開発・公開された一種の図書館システム。バーコードリーダーでスキャンするだけで、本棚を
公開・共有型の図書館に変える機能を持っている。すでに200以上の「図書館」、4万冊以上の蔵書を生み
出しており、IT業界などからの注目も浴びている。極めて図書館的なシステムであり、図書館というモ
チーフを社会に広げており、強く推薦したい。
・エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)
以前にも推薦しているが、当時に比べ、1)MLA(Museum, Library, Archive)融合型図書館の実践、2)
民間公共図書館としての公益財団法人化、3)『大阪毎日新聞』記事索引データベースの公開を理由に再度
推したい。図書館の民営化の流れが、指定管理者制度のみの話に流れて多様性がないなか、同館の存在は
「民間公共」の図書館の一つのロールモデルとなっている。
084 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第9回(2014年)
講評
第9回"Library of the Year 2014"の大賞は、京都府立総合資料館が受賞。「東寺
百合文書 WEB」は、収録データを CC ライセンスに準拠する「オープンデータ」と
し、いわゆる「OpenGLAM」の格好の事例となっている。誰もが自由に利用でき
ると明示して提供したこの姿勢が、MLA 機関の指針となっている点が高く評価
された。
大賞
■京都府立総合資料館
かねてからMLA連携の実践館として各種デジタルアーカイブの構築を進めているが、3月に
公開した「東寺百合文書WEB」は資料価値もさることながら、収録データをCCライセンスに
準拠する「オープンデータ」とし、いわゆる「OpenGLAM」の格好の事例となっている。誰もが
自由に利用できると明示して提供したこの姿勢は、MLA機関の指針となっている点を高く評
価したい。
優秀賞
■福井県鯖江市図書館「文化の館」
図書館友の会実行委員が自主的に運営する「さばえライブラリーカフェ」は、100回以上の定
期開催の実績を誇る。テーマも高度であり、「市民がつくる図書館」としての面目躍如といえ
る。他にも、学校図
書館支援や地場産業
支援の取り組み、県
内初のクラウド型図
書館情報システムの
導入、鯖江市のオー
プンデータ政策との
連携、女子高生によ
る企画会議の開催な
ど、運営・事業面で
話題性と先駆性の高
さが評価された。
鯖江市図書館「文化の館」外観風景。 撮影=岡本真
085ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
■NPO法人情報ステーション「民間図書館」
千葉県船橋市を中心に、商店街の空店舗やマンションの一室などを活用し、地域密着型の小規
模図書館を運営。民間資金を調達し、図書は寄贈を募り、窓口はボランティアで賄っている。
住民同士の交流の場を創出し、地域活性化に寄与。都市型民間図書館の経営モデルとして普及
性が高い。
■海士町中央図書館
隠岐の離島という地理的ハンディのある過疎の町において、移住者を中心に公民館図書室の設
置、図書館の新設と、島民みんなでつくる新たな形の図書館整備を進めている。「島まるごと
図書館構想」は、地域内での分散型図書館サービスの先駆例でもある。また2013年にはクラ
ウドファンディングを利用し、図書館として日本で初めて成功した。過疎の町村の図書館振興
=まちづくり振興のモデルとして、学ぶところが大きい。
候補
・オガールプロジェクト
公民連携による公益・商業施設の整備事業。3年目を迎え、確実に定着してきており、事業展開も好調
である。図書館などの公益施設とマルシェのような商業施設の融合形態として、また民任せではない公
民連携事業として評価したい。
・武雄市図書館
民間ノウハウを生かしてまちの活性化=新たな地域価値の創造に意欲的に取り組み、一定の成果を上げて
いる。その手法や内容には賛否両論あるが、公共図書館の今後のあり方に一石を投じた点と、社会的な話
題性というインパクトの大きさでは、貢献大といえる。
・福島県立図書館「東日本大震災福島県復興ライブラリー」と同館職員の活動
候補単なる震災ライブラリーに留まらず、職員が様々な工夫で情報発信に取り組んでいる。解題付きブッ
クガイドを継続して発行。また図書館員による被災地での活動を似顔絵と共にポスターで伝える「The
Librarians of Fukushima」は国際的な評価も受けており、図書館員の震災復興に向けた熱い想いとエネ
ルギーの発露、そして知恵の結晶から、社会的機関としての図書館員が何をなすべきかを考えさせられ
る。
・リブライズ
「すべての本棚を図書館に」というコンセプトのもとに、本を通じた新しいコミュニケーションを生み出す
ウェブサービスである。カフェやオフィスなど、街じゅうのさまざまな本棚に図書館のような蔵書・貸出
管理機能を持たせることが可能であり、昨今注目されている「マイクロライブラリー」の普及にも一役買っ
ている。身近な本棚を「図書館」として捉えようとする試みと、それを実現可能にするツールの開発・提供
を高く評価。
086 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
第10回(2015年)
講評
第 10 回 "Library of the Year 2015" の大賞は、多治見市図書館が受賞。多治
見市図書館は、地域の産業である陶磁器産業への支援をビジネス支援・産業
支援として位置づけコレクションを構築し、資料収集に際しては、積極的に
地域に出て行って住民との交流を通して収集しているという点が評価された。
大賞
■多治見市図書館
地域の産業に根差した「陶磁器資料コレクション」は、ビジネス支援・産業支援として本来図書
館が取り組むべき課題に明確に向き合っている。特に収集が難しいミュージアムやギャラリー
の図録を数千点規模で収集しており、この「司書が足で稼ぐ」収集活動のありようは、他の図書
館にとって極めて示唆的である。
優秀賞
■くまもと森都心プラザ図書館
熊本駅前のまちづくりの拠点として新都市創出に貢献し、毎年100万名以上の来館を達成し
ている点を評価した。一般的なお話会等にとどまらず、図書館活用セミナーや写真展・展示
会、試飲会等、従来の図書館の枠にはまらない事業を展開し、かつ図書館機能と連動させてい
ることは、これからの図書館の可能性を打ち出すモデルとなりうる。
■塩尻市立図書館/えんぱーく
人口6万6000名の町でありながら、開館5年で累計来場者300万名を達成していることは、
地方の小都市においては異例の成果であり評価できる。単なる図書館単独施設ではなく、一体
的な組織運営も含め塩尻を中心とした周辺地域の市民交流機能をあわせ持っていることは、こ
れからの時代の地方都市における文化施設のあり方を端的に示している。
■B&B
2012年に東京・下北沢で開店して以降、従来の書店のあり方(経営、企画)に大きな波紋を投
じており、地方で衰退する「まちの小さな本屋さん」の復興のきざしとも取れる。また、地域コ
ミュニティと密接に関わって開催されるイベントは図書館からも注目を集めており、Library
of the Yearで評価する意義がある。
087ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
候補
・千葉大学附属図書館/アカデミック・リンク・センター
「考える学生」の創造を目指す千葉大学の新しい学習環境コンセプトとして、施設・サービス・スタッフを
充実させている。アクティブラーニング志向の学習支援環境の実現について、いち早く取り組んで高い完
成度で実現させている点、学術成果物をオープンにしている点を評価した。
・オープンデータに関する図書館の動向
オープンデータの推進を追い風として、図書館からの貢献や新しい形の利用者支援の可能性が議論されて
いる。京都府立図書館の司書による自己学習グループ「ししょまろはん」での活動や、図書館資料を活用し
て地域の文化資源を発掘・発信する「WikipediaTown」など、図書館が軸となった取り組みが増えてきた
このタイミングで、単独の機関の取り組みはなく総合的な流れとして評価する。
多治見市図書館 地域の産業に根差した「陶磁器資料コレクション」のコーナー。 写真提供=多治見市図書館
088 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
くまもと森都心プラザ図書館の企画展示「本×アート」地域で活動しているアーティストの作品と図書館資料の協同企画。
提供=くまもと森都心プラザ
くまもと森都心プラザの3、4Fに入る図書館では、ビジネス支援センターをはじめ、プラザ内の他の部門とも連携した
サービスを行っている。 写真提供=くまもと森都心プラザ図書館
089ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year10 年の記録
塩尻市立図書館/えんぱーく 毎年行われる「ライブラリージャズコンサート」に合わせて行われたジャズ楽器展の様子。 
写真提供=塩尻市立図書館/えんぱーく
塩尻市立図書館/えんぱーく 書館単独施設ではなく、一体的な組織運営も含め塩尻を中心とした周辺地域の市民交流機
能をあわせ持つ。 写真提供=塩尻市立図書館/えんぱーく
090 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
第 17 回図書館総合展の ARG
ブースでは、< ARG スタジオ
「未来の図書館、はじめません
か?」>というテーマで、代表
の岡本真をメインパーソナリ
ティとし、多彩なゲストをお迎
えしてトークセッションを開催
しました。そのなかの一つで
あった「Library of the Year 2015
直前スペシャルトークセッショ
ン」の様子をお伝えします。
2015年11月12日(木)13:00 ~ 14:30
第17回図書館総合展 ARGブース
◎ゲスト(五十音順):
 ・伊東直登(塩尻市立図書館/えんぱーく)
 ・内沼晋太郎(B&B)
 ・河瀬裕子(くまもと森都心プラザ図書館)
 ・熊谷雅子(多治見市図書館/ヤマカまなびパーク)
◎MC:
 ・岡本真(アカデミック・リソース・ガイド株式会社)
 ・仲俣暁生(『マガジン航』編集人)
Library of the Year 2015から考える、
未来の図書館
直前スペシャルトークセッション
091ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
はじめに
岡本 司会進行を務めます岡本真です。アカデミック・リソース・ガイド株式会
社の代表であり、Library of the Yearの選考委員をしています。ぶっちゃけて言
いますと、塩尻市立図書館、B&B、くまもと森都心プラザ図書館、多治見市図書
館、全部私が推薦させていただきました。このあと15時半から最終選考会なら
びに授賞式があるんですけれど、どこが大賞を取ってもまったく異論はありませ
ん。「もういいじゃん、全部大賞で!」みたいな(笑)。甲乙付け難いところが4つ
もあるというのが、こういう仕事をしてきて、すごく嬉しいことだと思っていま
す。
ということで、ご紹介します。私のすぐ隣にいらっしゃるのが……皆さん、い
つも読み方がよくわからないとおっしゃるですが、くまもと森
し ん と し ん
都心プラザ図書館
の副館長である河瀬裕子さんです。そのお隣にいらっしゃいますのが、岐阜県の
多治見市図書館の館長である熊谷雅子さんです。今回は4つの施設が受賞してい
ますが、公共図書館が3つあります。その3つ目、長野県の塩尻市立図書館の館
長である伊東直登さんです。そして、ARGブースのお向かいのブースとして出展
していただいております、『本の逆襲』(朝日出版社、2013年)などの著者でもあ
る下北沢の書店B&Bの経営者、内沼晋太郎さんです。そのお隣にいらっしゃいま
すのが、私と一緒に進行役を務めるオンラインマガジン「マガジン航」編集人の仲
俣暁生さんです。
(会場拍手)
岡本 実は一週間くらい前に気づいたんですが、仲俣さんって、B&Bのプレゼン
ターだよね、みたいな(苦笑)。
仲俣 そうなんです。このあとの本番で僕はB&Bを応援するので、ちょっと微妙
なんですけども(苦笑)。
岡本 公正を期すために言いますと、仲俣さんは『マガジン航』の編集者としてこ
のトークセッションに関心をお持ちなので、今回は取材的なインタビューをして
092 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
いただきたいと進行をお願いしました。ちなみに、塩尻市立図書館のプレゼン
ターを務める県立長野図書館館長の平賀研也さんもそこにいて……。
仲俣 あ、いらっしゃるんですね(笑)。
岡本 多治見市図書館のプレゼンターを務めるインデペンデント・ライブラリア
ンの小嶋智美さんがそこにいると。なので、会場のお二人は、不公正なものを感
じたら遠慮なく「ちょっと待った!」と言ってくださいね(笑)。残念ながら、くま
もと森都心プラザ図書館のプレゼンターを務める澁田勝さんがここにいないので
すが、いざというときは私がお助けをしますので!(後ほど澁田さんも来場)
河瀬 (笑)
岡本 このセッションは意義があると思っています。なぜならこの後の最終選考
会では、受賞された方々が語らい合う時間がないのです。プレゼンター同士のパ
ネルトークは用意しているのですが、時間の関係もありまして、受賞者同士のパ
ネルまではできないのです。でもどうせならやはり、受賞者の皆さんに話し合っ
ていただいた方がいいな、と。特に下打ち合わせもなくここに臨んでいるので、
私もこの後の展開はまったく分かりません。お互いにdisり合いに発展すると面
白いかな(笑)。「プラザさんは、そうは言ってもあのへんが」とか、ダークホース
的に強そうなB&Bを「選書がぜんぜんなっていないしー」と落とせるだけ落とし
た上で公共図書館3館の闘いに持ち込むとか(笑)。しかし、とにかく今回はどこ
が受賞してもおかしくないところばかり集まっているので、書店であるとか図書
館であるとか関係なく、本、あるいは情報や知識に関わる者同士、お互いに学び
合って、パワーアップできるトークセッションにしたいと思います。
では、さっそく本編に入っていきましょう。仲俣さんからまずは聞いておきた
いことはありますか。
それぞれの施設に行ったことはありますか?
仲俣 お互いの館にそれぞれ行った経験があるのか、それともまだ一度も行った
093ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
ことがないのか、相互の関係を知りたいなと思います。内沼さんは行かれたこと
がありますか?
内沼 いや、実は恥ずかしながら、うかがったことがないです。
伊東 私は多治見市図書館には何度かお邪魔しているんですけれど、他の2館さ
んにはまだ……。
熊谷 私も塩尻市立図書館にしか行ったことがないんですけれど、うちの職員が
B&Bさんには視察というか偵察に行ってます。個人的に内沼さんのファンだそう
なので、後でサインしてあげてください。
内沼 はい(笑)。
河瀬 恥ずかしながら私も、すみません、どこも行ったことがないんです。
仲俣 では、今回初めて皆さんが一堂に会したわけですね。岡本さんがそもそも
このセッションをやろうと思ったのは、図書館の人がしゃべるような機会をつく
るというだけでなくて、図書館の人同士を会わせたいということもあったと思う
んです。
第17回図書館総合展におけるARGブースで行われた「Library of the Year 2015 直前スペシャルトークセッション」の様子。
左から岡本真、河瀬裕子(くまもと森都心プラザ)、熊谷雅子(多治見市図書館)、伊東直登(塩尻市立図書館/えんぱーく)、
内沼晋太郎(B&B)、仲俣暁生
094 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
岡本 はい、それはありますね。私からしたらどの方も魅力的です。私は仕事に
おいてもプライベートにおいても、面白い人と人とを引きあわせて何かを起こす
プロデューサーだと思うんですね。自分にはそんなに才能があるとは思っていま
せんが、人と人とを出会わせて何かを起こすということについては自信がありま
す。
図書館と書店の役割は近づいている?
図書館よりも書店に足が向くのはなぜ?
仲俣 僕はB&Bのある東京の下北沢というまちで、お店から徒歩2 ~ 3分くらい
のところに住んでいます。そういう、いわば地域のコミュニティとしての、ある
いは本のある場所としての「図書館」や「本屋」に個人的に興味があります。内沼さ
んはこの3館にはうかがっていないということですが、熊本の本屋さんには行か
れたと思うんですよ。本屋には行くけれども図書館に行かなかったのはなぜか、
図書館と本屋の違いや、本屋の視点から図書館はどう見えていて、どんなふうに
感じられるのか、地域性も含めて聞いてみたいです。逆に図書館の方は本屋がど
う見えるかということをお話いただけますか。
内沼 確かにおっしゃるように、たとえば僕は熊本だととある書店のコンサル
ティングをさせていただいていた時期があって、よくうかがっていたんですが
……。別に図書館を悪く言うわけではないし、僕が書店をやっているから書店を
見に行くというのももちろんあるのですけれど……。有名な書店というのはわり
と全国に名が知られていて、書店を巡るということが雑誌の特集になったりもし
ています。ある都市に行ったとき、そこに図書館があるという情報を知っていれ
ば僕はたぶん行きます。図書館を紹介しない一般のメディアの問題なのか、情報
発信という意味では、ひょっとしたら図書館全体にある問題なのか、というのは
分からないですが。
仲俣 僕も岡本さんと仕事をするようになってから、どこかのまちへ行ったら
095ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
「あそこには○○図書館があるから行ってきたら」ということを教えてもらうよう
になりました。そういう意味で言うと、図書館側からの情報発信も足りないのか
もしれませんが、自分の住んでいるまち以外の図書館について「ここを見に行っ
たら」と言ってくれる仲介者というか、ナビゲーターが少ないと思うんです。そ
うは言っても、図書館は地元の人のためのものだから、外の人は見に来てくれな
くてもいいと図書館の人は思っているのか、それとも地元の人たちへのサービス
だけじゃなくて、日本中のどこから来た人に対しても応えていこうという姿勢が
あるのでしょうか。
伊東 私自身も行っている回数で考えたら、図書館よりも書店の方が人生のなか
では圧倒的に多いんですよね。旅先で図書館に立ち寄るのがあたりまえになった
のはこの業界に入ってからです。なんで寄るのかといえば、いろいろな試みや工
夫などが、仕事だから目について分かるようになっちゃったんです。そうなる前
は書店に寄っても、利用者の一人なので、そこの書店が苦しくて頑張っているこ
ととかって見えませんでした。店が開いているから行っているだけで、ある日
「閉店しました」と言われたらそれまで、みたいな関係ですから。図書館って面白
いことをいろいろやってるんだなと気づき始めてから、書店でもそれが見えるよ
うになって。「苦しいんだぞ」という声も聞こえてくるようになりました。図書館
も言ってみればそれは同じで、自治体のなかで非常に肩身の狭い思いをしていて、
なんとか認知してもらおうと頑張ったりしているんですね。塩尻でも小さな書店
がカフェに挑戦したりしていて……昔では考えられなかったですよね。図書館で
飲食するということも考えられなかったけれど、本屋さんでタダで本を読ませて
あげるなんてことも考えられなかった。みんながそういう面白い取り組みをする
ようになってきたんだなと思います。そういうことの延長に今日のような学びの
場があって、今は楽しくてしょうがないのです。
熊谷 私もそうですね。図書館よりも書店に行くことが多くて、休みの日は必ず
本屋さんに行きます。学生の頃も海外に行くとやっぱり書店へ行きました。そ
の時に思ったのが、海外では本屋さんによってそれぞれ個性があると。イギリ
スだとガーデニング専門の店があったりだとか、料理本だけの本屋さんがあった
りだとか……そういったところには当たり前のようにカフェコーナーがあって
椅子がありました。四半世紀くらい前のことですけれど。そういった本屋が日本
096 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
にもあったらいいなと思っていたらどんどんできてきて、すごく嬉しかったんで
す。今でも本屋さんに行くときって、本屋さんの個性を見て、今の気分にあった
お店に行きます。今日はこういう本をチェックしたいからあの本屋さんに行くと
か、あの書店員さんのあのセレクションの棚が好きだから行くとか、そういう感
じで書店を使い分けています。
地元の方以外へのサービスということで言うと、もちろん地元の人に対しての
発信もやっていますが、特に多治見のコレクションに関しては、全国の陶器に関
心がある人たちに使っていただきたいという思いがあります。実際に県外からも
問合せやレファレンスを受けていて、間接的に資料を提供するだけではなくて、
直接それを見るためにいらっしゃる方もいます。地元の方以外へのサービスは意
識してやっています。
河瀬 くまもと森都心プラザ図書館は、まだできて4年目の若い図書館なんです
が、熊本市内を見ると書店がどんどん減っているんですよね。若い図書館とだん
だんと店舗が減っていく本屋さんが協力して、結局は読書人口を増やさないと
いけないよねということで、ブックイベントを5月に開催しました。県の名前に
「本」が入っているのって、熊本だけなんです。熊を本で挟んで、「本熊本(ぼんく
まぼん)」というイベントで、書店さんと私たち図書館が一緒になってカフェメ
ニューを出したりだとか、展示をやったりしたので、書店さんとは距離があまり
ない関係です。お互いの発行している通信やイベントのチラシを置き合うような、
とても近い距離感です。書店の開催するPOPコンクールにも必ず図書館員が参
加してます。今年は書店の店員さんを差し置いて、すみませんが図書館員が1位
を取ってしまいました。
仲俣 この頃の図書館や書店の利用のされ方を見てみると、図書館はどんどん本
屋に似てきているような気がするし、本屋は図書館に似ていっているような気が
しています。買うか借りるかというところを除くと、社会的に求められる機能が
似てきているのかなと思ったりもするんですよ。それと同時に、どうしても違う
ところもあるはずなので、そのあたりをうかがいたいと思います。
097ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
図書館でも書店でもない第3の施設への挑戦
仲俣 内沼さんは八戸市で、公立というか、市のお金で本屋さんを開く仕事をし
ていますよね。
内沼 八戸の話はB&Bとはまた別の仕事ではあるんですが、ご存知ない方もい
らっしゃると思うんで説明すると、青森県八戸市が「本のまち八戸」というプロ
ジェクト(「本に出会える場の創出」により、「本のまち」として活性化をはかる構
想)のなかで「八戸ブックセンター」という施設をつくるんです。八戸には図書館
はもちろんあるし、市内には書店もあるんですけれど、第3の施設として、本を
販売する行政の施設をつくるんですね。セレクトブックストアを市がやるのだと
いうことを市長が選挙公約として当選したのですが、当選してみると、「行政が
書店をやるってどういうことだろう」とあらためて考えるべきことが多くて、ま
わりまわって僕のところにお話がきて、一年以上お手伝いしています。来年完成
の予定で、市民の皆さんにご理解いただきながら、地元の書店や図書館とどうい
うふうに協働できるかという調整を今やっているところです。
なので、書店と図書館の違いとかもよく考えます。「なんで図書館の充実じゃ
なくて、ブックセンターをわざわざつくるんだ」という話も当然出てくるわけで
す。同じお金かけて行政がやるんだから、図書館をもっと増やしましょうとか、
建て替えましょうとか、そういうことにお金を使うべきじゃないかという議論も
あります。でも、本を借りるということと買うということは、似ていますが違い
ます。本、つまり知識や情報が世の中にあまねく、様々な環境にある人たちに
とってアクセス可能な場所にある、そういう状況を叶えましょうというのは図書
館の役割のひとつです。そして、書店を支えている出版流通にも、同じ理想が根
本に走っていると思います。でも、インターネットの登場以降、情報のあり方と
か、知にアクセスするやり方とかが変わってきていて、書店や図書館の役割が変
わってきています。だからこそ書店の売上が下がったり、図書館もいろいろ工夫
が必要だったりということが起こっているのだと思います。それぞれの役割をも
う一回見直すべきときがきているのだろうと。
八戸みたいな比較的大きな都市であっても、書店に行っても手に入らない種の
本があります。社会科学、人文科学、自然科学だとか、文学の本格的なもの、特
に海外文学とか、芸術の本とか、そういうものはほぼ買える状況にないんです。
098 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
じゃあそういうものが借りられればいいのかというとそうではなくて、やっぱり
それが購入可能な状況で提供されることが必要だと思うんです。たとえば、お金
を出して買うわけですからすごく吟味しますし、買った後なら線を引いてもいい
し、人に貸してもいいし、破って壁に貼ってもいいし、自分のものだから何でも
できるわけじゃないですか。自分の本棚の端っこにずっとあって、読まなくても
日々の生活のなかで目に入る場所にあることが自分にとってすごく意味のあるこ
とだったりもします。買わないとできないことがすごくたくさんあります。そう
いうなかで、民間にはできない買える環境をつくるというのは、教育やまちづく
りの観点において、一定の公共性があると考えています。書店も図書館も、役割
とか、ビジネスのあり方とかを考え直さなくてはいけない時期なので、どちらで
もない第3の施設をつくってみるという……ある意味実験的ではあるんですけど、
行政のやるべきことの先駆的な取り組みとして、やっていけるのではと考えてい
ます。たとえば施設の中に読書会だけをやる部屋をつくったりだとか、本を書く
人を増やすために執筆専用のブースをつくったりだとか、いろいろイベントや展
示を打っていったりだとか、書店さんを巻き込んでいったりとか、そんなプラン
をいろいろ提案しています。
思うのは、必ずしも大きな施設でなくても、あ、八戸はけっこう小さい施設な
んですけど、B&Bも小さい書店なんですけども、まちの人たちが本に関心を持っ
てもらうような施設はできるんじゃないかと思います。うちのような規模の店も、
もっと大きい有名な書店も、雑誌で紹介されるときは横並びで同じサイズだった
りするわけですよね。そう考えると小さくても影響力を持つことはできるだろう
と思っていて、あえてコストをかけず、小さい施設なんだけれども、市民の皆さ
んに本に関心を持ってもらうという新しい施設をつくりましょうと。B&Bでやっ
ていることがすごく活きていると僕は思います。
仲俣 八戸については内沼さんが代表を務める会社「numabooks」のお仕事なの
で、B&Bの活動とは別ということですが、あえてお話しいただきました。公共図
書館でも普通の本屋さんでもない、公共による第3の場所ができることで、書店
も公共図書館も役割が相対化されて明確になっていくのではと思います。
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Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
図書館と書店が似てしまうのはまずい?
伊東 仲俣さんが先ほどおっしゃった「図書館が書店に近づいてきている感もあ
るし、逆もまたあるような気がする」という捉え方は、認識不足かもしれません
が初めて聞きました。確かに塩尻市立図書館は従来の分類法を崩したり、分類法
では離れている棚を近づけたりということをやっていて「本屋さんに近いね」とい
う言われ方をされる部分もあります。でも、書店と図書館が近づいていくって、
あんまりいいことじゃないかもしれないなと思いながら聞いていたんです。
図書館が本の貸出に一生懸命になる必要はないと僕は思っています。「公共」と
いうのはなんだろうと考えると、たとえば貧困問題など、深刻な問題が起きつつ
あるときに、社会的に支えるものの一つがたぶん図書館であろうと。外国で言え
ば、言語のわからない移民が市民権を得られるようにサポートできるのが図書館
です。日本はそういう深刻さがないまま何十年もきていますが、高齢化などが進
んでいき、そういう深刻な場面も将来起こりうるとすると、図書館がそれに備え
る必要があるのではないか。だとすると、読まれる本ではなくて、いつか必要に
なる本をちゃんと揃えて残していくというような役割をきちんと意識しておかな
いといけません。人気があって読まれる本をばかりを買って、読まれなくなった
ら古本市に出すという書店のような図書館経営は、ちょっと違うだろうという感
じがしています。図書館が書店に近づいているのだとすると、やばいんじゃない
のと思ったものですから、話がずれちゃいましたがしゃべらせてもらいました。
仲俣 ありがとうございます。佐賀県武雄市や神奈川県海老名市ではマスコミに
「TUTAYA図書館」などと呼ばれる、本屋があっておしゃれなカフェがあって、本
を「買う」ことも「借りる」こともできる図書館ができました。こうした図書館は、
さきほど内沼さんがおっしゃったのとは別の意味での第3の場所になっています。
しかもそれは利用者に求められているという印象があるんです。それは良いこと
なのか、悪いことなのかという本質論がけっこう大事だと思っています。
熊谷 多治見市図書館の場合だと、書店では買えないもの、地元でしか手に入ら
ないものを特に意識して収集しています。私たちは直接いろんな所を歩いて、探
して、集めて、コレクションを構築しています。消滅の可能性がある都市の中に
多治見市が入っているんですが、どこにでもあるまちになってしまって、特に多
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Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
治見に住むんじゃなくてもいいんじゃないかと地元の人が思っちゃったら、多治
見は終わってしまうと思うんですよ。でも多治見には、誇れる文化もあれば、人
が集まってくる魅力もあります。そういったものをきちんと集めて提供したり、
子どもたちに伝えていったり、資料をきちんと残していったりするのも図書館の
役割だと思います。
魅力的な書店がいっぱいできていますが、私は書店と図書館、両方なくてはだ
めだと思っています。それぞれがそれぞれの役割を持ち、良いところを吸収し合
えば、読書人口も増えていくし、そのまちが魅力的になるんじゃないかなと思っ
ています。
仲俣 僕は多治見には行ったことがないんですけど、堀江敏幸さんという芥川賞
作家が多治見出身ですよね。彼の作品を読むと、具体的に地名はでてきませんが、
多治見のことをとても大事にしていることがわかります。作家が生まれてくるう
えで風土や環境の問題は切り離せません。
河瀬 地域資料の話が今出ましたけれども、実は昨日「地方創生レファレンス大
賞」というのが2階のフォーラム会場でありまして、くまもと森都心プラザ図書
館が賞を頂いたんです。地方に関するレファレンスを受ける時、実は本よりも、
行政が出しているチラシとかパンフレットなど、行政資料がかなり活躍します。
もちろん本でも解決することはありますけれど、そういった行政資料などを蓄積
していくというところに図書館の魅力はあるのではないかなと思います。
プラザ図書館の特色は、図書館のフロア内にビジネス支援センターを併設して
いるところです。中小企業診断士とか行政書士、司法書士、そういった資格を
持った方が常駐しているんです。今回レファレンス大賞をいただいた事例も、経
営相談に来られた地元の方に対して、畳み掛けるように課題解決に結びつくよう
な資料を提供して生まれたものです。そういうところが、本屋さんとの違いかな
というふうに思います。
101ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
なぜこの 4 候補が選ばれたのか
Library of the Yearは図書館のトレンドを映す鏡
仲俣 たとえば、歴史が長い県立とか市立の中央図書館が担っている、公共図書
館としてのオーソドックスな役割があります。こうした旧来の図書館があってく
れるおかげで、新しい期待やミッションなど特別な役割を果たせる、新しいタイ
プの公共図書館が存在しうる。でも、そういう区別が図書館の世界の外からはよ
くわかりません。○○市立図書館というオーソドックス名前の図書館にも新しい
動きを始めているものがあるのか、とか……。
そのあたりとLibrary of the Yearのノミネートとは何かつながっていますか。
とくに内沼さんや僕のような外部の者に向けて、図書館の全体像を俯瞰する意味
でもお話いただきたいのですが。
岡本 そうですね、私がLibrary of the Yearに関わり始めたのは千代田区立千
代田図書館が受賞した年で、そのときは審査員をさせていただいていました。
Library of the Yearというのはなかなか組織運営が長けていて、まず審査委員、
あるいはプレゼンターを依頼されるんです。そこからだんだん深みにはまって、
「選考委員やりませんか?」という一番大変な仕事が来るんですね。
千代田からここに至るまでを見ると、その時々で時代が求めているものが受賞
しているという感じがします。千代田図書館の時は、図書館ってこういうことが
できるんだ! というインパクトがすごくありました。千代田図書館は指定管理
者制度が導入されているんですが、もっとも良い導入の仕方だったと思うんです
ね。わかりやすく言えば、なによりも指定管理者に払った金が高かった。これが
すごく重要なんです。指定管理者というと、残念ながらほとんどの自治体は、経
費節減としか思っていないんです。「民間に委託して安くなるなんて考える自治
体の人の頭、どうかしてるわ!」っていう話なんですよ、本来。民間がやったら
高くなるに決まっているじゃないですか。そういう意味では時代の先取り感があ
りました。また、非常にわかりやすいのが、小布施町立図書館が受賞したときで
すね。小布施も私は結構強く推したんですけど、あの時は、「空間を演出してい
る図書館」が求められたのだと思います。
102 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
図書館法への原点回帰
岡本 ただし、今回に関して言うと、原点回帰なのかなと。それが今のトレンド
なんじゃないかという気がします。どこの図書館ももちろん、先進的な部分もた
くさんあります。たとえば塩尻であれば、市民交流センター的な機能と一体化し
ている。本当にものすごく一体化しているんです。塩尻の場合、難しいのは、行
かないとそれが体感できないんですよ。行くと、とんでもない施設だ、ここはと
痛感します。弊社も今、福島県の須賀川市で新しい施設をつくっているんですけ
れど、塩尻はまさにひとつのモデルです。伊東館長にいろいろ教えていただいて
いるんですが、われわれができる伊東館長への恩返しとして、塩尻を超えるくら
いのことをやらなきゃいけないというプレッシャーがあるんですね。ただ一方で
塩尻の図書館って、蔵書のあり方やサービスのレベルという点においては、今ま
で日本の図書館が築き上げてきた文化の上にあると感じます。たとえば、筑摩書
房の創業者・古田晃さんが塩尻出身なので、筑摩書房の本がたくさんあるとか。
熊本もさまざまなイベントを仕掛けて、新しい部分はとてもあります。熊本
が他の2つの図書館とちょっと違うのは、いわゆる中央図書館ではないんですよ。
熊本市の図書館には中央図書館が別にあって、言ってみればひとつの分館なんで
す。ただ、これはある意味最近の風潮だなと思うんですけど、中央図書館以外に
ちょっと先端的な、比較的ビジネスや産業を意識した図書館は増えてきている。
たとえば札幌市がそういうものをつくろうとされていますね。一方で、くまもと
森都心プラザって、地元の高校生がすごく使っているんですね。事実上、駅直結
みたいなものなので、勉強している子も多いですし、絵本を探している親子連れ
もよく見かけますし、そういった基本的なこともしっかりやっているんです。
多治見は、生涯学習施設が一緒になった複合施設です。よかったなと思うのは、
蔵書が評価されたことですね。陶磁器の本を大量に集めてきた。本だけじゃない
ですよ、展示会の図録とか、なかなか入手が難しい資料もあって、あと何年かの
うちにはたぶん1万点ぐらいになるくらい集めているんです。今は8,000点です
よね。これってすごいことです。何がすごいかというと、「地域資料なんて誰が
読むの?」って思われるかもしれないんですけれど、多治見では読まれるんです
よ。地元の陶芸作家が図書館に来て勉強されていたり、遠方からいらっしゃった
作家さんが何日も多治見に泊まって研究されていたりするんです。最近の図書館
に求められているトレンドは、課題解決支援であり、産業支援であり、ビジネス
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Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
支援ですよね。それを言葉だけじゃなくて、きちんとしたコレクション形成をし
てきたからこそそれができているという点がポイントなのだと思います。それっ
て実は極めてオーソドックスなことです。
言ってみれば、図書館法に書かれていることをきちんと解釈して、咀嚼して実
現しているのがこの3つの図書館ということです。会場にお越しの図書館の方も
「うちはどうだろう」と、ドキッとするでしょうけれど、図書館法に書かれている
ことができていない図書館っていくらでもあるわけですよ。たとえば、図書館法
には、レクリエーションを提供するって書かれています。そこに山中湖情報創造
館の館長、丸山高弘さんがお越しになっていますけれど、丸山さんはたとえば
「図書館でゲームをする日」をやろうと言っています。私は全然やっていいと思
います。でも日本のほとんどの図書館、絶対にゲームとかNGですよね。テレビ
ゲームとか、入れちゃえばいいじゃんとか思うのですが。実際、富山駅前のこど
も図書館には入っているんです。でも、多くの図書館関係者は「図書館でゲーム
はいかがなものか」とか言ってる。実は図書館って、図書館法に書かれているこ
とをもっと解釈していけば、オーソドックスなだけでなく、多様なことができる
んですよね。そういう点に関していうと、この3つの図書館は図書館法に書かれ
ている最低限のことをまず確実にきちんとこなしている。その上に多様な展開が
図られている。そういうところが評価されたというのが、今回のトレンドでしょ
う。おそらくひとつには、具体的に言ってしまえば、CCCの一連の図書館旋風に
対して、今やっぱり強烈な市民側の違和感が表明されていると思うんです。その
なかで、もうひとつの図書館像として提示されているのが、たぶんこの3つの図
書館なんじゃないかと思います。もちろん、この3つ以外にも、私たちが知らな
いすごい図書館はたくさんあると思うのですけれど。
図書館業界の注目する書店
仲俣 B&Bに関してはどういう着眼点で今回推薦されたのでしょうか。
岡本 内沼さんはB&Bを始める前から友達だったので「僕、今度書店やるんです
よ」と言われた瞬間、ついに、狂ったかと(笑)。「このご時世になんと無謀なこ
とを!」と思ったんですね。正直こんな快進撃になるとは思っていなかったです。
104 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
苦労するんじゃないかな、いくら下北沢とはいえ、いや逆に今の下北沢で、果た
してどれくらい本を読む人がいるんだろう、買ってくれるんだろうかと思いまし
た。結果的には今の大成功があるわけですけれど。
私は図書館で働いている人間ではないのですが、図書館側の目線からいうと、
B&Bには図書館の人間がめちゃくちゃ、視察、見学、買い物に行っている。これ
が評価ポイントでした。つまり図書館の人からしても気になる存在であると。図
書館の人たちはたぶん驚くと思うんですよ。「今の時代に書店やるとか、本気!?」
みたいな。でも実際それで人を集めている。つまり本の力をめちゃくちゃ発揮し
ている。もちろんBook & Beerなので、Beerの場というのもあると思いますけれ
ど。でもB&B って、基本「書店です」って言ってますからね、書店が中心なわけ
ですよ。そのなかでBeerだけじゃなくて、多彩なイベントをしかける。だって今、
イベント数は年間何本でしたっけ? 500本くらいでしょ? 365日しかないの
に500本っておかしいだろそれ、みたいな。大晦日にトークライブをして、ここ
で新年迎えようみたいな企画もやったり。
そういうのは図書館の人たちからしても、近さ……という表現がいいのかどう
かはわからないですけれど、たぶん別のレイヤーにいるんだけど、意識はしてお
かなきゃいけない、見ておかなきゃいけない相手であると感じているのだと思い
ます。そういう認識を、全国区にこれほど強く与えた書店って、今までなかった
と思うんですよね。鳥取県の今井書店のような、定評のある地場の書店さんもあ
りますし、熊本の長崎書店なんかもそうですけれど、それってあくまでその地域
のローカルな話でした。さらに、B&Bが出店して明らかに成功を収めつつあるな
か、地方でも面白いインディーズな書店が次々に立ち上がってきた。多分その辺
が図書館の人間からしても、図書館と書店は違うにせよ、本や情報、知識に関わ
る人間として励みになっている。そして自分たちとは別の形で歩んでいるけれ
ど、目指しているゴールは一緒であり、圧倒的存在感を放っている。だから私は、
Library of the Yearとしていいじゃんないかなと思いました。B&Bに訪れる図書
館関係者がさらに増えると思いますし、それによってまた図書館が、B&Bから盗
めるものは盗んで、共に栄えていくというふうになればいいなという期待はあり
ます。
仲俣 これを聞いて僕もよくわかったし、皆さんもなぜこの4つの施設が集めら
れているかというのが明確に見えてきたと思います。
105ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
新しいサービスへの挑戦
それぞれの施設の規模は?
仲俣 ここから後は、相互に話をしていただきたいのですが、まずは僕から一つ
質問です。まずは各館の面積と蔵書数を、規模をイメージするために教えていた
だけますか。
内沼 B&Bは、平米だと100くらいですね。30坪のお店で、本の量が7000タイ
トルくらいです。
伊東 塩尻は、施設面積で3,000平米なんですが、これは閉架書庫もなど含めて
です。いわゆるお店みたいな開架スペースでいうと、2,000平米弱くらいだと思
います。そこに出している本は20万冊くらいですね。
熊谷 多治見は、複合施設全体で9270平米です。図書館全体の延床は3,300平
米くらいです。所蔵は今42万冊ぐらいでしょうかね。閉架書庫がもう溢れるく
らいまで入っているような状況です。
河瀬 くまもと森都心プラザ図書館も複合施設です。図書館の部分は3階と4階
で2階層になっていて、ざっとですけれども、それぞれ1500平米ずつという感
じです。蔵書は今、25万冊を超えるくらいです。まだ建って4年ですので、閉架
書庫はガラガラです。
内沼 多治見では、地元の書店がなくなりそうだとか、厳しい状況であるとか、
そういうことはありますか。
熊谷 決して良い状態ではないですね。私が図書館に来てから、2店舗はお店を
閉められています。チェーン店のような、量販店に入るようなお店だとか、駅前
には昔ながらのお店もあったりしますけれど、規模を縮小して本店をエキナカに
移し、どちらかというと教科書販売で生計を立てていらっしゃるような状況です。
106 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
内沼 そういう書店さんは、図書館と同じように地域の専門書を集めていたりは
していなかったんですか。
熊谷 そうですね、ある本屋さんは陶芸の資料をけっこうそろえていて、珍しい
ものも持ってらっしゃることが多いので、そこからも購入しているんですが、特
徴がある本屋さんというのは少ないですね。
内沼 古本屋もないんですか。
熊谷 古本屋は、堀江敏幸さんのエッセイにも登場する古本屋さんがあったんで
すが、そこもお店をたたまれてしまって、今、市内に古書店はブックオフしかな
いです。
内沼 バックグラウンドがある都市なのに、その資料が集まっている場所が図書
館しかないというのは……僕は書店とか古書店とかの良い店があるべきだなと、
お話を伺って思いました。
図書館でもお酒を提供できるか
伊東 本屋と書店が近づくという話は、一方ではよくわかります。場の提供も、
図書館には大切だろうと。たとえば滞在型図書館というのは、塩尻も目指す一
つの方向であるんですけれど、ビールを出すまではさすがにいかないんですね。
Book & Caféというものが出た時に、汚されるという問題があり、どこも躊躇し
ていたと思いますが、それでもなんだかんだ言って広まっていき、「おお、いよ
いよビールを出す書店も現れたか!」という感じなんですけど……その一線を超
えられないでいる図書館に対して、こう考えたらどう? みたいなアドバイスが
あればお願いします。
内沼 「本にビールをこぼされないのか」は、よく聞かれる話です。でも実は、
めったにこぼされません。3年半営業していますが、本がだめになったのは10回
もないくらいです。もちろん、そういうことがあるとうちの店で買い取ります。
107ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
B&Bから返ってきた本がビールで濡れていたみたいなことになると、取次とか版
元からの評判も落ちるじゃないですか。ちょっとでも傷になったものに関しては、
基本的にはお店で買い取っています。共有のものである図書館の本と、売り物と
して店にある本とはけっこう違って、実は売り物の方が簡単なのかもしれません。
売り物であれば、汚れたら買い取ればいいだけの話なので。
こぼされないのは、空間のつくり方でもあると思うんですね。B&Bはゆったり
とした空間で、先ほどの図書館との比較でいっても、30坪100平米の中に7000
タイトルくらいしかないので、あんまりぎっしり詰まっていません。静かな音楽
が流れていて、なんとなく騒いじゃいけない感じ……これも公共図書館だと難し
いのかもしれません。ママ向けのイベントもやったりしているんで、そういう
ときは子どももいっぱいいるんですが、通常は子どもはあんまり入って来ませ
ん。たとえば、ヴィレッジヴァンガードがビールを出したら、もうちょっとこぼ
れてしまうとは思うんですね。圧縮された陳列になっていて、空間的にもガチャ
ガチャしていることが魅力になっているわけですから。うちはそれとは対照的に、
整然とやっているので、ここで酔っぱらいたいという感じにはならないんですよ
ね。もし図書館でビールやワインも出していこうとするなら、空間のつくりかた、
つまり建築や内装、あとは音楽で解決できるのではと思います。
仲俣 公共図書館がカフェを併設している例はありますけれど、公共図書館の中
でお酒を提供してはいけないとう法令はあるんですか。
伊東 法律的な制限はありません。トラブルを避けたいという観点だと思います。
たとえばトラブルが起きると、今日ここにいる人たちはみんなその責任を背負い
込まなくてはいけない立場なので、「だめよ」と言う側になっちゃうんです。でも
利用者目線で見てみれば、貸し出した後は家に帰って、ビールを飲みながら本を
読む人はいくらでもいるし、僕も実はそうなんですよ(笑)。汚して返したことは
一度もありませんが……。「目の前でトラブルが起きるのをいやがっているだけ
なんじゃないの」と怒られるかもしれませんけど……それを乗り越えないと場と
しての図書館みたいなものは生まれてこないのかなと思ったりはしているんです。
108 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
「地酒」という地域資料
仲俣 以前に岡本さんにうかがったことがありますが、日本中の図書館をまわっ
て、夜は居酒屋で各地の美味しい酒を飲むというのが楽しみの一つだそうですね。
日本中にはいろいろと美味しい地酒があるんだから、旅先の図書館でちょっと一
杯、そこの地酒が飲めるコーナーがあったら、僕も行きたくなるかもしれません
(笑)。これは本当に外からの無責任な意見ですけれども。
岡本 そこの一歩をどう踏み出すかというのはあると思うんです。栃木県に小山
市という自治体がありますよね。つい先週初めて小山市立中央図書館に行きまし
た。十年ぶりくらいの再会だったんですけれど、栗原要子(くりはらとしこ)さん
という非常に素敵な女性が館長をされています。3月に退職されたので会えない
と思っていましたが、彼女の方から「私、再任用されて館長で返り咲いたの!」と
駆け寄ってきてくれて。生涯学習課長までされて、公共図書館の世界に対して非
常に貢献されてきた方なんです。十年前に会ったのはある研究集会で、「小山市
はこれから農業支援、地場産業としての農業の支援に力を入れるんだ」というお
話をされていたんですよね。すごく感心したのは、小山って酒造りが盛んなんで
すが、酒瓶が図書館にどんどんどんっと展示されていて、けっこう力が入ってい
ました。そういうことをやっている図書館はほかにもいくつかあるんですけれど
……地場産業をきちんと助けていくということを考えたときに、別にこれは酒だ
けじゃないですね、いわゆる地産地消について、図書館はもうちょっと力をいれ
ていいんじゃないかなという気がします。
たとえば、塩尻もワインがめっちゃ有名なんですよ。塩尻は伊東館長が自らア
ピールをするくらいのワイン処なんです。そこまでいったら、図書館に寄ったら
軽く一杯、試飲してみたいというのはあります。熊本も、水がとても美味しいの
で酒処だし、サントリーの工場があるんですよね。そういうものをもうちょっと
うまく提供していく試みが、次のフェーズであっていいんじゃないかと私は思い
ます。
今いろいろな議論があるなかで言うと、公共性の問題ってやっぱりあると思う
んですよね。これが武雄市図書館の最大の課題……あるいは武雄には限らないで
す。他にもけっこうありますけれど、最大の課題は、地方都市が、都会からお
しゃれなものを引っ張ってきて、いくら集客したところで、全部地方のお金が東
109ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
京に吸い上げられるだけのモデルになってしまうという。何十年それ繰り返して
いるんだ地方都市は、というモデルになっちゃうんですよ。だから地場産業を応
援するということは、別に特定の蔵元さんを支援しているわけではなく、地域経
済をきちんと回していくためであるという公共性は成り立つと思うんですよね。
そういう取組みは段階的に進めていけばいいんじゃないかと思うんです。だから
常設するのが無理だったら、図書館とカフェの特集をLRGでやってみて思った
んですけど、ワンタイムだけ、「今日はカフェをやります」みたいな日があるとか、
一年にまず一回だけでもいいからやってみるとか、そういうテストを経ながらで
もいいからやってみればいいんじゃないかなと思います。実際に日本では、武蔵
野プレイス、つまり武蔵野市の図書館が酒も出していますけど、少なくとも聞く
限りでは大きなトラブルはないようです。まあ、表向き言えないこともおありだ
とは思いますけれど、ほんとに大変なことが起きたらたぶん新聞報道されている
ので、少なくとも内部で解決できる範囲までしかないと。もちろんその地域の図
書館は、その地域の人たちのためにあるというのが一義ではありますが、各自治
体がこれほど観光や定住促進に動いているなかにおいて、住むまちを選ぶときに
図書館を見に行くことがデフォルトになっていく、まちを知るためにはまず図書
館に行くというのがデフォルトになる、というのが図書館としたら望ましいです。
そんな時に「これも資料ですから!(トクトクトク……)」なんていうのがちょっ
とくらいあってもいいんじゃないですかね。
仲俣 このひとつ前のトークセッションで「図書館100連発ライブ@図書館総合
展」をやったとき、岡本さんの今年一年間の軌跡が日本地図で真っ赤に記されて
いました。あれを見て、民俗学者の宮本常一の足跡みたいだなと思ったんですよ。
宮本常一は初めて訪れた場所のことを知るために、まず近くの山を登って俯瞰し
たそうです。その地域のいちばん高い山に登ってまちや村を見てみる、そうする
と、そこがどういうコミュニティであるかがわかるということを言っている。現
代では山に登って俯瞰しただけではわからないこともあるだろうけれど、その地
域の図書館に行ったら、初めて訪れたまちがどんなところかわかったらいいなと
思います。「ここは酒処なのか」「ここは焼き物のまちだ」と言った具合に、かつ
ての国見の場所みたいな役割を地域の図書館が担っていくと、図書館がコミュニ
ティの核になれるのではないか。はじめに内沼さんがおっしゃっていたような、
魅力的な「図書館ガイド」の出版物があったらいいし、編集者としてはつくってみ
110 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
たいなと思います。
おわりに
仲俣 最後に皆さんからひと言ずつお願いできますか。
河瀬 今回選んでいただいたことがきっかけで、多治見市図書館、塩尻市立図書
館との交換展示に加えていただきました。お互いの地域について、それぞれの場
所で紹介しましょうよという企画です。名前は知っていましたけれど、そこまで
お互いの地域のことを知らなかったので、お互いをPRし、情報を得て発信し合
うことができたというのが最大の喜びです。
熊谷 たぶん多治見はこの4つの施設の中で一番知名度の低いところで、来てみ
ると普通の図書館だと思います。その普通の図書館が普通のことをやって、きち
んと評価されるということが、今回の受賞で、ふだん図書館の仕事をしてらっ
しゃる方たちの励みになるといいなと思います。真似できるような簡単なことば
かりを発信しているので、ちょっとやってみようかなと、いろんな図書館が元気
になっていったらいいなと思っています。
伊東 先に言われちゃった、という感じなんですけども(笑)。岡本さんがさっき
仰ったように、基本的なところをちゃんと固めてしっかりやっている図書館なの
ですよという紹介がすべてだという気がしています。その上でさらに、それぞれ
が特徴を出してやっているところを面白く、よくやっていると捉えていただけた
んだなと思っております。そんなふうに紹介してもらえただけで今日は満足です。
本当にどうもありがとうございました。
内沼 僕らはB&Bをライブラリーと名乗ったことがなかったので、本当に受賞
してしまっていいんだろうかみたいなところがあったんですけれども……。先ほ
ど岡本さんが言ってくださったみたいに、確かに図書館の方がたくさんいらっ
しゃっていて、僕がお店にいなかったりしても、図書館の方の名刺が置いてあっ
111ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館
たりとかして、本当に全国から見に来ていただいていてありがたいなと思ってい
ます。書店であるとか図書館であるとかに限らず、まちの中に本のある場所が
あって、そこで何ができるかというところで評価していただいたのであれば、僕
らも図書館に対してきっと何かできることがあるし、図書館と協働して僕らも学
ばせていただくところもたくさんあると思います。そういう視点をいただけて、
今回は本当にありがたいなと思っております。
仲俣 この後の本番で、この4つの施設が王座をめぐって熱く闘うわけで、僕も
いまから緊張していますが、ぜひ引き続き本戦の方も見に来ていただけたらと思
います。
岡本 今日はこの4方が来てくださってよかったです。この4人をつなぐことが
できて本当によかったと思っています。ぜひ皆さん、それぞれの施設に行ってみ
てください。なんといっても、ご飯が美味しい。そしてお酒も美味しい、人もい
い。遊びに行くのにも楽しいと思います。実は来年の7月、図書館総合展の地域
開催を塩尻で行います。そういうタイミングでもよいかと思います。熊本は以前
開催させていただいたんですよね。この流れで行くと次は多治見で誘致! とい
う感じですけれど、ぜひそういう場に来ていただければと思います。
この後、最終選考会、授賞式があります。ただ皆さん、決してここは間違えて
いただきたくないんです。これは選考委員としてもお願いなんですが、大賞を
取ったところだけがすごいんじゃないんです。もうこの時点でめちゃくちゃすご
いんです。われわれ、かなりの数の候補を選考しているんです。そもそも候補に
上がってこないものも見ているわけです。そのなかから多くの方に推されてここ
にいるという事自体がすごいんです。運営サイドとして悩んでいるのですが、大
賞ばかりが注目されるというのはおかしなことだなと思っています。どこが大賞
を受賞しても、今回の候補はこの4つだったと、ちゃんと覚えて置いてほしいな
と思います。それでは皆さま、長い時間ありがとうございました。
112 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
図書館資料の選び方・私論 ~予告編
はじめに
2016年から、本誌に公共図書館での図書選択と蔵書構築について、連載記事
を書かせていただくことになりました。連載を始める前に、予告編をとのお話を
いただきましたので、今のところ考えていることを整理してみます。
この図書選択、蔵書構築というテーマは、理論的に構成したり、その妥当性を
評価したりするのが極めて難しいと考えています。と言いますのも、これらの営
みは、図書館実務としては手段でしかありませんので、その先にある目的を含め
た複層的な議論にならざるを得ないからです。
図書選択は何のために行うかというと、図書館を構成し、活動を成立させるた
めに行うものですから、図書館自体の価値や目的の検討から始めなくてはならな
いはずです。
では、図書館の目的とはどのようなものでしょうか。そして、これを具現化さ
せる蔵書世界の在りようとその選び方とは、どのような営みでしょうか。
こうしたことを考えてみようというのが、今回の連載の意図です。
折しも、武雄市に始まるいわゆる「ツタヤ図書館★1
」の調達した資料内容を巡っ
て様々な議論が生じ、これまで一般紙に取り扱われることのなかった「選書」とい
う用語が人口に膾炙するようになりました。また、「にぎわい創出」というまちづ
くりの文脈での目的を、図書館によって実現させようという議論も出てきていま
す。
思い描く図書館をつくり、運営していくために、どんな資料選びをし、そして
図書館の中核構造とでも言うべき蔵書構成をどのように形づくっていけばいいの
か、一年間、お付き合いいただければ幸いです。
連載 図書館資料の選び方・私論 ~予告編
嶋田学(瀬戸内市新図書館開設準備室)
113ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
図書館資料の選び方・私論 ~予告編
1.図書館では、どのようにして本が選ばれているか?
 図書館の内側にいない人々にとって、図書館がどのようにして蔵書に加える
べき本を選んでいるのか、よく分からないことと思います。武雄市図書館や海老
名市立図書館では、新古書店から大量仕入れされた蔵書の内容について様々な議
論がなされました。なかには、教育長が一冊一冊目を通して承認したもののみ蔵
書とするというような議論もありました。
 図書館ではいったい誰が、資料選択とその決定を行い、読書の楽しみ、ある
いは市民の知る自由、学習する権利を保障し、その責任を果たしてくれるので
しょうか。
■1-1 資料選定の独立性
日本図書館協会は、「図書館の自由に関する宣言」において、「第1 図書館は
資料収集の自由を有する」という原則により、「外部」からの圧力等の影響を受け
ずに、図書館が主体的に資料を選ぶという原則を示しています。また、この宣言
は、「第4 図書館はすべての検閲に反対する」とも述べています。
こうした図書館の自由に関する宣言は、「国民の知る自由を保障するため」に規
定され、これを遵守することを職能団体として宣言しているのであって、「図書
館員の自由」という意味ではありません。
教育委員会制度が改正され、総合教育会議において首長が教育行政について調
整、協議する場が創出されました。あくまで可能性の問題ですが、首長が自身の
政策方針と対立的な趣旨の図書館資料について、たとえそれが市民の要望する本
であっても、開架すべき図書ではないというような関与も起こりえます。
ちなみに、図書館は、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律★2
」により、
独立した教育機関として規定されています 。公立図書館は、いわゆる自治事務
で地方自治体がそれぞれの判断で設置する公共施設です。それと同時に、図書館
法は、図書館を、社会教育法の精神、さらには教育基本法や憲法の精神に基づき、
「国民の教育と文化の発展に寄与することを目的」として設置される教育機関と規
定しています。
図書館が本を選ぶという行為の前提として、まずは、国民の知る権利や学習す
る権利が保障されるという大きな価値が担保される運営実態があるかどうかが、
最初に問われることになります。
114 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
図書館資料の選び方・私論 ~予告編
■1-2 出版世界から図書館の蔵書世界へ
年間8万点と言われる書籍出版の中から、図書館が設置されている「土地の事
情及び一般公衆の希望」(図書館法第3条)に沿って、選定、収集し、提供するの
が図書館の仕事です。
図書館ではどのように選書が行われているのか、可能な範囲で事例を紹介して
みたいと思います。
2.選書をめぐる論争
どのように資料を選ぶべきかという論争は、図書館界という狭い世界の中で、
1970年代から実務者や研究者の間でやり取りされてきました。
提供する資料の価値によって選定し、蔵書を構築すべきだとする「価値論」と、
あくまで利用者からの要求に沿って資料を選択すべきであり、資料そのものの価
値を選定基準とすべきではないとする「要求論」という考え方の間で議論が交わさ
れてきたのです。
これらは、バランスの問題であるとする意見や、相互に連関し螺旋状に蔵書内
容が充実していくとする考えが議論されてきた。また、そもそも、どのような図
書館サービスを提供するために、蔵書を構築するのかという、「目的論★3
」と称す
る考え方を意識した議論も加わって、現在に至っています。
一般的にはマニアックで些末に映るこれらの議論の諸相と、こうした価値観に
よる選書や蔵書構成によって、実際に生じる図書館活動の実態や表象を紹介して
みたいと思います。
3.蔵書構成は図書館政策、そして地域政策でもある
選書をめぐる論争を引き継いで、蔵書構成についての私論を展開します。
図書館は、基本的人権を尊重するための、根幹的な公的機関として存在すべき
側面とともに、それぞれの地方自治体の中で、市民がどのような地域政策、つま
り「まちづくり」の考え方に基づいて図書館という情報提供機関をどのように活用
していくか、という価値も議論されるべきだと考えています。
限られた財源を、どの程度図書館費に割り当てるのか、そして、図書館費のう
ち、どの程度を図書購入費に充てるのか、そして、その図書購入費で、どのよう
115ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
図書館資料の選び方・私論 ~予告編
な分野の本を、どのようなバランスで選定し蔵書とするのか、という選択の問題
は、図書館をどのように活用したいかという「目的論」を問うことになります。
例えば、日々の娯楽、レクリエーション的な読書、あるいは教養を涵養させて
くれる人文科学系の本をメインに蔵書を構築して欲しいと願う市民層と、ビジネ
ス書や工学系の実用書や、個人では買いにくい高価な健康、医療関連の専門書を
希望する市民層がいた場合、そのバランスをどう保つかという事が課題となりま
す。
自然環境を維持しながら、持続可能な観光都市を目指す地域であれば、そうし
た関連資料に関心を持つ市民もいるでしょうし、商店街を特色あるブランド商品
とともに特化して商業都市を再生したい地域や、豊かな農産物を第六次産業とし
て育成したい地域であれば、そうした仕事に従事する住民の情報ニーズにも答え
ることが求められるでしょう。
個人の資料要求が、実は地域政策や課題を背景にしている場合が考えられます。
そうした状況では、潜在的な情報欲求が、具体的な要求として顕在化しない場合
が考えられます。ここに、図書選択の要求論の限界が見え隠れしますがそれはと
もかく、資料提供とは、個人へのサービスでありながら、地域課題への応答とい
う側面があることを検討してみたいと思います。
4.蔵書づくりのあれこれ
最後に、自身の図書館員としての経験や、視察した各地の図書館で得た知見を
もとに、資料選びや蔵書を構築していく事例について紹介したいと思います。
いい図書選択をするためには、当然の事ながら、本についての情報を質、量と
もに豊富に持ち合わせていることが問われます。また、いい本とはどのような条
件を備えているべきか、という評価軸をしっかりと持っていることも重要です。
さらには、社会情勢や、立地域の諸事情、市民や利用者のことを知っていること
も大切な判断材料と言えるでしょう。
ある分野の素晴らしい本を備えているけれど、利用者の反応が芳しくないとい
う図書館の棚があります。それは、市民ニーズとの不調和な場合もあれば、見せ
方の問題(配架の工夫)というケースもあります。さらには、ある種のいい本が選
ばれているのに、一方でその土地のニーズを見つけられず、あるいは見つけるた
めに必要な行動をとらずに、あれば利用される本を用意できていない図書館もあ
116 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
図書館資料の選び方・私論 ~予告編
ります。
蔵書づくりには、3つの視点が必要だと考えています。それは、「地域社会」、「出
版世界」、「蔵書と利用の相関」という3つの観察眼です。
そうした事柄についても、これまでの経験を踏まえて綴りたいと思います。
なんだか、あたりまえのことばかりで、LRGの読者諸氏の関心に耐えうるか甚
だ不安ではありますが、来年から4回の連載にお付き合いいただければ幸甚に存
じます。
1963年、大阪生まれ。1987年、豊中市立図書館、1998年、滋賀県旧永源寺町で図書館開設準備を経て、
2000年に永源寺町立図書館、2006年から合併後の東近江市立八日市図書館、能登川図書館などでの勤務
後、2011年、瀬戸内市新図書館開設準備担当。2009年から2010年まで、京都学園大学司書課程非常勤講師、
同志社大学政策学部嘱託講師を兼業。2008年、政策科学修士(同志社大学)。
嶋田学(しまだ・まなぶ)
★1 「蔦屋書店」を展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)が、指定管理者となっ
て運営している図書館を総称して「ツタヤ図書館」という呼称が、マスコミ、ネット空間で使用される
ようになった。
★2 地方教育行政の組織及び運営に関する法律
  (教育機関の設置)第三十条  地方公共団体は、法律で定めるところにより、学校、図書館、博物館、
公民館その他の教育機関を設置するほか、条例で、教育に関する専門的、技術的事項の研究又は教育
関係職員の研修、保健若しくは福利厚生に関する施設その他の必要な教育機関を設置することができ
る。
★3 米国での図書選択論には「目的論」が明確に浮上するが、日本では必ずしも明確に議論されてはいない。
本編で詳述する。
117ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
「知らなかった、大宅文庫が経営の危機にあることを」――。
2015年8月8日、このような一文から始まる書き込みをFacebookにアップした。
すると瞬く間に「拡散」され、5日後には「いいね!」が497人、「シェア」が276件。
Facebookと連動させているTwitterのほうは、「リツイート」が674件、「お気に
入り」が272件……。正直、驚いた。こんなに話題になるとは思ってもいなかっ
た。その一方で、「みんな本当に大宅文庫に関心があるの?」と訝る気持ちも生ま
れてきた。
公益財団法人・大宅壮一文庫(以下、大宅文庫)は、東京都世田谷八幡山にある
雑誌専門の私設図書館だ。その名の通り、ノンフィクション作家で評論家の大宅
壮一(1900 〜 1970年)が蒐集した膨大な雑誌資料が元になっている。大宅壮一と
いえば「一億総白痴化」や「駅弁大学」「男の顔は履歴書である」といった名言・語
録でも知られているが、「本は読むものではなく、引くものである」という言葉も
残している。事実、大宅の文筆活動は大量の資料に支えられており、終戦後まも
なく意識的に本や雑誌を蒐集するようになったという。それらの資料は同業者や
門下生にも開放され、没後の1971年、雑誌専門の私設図書館としてオープンし
た。
現在、大宅文庫が収蔵する雑誌は、約1万種類、約76万冊。これほど大量の
雑誌をアーカイブし、一般公開している私設図書館は、国内では例がない。これ
に匹敵するのは、国立国会図書館と東京都立多摩図書館くらいだろう。
このような専門性を持った図書館なので、利用者はもっぱら放送・出版などの
私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機
フリー編集者(ときどき書店員)。時事画報社、アスペクト、河出書房新社などを経て独立。現在、
アーリーバード・ブックスが刊行する「後藤明生・電子書籍コレクション」の編集・制作にも携わる。
その他、武田徹『NHK問題 2014年・増補改訂版』『デジタル日本語論』(武田徹アーカイブ)、烏賀
陽弘道『スラップ訴訟とは何か:裁判制度の悪用から言論の自由を守る』(Ugaya Press Internationa)
などセルフパブリッシングによる電子書籍の編集・制作も担当。
ツカダ マスヒロ
マガジン航Pick Up Vol.3
118 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
マスコミ関係者か、論文を執筆する大学生や研究者である。出版業界で20年近
く糊口を凌いできた筆者も、これまでに何度も大宅文庫に出向き、資料を検索し
ては閲覧を申し込み、山積みにした雑誌のページを繰っては記事をコピーしてき
た。○○さんのあの単行本も、△△さんのあの単行本も、「大宅文庫でコピーし
た記事から生まれた」と言っても過言ではない。
市区町村の公立図書館、あるいは大学図書館でも、雑誌のバックナンバーを保
管しているところは少ない。長くても2 〜 3年、早いものでは1年も経たずに廃
棄されてしまう。収蔵スペースに限りがあることもさることながら、古くなった
雑誌を閲覧したいという需要があまりないからだろう。そのため、大宅文庫の利
用者は、先に記したような特殊な雑誌資料を探す人々ばかりで、さしたる目的を
持たずにふらっと訪れるような人はいない。
筆者が訝しく思った理由はそこにある。「いいね!」が497人、「シェア」が276人、
「リツイート」が674人、「お気に入り」が272人。このなかで実際に利用したこと
がある人は何人いるのだろう……。
国立国会図書館や東京都立多摩図書館に匹敵する数の雑誌をアーカイブし、一般公開する大宅文庫。
撮影=仲俣暁生
119ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
バックヤード・ツアーを体験して
冒頭に記した大宅文庫の「経営危機」であるが、それを知ったのは、毎月第2土
曜日に開催されているバックヤード・ツアーに参加したことがきっかけだった。
その日の参加者は5名。まずは2階の閲覧室で大宅文庫の概要や大宅壮一につ
いての説明を受け、続いて館内に併設された書庫を案内してもらった。ガイド
役は資料課の黒沢岳さん。書庫の中は、まさに溢れんばかりの雑誌が並んでい
た。「週刊現代」や「週刊新潮」など最も利用頻度が高いという週刊誌の創刊号から
最新号、すでに休刊・廃刊となったものの、それぞれの時代を彩った大衆誌や専
門誌、さらには、書店ではなかなか目にすることがない総会屋雑誌や企業PR誌
……。珍しいものでは、まだ雑誌名すら決まっていなかった「an・an」の創刊準備
号や、終戦後、大宅自身が古書市で競り落とし、発行元の中央公論新社にも残っ
ていないのではないかと噂される創刊初期「婦人公論」なども見せていただいた。
そんなビブロフィリア垂涎のお宝を前に欣喜雀躍しながらも、黒沢さんの説明
の節々に混ざる「予算がなくて……」という言葉が気になった。
たとえば、収蔵する約1万種類もの雑誌の中には、創刊号から全ての号がコ
ンプリートされていないものもあるという。筆者が「欠落したバックナンバーは、
古本で買い集めたりするんですか?」と問うと、「できればそろえたいのですが、
なかなか予算がなくて……」と黒沢さん。さらには、大宅文庫が所蔵する雑誌の
うち誌面の欄外に「誌名・号数・ページ数」が記されていないものは、すべて手作
業でそれを記していくルールになっている。誌面をコピーした際、それが何とい
う雑誌の何月号の何ページに掲載されたものか、一目でわかるようになっている
のだ。「この作業、結構、時間がかかりますよね?」と問うと、またもや黒沢さん
は「この作業も人手と予算が足りなくて、いつまで続けられるか……」と言うの
だった。
バックヤード・ツアーの最後に質疑応答の時間が設けられた。いくつかの質問
をした最後に大宅文庫の経営状態についてあらためて訊いてみると、「担当では
ないので、きちんとご説明できない部分はありますが、昨年度は4000万円を超
える赤字を計上しました。それについてはホームページでも公開しています」と
のこと。あとで知ったのだが、大宅文庫は今年4月、入館料の実質的な値上げを
行っていた。そして、大宅文庫「平成26年(2014年)度正味財産増減計算書 」を見
120 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
書庫の中には、すでに休刊・廃刊となったものや、なかなか目にすることがない企業PR誌などもところ狭しと並ぶ。
撮影(上)=仲俣暁生 撮影(下)=ツカダ マスヒロ
121ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
ると、当期経常増減額は4361万3580円の赤字……。
大宅文庫は、経営の危機に瀕していた。
利用者減少の背景
今回、バックヤード・ツアーに参加した動機は、大宅文庫がこれまでに蒐集し
た貴重な蔵書を見てみたい、その運営システムを知りたい、という好奇心もあっ
たが、ここ数年、大宅文庫から足が遠のいていたこともあり、「久しぶりに行っ
てみようか」という思いも少なからずあった。
大宅文庫から足が遠のいていたのには、いくつかの理由がある。
第一の理由は、やはりインターネットの影響だろう。これについては説明する
までもない。検索サイトにキーワードを入力すれば、わざわざ本・新聞・雑誌と
いった印刷物を漁らなくても、だいたいの情報が、しかも無料で入手できる時代
だ。インターネットが普及する前、どうやって調べものをしていたのか、もはや
思い出すことすら難しい。
とはいえ、玉石混交のインターネットでは調べきれないことも多い。本・新
聞・雑誌などの印刷物に掲載された記事も、ネットで閲覧できるものはまだ限ら
れているので、現物を入手するしかない。
本へのアプローチは、2000年に「bk1」や「Amazon.co.jp」などのネット書店が登
場したことで一変した。筆者の場合、仕事(本や雑誌の編集)で必要な資料は、以
前は主に公立図書館で借り、買ったほうがいいと思われる本は、都内の大型書
店に電話をして在庫を確認して入手していた。しかし、ネット書店の登場以降、
本の検索も購入も、ほぼそれらで済ませるようになった。新聞記事に関しては、
「G-Search」が提供する「新聞・雑誌記事横断検索」を利用していた。利用料は安
くはないが、図書館で新聞の縮刷版を閲覧するよりも圧倒的に便利だ。このサー
ビスでは雑誌の記事検索も可能だが、登録されている雑誌が少ないので、調べも
のには物足りない。
では、雑誌の場合はどうしていたか? 大宅文庫、国立国会図書館、都立図書
館(かつては日比谷、中央、多摩の3館があった)、このうちのどこかで探すしか
ない。
122 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
筆者の場合、5年ほど前までは、大宅文庫をメインで使い、必要に応じて国立
国会図書館と都立図書館を使い分けていた。大宅文庫のほうが、見たい雑誌を請
求し、閉架の書庫から出してきてもらい、閲覧するまでの時間が圧倒的に短かっ
たように思う。資料のコピーも同様だ(ただし、実際に時間を計って比べたわけ
ではないので、個人的な印象かもしれない)。
加えて、大宅文庫が独自で構築している雑誌記事のデータベース「Web OYA-
bunko」がとにかく素晴らしかった。同じキーワードで検索をしても、国立国会
図書館のデータベースではヒットしない記事が、大宅文庫のデータベースでは
ヒットするのだ。国立国会図書館では目次に記されているキーワードしかヒット
しないが、大宅文庫は目次だけでなく、記事の内容までも吟味して検索キーワー
ドのタグ(分類分け)が付けられているのだ(これについては後で詳述する)。
このような理由から、雑誌の閲覧については大宅文庫をメインで使っていたの
だが、そのうち、都立図書館を利用する機会が減っていった。2009年7月、日
比谷公園内にあった都立日比谷図書館が東京都から千代田区へ移管され、それ
と同時に、都立中央図書館(港区南麻布)の多くの雑誌のバックナンバーも、都
立多摩図書館(立川市)にまとめて収蔵されるようになった。Wikipediaによると、
2009年5月、都立多摩図書館に〈新装開館した「東京マガジンバンク」は、「公立
図書館では最大規模の雑誌の専門サービス」を標榜〉しているのだという。
たしかに雑誌資料は充実しているし、近所にあったらすごく便利だ。筆者と知
己がある編集者やノンフィクション作家の何人かは、ここをメインで使ってい
るという。しかし、練馬区在住の筆者には、そこに行くまでが一苦労だった。JR
立川駅の南口から徒歩で20分、バスで10分+徒歩で5分(公式HPより)という立
地の多摩図書館を利用するときは、一日仕事になる覚悟をしなくてはならない。
高まる国立国会図書館の使い勝手
その一方で、国立国会図書館の使い勝手が、年を追うごとに良くなっていった。
2012年1月には、これまで館内でしか利用できなかった「国立国会図書館サーチ」
が一般公開され、インターネットを通じて自宅やオフィスでも蔵書検索ができる
ようになった。事前に利用登録をしておけば、記事をコピーして郵送してくれる
123ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
サービスも始まった。しかも、費用は実費のみ。コピー代はA4とB4のモノクロ
が1枚24円+消費税、発送事務手数料は国内が150円+消費税、国外が300円、
送料は実費である。
一方、「私設図書館」の大宅文庫は、先にも記したように入館料がかかる。現
在、一般の入館料は300円(税込)で、閲覧できる冊数は10冊まで(2015年4月の
値上げ前までは20冊まで閲覧できた)。再入館料100円(税込)を払えば追加で10
冊まで閲覧ができ、1日の閲覧冊数の上限は100冊。コピー代はサイズに関係な
くモノクロが1枚52円(税込)だ。学割のサービスもあり、入館料は100円(税込)、
コピー代はモノクロが1枚25円である(年間会員になれば、さらに割引になる)。
つまり、国会図書館よりも大宅文庫のほうが割高なのだ。たとえば、ある作家
の雑誌連載をまとめて単行本にしたいと思い、すべての連載記事をコピーしよう
としたら、その枚数が100枚以上になることも珍しくない。国会図書館であれば
24円×100枚=2400円+消費税、大宅文庫だとコピー代が52円×100枚=5200円、
それに入館料と再入館料も加わる。大宅文庫に行くときは、財布に最低1万円は
入っていないと心細かった。
結局、大宅文庫から足が遠のいたのは、この入館料とコピー代の問題が大き
かった。以前、頻繁に大宅文庫を利用していた頃も、1 階に設置された「Web
OYA-bunko」の端末で検索結果をリストアップし、近所の図書館にもありそうな
雑誌は、そこで閲覧とコピーをする、なんてこともしていた。
現在では、国会図書館や都立図書館でも「Web OYA-bunko」が利用できるとい
う。となると、わざわざ大宅文庫まで出かける理由がなくなってしまう。筆者の
FacebookやTwitterを「シェア」や「リツイート」した人のなかには、「以前はあれ
ほど利用していた大宅文庫なのに、最近はまったく行っていない」という人が何
人かいた。筆者だけではなかったのだ。そりゃあ経営危機にもなるさ……。
大宅文庫に「行く人」と「行かない人」
京王線・八幡山駅で下車し、左手に都立松沢病院の鬱蒼とした木立を眺めなが
ら大宅文庫へと向かう。この道を、いつも一人で、しかも、複雑な心理状態で歩
いていた記憶がよみがえる――。
124 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
サラリーマン編集者をしていた20 〜 30代の頃だ。ある時は、予定していた取
材先だけではページが埋まらず、締め切りが迫るなか、急遽、ネタを探し直さね
ばならず焦っていた。またある時は、企画会議の直前だというのに手持ちのネタ
がなく、急ごしらえであろうが企画をひねり出さなくてはという不安に押しつぶ
されそうになっていた。そして資料を漁り終えると、一目散で編集部に戻らなけ
ればならない。街を眺める余裕すらなかった。何度も通った八幡山なのに、自分
はこの街のことをほんとんど知らないことに気がついた。
実を言うと、今回、正式な取材の申し込みをする前、「マガジン航」の編集・発
行人である仲俣暁生さんとの打ち合わせのついでに、あらためて大宅文庫に足を
運んでいた。というのも、仲俣さんは大宅文庫に行ったことがないというのだ。
駆け出しの編集者の頃、情報誌やコンピューター雑誌の仕事が中心だった仲俣さ
んには、大宅文庫を特に必要とする機会がなく、そうこうしているうちに「グー
グルの時代」が来てしまったのだという。
たしかに、筆者が知るフリーのライターや編集者の先輩の中にも、大宅文庫に
行ったことがないという人が何人かいる。彼らのキャリアを見ると、自社に資料
室を持つ大手出版社や新聞社から独立した人が多い。また、出版社でもテレビの
制作会社でも、「資料探し」は下っ端の仕事。売れっ子の文筆家の中には、担当編
集者や若手のライターに、それを依頼する人もいる。大宅文庫はマスコミ関係者
御用達というイメージが定着しているが、キャリアや立場、仕事内容の違いで、
ずっと縁がなかったという人ももちろんいるのだ。
まずは仲俣さんに、大宅文庫の「底力」を、利用者として体感的に理解してもら
わなくてはいけない。打ち合わせの席で、開口一番、そのことを伝えると、仲俣
さんも同じことを考えており、小一時間ほどの打ち合わせの後、早速、大宅文庫
へと向かうことになった。大宅文庫の窮状を、声高に訴えるだけの記事にはした
くない。使い勝手に多少の不満はあるが、時代の流れの中で淘汰されてもしかた
がないとも思っていない。大宅文庫は、国立国会図書館や東京都立多摩図書館と
いった公立の雑誌アーカイブに勝るとも劣らない、「私設」ならではのサービスを
提供している。それを知ってもらいたかった。
大宅文庫の館内は、お盆休みに入る前日だったせいか、それほど混んではい
なかった。数日前、雑誌「TOmagazine」のオフィシャルサイト「TOweb」で知った
大宅文庫のバックヤード・ツアーに参加したときも、土曜日の午前中だったせ
125ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
いか、マスコミ関係と思しき利用者はあまり見かけなかった(ちなみに、最新号
の「TOmagazine」[6号]で批評家の大澤聡さんが、大宅文庫についての仔細なレ
ポートを寄稿している。そちらもぜひ、ご一読いただきたい)。
今回の訪問は、取材前のロケハンと大宅文庫初体験となる仲俣さんの案内役で
はあったが、以前から大宅文庫で調べたい記事があったので一石二鳥だった。調
べたかったのは、小説家・後藤明生(1932 ~ 1999年)に関するものだ。
以前、「マガジン航」でも紹介していただいたが、筆者は後藤明生の長女で著作
権継承者の松崎元子さんと「アーリーバード・ブックス」というレーベルを立ち上
げ、セルフパブリッシングによる電子書籍での復刊を行っている。現在までに
26作品をリリースし、今後もさらに作品数は増える予定だが、その一方で、後
藤明生に関する評論などを集めた書籍を刊行したいと目論んでいた。そのための
資料を探そうと思っていたのだ。
すでに「国立国会図書館サーチ」の検索は済ませており、そこで見つかった書籍
や雑誌記事、大学の発行物に掲載された論文などは、おおむね入手していた。そ
のまま国会図書館にオンラインで申し込んでコピーを郵送してもらったものもあ
れば、近所の図書館の蔵書をコピーしたものもあり、古書価が安い書籍に関して
はAmazon.co.jpのマーケットプレイスで購入していた。
しかし、雑誌の目次に記されたキーワードからしか記事が検索できない「国立
国会図書館サーチ」では、ヒットしない記事も多い。目次だけでなく利用者が必
要と思われるキーワードを独自にタグ付けしてデータベースを構築している大宅
文庫であれば、さらに多くの記事が見つかるはずだ。
Web OYA-bunkoの威力
さっそく受付で入館料を払い、1階に設置されたコンピュータ端末「Web OYA-
bunko」で検索すると……。やはり、あった。「中央公論」2014年11月号では、「谷
崎潤一郎賞の50年 歴代受賞者に聞く 私の好きな谷崎賞受賞作品」という記事
の中で、小説家の阿部和重さんが後藤の『吉野太夫』について記していた。また、
評論家の坪内祐三さんが「群像」2012年12月号で、翻訳家の東海晃久さんが「新
潮」2012年11号で、未完のまま長らく単行本化されたなった長編小説『この人
126 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
を見よ』を書評していた。さらに、「週刊文春」2013年11月21号でライターの永
江朗さんが取り上げてくれたアーリーバード・ブックスの記事、「新潮」2014年
4月号に著作権継承者の松崎さんが寄稿した「後藤明生・電子書籍コレクション」
に関する記事もヒットした。
最も驚いたのは、「ユリイカ」2001年3月号「特集・新しいカフカ」に掲載され
た文芸評論家・城殿智行さんの小論だ。当該誌をめくってみると、目次にも記
事の見出しにも「後藤明生」の文字は見当たらない。しかし、記事を読んでみると、
後藤作品におけるカフカの影響を論じたものであることがわかる。目次に記され
たキーワードからしか記事が検索できないデータベースでは、絶対に見つからな
い原稿だ。
これほど多くの記事が見つかるとは、予想以上だった。隣席に陣取る仲俣さ
んに、他の利用者の迷惑にならないよう声をひそめながらも、少し興奮ぎみに
「Web OYA-bunko」の素晴らしさを力説する。単純なキーワードだけで検索する
と、ヒットする記事が多すぎて逆に不便なので、検索キーワードの選び方にもセ
ンスが必要になるなど、ちょっとしたコツを伝授しながら、それぞれ検索に没頭
した。
筆者が閲覧を申し込んだ雑誌は40冊。手元に届くまでの時間は20分だった。
後日の取材でわかったことだが、閲覧が申し込まれた雑誌を書庫から取り出し
て利用者に届けるまで、「20冊で10分」を目標にしているという。そこから、雑
誌のページを繰って、お目当の記事に目を通し、必要なものはコピーを申し込む。
20冊35枚のコピーが手元に届くまでの時間は30分。この早さは、国立国会図書
館を上回るのではなかろうか。
仲俣さんが「このデータベース、オンラインで家でも使えたら便利だよね」と言
うので、待ってましたとばかりに「今年の4月から使えるようになったんですよ」
と説明し、筆者自身もその場で「定額利用サービス」に申し込んだ。
2002 年、これまで大宅文庫に行かなければ利用できなかった「Web OYA-
bunko」が、大学や公立の図書館にも提供されるようになった。2013年には、賛
助会費が年間1万円の個人会員も、オンラインで利用できるようになった。ただ
し、検索表示料金は1件につき10円。コピーの郵送サービスのほかにファクシ
ミリによるオンライン複写サービスもあり、送信資料代は1枚268円、送信手数
料は1件309円。営業日の16時までに申し込めば、当日中に送信してくれる。
がしかし、そこまで急ぐような用事は滅多にないし、料金も高い(ただし、会
127ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
員になれば、大宅文庫に行って資料を閲覧・コピーする際の割引がある)。その
ため、地方在住者などからの要望もあり、今年4月からは個人会員にならなく
ても「Web OYA-bunko」が利用できる、さきに言及した「定額利用サービス」が始
まった。年間検索料は5400円で、検索表示料金は0円。ファクシミリによるオ
ンライン複写のサービスはつかないが、有料でコピーの郵送はしてくれる。しか
も、3 ヶ月間は無料のトライアル期間がつく。大宅文庫に足を運ばなくてもホー
ムページから申し込みができるので、興味がある方は、ぜひ使い勝手を試してい
ただきたい。
「国会図書館のデータベースではヒットしない資料がこれだけ見つかって、し
かも月額にすれば450円かあ。近所の図書館にありそうな雑誌はそこでコピーす
ればいいんだから、これは便利だし、お得ですね」と仲俣さん。筆者の目論見は
見事に成功した。
経営悪化の背景
前述したように、平成26年(2014年)度、大宅文庫は4361万3580円の赤字を
計上している。平成27年(2015年)度の事業計画でも2490万4202円の赤字が見
込まれている。昨年度、借地だった敷地を購入したことが赤字の原因かと思いき
や、平成25年(2013年)度も約3600万円もの赤字を計上しており、それが原因
とも考えにくい。大宅文庫が慢性的な赤字経営になっていることは間違いなさそ
Web OYA-bunkoのログイン後の画面 複数の検索方法が可能
128 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
うだが、その原因は何か? 今後どうやって経営を健全化していくのか?
取材に対応してくださったのは、バックヤードツアーでもお世話になった資料
課の黒沢岳さん。赤字のいちばんの原因は、やはり利用者の減少だった。ピーク
時の2000年前後、1日の利用者は約100人で、多い日の閲覧は1万冊もあったが、
現在は1日に50 ~ 60人、閲覧は2000冊、多い日でも3000 ~ 4000冊とのこと。
さらに、年間契約の法人会員の減少が著しく、それが経営悪化の原因になってい
るという。法人会員の多くはマスコミ関連企業だが、出版社はまだしも、放送関
連企業の継続契約が激減しているという。
「テレビの制作会社のADさんらしき人が、資料を調べながらも次から次にケー
タイが鳴って、とても忙しそうに働いている姿を見ると、リサーチに時間をかけ
る余裕がなくなっていること実感します」と黒沢さん。さらに、「頻繁に利用して
くださるライターさんが、『大宅文庫で調べている時間があるなら、もっと早く
原稿を送ってくれ』って言われたそうなんです。その方は『そんな編集部の要望
に応じていたら、誰が書いても一緒の原稿になってしまう。意地でも調べ物には
時間を使う』って言ってくださいましたが……」と話してくれた。
大宅文庫の経営危機は、どんな情報も「ググれば何でも簡単に手に入る」、イン
ターネットの影響だけではない。出版社や放送局といったメディア産業のフトコ
ロ事情も大きいようだ。つまり、「情報が売り物」のはずのメディア産業が、自ら
発する情報のクオリティを高めるためのコストがかけられなくなった。さらに踏
み込んで言えば、メディア産業そのものが、情報を蔑ろにしていることの表れの
ようにも思えてくる。これでは、マスコミが提供する情報も、玉石混交のイン
ターネットと同じになりかねない。薄っぺらな情報やネットでも読めるような記
事、読み応えのない記事しか載っていない雑誌なんて、誰が買ってまで読みたい
と思うか……。
独特の「棚」配置とオリジナルの「タグ」
大宅文庫の蔵書は、すべて発行元である雑誌社から無料で寄贈されたものだ。
開館以来、それが続いているのも、オピニオン誌から大衆誌、女性ファッション
誌に至るまで、ジャンルを問わず幅広い媒体に執筆してきた大宅壮一の力が大き
129ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
い。長年つきあいのある雑誌社は、新雑誌が創刊されたら、何も言わなくても寄
贈してくれるが(だから「an・an」の創刊準備号さえも収蔵されている)、新たな
会社が創刊した雑誌はそうもいかず、大宅文庫に必要と思われるものは、発行元
に寄贈をお願いしているという。ただし、ここ数年は、いわゆる「雑誌不況」の影
響で、寄贈を断られることもあるとのことだ。そればかりか、これまで続けてき
た雑誌の寄贈を、献本できる冊数が減ったため中止したいと言ってくる雑誌社も
あるという。
相次ぐ増設で迷路状になった書庫
1971年のオープン以降、増え続ける蔵書を収蔵するため、これまでに2度、建
物を増築している。しかし、収蔵スペースは、もはや限界に近い。2012年に公
益社団法人になったとはいえ、「私設」の図書館である大宅文庫には、国立国会図
書館のように収蔵雜誌の誌面を著作権者の許諾なしにデジタルデータに変換する
ことができない(もちろん配信等による提供も)。著作権法に抵触するためだ。建
物の老朽化も著しく、昨年度、隣接する借地を購入した理由は、もし他者に売ら
れてしまったら、この先、改築・増築することもままならなくなってしまうがた
めの苦肉の決断だった。
大宅文庫は、単なる雑誌のアーカイブではない。「本は読むものではなく引く
ものだ」という大宅壮一の理念を受け継ぎ、利用者のニーズを第一に考えたサー
ビスを提供している。一度でも「Web OYA-bunko」を利用すれば、それは実感で
きるはずだ。それだけではない。閲覧カウンターの近くから利用頻度の高い順に
雑誌を収蔵しているからこそ、閲覧を申し込んだ「20冊の雑誌が10分」という驚
くほどの速さで手元に届くのだ。
また、通常の図書館であれば、バックナンバーは何号かをまとめて合本にする
が、その合本が貸し出されたら、別の利用者が閲覧できなくなってしまうため、
大宅文庫では基本的に合本にはしない。すでに言及した、誌面の欄外に記された
「誌名・号数・ページ数」もそうだ。これが記されているから、コピーをした記事
の出典が一目でわかる。これらのサービスは「私設の雑誌図書館として、どれも
当然のこと」と黒沢さんは言う。
130 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
今回の取材では「Web OYA-bunko」のデータ入力の様子も見せていただいた。
現在、約400種類の雑誌が寄贈され、それを5 ~ 6名の職員が手分けして入力作
業を行っているという。もちろん、すべての作業が人力だ。目次だけを入力する
のでも、結構な時間がかかりそうだが、大宅文庫の場合は、記事の中身にも目を
通して、オリジナルのタグを入力していく。「週刊文春」の場合、約70件の記事
のデータを入力するのに、まる1日はかかるという。この作業を、次号が刊行さ
れる前に終えなくてはならない。単純な入力作業ではないので、長年の経験や知
識、利用者のニーズを熟知していなければできない。
「私設」アーカイブがもつ「公共性」
最盛期には50人以上いた職員も、昨年度は4人の人員削減を行い、現在はア
ルバイトや契約社員なども含め35人(正社員は9人)に減っている。スタッフの
人数が減れば、当然、サービスの低下を招く。大宅文庫の「売り」であるデータ
ベースも、入力作業のスタッフ不足で最新号に追いつくのもやっとだという。当
利用の多い週刊誌は、閲覧カウンターに近い一階の書庫に置かれている。 撮影=仲俣暁生
131ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
然、開館以前に大宅壮一が集めた膨大な数の雑誌のデータベース入力は、さらに
作業が滞っている。現在、「Web OYA-bunko」に登録されているのは、大宅文庫
が所蔵する雑誌の約1割とのことである。約76万冊の蔵書も、データベース化
しないと宝の持ち腐れになってしまう。
2020年までに赤字経営から脱却できるよう長期計画を立て、まずは来館者と
「Web OYA-bunko」の利用者を増やすためのPR活動、さらには寄付金も積極的に
募っていく方針だという。黒沢さんは「フィクションにくらべノンフィクション
の作家さんは、売れっ子といっても経済的に厳しい状況にあるようなので、なか
なか寄付をお願いするのも憚られるのですが」と自嘲気味に言っていたが、そん
なことはない。小説家だって、資料を元に書いている人、大宅文庫にお世話に
なった人は多いはずだ。
あらためて声を大にして言いたい。大宅文庫はまだまだ現役だ。使い方しだい
では、国立国会図書館や都立図書館よりも便利だ。そして何より、「Web OYA-
bunko」が継続できなくなったら、大宅文庫のみならず、このデータベースの検
索端末が置かれている他の図書館に収蔵された膨大な雑誌資料さえも、文字通り
「死蔵」となる可能性がある。駆け出しの頃、大宅文庫にお世話になった、あるい
は、まだ利用したことがないという出版関係者や文筆家、テレビ、ラジオ、イン
ターネットなどのメディア関係者は、まずは八幡山に出かけて、その価値を自分
なりに判断してみてほしい。
もちろん大宅文庫もさらなる自助努力をしなければならないのは当然だが、現
行著作権法のさらなる改正も含めた制度面の見直し議論など、「私設」ならではの
サービスを提供してくれる雑誌アーカイブの公共的価値を今後どうしていくか、
出版のみならずメディア産業全体で考えていかなければならない時期にきている。
*本稿は、「マガジン航」で掲載された「私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機【前編】(2015年8月27日)、 
【後編】(2015年9月10日)を、著者の承諾を得て、本誌用にまとめ直し掲載したものです。
※編集注
 大宅文庫では賛助会員(個人会員、法人会員)を随時募集しているほか、「雑誌図書館とし
ての公益目的事業を継続していくため」の寄付金を募集しています。詳しくは以下をご覧
ください。
■寄付金口座開設とご寄付のお願い
 http://www.oya-bunko.or.jp/guide/tabid/72/Default.aspxa
132 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
知人の編集者であるツカダ マスヒロさんが、この夏にFacebookで大宅荘一
文庫(以下、大宅文庫)の窮状を伝える書き込みをしているのを見たとき、「ああ、
やっぱり」と思った。大宅文庫はそこまで大変なことになっていたのか、と。
書き込みを見てすぐに「『マガジン航』で取材をしませんか」とツカダさんに声を
かけたのも、その前年の 2014年に横浜で行われた図書館総合展の会場での一つ
の場面がすぐに思い浮かんだからだ。私はそこで大宅文庫がささやかな展示を
しているのを見かけたのだが、あの大宅文庫が? と思うほど小ぢんまりとした
ブースで、思わずそこにいた方に「あの有名な大宅文庫ですよね、これは?」と声
をかけてしまったのだった。
「あの有名な」とは言ったものの、30年前に出版業界で仕事を始めて以来、私
は大宅文庫に実際に足を運んだことがなかった。「こういうときは大宅文庫に行
けばいい」という先輩編集者の話は何度も耳にしており、ああ、そういうものな
んだなぁと思ってはいたが、実際に必要とする局面に至らなかった。ツカダさん
と取材の打ち合わせ時に、それはなぜだろうという話になって、私がとっさに思
いついた理由は、資料収集に対する意識の貧弱さを棚に挙げるならば、こういう
ものだった。
1980年代の半ばから、私は編集プロダクションや小さな出版社でサブカル
チャー系の情報誌やパソコン雑誌の編集スタッフとして仕事をしていた。いまで
は死語になりつつある「情報誌」や「パソコン雑誌」の仕事の共通点は、その時点で
はまだ過去のアーカイブが十分ではない、まだ若い分野を扱う雑誌だったという
ことだ。
国立国会図書館や大宅文庫へ足を伸ばして過去を掘り返すことよりも、目の前
で日々動いていく現実を追いかけることに懸命だったのである。
1990年代に入ると、一気にコンピューター・ネットワークの時代がやってき
た。「パソコン通信」と呼ばれていたものは、いつしか「インターネット」あるいは
「ウェブ」と呼ばれるものに代わり、そこで起きている現象そのものが、私のあら
たな仕事のテーマになっていった。大宅文庫を利用する必要は、ますます薄らい
だ。もう「大宅文庫へ行け」と私に言ってくれる先輩編集者もいなくなっていた。
私設アーカイブがもつ公共性〜大宅文庫の未来のために
仲俣暁生(「マガジン航」編集人)
133ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
マガジン航 Pick Up
ここまでは、「その頃の大宅文庫には、自分が仕事上で必要とする雑誌のアー
カイブはなかった」という話である。
しかし、ときはいまや2016年。大宅文庫には、すでに「インターネット」や
「ウェブ」あるいは「1980年代以後のサブカルチャー」といった、当時は目新し
かった事象が、過去の膨大な地層として残されている。
同様の雑誌バックナンバーの多くは、国立国会図書館にも都立多摩図書館にも
置かれているだろう。だが、「雑誌」というメディアを、リアルタイムの現在に奉
仕するものとしてとどめず、過去についての膨大な情報を抱え込んだ地層として
保存し、それらをたくみにインデックス化し、必要に応じて切り出すことで、あ
らたな「現在」のために奉仕させるという、大宅荘一のジャーナリスティックな構
想そのものは、役割を終えたどころか、ますます重要な意味をもっているように
私には思える。
いま、国を挙げての「デジタル・アーカイブ」への流れが生まれつつあるなかで、
この偉大な先人が構想した「アーカイブ」が、法制度の合間に落ち込んで、新たな
時代に対応するための身動きがとれなくなっているとしたら、とても惜しいこと
だと思う。
大宅文庫のように、民間から生まれながら公共性の高い活動をながく続けてき
たアーカイブの精神を21世紀に受け継ぐことができなければ、日本はメディア
とジャーナリズムの歴史に、大きな禍根を残すことになるだろう。 
私設ライブラリーの電子化に対する法制度上の制約はあるにせよ、大宅文庫が
そのサーヴィスをいま以上にデジタル化・ネットワーク化に対応させていくこと
は、利用者を増やし、経営を健全化していくためには必要なことだろう。だがそ
れ以上に、大宅荘一が当初このアーカイブを「雑草文庫」と名付け、「蔵書は多く
の人が共有して利用できるものにしたい」と考えたことの意味を噛みしめるべき
ではないかと私は思う。
とはいうものの、私自身も大宅文庫を日常的に使うにはまだ至っていない。だ
がそれは、その場までわざわざ足を運ぶ必要があるという、ネット時代に見合わ
ない利便性の欠如だけが問題なのか。それとも大宅荘一がジャーナリズムの希望
を託した「雑誌」という情報の束そのものが魅力を失っているのか。そのあたりに
ついても今後、「マガジン航」で検証していきたいと考えている。
134 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
■イノベーションの本質に気づいた30代
司書じゃないんですけど、登場していいんですか(笑)。おまけに、今は「一度
本から離れよう」なんて図書館の人には言っているので、いいのかなあ。とはい
え、僕自身は「本」にはとてもこだわりがあるんですよ、あらかじめ確認しておく
と(笑)。それこそ18歳から大学を卒業するくらいまでは、毎日同じ本屋に通っ
てすべての本棚をチェックし、週末は神保町の古本屋を隅から隅まで、お店の書
棚全部をまわるというのを日課にしていたくらいです。という本にこだわってき
たバックグラウンドがあった上で、今は「あえて」本から離れて考えようと言って
いるのですけれどね。
学生時代に学んでいたのは法律で、比較法的な視点で民法を学んでいました。
僕の学生時代は1980年台初頭のポストモダンの時代だったので、「公共とはなん
ぞや?」の時代。この問題意識は僕にとって今も重要であり続けています。
卒業する頃は、社会科学のサイエンスコミュニケーターになりたい、出版社に
入りたいと思っていたのですがダメで、輸入代理店の国際法務を担う職につきま
した。海外のモノを日本に輸入するための、海外メーカーとの交渉や契約を作成
するのが仕事の中心でした。その頃は、バブル前の日本が世界で一人勝ち状態の
時代だったので、海外から見ると日本のマーケットはとても魅力的で、海外企業
は直接進出し始め、モノや情報の流れが変化しだした。メーカーがあって、輸入
2015年4月から県立長野図書館長を務める平賀研也
さん。これまでの経験をおうかがいするとともに、現
在取り組んでいることについて語っていただきました。
▶図書館長になるまで
司書名鑑 No.9
平賀研也(県立長野図書館長)
135ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
者(卸売者)がいて、小売店があってお客さんがいる、という流れが再編された
んです。まったく違ったプレイヤーが現れ、モノをつくり、お客様に届けるまで
の情報のつながり方が大きく変化し始めたんですね。それと時を同じくして情報
技術が飛躍的に進化し始め、メーカーもインポーターも小売店もお客様も、誰で
もたくさんの情報を扱えるようになり始めました。
そんな社会環境でしたから、僕がいた会社も根本的に経営を変えないといけな
くなり、経営改革にも携わるようになったのですが、その頃からモノ、コト、ヒ
ト、情報のつながり方を変化させることがイノベーションの本質なんだというこ
とをずっと考えてきました。
こうした経験と思いが、実は、いま図書館でやっていることとつながっている
と思います。情報とヒトのつながり方を社会の変化に合わせてどう変えていくか
ということが、これからのコミュニティの在り方を決めていくと思うのです。情
報と情報、情報と人、人と人のつながり方というのは今の時代のとてもコアな
テーマだと思っています。
■ITの革新とともに変化した「情報」との関わり
ちょうど僕が就職した頃、ワードプロセッサが登場して、それまでたくさんい
た和文タイピストという職業があっという間になくなったんです。ほぼ同時にパ
ソコンが普及し始め、技術の変化によって自分の仕事のやり方が幅も質も変化し
ていくということを経験しました。たとえば社内報をつくるという仕事をしてい
たこともあったのですが、最初はレイアウト用紙に定規で線を引いて指定して
写植へと分業していたものが、DTPによって全部、自分のパソコンの画面上でば
ばっと組めるようになりました。自分で情報を集めて、編集したりデザインして
表現するということはとても楽しくて、もっとやりたい、もっと知りたいと思い
ました。情報を編集するこうした経験と、古本屋巡りをして色んな情報の世界の
配置を俯瞰することの楽しさは僕の中ではシームレスにつながっています。
しばらくして、Appleを追い出されたスティーブ・ジョブズが「DTPの次はコ
Directory of librarian
136 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
ミュニケーションワークの時代だ」というプレゼンをしたのを見て感激したこと
を覚えています。そのジョブズが設立したNeXTを導入して、今は普通にやって
いることですが、ネットワーク上でプロセスを共有しながらグループワークを進
めるなんてこともしました。みんなで一緒につくっていくこと、一緒に情報を
扱っていくということは、本当にすごいなと思いました。とても楽く、スピード
感があり、思いもしなかった情報に触れ、予期せぬ付加価値が生まれていくので
すから。
「情報をどう扱うか」、人が何かを知り、共有し、編集し、表現して伝えること
の大転換、今につながる情報革新のプロセスを僕は仕事の上でリアルタイムで経
験し、一緒に育ってきたと思うのです。
それから30年が経ちました。情報を調べ、知る場である図書館はどうでしょ
うか。多くの場合、旧態依然として本を読むところから一歩も出ていないんじゃ
ないかといったら言い過ぎですか? だけど、「読む」というのは何も「本」だけ
じゃなくて、情報をどう理解して、評価して、編集して、表現するかというもっ
と広い話、つまり「知る」ということでもあるはずだよね。そもそも「本」とはなん
ぞやということを今、真面目に考えないと。
だから、理論とか理屈ではなく、80年代始めからの自分の経験に照らして
「えっ、図書館ってまだここ? 僕が大学生の時のままじゃん」っていう想いが
あります。30年の間にもっとできることがあったんじゃないか? 今からでも
遅くない。
僕は会社から派遣されて2年間、アメリカのイリノイ大学に留学したことがあ
るんですが、そのときに向こうの大学図書館を見ておったまげたのね。93年頃
です。僕が知っている日本の大学図書館は相変わらずカードシステムで閉架書庫
式だったのだけれど、アメリカに行ったら全然違っていた。
イリノイ大学は、コンピュータサイエンスで有名で、大学図書館の検索システ
ムがすごかった。自分が入力した検索ワードに合わせて画面にベン図が出てくる
ようになっていたんです。自分の検索したいことが、A and Bなのか、A or Bな
のか Not A or B かみたいなことが画面上でどんどん絞り込める仕組みでした。そ
137ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
れから、雑誌の検索をすると記事のサマリーが全部入っていて、どういう仕組み
か聞いてみたら、研究者がすべてボランタリーに入力しているんだと言われて驚
いたり。そんなに英語に強くなかった僕でも、そのサマリーで当たりをつけて必
要な情報を探すことができて、すごく助かりました。それから、「インターネッ
ト」っていうものでよその大学に調査依頼かけてみろ、と15cmくらいの厚さの
URLアドレスの綴りを渡されたり。まさにブラウザが登場する一瞬前、AOLの
サービスが始まろうとしていた頃ですね。「図書館といっても、いろいろありな
んだ」という当時のそんな驚きも今につながっているかもしれない。
この30年間、日本の図書館がまったく変わらなかったとは思いませんが、今更
ながら、僕らはもっと「知る」ということの今に着目し、いろいろやれることがあ
るのではないでしょうか。
■初めての図書館勤務とその違和感
その後、日本に帰ってきて子どもが産まれました。やがて妻と「子どもを東京
の学校に行かせたくないよね」という話になりました。東京にいると8割近くが
大学に進学するわけで、とにかく受験のための勉強を小さい時から考えているで
しょう? そういう勉強はやらせたくなかった。
そんなときにたまたま伊那谷のある先生の教育実践を記録した本、『ひみつの
山の子どもたち—自然と教育』(童話屋、1997年)という富山和子さんの本を読
んで、暮らしの中で学ぶという学校があることにびっくりしました。時間割もあ
りません、チャイムも鳴りません、成績表もありません、一日中外にいます、み
たいな。で、歩きながら看板を見て漢字を覚え、歩きながらみんなで詩をつくり、
音楽をつくり、行った先で秘密基地をつくりながら、算数や測量術みたいなこと
までやったりだとか、「嘘でしょ?」と驚きつつ、「知る」、「学ぶ」って本当はこ
ういう実感のあるものなんだよな、普通の公立の学校でもできるんだ、というの
でその先生に会いに初めて伊那谷にでかけました。
来てみたら、本当に気持ちのよいところで、素敵な生き方をしている人たちが
Directory of librarian
138 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
いて、さっき言った教育も特殊な例ではない。この町は基本的にそういう「学び」
や「暮らし」を大切にしているんだなとわかる。一方で、うまく活かされていない
ハコモノや仕組みとかも見えてきて、これ、ミスマッチだよね、企業と同じ悩み
だな「これ、つなぎ直したらすごいよなあ」と思いましたね。
それで、伊那に引っ越し、2年間は子どもと一緒に遊んで暮らしていたんです
が、たまたま、政府系の公共政策シンクタンクの雑誌編集のリクルーティングが
ネットに出ていて、「これからの公共のあり方を軸にした特集主義でやりたい」と
手を挙げたら、じゃぁ、来てくれってことになって。それで、一年の半分は単身
で東京に住み、月刊研究広報誌の刷新と企画編集をやりました。これもすごく勉
強になりましたね。バックグラウンドのない世界の情報をどうやって探し、見極
め、企画化するかという無謀なチャレンジ(笑)。冷や汗ものでしたが、デジタル
のおかげで情報のありかに当たりをつけながら進められました。
伊那市創造館内の"昭和の図書館"(旧・上伊那図書館) 撮影=平賀研也
139ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
3年後、伊那市で図書館長を公募することに。もともと僕の興味関心の「パブ
リックな空間ってなんだろう?」というテーマと、地域が「いま、変わらなきゃい
けない」っていうときに一番大事なのは、情報と情報、情報と人、人と人のつな
がり方を変えることだという思いが当然ありましたから手を挙げました。地域の
公共空間では、図書館こそそれができる場じゃないかなと思ったわけです。これ
こそ僕がやりたい仕事だと、当時は図書館の実態なんて知らなかったから、本気
で思いましたね、「図書館、バッチリじゃん!」。で、図書館に入ったら、おお、
こう来たか!と(笑)。
そこにあったのは、今思えば典型的な「市民の図書館」。児童サービスがメイン
で、仕事のほとんどは、お客様との接点である貸出サービスに向いている。それ
も大切なんだけど、うーん、っていうね。図書館をとりまく町の人たちも、本当
に今まで献身的に素晴らしい図書館を育ててきたわけだけれど、80年代半ばか
らの活動は世代交代もままならず、同じ方法論と言ってもいい。それを享受して
いる人たちの思いは変わってしまった。統計情報をとにかく分析しまくってみて、
これは「知の消費」なんじゃないかとも思いました。この消費の先に、地域コミュ
ニティにとって有意な何かがつくりだされることが果たしてあるんだろうか? 
とすら考えました。
僕が考えていたような、もっとたくさんの人が今の時代ならではの「知る」こと
のワクワクするような体験ができる情報の拠点、情報のハブ、情報のチカラを感
じられる場所を目指さずに、本当にこのままでいいんだろうか? と。もっとた
くさん、もっといろいろ、もっと便利に、もっと心地よくという個人の満足の追
求しかないのかなぁ、これが「公共」図書館なのかなぁと。図書館長になった最初
の頃は、こういった現実を目の当たりにして、自分の意識とのギャップに戸惑い
ました。
Directory of librarian
140 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
▶伊那市立図書館長から県立長野図書館長へ
■これからの図書館をめざして試行錯誤
それでも、潜在的な必要や意味や楽しさなんて試してみなけりゃわからない、
というわけでいろいろ始めました。古い図書館の明治以来の資料を再編してそれ
を見て触れられる空間を整備したり、図書館を使い倒す講座なんていって情報リ
テラシー向上を支援しようとしたり、本と図書館地域通貨を媒体に町と人をつな
げてみたり、座学はやめて表現することをメインにしたワークショップに転換し
たり……。中でも、急速に失われていっている明治以降の地域の写真や日記や書
籍や資料をなんとか救うためにデジタルアーカイブをつくりたい、という思いが
募りました。
地域の「知の共有地」、デジタルコモンズをつくろうといろんな方と話しました。
世界の入り口としての郷土の資料を保存提供するというのは地域図書館の本質で
すよね。その情報を自由に二次利用できるようにし、共に知り、共に創る体験や
場を埋め込み、創造した成果を蓄積、発信してみんなと共有する。そんな地域の
知の循環をつくれたらいい、と。
しかし、アーカイブをつくって蓄積し、検索できますということだけでは、情
報の活用にはならないし、共に知り、共に創るとか知る楽しさというのはないよ
なぁ、と考えていたのが2010年の始め頃です。iPadの登場で電子書籍元年なん
て言われた年で、自分でもiPadを買い、子どもからお年を召した方までいろん
な人に触ってもらいました。タブレットというだけなのに「情報との距離感が今
までと違うぞ」とPCに初めて触れた時よりも何かが変わる可能性を感じました。
その夏に小布施の花井さんがまちとしょテラソ開館1周年記念アーカイブシン
ポジウムをやるからおいでよと誘ってくれました。そこで当時NIIの高野研にい
た中村佳史さんやATR Creativeの高橋徹さんにお会いしていろいろ話し、アプリ
の「ちずぶらり」を持って小布施を歩いたりしてみて、アーカイブを活用すること
は可能だ、「知る」ことをみんなで楽しめるかもしれないと期待が持てたんです。
その後「高遠ぶらり」プロジェクトを立ち上げ、図書館と市民の取り組みとして
141ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
展開を始めたら、博物館はもちろん学校や観光や防災や郷土研究や他の地域や、
まぁ実にいろいろな方とつながり、一緒に地域の情報資源を集め、編集し表現す
る関係が広がりました。そこで図書館の本も使われ、「本の貝塚」から生き返る可
能性が見えてきました。
地域の自然と暮らしから知ることを楽しむ「伊那谷の屋根のない博物館の屋根
のある広場へ」を目指したそんな取り組みが「地域資源の創生」をし、「新しい知る
プロセス」を提示する先進的な取り組みとして意味づけられ、Library of the Year
2013をいただきました。試行錯誤しながら、こういうことは図書館からすれば
異端と思われているのだろうなと思っていましたから、「ああ、これもありと言っ
てもらえた」と嬉しかったし、これをきっかけに、地域の人たちが、「お前たちの
言ってたこと、やってたことがわかったよ。要は江戸時代からこの地域が大事に
してきた実践的な学び、暮らしに学ぶことを今なりに蘇らせたいんだな」と言っ
てくれたことが何よりも嬉しかったです。
僕が80年代から90年代にかけてビジネスの世界で情報を探索して自分なりに
編集するワクワクした世界はこの地域でも一緒じゃないか、「知る」ことをみんな
もっと楽しめるんだな、と思えたわけです。とはいえ、もっとたくさんの人に、
共に知り、共に創造する機会やリテラシーを届け、日常の暮らしの中に埋め込み、
いきいきとした創造的なコミュニティをつくっていけないだろうか、ということ
は課題です。そのために図書館は一体どうあればいいのか。
■ポスト『市民の図書館』のビジョンを
本や読書だけでなく、デジタルな情報や体験も含めた「知る」を図書館が提供す
ることについては、先進的であると評価をいただく一方で、現実の図書館運営に
あたっては「なぜそれを図書館がやる必要があるのか」という、これまでの図書館
像に立った問いに直面することにもなります。そのことについて、地域の人々の
理解が得られなければ意味がないし、社会教育や地域政策の中に位置付けられな
ければ、資金も人材も得られない。
142 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
単館で、図書館だけで、独り取り組むことの限界を感じていた時に、これまで
の取り組みのおかげか、「県立図書館を改革してみないか」というお誘いを受けま
した。本当は地域の人たちと図書館の本のあいだや野山を駆けずり回っているこ
とが一番楽しいのですけれど(笑)、きっと同じように限界を感じながらチャレン
ジしている図書館の人や町の人がいるに違いない、だったらその人たちの背を押
せるかもしれないと思い、やらせていただくことにしました。
これからは、それぞれのコミュニティに根ざした、今よりももっと多様な、そ
れぞれユニークな図書館を目指していくべきだと思いますが、同時に、図書館と
は、本とはそもそもなんだったか、ということを今こそ考え、共通のイメージを
持ちたい、と思います。今、図書館はまちづくりだと言う人もいるし、デジタル
情報だと言う人もいるし、課題解決だと言う人もいる。そのどれもそうだよね、
と思います。人が集い賑わいのある心地よい図書館もいい、困った時に助けてく
れる図書館もいい、が、それは今の時代にあって、そもそも何のためなんだろう。
そのビジョンを言葉や行いとして共有したいと思うのです。
僕は「知る」を図書館の真ん中に置きたいなと思うのですが、どうでしょう? 
しかも、そのコミュニティが蓄積してきた知を入り口として、コミュニティの価
値観というか物語を今一度獲得、共有できるような、実感を持って知ることがで
きる場や活動としての図書館。地理的なコミュニティなら郷土の風土や暮らしの
蓄積、目的で結ばれたコミュニティなら人の思いの蓄積を読み解き共有し、さら
に創造していくことがあってほしい。
僕が図書館の中で一番好きなのは閉架書庫です。そこにはそれぞれの地域が
150年の近代の間に蓄積してきた物語がたくさんある。一冊一冊の本ではなく、
たくさんの本の背表紙を見つめていると、そこに地域コミュニティのコンテクス
トが浮かび上がる。それは、地域の人たちが意識し、共有した価値観です。一冊
一冊の本は確かにモノなんですが、図書館は本という媒体に化体した情報の塊で、
その純粋な情報、知を公開することを使命としてきた。だから、僕は図書館こそ
が「知る」ことのハブ、入口になって様々な地域の情報を提供するにふさわしい機
能だと信じています。
また、そうした情報の中に物語を読み解く情報リテラシーを、もっと多くの人
143ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
司書名鑑 No.9
が人生のいろいろな段階で獲得するお手伝いができるのも図書館ではないでしょ
うか。
僕らの世代までは、ワクワクするような知の獲得の仕方や、知ったことに付加
価値をつけて次の人に手渡すような情報の扱い方は、図書館でも学校でも習って
いないと思います。この20年ほど、そうした学びを学校で取り組もうとしてい
るけれど、みんなの共通認識にはなっていない。図書館の可能性はそこにもある。
図書館は知るための技能としての「読書」を広めてきた。でも、知識、情報を基
盤とする社会になろうとしている時に、そこでの本当の意味での市民社会をイ
メージした時に、「読み書き算盤」だけでは足りない。「読み書き算盤、情報(リテ
ラシー)」だと思うんです。その部分を学校とも一緒に、地域の多様な人々とも一
緒になってやりたい。
そういう意味で、今こそ「ポスト『市民の図書館』」が掲げられないといけないと
思います。ポストっていうのは、否定ではなくて「脱・市民の図書館」という意味
です。30代、40代のみなさんが、未来の人のことを考えながら「これからの図書
館」を言葉として表現してほしい。30代の前川恒雄さんたちが掲げた『市民の図
書館』の言葉はほぼ50年間も生きてきた。そんな射程の長い新しい言葉と行いが
カタチになるまでの中継ぎリリーフが僕の役割ですね。
僕が10代の終わりから20代にかけての数年の間に、町の本屋さんや神保町の
古本屋街の書棚を眺めてワクワクしながら自分なりに世界を再発見していったみ
たいな楽しさを、図書館でもっともっとたくさんの人が獲得し、地域共同体の物
語をつないでいってもらえるようになったらいいな、と思います。
(インタビュー:ふじたまさえ)
県立長野図書館館長。1959年仙台生まれ東京育ち。法務・経営企画マネージャーとして企業に勤務。その
間、米国イリノイ州に暮らし、経営学を学ぶ。2002年長野県伊那市に移住。公共政策シンクタンクの研究
広報誌編集主幹、2007年4月より伊那市立伊那図書館長を経て、現職。実感のある知の獲得と世界の再発見、
情報リテラシー向上に添える地域情報のハブとしての図書館を目指す。
平賀研也(ひらが・けんや)
144 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
ARG 業務実績 定期報告
国立情報学研究所(NII)への不動産検索のHOME'Sによるデータ提供に協力
2015年11月17日(火)にプレスリリースと記者会見が行われ、11月24日(火)
に実施された株式会社ネクストによる国立情報学研究所(NII)への研究用データ
セットの提供に協力しました。
これはネクスト社が運営する不動産・住宅情報サイトHOME'Sに掲載された賃
貸物件データ約533万件とその画像データ約8300万件を「HOME'Sデータセット」
として、国立情報学研究所(NII)の情報学研究データリポジトリでの研究用途に
提供するものです。弊社では、ネクスト社からのご相談を受け、本データセット
の提供枠組みの形成から記者発表に至るまでのコーディネートを担当しました。
弊社では代表の岡本真が前職であるヤフー株式会社に在職中であった2007年
3月にYahoo!知恵袋データセットの提供にあたった際の知見を活かし、企業によ
る研究用途データセットの公開促進に努めています。今回のようなデータセット
提供のコーディネートに弊社が事業として取り組んだのは、2014年9月に公開
された「リクルートデータ」(ホットペッパービュ-ティデータ)以来、2例目と
なります。
『ライブラリー・リソース・ガイド』の発行元であるアカデミック・リソース・
ガイド株式会社の最近の業務実績のうち、対外的に公表可能なものをまとめてい
ます。各種業務依頼はお気軽にご相談ください。
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
業務実績 定期報告
実際のデータ提供画面 記者会見の模様(於・国立情報学研究所)
145ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
ARG 業務実績 定期報告
図書館総合展公式サイトをリニューアル
2015年11月10日(火)から12日(木)にかけて開催された第17回図書館総合展
を前に、図書館総合展公式サイトのリニューアルを担当しました。
弊社では、2009年、2010年に試験的に、2011年からは正式な業務受託として、
図書館総合展の公式サイトの構築・運営を担っています。今回は2012年以来の
大規模なリニューアルとなり、図書館総合展運営委員会事務局、並びに株式会社
アイキュームと協業しての実施となりました。幸い、図書館総合展会期中も従来
以上のご好評を博していることを実感できました。
第17回図書館総合展にブース、フォーラムを出展
第 17 回図書館総合展に、
第 3 回 ARG フォーラム「こ
れからの図書館のつくりか
た-図書館をプロデュース
する仕事から」、自社単独
ブース「未来の図書館、は
じめませんか?」をそれぞ
れ出展しました。
フォーラムでは花井裕一
郎さん(演出家)をゲストに
迎え、弊社代表・岡本真と ブース全景
リニューアルした画面 歴代のトップページ
146 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
ARG 業務実績 定期報告
のトークイベントを実施し、
満席の大盛況となりまし
た。また、今回初めての単
独出展となったブース「未
来の図書館、はじめません
か?」は、32平米という大
きなスペースを用いて、3
日間の会期中、実に 13 本
のブースイベントを実施し、
こちらも大盛況となりまし
た。また、フォーラムとブースの双方で本誌別冊を無償配布しました。
初めての試みが多く、弊社スタッフ一同、たいへん緊張した催しでしたが、お
かげさまでたいへんな賑わいとなりました。ご来場くださった方々、誠にありが
とうございました。
和歌山市民図書館基本計画策定に向けたワークショップ開催を支援
図書館総研・岩西産業共同企業体(株式会社図書館総合研究所、岩西産業株式
会社アトリエグリッド一級建築士事務所)からのご依頼を受け、和歌山市民図書
館基本計画策定に向けたワークショップを企画・実施の両面で支援しました。
これは同企業体が和歌山市より和歌山市民図書館基本計画策定業務に係る公募
型プロポーザルを経て受託した業務で、2015年11月、12月に合計4回のワーク
ショップが実施されました。
第1回ワークショップでのブレインライティングの模様 第2回ワークショップでのまち歩きの模様
立ち見続出のブースイベント
147ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
ARG 業務実績 定期報告
J-WAVEのJAM THE WORLDに弊社代表が出演
2015 年 11 月 7 日(金)、J-Wave 81.3FM の 人 気 番 組 JAM THE WORLD の
BREAKTHROUGH! コーナーに弊社代表・岡本真が出演しました。
番組ではナビゲーターを務める春香クリスティーンさんとトークし、「公立の
図書館の在り方」、特にいわゆるTSUTAYA図書館の問題、図書館と出版の関係、
選書のあり方、指定管理の現状、図書館における官製ワーキングプアの問題等に
ついて見解を述べました。
弊社業務問合せ先(メールが確実です)
番組サイトより
● mail:info@arg-corp.jp 
● 全般:070-5467-7032(岡本)※移動中・会議中なことが多いので留守電にメッセージを残してください。
● LRG関係:045-550-3553(ふじた)
日々の弊社からの情報発信をお確かめいただくには?
● 公式メールマガジン:http://www.arg.ne.jp/
● 公式Facebookページ:https://www.facebook.com/ARGjp/
LRGLibrary Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド 定期購読・バックナンバーのご案内
定 期 購 読● 誌名:ライブラリー・リソース・ガイド(略称:LRG) 
● 発行:アカデミック・リソース・ガイド株式会社
● 刊期:季刊(年4回)  
● 定価:2,500円(税別) 
● ISSN:2187-4115
● 詳細・入手先:http://fujisan.co.jp/pc/lrg
「ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)」はアカデミック・リソース・ガイド株式会
社が、2012年11月に創刊した、新しい図書館系専門雑誌です。さまざまな分野で活
躍する著者による特別寄稿と、図書館に関する事例や状況を取り上げる特集の2
本立てで展開していきます。第5号からは「司書名鑑」も連載を開始しました。最新
情報は公式Facebookページでお知らせしています。
公式Facebookページ:https://www.facebook.com/LRGjp
1年4号分の定期購読を受付中です。
好きな号からのお申し込みができます。
定   価:10,000円(税別)
問い合せ先:045-550-3553(ふじた)
      lrg@arg-corp.jp
SOLD OUT
元国立国会図書館長の長尾真さんの図書館への思いを書き上げた「未来の図書館を
作るとは」を掲載。図書館のこれまでを概観し、電子書籍などこれからの図書館のあ
り方を論じている。
特集は、「図書館100連発」と題し、どこの図書館でも明日から実践できる、小さいけ
れどきらりと光る工夫を100 事例集めて紹介している。第 4 号では、100 連発の第 2
弾として、創刊号で紹介後に積み上げた100事例を紹介している。
特別寄稿/
特  集/
内  容/
創刊号・2012年秋号(2012年11月発行) ※品切れ
長尾真「未来の図書館を作るとは」
嶋田綾子「本と人をつなぐ図書館の取り組み」
みわよしこさんによる特別寄稿では、社会的に弱い立場とされる人々の知識・情報
へのアクセス状況を概観し、知のセーフティーネットであるべき公共図書館の役目を
考える。
特集では、株式会社カーリルの協力により、図書館のシステムの導入状況を分析し
ている。全国の図書館では、それぞれ資料管理用のシステムを導入しているが、そ
の導入の実態を分析する、これまでにないものとなっている。
特別寄稿/
特  集/
内  容/
第2号・2013年冬号(2013年2月発行)
みわよしこ「『知』の機会不平等を解消するために──何から始めればよいのか」
嶋田綾子(データ協力:株式会社カーリル)「図書館システムの現在」
残り
100冊
148 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
定期購読・バックナンバーのご案内
特別寄稿「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」は、「これからの街の本屋」をコン
セプトにした本屋「B&B」を運営するnumabooks 代表の内沼晋太郎さん、自宅を開
放する「住み開き」を提唱する日常編集家のアサダワタルさん、「ビブリオバトル」を
考案した立命館大学の谷口忠大さんの3名にお話をいただく。
特集は、「本と人をつなぐ図書館の取り組み」として、図書館で行われている、本と人
とをつなぐさまざまな取り組みについて紹介する。新連載「司書名鑑」は、関西学院
聖和短期大学図書館の井上昌彦さんを紹介する。
特別寄稿/
特  集/
司書名鑑/
内  容/
第5号・2013年秋号(2013年11月発行)
内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」
嶋田綾子「本と人をつなぐ図書館の取り組み」
No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館)
東日本大震災は図書館にも大きな被害をもたらした。その被害状況と復興の歩み、
そしてそこから見えてくる図書館の支援のあり方を、宮城県図書館の熊谷慎一郎さん
に論じていただいた。
特集では、地域に残された災害の記録を伝える図書館、災害資料を使い地域防災
について啓発活動を行う図書館などの取り組みについて紹介する。
特別寄稿/
特  集/
司書名鑑/
内  容/
第6号・2014年冬号(2014年2月発行)
熊谷慎一郎「東日本大震災と図書館─図書館を支援するかたち」
嶋田綾子「図書館で学ぶ防災・災害」
No.2 谷合佳代子(公益財団法人大阪社会運動協会・大阪産業労働資料館
「エル・ライブラリー」)
特別寄稿は、前号(第3号)での特集「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」
を受けて、実際に資金調達を行っている組織からの視点、資金調達のサービスを提
供する事業者からの視点と、より理論的に図書館での資金調達に迫る。第 4 号が理
論編、第3号が実践編という位置づけであり、2号併せて読むことをお勧めする。
特集は、創刊号で大きな反響を呼んだ「図書館 100 連発」の第 2 弾。さまざまな図
書館で行われている小さくてもきらりと光る工夫や事業から、創刊号以降の1年で集
めた100個を紹介する。
特別寄稿/
特  集/
内  容/
第4号・2013年夏号(2013年8月発行)
岡本真・鎌倉幸子・米良はるか「図書館における資金調達(ファンドレイジング)の未来」
嶋田綾子「図書館100連発 2」
東海大学の水島久光さんによる特別寄稿は、著者自身の私的アーカイブの試み、夕
張・鹿児島・東北の地域の記憶と記録を巡って、地域アーカイブの役割と重要性を
論じている。
特集は「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」として図書館での資金調達
の取り組みを紹介。昨今の自治体財政状況により、図書館の予算も十分とは言い難
い。そのなかでさまざまな手段を講じて資金を集め、事業を行っていこうとする図書
館の取り組みを集めた。
特別寄稿/
特  集/
内  容/
第3号・2013年春号(2013年5月発行)
水島久光「『記憶を失う』ことをめぐって∼アーカイブと地域を結びつける実践∼」
嶋田綾子・岡本真「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」
残り
230冊
残り
290冊
残り
220冊
残り
120冊
149ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
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創刊号に掲載した長尾真さんの「未来の図書館を作るとは」に触発され、未来の図
書館を議論する座談会を収録。また、特集では、執筆に猪谷千香さんを迎え、コモ
ンズとしての図書館のあり方を、図書館だけにとどまらない実例を挙げて紹介する。
司書名鑑の3回目は、海老名市立中央図書館の館長であり株式会社図書館流通セン
ター会長でもある谷一文子さん。羊の図書館めぐりは、LRG 初の試みであるマンガ
による図書館紹介で、第1回は大阪府立中之島図書館を紹介する。
特別座談会/
特  集/
司書名鑑/
羊の図書館めぐり/
内  容/
第7号・2014年春号(2014年6月発行)
 内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司「未来の図書館をつくる」
猪谷千香「コモンズとしての図書館」
No.3 谷一文子(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター)
    第1回 大阪府立中之島図書館
巻頭では 2014 年 7月2日に開催した菅谷明子 × 猪谷千香クロストーク「社会インフ
ラとしての図書館 ─日本から、アメリカから」を収録。ジャーナリストから見た日米
の図書館を論じた。
特集では、2014年6月に法改正がなされた教育委員会制度について、インタビュー
や調査を元に、図書館への影響をまとめた。ほか、司書名鑑や羊の図書館めぐり、
ARGレポートなどを掲載。
第2回 LRGフォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク
          社会インフラとしての図書館─日本から、アメリカから
特  集/
司書名鑑/
羊の図書館めぐり/
内  容/
第8号・2014年夏号(2014年9月発行)
猪谷千香「教育委員会制度の改革」
No.4 嶋田学(瀬戸内市新図書館開設準備室) 
    第2回 旅の図書館
巻頭では、世界的に動向が注目されるGLAMのオープンデータ化について、その第
一人者たちが白熱の議論を交わした第2回OpenGLAMのシンポジウムを特別収録。
特集では恒例企画「図書館100連発」の第3弾。第4号後に集めた図書館をアップデー
トする知恵と工夫を厳選して一挙に公開する。
第2回 OpenGLAM JAPANシンポジウム
オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来 生貝直人・日下九八・高野明彦
特  集/
司書名鑑/
羊の図書館めぐり/
内  容/
嶋田綾子「図書館100連発3」
No.5 大向一輝(国立情報学研究所)
    第3回 京都府立総合資料館
残り
300冊
残り
330冊
第9号・2015年秋号(2015年12月発行)
特別寄稿は、数多くの名講演をされている梅澤貴典さんが、ライブラリアンの講演
術として、そのノウハウを徹底公開。「ライブラリアン」と銘打っているが、講演をす
る全ての人に有用である。特集「離島の情報環境」では、同テーマのもとで行った日
本初の悉皆調査として、歴史的な内容となっている。
特別寄稿/
特  集/
司書名鑑/
羊の図書館めぐり/
内  容/
ライブラリアンの講演術─ 伝える力 の向上を目指して[梅澤貴典]
離島の情報環境[編集部]
No.6 磯谷奈緒子(海士町中央図書館)
    第4回「男木島図書館」
第10号・2015年冬号(2015年3月刊行)
残り
320冊
残り
230冊
150 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
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特別寄稿では、ARG代表の岡本真が自身の活動である「神奈川の県立図書館を考える会」を通
じて、行政にその重要性を伝える「アドボカシー」について解説。特集では、「アーカイブサミット
2015」をテーマに、シンポジウムを特別収録し、アーカイブに関わる古賀崇、水島久光、平野泉、
仲俣暁生の4氏からの寄稿をいただいた。また、マガジン航とのコラボによる新コーナー「マガ
ジン航PickUp Vol.1」がスタート。司書名鑑は、東京文化資源会議事務局長の柳与志夫さん。
特別寄稿/
特  集/
マガジン航 Pick Up Vol.1/
司書名鑑/
内  容/
ライブラリーアドボカシーの重要性とその実践
─「神奈川の県立図書館を考える会」の活動から[岡本真]
「アーカイブサミット2015」を総括する[LRG編集部]
       貧困から図書館について考える[伊達文]
No.7 柳与志夫(東京文化資源会議事務局長)
第11号・2015年春号(2015年6月刊行)
好評
発売中!
情報発信のために必要なことはなにか?広報のコツを鎌倉幸子さん、取材のツボを
猪谷千香さんが語る貴重な機会を得た。特集では、「図書館 ×カフェ」をテーマに全
国の事例を類型化、野原海明さんが取材しつつ、その在り方について論じた。
マガジン航 Pick Up Vol.2では、各地で盛り上がりを見せる「ウィキペディアタウン」
についての小林巌生さんの記事を掲載。司書名鑑は、京都府立図書館の是住久美
子さん。
特別寄稿/
特  集/
マガジン航 Pick Up Vol.2/
司書名鑑/
内  容/
図書館の情報発信に効く! 広報のコツ×取材のツボ[鎌倉幸子、猪谷千香]
図書館×カフェ[野原海明]
       ウィキペディアを通じてわがまちを知る[小林巌生]
No.8 是住久美子(京都府立図書館)
第12号・2015年春号(2015年6月刊行)
LRG創刊号を手に入れたい
みなさんへ朗報です!
https://www.facebook.com/LRGjp/
ライブラリー・リソース・ガイド創刊号は品切れ
となってからも多方面からお問合せをいただい
ており、編集部でも増刷するかの検討を重ねてま
いりました。
議論の結果、いよいよ2016年春からLRG創刊号
についてご希望に合わせて印刷をかける受注生
産方式での販売を再開することに決定しました。
詳細については、別途、ライブラリー・リソース・
ガイドの公式サイト Facebookページでご案内
します。
残り
350冊
緊急
告知
151ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
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全国の公共図書館に
パンフレットを
お送りしています。
LRG
LRG 第14号 2016年2月 発行予定
Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド
次回予告
LRGライブラリー・リソース・ガイド
定価(本体価格2,500円+税)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
特 集
特別企画
「図書館の「利用者の秘密を守る」文言の経緯と
その変遷」(仮)
公共図書館の存在意義としても重要な「図書館の自由に関する宣言」
(日本図書館協会 1979年)の成立過程、その変遷に迫ります。
図書館100連発![第4弾]
日本の図書館の小さな工夫を100連発する恒例の特集、第4弾。
159ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号
次号予告
LRG
ライブラリー・リソース・ガイド
https://www.facebook.com/LRGjp
第13号/2015年 秋号
無断転載を禁ず
発 行 日
発 行 人
編 集 人
編  集
デザイン
発  行
2015年12月18日
岡本真
岡本真、ふじたまさえ
大谷薫子(モ*クシュラ株式会社)
佐藤理樹(アルファデザイン)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
Academic Resource Guide, Inc.
〒231-0012 神奈川県横浜市中区相生町3-61
泰生ビル さくらWORKS<関内> 408
Tel 045-550-3553(ふじた)
http://www.arg.ne.jp/
lrg@arg-corp.jp
ISSN 2187-4115
ISBN 978-4-90851512-5
写真
表 紙:Library of the Year 2015大賞を受賞した
    多治見市図書館
    撮影=平賀研也
裏表紙:Library of the Year 2006大賞を受賞した
    鳥取県立図書館
    撮影=岡本真
定価(本体価格2,500円+税)
Library Resource Guide
第13号/2015年 秋号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
LRGライブラリー・リソース・ガイド
ISSN 2187-4115

『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第13号(2015年12月)

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    ライブラリー・リソース・ガイド 第13号/2015年 秋号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 Library ResourceGuide 総特集 Library of the Yearの軌跡と これからの図書館 福林靖博、岡野裕行 司書名鑑 No.9 平賀研也(県立長野図書館長) マガジン航 Pick Up Vol.3 私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機[ツカダ マスヒロ]
  • 2.
    LRG Library ResourceGuide ライブラリー・リソース・ガイド 第13号/2015年 秋号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 総特集 Library of the Yearの軌跡と これからの図書館 福林靖博、岡野裕行 マガジン航 Pick Up Vol.3 私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機 [ツカダ マスヒロ] 司書名鑑 No.9 平賀研也(県立長野図書館長)
  • 3.
    002 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 巻頭言 2015年も終わりに近づきました。読者の方によっては、本誌をお読みいただ いている頃は、もう2016年かとも思います。鬼に笑われてしまうかもしれませ んが、新年のご挨拶も申し上げておきたいと思います。本年もご愛読のほどよろ しくお願いいたします。 さて、第13号はLibrary of the Year総特集となっています。今回のラインナッ プは以下の通りです。 ・総特集「Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館」(福林靖博・岡野裕行) ・Library of the Year10年の記録(LRG編集部) ・直前スペシャルトークセッション  「Library of the Year 2015から考える、未来の図書館」 (伊東直登、内沼晋太郎、岡本真、河瀬裕子、熊谷雅子、仲俣暁生) ・司書名鑑 No.9「平賀研也」(県立長野図書館長)(インタビュー:ふじたまさえ) ・マガジン航Pick Up Vol.3「私設雑誌アーカイブ『大宅文庫』の危機」 (ツカダマスヒロ) ・私設アーカイブがもつ公共性〜大宅文庫の未来のために(仲俣暁生) ・連載「図書館資料の選び方・私論」〜予告編(嶋田学) 2015年11月の第17回図書館総合展で10周年を迎えたLibrary of the Year2015 は、同時に同展において、この賞の授与の休止が宣言されました。この宣言を受 け、LRG編集部は本特集を編集するにあたり、Library of the Yearという取り組み の過去と現在をみつめるだけでなく、未来を見渡すのに欠かせないガイドブック となることを目指しました。 なぜなら、私自身、長年Library of the Yearの選考委員を務めてきたこともあり、 日々、日本中を旅して様々な「図書館」を訪ね、表彰に値するOnly Oneな存在と 巻頭言 未来につながるガイドブック
  • 4.
    003ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 巻頭言 して際立った図書館に少なからず出会うにつけ、Libraryof the Yearに通底する 精神を持った同種の取り組みが新たに興ってくることも、あるいはLibrary of the Yearが復活することも、この先にはありえると思うからです。 その未来がそれなりに遠くにあるのか、思いのほか近くにあるのか、いまは誰 にも分かりませんが、未来につながるガイドブックとして、この第13号を手許 に置いていただければと思います。 なお、今回、Library of the Year総特集の編集に際して、同賞を実施するNPO 法人知的資源イニシアティブ(IRI)の皆さまから多大なご理解とご支援を賜りま した。ここに記しつつ、御礼申し上げます。 さて、今回の第13号には、弊社が企画・準備に関わった富山市立図書館新本 館(設計・隈研吾)の開館を記念して刊行した本誌別冊第1号が同梱されています。 同館の豊富な写真とともに、設計者と私の対談を収録していますので、こちらも ぜひお楽しみください。 そして、2016年からは新たな連載が始まります。2015年は図書館の資料の選 び方やコレクションのあり方が広く社会の関心を集めました。こういった背景も 受けて、私が心から信頼し尊敬するライブラリアンのお一人である嶋田学さんに、 年間を通じて選書論、コレクション論の連載をお願いしました。掲載開始は次の 第14号からですが、本号ではその予告をご執筆いただきました。ぜひご期待く ださい。 それでは、この1年ありがとうございました。そして、新たな1年もよろしく お願いします。 編集兼発行人:岡本真
  • 5.
    巻頭言 未来につながるガイドブック[岡本真] …………………………………………………………………002 総特集 福林靖博、岡野裕行 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 ………………………………………………… 005   直前スペシャルトークセッション Library of the Year 2015から考える、未来の図書館 …………………………………………… 090     ゲスト:伊東直登(塩尻市立図書館/えんぱーく)、内沼晋太郎(B&B)、河瀬裕子(くまもと森都心プラザ図書館)、         熊谷雅子(多治見市図書館/ヤマカまなびパーク)     司 会:岡本真(アカデミック・リソース・ガイド株式会社)、仲俣暁生(「マガジン航」編集人) 連載 図書館資料の選び方・私論 ∼予告編[嶋田学]…………………………………………………………… 112 LRG CONTENTS Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第13号/2015年 秋号 司書名鑑 No.9 平賀研也(県立長野図書館長) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 定期購読・バックナンバーのご案内 次号予告 ………………………………………………………………… 134 …………………………………………………… 144 ……………………………………………………………………………… 148 …………………………………………………………………………………………………………… 159 マガジン航 Pick Up Vol.3     私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機[ツカダ マスヒロ]    私設アーカイブがもつ公共性∼大宅文庫の未来のために[仲俣暁生](「マガジン航」編集人) …………………………………………… 117 ……… 132 Library of the Yearとは何か ──10年間の経緯を振り返って[福林靖博] 「良い図書館」を「良い」と言い続ける未来のこと[岡野裕行] Library of the Year10年の記録[LRG編集部] ……………………………… 006 …………………………………………… 015 ……………………………………………………………… 055
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    総特集 Library of theYearの軌跡と これからの図書館 福林靖博、岡野裕行 Library of the Yearとは何か ──10年間の経緯を振り返って [福林靖博] 「良い図書館」を「良い」と言い続ける未来のこと[岡野裕行]
  • 7.
    006 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 Library of the Yearとは、NPO法人知的資源イニシアティブ(IRI)が2006年に立 ち上げた事業で、下記のような選考基準を掲げ、毎年さまざまな取り組みを表彰 してきた。選考委員が自ら推薦する候補と公募された候補の中から優秀賞を選び、 図書館総合展のフォーラムの一つとして開催される最終選考会において大賞が決 定される。2015年11月12日の10周年記念フォーラムで発表したように、第10 回をもって一度休止し、「次のあるべき姿」をさぐることとなった――。 【Library of the Year選考基準】 ①今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている。 ②公立図書館に限らず、公開された図書館的活動をしている機関、団体、活動 を対象とする。 ③最近の1 ~ 3年間程度の活動を評価対象期間とする。 外形的な説明を端的にまとめてしまうとこれだけのことである。しかし、この 事業が図書館に関わる有志の手で立ち上げられ、ボランタリーベースの活動とし て様々な矛盾や課題を孕みつつも10年間にわたり継続され、そしてこの賞の受 賞を目指す図書館が少なからず出ている程度にまで認知度が向上してきた軌跡を 振り返るには、この説明だけでは不十分だろう。 Library of the Yearとは何か 10年間の経緯を振り返って 1978 年、奈良県生まれ。大阪大学文学部卒。国立国会図書館勤務の傍ら、 Library of the Yearに2006年の立ち上げより参画し、2009年から2015年まで選 考委員会副委員長を務めた。また、2013年より図書館総合展運営協力委員。著 書に『最新の技術と図書館サービス』(共著、青弓社、2007年)など。 福林靖博(ふくばやし・やすひろ)
  • 8.
    007ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 本特集では、Library of the Year10年間の歩みを振り返り、その記録を整理す るとともに、この取り組みがどのような爪あとを残したのかを総括する。それは、 Library of the Yearの「次のあるべき姿」を考える上で必要であるというだけでなく、 これからの図書館(あるいは「図書館的なもの」)を考える上でも不可欠なものだと 考えるからだ。具体的には、本稿での運営サイドからの経緯の整理に加え、選考 委員の一人でもある岡野裕行氏による過去の受賞機関インタビューとLibrary of the Yearの分析を掲載する(P.15)。 1. Library of the Yearの狙い まずは、Library of the Yearを運営するNPO法人知的資源イニシアティブ(IRI) について紹介しておきたい。IRI(代表理事:高山正也)は、図書館、博物館、文 書館などを地域の知的資源と捉え、知的資源を中核とする地域社会づくりについ ての提案を行うことを目的としている非営利団体である★1 。Library of the Year は、ここに集う高山正也氏・大 おおぐし 串夏 なつ 身 み 氏・田村俊作氏・坪井賢一氏・柳与志夫 第17回図書館総合展で行われたLibrary of the Year2015の最終選考会の会場風景。 撮影=岡本真
  • 9.
    008 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 氏・小田光宏氏といったメンバーが立ち上げたものだ(当初は、「図書館コンサル ティング」というタスクフォースによる事業であったが、途中から独立した委員 会[Library of the Year委員会]による事業となった)。 その狙いは、これからの公共図書館のあり方を示唆するような先進的な活動 (「図書館」に限らないことに留意してほしい)をその道のプロフェッショナルで あるIRIが表彰することを通じて、公共図書館の今後について議論し、それを共 有することにある。ざっくばらんに言ってしまうと「良い」★2 と言うことで、私 たちの身の回りにある「図書館」という場をより良いものにしていくということ だ。この「良い」と言い切ってしまうことがポイントで、これを既存の公的機関で 行うことはなかなか難しい。IRIという勝手連的な集まりだからできることだろう。 ただ、Library of the Yearとして「総合的に良い」ということではなく、「ここが良い」 という、その突出した点に着目して表彰していることは改めて強調しておきたい。 無論、選考委員もみな図書館に一家言のあるメンバーばかりなので、その「良 い」というものが全員一致しているわけではない。毎年の選考でも必ず選考委員 の間で「ここが選ばれる/選ばれなかったのは納得がいかない」という声も出て くる。けれども、我々は「どこが良いのか」「なぜ良いのか」を議論していく過程 そのものにより意味があると考えている。非公開の場で行われる第一次選考会 や、最終選考会において議論の時間を取っているのはそのためだ。とりわけ第1 回(2006年)及び第2回(2007年)の最終選考会で、審査員を置かずに壇上のプレ ゼンターによる議論と互選で大賞を決定しているところに、その考えがよく出て いるのではないだろうか(もっとも、第一次選考会でも議論で決着がつかない場 合は多数決を採る場合もある)。 やや強引にまとめると、「図書館のプロによる勝手連的な議論と独断」こそが、 Library of the Yearが本来志向していたものだと言えるだろう。 2. 継続的な運営をするための資金問題 Library of the Yearは、選考委員や事務局スタッフのボランタリーベースの活 動によって支えられてきた。たとえば、初回から九州地方や中国地方の図書館を 表彰しているが、それらはいずれも選考委員がIRIからの資金援助なしに視察し た結果に基づくものだ。また、最終選考会が行われる図書館総合展の会場にして
  • 10.
    009ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 も、同展の運営委員会のご好意により、無償提供を受けたものだ。 スタッフの交通費や会場はボランタリーベースで何とかできたとしても、受賞 機関に進呈する賞状や記念品までは賄えないので何らかの財源が必要となる。そ もそも、運営母体であるIRI自体も潤沢な資金があるわけではないので、その財 源は外部から調達する必要があった。そのため、第4回(2009年)まで、最終選 考会参加費として500円を徴収していた。 しかし、無料のイベントが当たり前の図書館総合展において有料のイベントで 多くの参加者を募ることには限度がある。また、選考のための視察経費や受賞機 関関係者の最終選考会会場までの交通費を自腹で賄ってもらうことも限界に達し ていた。そこで、第5回(2010年)から、図書館総合展運営委員会から年間20万 円を上限とした資金援助を仰ぐことにした(これに伴いLibrary of the Yearを「図 書館総合展運営委員会が主催し、IRIが企画・運営する」こととなった)。この資 金援助が実現した背景には、4年間の運営を経て、Library of the Yearの持つコン テンツとしての価値がそれなりに高まってきたことがあるだろう。 しかし、その資金援助も長く続かなかった。第7回(2012年)をもって資金援 助は打ち切られることになり、新たに財源を調達する必要に迫られた。そこで取 り組んだのがクラウドファンディングによる資金調達で、第8回(2013年)以降 3回にわたり、READYFORを利用した資金調達を行った★3 。この毎年の選考と並 行して行うクラウドファンディングという手法は、単発のイベントならともかく、 継続的に実施するLibrary of the Yearのような事業の財源としては不安定である ことは否めない。しかし、Library of the Yearという事業が多くの方々に注目さ れ、そして支えられているということが、「支援」という形で可視化されることで より実感できるものとなったという点では、運営サイドとしても励みになるもの であった。 3. 試行を繰り返した選考方法 Library of the Yearの選考について、ここでは制度的な側面を中心に振り返っ てみたい。
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    010 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 (1)優秀賞選考まで 優秀賞受賞機関(大賞候補機関)の選考まで(第一次選考)を担う選考委員(10数 名)は、IRIの理事や選考委員からの推薦を受けて選考委員長が委嘱している。毎 年多少の入れ替わりはあるが、研究者や図書館員、あるいは民間企業の社員など 多様な肩書きを持っており、いずれも「図書館に一家言ある」という点では共通し ている。既に述べたように、選考委員は対面・メールなどのチャネルを通じて議 論を行うだけでなく、時には候補機関への視察も行い(原則として、優秀賞受賞 機関は、最近の1 ~ 2年の間に複数名の選考委員の訪問があることを必須として いる)、優秀賞の選考を行っている。毎年およそ30数機関挙げられる優秀賞受賞 機関候補の中から、3 ~ 4機関の優秀賞を絞り込んでいるのだ。 とはいえ、選考委員としても国内の全ての図書館ないし、図書館的な取り組 みの動向を把握しているわけではない。これはLibrary of the Yearの課題として 継続的にいただく意見の一つであるが、この課題に対応するため、第4回(2009 年)において「地方協力員」という制度を設けた。これは、関東を除く各地方(北海 道・東北・中部・近畿・四国・中国・九州)に1名ずつ置かれた地方協力員(各地 方の公共図書館員のなかから選考委員長が選び、委嘱)がそれぞれの地方の候補 機関を選考委員に推薦するものであった。しかし、狙いどおり候補機関が挙がら ないケースも見られたことから、この制度は第5回(2010年)限りとし、翌第6回 (2011年)からはインターネットで広く自薦・他薦を受け付ける公募方式に切り 替えることとなった。 優秀賞選考までの段階で最も多く寄せられてきた意見は、「選考過程が不透明」 というものである。選考委員会内での論点整理などのために非公開で行っている のだが、議事録も公開していないため、運営サイドとしてもこうした声が出てく るのはやむを得ないと考えている。こういった意見に対応すべく、第9回(2014 年)から9月の優秀賞受賞機関発表に先駆けて、優秀賞授賞候補機関を公表する こととした。 (2)大賞決定まで 最終選考会において、優秀賞受賞機関(大賞候補機関)のプレゼンテーションと ディスカッションを行うのがプレゼンターである。プレゼンターは優秀賞受賞機
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    011ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 関決定後に、選考委員が選任している。受賞機関自らが登壇するのではなく第三 者が登壇する点がポイントで、これはより客観的でポイントの絞ったプレゼン テーションとディスカッションを期待しているためだ。受賞機関関係者には会場 への参加をお願いしているが、応援コメントをその場でいただく以上のことはな い。大賞はあくまでもプレゼンテーションとディスカッションをもとに、5 ~ 6 名の審査員各1票と、会場票(最多得票機関に1ないし2票の加算)により決定さ れる。このため、プレゼンターは非常に大きな役割を持つのだが、このこと自体 がLibrary of the Yearの課題であるとする意見をいただくことも多い。 次に最終的に大賞を決定する審査員について述べたい。先に述べたように、審 査員を置いたのは第3回(2008年)からで、それまでは壇上のプレゼンターの互 選により大賞を決定していた。この変更は、さすがに「内輪ノリ」が強すぎるから 第三者的な視点から選考したほうが良いだろうということでこの方式にしたもの だ。 では、審査員はどのように選任されるのか。これについては、審査員長は選考 委員長が務める、総合展運営委員会からの推薦を1名受けるという慣例・原則を 除いては、選考委員により、優秀賞受賞機関との利害関係のない方という前提で、 職業や性別、年齢などのバランスを考慮しながら選任されている(外部からの推 薦は受け付けていない)。Library of the Yearの選考は「プロフェッショナルが議 論し、選ぶ」ということを重視している以上、図書館ないし関連する分野からの 選任が多くなっている。 面白いのは、とりわけ近年、審査員の投票結果と公共図書館関係者が多数を占 める会場の投票結果が一致しないケースが多いことで、「会場票の比重をもっと 大きくすべきだ」という意見をしばしばいただくのも、こういった状況を踏まえ てのものだろう(この投票結果の不一致は、審査員が図書館員に限らず選ばれて いるのに対し、来場者の大半が図書館司書であることによるのではと推測してい る)。もっとも、Library of the Yearとしては「プロフェッショナルが議論し、選ぶ」 というスタンスを取る以上、会場票の比重を大きくするという対応は取ってこな かったわけではあるが。 最後に、最終選考会に参加いただいた方々についても言及しておきたい。既に 述べたように、第3回(2008年)までは有料であったが、申し込めば誰でも参加
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    012 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 できる。受賞機関の関係者や応援団が多く参加することもあるが、基本的には図 書館総合展の来場者が参加するフォーラムとして、ここ数年の参加者は200人を 超えており、図書館総合展の風物詩の一つとして定着していた感もある。Library of the Year単独イベントとして集客を期待することは極めて難しいという判断か ら、図書館総合展のフォーラムとして開催してきたのだが、集客という点では非 常に恵まれていたと言えるだろう。とはいえ、ある程度安定的に集客できるよう になったのは、Library of the Year自体の認知度も高まり、アクセスの容易な展 示会場で開催することができるようになったここ数年のことであり、それまでは 参加者の確保は大きな課題であった。 (3)会場賞と特別賞 第2回(2007年)に会場賞、第5回(2010年)と第8回(2013年)に特別賞の表彰 を行っているので、この2つの賞も紹介しておこう。 会場賞は、最終選考会の参加者だけでなく、広く図書館総合展来場者が参与 することでLibrary of the Yearを盛り上げられないかという趣旨で試みたものだ。 第17回図書館総合展でいったん中止が宣言されたLibrary of the Year2015終了後の集合写真。 写真提供=ライブラリー・オブ・ザ・イヤー事務局
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    013ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 展示会場にパネルを置いて3日間の総合展期間のうち最初の2日間の来場者が投 票できるようにしたもので、3日目午後に開催された最終選考会で最多得票機関 に会場賞を授与した。残念ながら翌年以降に引き継がれることはなかったが、図 書館総合展全体としてLibrary of the Yearを盛り上げるという意味では、意義の ある取り組みだったと考えている。 また、特別賞は優秀賞・大賞の選考の趣旨・基準からは外れるが、図書館界に 特に影響を与えた取り組みを表彰するものである。毎年授与するというルールが あるわけではなく、選考委員による優秀賞選考の過程で議論が高まった際に適宜 設けられたものだ。 こうして振り返ると、Library of the Yearは折々の課題や要請に対応しつつも、 選考の大きな枠組みは変えていないことがわかる。本特集後半の岡野氏の分析は、 詳細な選考プロセスや選考傾向の経年変化が紹介されているため、そちらも参照 していただきたい。 4. これから ここまで、運営サイドからの目線で、内外からご指摘いただいた課題を挙げつ つ、Library of the Yearについて振り返ってきた。こういった表彰事業には、選 考の過程や結果に対する不満がつきものだが、Library of the Yearの場合は、突 き詰めるとその本来の志向そのものに起因していると感じている。それは、「図 書館のプロによる勝手連的な議論と独断」という先に述べた志向だ。「勝手連的な 議論と独断」はやっている方も楽しいし、見ている方も「この人はそういう見方を するのだな」とわかって面白いものだ。「勝手連だからこそ面白い」という意見は 選考委員の間でも根強い。 開催の実績を重ねるにつれ、マスコミからの取材や選考に対する様々なチャネ ルから選考に対する意見が寄せられることが増えてきた。現状をより良く変えて いくための取り組みである以上、Library of the Year自体の社会的な認知度は上 げていかなければいけないし、そもそも安定的な運営を継続していくためにも認 知度の向上は必須だ。その意味では、運営サイドからすれば狙いどおりの展開で もある。
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    014 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 しかしこれは同時に、Library of the Yearという存在の社会的認知度が向上す るとともに、「公器」としての側面が強くなり、様々な説明責任や対応が求められ るようになったということでもある。「勝手連的な議論と独断」という内輪的な論 理に基づいたコンテンツが洗練されて社会的に受け入れられるほど、その「内輪 な論理」が通用しなくなるという皮肉な状況が生まれてしまったのだ。 冒頭に述べたように、Library of the Yearは10回を一つの区切りとしていっ たん休止し、IRIにおいて「次のあるべき姿」をゼロベースから検討することにし た。そこでは、この10年間で解消し切れなかったこの矛盾をどう解決するかと いうことも一つの論点となるだろうし、他にも安定的な財源や運営スタッフの確 保という運営基盤など、検討・解決すべき論点は多い。さらに言えば、そもそも “Library”という言葉に縛られる必要はあるのか、ということも再考されなければ ならないだろう。 同時に、区切りをつける大前提として、「(公共)図書館観の変化を先取りしつつ、 文部科学省が2006年に打ち出した「これからの図書館像」★4 以後の図書館像をあ る程度提示できたのではないか」と田村俊作氏が評価するように★5 、たとえ十分 ではないにせよ、この10年間のLibrary of the Yearの活動が社会的に根付いてきた、 当初目的としていた役割は果たせた、という自負も運営サイドにはある。Library of the Yearの活動が図書館界とそこに関わる各人に何を投げかけたかについては、 岡野氏の分析を参照いただければと思う。 最後に、この10年間、Library of the Yearの運営に関わってきた選考委員・運 営スタッフ、関係団体、受賞機関、そしてLibrary of the Yearに着目し、ときに はご支援をしてくださった皆さんのご協力に厚く御礼申し上げたい。 ★1 http://www.iri-net.org/about/syushi.html ★2 田村俊作「Library of the Year:良い図書館を良いと言う」『カレントアウェアネス』No.297,2008-09. http://current.ndl.go.jp/ca1669 ★3 「Library of the Year 2013を開催したい!」https://readyfor.jp/projects/loy2013 「Library of the Year 2014を開催したい」https://readyfor.jp/projects/loy2014 「【第3弾】全国の良い図書館を表彰するLibrary of the Yearを開催」https://readyfor.jp/projects/loy2015 ★4 図書館未来構想研究会「これからの図書館像(実践事例集)」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06040715.htm ★5 Library of the Year 10周年記念フォーラム(2015年11月12日、第17回図書館総合展)
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    015ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 はじめに 受賞機関インタビュー Library of the Yearの意義を考えるにあたり、歴代の受賞機関(大賞・優秀賞を 問わず)の関係者にインタビューを行った。受賞当時とは組織やサービス体制な どの事情が大きく変わっている機関も多く、また、その数も多いことから、すべ ての機関についてのインタビューを行うことは難しかった。そのため、次の三つ の方針を立てて7機関を選択することにした。 選択方針の一つ目は、「館長のリーダーシップが受賞に対して大きな影響力を 持っていたと考えられる事例」である。この観点については、第6回(2011年)大 賞の前・小布施町立図書館館長の花井裕一郎氏と、第8回(2013年)大賞の前・ 伊那市立図書館館長の平賀研也氏のお二人にお願いした。現在は両者とも当時の 受賞機関の館長職を離れているが、Library of the Yearの歴史の中でも、指折り の名物館長としてそのお名前を残してきた方々である。二つ目の選択方針は、「受 賞当時の理念が現在でも継続されていること」であり、三つ目は、「初期から最近 にいたるまでの受賞機関を幅広く揃えること」である。鳥取県立図書館(2006年 の第1回大賞受賞)から始まり、インタビュー時点でもっとも新しい機関となる 京都府立総合資料館(2014年の第9回大賞受賞)とオープンデータ(2015年の第 10回一次選考通過)までを対象とした。 注目すべき受賞機関はこのほかにもあるが、取材時間や予算の都合により、今 「良い図書館」を「良い」と言い続ける 未来のこと 1977年、茨城県生まれ。筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課 程修了。博士(学術)。専門は図書館情報学と日本近現代文学で、文学資料・地 域資料のアーカイブや活用に関心を持つ。2011年からビブリオバトル普及委員 会の活動に関わり始め、2015年から同会の代表を務める。また、2011年から Library of the Yearの選考にも関わっている。著書に『文学館出版物内容総覧:図 録・目録・紀要・復刻・館報』(日外アソシエーツ、2013年)、『デジタル文化資 源の活用:地域の記憶とアーカイブ』(勉誠出版、2011年)、『ビブリオバトルハ ンドブック』(子どもの未来社、2015年)など。 岡野裕行(おかの・ひろゆき)
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    016 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 回のインタビュー対象は以上のような顔ぶれとなった。 1. 館長はLibrary of the Yearをどう見てきたか (1)花井裕一郎氏(演出家/前・小布施町立図書館館長) Library of the Yearという活動に対する花井さんの認識は、「大賞を狙ってい た」と公言されていることが印象的である。著書の『はなぼん――わくわく演出マ ネジメント』(文屋、2013年)の中でも、大賞受賞を喜ぶ様子が冒頭から描かれ ている。この発言をされたときの気持ちを率直にうかがってみると、「Library of the Yearは本気で欲しいと思っていた賞」「こんなふうに外部から認めてもらえ たのが嬉しかった」と話す。 Library of the Yearでは、ノミネートにあたって短い「評価理由」が必ず付けら れる。「その評価理由をどのように受け止めたのか?」と尋ねると、「新図書館建 築の構想を練る段階から始まり、実際に図書館が開館して以降も、町民と一緒に 図書館の方向性をつくり上げてきたことを評価されたいと思っていた。その点に 触れていただけたのはありがたかった」と話された。大賞決定直後の会場インタ ビューでも、「町民力で取った」と発言されていたが、図書館が単独で大賞を取っ たのではなく、「町の人たちみんなで」という思いが込められていることがわかる。 Library of the Yearの大賞を受賞して良かったこととしては、「形として残る盾 と賞状をいただけたこと」だと話す。「形として目に見えるもの」は直接訴えかけ てくるインパクトがあり、「ほんとに大賞を取ったんだね」と図書館を訪れる方に 言われるたびに、「町民のみんなで取ったんですよ」と誇ることができたという。 Library of the Yearの受賞をきっかけとして、「館として変化したことはありま すか?」という質問に対しては、「目先のことを変えよう」というよりも、「もっと チャレンジしよう」という気持ちになったと話す。受賞する以前は、自分たちが やっていることを信じながらも、心の中では揺れ動く部分もあったのだそうだ が、受賞を機にその信念が確信へと変わってきたそうだ。これについては、『は なぼん』の中でも「お墨付きをもらったような心地がした」と記している。さらに は、「小布施がそういう活動をしているなら」というように、長野県内の他の図書 館も変わっていくような手応えがあったという。
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    017ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 現在、花井さんはNPOを立ち上げ、全国各地の図書館やまちづくりの仕事に 携わっている。小布施で10年間、図書館づくり・まちづくりに関わってきたこ ともあり、「図書館をまちづくりの中心においてほしい」という気持ちが強いとい う。そしてその際に、図書館の中心的な仕事になるのは「まちのできごとをアー カイブする機能だと思います」ということを強調して話し、小布施での活動実績 を活かしている様子がうかがえた。 今後のLibrary of the Yearの活動に対しての期待をうかがうと、「自分たちが受 賞した当時よりも賞の知名度が上がっているので状況は異なるが」と前置きしつ つ、小布施町立図書館を含めた歴代の受賞機関に対して、「何を期待していたの か」を継続的に情報発信してほしいということだった。花井さんは「賞をあげた 側の責任」という言い方もしていたが、これはつまりNPO法人知的資源イニシア ティブ(IRI)が掲げてきたLibrary of the Yearの活動目的やその意図を、これまで 以上に強調していくことの必要性を指摘しているだろう。 「これからの図書館的な活動」についてどう思うかを問うと、単に「図書館づく り」だけを考えるのではなく、「まちづくり」という視点を意識すること、そして また、「まちづくりは30年くらいの物差しで見る必要があって、そういった時間 軸を大切にすること」の重要性を話された。 小布施町立図書館 「交流と創造を楽しむ文化の拠点」としての活動が評価され、第6回(2011年)の大賞に選出された。 撮影提供=小布施町立図書館
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    018 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 最後に、『はなぼん』の中で花井さんが「一等賞」「日本一」と表現をされていた ことについてうかがった。Library of the Yearは総合的な評価をもとにした「ナン バーワン」ではなく、何らかの突出した点に注目した「オンリーワン」の活動を選 ぶものだと思うが、「一等賞」「日本一」という言い方は、「ナンバーワンというニュ アンスが強いのでは?」と思ったためである。この質問に対して花井さんは、「多 様性のある図書館活動においては、確かに一等賞というのはありえないとは思う が、それでも2011年という時間軸の中のあの瞬間においては、間違いなく一等 賞だったと思う」「Library of the Yearには受賞側にそう思わせるだけの大きな力 がある」と話した。 (2)平賀研也氏(県立長野図書館館長/前・伊那市立図書館館長) 伊那市立図書館が優秀賞受賞(2013年の第8回最終選考会ノミネート)の連絡 を聞いた際、平賀さんは「えっ、なんで?」「いったい誰が推したんだろう?」と いう反応だったそうだ。Library of the Yearという賞の存在については、2011年 に小布施が大賞を取ったときに初めて知ったとのことで、その当時はどのような 人たちがいかなる意図でこういう賞のために動いていたのかがまったく見えてこ なかったらしい。審査員の反応や会場の様子を実際に見たり、賞に関わっている 人たちと話したりするなかで、Library of the Yearの趣旨を納得していったという。 小布施町立図書館の花井さんが2011年の時点でこの賞を「狙っていた」と話して いたことと比べても、ノミネートされた段階から反応が大きく違っていたことが わかる。 「受賞時の評価理由をどのように受け止めましたか?」という質問には、表面的 なことだけではなく、しっかりと自分たちの目論見が反映されている良い文章だ ととらえたという。 地元の人たちの反応としては、みんなが「おめでとう」と祝福してくれたそうだ。 その理由は、「図書館が」評価されたことではなく、「このまちが」ほめられたこと に対して「おめでとう」という気持ちだったのではないかと平賀さんは回想する。 新しいことをいろいろと始めたり言い出したりする立場にいたので、行政サイド から見れば「めんどうな公募の館長だなぁ」と思っていたのではと推測されている が、受賞をきっかけにそういう人たちも向きを正してくれた印象があったそうだ。
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    019ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 学校の先生たちの意識も大きく変わり、受賞した後には「何か一緒にできません か」と相談されるようになったという。子どもたちの地域学習やデジタル教材の 活用など、新しい取り組みの話題でお互いに盛り上がったそうだ。 「Library of the Yearの受賞をきっかけとして変化したことはありますか?」と いう問いについては、「図書館でやっていたこと、やりたかったこと、それらを そのまますくい上げてくれたので、僕たちの日常は特に何も変わらなかった」と 答えた。前・小布施町立図書館の花井さんと同じく、それまでの活動に対する 「お墨付きをもらった感じがする」という表現がもっともしっくりくるようだ。そ の一方で、Library of the Yearの受賞によって図書館改革のための事業予算や職 員の処遇が良い方向に変わればと期待していたそうだが、大きな変化は特になく、 その点では期待はずれだったという気持ちもあるらしい。平賀さんが2015年3 月に館長職を離れる前に、嘱託の図書館専門員を設置できたそうだが、これも行 政サイドにお願いしてようやく実現できたものであり、受賞後の変化としてはこ れが精一杯だったという。 「今後、積極的に取り組んでみたいことは?」という質問に対しては、現在は県 立長野図書館の館長になっているが、基本的に「やりたいことは変わらない」と のことで、「本の世界が大好きな人、知ることが面白いと気づく人が増えてほし 「日本ジオパーク南アルプス大会」の会場となった伊那市立伊那図書館 撮影提供=伊那市立伊那図書館
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    020 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 い」「それをサポートできる方法はないかを図書館の立場から考えたい」、さらに は「図書館の活動をまちの中の人や組織とつなげること」「図書館=本という概念 をもう少し打ち壊してみたい」という野望があるそうだ。また、ナショナル型の アーカイブだけではなく、信州という枠組みで「分散型の地域アーカイブをつく りたい」という構想もあるようで、伊那市という行政単位から、長野県という県 レベルの単位で考える立場になったことの責務を感じているようだ。 最後に、「これからのLibrary of the Yearに期待すること」についてうかがって みると、「基本的にとてもよくできた仕組みだ」と前置きした上で、大賞を選んで いくプロセスを含めて、「評価の言葉を紡ぎ出していく過程をプレゼンター任せ にしすぎないと良いのではないか」と話された。たとえば、「課題解決型」という キーワードも言葉だけだと実感が湧かないが、図書館の現場にはそういう言葉 をより現実的なものとして表現できるような可能性があるという。Library of the Yearという仕組みが、そのような言葉を探すきっかけとして機能すれば良いの ではないかと平賀さんは話した。 2. 職員の立場から見たLibrary of the Yearとは (1)小林隆志氏、三田祐子氏(鳥取県立図書館) 「Library of the Yearの会場には行ってないんですよ」と話す小林さん。そもそ も第1回(2006年)の受賞だったため、「それっていったいどんな賞なの?」とい う感じだった。「うちの図書館が大賞をもらえたの?」と、賞の実態がよくわから ないままに第1回の大賞受賞機関という立場に選ばれたのが鳥取県立図書館であ る。 その当時を振り返って、「私たちは県立図書館として何をすべきかを意識して いて、そこをしっかりと見てくれたという印象はありました」と語る小林さん。 新しい館長がやって来て改革が始まったのが2002年で、ビジネス支援サービス をキーとした事業を形にするために、2003年から具体的に動き出すことになっ た。2004年から2006年にかけて法律情報や医療情報などのサービスを始めたそ うで、鳥取県立図書館としては自分たちのやろうとしていたことが形になってき たタイミングで評価されたことになる。「新しい方向ばかりを向いてきたわけで
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    021ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 はないですが」と前置きしつつ、「自分たちの方向性に確信を持てたし、やってき たことに間違いはなかったと思えた」と、既存のサービスと新しいサービスとを 活動の両輪として育ててきたことを小林さんと三田さんは振り返る。 翌年の第 2 回に愛荘町立愛知川図書館が大賞を取ったことに触れながら、 「Library of the Yearという賞の評価がそこでようやく納得できた」という感じが したそうだ。現在はLibrary of the Yearの知名度も高まっているが、創設当初は 受賞機関にとっても「どう受け取ったら良いのかがわかりづらい」という賞に過ぎ なかったわけである。受賞当時の地元の反応についても、プレスリリースを出す こともなく、それほど騒がれた感じもなかったという状態だったらしい。そのあ たりの事情については、第1回の受賞機関であるがゆえに、賞としての権威も目 立つことなく、大賞という結果を図書館のPRへとつなげることの難しさがあっ たようだ。 とはいえ、「もちろん賞をいただけたのは良かったですよ」「図書館の客観的な 評価がほとんどないなかで、こういった賞をもらえるくらいの活動をしている図 書館だと周囲に説明できるのはありがたかった」と小林さんは振り返る。鳥取県 立図書館を説明するときに、大賞受賞という実績はその後の活動を後押しするこ とにつながっているようだが、その一方で「より一層頑張らないといけない」「受 鳥取県立図書館 地域の役に立つ図書館をめざすというこれからの図書館のあり方を示した点が評価。第1回(2006年) の大賞受賞機関。撮影=岡本真
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    022 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 賞機関としてしっかりやらないといけない」という気持ちにもなったそうだ。 「受賞後、図書館の組織体制や運営方針などに変化はありましたか?」という質 問には、特に変化はなかったが、「自分たちは大賞を受賞した図書館なんだ」とい うことを大事にして、しっかりとした活動をしていかなければという気になった そうだ。とはいえ、Library of the Year 2006の大賞機関に選ばれたという事実は、 自分たちにとっての一つの通過点に過ぎないということも強調されている。「そ の後の方向性は変わらない」という小林さんの言葉からは、結局は「自分たちが信 じている方法をやり続ける」という意識に結びついているように思える。「続けて いくことは苦労があり、どうやってつないでいくかを問い続けたい」が、「連携ほ ど簡単に壊れるものはない」ことも十分に認識された上で、それでも「連携のない 課題解決というものはありえない」ということを小林さんは強調する。「長い年月 続けていくことで成熟していくサービスもあるかもしれないですが」と前置きし ながら、「サービスに完成形はないですから変え続けるしかないですね、常に動 き回る覚悟が必要だと思います」とまとめている。 「今後のLibrary of the Yearについて期待することは?」という問いには、「とて も良い活動だと思うし、今後ずっと第1回の大賞受賞機関という記録は残るので、 ぜひこのままの形で続けてほしいです」と、このような賞を継続していくことで、 受賞機関に良いインパクトを与えることの意義を述べられた。 (2)井 い 戸 ど 本 もと 吉 よしのり 紀氏・中川清裕氏(三重県立図書館) 「Library of the Yearという賞を意識したことはなかった」「報告文を読み、賞 の重みを知るにつれて、これは凄いことになったなと思った」と話す中川さんと 井戸本さん。当時のお二人の上司で、現在にいたる同館の方向性を推し進めてき た平野昌さん(県の他施設へ異動した後、現在は県職員を退職されている)は、受 賞の連絡が届いたときに、「自分たちが今取り組んでいることは計画全体のなか ではまだ途中の段階であり、完成しているわけではない」「この段階で賞をいた だいてしまうことで、職員の間に気持ちの緩みがでてしまうかもしれない」とい う懸念から、「このような賞は返上しよう」とまで言っていたという。 理念として「すべての県民の方に届ける」というところを意識して活動をしてお り、そのために「市町の図書館を県立図書館が支援する」ではなく、「市町の図書
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    023ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 館と連携して届ける」というところの意識の違いはとても大事にしていたそうだ。 受賞にあたっては、「2011年から進めていた三重県立図書館改革実行計画『明日 の県立図書館』に注目して下さったのは嬉しかった」という★1 。いろんな計画が全 国の図書館でつくられているなかで、あえて三重県立図書館を評価してもらえた のは、「そのあたりの理念を理解してもらえたからでしょうか」とインタビューの なかで何度も話題に上がった。 Library of the Yearを受賞して良かったのは、「自分たちがやっていることの方 向性に間違いはないという自信につながった」ということだ。それによって緊張 感も生まれることになったが、「外から評価してもらえた」ということは大きな励 みとなり、「知事をはじめ、県庁の中で県立図書館の仕事が注目されたのはあり がたかった」と話す。 また、受賞によって県外からの視察も増えたらしく、そのなかのエピソードと して、「図書館そのものにあまり目を引くものがないですね(オーソドックスで注 目するところがよくわからない)」という反応がよく見られたそうである。その際 は、館内に目立つものがないのは当然で、「Library of the Year 2012の優秀賞受 賞は三重県立図書館が単独で評価されたわけではなく、三重県内の市町全体が頑 張っていることが評価されたわけなので、ここ(県立図書館内)に目を引くものが 三重県立図書館 第7回(2012年)の優秀賞受賞機関。県立図書館が県内の図書館活動を積極的に推進している点が評価 された。 写真提供=三重県立図書館
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    024 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 あるわけではないのです」と答えるようにしているそうだ。このことは、「県内各 地の公共図書館と共催する形で活動を展開していること」「県立図書館が県内の 図書館活動を積極的に推進している」という受賞理由から考えても納得の回答と 考えられるだろう。 「Library of the Yearを受賞してみて、県立図書館としては運営方針や組織体制 に大きな変化はなかった」とのことだが、市町の図書館がそれに引っ張られる形 で、「県が受賞したので、次は自分たちが市町の図書館として評価されるように 頑張る」と言われるようになったことが嬉しかったそうだ。三重県立図書館とし ても、「市町と一緒にやっていく」(三重県は1998年度末に69あった市町村が、 旧合併特例法下での取り組みにより、2005年度末に29市町に再編された)とい うところはそれまで以上に意識的に取り組むようになったという。 受賞から3年が経ったが、現在は全県域へのサービスを念頭に計画を立てなが ら、これまでに県内各地でいろいろと取り組んできたことを、「そのまま続けて いくだけではなくて、そこから少しでもステップアップをしていく」ことを考え ながら、積極的に市町の図書館と関わっていく姿勢を大事にしていきたいそうだ。 「Library of the Yearという取り組みに対して何か思うことは?」との質問には、 普段の図書館活動について期待して賞を与えることで、「背中を押す」「気を引き 締める」という力があるという印象を抱いており、受賞機関も建物を有する図書 館だけを選ぶのではないところがすばらしいと感じられるということだった。三 重県立図書館としては、やはり三重県内の市町の図書館が輝くことを目指したい ので、Library of the Year 2012の優秀賞機関という名前に恥じない活動を今後も 続けていくつもりだそうである。 (3)磯谷奈緒子氏(海士町中央図書館) 「Library of the Yearをいただけたことはとても名誉なことです」と話す磯谷さん。 当初は「うちが賞をいただいても良いのか」という気持ちがあったそうだが、町内 では図書館が頑張っていることがなかなか伝わらないこともあり、外部の図書館 関係者からの評価はとてもありがたいもので、「ご褒美をいただいたようなもの ですね」と磯谷さんは話す。 受賞時の評価理由に書かれている「分散型」というキーワードについてうかがっ
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    025ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 てみると、これは実際に事業が始まったときにはそれしか方法がなかったとい うことであり、「苦肉の策です」と振り返りをされた。苦肉の策とはいえ、「一生 懸命やってきたことですし、ひとつのモデルをつくりたかった」という気持ちも あったそうで、Library of the Yearの関係者にも「そのあたりの思いが伝わったの かもしれない」と話す。 受賞して良かったことは、町の行政内部に図書館事業の頑張りを知ってもらえ たことが大きいらしい。それによって予算がつきやすくなったという好影響も あったそうだ。ご自身がこの図書館であと何年働くことになるのかもわからない なかで、「島まるごと図書館構想」の価値を高め、全国に海士町の図書館を知って もらえたことはとても大きな成果だったようだ★2 。 受賞に対する地元の反応としては、町内のコミュニティチャンネルで放送され たり、町の広報誌に載せてもらえたりと、「全国的に注目されている図書館だと 町内にPRできた」という。そして受賞前よりも、地元の人に好意的な受けとめ方 をしてもらえるようになったことが嬉しかったそうだ。また、受賞後に意識して きたことは、評価された取り組みが弱まってしまわないように「現状維持、もし くはより良く」を心がけるようにしてきたと語る。 現在、海士町中央図書館は「しまとしょサミット」などを開催するなど、島内外 海士町中央図書館 第9回(2014年)の優秀賞に選出。館内に優秀賞の盾を立て掛け、利用者とともに受賞を祝す。 撮影=岡本真
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    026 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 の人たちと一緒に新しい活動の形を目指しているそうだ★3 。また、「海士町には いろんなアイデアが持ち込まれますが、それらにできるだけ柔軟に対応できるよ うに」との思いから、幅広さを持っていけるような姿勢を持ちたいとも述べてい た。 最後に、これからのLibrary of the Yearの活動についてうかがったところ、「図 書館の活動を盛り上げるイベントとしてはとても良い試み」として、「図書館は一 般に真面目で堅苦しいとか、面白みがないというイメージがありますが、新しい 図書館の側面を見せるのはとても良いこと」という印象があるらしい。これから 期待することとして、「図書館関係ではない人たちにも、新たな目線で図書館を 見てもらえるようなイベントであってほしい」と話された。 (4)福島幸宏氏(京都府立図書館/前・京都府立総合資料館)   是住久美子氏(京都府立図書館/ししょまろはん) 「博物館っぽいけど博物館ではなく、アーカイブズっぽいけどアーカイブズで はなく、図書館っぽくないけど図書館ではない。多くの人が想定する図書館像か 京都府立総合資料館「東寺百合文書WEB」は京都の東寺に伝えられた日本中世の古文書「東寺百合文書」をCCライセンスに 準拠する「オープンデータ」で公開し「OpenGLAM」の格好の先駆的事例となった。 写真=東寺百合文書WEBより
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    027ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 らは離れている京都府立総合資料館が、図書館界で評価を受けたというのが面白 いできごとですよね」と福島さんが語り出す。もともとは京都府立図書館の新館 として計画された建物が、紆余曲折を経て京都府立総合資料館として今日にい たっている。 京都府立総合資料館の受賞理由にも記されている「オープンデータ」は、Library of the Year 2015の第一次選考を通過している(インタビューの時点[2015年9月 7日]では最終選考会に残る4機関は公表されていなかった)。その受賞理由の中 に「ししょまろはん」の名前が入っているが、そのことに是住さんは「オープン データという概念がまだそれほど広まっていないなかで取り上げられたのはとて も意外です」と話す★4 。「ししょまろはん」は、もともと2013年6月から京都府の 人材育成制度の中で取り組んできたことで、府の職員が業務外活動することに対 する補助がきっかけとなったものだ(LRG12号 司書名鑑「是住久美子」参照)。若 手職員が地域のために動くことが推奨されていた状況に加え、自分よりも下の世 代の職員が増えてきたこともあり、「タイミング的にうまく動き出すことができ た」と語る。 Library of the Yearを受賞して良かったこととしては、「図書館界の中で京都府 立総合資料館の名前を知ってもらえたことが大きい」と福島さんは話す。その一 方で、なぜLibrary of the Yearを受賞できたかが理解されずに、単に盛り上がっ ているだけに留まってしまっているのではという懸念もあり、「MLAいずれの機 関も、クリエイティブ・コモンズを制度として上手に使えそうということがわ かったが、著作権のことを含めてデジタルアーカイブのことを理解していない人 も多い」として、もう少し戦略的に物事を進めていく必要性を感じたそうだ。 是住さんは今後、「ししょまろはん」の取り組みも含めて、地域情報の活用の問 題をどうにかしていきたいと考えているそうだ。図書館は資料を集めるだけで終 わるのではなく、「つくるとか探してくるという積極的な姿勢が必要になる」と話 す。そういう活動の結果として今までの図書館像が変化していくとは思うが、「今 後の日本社会に必要な仕組みになるはず」と福島さんと是住さんのお二人は口を 揃えて語った。 これからのLibrary of the Yearの活動については、「ライブラリーの概念自体が 広がっている傾向がある」と述べた上で、今後は「ライブラリー的な活動をつかま える・発見する作業」が大事になるのではと指摘された。言い換えれば、「ライブ ラリーの概念の拡張」ということになるだろう。その概念を単に「共有すること」
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    028 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 を示すだけではなく、「それをどう広めていくか」というところまで想定していけ れば良いのではないかと語る。 最後に、「『中小レポート』(1963年)や『市民の図書館』(1970年)から考えて も、今日の図書館像というのはここ50年程度の時間でしかない。それはいずれ 終わってしまうものだと思う」「図書館という装置、その中にいるライブラリア ンが何をするかを真面目に考えるということが必要なのではないか」と福島さん はこれからの図書館についての意見を述べた。 「物事を図書館だけで考えていてはだめだと思う。地域やほかの施設との関わ りの中で考えていくことが必要になるはず」という言葉からは、いろんな人と考 える、図書館も一緒に考える、そんな活動が求められているように感じられる。 インタビューの最後に、「図書館のような贅沢な資産を持っている機関は社会の 中でそんなに多くはないし、そこで働く人たちにはその強みを活かすことが求め られると思う」と、お二人は図書館の未来の可能性に期待するコメントを残され た。 D . 分析 1. 歴代受賞機関から見る「良い図書館」のトレンド 話題となる図書館サービスには時代ごとに流行りがあり、時代ごとに取り上 げられ、注目されるキーワードがある。それはたとえば「貸出サービス」や「移動 図書館」のような図書館としての基本的なサービスだったり、「児童サービス」や 「障害者サービス」などのような利用者のターゲットを想定したりするものもある。 あるいはここ数年の中では、「課題解決支援」「レファレンスサービス」「コミュ ニティづくり」「場としての図書館」「まちづくり」「地域との連携」「デジタルアー カイブ」「ラーニングコモンズ」「指定管理者制度」など、図書館界の中でトレン ドとなった言葉を思い浮かべることができる。当然ながらLibrary of the Yearの 活動も図書館界の話題の移り変わりと連動しており、その時代ごとの影響を強く 受けている。 では、この10年間のLibrary of the Yearの歴史を振り返ってみて、「良い図書館」
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    029ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 の大まかなトレンドを掴んでみたいと思う。あくまで私見だが、それらは以下の ように変化してきているといえる。 第一期 第1回(2006年)~第4回(2009年) 公共図書館を中心とした施設・活動に対する評価が行われていた時期。主 に具体的なサービス内容が評価される傾向が強く、選考理由を振り返ってみ ても、たとえば鳥取県立図書館の「ビジネス支援サービス」、愛荘町立愛知川 図書館の「図書館員それぞれの専門分野」、千代田区立千代田図書館の「コン シェルジュ」、大阪市立中央図書館の「データベースの利用」などに注目が集 まった。 第二期 第5回(2010年)~第7回(2012年) 施設・活動に対する評価に加え、「ウェブサービス」や「場」の仕組みにも注 目が集まった時期。また、前・小布施町立図書館の花井さんの「大賞を狙う」 という発言からもうかがえるように、Library of the Yearが賞としての価値 を高めてきた時期でもある。 第三期 第8回(2013年)~第10回(2015年) 再び公共図書館を中心とした施設・活動に対する評価が行われていた時期。 ただし第一期と異なり、たとえば伊那市立図書館の「新しい公共空間」、京都 府立総合資料館の「オープンデータ」など、「公共空間」や「公共性」というキー ワードが取り上げられるようになってきている。 第一期は、誰もが「Library of the Yearとは何か」がわかっていない時期であり、 Library of the Yearというイベントの趣旨を形づくっていく過程とも重なってい る。つまり、このイベントで「優秀賞・大賞機関に選ばれることの意義」を受賞者 側が理解するだけではなく、主催者側にとっても「Library of the Yearとは何か」 を社会に対して問いかけなくてはならなかったわけである。主催者側としても、 「Library of the Yearという仕掛けがうまく軌道に乗るだろうか?」ということを 模索しながら進めていたことだろう。このことは第1回の大賞受賞機関である鳥 取県立図書館の小林さんが、第2回で愛荘町立愛知川図書館が大賞を取ったこと で「ようやく自分たちが貰った賞の価値について納得することができた」と回想し
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    030 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 大阪市立中央図書館 第9回(2009年)に大賞受賞。図書館でのデータベース利用のモデルを示している点が評価された。 写真提供=大阪市立中央図書館 千代田区立千代田図書館 都心型図書館の新しいモデルとなることを意識したサービスで第8回(2008年)に大賞受賞。 写真提供=千代田区立千代田図書館
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    031ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 ているエピソードからも推察できる。そこには、Library of the Yearの趣旨を明 確に定着させようとするという意図が込められているようにも感じられる。 それに続く第二期には、カーリルやCiNii、saveMLAKなどのウェブサービスの ほか、ビブリオバトルや住み開きのようなコミュニティづくりのアイデアなど、 建物を有する図書館ではなく、いわゆる「図書館的」な機関に大きな注目が集まっ た時期でもある。ブレイクスルーを感じさせる力を持つ動きが、公共図書館以外 の領域から出てきたといえるだろう。 また、別の言い方をするならば、「建物を有する図書館からの面白い取り組み が、相対的に弱まっていた時期」と見ることもできるかもしれない。なぜならば、 Library of the Yearとは、「今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動」 を重視して評価するものだが、言い換えれば、候補機関が総体的に良いかどうか (平均点が高いかどうか)ではなく、「突出した評価ポイントによる一点突破」に よって評価されることになるということでもある。図書館全体としての評価は抜 きにして、「ここの取り組みが面白い」「公共図書館にとって示唆的である」と判 断されればLibrary of the Yearの受賞につながることになるのだ。 そういった選考方針を考慮に入れながら、この時期の受賞機関数の増減にも 注目してみよう。原則的に優秀賞機関の数は毎年4機関だが、第4回(2009年)と 第5回(2010年)のみ3機関となっている。これは第一期から第二期へと移り変わ るなかで、「突出した何か」を持つ機関が少なくなっていた時期とも推測できる。 2010年3月に登場したカーリルは公開からわずか半年で大賞を受賞しているが、 これはLibrary of the Yearの歴史の中でも突出して早い段階で評価された図書館 的活動の事例である。それは時代的に公共図書館側の面白い取り組みがあまり目 立たなくなっていたという事情も含まれているように思える★5 。 また、第二期にあたる第7回(2012年)においては4つの候補機関のうち、3つ が建物を持たない機関となっている。この点について当時の選考過程の内情を少 し明かしてしまうと、優秀賞についてはビブリオバトル、saveMLAK、CiNiiの3 機関が先に決まり、残り1枠を争うなかで三重県立図書館が最後に確定したとい う順番となっている。建物を有する図書館は最後になっていたわけだが、これも 実は「1枠は図書館に」という配慮が選考委員の意見としてまとまったものとなっ ている。つまり第7回は第二期の傾向がもっとも顕著に表れた時期だと言えるだ ろう。
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    032 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 第三期については、第一期と同様に建物を有する図書館に注目が集まるという 回帰が見られるが、その注目のされ方が変わってきたように思う。社会の中にお ける図書館への期待が変化してきたという時代的な要因もあると思うが、全体的 に「公共」や「コミュニティ」などのキーワードへの関心が高まってきたような印象 を受ける。言い換えれば、「図書館はどんなサービスをすべきか」ではなく、「図 書館は地域の中でどんな役割を担うべきか」が問われるようになり、それが評価 されるようになったということだろう。 つまり、「個別のサービス事例」で優秀賞や大賞に選ばれることが難しくなり、 「地域の中での図書館の役割」を体現しているような機関が選ばれるようになって きたわけである。賞というものは、その時代が求めている出来事を色濃く反映す るものだが、それはLibrary of the Yearにも同じようなことが言える。このことは、 後述する審査員の選考理由からもうかがい知ることができる。 皇學館大学でのビブリオバトルの様子。ビブリオバトルサークル「ビブロフィリア」を主な活動場所としているほか、講義 やゼミの中でも実施している。 写真提供=岡野裕行
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    033ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 2. 評価のポイントをLibrary of the Yearの仕組みから考える 次に、Library of the Yearが設定している選考基準を以下に確認してみよう。 ①今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている。 ②公立図書館に限らず、公開された図書館的活動をしている機関、団体、活 動を対象とする。 ③最近の1 〜 3年間程度の活動を評価対象期間とする。 これら3つのうち、もっとも重要となるのは①の基準である。単純に「今年度、 優秀な活動をした図書館」というように、選考の時点までの取り組みの良し悪し を評価するのではなく、あくまで「今後の公共図書館のあり方を示唆する」という 条件がついていることが、Library of the Yearという賞を考える上で欠かすこと のできない視点である。 このような選考基準を設けている理由については、創設メンバーの一人でもあ る田村俊作氏が次のようにまとめている★6 。 ①公共図書館の今後の方向性を考える上でヒントとなる活動を積極的に発掘 したいと考えたこと。 ②発掘するプロセスの中で、IRI(NPO法人知的資源イニシアティブ)および LTF(図書館コンサルティング・タスクフォース)のメンバー間で、今後の 公共図書館のあり方について積極的かつ具体的な議論の場を持ちたいと考 えたこと。 ③IRIの議論と見解を広く関係者・国民一般に提示し、対話を通じて今後の 公共図書館の方向性を明らかにしたいと考えたこと。 ④公共図書館の今後の方向性に対して示唆を与える活動は、公共図書館界の 外にもあると考えたこと。 田村氏の提示した以上のまとめから重要なキーワードを抜き出し、それらを整 理し直してみると、以下のような点が指摘できるだろう。
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    034 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 ●発掘   過去1 〜 3年くらいの取り組みから、注目すべき事例をすくい上げること。 Library of the Yearという仕組みを設けることで、選考委員や一般の人たち に、「全国各地の図書館的な活動の中から、面白い取り組みを探し出そう」と いう動機づけが生まれることになる。  ●議論   選考委員同士のクローズドな議論の中で、注目すべき事例を納得のいく形 に言語化し、共通理解をつくり上げていくこと。「図書館的な活動の面白い 取り組み」というものを、感覚的なレベルに留めることなく、他者に説明で きる形で伝わる言葉を探す必要性が生まれてくる。  ●対話   注目すべき事例をオープンな最終選考会の場で取り上げることで、さらに 視点を広げ、その見解を公のものとしていくこと。また、「大賞を決める」と いう仕組みを設けることにより、「ほかの候補機関よりも抜きん出た特徴を 探す」という思考を会場にいる全員へ促すことで、より良い意見が出てくる ようなしかけとなっている。  ●示唆   最終選考会でのプレゼンおよび、審査員の講評などのやり取りを通じて、 先進的な事例を未来の公共図書館に通用するようなより一般化した形へと整 理していくこと。その際に、公立図書館以外の機関や団体などを含む「図書 館的活動」というように枠を大きくすることで、公共図書館の可能性をより 良い方向へと広げられる可能性が生まれてくる。 つまり、過去の優れた取り組みに倣うために先進事例を探し、現在(選考の時 点)の視点で選考委員が何度かの議論を経て注目すべき点を見出し、選ばれたプ レゼンターがプレゼンをする過程でその言葉をさらに洗練して公開することで、 未来の公共図書館のあり方をみんなで探っていくという仕組みになっているわけ である。 Library of the Yearの選考方法は、最終選考会に残るまでに二段階の手続きを とっている。まずは第一次選考として、選考委員や一般からの推薦によって集 まった30機関ほどの中から8機関程度を選び出し、少し時間をおいて選考委員 が各自で要点をまとめ上げ、さらに検討を続けながら最終選考会に残る優秀賞4
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    035ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 機関を第二次選考として選び出す仕組みとなっている。 第一期の中では、特に第1回(2006年)の選考過程が特徴的で、第一次選考を 通過した機関の数が歴代の開催の中でももっとも多く、全部で11機関となって いる。新しく始まった取り組みということもあり、どの程度の数まで絞り込めば 良いのかについて、選考委員同士でも落としどころを探っていたように感じられ る★7 。 これまで公にしてこなかったが、3回目のエントリーでようやく優秀賞を受賞 したという事例もある。長崎市立図書館は第3回(2008年)、第7回(2012年)と 候補機関として名前が挙がりながらも、残念ながら最終選考会には進んでいない。 最終選考に残っていないため、候補機関として名前が挙がっていたことやその推 薦理由は選考委員以外には知られることもなかった。その後、第8回(2013年) の開催のときにようやく優秀賞を受賞することになった。推薦理由も「PFI」や「大 型公共図書館」というものから、「がん情報サービス」というものに変わっており、 時代に合わせて多様な視点から注目されてきたことがわかる(表1)。 年度ごとにライバルとなる機関も変わってくるので、単純に「推薦理由が変 わったから」優秀賞に選ばれるようになるわけではない。年度ごとに最大でも4 機関という枠があるので、ギリギリの判断で枠から漏れてしまうということもあ り得る。たとえば第7回(2012年)の際には、優秀賞の最後の一枠が三重県立図 書館に決まるまで、長崎市立図書館が最有力候補になっていたが、議論を詰めて いくなかで最終的な結論に至ったという経緯がある。審査員同士の議論では「ど ちらを優秀賞に選ぶか」という議論になる場面が意外と多く、すんなりと優秀賞 受賞が決まる機関のほうが少ないように思われる。 もちろん、全国の図書館数や「図書館的」機関の数を考えてみれば、Library of the Yearの候補機関として名前が挙がるだけでもとてもすばらしいことではある。 また、繰り返し候補機関に名前が挙がってくるところもそう多くないので、長崎 市立図書館は長年にわたってポテンシャルの高い機関の一つだったともいえるだ ろう。その一方で、最初に候補になった年から時間を隔てて優秀賞を受賞してい ることからも、「良い」と思える図書館の取り組みは、同時代の中で即座に評価に つながることが難しいことも示している。 それとは反対に、「複数回名前が挙がったものの、選ばれなかった」という機関 もある。第1回目(2006年)と第4回目(2009年)に候補機関として名前が挙がっ
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    036 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 た岡山県立図書館などがその事例である。「1回だけ名前が挙がったことがある (第一次選考を通過した)」という図書館も結構な数に上るが、これまでの最終選 考会の顔ぶれを見ればわかるように、第二次選考を通過するのはほんの限られた 機関でしかないことがわかる。 3. 優秀賞と大賞を「選ぶ人」 冒頭から単純に「選ぶ人」という言い方をしているが、Library of the Yearにお いては、「選ぶ人」が意味する対象には違いがある。以下に示すとおり、いくつか の立場に分けることができるだろう。 回数 結果 推薦理由 第3回 (2008年) 候補 民間企業の資金とノウハウを利用するPFI方式で2008年1月5日に 開館した。効率的な運営を考慮した設計によって、高いコストパ フォーマンスを実現し、入館者は1日平均5,000人を記録する。オー ソドックスな図書館サービスを志向し、原爆資料、地域資料や外国 語資料の収集に力を注いでいる。これからの大型公共図書館のモデ ルとしてLibrary of the Yearに推薦する。 第7回 (2012年) 候補 図書館PFIの5例目であるが、そのなかでは最大規模であり、そのよ うな規模でのPFIの可能性を立証した。運営にあたって民間事業者 からの提案として、自動貸出機、自動閉架書庫、返却本の自動仕分 機の導入など最新の機械化を行った。これによって、本館160万冊、 分館・分室60万冊、計220万冊の貸出・返却業務の効率化、安定化 を果たした。広範な市民サービスを展開しつつ、本館がビジネス街 という好立地にあるため、おしゃれなレストランを含め、利用者の 来館時間のピークが12時〜 14時と17時〜 18時であるなど、本館来 館者数が年間100万人を超える新しい都市型図書館の好ましい像を 確立した。 第8回 (2013年) 優秀賞 地域の課題として「がん情報サービス」を取り上げ、県・市の行政担 当部課、医療機関などと協力して展開してきた事業(がん情報コー ナーの設置、レファレンスの充実、がんに関する講演会など)が、市 民はもとより県・市医療機関からも高い評価を得ている点が評価さ れた。 表1 長崎市立図書館の推薦理由の変遷
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    037ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 ①選考委員   第一次選考会・第二次選考会を通じて、優秀賞4機関(大賞を決定するた めの最終選考会に選出される機関)を直接的に選ぶ人たち。第二次選考会で 優秀賞4機関を選ぶに際しては、選考委員が一人につき2票の投票権を持っ ている。さらに、普段はあまり意識されないが、審査員とプレゼンターを選 ぶ立場にもあるのがこの人たちである。選考委員がプレゼンターを兼ねて最 終選考会のステージに上がることもあるが、その多くは表舞台には現れず、 ほとんどは陰の存在としてLibrary of the Yearに関わっている。メンバーに は追加や退任もあるが、それほど顔ぶれが変化するわけではなく、基本的に は継続的に関わっていることが多い。なお、座長を除いて最終選考会におけ る審査員を引き受けることはないため、大賞を決めるための最終的な投票権 を持つこともない。 ②審査員   大賞機関を選ぶために1票の投票権を有する人たち。年度によって人数は 異なるが、各回とも5・6人によって構成される。メンバーの選出にあたっ ては、なるべく異なる立場にいる者(図書館総合展運営委員会、学識経験者、 前年度大賞受賞機関の代表者、現場経験者など)、なるべく異なる年齢層の 者(たとえば若手のメンバーを意識的に入れる)、男女の割合のバランスなど、 さまざまな要因が考慮される。審査員は選考委員によって選ばれることで、 最終選考会で公の舞台に登場する。 ③プレゼンター   候補機関が優秀賞として選ばれた理由や、その年の大賞に推すために、最 終選考会でのプレゼンを担当する人たちである。基本的には候補機関とゆか りがある人が選ばれることが多いが、プレゼン準備のために候補機関に一 度は足を運ぶ必要があるため、予算の都合上、なるべく近場の人が選ばれる ケースもある。第二次選考会が終わり、最終選考会に残った4機関が確定次 第に、即座に人選がなされる。 ④来場者(会場票)   Library of the Yearには会場票という仕組みがある。第3回(2008年)から 導入されており、現在のような最終選考会の会場に来場した人たちによる会 場票方式になった。過去のLibrary of the Yearでは、最終的に1票差で大賞 が決まることも実際に起こっており、ギリギリのところで評価が分かれるポ
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    038 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 イントとなる票でもある。また、第3回(2008年)のみ、会場票が2票となっ ていた。 ⑤寄付者(READYFOR票)   第9回(2014年)のみ導入された投票の仕組みで、会場票と並んで一般か らの投票の機会となっている。Library of the Yearは基本的にメンバーが手 弁当で運営しているため、慢性的に活動資金が不足しており、クラウドファ ンディングサービスであるREADYFORで活動資金を募り、寄付をしてくれ た一般の人に投票の権利を拡充するために考案された。従来は一般からの投 票は当日の来場者による会場票のみなので、READYFOR票の設置による投票 機会の増加は、最終的な結果に一般からの評価が入る余地が増えることに なった。しかし、第10回(2015年)ではREADYFOR票はなくなったので、結 果的に第9回(2014年)のみの投票方式となった。 ⑥推薦者   Library of the Yearは基本的に選考委員が候補機関を出すが、一般からの 推薦も受け付けている。選考委員だけでは全国各地の取り組みをフォローす ることができないためである。また、「良い図書館」を探す活動はみんなに取 り組んでほしいことであり、選考委員も気づかなかったさまざまな図書館活 動をすくい上げるためにも、このような広範な事例を収集する仕組みが必要 となる。最終選考会には一般推薦機関からのものが毎年いくつか選ばれてい るので、その影響力は決して小さくはない。 以上のように整理してみると、「Library of the Yearの大賞を選ぶ」ということ がそれほど単純なものではないことがわかるだろう。関係者それぞれに個人の思 惑があるのは当然だが、誰かが意図的に選考結果を操作できるような余地は残さ れていない。 Library of the Year 2013の審査員を務めた川口市メディアセブン(当時)の氏 うじはら 原 茂 しげゆき 将氏は、このような選考方法について以下のようにまとめている。 Library of the Yearでは、まず第一次選考候補をひろく公募する。自薦も あれば他薦もある。事実、ぼくがディレクターを務める川口市メディアセブ ンも2011年には一次選考を通過していたそうだが、当時はまったく知らず、 今回審査員を引き受けるにあたってはじめて知ったぐらいだ。
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    039ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 一次選考から絞り込まれた4 ~ 5つの候補は優秀賞となり、図書館総合展 での公開選考会に臨むこととなるのだが、ここで活動をプレゼンテーション するのも、関係者ではない。プレゼンターが自らの推す候補を7分ほどで紹 介し、それを審査員と会場で審査する。 まな板の鯉とはまさにこのことで、活動主体の自己評価が入り込む隙間が なく、団体票も機能しない設計となっているのは好ましい。 審査員経験者に「まな板の鯉」と評されるLibrary of the Yearの選考方法だが、 多様なプレーヤーがそれぞれの立場で関わっているため、大賞を受賞する機関を コントロールする(意図的に推す)ことは不可能な仕組みになっている。 Library of the Yearの選考委員は候補機関を選び出し、推薦理由を書くという 大きな道筋をつくる部分を担当しているが、最終的な投票権を持っていない。プ レゼンターは与えられた推薦理由をもとに候補機関を推す理由をまとめ上げ、最 終選考会の会場でプレゼンをするが、役目としてはそこまでであり、最終的な投 票には関わることができない。審査員は投票の権利を有すが、事前に与えられる 情報は選考委員から示された推薦理由だけであり、当日の会場でのプレゼンをも とに大賞候補機関を選ぶことになる。そして、プレゼンターも審査員も、選考委 員によって選出されるという突然の指名のもとに会場に赴くことになる。 また、来場者は会場票の権利を持っているが、審査員票とは異なり、会場全体 で1票分とカウントされるため、結果に影響を与えるには小さく、1票の重みが 抑えられている。もちろん第6回(2011年)や第7回(2012年)のように、審査員 票が同数のために、会場票で結果が左右されることもあったので、重要な1票で あることの価値は変わらない。そして氏原氏が「まな板の鯉」と指摘するように、 活動主体となる候補機関は何もすることができず、会場から結果を見守る立場に しかないわけである。 Library of the Yearの結果が面白いのは、このように多様なプレーヤーがそれ ぞれの立場で与えられた役目を務め、それらが絡み合いながら「大賞を決定する」 という一つの目標に向かって議論を進めていく過程が大事にされているためであ ろう。Library of the Yearはそこに関わる誰もが当事者でありながら、それでい て誰もが結果をコントロールする立場にはない。最終選考会の結果は、まさに 「神のみぞ知る」と言えるだろう。
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    040 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 4. 選考方法の変化がもたらしたものとは? Library of the Yearの選考方法は、各年度の終了後に反省点を洗い出し、毎年 のように微調整している。表2のように変化のポイントをまとめてみた。 選考方法の変化としてもっとも大きなものは、第2回までと第3回目以降であ ろう。最初期の第1・2回目については、プレゼンターが審査員の役割もかねて おり、互選方式での大賞決定となっていた。これはLibrary of the Yearの初期に おいて、「選考の過程の中で議論の場を設ける」ことが念頭にあったためと言える だろう。しかし、こういった選考方法だと、「みんなで選ぶ」というよりも、「一 部の人たちが選ぶ」という印象も強くなる。また、審査員という存在がいないた めに議論の内容や評価の幅も狭くなりがちであり、会場票が考慮されることもな いために「みんなで選ぶ」という印象も薄くなる。「互選方式」による選考過程は、 「公的」「公平」を目指すよりも、Library of the Yearの選考委員(プレゼンター兼 審査員である)同士で「勝手に盛り上がっている」という印象が強かったのではな いかと思われる。 そのような反省も踏まえて、第3回目以降から投票の方法が大きく変わり、現 在まで続いている「候補機関を選出する選考委員」「最終選考会でのプレゼンを行 うプレゼンター」「最終選考会での評価を行う審査員」「会場票を投じる来場者」 という分業制が確立し、第3回(2008年)の会場票が2票となっているところ、第 9回のREADYFOR票が加わっているところを例外として、ほぼ「審査員票6票+ 会場票1票」という構成になっている。 Library of the Yearにおいては、選考委員が「候補機関を選ぶ」だけではなく、「審 査員を選ぶ」「プレゼンターを選ぶ」ことも行われている仕組みになっている。最 終的にどの候補機関に票を投じるかは各審査員の判断によることは当然だが、そ もそも「なぜその審査員を選んだのか」については説明されることがない。 また、Library of the Yearへの批判の一つに、「優秀賞発表までの選考過程が不 透明」というものがある★8 。これについても修正が施されていて、第9回(2014 年)以降は、第一次選考の結果を途中経過として公にする方針に変更している。 これによる変化は審査過程にも表れることになり、たとえばLibrary of the Year 2014の審査員の一人を務めた平賀研也氏(現・県立長野図書館長)は、以下のよ うに胸の内を綴っている★9 。
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    041ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 開催回数 大賞選考の投票方式 第一次選考結果の公表 第1回 (2006年) プレゼンター 4人による互選方式。唯一の会場票なし。 なし 第2回 (2007年) プレゼンターによる互選方式。 パネルを設置しての来場者投票による会場賞も授与。 なし 第3回 (2008年) 審査員5票+会場票2票 なし 第4回 (2009年) 審査員6票+会場票1票 なし 第5回 (2010年) 審査員6票+会場票1票 なし 第6回 (2011年) 審査員6票+会場票1票 なし 第7回 (2012年) 審査員6票+会場票1票 なし 第8回 (2013年) 審査員6票+会場票1票 なし 第9回 (2014年) 審査員5票+会場票1票+READYFOR票1票 第一次選考結果として 8機関を公表した。 第10回 (2015年) 審査員6票+会場票1票 第一次選考結果として 6機関を公表した。 表2 選考方法の変化
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    042 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 ボクが審査員を依頼されたのは、4つの優秀賞・大賞候補がプレスリリー スされた直後の9月末だった。ボクはこの4件ではなく、その前の8件に遡 り、その選定理由を読み、さらに知り得る情報を加えて3つのグループに分 けて考えた。Library of the Year委員会メンバーが選択にあたって論議した であろう“先進性”の視点を読み解き、ボク自身の考える“これからの図書館” の視点とたたかわせ、重ね合わせたかったからだ。 平賀氏が行ったような「この4件ではなく、その前の8件に遡り」という作業は、 第一次選考結果を非公開にしていた2013年まではできなかったことで、審査員 の行動にも影響を与えることになったということが見てとれる。すべての審査員 が平賀氏のように深く考えていたのかどうかは別としても、優秀賞の4機関だけ ではなく、第一次選考を通過したほかの機関をも含めて選考委員の意図を読み取 ろうとするのは、Library of the Yearの新しい楽しみ方の一つであるように思う。 今年度のLibrary of the Year 2015も、第一次選考結果として6機関を公表し、そ の上で優秀賞を4機関に絞っているが、そのことが果たしてどのような影響を審 査結果に及ぼすことになったのだろうか。 次に審査結果に大きな影響力を持つ審査員とプレゼンターについて考えてみた い。表3に示しているのは、審査員またはプレゼンターとしてLibrary of the Year の舞台に2回以上登壇している人の名前である。このうち第1回(2006年)と第 2回(2007年)については、プレゼンターが審査員も兼ねている互選方式のため、 両方にカウントしている。 こうして並べて見ると、以下のような特徴が見えてくる。 ●大 おおぐし 串夏 なつ 身 み 氏と小林麻実氏の二人が、ほぼ全般的にLibrary of the Yearの最 終選考会に関わってきた。 ●柳与志夫氏、福林靖博氏、田村俊作氏、長 は 谷 せ 川 がわ 豊 とよひろ 祐氏らは、初期のLibrary of the Yearの最終選考会に関わることで形をつくってきた。 ●糸 いと 賀 が 雅 まさ 児 る 氏と千 ち の 野信 のぶひろ 浩氏の二人は、特に第二期の最終選考会に深く関わっ ていた。 審査結果はほかの審査員の票も絡むため、「誰が大賞を選んできたのか」につい
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    043ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 氏名 審査員回数 プレゼンター回数 合計 担当回 1 大 おおぐし 串夏 な つ み 身 6 4 10 1, 2, 3, 6, 7, 8, 9, 10 2 小林麻実 4 1 5 3, 4, 5, 7, 8 3 柳与志夫 2 3 5 1, 2, 3 4 糸 い と が 賀雅 ま さ る 児 2 1 3 4, 5, 6 5 福林靖博 1 2 3 1, 3 6 千 ち の 野信 のぶひろ 浩 1 2 3 4, 6, 8 7 佐々木秀彦 2 0 2 3, 4 8 佐藤達生 2 0 2 4, 5 9 水 みずたに 谷長 た け し 志 2 0 2 5, 6 10 田村俊作 1 1 2 1 12 宇 う だ 陀則 のりひこ 彦 1 1 2 2 13 長谷川豊祐 1 1 2 2 14 村井良子 1 1 2 3, 7 15 岡本真 1 1 2 3, 4 16 内沼晋太郎 1 1 2 5, 9 17 野 の ず え 末俊 と し ひ こ 比古 1 1 2 6, 7 18 小田光宏 1 1 2 7, 8 19 平賀研也 1 1 2 9, 10 20 岡野裕行 0 2 2 6, 7 表3 審査員およびプレゼンターの登壇回数
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    044 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 てまで踏み込んだ言い方はできないが、特に3回以上の登壇実績がある上記のメ ンバーは、Library of the Yearの大きな流れをつくってきた人たちと評価できる だろう。 余談になるが、小林麻実氏は第1回(2006年)にアカデミーヒルズ六本木ライ ブラリーとして、平賀研也氏は第8回(2013年)に伊那市立図書館として、また、 内沼晋太郎氏は第10回(2015年)にB&B(東京・下北沢にある書店)として、それ ぞれ優秀賞に挙げられた受賞機関の関係者としてLibrary of the Yearに関わって いる。これまでのLibrary of the Yearの歴史の中で、受賞機関の当事者、プレゼ ンター、審査員のすべての役割を担ったことがあるのは、この3名だけとなって いる。プレゼンターと審査員の役目は選考委員による指名になっているとしても、 そういった役回りが巡ってくる立場にいることも評価されるところだろう。 5. 受賞を狙うことは果たして可能なのか さて、審査員には一人につき1票の投票権が与えられているが、基本的には B&Bの店内 写真提供=B&B
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    045ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 「誰がどの機関に投票したのか」は公にされない仕組みのため、審査員がどういう 判断で最終的に票を投じたのかを知ることはできない。だが、各審査員がどうい う基準を設定していたのかについては、結果発表前のコメントによって、ある程 度把握することは可能である。 Library of the Year初期の頃については振り返りが困難だが、2011年から2015 年までの5年分についてはYouTubeに動画が残されているので、そこからコメン トを抜き出すことができる。審査員のコメントについては、大まかに次の3形態 に分けることができる。 ①個々の候補機関についてコメントを述べるのではなく、審査員としての評 価基準を簡潔に述べたもの。 ②すべての候補機関についてのコメントを順に述べていくもの。 ③投票した機関のみに言及することで、投票した候補機関をほのめかしてし まったもの。 コメントとしては②は感想に近いものであり、話が冗長になりすぎることも あって、観客の立場としてはあまり面白いものにはならない印象がある。また、 ③はあまりにも正直にネタバレしすぎて、イベント進行への配慮が感じられず、 コメントとしては白けてしまう要因にもなってしまう。審査員という役目を担う からには、やはり①のように「その審査員ならではの評価基準」を明確に示しても らえると会場で聴いていても楽しいコメントとなるように思える。 過去の開催事例の中から、注目に値するいくつかの判断基準を以下にまとめて みた。 第6回(2011年) ●鳴 な る み 海雅 ま さ と 人氏「リアルな場所として空間の魅力があるかどうか」 ●野末俊比古氏「我々人間が育っていく場として機能しているか」 ●吉本龍司氏「場としてのコミュニティがつくれるかどうか」 ●水 みずたに 谷長 た け し 志氏「どういうふうにしたいか(コンセプト)、言葉として伝えるこ と(メッセージ)、形に見えるしくみ(デザイン)という三つが連動している か」
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    046 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 第7回(2012年) ● 林 はやし 賢 たかのり 紀氏「誰に対しての活動なのかを意識しているか」 ●村井良子氏「みんなが幸せになれるような今後の可能性を感じられるか」 第8回(2013年) ●氏原茂将氏「本の形になっていない、形になりえない知というものにどの ように関わっているのか」 ●高野明彦氏「図書館側から何らかのブレイクスルーとなるものをつくれて いるか」 ●山崎博樹氏「地域に対してどれだけの活性化を図っていけるか、そして真 似ができるか」 第9回(2014年) ●平賀研也氏「オープン(これからの図書館や知をめぐる活動)やコラーニン グ(共に学ぶ、共につくる、共に知る)が実現できているか」  ●内沼晋太郎氏「先進事例になっているか」 第10回(2015年) ●大串夏身氏「図書館とは何かを考えるきっかけになるか」 ●飯 いいかわ 川昭 あきひろ 弘氏「身近にあったときに利用したいと思えるか」 ●池谷のぞみ氏「何かしたいという利用者の気持ちをそっと支援してくれる か、本と空間を結びつけてくれるているか」 ●岡直樹氏「過去から伝わってきたものを未来に繋げようとしているか」 ●小 お の 野永 は る き 貴氏「多様性を吸収できているか、利用者のフィールドについて考 えているか、人・物・空間のバランスが取れているか」 ●鎌倉幸子氏「その地域にとっての100年後に何を残したいか、100年後に 私たちがどうあるのかを考えさせてくれるか」 実施時期や大賞候補として選出された優秀賞機関が年度ごとに違っているため、 評価において何を優先しているのかが違うのは当然だと思われる。そのため、そ れぞれの回の候補機関がどこだったかを照らし合わせながらコメントを読んでほ しいが、各審査員がどういうものの見方や覚悟でもってLibrary of the Yearでの
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    047ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 役目を引き受けているのかがわかるだろう。 最後にもう一つ別の視点から、「受賞を狙う」ということについて考えてみたい。 前・小布施町立図書館の花井さんのもとには、「どうすればLibrary of the Year の大賞を取れるのか?」という相談が来るようになったというエピソードがある。 筆者が関わっているビブリオバトルでも 、「どうすればチャンプ本を取ることが できるのか?」といった質問がよく寄せられるが、そのたびに「必勝法と呼べるも のはない」「1回のゲームの中でチャンプ本に選ばれないほうが多い」といった答 えを返している。単純な勝ち負けよりも、「面白い」という気持ちが込められた言 葉を引き出し、楽しいコミュニティがつくれるかどうかを重視したいためである。 Library of the Yearには議論や対話という目的があることを考えれば、大賞ばか りに注目が集まるのは、本来の趣旨からもずれることになる。 優秀賞にしろ大賞にしろ、受賞機関には長年にわたる地道な取り組みが根底 にあり、Library of theYearの仕組みがそこに注目することで結果として評価さ れるものである。多治見市図書館の熊谷雅子館長は、Library of the Year 2015の 大賞受賞後のインタビューの中で、受賞理由となった地元の人に向き合った10 年間の活動に触れながら、「ご褒美をいただいたような気持ち」とコメントして いる。この言葉は大賞を受賞する機関にもっともふさわしい表現のように思え る。 「どうすればLibrary of the Yearの大賞を取れるのか?」に対する明確な答えは ないが、「それでも何かできることは?」という視点になるならばできることは ある。それは受賞を狙っている図書館のサービスを徹底的に見つめなおし、そ の取り組みが利用者にとって、あるいはそのコミュニティにとってどういった 好影響をもたらすのかを考えてみることだ。先の3.のところで「選ぶ人」を整理 したが、実はそこにもう一つ追加することができる項目がある。それはその図 書館や図書館的活動を、普段から使っている「利用者」の存在である。「どうすれ ば大賞が取れるのか?」を考えたいならば、図書館や図書館的活動が主体となり、 そのコミュニティを利用者とともに魅力的な場として地道に育てていくしかな いだろう。
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    048 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 E . 課題・展望 1. Library of the Yearがもたらす好循環 Library of the Yearは図書館界に関わる賞だが、「図書館的活動」も選考の対象 になっていることからも、単に建物を有する図書館のみが選ばれるわけではない。 歴代のLibrary of the Yearを振り返ってみたとき、もっとも広い意味で図書館的 活動を評価したのは、第5回(2010年)のカーリルと、第7回(2012年)のビブリ オバトルだろう。両サービスを生み出した受賞機関はともにLibrary of the Year をきっかけとして広く図書館界に認識されることになった。その後の飛躍的な活 動の拡張にもLibrary of the Yearが影響を与えているものと考えられる。 カーリルについては「カーリルアカデミア★10 」「カーリルローカル★11 」「カー リルレシピ★12 」「カーリルタッチ★13 」「カーリル図書館API★14 」などの展開を繰り 広げており、図書館界における情報検索について、さまざまな提案を出し続けて いる。 また、ビブリオバトルがLibrary of the Year 2012の大賞を得たことについては、 筆者自身がビブリオバトル普及委員会の関係者の一人として、全国的な普及活動 に大きな力を得たことを強く感じている。現在、ビブリオバトルは図書館界だけ ではなく、学校教育や地域のコミュニティ活動の一つとしても大きな広がりが出 てきている。2012年のタイミングで高く評価を得たことは、受賞した側のビブ リオバトルにとっても、「今後の公共図書館のあり方を示唆する」ことを強く意識 しているLibrary of the Yearにとっても、両者にとって良い結果になったのでは ないかと思う。 2.「良い図書館」を「良い」と言い続ける未来のこと 前述した氏原氏は、Library of the Yearの意義について、以下のように述べて いる★15 。 ①「良い図書館を良いと言う」ことで先進的な取り組みを知らしめ、図書館に
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    049ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 関わる人たちが真似るためのきっかけを提供すること。 ②知識の収集、保存、公開のノウハウを共有し、それらを資源として再活用 し、知識の再生産を促していくこと。 ③本に限定されない知識の全体性を捉え、知識の生産と発信を行って公にし ていくこと。 また、田村氏はLibrary of the Yearの意義について、以下のようにもまとめて いる★16 。 図書館に対する賞は、「学習へのアクセス賞」(ビル・アンド・メリンダ・ ゲイツ財団が授与する賞で、対象は情報への自由で平等なアクセスを実現す るための活動を行っている図書館など)のように、賞金が図書館振興にとっ て無視できないものとなることもあれば、顕著な実績の承認、有識者による 優秀性の評価、図書館を外部にPRする絶好の機会、といったさまざまな効 果を持つこともできる。賞の持つ意義を理解し、活かす知恵と工夫があれば、 こうした賞は図書館界の発展にとって効果的な手段となるに違いない。 カーリルのフライヤーより
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    050 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 上記のような二人の意見、また、関係者のインタビュー記録を踏まえながら、 Library of the Yearがもたらすものをまとめてみると、以下のようになるだろう。 ①外部評価による事業の承認をする。 ②外部評価による優秀性の評価をする。 ③「良い」取り組みを言語化する。 ④「良い」図書館の存在を公に周知する。 ⑤人々の知識の再生産を促す。 ⑥図書館活動におけるノウハウを共有する。 ⑦図書館のPR活動に寄与する。 ⑧人々に「良い」図書館を探す動機づけを促す。 ⑨「良い」図書館を目指すきっかけを与える。 ⑩「良い」図書館について考えるきっかけを与える。 Library of the Yearという活動の成果は、現実的にはそれほど大きなインパク トはないかもしれない。しかし、10年間もの時間をかけて継続的に行ってきた 評価活動は、「変わり続ける図書館」についての視点を提示してきたことは間違い ない。 また、「選考過程が不透明である」といった批判も寄せられているようだが、 Library of the Yearはもともと仲間内で好き勝手に楽しんでいたものから始まり、 その規模が若干大きなものへと変わってきた経緯がある。批判の声が多くなって いるということは、それだけLibrary of the Yearに期待されるものも大きくなっ てきたということでもあるだろう。それでも初期の頃は「大賞になるのが公立図 書館ばかりでつまらない★17 」と言われながら、かといって公立図書館以外のとこ ろを選出すると「図書館以外の目立つものに飛びつく傾向がある★18 」と批判され たりもしてきており、運営する側も判断に迷う部分もあっただろう。 だがこれは結局のところ、みんながそれぞれ「自分だったらここの図書館を選 ぶのに!」という強い思いを何かしら持っているということだろう。多様な図書 館(や図書館的活動)があり、それらの良いところを照らし合わせ、「一番良かっ た」というところに票を入れることができる。「良い図書館」を選ぶという土壌が 育っていることは、とてもすばらしい文化であるようにも思える。 たとえばビブリオバトルのルールを参考にし、オススメの図書館を紹介する
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    051ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 「ビブリオテーク・バトル」というものが既に行われている事例があるように、「良 い図書館」を「良い」と言うことは実は誰にでも気軽にできることでもある★19、20 。 Library of the Yearのように公の賞として形づくるかは別としても、「図書館の面 白さについて自由に語る」という文化は、もっと世の中に広まってもいいのかも しれない。「うまく言葉にできないんだけど、あの図書館はなんだか最近すごく いいんだよね」というような場面で、Library of the Yearは「大賞を目指す」という 過程を大事にすることで、その図書館の良さを「うまく言葉にする」ことを目指し てきた仕組みだったようにも思う。 ビブリオバトルはゲームという形式を取りながら、「面白い本」をシンプルに「面 白い」と話題にすることを促す仕組みだが、Library of the Yearは「良い図書館」を シンプルに「良い」と言い続ける仕組みのように思える。ビブリオバトルは「書評」 という行為を身近なものへと変えてきた。それと同様に、この10年間でLibrary of the Yearは、「図書館評」を身近なものへと変えてきている。「図書館について 語る」という行為がもっと世の中に広まっていけば、そこに新しい図書館のあり 方が見えてくるように思う。 「今後の公共図書館のあり方を示唆する」ものはいったいどこにあるのか。田村 氏は「賞の持つ意義を理解し、活かす知恵と工夫があれば」図書館界の発展にも効 果的だと述べている★21 。 つまり私たちに求められているのは、Library of the Yearが提示したものを活 かすための「知恵と工夫」なわけで、それは毎年のLibrary of the Yearが終了した 後に、私たちみんなに突きつけられた宿題だったわけである。図書館職員と図書 館利用者が一緒になり、私たちみんなが「知恵と工夫」について話し合いながら適 切な言葉を探り、これから先の未来の図書館のことを話題にしていけたらどうな るだろうか。おそらく図書館という存在がますます楽しい場所になっていくに違 いない。 「今後の公共図書館のあり方を示唆する」活動のその先にある「知恵と工夫」には、 正解と呼べるものはないだろう。そこに必要となるのは、「正しい」でも「一番」で もなく、シンプルに「良い」と言うことであり、「良い」と呼べるものを探すことだ。 それについては、これから先の図書館に関わっていく私たち一人ひとりが考え続 け、探し続けなければならないことだろう。「良い」と呼べるような図書館活動の ヒントは、私たちの身近なところでも旅先でも見つけることができるはずである。
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    052 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 3. 未来につながる「良い図書館」 Library of the Year 2015は、くまもと森都心プラザ図書館、塩尻市立図書館/ えんぱーく、多治見市図書館、B&Bの4機関が優秀賞を受賞し、2015年11月12 日に行われた最終選考会でプレゼンが行われた。塩尻市立図書館/えんぱーくと 多治見市図書館の2館がそれぞれ3票ずつ獲得し、最終的に会場票を獲得してい た多治見市図書館が大賞に選ばれるという結果になった。 多治見市図書館はその受賞理由のなかでも、そしてプレゼンターを務めた小嶋 智美さんのスライドのなかでも、「司書が足で稼ぐ」というキーワードが大きく 注目された★22、23 。多治見市図書館の熊谷雅子館長は今回の大賞受賞を振り返り、 次のようなメッセージを筆者宛に寄せてくださった。転載の許可をいただいたの で、本稿の締めとして以下にご紹介したいと思う。 愛知川図書館が受賞された翌年に見学に行って、「足で稼ぐ」ということを 当時の渡部館長から直接お話しいただきました。ちょうど月末頃に来館され る予定だそうですので、今回の受賞をご報告できることが嬉しいです。 Library of the Yearの大賞・優秀賞を受賞した機関の関係者が、どのようなこ とを考えながら日々の仕事をされてきたのかは外部の人間にはわからないことも 多い。受賞機関を評価するポイントは、第一次選考から最終選考会を通じて言語 化されてはいるが、それはあくまで外部から見た「良い」取り組みでしかない。そ こからさらにもう一歩踏み込み、受賞機関の関係者に公にしてもらいたいのは、 「自分たちの取り組みがどこから影響を受けてきたのか」というような「良い」取り 組みの系譜である。 前述したとおり、第8回(2013年)の審査員を務めた秋田県立図書館の山崎博 樹氏は、審査基準として「真似ることができるものであること」を掲げていた★24 。 「良い」図書館サービスは真似ができるというのは確かにそのとおりだろう。しか し、真似をすることができるのは目に見える具体的な取り組みだけではなく、図 書館サービスを展開するに際しての心構えや考え方も含まれる。2015年に注目 された「足で稼ぐ」というキーワードは、実は2008年の時点で愛知川図書館から 多治見市図書館に伝わっていたものであり、その後の数年間のなかで、多治見市 図書館の地道で着実な活動を通して大きく育まれ、今日へとつながってきたもの
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    053ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Yearの軌跡とこれからの図書館 である。目に見えるものだけではなく、限られた視察の機会から目に見えないも のをいかにして吸収してくるのか。Library of the Yearの大賞・優秀賞機関に学 ぶべきところは、このような図書館活動の基本的な理念の部分ではないだろうか。 Library of the Yearは10回目の開催をもって一旦休止となった。しかし、私た ちはこれからも未来につながるような「良い図書館」を社会の中でつくらなければ ならないし、そのヒントを探し続けなければならない。図書館活動の表面的な部 分を真似するだけではなく、根源となる理念の部分が真似をされ、さまざまな図 書館へと広がっていくことを期待しつつ、次の時代のLibrary of the Yearが登場 している世の中を夢見てみたい。 そして、もしそのような次の動きが現実のものとなるようならば、そのときは ぜひあなたが見つけた「良い図書館」をあなた自身に語ってもらいたいと思うし、 そのことをみんなにも伝えてもらいたいとも思う。私たち一人ひとりが「良い図 書館」について語ってみることで、その世界を少しずつでも変えていけることは、 この10年間のLibrary of the Yearの活動の蓄積が教えてくれているはずである。 ★1 三重県立図書館「明日の県立図書館〜三重県立図書館改革実行計画〜」,http://www.library.pref.mie.lg.jp/info/ kenritsu/asu.htm ★2 「島まるごと図書館構想」とは、“図書館のない島”というハンディキャップを逆に活かし、中央図書館と島の学校 (保育園〜高校)を中心に地区公民館や港、診療所などの人が集まる場所を「図書分館」と位置づけ、それらをネット ワーク化することで、島全体を一つの『図書館』とする構想のこと。 ★3 国立国会図書館「【イベント】「しまとしょサミット2015 in 海士町」開催(4月12日、島根県海士町)」『カレントアウェ アネス・ポータル』2015-02-24.http://current.ndl.go.jp/node/28044 ★4 「ししょまろはんラボ」http://libmaro.kyoto.jp/ ★5 選考条件の3つ目に「最近の1 ~ 3年間程度の活動を評価対象期間とする」とあるが、カーリルはサービスをリリー スしてから即座に候補に取り上げられ、その年のうちにLibrary of the Year 2010の大賞を取ることになった。 ★6 田村俊作「Library of the Year:良い図書館を良いと言う」『カレントアウェアネス』No.297,2008-09.http:// current.ndl.go.jp/ca1669 ★7 ただし、実態としては「最初に選考委員から出たすべてが11機関」ということで、第1回目はリストに上げられたす べての機関がその後の「第一次選考通過」と同じ扱いになっていたという事情がある。ここでは便宜上「第一次選考 通過」としたが、現在ほどにシステム化された形式にはなっていたなかった草創期ならではの選考の流れと言える。
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    054 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Yearの軌跡とこれからの図書館 ★8 福林靖博「Library of the Year 2012最終選考会が終了」『Traveling LIBRARIAN-旅する図書館』2012-11-20.http:// d.hatena.ne.jp/yashimaru/20121120 ★9 平 賀 研 也「Library of the Year 2014 が 投 げ か け た も の 」2014-11-08.https://www.facebook.com/kenya.hiraga/ posts/740269646051744 ★10 カーリル「大学図書館対応『カーリル・アカデミア』スタート!」2010-09-10.http://blog.calil.jp/2010/09/blog- post_09.html ★11 カーリル「「カーリルローカル」をリリース。図書館検索を変えていきます。もう一度。」2011-02-01.http://blog. calil.jp/2011/02/blog-post.html ★12 カーリル「新機能「レシピ」を開始しました」2010-07-06.http://blog.calil.jp/2010/07/blog-post.html ★13 国立国会図書館「本棚とウェブをスマートフォンの“タッチ”でつなげる新サービス「カーリルタッチ」が開始」『カ レントアウェアネス・ポータル』2102-11-12.http://current.ndl.go.jp/node/22297 ★14 カーリル「図書館API仕様書」https://calil.jp/doc/api_ref.html ★15 氏 原 茂 将「Library of the Year 2013 が 投 げ か け る ヒ ン ト 」『 マ ガ ジ ン 航 』2013-11-25.http://magazine-k. jp/2013/11/25/library-of-the-year-2013/ ★16 田村俊作「Library of the Year:良い図書館を良いと言う」『カレントアウェアネス』No.297,2008-09.http:// current.ndl.go.jp/ca1669 ★17 福林靖博「勝手に総括する"Library of the Year 2006-2009"」『Traveling LIBRARIAN-旅する図書館屋』2009-12-09. http://d.hatena.ne.jp/yashimaru/20091209 ★18 福林靖博「Library of the Year 2012 最終選考会が終了」『Traveling LIBRARIAN -旅する図書館屋』2009-11-20. http://d.hatena.ne.jp/yashimaru/20121120 ★19 明治大学和泉図書館「北欧の図書館に行ってみたくなる話(行ってみたくなる図書館シリーズ No.1)」2014-03-06 ★20 室 蘭 工 業 大 学 附 属 図 書 館「 ビ ブ リ オ テ ー ク バ ト ル 」2015-01-23.https://www.facebook.com/MuroranIT.lib/ posts/800493100031040 ★21 田村俊作「Library of the Year:良い図書館を良いと言う」『カレントアウェアネス』No.297,2008-09.http:// current.ndl.go.jp/ca1669 ★22 知的資源イニシアティブ「Library of the Year 2015」http://www.iri-net.org/loy/loy2015.html ★23 小嶋智美「多治見市図書館のご紹介:あなたも足で稼いでみよう」2015-11-12.http://www.slideshare.net/ satomikojima750/library-of-the-year-20151720151112 ★24 氏 原 茂 将「Library of the Year 2013 が 投 げ か け る ヒ ン ト 」『 マ ガ ジ ン 航 』2013-11-25.http://magazine-k. jp/2013/11/25/library-of-the-year-2013/
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    Library of theYear10年の記録  今回の総力特集にあたり、過去の Library of the Year の実施状況についての記 録と、Library of the Year の候補を含めたすべての受賞機関に向けられた講評を、 主催である NPO 法人 知的資源イニシアティブ(IRI)の全面協力により集約した。  論考の分析にもあるように、Library of the Year は単に一等賞を決めるためだけ の賞ではなく、その時代の流れとともに変化する「良い図書館」とは何かを象徴す る一つの指標だととらえる。その中にはずっと変わらないこともあるかもしれな いが、これらの記録から時代の変遷を読み解き、これからの新しい未来の図書館を 探る材料になれば幸いである。                 ふじたまさえ
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    056 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 回 年 (総合展) 主催/ 企画運営 第一次選考: 選考1/選考2 最終選考 優秀賞♯1 プレゼンター 優秀賞♯2 プレゼンター 1 2006年 (第8回) IRI/IRI 2015.7.11/ - 2015.11.20 鳥取県立図書館/ 田村俊作 アカデミーヒルズ 六本木ライブラリー / 柳与志夫 2 2007年 (第9回) IRI/IRI 2015.7.13/ - 2015.11.9 矢祭もったいない図書館/ 柳与志夫 愛荘町立愛知川図書館/ 大串夏身 3 2008年 (第10回) IRI/IRI 2015.6.24/ - 2015.11.26 恵庭市立図書館/ 大串夏身・福林靖博 旅する絵本カーニバル/ 村井良子 4 2009年 (第11回) IRI/IRI 2015.6.25/ 2015.9.8 2015.11.12 渋沢栄一記念財団実業史 研究情報センター / 岡本真 大阪市立中央図書館/ 糸賀雅児 5 2010年 (第12回) 総合展 運営委員会 /IRI 2015.6.29 - 2015.11.26 カーリル/ 内沼晋太郎 京都国際 マンガミュージアム/ 岡本明 6 2011年 (第13回) 総合展 運営委員会 /IRI 2015.6.7/ - 2015.11.11 小布施町立図書館/ 大串夏身 東近江市立図書館/ 岡野裕行 7 2012年 (第14回) 総合展 運営委員会 /IRI 2015.6.14/ - 2015.11.20 ビブリオバトル/ 岡野裕行 saveMLAK/ 熊谷慎一郎 8 2013年 (第15回) 総合展 運営委員会 /IRI 2015.6.25/ 2015.9.13 2015.10.29 伊那市立図書館/ 小田光宏 千代田区立日比谷 図書文化館/ 小林麻実 9 2014年 (第16回) 総合展 運営委員会 /IRI 2015.6.20/ - 2015.11.7 京都府立総合資料館/ 阿児雄之 海士町中央図書館/ 天野由貴 10 2015年 (第17回) 総合展 運営委員会 /IRI 2015.6.10/ - 2015.11.12 多治見市図書館/ 小嶋智美 くまもと森都心プラザ図書館 / 澁田勝
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    057ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 優秀賞3機関/ プレゼンター 優秀賞4機関/ プレゼンター 大賞 会場票最多 会場賞 (総合展来場者) 諫早市立たらみ図書館/ 大串夏身 農林水産研究情報総合 センター / 福林靖博 鳥取県立図書館 - - 静岡市立御幸町図書館/ 長谷川豊祐 横芝光町立図書館/ 愛荘町立愛知川 図書館 愛荘町立愛知川 図書館 静岡市立御幸町 図書館 ジュンク堂書店池袋本店/ 柳与志夫 千代田区立千代田図書館/ 宇陀則彦 千代田区立千代田 図書館 旅する絵本 カーニバル - 奈良県立図書情報館/ 宮川陽子 - / - 大阪市立中央図書館 大阪市立中央図書館 - 神戸大学附属図書館 デジタルアーカイブ事業/ 坪井賢一 - / - カーリル カーリル - 住み開き/ 千野信浩 森ビルによる ライブラリー事業/ 満尾哲広 小布施町立図書館 小布施町立図書館 - 三重県立図書館/ 高倉一紀 CiNii/ 野末俊比古 ビブリオバトル CiNii - 長崎市立図書館/ 舟田彰 まち塾@ まちライブラリー / 千野信浩 伊那市立図書館 まち塾@ まちライブラリー - NPO法人情報ステーション 「民間図書館」/ 礒井純充 鯖江市図書館「文化の館」/ 坪内一 京都府立総合資料館 海士町中央図書館 - 塩尻市立図書館/えんぱーく /平賀研也 B&B/仲俣暁生 多治見市図書館 多治見市図書館
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    058 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 回 特別賞 選考1通過 選考委員長 (座長) インター ネット公募 地方協力員 1 - 味の素食の文化センター 芦屋市立図書館 諫早市立たら み図書館 市川市立中央図書館 岡山県立図書館 光町立 図書館 つくばみらい市立図書館 六本木ライブラリー  農林水産研究情報センター OZONE情報バンク 鳥取県立 図書館 田村俊作 - - 2 - 愛知川図書館 矢祭町もったいない図書館 横芝光町立図 書館 上田情報ライブラリー 静岡市立御幸町図書館 田村俊作 - - 3 - 千代田区立図書館 ジュンク堂書店池袋本店 旅する絵本 カーニバル 恵庭市立図書館 長崎市立図書館 大串夏身 - - 4 - 渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター 大阪市立図書 館 奈良県立図書情報館 エル・ライブラリー 岡山県立 図書館 東京女子医科大学病院からだ情報館 糸賀雅児 - ○ 5 置戸町 生涯学習 情報センター 京都国際マンガミュージアム 東近江市立図書館 神戸大 学附属図書館デジタルアーカイブ事業 カーリル ゆうき 図書館 糸賀雅児 ○ ○ 6 - 住み開き 森ビルによるライブラリー事業 小布施町立図 書館 文化学園大学図書館 福井県立図書館 東近江市立 図書館 糸賀雅児 ○ - 7 - ビブリオバトル CiNii 長崎市立図書館 三重県立図書館  saveMLAK 大串夏身 ○ - 8 図書館戦争 まちライブラリー 長崎市立図書館 リブライズ 日比谷 図書館 エルライブラリー 伊那市立伊那図書館 大串夏身 ○ - 9 - 京都府立総合資料館 オガールプロジェクト 海士町中央 図書館 武雄市図書館 福島県立図書館「東日本大震災福島 県復興ライブラリー」と同館職員の活動 鯖江市図書館「文 化の館」 NPO法人情報ステーション「民間図書館」 リブラ イズ 大串夏身 ○ - 10 くまもと森都心プラザ図書館 塩尻市立図書館/えんぱー く 多治見市図書館 千葉大学附属図書館/アカデミック・ リンク・センター B&B オープンデータに関する図書館の 動向 大串夏身 ○ -
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    059ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 審査員 会場票 READYFOR 票 クラウドファン ディング 総合展運営 委補助 最終選考会 入場料 備考 プレゼンターによる互選 500円 プレゼンターによる互選 ○ - - - 500円 パネルを設置し、総合展来 場者に投票してもらい会場 賞を設置 高山正也/小林麻実/ 佐々木秀彦/中谷正人/ 岡本真 ○ - - - 500円 2008年のみ会場票は2票 加算 小林麻実/佐々木秀彦/ 佐藤達生/新谷迪子/ 千野信浩/南亮一 ○ - - - 500円 来場者に抽選で図書カード を進呈 糸賀雅児/佐藤潔/佐藤達生/ 小林麻実/小出いずみ/ 水谷長志 ○ - - 200,000円 - 展示会場にパネル設置 糸賀雅児/新田満夫/ 鳴海雅人/吉本龍司/ 水谷長志/野末俊比古 ○ - - 200,000円 - 大串夏身/安田清晃/村井良 子/林賢紀/小田光宏/ 小林麻実 ○ - - 200,000円 - 大串夏身/山上昌彦/ 猪谷千香/氏原茂将/ 高野明彦/山崎博樹 ○ - 200,000円 - - 大串夏身/松本吉史/ 内沼晋太郎/柴野京子/ 平賀研也 ○ ○ 300,000円 - - 大串夏身/飯川昭弘/岡直樹/ 小野永貴/池谷のぞみ/ 鎌倉幸子 ○ - 250,000円 - -
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    060 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第1回(2006年) 講評 第1回の"Library of the Year 2006"の大賞は、鳥取県立図書館が受賞。県全域 を対象として、学校、企業、公的機関など様々な県内の機関と連携しながら、地 域に関わって活動することにより、地域の役に立つ図書館をめざすというこれか らの図書館のあり方を示した点が評価された。 大賞 ■鳥取県立図書館 ビジネス支援サービスを始めとしためざましいサービス活動を展開するとともに、市町立図書 館および学校図書館との連携により、県全体の図書館サービスのレベルアップに積極的に取り 組んでいる。地域の中で、地域に関わって活動することにより、地域の役に立つ図書館をめざ すというこれからの図書館のあり方を示した点が評価された。 優秀賞 ■諫早市立たらみ図書館 図書館本来の活動と、社会教育的な集会・行事活動がうまく融合し、渾然一体となって、地域 の生活に溶け込んでいるところが一番の推薦理由。秋に訪問した際、図書館の外に干し柿が吊 してあったので尋ねたところ、利用者から「最近の子どもたちは、干し柿のつくり方も知らな い」という声があったので、近所から渋柿を分けてもらい、子どもを集めてつくったとのこと。 こうした小さなイベントを日常的に気軽に行っているところが良い。 ■六本木ライブラリー 「有料であること、会員制であること」は、公共図書館であることと矛盾しないばかりか、ある 程度の質を保証していくためには不可欠の要件のような気がする。図書館が提供するものが必 ずしも資料そのものでなくても、展示などでテーマ性を提供する、あるいは推薦本を通じて会 員相互の交流を図る、ゆったり本を読む、あるいはただぼんやりすることも含めて、ものを考 える(あるいは考えない)空間と時間を提供するという機能を、これからの公立図書館も取り込 んでいく必要があると思った。すべての公共図書館の見本というわけにはいかないが、見習う べき点は多い。
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    061ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 ■農林水産研究情報センター RSSを活用して、各種情報(新着図書情報・ニュース・目次情報など)の発信や他機関の情 報の取り込みを行い、「web2.0 時代」に相応しい図書館サービスを模索している。また、 AGROPEDIA(農学情報資源システム)により、当機関の持つ情報・コンテンツも積極的にイ ンターネットで提供している。 候補 ・味の素食の文化センター 蔵書図書をほとんど開架で利用できるようにしている。利用しやすさ。書誌活動も活発。レファレンス サービスも行っている。特徴としては、ライブラリーを利用しての総合学習のサポートを行っているこ と。グループでの自主学習や修学旅行を兼ねての総合学習での利用もある。 ・芦屋市立図書館 Webページを用いたサービスに力を入れていて、紙の資料とWeb上の資料を組み合わせたハイブリッ ドサービスを明確に意識している。 ・市川市立中央図書館 HPによる「お知らせ」の充実と、「レファレンス事例集」が月報として掲載され、「GIVE UP! 御存じの方は お教え下さい」では利用者との双方向性も志向されている。システム系でない現場の図書館員がつくって いる感じが伝わってくる。また、当局側からの業務委託に対応して、図書館の仕事を説明し、増員を勝ち 取った職員力も素晴らしい。 ・岡山県立図書館 かつてあった場所よりも便利な現在の場所にわざわざ移した。岡山城・後楽園と隣接してそれらとともに 観光コースとして看板が立てられている。また、県庁と道路を隔てて隣同士で、県行政のためのサービス 拠点としても望ましい場所と言えるだろう。路面電車の停車駅から歩いて5分、利用者のアクセスにも優 れていると思う。 ・横芝光町立図書館 図書館経営に対して町の行政としての支援が固いこと、施設面での充実が図られていること、諸サービス がバランスよく実践されていること、HPの充実など情報発信型の図書館として期待できること、職員の 資質が高いものと予測されること。 ・つくばみらい市立図書館 ①「新聞記事にみる伊奈町&つくばエクスプレス&2町村合併」記事目録を制作し、HPで公開、②「つくば エクスプレス&伊奈町行政情報コーナー」の運営など地域資料コレクションの整備充実を図っている。 ・OZONE情報バンク 建築に関する専門図書館として、図書や雑誌のほか、建材や家具などのショールーム機能、コンサルテー ション機能を備えており、様々な手段・メディアにより求める情報を探すことができる。運営は株式会社 リビング・デザインセンター(東京ガスの出資)。
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    062 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 諫早市立たらみ図書館 野外劇場では様々なイベントが行われる。 写真提供=諫早市立たらみ図書館諫早市立たらみ図書館 野外劇場では様々なイベントが行われる。 写真提供=諫早市立たらみ図書館
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    064 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 六本木ライブラリーのマイライブラリーゾーン。 写真提供=六本木ライブラリー
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    066 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第2回(2007年) 講評 第 2 回の "Library of the Year 2007" の大賞は、愛荘町立愛知川図書館が受賞。 図書館員がそれぞれの専門分野を持ち、町づくりに積極的に関わっている点が評 価された。 大賞 ■愛荘町立愛知川図書館 図書館員がそれぞれの専門分野を持ち、町づくりに積極的に関わっている点が評価された。 優秀賞 ■矢祭町もったいない図書館 図蔵書のすべてを寄贈により収集するという手法の独自性と、その実効性が評価された。 ■横芝光町立図書館 インターネットを活用し、資料の利用を掘り起こすとともに、双方向の情報発信を行っている 点が評価された。 ■静岡市立御幸町図書館 立地条件を生かして、ビジネス支援サービスなどを計画的に展開し、基本構想に基づいた運営 を実現している点が評価された。 候補 ・上田情報ライブラリー 長野新幹線上田駅前という抜群の立地条件のもと、平日は20時30分まで開館。市民参加のNPO上田図 書館倶楽部との協働により、暮らしとビジネス支援、千曲川地域文化の創造と発信に力を入れ、各種セミ ナーや文化事業を展開。
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    067ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 静岡市立御幸町図書館 立地条件を生かして、ビジネス支援サービスを展開する。 撮影=岡本真 愛荘町立愛知川図書館館内風景。 写真提供=愛荘町立愛知川図書館
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    068 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第3回(2008年) 講評 第3回"Library of the Year 2008"の大賞は、千代田区立千代田図書館が受賞。 都心型図書館の新しいモデルとなることを意識し、図書館コンシェルジュ、古書 店と連携した展示・販売仲介、電子図書貸出サービスなど数多くの新規サービス を展開し、地域の様々な機関との連携を進めたことが評価された。 大賞 ■千代田区立千代田図書館 指定管理者制度を採用して、22時までの開館やコンシェルジュなど都心型公共図書館の新し い姿を提案している点。地元出版界・古書店・ミュージアムなどとも連携した幅広い活動を展 開している点が評価された。 優秀賞 ■ジュンク堂書店池袋本店 調べものに利用できる十分な「蔵書」があり、本に詳しい、レファレンスサービスのできる社員 を擁して、講演、展示、「想」検索参加などの企画を展開している点が評価された。 ■旅する絵本カーニバル 広域的な巡回図書館活動と美術館など各種機関との連携を通じた幅広い活動によって、子ども や地域を育む「種」となる図書館のあり方を示している点が評価された。 ■恵庭市立図書館 2002 年から始めたブックスタート事業による「子どもが幸福になれる」街づくりを図書館が中 心となって、各世代が関わる全市民的な読書振興活動として進めている点が評価された。 候補 ・長崎市立図書館 民間企業の資金とノウハウを利用するPFI方式で、2008年1月5日に開館。効率的な運営を考慮した設 計によって高いコストパフォーマンスを実現し、入館者は1日平均5,000人を記録する。オーソドック スな図書館サービスを志向し、原爆資料、地域資料や外国語資料の収集に力を注いでいる。これからの大 型公共図書館のモデルとして推薦。
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    069ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 千代田区立千代田図書館の学習コーナー。写真提供=千代田区立千代田図書館 千代田区立千代田図書館 地元出版界・古書店・ミュージアムなどと連携した幅広い活動を展開する。写真提供=千代田区立千代田図書館
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    070 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第4回(2009年) 講評 第4回"Library of the Year 2009"の大賞は、大阪市立中央図書館が受賞。HP が 四ヶ国語でつくられるなど「開かれた図書館」を実践している点、データベースの 数が多く利用が簡単であるなど、図書館でのデータベース利用のモデルを示して いる点が評価された。 大賞 ■大阪市立中央図書館 HPが四ヶ国語でつくられるなど「開かれた図書館」を実践している点、データベースの数が多 く利用が簡単であるなど、図書館でのデータベース利用のモデルを示している点が評価された。 優秀賞 ■奈良県立図書情報館 奈良が持つ豊かな歴史と文化に着目し、伝統文化産業や関連NPOとの連携を進めるなど、従 来の公共図書館サービスを超えた新たな歴史・文化との結びつきを模索し、成功している点が 評価された。 大阪市立中央図書館のデータベース検索コーナー。  写真提供=大阪市立中央図書館
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    071ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 ■渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター 単に資料を収集するだけはなく、研究機能をもつことによって情報・知識の生産を行っている 点、アーカイブ・博物館と連携し、WEB配信を駆使して、図書館の枠を超えた活動をしてい る点が、今後の公共的な図書館のあり方について一つの考え方を示していると評価された。 候補 ・エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館) 年度中の行政による支援打ち切りという苦境にありながら、利用者を支援者へと変え、新たな形の民間公 共の専門図書館として順調に活動している。インターネットを積極的に活用することで、小規模かつ専門 的な図書館であっても、公共的な存在として成り立つ可能性があることを示している。また、ただ図書館 の有効性・有用性を訴えるだけの神学論争に陥ることなく、具体的な施策(ライブラリアンの待遇引き下 げや、一般利用者・支持者からの支援獲得、企業製品の販売促進など)に訴えることで、図書館の存続を 実現したことも評価したい。 ・岡山県立図書館 一般の公共図書館が忌避している映像資料に積極的に取り組んでいること、特に既成の資料を収集するだ けでなく、館内にメディア工房を設置して、各種講座を開催し、県民のなかから映像資料を創出していく ことを支援しようとする姿勢が評価できる。実際に、映像コンテスト「デジタル岡山グランプリ」を主催 し、県民による新しい映像資料の創造・発掘に力を入れ、その成果は「デジタル岡山大百科」に蓄積されて いる。 ・東京女子医科大学病院からだ情報館 看護師と司書がカウンターにおり、医者と会う前に勉強できる。他の病院に比べて規模が大きい。外来患 者、入院患者、外部利用者など、利用者が幅広い。 渋沢栄一記念財団公式サイトより。
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    072 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 大阪市立中央図書館館内風景。 写真提供=大阪市立中央図書館
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    074 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第5回(2010年) 講評 第5回"Library of the Year 2010"の大賞は、カーリルが受賞。全国 5,000館を 超える図書館・図書室蔵書の横断検索サービスとして、従来の図書館系のサイト Web サービスを凌駕している点、図書館界に留まらず大きな話題となった点が 評価された。 大賞 ■カーリル 全国5,000館を超える図書館・図書室蔵書の横断検索サービスとして、従来の図書館系のサイ トWebサービスを凌駕している点、図書館界に留まらず大きな話題となった点が評価された。 https://calil.jp/ 優秀賞 ■京都国際マンガミュージアム 京都市と京都精華大学の官民共同事業モデルとして、立地を活かした観光客もターゲットにし たサービス・イベントを積極的に展開している点、豊富な漫画資料を所蔵して国内の類例機関 の嚆矢となった点が評価された。 歴史や社会・産業などが分野別に理解できる仕立てになっている京都国際マンガミュージアムの展示。 写真提供=京都国際マンガミュージアム
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    075ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 ■神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ事業 国内研究機関有数のデジタルアーカイブ事業として、戦前の新聞記事や震災関係資料などのコ ンテンツが充実している点、教員が作成したデータを、退職後に図書館が引き継いで事業化し ている点などが評価された。 候補 ・東近江市立図書館 「滋賀の図書館」を代表するような図書館だが、今回推薦するのは、市民の自主グループとの協同によっ て、町づくりに図書館が関わろうとしている点。他の図書館にはない点として、取り上げるに値すると考 えた。 ・ゆうき図書館 ウェブを使った情報発信にも力を入れており、かつ2009年頃からそれらのマニュアルを公開するように なり、各館に影響を与えている。 特別賞 ・置戸町生涯学習情報センター 「過疎の町における図書館」のモデルの一つとして、過疎地域自立促進特別措置法における地方債(過疎債) の対象に図書館が含まれるようになったことに貢献したことが評価された。 置戸町生涯学習情報センター館内風景。 写真提供=置戸町生涯学習情報センター
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    076 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 京都国際マンガミュージアム 館内の漫画を屋外に持ち出して、芝生の上で読むことができる。 写真提供=京都国際マンガミュージアム
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    078 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第6回(2011年) 講評 第6回の"Library of the Year 2011"大賞は、小布施町立図書館が受賞。「交流と 創造を楽しむ文化の拠点」として、各種イベントの実施や地元の方100人のイン タビューの電子書籍化を行うなど、小布施文化や地域活性化の拠点としての活動 を進めている点が今後の地域の公共図書館の在り方の参考となる点が評価された。 大賞 ■小布施町立図書館 「交流と創造を楽しむ文化の拠点」として、各種イベントの実施や地元の方100人のインタ ビューの電子書籍化を行うなど、小布施文化や地域活性化の拠点としての活動を進めている点 が、今後の地域の公共図書館の在り方の参考となるとして評価された。 小布施町立図書館館内風景。 撮影=岡本真
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    079ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 優秀賞 ■住み開き 住み開き(すみびらき)とは、大阪と東京で行われている、自宅や事務所などのプライベートな 生活空間を、個人図書館や博物館などセミパブリックとして開放する活動のこと。公からの一 方的な情報提供から市民同士による情報提供への変化の一形態としてこれからの図書館のあり 方参考になる点が評価された。 ■森ビルによるライブラリー事業 私立公共図書館(有料)として、利用者の知的生産活動を促す空間の創出をサービスの明確な目 標として掲げ、公共図書館事業を企業活動の一環として展開し、一時の話題になることなく、 利用者の増加や平河町ライブラリーの開館など継続的な成功を収めている点が評価された。 ■東近江市立図書館 「市民の方が生まれてから亡くなるまで、豊かな生活ができるように支えるのが図書館の使命」 と考え、市民の自主グループと協同し、市民が地域の問題を発見・学習できる環境を整備する ことで、図書館がリーダーシップをとる町づくりを積極的に進めていこうとしている点が評価 された。 候補 ・文化学園大学図書館 服飾関係の膨大かつ貴重なコレクション・資料・映像などを収集、整理し、公開している。この度、図書 館が所蔵する貴重書関係をデジタル化して公開した。学園のコレクション総体の価値を高めるとともに、 世界の関係者が活用できるように、資料のタイトルなどを各国語に翻訳提供している。 ・福井県立図書館 広く話題となった「覚え違いタイトル集」を始め、図書館の日常業務の中から紡ぎ出した知を還元するサー ビス姿勢がハッキリしている。また、最近では公共図書館では初となるFacebookの本格的な利用を開 始するなど、新たな事業領域へのチャレンジもみられる。同時にレファレンス協同データベース事業への 顕著な貢献や、東日本大震災以前から実施していた他地域からのレファレンス対応など、県域を越えた図 書館間協力にも精力的に取り組んでいる。
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    080 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 講評 第7回"Library of the Year 2012"の大賞は、ビブリオバトルが受賞。「人を通じ て本を知る/本を通じて人を知る」というコンセプトを掲げた知的書評合戦とし て、全国大会が行われるほどの盛り上がりを見せており、継続的に行われている こと、各地で開催されていることなども評価された。 大賞 ■ビブリオバトル 発表者による好きな本のプレゼンやディスカッションを行うイベント。「人を通じて本を知る /本を通じて人を知る」というコンセプトを掲げた知的書評合戦として、全国大会が行われる ほどの盛り上がりを見せている。継続的に行われていること、各地で開催されていることなど も評価された。 優秀賞 ■CiNii 大学に限らず極めて広範に利用されるサービスとして、日本における学術コンテンツ発信の 先進事例となっている点が評価された。2011年11月にリニューアルされ、CiNii Articlesと CiNii Booksの2本立て構成になったことを機会とし、今年の候補となった。 ■三重県立図書館 県立図書館のあるべき姿をめざす「明日の県立図書館」をオープンな手法で策定し進めているこ と、旬の企画を率先してプロデュースし、県内各地の公共図書館と共催する形で活動を展開し ていることなど、県立図書館が県内の図書館活動を積極的に推進している点が評価された。 ■saveMLAK 東日本大震災における博物館・美術館(M)、図書館(L)、文書館(A)、公民館(K)についての被 災・救援情報を収集・提供する活動、支援者と受援者をつなぐ中間支援活であるsaveMLAK は、多数の有志の参加により幅広い活動として行われたことが、今後の災害支援の在り方のモ デルになるとして評価された。 http://savemlak.jp/ 第7回(2012年)
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    081ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 候補 ・長崎市立図書館 図書館PFIの5例目であるが、そのなかでは最大規模であり、そのような規模でのPFIの可能性を立証し た。運営にあたって民間事業者からの提案として、自動貸出機、自動閉架書庫、返却本の自動仕分機の導 入など最新の機械化を行った。これによって、本館160万冊、分館・分室60万冊、計220万冊の貸出・ 返却業務の効率化、安定化を果たした。広範な市民サービスを展開しつつ、本館がビジネス街という好立 地にあるため、おしゃれなレストランを含め、利用者の来館時間のピークが12時~ 14時と17時~ 18 時であるなど、本館来館者数が年間100万人を超える新しい都市型図書館の好ましい像を確立した。 三重県立図書館 県立図書館が県内の図書館活動を積極的に推進している点が評価された。 写真提供=三重県立図書館 saveMLAK チラシ
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    082 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第8回(2013年) 講評 第 8 回 "Library of the Year 2013" の大賞は、伊那市立図書館が受賞。iPad/ iPhone アプリケーション「高遠ぶらり」を活用した「街中探索ワークショップ」や、 地域通貨「りぶら」の活用など、図書館というハコや仕組みの枠を超えた新鮮な提 案とその推進により、新しい公共空間としての地域図書館の可能性を広げている 点が評価された。 大賞 ■伊那市立図書館 iPad/iPhone ア プ リ ケーション「高遠ぶら り」を活用した「街中 探索ワークショップ」 や、 地 域 通 貨「 り ぶ ら」の活用など、図書 館というハコや仕組 みの枠を超えた新鮮 な提案とその推進に より、新しい公共空 間としての地域図書 館の可能性を広げて いる点が評価された。 森の中で読書活動を行う伊那市立図書館による「森の図書館」。 写真提供=伊那市立図書館
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    083ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 特別賞 ■図書館戦争 図書館について関心を大いに高めた功績の大きさが評価された。 優秀賞 ■まちライブラリー 「まち」毎に「まちライブラリー」(学びあいの場)を設け、そこで受講者自らが課題を持ち込み、 グループで議論し、「まち」を元気にするプランをつくり、実行していくことを目指した活動。 情報・知識の交換・創造の場を作る取り組みが広がっていることが評価された。 ■長崎市立図書館 地域の課題として「がん情報サービス」を取り上げ、県・市の行政担当部課、医療機関などと協 力して展開してきた事業(がん情報コーナーの設置、レファレンスの充実、がんに関する講演 会など)が、市民はもとより県・市医療機関からも高い評価を得ている点が評価された。 ■千代田区立日比谷図書館 館の目的として掲げた「図書館機能」「ミュージアム機能」「文化活動・交流機能」「アカデミー 機能」という、従来の図書館機能に博物館・学習・交流の機能を統合した複合施設として、そ れぞれの分野で新しい事業・業務展開に意欲的に取り組んでいる点が評価された。 候補 ・リブライズ 2012年に開発・公開された一種の図書館システム。バーコードリーダーでスキャンするだけで、本棚を 公開・共有型の図書館に変える機能を持っている。すでに200以上の「図書館」、4万冊以上の蔵書を生み 出しており、IT業界などからの注目も浴びている。極めて図書館的なシステムであり、図書館というモ チーフを社会に広げており、強く推薦したい。 ・エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館) 以前にも推薦しているが、当時に比べ、1)MLA(Museum, Library, Archive)融合型図書館の実践、2) 民間公共図書館としての公益財団法人化、3)『大阪毎日新聞』記事索引データベースの公開を理由に再度 推したい。図書館の民営化の流れが、指定管理者制度のみの話に流れて多様性がないなか、同館の存在は 「民間公共」の図書館の一つのロールモデルとなっている。
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    084 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第9回(2014年) 講評 第9回"Library of the Year 2014"の大賞は、京都府立総合資料館が受賞。「東寺 百合文書 WEB」は、収録データを CC ライセンスに準拠する「オープンデータ」と し、いわゆる「OpenGLAM」の格好の事例となっている。誰もが自由に利用でき ると明示して提供したこの姿勢が、MLA 機関の指針となっている点が高く評価 された。 大賞 ■京都府立総合資料館 かねてからMLA連携の実践館として各種デジタルアーカイブの構築を進めているが、3月に 公開した「東寺百合文書WEB」は資料価値もさることながら、収録データをCCライセンスに 準拠する「オープンデータ」とし、いわゆる「OpenGLAM」の格好の事例となっている。誰もが 自由に利用できると明示して提供したこの姿勢は、MLA機関の指針となっている点を高く評 価したい。 優秀賞 ■福井県鯖江市図書館「文化の館」 図書館友の会実行委員が自主的に運営する「さばえライブラリーカフェ」は、100回以上の定 期開催の実績を誇る。テーマも高度であり、「市民がつくる図書館」としての面目躍如といえ る。他にも、学校図 書館支援や地場産業 支援の取り組み、県 内初のクラウド型図 書館情報システムの 導入、鯖江市のオー プンデータ政策との 連携、女子高生によ る企画会議の開催な ど、運営・事業面で 話題性と先駆性の高 さが評価された。 鯖江市図書館「文化の館」外観風景。 撮影=岡本真
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    085ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 ■NPO法人情報ステーション「民間図書館」 千葉県船橋市を中心に、商店街の空店舗やマンションの一室などを活用し、地域密着型の小規 模図書館を運営。民間資金を調達し、図書は寄贈を募り、窓口はボランティアで賄っている。 住民同士の交流の場を創出し、地域活性化に寄与。都市型民間図書館の経営モデルとして普及 性が高い。 ■海士町中央図書館 隠岐の離島という地理的ハンディのある過疎の町において、移住者を中心に公民館図書室の設 置、図書館の新設と、島民みんなでつくる新たな形の図書館整備を進めている。「島まるごと 図書館構想」は、地域内での分散型図書館サービスの先駆例でもある。また2013年にはクラ ウドファンディングを利用し、図書館として日本で初めて成功した。過疎の町村の図書館振興 =まちづくり振興のモデルとして、学ぶところが大きい。 候補 ・オガールプロジェクト 公民連携による公益・商業施設の整備事業。3年目を迎え、確実に定着してきており、事業展開も好調 である。図書館などの公益施設とマルシェのような商業施設の融合形態として、また民任せではない公 民連携事業として評価したい。 ・武雄市図書館 民間ノウハウを生かしてまちの活性化=新たな地域価値の創造に意欲的に取り組み、一定の成果を上げて いる。その手法や内容には賛否両論あるが、公共図書館の今後のあり方に一石を投じた点と、社会的な話 題性というインパクトの大きさでは、貢献大といえる。 ・福島県立図書館「東日本大震災福島県復興ライブラリー」と同館職員の活動 候補単なる震災ライブラリーに留まらず、職員が様々な工夫で情報発信に取り組んでいる。解題付きブッ クガイドを継続して発行。また図書館員による被災地での活動を似顔絵と共にポスターで伝える「The Librarians of Fukushima」は国際的な評価も受けており、図書館員の震災復興に向けた熱い想いとエネ ルギーの発露、そして知恵の結晶から、社会的機関としての図書館員が何をなすべきかを考えさせられ る。 ・リブライズ 「すべての本棚を図書館に」というコンセプトのもとに、本を通じた新しいコミュニケーションを生み出す ウェブサービスである。カフェやオフィスなど、街じゅうのさまざまな本棚に図書館のような蔵書・貸出 管理機能を持たせることが可能であり、昨今注目されている「マイクロライブラリー」の普及にも一役買っ ている。身近な本棚を「図書館」として捉えようとする試みと、それを実現可能にするツールの開発・提供 を高く評価。
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    086 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 第10回(2015年) 講評 第 10 回 "Library of the Year 2015" の大賞は、多治見市図書館が受賞。多治 見市図書館は、地域の産業である陶磁器産業への支援をビジネス支援・産業 支援として位置づけコレクションを構築し、資料収集に際しては、積極的に 地域に出て行って住民との交流を通して収集しているという点が評価された。 大賞 ■多治見市図書館 地域の産業に根差した「陶磁器資料コレクション」は、ビジネス支援・産業支援として本来図書 館が取り組むべき課題に明確に向き合っている。特に収集が難しいミュージアムやギャラリー の図録を数千点規模で収集しており、この「司書が足で稼ぐ」収集活動のありようは、他の図書 館にとって極めて示唆的である。 優秀賞 ■くまもと森都心プラザ図書館 熊本駅前のまちづくりの拠点として新都市創出に貢献し、毎年100万名以上の来館を達成し ている点を評価した。一般的なお話会等にとどまらず、図書館活用セミナーや写真展・展示 会、試飲会等、従来の図書館の枠にはまらない事業を展開し、かつ図書館機能と連動させてい ることは、これからの図書館の可能性を打ち出すモデルとなりうる。 ■塩尻市立図書館/えんぱーく 人口6万6000名の町でありながら、開館5年で累計来場者300万名を達成していることは、 地方の小都市においては異例の成果であり評価できる。単なる図書館単独施設ではなく、一体 的な組織運営も含め塩尻を中心とした周辺地域の市民交流機能をあわせ持っていることは、こ れからの時代の地方都市における文化施設のあり方を端的に示している。 ■B&B 2012年に東京・下北沢で開店して以降、従来の書店のあり方(経営、企画)に大きな波紋を投 じており、地方で衰退する「まちの小さな本屋さん」の復興のきざしとも取れる。また、地域コ ミュニティと密接に関わって開催されるイベントは図書館からも注目を集めており、Library of the Yearで評価する意義がある。
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    087ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 候補 ・千葉大学附属図書館/アカデミック・リンク・センター 「考える学生」の創造を目指す千葉大学の新しい学習環境コンセプトとして、施設・サービス・スタッフを 充実させている。アクティブラーニング志向の学習支援環境の実現について、いち早く取り組んで高い完 成度で実現させている点、学術成果物をオープンにしている点を評価した。 ・オープンデータに関する図書館の動向 オープンデータの推進を追い風として、図書館からの貢献や新しい形の利用者支援の可能性が議論されて いる。京都府立図書館の司書による自己学習グループ「ししょまろはん」での活動や、図書館資料を活用し て地域の文化資源を発掘・発信する「WikipediaTown」など、図書館が軸となった取り組みが増えてきた このタイミングで、単独の機関の取り組みはなく総合的な流れとして評価する。 多治見市図書館 地域の産業に根差した「陶磁器資料コレクション」のコーナー。 写真提供=多治見市図書館
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    088 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year10 年の記録 くまもと森都心プラザ図書館の企画展示「本×アート」地域で活動しているアーティストの作品と図書館資料の協同企画。 提供=くまもと森都心プラザ くまもと森都心プラザの3、4Fに入る図書館では、ビジネス支援センターをはじめ、プラザ内の他の部門とも連携した サービスを行っている。 写真提供=くまもと森都心プラザ図書館
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    089ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year10 年の記録 塩尻市立図書館/えんぱーく 毎年行われる「ライブラリージャズコンサート」に合わせて行われたジャズ楽器展の様子。  写真提供=塩尻市立図書館/えんぱーく 塩尻市立図書館/えんぱーく 書館単独施設ではなく、一体的な組織運営も含め塩尻を中心とした周辺地域の市民交流機 能をあわせ持つ。 写真提供=塩尻市立図書館/えんぱーく
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    090 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 第 17 回図書館総合展の ARG ブースでは、< ARG スタジオ 「未来の図書館、はじめません か?」>というテーマで、代表 の岡本真をメインパーソナリ ティとし、多彩なゲストをお迎 えしてトークセッションを開催 しました。そのなかの一つで あった「Library of the Year 2015 直前スペシャルトークセッショ ン」の様子をお伝えします。 2015年11月12日(木)13:00 ~ 14:30 第17回図書館総合展 ARGブース ◎ゲスト(五十音順):  ・伊東直登(塩尻市立図書館/えんぱーく)  ・内沼晋太郎(B&B)  ・河瀬裕子(くまもと森都心プラザ図書館)  ・熊谷雅子(多治見市図書館/ヤマカまなびパーク) ◎MC:  ・岡本真(アカデミック・リソース・ガイド株式会社)  ・仲俣暁生(『マガジン航』編集人) Library of the Year 2015から考える、 未来の図書館 直前スペシャルトークセッション
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    091ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 はじめに 岡本 司会進行を務めます岡本真です。アカデミック・リソース・ガイド株式会 社の代表であり、Library of the Yearの選考委員をしています。ぶっちゃけて言 いますと、塩尻市立図書館、B&B、くまもと森都心プラザ図書館、多治見市図書 館、全部私が推薦させていただきました。このあと15時半から最終選考会なら びに授賞式があるんですけれど、どこが大賞を取ってもまったく異論はありませ ん。「もういいじゃん、全部大賞で!」みたいな(笑)。甲乙付け難いところが4つ もあるというのが、こういう仕事をしてきて、すごく嬉しいことだと思っていま す。 ということで、ご紹介します。私のすぐ隣にいらっしゃるのが……皆さん、い つも読み方がよくわからないとおっしゃるですが、くまもと森 し ん と し ん 都心プラザ図書館 の副館長である河瀬裕子さんです。そのお隣にいらっしゃいますのが、岐阜県の 多治見市図書館の館長である熊谷雅子さんです。今回は4つの施設が受賞してい ますが、公共図書館が3つあります。その3つ目、長野県の塩尻市立図書館の館 長である伊東直登さんです。そして、ARGブースのお向かいのブースとして出展 していただいております、『本の逆襲』(朝日出版社、2013年)などの著者でもあ る下北沢の書店B&Bの経営者、内沼晋太郎さんです。そのお隣にいらっしゃいま すのが、私と一緒に進行役を務めるオンラインマガジン「マガジン航」編集人の仲 俣暁生さんです。 (会場拍手) 岡本 実は一週間くらい前に気づいたんですが、仲俣さんって、B&Bのプレゼン ターだよね、みたいな(苦笑)。 仲俣 そうなんです。このあとの本番で僕はB&Bを応援するので、ちょっと微妙 なんですけども(苦笑)。 岡本 公正を期すために言いますと、仲俣さんは『マガジン航』の編集者としてこ のトークセッションに関心をお持ちなので、今回は取材的なインタビューをして
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    092 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 いただきたいと進行をお願いしました。ちなみに、塩尻市立図書館のプレゼン ターを務める県立長野図書館館長の平賀研也さんもそこにいて……。 仲俣 あ、いらっしゃるんですね(笑)。 岡本 多治見市図書館のプレゼンターを務めるインデペンデント・ライブラリア ンの小嶋智美さんがそこにいると。なので、会場のお二人は、不公正なものを感 じたら遠慮なく「ちょっと待った!」と言ってくださいね(笑)。残念ながら、くま もと森都心プラザ図書館のプレゼンターを務める澁田勝さんがここにいないので すが、いざというときは私がお助けをしますので!(後ほど澁田さんも来場) 河瀬 (笑) 岡本 このセッションは意義があると思っています。なぜならこの後の最終選考 会では、受賞された方々が語らい合う時間がないのです。プレゼンター同士のパ ネルトークは用意しているのですが、時間の関係もありまして、受賞者同士のパ ネルまではできないのです。でもどうせならやはり、受賞者の皆さんに話し合っ ていただいた方がいいな、と。特に下打ち合わせもなくここに臨んでいるので、 私もこの後の展開はまったく分かりません。お互いにdisり合いに発展すると面 白いかな(笑)。「プラザさんは、そうは言ってもあのへんが」とか、ダークホース 的に強そうなB&Bを「選書がぜんぜんなっていないしー」と落とせるだけ落とし た上で公共図書館3館の闘いに持ち込むとか(笑)。しかし、とにかく今回はどこ が受賞してもおかしくないところばかり集まっているので、書店であるとか図書 館であるとか関係なく、本、あるいは情報や知識に関わる者同士、お互いに学び 合って、パワーアップできるトークセッションにしたいと思います。 では、さっそく本編に入っていきましょう。仲俣さんからまずは聞いておきた いことはありますか。 それぞれの施設に行ったことはありますか? 仲俣 お互いの館にそれぞれ行った経験があるのか、それともまだ一度も行った
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    093ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 ことがないのか、相互の関係を知りたいなと思います。内沼さんは行かれたこと がありますか? 内沼 いや、実は恥ずかしながら、うかがったことがないです。 伊東 私は多治見市図書館には何度かお邪魔しているんですけれど、他の2館さ んにはまだ……。 熊谷 私も塩尻市立図書館にしか行ったことがないんですけれど、うちの職員が B&Bさんには視察というか偵察に行ってます。個人的に内沼さんのファンだそう なので、後でサインしてあげてください。 内沼 はい(笑)。 河瀬 恥ずかしながら私も、すみません、どこも行ったことがないんです。 仲俣 では、今回初めて皆さんが一堂に会したわけですね。岡本さんがそもそも このセッションをやろうと思ったのは、図書館の人がしゃべるような機会をつく るというだけでなくて、図書館の人同士を会わせたいということもあったと思う んです。 第17回図書館総合展におけるARGブースで行われた「Library of the Year 2015 直前スペシャルトークセッション」の様子。 左から岡本真、河瀬裕子(くまもと森都心プラザ)、熊谷雅子(多治見市図書館)、伊東直登(塩尻市立図書館/えんぱーく)、 内沼晋太郎(B&B)、仲俣暁生
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    094 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 岡本 はい、それはありますね。私からしたらどの方も魅力的です。私は仕事に おいてもプライベートにおいても、面白い人と人とを引きあわせて何かを起こす プロデューサーだと思うんですね。自分にはそんなに才能があるとは思っていま せんが、人と人とを出会わせて何かを起こすということについては自信がありま す。 図書館と書店の役割は近づいている? 図書館よりも書店に足が向くのはなぜ? 仲俣 僕はB&Bのある東京の下北沢というまちで、お店から徒歩2 ~ 3分くらい のところに住んでいます。そういう、いわば地域のコミュニティとしての、ある いは本のある場所としての「図書館」や「本屋」に個人的に興味があります。内沼さ んはこの3館にはうかがっていないということですが、熊本の本屋さんには行か れたと思うんですよ。本屋には行くけれども図書館に行かなかったのはなぜか、 図書館と本屋の違いや、本屋の視点から図書館はどう見えていて、どんなふうに 感じられるのか、地域性も含めて聞いてみたいです。逆に図書館の方は本屋がど う見えるかということをお話いただけますか。 内沼 確かにおっしゃるように、たとえば僕は熊本だととある書店のコンサル ティングをさせていただいていた時期があって、よくうかがっていたんですが ……。別に図書館を悪く言うわけではないし、僕が書店をやっているから書店を 見に行くというのももちろんあるのですけれど……。有名な書店というのはわり と全国に名が知られていて、書店を巡るということが雑誌の特集になったりもし ています。ある都市に行ったとき、そこに図書館があるという情報を知っていれ ば僕はたぶん行きます。図書館を紹介しない一般のメディアの問題なのか、情報 発信という意味では、ひょっとしたら図書館全体にある問題なのか、というのは 分からないですが。 仲俣 僕も岡本さんと仕事をするようになってから、どこかのまちへ行ったら
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    095ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 「あそこには○○図書館があるから行ってきたら」ということを教えてもらうよう になりました。そういう意味で言うと、図書館側からの情報発信も足りないのか もしれませんが、自分の住んでいるまち以外の図書館について「ここを見に行っ たら」と言ってくれる仲介者というか、ナビゲーターが少ないと思うんです。そ うは言っても、図書館は地元の人のためのものだから、外の人は見に来てくれな くてもいいと図書館の人は思っているのか、それとも地元の人たちへのサービス だけじゃなくて、日本中のどこから来た人に対しても応えていこうという姿勢が あるのでしょうか。 伊東 私自身も行っている回数で考えたら、図書館よりも書店の方が人生のなか では圧倒的に多いんですよね。旅先で図書館に立ち寄るのがあたりまえになった のはこの業界に入ってからです。なんで寄るのかといえば、いろいろな試みや工 夫などが、仕事だから目について分かるようになっちゃったんです。そうなる前 は書店に寄っても、利用者の一人なので、そこの書店が苦しくて頑張っているこ ととかって見えませんでした。店が開いているから行っているだけで、ある日 「閉店しました」と言われたらそれまで、みたいな関係ですから。図書館って面白 いことをいろいろやってるんだなと気づき始めてから、書店でもそれが見えるよ うになって。「苦しいんだぞ」という声も聞こえてくるようになりました。図書館 も言ってみればそれは同じで、自治体のなかで非常に肩身の狭い思いをしていて、 なんとか認知してもらおうと頑張ったりしているんですね。塩尻でも小さな書店 がカフェに挑戦したりしていて……昔では考えられなかったですよね。図書館で 飲食するということも考えられなかったけれど、本屋さんでタダで本を読ませて あげるなんてことも考えられなかった。みんながそういう面白い取り組みをする ようになってきたんだなと思います。そういうことの延長に今日のような学びの 場があって、今は楽しくてしょうがないのです。 熊谷 私もそうですね。図書館よりも書店に行くことが多くて、休みの日は必ず 本屋さんに行きます。学生の頃も海外に行くとやっぱり書店へ行きました。そ の時に思ったのが、海外では本屋さんによってそれぞれ個性があると。イギリ スだとガーデニング専門の店があったりだとか、料理本だけの本屋さんがあった りだとか……そういったところには当たり前のようにカフェコーナーがあって 椅子がありました。四半世紀くらい前のことですけれど。そういった本屋が日本
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    096 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 にもあったらいいなと思っていたらどんどんできてきて、すごく嬉しかったんで す。今でも本屋さんに行くときって、本屋さんの個性を見て、今の気分にあった お店に行きます。今日はこういう本をチェックしたいからあの本屋さんに行くと か、あの書店員さんのあのセレクションの棚が好きだから行くとか、そういう感 じで書店を使い分けています。 地元の方以外へのサービスということで言うと、もちろん地元の人に対しての 発信もやっていますが、特に多治見のコレクションに関しては、全国の陶器に関 心がある人たちに使っていただきたいという思いがあります。実際に県外からも 問合せやレファレンスを受けていて、間接的に資料を提供するだけではなくて、 直接それを見るためにいらっしゃる方もいます。地元の方以外へのサービスは意 識してやっています。 河瀬 くまもと森都心プラザ図書館は、まだできて4年目の若い図書館なんです が、熊本市内を見ると書店がどんどん減っているんですよね。若い図書館とだん だんと店舗が減っていく本屋さんが協力して、結局は読書人口を増やさないと いけないよねということで、ブックイベントを5月に開催しました。県の名前に 「本」が入っているのって、熊本だけなんです。熊を本で挟んで、「本熊本(ぼんく まぼん)」というイベントで、書店さんと私たち図書館が一緒になってカフェメ ニューを出したりだとか、展示をやったりしたので、書店さんとは距離があまり ない関係です。お互いの発行している通信やイベントのチラシを置き合うような、 とても近い距離感です。書店の開催するPOPコンクールにも必ず図書館員が参 加してます。今年は書店の店員さんを差し置いて、すみませんが図書館員が1位 を取ってしまいました。 仲俣 この頃の図書館や書店の利用のされ方を見てみると、図書館はどんどん本 屋に似てきているような気がするし、本屋は図書館に似ていっているような気が しています。買うか借りるかというところを除くと、社会的に求められる機能が 似てきているのかなと思ったりもするんですよ。それと同時に、どうしても違う ところもあるはずなので、そのあたりをうかがいたいと思います。
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    097ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 図書館でも書店でもない第3の施設への挑戦 仲俣 内沼さんは八戸市で、公立というか、市のお金で本屋さんを開く仕事をし ていますよね。 内沼 八戸の話はB&Bとはまた別の仕事ではあるんですが、ご存知ない方もい らっしゃると思うんで説明すると、青森県八戸市が「本のまち八戸」というプロ ジェクト(「本に出会える場の創出」により、「本のまち」として活性化をはかる構 想)のなかで「八戸ブックセンター」という施設をつくるんです。八戸には図書館 はもちろんあるし、市内には書店もあるんですけれど、第3の施設として、本を 販売する行政の施設をつくるんですね。セレクトブックストアを市がやるのだと いうことを市長が選挙公約として当選したのですが、当選してみると、「行政が 書店をやるってどういうことだろう」とあらためて考えるべきことが多くて、ま わりまわって僕のところにお話がきて、一年以上お手伝いしています。来年完成 の予定で、市民の皆さんにご理解いただきながら、地元の書店や図書館とどうい うふうに協働できるかという調整を今やっているところです。 なので、書店と図書館の違いとかもよく考えます。「なんで図書館の充実じゃ なくて、ブックセンターをわざわざつくるんだ」という話も当然出てくるわけで す。同じお金かけて行政がやるんだから、図書館をもっと増やしましょうとか、 建て替えましょうとか、そういうことにお金を使うべきじゃないかという議論も あります。でも、本を借りるということと買うということは、似ていますが違い ます。本、つまり知識や情報が世の中にあまねく、様々な環境にある人たちに とってアクセス可能な場所にある、そういう状況を叶えましょうというのは図書 館の役割のひとつです。そして、書店を支えている出版流通にも、同じ理想が根 本に走っていると思います。でも、インターネットの登場以降、情報のあり方と か、知にアクセスするやり方とかが変わってきていて、書店や図書館の役割が変 わってきています。だからこそ書店の売上が下がったり、図書館もいろいろ工夫 が必要だったりということが起こっているのだと思います。それぞれの役割をも う一回見直すべきときがきているのだろうと。 八戸みたいな比較的大きな都市であっても、書店に行っても手に入らない種の 本があります。社会科学、人文科学、自然科学だとか、文学の本格的なもの、特 に海外文学とか、芸術の本とか、そういうものはほぼ買える状況にないんです。
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    098 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 じゃあそういうものが借りられればいいのかというとそうではなくて、やっぱり それが購入可能な状況で提供されることが必要だと思うんです。たとえば、お金 を出して買うわけですからすごく吟味しますし、買った後なら線を引いてもいい し、人に貸してもいいし、破って壁に貼ってもいいし、自分のものだから何でも できるわけじゃないですか。自分の本棚の端っこにずっとあって、読まなくても 日々の生活のなかで目に入る場所にあることが自分にとってすごく意味のあるこ とだったりもします。買わないとできないことがすごくたくさんあります。そう いうなかで、民間にはできない買える環境をつくるというのは、教育やまちづく りの観点において、一定の公共性があると考えています。書店も図書館も、役割 とか、ビジネスのあり方とかを考え直さなくてはいけない時期なので、どちらで もない第3の施設をつくってみるという……ある意味実験的ではあるんですけど、 行政のやるべきことの先駆的な取り組みとして、やっていけるのではと考えてい ます。たとえば施設の中に読書会だけをやる部屋をつくったりだとか、本を書く 人を増やすために執筆専用のブースをつくったりだとか、いろいろイベントや展 示を打っていったりだとか、書店さんを巻き込んでいったりとか、そんなプラン をいろいろ提案しています。 思うのは、必ずしも大きな施設でなくても、あ、八戸はけっこう小さい施設な んですけど、B&Bも小さい書店なんですけども、まちの人たちが本に関心を持っ てもらうような施設はできるんじゃないかと思います。うちのような規模の店も、 もっと大きい有名な書店も、雑誌で紹介されるときは横並びで同じサイズだった りするわけですよね。そう考えると小さくても影響力を持つことはできるだろう と思っていて、あえてコストをかけず、小さい施設なんだけれども、市民の皆さ んに本に関心を持ってもらうという新しい施設をつくりましょうと。B&Bでやっ ていることがすごく活きていると僕は思います。 仲俣 八戸については内沼さんが代表を務める会社「numabooks」のお仕事なの で、B&Bの活動とは別ということですが、あえてお話しいただきました。公共図 書館でも普通の本屋さんでもない、公共による第3の場所ができることで、書店 も公共図書館も役割が相対化されて明確になっていくのではと思います。
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    099ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 図書館と書店が似てしまうのはまずい? 伊東 仲俣さんが先ほどおっしゃった「図書館が書店に近づいてきている感もあ るし、逆もまたあるような気がする」という捉え方は、認識不足かもしれません が初めて聞きました。確かに塩尻市立図書館は従来の分類法を崩したり、分類法 では離れている棚を近づけたりということをやっていて「本屋さんに近いね」とい う言われ方をされる部分もあります。でも、書店と図書館が近づいていくって、 あんまりいいことじゃないかもしれないなと思いながら聞いていたんです。 図書館が本の貸出に一生懸命になる必要はないと僕は思っています。「公共」と いうのはなんだろうと考えると、たとえば貧困問題など、深刻な問題が起きつつ あるときに、社会的に支えるものの一つがたぶん図書館であろうと。外国で言え ば、言語のわからない移民が市民権を得られるようにサポートできるのが図書館 です。日本はそういう深刻さがないまま何十年もきていますが、高齢化などが進 んでいき、そういう深刻な場面も将来起こりうるとすると、図書館がそれに備え る必要があるのではないか。だとすると、読まれる本ではなくて、いつか必要に なる本をちゃんと揃えて残していくというような役割をきちんと意識しておかな いといけません。人気があって読まれる本をばかりを買って、読まれなくなった ら古本市に出すという書店のような図書館経営は、ちょっと違うだろうという感 じがしています。図書館が書店に近づいているのだとすると、やばいんじゃない のと思ったものですから、話がずれちゃいましたがしゃべらせてもらいました。 仲俣 ありがとうございます。佐賀県武雄市や神奈川県海老名市ではマスコミに 「TUTAYA図書館」などと呼ばれる、本屋があっておしゃれなカフェがあって、本 を「買う」ことも「借りる」こともできる図書館ができました。こうした図書館は、 さきほど内沼さんがおっしゃったのとは別の意味での第3の場所になっています。 しかもそれは利用者に求められているという印象があるんです。それは良いこと なのか、悪いことなのかという本質論がけっこう大事だと思っています。 熊谷 多治見市図書館の場合だと、書店では買えないもの、地元でしか手に入ら ないものを特に意識して収集しています。私たちは直接いろんな所を歩いて、探 して、集めて、コレクションを構築しています。消滅の可能性がある都市の中に 多治見市が入っているんですが、どこにでもあるまちになってしまって、特に多
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    100 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 治見に住むんじゃなくてもいいんじゃないかと地元の人が思っちゃったら、多治 見は終わってしまうと思うんですよ。でも多治見には、誇れる文化もあれば、人 が集まってくる魅力もあります。そういったものをきちんと集めて提供したり、 子どもたちに伝えていったり、資料をきちんと残していったりするのも図書館の 役割だと思います。 魅力的な書店がいっぱいできていますが、私は書店と図書館、両方なくてはだ めだと思っています。それぞれがそれぞれの役割を持ち、良いところを吸収し合 えば、読書人口も増えていくし、そのまちが魅力的になるんじゃないかなと思っ ています。 仲俣 僕は多治見には行ったことがないんですけど、堀江敏幸さんという芥川賞 作家が多治見出身ですよね。彼の作品を読むと、具体的に地名はでてきませんが、 多治見のことをとても大事にしていることがわかります。作家が生まれてくるう えで風土や環境の問題は切り離せません。 河瀬 地域資料の話が今出ましたけれども、実は昨日「地方創生レファレンス大 賞」というのが2階のフォーラム会場でありまして、くまもと森都心プラザ図書 館が賞を頂いたんです。地方に関するレファレンスを受ける時、実は本よりも、 行政が出しているチラシとかパンフレットなど、行政資料がかなり活躍します。 もちろん本でも解決することはありますけれど、そういった行政資料などを蓄積 していくというところに図書館の魅力はあるのではないかなと思います。 プラザ図書館の特色は、図書館のフロア内にビジネス支援センターを併設して いるところです。中小企業診断士とか行政書士、司法書士、そういった資格を 持った方が常駐しているんです。今回レファレンス大賞をいただいた事例も、経 営相談に来られた地元の方に対して、畳み掛けるように課題解決に結びつくよう な資料を提供して生まれたものです。そういうところが、本屋さんとの違いかな というふうに思います。
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    101ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 なぜこの 4 候補が選ばれたのか Library of the Yearは図書館のトレンドを映す鏡 仲俣 たとえば、歴史が長い県立とか市立の中央図書館が担っている、公共図書 館としてのオーソドックスな役割があります。こうした旧来の図書館があってく れるおかげで、新しい期待やミッションなど特別な役割を果たせる、新しいタイ プの公共図書館が存在しうる。でも、そういう区別が図書館の世界の外からはよ くわかりません。○○市立図書館というオーソドックス名前の図書館にも新しい 動きを始めているものがあるのか、とか……。 そのあたりとLibrary of the Yearのノミネートとは何かつながっていますか。 とくに内沼さんや僕のような外部の者に向けて、図書館の全体像を俯瞰する意味 でもお話いただきたいのですが。 岡本 そうですね、私がLibrary of the Yearに関わり始めたのは千代田区立千 代田図書館が受賞した年で、そのときは審査員をさせていただいていました。 Library of the Yearというのはなかなか組織運営が長けていて、まず審査委員、 あるいはプレゼンターを依頼されるんです。そこからだんだん深みにはまって、 「選考委員やりませんか?」という一番大変な仕事が来るんですね。 千代田からここに至るまでを見ると、その時々で時代が求めているものが受賞 しているという感じがします。千代田図書館の時は、図書館ってこういうことが できるんだ! というインパクトがすごくありました。千代田図書館は指定管理 者制度が導入されているんですが、もっとも良い導入の仕方だったと思うんです ね。わかりやすく言えば、なによりも指定管理者に払った金が高かった。これが すごく重要なんです。指定管理者というと、残念ながらほとんどの自治体は、経 費節減としか思っていないんです。「民間に委託して安くなるなんて考える自治 体の人の頭、どうかしてるわ!」っていう話なんですよ、本来。民間がやったら 高くなるに決まっているじゃないですか。そういう意味では時代の先取り感があ りました。また、非常にわかりやすいのが、小布施町立図書館が受賞したときで すね。小布施も私は結構強く推したんですけど、あの時は、「空間を演出してい る図書館」が求められたのだと思います。
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    102 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 図書館法への原点回帰 岡本 ただし、今回に関して言うと、原点回帰なのかなと。それが今のトレンド なんじゃないかという気がします。どこの図書館ももちろん、先進的な部分もた くさんあります。たとえば塩尻であれば、市民交流センター的な機能と一体化し ている。本当にものすごく一体化しているんです。塩尻の場合、難しいのは、行 かないとそれが体感できないんですよ。行くと、とんでもない施設だ、ここはと 痛感します。弊社も今、福島県の須賀川市で新しい施設をつくっているんですけ れど、塩尻はまさにひとつのモデルです。伊東館長にいろいろ教えていただいて いるんですが、われわれができる伊東館長への恩返しとして、塩尻を超えるくら いのことをやらなきゃいけないというプレッシャーがあるんですね。ただ一方で 塩尻の図書館って、蔵書のあり方やサービスのレベルという点においては、今ま で日本の図書館が築き上げてきた文化の上にあると感じます。たとえば、筑摩書 房の創業者・古田晃さんが塩尻出身なので、筑摩書房の本がたくさんあるとか。 熊本もさまざまなイベントを仕掛けて、新しい部分はとてもあります。熊本 が他の2つの図書館とちょっと違うのは、いわゆる中央図書館ではないんですよ。 熊本市の図書館には中央図書館が別にあって、言ってみればひとつの分館なんで す。ただ、これはある意味最近の風潮だなと思うんですけど、中央図書館以外に ちょっと先端的な、比較的ビジネスや産業を意識した図書館は増えてきている。 たとえば札幌市がそういうものをつくろうとされていますね。一方で、くまもと 森都心プラザって、地元の高校生がすごく使っているんですね。事実上、駅直結 みたいなものなので、勉強している子も多いですし、絵本を探している親子連れ もよく見かけますし、そういった基本的なこともしっかりやっているんです。 多治見は、生涯学習施設が一緒になった複合施設です。よかったなと思うのは、 蔵書が評価されたことですね。陶磁器の本を大量に集めてきた。本だけじゃない ですよ、展示会の図録とか、なかなか入手が難しい資料もあって、あと何年かの うちにはたぶん1万点ぐらいになるくらい集めているんです。今は8,000点です よね。これってすごいことです。何がすごいかというと、「地域資料なんて誰が 読むの?」って思われるかもしれないんですけれど、多治見では読まれるんです よ。地元の陶芸作家が図書館に来て勉強されていたり、遠方からいらっしゃった 作家さんが何日も多治見に泊まって研究されていたりするんです。最近の図書館 に求められているトレンドは、課題解決支援であり、産業支援であり、ビジネス
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    103ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 支援ですよね。それを言葉だけじゃなくて、きちんとしたコレクション形成をし てきたからこそそれができているという点がポイントなのだと思います。それっ て実は極めてオーソドックスなことです。 言ってみれば、図書館法に書かれていることをきちんと解釈して、咀嚼して実 現しているのがこの3つの図書館ということです。会場にお越しの図書館の方も 「うちはどうだろう」と、ドキッとするでしょうけれど、図書館法に書かれている ことができていない図書館っていくらでもあるわけですよ。たとえば、図書館法 には、レクリエーションを提供するって書かれています。そこに山中湖情報創造 館の館長、丸山高弘さんがお越しになっていますけれど、丸山さんはたとえば 「図書館でゲームをする日」をやろうと言っています。私は全然やっていいと思 います。でも日本のほとんどの図書館、絶対にゲームとかNGですよね。テレビ ゲームとか、入れちゃえばいいじゃんとか思うのですが。実際、富山駅前のこど も図書館には入っているんです。でも、多くの図書館関係者は「図書館でゲーム はいかがなものか」とか言ってる。実は図書館って、図書館法に書かれているこ とをもっと解釈していけば、オーソドックスなだけでなく、多様なことができる んですよね。そういう点に関していうと、この3つの図書館は図書館法に書かれ ている最低限のことをまず確実にきちんとこなしている。その上に多様な展開が 図られている。そういうところが評価されたというのが、今回のトレンドでしょ う。おそらくひとつには、具体的に言ってしまえば、CCCの一連の図書館旋風に 対して、今やっぱり強烈な市民側の違和感が表明されていると思うんです。その なかで、もうひとつの図書館像として提示されているのが、たぶんこの3つの図 書館なんじゃないかと思います。もちろん、この3つ以外にも、私たちが知らな いすごい図書館はたくさんあると思うのですけれど。 図書館業界の注目する書店 仲俣 B&Bに関してはどういう着眼点で今回推薦されたのでしょうか。 岡本 内沼さんはB&Bを始める前から友達だったので「僕、今度書店やるんです よ」と言われた瞬間、ついに、狂ったかと(笑)。「このご時世になんと無謀なこ とを!」と思ったんですね。正直こんな快進撃になるとは思っていなかったです。
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    104 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 苦労するんじゃないかな、いくら下北沢とはいえ、いや逆に今の下北沢で、果た してどれくらい本を読む人がいるんだろう、買ってくれるんだろうかと思いまし た。結果的には今の大成功があるわけですけれど。 私は図書館で働いている人間ではないのですが、図書館側の目線からいうと、 B&Bには図書館の人間がめちゃくちゃ、視察、見学、買い物に行っている。これ が評価ポイントでした。つまり図書館の人からしても気になる存在であると。図 書館の人たちはたぶん驚くと思うんですよ。「今の時代に書店やるとか、本気!?」 みたいな。でも実際それで人を集めている。つまり本の力をめちゃくちゃ発揮し ている。もちろんBook & Beerなので、Beerの場というのもあると思いますけれ ど。でもB&B って、基本「書店です」って言ってますからね、書店が中心なわけ ですよ。そのなかでBeerだけじゃなくて、多彩なイベントをしかける。だって今、 イベント数は年間何本でしたっけ? 500本くらいでしょ? 365日しかないの に500本っておかしいだろそれ、みたいな。大晦日にトークライブをして、ここ で新年迎えようみたいな企画もやったり。 そういうのは図書館の人たちからしても、近さ……という表現がいいのかどう かはわからないですけれど、たぶん別のレイヤーにいるんだけど、意識はしてお かなきゃいけない、見ておかなきゃいけない相手であると感じているのだと思い ます。そういう認識を、全国区にこれほど強く与えた書店って、今までなかった と思うんですよね。鳥取県の今井書店のような、定評のある地場の書店さんもあ りますし、熊本の長崎書店なんかもそうですけれど、それってあくまでその地域 のローカルな話でした。さらに、B&Bが出店して明らかに成功を収めつつあるな か、地方でも面白いインディーズな書店が次々に立ち上がってきた。多分その辺 が図書館の人間からしても、図書館と書店は違うにせよ、本や情報、知識に関わ る人間として励みになっている。そして自分たちとは別の形で歩んでいるけれ ど、目指しているゴールは一緒であり、圧倒的存在感を放っている。だから私は、 Library of the Yearとしていいじゃんないかなと思いました。B&Bに訪れる図書 館関係者がさらに増えると思いますし、それによってまた図書館が、B&Bから盗 めるものは盗んで、共に栄えていくというふうになればいいなという期待はあり ます。 仲俣 これを聞いて僕もよくわかったし、皆さんもなぜこの4つの施設が集めら れているかというのが明確に見えてきたと思います。
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    105ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 新しいサービスへの挑戦 それぞれの施設の規模は? 仲俣 ここから後は、相互に話をしていただきたいのですが、まずは僕から一つ 質問です。まずは各館の面積と蔵書数を、規模をイメージするために教えていた だけますか。 内沼 B&Bは、平米だと100くらいですね。30坪のお店で、本の量が7000タイ トルくらいです。 伊東 塩尻は、施設面積で3,000平米なんですが、これは閉架書庫もなど含めて です。いわゆるお店みたいな開架スペースでいうと、2,000平米弱くらいだと思 います。そこに出している本は20万冊くらいですね。 熊谷 多治見は、複合施設全体で9270平米です。図書館全体の延床は3,300平 米くらいです。所蔵は今42万冊ぐらいでしょうかね。閉架書庫がもう溢れるく らいまで入っているような状況です。 河瀬 くまもと森都心プラザ図書館も複合施設です。図書館の部分は3階と4階 で2階層になっていて、ざっとですけれども、それぞれ1500平米ずつという感 じです。蔵書は今、25万冊を超えるくらいです。まだ建って4年ですので、閉架 書庫はガラガラです。 内沼 多治見では、地元の書店がなくなりそうだとか、厳しい状況であるとか、 そういうことはありますか。 熊谷 決して良い状態ではないですね。私が図書館に来てから、2店舗はお店を 閉められています。チェーン店のような、量販店に入るようなお店だとか、駅前 には昔ながらのお店もあったりしますけれど、規模を縮小して本店をエキナカに 移し、どちらかというと教科書販売で生計を立てていらっしゃるような状況です。
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    106 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 内沼 そういう書店さんは、図書館と同じように地域の専門書を集めていたりは していなかったんですか。 熊谷 そうですね、ある本屋さんは陶芸の資料をけっこうそろえていて、珍しい ものも持ってらっしゃることが多いので、そこからも購入しているんですが、特 徴がある本屋さんというのは少ないですね。 内沼 古本屋もないんですか。 熊谷 古本屋は、堀江敏幸さんのエッセイにも登場する古本屋さんがあったんで すが、そこもお店をたたまれてしまって、今、市内に古書店はブックオフしかな いです。 内沼 バックグラウンドがある都市なのに、その資料が集まっている場所が図書 館しかないというのは……僕は書店とか古書店とかの良い店があるべきだなと、 お話を伺って思いました。 図書館でもお酒を提供できるか 伊東 本屋と書店が近づくという話は、一方ではよくわかります。場の提供も、 図書館には大切だろうと。たとえば滞在型図書館というのは、塩尻も目指す一 つの方向であるんですけれど、ビールを出すまではさすがにいかないんですね。 Book & Caféというものが出た時に、汚されるという問題があり、どこも躊躇し ていたと思いますが、それでもなんだかんだ言って広まっていき、「おお、いよ いよビールを出す書店も現れたか!」という感じなんですけど……その一線を超 えられないでいる図書館に対して、こう考えたらどう? みたいなアドバイスが あればお願いします。 内沼 「本にビールをこぼされないのか」は、よく聞かれる話です。でも実は、 めったにこぼされません。3年半営業していますが、本がだめになったのは10回 もないくらいです。もちろん、そういうことがあるとうちの店で買い取ります。
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    107ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 B&Bから返ってきた本がビールで濡れていたみたいなことになると、取次とか版 元からの評判も落ちるじゃないですか。ちょっとでも傷になったものに関しては、 基本的にはお店で買い取っています。共有のものである図書館の本と、売り物と して店にある本とはけっこう違って、実は売り物の方が簡単なのかもしれません。 売り物であれば、汚れたら買い取ればいいだけの話なので。 こぼされないのは、空間のつくり方でもあると思うんですね。B&Bはゆったり とした空間で、先ほどの図書館との比較でいっても、30坪100平米の中に7000 タイトルくらいしかないので、あんまりぎっしり詰まっていません。静かな音楽 が流れていて、なんとなく騒いじゃいけない感じ……これも公共図書館だと難し いのかもしれません。ママ向けのイベントもやったりしているんで、そういう ときは子どももいっぱいいるんですが、通常は子どもはあんまり入って来ませ ん。たとえば、ヴィレッジヴァンガードがビールを出したら、もうちょっとこぼ れてしまうとは思うんですね。圧縮された陳列になっていて、空間的にもガチャ ガチャしていることが魅力になっているわけですから。うちはそれとは対照的に、 整然とやっているので、ここで酔っぱらいたいという感じにはならないんですよ ね。もし図書館でビールやワインも出していこうとするなら、空間のつくりかた、 つまり建築や内装、あとは音楽で解決できるのではと思います。 仲俣 公共図書館がカフェを併設している例はありますけれど、公共図書館の中 でお酒を提供してはいけないとう法令はあるんですか。 伊東 法律的な制限はありません。トラブルを避けたいという観点だと思います。 たとえばトラブルが起きると、今日ここにいる人たちはみんなその責任を背負い 込まなくてはいけない立場なので、「だめよ」と言う側になっちゃうんです。でも 利用者目線で見てみれば、貸し出した後は家に帰って、ビールを飲みながら本を 読む人はいくらでもいるし、僕も実はそうなんですよ(笑)。汚して返したことは 一度もありませんが……。「目の前でトラブルが起きるのをいやがっているだけ なんじゃないの」と怒られるかもしれませんけど……それを乗り越えないと場と しての図書館みたいなものは生まれてこないのかなと思ったりはしているんです。
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    108 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 「地酒」という地域資料 仲俣 以前に岡本さんにうかがったことがありますが、日本中の図書館をまわっ て、夜は居酒屋で各地の美味しい酒を飲むというのが楽しみの一つだそうですね。 日本中にはいろいろと美味しい地酒があるんだから、旅先の図書館でちょっと一 杯、そこの地酒が飲めるコーナーがあったら、僕も行きたくなるかもしれません (笑)。これは本当に外からの無責任な意見ですけれども。 岡本 そこの一歩をどう踏み出すかというのはあると思うんです。栃木県に小山 市という自治体がありますよね。つい先週初めて小山市立中央図書館に行きまし た。十年ぶりくらいの再会だったんですけれど、栗原要子(くりはらとしこ)さん という非常に素敵な女性が館長をされています。3月に退職されたので会えない と思っていましたが、彼女の方から「私、再任用されて館長で返り咲いたの!」と 駆け寄ってきてくれて。生涯学習課長までされて、公共図書館の世界に対して非 常に貢献されてきた方なんです。十年前に会ったのはある研究集会で、「小山市 はこれから農業支援、地場産業としての農業の支援に力を入れるんだ」というお 話をされていたんですよね。すごく感心したのは、小山って酒造りが盛んなんで すが、酒瓶が図書館にどんどんどんっと展示されていて、けっこう力が入ってい ました。そういうことをやっている図書館はほかにもいくつかあるんですけれど ……地場産業をきちんと助けていくということを考えたときに、別にこれは酒だ けじゃないですね、いわゆる地産地消について、図書館はもうちょっと力をいれ ていいんじゃないかなという気がします。 たとえば、塩尻もワインがめっちゃ有名なんですよ。塩尻は伊東館長が自らア ピールをするくらいのワイン処なんです。そこまでいったら、図書館に寄ったら 軽く一杯、試飲してみたいというのはあります。熊本も、水がとても美味しいの で酒処だし、サントリーの工場があるんですよね。そういうものをもうちょっと うまく提供していく試みが、次のフェーズであっていいんじゃないかと私は思い ます。 今いろいろな議論があるなかで言うと、公共性の問題ってやっぱりあると思う んですよね。これが武雄市図書館の最大の課題……あるいは武雄には限らないで す。他にもけっこうありますけれど、最大の課題は、地方都市が、都会からお しゃれなものを引っ張ってきて、いくら集客したところで、全部地方のお金が東
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    109ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 京に吸い上げられるだけのモデルになってしまうという。何十年それ繰り返して いるんだ地方都市は、というモデルになっちゃうんですよ。だから地場産業を応 援するということは、別に特定の蔵元さんを支援しているわけではなく、地域経 済をきちんと回していくためであるという公共性は成り立つと思うんですよね。 そういう取組みは段階的に進めていけばいいんじゃないかと思うんです。だから 常設するのが無理だったら、図書館とカフェの特集をLRGでやってみて思った んですけど、ワンタイムだけ、「今日はカフェをやります」みたいな日があるとか、 一年にまず一回だけでもいいからやってみるとか、そういうテストを経ながらで もいいからやってみればいいんじゃないかなと思います。実際に日本では、武蔵 野プレイス、つまり武蔵野市の図書館が酒も出していますけど、少なくとも聞く 限りでは大きなトラブルはないようです。まあ、表向き言えないこともおありだ とは思いますけれど、ほんとに大変なことが起きたらたぶん新聞報道されている ので、少なくとも内部で解決できる範囲までしかないと。もちろんその地域の図 書館は、その地域の人たちのためにあるというのが一義ではありますが、各自治 体がこれほど観光や定住促進に動いているなかにおいて、住むまちを選ぶときに 図書館を見に行くことがデフォルトになっていく、まちを知るためにはまず図書 館に行くというのがデフォルトになる、というのが図書館としたら望ましいです。 そんな時に「これも資料ですから!(トクトクトク……)」なんていうのがちょっ とくらいあってもいいんじゃないですかね。 仲俣 このひとつ前のトークセッションで「図書館100連発ライブ@図書館総合 展」をやったとき、岡本さんの今年一年間の軌跡が日本地図で真っ赤に記されて いました。あれを見て、民俗学者の宮本常一の足跡みたいだなと思ったんですよ。 宮本常一は初めて訪れた場所のことを知るために、まず近くの山を登って俯瞰し たそうです。その地域のいちばん高い山に登ってまちや村を見てみる、そうする と、そこがどういうコミュニティであるかがわかるということを言っている。現 代では山に登って俯瞰しただけではわからないこともあるだろうけれど、その地 域の図書館に行ったら、初めて訪れたまちがどんなところかわかったらいいなと 思います。「ここは酒処なのか」「ここは焼き物のまちだ」と言った具合に、かつ ての国見の場所みたいな役割を地域の図書館が担っていくと、図書館がコミュニ ティの核になれるのではないか。はじめに内沼さんがおっしゃっていたような、 魅力的な「図書館ガイド」の出版物があったらいいし、編集者としてはつくってみ
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    110 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 Library of the Year 2015 から考える、未来の図書館 たいなと思います。 おわりに 仲俣 最後に皆さんからひと言ずつお願いできますか。 河瀬 今回選んでいただいたことがきっかけで、多治見市図書館、塩尻市立図書 館との交換展示に加えていただきました。お互いの地域について、それぞれの場 所で紹介しましょうよという企画です。名前は知っていましたけれど、そこまで お互いの地域のことを知らなかったので、お互いをPRし、情報を得て発信し合 うことができたというのが最大の喜びです。 熊谷 たぶん多治見はこの4つの施設の中で一番知名度の低いところで、来てみ ると普通の図書館だと思います。その普通の図書館が普通のことをやって、きち んと評価されるということが、今回の受賞で、ふだん図書館の仕事をしてらっ しゃる方たちの励みになるといいなと思います。真似できるような簡単なことば かりを発信しているので、ちょっとやってみようかなと、いろんな図書館が元気 になっていったらいいなと思っています。 伊東 先に言われちゃった、という感じなんですけども(笑)。岡本さんがさっき 仰ったように、基本的なところをちゃんと固めてしっかりやっている図書館なの ですよという紹介がすべてだという気がしています。その上でさらに、それぞれ が特徴を出してやっているところを面白く、よくやっていると捉えていただけた んだなと思っております。そんなふうに紹介してもらえただけで今日は満足です。 本当にどうもありがとうございました。 内沼 僕らはB&Bをライブラリーと名乗ったことがなかったので、本当に受賞 してしまっていいんだろうかみたいなところがあったんですけれども……。先ほ ど岡本さんが言ってくださったみたいに、確かに図書館の方がたくさんいらっ しゃっていて、僕がお店にいなかったりしても、図書館の方の名刺が置いてあっ
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    111ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 Libraryof the Year 2015 から考える、未来の図書館 たりとかして、本当に全国から見に来ていただいていてありがたいなと思ってい ます。書店であるとか図書館であるとかに限らず、まちの中に本のある場所が あって、そこで何ができるかというところで評価していただいたのであれば、僕 らも図書館に対してきっと何かできることがあるし、図書館と協働して僕らも学 ばせていただくところもたくさんあると思います。そういう視点をいただけて、 今回は本当にありがたいなと思っております。 仲俣 この後の本番で、この4つの施設が王座をめぐって熱く闘うわけで、僕も いまから緊張していますが、ぜひ引き続き本戦の方も見に来ていただけたらと思 います。 岡本 今日はこの4方が来てくださってよかったです。この4人をつなぐことが できて本当によかったと思っています。ぜひ皆さん、それぞれの施設に行ってみ てください。なんといっても、ご飯が美味しい。そしてお酒も美味しい、人もい い。遊びに行くのにも楽しいと思います。実は来年の7月、図書館総合展の地域 開催を塩尻で行います。そういうタイミングでもよいかと思います。熊本は以前 開催させていただいたんですよね。この流れで行くと次は多治見で誘致! とい う感じですけれど、ぜひそういう場に来ていただければと思います。 この後、最終選考会、授賞式があります。ただ皆さん、決してここは間違えて いただきたくないんです。これは選考委員としてもお願いなんですが、大賞を 取ったところだけがすごいんじゃないんです。もうこの時点でめちゃくちゃすご いんです。われわれ、かなりの数の候補を選考しているんです。そもそも候補に 上がってこないものも見ているわけです。そのなかから多くの方に推されてここ にいるという事自体がすごいんです。運営サイドとして悩んでいるのですが、大 賞ばかりが注目されるというのはおかしなことだなと思っています。どこが大賞 を受賞しても、今回の候補はこの4つだったと、ちゃんと覚えて置いてほしいな と思います。それでは皆さま、長い時間ありがとうございました。
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    112 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 図書館資料の選び方・私論 ~予告編 はじめに 2016年から、本誌に公共図書館での図書選択と蔵書構築について、連載記事 を書かせていただくことになりました。連載を始める前に、予告編をとのお話を いただきましたので、今のところ考えていることを整理してみます。 この図書選択、蔵書構築というテーマは、理論的に構成したり、その妥当性を 評価したりするのが極めて難しいと考えています。と言いますのも、これらの営 みは、図書館実務としては手段でしかありませんので、その先にある目的を含め た複層的な議論にならざるを得ないからです。 図書選択は何のために行うかというと、図書館を構成し、活動を成立させるた めに行うものですから、図書館自体の価値や目的の検討から始めなくてはならな いはずです。 では、図書館の目的とはどのようなものでしょうか。そして、これを具現化さ せる蔵書世界の在りようとその選び方とは、どのような営みでしょうか。 こうしたことを考えてみようというのが、今回の連載の意図です。 折しも、武雄市に始まるいわゆる「ツタヤ図書館★1 」の調達した資料内容を巡っ て様々な議論が生じ、これまで一般紙に取り扱われることのなかった「選書」とい う用語が人口に膾炙するようになりました。また、「にぎわい創出」というまちづ くりの文脈での目的を、図書館によって実現させようという議論も出てきていま す。 思い描く図書館をつくり、運営していくために、どんな資料選びをし、そして 図書館の中核構造とでも言うべき蔵書構成をどのように形づくっていけばいいの か、一年間、お付き合いいただければ幸いです。 連載 図書館資料の選び方・私論 ~予告編 嶋田学(瀬戸内市新図書館開設準備室)
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    113ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 図書館資料の選び方・私論~予告編 1.図書館では、どのようにして本が選ばれているか?  図書館の内側にいない人々にとって、図書館がどのようにして蔵書に加える べき本を選んでいるのか、よく分からないことと思います。武雄市図書館や海老 名市立図書館では、新古書店から大量仕入れされた蔵書の内容について様々な議 論がなされました。なかには、教育長が一冊一冊目を通して承認したもののみ蔵 書とするというような議論もありました。  図書館ではいったい誰が、資料選択とその決定を行い、読書の楽しみ、ある いは市民の知る自由、学習する権利を保障し、その責任を果たしてくれるので しょうか。 ■1-1 資料選定の独立性 日本図書館協会は、「図書館の自由に関する宣言」において、「第1 図書館は 資料収集の自由を有する」という原則により、「外部」からの圧力等の影響を受け ずに、図書館が主体的に資料を選ぶという原則を示しています。また、この宣言 は、「第4 図書館はすべての検閲に反対する」とも述べています。 こうした図書館の自由に関する宣言は、「国民の知る自由を保障するため」に規 定され、これを遵守することを職能団体として宣言しているのであって、「図書 館員の自由」という意味ではありません。 教育委員会制度が改正され、総合教育会議において首長が教育行政について調 整、協議する場が創出されました。あくまで可能性の問題ですが、首長が自身の 政策方針と対立的な趣旨の図書館資料について、たとえそれが市民の要望する本 であっても、開架すべき図書ではないというような関与も起こりえます。 ちなみに、図書館は、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律★2 」により、 独立した教育機関として規定されています 。公立図書館は、いわゆる自治事務 で地方自治体がそれぞれの判断で設置する公共施設です。それと同時に、図書館 法は、図書館を、社会教育法の精神、さらには教育基本法や憲法の精神に基づき、 「国民の教育と文化の発展に寄与することを目的」として設置される教育機関と規 定しています。 図書館が本を選ぶという行為の前提として、まずは、国民の知る権利や学習す る権利が保障されるという大きな価値が担保される運営実態があるかどうかが、 最初に問われることになります。
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    114 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 図書館資料の選び方・私論 ~予告編 ■1-2 出版世界から図書館の蔵書世界へ 年間8万点と言われる書籍出版の中から、図書館が設置されている「土地の事 情及び一般公衆の希望」(図書館法第3条)に沿って、選定、収集し、提供するの が図書館の仕事です。 図書館ではどのように選書が行われているのか、可能な範囲で事例を紹介して みたいと思います。 2.選書をめぐる論争 どのように資料を選ぶべきかという論争は、図書館界という狭い世界の中で、 1970年代から実務者や研究者の間でやり取りされてきました。 提供する資料の価値によって選定し、蔵書を構築すべきだとする「価値論」と、 あくまで利用者からの要求に沿って資料を選択すべきであり、資料そのものの価 値を選定基準とすべきではないとする「要求論」という考え方の間で議論が交わさ れてきたのです。 これらは、バランスの問題であるとする意見や、相互に連関し螺旋状に蔵書内 容が充実していくとする考えが議論されてきた。また、そもそも、どのような図 書館サービスを提供するために、蔵書を構築するのかという、「目的論★3 」と称す る考え方を意識した議論も加わって、現在に至っています。 一般的にはマニアックで些末に映るこれらの議論の諸相と、こうした価値観に よる選書や蔵書構成によって、実際に生じる図書館活動の実態や表象を紹介して みたいと思います。 3.蔵書構成は図書館政策、そして地域政策でもある 選書をめぐる論争を引き継いで、蔵書構成についての私論を展開します。 図書館は、基本的人権を尊重するための、根幹的な公的機関として存在すべき 側面とともに、それぞれの地方自治体の中で、市民がどのような地域政策、つま り「まちづくり」の考え方に基づいて図書館という情報提供機関をどのように活用 していくか、という価値も議論されるべきだと考えています。 限られた財源を、どの程度図書館費に割り当てるのか、そして、図書館費のう ち、どの程度を図書購入費に充てるのか、そして、その図書購入費で、どのよう
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    115ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 図書館資料の選び方・私論~予告編 な分野の本を、どのようなバランスで選定し蔵書とするのか、という選択の問題 は、図書館をどのように活用したいかという「目的論」を問うことになります。 例えば、日々の娯楽、レクリエーション的な読書、あるいは教養を涵養させて くれる人文科学系の本をメインに蔵書を構築して欲しいと願う市民層と、ビジネ ス書や工学系の実用書や、個人では買いにくい高価な健康、医療関連の専門書を 希望する市民層がいた場合、そのバランスをどう保つかという事が課題となりま す。 自然環境を維持しながら、持続可能な観光都市を目指す地域であれば、そうし た関連資料に関心を持つ市民もいるでしょうし、商店街を特色あるブランド商品 とともに特化して商業都市を再生したい地域や、豊かな農産物を第六次産業とし て育成したい地域であれば、そうした仕事に従事する住民の情報ニーズにも答え ることが求められるでしょう。 個人の資料要求が、実は地域政策や課題を背景にしている場合が考えられます。 そうした状況では、潜在的な情報欲求が、具体的な要求として顕在化しない場合 が考えられます。ここに、図書選択の要求論の限界が見え隠れしますがそれはと もかく、資料提供とは、個人へのサービスでありながら、地域課題への応答とい う側面があることを検討してみたいと思います。 4.蔵書づくりのあれこれ 最後に、自身の図書館員としての経験や、視察した各地の図書館で得た知見を もとに、資料選びや蔵書を構築していく事例について紹介したいと思います。 いい図書選択をするためには、当然の事ながら、本についての情報を質、量と もに豊富に持ち合わせていることが問われます。また、いい本とはどのような条 件を備えているべきか、という評価軸をしっかりと持っていることも重要です。 さらには、社会情勢や、立地域の諸事情、市民や利用者のことを知っていること も大切な判断材料と言えるでしょう。 ある分野の素晴らしい本を備えているけれど、利用者の反応が芳しくないとい う図書館の棚があります。それは、市民ニーズとの不調和な場合もあれば、見せ 方の問題(配架の工夫)というケースもあります。さらには、ある種のいい本が選 ばれているのに、一方でその土地のニーズを見つけられず、あるいは見つけるた めに必要な行動をとらずに、あれば利用される本を用意できていない図書館もあ
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    116 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 図書館資料の選び方・私論 ~予告編 ります。 蔵書づくりには、3つの視点が必要だと考えています。それは、「地域社会」、「出 版世界」、「蔵書と利用の相関」という3つの観察眼です。 そうした事柄についても、これまでの経験を踏まえて綴りたいと思います。 なんだか、あたりまえのことばかりで、LRGの読者諸氏の関心に耐えうるか甚 だ不安ではありますが、来年から4回の連載にお付き合いいただければ幸甚に存 じます。 1963年、大阪生まれ。1987年、豊中市立図書館、1998年、滋賀県旧永源寺町で図書館開設準備を経て、 2000年に永源寺町立図書館、2006年から合併後の東近江市立八日市図書館、能登川図書館などでの勤務 後、2011年、瀬戸内市新図書館開設準備担当。2009年から2010年まで、京都学園大学司書課程非常勤講師、 同志社大学政策学部嘱託講師を兼業。2008年、政策科学修士(同志社大学)。 嶋田学(しまだ・まなぶ) ★1 「蔦屋書店」を展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)が、指定管理者となっ て運営している図書館を総称して「ツタヤ図書館」という呼称が、マスコミ、ネット空間で使用される ようになった。 ★2 地方教育行政の組織及び運営に関する法律   (教育機関の設置)第三十条  地方公共団体は、法律で定めるところにより、学校、図書館、博物館、 公民館その他の教育機関を設置するほか、条例で、教育に関する専門的、技術的事項の研究又は教育 関係職員の研修、保健若しくは福利厚生に関する施設その他の必要な教育機関を設置することができ る。 ★3 米国での図書選択論には「目的論」が明確に浮上するが、日本では必ずしも明確に議論されてはいない。 本編で詳述する。
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    117ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up 「知らなかった、大宅文庫が経営の危機にあることを」――。 2015年8月8日、このような一文から始まる書き込みをFacebookにアップした。 すると瞬く間に「拡散」され、5日後には「いいね!」が497人、「シェア」が276件。 Facebookと連動させているTwitterのほうは、「リツイート」が674件、「お気に 入り」が272件……。正直、驚いた。こんなに話題になるとは思ってもいなかっ た。その一方で、「みんな本当に大宅文庫に関心があるの?」と訝る気持ちも生ま れてきた。 公益財団法人・大宅壮一文庫(以下、大宅文庫)は、東京都世田谷八幡山にある 雑誌専門の私設図書館だ。その名の通り、ノンフィクション作家で評論家の大宅 壮一(1900 〜 1970年)が蒐集した膨大な雑誌資料が元になっている。大宅壮一と いえば「一億総白痴化」や「駅弁大学」「男の顔は履歴書である」といった名言・語 録でも知られているが、「本は読むものではなく、引くものである」という言葉も 残している。事実、大宅の文筆活動は大量の資料に支えられており、終戦後まも なく意識的に本や雑誌を蒐集するようになったという。それらの資料は同業者や 門下生にも開放され、没後の1971年、雑誌専門の私設図書館としてオープンし た。 現在、大宅文庫が収蔵する雑誌は、約1万種類、約76万冊。これほど大量の 雑誌をアーカイブし、一般公開している私設図書館は、国内では例がない。これ に匹敵するのは、国立国会図書館と東京都立多摩図書館くらいだろう。 このような専門性を持った図書館なので、利用者はもっぱら放送・出版などの 私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機 フリー編集者(ときどき書店員)。時事画報社、アスペクト、河出書房新社などを経て独立。現在、 アーリーバード・ブックスが刊行する「後藤明生・電子書籍コレクション」の編集・制作にも携わる。 その他、武田徹『NHK問題 2014年・増補改訂版』『デジタル日本語論』(武田徹アーカイブ)、烏賀 陽弘道『スラップ訴訟とは何か:裁判制度の悪用から言論の自由を守る』(Ugaya Press Internationa) などセルフパブリッシングによる電子書籍の編集・制作も担当。 ツカダ マスヒロ マガジン航Pick Up Vol.3
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    118 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 マガジン航 Pick Up マスコミ関係者か、論文を執筆する大学生や研究者である。出版業界で20年近 く糊口を凌いできた筆者も、これまでに何度も大宅文庫に出向き、資料を検索し ては閲覧を申し込み、山積みにした雑誌のページを繰っては記事をコピーしてき た。○○さんのあの単行本も、△△さんのあの単行本も、「大宅文庫でコピーし た記事から生まれた」と言っても過言ではない。 市区町村の公立図書館、あるいは大学図書館でも、雑誌のバックナンバーを保 管しているところは少ない。長くても2 〜 3年、早いものでは1年も経たずに廃 棄されてしまう。収蔵スペースに限りがあることもさることながら、古くなった 雑誌を閲覧したいという需要があまりないからだろう。そのため、大宅文庫の利 用者は、先に記したような特殊な雑誌資料を探す人々ばかりで、さしたる目的を 持たずにふらっと訪れるような人はいない。 筆者が訝しく思った理由はそこにある。「いいね!」が497人、「シェア」が276人、 「リツイート」が674人、「お気に入り」が272人。このなかで実際に利用したこと がある人は何人いるのだろう……。 国立国会図書館や東京都立多摩図書館に匹敵する数の雑誌をアーカイブし、一般公開する大宅文庫。 撮影=仲俣暁生
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    119ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up バックヤード・ツアーを体験して 冒頭に記した大宅文庫の「経営危機」であるが、それを知ったのは、毎月第2土 曜日に開催されているバックヤード・ツアーに参加したことがきっかけだった。 その日の参加者は5名。まずは2階の閲覧室で大宅文庫の概要や大宅壮一につ いての説明を受け、続いて館内に併設された書庫を案内してもらった。ガイド 役は資料課の黒沢岳さん。書庫の中は、まさに溢れんばかりの雑誌が並んでい た。「週刊現代」や「週刊新潮」など最も利用頻度が高いという週刊誌の創刊号から 最新号、すでに休刊・廃刊となったものの、それぞれの時代を彩った大衆誌や専 門誌、さらには、書店ではなかなか目にすることがない総会屋雑誌や企業PR誌 ……。珍しいものでは、まだ雑誌名すら決まっていなかった「an・an」の創刊準備 号や、終戦後、大宅自身が古書市で競り落とし、発行元の中央公論新社にも残っ ていないのではないかと噂される創刊初期「婦人公論」なども見せていただいた。 そんなビブロフィリア垂涎のお宝を前に欣喜雀躍しながらも、黒沢さんの説明 の節々に混ざる「予算がなくて……」という言葉が気になった。 たとえば、収蔵する約1万種類もの雑誌の中には、創刊号から全ての号がコ ンプリートされていないものもあるという。筆者が「欠落したバックナンバーは、 古本で買い集めたりするんですか?」と問うと、「できればそろえたいのですが、 なかなか予算がなくて……」と黒沢さん。さらには、大宅文庫が所蔵する雑誌の うち誌面の欄外に「誌名・号数・ページ数」が記されていないものは、すべて手作 業でそれを記していくルールになっている。誌面をコピーした際、それが何とい う雑誌の何月号の何ページに掲載されたものか、一目でわかるようになっている のだ。「この作業、結構、時間がかかりますよね?」と問うと、またもや黒沢さん は「この作業も人手と予算が足りなくて、いつまで続けられるか……」と言うの だった。 バックヤード・ツアーの最後に質疑応答の時間が設けられた。いくつかの質問 をした最後に大宅文庫の経営状態についてあらためて訊いてみると、「担当では ないので、きちんとご説明できない部分はありますが、昨年度は4000万円を超 える赤字を計上しました。それについてはホームページでも公開しています」と のこと。あとで知ったのだが、大宅文庫は今年4月、入館料の実質的な値上げを 行っていた。そして、大宅文庫「平成26年(2014年)度正味財産増減計算書 」を見
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    120 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 マガジン航 Pick Up 書庫の中には、すでに休刊・廃刊となったものや、なかなか目にすることがない企業PR誌などもところ狭しと並ぶ。 撮影(上)=仲俣暁生 撮影(下)=ツカダ マスヒロ
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    121ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up ると、当期経常増減額は4361万3580円の赤字……。 大宅文庫は、経営の危機に瀕していた。 利用者減少の背景 今回、バックヤード・ツアーに参加した動機は、大宅文庫がこれまでに蒐集し た貴重な蔵書を見てみたい、その運営システムを知りたい、という好奇心もあっ たが、ここ数年、大宅文庫から足が遠のいていたこともあり、「久しぶりに行っ てみようか」という思いも少なからずあった。 大宅文庫から足が遠のいていたのには、いくつかの理由がある。 第一の理由は、やはりインターネットの影響だろう。これについては説明する までもない。検索サイトにキーワードを入力すれば、わざわざ本・新聞・雑誌と いった印刷物を漁らなくても、だいたいの情報が、しかも無料で入手できる時代 だ。インターネットが普及する前、どうやって調べものをしていたのか、もはや 思い出すことすら難しい。 とはいえ、玉石混交のインターネットでは調べきれないことも多い。本・新 聞・雑誌などの印刷物に掲載された記事も、ネットで閲覧できるものはまだ限ら れているので、現物を入手するしかない。 本へのアプローチは、2000年に「bk1」や「Amazon.co.jp」などのネット書店が登 場したことで一変した。筆者の場合、仕事(本や雑誌の編集)で必要な資料は、以 前は主に公立図書館で借り、買ったほうがいいと思われる本は、都内の大型書 店に電話をして在庫を確認して入手していた。しかし、ネット書店の登場以降、 本の検索も購入も、ほぼそれらで済ませるようになった。新聞記事に関しては、 「G-Search」が提供する「新聞・雑誌記事横断検索」を利用していた。利用料は安 くはないが、図書館で新聞の縮刷版を閲覧するよりも圧倒的に便利だ。このサー ビスでは雑誌の記事検索も可能だが、登録されている雑誌が少ないので、調べも のには物足りない。 では、雑誌の場合はどうしていたか? 大宅文庫、国立国会図書館、都立図書 館(かつては日比谷、中央、多摩の3館があった)、このうちのどこかで探すしか ない。
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    122 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 マガジン航 Pick Up 筆者の場合、5年ほど前までは、大宅文庫をメインで使い、必要に応じて国立 国会図書館と都立図書館を使い分けていた。大宅文庫のほうが、見たい雑誌を請 求し、閉架の書庫から出してきてもらい、閲覧するまでの時間が圧倒的に短かっ たように思う。資料のコピーも同様だ(ただし、実際に時間を計って比べたわけ ではないので、個人的な印象かもしれない)。 加えて、大宅文庫が独自で構築している雑誌記事のデータベース「Web OYA- bunko」がとにかく素晴らしかった。同じキーワードで検索をしても、国立国会 図書館のデータベースではヒットしない記事が、大宅文庫のデータベースでは ヒットするのだ。国立国会図書館では目次に記されているキーワードしかヒット しないが、大宅文庫は目次だけでなく、記事の内容までも吟味して検索キーワー ドのタグ(分類分け)が付けられているのだ(これについては後で詳述する)。 このような理由から、雑誌の閲覧については大宅文庫をメインで使っていたの だが、そのうち、都立図書館を利用する機会が減っていった。2009年7月、日 比谷公園内にあった都立日比谷図書館が東京都から千代田区へ移管され、それ と同時に、都立中央図書館(港区南麻布)の多くの雑誌のバックナンバーも、都 立多摩図書館(立川市)にまとめて収蔵されるようになった。Wikipediaによると、 2009年5月、都立多摩図書館に〈新装開館した「東京マガジンバンク」は、「公立 図書館では最大規模の雑誌の専門サービス」を標榜〉しているのだという。 たしかに雑誌資料は充実しているし、近所にあったらすごく便利だ。筆者と知 己がある編集者やノンフィクション作家の何人かは、ここをメインで使ってい るという。しかし、練馬区在住の筆者には、そこに行くまでが一苦労だった。JR 立川駅の南口から徒歩で20分、バスで10分+徒歩で5分(公式HPより)という立 地の多摩図書館を利用するときは、一日仕事になる覚悟をしなくてはならない。 高まる国立国会図書館の使い勝手 その一方で、国立国会図書館の使い勝手が、年を追うごとに良くなっていった。 2012年1月には、これまで館内でしか利用できなかった「国立国会図書館サーチ」 が一般公開され、インターネットを通じて自宅やオフィスでも蔵書検索ができる ようになった。事前に利用登録をしておけば、記事をコピーして郵送してくれる
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    123ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up サービスも始まった。しかも、費用は実費のみ。コピー代はA4とB4のモノクロ が1枚24円+消費税、発送事務手数料は国内が150円+消費税、国外が300円、 送料は実費である。 一方、「私設図書館」の大宅文庫は、先にも記したように入館料がかかる。現 在、一般の入館料は300円(税込)で、閲覧できる冊数は10冊まで(2015年4月の 値上げ前までは20冊まで閲覧できた)。再入館料100円(税込)を払えば追加で10 冊まで閲覧ができ、1日の閲覧冊数の上限は100冊。コピー代はサイズに関係な くモノクロが1枚52円(税込)だ。学割のサービスもあり、入館料は100円(税込)、 コピー代はモノクロが1枚25円である(年間会員になれば、さらに割引になる)。 つまり、国会図書館よりも大宅文庫のほうが割高なのだ。たとえば、ある作家 の雑誌連載をまとめて単行本にしたいと思い、すべての連載記事をコピーしよう としたら、その枚数が100枚以上になることも珍しくない。国会図書館であれば 24円×100枚=2400円+消費税、大宅文庫だとコピー代が52円×100枚=5200円、 それに入館料と再入館料も加わる。大宅文庫に行くときは、財布に最低1万円は 入っていないと心細かった。 結局、大宅文庫から足が遠のいたのは、この入館料とコピー代の問題が大き かった。以前、頻繁に大宅文庫を利用していた頃も、1 階に設置された「Web OYA-bunko」の端末で検索結果をリストアップし、近所の図書館にもありそうな 雑誌は、そこで閲覧とコピーをする、なんてこともしていた。 現在では、国会図書館や都立図書館でも「Web OYA-bunko」が利用できるとい う。となると、わざわざ大宅文庫まで出かける理由がなくなってしまう。筆者の FacebookやTwitterを「シェア」や「リツイート」した人のなかには、「以前はあれ ほど利用していた大宅文庫なのに、最近はまったく行っていない」という人が何 人かいた。筆者だけではなかったのだ。そりゃあ経営危機にもなるさ……。 大宅文庫に「行く人」と「行かない人」 京王線・八幡山駅で下車し、左手に都立松沢病院の鬱蒼とした木立を眺めなが ら大宅文庫へと向かう。この道を、いつも一人で、しかも、複雑な心理状態で歩 いていた記憶がよみがえる――。
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    124 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 マガジン航 Pick Up サラリーマン編集者をしていた20 〜 30代の頃だ。ある時は、予定していた取 材先だけではページが埋まらず、締め切りが迫るなか、急遽、ネタを探し直さね ばならず焦っていた。またある時は、企画会議の直前だというのに手持ちのネタ がなく、急ごしらえであろうが企画をひねり出さなくてはという不安に押しつぶ されそうになっていた。そして資料を漁り終えると、一目散で編集部に戻らなけ ればならない。街を眺める余裕すらなかった。何度も通った八幡山なのに、自分 はこの街のことをほんとんど知らないことに気がついた。 実を言うと、今回、正式な取材の申し込みをする前、「マガジン航」の編集・発 行人である仲俣暁生さんとの打ち合わせのついでに、あらためて大宅文庫に足を 運んでいた。というのも、仲俣さんは大宅文庫に行ったことがないというのだ。 駆け出しの編集者の頃、情報誌やコンピューター雑誌の仕事が中心だった仲俣さ んには、大宅文庫を特に必要とする機会がなく、そうこうしているうちに「グー グルの時代」が来てしまったのだという。 たしかに、筆者が知るフリーのライターや編集者の先輩の中にも、大宅文庫に 行ったことがないという人が何人かいる。彼らのキャリアを見ると、自社に資料 室を持つ大手出版社や新聞社から独立した人が多い。また、出版社でもテレビの 制作会社でも、「資料探し」は下っ端の仕事。売れっ子の文筆家の中には、担当編 集者や若手のライターに、それを依頼する人もいる。大宅文庫はマスコミ関係者 御用達というイメージが定着しているが、キャリアや立場、仕事内容の違いで、 ずっと縁がなかったという人ももちろんいるのだ。 まずは仲俣さんに、大宅文庫の「底力」を、利用者として体感的に理解してもら わなくてはいけない。打ち合わせの席で、開口一番、そのことを伝えると、仲俣 さんも同じことを考えており、小一時間ほどの打ち合わせの後、早速、大宅文庫 へと向かうことになった。大宅文庫の窮状を、声高に訴えるだけの記事にはした くない。使い勝手に多少の不満はあるが、時代の流れの中で淘汰されてもしかた がないとも思っていない。大宅文庫は、国立国会図書館や東京都立多摩図書館と いった公立の雑誌アーカイブに勝るとも劣らない、「私設」ならではのサービスを 提供している。それを知ってもらいたかった。 大宅文庫の館内は、お盆休みに入る前日だったせいか、それほど混んではい なかった。数日前、雑誌「TOmagazine」のオフィシャルサイト「TOweb」で知った 大宅文庫のバックヤード・ツアーに参加したときも、土曜日の午前中だったせ
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    125ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up いか、マスコミ関係と思しき利用者はあまり見かけなかった(ちなみに、最新号 の「TOmagazine」[6号]で批評家の大澤聡さんが、大宅文庫についての仔細なレ ポートを寄稿している。そちらもぜひ、ご一読いただきたい)。 今回の訪問は、取材前のロケハンと大宅文庫初体験となる仲俣さんの案内役で はあったが、以前から大宅文庫で調べたい記事があったので一石二鳥だった。調 べたかったのは、小説家・後藤明生(1932 ~ 1999年)に関するものだ。 以前、「マガジン航」でも紹介していただいたが、筆者は後藤明生の長女で著作 権継承者の松崎元子さんと「アーリーバード・ブックス」というレーベルを立ち上 げ、セルフパブリッシングによる電子書籍での復刊を行っている。現在までに 26作品をリリースし、今後もさらに作品数は増える予定だが、その一方で、後 藤明生に関する評論などを集めた書籍を刊行したいと目論んでいた。そのための 資料を探そうと思っていたのだ。 すでに「国立国会図書館サーチ」の検索は済ませており、そこで見つかった書籍 や雑誌記事、大学の発行物に掲載された論文などは、おおむね入手していた。そ のまま国会図書館にオンラインで申し込んでコピーを郵送してもらったものもあ れば、近所の図書館の蔵書をコピーしたものもあり、古書価が安い書籍に関して はAmazon.co.jpのマーケットプレイスで購入していた。 しかし、雑誌の目次に記されたキーワードからしか記事が検索できない「国立 国会図書館サーチ」では、ヒットしない記事も多い。目次だけでなく利用者が必 要と思われるキーワードを独自にタグ付けしてデータベースを構築している大宅 文庫であれば、さらに多くの記事が見つかるはずだ。 Web OYA-bunkoの威力 さっそく受付で入館料を払い、1階に設置されたコンピュータ端末「Web OYA- bunko」で検索すると……。やはり、あった。「中央公論」2014年11月号では、「谷 崎潤一郎賞の50年 歴代受賞者に聞く 私の好きな谷崎賞受賞作品」という記事 の中で、小説家の阿部和重さんが後藤の『吉野太夫』について記していた。また、 評論家の坪内祐三さんが「群像」2012年12月号で、翻訳家の東海晃久さんが「新 潮」2012年11号で、未完のまま長らく単行本化されたなった長編小説『この人
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    126 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 マガジン航 Pick Up を見よ』を書評していた。さらに、「週刊文春」2013年11月21号でライターの永 江朗さんが取り上げてくれたアーリーバード・ブックスの記事、「新潮」2014年 4月号に著作権継承者の松崎さんが寄稿した「後藤明生・電子書籍コレクション」 に関する記事もヒットした。 最も驚いたのは、「ユリイカ」2001年3月号「特集・新しいカフカ」に掲載され た文芸評論家・城殿智行さんの小論だ。当該誌をめくってみると、目次にも記 事の見出しにも「後藤明生」の文字は見当たらない。しかし、記事を読んでみると、 後藤作品におけるカフカの影響を論じたものであることがわかる。目次に記され たキーワードからしか記事が検索できないデータベースでは、絶対に見つからな い原稿だ。 これほど多くの記事が見つかるとは、予想以上だった。隣席に陣取る仲俣さ んに、他の利用者の迷惑にならないよう声をひそめながらも、少し興奮ぎみに 「Web OYA-bunko」の素晴らしさを力説する。単純なキーワードだけで検索する と、ヒットする記事が多すぎて逆に不便なので、検索キーワードの選び方にもセ ンスが必要になるなど、ちょっとしたコツを伝授しながら、それぞれ検索に没頭 した。 筆者が閲覧を申し込んだ雑誌は40冊。手元に届くまでの時間は20分だった。 後日の取材でわかったことだが、閲覧が申し込まれた雑誌を書庫から取り出し て利用者に届けるまで、「20冊で10分」を目標にしているという。そこから、雑 誌のページを繰って、お目当の記事に目を通し、必要なものはコピーを申し込む。 20冊35枚のコピーが手元に届くまでの時間は30分。この早さは、国立国会図書 館を上回るのではなかろうか。 仲俣さんが「このデータベース、オンラインで家でも使えたら便利だよね」と言 うので、待ってましたとばかりに「今年の4月から使えるようになったんですよ」 と説明し、筆者自身もその場で「定額利用サービス」に申し込んだ。 2002 年、これまで大宅文庫に行かなければ利用できなかった「Web OYA- bunko」が、大学や公立の図書館にも提供されるようになった。2013年には、賛 助会費が年間1万円の個人会員も、オンラインで利用できるようになった。ただ し、検索表示料金は1件につき10円。コピーの郵送サービスのほかにファクシ ミリによるオンライン複写サービスもあり、送信資料代は1枚268円、送信手数 料は1件309円。営業日の16時までに申し込めば、当日中に送信してくれる。 がしかし、そこまで急ぐような用事は滅多にないし、料金も高い(ただし、会
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    127ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up 員になれば、大宅文庫に行って資料を閲覧・コピーする際の割引がある)。その ため、地方在住者などからの要望もあり、今年4月からは個人会員にならなく ても「Web OYA-bunko」が利用できる、さきに言及した「定額利用サービス」が始 まった。年間検索料は5400円で、検索表示料金は0円。ファクシミリによるオ ンライン複写のサービスはつかないが、有料でコピーの郵送はしてくれる。しか も、3 ヶ月間は無料のトライアル期間がつく。大宅文庫に足を運ばなくてもホー ムページから申し込みができるので、興味がある方は、ぜひ使い勝手を試してい ただきたい。 「国会図書館のデータベースではヒットしない資料がこれだけ見つかって、し かも月額にすれば450円かあ。近所の図書館にありそうな雑誌はそこでコピーす ればいいんだから、これは便利だし、お得ですね」と仲俣さん。筆者の目論見は 見事に成功した。 経営悪化の背景 前述したように、平成26年(2014年)度、大宅文庫は4361万3580円の赤字を 計上している。平成27年(2015年)度の事業計画でも2490万4202円の赤字が見 込まれている。昨年度、借地だった敷地を購入したことが赤字の原因かと思いき や、平成25年(2013年)度も約3600万円もの赤字を計上しており、それが原因 とも考えにくい。大宅文庫が慢性的な赤字経営になっていることは間違いなさそ Web OYA-bunkoのログイン後の画面 複数の検索方法が可能
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    128 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 マガジン航 Pick Up うだが、その原因は何か? 今後どうやって経営を健全化していくのか? 取材に対応してくださったのは、バックヤードツアーでもお世話になった資料 課の黒沢岳さん。赤字のいちばんの原因は、やはり利用者の減少だった。ピーク 時の2000年前後、1日の利用者は約100人で、多い日の閲覧は1万冊もあったが、 現在は1日に50 ~ 60人、閲覧は2000冊、多い日でも3000 ~ 4000冊とのこと。 さらに、年間契約の法人会員の減少が著しく、それが経営悪化の原因になってい るという。法人会員の多くはマスコミ関連企業だが、出版社はまだしも、放送関 連企業の継続契約が激減しているという。 「テレビの制作会社のADさんらしき人が、資料を調べながらも次から次にケー タイが鳴って、とても忙しそうに働いている姿を見ると、リサーチに時間をかけ る余裕がなくなっていること実感します」と黒沢さん。さらに、「頻繁に利用して くださるライターさんが、『大宅文庫で調べている時間があるなら、もっと早く 原稿を送ってくれ』って言われたそうなんです。その方は『そんな編集部の要望 に応じていたら、誰が書いても一緒の原稿になってしまう。意地でも調べ物には 時間を使う』って言ってくださいましたが……」と話してくれた。 大宅文庫の経営危機は、どんな情報も「ググれば何でも簡単に手に入る」、イン ターネットの影響だけではない。出版社や放送局といったメディア産業のフトコ ロ事情も大きいようだ。つまり、「情報が売り物」のはずのメディア産業が、自ら 発する情報のクオリティを高めるためのコストがかけられなくなった。さらに踏 み込んで言えば、メディア産業そのものが、情報を蔑ろにしていることの表れの ようにも思えてくる。これでは、マスコミが提供する情報も、玉石混交のイン ターネットと同じになりかねない。薄っぺらな情報やネットでも読めるような記 事、読み応えのない記事しか載っていない雑誌なんて、誰が買ってまで読みたい と思うか……。 独特の「棚」配置とオリジナルの「タグ」 大宅文庫の蔵書は、すべて発行元である雑誌社から無料で寄贈されたものだ。 開館以来、それが続いているのも、オピニオン誌から大衆誌、女性ファッション 誌に至るまで、ジャンルを問わず幅広い媒体に執筆してきた大宅壮一の力が大き
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    129ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up い。長年つきあいのある雑誌社は、新雑誌が創刊されたら、何も言わなくても寄 贈してくれるが(だから「an・an」の創刊準備号さえも収蔵されている)、新たな 会社が創刊した雑誌はそうもいかず、大宅文庫に必要と思われるものは、発行元 に寄贈をお願いしているという。ただし、ここ数年は、いわゆる「雑誌不況」の影 響で、寄贈を断られることもあるとのことだ。そればかりか、これまで続けてき た雑誌の寄贈を、献本できる冊数が減ったため中止したいと言ってくる雑誌社も あるという。 相次ぐ増設で迷路状になった書庫 1971年のオープン以降、増え続ける蔵書を収蔵するため、これまでに2度、建 物を増築している。しかし、収蔵スペースは、もはや限界に近い。2012年に公 益社団法人になったとはいえ、「私設」の図書館である大宅文庫には、国立国会図 書館のように収蔵雜誌の誌面を著作権者の許諾なしにデジタルデータに変換する ことができない(もちろん配信等による提供も)。著作権法に抵触するためだ。建 物の老朽化も著しく、昨年度、隣接する借地を購入した理由は、もし他者に売ら れてしまったら、この先、改築・増築することもままならなくなってしまうがた めの苦肉の決断だった。 大宅文庫は、単なる雑誌のアーカイブではない。「本は読むものではなく引く ものだ」という大宅壮一の理念を受け継ぎ、利用者のニーズを第一に考えたサー ビスを提供している。一度でも「Web OYA-bunko」を利用すれば、それは実感で きるはずだ。それだけではない。閲覧カウンターの近くから利用頻度の高い順に 雑誌を収蔵しているからこそ、閲覧を申し込んだ「20冊の雑誌が10分」という驚 くほどの速さで手元に届くのだ。 また、通常の図書館であれば、バックナンバーは何号かをまとめて合本にする が、その合本が貸し出されたら、別の利用者が閲覧できなくなってしまうため、 大宅文庫では基本的に合本にはしない。すでに言及した、誌面の欄外に記された 「誌名・号数・ページ数」もそうだ。これが記されているから、コピーをした記事 の出典が一目でわかる。これらのサービスは「私設の雑誌図書館として、どれも 当然のこと」と黒沢さんは言う。
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    130 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 マガジン航 Pick Up 今回の取材では「Web OYA-bunko」のデータ入力の様子も見せていただいた。 現在、約400種類の雑誌が寄贈され、それを5 ~ 6名の職員が手分けして入力作 業を行っているという。もちろん、すべての作業が人力だ。目次だけを入力する のでも、結構な時間がかかりそうだが、大宅文庫の場合は、記事の中身にも目を 通して、オリジナルのタグを入力していく。「週刊文春」の場合、約70件の記事 のデータを入力するのに、まる1日はかかるという。この作業を、次号が刊行さ れる前に終えなくてはならない。単純な入力作業ではないので、長年の経験や知 識、利用者のニーズを熟知していなければできない。 「私設」アーカイブがもつ「公共性」 最盛期には50人以上いた職員も、昨年度は4人の人員削減を行い、現在はア ルバイトや契約社員なども含め35人(正社員は9人)に減っている。スタッフの 人数が減れば、当然、サービスの低下を招く。大宅文庫の「売り」であるデータ ベースも、入力作業のスタッフ不足で最新号に追いつくのもやっとだという。当 利用の多い週刊誌は、閲覧カウンターに近い一階の書庫に置かれている。 撮影=仲俣暁生
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    131ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up 然、開館以前に大宅壮一が集めた膨大な数の雑誌のデータベース入力は、さらに 作業が滞っている。現在、「Web OYA-bunko」に登録されているのは、大宅文庫 が所蔵する雑誌の約1割とのことである。約76万冊の蔵書も、データベース化 しないと宝の持ち腐れになってしまう。 2020年までに赤字経営から脱却できるよう長期計画を立て、まずは来館者と 「Web OYA-bunko」の利用者を増やすためのPR活動、さらには寄付金も積極的に 募っていく方針だという。黒沢さんは「フィクションにくらべノンフィクション の作家さんは、売れっ子といっても経済的に厳しい状況にあるようなので、なか なか寄付をお願いするのも憚られるのですが」と自嘲気味に言っていたが、そん なことはない。小説家だって、資料を元に書いている人、大宅文庫にお世話に なった人は多いはずだ。 あらためて声を大にして言いたい。大宅文庫はまだまだ現役だ。使い方しだい では、国立国会図書館や都立図書館よりも便利だ。そして何より、「Web OYA- bunko」が継続できなくなったら、大宅文庫のみならず、このデータベースの検 索端末が置かれている他の図書館に収蔵された膨大な雑誌資料さえも、文字通り 「死蔵」となる可能性がある。駆け出しの頃、大宅文庫にお世話になった、あるい は、まだ利用したことがないという出版関係者や文筆家、テレビ、ラジオ、イン ターネットなどのメディア関係者は、まずは八幡山に出かけて、その価値を自分 なりに判断してみてほしい。 もちろん大宅文庫もさらなる自助努力をしなければならないのは当然だが、現 行著作権法のさらなる改正も含めた制度面の見直し議論など、「私設」ならではの サービスを提供してくれる雑誌アーカイブの公共的価値を今後どうしていくか、 出版のみならずメディア産業全体で考えていかなければならない時期にきている。 *本稿は、「マガジン航」で掲載された「私設雑誌アーカイブ「大宅文庫」の危機【前編】(2015年8月27日)、  【後編】(2015年9月10日)を、著者の承諾を得て、本誌用にまとめ直し掲載したものです。 ※編集注  大宅文庫では賛助会員(個人会員、法人会員)を随時募集しているほか、「雑誌図書館とし ての公益目的事業を継続していくため」の寄付金を募集しています。詳しくは以下をご覧 ください。 ■寄付金口座開設とご寄付のお願い  http://www.oya-bunko.or.jp/guide/tabid/72/Default.aspxa
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    132 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 マガジン航 Pick Up 知人の編集者であるツカダ マスヒロさんが、この夏にFacebookで大宅荘一 文庫(以下、大宅文庫)の窮状を伝える書き込みをしているのを見たとき、「ああ、 やっぱり」と思った。大宅文庫はそこまで大変なことになっていたのか、と。 書き込みを見てすぐに「『マガジン航』で取材をしませんか」とツカダさんに声を かけたのも、その前年の 2014年に横浜で行われた図書館総合展の会場での一つ の場面がすぐに思い浮かんだからだ。私はそこで大宅文庫がささやかな展示を しているのを見かけたのだが、あの大宅文庫が? と思うほど小ぢんまりとした ブースで、思わずそこにいた方に「あの有名な大宅文庫ですよね、これは?」と声 をかけてしまったのだった。 「あの有名な」とは言ったものの、30年前に出版業界で仕事を始めて以来、私 は大宅文庫に実際に足を運んだことがなかった。「こういうときは大宅文庫に行 けばいい」という先輩編集者の話は何度も耳にしており、ああ、そういうものな んだなぁと思ってはいたが、実際に必要とする局面に至らなかった。ツカダさん と取材の打ち合わせ時に、それはなぜだろうという話になって、私がとっさに思 いついた理由は、資料収集に対する意識の貧弱さを棚に挙げるならば、こういう ものだった。 1980年代の半ばから、私は編集プロダクションや小さな出版社でサブカル チャー系の情報誌やパソコン雑誌の編集スタッフとして仕事をしていた。いまで は死語になりつつある「情報誌」や「パソコン雑誌」の仕事の共通点は、その時点で はまだ過去のアーカイブが十分ではない、まだ若い分野を扱う雑誌だったという ことだ。 国立国会図書館や大宅文庫へ足を伸ばして過去を掘り返すことよりも、目の前 で日々動いていく現実を追いかけることに懸命だったのである。 1990年代に入ると、一気にコンピューター・ネットワークの時代がやってき た。「パソコン通信」と呼ばれていたものは、いつしか「インターネット」あるいは 「ウェブ」と呼ばれるものに代わり、そこで起きている現象そのものが、私のあら たな仕事のテーマになっていった。大宅文庫を利用する必要は、ますます薄らい だ。もう「大宅文庫へ行け」と私に言ってくれる先輩編集者もいなくなっていた。 私設アーカイブがもつ公共性〜大宅文庫の未来のために 仲俣暁生(「マガジン航」編集人)
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    133ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 マガジン航Pick Up ここまでは、「その頃の大宅文庫には、自分が仕事上で必要とする雑誌のアー カイブはなかった」という話である。 しかし、ときはいまや2016年。大宅文庫には、すでに「インターネット」や 「ウェブ」あるいは「1980年代以後のサブカルチャー」といった、当時は目新し かった事象が、過去の膨大な地層として残されている。 同様の雑誌バックナンバーの多くは、国立国会図書館にも都立多摩図書館にも 置かれているだろう。だが、「雑誌」というメディアを、リアルタイムの現在に奉 仕するものとしてとどめず、過去についての膨大な情報を抱え込んだ地層として 保存し、それらをたくみにインデックス化し、必要に応じて切り出すことで、あ らたな「現在」のために奉仕させるという、大宅荘一のジャーナリスティックな構 想そのものは、役割を終えたどころか、ますます重要な意味をもっているように 私には思える。 いま、国を挙げての「デジタル・アーカイブ」への流れが生まれつつあるなかで、 この偉大な先人が構想した「アーカイブ」が、法制度の合間に落ち込んで、新たな 時代に対応するための身動きがとれなくなっているとしたら、とても惜しいこと だと思う。 大宅文庫のように、民間から生まれながら公共性の高い活動をながく続けてき たアーカイブの精神を21世紀に受け継ぐことができなければ、日本はメディア とジャーナリズムの歴史に、大きな禍根を残すことになるだろう。  私設ライブラリーの電子化に対する法制度上の制約はあるにせよ、大宅文庫が そのサーヴィスをいま以上にデジタル化・ネットワーク化に対応させていくこと は、利用者を増やし、経営を健全化していくためには必要なことだろう。だがそ れ以上に、大宅荘一が当初このアーカイブを「雑草文庫」と名付け、「蔵書は多く の人が共有して利用できるものにしたい」と考えたことの意味を噛みしめるべき ではないかと私は思う。 とはいうものの、私自身も大宅文庫を日常的に使うにはまだ至っていない。だ がそれは、その場までわざわざ足を運ぶ必要があるという、ネット時代に見合わ ない利便性の欠如だけが問題なのか。それとも大宅荘一がジャーナリズムの希望 を託した「雑誌」という情報の束そのものが魅力を失っているのか。そのあたりに ついても今後、「マガジン航」で検証していきたいと考えている。
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    134 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 司書名鑑 No.9 ■イノベーションの本質に気づいた30代 司書じゃないんですけど、登場していいんですか(笑)。おまけに、今は「一度 本から離れよう」なんて図書館の人には言っているので、いいのかなあ。とはい え、僕自身は「本」にはとてもこだわりがあるんですよ、あらかじめ確認しておく と(笑)。それこそ18歳から大学を卒業するくらいまでは、毎日同じ本屋に通っ てすべての本棚をチェックし、週末は神保町の古本屋を隅から隅まで、お店の書 棚全部をまわるというのを日課にしていたくらいです。という本にこだわってき たバックグラウンドがあった上で、今は「あえて」本から離れて考えようと言って いるのですけれどね。 学生時代に学んでいたのは法律で、比較法的な視点で民法を学んでいました。 僕の学生時代は1980年台初頭のポストモダンの時代だったので、「公共とはなん ぞや?」の時代。この問題意識は僕にとって今も重要であり続けています。 卒業する頃は、社会科学のサイエンスコミュニケーターになりたい、出版社に 入りたいと思っていたのですがダメで、輸入代理店の国際法務を担う職につきま した。海外のモノを日本に輸入するための、海外メーカーとの交渉や契約を作成 するのが仕事の中心でした。その頃は、バブル前の日本が世界で一人勝ち状態の 時代だったので、海外から見ると日本のマーケットはとても魅力的で、海外企業 は直接進出し始め、モノや情報の流れが変化しだした。メーカーがあって、輸入 2015年4月から県立長野図書館長を務める平賀研也 さん。これまでの経験をおうかがいするとともに、現 在取り組んでいることについて語っていただきました。 ▶図書館長になるまで 司書名鑑 No.9 平賀研也(県立長野図書館長)
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    135ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 司書名鑑 No.9 者(卸売者)がいて、小売店があってお客さんがいる、という流れが再編された んです。まったく違ったプレイヤーが現れ、モノをつくり、お客様に届けるまで の情報のつながり方が大きく変化し始めたんですね。それと時を同じくして情報 技術が飛躍的に進化し始め、メーカーもインポーターも小売店もお客様も、誰で もたくさんの情報を扱えるようになり始めました。 そんな社会環境でしたから、僕がいた会社も根本的に経営を変えないといけな くなり、経営改革にも携わるようになったのですが、その頃からモノ、コト、ヒ ト、情報のつながり方を変化させることがイノベーションの本質なんだというこ とをずっと考えてきました。 こうした経験と思いが、実は、いま図書館でやっていることとつながっている と思います。情報とヒトのつながり方を社会の変化に合わせてどう変えていくか ということが、これからのコミュニティの在り方を決めていくと思うのです。情 報と情報、情報と人、人と人のつながり方というのは今の時代のとてもコアな テーマだと思っています。 ■ITの革新とともに変化した「情報」との関わり ちょうど僕が就職した頃、ワードプロセッサが登場して、それまでたくさんい た和文タイピストという職業があっという間になくなったんです。ほぼ同時にパ ソコンが普及し始め、技術の変化によって自分の仕事のやり方が幅も質も変化し ていくということを経験しました。たとえば社内報をつくるという仕事をしてい たこともあったのですが、最初はレイアウト用紙に定規で線を引いて指定して 写植へと分業していたものが、DTPによって全部、自分のパソコンの画面上でば ばっと組めるようになりました。自分で情報を集めて、編集したりデザインして 表現するということはとても楽しくて、もっとやりたい、もっと知りたいと思い ました。情報を編集するこうした経験と、古本屋巡りをして色んな情報の世界の 配置を俯瞰することの楽しさは僕の中ではシームレスにつながっています。 しばらくして、Appleを追い出されたスティーブ・ジョブズが「DTPの次はコ Directoryof librarian
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    136 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 司書名鑑 No.9 ミュニケーションワークの時代だ」というプレゼンをしたのを見て感激したこと を覚えています。そのジョブズが設立したNeXTを導入して、今は普通にやって いることですが、ネットワーク上でプロセスを共有しながらグループワークを進 めるなんてこともしました。みんなで一緒につくっていくこと、一緒に情報を 扱っていくということは、本当にすごいなと思いました。とても楽く、スピード 感があり、思いもしなかった情報に触れ、予期せぬ付加価値が生まれていくので すから。 「情報をどう扱うか」、人が何かを知り、共有し、編集し、表現して伝えること の大転換、今につながる情報革新のプロセスを僕は仕事の上でリアルタイムで経 験し、一緒に育ってきたと思うのです。 それから30年が経ちました。情報を調べ、知る場である図書館はどうでしょ うか。多くの場合、旧態依然として本を読むところから一歩も出ていないんじゃ ないかといったら言い過ぎですか? だけど、「読む」というのは何も「本」だけ じゃなくて、情報をどう理解して、評価して、編集して、表現するかというもっ と広い話、つまり「知る」ということでもあるはずだよね。そもそも「本」とはなん ぞやということを今、真面目に考えないと。 だから、理論とか理屈ではなく、80年代始めからの自分の経験に照らして 「えっ、図書館ってまだここ? 僕が大学生の時のままじゃん」っていう想いが あります。30年の間にもっとできることがあったんじゃないか? 今からでも 遅くない。 僕は会社から派遣されて2年間、アメリカのイリノイ大学に留学したことがあ るんですが、そのときに向こうの大学図書館を見ておったまげたのね。93年頃 です。僕が知っている日本の大学図書館は相変わらずカードシステムで閉架書庫 式だったのだけれど、アメリカに行ったら全然違っていた。 イリノイ大学は、コンピュータサイエンスで有名で、大学図書館の検索システ ムがすごかった。自分が入力した検索ワードに合わせて画面にベン図が出てくる ようになっていたんです。自分の検索したいことが、A and Bなのか、A or Bな のか Not A or B かみたいなことが画面上でどんどん絞り込める仕組みでした。そ
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    137ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 司書名鑑 No.9 れから、雑誌の検索をすると記事のサマリーが全部入っていて、どういう仕組み か聞いてみたら、研究者がすべてボランタリーに入力しているんだと言われて驚 いたり。そんなに英語に強くなかった僕でも、そのサマリーで当たりをつけて必 要な情報を探すことができて、すごく助かりました。それから、「インターネッ ト」っていうものでよその大学に調査依頼かけてみろ、と15cmくらいの厚さの URLアドレスの綴りを渡されたり。まさにブラウザが登場する一瞬前、AOLの サービスが始まろうとしていた頃ですね。「図書館といっても、いろいろありな んだ」という当時のそんな驚きも今につながっているかもしれない。 この30年間、日本の図書館がまったく変わらなかったとは思いませんが、今更 ながら、僕らはもっと「知る」ということの今に着目し、いろいろやれることがあ るのではないでしょうか。 ■初めての図書館勤務とその違和感 その後、日本に帰ってきて子どもが産まれました。やがて妻と「子どもを東京 の学校に行かせたくないよね」という話になりました。東京にいると8割近くが 大学に進学するわけで、とにかく受験のための勉強を小さい時から考えているで しょう? そういう勉強はやらせたくなかった。 そんなときにたまたま伊那谷のある先生の教育実践を記録した本、『ひみつの 山の子どもたち—自然と教育』(童話屋、1997年)という富山和子さんの本を読 んで、暮らしの中で学ぶという学校があることにびっくりしました。時間割もあ りません、チャイムも鳴りません、成績表もありません、一日中外にいます、み たいな。で、歩きながら看板を見て漢字を覚え、歩きながらみんなで詩をつくり、 音楽をつくり、行った先で秘密基地をつくりながら、算数や測量術みたいなこと までやったりだとか、「嘘でしょ?」と驚きつつ、「知る」、「学ぶ」って本当はこ ういう実感のあるものなんだよな、普通の公立の学校でもできるんだ、というの でその先生に会いに初めて伊那谷にでかけました。 来てみたら、本当に気持ちのよいところで、素敵な生き方をしている人たちが Directoryof librarian
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    138 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 司書名鑑 No.9 いて、さっき言った教育も特殊な例ではない。この町は基本的にそういう「学び」 や「暮らし」を大切にしているんだなとわかる。一方で、うまく活かされていない ハコモノや仕組みとかも見えてきて、これ、ミスマッチだよね、企業と同じ悩み だな「これ、つなぎ直したらすごいよなあ」と思いましたね。 それで、伊那に引っ越し、2年間は子どもと一緒に遊んで暮らしていたんです が、たまたま、政府系の公共政策シンクタンクの雑誌編集のリクルーティングが ネットに出ていて、「これからの公共のあり方を軸にした特集主義でやりたい」と 手を挙げたら、じゃぁ、来てくれってことになって。それで、一年の半分は単身 で東京に住み、月刊研究広報誌の刷新と企画編集をやりました。これもすごく勉 強になりましたね。バックグラウンドのない世界の情報をどうやって探し、見極 め、企画化するかという無謀なチャレンジ(笑)。冷や汗ものでしたが、デジタル のおかげで情報のありかに当たりをつけながら進められました。 伊那市創造館内の"昭和の図書館"(旧・上伊那図書館) 撮影=平賀研也
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    139ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 司書名鑑 No.9 3年後、伊那市で図書館長を公募することに。もともと僕の興味関心の「パブ リックな空間ってなんだろう?」というテーマと、地域が「いま、変わらなきゃい けない」っていうときに一番大事なのは、情報と情報、情報と人、人と人のつな がり方を変えることだという思いが当然ありましたから手を挙げました。地域の 公共空間では、図書館こそそれができる場じゃないかなと思ったわけです。これ こそ僕がやりたい仕事だと、当時は図書館の実態なんて知らなかったから、本気 で思いましたね、「図書館、バッチリじゃん!」。で、図書館に入ったら、おお、 こう来たか!と(笑)。 そこにあったのは、今思えば典型的な「市民の図書館」。児童サービスがメイン で、仕事のほとんどは、お客様との接点である貸出サービスに向いている。それ も大切なんだけど、うーん、っていうね。図書館をとりまく町の人たちも、本当 に今まで献身的に素晴らしい図書館を育ててきたわけだけれど、80年代半ばか らの活動は世代交代もままならず、同じ方法論と言ってもいい。それを享受して いる人たちの思いは変わってしまった。統計情報をとにかく分析しまくってみて、 これは「知の消費」なんじゃないかとも思いました。この消費の先に、地域コミュ ニティにとって有意な何かがつくりだされることが果たしてあるんだろうか?  とすら考えました。 僕が考えていたような、もっとたくさんの人が今の時代ならではの「知る」こと のワクワクするような体験ができる情報の拠点、情報のハブ、情報のチカラを感 じられる場所を目指さずに、本当にこのままでいいんだろうか? と。もっとた くさん、もっといろいろ、もっと便利に、もっと心地よくという個人の満足の追 求しかないのかなぁ、これが「公共」図書館なのかなぁと。図書館長になった最初 の頃は、こういった現実を目の当たりにして、自分の意識とのギャップに戸惑い ました。 Directoryof librarian
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    140 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 司書名鑑 No.9 ▶伊那市立図書館長から県立長野図書館長へ ■これからの図書館をめざして試行錯誤 それでも、潜在的な必要や意味や楽しさなんて試してみなけりゃわからない、 というわけでいろいろ始めました。古い図書館の明治以来の資料を再編してそれ を見て触れられる空間を整備したり、図書館を使い倒す講座なんていって情報リ テラシー向上を支援しようとしたり、本と図書館地域通貨を媒体に町と人をつな げてみたり、座学はやめて表現することをメインにしたワークショップに転換し たり……。中でも、急速に失われていっている明治以降の地域の写真や日記や書 籍や資料をなんとか救うためにデジタルアーカイブをつくりたい、という思いが 募りました。 地域の「知の共有地」、デジタルコモンズをつくろうといろんな方と話しました。 世界の入り口としての郷土の資料を保存提供するというのは地域図書館の本質で すよね。その情報を自由に二次利用できるようにし、共に知り、共に創る体験や 場を埋め込み、創造した成果を蓄積、発信してみんなと共有する。そんな地域の 知の循環をつくれたらいい、と。 しかし、アーカイブをつくって蓄積し、検索できますということだけでは、情 報の活用にはならないし、共に知り、共に創るとか知る楽しさというのはないよ なぁ、と考えていたのが2010年の始め頃です。iPadの登場で電子書籍元年なん て言われた年で、自分でもiPadを買い、子どもからお年を召した方までいろん な人に触ってもらいました。タブレットというだけなのに「情報との距離感が今 までと違うぞ」とPCに初めて触れた時よりも何かが変わる可能性を感じました。 その夏に小布施の花井さんがまちとしょテラソ開館1周年記念アーカイブシン ポジウムをやるからおいでよと誘ってくれました。そこで当時NIIの高野研にい た中村佳史さんやATR Creativeの高橋徹さんにお会いしていろいろ話し、アプリ の「ちずぶらり」を持って小布施を歩いたりしてみて、アーカイブを活用すること は可能だ、「知る」ことをみんなで楽しめるかもしれないと期待が持てたんです。 その後「高遠ぶらり」プロジェクトを立ち上げ、図書館と市民の取り組みとして
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    141ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 司書名鑑 No.9 展開を始めたら、博物館はもちろん学校や観光や防災や郷土研究や他の地域や、 まぁ実にいろいろな方とつながり、一緒に地域の情報資源を集め、編集し表現す る関係が広がりました。そこで図書館の本も使われ、「本の貝塚」から生き返る可 能性が見えてきました。 地域の自然と暮らしから知ることを楽しむ「伊那谷の屋根のない博物館の屋根 のある広場へ」を目指したそんな取り組みが「地域資源の創生」をし、「新しい知る プロセス」を提示する先進的な取り組みとして意味づけられ、Libraryof the Year 2013をいただきました。試行錯誤しながら、こういうことは図書館からすれば 異端と思われているのだろうなと思っていましたから、「ああ、これもありと言っ てもらえた」と嬉しかったし、これをきっかけに、地域の人たちが、「お前たちの 言ってたこと、やってたことがわかったよ。要は江戸時代からこの地域が大事に してきた実践的な学び、暮らしに学ぶことを今なりに蘇らせたいんだな」と言っ てくれたことが何よりも嬉しかったです。 僕が80年代から90年代にかけてビジネスの世界で情報を探索して自分なりに 編集するワクワクした世界はこの地域でも一緒じゃないか、「知る」ことをみんな もっと楽しめるんだな、と思えたわけです。とはいえ、もっとたくさんの人に、 共に知り、共に創造する機会やリテラシーを届け、日常の暮らしの中に埋め込み、 いきいきとした創造的なコミュニティをつくっていけないだろうか、ということ は課題です。そのために図書館は一体どうあればいいのか。 ■ポスト『市民の図書館』のビジョンを 本や読書だけでなく、デジタルな情報や体験も含めた「知る」を図書館が提供す ることについては、先進的であると評価をいただく一方で、現実の図書館運営に あたっては「なぜそれを図書館がやる必要があるのか」という、これまでの図書館 像に立った問いに直面することにもなります。そのことについて、地域の人々の 理解が得られなければ意味がないし、社会教育や地域政策の中に位置付けられな ければ、資金も人材も得られない。
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    142 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 司書名鑑 No.9 単館で、図書館だけで、独り取り組むことの限界を感じていた時に、これまで の取り組みのおかげか、「県立図書館を改革してみないか」というお誘いを受けま した。本当は地域の人たちと図書館の本のあいだや野山を駆けずり回っているこ とが一番楽しいのですけれど(笑)、きっと同じように限界を感じながらチャレン ジしている図書館の人や町の人がいるに違いない、だったらその人たちの背を押 せるかもしれないと思い、やらせていただくことにしました。 これからは、それぞれのコミュニティに根ざした、今よりももっと多様な、そ れぞれユニークな図書館を目指していくべきだと思いますが、同時に、図書館と は、本とはそもそもなんだったか、ということを今こそ考え、共通のイメージを 持ちたい、と思います。今、図書館はまちづくりだと言う人もいるし、デジタル 情報だと言う人もいるし、課題解決だと言う人もいる。そのどれもそうだよね、 と思います。人が集い賑わいのある心地よい図書館もいい、困った時に助けてく れる図書館もいい、が、それは今の時代にあって、そもそも何のためなんだろう。 そのビジョンを言葉や行いとして共有したいと思うのです。 僕は「知る」を図書館の真ん中に置きたいなと思うのですが、どうでしょう?  しかも、そのコミュニティが蓄積してきた知を入り口として、コミュニティの価 値観というか物語を今一度獲得、共有できるような、実感を持って知ることがで きる場や活動としての図書館。地理的なコミュニティなら郷土の風土や暮らしの 蓄積、目的で結ばれたコミュニティなら人の思いの蓄積を読み解き共有し、さら に創造していくことがあってほしい。 僕が図書館の中で一番好きなのは閉架書庫です。そこにはそれぞれの地域が 150年の近代の間に蓄積してきた物語がたくさんある。一冊一冊の本ではなく、 たくさんの本の背表紙を見つめていると、そこに地域コミュニティのコンテクス トが浮かび上がる。それは、地域の人たちが意識し、共有した価値観です。一冊 一冊の本は確かにモノなんですが、図書館は本という媒体に化体した情報の塊で、 その純粋な情報、知を公開することを使命としてきた。だから、僕は図書館こそ が「知る」ことのハブ、入口になって様々な地域の情報を提供するにふさわしい機 能だと信じています。 また、そうした情報の中に物語を読み解く情報リテラシーを、もっと多くの人
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    143ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 司書名鑑 No.9 が人生のいろいろな段階で獲得するお手伝いができるのも図書館ではないでしょ うか。 僕らの世代までは、ワクワクするような知の獲得の仕方や、知ったことに付加 価値をつけて次の人に手渡すような情報の扱い方は、図書館でも学校でも習って いないと思います。この20年ほど、そうした学びを学校で取り組もうとしてい るけれど、みんなの共通認識にはなっていない。図書館の可能性はそこにもある。 図書館は知るための技能としての「読書」を広めてきた。でも、知識、情報を基 盤とする社会になろうとしている時に、そこでの本当の意味での市民社会をイ メージした時に、「読み書き算盤」だけでは足りない。「読み書き算盤、情報(リテ ラシー)」だと思うんです。その部分を学校とも一緒に、地域の多様な人々とも一 緒になってやりたい。 そういう意味で、今こそ「ポスト『市民の図書館』」が掲げられないといけないと 思います。ポストっていうのは、否定ではなくて「脱・市民の図書館」という意味 です。30代、40代のみなさんが、未来の人のことを考えながら「これからの図書 館」を言葉として表現してほしい。30代の前川恒雄さんたちが掲げた『市民の図 書館』の言葉はほぼ50年間も生きてきた。そんな射程の長い新しい言葉と行いが カタチになるまでの中継ぎリリーフが僕の役割ですね。 僕が10代の終わりから20代にかけての数年の間に、町の本屋さんや神保町の 古本屋街の書棚を眺めてワクワクしながら自分なりに世界を再発見していったみ たいな楽しさを、図書館でもっともっとたくさんの人が獲得し、地域共同体の物 語をつないでいってもらえるようになったらいいな、と思います。 (インタビュー:ふじたまさえ) 県立長野図書館館長。1959年仙台生まれ東京育ち。法務・経営企画マネージャーとして企業に勤務。その 間、米国イリノイ州に暮らし、経営学を学ぶ。2002年長野県伊那市に移住。公共政策シンクタンクの研究 広報誌編集主幹、2007年4月より伊那市立伊那図書館長を経て、現職。実感のある知の獲得と世界の再発見、 情報リテラシー向上に添える地域情報のハブとしての図書館を目指す。 平賀研也(ひらが・けんや)
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    144 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 ARG 業務実績 定期報告 国立情報学研究所(NII)への不動産検索のHOME'Sによるデータ提供に協力 2015年11月17日(火)にプレスリリースと記者会見が行われ、11月24日(火) に実施された株式会社ネクストによる国立情報学研究所(NII)への研究用データ セットの提供に協力しました。 これはネクスト社が運営する不動産・住宅情報サイトHOME'Sに掲載された賃 貸物件データ約533万件とその画像データ約8300万件を「HOME'Sデータセット」 として、国立情報学研究所(NII)の情報学研究データリポジトリでの研究用途に 提供するものです。弊社では、ネクスト社からのご相談を受け、本データセット の提供枠組みの形成から記者発表に至るまでのコーディネートを担当しました。 弊社では代表の岡本真が前職であるヤフー株式会社に在職中であった2007年 3月にYahoo!知恵袋データセットの提供にあたった際の知見を活かし、企業によ る研究用途データセットの公開促進に努めています。今回のようなデータセット 提供のコーディネートに弊社が事業として取り組んだのは、2014年9月に公開 された「リクルートデータ」(ホットペッパービュ-ティデータ)以来、2例目と なります。 『ライブラリー・リソース・ガイド』の発行元であるアカデミック・リソース・ ガイド株式会社の最近の業務実績のうち、対外的に公表可能なものをまとめてい ます。各種業務依頼はお気軽にご相談ください。 アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 実際のデータ提供画面 記者会見の模様(於・国立情報学研究所)
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    145ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 ARG業務実績 定期報告 図書館総合展公式サイトをリニューアル 2015年11月10日(火)から12日(木)にかけて開催された第17回図書館総合展 を前に、図書館総合展公式サイトのリニューアルを担当しました。 弊社では、2009年、2010年に試験的に、2011年からは正式な業務受託として、 図書館総合展の公式サイトの構築・運営を担っています。今回は2012年以来の 大規模なリニューアルとなり、図書館総合展運営委員会事務局、並びに株式会社 アイキュームと協業しての実施となりました。幸い、図書館総合展会期中も従来 以上のご好評を博していることを実感できました。 第17回図書館総合展にブース、フォーラムを出展 第 17 回図書館総合展に、 第 3 回 ARG フォーラム「こ れからの図書館のつくりか た-図書館をプロデュース する仕事から」、自社単独 ブース「未来の図書館、は じめませんか?」をそれぞ れ出展しました。 フォーラムでは花井裕一 郎さん(演出家)をゲストに 迎え、弊社代表・岡本真と ブース全景 リニューアルした画面 歴代のトップページ
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    146 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年秋号 ARG 業務実績 定期報告 のトークイベントを実施し、 満席の大盛況となりまし た。また、今回初めての単 独出展となったブース「未 来の図書館、はじめません か?」は、32平米という大 きなスペースを用いて、3 日間の会期中、実に 13 本 のブースイベントを実施し、 こちらも大盛況となりまし た。また、フォーラムとブースの双方で本誌別冊を無償配布しました。 初めての試みが多く、弊社スタッフ一同、たいへん緊張した催しでしたが、お かげさまでたいへんな賑わいとなりました。ご来場くださった方々、誠にありが とうございました。 和歌山市民図書館基本計画策定に向けたワークショップ開催を支援 図書館総研・岩西産業共同企業体(株式会社図書館総合研究所、岩西産業株式 会社アトリエグリッド一級建築士事務所)からのご依頼を受け、和歌山市民図書 館基本計画策定に向けたワークショップを企画・実施の両面で支援しました。 これは同企業体が和歌山市より和歌山市民図書館基本計画策定業務に係る公募 型プロポーザルを経て受託した業務で、2015年11月、12月に合計4回のワーク ショップが実施されました。 第1回ワークショップでのブレインライティングの模様 第2回ワークショップでのまち歩きの模様 立ち見続出のブースイベント
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    147ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 ARG業務実績 定期報告 J-WAVEのJAM THE WORLDに弊社代表が出演 2015 年 11 月 7 日(金)、J-Wave 81.3FM の 人 気 番 組 JAM THE WORLD の BREAKTHROUGH! コーナーに弊社代表・岡本真が出演しました。 番組ではナビゲーターを務める春香クリスティーンさんとトークし、「公立の 図書館の在り方」、特にいわゆるTSUTAYA図書館の問題、図書館と出版の関係、 選書のあり方、指定管理の現状、図書館における官製ワーキングプアの問題等に ついて見解を述べました。 弊社業務問合せ先(メールが確実です) 番組サイトより ● mail:info@arg-corp.jp  ● 全般:070-5467-7032(岡本)※移動中・会議中なことが多いので留守電にメッセージを残してください。 ● LRG関係:045-550-3553(ふじた) 日々の弊社からの情報発信をお確かめいただくには? ● 公式メールマガジン:http://www.arg.ne.jp/ ● 公式Facebookページ:https://www.facebook.com/ARGjp/
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    LRGLibrary Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド定期購読・バックナンバーのご案内 定 期 購 読● 誌名:ライブラリー・リソース・ガイド(略称:LRG)  ● 発行:アカデミック・リソース・ガイド株式会社 ● 刊期:季刊(年4回)   ● 定価:2,500円(税別)  ● ISSN:2187-4115 ● 詳細・入手先:http://fujisan.co.jp/pc/lrg 「ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)」はアカデミック・リソース・ガイド株式会 社が、2012年11月に創刊した、新しい図書館系専門雑誌です。さまざまな分野で活 躍する著者による特別寄稿と、図書館に関する事例や状況を取り上げる特集の2 本立てで展開していきます。第5号からは「司書名鑑」も連載を開始しました。最新 情報は公式Facebookページでお知らせしています。 公式Facebookページ:https://www.facebook.com/LRGjp 1年4号分の定期購読を受付中です。 好きな号からのお申し込みができます。 定   価:10,000円(税別) 問い合せ先:045-550-3553(ふじた)       lrg@arg-corp.jp SOLD OUT 元国立国会図書館長の長尾真さんの図書館への思いを書き上げた「未来の図書館を 作るとは」を掲載。図書館のこれまでを概観し、電子書籍などこれからの図書館のあ り方を論じている。 特集は、「図書館100連発」と題し、どこの図書館でも明日から実践できる、小さいけ れどきらりと光る工夫を100 事例集めて紹介している。第 4 号では、100 連発の第 2 弾として、創刊号で紹介後に積み上げた100事例を紹介している。 特別寄稿/ 特  集/ 内  容/ 創刊号・2012年秋号(2012年11月発行) ※品切れ 長尾真「未来の図書館を作るとは」 嶋田綾子「本と人をつなぐ図書館の取り組み」 みわよしこさんによる特別寄稿では、社会的に弱い立場とされる人々の知識・情報 へのアクセス状況を概観し、知のセーフティーネットであるべき公共図書館の役目を 考える。 特集では、株式会社カーリルの協力により、図書館のシステムの導入状況を分析し ている。全国の図書館では、それぞれ資料管理用のシステムを導入しているが、そ の導入の実態を分析する、これまでにないものとなっている。 特別寄稿/ 特  集/ 内  容/ 第2号・2013年冬号(2013年2月発行) みわよしこ「『知』の機会不平等を解消するために──何から始めればよいのか」 嶋田綾子(データ協力:株式会社カーリル)「図書館システムの現在」 残り 100冊 148 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 定期購読・バックナンバーのご案内
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    特別寄稿「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」は、「これからの街の本屋」をコン セプトにした本屋「B&B」を運営するnumabooks 代表の内沼晋太郎さん、自宅を開 放する「住み開き」を提唱する日常編集家のアサダワタルさん、「ビブリオバトル」を 考案した立命館大学の谷口忠大さんの3名にお話をいただく。 特集は、「本と人をつなぐ図書館の取り組み」として、図書館で行われている、本と人 とをつなぐさまざまな取り組みについて紹介する。新連載「司書名鑑」は、関西学院 聖和短期大学図書館の井上昌彦さんを紹介する。 特別寄稿/ 特  集/ 司書名鑑/ 内  容/ 第5号・2013年秋号(2013年11月発行) 内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」 嶋田綾子「本と人をつなぐ図書館の取り組み」 No.1 井上昌彦(関西学院聖和短期大学図書館) 東日本大震災は図書館にも大きな被害をもたらした。その被害状況と復興の歩み、 そしてそこから見えてくる図書館の支援のあり方を、宮城県図書館の熊谷慎一郎さん に論じていただいた。 特集では、地域に残された災害の記録を伝える図書館、災害資料を使い地域防災 について啓発活動を行う図書館などの取り組みについて紹介する。 特別寄稿/ 特  集/ 司書名鑑/ 内  容/ 第6号・2014年冬号(2014年2月発行) 熊谷慎一郎「東日本大震災と図書館─図書館を支援するかたち」 嶋田綾子「図書館で学ぶ防災・災害」 No.2 谷合佳代子(公益財団法人大阪社会運動協会・大阪産業労働資料館 「エル・ライブラリー」) 特別寄稿は、前号(第3号)での特集「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」 を受けて、実際に資金調達を行っている組織からの視点、資金調達のサービスを提 供する事業者からの視点と、より理論的に図書館での資金調達に迫る。第 4 号が理 論編、第3号が実践編という位置づけであり、2号併せて読むことをお勧めする。 特集は、創刊号で大きな反響を呼んだ「図書館 100 連発」の第 2 弾。さまざまな図 書館で行われている小さくてもきらりと光る工夫や事業から、創刊号以降の1年で集 めた100個を紹介する。 特別寄稿/ 特  集/ 内  容/ 第4号・2013年夏号(2013年8月発行) 岡本真・鎌倉幸子・米良はるか「図書館における資金調達(ファンドレイジング)の未来」 嶋田綾子「図書館100連発 2」 東海大学の水島久光さんによる特別寄稿は、著者自身の私的アーカイブの試み、夕 張・鹿児島・東北の地域の記憶と記録を巡って、地域アーカイブの役割と重要性を 論じている。 特集は「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」として図書館での資金調達 の取り組みを紹介。昨今の自治体財政状況により、図書館の予算も十分とは言い難 い。そのなかでさまざまな手段を講じて資金を集め、事業を行っていこうとする図書 館の取り組みを集めた。 特別寄稿/ 特  集/ 内  容/ 第3号・2013年春号(2013年5月発行) 水島久光「『記憶を失う』ことをめぐって∼アーカイブと地域を結びつける実践∼」 嶋田綾子・岡本真「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」 残り 230冊 残り 290冊 残り 220冊 残り 120冊 149ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 定期購読・バックナンバーのご案内
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    創刊号に掲載した長尾真さんの「未来の図書館を作るとは」に触発され、未来の図 書館を議論する座談会を収録。また、特集では、執筆に猪谷千香さんを迎え、コモ ンズとしての図書館のあり方を、図書館だけにとどまらない実例を挙げて紹介する。 司書名鑑の3回目は、海老名市立中央図書館の館長であり株式会社図書館流通セン ター会長でもある谷一文子さん。羊の図書館めぐりは、LRG 初の試みであるマンガ による図書館紹介で、第1回は大阪府立中之島図書館を紹介する。 特別座談会/ 特  集/ 司書名鑑/ 羊の図書館めぐり/ 内  容/ 第7号・2014年春号(2014年6月発行)  内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司「未来の図書館をつくる」 猪谷千香「コモンズとしての図書館」 No.3 谷一文子(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター)    第1回 大阪府立中之島図書館 巻頭では 2014 年 7月2日に開催した菅谷明子 × 猪谷千香クロストーク「社会インフ ラとしての図書館 ─日本から、アメリカから」を収録。ジャーナリストから見た日米 の図書館を論じた。 特集では、2014年6月に法改正がなされた教育委員会制度について、インタビュー や調査を元に、図書館への影響をまとめた。ほか、司書名鑑や羊の図書館めぐり、 ARGレポートなどを掲載。 第2回 LRGフォーラム 菅谷明子×猪谷千香クロストーク           社会インフラとしての図書館─日本から、アメリカから 特  集/ 司書名鑑/ 羊の図書館めぐり/ 内  容/ 第8号・2014年夏号(2014年9月発行) 猪谷千香「教育委員会制度の改革」 No.4 嶋田学(瀬戸内市新図書館開設準備室)      第2回 旅の図書館 巻頭では、世界的に動向が注目されるGLAMのオープンデータ化について、その第 一人者たちが白熱の議論を交わした第2回OpenGLAMのシンポジウムを特別収録。 特集では恒例企画「図書館100連発」の第3弾。第4号後に集めた図書館をアップデー トする知恵と工夫を厳選して一挙に公開する。 第2回 OpenGLAM JAPANシンポジウム オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来 生貝直人・日下九八・高野明彦 特  集/ 司書名鑑/ 羊の図書館めぐり/ 内  容/ 嶋田綾子「図書館100連発3」 No.5 大向一輝(国立情報学研究所)     第3回 京都府立総合資料館 残り 300冊 残り 330冊 第9号・2015年秋号(2015年12月発行) 特別寄稿は、数多くの名講演をされている梅澤貴典さんが、ライブラリアンの講演 術として、そのノウハウを徹底公開。「ライブラリアン」と銘打っているが、講演をす る全ての人に有用である。特集「離島の情報環境」では、同テーマのもとで行った日 本初の悉皆調査として、歴史的な内容となっている。 特別寄稿/ 特  集/ 司書名鑑/ 羊の図書館めぐり/ 内  容/ ライブラリアンの講演術─ 伝える力 の向上を目指して[梅澤貴典] 離島の情報環境[編集部] No.6 磯谷奈緒子(海士町中央図書館)     第4回「男木島図書館」 第10号・2015年冬号(2015年3月刊行) 残り 320冊 残り 230冊 150 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 定期購読・バックナンバーのご案内
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    特別寄稿では、ARG代表の岡本真が自身の活動である「神奈川の県立図書館を考える会」を通 じて、行政にその重要性を伝える「アドボカシー」について解説。特集では、「アーカイブサミット 2015」をテーマに、シンポジウムを特別収録し、アーカイブに関わる古賀崇、水島久光、平野泉、 仲俣暁生の4氏からの寄稿をいただいた。また、マガジン航とのコラボによる新コーナー「マガ ジン航PickUp Vol.1」がスタート。司書名鑑は、東京文化資源会議事務局長の柳与志夫さん。 特別寄稿/ 特  集/ マガジン航 PickUp Vol.1/ 司書名鑑/ 内  容/ ライブラリーアドボカシーの重要性とその実践 ─「神奈川の県立図書館を考える会」の活動から[岡本真] 「アーカイブサミット2015」を総括する[LRG編集部]        貧困から図書館について考える[伊達文] No.7 柳与志夫(東京文化資源会議事務局長) 第11号・2015年春号(2015年6月刊行) 好評 発売中! 情報発信のために必要なことはなにか?広報のコツを鎌倉幸子さん、取材のツボを 猪谷千香さんが語る貴重な機会を得た。特集では、「図書館 ×カフェ」をテーマに全 国の事例を類型化、野原海明さんが取材しつつ、その在り方について論じた。 マガジン航 Pick Up Vol.2では、各地で盛り上がりを見せる「ウィキペディアタウン」 についての小林巌生さんの記事を掲載。司書名鑑は、京都府立図書館の是住久美 子さん。 特別寄稿/ 特  集/ マガジン航 Pick Up Vol.2/ 司書名鑑/ 内  容/ 図書館の情報発信に効く! 広報のコツ×取材のツボ[鎌倉幸子、猪谷千香] 図書館×カフェ[野原海明]        ウィキペディアを通じてわがまちを知る[小林巌生] No.8 是住久美子(京都府立図書館) 第12号・2015年春号(2015年6月刊行) LRG創刊号を手に入れたい みなさんへ朗報です! https://www.facebook.com/LRGjp/ ライブラリー・リソース・ガイド創刊号は品切れ となってからも多方面からお問合せをいただい ており、編集部でも増刷するかの検討を重ねてま いりました。 議論の結果、いよいよ2016年春からLRG創刊号 についてご希望に合わせて印刷をかける受注生 産方式での販売を再開することに決定しました。 詳細については、別途、ライブラリー・リソース・ ガイドの公式サイト Facebookページでご案内 します。 残り 350冊 緊急 告知 151ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 定期購読・バックナンバーのご案内
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    LRG LRG 第14号 2016年2月 発行予定 LibraryResource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 次回予告 LRGライブラリー・リソース・ガイド 定価(本体価格2,500円+税) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特 集 特別企画 「図書館の「利用者の秘密を守る」文言の経緯と その変遷」(仮) 公共図書館の存在意義としても重要な「図書館の自由に関する宣言」 (日本図書館協会 1979年)の成立過程、その変遷に迫ります。 図書館100連発![第4弾] 日本の図書館の小さな工夫を100連発する恒例の特集、第4弾。 159ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 秋号 次号予告
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    LRG ライブラリー・リソース・ガイド https://www.facebook.com/LRGjp 第13号/2015年 秋号 無断転載を禁ず 発 行日 発 行 人 編 集 人 編  集 デザイン 発  行 2015年12月18日 岡本真 岡本真、ふじたまさえ 大谷薫子(モ*クシュラ株式会社) 佐藤理樹(アルファデザイン) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 Academic Resource Guide, Inc. 〒231-0012 神奈川県横浜市中区相生町3-61 泰生ビル さくらWORKS<関内> 408 Tel 045-550-3553(ふじた) http://www.arg.ne.jp/ lrg@arg-corp.jp ISSN 2187-4115 ISBN 978-4-90851512-5 写真 表 紙:Library of the Year 2015大賞を受賞した     多治見市図書館     撮影=平賀研也 裏表紙:Library of the Year 2006大賞を受賞した     鳥取県立図書館     撮影=岡本真
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    定価(本体価格2,500円+税) Library Resource Guide 第13号/2015年秋号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 LRGライブラリー・リソース・ガイド ISSN 2187-4115