LRGライブラリー・リソース・ガイド 第5号/2013年 秋号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
Library Resource Guide
ISSN 2187-4115
特別寄稿 内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大
特集 嶋田綾子
司書名鑑 No.1
井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館)
本と人、人と人をつなぐ
仕掛けづくり
本と人をつなぐ図書館の取り組み
LRG Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド 第5号/2013年 秋号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
特別寄稿 内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大
本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり
特集 嶋田綾子
本と人をつなぐ図書館の取り組み
司書名鑑 No.1
井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館)
2 巻頭言 ライブラリー・リソース ・ ガ イ ド 2 0 1 3 年 秋号
ようやく『ライブラリー・リソース・ガイド』第 5 号を刊行することができました。
2012 年 11 月に創刊した本誌は、ちょうど 1 年を経て、第 2 期ともいえる 2 年目
に入ることができました。
この 1 年、本誌にもさまざまなことがありました。創刊と同時に開催した第 14
回図書館総合展のフォーラム「図書館 100 連発 フツーの図書館にできること」は、
満員御礼、好評のうちに終了しました。その後も、研修などで「図書館 100 連発
の話をしてほしい」とのご要望をいただいています。
また、2013 年の秋に開催した第 15 回図書館総合展では、「第 1 回 LRG フォー
ラム」と銘打って、「図書館の資金調達」をテーマにフォーラムを開催しました。
このフォーラムでは、小誌の第 3 号と第 4 号で取り上げた事例の関係者、寄稿者
にお話をしていただき、より実践的に議論を深めています。
さて、今 5 号では、
●特別寄稿「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」
 内沼晋太郎、アサダワタル、谷口忠大
●特集「本と人をつなぐ図書館の取り組み」
 嶋田綾子
●司書名鑑No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館)
の 3 本立てとなっております。
巻頭言
図書館をひらくために
3巻 頭 言   ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
今号では、特別寄稿と特集がほぼ同一のテーマとなっております。これまで図
書館に求められているのは、個人の営みである「読書」が中心でしたが、これから
は図書館から始まるコミュニティ機能も求められています。このような潮流のな
かで、図書館で取り組める「人と人をつなぐ仕掛けづくり」を、本に関わる人々か
ら学ぶ、というのが今号の狙いです。
内沼晋太郎さんは、下北沢で「Book&Beer」をコンセプトにした街の書店「B&B」
を経営しています。発見のある「小さな街の本屋」を目指して、日々、棚づくり、
イベント開催に励んでいらっしゃいます。気鋭のブック・コーディネーターとし
て、「本」をめぐるさまざまな試行的実践と、これからの「書店」のあり方をビジネ
スとして模索するその思いを伺いました。
アサダワタルさんは、図書館業界では 2011 年の Library of the Year2011 受賞
が記憶に新しいところです。自宅を少しだけ「ひらい」てコミュニティをつくる
「住み開き」、そして、「日常編集」というユニークな活動のなかで、「本」を媒介と
した、図書館の再編集につながるような話を語っていただいています。
谷口忠大さんは、図書館でも近年行われるようになってきた、書評を使った本
の紹介ゲーム「ビブリオバトル」の発案者です。ビブリオバトルは、人の紹介を通
して面白い本に出会うこと、面白い本を紹介する人に出会うことに醍醐味があり
ます。簡単なルールを守るだけで誰もが実践でき、図書館でも注目される「ビブ
リオバトル」を楽しむ秘訣を伺いました。
4 巻頭言 ライブラリー・リソース ・ ガ イ ド 2 0 1 3 年 秋号
特集「本と人をつなぐ図書館の取り組み」では、本と人をつなぐために図書館
が行っているさまざまなイベントや本を紹介する取り組みについて、紹介してい
ます。古くから行われている定番の取り組みから新しい試みまで、「本と人をつな
ぐ」をキーワードに、事例を紹介しています。新しい試みはそのまま実践できる
ように、定番の取り組みはよりよい実践のヒントとなるような事例をピックアッ
プしています。
図書館でも、書店でも、本を紹介する取り組みは、新旧さまざまにあります。そ
してそのいずれの取り組みも、本を一人で読むだけではなく、そこから人々がつ
ながっていき、新たなコミュニティが生まれることを目指しています。
そして、今 5 号から、新企画が始まります。それは「司書名鑑」です。
記念すべき連載第 1 回は、関西学院 聖和短期大学図書館の井上昌彦さんにご登
場いただきました。井上さんといえば、「図書館員のセルフブランディング」の必
要性を説き、自らの「ミッション」を掲げて、精力的に活動しています。仕事のこ
と、ミッションを掲げるにいたった過程、そして「情報の持つ力」への思いを語っ
ていただきました。
「司書名鑑」では、今後も図書館の内外で活躍しているライブラリアンにご登場
いただき、その仕事や図書館への思いを語っていただきます。図書館は決して個
人の活動で成り立っているものではありませんが、そこには、多くのライブラリ
アンの努力と思いがあります。限られた紙面のなかで、その活躍の全てを記すの
はかないませんが、一人でも多くのライブラリアンの活躍を微力ながらもご紹介
できれば幸いです。
編集兼発行人:岡本真
責任編集者:嶋田綾子
5巻 頭 言   ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
巻 頭 言 図書館をひらくために[岡本真+嶋田綾子] …………………………………………… 2
特別寄稿 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり[内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大]……… 7
     「本」をめぐる冒険[内沼晋太郎]…………………………………………………………… 10
     「本」が生み出す、これからのコミュニティ[アサダワタル]………………………………… 30
     図書館でのビブリオバトル実施アドバイス[谷口忠大]…………………………………… 50
特  集 本と人をつなぐ図書館の取り組み[嶋田綾子] …………………………………… 65
LRG CONTENTS
Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド 第5号/2013年 秋号
一日図書館員
ブックスタート
ぬいぐるみのおとまり会
夏の自由研究サポート
おはなし会
図書館ツアー(図書館見学)、館長懇談会
図書館福袋
読書会、ビブリオバトル
参加型POPづくり、参加型しおりkumori
サイエンスカフェ、ライブラリーカフェ、作家の講演会
郷土資料講座、文学散歩
図書館コンサート
図書館まつり
選書ツアー
上映会
司書名鑑 No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績定期報告
定期購読・バックナンバーのご案内
次号予告
……………………………… 146
……………………………………… 152
………………………………………………………………… 156
……………………………………………………………………………………………… 158
………………………………………………………………………………… 66
………………………………………………………………………………… 70
……………………………………………………………………… 76
……………………………………………………………………… 80
…………………………………………………………………………………… 84
…………………………………………………… 90
…………………………………………………………………………………… 96
……………………………………………………………………… 100
………………………………………………… 106
…………………………………… 112
…………………………………………………………………… 118
…………………………………………………………………………… 124
………………………………………………………………………………… 128
………………………………………………………………………………… 134
……………………………………………………………………………………… 140
特別寄稿
内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大
本と人、人と人をつなぐ
仕掛けづくり
10 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
「本」をめぐる冒険
これからの本屋「B&B」を
生み出した試行と実践とは
1980年生まれ。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディ
ネイターとして、異業種の書籍売り場やライブラリーのプロデュース、書店・取
次・出版社のコンサルティング、電子書籍関連のプロデュースをはじめ、本に
まつわるあらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行う。
2012年、下北沢に本屋「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。ほか、読書用品ブ
ランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー、これからの執筆・編集・出版に携わる
人のサイト「DOTPLACE」編集長など。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事
の未来をつくる本』『本の逆襲 』(ともに朝日新聞出版)。
内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
2012 年、下北沢南口からすぐのところに「これからの街の本屋」をコンセプト
にした本屋が生まれた。店内にはクラシック音楽が静かに流れ、30 坪ほどの店内
には、シックな書棚に個性的な本が並べれられている。
「B&B」はお酒が飲めるブックショップ。アルコールを手にしながら、好きな本
を選び、未知の世界に心を踊らす時間……。
ふつうの書店とはその趣きを異にするここ「B&B」は、ブックコーディネイター
として活躍する内沼晋太郎さんが共同プロデュースした街の本屋である。
内沼さんはそのキャリアのほとんどを、「本」をめぐる試行と実践に費やされて
きた。その「本」をめぐる冒険には、「本」の存在を拡張するための表現が、「本」と
の出会いを生み出すための実験が、「本」が置かれている困難な状況を打破するた
めの問題提起が、常にある。
長らく低迷していた本の業界を、驚きの発見とともに面白くしている人の一人
である内沼晋太郎さんに、本をめぐるさまざまな試行と実践、その思いを伺う。
11本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
僕は 1980 年に生まれたのですが、僕たちの世代は「最近の若い者は、本を読ま
なくてけしからん」といったことを、上の世代から常に浴びせられてきたんです。
僕自身は本が好きで読んでいたのですが、仲のいい友達のなかには、本を全く読
まないのも確かにいました。でも僕は、そういった活字離れ世代への嘆きを聞く
たびに「それは、本当に自分たちが悪いんだろうか?」って漠然と感じていたん
です。本を読まない友達の多くは、新しい知や情報に対して鈍感ではなく、むし
ろ敏感なんです。では「なぜ、彼らが本を読まないのか」というと、それまでの人
生のなかで「本と出会う機会がなかったから」だけなのではないかと思ったのです。
僕たちの世代というのは、ちょうど中高生の頃にポケットベルがはやって、そ
れが PHS になって、やがて携帯電話になったり、パソコン通信がインターネッ
トになって、電話回線から日進月歩で光回線になったり、ゲーム機や音楽メディ
アもめまぐるしく進化していったのを、多感な年齢の時に身をもって体験し
てきた世代なんです。通信やエンターテインメントの世界で、できることや面
白いことが加速度的に増えていく、そうすると本は生まれたときからあるので
「あってあたりまえ」なのですが、ほかのものは目新しく身の周りに飛び込んでき
て、それらを中心に毎日をおくっていたら、本と出会わなくても無理もないと思
うんです。
こういうふうに考えると、悪いのは僕たち世代の側だけにあるのではなくて、
本を届けている側にも問題があるのではないかということに気がつきます。つま
りそうした状況において、出版社も、取次も、書店も、図書館も、出版業界と呼ば
れる本に関わる人たちは、「ゲームよりも本のほうが面白い」とか、「携帯電話よ
りも本のほうが夢中になれる」といったメッセージなり仕掛けを、本から離れて
いる世代に向けて発してこなかったと思うんです。こういった状況に気がついた
ことが、僕の活動の原点かもしれません。
必要なのは「本との出会いをつくる」仕事
そもそも「本と出会う機会」がない――その視点に気がついたときに、「本の出
会い」を生み出す必要があると思ったんです。つまり、書評家がやるような「この
活動の原点は、活字離れ世代からの問題提起
12 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
本が面白いよ」を伝えるもっと手前の、「本って面白いんだよ」ということを伝え
るための仕組みや仕掛けを考える仕事です。「この本が面白いよ」というメッセー
ジは、本を読む人にしか届かないんです。もちろん、当時はそれが仕事になるか
分かりませんでしたし、ここまで明確に言葉にできていませんでしたが、そうい
うことこそが必要だなと思いました。
ですから、就職活動をする頃には、出版社や書店とかに入っては駄目だと思っ
たんです。たとえば出版社の採用面接で「出版業界をなんとかしたいので、本の
面白さを伝える仕事がしたいんです」と言ったとしても、「なにを言ってるんだ。
まず売れる本をつくれ」と言われるに決まっています。ファッション雑誌の編集
部に所属したら、新人のうちは原宿あたりを歩いているおしゃれな子をみつけて
スナップ写真を撮らせてもらうみたいな毎日のなかから、「本の面白さ」を伝える
ところにいくまでには何十年もかかるだろうと思いました。
そこで、本と少し離れた場所から本と関われる仕事がしたいと思って、ブック
フェアなども手がける某国際見本市の主催会社に入社しました。面接の時に「出
文庫本葉書
13本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
版業界をなんとかしたいから、ブックフェアをやりたい」と言ったら、面白がら
れて採用されたんです。「展示会ビジネスが伸びているから」といった志望理由が
大方だったそうなので、僕みたいなのは珍しかったみたいですね。ですが、僕自
身がたぶん会社員に向いてないこともあって、2 ヶ月半で辞めました。
会社は辞めたものの、「本の面白さを伝える」という視点はもち続けていたの
で、学生時代に一緒に活動していた仲間と、本と人との出会いを提供するユニッ
ト「book pick orchestra(ブックピックオーケストラ)」※ 1
をつくりました。
本に興味のない人が、どうやって本と出会うか
「book pick orchestra(ブックピックオーケストラ)」は、ネットの古本屋とし
て活動を始めました。そのころはアマゾンのマーケットプレイスがない頃で、ラ
イターの北尾トロさんを先陣に※ 2
、個人のネット古本屋がたくさんあったんです。
僕たちはむしろ後発組でしたし、ただ古本を売って稼ぐことよりも、「本と人との
出会い」を意識しながら、面白いことやまだやられていないことを仕掛けていこ
うと思っていました。
たとえば「文庫本葉書」というのがあります。これは文庫を 1 冊ずつクラフト
紙に包んで、クラフト紙の表面にハガキのような宛名欄、裏面にその本から抜き
出した印象的な一節を印刷したものです。手にした人は、裏面に印刷された引用
文を眺めて、心に響いたら買ってもいいし、切手を貼って誰かに送ってもいい。
本を読まない人にとっては、「あってあたりまえ」すぎて気にとめることもなかっ
た本の存在が、包まれて見えなくなることで本と出会い直せるし、本を読む人に
とっては、出版社やメディアの売り文句などの先入観を介さないことで、普段は
手にしない本と出会えるはずです。「包む」ということでは、横浜の馬車道ほかで
企画した会員制・予約制・入場料制の期間限定の本屋< encounter. >も同じで、
これはもともと横浜の BankART というアートギャラリーで、作品として発表し
た企画です。
また、渋谷パルコのロゴスギャラリーで行われたイベント「新世紀書店・仮店
舗営業中」では、本が苦手だと思っている人に、どうしたら本を楽しんでもらえ
るかを考えて、< she hates books >< her best friends >という企画をしました。
14 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
< she hates books >は、「本嫌いの彼女に本を読ませる本屋」というコンセプト
のもと、選曲した音楽の気分に合わせた古本を CD とともにセットで販売したり、
< her best friends >では本を並べるのではなく、その本をお薦めした人の顔写
真を壁に貼って、本を販売しました。お薦めした人の顔写真には「好きな食べも
の、出身地、本の値段」などのプロフィールがあって、お客さんはそれを手がかり
に本を買うという仕組みです。
「book pick orchestra」での活動を通して僕が重要にしていた問題意識の一つと
いうのは、「本に興味のない人が、どうやって本と出会うか」ということです。自
分で本を選べる人というのはもう読者ですから、そこにだけ向けて発信していて
も、本に興味がない人へは届かない。ではどうすればいいかというと、それは音
楽などのほかのジャンルからのアプローチが有効かもしれないし、自分と気の合
いそうな人からのリコメンドかもしれない。方法は多様にあると思います。
こういったことは、出版社も、取次も、書店も、やってられないわけです。「確
かに面白いけど、手間ひまがかかりすぎる。ビジネスにならないよね」となって、
本を隠して売るようなことを思いついたとしても、自分の立場とか、やる意味と
かを考えて、やってこなかったと思うんです。でも、僕たちはそれが必要だと思っ
たし、誰もやっていなかったからやったんです。
僕は大学では商学部に在籍し、ブランド論を専攻していたのですが、ブランド
論を学んだことは今の自分の仕事に非常に役に立っています。ブランディングと
いうのは、商業的な意味での付加価値を考えることなのですが、そうした勉強を
しているうちに「本屋って、洗練されてない店が多いな」とか、「出版社ってコン
セプトがみえないな」とか、出版業界はとてもブランディングが下手だというこ
とに気がついたんです。ブランド論の教科書に出てくるブランディングの事例は、
飲食やファッション、車などの業界からばかりで、本に関わりのある業界からは
一つも出てこないんです。
ブランディング力のない出版業界
15本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
例えば「スターバックスコーヒー」にはコンセプトがきちんとありますが、「『講
談社』のコンセプトって、なんだろう?」とか、最近でこそコンセプトをもった新
書シリーズはありますけど、当時は「この新書だったら、全部買い揃える」みたい
なことには、まったくなっていませんでした。でも音楽だと、たとえば「ブルー
ノート・レコード」といったジャズレーベルなら、「○○番台は全部、集めている」
みたいな人がいるでしょう。
紙の本は再販制により、全国一律の定価販売が維持されているので、良くも悪
くも競争したり、差別化する必要がなかったのだと思います。だからこそ、つま
らない状況になってしまった部分もあるのだと思います。
僕は、音楽も、美術も、映画も好きでしたが、とりわけ本を仕事にしようと思っ
たのは、ひと言でいうなら、出版業界がまだまだ未開拓で、やれることが沢山あ
ると思ったからです。「ただの斜陽産業」という人もいましたけど、「この本屋が
かっこいい」とか「この出版社の、このレーベルが面白い」とか、そういったメッ
セージをきちんと伝えることとか、やれていないことがたくさんあるなと思いま
した。
「読書用品のブランド」という発想
たとえば「ビブリオフィリック」※ 3
は、「ディスクユニオン」と立ち上げた「本
のある生活」を楽しむための読書用品のブランドです。「ディスクユニオン」は関
東圏の方はご存知の通り、中古 CD の販売をメインにしている会社です。「ディス
クユニオン」にはジャズ館やロック館など、ジャンルごとに専門特化した館があ
り、そのなかに「CD・アクセサリー館」というのがあって、レコードの針とか袋
とか CD を入れる専用の袋やラックなど、音楽を聞くための周辺機器や道具だけ
を販売しているのですが、それがうまくいっていたんです。
ある日、以前から付き合いのあった「ディスクユニオン」の社長に、「内沼さん、
本でこういうのって、できないかな?」と尋ねられたんです。 実は、僕もその頃
同じようなことを考えていたのです。それは、電子書籍がこれから盛り上がるこ
とによって「データでいいものはデータで読むけど、紙で読みたいものは書籍で
ほしい」というふうに二極化するだろうということです。つまり、紙で読んでい
る人というのは、「モノとして」大事にしたいということになるので、大事に本を
保管するための道具が必要になるはずだ、と。
16 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
本がモノ化するこの感じは CD とかレコードが辿ってきた道と似ていて、「デー
タでいいものはデータで聴くけど、アナログで聴きたいものはレコード盤で買
う」といったことと似ているんです。ですから社長の言っていることはよく理解
できたので「今はまだないけど、絶対にやるべきだ」と思って、僕が提案をしまし
た。「ビブリオフィリック」では、本棚、しおり、ブックカバー、付箋のほか、読書
用の音楽も販売しています。
「道具のブランド」というのは、アウトドアブランドを意識していて、例えば
「キャンプをしよう」となったときに、キャンプそのものの魅力もあるのですが
「このテントを張りたい」とか、「この飯ごうを使いたい」とか、道具から入る人は
結構いますよね。いま、アウトドアの雑誌もたくさんありますが、モノ自体の格
好良さが入り口でその世界に入っていくということが、ある種の趣味にはあるわ
けです。
下北沢南口すぐにある書店「B&B」
17本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
読書というのも、もはやその種の趣味になりつつあるとすると「あの素敵な
ブックカバーを電車のなかで広げたいから、本を読もう」というような、そうい
う方向だってありうると思いました。こういうことを考える僕のモチベーション
には、やはり「本を読む人を増やしたい」というのがあります。
「B&B」は僕が代表をする「numabooks」※ 4
と、嶋浩一郎さんが代表をする「博
報堂ケトル」が、下北沢の駅前に恊働して 2012 年に開業した「街の本屋さん」です。
僕も嶋さんも、街の本屋だけに特別な思い入れがあるわけでなく、ネット書
店も利用するし、電子書籍にも期待しているし、大型書店にもよく行くし、街の
本屋も好きなんです。ですから二人でいろいろな仕事をするなかで「本屋をやろ
う!」となったとき、共通する視点としてもっていたのが「本を楽しむ環境がい
ろいろあるのが、一番豊かだよね」ということでした。選択肢がたくさんある未
来をつくりたいと思いました。だから、そのなかで消えてなくなりそうだった「街
の小さな本屋」をやることにしたんです。
「街の小さな本屋」のビジネスモデルはもう崩壊していて、20 ∼ 30 坪のスペー
スで新刊の本だけを売っていては、とっくに成り立たなくなっているんです。当
然、僕も嶋さんも、新刊書店の経営者という意味では素人だったのですが、素人
だからこそ、その生き残り方が見つけられそうな気がしたんです。では具体的に
「街の小さな本屋の生き残り方」とはなにかというと、僕たちがしていることはた
いしたことではなくて、本を売るというメインのビジネスに対して、イベントを
やったり、ドリンクを出したり、家具を売ったり、最近では英会話教室も始めた
のですが、こうした相乗効果のある複数のビジネスを組み合わせて、全体として
成り立たせるということです。どんなビジネスでもそうですが、利益を得られる
ものが複数あるとリスクヘッジになるわけです。
僕は、「B&B」の事業を成り立たせることで、街の小さな新刊書店が置かれてい
る状況を更新したいと思っています。「こういうやり方であれば、まだやっていけ
るんだよ」というメッセージを発信し 、どんどんこのモデルを真似してもらいた
いと思っています。
「街の小さな本屋」のビジネスモデルを提案する
18 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
他のビジネスで収益をあげて、個性的な棚をつくる
70 年代から 90 年代初めは、書店業界はバブル期でした。棚に本を置けば飛ぶ
ように売れた時代があって、その頃のほうが街の本屋に個性があったんです。つ
まり売り上げが立っているから、本好きな店員が本棚に手をかけられた。でも本
が売れなくなって売り上げが立たなくなると、人件費の削減のために社員が少な
くなって、バイトが増えて、業務を効率化するので、個性的な棚がつくれなくなっ
たんです。
たとえばレストランだったら、売り上げが下がったときに、食材を良いものに
して単価を上げて高級路線にいくとか、逆に原価を下げるとか、やれることがた
くさんあるでしょう。でも本というのは、どこで買っても同じ商品だし、日本全
国仕入れ値もほとんど、売値はまったく同じです。ビジネス上の工夫がしにくい
業態なんです。ですから、経営が悪くなったときにやれることは、本を返品する
か、人件費を削減するしかない。 ある本屋の棚がどんどんスカスカになって面白
くなくなっていくときには大抵、その店の経済的な事情がとても影響しています。
「B&B」では、個性的な棚をつくってきた先陣たちをお手本にして、文脈棚をつ
くっています。文脈棚というのは、僕がかつてアルバイトをしていた千駄木にあ
る往来堂書店の初代の店長・安藤哲也さんが提唱した棚づくりの方法で、「この
本の隣にこの本があって、その隣にこの本がある」という文脈が面白みになって
いくような本棚のつくり方です。いわゆる「人文」「科学」「料理」といった一般の
本屋の分類に従えばバラバラに置かれるはずの本を、ある文脈に沿って同じ棚に
並べることで、ストーリーやメッセージを生み出すことができます。文脈棚とい
うのは、その店の個性を出しやすいのですが、どこの書店でもできるわけではな
いんですね。つまり、それをやる余裕がないんです。きっとどの書店員さんも、棚
に手をかけたいはずだと思うのですが、なにせ時間がない。なぜ時間がないのか
というと、儲かってないからなんです。
「B&B」は複数のビジネスをしていますが、あくまでメインは「本屋」です。です
から、商品である本を置く棚には手をかけますし、「 B&B」でそれができているの
は、イベントやドリンクなどの他のビジネスで成り立っているからなんです。
継続するための循環の仕組み
「B&B」では、毎晩イベントをやっています。これはなにがなんでも絶対と決め
19本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ていて、なぜかというと「B&B に行けば、夜はいつもなにかやっているよね」と
お客さんに認識してもらうことが、一番重要だと思っているからです。前日にイ
ベントが決まっていなかったら僕ひとりでも出ますし、「たとえお客さんが3人
でもやる」ということを徹底しています。こういうことは徹底しないと「儲かっ
てきたから、イベントは週3日でいいかな」と思ってしまうかもしれないし、担
当者が辞めたとたんに、イベントのスケジュールに穴が出てしまうということは、
よくあることなんです。「B&B」ではイベントを毎日やって、売り上げや集客の目
標があることを前提としています。それ以外はわりと自由で、本と関係のあるイ
ベントであればオッケーです。基本はその本の著者や編集者が来て、それに関連
して売る書籍があることですね。今、10 月上旬ですが、僕たちがいつぐらいのイ
ベントを企画しているかというと、11 月末くらいです。つまり 10 月は、もう空
きがない。11 月の上旬もほとんど埋まっている。イベントが決まれば、関連本を
出版社に発注してストックしています。
イベントで「B&B」に来るお客さんは、ある著者のファンで足を運んでくれて、
店内でドリンクを飲んでいく。イベントで過ごす時間が心地良ければ、「B&B」の
店内には、ビアサーバつきのカウンターがある
20 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ファンになってくださるかもしれない。ファンになってくだされば、また足を運
んでくれて本が売れていくという、こういう循環のための相乗効果が重要だと
思っています。
「B&B」という名前の由来は「Book&Beer」です。僕も嶋さんもビールが好きだっ
たので、「本屋で昼間からビールを飲みながら、棚の本を選べたらすごくいいよ
ね」みたいなところから発想しました。こういうことをやると、「いや、俺もやろ
うと思っていたよ」みたいなことを言う人が現れるんですが、やろうと思うのと、
実際にやるのは違うわけです(笑)。
たいていはやろうと思っても「商品にビールをこぼされたら困るな」とか、「昼
間からビールを出したら、店のなかでお客さんが泥酔しちゃうんじゃないか」と
か、脳内で勝手に完結して諦めちゃうんですよ。でも、本屋でビールが飲めたら
すごくいい。「すごくいいことには人がたくさん来るし、話題にもなるはずだ」
というところに、僕も嶋さんも自信がありました。重要なのはそこから先です。
「どうしたら、それができるのか」を、考えなくてはいけない。
僕たちはいろいろ工夫しているのですが、一つは店内の空間デザインです。た
とえば「ビレッジヴァンガード」のような、雑多な空間デザインをコンセプトにし
ている書店でビールを出したら、もっとこぼされると思うんですよ。でも「B&B」
は、とてもゆったりと整然としていて、音楽もクラシックやジャズなどを静かに
流しています。こういう空間で、人は酔っぱらいたいと思わないんです。つまり、
僕たちは「ここで何杯も飲んで、倒れたり、吐いたりしてほしくない」ので、そん
なことをしたくなくなる空間を設計すればいいわけです。 もちろん、店内で気持
ちよくビールを飲んでもらいたい。でもそれは、ビールを飲んで、ちょっといい
気持ちで本を選ぶくらいのことがしたくなる空間なんです。
とはいえ、実際に開店するときは、きっとこぼされるだろうと思っていました
し、ある程度は覚悟していたのですが、実際には本にビールがこぼれて売り物に
ならなくなったのは、月に 1 回もないです。「B&B」ではビールを 500 円で販売し
ビジネス/美意識/情報の観点から、空間をディレクションする
21本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ているのですが、ビールの原価は 100 円台です。でも、文庫本を 500 円で売って
も書店が得られる利益は、だいたい 100 円です。ビールを売ることによって出る
利益を考えれば、たとえ 2000 円の本が 1 ヶ月に1冊駄目になっても、ビジネス
としては問題ないんです。こういうことはまずやってみて、駄目ならやめればい
いんです。やってみることが大事なんです。
ポップを貼らずに、伝える工夫
「B&B」は、店内に POP を貼っていません。いま「B&B」では「月の本」のフェア
を開催しているのですが、棚に「月の本」という POP をつけることなく、いかに
並んでいる本をパッと見ただけで、その棚のテーマをお客さんに伝えられるかを
常に意識しています。
POP をつけずにその棚がなんの棚なのかを伝えるためには、「全体として分か
る」ようにすることです。こういうのはディスプレイ技術です。よく陥りがちな
のが、選書する側にその本についての知識があると、逆に分かりづらい展示をし
てしまうということです。たとえば「月のフェア」をつくる際に、「その作品のな
かで、月が重要なモチーフとして出てくる」という知識があると、書名に「月」が
入っていない本を選んで、工夫なく棚に置いてしまうんです。そうすると、当然
ながらその作品を読んでいないお客さんには、それが月と関係のある本だという
ことが伝わらないんです。
では、どうやって伝えるかというと、どう本を置くかです。例えば『月光仮面』
を置いて、その隣に「美しい月」みたいな本があって、さらに「月の写真集」を置
けば、その隣にある本の書名に「月」というワードが入ってなくても、「きっと、
月の本なんだろうな」と、棚の文脈からお客さんが想像できますよね。こういう
ことが結構、重要です。
表紙に「月」のイラストや写真があるものを、ドンと面出しするのも有効ですね。
月をテーマに 100 冊選書するのであれば、60 冊はタイトルに「月」と関連する言
葉が入っていないと分からないと思います。
ワクワク感を演出する
あと棚づくりで心がけていることは、「B&B」の店内スペースは 30 坪くらいと、
「B&B」店内
24 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
さほど広くはありません。そうすると「この本が欲しい」と言って来てくださる
お客さんに対して、面積の大きい大型書店や amazon に、品揃えの面で圧倒的に
勝てないのです。また「B&B」は、あるジャンルに特化した専門書店ではないので、
例えば建築を専門とする書店の棚に勝てるかというと勝てないわけです。
そうなれば、僕たちのような 20 ∼ 30 坪の本屋がやらなくてはいけないことは、
買う本が明確に決まっている人ではなくて、「なにか面白い本がないかな?」っ
て思っている人に来てもらって、ちゃんと見つけてもらうことです。となると、
棚にワクワクするような感じがないと駄目なんですよ。しかも、店内に置ける限
られた冊数のなかで、なるべく棚の中に「広い世界」をつくらなくてはいけない。
たくさん本があれば広い世界がつくれて当たり前なのですが、数十冊しか本が置
けないなかで、いかにジャンプするかということです。棚をつくる際には、そう
いったワクワク感や広がりに気を配るようにスタッフと意識しています。
手づくり感をもてはやさない
空間をつくるうえで「トータルディレクションができているか」は、とても大
切だと思います。どんなに洗練された建築をつくっても、建物の中の空間で司書
さんが書いた手書きの POP がベタベタと貼られていたら台無しです。よく思う
のですが、本屋や図書館というのは「手書き=よいこと」みたいな錯覚が、ほか
の業界よりもまかり通っていると思います。たとえばアパレルショップの「ビー
ムス」で、「この T シャツはかっこいい!」みたいなことを、店員が手書きで POP
に書かないですよね。「スターバックス」でも手書きをしていい場所は、看板とか、
黒板の一部です。
でも、これは致し方ないところもあるとは思います。なぜ、書店で手書きが多
くなるかというと、本屋は現場に入ってくるものが毎日変わるので、アピールし
なくてはならないものが日々、変わるわけです。そうすると現場が一番わかって
いるので、現場のスタッフが手書きしたものを貼らざるを得ないのでしょう。つ
まり、トータルディレクションとしての本部機能が効かせにくいんです。これが
「スターバックス」ならば、毎日、新商品が入るわけではないので、日々、言わな
くてはいけないことってあんまりなくて、季節ごとに情報を出せばいい。だから
ルールがつくりやすいんです。
25本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
本屋や図書館は「手づくり感」みたいなものがもてはやされやすいのですが、
手づくり感があれば全てがよいなんてことは絶対にないんです。もちろん手書き
を一概に悪いと言っているわけではなくて、例えば「ビレッジヴァンガード」では、
「赤い線が入った黄色い紙」に手書きで POP を書いていますよね。そういうルー
ルさえあれば、全体が奇麗にみえます。
こうしたディレクションはクールにやらなくてはいけなくて、「誰々さんは字
がうまいから」みたいなところでやるのは、やはり仕事ではなくて趣味の発想な
んです。図書館でもせめてロゴの運用を決めるとか、館内サインのデザイン、つ
まりフォント、大きさ、色などを、ロジカルに統一するべきだと思います。当たり
前のことですが、「大分類」よりも「中分類」が大きく書かれていたらおかしいん
です。「中分類」を指し示している時点で、すべての「中分類」を示すサインのフォ
ントは同じはずなのに、他の場所ではフォントが変わっていたり、大きくなって
いたり、色まで違っていたり、こういうのは絶対に駄目なんです。
館内のフォントは統一するなり、手書きの場合でもフォーマットを決めるだけ
でだいぶ印象が違います。これは「なんでもかんでも洗練して、奇麗にすればい
い」ということではありません。図書館に来た人に、伝えるべきメッセージをス
トレスなく伝えるための「情報のデザイン」と、アットホームに館内で過ごして
もらうための「雰囲気づくり」を、分けて考えないといけません。どちらにせよ、
誰も管理せずにフリーダムにやるのではなくて、こういうことを意識的にやる必
要はあると思います。
もし僕が図書館の館長だったら、その地域に住んでいる知的好奇心のある人
たちが集まるような空間をつくるために、今、自分たちの図書館に「どういう人
たちが来ていて、どういう人たちが来ていない」のか、「来ていない人のなかには、
来てほしい人がいるのか」「なぜ、その人たちは来ていないのか」「どういうこと
をしたら、その人たちが来てくれるのか」など、地域の特性を考えながら、とにか
く考えて、考えたことをひたすら実行していくと思います。
図書館という「場」としての魅力
26 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
図書館の本の電子書籍化がいわれて久しいですが、保存の観点からはとても意
味のあることだと思いますし、「図書館というリアルな場所が、いずれ個人の PC
のサイト上に生まれる電子図書館になるんだ」ということであれば、そちらに向
かうのもあり得ると思いますが、リアルな場所がある前提で図書館の本を電子化
していくのは、サービスとしてはあまり意味がないことだと僕は思っています。
データというのは自分の PC とか携帯などの端末で見るものだし、複製可能であ
ることに意味があるからです。すでに場があるのですから、場の魅力をつくって
いくことだと思います。
データの本にできなくて、紙の本にできること。それは、空間を直接つくるこ
とができるということです。そういう場の魅力というのは、質量がある紙の本な
らではなのです。
人が本を好きになるプロセスには、大きな本棚を前にして「世の中にはこんな
にいろいろな本があるんだ」とか「難しすぎて今は読めないけど、いつか読める
店内には、座って本が読める空間もある
27本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ようになりたい」とか、物理的に圧倒された経験みたいなものがあると思うんで
す。今までは、そういう経験を生み出す「場としての役割」を、家にある本棚とか、
街の本屋が担っていたと思うんですけど、街から書店がなくなったり、親も本棚
をもっていなかったりするなかで、そういう経験を子どもができるのは図書館く
らいしかないでしょう。図書館という場所はいろんな役割があると思いますが、
「知的好奇心がわっと芽を出す場」として、ますます重要な役割があると思ってい
ます。
できるところから、「人のやっていないこと」をやり続ける
図書館の場合は行政との関係があるでしょうから、書店とは違う苦労がいろい
ろあると思います。でも行政にだって自治体ごとに癖があると思うので、「こうい
うところでは、そんなに厳しくは言ってこないだろう」というポイントをみつけ
たら、そこで違うことをやればいいのではないでしょうか。それはもうケース・
バイ・ケースなので一概には言えないですけど、できるところから「人のやって
いないこと」をするしかないと思います。「なにもできない」ということは、絶対
にないと思いますから。
なにも大きな予算のかかることではなくても、街に住んでいる読書家の高齢者
が、図書館に来る子どもたちに本読みをして交流を生んだり、著者を呼んで人を
集めたりして「この図書館、面白いよね」って言われるようなことを積み上げて
いけばいいと思います。
あとは、こういう媒体に取り上げられるような図書館にすることだと思いま
す。他館とは違うことをして注目を集めて、「あそこはなにか違うぞ」と思われる
ような評判をつくっていく。評判というのは、評判が評判を呼ぶみたいなところ
があって、一度取り上げられるようになると、何度も取り上げられていくんです。
やはり、そうなるにはやり続けることしかないと思います。
28 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
※ 1 2003 年にメンバー 3 人で結成。2006 年末まで代表を内沼氏がつとめ、現在の代表
は川上洋平氏。渋谷のギャラリースペース SUNDAY ISSUE、新宿のシェアオフィス
HAPONのブックコーナーの選書や企画運営、オリジナル商品「文庫本葉書」の販売、
図書館や文学館での本のワークショップなど、各地で人と本が出会う偶然を生む
ための活動を行う。
http://www.bookpickorchestra.com/
※2 北尾トロ『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』(風塵社、2000年)
※ 3 2011 年よりディスクユニオンが展開した読書家のための読書用品ブランド。内
沼氏がプロデューサーをつとめ、さまざまなクリエイターや有識者とコラボレー
ションをしている。
http://diskunion.net/bibliophilic/
※ 4 内沼氏が代表をつとめる「本とアイデアのレーベル」。書籍売り場やライブラリー
のプロデュース、本にまつわるプロジェクト企画や作品制作、書店や出版社のコン
サルティング、電子書籍関連のプロデュースなどを手がける。
http://numabooks.com/
文中注釈
29本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
30 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
「本」が生み出す、
これからのコミュニティ
1979年生まれ。大阪市立大学法学部卒。「日常編集家」として公私の狭間、
異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、文章、音楽、
プロジェクトを通じて創作する。神戸女学院大学キャリアデザインプログラ
ム、立命館大学映像学部などで講師。著書に『住み開き 家から始めるコミュ
ニティ』(筑摩書房)『編集進化論 editするのは誰か』『クリエイティブ・コミュ
ニティ・デザイン』(共にフィルムアート社、共著)。「マガジン航」(ボイ
ジャー)、「学芸カフェ」(学芸出版社)、「ソトコト」(木楽舎)など各メディアに
て連載中。ユニットSjQ++(HEADZ)ドラム担当。
アサダワタル
各地域に滞在しながら、コミュニティプロジェクトの構想演出や教育・福祉現
場における音楽ワークショップの実施、それらにまつわる文筆活動など、幅広い
フィールドで活動されるアサダワタルさんは、もともとバンドのドラマーとして
キャリアを始められている。その後、表現活動を「音」から「場/事」に広げ、多彩
に活動するアサダさんのベースには、日常にこびりついた既存の価値観を再編集
する目線が常にある。
2009 年、アサダさんが提唱した「住み開き」は、「住む」というありふれた空間
をほんの少し編集することで、日常や社会の風景を一新し、多方面に影響を与え
た。図書館業界も例外ではなく、「住み開き」は 2011 年の Library of the Year を
受賞した。
本インタビューでは、アサダさんが実践したさまざまなプロジェクトを伺いな
がら、「本」や「本屋」をつかったコミュニティの生み出し方を考えたい。
31本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
僕はもともとミュージシャンとして、バンドでドラムしか叩いてなかったの
ですが、音楽だけではなく、映像とか美術などのイベントをオーガナイズしたり、
スペースの運営とかに関わりだすうちに、街の人たちとつながって、いつしか「ま
ちづくり」みたいなことにもつながったんです。そして、そうした活動のなかで、
文章を書いたり、滞在制作をしたり、司会をしたり、大学で講義をしたり、自分の
専門がどんどん脱領域化して、もはや自分の肩書きが名付けられなくなったので、
「日常編集家」と勝手に名乗るようになりました。
「日常編集」というのは、簡単に言うと「日常」と「非日常」のボーダーをいじっ
たり、ずらしたりすることです。アートが持つ力の一つに、「日常の見え方を変
える」というものがありますが、僕はアートに関わることが多かったせいもあり、
「日常」と「非日常」のボーダーを考えることにとても興味があるんです。例えば、
休日にミュージシャンのライブを聞きに行く体験は、非日常的な体験です。その
とき、僕が気になるのは「ライブに行く人の日常は、いつの時点から非日常に切
り替わっているのか」ということです。きっとライブに行く数ヶ月前から、ライ
ブで聴く歌手の曲を iPod で再生してワクワクしたり、当日、着ていく服装を選
んでウキウキする……こういった音楽にまつわるさまざまな行為を、アメリカの
音楽学者 、クリストファー・スモールは「ミュージッキング」と呼んだのですが、
その時、すでに日常とは違った非日常の感覚を味わっているんだと思います。
こういう非日常の感覚を個々人が意識し、コントロールできるようになったら、
日常の風景が変わるはずだと思うのです。僕は「日常編集家」として、ありふれた
日常行為を意識的に捉え、刺激的に読み直すための試みを、妄想レベルから具体
的な実践までさまざまに行っています。
「日常」と「非日常」のボーダーをいじるその試みの一つとして、僕は 2009 年
に「住み開き」を提唱しました。「住み開き」というのは、夫婦や家族で暮らしたり、
友人たちと住んだりする住居のようなプライベートな空間の一部を、本来の用途
以外の新しいアイデアを盛り込み、無理をしない範囲で限定的に開放することに
よって、いろいろな人が集まるセミパブリックな空間を生み出す活動や現象のこ
とです。たとえば絵を描く人であれば、自分の家をアトリエにすることがあるで
「住み開き」で、他者と他者をつなぎ直す
32 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
しょう。その延長で家の一部をギャラリーにするうちに、知らない人が家に入っ
てきて、サロン化していったりする。
「住む」というのは、いわば「日常」なのですが、住居の一部を、音楽でも、手芸
でも、読書会でも、子育てでもなんでもいいのですが、自分の好きなことや携わっ
ていることをきっかけに少しだけ開放すると、住人以外の第三者が入ってきて、
家が共有空間になっていく。そこに非日常が生まれます。
僕自身、大阪市北区南森町の住居用マンションを知り合いのクリエイターた
ちと借りて、自分たちのスタジオとしても利用しながら、定期的なトークサロン、
ワークショップ、上映会などをしていくという「住み開き」を 2006 年から 2010
年までしていました。そして、こういう活動を広げていけば、「日常から生まれる
文化」のいろいろなバリエーションがつくれるだろうと思ったんです。
そこで、2009 年頃から「住み開き」をアートプロジェクトにしました。「住み開
大阪市西区九条「ぶんぶん文庫」。遊びにきた子どもたちと絵本を読む
33本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
き」的な現象をリサーチし、全国を訪問取材したのです。本に関わる「住み開き」
の事例としては、大阪市の西区にある「ぶんぶん文庫」があります。主宰者はこ
この家に住む駒崎順子さんで、彼女は大学で教育学を学び、図書館や学校におけ
るボランティアでの読み聞かせ活動などもされていた方です。駒崎さんは、絵本
や児童文学が楽しめる個人図書館として、定期的に自宅の一部を開放し、自由な
文脈で子どもたちと出会う場を生み出していました。そのほかにも、自宅で本を
使ったワークショップをやっている人とか、独立して家を出ていった子どもの部
屋をカフェにして子育てをキーワードにしたサロンにしたり、自宅を水族館にし
ていたり、ユニークな事例がたくさんありました。
そのあり方はさまざまですが、「住み開き」をしている人たちに共通しているの
は、お金に還元されない役割として自分たちの社会活動を展開し、他者と他者を
つなぎ直しているということです。そして、そういう人たちが「住み開いた場」は、
「もてなす側/もてなされる側」、「受け手/送り手」といった硬直した関係性を超
えて、とても風通しのよいコミュニケーションを生み出していました。
もともと「住み開き」にある問題意識というのは、固定化した関係性を無意識
に受け入れることで生まれるコミュニケーションの硬直化でした。たとえば都市
のなかにあるさまざまな空間――会社、自宅、ショッピングモール、公園、図書館
などで、私たちはその空間における役割を無意識につくりあげて、ある時はサー
ビスの提供側になり、ある時はサービスを受けるお客側になり、お金を交換する
だけのお互いの役割のなかで、形式的なコミュニケーションを成立させていない
でしょうか。もちろん、こういう役割の空間が、一定の秩序や快適さも与えてく
れるので、そのこと自体の善悪を言いたいわけではありません。そういう空間の
役割を意識的にずらしてみることで、新しいコミュニケーションや人と人とのつ
ながりが見えてくるのではと思ったのです。
「住み開き」の根底にあるこうした問題意識は、アートのフィールドだけではな
く、若い人たちが集まるシェアハウス入居への動機づけや、高齢化社会において
図書館と「住み開き」
34 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
問題化する老人の孤立を防ぎ、多世代間の交流を促すなど、福祉や教育、街づく
りなど、全国の自治体、公的団体などから注目を浴びることになりました。
さらに 2011 年には、図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている機
関・団体・活動に対して、NPO 法人「知的資源イニシアティブ(IRI)」が毎年、授
与する「Library of the Year」の優秀賞に「住み開き」が選ばれました。この賞では、
自薦・他薦されたなかから、選考委員の審査を経て優秀賞が決まります。大賞を
決める最終選考では、プレゼンターがそれぞれの候補を紹介するのですが、「住み
開き」のプレゼンターは紹介する理由について、「図書館という場が本を貸すだけ
ではなくて、レファレンス機能のなかに地域の相談が盛り込まれたり、地域の図
書館が個人の図書館やミニライブラリーといった活動とつながる仕組みをもった
りするといった、「これからの図書館」を考える際に『住み開き』は有効だと思う
から、この言葉を図書館側に強く知ってもらいたい」と仰って下さって、非常に
嬉しかったです。IRI は「住み開き」を「公からの一方的な情報提供から市民同士
による情報提供への変化の一形態として、これからの図書館のあり方にとって参
考になる点」を評価して下さいました。
僕自身が書き手であることもあり、以前から本というメディアに興味を持って
いたのですが、今年から「本と出版の未来」を考える Web マガジン「マガジン航」
に「本屋はブギーバック」(http://www.dotbook.jp/magazine-k/boogieback_01/)
という連載を始めたことがきっかけで、「本がある場をどうやって再編集するか」
とか、「本を使って新しいコミュニケーションが生まれるきっかけってなんだろ
う?」ということを深く考えるようになりました。
僕がこの連載で書いているのは、「本と出版の未来」をダイレクトにテーマにし
ているというよりも、「人と人とをつなぐメディアとしての本のあり方」といった
ことをテーマに書いているんです。図書館もそうですが、書店というのは膨大な
数の書籍という文化的なリソースが眠っていますよね。そういう場所で、個人が
好きに自分の買いたい本を選んで買って帰るなり、借りて帰るなりするのもいい
メディアを使ってなにができるか
35本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
のですが、そこにある本を使って、そこの地域にいて普段は出会わないような人
たちが会話をしてみたりとか、会話の少なかった子どもとおじいちゃんが、本を
介することで会話が変わったりとか、そういう現象を生み出す可能性があるので
はないかと思っています。
こういうことを考えるのには実は下地があって、僕は音楽の活動をするプロセ
スにおいて、かつてのように曲をつくったり、自分で演奏をすることよりも、「音
楽を日常生活に投げこんで、どうコミュニケーションを生み出すか」みたいなこ
とのほうに興味を持ち始めたんです。詳しくは「マガジン航」でも書いているので、
ぜひそちらで読んでいただきたいのですが、つまり僕はメディアをつくることよ
りも、「すでにあるメディアの使い方を発明すること」に興味があるんですね。
わかりやすく言うと、本であれば文章を書いたり、編集をしてオリジナルな 1
冊の本をつくる「一次創作」(本の編集行為そのものが「二次創作」であるという
考えもありますが、ここではそれは便宜上「一次創作」として捉えます)ではなく、
「本を使ってなにをするか」を考える「二次創作」、あるいはメディアの創造的転
『KPPL(借りパクプレイリスト)』展の風景(大阪アートコートギャラリー)
36 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
用に興味があるのです。音楽の世界には、二次創作の方法として、曲の一部を改
変して演出しなおすリミックスのテクニックや、2 曲以上の曲を混ぜ合わせて 1
曲に仕立て上げるマッシュアップなどといった、デジタル音楽での手法がありま
すが、僕が二次創作を考えるときに重要にしているのは、「もう一度、人と人が対
峙して、目の前にある本なり CD で今からどんな面白いコミュニケーションを起
こそうか」といったアナログな姿勢です。
たとえば、僕が試みた企画に「KPPL(借りパクプレイリスト)」というのがあり
ます。「借りパク」というのは、かしこまって説明するのも変ですが、「人から借り
た物を、そのまま自分の物にしてしまう(パクってしまう)こと」を指す言葉です。
なんらかの事情により返しそびれ、結果的に私物になった CD を未だに捨てられ
ずにもっている人ってけっこう多いと思うのですが、僕も引っ越しや進学の際に、
友人やかつての恋人からたくさんの CD を借りパクし、同時に同じくらいの品々
を借りパクされてきたんです。
ある日、借りパクしてしまった CD を眺めながら、その持ち主の顔を思い出
し、その時代の思い出をその音楽とともに回想しているうち、「借りパクエピソー
ドとともに借りパク CD を試聴展示したら、どんな感じで音楽を楽しめるのだろ
う !?」と思いついたんです。そこで、自分の借りパク CD のほかに公募でも集め
た合計 100 枚で、期間限定の借りパク専門の CD 屋を大阪のアートコートギャラ
リーでたちあげました。展示する CD には、その CD にまつわる思い出を書いた
POP をデザインして、試聴機も置きました。さらに会場では、借りパクの思い出
を語り合うトークサロンも開催したんです。
トークでは「当時、付き合っていた恋人から借りたんだけど、別れてしまった
ので返せなくなった」とか、「兄弟から借りたんだけど、自分が留学したから返せ
ないままになった」とか、その CD にまつわる個人の思いを語り合いました。興味
深いのはある特定の CD(小沢健二『LIFE』など)を背景にして、個々人がまったく
別々の記憶をシェアし合うんですが、そこにはその時代を反映した集合的な記憶
が確かに垣間見えるんです。そういった世代共通の音楽を音楽社会学者の小泉恭
子さんは「コモン・ミュージック」と名付けたのですが、まさに、音楽に限らずメ
ディアを通じた語りのプロセスで、公私が入り交じる独特なコミュニケーション
が発生するのです。
37本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
この企画は、本にも転用できると思います。借りパク本は、もはや本の中身と
は直接は関係ないのですが、読み手の人間臭さが如実に、かつユニークに立ち現
れる行為になると思うんです。そこから「日常生活における本との付き合い方」や、
「人と人とをつなぐメディアとしての本のあり方」など、色々なことが見えてくる
はずです。でも、図書館の本は借りパクしちゃダメですよ(笑)。
目の前にある 1 枚の CD なり1冊の本を使ってなにかしようとするとき、僕の
感覚では、メディアの有史以前に人間がごくふつうに行っていたあり方のほうへ、
歴史的に戻っていく作業が重要だと思っています。どういうことかというと、あ
る音楽をレコードに記録する技術ができる前は、当然ながら現在のように「オリ
ジナル」といった発想が十分には出てきていないわけです。楽譜がない時代まで
遡れば事態は一層わかりやすいでしょう。今は音楽業界も崩れてきて、音源を買
うことよりもライブに行くことの価値が相対的に上がってきているので一概に
は言えませんが、レコードが正典、つまりオリジナルになって、ライブがそのプ
ロモーションのために準備されるという構造が存在するわけです。多くの文化活
動がレコードであれ CD であれ、DVD であれ、はたまた mp3 データであれ、なに
かしらのメディアをつくることを目的とするのは、メディアにすることで金銭を
得る、つまり産業にしないといけないからですよね。でも、メディアのない時代
は、それを誰かに伝えたり、聞いてもらうためには自分が実演して表現するしか
なかったんですよ。
明治の終わりから昭和の初期、自由民権運動が盛んな頃に、「演歌師」と呼ば
れる人たちがいたのをご存知でしょうか。彼らは街なかで、政治的な主張やメッ
セージを聞いてもらうために節にのせて、歌うというか、がなりたてているんで
す。手にはその歌詞を書いた「歌本」というのを持っていて、歌を気に入った人
は歌本を買っていき、「さっき、演歌師のおっちゃん、あんなふうに歌っていたよ
な」とか言って、歌本を見ながら自分なりに歌うんです。替え歌なんかも生まれて、
勝手に歌が書き換えられていくんです。そうやって文化が回っていくという状況
があったんです。
パフォーマティブなコミュニケーション
『KPPL(借りパクプレイリスト)』展より
撮影:井上嘉和
40 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
つまり、なにが言いたいかというと、人々がメディアに頼る前というのは、各々
が身体を使って演じたり、書いたり、歌ったり、会話したり、「パフォーマティブ」
なことが起きていたのだと思うんです。
僕がやりたいことは、一見ポストモダン的にも捉えられるのですが、メディア
を使いこなしつつ、こういったある意味ではプレモダン的ともいえるパフォーマ
ティブなコミュニケーションを生み出すことなのです。
たとえば、2010 年に行った「モヤモヤ読書」というものがあります。NPO 法人
アート NPO リンクの 樋口貞幸さんと、京都精華大学の都市社会学者の山田創平
さんと僕の3人で企画したのですが、「モヤモヤ読書」というのは、あるルールに
従って進められる「読書会とまち歩き」のプログラムです。どういうプログラム
かというと、
①参加者はその本を事前に読み、読書会当日に「モヤモヤするところ」(最も気に
なるところ)を発表
②みんなでモヤモヤを語り合う。語り合うことでモヤモヤが明確になったことを
付箋にメモしてもらい、机の好きなところに貼る
③全員がモヤモヤを発表し終えたら、休憩をとり、そのあいだに次の発表の準備
をする
④ 2 回目の発表。今度は本を読んだ所感など、大きなストーリーを捉え、思うと
ころを話す。それをみんなでシェアする(共感したり、同意したり、違う意見を
言ってみたり)。そのとき、自由にメモしてもらい、机に貼付けてもらう
⑤最後に机の付箋を見直して、振り返りをナビゲーターが行う
⑥話し合ったことを考えながら、みんなで街を歩く
こんな流れです。このプログラムは「読書会とまち歩き」がセットであること
がけっこう重要で、読書会で読む本とそのあとでまち歩きをする場所が、ゆるや
かに関連しています。
『忘れられた日本人』(宮本常一、岩波書店 、1984 年)が選書された読書会では、
西成釜ヶ崎(大阪府大阪市)を歩きました。読書会の会場は、同じ西成にある商店
街「動物園前一番街」のなかにある「ココルーム」という、アート NPO が運営する
41本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
サロンスペースで行ったのですが、この場所にはドヤ街の日雇いで働くおじさん
なんかも集まるんです。読書会をやっているときに、ぶらっとココルームに来た
西成のおじさんも、なんとなく興味をもって話に参加してくれるんです。そうす
るとそのおじさんたちの話が面白いんですね。彼らは高度経済成長期の西成の街
を体感していたり、その時代に多数建てられた日本中のさまざまな建物の現場作
業をしてきた人たちなんです。多少時代は違えど、労働を通じていまの日本を支
えてきた人たちという意味で本の中に出てくる人たちのエピソードと重なってく
るんですよ。
『忘れられた日本人』という本は、著者で民俗学者の宮本常一が、人生の大半を
日本各地くまなく歩いて、その土地の農作業や漁業における労働のあり方や民間
の伝承を克明に調査して1冊の本にしたものなのですが、それぞれの地域に住ん
でいた人々の人生を万華鏡のように捉えていて、非常に感動的な本なんです。こ
「モヤモヤ読書」開催のチラシ(大阪 / 2010 年 11 月 12 月)
42 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
うした本の内容もあって、このときの読書会では、自分の人生に引き寄せたエピ
ソードを語る人が非常に多かったんです。
読書会でみんなの記憶とか思いをシェアしたあと、西成の街を歩くのですが、
これは良い意味でわりと危なっかしいんです。本の世界が残像として頭のなかを
グルグル、モヤモヤしている状態のまま街を歩くので、軽い酩酊状態なんですよ
(笑)。こういう状態で街を歩いていると、「ここの曲がり角は、本のなかのあの場
面に近いよね」みたいなことを言う人がでてきたりします。
西成のほかに、大阪梅田の近くにある堂山町では、アントニオ・タブッキの『イ
ンド夜想曲』(白水社、1993 年)を読んでまち歩きをしました。この街はとても雑
多な雰囲気の街で、本のイメージともシンクロするんです。堂山町と同じ梅田界
隈で、もう少し雰囲気が違う下町で本庄という街では、レヴィ・ストロースの『悲
しき熱帯』(中央公論新社、2001 年)を読みました。いずれも選書は、地域コミュ
ニティとアートの活動に造詣が深い、アサヒビール芸術文化財団事務局長(当時)
の加藤種男さん、そして山田創平さんと僕がファシリテーターになって、その場
に 10 人くらいが集まって実施しました。
本を読んだときに生まれる「モヤモヤする感覚」を他者と共有していくやりと
りのなかで、参加者は五感を開いたり、自分の中から生まれる言葉を探したり、
身体を使って街に身を委ねたり、表現したりして、「パフォーマティブ」になって
いくんです。そしてパフォーマティブな行為というのは、少し誤解を招く言葉で
もあるのですが「儀礼的」になっていくと思います。
儀礼的というのはどういうことかというと、たとえばアニメファンが「聖地巡
礼」をやるじゃないですか。「アニメ聖地巡礼」というのは、アニメの舞台となっ
た場所をそれぞれの思いなり、物語の文脈を携えながら訪問して楽しむものなの
ですが、言ってみれば妄想の固まりなんです。最近では、観光社会学者の岡本健
さんが、地域に新しい文化的・観光的コンテクストを付与してゆく「N 次創作観
光」という言葉を提唱されています。一見、すごく突飛で、良い意味でばかばかし
くもあるのだけど、でもよく考えてみると、古来からある宗教的な「儀式」とか「祭
り」というのは、そういうものなんじゃないかと思うんです。つまり目に見えな
い神様という記号を、日本の場合であれば、石だったり、木だったり、自然を祀っ
て聖地をつくっていく。つまりそういった目に見えないコンテクストをその地
43本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
域に付与していき、そのフィルターを通じて住む人、観る人が地域に対してアプ
ローチをしていく。そうした構造はあまり変わらないんですよ。
だから、自分の内に文化的なものをインプットした状態で、世界や物事に介入
していくことは、「儀礼」ととても近い。実際、「モヤモヤ読書」って儀礼っぽいく
ないですか。みんなで本を読んで、街を集団でそぞろ歩くわけですからね(笑)。
本というのは、同じ本を読んでもそれぞれ読み方、感じ方が違うし、そうした
ソフトの部分だけじゃなくても、「この本はお母さんからプレゼントしてもらっ
た」とか、「入院中の辛いときに読んだ」とか、「古本屋で偶然、手にした」とか、複
数の角度から個人的な記憶をパッケージしていると思います。それを広げていけ
ば、地域の歴史といったところにまでリンクが張られていく可能性があると思い
ます。モヤモヤ読書のような企画は、図書館でもできますよね。図書館員がファ
シリテーションしながら本に圧縮された記憶を解凍し、図書館を地域によりひら
いていくことができれば素晴らしいと思います。
あと補足的なことですが、こういった読書会で重要なことは、みんなで読んだ
あと、もう一度ひとりで読むことだと思うんです。これは僕だけが言ってるの
ではなく、「本を使った対話の会」を行っている mogu book(http://mogubook.
net/)のサトウアヤコさんも言っています。
mogu book(よく噛んで= mogu)は「ひとりで読む。みんなで読む。またひと
りで読む」がコピーになっているのですが、僕もこのコピーにとても共感してい
て、みんなで読んでたくさん話して、いろんな読み方とか、感じ方、本との付き
合い方をシェアして集合的な記憶を結んだあと、もう一度ひとりで読んだときに、
違う発見があると思うのです。ひとりで読んだものをひらいて、もう一回、孤独
に返していくということが、すごく重要だと思っています。
僕は、本であれば「注釈」や「引用」、音楽なら「サンプリング」「カットアップ」
的な感覚がとても好きなのですが、本屋とか図書館というのは、こういう感覚、
本屋で社会実験をする
44 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
つまり会話をしているとき、その会話の参照ネタにリンクボタンが張られていく
ような感覚が楽しめる格好の場所だと思っています。
大阪の心斎橋に「スタンダードブックストア」という本屋があります。「本屋で
すが、ベストセラーはおいていません。」をキャッチコピーにしているとても個性
的な本屋なのですが、僕はこの店の社長・中川和彦さんと意気投合して「本屋で
なにか社会実験をしたい」と大それたことを提案し、実践させてもらっています。
その実験の幾つかをご紹介すると、一つは「本屋でラジオ」です。これは、来年か
ら始める予定なのですが、「スタンダードブックストア」の地下 1 階にあるカフェ
併設のイベントスペースをスタジオにして、月に1回、僕と雑誌「IN/SECTS」編
集長の松村貴樹さんがパーソナリティとなって本屋内でラジオを流します。まぁ、
いわゆる館内放送です。「スタンダードブックストア」は地下 1 階と、地上階の2
フロアからなる書店なのですが、ラジオのオンエア中はどちらのフロアにもラジ
オが流れます。店内にいるお客さんは、カフェでラジオを聞くのもよし、本棚で
本を選びながら聞いてもいい。ラジオの会話を聞いて気になった本があれば、本
棚に行って手にとることもできます。
トークの話題は「なんでもあり」です。これは中川さんの言い方なのですが、「本
屋だからこそ、いろんな文脈の棚がある」と。つまり棚というのは、文脈の宝庫
なので、この空間には話題に火のつくものはなんだってあるんだから、という考
え方に僕はすごく賛同しています。料理であろうが、建築であろうが、子育てで
あろうが、お酒の話であろうが、なんの話をしてもいいのが本屋だと思うんです。
それってすごいことですよね。
同じく「スタンダードブックストア」で、現代編集者の米田智彦さんが出され
た『僕らの時代のライフデザイン』(ダイアモンド社、2013 年)の出版イベントの
際に、mogu book のサトウアヤコさんが考案した「本棚ツアー」というものをや
りました。当日、出版イベントは 12 時開演だったのですが、米田さんと僕たちは
店が開く10時から店内に入り、スタンダードブックストアの本棚をくまなく回っ
て、米田さんにかつて読んで気になった本を選んでもらったんです。米田さんは
フリーランスのエディターなのですが、1 年間、家やオフィス、家財道具を持た
ずに旅をし、そこで出会ったさまざまな「ライフデザイナー」の働き方や暮らし
出版記念トークの前に「本棚ツアー」に出る米田智彦さん
46 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
方を紹介する 生活実験プロジェクト「ノマド・トーキョー」を行ったユニークな
人で、僕たちは米田さんがどうやったら今の米田さんになったのか、その片鱗を
「米田さんが選んだ本」から知りたいと思ったんです。つまり、米田さんをつくっ
ている「背景本」です。
米田さんは「うわー、この本で泣いたな」とか、「めっちゃ懐かしいな。実はこ
の本って云々…」とか言いながら 店内の本棚から 10 冊を選び出し、最終的には
3 冊が「米田さんをつくっている背景本」となりました。
本棚ツアーが面白いのは、即興で本を選ぶので、米田さんのいろいろな意識や
無意識が選書に出てくるのです。例えば米田さんの場合、建築の棚の前で「僕が
一番、苦手な棚はここですね」となりました。どうも米田さんには、建築という
ジャンルに関心はあるけど、少し複雑な思いも持っているみたいで、こういうこ
とも浮き彫りなるんですね。それは、米田さんに「米田さんをつくっている本を
3冊持ってきてください」と事前にお願いするのとでは、全く違う結果になった
と思うんですね。
イベントに来たお客さんには、米田さんが本棚ツアーをしている様子をスライ
ドで見せながら、米田さんの背景本を紹介しました。
当日は『僕らの時代のライフデザイン』の「背景本」として、安藤忠雄さんの本
も販売しました。売れなかったですけどね(笑)。こういう選書は、Amazon のお
すすめ本機能からは絶対に生まれないでしょう。スタンダードブックストアでの
一連の試みは、文字通り「本屋を編集する」ことを実感しました。
2000 年から兵庫県宝塚市で開催されている市民映画祭に、「宝塚映画祭」とい
うのがあるのですが、この映画祭は市民が中心となって企画・運営しています。
宝塚はかつて日本最大級の映画撮影所があった町で、地元の映画館で映画を見る
ということを映画祭で地道にやってきたのですが、集客の面などいろいろ課題
があったようなんです。そこで映画祭のあり方を抜本的に変えようということで、
かつて僕と一緒に大阪で「住み開き」をやった編集者の岩淵拓郎さんがディレク
市民が自律的に図書館を使う
47本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ションし、映画を通して地域コミュニティや地域文化に対してさまざまな角度か
らアプローチを行う試みをやり始めたんです。
自分たちの好きな場所を街の中で撮影して、一斉に上映するプロジェクトとか、
「シネマハック」といって、街の映画館を楽しくする 100 の方法を映画館のスク
リーンを使ってみんなでプレゼンする企画とか、いろんなことを試みているよう
です。
僕は宝塚映画祭の試みをぜひ、図書館の方にも参考にしていただきたいと思っ
ています。たとえば市民が中心になって「図書館祭」をつくるようなことがあっ
てもいいと思います。つまり、僕は「図書館を自律的に使っていいんだ」と思える
ような感覚を市民が養うことこそが、とても重要だと思っているんです。
図書館を「本を借りるだけの場所」とか、「静かに本を読むための場所」だけだ
と思っている人がまだ多いと思うのです。それは、図書館側にもそういう考えが
当たり前のようにあるのかもしれません。図書館で自律的になにか企画ができる
というのは、僕が知っている図書館だと関西なら奈良県立図書情報館でしょう
か。「図書館でなんかやってよ」と言われて、電子音楽のワークショップ(僕がド
ラマーとして参加している「SjQ」というユニットで 2013 年春に企画した「SjQ ラ
ボ . ∼音による創造のワークショップ∼」)をやれるのも、あの図書館があるから
なんです。それは、職員に乾聰一郎さんというある意味では、図書館界における
異端の存在がいるからだとは思うのですが、そのことは乾さん自身が一番理解し
ていらして、だからこそ「図書館」という場のあり方を変革しているのだと思い
ます。
図書館という場が持つ意義はいろいろあると思います。僕は、図書館で本を探
しているときの司書さんの姿というのは、もの凄くかっこいいと思っています。
文化的なものを扱っている人の姿をリアルに見られる場所って、実は意外とない
んです。たとえば美術館の場合は、警備の目的で座っている人はいますが、キュ
レーターの姿は表では見かけないですよね。美術館やコンサートホールに毎週行
く人はそんなにいないと思いますけど、図書館ならばいるでしょう。しかも無料。
そういう身近な場所で、本という文化的なものを目の前で扱い、知識をもって紹
介してくれる人に触れること自体がとっても重要なことだと思います。
48 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ですから、図書館の本を電子書籍にして、ネットを使えばすぐに知識や情報に
アクセスできるようにするといった効率的な話よりも、図書館の本を使って、世
界と自分をつないでくれる人がいる、そういう場所の空気から学びとれる情報量
や教育というのは、絶対にあると思います。
もし僕が館長だったら、個人的な本との関わり方や本にまつわる記憶みたいな
ものを、その地域や図書館に集まるコミュニティの財産に変えていくようなプロ
ジェクトがやりたいですね。その人がその本とどういう関わり方を持ったかとい
うことをそれぞれ共有しながら、公開したり、シェアしていくような仕組みを通
じて、地域の図書館に通う人同士が結果的に交流するような場をつくりたい。そ
ういったコンセプトを図書館全体の空気として表すかどうかは別として、なにが
しかそういう仕掛けはするでしょうね。
あとは、「ライター・イン・レジデンス」の仕組みをつくります。すでに海外の
図書館には事例があるそうですが、僕自身がアーティストとしてアーティスト・
イン・レジデンスによく招いていただくんです。地域の商店街の空き店舗にレジ
デンスするとか、あるいは先日も「アーティスト・イン・スクール」といって、札
幌市内の小学校に滞在していました。小学校で滞在制作をするというプロジェク
トで、僕は「大きな転校生」として児童たちと給食を一緒に食べたり、話し合った
り、一緒に音楽で遊んだり、そのプロセスに先生方にも参加をしてもらったりし
ました。
アーティスト・イン・スクール、アーティス・イン・ホスピタルなどがあって、
アーティスト・イン・ライブラリーもありえるでしょう。地域の公共施設という
インフラをアーティストが滞在することによって、地域とのハブを新しくつくっ
たり、地域の人と図書館で働く人がリアルタイムで 1 冊の本をつくり出すような
な状態を、図書館でつくれたら素晴らしいと思います。
49本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
『編集進化論 editするのは誰か?』(仲俣暁生+編集部編、フィルムアート社、2001 年)
『住み開き 家から始めるコミュニティ』(アサダワタル、筑摩書房、2012年)
『ミュージッキング 音楽は“行為”である』(クリストファー・スモール、野澤豊一訳、
西島千尋訳、水声社、2011年)
『新・エディターシップ』(みすず書房、2009年)
『集合的記憶』(M.アルヴァックス、小関藤一郎訳、行路社、1999年)
『メモリースケープ  「あの頃」を呼び起こす音楽』(小泉恭子、みすず書房、2013年)
『サウンドとメディアの文化資源学 境界線上の音楽』(渡辺裕、春秋社、2013年)
『添田唖蝉坊 唖蝉坊流生記』(添田唖蝉坊、日本図書センター、1999年)
『n次創作観光 アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』(岡本健、
NPO法人北海道冒険芸術出版、2013年)
『ウェブ社会のゆくえ〈多孔化〉した現実のなかで』(鈴木謙介、NHK出版、2013年)
参考図書
50 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
図書館でのビブリオバトル
実施アドバイス
2006年京都大学工学研究科博士課程修了。2008年より立命館大学情報理
工学部助教、2010年より同准教授。個体と組織における記号過程の計算
論的な理解や、共生社会に向けた知能情報学技術の応用についての研究
に従事する。
著書に『コミュニケーションするロボットは創れるか 記号創発システム
への構成論的アプローチ』(NTT出版、2010年)、『ビブリオバトル 本を知
り人を知る書評ゲーム』(文春新書、2013年)がある。
谷口忠大(たにぐち・ただひろ)
1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2 ∼
3分行う。
4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした
投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする。
これがビブリオバトルの公式ルールだ。たった 4 つのルールと 5 分間のプレゼ
ンで熱く戦い、本を絆に人とつながる新感覚の書評ゲームである。各種メディア
の報道や、堺市立中央図書館などの実施で広く知られているが、「実際に図書館で
実施する時、一体どんなことを心がけたらいいのだろう?」という声も多い。そ
こで今回はビブリオバトルの考案者である谷口忠大さんに「図書館でのビブリオ
バトル実施アドバイス」というテーマでロングインタビューを行った。
図書館での実施方法をはじめ、トラブルシューティング、そしてこれからのビ
ブリオバトルと図書館のつながりまでを一気に語っていただいた。
51本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
――今回はビブリオバトルを図書館で実施していくにあたって、どんなことに気
をつけていけばいいかを中心にお伺いしたいと思います。まず、ビブリオバトル
の普及活動については、どのように行われているのでしょうか?
谷口:僕たちはビブリオバトル普及委員会というのを一応つくっていて、そのメ
ンバーが各地でいろいろ活動しています。ただ、まだまだ人数も少ないですし、
ビブリオバトルに興味を持ってくださった図書館職員の方から「ビブリオバトル
を実施したいので、普及委員の方に手伝って欲しい」といったご意見をいただく
ことも多いのですが、なかなかそうしたリクエストの全てに応えきれないのが現
状です。
また、ビブリオバトル普及委員はみんなボランティアなんですね。ボランティ
アのもとの意味である「voluntary(=自由意志の、自発的な)」の通り、自分たちが
自発的に面白い、こう普及活動をしたい、と思われたことに関わっていくという
スタイルで動いています。みんな給料が払われているわけではないですからね∼。
そういう意味で、それぞれに独立性も高く、それぞれにビブリオバトルのフィー
ルドを持っています。書店や大学、中高等学校、会社の中など、それぞれの関心の
フィールドはさまざまです。図書館のビブリオバトルに興味を持つメンバーはそ
の一部なので、人数は多くはなく、図書館でのビブリオバトル実施のお手伝いも
なかなかできるわけでもありません。皆さん平日は本職のお仕事がありますしね。
ただ、それ以前に、ビブリオバトルはやっぱりやりたいと思った人が、その組
織の中で自ら開催すべきだという思いを僕は強く持っています。
僕自身、ビブリオバトルは「だれでも簡単に実施できる」ことを大切に生み育
ててきました。ですから「ビブリオバトルを実施したい」というお声がけをもらっ
ても、基本的には図書館が主体的
に実施していただくことを前提と
してお話します。
ビブリオバトルの開催自体はメ
チャクチャ簡単ですからね。上司
の説得は難しかったりするでしょ
うが……。
公共図書館でのビブリオバトル
求められるのは図書館の主体性
有隣堂本店で行われたビブリオバトルの様子(2013 年 5 月)
52 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
の展開は、まず 2011 年に奈良
県立図書情報館で始まり、そこ
から堺市立中央図書館や熊取町
立熊取図書館などでの実施に広
がっていき、その後、全国に少
しずつ普及していったという流
れだったと聞いています。大学
図書館は若干早く、2010 年 11
月に京都大学附属図書館が実施
されたのが初めてかな?
――図書館から実施の相談を受けられたときに、共通でアドバイスされることは
ありますか?
谷口:実は、僕自身は公共図書館でのビブリオバトルの立ち上げや実施に関わっ
たことがほとんどないんですよ。なので、アドバイスなんて偉そうなことは言
えないですね∼。先程も申し上げたように、普及委員はそれぞれに自分自身の
フィールドと得意な分野を持っていて、公共図書館での活動を多くしているメン
バーが居ます。関西では普及委員会の吉野英知副代表が、公共図書館での活動を
積極的に行っていますので、彼に聞かれるのがいいかもしれないですね。
谷口さんのお話をうけて、普及委員会の吉野英知さんに、図書館でビブリオバ
トルを開催する際のアドバイスを伺った。
*
・ビブリオバトルは多くの図書館にとって、利用者である一般市民が「知の発信
源」となる、新しいタイプのイベントである
吉野:ビブリオバトルは、一般的な「輪読会」や「読書会」とは異なる概念のもと
に生まれました。つまり参加者にとっては、その内容のほとんどが未知のものな
のです。ですから実施にあたっては、事前にウェブサイトで広報していただいた
り、当日の発表者の確保や運営など、ビブリオバトルに対する図書館員の方の理
解と協力が求められます。なお、事前にウェブサイトでの広報される際は、ビブ
谷口忠大氏&樋口悟氏ミニトークの様子
(ビブリオバトル有隣堂本店、2013 年 5 月)
53本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
リオバトルの公式サイトへのリンクや引用などを積極的に行っていただくと効果
的です(知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト:http://www.bibliobattle.jp/)。
・ビブリオバトルは、継続的に実施してこそ価値を発揮する
吉野:ビブリオバトルが「知的交流の場」や「地域の市民コミュニティ」として定
着することで、図書館で実施する価値や意義がより高まると考えられます。
そのためにも「ビブリオバトルを継続的に実施して、自館で行うイベントの柱に
する」くらいの意気込みで実施していただくことが好ましいです。また職員の方
の貢献だけでなく、ビブリオバトルに参加し、盛り上げてくれる大勢の市民を巻
き込むことが不可欠です。定期的に実施することで参加者の輪が大きくなり、イ
ベントの自律化も促すことができるでしょう。
・図書館におけるビブリオバトルは、オープンな雰囲気のイベントであってほしい
吉野:公共図書館におけるビブリオバトル理想型は、ふらっと訪れた来館者がそ
のまま立ち寄って楽しめるような雰囲気をつくることと思っています。ですから
会議室やクローズドな会場、座学形式の席配置を用いたものよりも、オープンな
ホールやエントランスなどで発表者を丸く囲み、楽しい雰囲気をつくっていただ
くことが望ましいと思います。
・図書館で実施する場合は、大半の来場者がビブリオバトル初心者であるという
ことを意識する
吉野:参加者の多くがビブリオバトル初心者です。さらに参加者同士も初対面で
あることがほとんどなので、丁寧なルールの紹介はもちろん、緊張をほぐし、発
表しやすい雰囲気づくりを心がけることが必要です。
*
――ビブリオバトルが図書館を通して、どのような形で広がっていくことを理想
とされていますか?
谷口:図書館では自主的に実施していただきたいと申し上げているのもそうなん
ですが、ビブリオバトルは専門的な人が実施するような、特別なものなんかじゃ
日常としてのビブリオバトルこそを広めたい
54 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ないんです。日常的な活動の中に
溶け込める、とてもシンプルなも
のです。
よく、ビブリオバトルはメディ
アに取り上げていただいています
が、そういうメディアで紹介され
た情報だけですと、「非日常のイ
ベント」「目新しいお祭り」といっ
たイメージを持たれてしまいがち
です。メディアはどうしても「ビ
ブリオバトル首都決戦」など派手
なイベントで盛り上がっている状況を記事にしやすい傾向があります。ですので、
閉じたグループで数多く実施されている、日常的なビブリオバトルではなく、実
施に手間のかかるイベント型のビブリオバトルばかりがメディア越しにはよく目
につくんですよね。
しかし僕自身、このことには以前から「ちょっと、よくない傾向だなぁ」と感じ
ています。本を通した小さなコミュニケーションの場である、ビブリオバトルの
本質が曲解されてしまいがちだからです。
もちろん僕自身も、ビブリオバトルを行うイベント型の開催が盛り上がること
を否定するわけではなく、それ自体は喜ばしいことだと思っています。しかし、大
きなイベントとしてのビブリオバトルは、あくまで「お祭り」や「ショー」として
の面白さが強調される傾向があります。 また、開催も大変です。ああいうイベン
トだけがビブリオバトルではないよ、ということは何度もプッシュしたいですね。
ビブリオバトルは本来、本と人さえいれば誰でもできて、誰でも楽しめるもので
す。イベントとしてのビブリオバトルの印象が先行することは、ビブリオバトル
の潜在的な実施者、参加者に高いハードルを与えてしまうようにも思います。100
人を集客したビブリオバトルのイベントを見せられて「このビブリオバトルを図
書館でやりなさい」と言われたら、ビックリして尻込みしますよね? 僕として
は、図書館の読み聞かせ会のように、ビブリオバトルは日常のなかで楽しんでも
らいたいのですが、そのハードルが高まってしまうのは残念なことだと思います。
吉野のアドバイスにもあるように、図書館においては、一度きりのイベントで
はなく、小さくてもいいので継続的に実施され、より身近な、素顔のビブリオバ
ビブリオバトルで紹介された本のコーナー
(有隣堂本店、2013年6月)
55本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
トルも普及していくことを期待しています。そのためにも、図書館ではできるだ
け難しく考えずに手づくりでいいので自主実施をしてもらえればと思います。カ
ジュアルにね。
――「日常の」「素顔の」という表現が出てきましたが、それは具体的にどのよう
なものをイメージすればよいのでしょうか?
谷口:ドッジボールやフットサルを友達と遊ぶというような感じで、日常的で身
近なものとして楽しまれ、愛され、親しまれるものこそ、ビブリオバトルの「素顔」
だと思っています。
たとえば図書館で本の読み聞かせをやったとしても、主催者側が「今日の紙芝
居には、メディアも来たし、新聞報道もあってよかった!」とはならないですよ
ね? 人が多く集まった、メディアに取材された、というのがビブリオバトルの
成功ではないはずです。もっと、ワイワイと、素朴に楽しんでほしい。
 
――確かにそうした図書館のイベントでは、利用者が素敵な物語に出会えたこと
で、ほんの少しでも豊かな日常を過ごせたことを喜んでもらえれば、それが一番、
嬉しいですよね。
谷口:ビブリオバトルも、そうした温度感で楽しんでいただけるものとして広ま
り、定着していけばいいなと思います。
たとえば、近くの図書館でビブリオバトルが定期的に実施されて、おじいさん
や学校帰りの子どもがふらっとやってきて、本を使った知的で楽しいひと時を過
ごして帰るような……。それがビブリオバトルの素顔であり、今、僕たちが向か
いたいと思っている方向だと思います。
――ビブリオバトルは実際に発表参加してみることで、初めてその面白さが分か
るものだと思います。
谷口:その部分は大きいと思います。見ているだけでは、その面白さは半分しか
理解していただけてないと思います。自分が面白いと思う本を人の前で発表する
という行為は、自分の面白い本をみんなに知ってほしい、という思いに支えられ
実感を持った実施と、気取らない演出が重要
56 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ているように思います。そういえば、ビブリオバトルをやり始めた当初は「発表
参加者だけが参加者だ」と言っていたほどでした。昔はだいたい5人以下でビブ
リオバトルをやっていましたからね。
――実際に実施したいという相談を受けられたとき、やはり運営者側の実践も促
されるのでしょうか?
谷口:もちろんです。実施・運営する側がビブリオバトルの経験があるのとない
のとでは、そのビブリオバトルが面白くなるかどうかに大きな違いがあります。
これは、これまでの経験から鑑みて「真実」でしょうね。
たとえば学校などでの実施を相談されたときには、まず実際に先生同士でビブ
リオバトルをされるようにアドバイスをしています。次に、先生方が発表し、子
どもは投票するだけのビブリオバトルをする。子どもは先生方の発表を評価する
側に回れるので大喜びですね。まずは、大人が背中を見せるわけです。
次に、教室の中で班に分かれて子どもたちが小規模なビブリオバトルをやる。
場合によっては、次に、クラスのみんなの前で発表するタイプのビブリオバトル
をやる。そういう順序がよいと考えています。この順番を逆順にするとよくない
みたいです。
 
――実施に際して、たとえば「これはやってはいけない」といった注意事項はあ
りますか?
谷口:スピーチ大会やプレゼン大会か何かと勘違いしないことですかね。例えば
ですが、発表者をステージに立たせてスポットライトを当てる、演壇に立たせる
など舞台仕立てにしてしまうことです。気持ちは分からなくもありませんが、そ
もそも舞台の高さや、スポットライトによる演出は、観客と発表者を分け隔て、
非日常を演出する舞台装置なのです。これは発表者と観客の双方向のコミュニ
ケーション場であるビブリオバトルの機能を、阻害さえしてしまうように思いま
す。ビブリオバトルは、発表者が観客の顔を見ながら、自分の発表のリアクショ
ンを感じられることが醍醐味でもあるのです。
もちろんイベントによっては、こういう演出がどうしても必要になる場合もあ
ると思いますが、そういう場合はできるだけ慎重にやっていただきたいと思いま
す。
57本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
――やはり実感ありきですね。実際に参加してみれば、観客から鼓舞されたり、
時に良い意味での緊張感を受けたりする発表者側の楽しみや、逆にそうした雰囲
気を感じながら発表を聞くことの面白みが分かります。
谷口:ビブリオバトルは、発表者と観客が一体になって、和気あいあいと進める
ことが大切です。そのために主催者が心がけるべきことは、気取らず、気楽なムー
ドをつくり、発表者へのハードルをできるだけ低くするように心がけ、発表者と
観客のインタラクションを促すことかなと思います。
 
――続いて、図書館でのビブリオバトルの実施をめぐるいくつかのリスクについ
て、その対処法を伺いながら、ビブリオバトルに関するある種の議論にふれたい
と思います。たとえば、「ビブリオバトルで公共の場に相応しくない主義主張、表
現を孕んだものが紹介された場合、図書館は責任をどう取るべきだろう」という
議論がありますが、このリスクについてはいかがでしょうか?
谷口:公共施設としての図書館の存在があるために、いろいろ考えられる点はあ
るかと思います。たとえば図書館でお馴染みの本の「読み聞かせ」でも、偏った思
想を持った本を扱われる危険性があり、心配されることがあると聞きます。ビブ
リオバトルでは最終的に投票で「みんなが一番読みたくなった本」を選びますか
ら、それに選ばれる可能性のない偏った本や押し付けのような本は持って来られ
にくい傾向があります。比較的、安全装置がついている方だと思います。
 
――また「図書館での実施では、騒音などの問題があるのではないか」という議
論がありますが、これに関してはいかがでしょうか?
谷口:多くの図書館が、これまで図書館に求められてきた用途で、空間設計され
ていると思います。つまり、書籍のデータベースとしての空間であり、精読また
は“静読”する空間として、設計されているのではないかと思います。「ビブリオ
バトル」はその特性上、どうしても話し声などの騒音を出してしまうため、これ
は仕方なく、今までの図書館像と食い違いを生んでしまうことになるかもしれま
せんね。これは、図書館の未来像を考えていく上でも重要な論点でしょう。
ビブリオバトルのトラブルシューティング
くまもと森都心プラザ図書館主催で行われたビブリオバトルの様子
60 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
――あるいは図書館で実施する際に、特殊な発表者が「不適切な発表」をするこ
とのリスクを減らすにはどんなことが考えられるでしょうか?
谷口:図書館員の方々の中には、ビブリオバトルの「不適切な発表」リスクを軽
減するために、事前に発表する本をチェックすることや、発表時に言う内容を
チェックするなどしたくなられる方がおられるかもしれませんが、そのようなこ
とをすると、ビブリオバトル本来の良さがなくなってしまうことは、もはや自明
かと思います。ビブリオバトルが参加型の活動である以上、リスクをゼロにする
のは難しいですね。
ただ、ビブリオバトルのイベントの実施の仕方によって、少しリスクの形が
変わることはあります。たとえば、公共図書館が主催してビブリオバトルを行
い、40 人の参加者を用意して、発表者を 5 人揃え、35 人の観客を前にして発表を
行わせたとします。そして、この 5 人の発表者のうち 1 人が不適切な本を持って
きて、相応しくない発言をしたとしましょう。こうなると、40 人全員が被害者に
なり、図書館はその責任の全てを問われてしまうかもしれません。こういう場合、
発表者の5人は「図書館のイベントで登壇した、選ばれた人が不適切な発言をし
たから図書館に責任がある」という見え方がしますからね。
しかし、たとえば 40 人の参加者を 8 人ずつの 5 グループに分け、そのグルー
プ内で 4 人の発表者、4 人の観客に分けて行ったらどうでしょうか? 仮にこの
5 つのグループの中で 1 人の発表者が不適切な振る舞いをしたとしても、他の 4
グループにその被害は波及しません。また、こういうイベントの場合は利用者か
らの見え方も「図書館のイベントに変な人が混じっていた」という見え方になり、
少し印象も変わるように思います。
そういう意味でも、小規模なビブリオバトルは魅力的だと思います。僕として
も、これで、元々の「小規模なビブリオバトル」が広まってほしいという目標も達
成されもするので、一石二鳥ですね。
 
――これは本誌の特集における共通の問いということでお聞きしたいのですが、
谷口さんが図書館の館長になったら、どんな図書館をつくられますか? 理想や
イメージのようなものがあったら、教えてください。
僕が図書館長になったら…
61本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
谷口:ちょっと待ってくださいね。あんまり考えたことがなかったので……。え
えっと、まず、条件設定をさせてもらっていいですか?
――条件設定ですか?……はい、ご自由にお願いします。
谷口:「理想の図書館」なんていうと「予算がたらふくあって、なんでもできる!」
みたいな非現実的なことになって、そんなことを前提にしたアイデアを語っても
面白くない気がします。そういうわけで、僕が「極めて弱小」の図書館の館長に
なったとさせてください。たとえば、自治体が破綻して図書館自体がお取り潰し
の後で、それでも何か図書館的なものをやっぱりつくりたいなってシチュエー
ションなどがいいかもしれませんね。あ、そんなマイ図書館ですが、図書館長の
人件費だけは最低限確保させてください。お願いします。
――どうして、そんな逆境がスタートなんですか?
谷口:組織や物事を変えるには、危機が必要です。危機があれば状況をリセット
できます。どうせ館長をやるならしがらみや蔵書もゼロなところからでいい気が
します。やはり、公共性の高い図書館は、それゆえに行政からも社会からも求め
られることや押さえ込まれることが強く、それゆえに、柔軟な行動が取りにくい
ように思うんですね。だから、一回潰れて、何も期待されないところからシミュ
レーションさせてもらったほうが、やりやすいかなぁと(笑)。
――しかし蔵書も予算もなければ、図書館をつくれない気がしますが……。
谷口:場所は多分不自由しません。破綻したような自治体なら、大体公共投資の
後の箱モノには事欠きませんから、そのどれかを流用させてもらいたいと思いま
す。蔵書もない所から始めたいですね。
――蔵書がない図書館なんて聞いたことがないですが……?
谷口:僕は図書館業界の素人ですが、図書館には二種類の機能があると思って
います。一つは蔵書を中心とした情報のデータベースとしての機能、そしてもう
一つが、本や情報に出会う場所としての機能です。現代社会ではインタ―ネット、
Web の発達で、前者の機能を提供する存在としての図書館の相対的優位性が低
下しています。「調べ物ならネットでいいじゃん」というのは、完全な正解ではあ
りませんが、間違いではありません。この機能を図書館の中核サービスとし維持
62 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
し続けるならば、現代の図書館は自らの存在意義(レゾンデートル)に頭を悩ま
せることを宿命づけられています。つねに、実世界の空間に縛られながら、ネッ
トの検索能力・データ貯蔵能力と戦わないといけないからです。技術的に考え
ていろいろ不利です。そこで、予算的にも追い詰められたマイ図書館は前者を思
い切って放り出すわけです。マイ図書館は、蔵書がなくなってしまったことをポ
ジティブシンキングで乗り越え、その機能を本と人、人と人との出会いに特化し、
地域の情報共有とコミュニティ形成に特化した図書館として生まれ変わりたいと
思います。
――本と人、人と人との出会いですか? ビブリオバトルみたいですね。
谷口:そうですね。ビブリオバトルは2012年にLibrary of the Year 2012の大賞を
いただいたのですが、大賞受賞に際してのメッセージでもこういう話は書かせて
いただきました。以下はその際に申し上げたことです。
ビブリオバトルの普及黎明期から僕自身がビブリオバトル普及委員会の
コアなメンバーと話していたことの一つに「図書館のカタチ」もしくは「図
書館 2.0」についての議論がありました。それは、「ビブリオバトルってある
意味でソーシャルな図書館の機能をもっているよね?」という認識について
の議論でした。 ビブリオバトルは「図書館」というハコは持っていませんが、
カフェであれ、会議室であれ、その場を「人を介して本と出会う空間」にする
機能をもっています。図書館には様々な役割がありますが、その一つとして
「本との出会い」に焦点を当てるならば、ビブリオバトルは少なくとも図書館
の機能の一部を持つと見なせるのではないでしょうか? ビブリオバトルは
人とのつながりの中で、その開催場所という物質的空間に拘束されることな
く、本との出会いを生むことができます。僕自身はビブリオバトルのことを
「ソーシャルな位相空間に存在する図書館のような存在」として解釈してい
ました。(中略)
ビブリオバトルは、本との出会いを、一人ひとりの読者の解釈、想い、人間
関係の中に見出し、それらを語りの中で紡ぎ上げ、ゲームというかたちにつ
なぎ合わせる事を目指してきました。それが「人を通して本を知る」という
フレーズに包まれたニュアンスです。
http://www.iri-net.org/loy/loy2012.html
63本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
図書館のデータベースとし
ての機能に特化すると、蔵書
を整然と配架し、人々が静か
に本を探し、精読する空間が
自然とデザインされていき
ます。従来の大きくて静かな
図書館ができあがるわけで
す。しかし、「人を通して本を
知る、本を通して人を知る」
という機能に特化すれば、そ
こには賑やかな図書館が生まれます。この 2 つの機能は、ある意味でトレードオ
フの関係になっているわけです。図書館を「蔵書」という制約から取り外すことで、
人と本をつなぐ 21 世紀のサードプレイスとしての図書館を実現できたらと思い
ます。
――サードプレイスとは何でしょう?
谷口:サードプレイスというのは「家庭」でも「仕事場」でもない、地域の人が交
流する第三の場所のことです。以前から、日本ではこのサードプレイスの不足が
叫ばれています。ネット社会である 21 世紀はサードプレイスが注目される時代
でもあります。現在はドキュメント情報の共有だけでなく、娯楽や、小売も含め、
街の賑いをつくっていたさまざまなものが現実世界から逃げ、ネット空間の上で
行われるようになっています。その分、経済活動が「地上」から消えていってし
まっているんですね。それが地域や賑いの喪失だといわれるわけなんですが、そ
んな中でも「人と会って交流したい」という社会的な欲望は消えないと思われま
すし、実際にもそのような報告はなされています。ネット社会にあって、サード
プレイスをどうつくり、街の賑いをつくっていくかというのが、21 世紀の街の大
きな問いの一つだと思っています。そこに貢献することをマイ図書館のミッショ
ンとしたいと考えています。
――蔵書は本当にゼロでいくんですか?
谷口:いえ、それではさすがに「図書館っぽくない」ので、それなりには揃えたい
と思います(笑)。とはいえ、お金は掛けたくない……というか、ないので、でき
横浜市中央図書館会議室で行われた「ビブリオバトル in 有隣堂 第
9弾」の様子(2013年11月)
64 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
るだけ多くの人に寄贈してもらったり、街の人が読み終わった本をどんどん図書
館に寄付してもらったりする仕組みをつくりたいですね。寄贈すればするほど経
験値が溜まって、レベルアップしていって表彰される、みたいな、ゲーム的要素
を取り入れたゲーミフィケーションみたいな仕組みとかもあってもいいかもしれ
ませんね。地元の名士みたいになれる。あと、都市部には大量の蔵書を持ってい
る人も多いですし、そういうのを寄贈いただくとか。あと、亡くなられた方の蔵
書を引き取るとか、そういうことは積極的にやっていきたいですね。できるだけ
寄贈する本にはその人自身による紹介を添えてもらえたら、よりよいかもしれま
せん。
――しかし、それでは新刊がなかなか入らないと思うのですが?
谷口:贅沢は言えません。なんせお金がないんですから(笑)。新刊は個々人で買っ
てもらったらいいし、最近は新しい本のクオリティも下がっているような気も
するので、相対的に古い本、復刊本や絶版本から選ばれるオススメ本の価値が上
がってきているように思います。新しい情報は常にネット上の情報ともその価値
を競わねばならないわけですし。むしろ図書館は古い本に特化していても構わな
い気もしますね、マイ図書館はそのポイントを突きたいと思います。あと、新し
い本は誰かが買ってビブリオバトルで持ってきてくれるので、それを回し読みと
かしたらいいんじゃないですかね? 買いたい人は買えばいいし。
――やっぱり、ビブリオバトルはやるんですね!?
谷口:もちろんです(笑)。マイ図書館では毎日、朝、昼、晩に合計 3 回のビブリ
オバトルを行います。1 回の参加者は 5 人くらいでも構いません。マイ図書館は、
行けば必ず本と人に出会える場所を実現します。他にも、いろんなセミナーとか
ワークショップもできるといいですね。ニューヨークの図書館なんかは創業支援
なんかも図書館の業務の一つだと聞きました。賑やかで地域の人々に活力を与え
る、そんな図書館を目指したいですね。人が交流し、情報が交換され、何かが生み
出される公共空間、そんなマイ図書館を目指したいと思います。
――ユニークなお考えだと思います。是非、実現してください ! 今回は長いイン
タビューにお付き合いくださり、ありがとうございました。
谷口:ありがとうございました。
特集
嶋田綾子
本と人をつなぐ
図書館の取り組み
66 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
「図書館ツアーや、館長懇談会」(P9)は、「見る・聞く・話す」ことで図書館の
仕事について知るイベントだが、「一日図書館員」は「実際に仕事をしてみる」こ
とで図書館の理解を深めるイベントである。基本的には子どもを対象としている
ものが多く、仕事を体験しながら図書館の利用の仕方も学べるイベントとして位
置づけられている。
図書館の利用者にとって、図書館員の仕事は興味深いものだろう。「一日図書館
員」は図書館の仕事を体験できるとあって、人気の高い企画である。
▶定義・意義 
定義としては、子どもに図書館の仕事を体験させる職場体験イベントとして実
施される。利用者教育の一環でもあるが、子どもが対象であることから、むしろ
啓発活動的な側面が大きい。図書館の仕事を経験したことがある子どもは、その
経験がない子どもに比べ、図書館に対して特別な気持ちと正しい理解を持って利
用し、大人になってゆくことだろう。参加者のなかには将来、図書館で働く子ど
もがいるかもしれない。
「一日図書館員」は、その地域で成長していく子どもたちと図書館を強く結びつ
ける「絆」のようなものを生み出せることが、大きな意義である。また、子どもた
ちが図書館の業務を通じて本に親しむことで、丁寧に愛情を持って本を取り扱う
姿勢をつけさせたり、読書を習慣化させることにつながる機会にもなるだろう。
学校単位では、「職場体験」の事業の一環で図書館員の仕事を体験させることも
多いが、図書館が公募して行う「一日図書館員」には、さまざまな学校から子ども
たちが集まるため、普段は顔を合わせることのない子どもたちが共同で仕事を体
験でき、学校を超えた友達づくりの場にもなる。
▶コンテンツ
「職場体験」として子どもたちがする仕事は、資料の整理、図書館利用者からの
一日図書館員
利 イ体育者 ン職用 ベむ
を ト験
場
67本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
質問に対応し資料を揃えるレファレンス、蔵書の選定 、図書へのフィルム貼りな
ど本の補強作業、絵本の読み聞かせ、特集の設置などを実際に子どもたちととも
に行う。
小学校などの体験学習の一環として、単一の学校から体験者を受け入れること
もあるが、「市内在住の小学 5・6 年生」といったように、対象年齢を絞り込んで
公募する場合もある。参加者は子どもがほとんどであるが、葛飾区立立石図書館
(東京都葛飾区)や平塚市立北図書館(神奈川県平塚市)など、一部の図書館では
大人を対象にした取り組みも行われている。大人を対象にする場合は、図書館員
の仕事を体験することで、図書館についてより理解を深めたり、図書館のサービ
スを知ってもらうことにつなげる。子どもに対しても、大人に対しても、図書館
の仕事を体験してもらうことで、図書館の良き利用者、良き理解者を育てている
のである。
▶ノウハウとポイント
◎開館中に行われるため、「一日図書館員」であることを明示する名札やおそろい
のエプロンなどを子どもたちに着用してもらい、子どもたちが職場体験中である
ことを、一般の利用者にわかるようにする。カウンターなどにも、企画を実施中
なことがわかるような掲示をするとなおよい。学校が行う「職場体験」でもそう
だが、このような掲示があると、子どもたちは自分たちが特別に迎え入れられて
いることを意識できてうれしいものである。
◎子どもたちが騒いで利用者の妨げになることがあるため、1回の受入れ人数は
あまり多くならないように心がける。受入れ人数は各館まちまちではあるが、1
回あたり 10人未満程度が理想だろう。希望者が多数となり、どうしても多くの参
加者を受け入れたい場合、グループ分けをするなどして、多数の参加者が集中し
ない工夫が必要である。
◎実際に子どもたちが本の貸出や返却作業を体験する際は、一般の利用者と触れ
合うため、事前のガイダンスを図書館ツアーなどを通して的確に行い、現場には
常に監督者として図書館職員が同伴することを心がける。または、貸出や返却作
業のような個人情報に触れる可能性のある体験は、実際のカウンターでは行わず、
68 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
参加者同士で行うなどの疑似体験で済ませるのも工夫の一つである。
◎一般の利用者を区別するためにつけてもらう名札は、そのままプレゼントすれ
ば、体験の思い出ともなる。また職場体験前、子どもたちに図書館員の委嘱状を
発行すれば、本格的な図書館員気分を味わうことができる貴重な体験の一つにな
るだろう。
◎普段は利用するだけの図書館で、実際の業務を体験できるとあって、図書館に
興味のある子どもたちからは、かなりの人気が集まることが多く、すぐに定員に
達することも多い。この場合は抽選を行うことが必要だが、その際、落選者をそ
のまま放置せず、地域にある他の分館と協力して分散させるとよい。またリピー
ターについても分館での参加を促すことで、子どもにとっては新しい図書館に行
けるというメリットがあるとともに、参加者の重複を避けることにもつながる。
分館への分散が難しい場合、回数を増やして受け入れ人数を増すことも考慮すべ
きだろう。
◎仕事にゲーム性を持たせると、子どもは喜ぶ。たとえば本の整理整頓をする作
業に、宝探し的な楽しみを加えると、子どもは熱中して取り組む。予約が入った
本を書架から探してくることなどは、まさに宝探しである。 POPづくりや紹介
文を書くといった、実際に手を使って行う創作作業にも人気がある。また「この
テーマに関する本を集めて、棚をつくってみましょう」といった問題解決をさせ
るのも効果的である。
◎大人を対象とする場合は、本の修理をするワークショップを兼ねてもよい。1
冊の本がいかに大切に扱われ、丁寧に保存されているかを知り、その方法とかか
る手間を知るのは、図書館の機能を理解し、本を丁寧に扱うことの必要性を理解
することにもつながる。また、本の保存性を高める作業という意味では、ブック
コーティングの体験も同様の効果が得られる。コーティング作業を行う本を持参
してもらい、参加者自らが作業を行えば、体験同時に成果物のお土産が同時にで
き、一石二鳥である。
69本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
甲府市立図書館では小学 3 年生から 6 年生を対象に、夏休みに「かわせみスタ
ンプ隊」という取り組みを行っている。これは図書館を出発点に、市役所と図書
館を見学したあと図書館に戻り、図書館の仕事を体験するという取り組みである。
厳密にいえば「一日図書館員」ではないが、図書館の仕事を体験するという点で
同種の取り組みである。
特徴的なのは図書館だけでなく、新しくできたばかりの市役所も訪問している
ことである。図書館員の引率で市役所を訪問するこの取り組みは、図書館だけで
はなく、行政の勉強にもなることだろう。また学校単位で行う「職場体験」とも違
い、さまざまな学校から集まった子どもたちが一緒に活動するため、広い視野で
の思い出づくり、友達づくりにもひと役買っている。
同館の仕事体験では、開架での本の整理や、パソコンとバーコードリーダーを
使っての貸出・返却作業体験、本の補修作業、リクエスト処理などがメニューと
なっている。また、子どもたちにチャレンジしてもらう項目を設定し、それらをク
リアするたびに、スタンプがもらえるという特典を用意している。スタンプはこ
のイベントに参加し、仕事などを体験するともらえるが、それ以外にも移動図書
館と公民館図書室のどちらかに訪問すると、スタンプを進呈するようにしている。
■甲府市立図書館
山梨県甲府市城東 1-12-33
http://libnet.city.kofu.yamanashi.jp/lib/
Tel:055-235-1427 Fax:055-227-6766
提供:甲府市立図書館
図書館事例
甲府市立図書館(山梨県甲府市)
70 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
人生において、本との出会いはかけがえのないものである。本を開き、新たな
「知」との出会いに興奮し、感動する。「ブックスタート」は生まれたばかりの赤
ちゃんに、本との出会いを提供する活動として広く知られている。
▶歴史
「ブックスタート」は、1992 年に“Share books with your baby!”のキャッチフレー
ズとともにイギリスで始まった運動である。日本は「ブックスタート」を展開し
た 2 番目の国であり、2000 年 11 月に杉並区で行われた試験実施が国内最初であ
る。これらの活動は「NPO 法人ブックスタート」がサポートしており、同 NPO
の報告によると、2013 年 10 月 31 日現在、「ブックスタート」を実施している自
治体は、全国で 859 自治体(49.3%)に達している。
▶定義・意義
「ブックスタート」は、赤ちゃんに絵本を楽しむ機会をプレゼントする活動であ
る。生後4ヶ月から1歳程度の赤ちゃんにお薦めの絵本をプレゼントして絵本を
楽しむ機会を与え、両親に子育てのサポートをする。
経費的な都合などで絵本をプレゼントできなくても、「ブックスタート」はでき
る。赤ちゃんに絵本を楽しむ機会を伝える場であれば、「ブックスタート」といえ
るのだ。
「ブックスタート」の意義は、絵本の世界を通して親と子どもがつながりを深め
ることだ。そして絵本の楽しさを知った親子には、子育てを通して絵本の世界を
より深めてもらうために、図書館を積極的に利用してもらうように促す。絵本を
通じて親子がつながり、図書館とつながっていくのだ。
▶コンテンツ
赤ちゃんとその保護者に絵本を読む楽しさを伝え、絵本をプレゼントするのが
ブックスタート
絵 つ館し子、 ぐ図で と なて本
そ を
書親
71本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
 「ブックスタート」である。「ブックスタート」開催時に、絵本の「読み聞かせ」
をしたり、「ブックスタート」の支援員が保護者に絵本の楽しさを伝えるお話をす
る。そのあと「ブックスタート・パック」と呼ばれるセットを手渡す。
「ブックスタート・パック」の中身は、お薦めの絵本が 1、2 冊と、お薦めの絵本
のリスト、図書館の利用案内、自治体の子育て支援制度の案内などである。
プレゼントする絵本は定番のものにこだわる必要はなく、海外の絵本や地域の
伝承を絵本にしたものを使用してもよい。ただし、赤ちゃんの年齢や月齢に配慮
した絵本を選ぶ必要がある。絵本の選書に各図書館の特色を出すことによって、
独自の「ブックスタート」を行っていくことが望ましい。
▶ノウハウとポイント
◎会場は楽しく、暖かい雰囲気を出しておくとよい。手づくりの飾り付けや、赤
ちゃんが自由に動き回れるように柔らかいマットを敷くことも大切な工夫である。
◎絵本をプレゼントする場合は、プレゼントする 1冊を含め、絵本の選び方のア
ドバイス、絵本の楽しみ方、さらには図書館の利用案内と利用申込書など、それ
ぞれに工夫した書類一式を袋にまとめた「ブックスタート・パック」を準備して
おく。
◎図書館員・保健師・ボランティアなどが、赤ちゃんと保護者1組 1組に向き合っ
て、「ブックスタート・パック」を手渡す。
◎「ブックスタート」を図書館の「おはなし会」や子育て支援施設の催しなど、子
育てに役立つ地域の情報を伝える機会の一つとして活用すると、より一層効果的
である。
◎「ブックスタート」は、その自治体で生まれたすべての赤ちゃんが対象となる。
そのため、図書館が別途に機会を設けるよりも、受診率が高い 0歳児集団健診で
「ブックスタート」を実施すると、ほぼすべての赤ちゃんに出会うことができ、効
果的である。健診と「ブックスタート」が一度に受けられるので、外出が難しい赤
ちゃんと保護者にとっても優しい配慮となる。
72 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
◎集団健診を行っていない自治体では、ほかの保健事業や子育て支援事業などの
機会に実施するとよい。図書館で日を決めて実施することも珍しくない。
◎自治体によって「ブックスタート」への取り組み方はさまざまであるため、
「ブックスタート・パック」の内容は自治体によって異なる。「ブックスタート」
に使われる絵本を特別に納める本棚をつくり館内で提示して、「ブックスタート」
を PRしている図書館もある。
◎「ブックスタート」を行うことで、「この街で、安心して子育てができますよ」と
いうメッセージにつなげるとよい。「ブックスタート」をいわば、図書館のアドボ
カシーとしても機能させるのである。
◎「ブックスタート」の特徴は、赤ちゃんにお薦めの絵本をプレゼントすること
だが、決してそれが目的ではない。赤ちゃんと保護者に絵本を読む楽しさを知っ
てもらうことが目的なのである。お薦めの絵本をプレゼントするのは、それを日
常において実感してもらうためである。この目的を誤ると、絵本をプレゼントす
ることに重きがいってしまうため、注意が必要である。
◎「ブックスタート」は、赤ちゃんが絵本に出会う最初の機会である。「ブックス
タート」を実施して終わりにするのではなく、年齢に合わせてお薦めの本を紹介
していくなど、継続的にフォローしていくことが望ましい。
◎「ブックスタート」の目的には、絵本を赤ちゃんと読み合うことの喜びを保護
者に知ってもらい、本の持つ力や他の子育て支援制度を知らせることで、安心し
て子育てをしてもらうことである。こうした主催側の思いは、「ブックスタート」
を実施するときに伝えることも必要だが、それ以外の機会を捉えて伝えることも
重要である。指宿市立図書館(鹿児島県指宿市)では赤ちゃんの出産を控える両
親や家族に対して、子育て中に絵本を読むことの楽しさや、それをサポートする
本の存在や支援サービスについて知らせ、学んでもらう場を設けている。
■参考情報
・NPOブックスタート http://www.bookstart.or.jp/
73本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■嘉手納町立図書館
沖縄県嘉手納町字嘉手納 290-9
http://www.town.kadena.okinawa.jp/rotaryplaza/tosyokan.html
Tel: 098-957-2470
撮影:岡本真
嘉手納町立図書館では、定期的に「ブックスタート」を開催している。
対象者は、生後 4 ヶ月から満 1 歳までの赤ちゃんである。対象となる赤ちゃ
んと保護者は決められた日時に図書館へ行き、絵本の楽しさについて「ブックス
タート」支援員の話を聞き、そのあとで絵本を受け取る。開催日に都合が悪ければ、
別の開催日に参加できる。また、図書館で個別対応もしている。
また、同館ではカウンター前の目立つ場所で、「ブックスタート」でお薦めする
絵本と、「ブックスタート」事業を紹介する展示を行っている。「ブックスタート」
で紹介する本は、すべての子どもにお薦めできる絵本なので、それを紹介するこ
とは有効なことである。もちろん一般の利用者にこの取り組みを周知する役目も
担っている。
図書館事例
嘉手納町立図書館(沖縄県嘉手納町)
74 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■指宿市立指宿図書館
鹿児島県指宿市十二町 2190
http://www.minc.ne.jp/ibusukilib/
Tel:0993-23-2827 Fax:0993-23-2841
指宿市立指宿図書館では、子どもが生まれる前から「マタニティお話会」として、
「ブックスタート」よりも先にマタニティママとパパ、家族を対象に実施している。
「ブックスタート」とは毛色が異なるが、子育て中における絵本との関わりや図書
館の関わりを伝えている特徴的な取り組みである。これは、赤ちゃんが生まれて
から実施する「ブックスタート」では、子育てに関する心がけなどを伝えるには
遅く、生まれる前からの親業教育が重要であるという考えから行われている。そ
のため「ブックスタート」が絵本を読むことの楽しさを伝えるのに重点を置くの
に対し、絵本を読むことも以外にも、子育てを助ける本や支援の存在、母親だけ
ではなく、父親が育児参加するために必要なことなども伝えている。
子育てにおいて赤ちゃんに「読み聞かせ」をすることの意味、暖かい声による
「言葉がけ」が心を育てるということを、お赤ちゃんを家庭に迎え入れる前に伝え
ている。また、絵本の紹介や意義の説明のほかに、名づけの本、妊婦向け栄養食本、
妊産婦の暮らし方、マタニティの運動の本(スイミングやヨガなど)、配偶者との
過ごし方、出産の本、ベビー服・マミーズバッグや小物づくりの本、赤ちゃんと
の暮らし方、離乳食、赤ちゃんの発達を紹介する本、赤ちゃんの病気の本、パパの
イクメン本、赤ちゃんが生まれてから必要となる本やものごとを伝えている。
同館では、「マタニティお話会」を保健センターと連携し、年 3 回ほど出産前の
夫婦と家族を対象に、市保健センターを会場に開催している。図書館でこのよう
な講座を開いても、母親はともかく、父親はなかなか参加しないものである。夫
婦で参加する講座と連携することで、母親だけではなく、父親にも子育てについ
て伝える機会を得ている。赤ちゃんを迎え、育てていく夫婦と家族を図書館が
バックアップしているのである。
図書館事例
指宿市立指宿図書館(鹿児島県指宿市)
75本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
提供:指宿市立指宿図書館
76 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
「ぬいぐるみのおとまり会」は、「一日図書館員」(P66)のように、子どもが図書
館を体験するためのイベントである。このイベントでは、一風変わった手法が人
気を集めている。なんと図書館でのおとまりを体験するのは子ども自身ではなく、
子どもたちのお気に入りのぬいぐるみなのである。そして子どもたちは、自分が
日頃、大切にしているぬいぐるみが、図書館でのおとまりを楽しんでいる様子を、
図書館員が撮影した写真を通して後日、知ることができる。こうすることで、子
どもたちは図書館でのおとまりを疑似体験するのである。この試みは、米国各地
の公共図書館で実施されており、現在では日本でも広まりつつある。
▶歴史
「ぬいぐるみのおとまり会」は、“stuffed animal sleepover”としてアメリカの公共
図書館で行われている人気のイベントを、国立国会図書館のカレントアウェアネ
スが紹介し、宝塚市立西図書館(兵庫県宝塚市)が日本で最初に開催したのを皮
切りに、全国の公共図書館に広まったものである。
▶定義・意義
ぬいぐるみを大切にしている年齢が対象となるため、基本的には幼児が参加対
象となる。子どもたちにとって自分の大切なぬいぐるみは、世界に生まれ落ちて
最初の、もしくは数少ない安心できる友達である。友達という概念すら、うまく
理解できていないかもしれず、自分の分身として見ているかもしれない。そうし
た特別な存在であるぬいぐるみを通して、子どもたちは図書館という世界を理解
するのである。
図書館員はぬいぐるみを一晩預かり、夜、ぬいぐるみが図書館を探検したり、
本を読んだり、仕事をしたりする様子を写真に撮る。それを子どもたちに見せる
と、多くの場合、その姿に夢中になり、ぬいぐるみの姿に同調し、笑顔になるよう
だ。
ぬいぐるみのおとまり会
幼 体書の 疑児 館
図
似 験
77本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ぬいぐるみを通して、図書館という場の豊かさや本の楽しさを子どもたちに伝
えることが、このイベントの意義である。
▶コンテンツ
イベント当日、子どもたちはそれぞれが大切にしているぬいぐるみや人形を
持って図書館に集まる。大切なぬいぐるみと一緒におはなし会などを楽しんだあ
と、子どもは用意された毛布の中にぬいぐるみを入れて寝かしつける。おやすみ
を言って、ぬいぐるみたちとしばしの別れを告げるのである。
子どもたちが家に帰ったあと、図書館員たちの仕事が始まる。ぬいぐるみたち
が図書館で楽しく遊ぶ様子を撮影するのである。閲覧室の机で本を読んだり、パ
ソコンを使ったり、書架の影でかくれんぼをしたり、図書館長の椅子に座ったり
している様子をたくさんの写真に収めてゆく。
翌日、ぬいぐるみを迎えに来た子どもたちに、これらの写真プレゼントする。
その際、館によっては、「ぬいぐるみが読んでいた本だよ」と声をかけて、お薦め
の本として貸出するケースもある。
子どもたちは、ぬいぐるみが体験した楽しい思い出とともに図書館という場所
を記憶し、読んだ本は大切な宝物になるというわけである。
 
▶ノウハウとポイント
◎最も気をつけるべき点は、ぬいぐるみを取り違えないことである。そのための
工夫としては、受付時に子どもをぬいぐるみと一緒に写真に撮ること、子ども
たちにぬいぐるみの名前を聞いて、名札を付けるなどがあげられる。カレントア
ウェアネスのサイトにも掲載されている宝塚市立西図書館の事例では、受付時に
子どもとぬいぐるみを一緒に写真に撮り、それを印刷した受付票を作成し、ぬい
ぐるみには名前が書かれたラミネート加工の名札が毛糸で結び付けられたという。
ほかの図書館でもぬいぐるみを間違えないための工夫と、思い出づくりの工夫を
同時に行うために、ぬいぐるみ用の利用カードを作成したという事例もある。
◎子どもたちがぬいぐるみを寝かしつける際は、夜のムードを出すために、部屋
の灯りを落とし、毛布にくるむなどの演出が行われることが好ましい。
◎閉館後、まずぬいぐるみを6 ∼ 8体ずつのグループに分け、それぞれに写真撮
78 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
影を行っていく。館内のさまざまな場所にぬいぐるみを置き、撮影していく。撮
影においては、図書館がどういった場所かが分かるようにすることを念頭に置く
とよい。たとえば他のぬいぐるみと一緒に本を読む、英字新聞を読ませる、貸出
作業のバーコードリーダーを持たせるといった工夫があげられる。それぞれのぬ
いぐるみに、3 ∼ 4パターンの写真が撮影されることが望ましい。
◎写真を撮りやすくするための事前準備として、子どもたちに自分の大切なぬい
ぐるみがどんな性格をしているかを聞いておくとよい。聞き出した性格からぬい
ぐるみが「やってみたいと思うこと」を割り出しておけば、写真の構図を決める
時などの参考になる。またその情報は、ぬいぐるみが気に入った本という設定で、
お薦めの本を選ぶときの参考にもなる。
◎ぬいぐるみが読んで気に入ったという設定で、お薦めの絵本を子どもたちに貸
出するのも、子どもたちの興味も引きやすい。本を選ぶ際には、事前にぬいぐる
みの性格を子どもたちから聞いておき、子どもの年齢も考慮して選ぶといい。
◎翌日、子どもたちにぬいぐるみを返す際は、「いい子にしていたよ」「楽しそう
にしていたよ」などといったメッセージとともに、職員が直接手渡すことが望ま
しい。またこの時、ぬいぐるみが読んでいた本も手渡すとよい。
◎写真は、可能であれば台紙を用意するなどが好ましい。材料は、図書館にある
ものを使ってもいいし、新しく用意する場合の材料費については、参加者からそ
の一部を集めてもよいだろう。
■参考情報
・「E1088 子どものお気に入りのぬいぐるみが図書館でお泊まり会(米国)」カレントア
ウェアネス-E、No.178、2010.09.02 http://current.ndl.go.jp/e1088
・「E1127『ぬいぐるみの図書館おとまり会』現場の様子と舞台裏(日本)」カレントアウェ
アネス -E、No.185、2010.12.16 http://current.ndl.go.jp/e1127
79本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
所沢市立所沢図書館狭山ヶ丘分館では年に 2 回、「ぬいぐるみのおとまり会」を
実施し、今年で 3 年目となる。
開催日の夕方に、ぬいぐるみを連れてきてもらい、夜の図書館に 1 泊して、翌
日、子どもたちに迎えに来てもらう。ぬいぐるみが子どもたちのもとへ帰るとき
に、「おとまり証明書」と、夜の間の活躍を収めた写真を手渡す。ぬいぐるみの性
格と子どもの年齢に考慮した絵本も一緒に手渡している。
図書館に預けられたぬいぐるみは、子どもたちに代わって夜の図書館を探検し
たり、絵本の「読み聞かせ」を聞いたり、図書館の業務を体験する。その様子を写
真に収める。どのぬいぐるみも、必ず写真に納まるように気を配ったり、子ども
たち一人ひとりに合わせた本を選ぶことが重要である。
お気に入りのぬいぐるみが体験した夜の図書館を、子どもたちは疑似体験する。
そのことが、より図書館と本を身近なものに感じさせる。子どもたち一人ひとり
に合わせて選ばれた絵本は、子どもたちにとってかけがえのない思い出となるだ
ろう。
図書館事例
所沢市立所沢図書館狭山ヶ丘分館(埼玉県所沢市)
■所沢市立所沢図書館狭山ヶ丘分館
埼玉県所沢市若狭 4-2478-4
https://lib.city.tokorozawa.saitama.jp/
Tel: 04-2949-1193 Fax: 04-2949-8577
提供:所沢市立所沢図書館狭山ヶ丘分館
80 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
「夏の自由研究」は、子どもたちにとって夏の一大ミッションである。学校側が
テーマを出している場合もあれば、自由設定の場合もあり、その内容はさまざま
だ。しかし、子どもたちにとってはなんらかのかたちで「調べもの」をしなければ
ならない。これは彼らの、おそらく人生初の「研究」なのである。
そこで、図書館で子どもたちの夏の自由研究を全面的にサポートしようと始
まったのが「夏の自由研究サポート」である。今回は千代田区立千代田図書館(東
京都千代田区)と千代田区立四番町図書館(東京都千代田区)で実施されている「調
べもの戦隊 レファレンジャー」を主なケーススタディとして考察する。
▶歴史
千代田区立千代田図書館の「調べもの戦隊 レファレンジャー」は、2008 年か
ら実施されている。ほかにも、子どもたちの調べ学習をサポートする取り組みは、
全国にいくつもある。
▶定義・意義 
図書館で行う調べものの補助といえば、「レファレンス」である。これは図書館
の通常業務として行われているが、多くの子どもたちはその存在を知らない。そ
こでイベント形式にして子どもたちに周知することで、レファレンスに対する理
解を促すという意義もある。ちなみに千代田区立千代田図書館と四番町図書館で
実施されている「調べもの戦隊 レファレンジャー」は、レファレンスを行う職員
「レファレンサー」をもじったものである。
千代田区立図書館の場合、「調べもの戦隊 レファレンジャー」として常駐して
いるのは、学校に常駐している学校図書館担当の司書である。児童サービスに誰
よりも詳しい司書たちが、子どもたちの調べもののために図書館に常駐している
のだ。
夏の自由研究サポート
夏 の トたは、司 シ タどの ア子
書 ス ンち
も
81本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
▶コンテンツ
千代田区立千代田図書館の「調べもの戦隊 レファレンジャー」では、2 名の司
書が常駐し、自由研究や調べ学習のテーマの設定の仕方から、参考図書の使い方、
調べ方、まとめ方などを一貫してサポートする。
また同時に、読書感想文を書くための本選びや赤ちゃんの「ブックスタート」
「読み聞かせ」で利用する絵本の選び方など、自由研究以外の読書相談とレファレ
ンスサービスも行っている。子どもと一緒に図書館を訪れた保護者にも、さまざ
まなサービスを提供できるようにしているのである。
▶ノウハウとポイント
◎「調べもの戦隊 レファレンジャー」は、常駐する司書がバッチをつけて、レファ
レンジャーであることを明示している。「分からないことがあれば、この人に聞け
ばいい」ということが子どもたちに明確に分かる目印を付けておくことが重要で
ある。また、子どもたちに声をかけてもらうのを待つだけではなく、なにかを探
している様子のある子どもに積極的に声をかけることも重要だ。
◎図書館員にとっては、レファレンス業務は当たり前である。しかしこのように
名前を付け、イベント仕立てで行うことで、さらなる認知につながる。
◎図書館に勤める司書に加え、学校が夏休み中で仕事が比較的少なくなっている
学校図書館の司書にも来てもらうとよい。学校図書館を担当し、児童サービスを
誰よりも知っている司書に入ってもらうことで、子どもたちのニーズに合わせた、
より手厚いサポート体制を構築することができる。
◎夏休み中は子どもたち用の「自由研究コーナー」をつくり、関連資料を集め、ふ
だんよりもフロアにいる司書を増員する方法も考えられる。あるいはコーナーだ
けを設置し、質問を随時受け付けるようにすることで、利用促進がなされるだろ
う。常駐が難しければ日時を決めて、サポートを行うことも考えられる。その場
合でも、関連資料を紹介するコーナーは設置しておき、子どもたちが必要な時に
いつでも参照できる体制をつくっておくとよい。図書館ごとに取り組める形式、
配置できる人員が異なるため、可能なやり方で実施するのが好ましい。
82 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
◎自由研究コーナーを設置する場合、関連資料の展示とともに、調べもののやり
方を掲示しておくとよい。掲示だけではなく、持ち帰れるリストやチラシ、カー
ドなどにすると図書館だけではなく、自宅での学習にも役立つだろう。
配布物の具体例としては、調べものに役立つ図書リスト、テーマごとの調べ方
案内(パスファインダー)、調べもののヒントカードなどである。
◎東京都立多摩図書館(東京都立川市)では、企画展「これならできる!自由研究
―111枚のアイディアカードから選ぼう―」を開催。自由研究のテーマのヒント
となるアイディアカード 111種を配布するとともに、アイディアカードで紹介し
た本を展示した。また、夏休みに限定した話ではないが、倉敷市立中央図書館(兵
庫県倉敷市)では、児童室に調べ方のチャート図を掲示し、子どもたちがどうい
う手順で調べものを進めればいいのか、わかりやすく解説している。
◎また地域連携の仕組みとして、学校の先生や教員 OBにサポートに入ってもら
うのも手である。先生やOBは、子どもたちを教えるプロであるため、図書館にお
ける児童サービスとは異なるとしても、子どもたちの学習をサポートできるだろ
う。
◎資料や調べ方のサポートを行うだけではなく、実際に手を動かして、調べもの
を体験するイベントを開催すると効果的である。子どもたちは調べ方を体系的に
学ぶことができ、同時に宿題を完成させることもできる。
枕崎市立図書館/鹿児島県枕崎市 撮影:岡本真倉敷市立中央図書館/兵庫県倉敷市 撮影:岡本真
83本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■千代田区立千代田図書館
東京都千代田区九段南 1-2-1 千代田区役所 9・10 階
http://www.library.chiyoda.tokyo.jp/
Tel:03-5211-4289
提供:千代田区立千代田図書館
「調べもの戦隊 レファレンジャー」は千代田区立千代田図書館の分館である四
番町図書館でも同様に開催している。概要については、前述したとおりである。
児童コーナー内に常駐する図書館員は 2 名だが、総勢 10 人程度の学校図書館担
当の司書が、ローテーションを組んで交代で任務にあたっている。
2008 年から開催しており、好評につき、日数や人数を調整しながら毎年開催し
ている。
図書館事例
千代田区立千代田図書館(東京都千代田区)
84 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
静かに本を読みふける。それが、図書館ではお馴染みの読書風景である。しか
し、それだけが読書ではないだろう。一人で読むだけでなく、声に出して複数の
人に話す「読み聞かせ」をしたり、歌を交えながらストーリーを進めたり、子ども
たちのリアクションで話をアレンジする「エプロンシアター」や手遊びなども読
書である。本の楽しさや学びを提供することが図書館の役割であるならば、一人
で読むだけではない読書の楽しさを伝えることも大切なことだろう。
もはやお馴染みの「おはなし会」は、「読み聞かせ」を中心にして広く知られて
いるが、そのノウハウや歴史を深く読み解くことで、新しい図書館サービスを発
想できるかもしれない。
▶歴史
「おはなし会」の代表格は読書習慣の醸成や、小さいうちに物語の楽しさを知っ
てもらうために、小学校などで積極的に行われている絵本の「読み聞かせ」であ
る。その取り組みがいつから行われてきたかは確定的な資料はないが、少なくと
も 1960 年代前半に教育現場で文学教育運動の一環として始まり、60 年代後半に
広がっていったと推測されている。しかしこれは戦後の近代的公共図書館での話
であり、さらにさかのぼると、そのルーツは明治中期から昭和にかけて盛んに行
われていた口演童話(こうえんどうわ)との関連性が指摘されている。
▶定義
「おはなし会」自体には明確な定義は存在しないが、図書館で行われているもの
では、15 分から 30 分程度の「読み聞かせ」を週 1 回から月 1 回程度、実施するの
が一般的である。定・不定期はさまざまで、毎日行っているところもあれば、イ
ベントでの実施のみに限定されているところもある。
対象年齢は、扱う本の内容によって変化するため一概にはいえないが、一般的
には乳幼児から小学生までを対象とすることが多い。
おはなし会
一 読 なむ」で け じ人 だ 書
「読
が ゃ い
85本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
▶コンテンツ
「おはなし会」は絵本の「読み聞かせ」だけではなく、「素話」(絵本などを使用せ
ずに、口頭の語りだけで物語を話すタイプのもの)や「紙芝居」、「手遊び」などで
行われることもある。同じ絵本を使っても、やり方によってさまざまな伝え方が
できるところが「おはなし会」最大の利点である。
同じような定番の絵本をマニュアル通りに読み続けているだけでは、子どもは
退屈してしまう。でも、定番の絵本でもその物語をモチーフにして子どもたちと
一緒に紙芝居をつくって読んでみたり、あるいは演じてみたりすると、子どもた
ちを飽きさせず、より深く物語の世界へと誘うこともできる。「おはなし会」の流
れのなかに「手遊び」を入れて、体を動かすような気分転換を巧みに取り入れる
こともできる。
 絵本のなかの物語に対する子どもの向き合い方を、工夫次第でさまざまに変え
ることができるのが「おはなし会」の面白みである。
▶意義 
「おはなし会」は聞く力、想像する力、物語を通して読み手・聞き手でコミュニ
ケーションする力を育成する教育の一環として、学校教育でも広く取り入れられ
ている。
学校教育においては、授業の内容に合わせた教育的な「おはなし会」が実施さ
れる一方で、図書館においては、図書の知識を持つ図書館員によるキュレーショ
ンと、豊富な図書を利用して実施することができるため、より深く本の世界を楽
しむ「おはなし会」を開催することができるのが魅力である。地域における子育
てに大きな貢献も果たすことが期待される。
 
▶ノウハウとポイント
◎実施ペースや実施時間、規模などは自分たちにとって持続可能かどうかを中心
に考えていくことが好ましい。慣れるまでに時間がかかることもあるため、小さ
なスタートで長く走ることが大切である。まずは一番手軽な、定番絵本を使った
り、季節に合わせた絵本を使うなどした「読み聞かせ」を対象年齢を明確にし、1
回 15分から 30分程度をかけて、週 1回から月 1回程度で定期的に行うことから
始めてみるとよい。
86 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
◎「おはなし会」は図書館員が行うのが基本だが、事例的にはボランティアが入
ることも多い。地域には、絵本の「読み聞かせ」を行うボランティアグループがあ
ることが多いため、協働することも視野に入れておくとよい。図書館が行う「読
み聞かせ」ができる人材を育成するための研修をきっかけに、ボランティアグ
ループを組織することもある。
◎「おはなし会」には、読み聞かせ以外にもさまざまな方法がある。以下に要旨を
紹介するが、それぞれに参考図書が発行されているので、蔵書をあたってみると
よい。
素話…ストーリーテリング。自分が暗記している物語を自分の声と言葉だけで物
語を表現して伝える。表現力や慣れが必要となるため、やや難易度としては高い。
しかし自分で物語を表現することに、読み手も大きなやりがいを感じられるとと
もに、聞き手も挿絵などに影響されずに、自分で物語の世界を想像して楽しめる
ため、既知の物語でも新鮮に感じられるという魅力がある。
手遊び…ストーリーと歌に合わせて体を動かす遊びを指す。主に乳幼児を中心と
して行われおり、「わらべうた」などをテーマにした定番のものから、やなせたか
し原作の「アンパンマン」などをテーマにしたものまで多数ある。じっと座って
おはなしを聞き続ける会の合間に、手遊びを使って体を動かすと、気分転換にも
なり、おはなしを集中して聞けるようになる。
パネルシアター…パネル布を貼った舞台上に、絵などを貼りつけて場面を演出し
展開する演劇的な「おはなし会」である。「歌あそび」なども交えられて展開する
ために、子どもに人気が出ることが期待される。こちらも図書館によっては定番
のイベントになっているところもある。一年の行事など特別な催事で行うと華や
かな演出になるだろう。
ペープサート…紙人形劇のこと。背景の前で人物の絵などを描いた紙をさまざま
に動かし、演劇を行うことによって物語を演出する。子どもたちに人気がある反
面、背景や登場人物を自作する必要があるため、少し大掛かりではある。しかし、
一度つくってしまえば、同じ物語を使って繰り返し上演することができるという
87本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
利点があるので、定例の大きなイベントなどがある図書館には好適だろう。
◎「おはなし会」は、やり方によって一部著作権に抵触する場合がある。例えば絵
本の「読み聞かせ」は、図書館での無料実施は著作権に触れないが、有料で行うと
許諾が必要になる。また、「パネルシアター」や「ペープサート」などは改変になる
ために、原作者などへの許諾が必要となる。詳しくは児童書四者懇談会(日本児
童出版美術家連盟、日本児童文学者協会、日本児童文芸家協会、日本書籍出版協
会児童書部会)により示されている「お話会・読み聞かせ団体などによる著作物
の利用について」を参照されたい。
■参考文献
・児童書四者懇談会(日本児童出版美術家連盟、日本児童文学者協会、日本児童文芸家協
会、日本書籍出版協会児童書部会)「お話会・読み聞かせ団体等による著作物の利用に
ついて」(2007年4月 2日改訂版)
 http://www.jbpa.or.jp/guideline/readto.html
88 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
富山市立図書館本館では児童サービスの一環として、「かみしばいランド」と
「おはなしポケット土曜版」を、日曜日と休館日を除き、毎日開催している。また
こども図書館では、ちいさな子ども向けの「おひざにだっこのおはなし会」と、小
学生以上向けの「おはなし会(小学生以上むき)」を毎日行っていることが、同館
の特色である。人的コストはかかるが、「毎日そこに行くとお話が聞ける」という
のは、「読み聞かせ」をより身近に日常的なものとする。利用者である子どもたち
と地域に大きな価値を提供し、「おはなし会」を中心としたコミュニティが醸成さ
れやすい。
本館には児童館が併設され、こども図書館には子育て支援センターが併設さ
れているという立地も利点の一つだ。関連する施設がすぐ近隣にあることで、利
用者が両方の施設を利用する環境があり、施設同士の連携が取りやすいのだ。ま
た開催にあたっても、図書館員単独で行うのではなく、ボランティアと連携して
行っているのが特色である。
■富山市立図書館本館
富山県富山市丸ノ内 1-4-50
http://www.library.toyama.toyama.jp/
Tel: 076-432-7273(青少年図書室) Fax: 076-432-7272
■富山市立とやま駅南図書館・こども図書館
富山県富山市新富町 1-2-3 CiC ビル 4 階
http://www.library.toyama.toyama.jp/
Tel:076-444-0644 Fax:076-444-0645
提供:富山市立図書館本館
図書館事例
富山市立図書館本館・こども図書館(富山県富山市)
89本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
東松島市図書館では、年に 1 回、「ナイトお話会&きもだめし会」が開催されて
いる。これは、子どもたちの夏休みの 1 日を使って開催されるものだ。
当日は、図書館が閉館した直後から始まる。まずは、「おはなし会」が開催さ
れ、夜の読み聞かせを参加者全員で楽しむ。それはもちろん、怖い話。子どもたち
は、怖い話が大好きだ。ましてきもだめしの前に楽しむので、効果は抜群だ。お
はなしを楽しんだあとは、数人でグループを組んで、閉館後の館内を巡る。閉館
後の館内にはいたるところにお化けがいて、子どもたちを怖がらせる。館内には
チェックポイントが設けられ、そこから「目玉」(ピンポン玉)を取ってくることが、
きもだめしに参加した証になる。
夜間に図書館でおはなしを楽しむという特別感と、閉館後の図書館内でのきも
だめしと、夏ならではの特別なイベントとなっている。
■東松島市図書館
宮城県東松島市矢本字大溜 1-1
http://www.lib-city-hm.jp/
Tel: 0225-82-1120 Fax:0225-82-1121
提供:東松島市図書館
図書館事例
東松島市図書館(宮城県東松島市)
90 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
図書館員の仕事は、案外、一般に知られていないものである。利用者が目にす
る図書館司書の仕事は、カウンターでの本の貸出業務やフロアワークが中心であ
るが、その他にも資料の整理、利用者からの質問に対して資料を紹介するレファ
レンス、図書館に所蔵する本の選定、イベントの企画、展示の設置など幅広い。こ
うした図書館員の仕事をツアー形式で紹介し、利用者とより深い関係性を生み出
すのが「図書館ツアー」である。
「館長懇談会」は、利用者と館長が懇談会を行い、より良い図書館の在り方を模
索するための対話の場である。館長は、図書館自体の意思決定において、非常に
重要な存在である。利用者が図書館への思いや要望を、直接、館長に伝えられる
ことは、市民とともにつくる図書館の姿勢につながるだろう。
▶定義・意義
「図書館ツアー」は利用者教育の一環として行われることが多いが、広報の一環
としても行われることもある。大学図書館では利用者教育を目的とし、公共図書
館では広報を目的としていることが多い。利用者に 図書館員の仕事を知っても
らうことによって、図書館の活用方法に対する理解を深めてもらうことを目指し
ている。
「館長懇談会」は、利用者が館長とテーブルを囲む場をつくることが第一義と
なる。そもそも図書館法には「図書館の運営に関し館長の諮問に応ずるとともに、
図書館の行う図書館奉仕につき、館長に対して意見を述べる機関」である「図書
館協議会」の設置を認めているが、委員としては「学校教育及び社会教育の関係
者並びに学識経験のある者の中から、教育委員会が任命する」としており、不特
定多数の利用者が館長と協議を行うことのできる場の設置については、図書館法
では触れられていない。つまり、館長が利用者の意見を聞くことのできる環境が
法的にも少なくなっており、それが市民と図書館の現在の関係性を形づくってし
まっているともいえるだろう。したがってこのような場を自主的に補い、その関
図書館ツアー(図書館見学)、館長懇談会
図 く市館 と書 民
を
つ た め にる
91本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
係性を生み出すことは 非常に意義深い。
 
▶コンテンツ
「図書館ツアー」と聞くと、複数の図書館の巡り歩きを思い浮かべるのではない
だろうか。実際はそうではなく、単独の図書館を対象とする場合が多い。
ツアーをするのは、利用者がふだんから利用している開架だけではなく、入る
ことのできない閉架や、利用者が目に触れることのないバックッヤードでの仕事
など、図書館の舞台裏も歩き見学することが重要である。
「館長懇談会」では、館長と利用者がフランクに話し合える場づくりを行うこ
とが大切である。図書館は懇談会の日時を決めて、「ご意見があれば、この機会に
ぜひ語らいましょう」と市民に懇談会を呼びかけることで周知する。開催日に集
まった利用者と館長とで、意見交換を行う。
▶ノウハウとポイント
◎「図書館ツアー」はイベントとして開催されるほか、小中学校などの団体利用
希望者に対しては、随時見学会を行っている図書館も多い。
◎閉架や事務室など、利用者が普段は入れない場所を案内することも重要だが、
利用しなれた開架部分でも、特色的なスペースやサービスを図書館員が丁寧に説
明をし、新しい発見を与えながら見学してもらうことに価値がある。
◎「図書館ツアー」は図書館をよりよく理解してもらうための広報活動の一環で
もあるため、インストラクターをつとめる図書館員は、ツアーで得た利用者の反
応を運営にフィードバックすることが好ましい。図書館員にとって日常的なサー
ビスでも、利用者にとっては貴重ゆえに希望や提案などがあった場合、そのサー
ビスをより分かりやすく打ち出していくなどの工夫として今後に生かしていくと
よいだろう。
◎「図書館ツアー」に、POPづくりや特集づくり、本の補修、ブックコーティング
などのワークショップを加えるのも、利用者を巻き込む工夫として好ましい。
92 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
◎「館長懇談会」を行う前に、図書館の説明をパネルで展示したり、リーフレット
を配布したり、図書館ツアーを行うなどして、利用者に図書館の取り組みを理解
してもらってから、懇談会を行うと有意義な時間になることが多い。こうするこ
とで、「ベストセラーや話題書が、常に予約でいっぱいで借りられない。どうにか
してくれないか?」といった、図書館の運営にとってやや本質的ではないクレー
ムを事前に抑止し、生産的な対話を促すことが可能になるからだ。
◎伊万里市民図書館(佐賀県伊万里市)や田原市中央図書館(愛知県田原市)のよ
うに、館長室をガラス張りにして、館長の仕事ぶりを利用者にいつでも見えるよ
うにし、館長といつでも話ができるようにしている事例もある。
◎「館長懇談会」を行うのが難しい場合は、日常の仕事において図書館員が利用
者から要望を受けた際にきちんと説明をし、館長にも意見を求めるようにするこ
とを、館内で徹底させるといった姿勢に代えてもよいだろう。利用者が図書館と
対話できるような雰囲気をつくることが重要なのである。
93本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
神奈川県立図書館では「図書館大公開」と題して、全 5 回、4 つのテーマで図書
館ツアーを行っている。テーマは以下の通りだ。
 ◎全館ツアー&お宝紹介(2回実施) ◎本が棚に並ぶまで
 ◎本を保存するために       ◎図書館ネットワークの舞台裏
これらは、県民に図書館をより身近に親しんでもらうこと、図書館を今以上に
利用してもらうことを主眼として、図書館員自らが講師として開催している。
普段は入れない書庫を見学し、貴重な資料群の存在を知ったり、選書や図書館
ネットワークの現場を見学したり、本を保存するための作業を体験するなど、全
5 回のツアーそれぞれに違うコンテンツを提供することで、1 度では見切れない
図書館における内外の活動をより深く理解したり、リピーターを促す工夫をして
いる。
また同館では過去に、指定された回すべてに参加することを条件とした意見交
換会も開催している。これは、図書館見学などの説明を受けて、より深く図書館
の活動を理解してもらったうえで、図書館をよりよくしていくための意見を利用
者から引き出すための試みとして、評価できるだろう。
提供:神奈川県立図書館
図書館ツアーの図書館事例
神奈川県立図書館(神奈川県横浜市)
■神奈川県立図書館
神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘 9-2
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/
Tel: 045-263-5900(代表)
94 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■新宿区立北新宿図書館
東京都新宿区北新宿 3-20-2
http://www.city.shinjuku.lg.jp/library/
Tel:03-3365-4755
提供:新宿区立北新宿図書館
新宿区立北新宿図書館は、「図書館と話そう」と題した図書館員と利用者の対話
の場を設けた。2013 年 7 月に実施した際は 1 日限りのイベントであったが、以降、
定期的な開催を予定している。
イベントでは、同館の蔵書数や統計、アンケート結果、図書館クイズや図書館
をテーマにした図書の展示などを紹介するコーナーを学習館の一室につくり、そ
こに常駐する館長や図書館員は、開催時間中、いつでも利用者との対話に向き
合った。ただし、対話を強制することはなく、展示だけに興味がある場合は、展示
を見るだけで十分に楽しめる環境を用意した。
このコーナーは地域の人や利用者の声を聞くために、「館長懇談会」よりも気楽
な会を開催したいという同館のスタッフの思いのもとに企画されたという。その
ため出入りも自由で、気軽に入れる雰囲気の空間がつくられた。その結果、利用
者自身も普段は気づかなかったような思いを図書館員に伝えることができたり、
参加者同士の交流が生まれるなどの場となっている。
館長懇談会の図書館事例
新宿区立北新宿図書館(東京都新宿区)
95本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■田原市中央図書館
愛知県田原市田原町汐見 5
http://www.city.tahara.aichi.jp/section/library/
Tel:0531-23-4946 Fax: 0531-23-4646
提供:田原市中央図書館
田原市中央図書館の館長室は壁がガラス張りになっており、館長の仕事ぶりを
利用者はいつでも閲覧室から見ることができる。こうすることで、図書館の仕事
がより理解されやすい仕組みとなっている。また、館長室の入口には「どなたで
も気楽にお入りください」という貼紙があり、利用者がいつでも館長室に入って
こられるよう周知もしている。
館長の仕事を文字通り可視化し、出入り自由なオープンな環境を用意すること
で、館長と利用者の対話も促す。このような取り組みが、利用者と図書館をより
身近なものにしているのである。
館長懇談会の図書館事例
田原市中央図書館(愛知県田原市)
96 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
「図書館福袋」は、いろいろな本をまとめて袋に詰め、それをそのまま利用者に
貸す、基本の手法はこれだけである。非常にシンプルでポピュラーな手法であり、
簡単に取り組める。なにより利用者からも厚い人気を獲得している。全国の図書
館が導入を検討してもいいかもしれない。ここでは「図書館福袋」を実施してい
る具体的な事例を中心に取り上げ、なぜこれほどまでに人気を集めているのかを
まとめて紹介したい。
 
蔵王町立図書館/宮城県蔵王町 撮影:岡本真
図書館福袋
本 す険会の をと るい
出
冒
97本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
▶歴史
1998 年から実施している東松島市図書館(宮城県東松島市)が起源とされてい
る。2010 年に宝塚市立西図書館(兵庫県宝塚市)が実施して話題となり「図書館
福袋」の存在は周知されたが、同館から普及をしていったというよりは、同時多
発的に実施されてきたのが実情だろう。
▶定義・意義
「福袋」というと、機能的な印象を受けないかもしれないが、利用者が本を選ぶ
のではなく、図書館員がセットした本を届けることで、利用者の読書の幅を広げ
たり、未知なる本との出会いを演出するという側面において、非常に効果的な試
みである。
多くの場合、興味のままに本を選ぶと、自分が好きなジャンルに偏りが生じる。
新しいジャンルに冒険するのはなかなか難しいものだ。そこである緩やかなテー
マのもとに、図書館員がお薦めの本を選んで提供する行為が重要になってくる。
それは多くの場合、特集コーナーにおける図書の展示というかたちで、実現され
ている。しかし、このような特集コーナーからの選書も、最終的には利用者が本
を選ぶため、完全には冒険ができない。本を選ぶ行為に冒険的要素を取り入れる
ため、テーマでセットされた本が見えない状態になった「福袋」が有効なのである。
図書館側としても、利用者の手に取られづらいお薦めの本を届けることができ
る。動きの鈍い資料群を動かしながら、利用者へのサプライズにつなげるのが「図
書館福袋」の定義であり、意義ともいえる。
▶コンテンツ
「図書館福袋」は文字通り「福袋」である。内容が見えないようにした袋の中に、
本を 1 冊から数冊入れておき、袋ごと貸し出す。まったく中身がわからないもの
もあれば、ヒントとなるような言葉を書いたものもある。
▶ノウハウとポイント
◎開けてみる楽しみを演出するために、あらかじめ複数冊をセットにして、中が
見えない袋に入れる。セットにする冊数は、貸出可能冊数を考慮して決めるとい
い。複数冊であることは必須ではなく、1冊から 5冊程度が妥当だろう。
98 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
◎年末年始の新春イベントや読書週間において、子どもを対象として行うものが
多いが、特にこだわる必要はない。東松島市図書館では常時行っている。
◎対象年齢、ジャンルによって袋を分けている図書館もある。中身が全く推測で
きないと手に取りづらいが、対象年齢やジャンルが分かれば、興味を持ち、手に
取りやすい。ジャンルの分け方は、「ミステリー」や「紀行文」などの大カテゴリー
で分けてもよいが、もっと直観的に「泣ける本」「怖い本」「ちょっと笑いたい時に」
など、選者の個性が透けて見えるような分け方も好感が持て、利用者の興味を引
きやすい。
◎収蔵期限の過ぎた英字新聞でくるむことによって、袋代のコストを抑えている
宝塚市立西図書館のようなところもある一方で、東松島市図書館のように、繰り
返し使用可能な専用のナイロンバッグを利用しているところもある。
◎名称は「図書館福袋」にこだわる必要はない。むしろどう言い換えるかを模索
することで、新しい手法として確立できるだろう。過去には、東松島市図書館の
ように、「おたのしみ袋」としていた例もある。実施時期や内容で考慮して、ふさ
わしい名称をつけたい。
◎宝塚市立西図書館では、福袋を開けずに貸出手続きを行えるように、袋に入っ
た資料のバーコードと同じものを打ち出して、袋の裏側に貼りつけるという工夫
をしている。また、資料を ICタグで管理している図書館の場合、自動貸出機を通
してしまうと、書名がわかってしまうため、袋を開けるまで書名を知りたくない
利用者には、自動貸出機だと書名がわかる旨を伝え、カウンターでの貸出を促す
必要がある。
◎「福袋」という言葉から、利用者によっては本をもらえるものだと勘違いして
しまうこともあるかもしれない。したがって、福袋も貸出であること、返却しな
ければならないことを明示しておくことも重要である。また、返却時に袋を返す
必要があるかどうかなど、返却方法についても利用者に知らせる必要がある。
99本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
東松島市図書館は「図書館福袋」の元祖だとされており、1998 年から実施され
ている。当初は、読書週間などに合わせて「おたのしみ袋」として実施されていた
が、2008 年より縁起を担いで名称を「絵本福袋」に改め、通年実施とした。
内容は絵本の 5 冊セットである。「たくさんあって選ぶのが大変」「同じような
ものばかり選んでしまう」といった利用者の声に応えるために、お薦めの絵本を
セットにしている。セット内容は基本的には「お楽しみ」であるが、定番の絵本
やちょっと手に取りづらい科学絵本、読み手にとっては分かりづらい擬態語・擬
声語が入っている絵本などを交える狙いもある。また、誰でも知っているポピュ
ラーなものを入れることで、安心感を誘っている。
■東松島市図書館
宮城県東松島市矢本字大溜 1-1
http://www.lib-city-hm.jp/
Tel:0225-82-1120 Fax:0225-82-1121
図書館事例
東松島市図書館(宮城県東松島市)
撮影:嶋田綾子
100 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
共通の本を読んで集まり、みんなでディスカッションするというお馴染みの
「読書会」だが、現在ではその工夫も実にさまざまだ。「知的書評合戦」とも呼ばれ
るゲーム感覚の「ビブリオバトル」も、多くの図書館で導入されている。 日頃か
ら読書会を行っている図書館も多い。ここでは、定番の「読書会」を面白くするス
パイスを紹介する。
▶歴史
「読書会」は、図書館で古くから行われている読書の取り組みであり、最古参と
いっても過言ではない。
「ビブリオバトル」は、京都大学情報学研究科共生システム論研究室(当時)の
谷口忠大さんらが 2007 年に生み出した本の紹介コミュニケーションゲームであ
る。公共図書館では、2011 年 3 月に奈良県立図書情報館(奈良県奈良市)で開催
されたのが最初である。その後、図書館関係者が多く集まる第 14 回図書館総合
展(2011 年 11 月)のランチタイムセッションで実施されたほか、くまもと森都心
プラザ図書館(熊本県熊本市)や堺市立中央図書館(大阪府堺市)などでも開催さ
れ、全国の図書館に普及した。
▶定義
「読書会」では、事前に読む本を決め、全員が読んでくることが多い。読書会当
日は、読んだ本に対して、意見や感想を交換し、理解を深める。事前に読む人を決
め、当日は読んだ人が概要を発表し、ほかの人は意見や感想を言うという「輪読
会」のスタイルをとることもある。ほかにも、共通の本を読まず、それぞれが読ん
だ本を持ち寄り、感想や概要を話して、ほかの参加者と議論するなどあり、その
スタイルに厳密な定義はない。
「ビブリオバトル」は 4 つの公式ルールに則て行う、書評ゲームである。公式
ルールは後述する。書店やカフェ、図書館などに数人が集まって行う場合や、イ
読書会、ビブリオバトル
進 現読す 会化 書
る 在
の
101本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ベント仕立てにして実施するなど、規模はさまざまである。
▶意義
オーソドックスな「読書会」においても、「ビブリオバトル」においても、その意
義は、読んでみたい本を利用者に見つけてもらうことのほかに、本をきっかけに
したコミュニケーションの場の育成である。このような意義は、図書館と親和性
が高いといえるだろう。
まず、たくさんの本がある図書館という場所で読書会や「ビブリオバトル」を
行うことで、資料選定などの面で相乗効果が出ることは間違いない。そして多く
の場合、自分たちが面白いと思った本を持ち寄って良いことから、図書館にはな
い本を利用者と図書館に紹介されるきっかけにもなる。もちろん、図書館に所蔵
されている本であれば、図書館の利用促進にもつながる。
過去に行った「読書会」や「ビブリオバトル」で紹介した「注目の本」を集める
だけで、特集コーナーに展示することができるなど、図書館に蓄積できるアーカ
イブをつくれる点も好ましい。なによりも利用者同士の交流が促される。まさに
図書館にとって恰好のイベントであると言えるだろう。
▶コンテンツ
日本最大級の読書会コミュニティ「猫町倶楽部」による 100 人規模の「読書会」
や、都内のカフェにおける「読書会」の開催が目立つようになったことを受けてか、
近頃では図書館で開かれる「読書会」も「オープン性に対する意識の高まり」が進
行しているようだ。
たとえば「読書会」で使われた本を、そのコミュニティだけで閉じないように
するために、本の展示を図書館内でするのである。こうすることで「読書会」の存
在を知らない人でも気になる本を展示で知り、それがきっかけとなり「読書会」
というコミュニティを知り、参加してみるというオープンな流れが生まれる。
また、子どもたちだけの「読書会」を組織している図書館もある。参加者を
ティーンズに限定してセッティングすることで、「おはなし会」は卒業したものの
「大人の読書会」には入りづらい若い世代の利用も促しているのだ。
「ビブリオバトル」については、「知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト」に
公式ルールが掲載されているので、そのまま引用する。
102 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
1.発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2.順番に一人 5分間で本を紹介する。
3.それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを 2 ∼
 3分行う。
4.全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした
 投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする。
2007 年に関西で生まれたビブリオバトルは、ルールが分かりやすく、誰でも気
軽に取り組めるため、大学の研究室や書店などで行われるほか、図書館へも広が
りを見せている。
▶ノウハウとポイント
図書館で開催している「読書会」でも、主催者はさまざまである。図書館が主催
するものはもちろん、図書館を拠点としたボランティアグループが開催するもの
もある。
◎「読書会」の告知は、図書館サイトや自治体の広報誌を使って行われることが
多い。一部の図書館では、Facebookなどのソーシャルメディアを使ってコミュニ
ティを形成している。また図書館を拠点としつつも、オープンな「読書会」として
独自に活動しているグループでは、自分たちのサイトやソーシャルメディアを活
用し、広く仲間や参加者を募る例もある。
◎参加者全員が同じ本を読んでいることが前提となるため、図書館によっては読
書会用に、同じ本を複数冊そろえた読書会セットを用意しているとこともある。
分館や県内の図書館ネットワークを活用し、読書会用の資料を揃えるサポートを
行っている図書館も多い。
◎甲府市立図書館のように、読書会で使われた本を図書館で展示することで、と
きとして閉鎖的になりかねない読書会をオープンなものにし、ほかの利用者にも
推薦図書として紹介する機会にすることもできる。
「読書会」でもいえることだが、「ビブリオバトル」ではプレゼンテーションが
103本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
白熱し、ほかの利用者の迷惑になることも考えられるため、個室で行われること
が多い。東京都立中央図書館(東京都港区)では「ビブリオバトル」専用の部屋を
つくり、利用者に提供している。専用の部屋をつくるのが難しい場合は、会議室
などの空き時間を利用して時間貸しするのも効果的である。しかし、個室で行う
と、閉鎖的になりがちなので、できる限りオープンなスペースでの開催が、多く
の参加者を巻き込む仕掛けとしても望ましい。また閲覧室での開催が難しい場合
でも、エントランスやロビーなど、人通りがあり、多少ざわついても問題のない
場所で開催すれば、オープン性が保てるとともに騒音の問題も解決できるだろう。
◎「ビブリオバトル」を運営するコミュニティを、利用者が自主的につくってい
くように促すことで、図書館側としても負担が軽減される。「ビブリオバトル」は
利用者が運営するコミュニティが多く、「⃝⃝図書館ビブリオバトル部」といった
ものが多く存在する。場所の提供をすることで、コミュニティが自然に醸成され
るケースがあることを念頭に置いておくとよい。
■参考文献
・知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト https://sites.google.com/site/bibliobattle/
・谷口忠大『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』(文藝春秋、2013年)
・ビブリオバトル普及委員会編著『ビブリオバトル入門 本を通して人を知る・人を通
して本を知る』(情報科学技術協会、2013年)
104 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
甲府市立図書館では、1973 年から市民の「読書会」を運営している。また、同館
の「読書会」を歴史あるものとして、「読書会」で紹介された本の展示を図書館内
で積極的に行っている。展示を見た利用者が、興味をもって参加するケースも多
く、「読書会」の活動を PR することにもつながっている。 歴史ある「読書会」が
選んだ本には説得力もあり、自分で本を選ぶ際の手がかりにもなるだろう。「読書
会」を会員のコミュニティだけの楽しみにするのではなく、その成果を市民に還
元している好例であるといえる。
■甲府市立図書館
山梨県甲府市城東 1-12-33
http://libnet.city.kofu.yamanashi.jp/lib/
Tel: 055-235-1427 Fax: 055-227-6766
撮影:岡本真
読書会の図書館事例
甲府市立図書館(山梨県甲府市)
105本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
堺市立中央図書館では、「ビブリオバトル」を開催するだけではなく、ウェブサ
イト「知的書評合戦『ビブリオバトル』in さかい 堺市立図書館」(http://www.lib-
sakai.jp/bibliobattle/)に、それぞれのテーマと紹介された本が一覧できるように
アーカイブしている。「ビブリオバトル」を図書館が提供するコンテンツに役立て
る好例である。
また、同館の「ビブリオバトル」には工夫があり、発表者が当日紹介した本の書
誌情報などを記載した「コミュニケーションカード」を発行し、参加者同士がコ
ミュニケーションをするきっかけづくりとしている。
■堺市立中央図書館
大阪府堺市堺区大仙中町 18-1
http://www.lib-sakai.jp/
Tel: 072-244-3811 Fax: 072-244-3321
提供:堺市立中央図書館
ビブリオバトルの図書館事例
堺市立中央図書館(大阪府堺市)
106 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
書店などでよく見かける「POP」は、本を紹介する手段としてポピュラーであ
る。図書館員自らがおすすめの本を紹介するのに使用している事例は事欠かない
が、利用者参加型の取り組みとしても、いくつか事例がある。
また私たちが読書する際に馴染みが深い「しおり」もまた、図書館でもよく使
われるグッズである。しおりは本の PR 素材というよりは、返却期限など図書館
からのお知らせを利用者に伝えるために使われるものが多い。その一方で、しお
りを本の紹介や、利用者をつなぐコミュニケーションの手段としている図書館も
ある。その取り組みの一事例として「kumori」を紹介する。
▶歴史
「POP」が書店でいつ使われるようになったかは定かではない。また、図書館で
使われるようになったのもいつからか定かではない。しかし、本を紹介する手段
として、手軽に作成できることもあって、多くの図書館で実践されている。
しおりの歴史は、非常に古い。古くは、『枕草子』にも用例がみられる。「kumori」
は、2009 年に千葉大学附属図書館で始まったのが最初である。現在では、公共図
書館や学校図書館など、9 館で配布されている。
▶定義・意義
書名や著者名、内容・おすすめのポイントなどを、大きめのカードに書き、本
とともに掲示するのが「POP」だ。本を開かなくてもおすすめのポイントがわかり、
本が手に取られやすくなる。
図書館員が作成するのではなく、利用者に作成してもらう事例もあり、その場
合、利用者の図書館への参加意識を高められる。
図書館員が紹介するにしても、利用者が紹介するにしても、紹介者の顔がうか
がい知れる個性的な内容・体裁であると、本に対してもより親しみが持てる。
「kumori」の基本形態は、デザイナーの渡辺ゆきのさんによって作成されたしお
参加型POPづくり、参加型しおりkumori
利 な「好者 で用 き」
の
つ が る
107本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
りが中心となる。図書館は、kumori の募集と配布を担う。
kumori とは、表面に伝えたいメッセージが記載され、裏側には本の紹介文と作
品情報、その作品が読める場所(図書館の所蔵情報や Web サイトなど)が記載さ
れているしおりである。kumori に記載する情報は公募で集められ、渡辺ゆきのさ
んによってデザイン、制作される。できあがった kumori は、応募した人に届けら
れるほか、図書館でも配布される。
利用者が本を紹介することで、図書館の活動に利用者が参加できる。また本の
紹介情報だけではなく、紹介者のメッセージが載ることで、本を通じたコミュニ
ケーションがより身近なものに感じられるだろう。
▶コンテンツ
本を紹介するはがき大のカードを作成し、本とともに展示するのが「POP」で
ある。カードを作成するのは図書館員のことが多いが、利用者が作成しても面白
い。また、POP だけを展示することもある。また、たくさんの POP を一度に飾っ
て、POP を作品として展示することもある。
デザイナーの渡辺ゆきのさんが作成したしおりを「kumori」という。本の紹介と、
紹介者のメッセージを掲載した kumori は、本を知るきっかけになるのはもちろん、
紹介者の人となりを知ることにもつながる。図書館では、kumori の配布と募集を
行う。配布場所は kumori のデザインに合わせて、装飾することもある。
▶ノウハウとポイント
◎手書きで気楽に作成できるのが、POPの魅力である。しかし、特別寄稿の内沼
晋太郎さんの弁にあったが、手書きのPOPを多用するのは良し悪しがある。図書
館の雰囲気を見極めて、紙や書体を統一したり、色遣いに気をつかったりなどし
て、使いこなしたい。
◎ POPは、本を紹介するためにつくる。そのため本の題名や著者名、内容などを
わかりやすく、コンパクトにまとめて書くことが重要である。目を引く色使いや、
イラストの活用も重要である。
◎ POPに使う用紙は、市販の画用紙など厚手のものを使うといい。大きさはハガ
キ大のものが適当なところだろう。もし図書館に使わなくなった目録カードの未
108 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
使用品があれば、それを利用するのも図書館ならではで効果的だろう。
◎図書館事例でも紹介しているが、図書館員が作成するのではなく、利用者にお
すすめの本の POPを作成してもらうと、利用者の参加意識も高められ、コミュニ
ケーションのきっかけにもなる。
◎図書館の本は、基本的には 1冊しかないため、せっかく POPをつくって紹介し
ても、それが借りられてしまうと、POPで紹介している本を手にすることができ
ない。このため、本が貸し出されていても、利用につなげられる工夫や、本がな
くならない工夫が必要である。たとえば POPで紹介した本が貸出中の場合、本が
あったところに「貸出中」という表示が現れるような工夫ができる。ただ単純に
「貸出中」と表示するだけではなく、予約を促すような文言を付け加えれば、予約
サービスの周知にもつながる。ほかにも貸出をしていない本にPOPをつけるとい
うことも考慮できるだろう。貸出をしていない本とは、調べものに使うレファレ
ンスブックや地域資料などである。POPは図書館内で利用する有用な資料を紹介
するのにもひと役買うのである。
◎ kumoriは、デザイナーの渡辺ゆきのさんが実践している取り組みのため、図書
館で行う場合、本人にコンタクトを取る必要がある。連絡先は、公式サイトを参
照されたい(公式サイト:http://kumori.info/)。
◎図書館で実践する際の基本形は、kumoriの募集と配布となるが、新宿区立北新
宿図書館(東京都新宿区)のように、過去に配布したkumoriを1部ずつ残しておき、
ファイリングしておくと、さまざま本やメッセージに出会うことができる。また、
実施場所のディスプレイも、図書館の工夫のしどころだ。
◎図書館で作成するしおりもまた、工夫の余地がある。秋田市立新屋図書館(秋
田県秋田市)や大津市立図書館(滋賀県大津市)のように、公募で集めた子ども
たちの絵をしおりに印刷して、図書館が配る貸出票に彩りを添えることができる。
地元企業の広告を掲載することで、地元情報の紹介を行うのと同時に広告収入を
得られるなど、利用者が手に取りやすい媒体だからこそできる工夫がたくさんあ
るだろう。
109本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
島根県立図書館/島根県松江市 撮影:岡本真
秋田市立新屋図書館/秋田県秋田市 撮影:岡本真
 
110 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
撮影:嶋田綾子
山武市立図書館では POP のコンクール「私のイチオシ本」を毎年行っている。
毎年、7 月から 10 月にかけて作品を公募し、優秀作品の発表を翌 2 月頃に、館内
での展示、Web サイトへの掲載を通して行っている。コンクール実施初年度には、
POP 書きで有名な書店員を講師に、POP 書きを体験する講座を開催した。
館内に用意されている用紙、または規定のサイズの用紙にポップを書き、「私の
イチオシ本 応募用紙」として応募している。紹介する本は、図書館が所蔵して
いる本に限定している。受賞作品は図書館サイトに掲載されるほか、図書館内で
の展示、市の広報誌への掲載が行われている。
POP の図書館事例
山武市立図書館(千葉県山武市)
■山武市立図書館
千葉県山武市埴谷 1904-5
http://lib.city.sammu.lg.jp/
Tel: 0475-80-9101
※連絡先は、企画中心館である山武市立さんぶの森図書館を掲載した。
111本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■新宿区立北新宿図書館
東京都新宿区北新宿 3-20-2
http://www.city.shinjuku.lg.jp/library/
Tel: 03-3365-4755
提供:新宿区立北新宿図書館
新宿区立北新宿図書館では、2011 年 7 月 7 日から kumori の配布と応募の募集
を実施している。
これまでに同館で配った kumori は、約 100 種類 3200 枚である。そのうち同館
からの応募で作成されたものは、15 作品である。作成された kumori の応募者へ
の受け渡しは、図書館内のおはなし室で行っており、その際、渡辺ゆきのさんと
応募者が面会し、お話ができるようにしている。
また、小学校への出前図書館講座で kumori のつくり方を紹介をするなど、積極
的なサポートも行っている。講座終了後、小学校に kumori ポスト(kumori 応募用
のポスト)を設置し、子どもたちが kumori に参加できるようなフォローも行って
いる。
kumori の図書館事例
新宿区立北新宿図書館(東京都新宿区)
112 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
私たちは普段から、科学を使って生きている。たとえば、何気なく使っている
携帯電話の地図アプリやカーナビゲーションシステムなどに使われている GPS
も、相対性理論なしには成立しない。私たちの生活は、歴史が培ってきた科学の
遺産の上に成り立っているのである。もちろんそんなことを知らなくても、生き
ていくのになんの支障もないだろう。でも、日常と科学の結びつきを知ることは、
知的好奇心を充足させもするし、生活における危機を回避する知恵にもなる。そ
のきっかけを提供するのが、図書館が研究者を招いて開催する講演会「サイエン
スカフェ」や「ライブラリーカフェ」である。
また、ふだん私たちは、作品を通じて作家が生み出す世界に出会っているが、
その作家自身に会ってみることで、作品への理解が深まったり、新しい印象を受
けることがある。このような、作者との出会いを通じた新しい発見を提供するの
が、「作家の講演会」である。
▶歴史・定義
最近、図書館でよく行われる「サイエンスカフェ」や「ライブラリーカフェ」は、
「サイエンス・コミュニケーション」という考え方を取り入れたもので、日本では
2004 年に京都市で開催されたのが始まりといわれている。
一般的に「サイエンス・コミュニケーション」とは、科学者が一般市民と対話
することによって、研究を通して培った科学的知識や実績を共有する目的を持つ。
科学について一般市民と対話できる場さえ生まれていれば、主催・会場が図
書館に限らずとも「サイエンスカフェ」と呼んでさしつかえない。「サイエンスカ
フェ」が「講演会」や「シンポジウム」と異なるのは、講堂などの大規模な会場で
講演者が一方的に講演するのではなく、カフェなどの小規模な会場で、コーヒー
を飲みながら、参加者と著者が気軽に語り合う場として開催されることだ。現在、
図書館で開催されているものは、大学や科学館で行われている「サイエンスカ
フェ」を、親和性の高い図書館に持ち込んだものであるともいえる。
サイエンスカフェ、ライブラリーカフェ、
作家の講演会
資 げ話を つ料 で
対
な
113本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
「作家の講演会」は、新進の「サイエンスカフェ」や「ライブラリーカフェ」に比べ、
古くから全国各地で行われている。図書館の定番イベントとして、単発で行われ
ることが多く、その多くは読書週間や開館記念日に集中する。
▶意義 
「レクチャー」や「議論」、「講演」と同じく、その関連図書を図書館の蔵書から選
書し、展示できることが、図書館における「サイエンスカフェ」や「ライブラリー
カフェ」、「作家の講演会」の強みである。特定の研究成果や、それに派生する研究
が現在どのような評価を受けているかを、過去の新聞記事から振り返ることもで
きるだろうし、家庭では用意しにくい大判の図鑑資料なども豊富に展示すること
が可能な場合もある。
図書館としては、普段使われていない図書資料の利用を促すことができる。利
用者にとっては、ただ講演を聞きに来て興味関心の扉を開くだけではなく、議論
に参加し、図書資料を使って、その世界の扉の奥に入っていくことができる。そ
の役割を図書館が果たせることは非常に意義深いことである。
普段は本を読むことだけで得ていた知識を、実際に研究・実践しているゲス
トから知識を得ることができる。また、一方的に知識を得るだけではなく、議論
や対話の場が設けられることで、双方向的に学びを深めることができる。さらに、
リアルな対話の場で得た知識を、資料に立ち返って深めるという、知識の循環が
起こるのである。
また、社会問題化しているテーマを扱って、市民に高度な学問知を共有する場
としても役立てることができる。たとえば現在日本では、福島第一原発の事故に
伴う放射能汚染の問題が深刻化している。しかし、多くの人にとって専門的な知
識を学んでいない限り、この問題に対して主体的に関わることは困難だ。そこで、
図書館側から大学にアプローチし、学者の講演会を開催することで、市民と学問
知の橋渡しをするのである。
図書だけが「知」のかたちではなく、時代に即応し、最適なかたちで市民と「知」
をつなぐのも図書館の大きな仕事だろう。
▶コンテンツ
講演者の人選によって、図書館での「サイエンスカフェ」や「ライブラリーカ
114 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
フェ」、「作家の講演会」の特徴を出すことができる。
たとえば、図書館がある地域の大学の研究者や、実務者、帰省している著名人・
作家など、地域ゆかりの方を中心に招いて開催することで、地域の特性を演出す
ることが可能になり、図書館の付加価値向上にも寄与する。利用者からすると、
自分の地域にどんな研究を行っている人がいるのか、同じ地域に暮らす作家の存
在が分かり、その図書館がどんなテーマに秀でているのかを知るための窓口にな
るからだ。
あるいは人気の新刊や、科学賞の受賞者にちなんだものをテーマにし、関連す
る人物に来てもらうなど、話題性を中心として講演者を選ぶ方法も考えられる。
▶ノウハウとポイント
◎「サイエンスカフェ」「ライブラリーカフェ」を行う際に研修室や会議室などを
用意できない場合、つまり館内の閲覧スペースなどを仕切って開催する場合、開
催内容の告知は十分に行われる必要がある。もちろん参加希望者に周知すること
が第一だが、参加を希望しない一般利用者の利用を妨げないためにも大切なこと
である。
◎閲覧スペースなどオープンなスペースで開催することで、誰もが気楽に参加し
やすいイベントにすることもできる。「サイエンスカフェ」では、「カフェ」と付く
ように、誰もが気楽にいつでも参加可能、退出可能ということを目指しているた
め、音の問題が解決できるのであれば、オープンスペースでの開催は趣旨に合致
する。
◎地域連携の仕組みとして、地域の人的リソースを活用することは重要である。
それは、ゲストに限らず、運営側も同様である。カフェの運営、ゲストの選定など
に、地域のリソースを活用することで、地域活性化につながる。
◎また、「サイエンスカフェ」には、日本学術会議の支援制度もあるので、それを
活用するのも一つの手である。日本学術会議では、「サイエンスカフェ」の開催に
あたって講師リストの提供や、必要に応じて謝金などの支援も行っている。
◎「作家の講演会」を行う際、講演を依頼することが難しいような著名な作家で
115本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
も、自分の生まれ育った地域にある図書館からの打診であれば、比較的好意的だ
ろう。メジャーな作家であれば集客にもつながる。知名度の高さで諦めるのでは
なく、チャレンジして損はないだろう。
◎「サイエンスカフェ」「ライブラリーカフェ」「作家の講演会」ともに、謝礼につ
いてはできる範囲内で用意することが望ましいが、登壇者がもともと発表の場を
求めている場合もあるため、金銭的な謝礼だけが全てではないことを念頭に置い
ておくとよい。たとえば地域にある単館映画館に作品の監督がトークショーなど
で全国行脚している場合、登壇を依頼することは、好機として受け取られる場合
もある。映画に関連した図書館資料を多彩に取り揃えることもアピールポイント
になるだろう。
◎新刊の PRで全国行脚をしている作家を、出版社を通じて紹介してもらうのも
手である。発表機会の提供そのものが謝礼になることも含め、提案段階で双方の
利害関係を整理し、取り決めをしておくことで経費削減や良好な関係を保つこと
にもつながるだろう。
116 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■鯖江市図書館「文化の館」
福井県鯖江市水落町 2-25-28
http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=458
Tel:0778-52-0089 Fax:0778-52-2948 E-mail:s-lib@si.ttn.ne.jp
撮影:岡本真
鯖江市図書館では、図書館の喫茶室で「さばえライブラリーカフェ」を毎月開催
している。2005 年に始まりすでに 100 回を数え、地元にも定着し、福井大学の研究
者や地元の実務家など多数の講師を招聘している。また、福井県立大学との連携事
業の一環としても開催している。定期的に開催していることから、集客も一定層が
期待でき、この図書館の「ライブラリーカフェ」で話すことが、研究者や実務者の
ステータスにもなっている。参加者は、常連の利用者も一定数存在するが、聞きた
いテーマがあるから足を運ぶ利用者も定着している。
また、図書館員が独自に開催するのではなく、さばえ図書館友の会と協働して、
実行委員会を組織して運営している。集い議論のできるサロンが欲しい市民と、市
民の活動の活性化を願う図書館員、研究の成果を世の中に伝えたい研究者の 3 者が
協力することで成功している事例である。
図書館の資料を使って一人で学ぶのではなく、研究者の講義をただ聞くだけで
もない。コーヒーを飲みながら、研究者と市民がともに議論するサロン的な活動が、
「さばえライブラリーカフェ」なのである。
事前申込みは不要とし、参加費は 500 円である。コーヒーとケーキがついて、な
ごやかな雰囲気のなかで議論が行えるように配慮されている。
図書館事例
鯖江市図書館「文化の館」(福井県鯖江市)
117本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■横浜市中央図書館
神奈川県横浜市西区老松町 1
http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/
Tel: 045-262-0050 Fax: 045-262-0052
撮影:嶋田綾子
横浜市中央図書館では、科学、環境、生物などのテーマで、幅広い世代を対象に、
生涯学習の場として「サイエンスカフェ」を開催してきた。2012 年度からは、人文
科学、社会科学にも分野を広げ、「ヨコハマライブラリーカフェ」として生まれ変
わっている。
「ヨコハマライブラリーカフェ」では最先端で活躍する研究者と、「研究は難しそ
うだけど、わからないことを聞いてみたい」と考えている人たちが、気軽に話し合
うことのできる場を目指している。毎回、さまざまな学術分野の最先端で活躍する
ゲストが、質の高い研究成果をやさしい言葉で解説し、司書が厳選した同館所蔵の
豊富な資料が紹介される。大学の研究者だけではなく、地域で活躍する実務家もゲ
ストとして講演している。地域に存在する知識を、市民へと伝えているのだ。
また、「ヨコハマライブラリーカフェ」には横浜市内で事業を展開する「株式会社
リタトレーディング」が協賛しており、横浜入港のフェアトレード紅茶がサービス
される。環境への取り組みとして、マイカップ持参が推奨されている。地場産業を
知る窓口を、ドリンクの無料サービスとともに提供している点が秀逸だ。
図書館事例
横浜市中央図書館(神奈川県横浜市)
118 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
地域の資料を集め、市民が利用しやすい状態に保っておくことは図書館の重要
な機能の一つである。とはいえ、その大半の資料はあまり利用されることがなく、
眠ったままということも少なくない。せっかく資料が充実しているのだから、そ
れを発信のために使おうという試みが、「郷土資料講座」である。
また「文学散歩」は、地域ゆかりの文学に積極的に触れてもらうために行われる、
地域の文学ゆかりの場所を巡るいわゆる「まち歩き」である。実際の場所を知り
ながら文学と出会うことで、地域と図書資料の両方を活用していく取り組みであ
る。
▶歴史・定義
郷土資料を集める過程で、図書館員はその知識に詳しくなって当然である。ま
た資料を収集する過程で、地域にいる歴史家と関係を深めることも多い。図書館
が持つ地域資料の活用や、地域で活躍する歴史家の知識を生かすために行われ
るのが、「郷土資料講座」の定義である。また、図書館によって異なる場合もある
が、教育委員会の下には「市史編さん室」があり、図書館の一室がこれに割り当て
られていることが多い。市史編さん室には、たくさんの地域資料が集まっており、
それが図書館の資源にもなっている。「郷土資料講座」では、市史の編さんのため
に集まった、郷土の歴史を詳しい知識人たちに、講義を行ってもらうこともある。
一方で「文学散歩」は、その地域にゆかりのある文学を使ってまち歩きを提案
するものである。地域を舞台とした小説、作家の生家など、ゆかりの場所を歩い
て回ることで、地域と文学両方の理解を深めるために行われる。「文学散歩」の歴
史は古く、1951 年に福岡県の詩人・野田宇太郎によって考案された。野田宇太郎
が行った文学散歩は、1951 年から「日本読書新聞」に連載され、その後、30 年以
上かけてシリーズ全 26 巻が刊行された。文学の実地調査による実践的研究書で
あり、紀行文学であった。
郷土資料講座、文学散歩
資 ぐ域と つ料 を
地
な
119本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
▶意義
文学と地域をつなぐ役割を図書館が担うという点が意義として大きい。自分が
住む地域に文学作品ゆかりの地や、歴史遺産があることを知り、それらを実際に
見て回ったり、講義を聞くなど立体的に理解することによって、地域への帰属心
を高めることにもつながる。観光スポットや観光コースにもなる。
▶コンテンツ
「郷土資料講座」は地域の資料に焦点を当てた講座であり、古文書の読解講座や
遺跡などの歴史遺産がある場合は歴史講義など、地域のより深い理解と魅力の再
発見を促すために行われる。図書館員自らが所蔵資料をもとに講座を開く場合も
あるが、郷土資料研究家を招き、講義を行ってもらう形式もある。
図書館は地域資料として、地域の歴史・人物に関する本、新聞、地域の学校・
企業・団体に関する本、古地図などの地図を集めている。これらを講座に合わせ
て展示することで、図書館資料の利用を促進することができる。
「文学散歩」は、まずは図書館が地域にゆかりのある文学作品のリストを作成
し、舞台となった場所や作家の生家などを記したマップを作成し、それをもとに
ツアー形式で街を巡り歩くというのが基本である。スポットごとにインストラク
ター(図書館員)が説明をして回っていく。
インストラクターが存在しなくても、利用者はマップさえあれば散歩を楽しむ
ことができるため、マップだけを提供する場合もある。その場合、館内でパネル
展示も同時に行うと効果的である。
地域資源を活用する目的で、常時、館内にマップや関連資料を展示することも
有効である。市民に地域資源の再発見を促したり、そこを訪れた観光客に、地域
の魅力を伝えられる。
▶ノウハウとポイント
◎「郷土資料講座」では、座学形式の講義が基本形となる。講師は図書館員のほか、
地域の歴史に強い方にお願いするのも手である。その場合は、地域の歴史サーク
ルや古文書解読サークルで活動している方や、地域の歴史に精通する学校の先生
などが候補にあげられる。
 また、地域の歴史遺産などを実際にめぐるツアーとパッケージにすることもで
きる。実際の目で見て、図書館で学ぶことで、立体的な学びを提供することがで
120 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
きる。
 また古文書解読や古写真の電子化など、実際に手を動かすワークショップ形式
でも、地域の歴史を学び、体験を楽しめるだろう。
◎通常の図書館業務の一貫として、地域の歴史に精通した専門家とコンタクトを
取っておくことや、収集している資料の中から、利用しやすいようにリストアッ
プや整理を行っていくとよい。普段から地域の情報を得て、資料を収集整理して
いくことが重要である。
◎定期的に開催し参加者が増えてゆくと、無料で受けられる生涯学習講座として
市民に認知され、図書館の魅力化にも貢献するだろう。           
     
◎実際の「まち歩き」に図書館員の人員を割くことが難しい場合は、地域の作家
や作品を特集したマップを配布するだけでも「文学散歩」として成立する。丁寧
に調査してマップのクオリティを上げれば、それだけ手にとる利用者も増え、資
料の利用につなげることができる。
◎「文学散歩」ではマップの配布場所でパネル展示を同時に行うと、より効果的
である。人員を割いてツアー形式で行う「まち歩き」は日時が限定されるが、パネ
ル展示は一度つくってしまえば恒常的に利用者に「文学散歩」を周知することが
できる。その際、本も同時に展示されることが好ましい。
◎地域に限定せず、バスや電車などを使って遠隔地に出かけていき、その地域ゆ
かりの作家・作品を訪ねるということも行われている。その場合、地域ゆかりの
文学に触れるというよりは、文学ゆかりの地を訪ね、文学の世界により深く親し
み、理解と楽しみを深めることができるだろう。
◎インストラクターは図書館員が基本だが、まちづくりの市民団体と協働するの
も効果的である。
121本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
三島市立図書館/静岡県三島市 撮影:嶋田綾子
122 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
多治見市図書館では、2011 年から「まなびの散策∼地図を片手にタイムトリッ
プ∼」と題して、「展示」と「まち歩き」をセットにした講座を行っている。この企
画は、図書館単独ではなく、同館のある「まなびパークたじみ」内にある「多治見
市学習館(生涯学習センター)」との共同企画で実施している。
基本的には、3 つの事業がセットになっている。
1.「まなびパークたじみ」内で、図書館の郷土資料室所蔵の資料を使い、その地域
 に関する展示をする。
2.散策の当日は、まず展示室でのギャラリートークを聞き、その後、会場から街
 へと出発する。街を歩く際にはその地域の人からの説明を聞き、地域のお店の
 食べ物を味わう。
3.散策中に参加者が撮影した画像を集め、資料として保存する。
2 の募集は学習館が行っているが、1 と 3 は、郷土資料室が担当している。
地域住民に多治見の良さを再発見してもらうことを意識して、古くから住んで
いる市民でも案外知らない市内各所の小ネタと場所を選び取り上げている。また、
図書館内でも目立たない存在である郷土資料室の存在意義を示し、同館でしか所
蔵していない地域資料の活用を目的に企画している。
■多治見市図書館
岐阜県多治見市豊岡町 1-55
http://www.lib.tajimi.gifu.jp/
Tel: 0572-22-1047 Fax:0572-24-6351 Email: toshokan@tajimi-bunka.or.jp
提供:多治見市図書館
郷土資料講座の図書館事例
多治見市図書館(岐阜県多治見市)
123本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
京都市東山では、地域グループ「図書館から始めるまち歩き」(「まちづくりカ
フェ@東山」の図書館チーム)が東山図書館を拠点として活動している。このグ
ループは、東山図書館が作成した「京ひがしやま文学散歩」に掲載された 50 冊を
元に「文学作品ゆかりのまち歩きコース」を開発し、東山の地域資源(地域の魅力)
の発見、および観光コンテンツの充実を目指している。2012 年から活動を開始し
ており、現在は内田康夫の『壺霊』(角川書店、2012 年)のゆかりの地を中心にま
ち歩きマップを制作し、文学まち歩きイベントを行っている。マップは京都市図
書館に所蔵され、貸出可能である。
一方、東山図書館では、2011 年度より東山地区にゆかりのある作品群を集めた
リスト「京ひがしやま文学散歩」と「京都市東山区関連文学マップ」を作成・改訂し、
館内と図書館サイトで配布している。このためイベント開催時だけではなく、常
時、地域と文学の関係を楽しめる。
この活動は図書館と地域グループが協力して、街の魅力を文学という切り口で
探る好例だろう。
■京都市東山図書館
京都府京都市東山区清水 5-130-8 東山区総合庁舎南館 2 階
http://www2.kyotocitylib.jp/
Tel: 075-541-5455
■参考情報
京都東山・図書館から始める文学まち歩き
https://www.facebook.com/machiaruki.higashiyama
提供:京都東山・図書館から始める文学まち歩き
文学散歩の図書館事例
京都市東山図書館(京都府京都市)
124 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
図書館は静寂の場所である。図書館の日常は、読書をする人、調べ物をする人、
勉強をする人が、それぞれ静かに本たちと向き合っている。パソコンですら、キー
タッチの音が迷惑になるという理由で、多くの図書館で禁止、もしくは許可され
た場所でのみ使用が可能となっている。
ページを繰る音以外は雑音となる図書館という世界で、音楽を楽しむ。それは
非日常の演出でもある。そんな独特のムードのなかで、室内楽などの演奏会を楽
しもうというのが「図書館コンサート」なのである。
▶定義・意義 
「図書館コンサート」は、図書館の会議室やロビーなどを使って開催されるコン
サート全般を指す。演奏されるのは生演奏の場合もあるし、図書館が所蔵してい
る CD やレコードの音源を聴くレコードコンサートの場合もある。
意義としては、図書館資料の活用である。レコードコンサートの場合は、図書
館が所蔵する CD やレコードを利用者とともに聴くこと自体が資料活用の方法
の一つであるし、そのレコードに関連した音楽の図書資料を紹介することもでき
る。また、関連図書の切り口は音楽だけではない。村上春樹の文学作品などは、そ
の作品が発表されるたびに、作品で言及される音楽に関心が集まる。このように
文学作品を切り口に、音楽を紹介することもできるのである。
利用者にとって「図書館コンサート」は、音楽について深く知ることのできる
きっかけになるとともに、図書館で音楽に耳を傾けるという非日常を味わうこと
ができる。
図書館資料は図書だけではなく、CD やレコードも図書館資料である。こうし
た資料を工夫して、図書館における資料との出会いをさまざまに演出することは、
利用者の知識欲の充足につながるだろう。
普段は音楽に親しまない利用者であっても、図書館で味わう非日常とともに音
図書館コンサート
図 日味館 う書 常
わ
で
非
125本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
楽を楽しめば、興味が湧くことがあるかもしれない。そして、図書館にはその興
味を刺激する資料が豊富にあるのだ。図書館での意外性のある音楽との出会いが、
その利用者が今まで手に取らなかった本との出会いをつくることは十分に考えら
れるだろう。
また乳幼児などの子どものいる家庭では、音楽を楽しみたくてもコンサート
ホールに子どもを連れて行くのは気が引けるものである。しかし慣れ親しんでい
る図書館であれば、気軽に楽しむことができるだろう。
▶コンテンツ
コンサートといえば、室内楽などの音楽家を招待し、生の演奏会を開くことが
一般的だが、図書館では CD やレコードを聴くことも、「レコードコンサート」と
して実施されることもある。
▶ノウハウとポイント
◎開館中にコンサートを行う場合、会議室や視聴覚室などを備えている図書館で
あれば、閲覧室などではなく、そのような別室を利用したほうが音漏れも少なく、
一般の利用者に迷惑をかけることがないだろう。しかし別室であれば、図書館で
行う意味や非日常のムードも減少することを念頭に置いておこう。
◎開館中に閲覧室で開催する場合は、事前告知が十分に行われなければならない。
いかに素晴らしい音楽であっても、それを好まない利用者はいる。事前の告知が
不十分であれば、クレームの原因にもなり、コンサートが継続できなくなる場合
もあるため、注意が必要である。
◎閲覧室などで開催する場合は、閉館後に行うことも手である。閉館後の図書館
という特別な時間に音楽を楽しむというのは、まさに非日常の醍醐味である。ふ
だん静寂が張り詰めている図書館の中を、さまざまな音色が駆け巡る瞬間は感動
的である。
◎演奏会自体は図書館の事業と直接は関係ないが、文化事業として図書館を訪れ
るきっかけづくりにはなる。また、使われる楽器や演奏曲の紹介に所蔵資料を使
えば、図書館資料の活用にもなるだろう。たとえばアーサー・コナン・ドイル作
126 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
の『シャーロック・ホームズ』にはヴァイオリンの名器・ストラディヴァリウス
が登場するが、これらを解説した本を取り揃えれば、仮に音楽に興味のない利用
者であっても、ノンフィクション好きであれば手に取るかもしれない。
◎「レコードコンサート」の場合、著作権の法律上の制限は、「上映会」と同様であ
る。つまり、非営利・無料・無報酬であれば、許諾は必要ない。
◎生演奏で行う場合は、メジャーなミュージシャンを招聘するというよりも、地
域の高校や大学の吹奏楽部、地域のアマチュア/セミプロの演奏家たちの発表の
場として位置づけるとよいだろう。
127本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■神奈川県立図書館
神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘 9-2
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/
Tel: 045-263-5900(代表)
提供:神奈川県立図書館
図書館事例
神奈川県立図書館(神奈川県横浜市)
神奈川県立図書館では、「レコード鑑賞会」としてレコードコンサートが開催さ
れている。これは、同館が収蔵する 7 万点を超えるレコードを活用して行うもの
である。音楽堂の隣りに併設された同館は、譜面も揃えるほど音楽資料が豊富で
あり、資料の活用を促している。デジタルにはないアナログの響きを知ってもら
うために、職員が解説資料を作成して紹介する。音楽家をテーマにしてレコード
を聞き、その関連資料を読むものから、楽曲や音楽家が重要な役割を果たす文学
作品をテーマにして、音楽を楽しむ会などが企画されている。
また同館の「レコード鑑賞会」で使用するスピーカーは、タンノイ社のカンタ
ベリーであり、参加者に特別な機材を使って聴く機会を提供している。
なお「図書館コンサート」とは別の取り組みではあるが、同館では隣接する音
楽堂で行われるイベントに関連する音楽資料や図書資料を紹介する「M ゾーン」
というパンフレットを作成し配布している。これもまた音楽を切り口とした、図
書館資料紹介の一つのかたちであり、図書館と他施設の連携の事例としても好例
である。
128 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
「図書館まつり」は、図書館の文化祭・感謝祭として全国的に定着している。ワー
クショップやパフォーマンス、コンサート、フリーマーケットなどを盛り込み、
地域交流の場を提供しながら図書館の認知拡大を行えることが特色である。ここ
では、広く知られている「図書館まつり」の事例を取り上げながら、ゼロから始め
るノウハウを紹介する。
▶定義
大切なことは市民の参加を促し、図書館機能の認知を拡大することである。し
たがって「これを満たしていなければ、図書館まつりとは呼べない」というほど
の厳格な定義はない。しかし「図書館まつり」として期待されるのは、会議室の一
室を使用して行うような小規模なものというより、図書館全体を使い、広く市民
と協働した展開である。
 
▶意義
文化祭・感謝祭という非日常の場で図書館の存在意義をアピールすることで、
市民に広く図書館を認知してもらうことが最大の意義である。したがって「上映
会」や「コンサート」などの集客イベントとともに、図書館の仕事を紹介するパネ
ル展示やワークショップなどの体験イベントを織り交ぜ、なによりも市民を巻き
込みながら開催することが望ましい。
たとえば点字の体験教室などが好例として挙げられる。日常において図書館が
点字の資料を作成し、貸出していても、その存在はなかなか知られないものであ
る。しかし体験イベントとして開催することで、市民が広くその存在を知る機会
にもなり、結果として日常における図書館の利用拡大につなげることができる。
▶コンテンツ
「おはなし会」や「講演会」など、図書館でお馴染みのイベントを、さまざまに組
図書館まつり
図 見魅館 再書 力
の
発
129本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
み合わせて行うことが多い。図書館の機能・仕事を身近に感じてもらえるような
催しをすると効果的である。図書館で廃棄する本や雑誌を、「図書館まつり」で市
民に無料で提供するなどである。大きな図書館であれば、廃棄する本の量も多い
ため、そうした本を「無料提供」として広く告知すれば集客が図りやすく、定期的
に開催すればまつりの名物になっていくことも期待される。また、これらの本を
「リサイクルブック」と呼称することによって、資源の有効活用を市民にアピール
することにもつながるだろう。
また、図書館員にはお馴染みの「本の修理」や「ブックコーティング」などを
のワークショップとして行うことで、市民にとって有益なものとなることが多
く、ふだんあまり知る機会の少ない図書館の仕事の周知にもつながる。本の修理
のワークショップを行う際は事前に壊れた本を、ブックコーティングのワーク
ショップを行う際は事前にコーディングを希望する本を持ち寄ってもらうと、そ
の成果を形として持ち帰ることができるため、一層効果的である。
また、ボランティアグループによる発表の場としても活用されており、点字の
体験会や読み聞かせなど、啓発活動などもさまざまに行われる。
 
▶ノウハウとポイント
◎開催時期としては、市民の注目を集めやすい春の「こどもの読書週間」、秋の「読
書週間」に合わせて行われることが多いが、図書館の創立記念日など、各館が自
由に設定してよい。
◎運営形態はさまざまで、図書館主催や住民グループ主催のもの、あるいは共催
の場合もある。
◎各催し物の入場料については、特に有料化・無料化しなければならないという
理由はないが、基本的には市民参加を促す目的から、無料のものが目立つ。古本
市などを「図書館友の会」などのボランティアグループが有料で運営して、収益
を図書館への寄付に回したり、募金を集めて図書館への寄付にするという試みを
行っている事例もある。
◎市民参加型にし、一緒に「図書館まつり」を盛り上げる体験を共有することに
よって、市民と図書館とのつながりを深めることができる。また、「図書館まつり」
130 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
をきっかけに、普段は図書館を訪れることのない市民が図書館へ来ることによっ
て、新たな利用へと結びつけることができる。
 以下に、実際に行われている「図書館まつり」の催しを列挙する。これらを開催
のヒントにすると効果的である。
図書館司書体験ツアー…参加型のツアー形式で、図書館司書の仕事を体験する。
配架や貸出作業などは、利用者にとって非日常であり、大きな興味を持って参加
することが多い。また普段、利用者が入ることのできない閉架書架の公開なども
ツアー形式で行うと効果的である。
工作教室…図書館スタッフやボランティアグループによる工作教室である。時期
が合えば、小学生向けに夏休みの自由研究の支援として行っても効果的だろう。
伝統工芸の体験…地域の伝統工芸の職人を招き、体験教室を開催。地域と図書館、
そして伝統工芸をつなぐ有意義な場づくりを行うことができる。
各種講演会…地域にゆかりのある作家を招いたり、「ライブラリーカフェ、サイエ
ンスカフェ」(P112)を開催したりすることも図書館まつりを盛り上げることにつ
ながる。図書館の資料を展示するとより効果的である。
上映会など…図書館が所蔵する AV資料、または地域に関係する映画などの上映
会(P 140)を行う。市民団体と協働して上映設備や上映作品を調達するのも有効
である。
各種演奏会・実演会…室内音楽やダンスパフォーマンスなども、発表の場を求め
ている地域の高校・大学、市民団体と協働することで実現が可能になる。本稿で
紹介する洲本市立洲本図書館(兵庫県洲本市)では、こうした協働を非常に積極
的に行っている。
パネル展示…多くの利用者の目に触れる「図書館まつり」で、図書館の歩みや利
用状況などをまとめて展示することで、認知を促すことができる。
131本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
料理教室…フードを扱えない図書館でも、駐車場や図書館前の広場など、屋外で
の実施が可能な場合、たとえば「絵本」にゆかりの料理をみんなでつくり、料理を
通して物語に親しむ、ということが可能である。
古本市・リサイクルブックフェア…図書館で除籍された本や雑誌を配布する。無
料で配布されることが多いが、友の会などの協力団体が主催となることで、有償
での配布を行う例もある。その場合は、収益で図書などを購入し、図書館へ寄贈
されることが多い。
東松島市図書館 / 宮城県東松島市 提供:東松島市図書館
132 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
かつてカネボウの紡績工場として利用されていた建物をリノベーションして作
られた、建築としても特徴的な洲本市立洲本図書館。市民の要望に始まり、最終
的には市長選挙にまで発展して建てられることが決まった図書館でもある。
この図書館には、そういった市民からの深い思い入れもあることから、毎年、
「図書館市民まつり」として、大々的に「図書館まつり」を行っている。地域の高
校と協働し、吹奏楽の演奏会やダンスパフォーマンスを開催したり、生花展示や
スタンプラリーなど、さまざまな年齢層が楽しめるとともに、市民と一体になっ
て「図書館まつり」を盛り上げている点が特色である。運営をボランティア団体
が行っており、アルバムを使って、写真や式次第などの資料を丁寧に保存してい
る。市民とのつながりをつくり、それらを残していくことにも力を注いでいる。
■洲本市立洲本図書館
兵庫県洲本市塩屋 1-1-8
http://www.library.city.sumoto.hyogo.jp/index2.html
Tel:0799-22-0712 Fax:0799-26-3155
撮影:岡本真
図書館事例
洲本市立洲本図書館(兵庫県洲本市)
133本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
東松島市図書館では、「図書館まつり」を 1998 年から開催している。開催当時は、
合併前の旧・矢本町で開催しており、町長と教育長、町民との模擬結婚式のよう
なことも行われていた。
2011 年の東日本大震災では、市内は甚大な被害を受け、図書館本館も津波の被
害こそなかったが、建物や蔵書が被災した。しかし、そのような過酷な年にあっ
ても開催することで地域との絆を大切にしている。
同館の「図書館まつり」では、地元の読み聞かせボランティアグループによる
「おはなし会」や、県内高校の有志の先生方による「喫茶コーナー」の開設、巨大な
フライパンを使って、絵本に出てくるカステラをつくるグループなど、さまざま
な団体やグループが参加している。図書館員もほかのグループの協力を得て、リ
サイクルブックフェアを開催するなど、図書館ならではの催しを行っている。
「読み聞かせ」や「震災資料をつくるワークショップ」「リサイクルブックフェ
ア」など、図書館ならではの事業が実施される一方で、絵本の料理を再現するなど、
館内では難しい取り組みも戸外で展開している。また、電気自動車の試乗や生け
花ワークショップも行っている。これらは、一見、図書館とは関係のない取り組
みのように見えるが、市民に向けた体験の提供という文脈で捉えるのであれば、
図書館で扱っていけないことではないし、図書資料の紹介に結つながれば、立派
に図書館と関連することである。
東松島市図書館では、これらの取り組みを、図書館単独で行うのではなく、図
書館のボランティアグループ、市内の関連団体、全国の関連団体と協力して行っ
ており、地域連携の仕組みとしても評価が高い。
■東松島市図書館
宮城県東松島市矢本字大溜 1-1
http://www.lib-city-hm.jp/
Tel:0225-82-1120 Fax: 0225-82-1121
図書館事例
東松島市図書館(宮城県東松島市)
134 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
図書館は、その立地条件に基づく利用者がいる。たとえば学校が多い地域にあ
る図書館には学生の利用者が多い。ビジネス街の真ん中にあれば、ビジネスパー
ソンが多くなり、住宅街であればファミリーでの利用が増える。もちろん図書館
員は、その立地条件や利用者層を見ながらいろいろな特集本棚をつくったり、イ
ベントを実施しているが、利用者がなにを本当に求めているかは、汲み取り切れ
ていないこともある。そこで、図書館員が利用者とともに書店に行き、利用者が
図書館に入れてほしい本を選書し、図書館の本棚を市民とともにつくっていこう
という試みが「選書ツアー」である。
▶歴史
公共図書館では、1990 年代後半に北海道を中心として「選書ツアー」がさまざ
まに実施されていたが、そもそも選書を行うのは図書館員の仕事であり、それを
利用者に行わせるというのは少し実験的すぎるのではないかという論争が巻き起
こり、一度頓挫している。
しかし住民参加・市民参加の図書館づくりとして意義深い取り組みであると
位置づけ、2003 年に山中湖情報創造館(山梨県山中湖村)が行ったのを皮切りに、
大木町図書・情報センター(福岡県大木町)も 2009 年に実施を開始した。
大学図書館では、1998年に行われた大阪産業大学綜合図書館の「選書モニター」
が元祖とされている。その後、多くの大学図書館で実施されるようになった。
▶定義・意義
基本的には地域の住民や学生などの利用者が、図書館に入れてほしい本を書店
で選び、図書館に所蔵するというイベントである。書店に足を運ぶ機会を図書館
がつくり、利用者とともに図書館の本棚をつくっていく。書店の利用促進と、図
書館への市民参加を同時に成し遂げているところが意義深い。
公共図書館ではまだまだ実施しているところは少ないが、大学図書館では増加
選書ツアー
書 館 ぐ民と 図 つ店 を が
市
書 な
135本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
傾向にある。
▶コンテンツ
まず図書館が「⃝⃝をテーマにした本を所蔵したいと考えています。本を選ぶ
ツアーに参加してください」といった趣旨の告知とともに参加者を募り、書店へ
のツアーを実施するというのが基本形である。
利用者層が限られている大学図書館に、積極的に採り入れられている。図書館
職員だけで多岐にわたる研究分野の専門書を全て網羅するのは困難を極めるため、
実際に研究に触れている学生たちの知識を選書に役立てるというわけである。ま
た大学図書館では専門外の、学生が好む一般書や教養書の選書に役立てられてい
る。
「選書ツアー」は、それぞれの図書館で足りないものを、利用者とともに補って
いくという大きな利点があるのだ。
▶ノウハウとポイント
◎利用者が図書館職員の引率の元で書店に赴き、図書館に入れてほしい本を選び、
後日、図書館に配架されるというのが基本プロセスである。
◎書店の店頭にある本から選書を行う必要があるため、品揃えの豊富な比較的大
規模な書店で実施されることが多い。過去には「東京国際ブックフェア」で選書
ツアーを行った事例もある(学習院女子大学図書館、昭和女子大学図書館、聖心
女子大学図書館、千代田区立図書館、文京区立図書館、荒川区立図書館)。大木町
図書・情報センターでは、図書館向けに行われているブックフェアに、住民も一
緒に参加して本を選んでいる。
◎だいたい 10人くらいのグループをつくり、図書館職員が引率して書店を回る
とよい。また、回る書店は複数用意してもよい。
◎利用者が選ぶ本のなかには、すでに図書館で所蔵しているものもあるため、重
複購入を避ける工夫が必要となる。そのため書店と交渉し、選んだ本をその場で
購入するのではなく、リストを作成してもらい、図書館に持ち帰って確認できる
ようにする必要がある。図書館員の確認を経た本を、後日発注できる仕組みが必
136 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
要である。
◎利用者に「好きな本を選んでください」とだけ伝えてしまうと、ジャンルがば
らばらになってしまって公益にならない取り組みになってしまう場合がある。し
たがって、あらかじめ図書館における選書の役割を説明し、「どのような本を選ん
でもらいたいか」「どのような本は所蔵できないか」といったガイダンスをしてお
くことも重要である。
◎意義深い「利用者参加イベント」にするためには、利用者が、図書館でどのよう
に本が選ばれ、どのような過程を経て書架に並んでいるのかを理解できるように
段取りをする必要がある。そのため、図書館における選書プロセスなども解説さ
れることが望ましい。
◎一般的に、「選書ツアー」を通して利用者が選んだ本は、ツアーに参加していな
い他の利用者にも人気が出る。利用者参加型で引き出す潜在ニーズには一定の価
値があるのである。
◎地元に比較的大きな書店がある場合には、地元書店の売上げ確保のためにも、
地元書店での実施が望ましい。しかし、地元に大きな書店がない場合、たくさん
の本がある環境を利用者に体験してもらう意味でも、遠方の大きな書店に行くこ
とにも意義がある。そうした場合は、大木町図書・情報センターのようにバスを
利用してみるのも有効である。
◎大木町図書・情報センターの「選書ツアー」では、九州の福岡県大木町から、福
岡市までバスを利用した。しかも、このバス利用を無料化しているのが特徴だ。
図書館の選書という公的な目的のため、社会福祉協議会が所有しているバスを使
用し、運転手もシルバー人材センターからの派遣を活用し、無料化を実現してい
るのである。
◎地元や日帰りで行ける距離に適切な規模の書店がない場合、図書館向けのブッ
クフェアを利用する手もある。図書館員が選ぶことを前提としたブックフェアで
は、ある程度、最初から図書館で所蔵することが期待される本が並べられている。
137本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
その中から本を選ぶことで、図書館の選書を疑似体験できる。
 
◎「選書ツアー」では選書の偏りが指摘されがちだ。1回の実施では確かに偏り
が出るものの、継続することで参加者も入れ替わり、一定のバランスがとれてく
ることが報告されている(山中湖情報創造館)。
138 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
山中湖情報創造館では、開館前の 2003 年から、住民の手による図書館づくり
が始まっていた。行政による図書館建設の進行にあわせ、村民による図書館づく
りに向けた勉強会が開催されたことを契機に、開館に向けた準備作業の取り組み
として、住民自らが図書館に入る本を選ぼうという意志のもと、設置自治体の了
解を得たうえで、教育委員会と住民団体「図書館を育てる会」による「選書ツアー」
が開催されている。
この事業は開館後も毎年継続され、現在では夏に地元中学生と行く「ジュニア
選書ツアー」と、秋に一般の方と行く「選書ツアー」が実施されている。
2012 年の「ジュニア選書ツアー」には 4 名が参加し、およそ 360 冊、約 37 万円
分を選定。同年開催の選書ツアーには 5 名が参加し、およそ 480 冊、約 82 万円分
を選定している。続く 2013 年のジュニア選書ツアーの参加者は 5 名。およそ 530
冊、約 40 万円分が選定されているという。
■山中湖情報創造館
富山梨県山中湖村平野 506-296
http://www.lib-yamanakako.jp/
Tel:0555-20-2727 Fax: 0555-62-4000 E-mail: info@lib-yamanakako.jp
提供:山中湖情報創造館
図書館事例
山中湖情報創造館(山梨県山中湖村)
139本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
2010 年に図書館がリニューアルオープンし、その開館準備に合わせ、住民か
らも本を選ぶ機会を持ちたいという希望もあったことから、2009 年から「選書ツ
アー」を始めている。しかし町には書店がないために、町が所有する社会福祉協
議会のバスを利用し、図書館向けのブックフェアに参加している。図書館から出
発し参加者全員が日帰りで移動する。予算はあまり多くはないが、1 回あたり 10
人程度の参加で 50 冊弱程度を選定している。
■大木町図書・情報センター
福岡県大木町大字八町牟田 255-1
http://www.library.oki.fukuoka.jp/
Tel: 0944-32-1047 Fax: 0944-32-1183
提供:大木町図書・情報センター
図書館事例
大木町図書・情報センター(福岡県大木町)
140 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
図書館によっては映像資料を数多く所蔵している館もあるだろう。図書館での
映像資料の収集は、図書館の重要な機能の一つだ。また、たとえば地域に映画の
ロケ地として有名な場所が点在する場合には、そうした名所や地域資源に関連
した映像資料などを収集している図書館もある。これらの映像資料は、利用者に
貸出したり、館内に設置された専用の鑑賞ブースで視聴できたりと、館によって
サービス形態はさまざまだが、「上映会」という図書館が開催するイベントのコ
ンテンツとして活用してもよい。こうした映像資料は、利用者への提供の仕方に
よっては、その映像に関連する図書資料の利用を促したり、図書館そのものの魅
力化にも貢献するだろう。
▶定義
「上映会」は「映画会」とほぼ同義であり、全国のさまざまな図書館で行われて
いる。実施日時、上映時間などを事前に周知して、イベント形式で行われること
が一般的である。定期的なイベントとして行っている場合もあれば、「図書館まつ
り」(P128)などの単発の不定期イベントの一つとして行っている場合もある。
映像資料を豊富に所有している図書館であれば、月ごとに監督特集や俳優特集
などテーマを決めて上映するのも魅力的だ。
 
▶コンテンツ・意義
企画の手法は、さまざまに工夫できる。たとえば前述したように、映像資料を
豊富に持っていれば、それらの資料をさまざまな切り口に関連づけて特集化する
ことができるだろう。その一方で、映像資料がそれほど豊富ではない館の場合も、
工夫次第である。たとえば読書週間などで「映画化された作品」などの図書資料
を特集し、それに合わせた映像作品で上映会を企画してもよいのである。
その際、後述する著作権許諾については配慮が必要である。上映形式は、視聴
覚室を設けている図書館での大型スクリーンでの上映から、大型テレビやプロ
力
上映会
映 を魅で資 有域像 共地
料
の
141本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ジェクターでの上映など、予算と備品に応じて、自分たちのできる範囲内で取り
組むとよいだろう。
映像作品は図書資料と密接な関係を持っていることが多いため、映像作品を通
じて図書を知り、図書を通じて映像作品を知る機会創出にも役立つ。
▶ノウハウとポイント
◎上映する映像作品などに関連する図書資料を展示すると、図書の貸出や活用に
つながることが期待されるため効果的である。たとえば上映する映像作品の脚本
家が書いた他の作品や、同じ場所を舞台にした小説、同じ原作者の小説、舞台と
なった地域のガイドブックなどさまざまな文脈が構築できるはずである。工夫す
ればするほど、「上映会」の魅力を図書資料で倍増させることができるだろう。
◎上映と合わせて監督などの制作スタッフを招聘し、トークショーを行うことも
有効である。一般的なゲスト招聘は、ある程度の謝礼を支払うことも視野に入れ
ておく必要があるが、地域の記録映像であった場合、無料登壇を交渉することも
可能である。もちろん、情熱や思い入れを持ってつくられた作品であることは間
違いないため、主催側が上映会にどれだけの思いを持って取り組んでいるかをア
ピールできるかにかかっているが、まずは積極的に相談してみることが大切だ。
◎一般的な映像資料だけではなく、地域の記録映像を上映するのも重要である。
市販されていない、またレンタルショップでも取り扱っていない地域の貴重な映
像を、積極的に上映していくのが望ましい。それは、「地域の記憶の共有」や「地
域資源の見直し」にもつながる。
また、地域の記録映像などの上映会を企画する場合、まちおこし関連の NPO
や団体を探して、協働することも視野に入れておくとよい。関連する映像資料な
どを、団体が持っている場合もあるだろうし、伝統行事などがテーマになってい
れば、まちおこし関連の団体が、その行事自体に関わっていることもある。そう
した場合、現場に関わった方々を招聘し、トークショーやパフォーマンスを行っ
てもらうことも、交渉次第で可能になるかもしれない。
図書館単独で上映会を企画するのではなく、地域そのものを巻き込んでいくと、
関係者にとっても、利用者にとっても面白い企画になることが期待できるのであ
る。
142 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
◎「上映会」を実施する際は、著作権法に配慮する必要がある。図書館では、上映
の許諾がついた映像資料を使って開催することが通例とされている。図書館で購
入する映像資料は、図書館で所蔵すること、上映会に使用すること、個人視聴や、
館外貸出について許諾付きで販売されている。
一方、「著作権法第 38 条第 1 項」では、非営利・無料・無報酬で行われる上映
については、著作権者の許諾は不要だと定められている。よって、法的には無許
諾でも上映会は可能だが、映画館やレンタルショップとの競合を避けることが好
ましいとされている。それを受けて、2001 年に日本図書館協会と日本映像ソフト
協会が「(映画上映会に関する)合意事項」とその実施要綱を出しており、図書館
はその要綱に則って上映会を行うことが期待される。
◎図書館向けのサービスとして、「みんなでシネマ」(株式会社M.M.C)というサー
ビスがある。これは、図書館が所蔵している映像資料の中で、上映の許諾がされ
ていないものでも、このサービスのリストにあれば、上映会に使用できるという
ものである。サービスを利用するためには、年間での契約が必要ではあるが、こ
のようなサービスを利用して、所蔵資料を活用するのも一つの方法である。
◎定期上映のメリットは、利用者に「この図書館では、いつも無料で映画が見ら
れる」という付加価値を認知させることができる点にある。所蔵資料にあるもの
から過去の名作など、誰もが知っているものを選んで上映していけば、企画側も
比較的簡単に集客が図れるだろう。定期上映を行う場合は労力をかけずに、長く
走ることが肝心である。
◎大型テレビやプロジェクター設備などが館の備品としてなければ、安価でレン
タルすることもできるため、不定期の特別イベントとして企画する場合は、レン
タル業者を利用することも視野に入れておくとよい。
◎視聴覚室など、別室の用意がある館であればそこで上映が可能だが、ない場合
は閲覧室などを区切って上映することも視野に入れておくとよい。その際は、周
知が十分に行われていないと、一般の利用者の不利益につながる恐れもあるため、
注意が必要である。
143本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
◎図書館が行う「上映会」は無料上映が主であるため、予算の少ない図書館では
難しいかもしれないが、レンタルサービスを活用するというのも手である。レン
タル料金は決して安くはないが、上映会用に多くの資料をあらかじめ購入してお
くよりは負担は少ないだろう。未所蔵資料で上映会を行う場合、映画を上映する
という目的だけではなく、図書館を利用してもらうきっかけづくりにすることが
肝心である。上映会を期に図書館に来館してもらい、その後の利用につなげるの
である。そのためにも、上映する作品の関連資料を紹介するなど、所蔵資料や図
書館サービスの利用に結びつける工夫をするとよい。
144 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
■くまもと森都心プラザ図書館
熊本県熊本市西区春日 1-14-1
http://stsplaza.jp/library/
Tel:096-355-7401 Fax:096-355-7411 Email:library@stsplaza.jp
提供:くまもと森都心プラザ図書館
図書館事例
くまもと森都心プラザ図書館(熊本県熊本市)
くまもと森都心プラザ図書館では、年 6 回、大人向けと子ども向けの「映画会」
を、それぞれに開催している。
同館では、映像資料を所蔵していないので、映画会を実施するときには、映画
ソフトレンタルサービス「みんなでシネマ」(株式会社 M.M.C.)から DVD を借
りて開催している。
大人向け映画会では、映画を上映する前にブックトークを行うこともある。
ブックトークでは上映する映画の内容に合わせて、図書館資料を紹介している。
子ども向けの映画会では、館内の児童コーナーに「映画会」の関連資料コーナー
をつくり、関連資料を紹介している。
このようにプラザ図書館の場合、図書館で所蔵する映像資料の活用というわ
けではないが、映画を楽しむ機会を利用者に提供すると同時に、所蔵資料の紹介、
利用に結びつける工夫を行っている。
145本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
146 司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
――まず、プロフィールから伺いたいと思います。井上さんは、なぜ司書を目指
そうと考えたのですか。
井上:進路を決めた高校生の頃、本とコンピューターが好きだった、ということ
が理由です。大学進学の際、その両方が勉強できる、図書館情報大学(現・
筑波大学)があることを知り、入学しました。勉強しているうちに、ご縁が
あり、今の職場に就職しました。
――井上さんが高校生の頃というと、80 年代ですよね。まだまだコンピューター
が一般に普及していない時代だと思うのですが、当時、コンピューターが好きと
いうのは、かなり珍しいのでは?
井上:そうですね。当時ちょうど NEC製のパソコンPC-8801が家庭に入ってきた
ころです。フロッピーディスクが 5 インチの時代ですね。家庭にパソコン
が普及してきたというよりは、一部の家庭にも入ってきた、という状態で
す。それより前に、最初のパソコンが家に入ったのは 1980 年ころで、コン
ピューターがあるというだけで、まだ驚かれる時代でした。インターネッ
トはまだなく、BASIC(プログラミング言語)を使ってプログラムをつくっ
司書名鑑 No.1
井上昌彦さん(関西学院 聖和短期大学図書館)
LRG 新企画「司書名鑑」の第 1 回は、「図書館員のセ
ルフブランディング」の必要性を広め、自らも「情報
のチカラで、世界をもっと幸せにする!」というミッ
ションを掲げて活動されている井上昌彦さんにご登場
していただきます。
▶司書を目指したわけ
147司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
たりして、楽しんでいました。この経験は、今につながっています。
   本も好きだったので、コンピューターに傾倒した流れで、本とコンピュー
ターの両方を学べる、図書館情報大学に入学しました。今みたいに Web サ
イトがなかったので、大学の教育理念が見えづらい時代だったのですが、
学校案内などに「図書館大学」ではなく、「情報」という言葉が入っていた
ことに、新しい価値を感じました。
――図書館外での活躍も目覚ましい井上さんですが、普段は図書館でどのような
お仕事をされているのでしょうか。
井上:私が勤務している短大図書館は、キャンパスに唯一の図書館です。短大だ
けでなく、4 年制の学部も同じキャンパス内にあります。短大生は、保育士
になる勉強を、また大学生の多くは、小学校教員になるための勉強をして
います。そういう学生さんたちに、サービスをしています。
   保育や教育が主体となるため、実務者養成学校としての傾向が強い大学・
短期大学で、私はここで業務委託を含めた 10 人のスタッフを取りまとめ
る、統括的な立場です。
   小さな図書館なので、私自身も割とオールマイティーになんでもやってい
ます。窓口のスタッフで解決できないレファレンスから、トイレの故障と
いった館内のインフラ雑務まであらゆることに自分は関わっています。
   通常の業務は、各スタッフがそれぞれ担当していて、私は現場のとりまと
め役として、またあるときは相談役として、日々、業務を務めています。
   また当館は通常の学習図書館とも少し違い、実務家養成傾向の強い大学・
短期大学のキャンパスにある図書館なので、このキャンパス唯一の図書館
に求められている役割を考え、追求していくことも重要な任務です。
▶図書館での仕事
Directory of librarian
148 司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
   関西学院は 120 年以上の歴史を有し、聖和キャンパスにおいては保育・教
育の分野での伝統と実績を持っています。その伝統や実績を受け継ぎつつ、
今私たちの図書館が関西学院のため、ひいては社会のために何ができるか、
それを日々考えています。
――井上さんは「図書館員のセルフブランディング」や「自分だけのミッション
をつくる」ことの大切さを、いろいろなところで説かれていますが、なぜそのよ
うなことを考え、行動するようになったのでしょうか。
井上:私には、ミッションを考えるきっかけとなった人生の転機が2度ありました。
   まず、1 度目の転機というのは、前に所属していた大学図書館から知財部
に異動になったことです。図書館を出る前には、今のようには外に出て勉
強するなどの活動はあまりしていませんでした。知財部には 4 年間いまし
たが、その 4 年間は忙しくて、図書館のことを考えたり、わずかにいた他
館に勤める友人や知人に連絡したりする余裕もありませんでした。その後、
現在の図書館に戻ってきたのですが、その間に彼らの多くは退職していた
り、異動していたりで、つながりが途切れてしまっていることに気付いた
のです。それではダメだと、再びつながり直すために、同じフィールドで
働く図書館員に自分を知ってもらうことから始めました。このときに、自
分をブランディングすることの重要さを考えたのです。
   2度目の転機は、愛娘のことです。娘は、2011年6月に小児脳腫瘍を発症し、
1 年近くの闘病ののちに星になりました。とても悲しい出来事ですが、こ
の時に、情報の持つ力や自分自身が果たしていくミッションについて考え
ることになりました。
▶2度の転機
149司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
――それは、どのようなことでしょうか。
井上:情報というのは、なにも文献やデータだけではありません。家族が同じ病
気で苦しんでいる方にとって、治療方法や入院体験などの「情報」が直接
役に立つこともあるでしょう。でも、それだけではなく、日常のなかのさ
さいな事柄、伝え合うお互いの気持ちでさえも「情報」だと思うのです。娘
を応援してくれる方々から寄せられる何気ない一言や、描いて送ってくだ
さった絵や手づくりのぬいぐるみなど、ほんのちょっとした励ましや気遣
い、それらすべてが情報なんだと思いました。 そこには発信する人の気持
ち、情報を送ってくれる人の気持ちが必ず添えられています。情報は血肉
を持っているのです。こうした気持ちに支えられ、一家で闘病の日々を過
ごす中で、情報の持つ力を意識するようになりました。その気持ちをまと
めたものが「情報のチカラで、世界をもっと幸せにする!」という私自身
のミッションです。
   娘の闘病中、私たち一家は闘病に関する「情報」を発信してきましたが、そ
れ以上に、多くの方からさまざまな「情報」をいただきました。それを力に、
頑張ることができましたし、その経験が今のミッションを生み出すことに
なりました。
――「情報の力で、世界をもっと幸せにする!」というミッションに従って、今は
行動されているのですね。
井上:まさにその通りです。自分の日々の仕事においても、そうです。このキャ
ンパスを、関西学院をよくしたいという思いは当然、強く持っています。
私たちの図書館は関西学院のためだけに存在するのではなく、素晴らしい
▶ミッションを遂行する、広める
Directory of librarian
150 司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
学生さんたちを育て社会に送り出すことで、社会に貢献していると考えて
います。図書館を含め、いろいろな形で本学で学び育ったさまざまな人材
を送り出すことが、社会の豊かさにもつながります。図書館で学んだ人の
力で、情報の力で世界がもっと幸せになる、という思いで働いています。
   こうした情報の力を利用者にもっと知ってもらって、図書館をもっともっ
と使ってもらいたいと思います。図書館にある情報には、こんなに力があ
るんだと。情報があることで、学校が、社会が幸せになれる。それは今すぐ
ではないかもしれないけど、情報を積み上げることで、必ず将来的に役立
ちます。図書館はそんな情報の宝庫です。
――図書館で得られる情報が、世界を幸せにする、自分を幸せにする。それって
とても、図書館員にとって心強いことですね。
井上:図書館で働いている人たちにも、これは意識してほしいと思っています。
たとえ、貸出という単純な仕事であっても、自分たちが手渡しているのは、
情報なんだと。図書館にある世界を幸せにできるたくさんの情報を、伝え
写真提供:井上昌彦
Directory of librarian
151司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
ていくのが仕事なんだと。そう思えば、単純な貸出でさえも、大きな意味
があることに気づくでしょう。
   また、心がけているのは、笑顔で挨拶をすることです。学生さんたちが来
館した時に、笑顔で挨拶することをスタッフ全員で徹底しました。一人の
例外もなく、全員の利用者に、です。もちろん挨拶だけが大事なのではあ
りませんが、まずはウェルカムな雰囲気を出そう、気軽に訪れてリラック
スしていい場所であることを示そうと思いました。そんな姿勢がいろいろ
な新サービスと相まって、自分が図書館に赴任してからの 3 年間で、入館
者数が 2.2 倍になりました。挨拶をすることで、学生さんたちの図書館に
対するイメージが変わってきたのではないかと思っています。
   また、そうした明るい雰囲気を通じて、職員みんなが楽しく働ける環境を
つくっていきたいと思っています。
――情報の持つ力というのは、本当に世界を幸せにするものだと思います。その
ような思いで仕事をし、また、図書館員をつないでいく井上さんの活動は、多く
の図書館員にとって、励みになり、勇気を与えるものだと思います。
お話、ありがとうございました。
(インタビューアー:嶋田綾子)
井上昌彦(いのうえ・まさひこ)
関西学院 聖和短期大学図書館
兵庫県西宮市岡田山7-54
http://www.kwansei.ac.jp/seiwa_j_college/seiwa_j_college_003651.html
Tel:0798-54-6508 Fax:0798-54-6518 E-mail: inoue@kwansei.ac.jp
個人ブログ:http://karatekalibrarian.blogspot.jp/
個人Twitter:http://twitter.com/karatelibrarian
152 ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
 『ライブラリー・リソース・ガイド』の発行元であるアカデミック・リソース・
ガイド株式会社の最近の業務実績のうち、対外的に公表可能なものをまとめてい
ます。各種業務依頼はお気軽にご相談ください。
流通科学大学(兵庫県神戸市)の総合政策学部によるオフキャンパス研修の実施に協
力しました。
この研修は、同大の 2 年生以上を対象に開講されたもので、2013 年 9 月 2 日(月)か
ら 9 月 6 日(金)にかけて、東京と横浜で開催されました。弊社ではプログラムの作成助
言から東京・横浜での訪問先調整、そして横浜でのフォトウォーク(地域を散策し写真
を撮影しながら、その地域の魅力を発見するワークショップ)の実施を担当しました。
●主  催:流通科学大学総合政策学部
●協  力:アカデミック・リソース・ガイド株式会社ほか
●日  時:2013年9月2日(月)∼ 9月6日(金)
●会  場:東京大学情報学環・福武ホール、MONO-LAB-JAPAN、
      株式会社KOKUYO霞ヶ関ライブオフィス、さくらWORKS<関内>
●受講者数:15名
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
業務実績 定期報告
流通科学大学総合政策学部オフキャンパス研修に協力
Photo by 松本恵祐
153ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
2013 年 6 月に兵庫県淡路島で「震災復興、今、図書館にできることを考える」をテー
マに開催したのに続き、「被災地に図書館が必要な 30 の理由」を掲げて 2013 年 9 月 15
日(日)から 9 月 16 日(月)にかけて、ライブラリーキャンプ 2013 in 石巻を開催しました。
今回はゲストとして、寺島英弥さん(河北新報社編集局編集委員)、柴崎悦子さん(名
取市図書館館長)、幅允孝さん(BACH 代表ブックディレクター)のお三方を迎え、東松島
市図書館やヤフー石巻復興ベースなどの見学も交えながらの開催でした。
●主   催:ライブラリーキャンプ実行委員会
●企画・運営:アカデミック・リソース・ガイド株式会社
●日   時:2013年9月15日(日)∼ 16日(月)
●会   場:ISHINOMAKI2.0ビジネスカフェ「IRORI石巻」、
       ヤフー石巻復興ベース、絆の駅「石巻NEWSee(ニューゼ)」、
       こはく(白空/ Co Hack)∼石巻フューチャーセンターほか
●参 加 者:23名(※スタッフ含む)
ライブラリーキャンプ2013 in 石巻を開催
154 ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
2013 年 10 月 28 日(月)から 11 月 1 日(金)にかけて開催された第 15 回図書館総合
展にブースを出展し、また 3 つのフォーラムを主催しました(ブース展示期間は 10 月
29 日(火)∼ 10 月 31 日(木))。
弊社では、創業以来毎年、図書館総合展に出展しており、4 回目の出展となった今回
は、「ライブラリーコミュニケーション」と銘打った共同ブースを展開しました。共同出
展したのは次の 7 企業・団体・個人です(順不同)。株式会社 ATR Creative、落合陽一(メ
ディアアーティスト)、クウジット株式会社、公益社団法人シャンティ国際ボランティア
会(SVA)、合同会社リブライズ、特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イ
ニシアティブ(LODI)、READYFOR?(オーマ株式会社)。ブースでは各出展者による展示
やデモのほか、3 日間で合計 12 本
のミニワークショップやトークイ
ベントを開催しました。
また、主催フォーラムとして、
第 1 回 LRG フォーラム「これか
らの図書館の資金調達−寄付・
寄 贈 か ら フ ァ ン ド レ イ ジ ン グ
へ」、OpenGLAM JAPAN 設立記念
フォーラム「文化機関が拓く、文
化機関を拓くオープンデータの世
界」、「喜連川優所長と語る学術情
報流通の未来」を実施しました。
第15回図書館総合展に出展
155ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
弊社代表の岡本真、また雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド』編集担当の嶋田綾子
が以下の各種研修・講義・講演などに登壇し、また以下の媒体に寄稿しました(年内実
施予定を含む)。
●Code4Lib JAPANカンファレンス2013
●専門図書館関西地区協議会防災セミナー
●第2回ビブリオバトルinハウスクエア横浜
●図書館員のためのブラッシュアップ講座10
●第7回LinkedData勉強会
●秋田県市町村図書館・公民室職員研修会
●富田倫生さん追悼記念シンポジウム「青空文庫と図書館をつなぐ」
●同志社大学図書館講習会
●神奈川県立図書館パネルディスカッション「県立図書館の新たな方向性」
 図書館アドバイザーレクチャー
●図書館地区別(北日本)研修 など
●岡本真「MLA、GLAM、MLAKのソーシャルメディア利用」
 (『博物館研究』2013年9月号、公益財団法人日本博物館県協会)
●岡本真「擁護されるべき存在としての図書館─アドボカシーの観点から」
 (『シャンティ』2013年秋号、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA))
●嶋田綾子「図書館の日常業務を小さな工夫から共有する『図書館100連発』」
 (『カレントアウェアネス-E』246、国立国会図書館、2013年10月)
●嶋田綾子「図書館の知を共有するために」(『マガジン航』、2013年10月)
各種研修・講義・講演等での登壇、各種媒体への寄稿
研修・講義・講演等での登壇
各種媒体への寄稿
弊社業務問合せ先 mail:info@arg-corp.jp tel:070-5467-7032(岡本)
LRG Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド
問い合わせ先:090-8052-0087(嶋田)/lrg@arg-corp.jp
1年4号分の定期購読を受付中です。最新号からでも、バックナンバーからでも、好きな号から
のお申し込みができます。 定価:10,500円(税込)
定 期 購 読
● 誌名:ライブラリー・リソース・ガイド(略称:LRG)  ● 発行:アカデミック・リソース・ガイド株式会社
● 刊期:季刊(年4回)  ● 定価:2,625円(税込) ● ISSN:2187-4115
● 詳細・入手先:http://fujisan.co.jp/pc/lrg
「ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)」はアカデミック・リソース・ガイド株式会社が、2012年
11月に創刊した、新しい図書館系専門雑誌です。さまざまな分野で活躍する著者による特
別寄稿と、図書館に関する事例や状況を取り上げる特集の2本立てで展開していきます。
最新情報は公式Facebookページでお知らせしています。
公式Facebookページ:https://www.facebook.com/LRGjp
定価 2,625円(税込)B A C K I S S U E
元国立国会図書館長の長尾真さんの図書館への思いを書き上げた「未来の
図書館を作るとは」を掲載。図書館のこれまでを概観し、電子書籍などこれか
らの図書館のあり方を論じている。
特集は、「図書館100連発」と題し、どこの図書館でも明日から実践できる、小
さいけれどきらりと光る工夫を100事例集めて紹介している。第4号では、
100連発の第2弾として、創刊号で紹介後に積み上げた100事例を紹介して
いる。
長尾真
「未来の図書館を作るとは」
特別寄稿
嶋田綾子
「図書館100連発」
特 集
内 容
創刊号・2012年秋号(2012年11月発行)
SOLD OUT
156 定期購読・バックナンバーのご案内  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
特別寄稿は、前号(第3号)での特集「図書館における資金調達(ファンドレイ
ジング)」を受けて、実際に資金調達を行っている組織からの視点、資金調達
のサービスを提供する事業者からの視点と、より理論的に図書館での資金調
達に迫る。第4号が理論編、第3号が実践編という位置づけであり、2号併せて
読むことをお勧めする。
特集は、創刊号で大きな反響を呼んだ「図書館100連発」の第2弾。さまざま
な図書館で行われている小さくてもきらりと光る工夫や事業から、創刊号以降
の1年で集めた100個を紹介する。
岡本真・鎌倉幸子・米良はるか
「図書館における資金調達(ファンドレイジング)の未来」
特別寄稿
嶋田綾子
「図書館100連発 2」
特 集
内 容
第4号・2013年夏号(2013年8月発行)
東海大学の水島久光さんによる「『記憶を失う』ことをめぐって∼アーカイブと
地域を結びつける実践∼」は、水島さん自身の私的アーカイブの試みからの気
づき、夕張・鹿児島・東北の地域の記憶と記録を巡って、地域アーカイブの役
割と重要性を論じている。
特集は、「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」として図書館での資金調達の取り組みを紹介している。
昨今の自治体財政状況により、図書館の予算も十分とは言い難い。そのなかで、さまざまな手段を講じて、資金を
集め、事業を行っていこうとする図書館の取り組みを集めた。この特集を受けて第4号では、実際に資金調達を
行っている側からの視点と、資金調達のサービスを提供している事業者側からの視点によりさらに議論を深め、
これからの図書館の資金調達のあり方を論じている。第3号と第4号は、ぜひ、併せてお読みいただきたい。
水島久光
「『記憶を失う』ことをめぐって
    ∼アーカイブと地域を結びつける実践∼」
特別寄稿
嶋田綾子・岡本真
「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」
特 集
内 容
第3号・2013年春号(2013年5月発行)
フリーライターのみわよしこさんによる「『知』の機会不平等を解消するために
−何から始めればよいのか」は、社会的に弱い立場とされる人々の知識・情報
へのアクセス状況を概観している。結論からいえば、必要な情報へのアクセス
は保障されているとは言い難い。その状況のなかで、知のセーフティーネットであるべき公共図書館もまた、その
役目を果たしているのだろうか、と疑問を投げかけている。
特集では、株式会社カーリルの協力により、図書館のシステムの導入状況を分析している。全国の図書館では、そ
れぞれ資料管理用のシステムを導入しているが、その導入の実態を分析する、これまでにないものとなっている。
みわよしこ
「『知』の機会不平等を解消するために
         ──何から始めればよいのか」
特別寄稿
嶋田綾子(データ協力:株式会社カーリル)
「図書館システムの現在」
特 集
内 容
第2号・2013年冬号(2013年2月発行)
残部稀少
157定期購読・バックナンバーのご案内  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
LRG
LRG 6号 2014年2月 発行予定
Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド
次回予告
LRGライブラリー・リソース・ガイド
定価(本体価格2,500円+税)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
特別寄稿
特 集
「図書館で学ぶ災害・防災」(仮)
日本の歴史を振り返ると、災害は全国各地で発生しており、その記録も各
地に眠っています。また災害は、自然災害だけではなく人災や公害、戦争
の記録もあります。LRG6号では、災害の記録や情報を提供する図書館
の取り組みを紹介し、市民への防災意識の醸成、身近な地域の防災体
制への図書館の貢献を考えます。
「東日本大震災と図書館」(仮)
東日本大震災から3年。被災地の図書館のこれまでとこれから、そして震
災をきっかけとして図書館の役割を考えます。
LRG
ライブラリー・リソース・ガイド
https://www.facebook.com/LRGjp
第5号/2013年 秋号
無断転載を禁ず
発 行 日
発 行 人
編 集 人
責任編集
編  集
執筆協力
デザイン
発  行
2013年11月30日
岡本真
岡本真
嶋田綾子
大谷薫子
森オウジ、加藤敦太
アルファデザイン(佐藤理樹 + 小野寺志保)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
Academic Resource Guide, Inc.
〒231-0012 神奈川県横浜市中区相生町3-61
泰生ビル2F さくらWORKS<関内>
http://www.arg.ne.jp/
ISSN 2187-4115
定価(本体価格2,500円+税)
Library Resource Guide
第5号/2013年 秋号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
ISSN 2187-4115
LRGライブラリー・リソース・ガイド

『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第5号(2013年12月)

  • 1.
    LRGライブラリー・リソース・ガイド 第5号/2013年 秋号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 LibraryResource Guide ISSN 2187-4115 特別寄稿 内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大 特集 嶋田綾子 司書名鑑 No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館) 本と人、人と人をつなぐ 仕掛けづくり 本と人をつなぐ図書館の取り組み
  • 2.
    LRG Library ResourceGuide ライブラリー・リソース・ガイド 第5号/2013年 秋号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特別寄稿 内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり 特集 嶋田綾子 本と人をつなぐ図書館の取り組み 司書名鑑 No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館)
  • 3.
    2 巻頭言 ライブラリー・リソース ・ガ イ ド 2 0 1 3 年 秋号 ようやく『ライブラリー・リソース・ガイド』第 5 号を刊行することができました。 2012 年 11 月に創刊した本誌は、ちょうど 1 年を経て、第 2 期ともいえる 2 年目 に入ることができました。 この 1 年、本誌にもさまざまなことがありました。創刊と同時に開催した第 14 回図書館総合展のフォーラム「図書館 100 連発 フツーの図書館にできること」は、 満員御礼、好評のうちに終了しました。その後も、研修などで「図書館 100 連発 の話をしてほしい」とのご要望をいただいています。 また、2013 年の秋に開催した第 15 回図書館総合展では、「第 1 回 LRG フォー ラム」と銘打って、「図書館の資金調達」をテーマにフォーラムを開催しました。 このフォーラムでは、小誌の第 3 号と第 4 号で取り上げた事例の関係者、寄稿者 にお話をしていただき、より実践的に議論を深めています。 さて、今 5 号では、 ●特別寄稿「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」  内沼晋太郎、アサダワタル、谷口忠大 ●特集「本と人をつなぐ図書館の取り組み」  嶋田綾子 ●司書名鑑No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館) の 3 本立てとなっております。 巻頭言 図書館をひらくために
  • 4.
    3巻 頭 言  ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号 今号では、特別寄稿と特集がほぼ同一のテーマとなっております。これまで図 書館に求められているのは、個人の営みである「読書」が中心でしたが、これから は図書館から始まるコミュニティ機能も求められています。このような潮流のな かで、図書館で取り組める「人と人をつなぐ仕掛けづくり」を、本に関わる人々か ら学ぶ、というのが今号の狙いです。 内沼晋太郎さんは、下北沢で「Book&Beer」をコンセプトにした街の書店「B&B」 を経営しています。発見のある「小さな街の本屋」を目指して、日々、棚づくり、 イベント開催に励んでいらっしゃいます。気鋭のブック・コーディネーターとし て、「本」をめぐるさまざまな試行的実践と、これからの「書店」のあり方をビジネ スとして模索するその思いを伺いました。 アサダワタルさんは、図書館業界では 2011 年の Library of the Year2011 受賞 が記憶に新しいところです。自宅を少しだけ「ひらい」てコミュニティをつくる 「住み開き」、そして、「日常編集」というユニークな活動のなかで、「本」を媒介と した、図書館の再編集につながるような話を語っていただいています。 谷口忠大さんは、図書館でも近年行われるようになってきた、書評を使った本 の紹介ゲーム「ビブリオバトル」の発案者です。ビブリオバトルは、人の紹介を通 して面白い本に出会うこと、面白い本を紹介する人に出会うことに醍醐味があり ます。簡単なルールを守るだけで誰もが実践でき、図書館でも注目される「ビブ リオバトル」を楽しむ秘訣を伺いました。
  • 5.
    4 巻頭言 ライブラリー・リソース ・ガ イ ド 2 0 1 3 年 秋号 特集「本と人をつなぐ図書館の取り組み」では、本と人をつなぐために図書館 が行っているさまざまなイベントや本を紹介する取り組みについて、紹介してい ます。古くから行われている定番の取り組みから新しい試みまで、「本と人をつな ぐ」をキーワードに、事例を紹介しています。新しい試みはそのまま実践できる ように、定番の取り組みはよりよい実践のヒントとなるような事例をピックアッ プしています。 図書館でも、書店でも、本を紹介する取り組みは、新旧さまざまにあります。そ してそのいずれの取り組みも、本を一人で読むだけではなく、そこから人々がつ ながっていき、新たなコミュニティが生まれることを目指しています。 そして、今 5 号から、新企画が始まります。それは「司書名鑑」です。 記念すべき連載第 1 回は、関西学院 聖和短期大学図書館の井上昌彦さんにご登 場いただきました。井上さんといえば、「図書館員のセルフブランディング」の必 要性を説き、自らの「ミッション」を掲げて、精力的に活動しています。仕事のこ と、ミッションを掲げるにいたった過程、そして「情報の持つ力」への思いを語っ ていただきました。 「司書名鑑」では、今後も図書館の内外で活躍しているライブラリアンにご登場 いただき、その仕事や図書館への思いを語っていただきます。図書館は決して個 人の活動で成り立っているものではありませんが、そこには、多くのライブラリ アンの努力と思いがあります。限られた紙面のなかで、その活躍の全てを記すの はかないませんが、一人でも多くのライブラリアンの活躍を微力ながらもご紹介 できれば幸いです。 編集兼発行人:岡本真 責任編集者:嶋田綾子
  • 6.
    5巻 頭 言  ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
  • 7.
    巻 頭 言 図書館をひらくために[岡本真+嶋田綾子]…………………………………………… 2 特別寄稿 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり[内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大]……… 7      「本」をめぐる冒険[内沼晋太郎]…………………………………………………………… 10      「本」が生み出す、これからのコミュニティ[アサダワタル]………………………………… 30      図書館でのビブリオバトル実施アドバイス[谷口忠大]…………………………………… 50 特  集 本と人をつなぐ図書館の取り組み[嶋田綾子] …………………………………… 65 LRG CONTENTS Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第5号/2013年 秋号 一日図書館員 ブックスタート ぬいぐるみのおとまり会 夏の自由研究サポート おはなし会 図書館ツアー(図書館見学)、館長懇談会 図書館福袋 読書会、ビブリオバトル 参加型POPづくり、参加型しおりkumori サイエンスカフェ、ライブラリーカフェ、作家の講演会 郷土資料講座、文学散歩 図書館コンサート 図書館まつり 選書ツアー 上映会 司書名鑑 No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績定期報告 定期購読・バックナンバーのご案内 次号予告 ……………………………… 146 ……………………………………… 152 ………………………………………………………………… 156 ……………………………………………………………………………………………… 158 ………………………………………………………………………………… 66 ………………………………………………………………………………… 70 ……………………………………………………………………… 76 ……………………………………………………………………… 80 …………………………………………………………………………………… 84 …………………………………………………… 90 …………………………………………………………………………………… 96 ……………………………………………………………………… 100 ………………………………………………… 106 …………………………………… 112 …………………………………………………………………… 118 …………………………………………………………………………… 124 ………………………………………………………………………………… 128 ………………………………………………………………………………… 134 ……………………………………………………………………………………… 140
  • 8.
  • 11.
    10 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 「本」をめぐる冒険 これからの本屋「B&B」を 生み出した試行と実践とは 1980年生まれ。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディ ネイターとして、異業種の書籍売り場やライブラリーのプロデュース、書店・取 次・出版社のコンサルティング、電子書籍関連のプロデュースをはじめ、本に まつわるあらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行う。 2012年、下北沢に本屋「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。ほか、読書用品ブ ランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー、これからの執筆・編集・出版に携わる 人のサイト「DOTPLACE」編集長など。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事 の未来をつくる本』『本の逆襲 』(ともに朝日新聞出版)。 内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう) 2012 年、下北沢南口からすぐのところに「これからの街の本屋」をコンセプト にした本屋が生まれた。店内にはクラシック音楽が静かに流れ、30 坪ほどの店内 には、シックな書棚に個性的な本が並べれられている。 「B&B」はお酒が飲めるブックショップ。アルコールを手にしながら、好きな本 を選び、未知の世界に心を踊らす時間……。 ふつうの書店とはその趣きを異にするここ「B&B」は、ブックコーディネイター として活躍する内沼晋太郎さんが共同プロデュースした街の本屋である。 内沼さんはそのキャリアのほとんどを、「本」をめぐる試行と実践に費やされて きた。その「本」をめぐる冒険には、「本」の存在を拡張するための表現が、「本」と の出会いを生み出すための実験が、「本」が置かれている困難な状況を打破するた めの問題提起が、常にある。 長らく低迷していた本の業界を、驚きの発見とともに面白くしている人の一人 である内沼晋太郎さんに、本をめぐるさまざまな試行と実践、その思いを伺う。
  • 12.
    11本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 僕は 1980 年に生まれたのですが、僕たちの世代は「最近の若い者は、本を読ま なくてけしからん」といったことを、上の世代から常に浴びせられてきたんです。 僕自身は本が好きで読んでいたのですが、仲のいい友達のなかには、本を全く読 まないのも確かにいました。でも僕は、そういった活字離れ世代への嘆きを聞く たびに「それは、本当に自分たちが悪いんだろうか?」って漠然と感じていたん です。本を読まない友達の多くは、新しい知や情報に対して鈍感ではなく、むし ろ敏感なんです。では「なぜ、彼らが本を読まないのか」というと、それまでの人 生のなかで「本と出会う機会がなかったから」だけなのではないかと思ったのです。 僕たちの世代というのは、ちょうど中高生の頃にポケットベルがはやって、そ れが PHS になって、やがて携帯電話になったり、パソコン通信がインターネッ トになって、電話回線から日進月歩で光回線になったり、ゲーム機や音楽メディ アもめまぐるしく進化していったのを、多感な年齢の時に身をもって体験し てきた世代なんです。通信やエンターテインメントの世界で、できることや面 白いことが加速度的に増えていく、そうすると本は生まれたときからあるので 「あってあたりまえ」なのですが、ほかのものは目新しく身の周りに飛び込んでき て、それらを中心に毎日をおくっていたら、本と出会わなくても無理もないと思 うんです。 こういうふうに考えると、悪いのは僕たち世代の側だけにあるのではなくて、 本を届けている側にも問題があるのではないかということに気がつきます。つま りそうした状況において、出版社も、取次も、書店も、図書館も、出版業界と呼ば れる本に関わる人たちは、「ゲームよりも本のほうが面白い」とか、「携帯電話よ りも本のほうが夢中になれる」といったメッセージなり仕掛けを、本から離れて いる世代に向けて発してこなかったと思うんです。こういった状況に気がついた ことが、僕の活動の原点かもしれません。 必要なのは「本との出会いをつくる」仕事 そもそも「本と出会う機会」がない――その視点に気がついたときに、「本の出 会い」を生み出す必要があると思ったんです。つまり、書評家がやるような「この 活動の原点は、活字離れ世代からの問題提起
  • 13.
    12 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 本が面白いよ」を伝えるもっと手前の、「本って面白いんだよ」ということを伝え るための仕組みや仕掛けを考える仕事です。「この本が面白いよ」というメッセー ジは、本を読む人にしか届かないんです。もちろん、当時はそれが仕事になるか 分かりませんでしたし、ここまで明確に言葉にできていませんでしたが、そうい うことこそが必要だなと思いました。 ですから、就職活動をする頃には、出版社や書店とかに入っては駄目だと思っ たんです。たとえば出版社の採用面接で「出版業界をなんとかしたいので、本の 面白さを伝える仕事がしたいんです」と言ったとしても、「なにを言ってるんだ。 まず売れる本をつくれ」と言われるに決まっています。ファッション雑誌の編集 部に所属したら、新人のうちは原宿あたりを歩いているおしゃれな子をみつけて スナップ写真を撮らせてもらうみたいな毎日のなかから、「本の面白さ」を伝える ところにいくまでには何十年もかかるだろうと思いました。 そこで、本と少し離れた場所から本と関われる仕事がしたいと思って、ブック フェアなども手がける某国際見本市の主催会社に入社しました。面接の時に「出 文庫本葉書
  • 14.
    13本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 版業界をなんとかしたいから、ブックフェアをやりたい」と言ったら、面白がら れて採用されたんです。「展示会ビジネスが伸びているから」といった志望理由が 大方だったそうなので、僕みたいなのは珍しかったみたいですね。ですが、僕自 身がたぶん会社員に向いてないこともあって、2 ヶ月半で辞めました。 会社は辞めたものの、「本の面白さを伝える」という視点はもち続けていたの で、学生時代に一緒に活動していた仲間と、本と人との出会いを提供するユニッ ト「book pick orchestra(ブックピックオーケストラ)」※ 1 をつくりました。 本に興味のない人が、どうやって本と出会うか 「book pick orchestra(ブックピックオーケストラ)」は、ネットの古本屋とし て活動を始めました。そのころはアマゾンのマーケットプレイスがない頃で、ラ イターの北尾トロさんを先陣に※ 2 、個人のネット古本屋がたくさんあったんです。 僕たちはむしろ後発組でしたし、ただ古本を売って稼ぐことよりも、「本と人との 出会い」を意識しながら、面白いことやまだやられていないことを仕掛けていこ うと思っていました。 たとえば「文庫本葉書」というのがあります。これは文庫を 1 冊ずつクラフト 紙に包んで、クラフト紙の表面にハガキのような宛名欄、裏面にその本から抜き 出した印象的な一節を印刷したものです。手にした人は、裏面に印刷された引用 文を眺めて、心に響いたら買ってもいいし、切手を貼って誰かに送ってもいい。 本を読まない人にとっては、「あってあたりまえ」すぎて気にとめることもなかっ た本の存在が、包まれて見えなくなることで本と出会い直せるし、本を読む人に とっては、出版社やメディアの売り文句などの先入観を介さないことで、普段は 手にしない本と出会えるはずです。「包む」ということでは、横浜の馬車道ほかで 企画した会員制・予約制・入場料制の期間限定の本屋< encounter. >も同じで、 これはもともと横浜の BankART というアートギャラリーで、作品として発表し た企画です。 また、渋谷パルコのロゴスギャラリーで行われたイベント「新世紀書店・仮店 舗営業中」では、本が苦手だと思っている人に、どうしたら本を楽しんでもらえ るかを考えて、< she hates books >< her best friends >という企画をしました。
  • 15.
    14 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 < she hates books >は、「本嫌いの彼女に本を読ませる本屋」というコンセプト のもと、選曲した音楽の気分に合わせた古本を CD とともにセットで販売したり、 < her best friends >では本を並べるのではなく、その本をお薦めした人の顔写 真を壁に貼って、本を販売しました。お薦めした人の顔写真には「好きな食べも の、出身地、本の値段」などのプロフィールがあって、お客さんはそれを手がかり に本を買うという仕組みです。 「book pick orchestra」での活動を通して僕が重要にしていた問題意識の一つと いうのは、「本に興味のない人が、どうやって本と出会うか」ということです。自 分で本を選べる人というのはもう読者ですから、そこにだけ向けて発信していて も、本に興味がない人へは届かない。ではどうすればいいかというと、それは音 楽などのほかのジャンルからのアプローチが有効かもしれないし、自分と気の合 いそうな人からのリコメンドかもしれない。方法は多様にあると思います。 こういったことは、出版社も、取次も、書店も、やってられないわけです。「確 かに面白いけど、手間ひまがかかりすぎる。ビジネスにならないよね」となって、 本を隠して売るようなことを思いついたとしても、自分の立場とか、やる意味と かを考えて、やってこなかったと思うんです。でも、僕たちはそれが必要だと思っ たし、誰もやっていなかったからやったんです。 僕は大学では商学部に在籍し、ブランド論を専攻していたのですが、ブランド 論を学んだことは今の自分の仕事に非常に役に立っています。ブランディングと いうのは、商業的な意味での付加価値を考えることなのですが、そうした勉強を しているうちに「本屋って、洗練されてない店が多いな」とか、「出版社ってコン セプトがみえないな」とか、出版業界はとてもブランディングが下手だというこ とに気がついたんです。ブランド論の教科書に出てくるブランディングの事例は、 飲食やファッション、車などの業界からばかりで、本に関わりのある業界からは 一つも出てこないんです。 ブランディング力のない出版業界
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    15本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 例えば「スターバックスコーヒー」にはコンセプトがきちんとありますが、「『講 談社』のコンセプトって、なんだろう?」とか、最近でこそコンセプトをもった新 書シリーズはありますけど、当時は「この新書だったら、全部買い揃える」みたい なことには、まったくなっていませんでした。でも音楽だと、たとえば「ブルー ノート・レコード」といったジャズレーベルなら、「○○番台は全部、集めている」 みたいな人がいるでしょう。 紙の本は再販制により、全国一律の定価販売が維持されているので、良くも悪 くも競争したり、差別化する必要がなかったのだと思います。だからこそ、つま らない状況になってしまった部分もあるのだと思います。 僕は、音楽も、美術も、映画も好きでしたが、とりわけ本を仕事にしようと思っ たのは、ひと言でいうなら、出版業界がまだまだ未開拓で、やれることが沢山あ ると思ったからです。「ただの斜陽産業」という人もいましたけど、「この本屋が かっこいい」とか「この出版社の、このレーベルが面白い」とか、そういったメッ セージをきちんと伝えることとか、やれていないことがたくさんあるなと思いま した。 「読書用品のブランド」という発想 たとえば「ビブリオフィリック」※ 3 は、「ディスクユニオン」と立ち上げた「本 のある生活」を楽しむための読書用品のブランドです。「ディスクユニオン」は関 東圏の方はご存知の通り、中古 CD の販売をメインにしている会社です。「ディス クユニオン」にはジャズ館やロック館など、ジャンルごとに専門特化した館があ り、そのなかに「CD・アクセサリー館」というのがあって、レコードの針とか袋 とか CD を入れる専用の袋やラックなど、音楽を聞くための周辺機器や道具だけ を販売しているのですが、それがうまくいっていたんです。 ある日、以前から付き合いのあった「ディスクユニオン」の社長に、「内沼さん、 本でこういうのって、できないかな?」と尋ねられたんです。 実は、僕もその頃 同じようなことを考えていたのです。それは、電子書籍がこれから盛り上がるこ とによって「データでいいものはデータで読むけど、紙で読みたいものは書籍で ほしい」というふうに二極化するだろうということです。つまり、紙で読んでい る人というのは、「モノとして」大事にしたいということになるので、大事に本を 保管するための道具が必要になるはずだ、と。
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    16 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 本がモノ化するこの感じは CD とかレコードが辿ってきた道と似ていて、「デー タでいいものはデータで聴くけど、アナログで聴きたいものはレコード盤で買 う」といったことと似ているんです。ですから社長の言っていることはよく理解 できたので「今はまだないけど、絶対にやるべきだ」と思って、僕が提案をしまし た。「ビブリオフィリック」では、本棚、しおり、ブックカバー、付箋のほか、読書 用の音楽も販売しています。 「道具のブランド」というのは、アウトドアブランドを意識していて、例えば 「キャンプをしよう」となったときに、キャンプそのものの魅力もあるのですが 「このテントを張りたい」とか、「この飯ごうを使いたい」とか、道具から入る人は 結構いますよね。いま、アウトドアの雑誌もたくさんありますが、モノ自体の格 好良さが入り口でその世界に入っていくということが、ある種の趣味にはあるわ けです。 下北沢南口すぐにある書店「B&B」
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    17本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 読書というのも、もはやその種の趣味になりつつあるとすると「あの素敵な ブックカバーを電車のなかで広げたいから、本を読もう」というような、そうい う方向だってありうると思いました。こういうことを考える僕のモチベーション には、やはり「本を読む人を増やしたい」というのがあります。 「B&B」は僕が代表をする「numabooks」※ 4 と、嶋浩一郎さんが代表をする「博 報堂ケトル」が、下北沢の駅前に恊働して 2012 年に開業した「街の本屋さん」です。 僕も嶋さんも、街の本屋だけに特別な思い入れがあるわけでなく、ネット書 店も利用するし、電子書籍にも期待しているし、大型書店にもよく行くし、街の 本屋も好きなんです。ですから二人でいろいろな仕事をするなかで「本屋をやろ う!」となったとき、共通する視点としてもっていたのが「本を楽しむ環境がい ろいろあるのが、一番豊かだよね」ということでした。選択肢がたくさんある未 来をつくりたいと思いました。だから、そのなかで消えてなくなりそうだった「街 の小さな本屋」をやることにしたんです。 「街の小さな本屋」のビジネスモデルはもう崩壊していて、20 ∼ 30 坪のスペー スで新刊の本だけを売っていては、とっくに成り立たなくなっているんです。当 然、僕も嶋さんも、新刊書店の経営者という意味では素人だったのですが、素人 だからこそ、その生き残り方が見つけられそうな気がしたんです。では具体的に 「街の小さな本屋の生き残り方」とはなにかというと、僕たちがしていることはた いしたことではなくて、本を売るというメインのビジネスに対して、イベントを やったり、ドリンクを出したり、家具を売ったり、最近では英会話教室も始めた のですが、こうした相乗効果のある複数のビジネスを組み合わせて、全体として 成り立たせるということです。どんなビジネスでもそうですが、利益を得られる ものが複数あるとリスクヘッジになるわけです。 僕は、「B&B」の事業を成り立たせることで、街の小さな新刊書店が置かれてい る状況を更新したいと思っています。「こういうやり方であれば、まだやっていけ るんだよ」というメッセージを発信し 、どんどんこのモデルを真似してもらいた いと思っています。 「街の小さな本屋」のビジネスモデルを提案する
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    18 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 他のビジネスで収益をあげて、個性的な棚をつくる 70 年代から 90 年代初めは、書店業界はバブル期でした。棚に本を置けば飛ぶ ように売れた時代があって、その頃のほうが街の本屋に個性があったんです。つ まり売り上げが立っているから、本好きな店員が本棚に手をかけられた。でも本 が売れなくなって売り上げが立たなくなると、人件費の削減のために社員が少な くなって、バイトが増えて、業務を効率化するので、個性的な棚がつくれなくなっ たんです。 たとえばレストランだったら、売り上げが下がったときに、食材を良いものに して単価を上げて高級路線にいくとか、逆に原価を下げるとか、やれることがた くさんあるでしょう。でも本というのは、どこで買っても同じ商品だし、日本全 国仕入れ値もほとんど、売値はまったく同じです。ビジネス上の工夫がしにくい 業態なんです。ですから、経営が悪くなったときにやれることは、本を返品する か、人件費を削減するしかない。 ある本屋の棚がどんどんスカスカになって面白 くなくなっていくときには大抵、その店の経済的な事情がとても影響しています。 「B&B」では、個性的な棚をつくってきた先陣たちをお手本にして、文脈棚をつ くっています。文脈棚というのは、僕がかつてアルバイトをしていた千駄木にあ る往来堂書店の初代の店長・安藤哲也さんが提唱した棚づくりの方法で、「この 本の隣にこの本があって、その隣にこの本がある」という文脈が面白みになって いくような本棚のつくり方です。いわゆる「人文」「科学」「料理」といった一般の 本屋の分類に従えばバラバラに置かれるはずの本を、ある文脈に沿って同じ棚に 並べることで、ストーリーやメッセージを生み出すことができます。文脈棚とい うのは、その店の個性を出しやすいのですが、どこの書店でもできるわけではな いんですね。つまり、それをやる余裕がないんです。きっとどの書店員さんも、棚 に手をかけたいはずだと思うのですが、なにせ時間がない。なぜ時間がないのか というと、儲かってないからなんです。 「B&B」は複数のビジネスをしていますが、あくまでメインは「本屋」です。です から、商品である本を置く棚には手をかけますし、「 B&B」でそれができているの は、イベントやドリンクなどの他のビジネスで成り立っているからなんです。 継続するための循環の仕組み 「B&B」では、毎晩イベントをやっています。これはなにがなんでも絶対と決め
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    19本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ていて、なぜかというと「B&B に行けば、夜はいつもなにかやっているよね」と お客さんに認識してもらうことが、一番重要だと思っているからです。前日にイ ベントが決まっていなかったら僕ひとりでも出ますし、「たとえお客さんが3人 でもやる」ということを徹底しています。こういうことは徹底しないと「儲かっ てきたから、イベントは週3日でいいかな」と思ってしまうかもしれないし、担 当者が辞めたとたんに、イベントのスケジュールに穴が出てしまうということは、 よくあることなんです。「B&B」ではイベントを毎日やって、売り上げや集客の目 標があることを前提としています。それ以外はわりと自由で、本と関係のあるイ ベントであればオッケーです。基本はその本の著者や編集者が来て、それに関連 して売る書籍があることですね。今、10 月上旬ですが、僕たちがいつぐらいのイ ベントを企画しているかというと、11 月末くらいです。つまり 10 月は、もう空 きがない。11 月の上旬もほとんど埋まっている。イベントが決まれば、関連本を 出版社に発注してストックしています。 イベントで「B&B」に来るお客さんは、ある著者のファンで足を運んでくれて、 店内でドリンクを飲んでいく。イベントで過ごす時間が心地良ければ、「B&B」の 店内には、ビアサーバつきのカウンターがある
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    20 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 ファンになってくださるかもしれない。ファンになってくだされば、また足を運 んでくれて本が売れていくという、こういう循環のための相乗効果が重要だと 思っています。 「B&B」という名前の由来は「Book&Beer」です。僕も嶋さんもビールが好きだっ たので、「本屋で昼間からビールを飲みながら、棚の本を選べたらすごくいいよ ね」みたいなところから発想しました。こういうことをやると、「いや、俺もやろ うと思っていたよ」みたいなことを言う人が現れるんですが、やろうと思うのと、 実際にやるのは違うわけです(笑)。 たいていはやろうと思っても「商品にビールをこぼされたら困るな」とか、「昼 間からビールを出したら、店のなかでお客さんが泥酔しちゃうんじゃないか」と か、脳内で勝手に完結して諦めちゃうんですよ。でも、本屋でビールが飲めたら すごくいい。「すごくいいことには人がたくさん来るし、話題にもなるはずだ」 というところに、僕も嶋さんも自信がありました。重要なのはそこから先です。 「どうしたら、それができるのか」を、考えなくてはいけない。 僕たちはいろいろ工夫しているのですが、一つは店内の空間デザインです。た とえば「ビレッジヴァンガード」のような、雑多な空間デザインをコンセプトにし ている書店でビールを出したら、もっとこぼされると思うんですよ。でも「B&B」 は、とてもゆったりと整然としていて、音楽もクラシックやジャズなどを静かに 流しています。こういう空間で、人は酔っぱらいたいと思わないんです。つまり、 僕たちは「ここで何杯も飲んで、倒れたり、吐いたりしてほしくない」ので、そん なことをしたくなくなる空間を設計すればいいわけです。 もちろん、店内で気持 ちよくビールを飲んでもらいたい。でもそれは、ビールを飲んで、ちょっといい 気持ちで本を選ぶくらいのことがしたくなる空間なんです。 とはいえ、実際に開店するときは、きっとこぼされるだろうと思っていました し、ある程度は覚悟していたのですが、実際には本にビールがこぼれて売り物に ならなくなったのは、月に 1 回もないです。「B&B」ではビールを 500 円で販売し ビジネス/美意識/情報の観点から、空間をディレクションする
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    21本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ているのですが、ビールの原価は 100 円台です。でも、文庫本を 500 円で売って も書店が得られる利益は、だいたい 100 円です。ビールを売ることによって出る 利益を考えれば、たとえ 2000 円の本が 1 ヶ月に1冊駄目になっても、ビジネス としては問題ないんです。こういうことはまずやってみて、駄目ならやめればい いんです。やってみることが大事なんです。 ポップを貼らずに、伝える工夫 「B&B」は、店内に POP を貼っていません。いま「B&B」では「月の本」のフェア を開催しているのですが、棚に「月の本」という POP をつけることなく、いかに 並んでいる本をパッと見ただけで、その棚のテーマをお客さんに伝えられるかを 常に意識しています。 POP をつけずにその棚がなんの棚なのかを伝えるためには、「全体として分か る」ようにすることです。こういうのはディスプレイ技術です。よく陥りがちな のが、選書する側にその本についての知識があると、逆に分かりづらい展示をし てしまうということです。たとえば「月のフェア」をつくる際に、「その作品のな かで、月が重要なモチーフとして出てくる」という知識があると、書名に「月」が 入っていない本を選んで、工夫なく棚に置いてしまうんです。そうすると、当然 ながらその作品を読んでいないお客さんには、それが月と関係のある本だという ことが伝わらないんです。 では、どうやって伝えるかというと、どう本を置くかです。例えば『月光仮面』 を置いて、その隣に「美しい月」みたいな本があって、さらに「月の写真集」を置 けば、その隣にある本の書名に「月」というワードが入ってなくても、「きっと、 月の本なんだろうな」と、棚の文脈からお客さんが想像できますよね。こういう ことが結構、重要です。 表紙に「月」のイラストや写真があるものを、ドンと面出しするのも有効ですね。 月をテーマに 100 冊選書するのであれば、60 冊はタイトルに「月」と関連する言 葉が入っていないと分からないと思います。 ワクワク感を演出する あと棚づくりで心がけていることは、「B&B」の店内スペースは 30 坪くらいと、
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    24 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 さほど広くはありません。そうすると「この本が欲しい」と言って来てくださる お客さんに対して、面積の大きい大型書店や amazon に、品揃えの面で圧倒的に 勝てないのです。また「B&B」は、あるジャンルに特化した専門書店ではないので、 例えば建築を専門とする書店の棚に勝てるかというと勝てないわけです。 そうなれば、僕たちのような 20 ∼ 30 坪の本屋がやらなくてはいけないことは、 買う本が明確に決まっている人ではなくて、「なにか面白い本がないかな?」っ て思っている人に来てもらって、ちゃんと見つけてもらうことです。となると、 棚にワクワクするような感じがないと駄目なんですよ。しかも、店内に置ける限 られた冊数のなかで、なるべく棚の中に「広い世界」をつくらなくてはいけない。 たくさん本があれば広い世界がつくれて当たり前なのですが、数十冊しか本が置 けないなかで、いかにジャンプするかということです。棚をつくる際には、そう いったワクワク感や広がりに気を配るようにスタッフと意識しています。 手づくり感をもてはやさない 空間をつくるうえで「トータルディレクションができているか」は、とても大 切だと思います。どんなに洗練された建築をつくっても、建物の中の空間で司書 さんが書いた手書きの POP がベタベタと貼られていたら台無しです。よく思う のですが、本屋や図書館というのは「手書き=よいこと」みたいな錯覚が、ほか の業界よりもまかり通っていると思います。たとえばアパレルショップの「ビー ムス」で、「この T シャツはかっこいい!」みたいなことを、店員が手書きで POP に書かないですよね。「スターバックス」でも手書きをしていい場所は、看板とか、 黒板の一部です。 でも、これは致し方ないところもあるとは思います。なぜ、書店で手書きが多 くなるかというと、本屋は現場に入ってくるものが毎日変わるので、アピールし なくてはならないものが日々、変わるわけです。そうすると現場が一番わかって いるので、現場のスタッフが手書きしたものを貼らざるを得ないのでしょう。つ まり、トータルディレクションとしての本部機能が効かせにくいんです。これが 「スターバックス」ならば、毎日、新商品が入るわけではないので、日々、言わな くてはいけないことってあんまりなくて、季節ごとに情報を出せばいい。だから ルールがつくりやすいんです。
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    25本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 本屋や図書館は「手づくり感」みたいなものがもてはやされやすいのですが、 手づくり感があれば全てがよいなんてことは絶対にないんです。もちろん手書き を一概に悪いと言っているわけではなくて、例えば「ビレッジヴァンガード」では、 「赤い線が入った黄色い紙」に手書きで POP を書いていますよね。そういうルー ルさえあれば、全体が奇麗にみえます。 こうしたディレクションはクールにやらなくてはいけなくて、「誰々さんは字 がうまいから」みたいなところでやるのは、やはり仕事ではなくて趣味の発想な んです。図書館でもせめてロゴの運用を決めるとか、館内サインのデザイン、つ まりフォント、大きさ、色などを、ロジカルに統一するべきだと思います。当たり 前のことですが、「大分類」よりも「中分類」が大きく書かれていたらおかしいん です。「中分類」を指し示している時点で、すべての「中分類」を示すサインのフォ ントは同じはずなのに、他の場所ではフォントが変わっていたり、大きくなって いたり、色まで違っていたり、こういうのは絶対に駄目なんです。 館内のフォントは統一するなり、手書きの場合でもフォーマットを決めるだけ でだいぶ印象が違います。これは「なんでもかんでも洗練して、奇麗にすればい い」ということではありません。図書館に来た人に、伝えるべきメッセージをス トレスなく伝えるための「情報のデザイン」と、アットホームに館内で過ごして もらうための「雰囲気づくり」を、分けて考えないといけません。どちらにせよ、 誰も管理せずにフリーダムにやるのではなくて、こういうことを意識的にやる必 要はあると思います。 もし僕が図書館の館長だったら、その地域に住んでいる知的好奇心のある人 たちが集まるような空間をつくるために、今、自分たちの図書館に「どういう人 たちが来ていて、どういう人たちが来ていない」のか、「来ていない人のなかには、 来てほしい人がいるのか」「なぜ、その人たちは来ていないのか」「どういうこと をしたら、その人たちが来てくれるのか」など、地域の特性を考えながら、とにか く考えて、考えたことをひたすら実行していくと思います。 図書館という「場」としての魅力
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    26 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 図書館の本の電子書籍化がいわれて久しいですが、保存の観点からはとても意 味のあることだと思いますし、「図書館というリアルな場所が、いずれ個人の PC のサイト上に生まれる電子図書館になるんだ」ということであれば、そちらに向 かうのもあり得ると思いますが、リアルな場所がある前提で図書館の本を電子化 していくのは、サービスとしてはあまり意味がないことだと僕は思っています。 データというのは自分の PC とか携帯などの端末で見るものだし、複製可能であ ることに意味があるからです。すでに場があるのですから、場の魅力をつくって いくことだと思います。 データの本にできなくて、紙の本にできること。それは、空間を直接つくるこ とができるということです。そういう場の魅力というのは、質量がある紙の本な らではなのです。 人が本を好きになるプロセスには、大きな本棚を前にして「世の中にはこんな にいろいろな本があるんだ」とか「難しすぎて今は読めないけど、いつか読める 店内には、座って本が読める空間もある
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    27本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ようになりたい」とか、物理的に圧倒された経験みたいなものがあると思うんで す。今までは、そういう経験を生み出す「場としての役割」を、家にある本棚とか、 街の本屋が担っていたと思うんですけど、街から書店がなくなったり、親も本棚 をもっていなかったりするなかで、そういう経験を子どもができるのは図書館く らいしかないでしょう。図書館という場所はいろんな役割があると思いますが、 「知的好奇心がわっと芽を出す場」として、ますます重要な役割があると思ってい ます。 できるところから、「人のやっていないこと」をやり続ける 図書館の場合は行政との関係があるでしょうから、書店とは違う苦労がいろい ろあると思います。でも行政にだって自治体ごとに癖があると思うので、「こうい うところでは、そんなに厳しくは言ってこないだろう」というポイントをみつけ たら、そこで違うことをやればいいのではないでしょうか。それはもうケース・ バイ・ケースなので一概には言えないですけど、できるところから「人のやって いないこと」をするしかないと思います。「なにもできない」ということは、絶対 にないと思いますから。 なにも大きな予算のかかることではなくても、街に住んでいる読書家の高齢者 が、図書館に来る子どもたちに本読みをして交流を生んだり、著者を呼んで人を 集めたりして「この図書館、面白いよね」って言われるようなことを積み上げて いけばいいと思います。 あとは、こういう媒体に取り上げられるような図書館にすることだと思いま す。他館とは違うことをして注目を集めて、「あそこはなにか違うぞ」と思われる ような評判をつくっていく。評判というのは、評判が評判を呼ぶみたいなところ があって、一度取り上げられるようになると、何度も取り上げられていくんです。 やはり、そうなるにはやり続けることしかないと思います。
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    28 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 ※ 1 2003 年にメンバー 3 人で結成。2006 年末まで代表を内沼氏がつとめ、現在の代表 は川上洋平氏。渋谷のギャラリースペース SUNDAY ISSUE、新宿のシェアオフィス HAPONのブックコーナーの選書や企画運営、オリジナル商品「文庫本葉書」の販売、 図書館や文学館での本のワークショップなど、各地で人と本が出会う偶然を生む ための活動を行う。 http://www.bookpickorchestra.com/ ※2 北尾トロ『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』(風塵社、2000年) ※ 3 2011 年よりディスクユニオンが展開した読書家のための読書用品ブランド。内 沼氏がプロデューサーをつとめ、さまざまなクリエイターや有識者とコラボレー ションをしている。 http://diskunion.net/bibliophilic/ ※ 4 内沼氏が代表をつとめる「本とアイデアのレーベル」。書籍売り場やライブラリー のプロデュース、本にまつわるプロジェクト企画や作品制作、書店や出版社のコン サルティング、電子書籍関連のプロデュースなどを手がける。 http://numabooks.com/ 文中注釈
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    30 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 「本」が生み出す、 これからのコミュニティ 1979年生まれ。大阪市立大学法学部卒。「日常編集家」として公私の狭間、 異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、文章、音楽、 プロジェクトを通じて創作する。神戸女学院大学キャリアデザインプログラ ム、立命館大学映像学部などで講師。著書に『住み開き 家から始めるコミュ ニティ』(筑摩書房)『編集進化論 editするのは誰か』『クリエイティブ・コミュ ニティ・デザイン』(共にフィルムアート社、共著)。「マガジン航」(ボイ ジャー)、「学芸カフェ」(学芸出版社)、「ソトコト」(木楽舎)など各メディアに て連載中。ユニットSjQ++(HEADZ)ドラム担当。 アサダワタル 各地域に滞在しながら、コミュニティプロジェクトの構想演出や教育・福祉現 場における音楽ワークショップの実施、それらにまつわる文筆活動など、幅広い フィールドで活動されるアサダワタルさんは、もともとバンドのドラマーとして キャリアを始められている。その後、表現活動を「音」から「場/事」に広げ、多彩 に活動するアサダさんのベースには、日常にこびりついた既存の価値観を再編集 する目線が常にある。 2009 年、アサダさんが提唱した「住み開き」は、「住む」というありふれた空間 をほんの少し編集することで、日常や社会の風景を一新し、多方面に影響を与え た。図書館業界も例外ではなく、「住み開き」は 2011 年の Library of the Year を 受賞した。 本インタビューでは、アサダさんが実践したさまざまなプロジェクトを伺いな がら、「本」や「本屋」をつかったコミュニティの生み出し方を考えたい。
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    31本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 僕はもともとミュージシャンとして、バンドでドラムしか叩いてなかったの ですが、音楽だけではなく、映像とか美術などのイベントをオーガナイズしたり、 スペースの運営とかに関わりだすうちに、街の人たちとつながって、いつしか「ま ちづくり」みたいなことにもつながったんです。そして、そうした活動のなかで、 文章を書いたり、滞在制作をしたり、司会をしたり、大学で講義をしたり、自分の 専門がどんどん脱領域化して、もはや自分の肩書きが名付けられなくなったので、 「日常編集家」と勝手に名乗るようになりました。 「日常編集」というのは、簡単に言うと「日常」と「非日常」のボーダーをいじっ たり、ずらしたりすることです。アートが持つ力の一つに、「日常の見え方を変 える」というものがありますが、僕はアートに関わることが多かったせいもあり、 「日常」と「非日常」のボーダーを考えることにとても興味があるんです。例えば、 休日にミュージシャンのライブを聞きに行く体験は、非日常的な体験です。その とき、僕が気になるのは「ライブに行く人の日常は、いつの時点から非日常に切 り替わっているのか」ということです。きっとライブに行く数ヶ月前から、ライ ブで聴く歌手の曲を iPod で再生してワクワクしたり、当日、着ていく服装を選 んでウキウキする……こういった音楽にまつわるさまざまな行為を、アメリカの 音楽学者 、クリストファー・スモールは「ミュージッキング」と呼んだのですが、 その時、すでに日常とは違った非日常の感覚を味わっているんだと思います。 こういう非日常の感覚を個々人が意識し、コントロールできるようになったら、 日常の風景が変わるはずだと思うのです。僕は「日常編集家」として、ありふれた 日常行為を意識的に捉え、刺激的に読み直すための試みを、妄想レベルから具体 的な実践までさまざまに行っています。 「日常」と「非日常」のボーダーをいじるその試みの一つとして、僕は 2009 年 に「住み開き」を提唱しました。「住み開き」というのは、夫婦や家族で暮らしたり、 友人たちと住んだりする住居のようなプライベートな空間の一部を、本来の用途 以外の新しいアイデアを盛り込み、無理をしない範囲で限定的に開放することに よって、いろいろな人が集まるセミパブリックな空間を生み出す活動や現象のこ とです。たとえば絵を描く人であれば、自分の家をアトリエにすることがあるで 「住み開き」で、他者と他者をつなぎ直す
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    32 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 しょう。その延長で家の一部をギャラリーにするうちに、知らない人が家に入っ てきて、サロン化していったりする。 「住む」というのは、いわば「日常」なのですが、住居の一部を、音楽でも、手芸 でも、読書会でも、子育てでもなんでもいいのですが、自分の好きなことや携わっ ていることをきっかけに少しだけ開放すると、住人以外の第三者が入ってきて、 家が共有空間になっていく。そこに非日常が生まれます。 僕自身、大阪市北区南森町の住居用マンションを知り合いのクリエイターた ちと借りて、自分たちのスタジオとしても利用しながら、定期的なトークサロン、 ワークショップ、上映会などをしていくという「住み開き」を 2006 年から 2010 年までしていました。そして、こういう活動を広げていけば、「日常から生まれる 文化」のいろいろなバリエーションがつくれるだろうと思ったんです。 そこで、2009 年頃から「住み開き」をアートプロジェクトにしました。「住み開 大阪市西区九条「ぶんぶん文庫」。遊びにきた子どもたちと絵本を読む
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    33本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 き」的な現象をリサーチし、全国を訪問取材したのです。本に関わる「住み開き」 の事例としては、大阪市の西区にある「ぶんぶん文庫」があります。主宰者はこ この家に住む駒崎順子さんで、彼女は大学で教育学を学び、図書館や学校におけ るボランティアでの読み聞かせ活動などもされていた方です。駒崎さんは、絵本 や児童文学が楽しめる個人図書館として、定期的に自宅の一部を開放し、自由な 文脈で子どもたちと出会う場を生み出していました。そのほかにも、自宅で本を 使ったワークショップをやっている人とか、独立して家を出ていった子どもの部 屋をカフェにして子育てをキーワードにしたサロンにしたり、自宅を水族館にし ていたり、ユニークな事例がたくさんありました。 そのあり方はさまざまですが、「住み開き」をしている人たちに共通しているの は、お金に還元されない役割として自分たちの社会活動を展開し、他者と他者を つなぎ直しているということです。そして、そういう人たちが「住み開いた場」は、 「もてなす側/もてなされる側」、「受け手/送り手」といった硬直した関係性を超 えて、とても風通しのよいコミュニケーションを生み出していました。 もともと「住み開き」にある問題意識というのは、固定化した関係性を無意識 に受け入れることで生まれるコミュニケーションの硬直化でした。たとえば都市 のなかにあるさまざまな空間――会社、自宅、ショッピングモール、公園、図書館 などで、私たちはその空間における役割を無意識につくりあげて、ある時はサー ビスの提供側になり、ある時はサービスを受けるお客側になり、お金を交換する だけのお互いの役割のなかで、形式的なコミュニケーションを成立させていない でしょうか。もちろん、こういう役割の空間が、一定の秩序や快適さも与えてく れるので、そのこと自体の善悪を言いたいわけではありません。そういう空間の 役割を意識的にずらしてみることで、新しいコミュニケーションや人と人とのつ ながりが見えてくるのではと思ったのです。 「住み開き」の根底にあるこうした問題意識は、アートのフィールドだけではな く、若い人たちが集まるシェアハウス入居への動機づけや、高齢化社会において 図書館と「住み開き」
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    34 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 問題化する老人の孤立を防ぎ、多世代間の交流を促すなど、福祉や教育、街づく りなど、全国の自治体、公的団体などから注目を浴びることになりました。 さらに 2011 年には、図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている機 関・団体・活動に対して、NPO 法人「知的資源イニシアティブ(IRI)」が毎年、授 与する「Library of the Year」の優秀賞に「住み開き」が選ばれました。この賞では、 自薦・他薦されたなかから、選考委員の審査を経て優秀賞が決まります。大賞を 決める最終選考では、プレゼンターがそれぞれの候補を紹介するのですが、「住み 開き」のプレゼンターは紹介する理由について、「図書館という場が本を貸すだけ ではなくて、レファレンス機能のなかに地域の相談が盛り込まれたり、地域の図 書館が個人の図書館やミニライブラリーといった活動とつながる仕組みをもった りするといった、「これからの図書館」を考える際に『住み開き』は有効だと思う から、この言葉を図書館側に強く知ってもらいたい」と仰って下さって、非常に 嬉しかったです。IRI は「住み開き」を「公からの一方的な情報提供から市民同士 による情報提供への変化の一形態として、これからの図書館のあり方にとって参 考になる点」を評価して下さいました。 僕自身が書き手であることもあり、以前から本というメディアに興味を持って いたのですが、今年から「本と出版の未来」を考える Web マガジン「マガジン航」 に「本屋はブギーバック」(http://www.dotbook.jp/magazine-k/boogieback_01/) という連載を始めたことがきっかけで、「本がある場をどうやって再編集するか」 とか、「本を使って新しいコミュニケーションが生まれるきっかけってなんだろ う?」ということを深く考えるようになりました。 僕がこの連載で書いているのは、「本と出版の未来」をダイレクトにテーマにし ているというよりも、「人と人とをつなぐメディアとしての本のあり方」といった ことをテーマに書いているんです。図書館もそうですが、書店というのは膨大な 数の書籍という文化的なリソースが眠っていますよね。そういう場所で、個人が 好きに自分の買いたい本を選んで買って帰るなり、借りて帰るなりするのもいい メディアを使ってなにができるか
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    35本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 のですが、そこにある本を使って、そこの地域にいて普段は出会わないような人 たちが会話をしてみたりとか、会話の少なかった子どもとおじいちゃんが、本を 介することで会話が変わったりとか、そういう現象を生み出す可能性があるので はないかと思っています。 こういうことを考えるのには実は下地があって、僕は音楽の活動をするプロセ スにおいて、かつてのように曲をつくったり、自分で演奏をすることよりも、「音 楽を日常生活に投げこんで、どうコミュニケーションを生み出すか」みたいなこ とのほうに興味を持ち始めたんです。詳しくは「マガジン航」でも書いているので、 ぜひそちらで読んでいただきたいのですが、つまり僕はメディアをつくることよ りも、「すでにあるメディアの使い方を発明すること」に興味があるんですね。 わかりやすく言うと、本であれば文章を書いたり、編集をしてオリジナルな 1 冊の本をつくる「一次創作」(本の編集行為そのものが「二次創作」であるという 考えもありますが、ここではそれは便宜上「一次創作」として捉えます)ではなく、 「本を使ってなにをするか」を考える「二次創作」、あるいはメディアの創造的転 『KPPL(借りパクプレイリスト)』展の風景(大阪アートコートギャラリー)
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    36 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 用に興味があるのです。音楽の世界には、二次創作の方法として、曲の一部を改 変して演出しなおすリミックスのテクニックや、2 曲以上の曲を混ぜ合わせて 1 曲に仕立て上げるマッシュアップなどといった、デジタル音楽での手法がありま すが、僕が二次創作を考えるときに重要にしているのは、「もう一度、人と人が対 峙して、目の前にある本なり CD で今からどんな面白いコミュニケーションを起 こそうか」といったアナログな姿勢です。 たとえば、僕が試みた企画に「KPPL(借りパクプレイリスト)」というのがあり ます。「借りパク」というのは、かしこまって説明するのも変ですが、「人から借り た物を、そのまま自分の物にしてしまう(パクってしまう)こと」を指す言葉です。 なんらかの事情により返しそびれ、結果的に私物になった CD を未だに捨てられ ずにもっている人ってけっこう多いと思うのですが、僕も引っ越しや進学の際に、 友人やかつての恋人からたくさんの CD を借りパクし、同時に同じくらいの品々 を借りパクされてきたんです。 ある日、借りパクしてしまった CD を眺めながら、その持ち主の顔を思い出 し、その時代の思い出をその音楽とともに回想しているうち、「借りパクエピソー ドとともに借りパク CD を試聴展示したら、どんな感じで音楽を楽しめるのだろ う !?」と思いついたんです。そこで、自分の借りパク CD のほかに公募でも集め た合計 100 枚で、期間限定の借りパク専門の CD 屋を大阪のアートコートギャラ リーでたちあげました。展示する CD には、その CD にまつわる思い出を書いた POP をデザインして、試聴機も置きました。さらに会場では、借りパクの思い出 を語り合うトークサロンも開催したんです。 トークでは「当時、付き合っていた恋人から借りたんだけど、別れてしまった ので返せなくなった」とか、「兄弟から借りたんだけど、自分が留学したから返せ ないままになった」とか、その CD にまつわる個人の思いを語り合いました。興味 深いのはある特定の CD(小沢健二『LIFE』など)を背景にして、個々人がまったく 別々の記憶をシェアし合うんですが、そこにはその時代を反映した集合的な記憶 が確かに垣間見えるんです。そういった世代共通の音楽を音楽社会学者の小泉恭 子さんは「コモン・ミュージック」と名付けたのですが、まさに、音楽に限らずメ ディアを通じた語りのプロセスで、公私が入り交じる独特なコミュニケーション が発生するのです。
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    37本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 この企画は、本にも転用できると思います。借りパク本は、もはや本の中身と は直接は関係ないのですが、読み手の人間臭さが如実に、かつユニークに立ち現 れる行為になると思うんです。そこから「日常生活における本との付き合い方」や、 「人と人とをつなぐメディアとしての本のあり方」など、色々なことが見えてくる はずです。でも、図書館の本は借りパクしちゃダメですよ(笑)。 目の前にある 1 枚の CD なり1冊の本を使ってなにかしようとするとき、僕の 感覚では、メディアの有史以前に人間がごくふつうに行っていたあり方のほうへ、 歴史的に戻っていく作業が重要だと思っています。どういうことかというと、あ る音楽をレコードに記録する技術ができる前は、当然ながら現在のように「オリ ジナル」といった発想が十分には出てきていないわけです。楽譜がない時代まで 遡れば事態は一層わかりやすいでしょう。今は音楽業界も崩れてきて、音源を買 うことよりもライブに行くことの価値が相対的に上がってきているので一概に は言えませんが、レコードが正典、つまりオリジナルになって、ライブがそのプ ロモーションのために準備されるという構造が存在するわけです。多くの文化活 動がレコードであれ CD であれ、DVD であれ、はたまた mp3 データであれ、なに かしらのメディアをつくることを目的とするのは、メディアにすることで金銭を 得る、つまり産業にしないといけないからですよね。でも、メディアのない時代 は、それを誰かに伝えたり、聞いてもらうためには自分が実演して表現するしか なかったんですよ。 明治の終わりから昭和の初期、自由民権運動が盛んな頃に、「演歌師」と呼ば れる人たちがいたのをご存知でしょうか。彼らは街なかで、政治的な主張やメッ セージを聞いてもらうために節にのせて、歌うというか、がなりたてているんで す。手にはその歌詞を書いた「歌本」というのを持っていて、歌を気に入った人 は歌本を買っていき、「さっき、演歌師のおっちゃん、あんなふうに歌っていたよ な」とか言って、歌本を見ながら自分なりに歌うんです。替え歌なんかも生まれて、 勝手に歌が書き換えられていくんです。そうやって文化が回っていくという状況 があったんです。 パフォーマティブなコミュニケーション
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    40 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 つまり、なにが言いたいかというと、人々がメディアに頼る前というのは、各々 が身体を使って演じたり、書いたり、歌ったり、会話したり、「パフォーマティブ」 なことが起きていたのだと思うんです。 僕がやりたいことは、一見ポストモダン的にも捉えられるのですが、メディア を使いこなしつつ、こういったある意味ではプレモダン的ともいえるパフォーマ ティブなコミュニケーションを生み出すことなのです。 たとえば、2010 年に行った「モヤモヤ読書」というものがあります。NPO 法人 アート NPO リンクの 樋口貞幸さんと、京都精華大学の都市社会学者の山田創平 さんと僕の3人で企画したのですが、「モヤモヤ読書」というのは、あるルールに 従って進められる「読書会とまち歩き」のプログラムです。どういうプログラム かというと、 ①参加者はその本を事前に読み、読書会当日に「モヤモヤするところ」(最も気に なるところ)を発表 ②みんなでモヤモヤを語り合う。語り合うことでモヤモヤが明確になったことを 付箋にメモしてもらい、机の好きなところに貼る ③全員がモヤモヤを発表し終えたら、休憩をとり、そのあいだに次の発表の準備 をする ④ 2 回目の発表。今度は本を読んだ所感など、大きなストーリーを捉え、思うと ころを話す。それをみんなでシェアする(共感したり、同意したり、違う意見を 言ってみたり)。そのとき、自由にメモしてもらい、机に貼付けてもらう ⑤最後に机の付箋を見直して、振り返りをナビゲーターが行う ⑥話し合ったことを考えながら、みんなで街を歩く こんな流れです。このプログラムは「読書会とまち歩き」がセットであること がけっこう重要で、読書会で読む本とそのあとでまち歩きをする場所が、ゆるや かに関連しています。 『忘れられた日本人』(宮本常一、岩波書店 、1984 年)が選書された読書会では、 西成釜ヶ崎(大阪府大阪市)を歩きました。読書会の会場は、同じ西成にある商店 街「動物園前一番街」のなかにある「ココルーム」という、アート NPO が運営する
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    41本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 サロンスペースで行ったのですが、この場所にはドヤ街の日雇いで働くおじさん なんかも集まるんです。読書会をやっているときに、ぶらっとココルームに来た 西成のおじさんも、なんとなく興味をもって話に参加してくれるんです。そうす るとそのおじさんたちの話が面白いんですね。彼らは高度経済成長期の西成の街 を体感していたり、その時代に多数建てられた日本中のさまざまな建物の現場作 業をしてきた人たちなんです。多少時代は違えど、労働を通じていまの日本を支 えてきた人たちという意味で本の中に出てくる人たちのエピソードと重なってく るんですよ。 『忘れられた日本人』という本は、著者で民俗学者の宮本常一が、人生の大半を 日本各地くまなく歩いて、その土地の農作業や漁業における労働のあり方や民間 の伝承を克明に調査して1冊の本にしたものなのですが、それぞれの地域に住ん でいた人々の人生を万華鏡のように捉えていて、非常に感動的な本なんです。こ 「モヤモヤ読書」開催のチラシ(大阪 / 2010 年 11 月 12 月)
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    42 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 うした本の内容もあって、このときの読書会では、自分の人生に引き寄せたエピ ソードを語る人が非常に多かったんです。 読書会でみんなの記憶とか思いをシェアしたあと、西成の街を歩くのですが、 これは良い意味でわりと危なっかしいんです。本の世界が残像として頭のなかを グルグル、モヤモヤしている状態のまま街を歩くので、軽い酩酊状態なんですよ (笑)。こういう状態で街を歩いていると、「ここの曲がり角は、本のなかのあの場 面に近いよね」みたいなことを言う人がでてきたりします。 西成のほかに、大阪梅田の近くにある堂山町では、アントニオ・タブッキの『イ ンド夜想曲』(白水社、1993 年)を読んでまち歩きをしました。この街はとても雑 多な雰囲気の街で、本のイメージともシンクロするんです。堂山町と同じ梅田界 隈で、もう少し雰囲気が違う下町で本庄という街では、レヴィ・ストロースの『悲 しき熱帯』(中央公論新社、2001 年)を読みました。いずれも選書は、地域コミュ ニティとアートの活動に造詣が深い、アサヒビール芸術文化財団事務局長(当時) の加藤種男さん、そして山田創平さんと僕がファシリテーターになって、その場 に 10 人くらいが集まって実施しました。 本を読んだときに生まれる「モヤモヤする感覚」を他者と共有していくやりと りのなかで、参加者は五感を開いたり、自分の中から生まれる言葉を探したり、 身体を使って街に身を委ねたり、表現したりして、「パフォーマティブ」になって いくんです。そしてパフォーマティブな行為というのは、少し誤解を招く言葉で もあるのですが「儀礼的」になっていくと思います。 儀礼的というのはどういうことかというと、たとえばアニメファンが「聖地巡 礼」をやるじゃないですか。「アニメ聖地巡礼」というのは、アニメの舞台となっ た場所をそれぞれの思いなり、物語の文脈を携えながら訪問して楽しむものなの ですが、言ってみれば妄想の固まりなんです。最近では、観光社会学者の岡本健 さんが、地域に新しい文化的・観光的コンテクストを付与してゆく「N 次創作観 光」という言葉を提唱されています。一見、すごく突飛で、良い意味でばかばかし くもあるのだけど、でもよく考えてみると、古来からある宗教的な「儀式」とか「祭 り」というのは、そういうものなんじゃないかと思うんです。つまり目に見えな い神様という記号を、日本の場合であれば、石だったり、木だったり、自然を祀っ て聖地をつくっていく。つまりそういった目に見えないコンテクストをその地
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    43本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 域に付与していき、そのフィルターを通じて住む人、観る人が地域に対してアプ ローチをしていく。そうした構造はあまり変わらないんですよ。 だから、自分の内に文化的なものをインプットした状態で、世界や物事に介入 していくことは、「儀礼」ととても近い。実際、「モヤモヤ読書」って儀礼っぽいく ないですか。みんなで本を読んで、街を集団でそぞろ歩くわけですからね(笑)。 本というのは、同じ本を読んでもそれぞれ読み方、感じ方が違うし、そうした ソフトの部分だけじゃなくても、「この本はお母さんからプレゼントしてもらっ た」とか、「入院中の辛いときに読んだ」とか、「古本屋で偶然、手にした」とか、複 数の角度から個人的な記憶をパッケージしていると思います。それを広げていけ ば、地域の歴史といったところにまでリンクが張られていく可能性があると思い ます。モヤモヤ読書のような企画は、図書館でもできますよね。図書館員がファ シリテーションしながら本に圧縮された記憶を解凍し、図書館を地域によりひら いていくことができれば素晴らしいと思います。 あと補足的なことですが、こういった読書会で重要なことは、みんなで読んだ あと、もう一度ひとりで読むことだと思うんです。これは僕だけが言ってるの ではなく、「本を使った対話の会」を行っている mogu book(http://mogubook. net/)のサトウアヤコさんも言っています。 mogu book(よく噛んで= mogu)は「ひとりで読む。みんなで読む。またひと りで読む」がコピーになっているのですが、僕もこのコピーにとても共感してい て、みんなで読んでたくさん話して、いろんな読み方とか、感じ方、本との付き 合い方をシェアして集合的な記憶を結んだあと、もう一度ひとりで読んだときに、 違う発見があると思うのです。ひとりで読んだものをひらいて、もう一回、孤独 に返していくということが、すごく重要だと思っています。 僕は、本であれば「注釈」や「引用」、音楽なら「サンプリング」「カットアップ」 的な感覚がとても好きなのですが、本屋とか図書館というのは、こういう感覚、 本屋で社会実験をする
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    44 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 つまり会話をしているとき、その会話の参照ネタにリンクボタンが張られていく ような感覚が楽しめる格好の場所だと思っています。 大阪の心斎橋に「スタンダードブックストア」という本屋があります。「本屋で すが、ベストセラーはおいていません。」をキャッチコピーにしているとても個性 的な本屋なのですが、僕はこの店の社長・中川和彦さんと意気投合して「本屋で なにか社会実験をしたい」と大それたことを提案し、実践させてもらっています。 その実験の幾つかをご紹介すると、一つは「本屋でラジオ」です。これは、来年か ら始める予定なのですが、「スタンダードブックストア」の地下 1 階にあるカフェ 併設のイベントスペースをスタジオにして、月に1回、僕と雑誌「IN/SECTS」編 集長の松村貴樹さんがパーソナリティとなって本屋内でラジオを流します。まぁ、 いわゆる館内放送です。「スタンダードブックストア」は地下 1 階と、地上階の2 フロアからなる書店なのですが、ラジオのオンエア中はどちらのフロアにもラジ オが流れます。店内にいるお客さんは、カフェでラジオを聞くのもよし、本棚で 本を選びながら聞いてもいい。ラジオの会話を聞いて気になった本があれば、本 棚に行って手にとることもできます。 トークの話題は「なんでもあり」です。これは中川さんの言い方なのですが、「本 屋だからこそ、いろんな文脈の棚がある」と。つまり棚というのは、文脈の宝庫 なので、この空間には話題に火のつくものはなんだってあるんだから、という考 え方に僕はすごく賛同しています。料理であろうが、建築であろうが、子育てで あろうが、お酒の話であろうが、なんの話をしてもいいのが本屋だと思うんです。 それってすごいことですよね。 同じく「スタンダードブックストア」で、現代編集者の米田智彦さんが出され た『僕らの時代のライフデザイン』(ダイアモンド社、2013 年)の出版イベントの 際に、mogu book のサトウアヤコさんが考案した「本棚ツアー」というものをや りました。当日、出版イベントは 12 時開演だったのですが、米田さんと僕たちは 店が開く10時から店内に入り、スタンダードブックストアの本棚をくまなく回っ て、米田さんにかつて読んで気になった本を選んでもらったんです。米田さんは フリーランスのエディターなのですが、1 年間、家やオフィス、家財道具を持た ずに旅をし、そこで出会ったさまざまな「ライフデザイナー」の働き方や暮らし
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    46 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 方を紹介する 生活実験プロジェクト「ノマド・トーキョー」を行ったユニークな 人で、僕たちは米田さんがどうやったら今の米田さんになったのか、その片鱗を 「米田さんが選んだ本」から知りたいと思ったんです。つまり、米田さんをつくっ ている「背景本」です。 米田さんは「うわー、この本で泣いたな」とか、「めっちゃ懐かしいな。実はこ の本って云々…」とか言いながら 店内の本棚から 10 冊を選び出し、最終的には 3 冊が「米田さんをつくっている背景本」となりました。 本棚ツアーが面白いのは、即興で本を選ぶので、米田さんのいろいろな意識や 無意識が選書に出てくるのです。例えば米田さんの場合、建築の棚の前で「僕が 一番、苦手な棚はここですね」となりました。どうも米田さんには、建築という ジャンルに関心はあるけど、少し複雑な思いも持っているみたいで、こういうこ とも浮き彫りなるんですね。それは、米田さんに「米田さんをつくっている本を 3冊持ってきてください」と事前にお願いするのとでは、全く違う結果になった と思うんですね。 イベントに来たお客さんには、米田さんが本棚ツアーをしている様子をスライ ドで見せながら、米田さんの背景本を紹介しました。 当日は『僕らの時代のライフデザイン』の「背景本」として、安藤忠雄さんの本 も販売しました。売れなかったですけどね(笑)。こういう選書は、Amazon のお すすめ本機能からは絶対に生まれないでしょう。スタンダードブックストアでの 一連の試みは、文字通り「本屋を編集する」ことを実感しました。 2000 年から兵庫県宝塚市で開催されている市民映画祭に、「宝塚映画祭」とい うのがあるのですが、この映画祭は市民が中心となって企画・運営しています。 宝塚はかつて日本最大級の映画撮影所があった町で、地元の映画館で映画を見る ということを映画祭で地道にやってきたのですが、集客の面などいろいろ課題 があったようなんです。そこで映画祭のあり方を抜本的に変えようということで、 かつて僕と一緒に大阪で「住み開き」をやった編集者の岩淵拓郎さんがディレク 市民が自律的に図書館を使う
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    47本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ションし、映画を通して地域コミュニティや地域文化に対してさまざまな角度か らアプローチを行う試みをやり始めたんです。 自分たちの好きな場所を街の中で撮影して、一斉に上映するプロジェクトとか、 「シネマハック」といって、街の映画館を楽しくする 100 の方法を映画館のスク リーンを使ってみんなでプレゼンする企画とか、いろんなことを試みているよう です。 僕は宝塚映画祭の試みをぜひ、図書館の方にも参考にしていただきたいと思っ ています。たとえば市民が中心になって「図書館祭」をつくるようなことがあっ てもいいと思います。つまり、僕は「図書館を自律的に使っていいんだ」と思える ような感覚を市民が養うことこそが、とても重要だと思っているんです。 図書館を「本を借りるだけの場所」とか、「静かに本を読むための場所」だけだ と思っている人がまだ多いと思うのです。それは、図書館側にもそういう考えが 当たり前のようにあるのかもしれません。図書館で自律的になにか企画ができる というのは、僕が知っている図書館だと関西なら奈良県立図書情報館でしょう か。「図書館でなんかやってよ」と言われて、電子音楽のワークショップ(僕がド ラマーとして参加している「SjQ」というユニットで 2013 年春に企画した「SjQ ラ ボ . ∼音による創造のワークショップ∼」)をやれるのも、あの図書館があるから なんです。それは、職員に乾聰一郎さんというある意味では、図書館界における 異端の存在がいるからだとは思うのですが、そのことは乾さん自身が一番理解し ていらして、だからこそ「図書館」という場のあり方を変革しているのだと思い ます。 図書館という場が持つ意義はいろいろあると思います。僕は、図書館で本を探 しているときの司書さんの姿というのは、もの凄くかっこいいと思っています。 文化的なものを扱っている人の姿をリアルに見られる場所って、実は意外とない んです。たとえば美術館の場合は、警備の目的で座っている人はいますが、キュ レーターの姿は表では見かけないですよね。美術館やコンサートホールに毎週行 く人はそんなにいないと思いますけど、図書館ならばいるでしょう。しかも無料。 そういう身近な場所で、本という文化的なものを目の前で扱い、知識をもって紹 介してくれる人に触れること自体がとっても重要なことだと思います。
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    48 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 ですから、図書館の本を電子書籍にして、ネットを使えばすぐに知識や情報に アクセスできるようにするといった効率的な話よりも、図書館の本を使って、世 界と自分をつないでくれる人がいる、そういう場所の空気から学びとれる情報量 や教育というのは、絶対にあると思います。 もし僕が館長だったら、個人的な本との関わり方や本にまつわる記憶みたいな ものを、その地域や図書館に集まるコミュニティの財産に変えていくようなプロ ジェクトがやりたいですね。その人がその本とどういう関わり方を持ったかとい うことをそれぞれ共有しながら、公開したり、シェアしていくような仕組みを通 じて、地域の図書館に通う人同士が結果的に交流するような場をつくりたい。そ ういったコンセプトを図書館全体の空気として表すかどうかは別として、なにが しかそういう仕掛けはするでしょうね。 あとは、「ライター・イン・レジデンス」の仕組みをつくります。すでに海外の 図書館には事例があるそうですが、僕自身がアーティストとしてアーティスト・ イン・レジデンスによく招いていただくんです。地域の商店街の空き店舗にレジ デンスするとか、あるいは先日も「アーティスト・イン・スクール」といって、札 幌市内の小学校に滞在していました。小学校で滞在制作をするというプロジェク トで、僕は「大きな転校生」として児童たちと給食を一緒に食べたり、話し合った り、一緒に音楽で遊んだり、そのプロセスに先生方にも参加をしてもらったりし ました。 アーティスト・イン・スクール、アーティス・イン・ホスピタルなどがあって、 アーティスト・イン・ライブラリーもありえるでしょう。地域の公共施設という インフラをアーティストが滞在することによって、地域とのハブを新しくつくっ たり、地域の人と図書館で働く人がリアルタイムで 1 冊の本をつくり出すような な状態を、図書館でつくれたら素晴らしいと思います。
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    49本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 『編集進化論 editするのは誰か?』(仲俣暁生+編集部編、フィルムアート社、2001 年) 『住み開き 家から始めるコミュニティ』(アサダワタル、筑摩書房、2012年) 『ミュージッキング 音楽は“行為”である』(クリストファー・スモール、野澤豊一訳、 西島千尋訳、水声社、2011年) 『新・エディターシップ』(みすず書房、2009年) 『集合的記憶』(M.アルヴァックス、小関藤一郎訳、行路社、1999年) 『メモリースケープ  「あの頃」を呼び起こす音楽』(小泉恭子、みすず書房、2013年) 『サウンドとメディアの文化資源学 境界線上の音楽』(渡辺裕、春秋社、2013年) 『添田唖蝉坊 唖蝉坊流生記』(添田唖蝉坊、日本図書センター、1999年) 『n次創作観光 アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』(岡本健、 NPO法人北海道冒険芸術出版、2013年) 『ウェブ社会のゆくえ〈多孔化〉した現実のなかで』(鈴木謙介、NHK出版、2013年) 参考図書
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    50 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 図書館でのビブリオバトル 実施アドバイス 2006年京都大学工学研究科博士課程修了。2008年より立命館大学情報理 工学部助教、2010年より同准教授。個体と組織における記号過程の計算 論的な理解や、共生社会に向けた知能情報学技術の応用についての研究 に従事する。 著書に『コミュニケーションするロボットは創れるか 記号創発システム への構成論的アプローチ』(NTT出版、2010年)、『ビブリオバトル 本を知 り人を知る書評ゲーム』(文春新書、2013年)がある。 谷口忠大(たにぐち・ただひろ) 1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。 2. 順番に一人5分間で本を紹介する。 3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2 ∼ 3分行う。 4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした 投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする。 これがビブリオバトルの公式ルールだ。たった 4 つのルールと 5 分間のプレゼ ンで熱く戦い、本を絆に人とつながる新感覚の書評ゲームである。各種メディア の報道や、堺市立中央図書館などの実施で広く知られているが、「実際に図書館で 実施する時、一体どんなことを心がけたらいいのだろう?」という声も多い。そ こで今回はビブリオバトルの考案者である谷口忠大さんに「図書館でのビブリオ バトル実施アドバイス」というテーマでロングインタビューを行った。 図書館での実施方法をはじめ、トラブルシューティング、そしてこれからのビ ブリオバトルと図書館のつながりまでを一気に語っていただいた。
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    51本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ――今回はビブリオバトルを図書館で実施していくにあたって、どんなことに気 をつけていけばいいかを中心にお伺いしたいと思います。まず、ビブリオバトル の普及活動については、どのように行われているのでしょうか? 谷口:僕たちはビブリオバトル普及委員会というのを一応つくっていて、そのメ ンバーが各地でいろいろ活動しています。ただ、まだまだ人数も少ないですし、 ビブリオバトルに興味を持ってくださった図書館職員の方から「ビブリオバトル を実施したいので、普及委員の方に手伝って欲しい」といったご意見をいただく ことも多いのですが、なかなかそうしたリクエストの全てに応えきれないのが現 状です。 また、ビブリオバトル普及委員はみんなボランティアなんですね。ボランティ アのもとの意味である「voluntary(=自由意志の、自発的な)」の通り、自分たちが 自発的に面白い、こう普及活動をしたい、と思われたことに関わっていくという スタイルで動いています。みんな給料が払われているわけではないですからね∼。 そういう意味で、それぞれに独立性も高く、それぞれにビブリオバトルのフィー ルドを持っています。書店や大学、中高等学校、会社の中など、それぞれの関心の フィールドはさまざまです。図書館のビブリオバトルに興味を持つメンバーはそ の一部なので、人数は多くはなく、図書館でのビブリオバトル実施のお手伝いも なかなかできるわけでもありません。皆さん平日は本職のお仕事がありますしね。 ただ、それ以前に、ビブリオバトルはやっぱりやりたいと思った人が、その組 織の中で自ら開催すべきだという思いを僕は強く持っています。 僕自身、ビブリオバトルは「だれでも簡単に実施できる」ことを大切に生み育 ててきました。ですから「ビブリオバトルを実施したい」というお声がけをもらっ ても、基本的には図書館が主体的 に実施していただくことを前提と してお話します。 ビブリオバトルの開催自体はメ チャクチャ簡単ですからね。上司 の説得は難しかったりするでしょ うが……。 公共図書館でのビブリオバトル 求められるのは図書館の主体性 有隣堂本店で行われたビブリオバトルの様子(2013 年 5 月)
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    52 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 の展開は、まず 2011 年に奈良 県立図書情報館で始まり、そこ から堺市立中央図書館や熊取町 立熊取図書館などでの実施に広 がっていき、その後、全国に少 しずつ普及していったという流 れだったと聞いています。大学 図書館は若干早く、2010 年 11 月に京都大学附属図書館が実施 されたのが初めてかな? ――図書館から実施の相談を受けられたときに、共通でアドバイスされることは ありますか? 谷口:実は、僕自身は公共図書館でのビブリオバトルの立ち上げや実施に関わっ たことがほとんどないんですよ。なので、アドバイスなんて偉そうなことは言 えないですね∼。先程も申し上げたように、普及委員はそれぞれに自分自身の フィールドと得意な分野を持っていて、公共図書館での活動を多くしているメン バーが居ます。関西では普及委員会の吉野英知副代表が、公共図書館での活動を 積極的に行っていますので、彼に聞かれるのがいいかもしれないですね。 谷口さんのお話をうけて、普及委員会の吉野英知さんに、図書館でビブリオバ トルを開催する際のアドバイスを伺った。 * ・ビブリオバトルは多くの図書館にとって、利用者である一般市民が「知の発信 源」となる、新しいタイプのイベントである 吉野:ビブリオバトルは、一般的な「輪読会」や「読書会」とは異なる概念のもと に生まれました。つまり参加者にとっては、その内容のほとんどが未知のものな のです。ですから実施にあたっては、事前にウェブサイトで広報していただいた り、当日の発表者の確保や運営など、ビブリオバトルに対する図書館員の方の理 解と協力が求められます。なお、事前にウェブサイトでの広報される際は、ビブ 谷口忠大氏&樋口悟氏ミニトークの様子 (ビブリオバトル有隣堂本店、2013 年 5 月)
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    53本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 リオバトルの公式サイトへのリンクや引用などを積極的に行っていただくと効果 的です(知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト:http://www.bibliobattle.jp/)。 ・ビブリオバトルは、継続的に実施してこそ価値を発揮する 吉野:ビブリオバトルが「知的交流の場」や「地域の市民コミュニティ」として定 着することで、図書館で実施する価値や意義がより高まると考えられます。 そのためにも「ビブリオバトルを継続的に実施して、自館で行うイベントの柱に する」くらいの意気込みで実施していただくことが好ましいです。また職員の方 の貢献だけでなく、ビブリオバトルに参加し、盛り上げてくれる大勢の市民を巻 き込むことが不可欠です。定期的に実施することで参加者の輪が大きくなり、イ ベントの自律化も促すことができるでしょう。 ・図書館におけるビブリオバトルは、オープンな雰囲気のイベントであってほしい 吉野:公共図書館におけるビブリオバトル理想型は、ふらっと訪れた来館者がそ のまま立ち寄って楽しめるような雰囲気をつくることと思っています。ですから 会議室やクローズドな会場、座学形式の席配置を用いたものよりも、オープンな ホールやエントランスなどで発表者を丸く囲み、楽しい雰囲気をつくっていただ くことが望ましいと思います。 ・図書館で実施する場合は、大半の来場者がビブリオバトル初心者であるという ことを意識する 吉野:参加者の多くがビブリオバトル初心者です。さらに参加者同士も初対面で あることがほとんどなので、丁寧なルールの紹介はもちろん、緊張をほぐし、発 表しやすい雰囲気づくりを心がけることが必要です。 * ――ビブリオバトルが図書館を通して、どのような形で広がっていくことを理想 とされていますか? 谷口:図書館では自主的に実施していただきたいと申し上げているのもそうなん ですが、ビブリオバトルは専門的な人が実施するような、特別なものなんかじゃ 日常としてのビブリオバトルこそを広めたい
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    54 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 ないんです。日常的な活動の中に 溶け込める、とてもシンプルなも のです。 よく、ビブリオバトルはメディ アに取り上げていただいています が、そういうメディアで紹介され た情報だけですと、「非日常のイ ベント」「目新しいお祭り」といっ たイメージを持たれてしまいがち です。メディアはどうしても「ビ ブリオバトル首都決戦」など派手 なイベントで盛り上がっている状況を記事にしやすい傾向があります。ですので、 閉じたグループで数多く実施されている、日常的なビブリオバトルではなく、実 施に手間のかかるイベント型のビブリオバトルばかりがメディア越しにはよく目 につくんですよね。 しかし僕自身、このことには以前から「ちょっと、よくない傾向だなぁ」と感じ ています。本を通した小さなコミュニケーションの場である、ビブリオバトルの 本質が曲解されてしまいがちだからです。 もちろん僕自身も、ビブリオバトルを行うイベント型の開催が盛り上がること を否定するわけではなく、それ自体は喜ばしいことだと思っています。しかし、大 きなイベントとしてのビブリオバトルは、あくまで「お祭り」や「ショー」として の面白さが強調される傾向があります。 また、開催も大変です。ああいうイベン トだけがビブリオバトルではないよ、ということは何度もプッシュしたいですね。 ビブリオバトルは本来、本と人さえいれば誰でもできて、誰でも楽しめるもので す。イベントとしてのビブリオバトルの印象が先行することは、ビブリオバトル の潜在的な実施者、参加者に高いハードルを与えてしまうようにも思います。100 人を集客したビブリオバトルのイベントを見せられて「このビブリオバトルを図 書館でやりなさい」と言われたら、ビックリして尻込みしますよね? 僕として は、図書館の読み聞かせ会のように、ビブリオバトルは日常のなかで楽しんでも らいたいのですが、そのハードルが高まってしまうのは残念なことだと思います。 吉野のアドバイスにもあるように、図書館においては、一度きりのイベントで はなく、小さくてもいいので継続的に実施され、より身近な、素顔のビブリオバ ビブリオバトルで紹介された本のコーナー (有隣堂本店、2013年6月)
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    55本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 トルも普及していくことを期待しています。そのためにも、図書館ではできるだ け難しく考えずに手づくりでいいので自主実施をしてもらえればと思います。カ ジュアルにね。 ――「日常の」「素顔の」という表現が出てきましたが、それは具体的にどのよう なものをイメージすればよいのでしょうか? 谷口:ドッジボールやフットサルを友達と遊ぶというような感じで、日常的で身 近なものとして楽しまれ、愛され、親しまれるものこそ、ビブリオバトルの「素顔」 だと思っています。 たとえば図書館で本の読み聞かせをやったとしても、主催者側が「今日の紙芝 居には、メディアも来たし、新聞報道もあってよかった!」とはならないですよ ね? 人が多く集まった、メディアに取材された、というのがビブリオバトルの 成功ではないはずです。もっと、ワイワイと、素朴に楽しんでほしい。   ――確かにそうした図書館のイベントでは、利用者が素敵な物語に出会えたこと で、ほんの少しでも豊かな日常を過ごせたことを喜んでもらえれば、それが一番、 嬉しいですよね。 谷口:ビブリオバトルも、そうした温度感で楽しんでいただけるものとして広ま り、定着していけばいいなと思います。 たとえば、近くの図書館でビブリオバトルが定期的に実施されて、おじいさん や学校帰りの子どもがふらっとやってきて、本を使った知的で楽しいひと時を過 ごして帰るような……。それがビブリオバトルの素顔であり、今、僕たちが向か いたいと思っている方向だと思います。 ――ビブリオバトルは実際に発表参加してみることで、初めてその面白さが分か るものだと思います。 谷口:その部分は大きいと思います。見ているだけでは、その面白さは半分しか 理解していただけてないと思います。自分が面白いと思う本を人の前で発表する という行為は、自分の面白い本をみんなに知ってほしい、という思いに支えられ 実感を持った実施と、気取らない演出が重要
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    56 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 ているように思います。そういえば、ビブリオバトルをやり始めた当初は「発表 参加者だけが参加者だ」と言っていたほどでした。昔はだいたい5人以下でビブ リオバトルをやっていましたからね。 ――実際に実施したいという相談を受けられたとき、やはり運営者側の実践も促 されるのでしょうか? 谷口:もちろんです。実施・運営する側がビブリオバトルの経験があるのとない のとでは、そのビブリオバトルが面白くなるかどうかに大きな違いがあります。 これは、これまでの経験から鑑みて「真実」でしょうね。 たとえば学校などでの実施を相談されたときには、まず実際に先生同士でビブ リオバトルをされるようにアドバイスをしています。次に、先生方が発表し、子 どもは投票するだけのビブリオバトルをする。子どもは先生方の発表を評価する 側に回れるので大喜びですね。まずは、大人が背中を見せるわけです。 次に、教室の中で班に分かれて子どもたちが小規模なビブリオバトルをやる。 場合によっては、次に、クラスのみんなの前で発表するタイプのビブリオバトル をやる。そういう順序がよいと考えています。この順番を逆順にするとよくない みたいです。   ――実施に際して、たとえば「これはやってはいけない」といった注意事項はあ りますか? 谷口:スピーチ大会やプレゼン大会か何かと勘違いしないことですかね。例えば ですが、発表者をステージに立たせてスポットライトを当てる、演壇に立たせる など舞台仕立てにしてしまうことです。気持ちは分からなくもありませんが、そ もそも舞台の高さや、スポットライトによる演出は、観客と発表者を分け隔て、 非日常を演出する舞台装置なのです。これは発表者と観客の双方向のコミュニ ケーション場であるビブリオバトルの機能を、阻害さえしてしまうように思いま す。ビブリオバトルは、発表者が観客の顔を見ながら、自分の発表のリアクショ ンを感じられることが醍醐味でもあるのです。 もちろんイベントによっては、こういう演出がどうしても必要になる場合もあ ると思いますが、そういう場合はできるだけ慎重にやっていただきたいと思いま す。
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    57本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ――やはり実感ありきですね。実際に参加してみれば、観客から鼓舞されたり、 時に良い意味での緊張感を受けたりする発表者側の楽しみや、逆にそうした雰囲 気を感じながら発表を聞くことの面白みが分かります。 谷口:ビブリオバトルは、発表者と観客が一体になって、和気あいあいと進める ことが大切です。そのために主催者が心がけるべきことは、気取らず、気楽なムー ドをつくり、発表者へのハードルをできるだけ低くするように心がけ、発表者と 観客のインタラクションを促すことかなと思います。   ――続いて、図書館でのビブリオバトルの実施をめぐるいくつかのリスクについ て、その対処法を伺いながら、ビブリオバトルに関するある種の議論にふれたい と思います。たとえば、「ビブリオバトルで公共の場に相応しくない主義主張、表 現を孕んだものが紹介された場合、図書館は責任をどう取るべきだろう」という 議論がありますが、このリスクについてはいかがでしょうか? 谷口:公共施設としての図書館の存在があるために、いろいろ考えられる点はあ るかと思います。たとえば図書館でお馴染みの本の「読み聞かせ」でも、偏った思 想を持った本を扱われる危険性があり、心配されることがあると聞きます。ビブ リオバトルでは最終的に投票で「みんなが一番読みたくなった本」を選びますか ら、それに選ばれる可能性のない偏った本や押し付けのような本は持って来られ にくい傾向があります。比較的、安全装置がついている方だと思います。   ――また「図書館での実施では、騒音などの問題があるのではないか」という議 論がありますが、これに関してはいかがでしょうか? 谷口:多くの図書館が、これまで図書館に求められてきた用途で、空間設計され ていると思います。つまり、書籍のデータベースとしての空間であり、精読また は“静読”する空間として、設計されているのではないかと思います。「ビブリオ バトル」はその特性上、どうしても話し声などの騒音を出してしまうため、これ は仕方なく、今までの図書館像と食い違いを生んでしまうことになるかもしれま せんね。これは、図書館の未来像を考えていく上でも重要な論点でしょう。 ビブリオバトルのトラブルシューティング
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    60 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 ――あるいは図書館で実施する際に、特殊な発表者が「不適切な発表」をするこ とのリスクを減らすにはどんなことが考えられるでしょうか? 谷口:図書館員の方々の中には、ビブリオバトルの「不適切な発表」リスクを軽 減するために、事前に発表する本をチェックすることや、発表時に言う内容を チェックするなどしたくなられる方がおられるかもしれませんが、そのようなこ とをすると、ビブリオバトル本来の良さがなくなってしまうことは、もはや自明 かと思います。ビブリオバトルが参加型の活動である以上、リスクをゼロにする のは難しいですね。 ただ、ビブリオバトルのイベントの実施の仕方によって、少しリスクの形が 変わることはあります。たとえば、公共図書館が主催してビブリオバトルを行 い、40 人の参加者を用意して、発表者を 5 人揃え、35 人の観客を前にして発表を 行わせたとします。そして、この 5 人の発表者のうち 1 人が不適切な本を持って きて、相応しくない発言をしたとしましょう。こうなると、40 人全員が被害者に なり、図書館はその責任の全てを問われてしまうかもしれません。こういう場合、 発表者の5人は「図書館のイベントで登壇した、選ばれた人が不適切な発言をし たから図書館に責任がある」という見え方がしますからね。 しかし、たとえば 40 人の参加者を 8 人ずつの 5 グループに分け、そのグルー プ内で 4 人の発表者、4 人の観客に分けて行ったらどうでしょうか? 仮にこの 5 つのグループの中で 1 人の発表者が不適切な振る舞いをしたとしても、他の 4 グループにその被害は波及しません。また、こういうイベントの場合は利用者か らの見え方も「図書館のイベントに変な人が混じっていた」という見え方になり、 少し印象も変わるように思います。 そういう意味でも、小規模なビブリオバトルは魅力的だと思います。僕として も、これで、元々の「小規模なビブリオバトル」が広まってほしいという目標も達 成されもするので、一石二鳥ですね。   ――これは本誌の特集における共通の問いということでお聞きしたいのですが、 谷口さんが図書館の館長になったら、どんな図書館をつくられますか? 理想や イメージのようなものがあったら、教えてください。 僕が図書館長になったら…
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    61本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 谷口:ちょっと待ってくださいね。あんまり考えたことがなかったので……。え えっと、まず、条件設定をさせてもらっていいですか? ――条件設定ですか?……はい、ご自由にお願いします。 谷口:「理想の図書館」なんていうと「予算がたらふくあって、なんでもできる!」 みたいな非現実的なことになって、そんなことを前提にしたアイデアを語っても 面白くない気がします。そういうわけで、僕が「極めて弱小」の図書館の館長に なったとさせてください。たとえば、自治体が破綻して図書館自体がお取り潰し の後で、それでも何か図書館的なものをやっぱりつくりたいなってシチュエー ションなどがいいかもしれませんね。あ、そんなマイ図書館ですが、図書館長の 人件費だけは最低限確保させてください。お願いします。 ――どうして、そんな逆境がスタートなんですか? 谷口:組織や物事を変えるには、危機が必要です。危機があれば状況をリセット できます。どうせ館長をやるならしがらみや蔵書もゼロなところからでいい気が します。やはり、公共性の高い図書館は、それゆえに行政からも社会からも求め られることや押さえ込まれることが強く、それゆえに、柔軟な行動が取りにくい ように思うんですね。だから、一回潰れて、何も期待されないところからシミュ レーションさせてもらったほうが、やりやすいかなぁと(笑)。 ――しかし蔵書も予算もなければ、図書館をつくれない気がしますが……。 谷口:場所は多分不自由しません。破綻したような自治体なら、大体公共投資の 後の箱モノには事欠きませんから、そのどれかを流用させてもらいたいと思いま す。蔵書もない所から始めたいですね。 ――蔵書がない図書館なんて聞いたことがないですが……? 谷口:僕は図書館業界の素人ですが、図書館には二種類の機能があると思って います。一つは蔵書を中心とした情報のデータベースとしての機能、そしてもう 一つが、本や情報に出会う場所としての機能です。現代社会ではインタ―ネット、 Web の発達で、前者の機能を提供する存在としての図書館の相対的優位性が低 下しています。「調べ物ならネットでいいじゃん」というのは、完全な正解ではあ りませんが、間違いではありません。この機能を図書館の中核サービスとし維持
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    62 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 し続けるならば、現代の図書館は自らの存在意義(レゾンデートル)に頭を悩ま せることを宿命づけられています。つねに、実世界の空間に縛られながら、ネッ トの検索能力・データ貯蔵能力と戦わないといけないからです。技術的に考え ていろいろ不利です。そこで、予算的にも追い詰められたマイ図書館は前者を思 い切って放り出すわけです。マイ図書館は、蔵書がなくなってしまったことをポ ジティブシンキングで乗り越え、その機能を本と人、人と人との出会いに特化し、 地域の情報共有とコミュニティ形成に特化した図書館として生まれ変わりたいと 思います。 ――本と人、人と人との出会いですか? ビブリオバトルみたいですね。 谷口:そうですね。ビブリオバトルは2012年にLibrary of the Year 2012の大賞を いただいたのですが、大賞受賞に際してのメッセージでもこういう話は書かせて いただきました。以下はその際に申し上げたことです。 ビブリオバトルの普及黎明期から僕自身がビブリオバトル普及委員会の コアなメンバーと話していたことの一つに「図書館のカタチ」もしくは「図 書館 2.0」についての議論がありました。それは、「ビブリオバトルってある 意味でソーシャルな図書館の機能をもっているよね?」という認識について の議論でした。 ビブリオバトルは「図書館」というハコは持っていませんが、 カフェであれ、会議室であれ、その場を「人を介して本と出会う空間」にする 機能をもっています。図書館には様々な役割がありますが、その一つとして 「本との出会い」に焦点を当てるならば、ビブリオバトルは少なくとも図書館 の機能の一部を持つと見なせるのではないでしょうか? ビブリオバトルは 人とのつながりの中で、その開催場所という物質的空間に拘束されることな く、本との出会いを生むことができます。僕自身はビブリオバトルのことを 「ソーシャルな位相空間に存在する図書館のような存在」として解釈してい ました。(中略) ビブリオバトルは、本との出会いを、一人ひとりの読者の解釈、想い、人間 関係の中に見出し、それらを語りの中で紡ぎ上げ、ゲームというかたちにつ なぎ合わせる事を目指してきました。それが「人を通して本を知る」という フレーズに包まれたニュアンスです。 http://www.iri-net.org/loy/loy2012.html
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    63本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 図書館のデータベースとし ての機能に特化すると、蔵書 を整然と配架し、人々が静か に本を探し、精読する空間が 自然とデザインされていき ます。従来の大きくて静かな 図書館ができあがるわけで す。しかし、「人を通して本を 知る、本を通して人を知る」 という機能に特化すれば、そ こには賑やかな図書館が生まれます。この 2 つの機能は、ある意味でトレードオ フの関係になっているわけです。図書館を「蔵書」という制約から取り外すことで、 人と本をつなぐ 21 世紀のサードプレイスとしての図書館を実現できたらと思い ます。 ――サードプレイスとは何でしょう? 谷口:サードプレイスというのは「家庭」でも「仕事場」でもない、地域の人が交 流する第三の場所のことです。以前から、日本ではこのサードプレイスの不足が 叫ばれています。ネット社会である 21 世紀はサードプレイスが注目される時代 でもあります。現在はドキュメント情報の共有だけでなく、娯楽や、小売も含め、 街の賑いをつくっていたさまざまなものが現実世界から逃げ、ネット空間の上で 行われるようになっています。その分、経済活動が「地上」から消えていってし まっているんですね。それが地域や賑いの喪失だといわれるわけなんですが、そ んな中でも「人と会って交流したい」という社会的な欲望は消えないと思われま すし、実際にもそのような報告はなされています。ネット社会にあって、サード プレイスをどうつくり、街の賑いをつくっていくかというのが、21 世紀の街の大 きな問いの一つだと思っています。そこに貢献することをマイ図書館のミッショ ンとしたいと考えています。 ――蔵書は本当にゼロでいくんですか? 谷口:いえ、それではさすがに「図書館っぽくない」ので、それなりには揃えたい と思います(笑)。とはいえ、お金は掛けたくない……というか、ないので、でき 横浜市中央図書館会議室で行われた「ビブリオバトル in 有隣堂 第 9弾」の様子(2013年11月)
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    64 本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 るだけ多くの人に寄贈してもらったり、街の人が読み終わった本をどんどん図書 館に寄付してもらったりする仕組みをつくりたいですね。寄贈すればするほど経 験値が溜まって、レベルアップしていって表彰される、みたいな、ゲーム的要素 を取り入れたゲーミフィケーションみたいな仕組みとかもあってもいいかもしれ ませんね。地元の名士みたいになれる。あと、都市部には大量の蔵書を持ってい る人も多いですし、そういうのを寄贈いただくとか。あと、亡くなられた方の蔵 書を引き取るとか、そういうことは積極的にやっていきたいですね。できるだけ 寄贈する本にはその人自身による紹介を添えてもらえたら、よりよいかもしれま せん。 ――しかし、それでは新刊がなかなか入らないと思うのですが? 谷口:贅沢は言えません。なんせお金がないんですから(笑)。新刊は個々人で買っ てもらったらいいし、最近は新しい本のクオリティも下がっているような気も するので、相対的に古い本、復刊本や絶版本から選ばれるオススメ本の価値が上 がってきているように思います。新しい情報は常にネット上の情報ともその価値 を競わねばならないわけですし。むしろ図書館は古い本に特化していても構わな い気もしますね、マイ図書館はそのポイントを突きたいと思います。あと、新し い本は誰かが買ってビブリオバトルで持ってきてくれるので、それを回し読みと かしたらいいんじゃないですかね? 買いたい人は買えばいいし。 ――やっぱり、ビブリオバトルはやるんですね!? 谷口:もちろんです(笑)。マイ図書館では毎日、朝、昼、晩に合計 3 回のビブリ オバトルを行います。1 回の参加者は 5 人くらいでも構いません。マイ図書館は、 行けば必ず本と人に出会える場所を実現します。他にも、いろんなセミナーとか ワークショップもできるといいですね。ニューヨークの図書館なんかは創業支援 なんかも図書館の業務の一つだと聞きました。賑やかで地域の人々に活力を与え る、そんな図書館を目指したいですね。人が交流し、情報が交換され、何かが生み 出される公共空間、そんなマイ図書館を目指したいと思います。 ――ユニークなお考えだと思います。是非、実現してください ! 今回は長いイン タビューにお付き合いくださり、ありがとうございました。 谷口:ありがとうございました。
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    66 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 「図書館ツアーや、館長懇談会」(P9)は、「見る・聞く・話す」ことで図書館の 仕事について知るイベントだが、「一日図書館員」は「実際に仕事をしてみる」こ とで図書館の理解を深めるイベントである。基本的には子どもを対象としている ものが多く、仕事を体験しながら図書館の利用の仕方も学べるイベントとして位 置づけられている。 図書館の利用者にとって、図書館員の仕事は興味深いものだろう。「一日図書館 員」は図書館の仕事を体験できるとあって、人気の高い企画である。 ▶定義・意義  定義としては、子どもに図書館の仕事を体験させる職場体験イベントとして実 施される。利用者教育の一環でもあるが、子どもが対象であることから、むしろ 啓発活動的な側面が大きい。図書館の仕事を経験したことがある子どもは、その 経験がない子どもに比べ、図書館に対して特別な気持ちと正しい理解を持って利 用し、大人になってゆくことだろう。参加者のなかには将来、図書館で働く子ど もがいるかもしれない。 「一日図書館員」は、その地域で成長していく子どもたちと図書館を強く結びつ ける「絆」のようなものを生み出せることが、大きな意義である。また、子どもた ちが図書館の業務を通じて本に親しむことで、丁寧に愛情を持って本を取り扱う 姿勢をつけさせたり、読書を習慣化させることにつながる機会にもなるだろう。 学校単位では、「職場体験」の事業の一環で図書館員の仕事を体験させることも 多いが、図書館が公募して行う「一日図書館員」には、さまざまな学校から子ども たちが集まるため、普段は顔を合わせることのない子どもたちが共同で仕事を体 験でき、学校を超えた友達づくりの場にもなる。 ▶コンテンツ 「職場体験」として子どもたちがする仕事は、資料の整理、図書館利用者からの 一日図書館員 利 イ体育者 ン職用 ベむ を ト験 場
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    67本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 質問に対応し資料を揃えるレファレンス、蔵書の選定 、図書へのフィルム貼りな ど本の補強作業、絵本の読み聞かせ、特集の設置などを実際に子どもたちととも に行う。 小学校などの体験学習の一環として、単一の学校から体験者を受け入れること もあるが、「市内在住の小学 5・6 年生」といったように、対象年齢を絞り込んで 公募する場合もある。参加者は子どもがほとんどであるが、葛飾区立立石図書館 (東京都葛飾区)や平塚市立北図書館(神奈川県平塚市)など、一部の図書館では 大人を対象にした取り組みも行われている。大人を対象にする場合は、図書館員 の仕事を体験することで、図書館についてより理解を深めたり、図書館のサービ スを知ってもらうことにつなげる。子どもに対しても、大人に対しても、図書館 の仕事を体験してもらうことで、図書館の良き利用者、良き理解者を育てている のである。 ▶ノウハウとポイント ◎開館中に行われるため、「一日図書館員」であることを明示する名札やおそろい のエプロンなどを子どもたちに着用してもらい、子どもたちが職場体験中である ことを、一般の利用者にわかるようにする。カウンターなどにも、企画を実施中 なことがわかるような掲示をするとなおよい。学校が行う「職場体験」でもそう だが、このような掲示があると、子どもたちは自分たちが特別に迎え入れられて いることを意識できてうれしいものである。 ◎子どもたちが騒いで利用者の妨げになることがあるため、1回の受入れ人数は あまり多くならないように心がける。受入れ人数は各館まちまちではあるが、1 回あたり 10人未満程度が理想だろう。希望者が多数となり、どうしても多くの参 加者を受け入れたい場合、グループ分けをするなどして、多数の参加者が集中し ない工夫が必要である。 ◎実際に子どもたちが本の貸出や返却作業を体験する際は、一般の利用者と触れ 合うため、事前のガイダンスを図書館ツアーなどを通して的確に行い、現場には 常に監督者として図書館職員が同伴することを心がける。または、貸出や返却作 業のような個人情報に触れる可能性のある体験は、実際のカウンターでは行わず、
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    68 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 参加者同士で行うなどの疑似体験で済ませるのも工夫の一つである。 ◎一般の利用者を区別するためにつけてもらう名札は、そのままプレゼントすれ ば、体験の思い出ともなる。また職場体験前、子どもたちに図書館員の委嘱状を 発行すれば、本格的な図書館員気分を味わうことができる貴重な体験の一つにな るだろう。 ◎普段は利用するだけの図書館で、実際の業務を体験できるとあって、図書館に 興味のある子どもたちからは、かなりの人気が集まることが多く、すぐに定員に 達することも多い。この場合は抽選を行うことが必要だが、その際、落選者をそ のまま放置せず、地域にある他の分館と協力して分散させるとよい。またリピー ターについても分館での参加を促すことで、子どもにとっては新しい図書館に行 けるというメリットがあるとともに、参加者の重複を避けることにもつながる。 分館への分散が難しい場合、回数を増やして受け入れ人数を増すことも考慮すべ きだろう。 ◎仕事にゲーム性を持たせると、子どもは喜ぶ。たとえば本の整理整頓をする作 業に、宝探し的な楽しみを加えると、子どもは熱中して取り組む。予約が入った 本を書架から探してくることなどは、まさに宝探しである。 POPづくりや紹介 文を書くといった、実際に手を使って行う創作作業にも人気がある。また「この テーマに関する本を集めて、棚をつくってみましょう」といった問題解決をさせ るのも効果的である。 ◎大人を対象とする場合は、本の修理をするワークショップを兼ねてもよい。1 冊の本がいかに大切に扱われ、丁寧に保存されているかを知り、その方法とかか る手間を知るのは、図書館の機能を理解し、本を丁寧に扱うことの必要性を理解 することにもつながる。また、本の保存性を高める作業という意味では、ブック コーティングの体験も同様の効果が得られる。コーティング作業を行う本を持参 してもらい、参加者自らが作業を行えば、体験同時に成果物のお土産が同時にで き、一石二鳥である。
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    69本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 甲府市立図書館では小学 3 年生から 6 年生を対象に、夏休みに「かわせみスタ ンプ隊」という取り組みを行っている。これは図書館を出発点に、市役所と図書 館を見学したあと図書館に戻り、図書館の仕事を体験するという取り組みである。 厳密にいえば「一日図書館員」ではないが、図書館の仕事を体験するという点で 同種の取り組みである。 特徴的なのは図書館だけでなく、新しくできたばかりの市役所も訪問している ことである。図書館員の引率で市役所を訪問するこの取り組みは、図書館だけで はなく、行政の勉強にもなることだろう。また学校単位で行う「職場体験」とも違 い、さまざまな学校から集まった子どもたちが一緒に活動するため、広い視野で の思い出づくり、友達づくりにもひと役買っている。 同館の仕事体験では、開架での本の整理や、パソコンとバーコードリーダーを 使っての貸出・返却作業体験、本の補修作業、リクエスト処理などがメニューと なっている。また、子どもたちにチャレンジしてもらう項目を設定し、それらをク リアするたびに、スタンプがもらえるという特典を用意している。スタンプはこ のイベントに参加し、仕事などを体験するともらえるが、それ以外にも移動図書 館と公民館図書室のどちらかに訪問すると、スタンプを進呈するようにしている。 ■甲府市立図書館 山梨県甲府市城東 1-12-33 http://libnet.city.kofu.yamanashi.jp/lib/ Tel:055-235-1427 Fax:055-227-6766 提供:甲府市立図書館 図書館事例 甲府市立図書館(山梨県甲府市)
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    70 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 人生において、本との出会いはかけがえのないものである。本を開き、新たな 「知」との出会いに興奮し、感動する。「ブックスタート」は生まれたばかりの赤 ちゃんに、本との出会いを提供する活動として広く知られている。 ▶歴史 「ブックスタート」は、1992 年に“Share books with your baby!”のキャッチフレー ズとともにイギリスで始まった運動である。日本は「ブックスタート」を展開し た 2 番目の国であり、2000 年 11 月に杉並区で行われた試験実施が国内最初であ る。これらの活動は「NPO 法人ブックスタート」がサポートしており、同 NPO の報告によると、2013 年 10 月 31 日現在、「ブックスタート」を実施している自 治体は、全国で 859 自治体(49.3%)に達している。 ▶定義・意義 「ブックスタート」は、赤ちゃんに絵本を楽しむ機会をプレゼントする活動であ る。生後4ヶ月から1歳程度の赤ちゃんにお薦めの絵本をプレゼントして絵本を 楽しむ機会を与え、両親に子育てのサポートをする。 経費的な都合などで絵本をプレゼントできなくても、「ブックスタート」はでき る。赤ちゃんに絵本を楽しむ機会を伝える場であれば、「ブックスタート」といえ るのだ。 「ブックスタート」の意義は、絵本の世界を通して親と子どもがつながりを深め ることだ。そして絵本の楽しさを知った親子には、子育てを通して絵本の世界を より深めてもらうために、図書館を積極的に利用してもらうように促す。絵本を 通じて親子がつながり、図書館とつながっていくのだ。 ▶コンテンツ 赤ちゃんとその保護者に絵本を読む楽しさを伝え、絵本をプレゼントするのが ブックスタート 絵 つ館し子、 ぐ図で と なて本 そ を 書親
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    71本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号  「ブックスタート」である。「ブックスタート」開催時に、絵本の「読み聞かせ」 をしたり、「ブックスタート」の支援員が保護者に絵本の楽しさを伝えるお話をす る。そのあと「ブックスタート・パック」と呼ばれるセットを手渡す。 「ブックスタート・パック」の中身は、お薦めの絵本が 1、2 冊と、お薦めの絵本 のリスト、図書館の利用案内、自治体の子育て支援制度の案内などである。 プレゼントする絵本は定番のものにこだわる必要はなく、海外の絵本や地域の 伝承を絵本にしたものを使用してもよい。ただし、赤ちゃんの年齢や月齢に配慮 した絵本を選ぶ必要がある。絵本の選書に各図書館の特色を出すことによって、 独自の「ブックスタート」を行っていくことが望ましい。 ▶ノウハウとポイント ◎会場は楽しく、暖かい雰囲気を出しておくとよい。手づくりの飾り付けや、赤 ちゃんが自由に動き回れるように柔らかいマットを敷くことも大切な工夫である。 ◎絵本をプレゼントする場合は、プレゼントする 1冊を含め、絵本の選び方のア ドバイス、絵本の楽しみ方、さらには図書館の利用案内と利用申込書など、それ ぞれに工夫した書類一式を袋にまとめた「ブックスタート・パック」を準備して おく。 ◎図書館員・保健師・ボランティアなどが、赤ちゃんと保護者1組 1組に向き合っ て、「ブックスタート・パック」を手渡す。 ◎「ブックスタート」を図書館の「おはなし会」や子育て支援施設の催しなど、子 育てに役立つ地域の情報を伝える機会の一つとして活用すると、より一層効果的 である。 ◎「ブックスタート」は、その自治体で生まれたすべての赤ちゃんが対象となる。 そのため、図書館が別途に機会を設けるよりも、受診率が高い 0歳児集団健診で 「ブックスタート」を実施すると、ほぼすべての赤ちゃんに出会うことができ、効 果的である。健診と「ブックスタート」が一度に受けられるので、外出が難しい赤 ちゃんと保護者にとっても優しい配慮となる。
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    72 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ◎集団健診を行っていない自治体では、ほかの保健事業や子育て支援事業などの 機会に実施するとよい。図書館で日を決めて実施することも珍しくない。 ◎自治体によって「ブックスタート」への取り組み方はさまざまであるため、 「ブックスタート・パック」の内容は自治体によって異なる。「ブックスタート」 に使われる絵本を特別に納める本棚をつくり館内で提示して、「ブックスタート」 を PRしている図書館もある。 ◎「ブックスタート」を行うことで、「この街で、安心して子育てができますよ」と いうメッセージにつなげるとよい。「ブックスタート」をいわば、図書館のアドボ カシーとしても機能させるのである。 ◎「ブックスタート」の特徴は、赤ちゃんにお薦めの絵本をプレゼントすること だが、決してそれが目的ではない。赤ちゃんと保護者に絵本を読む楽しさを知っ てもらうことが目的なのである。お薦めの絵本をプレゼントするのは、それを日 常において実感してもらうためである。この目的を誤ると、絵本をプレゼントす ることに重きがいってしまうため、注意が必要である。 ◎「ブックスタート」は、赤ちゃんが絵本に出会う最初の機会である。「ブックス タート」を実施して終わりにするのではなく、年齢に合わせてお薦めの本を紹介 していくなど、継続的にフォローしていくことが望ましい。 ◎「ブックスタート」の目的には、絵本を赤ちゃんと読み合うことの喜びを保護 者に知ってもらい、本の持つ力や他の子育て支援制度を知らせることで、安心し て子育てをしてもらうことである。こうした主催側の思いは、「ブックスタート」 を実施するときに伝えることも必要だが、それ以外の機会を捉えて伝えることも 重要である。指宿市立図書館(鹿児島県指宿市)では赤ちゃんの出産を控える両 親や家族に対して、子育て中に絵本を読むことの楽しさや、それをサポートする 本の存在や支援サービスについて知らせ、学んでもらう場を設けている。 ■参考情報 ・NPOブックスタート http://www.bookstart.or.jp/
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    73本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ■嘉手納町立図書館 沖縄県嘉手納町字嘉手納 290-9 http://www.town.kadena.okinawa.jp/rotaryplaza/tosyokan.html Tel: 098-957-2470 撮影:岡本真 嘉手納町立図書館では、定期的に「ブックスタート」を開催している。 対象者は、生後 4 ヶ月から満 1 歳までの赤ちゃんである。対象となる赤ちゃ んと保護者は決められた日時に図書館へ行き、絵本の楽しさについて「ブックス タート」支援員の話を聞き、そのあとで絵本を受け取る。開催日に都合が悪ければ、 別の開催日に参加できる。また、図書館で個別対応もしている。 また、同館ではカウンター前の目立つ場所で、「ブックスタート」でお薦めする 絵本と、「ブックスタート」事業を紹介する展示を行っている。「ブックスタート」 で紹介する本は、すべての子どもにお薦めできる絵本なので、それを紹介するこ とは有効なことである。もちろん一般の利用者にこの取り組みを周知する役目も 担っている。 図書館事例 嘉手納町立図書館(沖縄県嘉手納町)
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    74 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ■指宿市立指宿図書館 鹿児島県指宿市十二町 2190 http://www.minc.ne.jp/ibusukilib/ Tel:0993-23-2827 Fax:0993-23-2841 指宿市立指宿図書館では、子どもが生まれる前から「マタニティお話会」として、 「ブックスタート」よりも先にマタニティママとパパ、家族を対象に実施している。 「ブックスタート」とは毛色が異なるが、子育て中における絵本との関わりや図書 館の関わりを伝えている特徴的な取り組みである。これは、赤ちゃんが生まれて から実施する「ブックスタート」では、子育てに関する心がけなどを伝えるには 遅く、生まれる前からの親業教育が重要であるという考えから行われている。そ のため「ブックスタート」が絵本を読むことの楽しさを伝えるのに重点を置くの に対し、絵本を読むことも以外にも、子育てを助ける本や支援の存在、母親だけ ではなく、父親が育児参加するために必要なことなども伝えている。 子育てにおいて赤ちゃんに「読み聞かせ」をすることの意味、暖かい声による 「言葉がけ」が心を育てるということを、お赤ちゃんを家庭に迎え入れる前に伝え ている。また、絵本の紹介や意義の説明のほかに、名づけの本、妊婦向け栄養食本、 妊産婦の暮らし方、マタニティの運動の本(スイミングやヨガなど)、配偶者との 過ごし方、出産の本、ベビー服・マミーズバッグや小物づくりの本、赤ちゃんと の暮らし方、離乳食、赤ちゃんの発達を紹介する本、赤ちゃんの病気の本、パパの イクメン本、赤ちゃんが生まれてから必要となる本やものごとを伝えている。 同館では、「マタニティお話会」を保健センターと連携し、年 3 回ほど出産前の 夫婦と家族を対象に、市保健センターを会場に開催している。図書館でこのよう な講座を開いても、母親はともかく、父親はなかなか参加しないものである。夫 婦で参加する講座と連携することで、母親だけではなく、父親にも子育てについ て伝える機会を得ている。赤ちゃんを迎え、育てていく夫婦と家族を図書館が バックアップしているのである。 図書館事例 指宿市立指宿図書館(鹿児島県指宿市)
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    76 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 「ぬいぐるみのおとまり会」は、「一日図書館員」(P66)のように、子どもが図書 館を体験するためのイベントである。このイベントでは、一風変わった手法が人 気を集めている。なんと図書館でのおとまりを体験するのは子ども自身ではなく、 子どもたちのお気に入りのぬいぐるみなのである。そして子どもたちは、自分が 日頃、大切にしているぬいぐるみが、図書館でのおとまりを楽しんでいる様子を、 図書館員が撮影した写真を通して後日、知ることができる。こうすることで、子 どもたちは図書館でのおとまりを疑似体験するのである。この試みは、米国各地 の公共図書館で実施されており、現在では日本でも広まりつつある。 ▶歴史 「ぬいぐるみのおとまり会」は、“stuffed animal sleepover”としてアメリカの公共 図書館で行われている人気のイベントを、国立国会図書館のカレントアウェアネ スが紹介し、宝塚市立西図書館(兵庫県宝塚市)が日本で最初に開催したのを皮 切りに、全国の公共図書館に広まったものである。 ▶定義・意義 ぬいぐるみを大切にしている年齢が対象となるため、基本的には幼児が参加対 象となる。子どもたちにとって自分の大切なぬいぐるみは、世界に生まれ落ちて 最初の、もしくは数少ない安心できる友達である。友達という概念すら、うまく 理解できていないかもしれず、自分の分身として見ているかもしれない。そうし た特別な存在であるぬいぐるみを通して、子どもたちは図書館という世界を理解 するのである。 図書館員はぬいぐるみを一晩預かり、夜、ぬいぐるみが図書館を探検したり、 本を読んだり、仕事をしたりする様子を写真に撮る。それを子どもたちに見せる と、多くの場合、その姿に夢中になり、ぬいぐるみの姿に同調し、笑顔になるよう だ。 ぬいぐるみのおとまり会 幼 体書の 疑児 館 図 似 験
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    77本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ぬいぐるみを通して、図書館という場の豊かさや本の楽しさを子どもたちに伝 えることが、このイベントの意義である。 ▶コンテンツ イベント当日、子どもたちはそれぞれが大切にしているぬいぐるみや人形を 持って図書館に集まる。大切なぬいぐるみと一緒におはなし会などを楽しんだあ と、子どもは用意された毛布の中にぬいぐるみを入れて寝かしつける。おやすみ を言って、ぬいぐるみたちとしばしの別れを告げるのである。 子どもたちが家に帰ったあと、図書館員たちの仕事が始まる。ぬいぐるみたち が図書館で楽しく遊ぶ様子を撮影するのである。閲覧室の机で本を読んだり、パ ソコンを使ったり、書架の影でかくれんぼをしたり、図書館長の椅子に座ったり している様子をたくさんの写真に収めてゆく。 翌日、ぬいぐるみを迎えに来た子どもたちに、これらの写真プレゼントする。 その際、館によっては、「ぬいぐるみが読んでいた本だよ」と声をかけて、お薦め の本として貸出するケースもある。 子どもたちは、ぬいぐるみが体験した楽しい思い出とともに図書館という場所 を記憶し、読んだ本は大切な宝物になるというわけである。   ▶ノウハウとポイント ◎最も気をつけるべき点は、ぬいぐるみを取り違えないことである。そのための 工夫としては、受付時に子どもをぬいぐるみと一緒に写真に撮ること、子ども たちにぬいぐるみの名前を聞いて、名札を付けるなどがあげられる。カレントア ウェアネスのサイトにも掲載されている宝塚市立西図書館の事例では、受付時に 子どもとぬいぐるみを一緒に写真に撮り、それを印刷した受付票を作成し、ぬい ぐるみには名前が書かれたラミネート加工の名札が毛糸で結び付けられたという。 ほかの図書館でもぬいぐるみを間違えないための工夫と、思い出づくりの工夫を 同時に行うために、ぬいぐるみ用の利用カードを作成したという事例もある。 ◎子どもたちがぬいぐるみを寝かしつける際は、夜のムードを出すために、部屋 の灯りを落とし、毛布にくるむなどの演出が行われることが好ましい。 ◎閉館後、まずぬいぐるみを6 ∼ 8体ずつのグループに分け、それぞれに写真撮
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    78 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 影を行っていく。館内のさまざまな場所にぬいぐるみを置き、撮影していく。撮 影においては、図書館がどういった場所かが分かるようにすることを念頭に置く とよい。たとえば他のぬいぐるみと一緒に本を読む、英字新聞を読ませる、貸出 作業のバーコードリーダーを持たせるといった工夫があげられる。それぞれのぬ いぐるみに、3 ∼ 4パターンの写真が撮影されることが望ましい。 ◎写真を撮りやすくするための事前準備として、子どもたちに自分の大切なぬい ぐるみがどんな性格をしているかを聞いておくとよい。聞き出した性格からぬい ぐるみが「やってみたいと思うこと」を割り出しておけば、写真の構図を決める 時などの参考になる。またその情報は、ぬいぐるみが気に入った本という設定で、 お薦めの本を選ぶときの参考にもなる。 ◎ぬいぐるみが読んで気に入ったという設定で、お薦めの絵本を子どもたちに貸 出するのも、子どもたちの興味も引きやすい。本を選ぶ際には、事前にぬいぐる みの性格を子どもたちから聞いておき、子どもの年齢も考慮して選ぶといい。 ◎翌日、子どもたちにぬいぐるみを返す際は、「いい子にしていたよ」「楽しそう にしていたよ」などといったメッセージとともに、職員が直接手渡すことが望ま しい。またこの時、ぬいぐるみが読んでいた本も手渡すとよい。 ◎写真は、可能であれば台紙を用意するなどが好ましい。材料は、図書館にある ものを使ってもいいし、新しく用意する場合の材料費については、参加者からそ の一部を集めてもよいだろう。 ■参考情報 ・「E1088 子どものお気に入りのぬいぐるみが図書館でお泊まり会(米国)」カレントア ウェアネス-E、No.178、2010.09.02 http://current.ndl.go.jp/e1088 ・「E1127『ぬいぐるみの図書館おとまり会』現場の様子と舞台裏(日本)」カレントアウェ アネス -E、No.185、2010.12.16 http://current.ndl.go.jp/e1127
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    79本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 所沢市立所沢図書館狭山ヶ丘分館では年に 2 回、「ぬいぐるみのおとまり会」を 実施し、今年で 3 年目となる。 開催日の夕方に、ぬいぐるみを連れてきてもらい、夜の図書館に 1 泊して、翌 日、子どもたちに迎えに来てもらう。ぬいぐるみが子どもたちのもとへ帰るとき に、「おとまり証明書」と、夜の間の活躍を収めた写真を手渡す。ぬいぐるみの性 格と子どもの年齢に考慮した絵本も一緒に手渡している。 図書館に預けられたぬいぐるみは、子どもたちに代わって夜の図書館を探検し たり、絵本の「読み聞かせ」を聞いたり、図書館の業務を体験する。その様子を写 真に収める。どのぬいぐるみも、必ず写真に納まるように気を配ったり、子ども たち一人ひとりに合わせた本を選ぶことが重要である。 お気に入りのぬいぐるみが体験した夜の図書館を、子どもたちは疑似体験する。 そのことが、より図書館と本を身近なものに感じさせる。子どもたち一人ひとり に合わせて選ばれた絵本は、子どもたちにとってかけがえのない思い出となるだ ろう。 図書館事例 所沢市立所沢図書館狭山ヶ丘分館(埼玉県所沢市) ■所沢市立所沢図書館狭山ヶ丘分館 埼玉県所沢市若狭 4-2478-4 https://lib.city.tokorozawa.saitama.jp/ Tel: 04-2949-1193 Fax: 04-2949-8577 提供:所沢市立所沢図書館狭山ヶ丘分館
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    80 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 「夏の自由研究」は、子どもたちにとって夏の一大ミッションである。学校側が テーマを出している場合もあれば、自由設定の場合もあり、その内容はさまざま だ。しかし、子どもたちにとってはなんらかのかたちで「調べもの」をしなければ ならない。これは彼らの、おそらく人生初の「研究」なのである。 そこで、図書館で子どもたちの夏の自由研究を全面的にサポートしようと始 まったのが「夏の自由研究サポート」である。今回は千代田区立千代田図書館(東 京都千代田区)と千代田区立四番町図書館(東京都千代田区)で実施されている「調 べもの戦隊 レファレンジャー」を主なケーススタディとして考察する。 ▶歴史 千代田区立千代田図書館の「調べもの戦隊 レファレンジャー」は、2008 年か ら実施されている。ほかにも、子どもたちの調べ学習をサポートする取り組みは、 全国にいくつもある。 ▶定義・意義  図書館で行う調べものの補助といえば、「レファレンス」である。これは図書館 の通常業務として行われているが、多くの子どもたちはその存在を知らない。そ こでイベント形式にして子どもたちに周知することで、レファレンスに対する理 解を促すという意義もある。ちなみに千代田区立千代田図書館と四番町図書館で 実施されている「調べもの戦隊 レファレンジャー」は、レファレンスを行う職員 「レファレンサー」をもじったものである。 千代田区立図書館の場合、「調べもの戦隊 レファレンジャー」として常駐して いるのは、学校に常駐している学校図書館担当の司書である。児童サービスに誰 よりも詳しい司書たちが、子どもたちの調べもののために図書館に常駐している のだ。 夏の自由研究サポート 夏 の トたは、司 シ タどの ア子 書 ス ンち も
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    81本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ▶コンテンツ 千代田区立千代田図書館の「調べもの戦隊 レファレンジャー」では、2 名の司 書が常駐し、自由研究や調べ学習のテーマの設定の仕方から、参考図書の使い方、 調べ方、まとめ方などを一貫してサポートする。 また同時に、読書感想文を書くための本選びや赤ちゃんの「ブックスタート」 「読み聞かせ」で利用する絵本の選び方など、自由研究以外の読書相談とレファレ ンスサービスも行っている。子どもと一緒に図書館を訪れた保護者にも、さまざ まなサービスを提供できるようにしているのである。 ▶ノウハウとポイント ◎「調べもの戦隊 レファレンジャー」は、常駐する司書がバッチをつけて、レファ レンジャーであることを明示している。「分からないことがあれば、この人に聞け ばいい」ということが子どもたちに明確に分かる目印を付けておくことが重要で ある。また、子どもたちに声をかけてもらうのを待つだけではなく、なにかを探 している様子のある子どもに積極的に声をかけることも重要だ。 ◎図書館員にとっては、レファレンス業務は当たり前である。しかしこのように 名前を付け、イベント仕立てで行うことで、さらなる認知につながる。 ◎図書館に勤める司書に加え、学校が夏休み中で仕事が比較的少なくなっている 学校図書館の司書にも来てもらうとよい。学校図書館を担当し、児童サービスを 誰よりも知っている司書に入ってもらうことで、子どもたちのニーズに合わせた、 より手厚いサポート体制を構築することができる。 ◎夏休み中は子どもたち用の「自由研究コーナー」をつくり、関連資料を集め、ふ だんよりもフロアにいる司書を増員する方法も考えられる。あるいはコーナーだ けを設置し、質問を随時受け付けるようにすることで、利用促進がなされるだろ う。常駐が難しければ日時を決めて、サポートを行うことも考えられる。その場 合でも、関連資料を紹介するコーナーは設置しておき、子どもたちが必要な時に いつでも参照できる体制をつくっておくとよい。図書館ごとに取り組める形式、 配置できる人員が異なるため、可能なやり方で実施するのが好ましい。
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    82 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ◎自由研究コーナーを設置する場合、関連資料の展示とともに、調べもののやり 方を掲示しておくとよい。掲示だけではなく、持ち帰れるリストやチラシ、カー ドなどにすると図書館だけではなく、自宅での学習にも役立つだろう。 配布物の具体例としては、調べものに役立つ図書リスト、テーマごとの調べ方 案内(パスファインダー)、調べもののヒントカードなどである。 ◎東京都立多摩図書館(東京都立川市)では、企画展「これならできる!自由研究 ―111枚のアイディアカードから選ぼう―」を開催。自由研究のテーマのヒント となるアイディアカード 111種を配布するとともに、アイディアカードで紹介し た本を展示した。また、夏休みに限定した話ではないが、倉敷市立中央図書館(兵 庫県倉敷市)では、児童室に調べ方のチャート図を掲示し、子どもたちがどうい う手順で調べものを進めればいいのか、わかりやすく解説している。 ◎また地域連携の仕組みとして、学校の先生や教員 OBにサポートに入ってもら うのも手である。先生やOBは、子どもたちを教えるプロであるため、図書館にお ける児童サービスとは異なるとしても、子どもたちの学習をサポートできるだろ う。 ◎資料や調べ方のサポートを行うだけではなく、実際に手を動かして、調べもの を体験するイベントを開催すると効果的である。子どもたちは調べ方を体系的に 学ぶことができ、同時に宿題を完成させることもできる。 枕崎市立図書館/鹿児島県枕崎市 撮影:岡本真倉敷市立中央図書館/兵庫県倉敷市 撮影:岡本真
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    83本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ■千代田区立千代田図書館 東京都千代田区九段南 1-2-1 千代田区役所 9・10 階 http://www.library.chiyoda.tokyo.jp/ Tel:03-5211-4289 提供:千代田区立千代田図書館 「調べもの戦隊 レファレンジャー」は千代田区立千代田図書館の分館である四 番町図書館でも同様に開催している。概要については、前述したとおりである。 児童コーナー内に常駐する図書館員は 2 名だが、総勢 10 人程度の学校図書館担 当の司書が、ローテーションを組んで交代で任務にあたっている。 2008 年から開催しており、好評につき、日数や人数を調整しながら毎年開催し ている。 図書館事例 千代田区立千代田図書館(東京都千代田区)
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    84 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 静かに本を読みふける。それが、図書館ではお馴染みの読書風景である。しか し、それだけが読書ではないだろう。一人で読むだけでなく、声に出して複数の 人に話す「読み聞かせ」をしたり、歌を交えながらストーリーを進めたり、子ども たちのリアクションで話をアレンジする「エプロンシアター」や手遊びなども読 書である。本の楽しさや学びを提供することが図書館の役割であるならば、一人 で読むだけではない読書の楽しさを伝えることも大切なことだろう。 もはやお馴染みの「おはなし会」は、「読み聞かせ」を中心にして広く知られて いるが、そのノウハウや歴史を深く読み解くことで、新しい図書館サービスを発 想できるかもしれない。 ▶歴史 「おはなし会」の代表格は読書習慣の醸成や、小さいうちに物語の楽しさを知っ てもらうために、小学校などで積極的に行われている絵本の「読み聞かせ」であ る。その取り組みがいつから行われてきたかは確定的な資料はないが、少なくと も 1960 年代前半に教育現場で文学教育運動の一環として始まり、60 年代後半に 広がっていったと推測されている。しかしこれは戦後の近代的公共図書館での話 であり、さらにさかのぼると、そのルーツは明治中期から昭和にかけて盛んに行 われていた口演童話(こうえんどうわ)との関連性が指摘されている。 ▶定義 「おはなし会」自体には明確な定義は存在しないが、図書館で行われているもの では、15 分から 30 分程度の「読み聞かせ」を週 1 回から月 1 回程度、実施するの が一般的である。定・不定期はさまざまで、毎日行っているところもあれば、イ ベントでの実施のみに限定されているところもある。 対象年齢は、扱う本の内容によって変化するため一概にはいえないが、一般的 には乳幼児から小学生までを対象とすることが多い。 おはなし会 一 読 なむ」で け じ人 だ 書 「読 が ゃ い
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    85本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ▶コンテンツ 「おはなし会」は絵本の「読み聞かせ」だけではなく、「素話」(絵本などを使用せ ずに、口頭の語りだけで物語を話すタイプのもの)や「紙芝居」、「手遊び」などで 行われることもある。同じ絵本を使っても、やり方によってさまざまな伝え方が できるところが「おはなし会」最大の利点である。 同じような定番の絵本をマニュアル通りに読み続けているだけでは、子どもは 退屈してしまう。でも、定番の絵本でもその物語をモチーフにして子どもたちと 一緒に紙芝居をつくって読んでみたり、あるいは演じてみたりすると、子どもた ちを飽きさせず、より深く物語の世界へと誘うこともできる。「おはなし会」の流 れのなかに「手遊び」を入れて、体を動かすような気分転換を巧みに取り入れる こともできる。  絵本のなかの物語に対する子どもの向き合い方を、工夫次第でさまざまに変え ることができるのが「おはなし会」の面白みである。 ▶意義  「おはなし会」は聞く力、想像する力、物語を通して読み手・聞き手でコミュニ ケーションする力を育成する教育の一環として、学校教育でも広く取り入れられ ている。 学校教育においては、授業の内容に合わせた教育的な「おはなし会」が実施さ れる一方で、図書館においては、図書の知識を持つ図書館員によるキュレーショ ンと、豊富な図書を利用して実施することができるため、より深く本の世界を楽 しむ「おはなし会」を開催することができるのが魅力である。地域における子育 てに大きな貢献も果たすことが期待される。   ▶ノウハウとポイント ◎実施ペースや実施時間、規模などは自分たちにとって持続可能かどうかを中心 に考えていくことが好ましい。慣れるまでに時間がかかることもあるため、小さ なスタートで長く走ることが大切である。まずは一番手軽な、定番絵本を使った り、季節に合わせた絵本を使うなどした「読み聞かせ」を対象年齢を明確にし、1 回 15分から 30分程度をかけて、週 1回から月 1回程度で定期的に行うことから 始めてみるとよい。
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    86 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ◎「おはなし会」は図書館員が行うのが基本だが、事例的にはボランティアが入 ることも多い。地域には、絵本の「読み聞かせ」を行うボランティアグループがあ ることが多いため、協働することも視野に入れておくとよい。図書館が行う「読 み聞かせ」ができる人材を育成するための研修をきっかけに、ボランティアグ ループを組織することもある。 ◎「おはなし会」には、読み聞かせ以外にもさまざまな方法がある。以下に要旨を 紹介するが、それぞれに参考図書が発行されているので、蔵書をあたってみると よい。 素話…ストーリーテリング。自分が暗記している物語を自分の声と言葉だけで物 語を表現して伝える。表現力や慣れが必要となるため、やや難易度としては高い。 しかし自分で物語を表現することに、読み手も大きなやりがいを感じられるとと もに、聞き手も挿絵などに影響されずに、自分で物語の世界を想像して楽しめる ため、既知の物語でも新鮮に感じられるという魅力がある。 手遊び…ストーリーと歌に合わせて体を動かす遊びを指す。主に乳幼児を中心と して行われおり、「わらべうた」などをテーマにした定番のものから、やなせたか し原作の「アンパンマン」などをテーマにしたものまで多数ある。じっと座って おはなしを聞き続ける会の合間に、手遊びを使って体を動かすと、気分転換にも なり、おはなしを集中して聞けるようになる。 パネルシアター…パネル布を貼った舞台上に、絵などを貼りつけて場面を演出し 展開する演劇的な「おはなし会」である。「歌あそび」なども交えられて展開する ために、子どもに人気が出ることが期待される。こちらも図書館によっては定番 のイベントになっているところもある。一年の行事など特別な催事で行うと華や かな演出になるだろう。 ペープサート…紙人形劇のこと。背景の前で人物の絵などを描いた紙をさまざま に動かし、演劇を行うことによって物語を演出する。子どもたちに人気がある反 面、背景や登場人物を自作する必要があるため、少し大掛かりではある。しかし、 一度つくってしまえば、同じ物語を使って繰り返し上演することができるという
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    87本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 利点があるので、定例の大きなイベントなどがある図書館には好適だろう。 ◎「おはなし会」は、やり方によって一部著作権に抵触する場合がある。例えば絵 本の「読み聞かせ」は、図書館での無料実施は著作権に触れないが、有料で行うと 許諾が必要になる。また、「パネルシアター」や「ペープサート」などは改変になる ために、原作者などへの許諾が必要となる。詳しくは児童書四者懇談会(日本児 童出版美術家連盟、日本児童文学者協会、日本児童文芸家協会、日本書籍出版協 会児童書部会)により示されている「お話会・読み聞かせ団体などによる著作物 の利用について」を参照されたい。 ■参考文献 ・児童書四者懇談会(日本児童出版美術家連盟、日本児童文学者協会、日本児童文芸家協 会、日本書籍出版協会児童書部会)「お話会・読み聞かせ団体等による著作物の利用に ついて」(2007年4月 2日改訂版)  http://www.jbpa.or.jp/guideline/readto.html
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    88 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 富山市立図書館本館では児童サービスの一環として、「かみしばいランド」と 「おはなしポケット土曜版」を、日曜日と休館日を除き、毎日開催している。また こども図書館では、ちいさな子ども向けの「おひざにだっこのおはなし会」と、小 学生以上向けの「おはなし会(小学生以上むき)」を毎日行っていることが、同館 の特色である。人的コストはかかるが、「毎日そこに行くとお話が聞ける」という のは、「読み聞かせ」をより身近に日常的なものとする。利用者である子どもたち と地域に大きな価値を提供し、「おはなし会」を中心としたコミュニティが醸成さ れやすい。 本館には児童館が併設され、こども図書館には子育て支援センターが併設さ れているという立地も利点の一つだ。関連する施設がすぐ近隣にあることで、利 用者が両方の施設を利用する環境があり、施設同士の連携が取りやすいのだ。ま た開催にあたっても、図書館員単独で行うのではなく、ボランティアと連携して 行っているのが特色である。 ■富山市立図書館本館 富山県富山市丸ノ内 1-4-50 http://www.library.toyama.toyama.jp/ Tel: 076-432-7273(青少年図書室) Fax: 076-432-7272 ■富山市立とやま駅南図書館・こども図書館 富山県富山市新富町 1-2-3 CiC ビル 4 階 http://www.library.toyama.toyama.jp/ Tel:076-444-0644 Fax:076-444-0645 提供:富山市立図書館本館 図書館事例 富山市立図書館本館・こども図書館(富山県富山市)
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    89本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 東松島市図書館では、年に 1 回、「ナイトお話会&きもだめし会」が開催されて いる。これは、子どもたちの夏休みの 1 日を使って開催されるものだ。 当日は、図書館が閉館した直後から始まる。まずは、「おはなし会」が開催さ れ、夜の読み聞かせを参加者全員で楽しむ。それはもちろん、怖い話。子どもたち は、怖い話が大好きだ。ましてきもだめしの前に楽しむので、効果は抜群だ。お はなしを楽しんだあとは、数人でグループを組んで、閉館後の館内を巡る。閉館 後の館内にはいたるところにお化けがいて、子どもたちを怖がらせる。館内には チェックポイントが設けられ、そこから「目玉」(ピンポン玉)を取ってくることが、 きもだめしに参加した証になる。 夜間に図書館でおはなしを楽しむという特別感と、閉館後の図書館内でのきも だめしと、夏ならではの特別なイベントとなっている。 ■東松島市図書館 宮城県東松島市矢本字大溜 1-1 http://www.lib-city-hm.jp/ Tel: 0225-82-1120 Fax:0225-82-1121 提供:東松島市図書館 図書館事例 東松島市図書館(宮城県東松島市)
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    90 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 図書館員の仕事は、案外、一般に知られていないものである。利用者が目にす る図書館司書の仕事は、カウンターでの本の貸出業務やフロアワークが中心であ るが、その他にも資料の整理、利用者からの質問に対して資料を紹介するレファ レンス、図書館に所蔵する本の選定、イベントの企画、展示の設置など幅広い。こ うした図書館員の仕事をツアー形式で紹介し、利用者とより深い関係性を生み出 すのが「図書館ツアー」である。 「館長懇談会」は、利用者と館長が懇談会を行い、より良い図書館の在り方を模 索するための対話の場である。館長は、図書館自体の意思決定において、非常に 重要な存在である。利用者が図書館への思いや要望を、直接、館長に伝えられる ことは、市民とともにつくる図書館の姿勢につながるだろう。 ▶定義・意義 「図書館ツアー」は利用者教育の一環として行われることが多いが、広報の一環 としても行われることもある。大学図書館では利用者教育を目的とし、公共図書 館では広報を目的としていることが多い。利用者に 図書館員の仕事を知っても らうことによって、図書館の活用方法に対する理解を深めてもらうことを目指し ている。 「館長懇談会」は、利用者が館長とテーブルを囲む場をつくることが第一義と なる。そもそも図書館法には「図書館の運営に関し館長の諮問に応ずるとともに、 図書館の行う図書館奉仕につき、館長に対して意見を述べる機関」である「図書 館協議会」の設置を認めているが、委員としては「学校教育及び社会教育の関係 者並びに学識経験のある者の中から、教育委員会が任命する」としており、不特 定多数の利用者が館長と協議を行うことのできる場の設置については、図書館法 では触れられていない。つまり、館長が利用者の意見を聞くことのできる環境が 法的にも少なくなっており、それが市民と図書館の現在の関係性を形づくってし まっているともいえるだろう。したがってこのような場を自主的に補い、その関 図書館ツアー(図書館見学)、館長懇談会 図 く市館 と書 民 を つ た め にる
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    91本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 係性を生み出すことは 非常に意義深い。   ▶コンテンツ 「図書館ツアー」と聞くと、複数の図書館の巡り歩きを思い浮かべるのではない だろうか。実際はそうではなく、単独の図書館を対象とする場合が多い。 ツアーをするのは、利用者がふだんから利用している開架だけではなく、入る ことのできない閉架や、利用者が目に触れることのないバックッヤードでの仕事 など、図書館の舞台裏も歩き見学することが重要である。 「館長懇談会」では、館長と利用者がフランクに話し合える場づくりを行うこ とが大切である。図書館は懇談会の日時を決めて、「ご意見があれば、この機会に ぜひ語らいましょう」と市民に懇談会を呼びかけることで周知する。開催日に集 まった利用者と館長とで、意見交換を行う。 ▶ノウハウとポイント ◎「図書館ツアー」はイベントとして開催されるほか、小中学校などの団体利用 希望者に対しては、随時見学会を行っている図書館も多い。 ◎閉架や事務室など、利用者が普段は入れない場所を案内することも重要だが、 利用しなれた開架部分でも、特色的なスペースやサービスを図書館員が丁寧に説 明をし、新しい発見を与えながら見学してもらうことに価値がある。 ◎「図書館ツアー」は図書館をよりよく理解してもらうための広報活動の一環で もあるため、インストラクターをつとめる図書館員は、ツアーで得た利用者の反 応を運営にフィードバックすることが好ましい。図書館員にとって日常的なサー ビスでも、利用者にとっては貴重ゆえに希望や提案などがあった場合、そのサー ビスをより分かりやすく打ち出していくなどの工夫として今後に生かしていくと よいだろう。 ◎「図書館ツアー」に、POPづくりや特集づくり、本の補修、ブックコーティング などのワークショップを加えるのも、利用者を巻き込む工夫として好ましい。
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    92 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ◎「館長懇談会」を行う前に、図書館の説明をパネルで展示したり、リーフレット を配布したり、図書館ツアーを行うなどして、利用者に図書館の取り組みを理解 してもらってから、懇談会を行うと有意義な時間になることが多い。こうするこ とで、「ベストセラーや話題書が、常に予約でいっぱいで借りられない。どうにか してくれないか?」といった、図書館の運営にとってやや本質的ではないクレー ムを事前に抑止し、生産的な対話を促すことが可能になるからだ。 ◎伊万里市民図書館(佐賀県伊万里市)や田原市中央図書館(愛知県田原市)のよ うに、館長室をガラス張りにして、館長の仕事ぶりを利用者にいつでも見えるよ うにし、館長といつでも話ができるようにしている事例もある。 ◎「館長懇談会」を行うのが難しい場合は、日常の仕事において図書館員が利用 者から要望を受けた際にきちんと説明をし、館長にも意見を求めるようにするこ とを、館内で徹底させるといった姿勢に代えてもよいだろう。利用者が図書館と 対話できるような雰囲気をつくることが重要なのである。
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    93本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 神奈川県立図書館では「図書館大公開」と題して、全 5 回、4 つのテーマで図書 館ツアーを行っている。テーマは以下の通りだ。  ◎全館ツアー&お宝紹介(2回実施) ◎本が棚に並ぶまで  ◎本を保存するために       ◎図書館ネットワークの舞台裏 これらは、県民に図書館をより身近に親しんでもらうこと、図書館を今以上に 利用してもらうことを主眼として、図書館員自らが講師として開催している。 普段は入れない書庫を見学し、貴重な資料群の存在を知ったり、選書や図書館 ネットワークの現場を見学したり、本を保存するための作業を体験するなど、全 5 回のツアーそれぞれに違うコンテンツを提供することで、1 度では見切れない 図書館における内外の活動をより深く理解したり、リピーターを促す工夫をして いる。 また同館では過去に、指定された回すべてに参加することを条件とした意見交 換会も開催している。これは、図書館見学などの説明を受けて、より深く図書館 の活動を理解してもらったうえで、図書館をよりよくしていくための意見を利用 者から引き出すための試みとして、評価できるだろう。 提供:神奈川県立図書館 図書館ツアーの図書館事例 神奈川県立図書館(神奈川県横浜市) ■神奈川県立図書館 神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘 9-2 http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/ Tel: 045-263-5900(代表)
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    94 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ■新宿区立北新宿図書館 東京都新宿区北新宿 3-20-2 http://www.city.shinjuku.lg.jp/library/ Tel:03-3365-4755 提供:新宿区立北新宿図書館 新宿区立北新宿図書館は、「図書館と話そう」と題した図書館員と利用者の対話 の場を設けた。2013 年 7 月に実施した際は 1 日限りのイベントであったが、以降、 定期的な開催を予定している。 イベントでは、同館の蔵書数や統計、アンケート結果、図書館クイズや図書館 をテーマにした図書の展示などを紹介するコーナーを学習館の一室につくり、そ こに常駐する館長や図書館員は、開催時間中、いつでも利用者との対話に向き 合った。ただし、対話を強制することはなく、展示だけに興味がある場合は、展示 を見るだけで十分に楽しめる環境を用意した。 このコーナーは地域の人や利用者の声を聞くために、「館長懇談会」よりも気楽 な会を開催したいという同館のスタッフの思いのもとに企画されたという。その ため出入りも自由で、気軽に入れる雰囲気の空間がつくられた。その結果、利用 者自身も普段は気づかなかったような思いを図書館員に伝えることができたり、 参加者同士の交流が生まれるなどの場となっている。 館長懇談会の図書館事例 新宿区立北新宿図書館(東京都新宿区)
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    95本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ■田原市中央図書館 愛知県田原市田原町汐見 5 http://www.city.tahara.aichi.jp/section/library/ Tel:0531-23-4946 Fax: 0531-23-4646 提供:田原市中央図書館 田原市中央図書館の館長室は壁がガラス張りになっており、館長の仕事ぶりを 利用者はいつでも閲覧室から見ることができる。こうすることで、図書館の仕事 がより理解されやすい仕組みとなっている。また、館長室の入口には「どなたで も気楽にお入りください」という貼紙があり、利用者がいつでも館長室に入って こられるよう周知もしている。 館長の仕事を文字通り可視化し、出入り自由なオープンな環境を用意すること で、館長と利用者の対話も促す。このような取り組みが、利用者と図書館をより 身近なものにしているのである。 館長懇談会の図書館事例 田原市中央図書館(愛知県田原市)
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    96 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 「図書館福袋」は、いろいろな本をまとめて袋に詰め、それをそのまま利用者に 貸す、基本の手法はこれだけである。非常にシンプルでポピュラーな手法であり、 簡単に取り組める。なにより利用者からも厚い人気を獲得している。全国の図書 館が導入を検討してもいいかもしれない。ここでは「図書館福袋」を実施してい る具体的な事例を中心に取り上げ、なぜこれほどまでに人気を集めているのかを まとめて紹介したい。   蔵王町立図書館/宮城県蔵王町 撮影:岡本真 図書館福袋 本 す険会の をと るい 出 冒
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    97本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ▶歴史 1998 年から実施している東松島市図書館(宮城県東松島市)が起源とされてい る。2010 年に宝塚市立西図書館(兵庫県宝塚市)が実施して話題となり「図書館 福袋」の存在は周知されたが、同館から普及をしていったというよりは、同時多 発的に実施されてきたのが実情だろう。 ▶定義・意義 「福袋」というと、機能的な印象を受けないかもしれないが、利用者が本を選ぶ のではなく、図書館員がセットした本を届けることで、利用者の読書の幅を広げ たり、未知なる本との出会いを演出するという側面において、非常に効果的な試 みである。 多くの場合、興味のままに本を選ぶと、自分が好きなジャンルに偏りが生じる。 新しいジャンルに冒険するのはなかなか難しいものだ。そこである緩やかなテー マのもとに、図書館員がお薦めの本を選んで提供する行為が重要になってくる。 それは多くの場合、特集コーナーにおける図書の展示というかたちで、実現され ている。しかし、このような特集コーナーからの選書も、最終的には利用者が本 を選ぶため、完全には冒険ができない。本を選ぶ行為に冒険的要素を取り入れる ため、テーマでセットされた本が見えない状態になった「福袋」が有効なのである。 図書館側としても、利用者の手に取られづらいお薦めの本を届けることができ る。動きの鈍い資料群を動かしながら、利用者へのサプライズにつなげるのが「図 書館福袋」の定義であり、意義ともいえる。 ▶コンテンツ 「図書館福袋」は文字通り「福袋」である。内容が見えないようにした袋の中に、 本を 1 冊から数冊入れておき、袋ごと貸し出す。まったく中身がわからないもの もあれば、ヒントとなるような言葉を書いたものもある。 ▶ノウハウとポイント ◎開けてみる楽しみを演出するために、あらかじめ複数冊をセットにして、中が 見えない袋に入れる。セットにする冊数は、貸出可能冊数を考慮して決めるとい い。複数冊であることは必須ではなく、1冊から 5冊程度が妥当だろう。
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    98 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ◎年末年始の新春イベントや読書週間において、子どもを対象として行うものが 多いが、特にこだわる必要はない。東松島市図書館では常時行っている。 ◎対象年齢、ジャンルによって袋を分けている図書館もある。中身が全く推測で きないと手に取りづらいが、対象年齢やジャンルが分かれば、興味を持ち、手に 取りやすい。ジャンルの分け方は、「ミステリー」や「紀行文」などの大カテゴリー で分けてもよいが、もっと直観的に「泣ける本」「怖い本」「ちょっと笑いたい時に」 など、選者の個性が透けて見えるような分け方も好感が持て、利用者の興味を引 きやすい。 ◎収蔵期限の過ぎた英字新聞でくるむことによって、袋代のコストを抑えている 宝塚市立西図書館のようなところもある一方で、東松島市図書館のように、繰り 返し使用可能な専用のナイロンバッグを利用しているところもある。 ◎名称は「図書館福袋」にこだわる必要はない。むしろどう言い換えるかを模索 することで、新しい手法として確立できるだろう。過去には、東松島市図書館の ように、「おたのしみ袋」としていた例もある。実施時期や内容で考慮して、ふさ わしい名称をつけたい。 ◎宝塚市立西図書館では、福袋を開けずに貸出手続きを行えるように、袋に入っ た資料のバーコードと同じものを打ち出して、袋の裏側に貼りつけるという工夫 をしている。また、資料を ICタグで管理している図書館の場合、自動貸出機を通 してしまうと、書名がわかってしまうため、袋を開けるまで書名を知りたくない 利用者には、自動貸出機だと書名がわかる旨を伝え、カウンターでの貸出を促す 必要がある。 ◎「福袋」という言葉から、利用者によっては本をもらえるものだと勘違いして しまうこともあるかもしれない。したがって、福袋も貸出であること、返却しな ければならないことを明示しておくことも重要である。また、返却時に袋を返す 必要があるかどうかなど、返却方法についても利用者に知らせる必要がある。
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    99本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 東松島市図書館は「図書館福袋」の元祖だとされており、1998 年から実施され ている。当初は、読書週間などに合わせて「おたのしみ袋」として実施されていた が、2008 年より縁起を担いで名称を「絵本福袋」に改め、通年実施とした。 内容は絵本の 5 冊セットである。「たくさんあって選ぶのが大変」「同じような ものばかり選んでしまう」といった利用者の声に応えるために、お薦めの絵本を セットにしている。セット内容は基本的には「お楽しみ」であるが、定番の絵本 やちょっと手に取りづらい科学絵本、読み手にとっては分かりづらい擬態語・擬 声語が入っている絵本などを交える狙いもある。また、誰でも知っているポピュ ラーなものを入れることで、安心感を誘っている。 ■東松島市図書館 宮城県東松島市矢本字大溜 1-1 http://www.lib-city-hm.jp/ Tel:0225-82-1120 Fax:0225-82-1121 図書館事例 東松島市図書館(宮城県東松島市) 撮影:嶋田綾子
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    100 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 共通の本を読んで集まり、みんなでディスカッションするというお馴染みの 「読書会」だが、現在ではその工夫も実にさまざまだ。「知的書評合戦」とも呼ばれ るゲーム感覚の「ビブリオバトル」も、多くの図書館で導入されている。 日頃か ら読書会を行っている図書館も多い。ここでは、定番の「読書会」を面白くするス パイスを紹介する。 ▶歴史 「読書会」は、図書館で古くから行われている読書の取り組みであり、最古参と いっても過言ではない。 「ビブリオバトル」は、京都大学情報学研究科共生システム論研究室(当時)の 谷口忠大さんらが 2007 年に生み出した本の紹介コミュニケーションゲームであ る。公共図書館では、2011 年 3 月に奈良県立図書情報館(奈良県奈良市)で開催 されたのが最初である。その後、図書館関係者が多く集まる第 14 回図書館総合 展(2011 年 11 月)のランチタイムセッションで実施されたほか、くまもと森都心 プラザ図書館(熊本県熊本市)や堺市立中央図書館(大阪府堺市)などでも開催さ れ、全国の図書館に普及した。 ▶定義 「読書会」では、事前に読む本を決め、全員が読んでくることが多い。読書会当 日は、読んだ本に対して、意見や感想を交換し、理解を深める。事前に読む人を決 め、当日は読んだ人が概要を発表し、ほかの人は意見や感想を言うという「輪読 会」のスタイルをとることもある。ほかにも、共通の本を読まず、それぞれが読ん だ本を持ち寄り、感想や概要を話して、ほかの参加者と議論するなどあり、その スタイルに厳密な定義はない。 「ビブリオバトル」は 4 つの公式ルールに則て行う、書評ゲームである。公式 ルールは後述する。書店やカフェ、図書館などに数人が集まって行う場合や、イ 読書会、ビブリオバトル 進 現読す 会化 書 る 在 の
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    101本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ベント仕立てにして実施するなど、規模はさまざまである。 ▶意義 オーソドックスな「読書会」においても、「ビブリオバトル」においても、その意 義は、読んでみたい本を利用者に見つけてもらうことのほかに、本をきっかけに したコミュニケーションの場の育成である。このような意義は、図書館と親和性 が高いといえるだろう。 まず、たくさんの本がある図書館という場所で読書会や「ビブリオバトル」を 行うことで、資料選定などの面で相乗効果が出ることは間違いない。そして多く の場合、自分たちが面白いと思った本を持ち寄って良いことから、図書館にはな い本を利用者と図書館に紹介されるきっかけにもなる。もちろん、図書館に所蔵 されている本であれば、図書館の利用促進にもつながる。 過去に行った「読書会」や「ビブリオバトル」で紹介した「注目の本」を集める だけで、特集コーナーに展示することができるなど、図書館に蓄積できるアーカ イブをつくれる点も好ましい。なによりも利用者同士の交流が促される。まさに 図書館にとって恰好のイベントであると言えるだろう。 ▶コンテンツ 日本最大級の読書会コミュニティ「猫町倶楽部」による 100 人規模の「読書会」 や、都内のカフェにおける「読書会」の開催が目立つようになったことを受けてか、 近頃では図書館で開かれる「読書会」も「オープン性に対する意識の高まり」が進 行しているようだ。 たとえば「読書会」で使われた本を、そのコミュニティだけで閉じないように するために、本の展示を図書館内でするのである。こうすることで「読書会」の存 在を知らない人でも気になる本を展示で知り、それがきっかけとなり「読書会」 というコミュニティを知り、参加してみるというオープンな流れが生まれる。 また、子どもたちだけの「読書会」を組織している図書館もある。参加者を ティーンズに限定してセッティングすることで、「おはなし会」は卒業したものの 「大人の読書会」には入りづらい若い世代の利用も促しているのだ。 「ビブリオバトル」については、「知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト」に 公式ルールが掲載されているので、そのまま引用する。
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    102 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 1.発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。 2.順番に一人 5分間で本を紹介する。 3.それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを 2 ∼  3分行う。 4.全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした  投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする。 2007 年に関西で生まれたビブリオバトルは、ルールが分かりやすく、誰でも気 軽に取り組めるため、大学の研究室や書店などで行われるほか、図書館へも広が りを見せている。 ▶ノウハウとポイント 図書館で開催している「読書会」でも、主催者はさまざまである。図書館が主催 するものはもちろん、図書館を拠点としたボランティアグループが開催するもの もある。 ◎「読書会」の告知は、図書館サイトや自治体の広報誌を使って行われることが 多い。一部の図書館では、Facebookなどのソーシャルメディアを使ってコミュニ ティを形成している。また図書館を拠点としつつも、オープンな「読書会」として 独自に活動しているグループでは、自分たちのサイトやソーシャルメディアを活 用し、広く仲間や参加者を募る例もある。 ◎参加者全員が同じ本を読んでいることが前提となるため、図書館によっては読 書会用に、同じ本を複数冊そろえた読書会セットを用意しているとこともある。 分館や県内の図書館ネットワークを活用し、読書会用の資料を揃えるサポートを 行っている図書館も多い。 ◎甲府市立図書館のように、読書会で使われた本を図書館で展示することで、と きとして閉鎖的になりかねない読書会をオープンなものにし、ほかの利用者にも 推薦図書として紹介する機会にすることもできる。 「読書会」でもいえることだが、「ビブリオバトル」ではプレゼンテーションが
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    103本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 白熱し、ほかの利用者の迷惑になることも考えられるため、個室で行われること が多い。東京都立中央図書館(東京都港区)では「ビブリオバトル」専用の部屋を つくり、利用者に提供している。専用の部屋をつくるのが難しい場合は、会議室 などの空き時間を利用して時間貸しするのも効果的である。しかし、個室で行う と、閉鎖的になりがちなので、できる限りオープンなスペースでの開催が、多く の参加者を巻き込む仕掛けとしても望ましい。また閲覧室での開催が難しい場合 でも、エントランスやロビーなど、人通りがあり、多少ざわついても問題のない 場所で開催すれば、オープン性が保てるとともに騒音の問題も解決できるだろう。 ◎「ビブリオバトル」を運営するコミュニティを、利用者が自主的につくってい くように促すことで、図書館側としても負担が軽減される。「ビブリオバトル」は 利用者が運営するコミュニティが多く、「⃝⃝図書館ビブリオバトル部」といった ものが多く存在する。場所の提供をすることで、コミュニティが自然に醸成され るケースがあることを念頭に置いておくとよい。 ■参考文献 ・知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト https://sites.google.com/site/bibliobattle/ ・谷口忠大『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』(文藝春秋、2013年) ・ビブリオバトル普及委員会編著『ビブリオバトル入門 本を通して人を知る・人を通 して本を知る』(情報科学技術協会、2013年)
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    104 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 甲府市立図書館では、1973 年から市民の「読書会」を運営している。また、同館 の「読書会」を歴史あるものとして、「読書会」で紹介された本の展示を図書館内 で積極的に行っている。展示を見た利用者が、興味をもって参加するケースも多 く、「読書会」の活動を PR することにもつながっている。 歴史ある「読書会」が 選んだ本には説得力もあり、自分で本を選ぶ際の手がかりにもなるだろう。「読書 会」を会員のコミュニティだけの楽しみにするのではなく、その成果を市民に還 元している好例であるといえる。 ■甲府市立図書館 山梨県甲府市城東 1-12-33 http://libnet.city.kofu.yamanashi.jp/lib/ Tel: 055-235-1427 Fax: 055-227-6766 撮影:岡本真 読書会の図書館事例 甲府市立図書館(山梨県甲府市)
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    105本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 堺市立中央図書館では、「ビブリオバトル」を開催するだけではなく、ウェブサ イト「知的書評合戦『ビブリオバトル』in さかい 堺市立図書館」(http://www.lib- sakai.jp/bibliobattle/)に、それぞれのテーマと紹介された本が一覧できるように アーカイブしている。「ビブリオバトル」を図書館が提供するコンテンツに役立て る好例である。 また、同館の「ビブリオバトル」には工夫があり、発表者が当日紹介した本の書 誌情報などを記載した「コミュニケーションカード」を発行し、参加者同士がコ ミュニケーションをするきっかけづくりとしている。 ■堺市立中央図書館 大阪府堺市堺区大仙中町 18-1 http://www.lib-sakai.jp/ Tel: 072-244-3811 Fax: 072-244-3321 提供:堺市立中央図書館 ビブリオバトルの図書館事例 堺市立中央図書館(大阪府堺市)
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    106 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 書店などでよく見かける「POP」は、本を紹介する手段としてポピュラーであ る。図書館員自らがおすすめの本を紹介するのに使用している事例は事欠かない が、利用者参加型の取り組みとしても、いくつか事例がある。 また私たちが読書する際に馴染みが深い「しおり」もまた、図書館でもよく使 われるグッズである。しおりは本の PR 素材というよりは、返却期限など図書館 からのお知らせを利用者に伝えるために使われるものが多い。その一方で、しお りを本の紹介や、利用者をつなぐコミュニケーションの手段としている図書館も ある。その取り組みの一事例として「kumori」を紹介する。 ▶歴史 「POP」が書店でいつ使われるようになったかは定かではない。また、図書館で 使われるようになったのもいつからか定かではない。しかし、本を紹介する手段 として、手軽に作成できることもあって、多くの図書館で実践されている。 しおりの歴史は、非常に古い。古くは、『枕草子』にも用例がみられる。「kumori」 は、2009 年に千葉大学附属図書館で始まったのが最初である。現在では、公共図 書館や学校図書館など、9 館で配布されている。 ▶定義・意義 書名や著者名、内容・おすすめのポイントなどを、大きめのカードに書き、本 とともに掲示するのが「POP」だ。本を開かなくてもおすすめのポイントがわかり、 本が手に取られやすくなる。 図書館員が作成するのではなく、利用者に作成してもらう事例もあり、その場 合、利用者の図書館への参加意識を高められる。 図書館員が紹介するにしても、利用者が紹介するにしても、紹介者の顔がうか がい知れる個性的な内容・体裁であると、本に対してもより親しみが持てる。 「kumori」の基本形態は、デザイナーの渡辺ゆきのさんによって作成されたしお 参加型POPづくり、参加型しおりkumori 利 な「好者 で用 き」 の つ が る
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    107本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 りが中心となる。図書館は、kumori の募集と配布を担う。 kumori とは、表面に伝えたいメッセージが記載され、裏側には本の紹介文と作 品情報、その作品が読める場所(図書館の所蔵情報や Web サイトなど)が記載さ れているしおりである。kumori に記載する情報は公募で集められ、渡辺ゆきのさ んによってデザイン、制作される。できあがった kumori は、応募した人に届けら れるほか、図書館でも配布される。 利用者が本を紹介することで、図書館の活動に利用者が参加できる。また本の 紹介情報だけではなく、紹介者のメッセージが載ることで、本を通じたコミュニ ケーションがより身近なものに感じられるだろう。 ▶コンテンツ 本を紹介するはがき大のカードを作成し、本とともに展示するのが「POP」で ある。カードを作成するのは図書館員のことが多いが、利用者が作成しても面白 い。また、POP だけを展示することもある。また、たくさんの POP を一度に飾っ て、POP を作品として展示することもある。 デザイナーの渡辺ゆきのさんが作成したしおりを「kumori」という。本の紹介と、 紹介者のメッセージを掲載した kumori は、本を知るきっかけになるのはもちろん、 紹介者の人となりを知ることにもつながる。図書館では、kumori の配布と募集を 行う。配布場所は kumori のデザインに合わせて、装飾することもある。 ▶ノウハウとポイント ◎手書きで気楽に作成できるのが、POPの魅力である。しかし、特別寄稿の内沼 晋太郎さんの弁にあったが、手書きのPOPを多用するのは良し悪しがある。図書 館の雰囲気を見極めて、紙や書体を統一したり、色遣いに気をつかったりなどし て、使いこなしたい。 ◎ POPは、本を紹介するためにつくる。そのため本の題名や著者名、内容などを わかりやすく、コンパクトにまとめて書くことが重要である。目を引く色使いや、 イラストの活用も重要である。 ◎ POPに使う用紙は、市販の画用紙など厚手のものを使うといい。大きさはハガ キ大のものが適当なところだろう。もし図書館に使わなくなった目録カードの未
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    108 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 使用品があれば、それを利用するのも図書館ならではで効果的だろう。 ◎図書館事例でも紹介しているが、図書館員が作成するのではなく、利用者にお すすめの本の POPを作成してもらうと、利用者の参加意識も高められ、コミュニ ケーションのきっかけにもなる。 ◎図書館の本は、基本的には 1冊しかないため、せっかく POPをつくって紹介し ても、それが借りられてしまうと、POPで紹介している本を手にすることができ ない。このため、本が貸し出されていても、利用につなげられる工夫や、本がな くならない工夫が必要である。たとえば POPで紹介した本が貸出中の場合、本が あったところに「貸出中」という表示が現れるような工夫ができる。ただ単純に 「貸出中」と表示するだけではなく、予約を促すような文言を付け加えれば、予約 サービスの周知にもつながる。ほかにも貸出をしていない本にPOPをつけるとい うことも考慮できるだろう。貸出をしていない本とは、調べものに使うレファレ ンスブックや地域資料などである。POPは図書館内で利用する有用な資料を紹介 するのにもひと役買うのである。 ◎ kumoriは、デザイナーの渡辺ゆきのさんが実践している取り組みのため、図書 館で行う場合、本人にコンタクトを取る必要がある。連絡先は、公式サイトを参 照されたい(公式サイト:http://kumori.info/)。 ◎図書館で実践する際の基本形は、kumoriの募集と配布となるが、新宿区立北新 宿図書館(東京都新宿区)のように、過去に配布したkumoriを1部ずつ残しておき、 ファイリングしておくと、さまざま本やメッセージに出会うことができる。また、 実施場所のディスプレイも、図書館の工夫のしどころだ。 ◎図書館で作成するしおりもまた、工夫の余地がある。秋田市立新屋図書館(秋 田県秋田市)や大津市立図書館(滋賀県大津市)のように、公募で集めた子ども たちの絵をしおりに印刷して、図書館が配る貸出票に彩りを添えることができる。 地元企業の広告を掲載することで、地元情報の紹介を行うのと同時に広告収入を 得られるなど、利用者が手に取りやすい媒体だからこそできる工夫がたくさんあ るだろう。
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    109本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 島根県立図書館/島根県松江市 撮影:岡本真 秋田市立新屋図書館/秋田県秋田市 撮影:岡本真  
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    110 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 撮影:嶋田綾子 山武市立図書館では POP のコンクール「私のイチオシ本」を毎年行っている。 毎年、7 月から 10 月にかけて作品を公募し、優秀作品の発表を翌 2 月頃に、館内 での展示、Web サイトへの掲載を通して行っている。コンクール実施初年度には、 POP 書きで有名な書店員を講師に、POP 書きを体験する講座を開催した。 館内に用意されている用紙、または規定のサイズの用紙にポップを書き、「私の イチオシ本 応募用紙」として応募している。紹介する本は、図書館が所蔵して いる本に限定している。受賞作品は図書館サイトに掲載されるほか、図書館内で の展示、市の広報誌への掲載が行われている。 POP の図書館事例 山武市立図書館(千葉県山武市) ■山武市立図書館 千葉県山武市埴谷 1904-5 http://lib.city.sammu.lg.jp/ Tel: 0475-80-9101 ※連絡先は、企画中心館である山武市立さんぶの森図書館を掲載した。
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    111本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ■新宿区立北新宿図書館 東京都新宿区北新宿 3-20-2 http://www.city.shinjuku.lg.jp/library/ Tel: 03-3365-4755 提供:新宿区立北新宿図書館 新宿区立北新宿図書館では、2011 年 7 月 7 日から kumori の配布と応募の募集 を実施している。 これまでに同館で配った kumori は、約 100 種類 3200 枚である。そのうち同館 からの応募で作成されたものは、15 作品である。作成された kumori の応募者へ の受け渡しは、図書館内のおはなし室で行っており、その際、渡辺ゆきのさんと 応募者が面会し、お話ができるようにしている。 また、小学校への出前図書館講座で kumori のつくり方を紹介をするなど、積極 的なサポートも行っている。講座終了後、小学校に kumori ポスト(kumori 応募用 のポスト)を設置し、子どもたちが kumori に参加できるようなフォローも行って いる。 kumori の図書館事例 新宿区立北新宿図書館(東京都新宿区)
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    112 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 私たちは普段から、科学を使って生きている。たとえば、何気なく使っている 携帯電話の地図アプリやカーナビゲーションシステムなどに使われている GPS も、相対性理論なしには成立しない。私たちの生活は、歴史が培ってきた科学の 遺産の上に成り立っているのである。もちろんそんなことを知らなくても、生き ていくのになんの支障もないだろう。でも、日常と科学の結びつきを知ることは、 知的好奇心を充足させもするし、生活における危機を回避する知恵にもなる。そ のきっかけを提供するのが、図書館が研究者を招いて開催する講演会「サイエン スカフェ」や「ライブラリーカフェ」である。 また、ふだん私たちは、作品を通じて作家が生み出す世界に出会っているが、 その作家自身に会ってみることで、作品への理解が深まったり、新しい印象を受 けることがある。このような、作者との出会いを通じた新しい発見を提供するの が、「作家の講演会」である。 ▶歴史・定義 最近、図書館でよく行われる「サイエンスカフェ」や「ライブラリーカフェ」は、 「サイエンス・コミュニケーション」という考え方を取り入れたもので、日本では 2004 年に京都市で開催されたのが始まりといわれている。 一般的に「サイエンス・コミュニケーション」とは、科学者が一般市民と対話 することによって、研究を通して培った科学的知識や実績を共有する目的を持つ。 科学について一般市民と対話できる場さえ生まれていれば、主催・会場が図 書館に限らずとも「サイエンスカフェ」と呼んでさしつかえない。「サイエンスカ フェ」が「講演会」や「シンポジウム」と異なるのは、講堂などの大規模な会場で 講演者が一方的に講演するのではなく、カフェなどの小規模な会場で、コーヒー を飲みながら、参加者と著者が気軽に語り合う場として開催されることだ。現在、 図書館で開催されているものは、大学や科学館で行われている「サイエンスカ フェ」を、親和性の高い図書館に持ち込んだものであるともいえる。 サイエンスカフェ、ライブラリーカフェ、 作家の講演会 資 げ話を つ料 で 対 な
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    113本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 「作家の講演会」は、新進の「サイエンスカフェ」や「ライブラリーカフェ」に比べ、 古くから全国各地で行われている。図書館の定番イベントとして、単発で行われ ることが多く、その多くは読書週間や開館記念日に集中する。 ▶意義  「レクチャー」や「議論」、「講演」と同じく、その関連図書を図書館の蔵書から選 書し、展示できることが、図書館における「サイエンスカフェ」や「ライブラリー カフェ」、「作家の講演会」の強みである。特定の研究成果や、それに派生する研究 が現在どのような評価を受けているかを、過去の新聞記事から振り返ることもで きるだろうし、家庭では用意しにくい大判の図鑑資料なども豊富に展示すること が可能な場合もある。 図書館としては、普段使われていない図書資料の利用を促すことができる。利 用者にとっては、ただ講演を聞きに来て興味関心の扉を開くだけではなく、議論 に参加し、図書資料を使って、その世界の扉の奥に入っていくことができる。そ の役割を図書館が果たせることは非常に意義深いことである。 普段は本を読むことだけで得ていた知識を、実際に研究・実践しているゲス トから知識を得ることができる。また、一方的に知識を得るだけではなく、議論 や対話の場が設けられることで、双方向的に学びを深めることができる。さらに、 リアルな対話の場で得た知識を、資料に立ち返って深めるという、知識の循環が 起こるのである。 また、社会問題化しているテーマを扱って、市民に高度な学問知を共有する場 としても役立てることができる。たとえば現在日本では、福島第一原発の事故に 伴う放射能汚染の問題が深刻化している。しかし、多くの人にとって専門的な知 識を学んでいない限り、この問題に対して主体的に関わることは困難だ。そこで、 図書館側から大学にアプローチし、学者の講演会を開催することで、市民と学問 知の橋渡しをするのである。 図書だけが「知」のかたちではなく、時代に即応し、最適なかたちで市民と「知」 をつなぐのも図書館の大きな仕事だろう。 ▶コンテンツ 講演者の人選によって、図書館での「サイエンスカフェ」や「ライブラリーカ
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    114 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 フェ」、「作家の講演会」の特徴を出すことができる。 たとえば、図書館がある地域の大学の研究者や、実務者、帰省している著名人・ 作家など、地域ゆかりの方を中心に招いて開催することで、地域の特性を演出す ることが可能になり、図書館の付加価値向上にも寄与する。利用者からすると、 自分の地域にどんな研究を行っている人がいるのか、同じ地域に暮らす作家の存 在が分かり、その図書館がどんなテーマに秀でているのかを知るための窓口にな るからだ。 あるいは人気の新刊や、科学賞の受賞者にちなんだものをテーマにし、関連す る人物に来てもらうなど、話題性を中心として講演者を選ぶ方法も考えられる。 ▶ノウハウとポイント ◎「サイエンスカフェ」「ライブラリーカフェ」を行う際に研修室や会議室などを 用意できない場合、つまり館内の閲覧スペースなどを仕切って開催する場合、開 催内容の告知は十分に行われる必要がある。もちろん参加希望者に周知すること が第一だが、参加を希望しない一般利用者の利用を妨げないためにも大切なこと である。 ◎閲覧スペースなどオープンなスペースで開催することで、誰もが気楽に参加し やすいイベントにすることもできる。「サイエンスカフェ」では、「カフェ」と付く ように、誰もが気楽にいつでも参加可能、退出可能ということを目指しているた め、音の問題が解決できるのであれば、オープンスペースでの開催は趣旨に合致 する。 ◎地域連携の仕組みとして、地域の人的リソースを活用することは重要である。 それは、ゲストに限らず、運営側も同様である。カフェの運営、ゲストの選定など に、地域のリソースを活用することで、地域活性化につながる。 ◎また、「サイエンスカフェ」には、日本学術会議の支援制度もあるので、それを 活用するのも一つの手である。日本学術会議では、「サイエンスカフェ」の開催に あたって講師リストの提供や、必要に応じて謝金などの支援も行っている。 ◎「作家の講演会」を行う際、講演を依頼することが難しいような著名な作家で
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    115本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 も、自分の生まれ育った地域にある図書館からの打診であれば、比較的好意的だ ろう。メジャーな作家であれば集客にもつながる。知名度の高さで諦めるのでは なく、チャレンジして損はないだろう。 ◎「サイエンスカフェ」「ライブラリーカフェ」「作家の講演会」ともに、謝礼につ いてはできる範囲内で用意することが望ましいが、登壇者がもともと発表の場を 求めている場合もあるため、金銭的な謝礼だけが全てではないことを念頭に置い ておくとよい。たとえば地域にある単館映画館に作品の監督がトークショーなど で全国行脚している場合、登壇を依頼することは、好機として受け取られる場合 もある。映画に関連した図書館資料を多彩に取り揃えることもアピールポイント になるだろう。 ◎新刊の PRで全国行脚をしている作家を、出版社を通じて紹介してもらうのも 手である。発表機会の提供そのものが謝礼になることも含め、提案段階で双方の 利害関係を整理し、取り決めをしておくことで経費削減や良好な関係を保つこと にもつながるだろう。
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    116 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ■鯖江市図書館「文化の館」 福井県鯖江市水落町 2-25-28 http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=458 Tel:0778-52-0089 Fax:0778-52-2948 E-mail:s-lib@si.ttn.ne.jp 撮影:岡本真 鯖江市図書館では、図書館の喫茶室で「さばえライブラリーカフェ」を毎月開催 している。2005 年に始まりすでに 100 回を数え、地元にも定着し、福井大学の研究 者や地元の実務家など多数の講師を招聘している。また、福井県立大学との連携事 業の一環としても開催している。定期的に開催していることから、集客も一定層が 期待でき、この図書館の「ライブラリーカフェ」で話すことが、研究者や実務者の ステータスにもなっている。参加者は、常連の利用者も一定数存在するが、聞きた いテーマがあるから足を運ぶ利用者も定着している。 また、図書館員が独自に開催するのではなく、さばえ図書館友の会と協働して、 実行委員会を組織して運営している。集い議論のできるサロンが欲しい市民と、市 民の活動の活性化を願う図書館員、研究の成果を世の中に伝えたい研究者の 3 者が 協力することで成功している事例である。 図書館の資料を使って一人で学ぶのではなく、研究者の講義をただ聞くだけで もない。コーヒーを飲みながら、研究者と市民がともに議論するサロン的な活動が、 「さばえライブラリーカフェ」なのである。 事前申込みは不要とし、参加費は 500 円である。コーヒーとケーキがついて、な ごやかな雰囲気のなかで議論が行えるように配慮されている。 図書館事例 鯖江市図書館「文化の館」(福井県鯖江市)
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    117本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ■横浜市中央図書館 神奈川県横浜市西区老松町 1 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/ Tel: 045-262-0050 Fax: 045-262-0052 撮影:嶋田綾子 横浜市中央図書館では、科学、環境、生物などのテーマで、幅広い世代を対象に、 生涯学習の場として「サイエンスカフェ」を開催してきた。2012 年度からは、人文 科学、社会科学にも分野を広げ、「ヨコハマライブラリーカフェ」として生まれ変 わっている。 「ヨコハマライブラリーカフェ」では最先端で活躍する研究者と、「研究は難しそ うだけど、わからないことを聞いてみたい」と考えている人たちが、気軽に話し合 うことのできる場を目指している。毎回、さまざまな学術分野の最先端で活躍する ゲストが、質の高い研究成果をやさしい言葉で解説し、司書が厳選した同館所蔵の 豊富な資料が紹介される。大学の研究者だけではなく、地域で活躍する実務家もゲ ストとして講演している。地域に存在する知識を、市民へと伝えているのだ。 また、「ヨコハマライブラリーカフェ」には横浜市内で事業を展開する「株式会社 リタトレーディング」が協賛しており、横浜入港のフェアトレード紅茶がサービス される。環境への取り組みとして、マイカップ持参が推奨されている。地場産業を 知る窓口を、ドリンクの無料サービスとともに提供している点が秀逸だ。 図書館事例 横浜市中央図書館(神奈川県横浜市)
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    118 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 地域の資料を集め、市民が利用しやすい状態に保っておくことは図書館の重要 な機能の一つである。とはいえ、その大半の資料はあまり利用されることがなく、 眠ったままということも少なくない。せっかく資料が充実しているのだから、そ れを発信のために使おうという試みが、「郷土資料講座」である。 また「文学散歩」は、地域ゆかりの文学に積極的に触れてもらうために行われる、 地域の文学ゆかりの場所を巡るいわゆる「まち歩き」である。実際の場所を知り ながら文学と出会うことで、地域と図書資料の両方を活用していく取り組みであ る。 ▶歴史・定義 郷土資料を集める過程で、図書館員はその知識に詳しくなって当然である。ま た資料を収集する過程で、地域にいる歴史家と関係を深めることも多い。図書館 が持つ地域資料の活用や、地域で活躍する歴史家の知識を生かすために行われ るのが、「郷土資料講座」の定義である。また、図書館によって異なる場合もある が、教育委員会の下には「市史編さん室」があり、図書館の一室がこれに割り当て られていることが多い。市史編さん室には、たくさんの地域資料が集まっており、 それが図書館の資源にもなっている。「郷土資料講座」では、市史の編さんのため に集まった、郷土の歴史を詳しい知識人たちに、講義を行ってもらうこともある。 一方で「文学散歩」は、その地域にゆかりのある文学を使ってまち歩きを提案 するものである。地域を舞台とした小説、作家の生家など、ゆかりの場所を歩い て回ることで、地域と文学両方の理解を深めるために行われる。「文学散歩」の歴 史は古く、1951 年に福岡県の詩人・野田宇太郎によって考案された。野田宇太郎 が行った文学散歩は、1951 年から「日本読書新聞」に連載され、その後、30 年以 上かけてシリーズ全 26 巻が刊行された。文学の実地調査による実践的研究書で あり、紀行文学であった。 郷土資料講座、文学散歩 資 ぐ域と つ料 を 地 な
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    119本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ▶意義 文学と地域をつなぐ役割を図書館が担うという点が意義として大きい。自分が 住む地域に文学作品ゆかりの地や、歴史遺産があることを知り、それらを実際に 見て回ったり、講義を聞くなど立体的に理解することによって、地域への帰属心 を高めることにもつながる。観光スポットや観光コースにもなる。 ▶コンテンツ 「郷土資料講座」は地域の資料に焦点を当てた講座であり、古文書の読解講座や 遺跡などの歴史遺産がある場合は歴史講義など、地域のより深い理解と魅力の再 発見を促すために行われる。図書館員自らが所蔵資料をもとに講座を開く場合も あるが、郷土資料研究家を招き、講義を行ってもらう形式もある。 図書館は地域資料として、地域の歴史・人物に関する本、新聞、地域の学校・ 企業・団体に関する本、古地図などの地図を集めている。これらを講座に合わせ て展示することで、図書館資料の利用を促進することができる。 「文学散歩」は、まずは図書館が地域にゆかりのある文学作品のリストを作成 し、舞台となった場所や作家の生家などを記したマップを作成し、それをもとに ツアー形式で街を巡り歩くというのが基本である。スポットごとにインストラク ター(図書館員)が説明をして回っていく。 インストラクターが存在しなくても、利用者はマップさえあれば散歩を楽しむ ことができるため、マップだけを提供する場合もある。その場合、館内でパネル 展示も同時に行うと効果的である。 地域資源を活用する目的で、常時、館内にマップや関連資料を展示することも 有効である。市民に地域資源の再発見を促したり、そこを訪れた観光客に、地域 の魅力を伝えられる。 ▶ノウハウとポイント ◎「郷土資料講座」では、座学形式の講義が基本形となる。講師は図書館員のほか、 地域の歴史に強い方にお願いするのも手である。その場合は、地域の歴史サーク ルや古文書解読サークルで活動している方や、地域の歴史に精通する学校の先生 などが候補にあげられる。  また、地域の歴史遺産などを実際にめぐるツアーとパッケージにすることもで きる。実際の目で見て、図書館で学ぶことで、立体的な学びを提供することがで
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    120 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 きる。  また古文書解読や古写真の電子化など、実際に手を動かすワークショップ形式 でも、地域の歴史を学び、体験を楽しめるだろう。 ◎通常の図書館業務の一貫として、地域の歴史に精通した専門家とコンタクトを 取っておくことや、収集している資料の中から、利用しやすいようにリストアッ プや整理を行っていくとよい。普段から地域の情報を得て、資料を収集整理して いくことが重要である。 ◎定期的に開催し参加者が増えてゆくと、無料で受けられる生涯学習講座として 市民に認知され、図書館の魅力化にも貢献するだろう。                  ◎実際の「まち歩き」に図書館員の人員を割くことが難しい場合は、地域の作家 や作品を特集したマップを配布するだけでも「文学散歩」として成立する。丁寧 に調査してマップのクオリティを上げれば、それだけ手にとる利用者も増え、資 料の利用につなげることができる。 ◎「文学散歩」ではマップの配布場所でパネル展示を同時に行うと、より効果的 である。人員を割いてツアー形式で行う「まち歩き」は日時が限定されるが、パネ ル展示は一度つくってしまえば恒常的に利用者に「文学散歩」を周知することが できる。その際、本も同時に展示されることが好ましい。 ◎地域に限定せず、バスや電車などを使って遠隔地に出かけていき、その地域ゆ かりの作家・作品を訪ねるということも行われている。その場合、地域ゆかりの 文学に触れるというよりは、文学ゆかりの地を訪ね、文学の世界により深く親し み、理解と楽しみを深めることができるだろう。 ◎インストラクターは図書館員が基本だが、まちづくりの市民団体と協働するの も効果的である。
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    121本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 三島市立図書館/静岡県三島市 撮影:嶋田綾子
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    122 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 多治見市図書館では、2011 年から「まなびの散策∼地図を片手にタイムトリッ プ∼」と題して、「展示」と「まち歩き」をセットにした講座を行っている。この企 画は、図書館単独ではなく、同館のある「まなびパークたじみ」内にある「多治見 市学習館(生涯学習センター)」との共同企画で実施している。 基本的には、3 つの事業がセットになっている。 1.「まなびパークたじみ」内で、図書館の郷土資料室所蔵の資料を使い、その地域  に関する展示をする。 2.散策の当日は、まず展示室でのギャラリートークを聞き、その後、会場から街  へと出発する。街を歩く際にはその地域の人からの説明を聞き、地域のお店の  食べ物を味わう。 3.散策中に参加者が撮影した画像を集め、資料として保存する。 2 の募集は学習館が行っているが、1 と 3 は、郷土資料室が担当している。 地域住民に多治見の良さを再発見してもらうことを意識して、古くから住んで いる市民でも案外知らない市内各所の小ネタと場所を選び取り上げている。また、 図書館内でも目立たない存在である郷土資料室の存在意義を示し、同館でしか所 蔵していない地域資料の活用を目的に企画している。 ■多治見市図書館 岐阜県多治見市豊岡町 1-55 http://www.lib.tajimi.gifu.jp/ Tel: 0572-22-1047 Fax:0572-24-6351 Email: toshokan@tajimi-bunka.or.jp 提供:多治見市図書館 郷土資料講座の図書館事例 多治見市図書館(岐阜県多治見市)
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    123本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 京都市東山では、地域グループ「図書館から始めるまち歩き」(「まちづくりカ フェ@東山」の図書館チーム)が東山図書館を拠点として活動している。このグ ループは、東山図書館が作成した「京ひがしやま文学散歩」に掲載された 50 冊を 元に「文学作品ゆかりのまち歩きコース」を開発し、東山の地域資源(地域の魅力) の発見、および観光コンテンツの充実を目指している。2012 年から活動を開始し ており、現在は内田康夫の『壺霊』(角川書店、2012 年)のゆかりの地を中心にま ち歩きマップを制作し、文学まち歩きイベントを行っている。マップは京都市図 書館に所蔵され、貸出可能である。 一方、東山図書館では、2011 年度より東山地区にゆかりのある作品群を集めた リスト「京ひがしやま文学散歩」と「京都市東山区関連文学マップ」を作成・改訂し、 館内と図書館サイトで配布している。このためイベント開催時だけではなく、常 時、地域と文学の関係を楽しめる。 この活動は図書館と地域グループが協力して、街の魅力を文学という切り口で 探る好例だろう。 ■京都市東山図書館 京都府京都市東山区清水 5-130-8 東山区総合庁舎南館 2 階 http://www2.kyotocitylib.jp/ Tel: 075-541-5455 ■参考情報 京都東山・図書館から始める文学まち歩き https://www.facebook.com/machiaruki.higashiyama 提供:京都東山・図書館から始める文学まち歩き 文学散歩の図書館事例 京都市東山図書館(京都府京都市)
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    124 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 図書館は静寂の場所である。図書館の日常は、読書をする人、調べ物をする人、 勉強をする人が、それぞれ静かに本たちと向き合っている。パソコンですら、キー タッチの音が迷惑になるという理由で、多くの図書館で禁止、もしくは許可され た場所でのみ使用が可能となっている。 ページを繰る音以外は雑音となる図書館という世界で、音楽を楽しむ。それは 非日常の演出でもある。そんな独特のムードのなかで、室内楽などの演奏会を楽 しもうというのが「図書館コンサート」なのである。 ▶定義・意義  「図書館コンサート」は、図書館の会議室やロビーなどを使って開催されるコン サート全般を指す。演奏されるのは生演奏の場合もあるし、図書館が所蔵してい る CD やレコードの音源を聴くレコードコンサートの場合もある。 意義としては、図書館資料の活用である。レコードコンサートの場合は、図書 館が所蔵する CD やレコードを利用者とともに聴くこと自体が資料活用の方法 の一つであるし、そのレコードに関連した音楽の図書資料を紹介することもでき る。また、関連図書の切り口は音楽だけではない。村上春樹の文学作品などは、そ の作品が発表されるたびに、作品で言及される音楽に関心が集まる。このように 文学作品を切り口に、音楽を紹介することもできるのである。 利用者にとって「図書館コンサート」は、音楽について深く知ることのできる きっかけになるとともに、図書館で音楽に耳を傾けるという非日常を味わうこと ができる。 図書館資料は図書だけではなく、CD やレコードも図書館資料である。こうし た資料を工夫して、図書館における資料との出会いをさまざまに演出することは、 利用者の知識欲の充足につながるだろう。 普段は音楽に親しまない利用者であっても、図書館で味わう非日常とともに音 図書館コンサート 図 日味館 う書 常 わ で 非
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    125本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 楽を楽しめば、興味が湧くことがあるかもしれない。そして、図書館にはその興 味を刺激する資料が豊富にあるのだ。図書館での意外性のある音楽との出会いが、 その利用者が今まで手に取らなかった本との出会いをつくることは十分に考えら れるだろう。 また乳幼児などの子どものいる家庭では、音楽を楽しみたくてもコンサート ホールに子どもを連れて行くのは気が引けるものである。しかし慣れ親しんでい る図書館であれば、気軽に楽しむことができるだろう。 ▶コンテンツ コンサートといえば、室内楽などの音楽家を招待し、生の演奏会を開くことが 一般的だが、図書館では CD やレコードを聴くことも、「レコードコンサート」と して実施されることもある。 ▶ノウハウとポイント ◎開館中にコンサートを行う場合、会議室や視聴覚室などを備えている図書館で あれば、閲覧室などではなく、そのような別室を利用したほうが音漏れも少なく、 一般の利用者に迷惑をかけることがないだろう。しかし別室であれば、図書館で 行う意味や非日常のムードも減少することを念頭に置いておこう。 ◎開館中に閲覧室で開催する場合は、事前告知が十分に行われなければならない。 いかに素晴らしい音楽であっても、それを好まない利用者はいる。事前の告知が 不十分であれば、クレームの原因にもなり、コンサートが継続できなくなる場合 もあるため、注意が必要である。 ◎閲覧室などで開催する場合は、閉館後に行うことも手である。閉館後の図書館 という特別な時間に音楽を楽しむというのは、まさに非日常の醍醐味である。ふ だん静寂が張り詰めている図書館の中を、さまざまな音色が駆け巡る瞬間は感動 的である。 ◎演奏会自体は図書館の事業と直接は関係ないが、文化事業として図書館を訪れ るきっかけづくりにはなる。また、使われる楽器や演奏曲の紹介に所蔵資料を使 えば、図書館資料の活用にもなるだろう。たとえばアーサー・コナン・ドイル作
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    126 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 の『シャーロック・ホームズ』にはヴァイオリンの名器・ストラディヴァリウス が登場するが、これらを解説した本を取り揃えれば、仮に音楽に興味のない利用 者であっても、ノンフィクション好きであれば手に取るかもしれない。 ◎「レコードコンサート」の場合、著作権の法律上の制限は、「上映会」と同様であ る。つまり、非営利・無料・無報酬であれば、許諾は必要ない。 ◎生演奏で行う場合は、メジャーなミュージシャンを招聘するというよりも、地 域の高校や大学の吹奏楽部、地域のアマチュア/セミプロの演奏家たちの発表の 場として位置づけるとよいだろう。
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    127本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ■神奈川県立図書館 神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘 9-2 http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/ Tel: 045-263-5900(代表) 提供:神奈川県立図書館 図書館事例 神奈川県立図書館(神奈川県横浜市) 神奈川県立図書館では、「レコード鑑賞会」としてレコードコンサートが開催さ れている。これは、同館が収蔵する 7 万点を超えるレコードを活用して行うもの である。音楽堂の隣りに併設された同館は、譜面も揃えるほど音楽資料が豊富で あり、資料の活用を促している。デジタルにはないアナログの響きを知ってもら うために、職員が解説資料を作成して紹介する。音楽家をテーマにしてレコード を聞き、その関連資料を読むものから、楽曲や音楽家が重要な役割を果たす文学 作品をテーマにして、音楽を楽しむ会などが企画されている。 また同館の「レコード鑑賞会」で使用するスピーカーは、タンノイ社のカンタ ベリーであり、参加者に特別な機材を使って聴く機会を提供している。 なお「図書館コンサート」とは別の取り組みではあるが、同館では隣接する音 楽堂で行われるイベントに関連する音楽資料や図書資料を紹介する「M ゾーン」 というパンフレットを作成し配布している。これもまた音楽を切り口とした、図 書館資料紹介の一つのかたちであり、図書館と他施設の連携の事例としても好例 である。
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    128 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 「図書館まつり」は、図書館の文化祭・感謝祭として全国的に定着している。ワー クショップやパフォーマンス、コンサート、フリーマーケットなどを盛り込み、 地域交流の場を提供しながら図書館の認知拡大を行えることが特色である。ここ では、広く知られている「図書館まつり」の事例を取り上げながら、ゼロから始め るノウハウを紹介する。 ▶定義 大切なことは市民の参加を促し、図書館機能の認知を拡大することである。し たがって「これを満たしていなければ、図書館まつりとは呼べない」というほど の厳格な定義はない。しかし「図書館まつり」として期待されるのは、会議室の一 室を使用して行うような小規模なものというより、図書館全体を使い、広く市民 と協働した展開である。   ▶意義 文化祭・感謝祭という非日常の場で図書館の存在意義をアピールすることで、 市民に広く図書館を認知してもらうことが最大の意義である。したがって「上映 会」や「コンサート」などの集客イベントとともに、図書館の仕事を紹介するパネ ル展示やワークショップなどの体験イベントを織り交ぜ、なによりも市民を巻き 込みながら開催することが望ましい。 たとえば点字の体験教室などが好例として挙げられる。日常において図書館が 点字の資料を作成し、貸出していても、その存在はなかなか知られないものであ る。しかし体験イベントとして開催することで、市民が広くその存在を知る機会 にもなり、結果として日常における図書館の利用拡大につなげることができる。 ▶コンテンツ 「おはなし会」や「講演会」など、図書館でお馴染みのイベントを、さまざまに組 図書館まつり 図 見魅館 再書 力 の 発
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    129本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 み合わせて行うことが多い。図書館の機能・仕事を身近に感じてもらえるような 催しをすると効果的である。図書館で廃棄する本や雑誌を、「図書館まつり」で市 民に無料で提供するなどである。大きな図書館であれば、廃棄する本の量も多い ため、そうした本を「無料提供」として広く告知すれば集客が図りやすく、定期的 に開催すればまつりの名物になっていくことも期待される。また、これらの本を 「リサイクルブック」と呼称することによって、資源の有効活用を市民にアピール することにもつながるだろう。 また、図書館員にはお馴染みの「本の修理」や「ブックコーティング」などを のワークショップとして行うことで、市民にとって有益なものとなることが多 く、ふだんあまり知る機会の少ない図書館の仕事の周知にもつながる。本の修理 のワークショップを行う際は事前に壊れた本を、ブックコーティングのワーク ショップを行う際は事前にコーディングを希望する本を持ち寄ってもらうと、そ の成果を形として持ち帰ることができるため、一層効果的である。 また、ボランティアグループによる発表の場としても活用されており、点字の 体験会や読み聞かせなど、啓発活動などもさまざまに行われる。   ▶ノウハウとポイント ◎開催時期としては、市民の注目を集めやすい春の「こどもの読書週間」、秋の「読 書週間」に合わせて行われることが多いが、図書館の創立記念日など、各館が自 由に設定してよい。 ◎運営形態はさまざまで、図書館主催や住民グループ主催のもの、あるいは共催 の場合もある。 ◎各催し物の入場料については、特に有料化・無料化しなければならないという 理由はないが、基本的には市民参加を促す目的から、無料のものが目立つ。古本 市などを「図書館友の会」などのボランティアグループが有料で運営して、収益 を図書館への寄付に回したり、募金を集めて図書館への寄付にするという試みを 行っている事例もある。 ◎市民参加型にし、一緒に「図書館まつり」を盛り上げる体験を共有することに よって、市民と図書館とのつながりを深めることができる。また、「図書館まつり」
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    130 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 をきっかけに、普段は図書館を訪れることのない市民が図書館へ来ることによっ て、新たな利用へと結びつけることができる。  以下に、実際に行われている「図書館まつり」の催しを列挙する。これらを開催 のヒントにすると効果的である。 図書館司書体験ツアー…参加型のツアー形式で、図書館司書の仕事を体験する。 配架や貸出作業などは、利用者にとって非日常であり、大きな興味を持って参加 することが多い。また普段、利用者が入ることのできない閉架書架の公開なども ツアー形式で行うと効果的である。 工作教室…図書館スタッフやボランティアグループによる工作教室である。時期 が合えば、小学生向けに夏休みの自由研究の支援として行っても効果的だろう。 伝統工芸の体験…地域の伝統工芸の職人を招き、体験教室を開催。地域と図書館、 そして伝統工芸をつなぐ有意義な場づくりを行うことができる。 各種講演会…地域にゆかりのある作家を招いたり、「ライブラリーカフェ、サイエ ンスカフェ」(P112)を開催したりすることも図書館まつりを盛り上げることにつ ながる。図書館の資料を展示するとより効果的である。 上映会など…図書館が所蔵する AV資料、または地域に関係する映画などの上映 会(P 140)を行う。市民団体と協働して上映設備や上映作品を調達するのも有効 である。 各種演奏会・実演会…室内音楽やダンスパフォーマンスなども、発表の場を求め ている地域の高校・大学、市民団体と協働することで実現が可能になる。本稿で 紹介する洲本市立洲本図書館(兵庫県洲本市)では、こうした協働を非常に積極 的に行っている。 パネル展示…多くの利用者の目に触れる「図書館まつり」で、図書館の歩みや利 用状況などをまとめて展示することで、認知を促すことができる。
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    131本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 料理教室…フードを扱えない図書館でも、駐車場や図書館前の広場など、屋外で の実施が可能な場合、たとえば「絵本」にゆかりの料理をみんなでつくり、料理を 通して物語に親しむ、ということが可能である。 古本市・リサイクルブックフェア…図書館で除籍された本や雑誌を配布する。無 料で配布されることが多いが、友の会などの協力団体が主催となることで、有償 での配布を行う例もある。その場合は、収益で図書などを購入し、図書館へ寄贈 されることが多い。 東松島市図書館 / 宮城県東松島市 提供:東松島市図書館
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    132 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 かつてカネボウの紡績工場として利用されていた建物をリノベーションして作 られた、建築としても特徴的な洲本市立洲本図書館。市民の要望に始まり、最終 的には市長選挙にまで発展して建てられることが決まった図書館でもある。 この図書館には、そういった市民からの深い思い入れもあることから、毎年、 「図書館市民まつり」として、大々的に「図書館まつり」を行っている。地域の高 校と協働し、吹奏楽の演奏会やダンスパフォーマンスを開催したり、生花展示や スタンプラリーなど、さまざまな年齢層が楽しめるとともに、市民と一体になっ て「図書館まつり」を盛り上げている点が特色である。運営をボランティア団体 が行っており、アルバムを使って、写真や式次第などの資料を丁寧に保存してい る。市民とのつながりをつくり、それらを残していくことにも力を注いでいる。 ■洲本市立洲本図書館 兵庫県洲本市塩屋 1-1-8 http://www.library.city.sumoto.hyogo.jp/index2.html Tel:0799-22-0712 Fax:0799-26-3155 撮影:岡本真 図書館事例 洲本市立洲本図書館(兵庫県洲本市)
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    133本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 東松島市図書館では、「図書館まつり」を 1998 年から開催している。開催当時は、 合併前の旧・矢本町で開催しており、町長と教育長、町民との模擬結婚式のよう なことも行われていた。 2011 年の東日本大震災では、市内は甚大な被害を受け、図書館本館も津波の被 害こそなかったが、建物や蔵書が被災した。しかし、そのような過酷な年にあっ ても開催することで地域との絆を大切にしている。 同館の「図書館まつり」では、地元の読み聞かせボランティアグループによる 「おはなし会」や、県内高校の有志の先生方による「喫茶コーナー」の開設、巨大な フライパンを使って、絵本に出てくるカステラをつくるグループなど、さまざま な団体やグループが参加している。図書館員もほかのグループの協力を得て、リ サイクルブックフェアを開催するなど、図書館ならではの催しを行っている。 「読み聞かせ」や「震災資料をつくるワークショップ」「リサイクルブックフェ ア」など、図書館ならではの事業が実施される一方で、絵本の料理を再現するなど、 館内では難しい取り組みも戸外で展開している。また、電気自動車の試乗や生け 花ワークショップも行っている。これらは、一見、図書館とは関係のない取り組 みのように見えるが、市民に向けた体験の提供という文脈で捉えるのであれば、 図書館で扱っていけないことではないし、図書資料の紹介に結つながれば、立派 に図書館と関連することである。 東松島市図書館では、これらの取り組みを、図書館単独で行うのではなく、図 書館のボランティアグループ、市内の関連団体、全国の関連団体と協力して行っ ており、地域連携の仕組みとしても評価が高い。 ■東松島市図書館 宮城県東松島市矢本字大溜 1-1 http://www.lib-city-hm.jp/ Tel:0225-82-1120 Fax: 0225-82-1121 図書館事例 東松島市図書館(宮城県東松島市)
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    134 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 図書館は、その立地条件に基づく利用者がいる。たとえば学校が多い地域にあ る図書館には学生の利用者が多い。ビジネス街の真ん中にあれば、ビジネスパー ソンが多くなり、住宅街であればファミリーでの利用が増える。もちろん図書館 員は、その立地条件や利用者層を見ながらいろいろな特集本棚をつくったり、イ ベントを実施しているが、利用者がなにを本当に求めているかは、汲み取り切れ ていないこともある。そこで、図書館員が利用者とともに書店に行き、利用者が 図書館に入れてほしい本を選書し、図書館の本棚を市民とともにつくっていこう という試みが「選書ツアー」である。 ▶歴史 公共図書館では、1990 年代後半に北海道を中心として「選書ツアー」がさまざ まに実施されていたが、そもそも選書を行うのは図書館員の仕事であり、それを 利用者に行わせるというのは少し実験的すぎるのではないかという論争が巻き起 こり、一度頓挫している。 しかし住民参加・市民参加の図書館づくりとして意義深い取り組みであると 位置づけ、2003 年に山中湖情報創造館(山梨県山中湖村)が行ったのを皮切りに、 大木町図書・情報センター(福岡県大木町)も 2009 年に実施を開始した。 大学図書館では、1998年に行われた大阪産業大学綜合図書館の「選書モニター」 が元祖とされている。その後、多くの大学図書館で実施されるようになった。 ▶定義・意義 基本的には地域の住民や学生などの利用者が、図書館に入れてほしい本を書店 で選び、図書館に所蔵するというイベントである。書店に足を運ぶ機会を図書館 がつくり、利用者とともに図書館の本棚をつくっていく。書店の利用促進と、図 書館への市民参加を同時に成し遂げているところが意義深い。 公共図書館ではまだまだ実施しているところは少ないが、大学図書館では増加 選書ツアー 書 館 ぐ民と 図 つ店 を が 市 書 な
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    135本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 傾向にある。 ▶コンテンツ まず図書館が「⃝⃝をテーマにした本を所蔵したいと考えています。本を選ぶ ツアーに参加してください」といった趣旨の告知とともに参加者を募り、書店へ のツアーを実施するというのが基本形である。 利用者層が限られている大学図書館に、積極的に採り入れられている。図書館 職員だけで多岐にわたる研究分野の専門書を全て網羅するのは困難を極めるため、 実際に研究に触れている学生たちの知識を選書に役立てるというわけである。ま た大学図書館では専門外の、学生が好む一般書や教養書の選書に役立てられてい る。 「選書ツアー」は、それぞれの図書館で足りないものを、利用者とともに補って いくという大きな利点があるのだ。 ▶ノウハウとポイント ◎利用者が図書館職員の引率の元で書店に赴き、図書館に入れてほしい本を選び、 後日、図書館に配架されるというのが基本プロセスである。 ◎書店の店頭にある本から選書を行う必要があるため、品揃えの豊富な比較的大 規模な書店で実施されることが多い。過去には「東京国際ブックフェア」で選書 ツアーを行った事例もある(学習院女子大学図書館、昭和女子大学図書館、聖心 女子大学図書館、千代田区立図書館、文京区立図書館、荒川区立図書館)。大木町 図書・情報センターでは、図書館向けに行われているブックフェアに、住民も一 緒に参加して本を選んでいる。 ◎だいたい 10人くらいのグループをつくり、図書館職員が引率して書店を回る とよい。また、回る書店は複数用意してもよい。 ◎利用者が選ぶ本のなかには、すでに図書館で所蔵しているものもあるため、重 複購入を避ける工夫が必要となる。そのため書店と交渉し、選んだ本をその場で 購入するのではなく、リストを作成してもらい、図書館に持ち帰って確認できる ようにする必要がある。図書館員の確認を経た本を、後日発注できる仕組みが必
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    136 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 要である。 ◎利用者に「好きな本を選んでください」とだけ伝えてしまうと、ジャンルがば らばらになってしまって公益にならない取り組みになってしまう場合がある。し たがって、あらかじめ図書館における選書の役割を説明し、「どのような本を選ん でもらいたいか」「どのような本は所蔵できないか」といったガイダンスをしてお くことも重要である。 ◎意義深い「利用者参加イベント」にするためには、利用者が、図書館でどのよう に本が選ばれ、どのような過程を経て書架に並んでいるのかを理解できるように 段取りをする必要がある。そのため、図書館における選書プロセスなども解説さ れることが望ましい。 ◎一般的に、「選書ツアー」を通して利用者が選んだ本は、ツアーに参加していな い他の利用者にも人気が出る。利用者参加型で引き出す潜在ニーズには一定の価 値があるのである。 ◎地元に比較的大きな書店がある場合には、地元書店の売上げ確保のためにも、 地元書店での実施が望ましい。しかし、地元に大きな書店がない場合、たくさん の本がある環境を利用者に体験してもらう意味でも、遠方の大きな書店に行くこ とにも意義がある。そうした場合は、大木町図書・情報センターのようにバスを 利用してみるのも有効である。 ◎大木町図書・情報センターの「選書ツアー」では、九州の福岡県大木町から、福 岡市までバスを利用した。しかも、このバス利用を無料化しているのが特徴だ。 図書館の選書という公的な目的のため、社会福祉協議会が所有しているバスを使 用し、運転手もシルバー人材センターからの派遣を活用し、無料化を実現してい るのである。 ◎地元や日帰りで行ける距離に適切な規模の書店がない場合、図書館向けのブッ クフェアを利用する手もある。図書館員が選ぶことを前提としたブックフェアで は、ある程度、最初から図書館で所蔵することが期待される本が並べられている。
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    137本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 その中から本を選ぶことで、図書館の選書を疑似体験できる。   ◎「選書ツアー」では選書の偏りが指摘されがちだ。1回の実施では確かに偏り が出るものの、継続することで参加者も入れ替わり、一定のバランスがとれてく ることが報告されている(山中湖情報創造館)。
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    138 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 山中湖情報創造館では、開館前の 2003 年から、住民の手による図書館づくり が始まっていた。行政による図書館建設の進行にあわせ、村民による図書館づく りに向けた勉強会が開催されたことを契機に、開館に向けた準備作業の取り組み として、住民自らが図書館に入る本を選ぼうという意志のもと、設置自治体の了 解を得たうえで、教育委員会と住民団体「図書館を育てる会」による「選書ツアー」 が開催されている。 この事業は開館後も毎年継続され、現在では夏に地元中学生と行く「ジュニア 選書ツアー」と、秋に一般の方と行く「選書ツアー」が実施されている。 2012 年の「ジュニア選書ツアー」には 4 名が参加し、およそ 360 冊、約 37 万円 分を選定。同年開催の選書ツアーには 5 名が参加し、およそ 480 冊、約 82 万円分 を選定している。続く 2013 年のジュニア選書ツアーの参加者は 5 名。およそ 530 冊、約 40 万円分が選定されているという。 ■山中湖情報創造館 富山梨県山中湖村平野 506-296 http://www.lib-yamanakako.jp/ Tel:0555-20-2727 Fax: 0555-62-4000 E-mail: info@lib-yamanakako.jp 提供:山中湖情報創造館 図書館事例 山中湖情報創造館(山梨県山中湖村)
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    139本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 2010 年に図書館がリニューアルオープンし、その開館準備に合わせ、住民か らも本を選ぶ機会を持ちたいという希望もあったことから、2009 年から「選書ツ アー」を始めている。しかし町には書店がないために、町が所有する社会福祉協 議会のバスを利用し、図書館向けのブックフェアに参加している。図書館から出 発し参加者全員が日帰りで移動する。予算はあまり多くはないが、1 回あたり 10 人程度の参加で 50 冊弱程度を選定している。 ■大木町図書・情報センター 福岡県大木町大字八町牟田 255-1 http://www.library.oki.fukuoka.jp/ Tel: 0944-32-1047 Fax: 0944-32-1183 提供:大木町図書・情報センター 図書館事例 大木町図書・情報センター(福岡県大木町)
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    140 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 図書館によっては映像資料を数多く所蔵している館もあるだろう。図書館での 映像資料の収集は、図書館の重要な機能の一つだ。また、たとえば地域に映画の ロケ地として有名な場所が点在する場合には、そうした名所や地域資源に関連 した映像資料などを収集している図書館もある。これらの映像資料は、利用者に 貸出したり、館内に設置された専用の鑑賞ブースで視聴できたりと、館によって サービス形態はさまざまだが、「上映会」という図書館が開催するイベントのコ ンテンツとして活用してもよい。こうした映像資料は、利用者への提供の仕方に よっては、その映像に関連する図書資料の利用を促したり、図書館そのものの魅 力化にも貢献するだろう。 ▶定義 「上映会」は「映画会」とほぼ同義であり、全国のさまざまな図書館で行われて いる。実施日時、上映時間などを事前に周知して、イベント形式で行われること が一般的である。定期的なイベントとして行っている場合もあれば、「図書館まつ り」(P128)などの単発の不定期イベントの一つとして行っている場合もある。 映像資料を豊富に所有している図書館であれば、月ごとに監督特集や俳優特集 などテーマを決めて上映するのも魅力的だ。   ▶コンテンツ・意義 企画の手法は、さまざまに工夫できる。たとえば前述したように、映像資料を 豊富に持っていれば、それらの資料をさまざまな切り口に関連づけて特集化する ことができるだろう。その一方で、映像資料がそれほど豊富ではない館の場合も、 工夫次第である。たとえば読書週間などで「映画化された作品」などの図書資料 を特集し、それに合わせた映像作品で上映会を企画してもよいのである。 その際、後述する著作権許諾については配慮が必要である。上映形式は、視聴 覚室を設けている図書館での大型スクリーンでの上映から、大型テレビやプロ 力 上映会 映 を魅で資 有域像 共地 料 の
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    141本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ジェクターでの上映など、予算と備品に応じて、自分たちのできる範囲内で取り 組むとよいだろう。 映像作品は図書資料と密接な関係を持っていることが多いため、映像作品を通 じて図書を知り、図書を通じて映像作品を知る機会創出にも役立つ。 ▶ノウハウとポイント ◎上映する映像作品などに関連する図書資料を展示すると、図書の貸出や活用に つながることが期待されるため効果的である。たとえば上映する映像作品の脚本 家が書いた他の作品や、同じ場所を舞台にした小説、同じ原作者の小説、舞台と なった地域のガイドブックなどさまざまな文脈が構築できるはずである。工夫す ればするほど、「上映会」の魅力を図書資料で倍増させることができるだろう。 ◎上映と合わせて監督などの制作スタッフを招聘し、トークショーを行うことも 有効である。一般的なゲスト招聘は、ある程度の謝礼を支払うことも視野に入れ ておく必要があるが、地域の記録映像であった場合、無料登壇を交渉することも 可能である。もちろん、情熱や思い入れを持ってつくられた作品であることは間 違いないため、主催側が上映会にどれだけの思いを持って取り組んでいるかをア ピールできるかにかかっているが、まずは積極的に相談してみることが大切だ。 ◎一般的な映像資料だけではなく、地域の記録映像を上映するのも重要である。 市販されていない、またレンタルショップでも取り扱っていない地域の貴重な映 像を、積極的に上映していくのが望ましい。それは、「地域の記憶の共有」や「地 域資源の見直し」にもつながる。 また、地域の記録映像などの上映会を企画する場合、まちおこし関連の NPO や団体を探して、協働することも視野に入れておくとよい。関連する映像資料な どを、団体が持っている場合もあるだろうし、伝統行事などがテーマになってい れば、まちおこし関連の団体が、その行事自体に関わっていることもある。そう した場合、現場に関わった方々を招聘し、トークショーやパフォーマンスを行っ てもらうことも、交渉次第で可能になるかもしれない。 図書館単独で上映会を企画するのではなく、地域そのものを巻き込んでいくと、 関係者にとっても、利用者にとっても面白い企画になることが期待できるのであ る。
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    142 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ◎「上映会」を実施する際は、著作権法に配慮する必要がある。図書館では、上映 の許諾がついた映像資料を使って開催することが通例とされている。図書館で購 入する映像資料は、図書館で所蔵すること、上映会に使用すること、個人視聴や、 館外貸出について許諾付きで販売されている。 一方、「著作権法第 38 条第 1 項」では、非営利・無料・無報酬で行われる上映 については、著作権者の許諾は不要だと定められている。よって、法的には無許 諾でも上映会は可能だが、映画館やレンタルショップとの競合を避けることが好 ましいとされている。それを受けて、2001 年に日本図書館協会と日本映像ソフト 協会が「(映画上映会に関する)合意事項」とその実施要綱を出しており、図書館 はその要綱に則って上映会を行うことが期待される。 ◎図書館向けのサービスとして、「みんなでシネマ」(株式会社M.M.C)というサー ビスがある。これは、図書館が所蔵している映像資料の中で、上映の許諾がされ ていないものでも、このサービスのリストにあれば、上映会に使用できるという ものである。サービスを利用するためには、年間での契約が必要ではあるが、こ のようなサービスを利用して、所蔵資料を活用するのも一つの方法である。 ◎定期上映のメリットは、利用者に「この図書館では、いつも無料で映画が見ら れる」という付加価値を認知させることができる点にある。所蔵資料にあるもの から過去の名作など、誰もが知っているものを選んで上映していけば、企画側も 比較的簡単に集客が図れるだろう。定期上映を行う場合は労力をかけずに、長く 走ることが肝心である。 ◎大型テレビやプロジェクター設備などが館の備品としてなければ、安価でレン タルすることもできるため、不定期の特別イベントとして企画する場合は、レン タル業者を利用することも視野に入れておくとよい。 ◎視聴覚室など、別室の用意がある館であればそこで上映が可能だが、ない場合 は閲覧室などを区切って上映することも視野に入れておくとよい。その際は、周 知が十分に行われていないと、一般の利用者の不利益につながる恐れもあるため、 注意が必要である。
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    143本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ◎図書館が行う「上映会」は無料上映が主であるため、予算の少ない図書館では 難しいかもしれないが、レンタルサービスを活用するというのも手である。レン タル料金は決して安くはないが、上映会用に多くの資料をあらかじめ購入してお くよりは負担は少ないだろう。未所蔵資料で上映会を行う場合、映画を上映する という目的だけではなく、図書館を利用してもらうきっかけづくりにすることが 肝心である。上映会を期に図書館に来館してもらい、その後の利用につなげるの である。そのためにも、上映する作品の関連資料を紹介するなど、所蔵資料や図 書館サービスの利用に結びつける工夫をするとよい。
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    144 本と人をつなぐ図書館の取り組み ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ■くまもと森都心プラザ図書館 熊本県熊本市西区春日 1-14-1 http://stsplaza.jp/library/ Tel:096-355-7401 Fax:096-355-7411 Email:library@stsplaza.jp 提供:くまもと森都心プラザ図書館 図書館事例 くまもと森都心プラザ図書館(熊本県熊本市) くまもと森都心プラザ図書館では、年 6 回、大人向けと子ども向けの「映画会」 を、それぞれに開催している。 同館では、映像資料を所蔵していないので、映画会を実施するときには、映画 ソフトレンタルサービス「みんなでシネマ」(株式会社 M.M.C.)から DVD を借 りて開催している。 大人向け映画会では、映画を上映する前にブックトークを行うこともある。 ブックトークでは上映する映画の内容に合わせて、図書館資料を紹介している。 子ども向けの映画会では、館内の児童コーナーに「映画会」の関連資料コーナー をつくり、関連資料を紹介している。 このようにプラザ図書館の場合、図書館で所蔵する映像資料の活用というわ けではないが、映画を楽しむ機会を利用者に提供すると同時に、所蔵資料の紹介、 利用に結びつける工夫を行っている。
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    146 司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 ――まず、プロフィールから伺いたいと思います。井上さんは、なぜ司書を目指 そうと考えたのですか。 井上:進路を決めた高校生の頃、本とコンピューターが好きだった、ということ が理由です。大学進学の際、その両方が勉強できる、図書館情報大学(現・ 筑波大学)があることを知り、入学しました。勉強しているうちに、ご縁が あり、今の職場に就職しました。 ――井上さんが高校生の頃というと、80 年代ですよね。まだまだコンピューター が一般に普及していない時代だと思うのですが、当時、コンピューターが好きと いうのは、かなり珍しいのでは? 井上:そうですね。当時ちょうど NEC製のパソコンPC-8801が家庭に入ってきた ころです。フロッピーディスクが 5 インチの時代ですね。家庭にパソコン が普及してきたというよりは、一部の家庭にも入ってきた、という状態で す。それより前に、最初のパソコンが家に入ったのは 1980 年ころで、コン ピューターがあるというだけで、まだ驚かれる時代でした。インターネッ トはまだなく、BASIC(プログラミング言語)を使ってプログラムをつくっ 司書名鑑 No.1 井上昌彦さん(関西学院 聖和短期大学図書館) LRG 新企画「司書名鑑」の第 1 回は、「図書館員のセ ルフブランディング」の必要性を広め、自らも「情報 のチカラで、世界をもっと幸せにする!」というミッ ションを掲げて活動されている井上昌彦さんにご登場 していただきます。 ▶司書を目指したわけ
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    147司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 たりして、楽しんでいました。この経験は、今につながっています。    本も好きだったので、コンピューターに傾倒した流れで、本とコンピュー ターの両方を学べる、図書館情報大学に入学しました。今みたいに Web サ イトがなかったので、大学の教育理念が見えづらい時代だったのですが、 学校案内などに「図書館大学」ではなく、「情報」という言葉が入っていた ことに、新しい価値を感じました。 ――図書館外での活躍も目覚ましい井上さんですが、普段は図書館でどのような お仕事をされているのでしょうか。 井上:私が勤務している短大図書館は、キャンパスに唯一の図書館です。短大だ けでなく、4 年制の学部も同じキャンパス内にあります。短大生は、保育士 になる勉強を、また大学生の多くは、小学校教員になるための勉強をして います。そういう学生さんたちに、サービスをしています。    保育や教育が主体となるため、実務者養成学校としての傾向が強い大学・ 短期大学で、私はここで業務委託を含めた 10 人のスタッフを取りまとめ る、統括的な立場です。    小さな図書館なので、私自身も割とオールマイティーになんでもやってい ます。窓口のスタッフで解決できないレファレンスから、トイレの故障と いった館内のインフラ雑務まであらゆることに自分は関わっています。    通常の業務は、各スタッフがそれぞれ担当していて、私は現場のとりまと め役として、またあるときは相談役として、日々、業務を務めています。    また当館は通常の学習図書館とも少し違い、実務家養成傾向の強い大学・ 短期大学のキャンパスにある図書館なので、このキャンパス唯一の図書館 に求められている役割を考え、追求していくことも重要な任務です。 ▶図書館での仕事 Directory of librarian
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    148 司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号    関西学院は 120 年以上の歴史を有し、聖和キャンパスにおいては保育・教 育の分野での伝統と実績を持っています。その伝統や実績を受け継ぎつつ、 今私たちの図書館が関西学院のため、ひいては社会のために何ができるか、 それを日々考えています。 ――井上さんは「図書館員のセルフブランディング」や「自分だけのミッション をつくる」ことの大切さを、いろいろなところで説かれていますが、なぜそのよ うなことを考え、行動するようになったのでしょうか。 井上:私には、ミッションを考えるきっかけとなった人生の転機が2度ありました。    まず、1 度目の転機というのは、前に所属していた大学図書館から知財部 に異動になったことです。図書館を出る前には、今のようには外に出て勉 強するなどの活動はあまりしていませんでした。知財部には 4 年間いまし たが、その 4 年間は忙しくて、図書館のことを考えたり、わずかにいた他 館に勤める友人や知人に連絡したりする余裕もありませんでした。その後、 現在の図書館に戻ってきたのですが、その間に彼らの多くは退職していた り、異動していたりで、つながりが途切れてしまっていることに気付いた のです。それではダメだと、再びつながり直すために、同じフィールドで 働く図書館員に自分を知ってもらうことから始めました。このときに、自 分をブランディングすることの重要さを考えたのです。    2度目の転機は、愛娘のことです。娘は、2011年6月に小児脳腫瘍を発症し、 1 年近くの闘病ののちに星になりました。とても悲しい出来事ですが、こ の時に、情報の持つ力や自分自身が果たしていくミッションについて考え ることになりました。 ▶2度の転機
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    149司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年秋号 ――それは、どのようなことでしょうか。 井上:情報というのは、なにも文献やデータだけではありません。家族が同じ病 気で苦しんでいる方にとって、治療方法や入院体験などの「情報」が直接 役に立つこともあるでしょう。でも、それだけではなく、日常のなかのさ さいな事柄、伝え合うお互いの気持ちでさえも「情報」だと思うのです。娘 を応援してくれる方々から寄せられる何気ない一言や、描いて送ってくだ さった絵や手づくりのぬいぐるみなど、ほんのちょっとした励ましや気遣 い、それらすべてが情報なんだと思いました。 そこには発信する人の気持 ち、情報を送ってくれる人の気持ちが必ず添えられています。情報は血肉 を持っているのです。こうした気持ちに支えられ、一家で闘病の日々を過 ごす中で、情報の持つ力を意識するようになりました。その気持ちをまと めたものが「情報のチカラで、世界をもっと幸せにする!」という私自身 のミッションです。    娘の闘病中、私たち一家は闘病に関する「情報」を発信してきましたが、そ れ以上に、多くの方からさまざまな「情報」をいただきました。それを力に、 頑張ることができましたし、その経験が今のミッションを生み出すことに なりました。 ――「情報の力で、世界をもっと幸せにする!」というミッションに従って、今は 行動されているのですね。 井上:まさにその通りです。自分の日々の仕事においても、そうです。このキャ ンパスを、関西学院をよくしたいという思いは当然、強く持っています。 私たちの図書館は関西学院のためだけに存在するのではなく、素晴らしい ▶ミッションを遂行する、広める Directory of librarian
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    150 司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド 2013年 秋号 学生さんたちを育て社会に送り出すことで、社会に貢献していると考えて います。図書館を含め、いろいろな形で本学で学び育ったさまざまな人材 を送り出すことが、社会の豊かさにもつながります。図書館で学んだ人の 力で、情報の力で世界がもっと幸せになる、という思いで働いています。    こうした情報の力を利用者にもっと知ってもらって、図書館をもっともっ と使ってもらいたいと思います。図書館にある情報には、こんなに力があ るんだと。情報があることで、学校が、社会が幸せになれる。それは今すぐ ではないかもしれないけど、情報を積み上げることで、必ず将来的に役立 ちます。図書館はそんな情報の宝庫です。 ――図書館で得られる情報が、世界を幸せにする、自分を幸せにする。それって とても、図書館員にとって心強いことですね。 井上:図書館で働いている人たちにも、これは意識してほしいと思っています。 たとえ、貸出という単純な仕事であっても、自分たちが手渡しているのは、 情報なんだと。図書館にある世界を幸せにできるたくさんの情報を、伝え 写真提供:井上昌彦
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    Directory of librarian 151司書名鑑  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 ていくのが仕事なんだと。そう思えば、単純な貸出でさえも、大きな意味 があることに気づくでしょう。    また、心がけているのは、笑顔で挨拶をすることです。学生さんたちが来 館した時に、笑顔で挨拶することをスタッフ全員で徹底しました。一人の 例外もなく、全員の利用者に、です。もちろん挨拶だけが大事なのではあ りませんが、まずはウェルカムな雰囲気を出そう、気軽に訪れてリラック スしていい場所であることを示そうと思いました。そんな姿勢がいろいろ な新サービスと相まって、自分が図書館に赴任してからの 3 年間で、入館 者数が 2.2 倍になりました。挨拶をすることで、学生さんたちの図書館に 対するイメージが変わってきたのではないかと思っています。    また、そうした明るい雰囲気を通じて、職員みんなが楽しく働ける環境を つくっていきたいと思っています。 ――情報の持つ力というのは、本当に世界を幸せにするものだと思います。その ような思いで仕事をし、また、図書館員をつないでいく井上さんの活動は、多く の図書館員にとって、励みになり、勇気を与えるものだと思います。 お話、ありがとうございました。 (インタビューアー:嶋田綾子) 井上昌彦(いのうえ・まさひこ) 関西学院 聖和短期大学図書館 兵庫県西宮市岡田山7-54 http://www.kwansei.ac.jp/seiwa_j_college/seiwa_j_college_003651.html Tel:0798-54-6508 Fax:0798-54-6518 E-mail: inoue@kwansei.ac.jp 個人ブログ:http://karatekalibrarian.blogspot.jp/ 個人Twitter:http://twitter.com/karatelibrarian
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    152 ARG 業務実績定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号  『ライブラリー・リソース・ガイド』の発行元であるアカデミック・リソース・ ガイド株式会社の最近の業務実績のうち、対外的に公表可能なものをまとめてい ます。各種業務依頼はお気軽にご相談ください。 流通科学大学(兵庫県神戸市)の総合政策学部によるオフキャンパス研修の実施に協 力しました。 この研修は、同大の 2 年生以上を対象に開講されたもので、2013 年 9 月 2 日(月)か ら 9 月 6 日(金)にかけて、東京と横浜で開催されました。弊社ではプログラムの作成助 言から東京・横浜での訪問先調整、そして横浜でのフォトウォーク(地域を散策し写真 を撮影しながら、その地域の魅力を発見するワークショップ)の実施を担当しました。 ●主  催:流通科学大学総合政策学部 ●協  力:アカデミック・リソース・ガイド株式会社ほか ●日  時:2013年9月2日(月)∼ 9月6日(金) ●会  場:東京大学情報学環・福武ホール、MONO-LAB-JAPAN、       株式会社KOKUYO霞ヶ関ライブオフィス、さくらWORKS<関内> ●受講者数:15名 アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 流通科学大学総合政策学部オフキャンパス研修に協力 Photo by 松本恵祐
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    153ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 2013 年 6 月に兵庫県淡路島で「震災復興、今、図書館にできることを考える」をテー マに開催したのに続き、「被災地に図書館が必要な 30 の理由」を掲げて 2013 年 9 月 15 日(日)から 9 月 16 日(月)にかけて、ライブラリーキャンプ 2013 in 石巻を開催しました。 今回はゲストとして、寺島英弥さん(河北新報社編集局編集委員)、柴崎悦子さん(名 取市図書館館長)、幅允孝さん(BACH 代表ブックディレクター)のお三方を迎え、東松島 市図書館やヤフー石巻復興ベースなどの見学も交えながらの開催でした。 ●主   催:ライブラリーキャンプ実行委員会 ●企画・運営:アカデミック・リソース・ガイド株式会社 ●日   時:2013年9月15日(日)∼ 16日(月) ●会   場:ISHINOMAKI2.0ビジネスカフェ「IRORI石巻」、        ヤフー石巻復興ベース、絆の駅「石巻NEWSee(ニューゼ)」、        こはく(白空/ Co Hack)∼石巻フューチャーセンターほか ●参 加 者:23名(※スタッフ含む) ライブラリーキャンプ2013 in 石巻を開催
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    154 ARG 業務実績定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号 2013 年 10 月 28 日(月)から 11 月 1 日(金)にかけて開催された第 15 回図書館総合 展にブースを出展し、また 3 つのフォーラムを主催しました(ブース展示期間は 10 月 29 日(火)∼ 10 月 31 日(木))。 弊社では、創業以来毎年、図書館総合展に出展しており、4 回目の出展となった今回 は、「ライブラリーコミュニケーション」と銘打った共同ブースを展開しました。共同出 展したのは次の 7 企業・団体・個人です(順不同)。株式会社 ATR Creative、落合陽一(メ ディアアーティスト)、クウジット株式会社、公益社団法人シャンティ国際ボランティア 会(SVA)、合同会社リブライズ、特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イ ニシアティブ(LODI)、READYFOR?(オーマ株式会社)。ブースでは各出展者による展示 やデモのほか、3 日間で合計 12 本 のミニワークショップやトークイ ベントを開催しました。 また、主催フォーラムとして、 第 1 回 LRG フォーラム「これか らの図書館の資金調達−寄付・ 寄 贈 か ら フ ァ ン ド レ イ ジ ン グ へ」、OpenGLAM JAPAN 設立記念 フォーラム「文化機関が拓く、文 化機関を拓くオープンデータの世 界」、「喜連川優所長と語る学術情 報流通の未来」を実施しました。 第15回図書館総合展に出展
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    155ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド2013 年 秋号 弊社代表の岡本真、また雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド』編集担当の嶋田綾子 が以下の各種研修・講義・講演などに登壇し、また以下の媒体に寄稿しました(年内実 施予定を含む)。 ●Code4Lib JAPANカンファレンス2013 ●専門図書館関西地区協議会防災セミナー ●第2回ビブリオバトルinハウスクエア横浜 ●図書館員のためのブラッシュアップ講座10 ●第7回LinkedData勉強会 ●秋田県市町村図書館・公民室職員研修会 ●富田倫生さん追悼記念シンポジウム「青空文庫と図書館をつなぐ」 ●同志社大学図書館講習会 ●神奈川県立図書館パネルディスカッション「県立図書館の新たな方向性」  図書館アドバイザーレクチャー ●図書館地区別(北日本)研修 など ●岡本真「MLA、GLAM、MLAKのソーシャルメディア利用」  (『博物館研究』2013年9月号、公益財団法人日本博物館県協会) ●岡本真「擁護されるべき存在としての図書館─アドボカシーの観点から」  (『シャンティ』2013年秋号、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)) ●嶋田綾子「図書館の日常業務を小さな工夫から共有する『図書館100連発』」  (『カレントアウェアネス-E』246、国立国会図書館、2013年10月) ●嶋田綾子「図書館の知を共有するために」(『マガジン航』、2013年10月) 各種研修・講義・講演等での登壇、各種媒体への寄稿 研修・講義・講演等での登壇 各種媒体への寄稿 弊社業務問合せ先 mail:info@arg-corp.jp tel:070-5467-7032(岡本)
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    LRG Library ResourceGuide ライブラリー・リソース・ガイド 問い合わせ先:090-8052-0087(嶋田)/lrg@arg-corp.jp 1年4号分の定期購読を受付中です。最新号からでも、バックナンバーからでも、好きな号から のお申し込みができます。 定価:10,500円(税込) 定 期 購 読 ● 誌名:ライブラリー・リソース・ガイド(略称:LRG)  ● 発行:アカデミック・リソース・ガイド株式会社 ● 刊期:季刊(年4回)  ● 定価:2,625円(税込) ● ISSN:2187-4115 ● 詳細・入手先:http://fujisan.co.jp/pc/lrg 「ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)」はアカデミック・リソース・ガイド株式会社が、2012年 11月に創刊した、新しい図書館系専門雑誌です。さまざまな分野で活躍する著者による特 別寄稿と、図書館に関する事例や状況を取り上げる特集の2本立てで展開していきます。 最新情報は公式Facebookページでお知らせしています。 公式Facebookページ:https://www.facebook.com/LRGjp 定価 2,625円(税込)B A C K I S S U E 元国立国会図書館長の長尾真さんの図書館への思いを書き上げた「未来の 図書館を作るとは」を掲載。図書館のこれまでを概観し、電子書籍などこれか らの図書館のあり方を論じている。 特集は、「図書館100連発」と題し、どこの図書館でも明日から実践できる、小 さいけれどきらりと光る工夫を100事例集めて紹介している。第4号では、 100連発の第2弾として、創刊号で紹介後に積み上げた100事例を紹介して いる。 長尾真 「未来の図書館を作るとは」 特別寄稿 嶋田綾子 「図書館100連発」 特 集 内 容 創刊号・2012年秋号(2012年11月発行) SOLD OUT 156 定期購読・バックナンバーのご案内  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
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    特別寄稿は、前号(第3号)での特集「図書館における資金調達(ファンドレイ ジング)」を受けて、実際に資金調達を行っている組織からの視点、資金調達 のサービスを提供する事業者からの視点と、より理論的に図書館での資金調 達に迫る。第4号が理論編、第3号が実践編という位置づけであり、2号併せて 読むことをお勧めする。 特集は、創刊号で大きな反響を呼んだ「図書館100連発」の第2弾。さまざま な図書館で行われている小さくてもきらりと光る工夫や事業から、創刊号以降 の1年で集めた100個を紹介する。 岡本真・鎌倉幸子・米良はるか 「図書館における資金調達(ファンドレイジング)の未来」 特別寄稿 嶋田綾子 「図書館100連発 2」 特 集 内 容 第4号・2013年夏号(2013年8月発行) 東海大学の水島久光さんによる「『記憶を失う』ことをめぐって∼アーカイブと 地域を結びつける実践∼」は、水島さん自身の私的アーカイブの試みからの気 づき、夕張・鹿児島・東北の地域の記憶と記録を巡って、地域アーカイブの役 割と重要性を論じている。 特集は、「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」として図書館での資金調達の取り組みを紹介している。 昨今の自治体財政状況により、図書館の予算も十分とは言い難い。そのなかで、さまざまな手段を講じて、資金を 集め、事業を行っていこうとする図書館の取り組みを集めた。この特集を受けて第4号では、実際に資金調達を 行っている側からの視点と、資金調達のサービスを提供している事業者側からの視点によりさらに議論を深め、 これからの図書館の資金調達のあり方を論じている。第3号と第4号は、ぜひ、併せてお読みいただきたい。 水島久光 「『記憶を失う』ことをめぐって     ∼アーカイブと地域を結びつける実践∼」 特別寄稿 嶋田綾子・岡本真 「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」 特 集 内 容 第3号・2013年春号(2013年5月発行) フリーライターのみわよしこさんによる「『知』の機会不平等を解消するために −何から始めればよいのか」は、社会的に弱い立場とされる人々の知識・情報 へのアクセス状況を概観している。結論からいえば、必要な情報へのアクセス は保障されているとは言い難い。その状況のなかで、知のセーフティーネットであるべき公共図書館もまた、その 役目を果たしているのだろうか、と疑問を投げかけている。 特集では、株式会社カーリルの協力により、図書館のシステムの導入状況を分析している。全国の図書館では、そ れぞれ資料管理用のシステムを導入しているが、その導入の実態を分析する、これまでにないものとなっている。 みわよしこ 「『知』の機会不平等を解消するために         ──何から始めればよいのか」 特別寄稿 嶋田綾子(データ協力:株式会社カーリル) 「図書館システムの現在」 特 集 内 容 第2号・2013年冬号(2013年2月発行) 残部稀少 157定期購読・バックナンバーのご案内  ライブラリー・リソース・ガイド 2013 年 秋号
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    LRG LRG 6号 2014年2月 発行予定 LibraryResource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 次回予告 LRGライブラリー・リソース・ガイド 定価(本体価格2,500円+税) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特別寄稿 特 集 「図書館で学ぶ災害・防災」(仮) 日本の歴史を振り返ると、災害は全国各地で発生しており、その記録も各 地に眠っています。また災害は、自然災害だけではなく人災や公害、戦争 の記録もあります。LRG6号では、災害の記録や情報を提供する図書館 の取り組みを紹介し、市民への防災意識の醸成、身近な地域の防災体 制への図書館の貢献を考えます。 「東日本大震災と図書館」(仮) 東日本大震災から3年。被災地の図書館のこれまでとこれから、そして震 災をきっかけとして図書館の役割を考えます。
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    LRG ライブラリー・リソース・ガイド https://www.facebook.com/LRGjp 第5号/2013年 秋号 無断転載を禁ず 発 行日 発 行 人 編 集 人 責任編集 編  集 執筆協力 デザイン 発  行 2013年11月30日 岡本真 岡本真 嶋田綾子 大谷薫子 森オウジ、加藤敦太 アルファデザイン(佐藤理樹 + 小野寺志保) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 Academic Resource Guide, Inc. 〒231-0012 神奈川県横浜市中区相生町3-61 泰生ビル2F さくらWORKS<関内> http://www.arg.ne.jp/ ISSN 2187-4115
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    定価(本体価格2,500円+税) Library Resource Guide 第5号/2013年秋号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 ISSN 2187-4115 LRGライブラリー・リソース・ガイド