LRGライブラリー・リソース・ガイド 第7号/2014年 春号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
Library Resource Guide
ISSN 2187-4115
特別座談会 内沼晋太郎 × 河村奨 × 高橋征義 × 吉本龍司
未来の図書館をつくる
特集 猪谷千香
コモンズとしての図書館
司書名鑑 No.3 谷一文子(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター)
LRG Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド 
第7号/2014年 春号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
特別座談会
内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司
未来の図書館をつくる
特集 猪谷千香
コモンズとしての図書館
司書名鑑 No.3 谷一文子
(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター)
2 巻頭言  ライブラリー・リソー ス ・ ガ イ ド 2 0 1 4 年 春 号
『ライブラリー・リソース・ガイド』第 7 号を発刊することができました。本誌
をお読みいただいているみなさまに、改ためて感謝申し上げます。
創刊から 2 年目も半ばとなった今号から大きな変化があります。それは今回か
ら書き手に猪谷千香さんを迎えたことです。猪谷さんのお名前は弊誌をお読みに
なる方々であれば、よくご存知のことでしょう。本年初頭に刊行した『つながる
図書館』(ちくま新書)は図書館の枠を超えて読まれるベストセラーとなってい
ます。猪谷さんとは震災関係の取材で初めてお目にかかり、それ以降、様々な機
会でご一緒してきましたが、今回この『ライブラリー・リソース・ガイド』を生
み出すプロセスにご参画いただけることになりました。申し出を快く受けてくだ
さった猪谷さんにも御礼申し上げます。
さて、今回は、
●特別座談会
 「未来の図書館をつくる座談会」 内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司
●特集
 「コモンズとしての図書館」 猪谷千香
●司書名鑑No.3
 谷一文子(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター)
●羊の図書館めぐり
 第1回  大阪府立中之島図書館
という構成です。
巻頭言
図書館の新しいあり方へ
3巻 頭 言     ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春 号
「未来の図書館をつくる」座談会は、内沼晋太郎さん(B&B)、高橋征義さん(達
人出版会)、河村奨さん(リブライズ)、吉本龍司さん(カーリル)という豪華な顔
ぶれによる座談会を再録したものです。この座談会はウェブサイト「マガジン航」
< http://www.dotbook.jp/magazine-k/ > が行ったもので、同サイトに 3 回に渡っ
て連載されたものです。ただし、本誌に再録したものはさらに編集を加え、読み
やすさが増しているのではないかと思います。ぜひ、ウェブ版との違いも含めて
お読みください。
特集「コモンズとしての図書館」は、猪谷千香さんの幅広い取材の成果です。場
としての図書館を巡る議論が盛んですが、「場」を一歩進めて、「コモンズ」として
の図書館のあり方に注目した力作ではないでしょうか。
3 回目の掲載となる司書名鑑では、図書館業界のリーディングカンパニーであ
る図書館流通センター(TRC)を率い、また CCC との協業で注目を集める海老名
市立中央図書館の館長も務める谷一文子さんにご登場いただきました。谷一さん
の語る言葉にこれからの図書館を考えるヒントがあるのではないでしょうか。
 
最後に、恒例のお願いとなりますが、本誌を取り巻く経済環境は決して明るい
ものではありません。本誌を刊行するアカデミック・リソース・ガイド株式会社
としては、本誌で大きな利益を出すことは考えていませんが、適度なバランスは
維持しなくてはなりません。ぜひ、本誌の定期購読や最寄りの図書館への購入リ
クエスト、知人友人への推薦を引き続きお願いします。
※なお、本号より、利益の一部を公益財団法人シャンティ国際ボランティア会に
 寄付することといたしました。
編集兼発行人:岡本真
巻 頭 言 図書館の新しいあり方へ[岡本真] ………………………………………………… 2
特別座談会 未来の図書館をつくる[内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司] ………… 5
特   集 コモンズとしての図書館[猪谷千香] ………………………………………………… 65
LRG CONTENTS
Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド 第7号/2014年 春号
学び、集い、生み出す──これからの図書館へ
同志社大学ラーニング・コモンズ
奈良県立図書情報館
江戸川区立篠崎子ども図書館
船橋まるごと図書館プロジェクト
不忍ブックストリートの「一箱古本市」
武蔵野プレイス
紫波町図書館
オープンソースカフェ
ゲンロンカフェ
さくらWORKS<関内>
BBC長湯と「林の中の小さな図書館」
司書名鑑 No.3 谷一文子(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター)
羊の図書館めぐり 第1回 大阪府立中之島図書館
アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告
定期購読・バックナンバーのご案内
次号予告
…………… 138
……………………………………………… 146
…………………………………… 148
………………………………………………………………… 152
……………………………………………………………………………………………… 155
………………………………………… 66
………………………………………………………… 68
……………………………………………………………………… 80
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………………………………………………………… 102
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……………………………………………………………………………… 126
…………………………………………………………………… 128
…………………………………………………………………………… 130
………………………………………………………………… 132
………………………………………………… 134
特別座談会
内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司
未来の図書館をつくる
6 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
前・国立国会図書館長の長尾真さんの論考「未来の図書館を作るとは」が、「LRG」
創刊号(2012 年秋号)で掲載されてから約1年。館長在任中に、大胆かつ画期的
な「未来の図書館」像を提案した「長尾ビジョン」を引き継ぐ本テキストは、どの
ように読まれたのだろうか。
2013 年秋、「図書館」や「本」のあり方を革新する、思考の実践者 4 名が集まり、
長尾さんの論考を手がかりに、さまざまな角度から「未来の本と図書館」につい
て語り合った。
左から内沼晋太郎さん、高橋征義さん、河村奨さん、吉本龍司さん。下北沢オープンソースカフェにて。 撮影=二ッ屋絢子
内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司 李明喜(司会)
未来の図書館をつくる
*本座談会は、ウェブマガジン「マガジン航」が、2013 年 6月に「達人出版会」から「未来の図書館を作る
とは」が電子書籍(無償)として刊行されたのを機に行い、「未来の図書館をつくる座談会 Part 1 ∼ 3」
〈http://www.dotbook.jp/magazine-k/future_library_talk_01/〉として、同ウェブマガジンで発表され
たものです。
*本稿は、「マガジン航」編集人・仲俣暁生さんから許諾をうけ、本誌用に編集を加えて、転載したものです。
7特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう) 
1980 年生まれ。numabooks 代表。ブック・コーディネーターとして、異業
種の書籍売り場やライブラリーのプロデュース、書店・取次・出版社のコ
ンサルティング、電子書籍関連のプロデュースをはじめ、本にまつわるプ
ロジェクトの企画やディレクションを行う。2012 年、下北沢に「これから
の街の本屋」をコンセプトにした「B&B」を博報堂ケトルと恊業で開業。近
著に『本の逆襲』(朝日新聞出版、2013)。
「B&B」ホームページ http://bookandbeer.com/
河村奨(かわむら・つとむ)
千葉大学在学中にソフトウェア開発とデザインを専門として起業。オープ
ンソース活動に関わる中で、コワーキングとの親和性に気づき「下北沢オー
プンソースカフェ」を 2011 年オープン。2012 年、カフェやコワーキングス
ペースなど、街なかにある本棚をウェブで管理し、本を貸し借りできるよ
うにするサービス「リブライズ」を発表。
「リブライズ」ホームページ http://librize.com/ja/
吉本龍司(よしもと・りゅうじ)
1982 年生まれ。小学生の頃からプログラミングを始め、高校時代に有限会
社アール・ワイ・システムを設立。2012 年、全国 6000 以上の図書館から書
籍とその貸し出し状況を簡単に横断検索できるサービス「カーリル」を発表
し、株式会社カーリルの代表取締役に就任。
「カーリル」ホームページ http://calil.jp/
高橋征義(たかはし・まさよし) 
1972 年生まれ。勤務していた会社を辞め、2010 年、IT 系技術書の電子書籍
の制作・販売を行う電子書籍専門の出版社「達人出版会」を一人で設立。ソ
フトウェア技術者でもあり、特に国産のスクリプト言語として名高い Ruby
について精力的に活動を展開している。2004 年 8 月に「日本 Ruby の会」を
設立、会長を務める。
「達人出版会」ホームページ http://tatsu-zine.com/
司会:李明喜(り・みょんひ) 
1966 年生まれ。デザインチーム・マット代表/デザインディレクター/空間デザイナー。カフェや銀行など、
様々な形の本のある空間をデザイン。環境としての図書館のデザインに取り組む。
8 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
どのように本と関わってきたか
――司会・李明喜:前・国立国会図書館長の長尾真さんが2012年にお書きになっ
た「未来の図書館を作るとは」というテキストがあります。これは本誌「LRG(ラ
イブラリー・リソース・ガイド)」の創刊号(2012年秋号)に掲載されたのですが、
このテキストに「LRG」編集発行人の岡本真さんと長尾さんの対談を付録として
加えたものを、2014 年 6 月に「達人出版会」から電子書籍として出版されること
になっています(座談会当時。2014 年 6 月に出版)。今回の座談会はその刊行にあ
わせて、本や図書館に関わるユニークな活動をしている人たちの活動や考えをま
とめたら面白いのではないか、というところで生まれた企画です。
最初に、みなさんの活動と図書館とのつながりを、自己紹介をかねて伺います。
まずは図書館の世界にいちばん近いと思われる「カーリル」の吉本さんからお願
いできますか。
吉本龍司:「カーリル」というサービスを、4 年近く運営しています。「カーリル」
を始めるまでは図書館業界にいたわけではなく、始めてから図書館のことを知る
につれて、その奥深さを知りました(笑)。ただ、自分自身が図書館のユーザーか
といわれると、公共図書館のサービス自体に、現時点では魅力を感じないという
のが正直なところです。逆に現時点で満足していたら、「カーリル」のサービスは
やめてもいい。「カーリル」が勝手にクラウドで動いて、維持管理の他は何もしな
くてもいいのなら、僕じゃなくてもできる。そういうことも考えると、満足して
ないからこそ続けられているように思います。
「カーリル」を始めて数ケ月目にできたコンセプトは、「ウェブから図書館へ」
でも「図書館からウェブへ」でもいいから、「図書館という場所とウェブをつない
でいきたい」ということでした。 実際のサービスとしては、自宅の他、社会人な
ら会社、学生なら大学といった生活圏にある複数の図書館の蔵書をまとめて検索
できる便利なもので、まずは使ってもらうことが重要です。
「カーリル」のサービスを続けることの先に僕がやっていきたいのは、情報社会
における図書館運営の大きな変化の中で、公共図書館と一緒にウェブサービスを
やっていくことで、「図書館の人たちは次にどうするのか?」というところにいち
ばん興味があります。
はじめに
9特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
――次は「リブライズ」の河村さん、お願いします。
河村奨:私は「リブライズ」というサービスを運営しています。僕たちは全ての本
棚が「図書館」だと思っているんです。ふつう図書館といったとき、公共図書館と
か学校の図書館を思い浮かべると思うのですが、僕らはそれこそ 10 冊でもいい
から本の入った棚があれば、そこは「図書館」だと言っています。英語で「Library」
という場合、図書室でもいいし、もっと小さなスペースでもライブラリーなわけ
です。
「リブライズ」でやっているのは、その「本棚」に入っている本を目録としてウェ
ブに上げて、どんな本が置いてあるのかが、その場に行かなくてもすぐ分かるよ
うにすることです。今、私たちがいる「下北沢オープンソースカフェ」(P126 参
照)は 2 つのスペースがあって、隣の部屋の本棚に、オープンソース関連を中心に、
デザインや図書館関係の本が 700 冊ほど置いてあります。その目録をウェブで知
り、気になって借りに来てくれる人がいたりします。
「リブライズ」のミッションは「すべての本棚を図書館に」ですが、自分たちの
活動を「図書館」と名乗りたいわけじゃなくて、他にいい言葉がないという部分
もあります。本を読みたいユーザーの側からすると、本は買ってもいいし、借り
てもいいし、その場に行って読むのでもいい。その違いは、あまり気にしていな
いように思います。でも、それらの行為をする場をまとめるような言葉がないん
です。 サービスの利用者の方向けには「ブックスポット」という言い方をしてい
ますが、一般の方向けには分かりやすく「図書館」という言葉を使っていて、そう
した場所が全国 300 ケ所くらいに増えてきています。
「本棚がある場所」というだけなら、国内でも何十万という単位で存在するはず
なので、最終的にはそこまで、あるいは世界中にもひろげられるなら、いたると
ころを「図書館」にしたいということで活動しています。いちおう合同会社です
けど、実体は「秘密結社」みたいな感じです(笑)。
―― 続きまして「達人出版会」の高橋さん、お願いします。
高橋征義:「達人出版会」代表取締役の高橋と申します。この中で図書館といちば
ん関係がなさそうな感じですが(笑)。もともとプログラマーをやっていたのです
10 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
が、思い立って電子書籍の出版社を立ち上げました。基本的には IT エンジニア向
けの電子書籍を取り扱っているので技術書がほとんどですが、多少は読み物もあ
ります。自分のところで本をつくって販売しています。紙の書籍でいうところの
「出版社」と「書店」を兼ねるというスタイルですね。
図書館との関わりでいうと、うちでつくっている本は図書館には置いてないん
です。「リブライズ」のように「図書館」的なものをつくりたいと思っても、うち
は EPUB と PDF がベースで、しかも DRM(デジタル著作権管理 、Digital Rights
Management のこと)もかけない方針でやっているので、基本的にいくらでも
コピーができてしまうんです。「コピーも印刷も全て好きにしてください。ただ
し、個人利用を徹底してください」としているので、仕組み的に図書館にならない。
むしろ「自分で買ったものだから、この電子書籍を図書館にしたいです」とか、「こ
れで図書館を始めました」とか言われると、すごく困るんです(笑)。
そもそも電子書籍に携わる者としては、「電子書籍の図書館 」に関してあまり
ピンとこないというか、理想的な未来が全く見えてこないのが正直なところです。
――このあとの議論の中で、そのヒントが得られたらいいですね。では最後に内
沼さん。内沼さんは「B&B」という本屋を経営しておられますが、その他にもいろ
いろな活動をされているので、それも含めてお話ください。
内沼晋太郎:僕は numabooks という屋号で、ずっとフリーランスで本に関わる
仕事をしています。最初に主な仕事として始めたのは、洋服屋さんとか飲食店と
いった異業種における本の売り場をプロデュースすることや、企業の受付とか病
院の待合室、集合住宅の共有部分といったところに、本を閲覧できる場所をつく
ることでした。そういう場所が「ライブラリー」と呼ばれるときもあって、それは
「図書館」でもあるのかもしれませんね。その過程で派生した仕事として、出版社
や書店のコンサルティング、電子書籍のプラットフォームのプロモーションやプ
ロデュースなど、幅広く本に関わる仕事をしてきました。
2012 年 7 月に、「博報堂ケトル」の代表・嶋浩一郎さんと、下北沢で「B&B」と
いう書店を共同で始めました。「B&B」は基本的に新刊書店ですが、大きく特徴が
3 つあります。まず、有料のトークイベントを毎晩やること。基本的に著者や編集
11特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
者の方をお呼びしています。
2 つ目に、ビールを中心としたドリンクの販売です。「B&B」という店名は「ブッ
ク&ビア」の略です。昼間から店内でビールを飲みながら本を選べる新刊書店な
んです。3 つ目は、家具の販売です。本棚、平台に使っているテーブル、お客さん
が座る椅子や照明といった店内の什器は、目黒区にある KONTRAST(コントラス
ト)というヴィンテージの北欧家具屋さんと提携して販売しています。
「B&B」のコンセプトは「これからの街の本屋」なんですが、なぜこういうこと
をやっているかというと、書店経営と相乗効果のある ビジネスをすることで、健
全な経営の状態をつくっているわけです。新刊書店は今や成り立ちにくいビジネ
スなんですね。新規参入も僕たちが数年ぶりといわれるくらいですから、ほとん
ど終わったビジネスだといっていいんです。
新刊書店は他の小売と違って、簡単にいうと経営努力がしにくい。飲食店であ
れば、安い食材を使って価格を下げるとか、逆に クオリティを上げて価格を上げ
るとか、近隣にない業態に転換するとか、経営努力のしようがたくさんある。と
ころが新刊書店は本の価格も均一だし、商品も同じです。
「良い棚をつくれば、お客さんが来る」というのは理想ですが、2 倍の時間をか
けて棚づくりをしたら 2 倍売れるかというと、現実はそういかない。人件費を
カットして、むしろ棚をつくることから遠ざかる方向にいってしまう。ニワトリ
と卵の関係みたいな話なんですけど、「棚をつくる」ことに力をいれるには売上が
必要で、それはすごく長期的な話で基本的には難しい。
でも僕は、きちんとセレクトされた本屋さんが街にあるべきだと思うし、「街
の本屋」が大好きなので、それが成り立つ方法を現場で実践しているわけです
(「LRG」5 号/ 2013 年秋号 特別寄稿所収「本をめぐる冒険」参照)。
「未来の図書館を作るとは」を読んで
――ひととおり話を伺っただけでも、みなさんのスタンスが違っていて面白いと
思います。では、長尾真さんの「未来の図書館を作るとは」を読んだ感想を伺えま
すか。
吉本:図書館の世界から見たときのことを、すごく網羅的にまとめられているな、
というのが率直な感想です。長尾さんは当時、国立国会図書館長でしたから、も
12 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
のすごく突飛な話でもないし、極論でもない。ただ、もともと僕自身がプログラ
マーという立場で図書館に出会ってきたので、「図書館」というよりも、どちらか
というと「情報」という背景をもっている。だから長尾さんがここで仰られてい
る「分類」の難しさという話などは、実は最初、あまりしっくりこなかったんです。
なぜ図書館がこういうところにこだわるのかと。読み込んでいくと、分かるとこ
ろもあるのですが。
河村:私も網羅的な印象を受けました 。図書館の「中の人」としてはありえない
ぐらい、広く見ている人だなと。全般としては、すごくバランスを感じるのです
が、ところどころ「そうだね」と思うところと、どうしてもあまり肯定的になれな
い部分とがありました。
実は、あまり肯定的になれない部分というのが、どちらかというと情報工学の
部分なんです。ご自身の専門分野であるところが、20 年前の幻想を引きずってい
るような気配をちょっと感じてしまって。例えば「分類」の部分などは、長尾さん
自身、すでに機能しないことを認めつつも、その方法論の中で次の回答を探して
いる感じが気になるんです。
その他の部分だと、「図書館」という言葉を長尾さん自身、あまり固定的に使っ
ていない。出てくる文脈ごとに、全然意味が違うんですよ。でもそれはすごく面
白くて。「図書館」と「書店」もあまり区別をしていないし、後半の方で、例えば「書
店はもっとカフェのようになるべきだ」とか、まさに「B&B」がされているような
話が出てくる(笑)。
私も、ここ「下北沢オープンソースカフェ」というコワーキングスペースを運
営しているのですが、これも長尾さんの文脈に何度も出てくることを、「公共図書
館ではない場所」でやっている事例かもしれない。彼が「公共図書館でやるべき
だ」と言ったり、「街の書店でやるべきだ」と言っていることを、期せずしてここ
でやっているっていう。
今、コワーキングスペースは民間の公民館みたいな機能をもちつつある。長尾
さんのいう intellectual commons(「LRG」創刊号/ 2012 年秋号「未来の図書館を
作るとは」P27 参照)が、たぶん街の中のコワーキングスペースだったり、「B&B」
みたいな本屋さんのかたちで生まれてきているんですね。そういった機能が公共
図書館の中に生まれるべきなのかどうかは、まだよく分からないんですが、社会
13特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
の要請として、いま、そういう場所がどんどん生まれている気がして、そこの文
脈はすごくしっくりきます。
――分かりました。では高橋さん、いかがですか。
高橋:言葉をどう選ぼうかと考えていたんですが、どちらかというと不満が残る
というか、もの足りないところがありました。というのも長尾館長といえば、「長
尾ビジョン」じゃないですか。「長尾ビジョン」が出たとき、みんながびっくりし
たわけです。「えっ、図書館の中でも、国立国会図書館がこれをやるの?」と。し
かも古典や著作権の保護期間が切れたものだけじゃなく、あらゆる本のデータを
売ってもいいみたいな感じで。それに比べると、これまでの集大成としてはこう
いうかたちになるのかなと思いつつも、さきほど内沼さんが仰った「これからの
街の本屋」ではないですが、「これからの図書館」という意味では、あまり「これ
から」感がない、というのが正直な感想でした。
――「長尾ビジョン」が出たときにくらべて、網羅的にまとめられている今回の
テキストでは、その勢いがダウンしてしまったという感じですか。
高橋:トーンダウンというよりは、それと同じ話にとどまっていて、「その先」に
あまり行ってない印象ですね。もっと 100 年後とか、1000 年後の未来……そこま
でいかなくてもいいですけど(笑)。とにかく、人間の図書館と「知」は長期的にど
うなるのかといった話を、最後だから少し期待したんですが、あまりそういう感
じではなく、普通にまとまっていたという印象です。
内沼:鵜呑みにするのはよくないですけれど、「これからの図書館」についての一
つの見方を、ひとりの人間が網羅的に考えたことがまとまっているテキストです
よね。現場の図書館員や書店員は、こんなことまで考えが及んでいないと思うの
で、読んでおくとよいものの一つだと思いました。
ただ、いろんなかたちで本の仕事をしてきて、その中で培ってきた僕にとって
の「本」の捉え方と、長尾さんにとっての「本」の捉え方が、そもそもかなり違う
んだろうなと感じた。簡単に言うと、長尾さんにとってはその「中身」、つまりそ
14 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「B&B」 店内奥スペースはレイアウトを変更し、イベント会場にもなる  撮影=岡本真
「B&B」 Tシャツやバックなどオリジナルアイテムも用意している  撮影=岡本真
15特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「B&B」 店内のインテリアにはすべてタグがつけられて、商品として販売される  撮影=岡本真
「B&B」 店内ではビールを片手に、本棚の本を手にすることができる  写真提供=B&B
16 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「下北沢オープンソースカフェ」 図書室としても作業ができるスペース      写真提供(見開きとも)=リブライズ
「下北沢オープンソースカフェ」 カフェ機能の他、プレゼンや雑談などを通して、人と交流ができる多目的スペース
17特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「リブライズ」は、本棚から始まるコミュニケーションを身軽に実現する
「下北沢オープンソースカフェ」 本棚にはウェブ、IT系の本を中心にした専門書が、小分類されて置かれている
18 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
こに「書かれていること」が「本」なんだと思うんです。大前提として「本はこれ
から電子化する、デジタルの方がいいよね」というのがありますよね?
――「デジタルの方がいいよね」とまでは仰っていませんが、電子化が進むとい
うのは、前提としてありますね。
内沼:そうですよね。かなりの「本」が電子になることを前提に書かれています。
しかもそのときの「本」は、「そこに書かれている中身」のことで、だからこそ検索
対象になったり、情報工学的に整理されていたり、図書館だから当たり前ですが、
それらは学問や研究のための資料になる。
でも僕が扱ってきた本は、「中身」であると同時に「物」あるいは「プロダクト」
でもあるんです。多くの人にとって本というのは、「かわいいから欲しい」とか、
「本棚に置きたいから欲しい」とか、そういうものでもあるんですよね。その現場
に僕はずっと立ち会ってきたので、そういう本の捉え方とはだいぶ違う印象です。
研究者だけではなく、一般の人も図書館に行くわけですが、そこでどんな本を、
どのように手に取るかということを考えるにあたって、本の装丁とか、紙の出触
りとか、物としての存在感みたいなものは無視できません。そういうところを含
めて、「本」の捉え方が限定的なテキストだとは感じました。
例えば、このあいだツイッターで、ある図書館員の人が「今日は暑いですね。図
書館は涼しいです。だから図書館に行こう」みたいなことをつぶやいていたんで
す(笑)。「涼しいから図書館に行こう」というのは、長尾さんの仰る図書館とは
けっこう違いますね。
『ブックビジネス 2.0̶̶ウェブ時代の新しい本の生態系』(実業之日本社、
2010 年)でも橋本大也さんが「図書館=教会」論、つまり「図書館は現代の教会だ」
と言っています。街で行く場所がない人とか、時間を持て余している人たちが自
由に時間を過ごせる場所が今は図書館ぐらいしかない、という話だったと思い
ます。この「図書館は教会である」という前提のもとで言うと、「涼しいからおい
で」っていうような図書館のあり方もあるんじゃないか。
そこからしても、長尾さんのテキストはどうしても、本あるいは図書館の特定
のあり方に即して書かれている感じがしてしまうんです。
――司会という立場を離れて、少しだけ言わせてください。僕は長尾さんのテキ
19特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ストは、必ずしも網羅的ではないと思っているんです。むしろテーマが限定され
たテキストで、読む方が補完して読む必要があると思いました。つまりこのテキ
ストは、長尾さんの研究者としてのキャリアの中では「総論」ですが、「図書館」や
「本屋」の未来、あるいは「知」の世界の未来についての総論ではなく、読者がその
部分は補完して読むことを期待されたテキストだと思うんです。
例えば「図書館」と「研究」との関係も、固定的なものではないわけです。『知は
いかにして「再発明」されたか――アレキサンドリア図書館からインターネット
まで』(日経 BP 社、2010 年)という、何が「知」の制度として機能してきたかを
人類史の時代ごとに綴った本があります。これによると、古代アレキサンドリア
の図書館から始まって、中世の修道院、大学、「文字の共和国」、専門分野、実験室
……というふうに「知」を支える制度は、時代ごとに変わっていく。ちなみに実験
室が機能していたのは 1970 年くらいまでで、それ以降がこの本では「インター
ネットへ」とされている。
この「研究室からインターネットへ」へのシフトは、これまでとはスケールが
桁違いだと僕は思うんです。「知識」を扱う情報と、知識とは関係のない大衆レベ
ルでの情報は、インターネット以前はあきらかに別のものとされていた。でもイ
ンターネット以降、「知識」と「情報」のあいだに差をつけることに意味がなくなっ
てきている。もちろん厳密にいえば「知識」というものは体系化されていなけれ
ばならないわけですが、長尾さんが研究をなさってきた時期が、まさにその「過
渡期」の時代であることに考慮して読む必要があるのではないかと思いました。
本とは「生むときに苦しんだもの」のこと
――ところで、みなさんは「本」というものを、ご自身の活動の中でどのようにと
らえていますか? 「電子書籍」も含めてけっこうですが。
河村:「一定量の知識が集まっているもの」でしょうか。文脈によって自分自身
でも使い分けているから、あまり明確な定義はないですね。モノとしての実体が
なくてはいけないということもないし、ホームページを「これは本なんだ」と言
本の定義を考える
20 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
いたい人がいたら、それにも納得感があるし。さすがにツイッターの 140 文字を、
「これは本です」と言われたら、「んん∼」っていう感覚はありますが(笑)。でも、
そこにある程度の蘊蓄などが詰まっていたら、「本」だと言われてもしょうがない
かなと。
「リブライズ」はリアルな本を対象にしているけれど、私自身は電子書籍を発行
するウェブサービスも別にやっているので、そのあたりは両方にこだわりがある
ような、両方ともこだわりがないような(笑)。
吉本:「カーリル」の中では、本をどう扱っているかははっきりしています。まず、
「図書館がそれを本として扱っている」という条件がある。例えば図書館の分類か
らいえば、「雑誌」と「本」は違うわけです。個人的には正直、そこのあたりはあま
り理解していないんですが。自分自身としては、図書館でいう「本」よりは、たぶ
んもうちょっと広いところでとらえてはいるのですが、「カーリル」というサービ
スは、どうしてもそこにひきずられてしまう。
――「カーリル」を抜きにしていうと?
吉本:「本というのは、生むときに苦しんだもの」のことなんじゃないかと。
一同:おお∼!
吉本:締切とかがあって、書き手が苦しんで生んだものが「本」じゃないかと。ツ
イッターでもブログでも、「本にしよう」と言った瞬間、生みの苦しみが出るんで
すよ(笑)。ちゃんと編集しなきゃいけない、みたいな。だから、たとえブログで
も「どうしよう、毎週出さなきゃ」というストレスを感じながら書いていたら、そ
れは「本」みたいな感じもする。それが僕の個人的な感覚ですね。
河村:私も一つ追加していいですか? 「リブライズ」をやっている中で、だんだ
んはっきりしてきたんですが、「本」だったり「本棚」が、誰かの知識の座標になっ
ていることが多いんですよ。それは文学書でも、大衆小説でも、学術書でもそう
ですが、何かの話をするとき本や本棚が、その知識にポイントをおけるアンカー
21特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
(錨)になっているケースが多いんです。たぶん、生みの苦しみを経たものは、そ
うなる確率が高いと思うんですね。例えば長尾さんのこの文章も、私は PDF で読
みましたが、これはアンカーだと思うんですよ。
高橋:本にも一般の書店で売っている本と、同人誌みたいなものがあるでしょ
う。自分の中では、両者はだいぶ違うものだという区別があって、同人誌はあま
り「本」とは言わないんです。でも、電子になるとあまりその区別がなくなるんで
すよ(笑)。
――なるほど。それはなぜですか?
高橋:なぜなんですかね。その違いがどこからくるのか、自分でもあまり分かっ
てないのですが。結果論として、たまたまできているものが違うだけかもしれま
せんが……。
――「達人出版会」は、電子書籍専門ですよね。今の話からすると、紙だとそうい
う差が出てしまうけれど、電子では出ないというあたりを意識したりしません
か?
高橋:ええ、だからうちで出しているものが「同人誌」なのか「同人誌じゃない書
籍」なのか、あまりよく分からない(笑)。それはどこかで区切れるものではなくて、
「同人誌っぽいもの」と「同人誌っぽくないもの」が、「本」の中でなめらかに混ざっ
ているみたいな感じがします。
内沼:「社会を変えたい」とか「誰かに強い影響を与えたい」という使命感で書か
れたものが、例えば「同人誌じゃないもの」で、そんなに生みの苦しみを経てな
い、自分が書きたいものを書いたものが「同人誌」というニュアンスなのですか
ね。ひょっとしたら「苦しんでない」感じが「同人誌っぽさ」なのかもしれませんね。
もちろん「苦しんでいる同人誌」もあると思いますが(笑)。
吉本:生みの苦しみの原点が何かというと、「固定化」みたいなところにあるので
しょうか。ようするに、あとで直せるというのは、苦しみに対するかなりの緩和
22 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
剤になっているのかもしれない。印刷するとなると、うっかり間違ったことを書
いたら直せない。そのせいで世の中が変わっちゃうって(笑)。もうちょっとライ
トに考えても、ここで間違えると、直すためにはさらにお金が飛んでいく、とい
うプレッシャーもあります。そこが生みの苦しみのもとですよね。
―― 電子だと「生みの苦しみ」はないですか?
高橋:紙に比べると、ほとんどないですね。紙の本は、書き手としてしか関わっ
たことがありませんが、書く方のプレッシャーは紙の方がぜんぜん大変です(笑)。
吉本:紙の新聞とウェブニュースの関係に近いのかもしれない……。
内沼:「本」をどう定義するかというのは、今はかなり個人の考え方によって違っ
てきていると思うんです。その中でも「本」とは「生みの苦しみである」という定
義は、個人的にはかなりいい線をいってる。今まで聞いた中でも、相当しっくり
きたんですよ。
吉本:ほんとですか?(笑)。
内沼:ただ、それさえも 100%の定義かというと、きっとそうではない。例えば、
誰かが居酒屋で、何も苦しむことなく適当にしゃべったことを文字に起こして出
版されたような本が、世の中には存在するでしょう? これは「本じゃない」の
かというと、違うという人もいるかもしれないけど、全員が「本じゃない」とはい
わないと思うんですよね。生むときに全く苦しんでないものも、それが印刷され
て紙に綴じられて 、本屋さんが売ったり、図書館が所蔵したりするという側面で
は「本」なんだと思う。
今ちょうど、『本の逆襲』(座談会当時。2013 年 12 月に刊行)というタイトルの
本を書いているんです。たぶん僕も、何かを「網羅しよう」と思って書いているん
ですね。「本」というものがいま、どういう状況にあって、これから本の仕事をす
る人たちは、どういう仕事をすることになるのかということを書いている。この
本の中でも、やっぱり本の定義について話をするんですよ。でも最後は自分の中
23特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
でも、定義ができないんですね。
ツイッターの 140 文字を「本」だと言う人がいてもいいし、今こうやって喋っ
ている時点で、もうこれが「本」なんだよね、みたいなことを言うのもありだと思
うんです。リアルタイムで取られている音声データが .mp3 の音声形式になって、
その音声を誰かが書き起こして .txt のファイルになったり、それをレイアウトし
た .pdf のファイルになった瞬間に、「これは本だ」って言う人がかなりいるわけ
でしょう? でも、その中身が「本」ならば、同じようなファイルとして並ぶわけ
だから、.mp3 の時点で「本」だということにしてもいいじゃないか、というよう
なことをその本で書いているんです。
「本の定義」はわりとどうでもよくて、それぞれ本に関わる人が自分なりに
「本ってこういうものだよね」と思って行動すればいいと思っています。「カーリ
ル」「リブライズ」「達人出版会」、それぞれにとっての「本」があるように、長尾さ
んにとっても「本」はこういうものだ、という話の流れでここまで来たのかなと
いう気がしています。
河村:今の話をふまえて、もういちど長尾さんのテキストを読み直してみると、
長尾さんは、「映画は本だ」と思っているんですよ。全ての情報体は本だと思って
いるわけですから、彼の中では「本」の概念が「情報」と、ほぼ一致しているんじゃ
ないのかと思います。
――そうですね。だから定義づけというよりは、どちらの側から考えるか、とい
う問題なんだと思います。長尾さんは、「知識」とか「情報」から本を考えている。
それらのアウトプットとして「本」というかたちがあるわけです。でも本を書く
人たちからすると、「生みの苦しみ」の方が先なわけです(笑)。
内沼:そうだと思いますね。「生みの苦しみ」という定義がかなりいいなと思った
のは、ふわっとした定義ではあるけれど、一本の数直線上に「苦しい」と「苦しく
ない」があって、「この線より苦しんだものが本」だと、それぞれが決められると
ころがいいと思うんです。例えばウィキペディアで「本とは何か」を調べると、す
でに「冊子」という形態の話をしているんですよね。でもそうすると、企業広告の
パンフレットみたいなのも「本」だということになるし、実際そう思う人もいる
わけです。だけどそこで切っちゃうと、0 か1か、これは本だけどこれは本じゃな
24 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
い、みたいな話になる。それが「苦しい」「苦しくない」という線だと、どこでどう
切るかは個人のさじ加減になる。だからいいなあって(笑)。
あと『WIRED』の創刊編集長のケヴィン・ケリーが、「『本』は物体のことではない。
それは持続して展開される論点やナラティヴだ」と言っていますが、これも悪く
ない定義だと思います。
――ケヴィン・ケリーの著作選集が、「達人出版会」からフリーで出ています。こ
の本は技術書ではなくて、一種のマニフェストですよね。長尾さんのテキストは、
「工学者が書いたマニフェスト」だと思うので、同じように「達人出版会」から出
ることが感慨深いです。
デジタルならではの「生みの苦しみ」
内沼:さきほどのケヴィン・ケリーの「本とは持続して展開される論点やナラティ
ヴである」という定義は、ウィキペディアの「本とは冊子である」という定義とは
別の話で、「本とは生みの苦しみである」という定義に似ている気がします。そも
そも生むのが苦しくなかったら、論点とかナラティヴが持続しないと思うんです
よ。
――ただケヴィン・ケリーの言葉だと、紙の本かどうかという話は抜きになるん
ですよね。紙だからこそ「生みの苦しみ」があるとしたら……ああ、こっちも紙か
電子かは関係ないのか(笑)。
吉本:紙の方が「生みの苦しみ」がより強制的に……。
内沼:そう。比較的に起こりやすい、というだけの話で(笑)。
河村:それに、紙の方が手触りやレイアウトによって、行間に込められた「苦しみ」
が分かりやすいんですよ。デジタルの場合は全てがバイトの情報になってしまう
から、コンテンツの中身ぐらいでしか勝負ができない。でも、それだと素人目に
は、どう苦しんでいるのかが分からないんです。
高橋:紙の本という「モノ」をつくること自体、けっこう大変ですよね。物質を組
25特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
み上げる作業は、電子の場合のように自動化してパーッとつくるかたちには絶対
ならない。だからこそ、誰かの意思やコストがそこにかかってくるわけです。
内沼:吉本さんが仰る「紙の方が、苦しみが強制的」という話は、たぶんシンプル
に締切の話ですよね(笑)。つまり、そこでコンテンツが「固定される」か「固定さ
れない」かの違いでしかない。「固定される」というのはやり直しが利かないので、
やり直しが利かないから、本気を出さなきゃいけない。本気を出さなきゃいけな
いから苦しい、という話かなのかと思います。
吉本:そういう意味では、電子書籍はまだいろんな点で統合されていないから、
紙の本を出すのと同じようなことが起きます。
内沼:そう、電子書籍もまあまあ苦しいんです(笑)。ただ、苦しさに違いがある。
――「達人出版会」で電子出版された「未来の図書館を作るとは」の付録に収録さ
れた岡本さんとの対談の中で長尾さんは、紙の本が粛々と電子化されている現在
の電子書籍や電子図書館は「第一ステップ」にすぎないと仰っています。「第二ス
テップ」では、それらがフラットなネットワーク構造になる。「第三ステップ」で
はさらに進んで、ある視点をもって「第二ステップ」でできたネットワークの中
に立ったとき、自分の関心の文脈に特化された部分的なネットワークが浮かび上
がってくる。そこまでをシステム側で実現できないだろうか、と仰っていました
ね。
今はまだ「第一ステップ」なので、電子書籍の「生みの苦しみ」は紙の本に比べ
ると楽ですが、これからはデジタルならではの、新しい「生みの苦しみ」が生まれ
てくるのではないでしょうか。
吉本:新しい「生みの苦しみ」ってなんでしょうね。人は楽な方に行きたいです
から、なくてもいいなら締め切りがない方を選ぶ(笑)。生きている限り、苦しみ
のない方に行くのは否定できないわけです。実はプログラマーが抱えている問題
も、物書きの人と一緒なんですよ。今まで僕が関わってきたファームウェアや製
品のプログラムは、いったん出してしまったら回収できない。するなら全部回収
するしかないわけです。そういう点では本と一緒だったのが、ウェブサービスに
26 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
なった瞬間、全く違ってきた。
河村:そういう意味では、僕らはすでに新しい「生みの苦しみ」を味わっている
のかもしれません。誰からも強制されてないのに毎日「リブライズ」を開発して
いて、締切状態がずっと続いている。紙の本だと、締切が終わったときに解放さ
れる爽快感があるんですが、開発にはそれもない(笑)。
吉本:インターネットによる創造行為が、本だけじゃなくてソフトウェアやサー
ビスといった業界において、そのビジネスを変化させましたよね。今までのビジ
ネスは、「箱」をつくってそこに商品を並べて、こういう店舗をつくれば売れる
……という発想でやってきたけれど、それでは済まなくなってきた。
河村:イベントのあり方も、完全に変わってきました。先日、駅前でファッショ
ンショーがあったんです。100 人くらいの女の子が、下北沢の地元のお店の服を
着て歩くんですが、その観客は基本的に、みんなファッションショーに出る女の
子たちの友だちなんです。今までは「イベント」だけのパッケージをつくってい
ましたが、今はもうそこが崩れている。インターネット上だけじゃなく現実のイ
ベントでも、全般的にそういう揺り戻しが来ているのではないでしょうか。
固定化とコストの関係
――イベントの話は、「場所」の話でもありますね。ここまでは紙の本や電子書籍
をめぐる話でしたが、図書館という「場所」の方に広げていきましょうか。河村さ
んと内沼さんは、それぞれ自分たちの場所(お店)を構えていらっしゃいます。
吉本さんと高橋さんは、特に場所を構えておられない。本や電子書籍、電子図書
館がもっている意味は、場所性と何か関係があるのでしょうか。
河村:長尾さんのテキストの最初の方に、「思想の形成」というくだりがあります
よね。そこで「新しい創造のための議論は言葉の世界だけでなく、それを発信す
る人の全人格が相手に伝わることが大切」だと仰られています。それは設定され
「場所」のもつ意味
27特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
た会議のような場だけでなく、むしろ普通のコミュニケーションにおいて、最も
よく機能する。だからこそ、そうした場所に人が集まるんだと長尾さんは書いて
おられる。ここにはすごく賛成なんです。
僕は日々の仕事の中で、雑談のようなところから生れてくる新しいものが好き
なんです。「下北沢オープンソースカフェ」も、そのためにやっている。会議も新
しい創造がうまれる一つのきっかけにはなりますが、そこで会うだけだと、お互
いの関係がまだキレイすぎる。もっと「普段着の状態」になったところから、面白
いものが出てくるんですよ。
――つまり、ここは「一時的なイベントをするための場所」というより、「持続性
をもった場所」という考えなんですね。
河村:そうです。むしろイベントは副次効果というか、サービスなんです。人が
集まると、なぜかみんなイベントをやりたがる(笑)。だからイベントもやります
が、それが目的ではない。むしろ人が集まる循環をつくり出すためのキーとして、
イベントをやっているんです。
内沼:「B&B」の場合も、かなり似ていますね。毎日しているイベントは「本」の編
集と同じで、誰と誰をどういうふうにしゃべらせたら、面白いコミュニケーショ
ンや新しい「知」が生まれるのか、それをつねに考えています。僕たちが「街の本
屋」というときにイメージしているのは、街の中で「知的好奇心の渦の中心」にな
るような場所なんです。
この話をあえて図書館の話につなげると、長尾さんもお書きになっているとお
り、特に国立国会図書館では「すべての知を集める」ことを理想とされています
よね? でも、現在において「すべての知」と言ったとき、どこまでを指すんで
しょうか。ウェブサイトや電子書籍の知も集めようとしていますが、それはきり
がないから、僕はやめた方がいいと思っているんです。例えば、たまたま出会っ
た人同士の会話に「知」があったら、理屈上、それも収集しないといけないわけで
す。
「本」の価値は「書かれたこと」が全てではなくて、それを読者がどう受け取って、
頭の中でどう理解し、どう考えるかによって違ってくるし、そういうことが生ま
れてくるのが、本の良さでもある。でも「どう読むか」は人によって違うし、他者
28 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
と読み方がぶつかったときに、そこから新しい方向に発展したりする。こうした
ことを含めた全てが「本」だとすると、「知」はいろんなところに渦巻いている。い
ま、話しているこの座談会も、突き詰めれば図書館の収集対象になってしまう。
――高橋さんは電子書籍を販売する立場からみて、場所性についてはどう考えま
すか? 例えば米光一成(1964 年∼。電子書籍にも積極的に取り組むゲームデザ
イナー、インターフェイスデザイナー)さんが、以前「電書フリマ」という「実際
の場所で電子書籍だけを売る」というイベントをなさっていますよね。
高橋:場所ってコストが高いじゃないですか(笑)。電子書籍の場合、紙の本より
儲からないというか、あまり利益をとらないでやっていきましょうという方向な
んです。しかもうちの方針としては、紙だと出せないようなものを、電子で出そ
うという発想をしています。
なぜ紙で出せないかというと、ようするに売れないからです。紙の本だと、
2,000 ∼ 3,000 部ぐらい刷らないと採算がたちませんが、電子なら 100 ∼ 200 部
売って利益を出すといったモデルがつくれるわけです。それをするには、とにか
くコストを削らないといけない……という話になったとき、コスト的に場所をも
つのは難しい部分があります。場所が嫌いというのではなくて、「リアルなもの」
というのはとにかく高い(笑)。
河村:それに、あえて「場所」でやることの意味が、電子書籍という文脈の中では
よく分からないですよね。
高橋:そうですね。やってみたら面白そうな感じではあるんですが。
河村:「達人出版会」の本を限定部数でオンデマンド印刷して、「下北沢オープン
ソースカフェ」に置かせてもらうことができたら、買ってくれる人はけっこうい
るはずです。でも、普通の本屋で売ってもダメだと思うんです(笑)。ここは少し
特殊な人たちが集まる場所なので、そういう特定のターゲットには響く。ただ、
そういう人たちが集まるリアルな場所をつくるにはコストがかかるので、半端な
気持ちではできない。
29特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
内沼:いまの話はすごく面白い。つまり「家賃は高い」という話と、「印刷代は高い」
という話が一緒だということですよね(笑)。「電子書籍は、印刷するほどのもの
でないもの」という話は、ある場所を維持してそこで語られてたこと、つまり「知
として収集する必要があるかどうか分からないものまで、全て記録しておくべき
なのか」という話と似ている。記録しておきたくなるけれど、実際は、全てを記録
することはできない。ましてや記録した瞬間に、国立国会図書館の収集対象にな
るとしたら……。
河村:固定化には、つねにコストがかかるんですよ。そういう意味では、電子書
籍はまだコストが低い方にある。でも、今しゃべっているこの座談会を全て文字
に起こすかどうかは、内容によりますよね(笑)。つまり、その部分にどのくらい
コストをかけるかという話が、固定化するかどうかの判断にかかってくる。「生み
の苦しみ」とは別に、コストをどうするかという問題がある。
内沼:そうです。だから全部は収集できない。紙に印刷されたものだって、実際、
全部は収集できていないわけです。でも、それを分かったうえでも、理想として
は「全部」と言わなければならない。でも、それだと図書館の人は辛いんじゃない
かな。
図書館はどこまでを集めるべきか
河村:国立国会図書館の場合は、「全部を収集する」という理想を掲げて行ける
ところまで行くのは分かるんです。でも、街の図書館にまで、その理想は求めら
れない。蔵書にある程度の網羅性が求められる半面、置ける冊数が限られる中で、
司書さんは選書をしなければならないわけです。
内沼:長尾さんが書かれているような未来として、リアルな現場で起こってい
る「知」をすべて収録するとしたら、その尖兵としての役割を、地域の図書館が担
うしかない。世田谷区の図書館の人が「B&B」とかに来て、イベントでの会話とか、
誰かがしゃべっていたら、「いまちょっといいことを話していましたね。録音させ
てください」と言って、会話を録音して帰る(笑)。さらにそれを文字に起こして、
とりあえず電子書籍にする……というのはファンタジーですが、ありうる気はし
ますね。
30 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
吉本:新聞社の地方支社は、まさにそういうことをやっているわけですよね。
内沼:「下北沢経済新聞」のような、「みんなの経済新聞ネットワーク」(地域密着
型のインターネット新聞。渋谷で誕生し、国内外に次々とネットワークを広げて
いる)も、今までは新聞記事にならなかったような地域の話題、例えば近所に新
しいお店ができましたといったちょっとしたことを新聞記事ふうに書いてニュー
スにしているわけです。
河村:そうだとすると、図書館自身が「知」を固定化する義務を負うかどうかが
ポイントかもしれないですね。「みん経」は、今まで固定化されてこなかったもの
をニュースとして固定化している。それはとても面白いと思いますが、街の図書
館がそれをやるべきかというと、私にはとてもそうは思えないんですよね。
――「固定化」というのは、電子であれ紙であれ、なんらかの記録に残すってこと
ですか?
河村:今までは「記録に残す」という作業が一段階しかなかったはずなのに、今
は二段階になっているんですよ。「みん経」が街の中で起きていることを記事に
するような作業が、最初の固定。次にそれだけだと散逸するので、例えば国立国
会図書館に一つのアーカイブとして遺すといった二段階目の固定化がある。でも、
「みん経」の記事はすでにインターネットに上がってるわけだから、インターネッ
ト自体を「ライブラリー」だと言えばいいんですよね。
内沼:実際、国立国会図書館が世の中にあるすべての「知」を集めるよりも、本を
はじめ全てをインターネットに上げてしまって、「インターネットが世界の図書
館です」と言ってそれで終わりの方が楽かもしれない(笑)。
――アメリカではインターネット・アーカイブ(インターネット上に公開された
Web ページを保存し、サーバー上から削除されたコンテンツも閲覧できるサー
ビスの名称)が、ウェブページだけでなく、映像・音声・ソフトウェア・テレビ・
紙の本などの収集を、本気で始めていますね。国立国会図書館もどこまでできる
か分からないですが、インターネットの資料も収集し始めている。さらに文化庁
31特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
との間で、映像やゲームといった、いわゆるメディア芸術までも収集の対象をひ
ろげるという話も決まっています。
ところで、「カーリル」はリアルな図書館に足りない部分のサービスを、図書館
をネットワークでつなぐことで埋めるところから生まれたわけです。また新事業
として、「カーリルタッチ」という図書館の「書棚」を支援するサービスを始めら
れていますが、吉本さんは「場所」と本や情報の関係を、どう考えておられます
か?
吉本:図書館との仕事をしていると、正直、図書館がもっているのは「場所」しか
ないんだということがよく分かります。本に対する力なんてもっていないし、「本
のデータ」すら、今は自分の力ではなんともならない。図書館がいちばん自由に
できることは、実はシステムとはあまり関係ないことなんです。例えば、本棚に
本をどう並べるかは、図書館の側で自由にできる。でも、本を置く場所を変える
こと自体が、今は相当に大変なことになっている。なぜかというと、最初に図書
館を建てたときの並べ方で固定化してしまうんですよ。おかしな話だと思うんで
すが、「背」を見せて並べていた本を「面見せ」にするだけでも一大事なんです。
「カーリルタッチ」という新しいサービスを始めたのは、僕たちが現場に行ける
ことが大きかった。図書館のことをさらに知るには、図書館ともっと絡まないと
ならない。でも正直、その先に何があるかはよく分かっていなかったんです。た
だ、「カーリル」の最初のコンセプトである「ウェブと図書館をつなぐ」のうち、「図
書館からウェブにつなぐ」方はやっていなかった。それをつくれたら、図書館の
人ともっといろいろなことが一緒にできるんじゃないかと思いました。
これまで図書館と「カーリル」は役割分担がはっきりしていて、なかなか何か
を一緒にやることがなかった。 最近、図書館の人には「カーリルは図書館に人を
送客するサービスです」と説明しています。 立ち位置としては「ぐるなび」と一
緒なんですよ(笑)。
河村:先日、「カーリル」で本を探して図書館に借りに行こうとして感じたことが
あるんです。今、ここから最寄りの代田図書館が改築工事で閉館しているので(座
談会当時。2014 年 4 月にリニューアルオープン)、しばらく電車を使わないと図
書館に行けないんです。それで「カーリル」で検索したら図書館がずらっと出て
きて、どこに行くかすごく迷ってしまった。図書館ごとの個性がないからなんで
32 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
すね。今までは距離でしか選んでこなかったんですが、それはなんだかもったい
ないなと。
図書館の設置場所は、区内における配置の網羅性を維持するためにすごく苦労し
て選ばれている。でも同じ区内に十何館も図書館があって、配置の網羅性は満た
されているのですから、各館が個性的な選書をして、区全体で網羅性が保たれれ
ばいいんじゃないか。さらにいえば、選書の網羅性は東京都全体で保たれていれ
ばいい。「カーリル」ができたおかげで、そういうことが言えるようになった気が
するんです。
内沼:さきほどの話とつなげると、それぞれの館で生まれた「読み」みたいなも
のが、それぞれの館で記録されていたら面白いですよね。長尾さんが仰るように
「知」とか「データ」がインターネット上ですべて共有されるとしたら、地域にあ
るリアルな図書館の財産は、突き詰めればそこにある情報ではなくて、むしろ周
りにある「環境」や周辺に住んでいる「人」だということになります。
完全に未来の話になってしまうけれど、例えば、ある本を読んでこう考えた人
がいる。その人はどうやら世田谷区にある図書館の近くに住んでいて、そこでそ
の本を読んだらしい。だったら自分も図書館に行って、その人とちょっと話をし
てみたい、ということで出会った二人が話したことが、またインターネット上で
共有される……みたいな。
河村:「下北沢オープンソースカフェ」は、実際にそういう場を目指してるところ
があります。基本的に、どんな人でもウェルカムなんですが、プログラムやオー
プンソースに関連するテーマの本を本棚に置くことで、来る人を特定の知識層に
固定化しているんです。本棚にはそういう使い方もあるのかな、ということが一
つ。それからもう一つ、いまの話を聞いていて思ったのは、図書館には住民から
のリクエストというものが反映されますよね。街の図書館には、周辺住民を代表
するような知識があるといい。
吉本:いま、まさにそれを図書館の人と話していて、「カーリル」でやりたいこと
のリストに入っています。図書館の側も、住民が何に興味をもっているのかに注
目し始めていますが、正直な話、そういうマーケティング的なことが図書館にい
33特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
るとよく分からないんです。
河村:いままでは、その部分で住民に迎合しすぎると、図書館に置かれる本の網
羅性が失われてしまって、あまりよくないかたちだったかもしれない。でも逆に、
司書の人が「網羅性がある」と信じて選んでくれた本が、いつの間にか偏ったも
のになっていないとも限らない。そこの部分の担保はとりようがない以上、どこ
の館も同じような平均値を求めるのではなくて、それぞれが選書すればいいと思
います。最終的に、それがインターネット経由で 網羅性やバランスがとれていれ
ば、その方が自然な感じがするんです。
本屋も図書館もない地域
――ここまでの話は、東京のような、国立国会図書館があり、都立中央図書館も
あり、公共図書館もたくさんもあって、「立川まんがぱーく」もできて、そして「リ
ブライズ」がやっている「下北沢オープンソースカフェ」もあり、「B&B」をはじめ
とするユニークな本屋さんもたくさんある環境だから成り立つ部分もありました
よね。
けれども地方となると状況は全然違ってきます。今、離島の本屋さんの本(『離
島の本屋∼ 22 の島で「本屋」の灯りをともす人々』朴順梨、ころから 、2013 年)
が出ていますけれど、離島では図書館さえまともになくて、本屋さんが図書館の
役割をしていることも多々ある。もっと厳しいところだと、本屋さえもありませ
ん。そういう状況の中で、図書館のこと、あるいはもう少し広く「パブリック」と
いうことを考えてみたいんです。
地方でも、東北では震災というたいへん不幸なことがあったために、現地の人
たちが他の地方から集まってきた人と一緒に動き始めて、新しいコミュニティが
生まれているところもありますが、おそらく、そうした動きが起きていない、ま
た起きていても可視化されない、といったところがたくさんあると思うんです。
電子書籍とか電子図書館がもっている可能性は、そういったリアルな本で埋めき
れない場所に対しても本来は有効なはずなんですが、みなさん、そのあたりはい
図書館にとってパブリックとは
34 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
かがでしょう?
吉本:僕が住んでいる岐阜県の中津川市は、過疎でもないですが、都市でもない。
まさに平均的な田舎です。こういうところが、世の中で実はいちばん広大なエリ
アだったりするんですが、本当にどこに行っても同じ店があって……という感じ
なんですよ。
僕が生まれたころから、家の周辺には書店というものがなかった。もちろん図
書館もない。では、どうやって本を手に入れたかといえば、親が年に何度か名古
屋に買い物に行くときに、頼むんです。でも、親が行く本屋にどの本があるかは、
前もっては分からない。親からすれば、コンピューターのことが書かれている本
ならなんでもいいと思って、全然、欲しい本と違うのを買ってこられて、「これで
いいだろ」って言われるという……(笑)。
つまり、本に対するディスカヴァリーが全くない状態だったんです。本と出会
うためのインデックスが何一つなかった状態からすると、いまは完全に変わって
いて、なんら不自由もストレスもない。そこに関しては圧倒的な変化だと思って
います。
僕が紀伊國屋とかジュンク堂のような書店に出会ったのは大学に入ってからで、
それは公共図書館に行くのと体験としては非常に近い。つまり自分の知りたいと
思ったことが、そこに行けばなんとなく見つけることができた。でも、「本が網羅
されている空間はいいよね」「書店や図書館はそうあるべきだよね」と言われても、
それらと出会う前に、アマゾンが存在する世界に行ってしまった。原体験がない
ので、いい空間だということは分かるけれど、それがなくなったときに困るかと
言われると、率直に言ってよく分からないんです。
内沼:今の話は、さっきのコストの話とも関係があるし、当然、問題にすべきこ
とだと思います。さらにいえば、これは「本はタダで読めるべきか、それともお
金をとるべきか」という話ともつながってくる。仮に図書館ですべての「知」が完
全に解放されたとすると、極論すればアマゾンさえも要らなくなる。もちろん長
尾さんは、完全にそういう状態になることを目指しているわけではないでしょう。
ただ、図書館の歴史の方が、本屋の歴史よりもはるかに長い。だからこそ、「知識」
の公共性とは何かという話になると、どうしても図書館というものにつながって
いくわけです。
35特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「本」は紙に印刷して全国の本屋に撒くという、複製と流通の部分に多大なコス
トがかかる。だからこそ、本を「商品」として売るわけですよね。でももっと昔は、
手元に欲しい本は書き写して所蔵していた。書き写す手間という意味ではコスト
がかかりますが、大量生産される「商品」ではなかった時代があるわけです。 誰
でも本が買えるものになってからの歴史はまだ短いし、今ではまた「売れない商
品」になってきている。
そうであれば、極論すれば、もう本を売るのをやめればいいという話もありう
る。そこで僕からみなさんにお尋ねしたいんですが、「そもそも本からお金をとる
方が間違っている」という考え方についてどう思いますか? つまり、本は今だ
にお金を払って買うものなのか否か、という。
高橋:どうなんでしょうかね。電子書籍の場合、ウェブと違うのは読むのにお金
がかかるというところですよね。無料ならウェブでもいいという話も、「電子書籍
元年」と騒がれた2010年ぐらいから延々とやってきているわけです。
ただ、内沼さんが仰った「昔は、本は商品ではなかった」という話と同時に、「昔
は誰もが知識にアクセスできるわけではなかった」という面もある。ビジネスや
商品になることによって本はパッと広まった。つまり、お金さえ払えば誰もがア
クセスできるようになった面もあるわけです。さらに、今ではウェブを使えば無
料で知識にアクセスできるようになった。いったいどうしましょうと、正直困っ
ているところではありますね(笑)。
吉本:本が売られるようになると、売れる本を書いて流通させれば儲かるから、
投機的な意味で出版社がそのための資本を出すというビジネスの流れが出てきま
すよね。そこにあらたに電子書籍が登場して、ある意味、その部分を中抜きしま
す、みたいな話になってきた。さらに最近ではクラウドファンディングをつかっ
て、「こういう本を書きたいのでお金を集めたい」という流れも出てきている。あ
れも書く人に対して「生みの苦しみ」というか、ものすごくプレッシャーになり
ますよね。
河村:「READYFOR?」(日本で最大のクラウドファンディングサービス)でお金を
集めて図書館をつくろうという動きもありましたね。ただ、クラウドファンディ
ングというのは、実はお金の問題よりも責任の方が強い。得たお金で私腹を肥や
36 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
すわけにはいかないから、自分自身の分は手弁当でやるわけじゃないですか。よ
うするに、投機的にやるのか、先に後押ししてもらうのかぐらいの違いでしかな
い。でもこの差がけっこう本質的なのかもしれないですね。
吉本:本が売れなくなったということに関していえば、投機的なメリットがなく
なってきたというのが決定的なんでしょうね。
「知」の体系と「物語」
――もともと売られる対象ではなかった「本」や「知」の大衆化とビジネス化は、
実は同時に相互関係のもとで進んできた。さきほどのクラウドファンディングの
話もそうですが、電子書籍 、あるいはそれ以前にインターネット自体が、「知」の
大衆化や民主化を生み出したと総じていわれます。今後に起きる変化は、その大
衆化あるいはビジネス化がさらに広がるという、スケーラビリティだけの話なの
か、それともより本質的な変化が起きるんでしょうか?
河村:こういう話をするときにいつも疑問に思うのは、学術書や技術書のように、
知識の体系のどこかに埋め込まれることを想定されて書かれている本と、物語性
やエンターテインメントの方に向かっていく本を、同列に扱っていいのかどうか
ということなんです。
私自身は技術書しか書いたことはないんですが、時間給で考えると 200 円とか
300 円の仕事なんです(笑)。本を出すことの経済的なメリットは自分自身には全
然なくて、むしろ身を削るだけなんですが、ここ 10 年間に関しては、インター
ネットに出すよりも本として出した方がひろがるし、読んでもらえるという場面
があったんです。
内沼:しかも、知識の体系の中に正しく配置されますよね。
河村:そう、それが最初に私が言った「アンカー」ということです。そのことにメ
リットを感じてするのが「本を書く」という行為だったと思うんですよね。だか
ら逆に、「物語を書く」というかたちで本に関わってる人たちのマインドが、私に
はよく分からないんですよ。
37特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
内沼:そこは同じような気もします。「物語」という言葉を抽象的に使いすぎてい
るかもしれないですが、物語を書く人は「まだ足りてない物語」を書こうとして
いるんだと思うんですよね。どこかで書かれた物語ならもう必要ないけれど、プ
ロとして責任をもって書こうとしている人は、社会に足りていない物語を埋めよ
うとしている。自分自身の癒しのために書いている人と、プロの作家の違いはそ
こだと思います。
――ただ、そういう意味では同人の作家も「足りてないところを埋める」ことへ
の欲望はすごく強いですよね。
内沼:そういう人もいますよね。「同人」というときにイメージしているものが、
もしかしたらお互いにずいぶん違うのかもしれないですが。
吉本:同人作家の場合、社会の中での「足りない物語」を埋めるというよりも、自
分の中の欠落を埋めるところが強いのかな。
内沼:僕もそういうイメージで話をしていました。
――たぶんお二人と同じイメージで話をしていると思いますが、同人の場合も、
歴史の中に物語を埋めたいという欲望をもっているように感じます。ある種の
「歴史」ではあるけれど、それが複数ありうるところが同人カルチャーの動力だっ
たりする。「複数の歴史を埋めていく」というのは、学術書のような意味で「体系
を埋める」のとは違うかもしれませんが。
内沼:ただそのときにも、自分の「そうあったかもしれない物語」を書きたい、「自
分がいちばん気持ちいいものが書きたい」という欲望の強いものが、同人の場合
はどうしても多くなってしまうと思います。それが自分だけでなく、誰か他の人
の癒しになると思って書くという意識の有無が、プロかそうでないかの線引きか
なと思うんです。これは「仕事」か「趣味」かという話でもある。「お金をもらうこ
と」イコール「仕事」という定義もありうるけど、そうではない定義もありうるわ
けです。簡単に言ってしまうと、社会を向いていれば「仕事」で、自分の方を向い
ていれば「趣味」といった。
38 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
たとえ時給 200 円でも 300 円でも、あるいは 1 円も貰えなくても、この体系を
「埋める」ためと思って書く人は、「仕事」をしているとも言えると僕は思ってい
て、そういう本は図書館が収集すべきものかもしれない。逆に、例えば最も分か
りやすく言うと、自分がいちばん性的に興奮できる絵を描きたいというようなの
が「自分に向かっている」ということで、それと他人のために書くこととの差は、
やっぱりあるのではないでしょうか。
――両者の間で明確に線が引けるものでしょうか?
内沼:明確には引けないでしょうね。グラデーションはあると思います。
河村:「本」を書くのが自分のためなのか、社会の中に足りてないと思うからやる
のか、ということの間には、やはり微妙なラインがあるような気がします。こう
いうコワーキングスペースをやっていると、社会との距離感をどのくらいでとれ
ばいいのか、ということへの考えがガラッと変わってきたんです。
同人作家の人も、少なくとも 10 ∼ 20 人には認められるから活動をしているわ
けでしょう。こういう場所でも、10 ∼ 20 人がわらわらと集まってきて、自然発
生的にイベントなどが生れる。そしてそれは、たんなるプライベートでもないし、
かといってパブリックでもない。集合させていくといつかはパブリックになる、
セミパブリックな集まりという感じのものができてくるんです。だから単純に人
の数だけで、社会的かどうかという線引きができないなという感があります。
これを図書館の話に強引につなげていくと、図書館が「社会」と「個人」のどち
らの側につけばいいのかが、実はよく分からなくなってきたんです。長尾さんの
テキストの中でも、図書館という場所は「コモンズになるべきだ」という部分と、
「知を体系的・網羅的に集めるべきだ」という両方が出てきて、両者は一致すると
ころがない感じがする。そこに図書館のジレンマが見える気がして、どちらに行
くべきのかなと思います。
「サードプレイス」と「教会」
――今の話から、オルデンバーグの「サードプレイス」を思い浮かべました。第一
の場所が家、第二の場所は職場や学校、そして家や職場での役割から離れてくつ
ろげる場所としての第三の場所がサードプレイスです。図書館や公園などの公共
39特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
の場がサードプレイスとして機能することもあれば、カフェや居酒屋などの飲食
店がサードプレイスとなることもあります。例えば、スターバックスコーヒーは
サードプレイスをコンセプトとして掲げて店舗展開してきました。
サードプレイスは必ずしも公共の場所ということではありませんが、その中立
性は部分的な公共性を持っているともいえます。スターバックスなどのカフェも
商業空間でありながら、ある種の公共性を含むサードプレイスとして機能してき
ました。
河村:ただ、サードプレイスという言い方は、従来の働き方の上にのっていると
思うんです。今はもう、それは崩れているんですよ。プレイスは一つしかなくて、
プライベートもなくパブリックもないんです。
吉本:うちの事務所も、人が勝手に来て仕事をしていて、「オープンスペース」と
はいってないけれど、空間としてはもうオープンなんでね。生活空間がパブリッ
クに近づいていて、ここから先は入られちゃ嫌というところはないんです(笑)。
――それにあえて反論をすると、「コミュニティ」と「パブリック」が混同され
ていることがあって、すごく気になるんです。例えば先日の「マイクロライブラ
リー・サミット」で言われていた「オープン」で「パブリック」な空間も、「コミュ
ニティ」の場合がすごく多かったんですね。
河村:そこにもう一回反論をするとすれば、私は「パブリック」は幻想だと思っ
ているんですよ。人が関わるうえで、パブリックをどう実現できるかということ
に対して、図書館は答えが出せないし、僕らも答えを知らないんですね。だから
幻想かもしれない「パブリック」に近づく階段としては、今のところ「コミュニ
ティ」以外の手段がないような気がするんです。
高橋:パブリックは「大きいコミュニティ」みたいなものでしかないと……。
――この「マイクロライブラリー・サミット」には、河村さんも登壇されていま
した。吉本さんと私は客席で見ていましたが、これについては、河村さんから説
明していただいた方が分かりやすいかもしれません。
40 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
河村:2013 年 8 月 24 日に大阪の「まちライブラリー @ 大阪府立大学」で、世界初
の「マイクロライブラリー・サミット」という催しがありました。小規模な図書
館(マイクロライブラリー)を、全国から 17 個集めて、朝 10 時から夕方 6 時ぐら
いまで、30分ずつ話をしてもらいました。
いま僕らが把握しているだけで、全国でマイクロライブラリーが 300 とか 400
ぐらいある。まだ把握してないところも含めると無数にありそうな気配がします。
その基準は、大きくいうと「本が集まる場所」なんですが、たいていは「人も集ま
る場所」でもある。基本フォーマットは「本」、つまり本とか本棚、図書館なんで
すが、うちみたいなコワーキングスペースもあれば、公共図書館の中に市民が集
まる場所を別につくって、市民が自由に本を持ち寄っている本棚があったり、聞
いてみるとけっこうみんないろいろ違うことやっている。
例えば長野県の小布施町では、街中のお店の店主が自分の好きな本を店内に並
べていて、それらのことも「図書館」と呼んでいる。小布施の町全体が「図書館」で、
その中心に町立の図書館(まちとしょテラソ)がある。他にも個人の趣味で少女
マンガを集めだしたら全国からどんどん集まってきて、今 5 ∼ 6 万冊の蔵書があ
る「少女まんが館」という私設図書館もありました。そんな人たちが集まるサミッ
トでした。
――大阪や京都にも、カフェにライブラリーがあったり、そこでイベントをして
いるお店がたくさんあって、一つ一つの事例は面白かったんです。このサミットに
「B&B」や「カーリル」や「達人出版会」が出ていても、全くおかしくない感じでした。
河村:本屋さんでは、「放浪書房」(旅をしながら、旅の本を売り歩く人力移動式
の旅本専門店)がきていましたね。
――そう、書店も来ていたし、「リブライズ」のように、本に関するシステム的な
ことをやっているところも出ているのが面白かった。さきほど河村さんが「パブ
リックは幻想だ、でもそれを分かってやっているんだ」という話を聞いて、すご
く納得がいったんです。
というのも、このイベントはまだ 1 回目なので話が総論的になるのは仕方ない
んですが、参加した人たちの全部とは言わないまでも、その多くが「強いコミュ
ニティ」を志向する場であるように感じられた。中にいる人たちは気づかないか
41特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
もしれないですが、そういう「強いコミュニティ」は、外から見ている人に対して
は、「閉鎖性」として立ちあがる。コミュニティがあることも、コミュニティの多
様性も自然なことですが、その中で「リブライズ」のやろうとしていることだけが、
ちょっと違ったんですね。自分たちの場所も持っているけれど、パブリックが一
種の幻想だと分かっているがゆえに、コミュニティ同士をつなぐことで、その限
界にチャレンジしようとしているように見えました。
河村:コミュニティは、地の縁があると絶対に閉鎖的になるんですよ。でも、い
まのコワーキングスペースや、もう少し緩やかにインターネット上で起きている
コミュニティは、オーガナイザーのやり方次第なんですが、そういう意味での閉
鎖性はあまり強くない。
「リブライズ」がコワーキングスペースを拠点にすることで、他の利用者の活動
も見られるようにしているのは、コミュニティにどっぷり浸かって、自分の平均
値の中で固定化されていくのが、すごく嫌だからなんです。その中で流動性をど
ういうふうに確保するかというときに、「コミュニティ同士をつなぐ」という話に
なっていった。
ただ、「コミュニティ同士をつなぐ」というのはけっこう抽象的な話であって、
実体があるわけではないんです。本質的にやりたいところは、その中にいるプレ
イヤーを自由に行き来させることなんですよ。そうやって流動性が高い状態を維
持しないと、コミュニティが腐るんです。
――「実体がない」というのは、多様なものがあって、リブライズはその「間」を
やっている、ということだと思うんです。齋藤純一さんが『公共性』(岩波文庫、
2010)という本で、公共性は人びとの「間」に形成される空間であると書いていま
す。
河村:「リブライズ」は地藏真作さんというプログラマーと二人でやっているん
ですが、僕らには共通見解があって、その「間」はシステム、もう少し具体的にい
うとプログラムだと思っているんです。
――今回のサミット参加者の中では、システムをつくっているのは「リブライズ」
42 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「第1回マイクロライブラリー・サミット」会場展示風景 撮影(見開きとも)=嶋田綾子
「第1回マイクロライブラリー・サミット」での「リブライズ」ブースは、サービスのデモンストレーションができる体験型の展示
43特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「第1回マイクロライブラリー・サミット」での「放浪書房」ブース風景
「第1回マイクロライブラリー・サミット」での「少女まんが館」ブース風景
44 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
だけでした。
高橋:今は理想像としてあるのが「リブライズ」ぐらいだとしても、「それ以外の
システム」もありうるわけですよね。複数のシステムがあって、それらの「AND
集合」か「OR集合」の中に、公共みたいなものができるのかもしれない。
河村:ただ、それだと「人」からすごく遠く離れている感じがしてしまうんです。
「パブリック」を議論するとき、それがいったい何を指しているのか、という疑問
がいつもつきまとうんですよ。
高橋:「公共性」というのは、「人」ではないんじゃないですか?
河村:なんというか、公共性が「程度の問題」だったり、たんに形容詞として使わ
れるだけなら、コミュニティも公共の一つだという気がするんです。
内沼:「公共性が高い」とか「低い」と言うとしたら、それは「程度の話」ですよね。
そもそも大前提として、なぜパブリックということが必要なんでしょうか?
――パブリックがなぜ必要か、というのはすごく難しい話ですね。これまでの話
の流れをまとめると、「マイクロライブラリー・サミット」のような動きの中で、
「僕らはパブリックに対して開いていますよ」と言葉を聞くことが多くなってき
た。例えば公共図書館というのは、まさにパブリックの場なのですが、河村さん
が仰ったように、実はそれは幻想でしかなくて、図書館がパブリックを体現して
いるわけでもないという話だったと思います。
内沼:幻想なら、幻想でもいいじゃないかというのが、今聞いていて思ったこと
です。そういう意味では、僕も公共性というのは「程度の話」かなという気がして
います。
45特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
グーグルは「パブリック」といえるか
吉本:もう一つ、「図書館という場所は、オープンであるべきか」という問題もあ
ると思うんです。すごくインターネット的ですけど、一つの考え方として「誰で
も入れるような場にしておいて、あまりにひどいようなら排除する」というのが
ある。もう一つが「入場券があってお金を払った人じゃないと入れない」という
考え方です。そういう意味では、書店もオープンな場所ですよね。
高橋:長尾さんのテキストからも「知のユニバーサル・アクセス」というか、図
書館への普遍的なアクセスへの志向性が感じられました。
河村:でもそれは、インターネットがすでに実現している気がするんです。
高橋:そうですか? 私は、インターネットは全然オープンじゃないと思います
よ。「玄関」までは入れても、その先に行けない「プライベート・リポジトリ」(ソー
スを公開したくない開発の場合などで、許可したユーザーのみに公開し、開発を
進めること)とか、アクセスできないところがいろいろある。でも図書館は、建前
としてはユニバーサル・アクセスを保証することになっていて、「閲覧禁止」とい
う特殊な例外を除けば、きちんと手続きさえ踏めば見られます。
河村:今の話は「グーグルで検索できないものは、この世に存在しないのと同じ」
という感覚とちょっと似ているのかもしれません。僕たちのようなオープンソー
ス系の人間は、世の中にパブリックになっているものをふだんから享受しつづけ
ているせいか、他のものの存在をけっこう忘れてしまっている。だから、いま高
橋さんに言われて「そうだよな」と思ってハッとしました。
吉本:「カーリル」の原点はまさにそこの部分なんです。「図書館の本をインター
ネットに載せる」というのが、「カーリル」を始めたときのコンセプトでした。
――今の話はとても大事ですね。「カーリル」は図書館の蔵書をネット上に広げ、
「オープン」や「ユニバーサル・アクセス」を一部実現したかもしれない。でもイ
インターネットがあれば図書館はいらない?
46 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ンターネット自体が、それを実現したといえるんでしょうか。
吉本:インターネットがそれを実現しているかという問いは、すごく難しい話な
ので、いったん「パブリック」の話題に戻します。例えばグーグルにとってのパブ
リックとは、パーマリンクを持っているかどうか、つまり「そこにいつでもアク
セスできる」ということだと思うんです。でも、そこまでをパブリックとしてし
まっていいのか……。
内沼:「カーリル」で本を探すと、「その本はこの図書館にあります」という情報
が出てくる。でも、「いま、ここ」でその本は見られない。もしもグーグルで検索
できるところまでがパブリックなのだとしたら、その本に書いてある中身は、イ
ンターネット上ではパブリックだとはいえないし、鍵が掛けられたツイッターな
どの場所で起きている議論もパブリックじゃないという話になります。
河村:その鍵がお金を払えば開けられるとしたら、それもパブリックだといって
いいんですか?
内沼:アマゾンで電子書籍を買うのは、「お金を払えば鍵が開く」ということと一
緒だと思います。
――長尾さんと岡本さんの対談でお二人が仰っていたのは、「グーグルはあくま
でも私企業なので、もし将来なにかの理由でグーグルがなくなったらアクセスで
きなくなる、そういうものはパブリックとはいえない」ということでした。
吉本:僕はそこには少し異論があります。グーグルはもう、一種の公共だと言っ
てしまっていい。向こうにとってはビジネスでも、そこには僕らの求めているも
のがあるのですから。
河村:グーグルは国の枠を越えているわけだから、ある意味、国以上にパブリッ
クですよね。
吉本:よりパブリックだと思うんです。「カーリル」も図書館の人からは、「企業
47特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
がやっているサービスだから続かない」と言われ続けてきたんです(笑)。でも僕
は、そのところでは図書館の人たちとかなり違う考えをもっています。パブリッ
クを担うのが、企業なのか国や地方公共団体やコミュニティなのかは、もうあま
り関係ない。企業だからといって好き勝手やっていいわけじゃなくて、パブリッ
クをかたちづくる要素は散在しているんです。
――仮にグーグルという会社がなくなったとしても、グーグルが築いた環境は残
ると思いますか?
吉本:なくなったら、こんどは僕たちがつくればいい。それを再現するための知
識も、オープンソースライブラリもすでにある。技術的に「できる」ということが
分かっている以上、もはや未踏の道というわけではないんですよ。
河村:もしグーグルがだめになっても、百度/ Baidu(バイドゥ 中華人民共和
国の Baidu, Inc. が運営するアジア最大級の検索)をはじめ検索エンジンが他にい
くらでもありますからね。
内沼:そう。グーグルが潰れたとしても、検索エンジンがなくなるわけではない。
インターネットと「自由」
河村:ところで、みなさんは普段の生活の中で公共との接点はありますか? な
ぜこういうぼんやりした質問をするかというと、私は起業してから 10 年経つん
ですが、その間に「公共に関わった」という意識をもったことが皆無なんです。公
共サービスを利用する機会も多くないし、選挙に行くときだけ突然パブリックと
対峙させられて、そのあとまたずっと断絶があります。でも、ここでコワーキン
グスペースを始めたときに、むしろここにパブリックがあるなという感覚がした
んです。
内沼:そのときの「公共」や「パブリック」ってなんでしょうね。そこがまだふ
わっとしている気がします。さきほど「スターバックスはある種の公共性を含む
サードプレイスだ」という話が出ましたけれど 、スタバにはお金を払って入りま
すよね。そこにコミュニティが存在するようには思えない。じゃあ、スタバはパ
48 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ブリックなんでしょうか?
――コミュニティとパブリックの中間というか、先ほど話したとおり「部分的に
パブリックな場」ということではないでしょうか。
吉本:マクドナルドは限りなくパブリックに近いかも(笑)。
内沼:例えばそういう話なんです。
――「場所の公共性」のような意味でパブリックについて考えるなら、「運営主体
が、国や地方自治体かどうか」が一つの基準としてあるでしょう。その意味では、
私企業はパブリックの担い手ではない。しかし現実には、コマーシャルな消費の
空間が、部分的な公共性を担うようなことがさまざまな場面で起こっています。
例えばカフェやショッピングモールなどもそうですよね。「公共の場」と「消費の
場」の差が曖昧になって混じりあっているという状況が現実にはあります。
吉本:だからこそ、図書館の人から「公共性が」と言われると、すごく嘘くさく感
じてしまうんですよ(笑)。
内沼:そのときに図書館の人がいわれる「公共」というのは何か、ということで
すよね。例えば国や自治体は、税金を集めてそれを使ってみんなのために何かを
する。図書館の本はタダで読めるけど、元をただせば誰かが払っている税金です。
その一方で、私企業であるグーグルが限りなく「公共」に近く感じられるのも、彼
らのサービスが無料で使えるのは広告収入のおかげで、本来は広告宣伝費として
回り回って商品に乗っているのだけど、そのことを利用者が感じにくいからなん
でしょうか。
吉本:それはすごく正しいかも。「お金を払っている感」がない、というのは図書
館も同じです。
内沼:税金を払っている自覚のある人からすると、グーグルの方が図書館よりも
ずっと「お金を払っている感」はない。それなのにグーグルは私企業で、しかもど
49特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
んどん大きくなっていますよね。ひょっとしたら僕がいちばん「公共」的なもの
を日常に感じるのは、インターネットを使っているときかもしれません。
――高橋さん、そのあたりはどうですか?
高橋:ちょっと違う話になるかもしれないけれど、「インターネットと公共」とい
う話を聞いていて思ったのが、やっぱり「自由」の問題なんですよ。オープンソー
ス・ソフトウェアという言い方に対して、もう一つフリー・ソフトウェアという
言い方がある。じつは私は「フリーソフトウェアイニシアティブ」(FSIJ)の会員な
んですけど、最近あまりみんなが「自由」って言わなくなっている。インターネッ
トからも自由がなくなりつつあって、ソフトウェアもどんどん自由じゃなくなっ
ている、ということがFSIJでは話されたりしています。
これまでは、例えばリナックスで頑張ってデスクトップ OS をつくることがで
きましたが、スマートフォンの時代になったときに、スマホの OS はあまり自由
ではないとか、最近デバイスでも自由に起動できない仕掛けが入れられていたり
というのが一般的になっているんです。そういう中でネットの自由はどうやって
守っていけばいいのか、いや、もう守り切れないのではないか、という感じの暗
い話が、私の半径 10 メートルの狭いところではされている。そういう中で聞くと、
インターネットの明るい可能性みたいな話には、だいぶ違和感がありますね。
吉本:最近、本の書影を撮るためのプログラムをつくっていたときに、ロシアの
人たちがキヤノンのデジカメをハックしていることを知ったんです。ファーム
ウェアまで全部ハックして解析しているから、デジカメで自由自在になんでもで
きる。量産型のデジカメで自由にソフトウェアが組める時代が到来していて、こ
れがすごく楽しい(笑)。つまり、限りなくハックは続けないといけない、という
ことなんだろうと思います。
ただ、それがパブリックとか、オープンにする方向に寄ったところでは、まだ
されていない。ある程度のところまではできるようになっているんだけど、例え
ば iPhone をジェイルブレイク(ユーザー権限に制限を設けている情報機器でそ
の制限を取り除き、開発者が意図しない方法で機能を拡張すること)するのは流
行らない、みたいなことがあります。
50 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
――インターネットが現実の嫌なところに近づいていて、高橋さんが仰る「自由
がどんどんなくなっている感」もそこから来ていると。
河村:ただ、現実の方から見ると、インターネットはまだ全然自由な感じがしま
す。「リブライズ」の文脈からいうと、街の中に埋もれて「クローズ」な状態になっ
ている本棚を救い出して、「オープン」にしたい。そうやってインターネットに現
実をくっつけることで、ずっとオープンな世界になるだろうと思っているんです。
「2 ちゃんねる」が始まったときのような自由奔放さは、きっと今のインターネッ
トからは失われてきているのでしょうし、あの自由さがこれからまた訪れるのか
どうかは、もう分からない感じがありますが。
――「自由さ」といったときに、もう一方には「見られない自由」のようなものも
あります。例えばウィキリークスは「弱者にプライバシーを、強者に透明性を」と
いった理念で活動していますが、そこにはプライベートなものを守るという「見
られない自由」も含まれています。しかし、元CIA職員スノーデン氏の告発によっ
て、我々の「見られない自由」が既に失われていることが明らかになったわけです。
河村:そうですね。実はオープンソースでの開発も、オープンソースのコードを
入れてしまうと、逆に自由にソフトがつくれないというジレンマがある。全部
オープンにしなくちゃいけないために、開発における自由度が失われるんです。
そこはたぶんトレードオフなんでしょうが、「オープンにしない自由」はつねにあ
るべきだと思います。
「固体」としての知識から、「水」のような知識へ
――最初の方で内沼さんが仰った「本」の定義にも関わるんですが、「本」という
ものを、中身としてであれ、モノとしてであれ、「単体」として捉える考え方があ
るのに対して、長尾さんが考えている図書館のベースにあるのは、「本は、それ自
体よりも大きな知識の一部である」という「感覚」だと思うんです。だからこそ、
そこには「第二のステップ」としてのネットワークが必要だし、さらにその先に、
「本」のネットワークをいかにつくるか
51特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
知や情報との我々の関わり方として「視点ごとに見えるものが変わるネットワー
ク」のような壮大な夢を語っておられる。「本」というものを単体として考えてい
たら、こういう概念にはならないと思うんです。
知識はもともと現実世界や現実の環境にあったもので、それを所有したいとい
う欲望のもとで、「本」として固定化していったわけです。その歴史は木の葉や粘
土板から始まり、革やパピルスの時代を経てグーテンベルクの活版印刷術の発明
があって、次第に今のような「本」になった。そうやって知識が固定化されたこ
とには、知識が社会化していくうえで大いにメリットがあったし、今もあるわけ
です。でも長尾さんはそれとは別の観点から、「知」を固定化された状態からもう
一度解放することを提案している。というのも紙の本でネットワークをつくるこ
とはすごく難しいし、電子書籍も既存の紙の本を電子化しているだけの状況では、
ネットワークを完全につくっていくのは難しい。
河村:ネットワークをつくるのは、そんなに難しいのでしょうか。紙に固定され
たものに、リンクのような技術的な意味でのネットワーク性をあとからつくろう
とすると大変だけれど、あいだに「人」が介在すると、あまり難しい感じがしない
んですよ。例えば、ここ「下北沢オープンソースカフェ」には、放っておいてもプ
ログラム関連の人が来て情報交換している。本棚に置いてある本も、話題になっ
ている本が勝手に集まってきて、固定化と収集が成り立ってしまっている。ある
意味で、長尾さんの仰る「第二ステップ」と「第三ステップ」の段階に踏み出して
いる。
これは長尾さんがお書きになった文章に出てくる intellectual commons に相
当すると思うんです。そこでは網羅性ではなく「普遍的にあるものの中から、ど
ういう本を選書してくるのか」という編集能力的なところから図書館が捉えられ
ている。何かテーマを決めて切り出しさえすれば、あとは人がそこに勝手にリン
クしてくれるという意味で、網羅性とは逆であるような気がするんです。
吉本:今の話を概念的に聞いていると、情報の粒度が「本」という個体より下がっ
てきていて、たとえて言うなら「水」みたいなものになってしまっている気がし
ます。これまでは個体の本に対して、例えば ISBN のような ID をつけて流通性を
よくしようというふうに考えられてきたけれど、「水」は液体だから置いておくと
混ざっちゃうし、いったん混ざるとそれだけを取り出せない。知識や情報が個体
52 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
から液体になってしまうと、図書館の側でもこぼれちゃうから、それはうちじゃ
無理ですという話になって、保存できずにいるわけです。
河村:粒度が細かくなりすぎた情報や「知」を受け止めきれるのは、今は国立国
会図書館しかないのかもしれません。
吉本:あるいはグーグルですね。グーグルは、ある意味で「水」の中から「欲し
いもの」を取り出す技術なんです。でも図書館では、あくまでモノとしての「本」
でしか知識や情報が流通してできない。アマゾンもその点では図書館に近くて、
「水」の部分は扱いきれていない。でも、ツイッターではもっと粒度の細かいもの
が流れているし、グーグルならそこも全て掬えてしまう。そういう流れでいうと、
図書館もこれからは「水」を受け止めるべきなのか、という話だと思います。
――本や図書館の発展の歴史は、もともとは「水」のままでは知識を扱えないから、
「本」や「図書館」として固体化するという手続きだったわけです、でもそれが今
は技術の発展によって、「水」も扱えるようになってきたと。
吉本:そうですね。アメリカの議会図書館(LC)が、世界中すべてのツイッターの
つぶやきを収蔵しているのも、とりあえず水を貯蔵するタンクを国が設置しまし
た、という話なのかもしれません。
河村:いわゆるダーク・アーカイブ(非常時の利用のみで、通常時はアクセスで
きない電子アーカイブのこと)ですね。実際に使うかどうかはともかく、とりあ
えずとっておくという。
――長尾さんが仰るデジタル・アーカイブも、思考の原点は同じだと思うんです。
ちなみに、水に近いような電子書籍を扱っている「達人出版会」は、国立国会図書
館に納本していますか?
高橋:いや、していません。する予定もないですね。いままでは ISBN がつけられ
ている本じゃないと納本できないんですよ。電子書籍に関してはそこをオープン
にしましょうという話になっているんですが、いまは無料の本に限られている。
53特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
だからうちの電子書籍も、有料のものは納本できないんですよ。
吉本:僕がつくったプレゼン資料は、無料だから納本義務があるというヘンな話
になってくるわけですよね(笑)。
――有料の電子書籍でも納本できるようになれば、そうしたいですか?
高橋:そうなれば納本することになると思います、たぶん。
河村:今でも都立の図書館には納本できますよ。郷土資料のようなものには ISBN
はつかないので。
吉本:公共図書館の場合は「納本」ではなく、「寄贈」ですね。
――2014 年 1 月から、国立国会図書館が電子化した 200 万点以上の大規模デジタ
ル化資料が、他の図書館でも閲覧できるようになります(すでに実現)。基本的に
は著作権保護期間が切れたものが対象ですが、今までは国立国会図書館の端末で
しか見ることができなかった資料を、地方の公共図書館や大学図書館やそれらに
準ずる施設でも端末を置けば見られるようになる。まだその程度なのかという話
でもあるのですが、公共図書館にとってはかなり大きな一歩です。その枠のなか
にフリーの電子書籍でも入ってくれば、より広く読んでもらえる場になる気がし
ます。
高橋:でも、もともとインターネットはオープンなので、ネット上に転がしてお
けば、図書館に入れる必要はあるのかという……。
内沼:そう、そこがやっぱり疑問なんです。
――これはさきほどの東京と地方の違いという話と近くて、インターネットだけ
に存在が限られると、見ることがきないという人がまだまだたくさんいるんです。
年配の人だけでなく、デジタルネイティブ世代といわれる若い人でも、モバイル
だけの限定的なインターネット利用ということも多い。そういう人たちにとって
54 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
は、ただネットに置いてあるだけでは出会うことは難しいです。
吉本:僕は地方にいるからすごく感じるんですが、現実として、人々が物を買う
手段はすっかり楽天やアマゾンになっている。他に買う手段がないんです。世
代に関してもだいぶ様変りしていて、うちの祖父母は 70 代を過ぎていますが、
イー・トレードで株の取引をやっています(笑)。
河村:そのへんは逆に、うちの実家は遅れています。買い物は新宿に行けばいい
やと思っているから(笑)。
内沼:さきほどから何度か同じことを言っているような気がしますが、「ネット
上にあるものを収集する」という流れが向かう方向がよく分からないんです。大
事なのはむしろ「消えてしまうものをアーカイブする」という役割じゃないです
か? 放っておくと消えてしまうから、図書館がそれをアーカイブして集めたい
という話なら分かるんです。インターネット・アーカイブの考え方はそうですよ
ね。でも、みんなに見せるために図書館がわざわざ無料のものを集めたり、イン
ターネット上にあるものまで集めるというのは、ネットにアクセスできない人の
ためにオープンにするという話とも違うでしょう?
――それをしなければならない理由の一つは、日本にはアメリカのインターネッ
ト・アーカイブに相当するものが、まだ民間にないからですよね。
紙の本に次のイノベーションはあるか
高橋:既存のものを保存・保管・所蔵するアーカイブの重要性の他に、長尾さん
のテキストには博物館の話が出てきますよね。ある意味で、図書館には「本の博
物館」みたいなことが期待されている。つまり「モノとしての本が、その時代には
こういうかたちで使われていたんですよ」ということを未来まで保持しつづける
役割までが、図書館に期待されている。それとは別に、モノとしての本は措りて、
情報だけでいいから電子で頑張りましょうという考えもある。この 2 つは別の次
元の話なんですが、図書館の役割として両方とも大事です。
吉本:ところで紙の本には、次のイノベーションがありうるのでしょうか。特に
55特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
印刷機とか、ハードウェアの面で。今までの印刷業のビジネスモデルは、大きな
印刷機や製本機を買い、大きな工場で回してきた。でも印刷業自体、コスト感覚
がすっかり転換してしまって、ペラの印刷物はパーソナルプリンターでもっと安
い値段でつくれるから、町の印刷屋さんはもういらないという話が現実化してい
ます。それに対して本の印刷・製本の現場がどうなっているのかがあまりよく見
えないんです。
高橋:一つはプリント・オン・デマンド(受注を受けて印刷する方法。プリンター
を大型高速化させたデジタル印刷機の登場で可能となった)ですよね。
――ただ、プリント・オン・デマンドはある意味、流通の話ですよね。吉本さん
が仰るのは、もっと純粋に技術的な革新という話じゃないでしょうか。
吉本:実は最近、韓国で印刷したらすごく安い値段で 、桁が全然違うんですよ。
桁が違うというのはすごく大きくて……。
内沼:日本でも、コストを下げるためにほとんどの本を中国で印刷・製本してい
る出版社があります。その代わり、制作のスピードを早めているんです。11 月に
出す本の場合、日本で刷るなら 10 月に入稿すれば間に合いますが、安く上げたい
から8月には入稿して中国に送って、できあがると船で運ばれてくる。
――今の話はプリント・オン・デマンドより、技術的にはさらに新しくない(笑)。
もともと他の業界ではやられていたオフショア化を出版にも導入しただけの話で
すよね。
吉本:でもコストが桁違いに安くなると、開発面で大きいんですね。例えばプリ
ント基板(樹脂などでできた板状の部品。電子部品や集積回路、それらをつなぐ
金属配線などを高密度に実装したもの)を日本でつくると、今までは 20 万円必要
だったんですよ。それが中国に発注すると、けっこうな数をつくっても 1 万円で
つくることができる。そのことが、実は試作の速度を圧倒的に速めている。大手
はそういうことをやらないから、いまだに 2 ケ月かけて 50 万∼ 100 万も払って
やっていますが、小さなところはその値段でできるようになると、すごくメリッ
56 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
トがあるんです。
河村:個人が動かせる価格帯に落ちてくるかどうかは、とても大きいですね。
内沼:どこまでを「本」というかによりますが、コンビニにもあるコピー機でzine
をつくってきた人たちが昔からいるわけで、本の場合は個人レベルでも昔からや
られてきたことですね。ちなみに個人がつくる本でいちばんすごいのは、「一点も
の」なんですが、それを国立国会図書館に納本しろと言われたら、つくった人は
当然「1冊しかないからいやだ」と言うはずです。
河村:個人がつくる zine や「一点もの」もふくめて、「本はパブリックである」と
言えるのかという問題が残りますね。
――ところで、知識や情報は「パブリックである」といいやすいけれど、「本はパ
ブリックだ」というのは、どこかいいづらい部分があるのはなぜでしょうか?
吉本:「本はパブリックだ」といわれてきたことに根拠があるとしたら、それは量
産されていたからですよね。
河村:しかも本がパブリックなものになったのは、歴史的には比較的に新しい話
ですよね。図書館というものがつくられたときの時代背景を考えると、本や知識
はむしろクローズドなものだったわけです。
57特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「人」と「場所」をどう活かすか
――そろそろ締めくくりに入りたいと思います。みなさんはこれから図書館に対
して、どういう関わりをしていきたいですか。なるべく具体的かつ固有の話を順
番に伺えるとありがたいです。
吉本:僕の場合、これからやりたいことははっきりしています。正直に言って、
公共図書館は斜陽産業なんですね。いま、「カーリル」がやっているようなことは、
この先はなくなっていく仕事だと思っている。そもそも自分自身がそれほど公共
図書館を使っていないことからしても、本の貸出返却のような、今の公共図書館
の仕事に対しては、それほど大きな意義を感じていないんです。
ただし図書館には必ず窓口があり、そこには人もいる。そういう「場所」である
ことを武器として、図書館の人たちは次に何をやっていくのか。僕は図書館につ
いての体系的な知識や技術はもっていませんが、「カーリル」を始めたときから図
書館の人に応援してもらう中で、彼らとはいろいろな議論をしてきたから、そこ
にはとても興味があるんです。
例えば、かつて炭鉱で働いていた人たちは、炭鉱がなくなったときどうしたの
か。それまでの知識や経験を活かして次の仕事ができたのだろうかという観点で
考えてみるといいかもしれない。「生業(なりわい)」ということでいえば、うちの
実家も時代の変化とともに家業の業態を変えてきたんです。そうした変化が起き
ること自体はいいことだし、図書館が変化する場面に立ちあえたら面白い。その
ときに「図書館」という名前や場所はまだ残るかもしれないし、あるいはなくな
るかもしれませんが。
内沼:それはとてもよく分かる話ですね。
河村:図書館が「場所」として残ったとき、最後に期待されるのは、自由を標榜
する「コモンズ」としての機能だと思うんです。個別のお店でやっているかぎり
は、いくら「ここはライブラリーだ」といっても、実質はコミュニティどまりに
なってしまう。少なくとも、こういうカフェのような場所では、「そこでは自由が
保証されている」という言い方はしない。だけど公共の図書館ならば、一種のファ
未来の図書館をつくる
58 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ンタジーかもしれないけれど、コモンズとしての自由を描ける余地が残っている。
そこに対して「リブライズ」の側で協力できることがあったら、どんどん支援し
ていきたいんです。
それからもう一つ、公共図書館の蔵書は「カーリル」が一気にオープンにして
くれたけれど、近所にある小中学校の図書室にどんな蔵書があるかは、外には見
えてこない。つまり、まだ電子化されてない「図書館」や「ライブラリー」は無数
にあるんです。特に学校というクローズドな場所を、周りにいる人たちで見守っ
ていく手段の一つとして、図書館の蔵書をオープンにすることには意味がある。
そこの部分も「リブライズ」でやっていきたいですね。
高橋:私は基本的に紙の本が好きなんですが、紙の本の図書館というものには
あまり接点がなかったし、正直にいうと、これから期待するところもあまりない。
あと、人にもあまり興味がないんです(笑)。
じゃあ何に興味があるかといえば、アーカイブです。例えば電子書籍はちょっ
と前まで、アプリでつくっていました。そうしたアプリの中には、もう動かない
「読めない電子書籍」がたくさんある。こういう問題は昔からソフトウェアでは
あったことだけど、電子書籍の場合、さらに DRM をかけてわざわざ読めないよ
うにしてあって、しかもそれを破ろうとすると刑法にひっかかる。そんな世界で
どうやって電子書籍を未来に遺していけるんだろうと思うんです。
その一方で、電子書籍もウェブページと同じようにどんどん消えていきます。
つくった本人が消していくものもあれば、いつの間にかなくなっていくものもあ
る。それらをどうやってアーカイブしていくか。当分はダーク・アーカイブにし
ておいて、誰もアクセスできなくてもいいですが、すごく時間がたったあとで誰
かがアクセスしたいと思っても、そもそも存在が知られていなければアクセスで
きない。だから少なくとも「そこに何かがある」ことは分かるようにしておきた
いんです。
図書館にはこれまで 100 年、1000 年の単位で本を遺してきた実績がある。そ
うした経験は電子書籍にはまったくないわけで、図書館がもっている技術的な蓄
積は、紙の本以外のものを遺していくうえでもすごく役に立つ気がします。
――紙の本に対して図書館が 1000 年単位でやってきた経験の中に、電子書籍の
アーカイブが参照すべきことがあるということですか?
59特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
高橋:ええ、ないはずがないと思うんです。ただ、いきなり図書館の現場の人を
連れてきて、「なんとかしてください」と言ってもダメでしょう(笑)。そのために
何が必要なのか、まだよく分からないですが、図書館がもっている技術や人材と
テクノロジーを上手くあわせていけば、なんとかなる気がします。
河村:図書館に、これまでに出た電子書籍が再生できる完璧なエミュレーター(あ
るシステム上で、他の OS や CPU の機能を再現し、その OS や CPU 向けのアプリ
ケーションソフトを動作させるソフトウェア)を置けばいいと思うんです。ある
世代の電子端末が使えなくなったら、それらを包含するエミュレーターをつくる。
何十種類かのエミュレーターがあれば、100 年前に出た電子書籍であっても、読
めるようにするのは技術的には難しくないはずです。
吉本:それはやりたいですね。
内沼:すごくいいと思います。
河村:例えば、さきほど紹介した「少女まんが館」の館長は、電子書籍の出版をし
ていたこともある人なんです。ですが電子書籍は 2、3 年たつと読めなくなってし
まうので嫌になって、最後には少女マンガを紙の本で保存する蔵を建ててしまっ
た(笑)。でも、電子書籍のエミュレーターをつくるとなると DRM の話が入って
くるし、そもそも iPhone のエミュレーターをつくっていいのか、という微妙な話
も出てくる。
実は開発者向けにはアップルから iPhone のエミュレーターが配られているん
ですが、それはアップルストアが使えないので、アプリが買えない。したがって
インストールもできないし、当然エミュレーションもできない。そうした事態を
回避するには、開発者用のエミュレーターとは別に、実機とほぼ同じ動作をする
ものを図書館向けにつくってもらわないといけない。
任天堂のファミコンや DS、ソニーのプレイステーション用にはオープンなエ
ミュレーターがあって、これらはだいたい実機と同じ動作をするところまできて
います。でも、電子書籍のエミュレーターはまだみたことがない。Kindle は中身
が基本的にリナックスらしいので、エミュレーターがつくれないはずはないので
すが、Kobo とかも含めて、現時点では電子書籍のエミュレーターをつくるには
60 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
メーカー側の協力がいりますね。
内沼:完璧なエミュレーターがあれば、どんなデータでもそこに持ってくれば読
めるという安心感がありますね。全てのメーカーに協力を仰がなければならない
という意味でも、公共事業に相応しいと感じます。
高橋:もう一つ障害があるとしたらライセンスですね。エミュレーションとは、
ようするに通常の商品に与えられているライセンスに則らずに使うということで
す。電子書籍のコンテンツは単体アプリや、リーダーにダウンロードして読むか
たちなどいろいろとあるわけですが、「このコンテンツは正規のビューワーで読
んでください、正規のビューワーは正規の ID でログインしてください」というラ
イセンスになっているものを別のやり方で使おうとすると、「その権利をあなた
はもっていません」という話になる。だからメーカーだけでなく、アプリをつくっ
ている人や、コンテンツの権利を持っている人たちの協力も必要になります。
河村:ネットワークに依存しているタイプの電子書籍の場合、サーバーが落ちて
いると開けない。
高橋:さらにそのサーバーで DRM の認証をしている場合には、もうやりようが
ないんですよね。
河村:「達人出版会」で売っている電子書籍のように、EPUB や mobi や PDF のよ
うなオープンなデータ形式になっているものは、いつでもエミュレーターできる
でしょう?
高橋:うちの電子書籍は DRM がかかっていないので、エミュレーターがなくて
も大丈夫です。とくに PDF は ISO の規格になっているし、公共機関のデータも
PDF でつくる方向になってきているので、将来も読めなくなることはなさそうで
す。
河村:今の世代のコンピュータが全てなくなる時代がいつか来ます。そのとき
のことを考えると、EPUB はまだ怪しい。ブラウザ依存があって、例えば最新の
61特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
Safariじゃないと見られなかったり、表示が崩れてしまったりしますから。
内沼:昔のワープロ専用機のフロッピーからデータを救い出すサービスがありま
すが、そういうことが図書館でできたらとてもいいですよね。全てのデータを集
めようという理想よりも、まずはどんなデータでも読めるサービスを提供するこ
との方が、公共性が高いような気がしてきました。僕が年をとったときに、もう
開けなくなった東芝ルポのフロッピーを持っていったら、データを救い出しても
らえる、といったことは、図書館がやるべきことの一つという感じがします。
高橋:サービス業者の中には、自前でコンバーターをつくってるとこがありま
すね。古いワープロ専用機をちゃんと動くようにメンテナンスしていて、なにか
あったときにはそのソフトを使ってコンバートするという。ただ、許可をとれな
ければ難しいこともあるかもしれませんし、メーカーの協力にも限界があるかも
しれません。そういう意味では、ネットワークが発達してなかった頃の方が障害
は少なかったんですよ。ネットワーク認証が前提だと、サーバーが動かないと本
当にアウトなので。
河村:ネットワーク越しのものをエミュレートする、もう一つ別のエミュレー
ターが必要になってしまう(笑)。それに、コンテンツに DRM が付いているかぎ
りはアーカイブできないんですよね。DRM 付きのものは、国立国会図書館が画面
を全部スクリーンショットして標準フォーマットにすることを認めるといった合
法化の必要がでてきます。
――国立国会図書館の存在意義は、その時代ごとに変わっていくでしょうね。「長
尾ビジョン」はまだ実現できてはいませんが、国立国会図書館の館長がヴィジョ
ンを打ち出したのは画期的な話でしたし、その結果として、大規模デジタル化資
料もできた。今はまだその段階にとどまっているけれど、電子書籍のアーカイブ
を実現できる唯一の可能性をもっていることが、国立国会図書館の新たな存在意
義という気がします。
62 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
リファレンスの未来
――内沼さんからも、これからの図書館とご自身の関わり方について最後にひと
ことお願いします。
内沼:吉本さんと同じで、一つは図書館に関わっている「人」が今後どうなるの
かで、もう一つが「場所」です。図書館のこれまでの役割が失われても、その建物
や場所には、かならず別の役割が残る。これから先、僕が図書館に関わるとした
ら、その場所に新たな魅力を付与したり、その意味を変えていくためのお手伝い
をすることになると思います。
例えば、図書館における「選書」という話が長尾さんのテキストに出てきます
が、今の公共図書館では選書や棚づくりができる部分はとても限定的です。最初
の方で吉本さんが、「図書館では棚指しの本を面出しするだけでも大変だ」と仰っ
ていましたが、それでもみなさん苦労して、特集コーナーをつくったりしている。
ですが、これからは、「B&B」みたいに毎日イベントやる図書館があってもいいし、
一館一館が地域の魅力を活かした独自のサービスやセレクトをして差別化をはか
ろうという意思を示されることもあると思うので、そのお手伝いをする機会があ
りそうだと考えています。
――この座談会は、長尾真さんがお書きになった「未来の図書館を作るとは」と
いうテキストをみなさんに読んでいただくところから始めたわけですが、これま
でにいろんなご意見が出たとおり、長尾さんご自身も揺れながらも進まれている
と感じました。今日、お集りいただいたみなさんは、それぞれ立ち位置は違うわ
けですが、つながる部分、共有できる部分もあったと思います。またみなさんは
すでに、それを「図書館」と呼ぶかどうかは別として、「図書館的なもの」をつくっ
ていらっしゃるので、それら同士がネットワーク的に広がっていけばいいと思い
ました。
最後に一つ、長尾さんがいま、お考えになっていることとして、図書館用のスー
パー・レファレンス・エンジンというものがあるんです。図書館にとってレファ
レンスはとても重要なサービスです。ただ、人の能力だけに依存するようなサー
ビスには、持続性がない。だったら図書館の本のレファレンスに徹底的に特化し
た人工知能をつくれないか。もちろん、それはとても難しい話ですが、ある種の
63特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
制限を設ければ部分的には可能じゃないかというんです。
そのヒントになったのが、IBM がつくった「ワトソン」です。「ワトソン」が人
間のクイズ王を破った直後に、僕は長尾さんにお会いしたのですが、すごく悔し
がっていらした。そのときは国立国会図書館長になられたあとだったので、ご自
身で挑戦できないのが歯がゆい、でもいつかそういう強い人工知能をつくりたい
と仰っていました。だったら、その人工知能を、図書館のレファレンスに特化し
たものとしてつくれないか。まだちょっと妄想的な部分もあるんですが、長期的
なプロジェクトとしてやってみたいと思っています。
河村:私にとって、今はフェイスブックとこの場所(下北沢オープンソースカ
フェ)がレファレンス・サービスみたいなものなんです。知りたいことを投下す
ると、誰かが答えてくれることが多くて、そこそこ「集合知」が機能する状態には
なっている。
内沼:すごくいいレファレンス・エンジンをつくるのと、フェイスブックのよう
な SNS に問いを投下するのとでは、どちらの方がいい答えが返ってくるか、とい
う話ですよね。
河村:フェイスブックやこのカフェが、それなりにレファレンスの機能を果たし
てくれるのは、もちろん特殊な話題の場合であって、普遍化できることかどうか
は分からない。いわゆる「強い人工知能と弱い人工知能」の問題でいうと、レファ
レンスのためにはやはり「強い人工知能」がいるのかもしれない。そのあたりは
いつも気になっているんです。
内沼:図書館の現場でレファレンスをしている人同志は、つながってないんです
か?「強い人工知能」を否定する気はないんですが、レファレンス業務をしてい
る人間が何万人もいるとしたら、単純にその人たち全員を SNS でつなげて、「こ
んな質問がきたんですけれど」と書きこんだら、すぐに誰かが返してくれるよう
になるのが、いちばん早いように思うんです。
河村:仮にレファレンスの司書さんが数万人いるとしたら、クラスターごとに
100 人ずつ程度にわけて、その人たちを専門分野やテーマごとに勝手に分類する
64 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
部分は「弱い人工知能」がやっていけばいい。
内沼:そのテーマにあったクラスターに人をあてがう選択を「弱い人工知能」が
やるわけですね。
――既存の SNS の中でそれをやってもいいけれど、「これはレファレンスのみで
成り立っています」という専用の SNS をつくった方が分かりやすいかもしれない
ですね。
内沼:それがあれば、日本国内のどの図書館に行っても、一定レベルのレファレ
ンス・サービスが受けられるようになりますね。
河村:かつ、それぞれの司書さんが自分の強い分野を明確にもつことにも意味が
でてきます。
内沼:ただ、それがインターネットで公開されてしまったら、図書館にわざわざ
行く理由はなくなりますね(笑)。
河村:この仕組みがつくれたら、たぶんそれこそが「パブリック」なんですよ。
――「電子書籍のエミュレーター」と「レファレンス専用 SNS」という、具体的に
これからつくれるものが2つも見つかったので、これを各々の環境で、時には集
まって、実装に向かえるといいですね。
座談会の続編ということに限らず、この座談会の続きがどのように展開してい
くのか、とても楽しみです。今日は長い時間、みなさんありがとうございました。
(編集協力:伊達 文)
猪谷千香
猪谷千香(いがや・ちか)
東京生まれ、東京育ち。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。
産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ドワンゴコン
テンツでニコニコ動画のニュースを担当。2013年4月からハフィン
トン・ポスト日本版でレポーターとして、公共図書館や地方自治など
について取材している。著書に『つながる図書館』(ちくま新書)、
『日々、きものに割烹着』(筑摩書房)など。
特 集
コモンズとしての図書館
66 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
いま、図書館に期待されている役割の一つに、「コモンズとしての図書館」がある。
コモンズとは、共有空間。インターネットなどデジタル情報の浸透が私たちの
知的環境を激変させる中、本をただ貸出するだけでなく、図書館を「学びの場」
「人々が集う場」「そこから何かが生み出される場」としてとらえ、実践しようと
する活動が広がっているのだ。
本誌では今回、こうした「コモンズとしての図書館」、もしくは図書館同様、本
を媒介にコモンズとして機能している地域やスペースを取材し、そのあり方をレ
ポートする。公立図書館や大学図書館が、公共図書館の大部分を占めていること
は周知の事実だが、あえて今回は民間の取り組みも紹介したいと思う。図書館と
いうその枠を一度取り払い、「コモンズとしての機能」にフォーカスすることによ
り、これからの「コモンズとしての図書館」に何らかの助言となるのではないか
という期待からだ。
まず、最初に焦点を当てるのは、「日本一のラーニング・コモンズ」と呼ばれる
同志社大学の「ラーニング・コモンズ」だ。
ラーニング・コモンズとは、大学図書館を中心に広がっている新しい学びのか
たちである。文部科学省の用語解説によると、「複数の学生が集まって、電子情報
も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学
習スタイルを可能にする『場』を提供するもの。その際、コンピュータ設備や印刷
物を提供するだけでなく、それらを使った学生の自学自習を支援する図書館職員
によるサービスも提供する」とある。
文科省では、科学技術・学術審議会に学術情報委員会を設け、大学図書館や学
術情報流通などの学術基盤整備のあり方について検討、2013 年 8 月に「学修環境
充実のための学術情報基盤の整備について」というまとめを公表している。他に
も、デジタル化社会に対応した北米の大学図書館における先進例も紹介されるよ
うになり、こうした背景から、各地では積極的にラーニング・コモンズを開設す
る大学が増えている。その一つである同志社大学の「ラーニング・コモンズ」は、
従来の大学図書館から独立、まったく新しい大学の学びの場をつくり出してい
学び、集い、生み出す──これからの図書館へ
猪谷千香
67コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
る。「ラーニング・コモンズ」で大学教育はどう変わっていこうとしているのか。
その最前線をリポートした。
次に紹介するのは、「奈良県立図書情報館」。「情報」というキーワードをコンセ
プトに開館してから間もなく 10 年、県立図書館としての機能に加え、コミュニ
ティ形成の場としても活用されている。落語の寄席やコンサート、ビブリオバト
ル、さまざまなワークショップなど、連日のイベントでは、図書館としてのリソー
スが余すところなく利用され、さらにはそこに集う人々のコミュニケーションか
ら新たな試みが生まれている。図書館のあり方をいま一度、考える事例になると
思われる。
続いては、東京都の「江戸川区立篠崎子ども図書館」を取り上げる。この図書館
は、「江戸川区子ども未来館」の 1 階にあり、両館が協力して子どもたちが科学や
自然、地域の歴史などを学べるよう、半年から通年の体験型プログラムを運営して
いる。子ども未来館と子ども図書館の連携は、全国でも珍しい事例となっており、
子ども図書館の可能性を感じさせるものとなっている。その舞台裏を取材した。
また、民間における「コモンズとしての図書館」として、最近注目を集めている
千葉県船橋市の NPO 法人「情報ステーション」の活動に着目した。「情報ステー
ション」では、地域活性化を目的として、船橋市内を中心に民間図書館を増やし
ていこうという「船橋まるごと図書館プロジェクト」を手がけている。蔵書はす
べて寄贈、スタッフはボランティアという手作りの図書館だが、地域で愛され、
定着しようとしている。その民間図書館でスタートしたのが「船橋みらい大学」
だ。コミュニティの場となることを目的とした図書館が、生涯学習の場としても
機能し始めている。
最後に、地域の有機的なコミュニティから誕生したコモンズとして、東京都の
谷中、根津、千駄木地域で展開する「不忍ブックストリート」と「一箱古本市」の
活動を取り上げる。通称「谷根千」と呼ばれるこの地域では、個性的な新刊書店や
古書店、ブックカフェが点在する“本の町”で、毎年ゴールデンウィーク中に「一
箱古本市」が開催されている。現在、全国で展開する「一箱古本市」発祥の地であ
り、図書館に頼らない本を媒介としたコミュニケーションが活発に行われてい
る。こうした活動は、図書館にとっても何かのヒントになるのではないだろうか。
以上、5 つの図書館や活動を中心に「コモンズとしての図書館」について、いま
一度考えてみたいと思う。また、5ヶ所以外にも先駆例を取り上げた。こちらもぜ
ひ、参考としていただきたい。
68 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「日本一」と称されるラーニング・コモンズがある。京都市の同志社大学が
2013 年4月にオープンした「ラーニング・コモンズ」。面積にして 2,550 平方メー
トルと日本の大学としては最大級、さまざまな学習に対応した新たな学びの場と
して運営されている。
近年、ラーニング・コモンズを設置する大学は増えているが、そのコンセプト
や運営は大学によって異なる。同志社大学の「ラーニング・コモンズ」の最大の
特徴は、大学図書館からは独立し、「学習支援・教育開発センター」に属している
ことだろう。大学図書館から独立した「ラーニング・コモンズ」では、実際にどの
ようなことが実現されているのか。多い日には延べ人数にして 54,000 人の学生
が訪れるという、最先端の学びの改革をリポートする。
 
同志社大学の「ラーニング・コモンズ」は、重要文化財にも指定されているレ
ンガ造りの建物が並ぶ今出川キャンパスの中に新しく建築された「良心館」に設
置されている。
従来、1・2 年次生と 3・4 年次生が別キャンパスで学修していた文系学部を市
内の今出川校地に統合することに伴い、その際約 7,000 人もの学生が戻ることに
なった。そこで新たな校舎として「良心館」の建設が決まった。その名は、創立者
である新島襄が重んじ、同志社教育の原点ともいえる言葉「良心」にちなんだと
いう。
単なるキャンパス整備に終わらせることなく、文系、特に人文・社会系学部の
学習に焦点をあてた新しい学習空間を創造し、教学改革の起爆剤にしたいとの想
いで「ラーニング・コモンズ」を設置したわけである。
いわゆる従来の大学図書館のイメージを覆すこの施設の案内をしてくださっ
たのは、「ラーニング・コモンズ」のアカデミック・インストラクターで助教の
同志社大学ラーニング・コモンズ
「日本一のラーニング・コモンズ」が目指す大学教育の改革
大学図書館から独立、「学習支援・教育開発センター」がつくる学びの場
69コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
岡部晋典さん。「ラーニング・コモンズ」に所属する 3 人の教員のうちの 1 人で、
図書館情報学が専門だ。岡部さん以外にも、それぞれ教育社会学と日本語学の専
門の教員が所属して学生の学習支援をしている。
岡部さんと一緒に 2 階にある「ラーニング・コモンズ」のゲートを通り、入館。
フロアは 2 階と 3 階にまたがっているが、その機能はそれぞれ異なっている。2
階は「クリエイティブ・コモンズ」と呼ばれ、コンセプトは「学びの交流と相互啓
発」。3 階は「リサーチ・コモンズ」と呼ばれ、コンセプトは「アカデミックスキル
の育成空間」となっている。 
 
 
まず、2 階には「ラーニング・コモンズ」の象徴ともいえる空間が広がる。「プ
レゼンテーションコート」と呼ばれる円形スペースだ。遮る壁は一切なく、円形
のパーテーションすらスリットが入り、中で何が行われているか一目瞭然となっ
ている。これは、館内のどこでも同じようなしつらえになっている。
「とにかく視線を遮らないことがラーニング・コモンズのコンセプトです。壁
にもスリットを入れていますし、カーテンも糸状のストリングカーテンにしてい
ます。静かにしろと言われることもない。図書館と別館にした利点ですね」。
「プレゼンテーションコート」では、静かにパソコンを開いて自習している学生
もいれば、にぎやかにディスカッションしているグループも。慣れた様子で、学
生たちはこの空間を使っていた。
「ここで TED ごっこやスティーブ・ジョブズごっこができるよ、と言っていま
す」と笑う岡部さん。TED とはアメリカで毎年、開かれている世界的なカンファ
レンスで、さまざまな分野の著名人が素晴らしいプレゼンテーションを行ってい
る。アップルの創始者、スティーブ・ジョブズもプレゼンテーションの名手とし
て知られる。
いわれてみると、移動できるステージ、120 型ワイドスクリーンが 2 面、天井か
ら HD カメラ 2 台、さらにはマイク、スピーカー、録画機能、テレビ会議設備と、
あらゆる仕掛けがここには施されている。100 席までの本格的な講演会から、気軽
なトークセッションまで、「何をしたいか」によって可変の空間になっているのだ。
「プロジェクト/プロブレム・ベースド・ラーニング(PBL)という学生主体の
未来のスティーブ・ジョブズを生む? プレゼンテーションコート
70 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
学習方法があります。例えば、京都西陣の織物をもっとハッピーな状況にするに
はどうしたらいいか、学生たちは半年かけて右往左往して、プロジェクトを考え
ます。その研究発表の場として、ここでプレゼンテーションするのです」。
一方的に教授の講義を聞き、ノートを取るだけのものとは違うスタイルの学習
が、ここでは行われているようだ。この空間で創造的なプレゼンテーションを研
鑽した学生が、やがて未来のスティーブ・ジョブズになるのかも? そんなことも
予感させる空間だった。
さて、フロアの奥へと進む前に、ゲート付近のインフォメーションカウンター
とその横にある赤いロッカーに注目。インフォメーションカウンターでは、施設
の案内やデジタルビデオカメラなどの機器の貸出をしてくれる。赤いロッカーは
荷物を入れるものではなく、館内で使用するパソコンが入っている。
「『DoKoDeMoPC』と呼んでいますが、学生証でこのロッカーにあるパソコンを
借りることができます。80 台が用意されていて、テストやレポート提出の時期に
なると、あっという間に全部貸し出されますね。ですから、うち 20 台については
スマホなどから予約して 2 時間はキープできるようにしています」。
必要があれば、まずパソコンをここで借りて、館内へ。私たちも奥へと進んで
みよう。2 階フロアは、プレゼンテーションコートの他に 3 つのエリアで構成さ
れている。
最初のエリアは、国際交流を目的とした「グローバルビレッジ」。同志社大学は
海外との結びつきが強い学風で、「ラーニング・コモンズ」でも積極的に海外留学
を志望する学生のサポートを行っている。
この「グローバルビレッジ」に来れば、常駐している国際課の職員に気軽に留
学相談することができる。忙しい時期になると、職員はランチを取る時間もない
ほど、学生が絶えず訪れる人気コーナーだ。備え付けのパソコンのキーボードは
各国の言語に対応した仕様となっていて、ストレスなく入力、情報を収集できる
よう気を配っている。
この他、海外 100 ケ国 60 言語の海外の新聞が写し出される大型モニターや、
BBC やアルジャジーラなど海外放送を流しているコーナーもあり、教員にも好評
「日本語禁止」ゾーンもある、海外との文化交流の接点
71コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
プレゼンテーションコートを仕切る糸状のカーテンによって、オープンな空間がつくられている  撮影=岡本真
学生証で自動貸出が可能なロッカー  撮影=猪谷千香
72 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
という。
ユニークなのは、「グローバルビレッジ」の一角にあるハイカウンターのテーブ
ルや大勢で集まれる大型テーブルのスペース。他のエリアと少し違うのは、「日
本語禁止」と書かれていることだ。「ここは留学生と日本語以外の言語での交流に
チャレンジしてもらうところです。留学生の方もよく訪れてくれます」と岡部さ
ん。海外との文化交流の接点が、いくつも仕掛けられているのだ。
「学生時代、ファミリーレストランに集まって勉強したことはないですか? こ
こはそんなコンセプトなんです」。
岡部さんが次に案内してくれたのは、「インフォダイナー」。ファミレス風の
ボックスシートが並んでいるが、ファミレスと違うのは、短焦点のプロジェク
ターがテーブルに仕込んであることだろうか。壁に備え付けられた白板に直接
アイデアを書くこともできるし、プロジェクターで資料を投影することも可能だ。
仲間とリラックスして、アイデアを練る――そんな空間になっている。
フロア中央のエリアは「グループワークエリア」だ。台形や勾玉形になるテー
ブルが置かれ、自由に組み合わせることで、数人から数十人までのグループ作業
ができるようになっている。天井からホワイトボードを吊って、書いたらまた新
しいホワイトボードを加えていく。そんなことも可能だ。
「とにかく什器は動かせるということが必須です。軽いものを選び、キャスター
がついているものを選んでいます。学習空間を学生が自分たちでつくっていくこ
とができるというコンセプトになっています。ですから、テーブルもイスもボー
ドも倉庫にしまいこまない。倉庫には脚立が入っているぐらいですね。何でも置
いておくと、学生が持っていって使いますから」。
このエリアの一角に、畳型の台座まであった。もちろん移動できるもので、寄
せれば 8 畳のスペースになる。「留学生に人気の畳コーナーです。留学生向けに華
道やお茶の実習をしています。僕がびっくりしたのが、ある時にお坊さんが禅と
は何かを英語で流暢に留学生相手に話をされていた。恐らく地域と連携している
研究室が近くのお寺から呼んだのだと思いますが、さすが京都です」。
ファミレス風のボックスから畳型の台座まで、使い方は学生次第
73コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
さまざまな国からの留学生を意識した、多言語に対応したPC  撮影=猪谷千香
  畳型の台座は、中に机を入れれば掘りごたつになる  撮影=猪谷千香
74 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「近年、アクティブ・ラーニングという考え方が、大学教育の中で盛んになって
きています」と岡部さん。アクティブ・ラーニングとは、教員の講義を受けると
いうこれまでの受動的な学習ではなく、学生自らが課題解決をしたり、プレゼン
テーションを行ったりする能動的な学習のことを示す。では、いよいよ 3 階フロ
アへ。ここでは、2 階とはまた異なる機能があふれ、アクティブ・ラーニングの支
援を行っている。
2 階でグループワークを行って方向性が決まったものの、その後、具体的にど
うまとめたらよいのか、どうやって資料を集めたらよいのか、さらには機材を
使ってプレゼンテーションするにはどうしたらよいのかなど、学生がぶつかる壁
は少なくない。その壁を取り払ってくれるのが、3 階の中央にある「アカデミック
サポートエリア」だ。
岡部さんたち教員はここに常駐し、学生からの相談や質問に対応している。サ
ポートするのは教員だけではない。博士後期課程を主力とした大学院生も、「ラー
ニング・アシスタント」として、常時 2 人が在席、細かな部分まで相談に乗って
くれる。大学図書館からも司書が派遣され、ここに加わっている。
「エンベディッド(embedded =組込み型)・ライブラリアンというかたちで、図
書館から司書と連携を図っています。僕たちがチームでいろいろな方向から議
論していると、司書がこういう文献があります、こういうデータがありますとサ
ポートしてくれます。学生がなかなか先生には聞けないようなことも対応する。
教員と学生のギャップを埋めるのが我々の役目です。図書館のレファレンスだけ
では、なかなか内容にまで踏み込めませんが、ここでの僕の立場は司書ではなく
教員なので、レファレンスのちょっと先をやっています」。
「アカデミックサポートエリア」は、いわば「ラーニング・コモンズ」のエンジ
ンにあたる部分のようだ。この他、同じフロアには、透明ガラスで仕切ったスタ
ジオ仕様の「ワークショップルーム」や、やはり机やイスが自由に動かせる「グ
ループスタディルーム」があり、より集中できる環境が調っている。
図書館のレファレンスの「ちょっと先」をする
75コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
2 階で活発にアイデアを出し合い、3 階でインストラクターのサポートを得な
がらそれを練り上げる。さて、最後にプレゼンテーションをしたい場合に助けて
くれるのが「マルチメディアラウンジ」で、ここではアイデアやまとまった結果
を分かりやすく人へと伝えるための画像制作や、動画編集などが可能だ。ソフト
の使い方を知らなくても、「青ジャン君」と呼ばれる青いジャンパーを着たスタッ
フが教えてくれる。また、赤いジャンパーを着ているのは「赤ジャン君」で、ワー
ドやエクセル、パワーポイントのソフトのサポートを担当する。
作成した画像を出力したい場合、たとえばポスターセッション用の大判ポス
ターを刷ろうとした時に頼りになるのが、「プリントステーション」だ。「ここは
京都市内の印刷会社が担当してくださっています。ポスターだけではなく、T
シャツやステッカー、予稿集も作成できます。著作権にも詳しいスタッフの方が
常駐してくださっているので、無断転載など著作権侵害がないようにしていま
す」と岡部さん。編集からアウトプットまで、このフロアでは一本のラインでで
きるようになっている。
何かをしようと思ったら、何でもできる同志社大学の「ラーニング・コモンズ」。
学生たちによる主体的な学習を促すよう、コンセプトと空間が綿密に設計されて
いた。しかし、実際に利用する立場の学生たちに戸惑いはなかったのだろうか。
「オープンして最初にここを本格的に使用したのは、法学部の有志でした。上級
生が法学研究会を立ち上げていて、開館して 1 週間ぐらいで自主的に勉強会を開
き、後輩たちと憲法とは何かを議論していました。大したものだなと感心してし
まいました」と岡部さんは話す。「1 年目は学内でラーニング・コモンズのことを
知ってもらうための活動をしてきましたが、今年は成果につなげていくというこ
とを目標にしています」。
 
では、同志社大学はこの「ラーニング・コモンズ」を、どのようにしてつくりあ
げたのだろうか。最初に述べたように、大学図書館内に「ラーニング・コモンズ」
をつくる大学が多い中、同志社大学ではその道を選択しなかった。企画段階から
アイデアや成果をかたちにするためのサポートも
SNSのコミュニティがリアルになる空間
76 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「グローバル・ビレッジ」では、留学のアドバイザーが常駐する  撮影=岡本真
アカデミックサポートの掲示  撮影=猪谷千香
77コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
オープンタイプのワークショップルームでは、講習会などが開催される   撮影=岡本真
アイディアを成果物としてかたちにできる「プリントステーション」  撮影=猪谷千香
78 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
関わってきた学習支援・教育開発センターの事務長、井上真琴さんはこう振り返る。
「新しい校舎(良心館)を建てるという話が出たのが 2006 年度末でした。2013
年に建てるという。では、新しい時代の学びに、何が必要か。学長から、学内の各
部門に次世代にやるべきことを考えるよう言われました」。当時、大学図書館に所
属していた井上さんは、「図書館による学習支援、特にアクティブ・ラーニングを
どうサポートするかが焦点になる」と考えた。
「その時に、ラーニング・コモンズという話をしましたが、周囲に意図が伝わら
なかった。これは図書館がすべきものなのか、どうなのか、分からなかった。でも、
ぴんと来たのが、システム系の人たちでした。彼らは、学内の教育プログラムで
利用するための SNS システムを構築中でした。学生が勉強する時にコミュニティ
をつくりますが、このグループはこんなことをやっている、ここではこんなこと
をしていると分かるような検索システムをつくっていた。その自分たちがつくっ
ている SNS のシステムが、リアルな空間のコミュニティと相似形ではないかと。
そこで、2007 年度に学長にアイデアを上げることになりました」。
しかし、そのあとは難航する。2008 年度から 2009 年度にかけて、大学図書館
内で「ラーニング・コモンズ」の構想を議論して原案を出したが、採用されなかっ
た。「それは、自習ルームの延長線上にありました。新しい時代の学びを呼び込め
そうなものではなかった。メディアセンターや図書館のブックカフェみたいなも
のでしかなかった。図書館は蔵書にこだわり、その物神性から離れることは難し
いです。それは良い面もありますが、新しいラーニング・コモンズは生まれなかっ
た」。
「ラーニング・コモンズ」の構想は大学図書館の手を離れ、井上さんも企画部へ
と異動。井上さんが周囲と相談して構想を練り、学長提案として学内に説明した。
「そこに従来の図書館の考え方は入っていませんでした。本棚が中心で、できるだ
け光が入らないように、できるだけ人の姿が見えないようにつくられているのが
従来の図書館。これを改装してつくることは難しかったと思います。これまでの
図書館の施設とアクティブラーニングは、水と油です」。空間の構造だけでなく、
レファレンスにおいても、図書館とは異なっているという。
「図書館では、利用者に『どういう情報源が欲しいのですか?』ということしか
聞かない。『最終的に何をしたいのですか?』ということが分からなければレファ
レンスになりません。でも、ここでは岡部先生たちが『最終目的地』を聞いてくれ
るので、そこまでの道筋を逆算できるわけです。司書はレポートの内容までは関
79コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
係ないと思うかもしれませんが、教育ではそれらは包含されるものなのです。そ
して、図書館が生き残るために本当に大事なのは、情報源ではなくて、情報源を
利用してどのように知的な学習成果を出すか、知的な創造をするかというプロセ
スです」。
見てきたように、同志社大学の「ラーニング・コモンズ」は極力、空間が可視化
されている。ただ「お洒落」や「流行」で設計されているわけではない。「常に他の
人の勉強が見えている状態です。他の人が勉強しているし、自分も頑張ろうとい
う発奮させるだけの相互刺激性ではなく、このような勉強の方法があるんだとい
う、他者の学習行為自体が情報になるような空間です。このラーニング・コモン
ズが良心館だけではなく、キャンパス内に広がればいいと思っています。理想は、
キャンパス全体がラーニング・コモンズになることです」と井上さんは語る。
そして、それは学生の学習支援だけではなく、今後 10 年をかけた教育改革で
もあるという。「学生の質を高めるという目標はありますが、大学教員の教育力を
向上させていくことも大切です。大学教員にラーニング・コモンズを使ってもら
い、『こういう課題を出せば、学生たちはここまでできる』ということを目に見え
るかたちにしないといけない。これは、大学の教育力全体を上げていく活動です」。
オープンから 1 年、手応えは着実にある。「初年次に教育の授業を持っている先
生が、ラーニング・コモンズの使い方を教えてほしいと聞いてきてくれます。正
課の授業でお手伝いすることも増えてきた。忙しくなってきました」と岡部さん
は笑った。
2 年目を迎え、同志社大学の「ラーニング・コモンズ」はまた進化しようとして
いる。
同志社大学 良心館 ラーニング・コモンズ
〒602-8580 京都府京都市上京区今出川通烏丸東入
tel : 075-251-3895 fax : 075-251-3988
http://ryoshinkan-lc.doshisha.ac.jp/
学生の質と教員のレベルを上げて、大学の教育力を高める改革
80 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
図書館という枠組みから自由になった時、図書館はどうなるのか。2005 年の
開館以来、さまざまなイベントや企画を通じて、図書館のあり方を探ってきたの
が、奈良県立図書情報館だ。フォーラム、ワークショップ、展覧会、ビブリオバト
ル、コンサート、落語会など、一見、図書館とは思えないほど多彩なイベントが年
間を通じて開かれていることで知られる。しかし、10 年近くに及ぶこれらの活動
は単なる「にぎやかし」ではない。奈良県立図書情報館では、情報やつながりを求
めてイベントなどに集まってくる人たちの中からコミュニティが形成され、その
コミュニティから新たな情報が発信されるなど、新たな動きが生まれている。こ
のような仕組みは、型にはまってしまった図書館を一度解体し、自然発生的な学
びの場として再構築させるものでもあった。その舞台裏を奈良県立図書情報館の
総務企画グループ企画・広報チームリーダー、乾聰一郎さんに聞いた。
以前の奈良県立図書館は文化会館に併設され、都道府県立図書館の中では最低
ランキングに近い予算規模で、県民の利用も活発ではなかったという。そんな県
立図書館を何とかしようと、県が新しい県立図書館のあり方を検討し始めたのは、
1992 年のことだった。その 3 年後の 1995 年には、新しい県立図書館構想が策定
される。構想は、当時盛んに言われ始めていた「情報化社会」を意識したものと
なった。
新しい県立図書館は、構想から 10 年をかけて完成するが、後半の 6 年間、開設
準備に携わったのが乾さんだ。
「新しい図書館の最初の仮称は『奈良県総合情報センター』でした。計画を進め
ていた当時の知事は、情報化社会における図書館のあり方にこだわりがあり、館
の名称にも『情報』という言葉を入れようということで、最終的に『奈良県立図書
情報館』という名称になりました。そうした経緯からも、この図書館の大きなコ
奈良県立図書情報館
人と人がつながり、情報を編集し発信する図書館
「情報」にこだわって構想された新しい「奈良県立図書館」
81コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「奈良県立図書情報館」外観  写真提供=奈良県立図書情報館
玄関の外より見たエントランス風景  写真提供=奈良県立図書情報館
82 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ンセプトの一つとして、「情報」というキーワードをもつ施設になりました」と振
り返る。
「一般的な公立図書館は、『図書館法の規定に基づいて設置する』と自治体の条
例に書かれることが通常ですが、奈良県の場合は『県民の教育、学術及び文化の
発展に寄与するため、奈良県立図書情報館を奈良市に設置する』とされています。
これにはふたつの意味があります。一つは、図書館法に掲げられた事業をするこ
と、もう一つは、奈良県の公文書館として、公文書館法に基づく事業をすること
です。こちらから見たら図書館、あちらか見たら公文書館という施設なのです」。
今年 4 月に開館した三重県総合博物館も公文書館機能を持つなど、こうした複
合機能を持たせる施設は増えている。自治体が単独施設として運営する体力がな
くなっていることや、資料の「保存」や「活用」といった基本的な活動は、図書館
も博物館も公文書館も共通しているためだ。
「そういう意味で、奈良県立図書情報館は今までのかっちりとした図書館の枠
を外してしまったという一面もあるでしょうか。公文書館には、いわゆる行政文
書だけではなく、古文書があったり、絵図があったり、奈良県に関わるさまざま
な資料が集まってくる場所でもあります。ですから、当初の仮称だった奈良県の
『総合情報センター』というイメージともそれほど遠くない気がしています」。
奈良県立図書情報館は完成後、教育委員会の所管から知事部局の観光局に、さ
らに現在は地域振興部の所管となっている。このようなことも、従来の図書館の
枠組みから一歩踏み出しているゆえんの一つかもしれない。
奈良県立図書情報館では、開館当初からイベントが開かれていた。
「最初はこういう施設ができたということを知らしめたいという目的で、打ち
上げ花火的な役割としてイベントを企画していました。開館時間中にコンサート
を開けば、クレームがあるんじゃないかと戦々恐々としていました。今でもオー
ソドックスな図書館観をお持ちの方は、やかましいとおっしゃいます。でも、そ
れよりも利用者の方の満足度が高いですし、毎日コンサートを開いているわけで
はない。何週間も前から告知もしますので、どうしても嫌な方はその数時間だけ
はご協力くださいということでやっています」。ちなみに、最初に開催されたコ
コンサートホールで開かれるコンサートとの違いは?
83コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ンサートは、心理学者で文化庁長官も務めた故・河合隼雄さんのフルート演奏会
だったという。
もちろん、コンサートホールのコンサートとは違う。ここではただ演奏を聞く
だけではないのだ。
「始めた頃は確信を持ってやっていたわけではないのですが、例えばコンサー
トホールのような専用の施設で開くことと何が違うのかというと、当館でのそれ
は興行ではないということです。ホールなら、どうしても収支も意識しないとい
けない。当然、たくさん来ていただけるようなプログラムや企画を考えないとい
けない。しかし、当館では興行というよりは、ここで、新しい出合いを演出したい。
だから、よく知られた曲ではなく、あるテーマに沿って、本当にそのアーティス
トが演奏したい曲をやってくださいとお願いします。そして、そのプログラムに
対して、僕たちは本でジョイントする。必ず、来場者には関連する本を徹底的に
紹介するブックリストをお渡しします。来場者全員が目を向けてくれるわけでは
ないでしょうが」。
このブックリストはコンサートだけでなく、フォーラムや企画展、落語会など
「大阪フィルハーモニー交響楽団団員」によるクラリネット五重奏 コンサートの風景  写真提供=奈良県立図書情報館
84 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「東アジア現代アート展−アートで創る東アジアの絆」展示風景 写真提供(見開きとも)=奈良県立図書情報館
ファッションショー「tribute to 光明 Fashion Show」の様子
85コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ビブリオバトルの様子
落語会の様子
86 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
すべてのイベントのために作成される。他の文化施設にはない、幅広い分野の所
蔵資料というリソースがあってこその展開が実現している。
こうしたイベントが、図書館から一方的に発信されているものではないことも、
奈良県立図書情報館の大きな特徴だ。
「例えば、公立図書館としては初めてビブリオバトルを開催したのですが、きっ
かけは、当館で開催している仕事に関するフォーラムの参加者の方からの相談で
した。大学でビブリオバトルをやっていた方で、『まだ、公立図書館でビブリオバ
トルを開催しているところがないのですが、この図書情報館でやれないでしょう
か』と言われて始めたのが、最初でした。東日本大震災の翌日、2011 年 3 月 12 日
に 1 回目を開催しました。同じフォーラム参加者が次々に加わって、「奈良県立
図書情報館ビブリオバトル部」というコミュニティができて、そこが主催、館が
共催というかたちでこれまで 40 回以上、開いてきました。大学生、サラリーマン、
フリーランスのデザイナーとさまざまな方たちが集まる緩やかなコミュニティで
す。フライヤーもビブリオバトル部でつくるし、進行も自分たちでやる。じゃあ、
僕はビブリオバトル部顧問になってイスでも並べようかと(笑)」。
ビブリオバトル部から起きた展開も、奈良県立図書情報館ならでは。「ある時、
部誌をつくろうということになったのですが、いろいろなスキルが必要です。こ
こには 30 台のパソコンを備えたセミナールームがあるので、そこを使って画像
処理や組版のスキルを持った部員が、他の部員を集めて講習会をやろうというこ
とになったんです。自然発生的に教えたい人と教わりたい人が集まって講習会を
開く。そういう動きが生まれてきました。僕たちも全力でフォローしています」。
これこそが、奈良県立図書情報館で実現している「学びの場」なのだ。「日本人
は何かを学びたいと思った時に、スクール形式にたどりつきます。スクールで何
か役に立つ知識を得るのも悪いことではありませんが、学びの場の原点を考えて
みたいです」と乾さんは語る。
「来年、開館 10 周年を迎えますが、いろいろある中で浮かび上がってきてい
ることがあります。誰か先生を呼んできて学ぶスクール形式よりも、イベントを
きっかけに集まった人たちがコミュニティをつくって自然発生的にスキルや知
教えたい人と教わりたい人が自然発生的に集まるという「学びの原点」
87コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
印刷物の原稿作成や、Webデザイン、画像編集ができる「アトリエ」  写真提供=奈良県立図書情報館
撮影機材を用いた資料、商品などの撮影や、録画、録音ができる「デジタルスタジオ」  写真提供=奈良県立図書情報館
88 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
識を共有する。館は何かを提供するというより、館に集まって来た人たちが自主
的に始めたことをうまくフォローする。それがうまく成立し始めている。ビブリ
オバトル部で人がつながって、また違うテーマが生まれ、新たなコミュニティが
生まれる。そういう動きの中で、学ぶことや交流することの喜びが生じる。中世
のヨーロッパにおける大学の起源を考えた時に、キャンパスはありませんでした。
学びたい人が集まって、教えてあげるよという人を引っ張ってきて、その場が学
びの場になる。そういう学びの原型みたいな場所に戻ることができるのが、図書
館じゃないかと思っています。あそこはイベントばっかりやっていると言われま
すが、そんなつながりの中でいろいろな企画が生まれ、新たな人のつながりの中
で、イベントがかたちになったりしています。コミュニティと図書館が、互いに
フォローする、されるという関係性の中で知的好奇心がかたちになっていくとい
うことは、図書館の有り様の一つとして大切なことだと思います」。
 
こうしたコミュニティの活動について、乾さんは、いわゆる「図書館ボランティ
ア」とは一線を画している。コミュニティの活動は、館の業務の補助ではなく、彼
らの持つ主体性がすべてだからだ。「ボランティアというと図書館が募集してい
るみたいですよね。そういうあり方とは全然違います。僕はあえてコミュニティ
としか呼んでいません」と乾さんは話す。
「フォーラムやワークショップは、何かを知ったり学んだりするだけではなく、
まったく知らない人同士が出会って、一緒に未知の森へわけ入るきっかけにも
なります。何人かが集まって、『ここでこんなこともやりたいね』となれば、こち
らの思いが届いたというか。そんなことがかたちになっていくと、結果的に、こ
ちらがフォローされていることもある。従来言われているように、図書館が支援
するということに、僕は違和感があります。フォローする、されるという軸足は、
あっちへ行ったり、こっち行ったりしながら、新しいものが生まれてくるのだと
思います。そして、知識や情報を通じて、こんな世界もあるのかと一人でも多く
の人が、何かの機会に持って帰ってもらえたら、図書館としては良いゲートウェ
イになっているという気がします」。乾さんは持論を重ねる。
「便宜的に利用者という言葉を使っていますが、図書館と利用者の関係が溶解
大木型の知の拠点ではなく、有機的な集合としての図書館
89コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
した中で、お互い動いていくというのが良いのかもしれません。本来、知のあり
ようとはそういうものかなと思ったりもします。図書館は『知の拠点』とか、かっ
こいいことをいいますが、こちらに大木があってみんながぶら下がっているとい
うイメージではなく、立ち位置が入れ替わって、それでいて、みんなが一つの固
まりになっているみたいなイメージ。いろいろなものに変形したり、ちょっと離
れたり、またくっついたり。そういう知が、生物が本来、原型として持っているも
のと呼応するような気がします。人と人がつながりながら、情報がダイナミック
に編集され、また再編集され、触発し、され、化学変化が起き、知の森が有機的に
拡大していくようなイメージ、それが実は図書館だと思っています。少なくとも、
美術館や博物館など他の文化施設と比べると、一番、やりやすいのかなと思いま
す」。
奈良県立図書情報館は、そうした原点に立ち戻ろうとする一方、図書館が図書
館たるゆえん、自分たちが所蔵する「本」についても深く探ろうとしている。2014
介護民俗学者と本の原点を探るワークショップ
フォーラム・ワークショップ「本の原点を探る2日間」の様子 左・乾 聰一郎さん、中・六車由美さん 右・アサダワタルさん  
写真提供=奈良県立図書情報館
90 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
年 1 月、「本の原点を探る 2 日間」というワークショップが開かれた。『驚きの介
護民俗学』(医学書院 、2012 年)の著者で、民俗研究者、介護福祉士の六車由実さ
んと日常編集家のアサダワタルさんが講師。人々の日常の中にある思い出や記憶
は、聞き書きされ、記録されることによって初めて情報として他者へ伝えられる。
これを「本の原点」の一つとして捉えようというものだった。
「1 日目はお二人のクロストークを、2 日目は、最初に六車さんによる『聞き書
きワークショップ』を、次に、アサダさんによる『借りパクワークショップ』を開
いていただきました。『聞き書きワークショップ』は、『思い出の味』などのテー
マで、参加者が互いに聞き書きを体験するもので、『借りパクワークショップ』は、
借りたまま、結果的にそのまま返さずに手元にもっている(パクってしまった)
CD を持ち寄って、そのストーリーをつむぐというワークショップでした。物語
られたことを編集することによって、本の原点を体感したい。それが、このプロ
ジェクトのキックオフです」。
奈良県立図書情報館が所蔵するのは「本」だが、別の方向からみれば、それは
人々の「情報」や「記憶」でもある。「本を分解していった時に、紙か電子かという
テクニカルな話ではなく、長い年月をかけてつくられてきた本のかたちをたどっ
てみることで、全然違う知的好奇心が刺激され、本との対話が可能になります。
そこで、今年は、図書館として改めてさまざまな切り口で本について考えるイベ
ントを企画、開催しています」。
どうして図書館がこんなにイベントを開くのか。その問いに対して、一つ一つ、
乾さんは答える。開館時から続けている落語会も、本に通じるのだ。
「寄席は年 5 回開いていますが、『語られる書籍』と呼んでいます。僕が聞き書
きに注目するのは、もともとは語りや口伝え、口承で伝えられてきたものが原点
と考えるからです。それが結果として、本というかたちになっているのではない
かと。物語らないと何も残りません。それは、有名な方が語ったものだけではな
く、無名な人たちの語りも蓄積されて融合されることで、ある時代を表すことが
ある。そういうアプローチからすれば、落語は『語られる書籍』です。そうやって
本の持っている広い裾野を体感することができればと思っています」。
図書館の枠組みを外して見えてくること
91コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
奈良県は国内でも有数の優れた文化財を擁する。「でも、財とは、あくまでも蓄
積されたものであり、それに触発されることがなければ、誰も物語らなくなって
しまう。物語り、文化を担っていく一つの装置としての図書館というのも、あり
かなと思います。単なる鑑賞から一歩踏み込むことができる施設は、他になかな
かない。絵も文化財も鑑賞はできても、一歩踏み込むことは難しいです。でも、本
なら読書するだけでなく、読書を終えてからもっと奥へと分け入ることができる。
言い換えると、本はかたちとしては完結していますが、実は読むという「始まり」
でもあると思います。そのためにも、持っているリソースをどう再編集して発信
していくのか、あらゆる機会をとらえて考えなくてはいけません」。
イベントには必ずブックリストがつくというのは、述べてきた通りだが、これ
も「再編集」による「発信」だ。「図書館は、求める人に求める情報を提供するとい
うスタンスでずっとやってきました。それも大切なことですが、しかし、僕はむ
しろ、求めない人にアプローチしたい。求めない人の中にも、求める情報はある
と認識してもらいたいのです。大半の人がまだ、図書館を使っていません」
つい先日、乾さんは県の書店商業組合の講演でこんな話をしたという。どんな
に売れている本でも、読んでいない人の方が多い。「だったら、Amazon が脅威と
言う前に、リアルの書店も出版社もやることがいっぱいあるんじゃないか。書店
も、もっと自分たちがやれること、リアルでしかやれないことを考える必要があ
るのではないか。これは図書館も同じことなのです。出版社、書店、図書館が一つ
のコミュニティをつくって、各々のもつスキルを共有しながら、読まない人、来
店しない人、利用しない人たちにアピールしませんかと」。
また、乾さんはこの 9 年間をこう振り返る。「従来の図書館という枠組みを一旦、
外してみた時に、どんなものが要素としてあるのか、またどんな可能性の地平が
開けているのかが見えてくるのではないでしょうか」。
奈良県立図書情報館
〒630-8135 奈良県奈良市大安寺西 1-1000
tel : 0742-34-2111(代表)
fax : 0742-34-2777
http://www.library.pref.nara.jp/
92 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
東京都江戸川区。あまり知られていないが、区民の平均年齢が 42.63 歳(2014
年 1 月 1 日現在)と、23 区では中央区に次いで若く、子どもが多い区となっている。
江戸川区は「子育てに強い区」として、さまざまな施策を打ち出しており、その一
貫として 2010 年にオープンさせたのが、「江戸川区立篠崎子ども図書館」だ。ま
ず注目したいのは、その立地。「篠崎子ども図書館」は、同じく江戸川区の施設で
ある「子ども未来館」の 1 階にある。
この「子ども未来館」はいわゆる展示施設ではなく、子どもたちが科学や自然、
地域の歴史などを専門的または継続的に学べる施設として、実験室や工作室を完
備。半年から通年の体験型プログラムを中心に運営されている。そのプログラム
に深く関わっているのが、併設されている「篠崎子ども図書館」だ。未来館のプロ
グラムと図書館の活動を連携させることにより、知識を共有し、子どもたちの創
造力を育むユニークな活動が生まれているという。実際、どんなプログラムが行
われているのか。「子ども未来館」と「篠崎子ども図書館」を訪ねてみた。
4 月 20 日、子どもたちが続々と「子ども未来館」に集まってくる。すぐ近くに
は江戸川河川敷にあるポニーと触れ合える「篠崎ポニーランド」があり、周囲は
家族連れが遊ぶ、のんびりとした風景が広がる。
建物 2 階にある「子ども未来館」の部屋で、小学 4 年生から 6 年生までの子ど
もたちが 5 人ずつ、6 班に分かれて座る。彼らが待っているのは、「社会のしくみ
〈法律入門〉もしきみが裁判官だったら ? !」というゼミの開講だ。
このゼミは、毎月第 3 日曜日の午後に開かれ、1 年間を通して憲法や民法、刑法
について学んでいくというもの。定員 24 人のところ、それを上回る応募数があり、
急遽、定員を 30 人に拡大したという人気プログラムとなっている。
「楽しんで学んでくださいね」と「子ども未来館」の藤原達也館長が挨拶し、ゼ
江戸川区立篠崎子ども図書館
子どもたちの考える力を養う「白熱教室」開講中
「もしきみが裁判官だったら?!」と投げかける法律入門ゼミ
93コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ミがスタート。最初に参加者全員でフルーツバスケットのゲームで緊張を解し、
お互い自己紹介をしていく。場が暖まったところで、いよいよメインであるぬい
ぐるみによる寸劇が始まった。
舞台はたくさんのサルと数家族のウサギが暮らす「サル山共和国」。サル山小学
校の同級生であるウサギのヤスヒコとサルのトーマスは、学校で悪ふざけをして、
友だちのサルであるリサにケガをさせてしまう。それを知った先生は、ヤスヒコ
とトーマスに倉庫の掃除という厳しい罰を与えた。
寸劇を進めながら、子どもたちは「なぜ先生はヤスヒコとトーマスに倉庫の掃
除をさせたのか」を考える。さらに、寸劇では交通事故を起こしてしまったゴリ
ラも登場。この日は、これらの物語を通じて、「刑罰ってなんだろう?」と子ども
たちに疑問を投げかけた。
 
「子ども未来館」「子ども図書館」エントランス風景  撮影=猪谷千香
94 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
このユニークなゼミの舞台裏はどうなっているのだろうか。子ども相手の人
形劇と侮ってはいけない。寸劇のシナリオを考えた講師陣には、早稲田大学の
仲道祐樹准教授や西原博史教授、東京大学の大村敦志教授など、そうそうたる法
律の専門家が参加している。他にも、江戸川区内の司法書士や行政書士、ボラン
ティアなど大勢の大人たちが、このゼミの運営を支える。
大人でも理解するのが難しい法律の話を、どうやって子どもたちに伝えていく
か。講師と「子ども未来館」は綿密な打ち合わせをしてきた。ただ法律の知識を伝
えるのではなく、模擬裁判やディスカッションなどの体験的な活動を交えながら
学び、自分自身で考える力を養ってもらうことが目的だ。そして、「筋の通った意
見を言えるようになること、相手の意見を聞けるようになること」に重点が置か
れた。
もちろん、「篠崎子ども図書館」もこのゼミに深く関わっている。打ち合わせ段
階から司書も参加、寸劇でも活躍した。また、「六法全書」(有斐閣)をはじめ、『ぬ
すまれた宝物』(評論社、1977 年)や『はじめての法教育 みんなでくらすために
必要なこと』(岩崎書店、2007 年)、『裁判のしくみ 絵事典』(PHP 研究所、2012 年)
など、子ども向けに書かれた法律関係書のブックリストを配布し、実際に本を
ブックトラックに並べて紹介。これらの本は、江戸川区内の図書館から取り寄せ
たり、新たに購入するなどして準備する。その日のゼミが終われば、子どもたち
は本を借りて帰ることもできる。
このゼミは 2012 年度に初めて実施された。24 人の子どもたちが参加し、『サル
山共和国』の寸劇は、イラスト入りの本『うさぎのヤスヒコ、憲法と出会う サル
山共和国が守るみんなの権利』(西原博史著)と『おさるのトーマス、刑法を知る
 サル山共和国の事件簿』(仲道祐樹著)として、2014 年 4 月初旬に出版された(2
冊とも太郎次郎社エディタス)。
当初、出版の予定はなかったが、ゼミの面白さを知った新聞記者や編集者の後
押しがあり、「子ども未来館」のプログラムの書籍化第 1 号となった。4 月 20 日付
の朝日新聞「天声人語」でも取り上げられ、高い評価を得ている。
 
プロの大人たちが支える寸劇「サル山共和国」が書籍化
95コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
子どもたちが社会のしくみを自発的に考えるための人形寸劇  撮影=猪谷千香
「子ども未来館」の法律ゼミを書籍化したもの  撮影=猪谷千香
96 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
97コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ゼミでのディスカッション風景  撮影=猪谷千香
98 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「子ども未来館」では 2014 年度、この「社会のしくみ〈法律入門〉もしきみが裁
判官だったら ?!」以外にも、「子どもアカデミー」と称して、数多くのゼミを開講
している。
たとえば、地学の分野に関することを実験しながら学ぶ「宇宙と地球の実験室」
や江戸川区に流れる川の生き物観察、ボート試乗などのフィールドワークも行う
「川がつなぐ!ぼくらの未来」。いずれも、大学や企業、研究機関から講師を招く
本格的なゼミだ。気象予報士の資格者など、経験豊富な「子ども未来館」の職員が
講師を務めているものも多い。今年度の前期だけで 17 のゼミが開講、ほぼ毎日
曜日に何かのゼミが開かれていることになる。
「今年度の前期に開講する 17 のゼミのうち、12 のゼミに図書館は関わってい
ます」と話すのは、「篠崎子ども図書館」の吉井潤館長だ。
「2 階の子ども未来館では色々なプログラムがあり、子どもたちはさまざまな体
験をします。私たち子ども図書館では、その体験で得たものの復習や考え方を補
強するために本の紹介をしています。子どもたちが図書館で学習する場合、単純
に本を探してまとめるというのが一般的だと思いますが、ここでは子ども未来館
のプログラムと連動して、それを本で調べたり読んだりしたらどうなるかという
ことが行われていて、他の図書館とは方法が違っています」。
館長以下 10 人の図書館職員全員が「子ども未来館」のプログラムに関わりを
持ち、密に打ち合わせをすることによって、全国でも例をみない学びの場をつく
り出しているのだ。こうした「子ども未来館」と「篠崎子ども図書館」のあり方に、
他の自治体から多くの視察が訪れているという。
では、なぜこのような連携が可能なのだろうか。「篠崎子ども図書館」のバック
グラウンドはやや特殊だ。
「図書館は社会教育施設ですので本来は教育委員会所属の施設となります。そ
のため多くの自治体では教育委員会所管ですが、江戸川区においては文化共育部
が事務執行するということで教育委員会から委任を受けています。篠崎子ども図
「子ども未来館」のゼミで体験したことを「篠崎子ども図書館」の本で復習
教育委員会から離れて区長部局の文化共育部へ
99コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
展示を意識した図書館カウンターで子どもの心を刺激する  撮影=猪谷千香
肉食爬虫類研究所代表・富田京一さんの講演会「恐竜は生きている!」にあわせた展示  撮影=猪谷千香
100 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
書館は文化共育部文化課に属します。そして、子ども未来館も同じく文化共育部
健全育成課に属します。2008 年から学校教育をメインとする教育委員会から切
り離され、文化や教育、スポーツ行政というものを一体の施策としてできるよう、
区長部局に移されています」。
「篠崎子ども図書館」は開設時から、「子ども未来館」と一体の運営が設計され
ていた 2008 年 2 月から 3 月にかけての区議会では、多田正見区長が今後の区政
について所信をこう表明している。
「未来を担う子どもたちの創造力を養い、子どもの可能性を広げる新たな場と
して、現在の篠崎図書館の場所に 2010 年春の開設を目指し、夢のある施設を建
設してまいります。1 階を子どもライブラリー、2 階を子どもアカデミーとして、
隣接するポニーランドや中篠崎公園と一体的に整備するものであります」。
そして、それまで区長部局と教育委員会に分かれていた文化とスポーツに関す
る事務が、区長部局の「文化共育部」に新設。「子ども未来館」と「篠崎子ども図書
館」は同じ部となった。「課は違いますが、文化教育部長は一人なので、話は通じ
やすいです。お互い何をしているのかが分かりやすい」とそのメリットは大きい
ようだ。
当然のことながら、「篠崎子ども図書館」は「子ども未来館」との連携だけでなく、
子ども図書館として独自の運営も行っている。蔵書は児童書 4 万 6,000 冊がメイ
ンで、中央図書館に次ぐ冊数の児童書を所蔵している。2013 年4月からは江戸川
区立図書館全館に指定管理者制度が導入、図書館流通センターが受託している。
「子ども未来館のプログラムは基本的に小学生向けですので、図書館ではもう
少し小さな子どもをターゲットにしたおはなし会などを毎週開いています。土日
はほぼすべてプログラムが行われているので、なかなか部屋が空きませんが、月
曜日の祝日などに図書館独自のイベントを企画しています」と吉井潤館長。
昨年度は絵本作家のあべ弘士さんの講演会やぬいぐるみのお泊まり会、人形劇
などが実施された。おはなし会は 116 回実施して 3,184 人の参加、工作会は 20 回
実施して 469 人参加と実績を積んでいる。今年度も、肉食爬虫類研究所の富田京一
さんの講演会を開催するなど、子どもたちが楽しみながら学べるイベントを企画
「篠崎子ども図書館」独自のイベントや講座も
101コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
中だ。
「夏休みになると自由研究のために子どもたちが来ます。子ども未来館のプロ
グラムは自然科学や工作が多いので、図書館では文系のテーマを選んでお互いか
ぶらないように、単発の講座をほぼ連日行っています」。
2 つの施設が連携してつくる、子どもたちの学びの場。今年度からは「ゼミを終
了したが、さらに学びたい」という子どもたちの声に応え、土曜日午後に月 1 回
の「アカデミー研究室」をスタートさせた。子ども自身が興味を持ったことや疑
問に感じたことについて、自分で計画を立てて研究していくことをサポートする
目的だという。
吉井館長に、ここを訪れる子どもたちに変化はあったのか聞いてみた。「細かく
分析する方法はないのですが、ここに来ている子たちは、物語よりは図鑑など学
習に直結するような本を借りて行くことが多いですね」。
開館から 4 年。徐々に「子ども未来館」と「篠崎子ども図書館」が播いた種が芽
吹き始めているようだった。
江戸川区立篠崎子ども図書館
〒133-0061 東京都江戸川区篠崎町 3-12-10(篠崎ポニーランド隣)
tel : 03-5664-2011
fax : 03-5243-6811
https://www.library.city.edogawa.tokyo.jp/toshow/child/index.html
102 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
船橋まるごと図書館プロジェクト
千葉県船橋市の民間図書館で、夜な夜な開かれる「大学」
公立図書館だけが、公共図書館ではない。千葉県船橋市でいま、運営は NPO
法人、蔵書は寄贈、スタッフはボランティアという民間図書館が急増している。
2006 年 5 月にオープンした、船橋駅前にある商業ビル「FACE」にある「ふなばし
駅前図書館」。ビルの 2 階フロアの一角に 500 冊ほどの本が並ぶ小振りな図書館
だが、通勤や通学、買い物途中の人たちがひっきりなしに立ち寄り、本を借りて
行く。船橋市内にこうした民間図書館を 30 館つくってしまおうというのが、「船
橋まるごと図書館プロジェクト」だ。船橋市外を含めれば、これまでに 25 館もの
図書館を開設してきた。
このプロジェクトを手がけているのが、NPO 法人「情報ステーション」。代表
理事の岡直樹さんたちが「地域での交流」をテーマに、町づくりを目的として立
ち上げた。順調に図書館数を増やす中、2014 年 3 月から本格的にスタートしたの
が、生涯学習コミュニティ「船橋みらい大学」だ。さまざまな分野の人を講師と
して招き、定期的に勉強会を開いている。地域に根ざした民間図書館は、どのよ
うに学びの場として機能しているのだろうか?
まず、「船橋まるごと図書館プロジェクト」の成り立ちから紹介しよう。船橋
生まれ、船橋育ちの岡さんは、自分の町を良くしたいという思いから、学生だっ
た 2004 年に高校時代の友人たちと NPO 法人「情報ステーション」を立ち上げた。
最初は情報サイトを開設し、地元でフリーマーケットなどを企画した。しかし、
一過性のイベントより、もっと日常的に人が集まれる場をつくれないかと、継続
性のある事業を展開したいと考えた。
同じ頃、駅前ビルの「FACE」は、2 階フロアスペースの活用方法について苦慮し
ていた。岡さんがその相談を受けて、思いついたのは「図書館」だった。岡さんは
当時、早稲田大学理工学部の大学生で、船橋から都内のキャンパスへ通っていたが、
地域の交流の場としてスタートした民間図書館
103コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
講義を終えて地元へ戻ってくると、船橋市立図書館は閉館時間になっていて本を借
りられない日々が続いた。「自分にとって便利な図書館がほしい」と考えたのだ。
しかし、蔵書を買う予算はない。岡さんは連日、FACE のスペースに座り、蔵書
の寄贈を訴えたところ、少しずつ集まるようになり、「ふなばし駅前図書館」を無
事に開設することができた。
この小さな図書館を訪れたことがある人ならご存知だとは思うが、決してのん
びり滞在できるような場所にはない。目の前は、電車の乗降客が途切れることな
く行き交う通路になっている。しかし、通学、通勤の途中で立ち寄る人だけでな
く、買い物に来た地元の人たちも本を借りていくようになった。しかも、本の貸
し借りだけではなく、いつしか利用者同士や図書館ボランティアの人たちとの間
に交流が生まれ始める。
「船橋みらい大学」は、さまざまなテーマのもと、誰もが講師に、誰もが生徒になれる市民大学  撮影=猪谷千香
104 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
図書館がコミュニティの場としての役割を果たせることが分かった岡さんは、
「船橋まるごと図書館プロジェクト」を立ち上げ、市内に30館の開設を目標とした。
なぜ 30 館かというと、大体、市立中学校の数と同じで、「頑張れば歩いて行ける
距離」に図書館を一つずつ、つくりたいという思いからだ。図書館が設置される
場所はさまざまだ。今までに、酒類の小売店や親子カフェ、高齢者施設、マンショ
ンの共用施設などで図書館が誕生してきた。
「僕らは地域活性のために民間図書館を運営しています。そこは皆さんの交流
の拠点となり、誇りや愛情を育むコミュニティとなります。図書館は開かれたコ
ミュニティです。僕らが運営する図書館の蔵書は、その全てが寄贈いただいた書
籍です。日々の運営は、多くのボランティアの方によって支えられています。ま
た、この図書館の利用にあたっては、簡単な会員登録で誰もが無料で利用するこ
とができます。これらのサービスを無償で提供するために、おもに広告主として
事業を支えてくださる企業の方がいます。本の寄贈・ボランティア・利用者・支
援者。その全てにおいて制限するものは何もなく、誰もが参加することができる
公共空間なのです」。
「僕らはそんな小さな図書館をたくさんつくりたいと思っています。本を借り
たり、世間話をしたり、ボランティアをしたりと毎日ついつい寄りたくなるよう
な、家でも会社でもない居場所として、いずれは誰もが家から歩いていけるぐら
いの距離に図書館がある街をつくっていきたいと思っています」。
NPO 法人「情報ステーション」のサイトには、その目的がこう書かれている。
図書館によっては飲食も可能。夜まで開いているところもあり、地域の人は気軽
に立ち寄り、本を囲んで語り合う。緩やかなコミュニティの場として、地域に浸
透している。
 
NPO 法人「情報ステーション」が運営する図書館は、商店街の空き店舗であれ
ば商店街振興組合、高齢者施設であれば運営会社、マンションであれば管理組合
からの運営費によって賄われている。さらに、会社でいえば「株主」にあたる「正
歩いて行ける距離に「小さな図書館」をつくる
図書館閉館の危機を救うためにネーミングライツの募集
105コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
会員」(個人の場合は 1 口 1,000 円/月、法人の場合は 1 口 10,000 円/月)を募集
し、寄付を募るなど徐々に軌道に乗りつつあるが、NPO 法人としては厳しい経営
状態が続いている。
そこで起こったのが「船橋まるごと図書館プロジェクト」で開館した図書館 25
館の一つ、「船橋北口図書館」の閉館危機だった。JR 船橋駅から徒歩 5 分、ビルの
1 階にある「船橋北口図書館」は、2008 年 9 月に開館した。図書の貸出以外にも、
「ビブリオバトル」や絵本の読み聞かせ会をはじめ、夜にお酒を飲みながら語り合
う「図書館 BAR」、男性向けの「図書館メンズヨガ」、編み物をする「ニットカフェ」
など、ユニークなイベントを開催、利用者やボランティアの人たちが集い、やり
たいことや思ったことを実現できる場として、活用されてきた。
しかし東日本大震災以降、スポンサー企業の寄付が減少、光熱費や通信費など
経費の負担も重く、2014 年に入って図書館の継続が難しくなってしまった。コ
ミュニティの場としてすでに定着している図書館でもあり、なんとか継続できな
いか。最後のあがきとして、岡さんたちが挑んだのが、「ネーミングライツ(命名
権)の募集」だ。ネーミングライツの募集は、これまで多くの公共施設で利用され
てきた手法でもある。
2 月 1 日からヤフーオークションで、150 万円の価格からネーミングライツを
出品。図書館のネーミングライツは、地元紙でも紹介され注目を集めたが、入札
には至らなかった。そこで、再チャレンジしたのが、「クラウドファンディング」
だった。「クラウドファンディング」とは、ネット上で支援を募る方法。今回は
「READYFOR?」というクラウドファンディングのサイトで、「民間図書館らしい
企画を生み続けた船橋北口図書館を助けて下さい!」というタイトルで寄付を募
集した。
「寄贈本とボランティアでつくるこの図書館が増えれば、社会に出たばかりの
若者も、社会に出て働きたいけど、ちょっと気後れする、でも社会とはつながっ
ていたいと思う人も、子育て中のお母さんも、家にこもりがちな専業主婦も、会
社と家の往復が日課のサラリーマンも、定年退職をしてお金も時間を余っていて
パチンコばかりして奥さんに怒られているシニア層も、学生時代に学んだことや
15日間で164万円が全国から集まる
106 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「VZONE津田沼図書館」は、JR津田沼駅前にあるパチンコ店にある  写真提供(見開きとも)=NPO法人情報ステーション
「VZONE津田沼図書館」エントランス
107コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「ここち西船橋図書館」は住宅型有料老人ホーム「ここち西船橋」の中にある
「ここち西船橋図書館」館内。ホーム入居の人の他、近隣の人など、無料で誰でも利用できる
108 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
特技をいかしたいと思っている人も、すべての人にとっての居場所となりえ、ま
た誰もがボランティアとして地域社会での活躍の場を得る事ができます!」。
岡さんたちは、クラウドファンディングのプロジェクトでこう訴えた。支援額
は、最も手軽なもので 1,000 円。そして、ネーミングライツのプレゼントをして
もらえる 100 万円と 120 万円の口も用意した。目標金額は 150 万円で、15 日間と
いう期間以内に目標金額に達成しない場合は、プロジェクトは不成立になるとい
うのがルールだ。
ネーミングライツを求める人がなかなか現れず、不成立になるかと思われた募
集期間が終わる前日、ネーミングライツを購入したいという人が出現、最終的に
164 万 4,000 円の支援が集まった。
「うちを応援したいという人なんて来るのかしらと思いましたが、多くの方か
らご支援いただけました。ネーミングライツを購入していただいたのは、遠方の
方でした。僕たちの図書館にいらしたことがなくても、潜在的に僕たちの活動を
応援してくださる全国の方々と会うことができて、本当に嬉しかったです」と岡
さんは振り返る。
図書館は誰でも使える公共の施設であり、それだけに期待も大きい。船橋市を
拠点とする NPO による民間図書館の活動に、地域を超えた多くの人たちが賛同
した証左だろう。 
 
しかし、クラウドファンディングによる支援は一時的なものだ。長期的に安定
した運営を続けるための一つの取り組みとして、2014 年 3 月からスタートさせ
たのが「船橋みらい大学」である。気軽な「コミュニケーションの場としての図書
館」から一歩進め、「生涯学習の場」として講座を開いている。講座一つにつき参
加費は 1,000 円で、図書館の運営費となる。
「誰もが講師に、誰もが生徒になる事ができる市民大学として、市民みんなが主
役の社会教育コミュニティを目指します」として、「講義の様子を写真・文章・動
画など様々な形で残し、伝えていく事で『いまをみらいに』つなげ、船橋の文化・
経済に多少なりとも寄与できればと願っています」とその目的を掲げる「船橋み
らい大学」。これまでに、古書を扱う「株式会社バリューブックス」の廣瀬聡さん
誰もが講師になり、生徒になれる「市民大学」
109コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「酒どっとコム前原図書館」は、酒類小売店の中に誕生。お酒の棚とともに本棚が置かれている
写真提供=NPO法人情報ステーション
情報ステーションの読書アドバイザーが出向して開催した、スターバックスイオンモール船橋店での「読み聞かせ」風景
写真提供=NPO法人情報ステーション
110 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
がデジタル時代の古書ビジネスについて語った講座や、元・在南スーダン大使館
二等書記官の石川亮さんによる南スーダンの講座の他、『走れ!移動図書館』(ち
くまプリマー新書、2014 年)の著者で「シャンティ国際ボランティア会」の鎌倉
幸子さんが復興支援について話す講座などを開催している。5 月中だけでも、7 つ
もの講座が開かれた。
民間図書館が仕掛ける生涯学習の場とは、どのようなものか。4 月 27 日夜に開
催された岡さんによる「NPO 法人∼制度と経営∼」の講座を聞きに、「船橋北口
図書館」を訪ねてみた。岡さんが 2004 年に法人格を取得して今年で 10 年目。そ
の経験から、NPO 法人の制度と経営について話すという。
この日は、就労支援施設や公立図書館で働いている人など、NPO 法人の運営や
図書館事業について興味を持つ人たち約 10 人が参加していた。岡さんは、株式
会社と NPO 法人の相違点を分かりやすく解説し、資金調達の方法や制度の課題
なども具体的に説明。「情報ステーション」が NPO 法人として活動することの意
義について、こう語った。
「いま、ボランティアをしたいという人の行き場がない。これから 10 年後の日
本が抱えるのは、団塊世代の厚い層です。毎日会社に行っていたのに、65 歳で退
職して急に行き場所がなくなる。そういった人たちが、自分たちが暮らしている
家の近所で参加できるボランティア活動は、日本社会にとって大事ではないかと
思います。それから、公共サービスと呼ばれるものの中で、果たして行政がすべ
てやらなければいけないのかというところがあります。社会保障費がどんどん上
がる一方、さらに質の良いサービスが求められる。ボランティアの受け皿と、『行
政ではない公共』が NPO 制度の中で求められているところじゃないかなと思い、
これを基軸に経営をしています」。
  
なぜ、「船橋みらい大学」を始めたのか、もう少し岡さんにその理由を訊ねてみ
た。
「きっかけは、図書館の利用者の方たちが、顔見知りにはなるものの、そこから
なかなか先に進めなかったことです。利用者の方たちが一歩踏み込んでもらえる
ものをと考えました。行政でやっている市民大学が定員を超えて、抽選になるぐ
船橋市立図書館とも連携し、新たな「公共図書館」へ
111コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
らい人気がある。でも、半年や 1 年という長期なので、もっと気軽に単発で参加
できる市民大学を図書館という箱でやりたいと。スタートにあたって、コンセプ
トとしては『誰でも参加できる』は、もう図書館で実現できていたので、『誰でも
講師になれる』にしよう思いました。そして、ここで話してもらったことをアー
カイブもしていきたいです」。
当面は月 10 回から 15 回の開催を目指し、いずれは毎日開催できるようになる
のが目標だ。現在は、「船橋北口図書館」で開かれているが、他の図書館にも広げ
たいとする。
「最終的には、その辺を歩いているおじさんを捕まえて、自分の生涯を語っても
らうぐらいにしたい」と岡さんは笑う。「自分にとって当たり前でも、他の人から
聞くと面白いことってたくさんあるので、そういうところを拾いたい。『今を未
来に』というのが、キャッチコピーなんですが、この場でしゃべってもらうこと
で、未来につないでいく。公共図書館本来が持つアーカイブ機能に近いです。た
とえば、船橋にずっと住んでいて、戦争を経験している人たちから話を聞けるの
は、長くはありません。そういう記憶を残したい」。
地域のコミュニティに深く根ざす「情報ステーション」の民間図書館。この秋
からは、「情報ステーション」が運営する民間図書館に、船橋市立図書館の返却ポ
ストを設置、船橋市立図書館で借りられた本が返せるという連携も予定されてい
る。「船橋みらい大学」も加わることで、さらに新たな公共図書館として、活動の
幅が広がっている。
NPO 法人情報ステーション
〒273-0005 千葉県船橋市本町 1-3-1 船橋 FACE
tel : 047-419-4377 fax : 047-767-8313
http://www.infosta.org/
112 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
本好きが集まり、本と人、人と人が出会う場となっている町がある。かつては
文豪、森鴎外や夏目漱石が暮らし、現在も作家や編集者が数多く住む東京の谷中、
根津、千駄木界隈。通称「谷根千」と呼ばれるこの一帯は、新刊書店「往来堂書店」
や古書店「古書ほうろう」など全国的に知られる個性派書店やブックカフェが点
在、知る人ぞ知る「本の町」なのだ。谷根千付近を走る不忍通りにちなみ、その名
も「不忍ブックストリート」という。
この「不忍ブックストリート」が最も活気づくのが、毎年ゴールデンウィーク
中に開催されている「一箱古本市」だ。書店やカフェなどの軒先に、参加者が一箱
だけ好きな本を詰めて、“古本屋”を開く。2014 年は 4 月 27 日に 56 箱、5 月 3 日
に 44 箱の合計 100 箱が出店され、本好きの人たちが町にあふれた。
2005 年から始まったこの「一箱古本市」は現在、全国へ広がっている。名古屋
や博多などの政令指定都市をはじめ、これまでに 80ヶ所以上で開催されている
とのこと。中には、長野県小布施町の「まちとしょテラソ」のように図書館が中
心となって企画されたものもある。本によるネットワークがどのように拡散し、
「場」を形成しているのか。10 周年を迎えた「不忍ブックストリート」を訪ねてみ
た。
絶好のお散歩日和となった 4 月 27 日。千駄木駅からほど近い「特別擁護老人
ホーム谷中」まで歩くと、前庭に箱がいくつも並んでいた。「いらっしゃいませ」
「お手に取ってみてください」という箱の店主たちの声に誘われて箱を覗くと、数
十冊の本が詰まっている。屋号もそれぞれ個性的。中には安部公房の本だけを並
べたという、こだわりの店主もいた。
さらに「往来堂書店」へも足を伸ばしてみた。古本だけなく、自ら作成した本を
販売する店主も。ディスプレーに凝った箱も目立つ。往来堂書店オリジナルのトー
不忍ブックストリートの「一箱古本市」
本による地域のネットワークが全国に拡散
一箱古本市のスタンプラリーで町を回遊
113コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
店主は思い思い屋号をつけ、本を入れる箱を飾り付ける  撮影=猪谷千香
手書きの屋号が印象的だ  撮影=猪谷千香
114 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
トバッグも店頭に並び、さっそく買って入手したばかりの古本を入れる人もいた。
箱を見ている人たちが手にしているのは、スタンプラリーの用紙だ。箱を出店
させてもらう場所は「大家」と呼ばれる。前述の「特別擁護老人ホーム谷中」や「往
来堂書店」もその一つ。この他、古書店やカフェ、ギャラリーなど、開催の 2 日間
で 25 ヶ所の「大家」が場所を提供。「一箱古本市」を回っている人たちは、「大家」
でお茶をしたり、展示を見たりして楽しめるようになっている。万が一、雨天の
場合でも雨がしのげるのが好評だ。
この「大家」すべてを回ってスタンプを集めると、実行委員会からプレゼント
がもらえることもあり、訪れた人たちは、思い思いに町を回遊していた。
「単純に野外で古本市をやってみたいという気持ちがありました。それも、プロ
の古書店ではなく、素人が古本を売ると面白いんじゃないかと。素人はプロのよ
うに大量の本は用意できませんが、一人一箱だけ、自分の好きな本を選んで出す
のであればやりやすいのではないかと思いました」。
そう振り返るのは、「一箱古本市」の実行委員会代表で、「不忍ブックストリー
ト」と「一箱古本市」を発案した南陀楼綾繁さん。谷根千在住の編集者で、『一箱古
本市の歩きかた』(光文社新書、2009 年)の著者でもある。古書に造詣が深く、京
都の神社などで開かれている古本市を東京でもできないかと考えたのがきっかけ
だった。
「一箱古本市」を訪れていた人たちは、スタンプラリーの用紙だけでなく、地図
を持って歩いていた。この地図こそ、「不忍ブックストリート」のマップだ。
南陀楼さんには、古本市以外にもう一つアイデアがあった。谷根千の街歩きを
するためのマップをつくること。当時から、谷根千は観光スポットではあったも
のの、熟年以上の人が散策に使用する「渋い地図」しかなかった。しかし、谷根千
にも「若い世代の感性による多種多様なカフェやギャラリーなどのお店が増えて
きていました」と南陀楼さん。古い建物をリノベーションして店舗にしたり、有
数の本の町である東京・神保町には敵わないまでも、個性的な書店もあった。
「ただ、そうしたお店は点としてしか認識されていなくて、お目当てのお店へ
行ってそのまま帰ってしまうパターンが多かった」という。たとえば、「往来堂書
点在する書店やブックカフェをつなぐ地図
115コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「不忍ブックストリート」のマップを手にした南陀楼綾繁さん  撮影=猪谷千香
「不忍ブックストリート」のマップは、楽しく町を回遊するためのツールだ  撮影=猪谷千香
116 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
店」と「古書ほうろう」をはしごして、ギャラリーを覗き、ブックカフェでコーヒー
を飲んで帰る。本を中心にして町を回遊してもらう。「そのための地図をつくった
ら面白いんじゃないか」と思ったのだ。これが、「不忍ブックストリート」の地図
の原型となった。
2004 年末、南陀楼さんがこれらのアイデアを「往来堂書店」や「古書ほうろう」
など地元の書店や、地元誌の編集部のメンバーに相談すると、賛同してくれた。
翌 2005 年にマップを作成、ゴールデンウィークには「一箱古本市」を開くことも
目指して、活動をスタート。そうして、「本と散歩が似合う街」とうたったマップ
が完成した。
書店、図書館などは「本マーク」で示し、お洒落なカフェや雑貨店など約 100 店
を掲載。2 万部を地図上にある店舗や都内の書店、ブックカフェなどで無料配布
してもらった。
「非常に好評で、手応えがありました。実際にこの地図を持って歩いている人
をたくさん見かけました」。以来、内容は毎年刷新され、部数も伸びて今年は 4 万
部が印刷された。谷根千の店舗をはじめ都内だけで 200ヶ所ほどで配布。この他、
地方 50ヶ所にも送っている。印刷費はマップに掲載する広告でまかなっている
が、年々枠も増えて谷根千になくてはならない地図となった。
「不忍ブックストリートという言い方も、こちらの勝手な願望です。神保町のよ
うに本屋さんが特に多いわけではない。でも、図書館や書店だけではなく、お店
の中にも本はある。町中に本がある空間があればいいなと思って、そういう名前
にしました。実際、やっているうちに、根津に古書とギャラリーを兼ねた『タナカ
ホンヤ』ができたり、ブックカフェができたりしています。谷根千に本の好きな
方が来る機会は確実に増えました」。
こうして 10 年かけて築いてきた地域の人たちとのつながりを、南陀楼さんは
2014 年 4 月に『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE 出版)として出版している。
「不忍ブックストリート」に集まる本好きな人々
117コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
オリジナルのトートバッグを販売する「往来堂書店」の店先  撮影=猪谷千香
118 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
2005 年 4 月に開かれた最初の「一箱古本市」には、75 箱がそろって出店。予想
を超える反響を呼んだ。「最初はプロの古本屋とか古本マニアの人が出店するの
かなと思っていましたが、そういう人ではなく、読んだ本のことをブログで書い
ている人や大学生、本が好きな若い夫婦だったり。どういう屋号をつけるか、ど
んな本を売るか、すごく力を入れてくれる人が多かった。高じて、本当に古本屋
になってしまった人もいます」。
試行錯誤を経て、2014 年のゴールデンウィークで 16 回目の開催になった。そ
れと同時に、谷根千で始まった「一箱古本市」は、全国へも広がっている。これま
で札幌、仙台、福岡、名古屋、仙台、長野をはじめ、東日本大震災の被災地、宮城
県石巻市でも開かれた。南陀楼さんによると、小さなものも含めれば少なくとも
80ヶ所で開催されているという。
場所と箱と本があれば、誰でも手軽に本屋さんになれる。参加した人がネット
で発信、さらに新しい参加者を呼ぶ。参加者同志がつながって、別の場所で一箱
古本市を開く。本と人、人と人がつながって、一箱古本市は各地で人気イベント
となっているのだ。
「それまではプロが中心のものだった本のイベントを、誰でも参加することが
できるようにした最初のものだった」と南陀楼さん。書店や図書館で本に関する
イベントは多いが、素人である読者が参加できるイベントはほとんどなかったの
だ。
「一箱古本市は好きな人はいるだろうと予測していましたが、路地が多い谷根
千で、町歩きとセットで企画したイベントなので、ここ特有の地域イベントだと
思っていました。その後、福岡や名古屋、仙台で一箱古本市が開かれると聞いて
見に行ったら、商店街の両側に箱を並べていたり、古い商店街のアーケードを利
用していたり。方法は谷根千と違うけれども、その場所の特性に合っていて、面
白いなと思います」。
「一箱古本市」という言葉は、特に商標登録されているわけではない。「僕たち
が知らない場所で開かれている時もあります。ただ、うちのサイトには一応、『開
催する時は連絡ください』と書いてありますので、企画する時にはご相談いただ
けるとうれしいです。つながることで、より楽しいものができるかもしれない。
また、『一人が段ボール一つ分の古本を販売する』というコンセプトがあるので、
「一箱古本市」を支える人々
119コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
それを守ってやるのが面白い。最近、読者が参加できるイベントとして『ビブリ
オバトル』がありますが、これも守らないといけないルールがあるのと同じで
す」。
 
10 周年を迎える谷根千の「一箱古本市」を支えてきたのは、南陀楼さんをはじ
めとする実行委員会の 15 人。それから、「助っ人」と呼ばれるボランティアの人
たちだ。今年は実に 75 人もの助っ人が「一箱古本市」に携わっている。
「一箱古本市は、助っ人さんたちがキーだと思っています。店主さんは本を売る
ことを目的に参加している。大家さんは無償ですけれど、一箱古本市に来たお客
さんが入店してくれるというメリットがある。お客さんは、好きな本を探しなが
ら散歩できる。でも、助っ人さんは目に見えるメリットがない。大家さんでスタ
千駄木にある出版社「羽鳥書店」は、一箱古本市に合わせて「羽鳥書店ギャラリー」を開催する  撮影=猪谷千香 
全国の人気イベントになった「一箱古本市」
120 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ンプ押したり、地図を配布したり。交通費も自腹なのに、6 割ぐらいの方が他の地
域から手伝いに来てくださっています」。
一体、どうして助っ人をしてくれるのか、南陀楼さんは尋ねたことがある。「そ
れが楽しいんです」というのが、助っ人をしてくれる人たちの返答だったという。
「職場や学校で、本の話をする機会がない。大学生にいたっては、本の話をすると
変わった人みたいに思われる。でも、一箱古本市だったら、若い人と 70 代のおじ
いさんが江戸川乱歩の話なんかを普通にしています」。
年齢や職業を選ばずにできる本を媒介としたコミュニケーションが、一箱古本
市の魅力なのだ。「中には、ネットで一箱古本市のことを知り、手伝いたいと言っ
てきた中国人留学生の 17 歳の女の子もいます」。
そして、「不忍ブックストリート」は進化を続けている。谷根千では、今年 4 月
19 日から 5 月 6 日までの 18 日間、「不忍ブックストリート week2014」と称して、
町のあちらこちらでさまざまなイベントが開催された。
千駄木にある出版社「羽鳥書店」では 4 月 27 日に、一日だけ事務所をギャラリー
として開放し、写真展を開催。5 月 4 日には、「台湾で本を売ること、作ること」と
して、台北で書店と出版社を営む陳炳 さんをゲストに、台湾の本事情をテーマ
にしたトークイベントが開かれた。
また、全国で「一箱古本市」をはじめとするブックイベントが盛んになってい
ることから、その主催者を招いた「全国ブックイベント・シンポジウム」が 4 月
26 日に開催された。岩手県や宮城県石巻市、新潟県、徳島県でブックイベントを
手がけている人たちが参加。本を通じた地域活性化や交流の場をどのようにつ
くっていくかが話し合われた。
そこで気になるのは、「一箱古本市」と地元図書館の連携だ。谷根千にも地域の
公立図書館はあるが、あまり協力は得られていなかった。「指定管理者制度が良い
ブックイベントをテーマにシンポジウムも
「一箱古本市」と図書館の連携は?
121コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
か悪いかは別にして」と前置きしながら、南陀楼さんは「地域の図書館に指定管
理者制度が導入されてから、ユーザー目線になって、『不忍ブックストリートの地
図を置きたい』と言ってくれるところがあります。一箱古本市にも、図書館で働
く方が個人的に参加してくれることはよくあります」と話す。
図書館が「一箱古本市」を企画するケースも少なくない。長野県小布施町の「お
ぶせまちとしょテラソ」では、図書館が中心となって定期的に「一箱古本市」を開
いてきた(今年は開催されないと告知されている)。愛知県田原市図書館や鹿児島
県指宿市図書館、福岡県春日市民図書館でも「一箱古本市」は企画されている。「秋
田で開催された一箱古本市では、別の日に図書館の見学会が開かれたとも聞いて
います。地域に根ざした活動をして、つながりがある地方の図書館の方が、一箱
古本市との親和性が高いのかもしれません」。
そして、南陀楼さんには新たなアイデアがある。
「子ども一箱古本市です。子どもが店主になるとすごく張り切ってくれます。3
時間ぐらいしか保ちませんが(笑)。子どもと本の関わりというと、読み聞かせに
いきがちですが、それだけではつまらないと思っています。一箱古本市を学校や
図書館でも開けばいい。その中で、1 円でも 5 円でもお金のやりとりをすること
はすごく大事です。自分で価値判断をすることを小さいうちから学べますし、本
との関わり方が深くなります」。
地域の図書館が学びやコミュニケーションの拠点として、さらに活動の幅を広
げるためのヒントが、「不忍ブックストリート」には詰まっているのだ。
不忍ブックストリート
不忍ブックストリートに関するお問合せは shinobazu@yanesen.org
助っ人さんのお申し出・お問合せは suketto@yanesen.org
http://sbs.yanesen.org/
122 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
放課後、近隣の子どもたちが続々と集まってくる図書館がある。2011 年にオー
プンした東京都武蔵野市の「武蔵野プレイス」だ。図書館を中心とした複合機能
施設で、武蔵境駅から徒歩 1 分という好立地に加え、カフェやギャラリーを併設
したり、館内は無線 LAN が飛び交っていたりと、「図書館」のイメージはことご
とく覆される。白く丸いフォルムが特徴のおしゃれな建築も評判を呼び、武蔵野
市のみならず市外からも大勢の人が訪れる人気スポットになっている。
「武蔵野プレイス」には、「図書館機能」以外に「市民活動支援機能」「生涯学習支
援機能」、そして「青少年活動支援」という 3 つの機能が備わっている。まず、「図
書館」は地下 2 階から地上 2 階までにまたがり、4 層をブラウジングしながら回
遊する構造になっている。
「市民活動支援」は、3 階「ワークラウンジ」にあり、地元の NPO などの市民団
体が活動できるよう、ミーティングスペースや資料などを印刷できる工房、市民
団体の紹介がまとめられているファイルが置かれたコーナーなどが備えられてい
る。「生涯学習支援」は、3 階から 4 階にその機能があり、生涯学習の窓口やさま
ざまなワークショップが開けるフォーラムがある。
その一つが、3 階に事務局がある「武蔵野地域自由大学」の取り組みだ。武蔵野
市と武蔵野地域の 5 つの大学が連携し、「高度で継続的、体系的な生涯学習の機会
を提供する学習空間(仮想大学)」とうたっている。自由大学では独自のキャンパ
スはないものの、5 大学のキャンパスや武蔵野市全域を学習スペースとしている。
地元の大学や文化人と市民をつなぐ生涯学習の窓口として「武蔵野プレイス」は
活用されているのだ。 
しかし、最も特徴的なのは、地下 2 階の「ティーンズスタジオ」だろう。このフ
ロアを訪れる人を迎えてくれる貼り紙には、「一般の方は利用することができま
せん」とあり、20 歳以上の大人の利用はできないことがわかる。つまり、子ども
たちだけが使えるスペースが確保されているのだ。ここが、武蔵野市の青少年支
援機能の拠点となっている。
正確には、平日 14 時 30 分以降の時間帯と、土日祝日や学校の夏休み期間など
武蔵野プレイス
放課後、子どもたちで満員御礼の図書館
123コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
の終日が子どもたち専用になる。小学生以下は 17 時までだが、それ以上の子ど
もたちは 22 時まで利用することができ、最寄り駅が路線乗り換えにも使われて
いることから、放課後には続々と近隣の子どもたちが集まってくる。
フロア中央にはグループでも学習できるよう机が配置され、そのスペースを取
り囲むようにサウンドスタジオ、パフォーマンススタジオ、オープンスタジオ、
クラフトスタジオが並ぶ。これらのスタジオでは、ダンスやバンド演奏をはじめ、
ボルダリングまでできる。もちろん、同じフロアには「図書館」もあり、そのスペー
スの半分は、アニメ雑誌やファッション誌、受験雑誌など、小中高生向けのライ
ブラリーとなっている。
武蔵野プレイス
〒180-0023 東京都武蔵野市境南町 2-3-18
tel : 0422-30-1905
http://www.musashino.or.jp/place.html
kw+hgアーキテクツの比嘉武彦氏による設計は、滞在時間が長くても疲れないようにデザインされている  撮影=猪谷千香
124 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
125コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
数十個の「ルーム」の集合体から成る「武蔵野プレイス」内館風景  撮影=岡本真
126 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
岩手県紫波町は人口約 3万 4,000人、うち 4分の 1にあたる約 8,500人が農家で、
食糧自給率は 170%にもなる。そんな紫波町の初の図書館として 2012 年 8 月、紫
波町図書館は誕生した。
紫波町図書館の立地は少しユニークだ。紫波町が JR 紫波中央駅前の都市整備
事業として立ち上げた「オガールプロジェクト」の重要施設の一つとしてオープ
ンした「オガールプラザ」内にある。「オガールプラザ」は公民連携の手法を用い
た官民複合施設。3 棟にわかれており、中央棟は図書館など町の公共施設、東西棟
には民間のテナントが入居する。
紫波町図書館は運営方針のひとつに「紫波町の産業支援をする」ことを掲げ、
この複合施設で紫波町の産業基盤である農業の支援を展開している。
農業支援では関連資料の収集はもちろん、農薬情報などの最新版が分かるデー
タベース「ルーラル電子図書館」の講習会を開催。専門的な質問にも対応できる
よう、農山漁村文化協会から講師を招き、その使い方などを説明している。
初回は、生産者の参加はわずかだったが、2 回目には農業の企画展示と連動さ
せたり、口コミで広まったりするなどして、生産者の参加も増え、3 回目開催の要
望も出て実施され、図書館と生産者がつながり始めている。
「オガールプラザ」内にある県内最大級の産直ショップ「紫波マルシェ」とも連
携し、季節の野菜やフルーツの図書館所蔵の料理本を紹介する POP を設置して
いる。マルシェの来場者に、料理への興味を通じて紫波町の農産物の魅力を知っ
てもらったり、図書館には暮らしの情報があることなどを知ってもらうためだ。
図書館でのイベントとして、「こんびりカフェ」も開かれている。「こんびり」と
は、紫波の方言で、農作業の合間に小腹を満たすために軽いものを食べる「小昼
(こびる)」という習慣。「こんびりカフェ」では、「こんびり」のように、仕事や団
体の垣根を越えて集まり、気軽に話し合う場を設けている。
また、最近の新しい企画として「夜のとしょかん」がスタート。開館時間にな
かなか来られない社会人にも足を運んでもらおうと、閉館後に飲みものを持ち込
み、ゲストスピーカーと語り合うイベントだ。2014 年 5 月 29 日に 1 回目が開催、
紫波町図書館
町民の「知りたい」「学びたい」「遊びたい」に応える図書館
127コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
岩手県農薬アドバイザーとして活動する「しわ・まち・コーディネット」の河野
和広さんが、「知って得するめっちゃ面白い農の話」をテーマに話した。定員を大
きく上回る 65 人が参加。好評を得ている。
紫波町は 1985 年以降、年少人口の減少と老年人口の増加が続いていた。2013
年末の高齢化率は 25.6%。50 代から 60 代の世代が多く、今後も高齢化にともな
う生産人口のマイナスは、自治体の財政的な危機を招きかねないと指摘される。
財政危機はさらなる住民離れを起こすというスパイラルも予想された。
しかし、独自の農業支援によって注目を集める紫波町図書館は今後、紫波町の
新たなコミュニティの場、学びの場となり、紫波町の課題解決にひと役買うかも
しれない。そんな期待を抱かせる新しい図書館だ。
「夜のとしょかん」実施風景  写真提供=紫波町図書館
紫波町図書館
〒028-3318 岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前 2-3-3オガールプラザ中央棟情報交流館内
tel : 019-671-3746 fax: 019-672-3618
http://lib.town.shiwa.iwate.jp/index.html
128 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「すべての本棚を図書館に」をコンセプトに掲げるサービス「リブライズ」。街
の中に点在するカフェやコワーキングスペース、お寺などコミュニティスペース
に置かれている本棚をサイトで管理して、気軽に本の貸し借りができるようにす
るサービスだ。2012 年 9 月にスタート。現在は 17 万冊を超える本が登録、管理
され、本棚が登録されている場所は「ブックスポット」と呼ばれる。「リブライズ」
の使い方は簡単だ。
たとえば、「本棚のあるカフェ」が、本棚の本をお客さんに貸出したいとしよう。
カフェではパソコンとバーコードリーダーを準備して、「リブライズ」のサイトに
ログイン、自身がオーナーの Facebook ページを選んでブックスポットを開設す
る。あとは、本の裏表紙にある ISBN バーコードをバーコードリーダーでひたす
ら読み取れば、自動的に書誌情報が登録される仕組み。カフェで本を借りたい人
は、スマートフォンにリブライズの貸出カードを表示して、その本の ISBN コー
ドとともにバーコードリーダーで読み込んでもらう。これで貸出は完了。誰がど
のような本を借りたか、Facebook で自動的に共有される。
「リブライズ」は、千葉県船橋市の NPO 法人「情報ステーション」(P102 参照)
とも連携。「情報ステーション」が運営する民間図書館の本も登録されている。ま
た、東京都内の公立図書館で大量の『アンネの日記」やその関連書籍が破損され
るという事件を受けて、図書館以外にある「アンネの日記」を可視化するプロジェ
クト「アンネ・フランク・ライブラリー」にも参画している。
このような、公立図書館ではない、ちょっとした町のコミュニティスペースを
利用した小さな図書館は「マイクロ・ライブラリー」と呼ばれ、近年増えている。
詳しくは『マイクロ・ライブラリー図鑑 全国に広がる個人図書館の活動と 514
のスポット一覧』(まちライブラリー文庫、2014 年)を参照していただきたい。
さて、どこでも本さえあれば、手軽に「図書館」になってしまう「リブライズ」。
この画期的なサービスが生まれたのが、東京都世田谷区にあるコワーキングス
ペース「オープンソースカフェ」だ。オーナーの河村奨さんと同スペースで仕事
をしていた地藏真作さん、2 人のプログラマーが開発した。
オープンソースカフェ
世界の本棚を図書館化する「リブライズ」発祥の地
129コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
きっかけは、「オープンソースカフェ」の壁に備え付けられていた本棚。プログ
ラミングやデザインの専門書など 700 冊あまりが並んでいる。「オープンソース
カフェ」の利用者が、本を持ち込んだり借りたりするケースが増え、個人的な本
棚を管理するサービスがほしいと考えて開発が始まったという。
「オープンソースカフェ」では、「リブライズ」の開発以外にも、さまざまな活動
が行われている。その一つが、毎週日曜日に開かれている「寺子屋 at CoderDojo
下北沢」。小中学生を対象にした無料のプログラミング道場で、プログラミングが
初めてという子どもから、ある程度、自習できる高学年まで、自由に学べる場を
提供している。自分たちのほしいものを自分たちの手でつくる。そんなコワーキ
ングスペースから、「リブライズ」に続く新しいサービスが生まれてくるかもしれ
ない。
オープンソースカフェ
〒155-0033 東京都世田谷区代田 6-11-14-G1
tel : 090-6113-5196
http://www.osscafe.net/ja/
「下北沢オープンソースカフェ」は、用途別の2つの部屋から成る  写真提供=OSSCafe
130 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
2013 年 1 月、東京・五反田にオープンした「ゲンロンカフェ」。作家・思想家
の東浩紀さんが設立した株式会社ゲンロンによる新しいイベントスペースだ。ゲ
ンロンは書籍の出版や展覧会、ツアーのプロデュースなどを手掛けている。ゲン
ロンのコンセプトにはこうある。
「いままで象牙の塔に囲い込まれてきた人文知を、市場に開き、社会改革の足が
かりにし、新しい価値を実現する企業です。知を市場に開くとは、知を『商品』に
すること、知を『楽しいもの』に変えることを意味します。いままでのアカデミズ
ムにおいては、知は商品であってはならない、楽しみの対象であってはならない
と教えられてきました。ゲンロンはその制約を破壊し、新しい知の世界を開きま
す。ゲンロンは、知を『楽しいもの』に変える組織、シンクタンクならぬ『クリエ
イティブタンク』を目指しています」。
その拠点として、「ゲンロンカフェ」では、政治、思想、美術、ジャーナリズム、
情報社会などをテーマにした有料のトークイベントを開催している。平均で月 12
回、年間 150 回にも及び、来場者は月平均 800 人にものぼる。これまでにジャー
ナリストの田原総一朗さん、美術家の村上隆さん、経営者の川上量生さん、アニ
メ監督の細田守さん、政治家の細野豪志さんらが登壇。イベントは動画サイト「ニ
コニコ動画」で中継、アーカイブ化している。ゲンロンカフェは 2014 年 2 月 1 日
に 1 周年を迎えるのと同時に、累計来場者数が 1 万人を突破。学術的なテーマば
かりのイベントスペースとしては異例の集客力を発揮している。
また、ゲンロンカフェでは 5 月 13 日、同人誌ライブラリーを開設した。東さん
の蔵書を中心に批評系同人誌を揃えている。ライブラリーは「ゲンロンカフェ」
営業時間中であれば、閲覧可能だ。 
その目的について、「批評系同人誌の隆盛は、この 10 余年、日本の批評シーン
を語るうえで欠かせない重要な役割を果たしてきました。岡田斗司夫や東浩紀な
ど、商業出版でも活躍する多くの書き手がコミックマーケットや文学フリマで同
人誌を出版し、2000 年代後半には、宇野常寛のように同人市場での成功を糧にメ
ジャーデビューを果たす批評家も現れました。ゲンロンではこのたび、そのよう
ゲンロンカフェ
イベント、カフェ、ライブラリーが織りなす知のプラットフォーム
131コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
な歴史の蓄積を保存し新しい読者にアクセス可能なものにするため、ゲンロンカ
フェ内に批評系同人誌を中心とした小さな図書館を開設いたしました」とする。
ゲンロンカフェのユニークさは、その多面的な運営にある。例えば、ゲンロン
が 2013 年に発行した書籍『福島第一原発観光地化計画』の展覧会や関連トークを
ゲンロンカフェで開催するなど多様な展開によって集客。2014 年 8 月にも優先
的にサービスを受けられる有料会員を対象とした、福島第一原発災害被災地への
スタディツアーを実施するという。学校や研究機関に依拠しない独立した知のプ
ラットフォームとして機能しているのだ。
「ゲンロンカフェ」の本棚に囲まれたスペースは、スタジオにもなる  撮影=猪谷千香
ゲンロンカフェ
〒141-0031 東京都品川区西五反田 1-11-9 司ビル 6F
tel : 03-5719-6821(ゲンロンカフェ店舗)
http://genron-cafe.jp/
132 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
港町・横浜の官庁街・関内。八重桜の並木が続く「関内桜通り」の途中に、5 階
建ての雑居ビルがある。これといった特徴のない玄関は、気づかずに行き過ぎて
しまいそうなほど地味だ。
階段を上った 2 階、エレベーターをはさんだ左右に、不思議な空間が広がって
いる。コールタールを塗ったような黒い床、砕けたガラスでデコレーションした
キッチン周り、打ちっ放しの天井はタペストリーのように様々な色で塗り分けら
れている。横浜市内のアーティストたち延べ 20 人が関わってリノベーションし
たスペース「さくら WORKS <関内>」は、延床面積約 450 平方㍍の広さ。左右
のスペースに、1 台 300 冊が入る 15 の書架が設けられている。
ヨコハマ経済新聞・LOCAL GOOD YOKOHAMA(ローカルグッドヨコハマ)
という 2 つの独自ウェブメディアを展開する「NPO 法人横浜コミュニティデザ
イン・ラボ」が運営するこの「さくらWORKS<関内>」は、2011年にシェアオフィ
スが、2012 年末に多目的イベントスペースがオープンした。
編集者、グラフィックデザイナ−、翻訳家、NPO 法人など多様な会員による
シェアオフィスでは毎週のようにアート、環境、政策、演劇、IT 勉強会、ものづ
くり(ファブラボ)、復興支援、パーマカルチャーなど多様なテーマによるコミュ
ニティイベントが開催されている。時に、同時多発的に開かれるイベントの利用
者は入り交じって、さまざまな創発的な出会いが生まれている。
シェアオフィス内の書架にある本はコミュニティと本をつなぐ「ラボ図書環」
というプロジェクトのもと集められた。混沌とした蔵書が「場」を縁取るように
壁面に並べられている。約 300 人いる NPO 会員が「自分は読み終わったがいい
内容なので、誰かに読んでもらいたい」と贈呈した本がここに来る。
シェアオフィスを運営する「横浜コミュニティデザイン・ラボ」の事業内容を反
映し、情報技術(IT 系)の本を中心にアート、都市デザインの本が多い。もちろん、
横浜の歴史や調査統計、横浜のアーティストの写真集などもそろう。また、2013 年
秋から「ファブラボ関内」を運営していることもあって、最近はものづくりやデザ
インに関する本も増えている。本の貸し借りは、アナログな「ノート」を使っている。
さくらWORKS<関内>
ユニークなコモンスペースに人の縁で集まった本たち
133コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
多目的イベントスペースでは、「本」をテーマにしたイベントも継続的に実施し
ている。横浜在住の著者・編集者が出版した本、横浜ゆかりのテーマの本をとり
あげて話を聞く「ラボ図書環オーサートーク」シリーズだ。現在、18 回を数え、こ
れまでに横浜の教育、地域活性化、アート、障害者雇用、デジタルアーカイブなど
様々なテーマの本の著者、編集者が「さくら WORKS <関内>」を訪れ、本では
紹介できなかったエピソードや視点などについて、約 1 時間半ほどトークを展開
した。終了後にはカジュアルな懇親会が行われ、ゲストと来場者が直接話をする
機会にもなっている。
1冊の本をリアルな「関係」に接続し、本を通じたコミュニティをつくってい
るのだ。(宮島真希子・筆)
コミュニティをデザインするメンバーたちが、知識や経験を交換する
さくら WORKS <関内>
〒231-0012 神奈川県横浜市中区相生町 3-61 泰生ビル 2 階
tel : 045-664-9009
fax : 020-4666-6061
http://sakuraworks.org/
134 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「林の中の小さな図書館」は、長湯温泉の宿泊施設「BBC 長湯」に設置された図書
館である。長湯温泉は、世界でも有数の炭酸泉を湧出し、長期滞在による湯治と、
点在する外湯を巡る楽しみを打ち出した温泉地である。そこに位置する「BBC 長
湯」は、自炊ができるミニキッチンを備えるなどリーズナブルに長期滞在が可能な
施設となっている。その施設内に、山岳資料コレクションを備える図書館がある。
図書館には、登山家であり、旅行作家でもある野口冬人さんが収集した山岳資
料を中心に約 1 万 3000 冊を所蔵する。宿泊施設にありがちな娯楽本中心のライ
ンナップではなく、山に関する資料や温泉に関する資料など、他に類を見ない専
門図書館の趣がある。また、併設した講座室では、ちょっとした講演会や小さな
音楽会も開催できる。読書や研究の環境も整っている。都会の喧騒を離れた温泉
町の居心地のいい宿では、図書館内の閲覧スペースはもちろん、各部屋に書斎が
あり、個々人のペースで、読書や研究に没入できる。時代が時代であれば、長湯温
泉を訪れる文化人も執筆活動に励んだことだろう。現在でも大量の本を持ち込ん
で、長期間滞在し読書に浸る、といった使われ方をしている。イベントなどを開
催してみんなで学ぶ、といったことこそ少ないが、個人が自らの学びに没入する
環境が提供されているのだ。
また、長湯温泉は、全国的な PR の一環として、多くの文化人を招いた過去があ
り、街なかに、歌碑やゆかりを持つ宿泊施設などが点在している。
このような長湯温泉と文学の関係は、明治から昭和初期にまでさかのぼる。長
湯温泉を日本中に知らしめることに尽力した御沓重徳が、野口雨情や与謝野晶子
などの文化人を長湯温泉に招いたのだ。長湯温泉に逗留した文化人たちは、温泉
を楽しみ、それぞれの活動に励んだ。その結果、町には歌碑が点在し、長湯温泉滞
在をきっかけとした作品が生み出された。
ゆかりのある施設では、作家の直筆原稿を飾ったり、関連資料を置いた小さな
ライブラリーを開設して、その縁を伝えている。町全体が、温泉とともに、文学を
親しめるようになっているのだ。外湯文化を中心としたまち歩きの中で住民と湯
治客が文学を接点としてつながるしかけがある。(嶋田綾子・筆)
BBC長湯と「林の中の小さな図書館」
読書に体ごと浸かれる環境を、温泉文化の中で育む
135コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
林の中の小さな図書館
〒878-0402 大分県竹田市直入町長湯 7788-2
e-mail : bbcnagayu@bbcnagayu.com
http://bbcnagayu.com/
「林の中の小さな図書館」 天井の高い館内にしつらえた本棚には、山岳資料が中心に揃えられている  撮影=岡本真
コテージ風の外観の「林の中の小さな図書館」  撮影=岡本真
136 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
137コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
長湯温泉にある公共温泉「御前湯」。座敷の左奥に小さなライブラリー  撮影=岡本真
138 司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
――経歴を拝見すると、図書館員になる前には、臨床心理士をされていたんですね。
谷一:もともと心理学を勉強しており、大学を出てからすぐ、臨床心理士として倉敷中
央病院の精神科に入りました。実際には大学 4 年生から働いていて、そのまま就
職しています。臨床心理士の仕事で食べていくつもりだったのですが、私がつい
ていた先生がお辞めになり、病院の経営方針が変わって、私も居づらくなってし
まったので、3 年で退職しました。当時、臨床心理士以外に司書資格も持っていた
ので、退職直後に募集のあった、倉敷市と岡山市の採用試験を受けました。司書
資格は手に職をと思い、大学で取っていました。本当は、司書か学芸員のどちら
かを取ろうと思ったんですが、当時付き合っていた学芸員の彼(現在の夫)から「学
芸員は採用がない」と言われ、また、司書の勉強は、レポートなど文献を調べるこ
とに役立つので、自分の仕事にも活用できると考え、司書資格を取りました。結局、
倉敷市は落ちて、岡山市にある母校の中学校で学校司書に採用され、そこから図
書館員としての生活が始まりました。
――学校図書館ではどのようなお仕事を?
谷一:学校図書館では、問題を抱えている子どもの話を聞いたり、古くなったり、汚れた
りしている本をきれいにしたり、おすすめの本を紹介する便りをつくってみたり、
ということをしていました。
   当時の岡山市は、市内の全校に学校司書を配置し、現在は就実大学で先生をされ
ている永井悦重さんや宇原郁世さん(故人)など、司書のトップランナー的な方々
が活動されていました。「ブックトークやります」とか、「授業の空き時間があった
▶図書館員になる前に
司書名鑑 No.3
谷一文子 さん
海老名市立中央図書館
株式会社図書館流通センター
株式会社図書館流通センター会長でもあり、2014年4月からは海老名市立中
央図書館の館長として、10 年ぶりとなる図書館の現場に立たれた谷一さんの
知られざるライフヒストリーをご紹介します。
139司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ら、図書館の時間にしましょう!」とか、そういう活動をたくさん教えてもらいま
した。私はブックトークなどを知らなくて、永井先生のブックトークを見て、「す
ごい!」なんて感激して。実際に、私もいろいろと経験させてもらって、学校司書
を2年続けました。
――学校図書館のあとに、岡山市立中央図書館へ移られたんですよね?
谷一:岡山市立中央図書館へ正規職員として採用され、整理係に配属されました。中央
図書館は前年に新館ができ、学校司書も拡充の時期と、ちょうどいい時期に図書
館に入ることができました。そのころの上司・田井郁久雄さんにはとても鍛えら
れました。分類はこうするとか、選書はこうするとか。当時は目録カードも書い
て、ばっちり鍛えられました。ぶつかったり、ケンカもしたけれども、図書館の生
き字引のような田井さんに教えてもらえたのが、すごくよかったと思います。あ
の出会いがなかったら、公務員でたらたらっとやっていたんじゃないでしょうか。
   整理係として働くと、「本とはなにか」がとてもよく分かるんです。その時期は、
いろいろなことを吸収しました。もちろん土日とか忙しい時期は、カウンターに
も出ていたので、一通り学んだという感じです。逆にカウンターに配属された方
たちは、整理関係の仕事をしていないので、「整理のことは分からない」という感
じでした。この環境は本当によかったです。
   当時の館長はもともと図書館司書だったのですが、市長公室長にもなり、市役所
の市長に近いポジションで仕事をされた優秀な方でした。中央図書館の新館がで
きた時に図書館に戻ってきて館長を務められたのですが、行政に強い司書でした。
まさに理想の館長です。もちろん現場が大好きなので、郷土資料も詳しく、フッ
トワークも軽くて、その姿にとても影響を受けました。この時期に、このおふた
りに巡り会えたというのが、私にとって非常にいい経験だったと思います。
   しかし、仕事も 4 年、5 年目になって、もっと上を目指したくなってきたころ、女
性は昇進しづらいとか、年功序列で昇進するなど、公務員の不合理さが見えてき
たんです。 もういいかなぁと思っていたところへ、夫が東京の大学に移ることに
なって、辞めるちょうどいいタイミングだと思いました。
Directory of librarian
140 司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
――東京に出るのに合わせて、転職されたんですね。
谷一:東京でも働きたいと思って、何社か履歴書を出しましたが採用されなかったんで
す。そこで、TRC の営業がたまたま大学の先輩だったので、相談したら TRC の新卒
採用を紹介されて、受けたんです。バブル時代で、運よく採用されました。10 歳
も年下の新卒の方たちと一緒に研修を受けて、データ部に配属されました。
――データ部ではどのようなお仕事を?
谷一:まだ作業にコンピューターが導入されてない時期なので、目録も一枚のシートに
書くというような仕事をしていました。本を分類するのも仕事の 1 つで、当時は、
本の数も今と比べると少なくて、1 日 150 冊くらいが入ってくるのですが、その半
分くらいを毎日分類していました。
   データ部は、どの図書館員よりも多く目録を取っています。膨大な数をこなして
いるからこそ、優秀なんだと思います。そういう経験をさせてもらえたことが、す
ごくよかった。それがあとに生きています。
   私がデータ部にいたころ、『週刊新刊全点案内』に作家のインタビュー記事を載せ
ていました。上司の国岡さんが、自分で目利きした作家さんに直撃インタビュー
するんです。現在の有名作家がまだそれほど有名でなかった時期に、「これから売
れるぞ」という方にインタビューをしていました。私もインタビューを振られた
のですが、私が選んだ人は採用されなかった(今も活躍中の有名作家です)。それ
がきっかけというわけではないですけど、なぜか新刊の担当から遡及のほうに移
りました。
   遡及というのは、行政資料とか展覧会の図録だとかとそういう資料のデータを取
る仕事です。それもまたすごく面白い仕事でした。どうとってよいか分からない
難しい資料や面白い資料じゃないですか、レアものでもあるし。ちょうど愛知芸
術文化センターの展覧会図録が大量に入っていた時期で。こういういい経験をし
ばらくさせてもらいました。
   そのあと、今度は特注という班に移りました。そこでは、新規に大学の目録作成の
仕事に進出しよう、という会社の方針がありました。しかし、大学の目録をやる
には、学術情報センター(学情/現・国立情報学研究所)の NACSIS のデータが扱
えなければならないのですが、当時は民間に一切公開していなかったのです。仕
事をするにも、ID が発行されないので、その大学で派遣として仕事をしなければ
ならない。だけど、やり方も分からない、洋書もやらなければならない。そのよ
うな状況だったので、当時取引のあった関西学院大学に 2 ヶ月間お世話になって、
▶図書館員から図書館を支援する民間企業へ
141司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
「データの取り方を覚えて会社に戻って来い」と言われました。自分の仕事なので、
これを持って帰らないとだめだと思って、本当に必死でしたね。でも、関西学院
大学の方たちがすごくいい方たちで、一人の新人が入ったのと同じように扱って
くれて、仕様書の読み方も、目録の取り方も、花文字の読み方なども、全部丁寧に
教えてくれました。私はそういうことを全然知らなかったので、まず洋書目録の
取り方から覚えて、それから学情のシステムの仕組みを教えてもらいました。た
だ、目録はもともと取れたので、洋書の目録の取り方も意外と簡単でした。2 ヶ月
で取得して持ち帰ることができました。
   持ち帰って、すぐに仕事があるかというと、ありました。ちょうど私学が所蔵資
料の目録をデータ化して登録するということがよく行われていた時期だったので、
仕事のニーズはたくさんありました。
   一番思い出深いのは、東京大学文学部図書館の資料 2 万冊を、2 週間で全て登録す
るという仕事です。地下鉄サリン事件があったころです。
   本当に困って、ありとあらゆる手段を使って、機械も人も動員して、夫にも、夫の
学生さんにも手伝ってもらって、人海戦術で 2 万冊を仕上げました。その納期で
仕上げられたことは担当の職員からすごくびっくりされました。でも、それが自
信につながりました。お仕事だから、絶対納期は守る。完ぺきではないかもしれ
ないけど、「お客さんには迷惑をかけない仕事をするぞ」というのはその時に思い
ましたし、自信としてもあるので、それは絶対やるべきことだと思っています。
   そこからあとは、その仕事をずっと拡大していったのですが、後任も育ってきた
ので、営業デスクへ異動になりました。
――データ部内での異動から、会社全体を見る仕事へと変わられたんですね。
谷一:営業デスクというのは、社長の秘書のような、営業マンのまとめ役のような仕事
です。それは、社内で起こっていることが全て見えるポジションです。社の数字
も分かります。社の一部署だと、その部署のことしか分かりませんが、営業デス
クというのは、物流もあるし、仕入部もあるし、データ部もあるし、発送部もある
し、といろいろな部門がどのように会社の中でつながっているのか、あるいは外
部のお客さんや、取次、出版社さんなどとも、どのようにつながっているのかと
いうこともそのとき初めて分かったので、とても貴重な経験をさせてもらったと
思っています。
   江東区立図書館や墨田区立図書館が業務委託を始めた 2002 年に、TRC では子会社
を立ち上げました。株式会社 TRC サポート&サービスという会社です。「谷一は図
書館員やっていたから、分かるだろう」と社内で言われて、2004 年 4 月にその部
署に移されました。移ったその日に高山へ行けと言われて。高山市の図書館は 4
月の中旬くらいに全面委託で開館したのですが、以前の図書館は職員さんが一人
142 司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
だけで、新しい図書館ではスタッフが何も分からなくて、みんな泣きそうになっ
ていて、エリアマネージャーや統括責任者と一緒に、みんなで開館準備して、オー
プンしました。図書館の現場の仕事に再び就いたのは、そのときです。コンピュー
ター化もされていて、私がいたころとはかなり違っていたので、私がやろうとす
ると、手伝いに来ていたチーフに「谷一さん、違います」とか「カウンターに出な
いでください」とか言われてしまいました。
   そのあと桑名市立中央図書館が 2004 年 10 月にオープンするので、最初は研修を
行うために行ったのですが、急遽、統括責任者を務めることになりました。PFI な
ので、いろいろ書類もあって大変だったし、スタッフもまだ素人同然でしたが、頑
張ってくれました。お客様には、幸いにも非常に喜んでいただけて、これも本当
にいい経験でした。
   そのあと、TRC サポート&サービスの社長になりました。当時、売上 8 億円くらい
の事業だったんですが、これが大赤字です。損益分岐点というのがあって、計算
すると 10 億円以上の売り上げがないとだめでした。スタッフの数を増やさずに、
本社も少数先鋭でやるっていうことを真剣に考えました。ちょうど委託業務がど
んどん増えていく時期で、桑名市と高山市は 2004 年オープン、2005 年が北九州
市の指定管理が始まるというところで、すごいタイミングだったんですね。そこ
から、ほぼ倍々で受託館を増やしてきました。
   でも、そのときに「司書の子たちが勉強する機会がすごく少ないなぁ」と思った
んです。技術的な部分はいいのですが、たとえば選書やレファレンスなどをやら
せてもらってないように思いました。ほとんどが臨時職員だったので、一番いい
仕事をやらせてもらってないので、「ここ、弱いなぁ」と感じる部分がありました。
ですから、研修には力を入れたいとずっと思っていて、eラーニングなども導入し
ました。人材育成こそ、この仕事でやらなければいけないことですね。
   あとは、制度的にも人事の制度を整えました。人事の担当者は社労士の資格を
持った方を何人も入れたりとかして。制度も整えつつ、スタッフたちにプラスア
ルファしていくということを、この10年でやったかと思います。
   また 10 年で、いろんな図書館を見る機会をいただきました。業務拡大と同時に、
挨拶や研修で、私は全部の図書館へ行かないとならないじゃないですか。もとも
と地方の図書館と都会の図書館は絶対違うし、地方の図書館でも非常に豊かなと
ころもあれば、疲弊している図書館もあります。そういういろいろな図書館を見
せてもらえたのも、10年の収穫でしたね。
   仕組みを整えるといえば、社内のグループウェアの仕組みもつくりました。もう
何もしなくてもみんなが情報をアップしてくれたり、地域ごとの情報交換にも
使ってくれていたり、みんなが面白がって使ってくれて。私も実は参考にさせて
もらっていて、「教えて」っていえば、みんなすぐ教えてくれるんですよ。「これも、
この10年やってきたおかげかな」って思っていますね。
143司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
   私自身は全然スキルがないので、目録ぐらいは分かるけど、それ以上のことはで
きないし、今の子たちは、10 年選手がいっぱいいて、非常に力もあるので、教え
られることばっかりです。海老名市の現場に来て、ものすごく楽しいですね。「そ
うだった、そうだった」って感じで、書庫なんか入ると、もうワクワクします。
――現場を見てきて、なにか伝えたいことはありますか?
谷一:ちょっとだけ言いたいのは、司書が「これだけでいいや」とか、「偉くならなくて
いい」と思っていることに対してです。よくある「専門家でいればいい」とか。私、
それは違うと思うんです。やっぱり管理職になってもらいたい。トップを目指し
てほしいと思っているのですよ。それは、一握りかもしれないけれども、「館長を
やって、次の後進を育てるぞ」とかね、そういう気概を持っていかないといけない
と思うし、仮に公務員制度の中でやっている方も、やっぱり本庁行くのがいやだ
とか、いろいろ思っている人いるじゃないですか。そんなことはないと思うんで
すよ。すべて、次の仕事につながるんです。税務課に行ったって、「そこで人脈を
広げて、次は図書館の応援団つくれるんだ」と思えばいいのではないでしょうか。
偉くならないまま、司書のままでいく方たちもいるけど、それは世界をすごく狭
めていると思う。もっとチャレンジしていいんじゃないかなと思っています。
   みんなチャレンジしないじゃないですか。うちのスタッフなんかも、「いい仕事や
ろうよ」と言うとすごく尻込みするのね。リスクをすごく言う。なんでリスクばっ
かり言うんだろう。もっと柔軟に、失敗したっていいじゃないですか。臨床やっ
ていたから分かるんですけど、臨床心理の現場だと、昨日まで元気だった患者さ
んが突然、首つりしちゃった、みたいなことが何回もあったわけね。図書館は、そ
ういう人が死ぬっていう現場ではないんです。図書館に来た時、何が一番よかっ
たかって、「明るい世界だなぁ」と思ったのよ。ダークな世界じゃない。だから、い
ろいろなことをやっても全然 OK で、チャレンジしたほうがいいと思います。今、
ちょうど潮時というか、変わり目じゃないですか。だから、いろんなやり方でい
いんじゃないかなと。今度、プラネタリウムでコンサートするんだけど、やって
みたら意外と音がいいのよ。こうドームになっているから、薄暗い雰囲気もいい
ですね。そんなのも、みんなからのアイデアなんだけど。既成概念にとらわれて
ダメだと思うとできないです。でも、やればいい。これは、とても言いたい。
▶司書へ伝えたいこと
144 司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
――いろんな偶然が重なって、でもそれを大切にしつつ、生かしていけることはすごい
ことだと思います。
谷一:いつも思っているのですが、過去のことを大切にしないと、将来に結びにつかな
いと思います。過去に起こったことが、すべて、結局、今に生きています。だから、
そのときそのときを大事にしてきたことがよかったと思っているし、関学とのお
付き合いにしても、その当時の方々はみんな偉くなっていて、今でもお声を掛け
てくださるので、非常にありがたいと思っています。もしあのときないがしろに
仕事していたら、今声を掛けていただけるようなことは絶対になかったと思って
いますし、「TRCなんか」って言われたと思うんです。
   そう思ってみんなが一つひとつの仕事を大切にしてくれれば、きっとすごくいい
将来が見えてくると思いますね。
――最近の図書館について、なにか思うところはありますか?
谷一:『つながる図書館』(猪谷千香・著、ちくま新書・刊)じゃないですけど、やっぱり
図書館って地域にあるものじゃないですか、地域密着ですし。そこへ人が来て、図
書館という場もあるし、資料もあるし、人間どうしのつながりもあって、いろい
ろミックスされて新しいものが出てくるような場だと思っているのです。だから、
そこのミックスさせる部分をもっとうまく仕掛ければ、いい成果が出ると思うん
ですよ。それにはもちろん、いろいろなパワーもいると思うし、いろいろな方の
力が必要だと思うんだけども、だからそうなったときに、この図書館の価値が発
揮されると思うんですよ。
   私は「地域のアイデンティティってあるな」って、すごく感じているんです。海老
名市の国分寺にしても、市民はどこかでアイデンティティにしていると思います。
そこを大事にしないといけない。そのためには、資料収集もしなければならない
し、発信もしなければならないし、教えていくこともあるかと思います。そうい
うことはすごく大事です。それは、どの図書館でもあることですよね。「うちには
何もない」という図書館員も多いけど、そんなことはない。その地域を変えていく
原動力になっていくような図書館になってもらいたいと思っています。私は図書
館にカフェがあってもいいと思うし、ちょっとぐらいは本が買えてもいいと思っ
ています。それは時代が求めていることだから、時代に合わせてやればいいんで
すよ。
   スウェーデンのとある図書館に行ったときに、サイレントルームというのがあっ
たんです。最近流行ってきているそうですが、「静かに読書をしたい人は、ここの
▶地域のアイデンティティを大切にする図書館
145司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
部屋を利用ください」っていう。住み分けられればいいと思います。図書館にも、
にぎやかな空間が今は求められているようにと思うんです。昔はしーんとした図
書館がイメージされたし、今もそうかもしれないけど、時代とともに変わってく
のを敏感に察知しないとって思います。
   ここの図書館、インターネット機能がないんですよ。「世の中の人が当たり前み
たいに使っているのに、なんでそれに図書館が対応できないのかなぁ」と思って。
Wi-Fiくらいあったって当然だし、外国の図書館では、どこでもあるじゃない? 
   首長が決め事としてやるのであれば、現場も上へのアピールが必要ですよね。教
育委員会だけでは難しい部分もあるのかもしれないし、指定管理のような形だと、
企画課とかまちづくり政策課とかから予算がついて、バーッと動くじゃないです
か。スピードが全然違うんですよ。そういうところに認知されると大きく動くん
です。そういうポイントみたいなのを、もっと司書の人たちがよく学ばないと。だ
から、公務員だったら役所の人と付き合う、民間だったら館長がことあるごとに
役所へ挨拶に行く。ちょっとでもアピールすることによって、「あー、頑張ってい
るんだな」って認知されて、図書館が思っているのと違うところから予算がつい
たり、「図書館って役に立つ」と思われる事業ができるようになる。図書館の事業
というのは、道路をつくるよりはるかに少ないお金でできますし、費用対効果が
高いですからね。そのためにも教育委員会だけじゃなくて、広い世界を考えたほ
うがいい。
   指定管理になったことで、管轄が教育委員会から市長部局へ移る図書館も最近、
多くなってきて、そのほうがいいなぁとも思っています。ただし忘れてはいけな
いのは、やはり教育機関だということ。ベースは絶対に崩してはいけないと思っ
ています。だから、アメリカへ行った時に「あ、この人たちって当たり前のことを
やっている」とすごく思ったのね。「当たり前」の上にサービスが加味されている
わけです。そこを押さえながら、図書館をつくっていきたいと思っています。そ
れには自分一人ではできなくて、今いる図書館のスタッフとともにつくっていき
たいと思っています。
臨床心理士から図書館員へ、図書館員から民間企業へと転身を重ねてきた谷一さん。そ
れは、ある意味偶然がもたらした転身なのですが、その一つひとつの機会を大切にし、過
去を生かして次へとつなげていくその姿が非常に印象的でした。
(インタビューアー:嶋田綾子)
谷一文子(たにいち・あやこ)
海老名市立中央図書館 神奈川県海老名市上郷474−4
Tel:046-231-5152 Fax:046-235-5880 Email:info@ebina-library.jp
株式会社図書館流通センター 東京都文京区大塚3-1-1
Tel:03-3943-2221(代)
146 羊の図書館めぐり  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
147羊の図書館めぐり  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
148 ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
『ライブラリー・リソース・ガイド』の発行元であるアカデミック・リソース・
ガイド株式会社の最近の業務実績のうち、対外的に公表可能なものをまとめてい
ます。各種業務依頼は、お気軽にご相談ください。
2014 年 3 月 3 日(月)に福島県の白河市立図書館で、「図書館総合展フォーラム 2014
in 白河」が開催されました。弊社では、2013 年から図書館総合展の地方展開につき、企
画・実施を受託しており、今回の白河開催でも企画から実施までを請け負いました。当
日は 200 名ほどの参加があり、たいへんな盛況でした。ご参加の方々に心から御礼申し
上げます。
また、2014 年 5 月 18 日(日)に
岡山大学で開催された「図書館総
合展フォーラム 2014 in 岡山」で
も同様の役割を果たしました。ま
た、いずれのフォーラムでも弊社
代表の岡本真が司会を務めました。
なお、図書館総合展の地方展
開 は、2014 年 7 月 11 日( 金 )に
新潟県立図書館で「図書館総合展
フォーラム 2014 in 新潟」として
開催されます。
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
業務実績 定期報告
図書館総合展フォーラム2014 in 白河、同岡山を開催
149ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
ニコニコ学会β実行委員会によ
る「第 6 回ニコニコ学会βシンポ
ジウム in ニコニコ超会議 3」が、
2014 年 4 月 26 日(土)、27 日(日)
に幕張メッセで開催されました。
弊社では、同委員会の創設依頼、
事務局を務めており、今回も事務
局として、事前事後はもとより、
開催当日の諸業務を担当しまし
た。
株式会社石本建築事務所からの委嘱のもと、長崎県と大村市が進める一体型図書館・
郷土資料センターの整備基本計画の策定につき、業務支援を実施しました。
なお、この業務に従事していた約半年間、長崎県内の図書館関係者には多大なるご助
力を頂戴し、また見学も快く受け入れていただきました。心から御礼申し上げます。
第6回ニコニコ学会βシンポジウム in ニコニコ超会議3を開催
長崎県の一体型図書館・郷土資料センター整備基本計画の作成を支援
150 ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
株式会社乃村工藝社からの委嘱
のもと、2013 年度、2014 年度の 2
年間に渡って、現在富山市が進め
る西町南地区公益施設整備事業に
ついて、主に富山市立図書館本館
の建て替えと移転に関わる業務の
支援を実施しました。
この業務に従事した 2 年間、富
山県内はもとより、北陸各地域の
公共施設・商業施設の方々には見
学等を快く受け入れていただきま
した。心から御礼申し上げます。
2014 年 3 月 4 日(火)に淡路島
で開催された第 6 回データ工学と
情報マネジメントに関するフォー
ラム(第 12 回日本データベース学
会 年 次 大 会 )(DEIM2014)で BoF
セッション として、アイデアソン
「リクルートテクノロジーズとつ
くる、ライフイベントの高付加価
値サービス」を開催しました。
DEIM2014 でアイデアソン「リクルートテクノロジーズとつくる、ライフ
イベントの高付加価値サービス」を実施
富山市の西町南地区公益施設整備事業を支援
151ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
これはリクルート社のサービス
「ホットペッパービューティー」の
口コミデータを活用し、エンジニ
ア機能とデータサイエンティスト
機能の協働により、ライフイベン
ト(進学、就職、結婚)における高
付加価値サービスを生み出すため
のアイデアをグループごとにまと
めていくもので、弊社ではワーク
ショップのデザインと実施にあ
たってのファシリテーションを担
当しました。
2014 年 5 月 24 日(土)∼ 25 日(日)に島根県隠岐の離島・海士町(中ノ島)で、「ARG
第 4 回 Web インテリジェンスとインタラクション研究会」(ARG WI2 研究会)を開催し
ました。
 今回は、ARG WI2 研究会がこれまでに蓄積してきた学術成果を地域振興に活かす可能
性を検討する会と位置づけ、実施しました。当日は、IT を利用した離島発のサービス提供
を行っている先進的地域の海士町において、研究会参加者と島の皆さまが交流を図り、
現場の知と学術の知の交易を行いました。
  mail:info@arg-corp.jp 
全  般:070-5467-7032(岡本)
LRG関係:090-8052-0087(嶋田)
弊 社 業 務 問 合 せ 先
ARG 第4回Webインテリジェンスとインタラクション研究会を開催
LRG Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド
定 期 購 読● 誌名:ライブラリー・リソース・ガイド(略称:LRG) 
● 発行:アカデミック・リソース・ガイド株式会社
● 刊期:季刊(年4回)  
● 定価:2,500円(税別) 
● ISSN:2187-4115
● 詳細・入手先:http://fujisan.co.jp/pc/lrg
「ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)」はアカデミック・リソース・ガイド株式会社が、2012年11月に
創刊した、新しい図書館系専門雑誌です。さまざまな分野で活躍する著者による特別寄稿と、
図書館に関する事例や状況を取り上げる特集の2本立てで展開していきます。第5号からは
「司書名鑑」も連載を開始しました。最新情報は公式Facebookページでお知らせしています。
公式Facebookページ:https://www.facebook.com/LRGjp
定価 2,500円(税別)B A C K I S S U E
1年4号分の定期購読を受付中です。
好きな号からのお申し込みができます。
定   価:10,000円(税別)
問い合せ先:090-8052-0087(嶋田)
      lrg@arg-corp.jp
SOLD OUT
元国立国会図書館長の長尾真さんの図書館への思いを書き上げた「未来の図
書館を作るとは」を掲載。図書館のこれまでを概観し、電子書籍などこれからの
図書館のあり方を論じている。
特集は、「図書館100連発」と題し、どこの図書館でも明日から実践できる、小さ
いけれどきらりと光る工夫を100事例集めて紹介している。第4号では、100連
発の第2弾として、創刊号で紹介後に積み上げた100事例を紹介している。
特別寄稿/
特  集/
内  容/
創刊号・2012年秋号(2012年11月発行) ※品切れ
長尾真
「未来の図書館を作るとは」
嶋田綾子
「本と人をつなぐ図書館の取り組み」
みわよしこさんによる特別寄稿では、社会的に弱い立場とされる人々の知識・
情報へのアクセス状況を概観し、知のセーフティーネットであるべき公共図書
館の役目を考える。
特集では、株式会社カーリルの協力により、図書館のシステムの導入状況を
分析している。全国の図書館では、それぞれ資料管理用のシステムを導入し
ているが、その導入の実態を分析する、これまでにないものとなっている。
特別寄稿/
特  集/
内  容/
みわよしこ
「『知』の機会不平等を解消するために──何から始めればよいのか」
嶋田綾子(データ協力:株式会社カーリル)
「図書館システムの現在」
第2号・2013年冬号(2013年2月発行)
残部稀少
152 定期購読・バックナンバーのご案内  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
特別寄稿「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」は、「これからの街の本屋」をコンセ
プトにした本屋「B&B」を運営するnumabooks代表の内沼晋太郎さん、自宅を開
放する「住み開き」を提唱する日常編集家のアサダワタルさん、「ビブリオバトル」を考
案した立命館大学の谷口忠大さんの3名にお話をいただく。
特集は、「本と人をつなぐ図書館の取り組み」として、図書館で行われている、本と人
とをつなぐさまざまな取り組みについて紹介する。新連載「司書名鑑」は、関西学院
聖和短期大学図書館の井上昌彦さんを紹介する。
特別寄稿/
特  集/
司書名鑑/
内  容/
第5号・2013年秋号(2013年11月発行)
内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大
「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」
嶋田綾子「本と人をつなぐ図書館の取り組み」
No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館)
東日本大震災は図書館にも大きな被害をもたらした。その被害状況と復興の歩み、
そしてそこから見えてくる図書館の支援のあり方を、宮城県図書館の熊谷慎一郎
さんに論じていただいた。
特集では、地域に残された災害の記録を伝える図書館、災害資料を使い地域防災
について啓発活動を行う図書館などの取り組みについて紹介する。
特別寄稿/
特  集/
司書名鑑/
内  容/
第6号・2014年冬号(2014年2月発行)
熊谷慎一郎
「東日本大震災と図書館─図書館を支援するかたち」
嶋田綾子「図書館で学ぶ防災・災害」
No.2 谷合佳代子(公益財団法人大阪社会運動協会・大阪産業労働資料館
「エル・ライブラリー」)
東海大学の水島久光さんによる特別寄稿は、著者自身の私的アーカイブの試
み、夕張・鹿児島・東北の地域の記憶と記録を巡って、地域アーカイブの役割と
重要性を論じている。
特集は「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」として図書館での資金
調達の取り組みを紹介。昨今の自治体財政状況により、図書館の予算も十分と
は言い難い。そのなかでさまざまな手段を講じて資金を集め、事業を行っていこ
うとする図書館の取り組みを集めた。
特別寄稿/
特  集/
内  容/
水島久光
「『記憶を失う』ことをめぐって∼アーカイブと地域を結びつける実践∼」
嶋田綾子・岡本真
「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」
第3号・2013年春号(2013年5月発行)
残部稀少
特別寄稿は、前号(第3号)での特集「図書館における資金調達(ファンドレイジン
グ)」を受けて、実際に資金調達を行っている組織からの視点、資金調達のサービス
を提供する事業者からの視点と、より理論的に図書館での資金調達に迫る。第4号
が理論編、第3号が実践編という位置づけであり、2号併せて読むことをお勧めする。
特集は、創刊号で大きな反響を呼んだ「図書館100連発」の第2弾。さまざまな
図書館で行われている小さくてもきらりと光る工夫や事業から、創刊号以降の
1年で集めた100個を紹介する。
特別寄稿/
特  集/
内  容/
岡本真・鎌倉幸子・米良はるか
「図書館における資金調達(ファンドレイジング)の未来」
嶋田綾子
「図書館100連発 2」
第4号・2013年夏号(2013年8月発行)
残部稀少
153定期購読・バックナンバーのご案内  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
LRG
LRG 8号 2014年9月 発行予定
Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド
次回予告
LRGライブラリー・リソース・ガイド
定価(本体価格2,500円+税)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
特別寄稿
特 集
猪谷千香「教育委員会制度改革」(仮)
公共図書館は、教育委員会の下に位置付けられるのが基本です。しか
し、最近では首長部局直轄の図書館が現れるなど、自治体のなかで位
置付けが変化してきています。さらに、教育委員会自体も制度を見直す
改正地方教育行政法が成立するなど大きな動きがあるなかで、図書館
を取り巻く制度や、位置付けなどを論じます。
採録「第2回LRGフォーラム」菅谷明子×猪谷千香
『社会インフラとしての図書館─日本から、アメリカから』
2014年7月2日に開催した、菅谷明子さんと猪谷千香さんのトークセッショ
ンを編集し掲載します。
2003年に刊行された『未来をつくる図書館』の著者・菅谷さんと2014年
に刊行された『つながる図書館』の著者・猪谷さんが、「図書館×ジャー
ナリズム」「図書館×子育て」「図書館×IT」「図書館×リテラシー」といっ
たさまざまなテーマから、「社会インフラとしての図書館」のあり方を語り、
問いかけます。
155次号予告  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
LRG
ライブラリー・リソース・ガイド
https://www.facebook.com/LRGjp
第7号/2014年 春号
無断転載を禁ず
発 行 日
発 行 人
編 集 人
編  集
デザイン
発  行
2014年6月30日
岡本真
岡本真
大谷薫子(モ*クシュラ株式会社)
アルファデザイン(佐藤理樹 + 小野寺志保)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社
Academic Resource Guide, Inc.
〒231-0012 神奈川県横浜市中区相生町3-61
泰生ビル さくらWORKS<関内> 408
Tel.090-8052-0087(嶋田)
http://www.arg.ne.jp/
lrg@arg-corp.jp
ISSN 2187-4115
写真提供/奈良県立図書情報館
表 紙:奈良県立図書情報館 3階から2階をのぞむ
裏表紙:「世界のブックデザイン2012-13」展示風景
定価(本体価格2,500円+税)
Library Resource Guide
第7号/2014年 春号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
ISSN 2187-4115
LRGライブラリー・リソース・ガイド

『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』第7号(2014年7月)

  • 1.
    LRGライブラリー・リソース・ガイド 第7号/2014年 春号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 LibraryResource Guide ISSN 2187-4115 特別座談会 内沼晋太郎 × 河村奨 × 高橋征義 × 吉本龍司 未来の図書館をつくる 特集 猪谷千香 コモンズとしての図書館 司書名鑑 No.3 谷一文子(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター)
  • 2.
    LRG Library ResourceGuide ライブラリー・リソース・ガイド  第7号/2014年 春号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特別座談会 内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司 未来の図書館をつくる 特集 猪谷千香 コモンズとしての図書館 司書名鑑 No.3 谷一文子 (海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター)
  • 3.
    2 巻頭言  ライブラリー・リソー ス・ ガ イ ド 2 0 1 4 年 春 号 『ライブラリー・リソース・ガイド』第 7 号を発刊することができました。本誌 をお読みいただいているみなさまに、改ためて感謝申し上げます。 創刊から 2 年目も半ばとなった今号から大きな変化があります。それは今回か ら書き手に猪谷千香さんを迎えたことです。猪谷さんのお名前は弊誌をお読みに なる方々であれば、よくご存知のことでしょう。本年初頭に刊行した『つながる 図書館』(ちくま新書)は図書館の枠を超えて読まれるベストセラーとなってい ます。猪谷さんとは震災関係の取材で初めてお目にかかり、それ以降、様々な機 会でご一緒してきましたが、今回この『ライブラリー・リソース・ガイド』を生 み出すプロセスにご参画いただけることになりました。申し出を快く受けてくだ さった猪谷さんにも御礼申し上げます。 さて、今回は、 ●特別座談会  「未来の図書館をつくる座談会」 内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司 ●特集  「コモンズとしての図書館」 猪谷千香 ●司書名鑑No.3  谷一文子(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター) ●羊の図書館めぐり  第1回  大阪府立中之島図書館 という構成です。 巻頭言 図書館の新しいあり方へ
  • 4.
    3巻 頭 言    ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春 号 「未来の図書館をつくる」座談会は、内沼晋太郎さん(B&B)、高橋征義さん(達 人出版会)、河村奨さん(リブライズ)、吉本龍司さん(カーリル)という豪華な顔 ぶれによる座談会を再録したものです。この座談会はウェブサイト「マガジン航」 < http://www.dotbook.jp/magazine-k/ > が行ったもので、同サイトに 3 回に渡っ て連載されたものです。ただし、本誌に再録したものはさらに編集を加え、読み やすさが増しているのではないかと思います。ぜひ、ウェブ版との違いも含めて お読みください。 特集「コモンズとしての図書館」は、猪谷千香さんの幅広い取材の成果です。場 としての図書館を巡る議論が盛んですが、「場」を一歩進めて、「コモンズ」として の図書館のあり方に注目した力作ではないでしょうか。 3 回目の掲載となる司書名鑑では、図書館業界のリーディングカンパニーであ る図書館流通センター(TRC)を率い、また CCC との協業で注目を集める海老名 市立中央図書館の館長も務める谷一文子さんにご登場いただきました。谷一さん の語る言葉にこれからの図書館を考えるヒントがあるのではないでしょうか。   最後に、恒例のお願いとなりますが、本誌を取り巻く経済環境は決して明るい ものではありません。本誌を刊行するアカデミック・リソース・ガイド株式会社 としては、本誌で大きな利益を出すことは考えていませんが、適度なバランスは 維持しなくてはなりません。ぜひ、本誌の定期購読や最寄りの図書館への購入リ クエスト、知人友人への推薦を引き続きお願いします。 ※なお、本号より、利益の一部を公益財団法人シャンティ国際ボランティア会に  寄付することといたしました。 編集兼発行人:岡本真
  • 5.
    巻 頭 言 図書館の新しいあり方へ[岡本真]………………………………………………… 2 特別座談会 未来の図書館をつくる[内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司] ………… 5 特   集 コモンズとしての図書館[猪谷千香] ………………………………………………… 65 LRG CONTENTS Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第7号/2014年 春号 学び、集い、生み出す──これからの図書館へ 同志社大学ラーニング・コモンズ 奈良県立図書情報館 江戸川区立篠崎子ども図書館 船橋まるごと図書館プロジェクト 不忍ブックストリートの「一箱古本市」 武蔵野プレイス 紫波町図書館 オープンソースカフェ ゲンロンカフェ さくらWORKS<関内> BBC長湯と「林の中の小さな図書館」 司書名鑑 No.3 谷一文子(海老名市立中央図書館・株式会社図書館流通センター) 羊の図書館めぐり 第1回 大阪府立中之島図書館 アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 定期購読・バックナンバーのご案内 次号予告 …………… 138 ……………………………………………… 146 …………………………………… 148 ………………………………………………………………… 152 ……………………………………………………………………………………………… 155 ………………………………………… 66 ………………………………………………………… 68 ……………………………………………………………………… 80 …………………………………………………………… 92 ………………………………………………………… 102 …………………………………………………… 112 …………………………………………………………………………… 122 ……………………………………………………………………………… 126 …………………………………………………………………… 128 …………………………………………………………………………… 130 ………………………………………………………………… 132 ………………………………………………… 134
  • 6.
  • 7.
    6 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 前・国立国会図書館長の長尾真さんの論考「未来の図書館を作るとは」が、「LRG」 創刊号(2012 年秋号)で掲載されてから約1年。館長在任中に、大胆かつ画期的 な「未来の図書館」像を提案した「長尾ビジョン」を引き継ぐ本テキストは、どの ように読まれたのだろうか。 2013 年秋、「図書館」や「本」のあり方を革新する、思考の実践者 4 名が集まり、 長尾さんの論考を手がかりに、さまざまな角度から「未来の本と図書館」につい て語り合った。 左から内沼晋太郎さん、高橋征義さん、河村奨さん、吉本龍司さん。下北沢オープンソースカフェにて。 撮影=二ッ屋絢子 内沼晋太郎×河村奨×高橋征義×吉本龍司 李明喜(司会) 未来の図書館をつくる *本座談会は、ウェブマガジン「マガジン航」が、2013 年 6月に「達人出版会」から「未来の図書館を作る とは」が電子書籍(無償)として刊行されたのを機に行い、「未来の図書館をつくる座談会 Part 1 ∼ 3」 〈http://www.dotbook.jp/magazine-k/future_library_talk_01/〉として、同ウェブマガジンで発表され たものです。 *本稿は、「マガジン航」編集人・仲俣暁生さんから許諾をうけ、本誌用に編集を加えて、転載したものです。
  • 8.
    7特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)  1980 年生まれ。numabooks 代表。ブック・コーディネーターとして、異業 種の書籍売り場やライブラリーのプロデュース、書店・取次・出版社のコ ンサルティング、電子書籍関連のプロデュースをはじめ、本にまつわるプ ロジェクトの企画やディレクションを行う。2012 年、下北沢に「これから の街の本屋」をコンセプトにした「B&B」を博報堂ケトルと恊業で開業。近 著に『本の逆襲』(朝日新聞出版、2013)。 「B&B」ホームページ http://bookandbeer.com/ 河村奨(かわむら・つとむ) 千葉大学在学中にソフトウェア開発とデザインを専門として起業。オープ ンソース活動に関わる中で、コワーキングとの親和性に気づき「下北沢オー プンソースカフェ」を 2011 年オープン。2012 年、カフェやコワーキングス ペースなど、街なかにある本棚をウェブで管理し、本を貸し借りできるよ うにするサービス「リブライズ」を発表。 「リブライズ」ホームページ http://librize.com/ja/ 吉本龍司(よしもと・りゅうじ) 1982 年生まれ。小学生の頃からプログラミングを始め、高校時代に有限会 社アール・ワイ・システムを設立。2012 年、全国 6000 以上の図書館から書 籍とその貸し出し状況を簡単に横断検索できるサービス「カーリル」を発表 し、株式会社カーリルの代表取締役に就任。 「カーリル」ホームページ http://calil.jp/ 高橋征義(たかはし・まさよし)  1972 年生まれ。勤務していた会社を辞め、2010 年、IT 系技術書の電子書籍 の制作・販売を行う電子書籍専門の出版社「達人出版会」を一人で設立。ソ フトウェア技術者でもあり、特に国産のスクリプト言語として名高い Ruby について精力的に活動を展開している。2004 年 8 月に「日本 Ruby の会」を 設立、会長を務める。 「達人出版会」ホームページ http://tatsu-zine.com/ 司会:李明喜(り・みょんひ)  1966 年生まれ。デザインチーム・マット代表/デザインディレクター/空間デザイナー。カフェや銀行など、 様々な形の本のある空間をデザイン。環境としての図書館のデザインに取り組む。
  • 9.
    8 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 どのように本と関わってきたか ――司会・李明喜:前・国立国会図書館長の長尾真さんが2012年にお書きになっ た「未来の図書館を作るとは」というテキストがあります。これは本誌「LRG(ラ イブラリー・リソース・ガイド)」の創刊号(2012年秋号)に掲載されたのですが、 このテキストに「LRG」編集発行人の岡本真さんと長尾さんの対談を付録として 加えたものを、2014 年 6 月に「達人出版会」から電子書籍として出版されること になっています(座談会当時。2014 年 6 月に出版)。今回の座談会はその刊行にあ わせて、本や図書館に関わるユニークな活動をしている人たちの活動や考えをま とめたら面白いのではないか、というところで生まれた企画です。 最初に、みなさんの活動と図書館とのつながりを、自己紹介をかねて伺います。 まずは図書館の世界にいちばん近いと思われる「カーリル」の吉本さんからお願 いできますか。 吉本龍司:「カーリル」というサービスを、4 年近く運営しています。「カーリル」 を始めるまでは図書館業界にいたわけではなく、始めてから図書館のことを知る につれて、その奥深さを知りました(笑)。ただ、自分自身が図書館のユーザーか といわれると、公共図書館のサービス自体に、現時点では魅力を感じないという のが正直なところです。逆に現時点で満足していたら、「カーリル」のサービスは やめてもいい。「カーリル」が勝手にクラウドで動いて、維持管理の他は何もしな くてもいいのなら、僕じゃなくてもできる。そういうことも考えると、満足して ないからこそ続けられているように思います。 「カーリル」を始めて数ケ月目にできたコンセプトは、「ウェブから図書館へ」 でも「図書館からウェブへ」でもいいから、「図書館という場所とウェブをつない でいきたい」ということでした。 実際のサービスとしては、自宅の他、社会人な ら会社、学生なら大学といった生活圏にある複数の図書館の蔵書をまとめて検索 できる便利なもので、まずは使ってもらうことが重要です。 「カーリル」のサービスを続けることの先に僕がやっていきたいのは、情報社会 における図書館運営の大きな変化の中で、公共図書館と一緒にウェブサービスを やっていくことで、「図書館の人たちは次にどうするのか?」というところにいち ばん興味があります。 はじめに
  • 10.
    9特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 ――次は「リブライズ」の河村さん、お願いします。 河村奨:私は「リブライズ」というサービスを運営しています。僕たちは全ての本 棚が「図書館」だと思っているんです。ふつう図書館といったとき、公共図書館と か学校の図書館を思い浮かべると思うのですが、僕らはそれこそ 10 冊でもいい から本の入った棚があれば、そこは「図書館」だと言っています。英語で「Library」 という場合、図書室でもいいし、もっと小さなスペースでもライブラリーなわけ です。 「リブライズ」でやっているのは、その「本棚」に入っている本を目録としてウェ ブに上げて、どんな本が置いてあるのかが、その場に行かなくてもすぐ分かるよ うにすることです。今、私たちがいる「下北沢オープンソースカフェ」(P126 参 照)は 2 つのスペースがあって、隣の部屋の本棚に、オープンソース関連を中心に、 デザインや図書館関係の本が 700 冊ほど置いてあります。その目録をウェブで知 り、気になって借りに来てくれる人がいたりします。 「リブライズ」のミッションは「すべての本棚を図書館に」ですが、自分たちの 活動を「図書館」と名乗りたいわけじゃなくて、他にいい言葉がないという部分 もあります。本を読みたいユーザーの側からすると、本は買ってもいいし、借り てもいいし、その場に行って読むのでもいい。その違いは、あまり気にしていな いように思います。でも、それらの行為をする場をまとめるような言葉がないん です。 サービスの利用者の方向けには「ブックスポット」という言い方をしてい ますが、一般の方向けには分かりやすく「図書館」という言葉を使っていて、そう した場所が全国 300 ケ所くらいに増えてきています。 「本棚がある場所」というだけなら、国内でも何十万という単位で存在するはず なので、最終的にはそこまで、あるいは世界中にもひろげられるなら、いたると ころを「図書館」にしたいということで活動しています。いちおう合同会社です けど、実体は「秘密結社」みたいな感じです(笑)。 ―― 続きまして「達人出版会」の高橋さん、お願いします。 高橋征義:「達人出版会」代表取締役の高橋と申します。この中で図書館といちば ん関係がなさそうな感じですが(笑)。もともとプログラマーをやっていたのです
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    10 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 が、思い立って電子書籍の出版社を立ち上げました。基本的には IT エンジニア向 けの電子書籍を取り扱っているので技術書がほとんどですが、多少は読み物もあ ります。自分のところで本をつくって販売しています。紙の書籍でいうところの 「出版社」と「書店」を兼ねるというスタイルですね。 図書館との関わりでいうと、うちでつくっている本は図書館には置いてないん です。「リブライズ」のように「図書館」的なものをつくりたいと思っても、うち は EPUB と PDF がベースで、しかも DRM(デジタル著作権管理 、Digital Rights Management のこと)もかけない方針でやっているので、基本的にいくらでも コピーができてしまうんです。「コピーも印刷も全て好きにしてください。ただ し、個人利用を徹底してください」としているので、仕組み的に図書館にならない。 むしろ「自分で買ったものだから、この電子書籍を図書館にしたいです」とか、「こ れで図書館を始めました」とか言われると、すごく困るんです(笑)。 そもそも電子書籍に携わる者としては、「電子書籍の図書館 」に関してあまり ピンとこないというか、理想的な未来が全く見えてこないのが正直なところです。 ――このあとの議論の中で、そのヒントが得られたらいいですね。では最後に内 沼さん。内沼さんは「B&B」という本屋を経営しておられますが、その他にもいろ いろな活動をされているので、それも含めてお話ください。 内沼晋太郎:僕は numabooks という屋号で、ずっとフリーランスで本に関わる 仕事をしています。最初に主な仕事として始めたのは、洋服屋さんとか飲食店と いった異業種における本の売り場をプロデュースすることや、企業の受付とか病 院の待合室、集合住宅の共有部分といったところに、本を閲覧できる場所をつく ることでした。そういう場所が「ライブラリー」と呼ばれるときもあって、それは 「図書館」でもあるのかもしれませんね。その過程で派生した仕事として、出版社 や書店のコンサルティング、電子書籍のプラットフォームのプロモーションやプ ロデュースなど、幅広く本に関わる仕事をしてきました。 2012 年 7 月に、「博報堂ケトル」の代表・嶋浩一郎さんと、下北沢で「B&B」と いう書店を共同で始めました。「B&B」は基本的に新刊書店ですが、大きく特徴が 3 つあります。まず、有料のトークイベントを毎晩やること。基本的に著者や編集
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    11特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 者の方をお呼びしています。 2 つ目に、ビールを中心としたドリンクの販売です。「B&B」という店名は「ブッ ク&ビア」の略です。昼間から店内でビールを飲みながら本を選べる新刊書店な んです。3 つ目は、家具の販売です。本棚、平台に使っているテーブル、お客さん が座る椅子や照明といった店内の什器は、目黒区にある KONTRAST(コントラス ト)というヴィンテージの北欧家具屋さんと提携して販売しています。 「B&B」のコンセプトは「これからの街の本屋」なんですが、なぜこういうこと をやっているかというと、書店経営と相乗効果のある ビジネスをすることで、健 全な経営の状態をつくっているわけです。新刊書店は今や成り立ちにくいビジネ スなんですね。新規参入も僕たちが数年ぶりといわれるくらいですから、ほとん ど終わったビジネスだといっていいんです。 新刊書店は他の小売と違って、簡単にいうと経営努力がしにくい。飲食店であ れば、安い食材を使って価格を下げるとか、逆に クオリティを上げて価格を上げ るとか、近隣にない業態に転換するとか、経営努力のしようがたくさんある。と ころが新刊書店は本の価格も均一だし、商品も同じです。 「良い棚をつくれば、お客さんが来る」というのは理想ですが、2 倍の時間をか けて棚づくりをしたら 2 倍売れるかというと、現実はそういかない。人件費を カットして、むしろ棚をつくることから遠ざかる方向にいってしまう。ニワトリ と卵の関係みたいな話なんですけど、「棚をつくる」ことに力をいれるには売上が 必要で、それはすごく長期的な話で基本的には難しい。 でも僕は、きちんとセレクトされた本屋さんが街にあるべきだと思うし、「街 の本屋」が大好きなので、それが成り立つ方法を現場で実践しているわけです (「LRG」5 号/ 2013 年秋号 特別寄稿所収「本をめぐる冒険」参照)。 「未来の図書館を作るとは」を読んで ――ひととおり話を伺っただけでも、みなさんのスタンスが違っていて面白いと 思います。では、長尾真さんの「未来の図書館を作るとは」を読んだ感想を伺えま すか。 吉本:図書館の世界から見たときのことを、すごく網羅的にまとめられているな、 というのが率直な感想です。長尾さんは当時、国立国会図書館長でしたから、も
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    12 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 のすごく突飛な話でもないし、極論でもない。ただ、もともと僕自身がプログラ マーという立場で図書館に出会ってきたので、「図書館」というよりも、どちらか というと「情報」という背景をもっている。だから長尾さんがここで仰られてい る「分類」の難しさという話などは、実は最初、あまりしっくりこなかったんです。 なぜ図書館がこういうところにこだわるのかと。読み込んでいくと、分かるとこ ろもあるのですが。 河村:私も網羅的な印象を受けました 。図書館の「中の人」としてはありえない ぐらい、広く見ている人だなと。全般としては、すごくバランスを感じるのです が、ところどころ「そうだね」と思うところと、どうしてもあまり肯定的になれな い部分とがありました。 実は、あまり肯定的になれない部分というのが、どちらかというと情報工学の 部分なんです。ご自身の専門分野であるところが、20 年前の幻想を引きずってい るような気配をちょっと感じてしまって。例えば「分類」の部分などは、長尾さん 自身、すでに機能しないことを認めつつも、その方法論の中で次の回答を探して いる感じが気になるんです。 その他の部分だと、「図書館」という言葉を長尾さん自身、あまり固定的に使っ ていない。出てくる文脈ごとに、全然意味が違うんですよ。でもそれはすごく面 白くて。「図書館」と「書店」もあまり区別をしていないし、後半の方で、例えば「書 店はもっとカフェのようになるべきだ」とか、まさに「B&B」がされているような 話が出てくる(笑)。 私も、ここ「下北沢オープンソースカフェ」というコワーキングスペースを運 営しているのですが、これも長尾さんの文脈に何度も出てくることを、「公共図書 館ではない場所」でやっている事例かもしれない。彼が「公共図書館でやるべき だ」と言ったり、「街の書店でやるべきだ」と言っていることを、期せずしてここ でやっているっていう。 今、コワーキングスペースは民間の公民館みたいな機能をもちつつある。長尾 さんのいう intellectual commons(「LRG」創刊号/ 2012 年秋号「未来の図書館を 作るとは」P27 参照)が、たぶん街の中のコワーキングスペースだったり、「B&B」 みたいな本屋さんのかたちで生まれてきているんですね。そういった機能が公共 図書館の中に生まれるべきなのかどうかは、まだよく分からないんですが、社会
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    13特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 の要請として、いま、そういう場所がどんどん生まれている気がして、そこの文 脈はすごくしっくりきます。 ――分かりました。では高橋さん、いかがですか。 高橋:言葉をどう選ぼうかと考えていたんですが、どちらかというと不満が残る というか、もの足りないところがありました。というのも長尾館長といえば、「長 尾ビジョン」じゃないですか。「長尾ビジョン」が出たとき、みんながびっくりし たわけです。「えっ、図書館の中でも、国立国会図書館がこれをやるの?」と。し かも古典や著作権の保護期間が切れたものだけじゃなく、あらゆる本のデータを 売ってもいいみたいな感じで。それに比べると、これまでの集大成としてはこう いうかたちになるのかなと思いつつも、さきほど内沼さんが仰った「これからの 街の本屋」ではないですが、「これからの図書館」という意味では、あまり「これ から」感がない、というのが正直な感想でした。 ――「長尾ビジョン」が出たときにくらべて、網羅的にまとめられている今回の テキストでは、その勢いがダウンしてしまったという感じですか。 高橋:トーンダウンというよりは、それと同じ話にとどまっていて、「その先」に あまり行ってない印象ですね。もっと 100 年後とか、1000 年後の未来……そこま でいかなくてもいいですけど(笑)。とにかく、人間の図書館と「知」は長期的にど うなるのかといった話を、最後だから少し期待したんですが、あまりそういう感 じではなく、普通にまとまっていたという印象です。 内沼:鵜呑みにするのはよくないですけれど、「これからの図書館」についての一 つの見方を、ひとりの人間が網羅的に考えたことがまとまっているテキストです よね。現場の図書館員や書店員は、こんなことまで考えが及んでいないと思うの で、読んでおくとよいものの一つだと思いました。 ただ、いろんなかたちで本の仕事をしてきて、その中で培ってきた僕にとって の「本」の捉え方と、長尾さんにとっての「本」の捉え方が、そもそもかなり違う んだろうなと感じた。簡単に言うと、長尾さんにとってはその「中身」、つまりそ
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    14 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「B&B」 店内奥スペースはレイアウトを変更し、イベント会場にもなる  撮影=岡本真 「B&B」 Tシャツやバックなどオリジナルアイテムも用意している  撮影=岡本真
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    15特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「B&B」 店内のインテリアにはすべてタグがつけられて、商品として販売される  撮影=岡本真 「B&B」 店内ではビールを片手に、本棚の本を手にすることができる  写真提供=B&B
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    16 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「下北沢オープンソースカフェ」 図書室としても作業ができるスペース      写真提供(見開きとも)=リブライズ 「下北沢オープンソースカフェ」 カフェ機能の他、プレゼンや雑談などを通して、人と交流ができる多目的スペース
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    17特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「リブライズ」は、本棚から始まるコミュニケーションを身軽に実現する 「下北沢オープンソースカフェ」 本棚にはウェブ、IT系の本を中心にした専門書が、小分類されて置かれている
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    18 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 こに「書かれていること」が「本」なんだと思うんです。大前提として「本はこれ から電子化する、デジタルの方がいいよね」というのがありますよね? ――「デジタルの方がいいよね」とまでは仰っていませんが、電子化が進むとい うのは、前提としてありますね。 内沼:そうですよね。かなりの「本」が電子になることを前提に書かれています。 しかもそのときの「本」は、「そこに書かれている中身」のことで、だからこそ検索 対象になったり、情報工学的に整理されていたり、図書館だから当たり前ですが、 それらは学問や研究のための資料になる。 でも僕が扱ってきた本は、「中身」であると同時に「物」あるいは「プロダクト」 でもあるんです。多くの人にとって本というのは、「かわいいから欲しい」とか、 「本棚に置きたいから欲しい」とか、そういうものでもあるんですよね。その現場 に僕はずっと立ち会ってきたので、そういう本の捉え方とはだいぶ違う印象です。 研究者だけではなく、一般の人も図書館に行くわけですが、そこでどんな本を、 どのように手に取るかということを考えるにあたって、本の装丁とか、紙の出触 りとか、物としての存在感みたいなものは無視できません。そういうところを含 めて、「本」の捉え方が限定的なテキストだとは感じました。 例えば、このあいだツイッターで、ある図書館員の人が「今日は暑いですね。図 書館は涼しいです。だから図書館に行こう」みたいなことをつぶやいていたんで す(笑)。「涼しいから図書館に行こう」というのは、長尾さんの仰る図書館とは けっこう違いますね。 『ブックビジネス 2.0̶̶ウェブ時代の新しい本の生態系』(実業之日本社、 2010 年)でも橋本大也さんが「図書館=教会」論、つまり「図書館は現代の教会だ」 と言っています。街で行く場所がない人とか、時間を持て余している人たちが自 由に時間を過ごせる場所が今は図書館ぐらいしかない、という話だったと思い ます。この「図書館は教会である」という前提のもとで言うと、「涼しいからおい で」っていうような図書館のあり方もあるんじゃないか。 そこからしても、長尾さんのテキストはどうしても、本あるいは図書館の特定 のあり方に即して書かれている感じがしてしまうんです。 ――司会という立場を離れて、少しだけ言わせてください。僕は長尾さんのテキ
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    19特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 ストは、必ずしも網羅的ではないと思っているんです。むしろテーマが限定され たテキストで、読む方が補完して読む必要があると思いました。つまりこのテキ ストは、長尾さんの研究者としてのキャリアの中では「総論」ですが、「図書館」や 「本屋」の未来、あるいは「知」の世界の未来についての総論ではなく、読者がその 部分は補完して読むことを期待されたテキストだと思うんです。 例えば「図書館」と「研究」との関係も、固定的なものではないわけです。『知は いかにして「再発明」されたか――アレキサンドリア図書館からインターネット まで』(日経 BP 社、2010 年)という、何が「知」の制度として機能してきたかを 人類史の時代ごとに綴った本があります。これによると、古代アレキサンドリア の図書館から始まって、中世の修道院、大学、「文字の共和国」、専門分野、実験室 ……というふうに「知」を支える制度は、時代ごとに変わっていく。ちなみに実験 室が機能していたのは 1970 年くらいまでで、それ以降がこの本では「インター ネットへ」とされている。 この「研究室からインターネットへ」へのシフトは、これまでとはスケールが 桁違いだと僕は思うんです。「知識」を扱う情報と、知識とは関係のない大衆レベ ルでの情報は、インターネット以前はあきらかに別のものとされていた。でもイ ンターネット以降、「知識」と「情報」のあいだに差をつけることに意味がなくなっ てきている。もちろん厳密にいえば「知識」というものは体系化されていなけれ ばならないわけですが、長尾さんが研究をなさってきた時期が、まさにその「過 渡期」の時代であることに考慮して読む必要があるのではないかと思いました。 本とは「生むときに苦しんだもの」のこと ――ところで、みなさんは「本」というものを、ご自身の活動の中でどのようにと らえていますか? 「電子書籍」も含めてけっこうですが。 河村:「一定量の知識が集まっているもの」でしょうか。文脈によって自分自身 でも使い分けているから、あまり明確な定義はないですね。モノとしての実体が なくてはいけないということもないし、ホームページを「これは本なんだ」と言 本の定義を考える
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    20 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 いたい人がいたら、それにも納得感があるし。さすがにツイッターの 140 文字を、 「これは本です」と言われたら、「んん∼」っていう感覚はありますが(笑)。でも、 そこにある程度の蘊蓄などが詰まっていたら、「本」だと言われてもしょうがない かなと。 「リブライズ」はリアルな本を対象にしているけれど、私自身は電子書籍を発行 するウェブサービスも別にやっているので、そのあたりは両方にこだわりがある ような、両方ともこだわりがないような(笑)。 吉本:「カーリル」の中では、本をどう扱っているかははっきりしています。まず、 「図書館がそれを本として扱っている」という条件がある。例えば図書館の分類か らいえば、「雑誌」と「本」は違うわけです。個人的には正直、そこのあたりはあま り理解していないんですが。自分自身としては、図書館でいう「本」よりは、たぶ んもうちょっと広いところでとらえてはいるのですが、「カーリル」というサービ スは、どうしてもそこにひきずられてしまう。 ――「カーリル」を抜きにしていうと? 吉本:「本というのは、生むときに苦しんだもの」のことなんじゃないかと。 一同:おお∼! 吉本:締切とかがあって、書き手が苦しんで生んだものが「本」じゃないかと。ツ イッターでもブログでも、「本にしよう」と言った瞬間、生みの苦しみが出るんで すよ(笑)。ちゃんと編集しなきゃいけない、みたいな。だから、たとえブログで も「どうしよう、毎週出さなきゃ」というストレスを感じながら書いていたら、そ れは「本」みたいな感じもする。それが僕の個人的な感覚ですね。 河村:私も一つ追加していいですか? 「リブライズ」をやっている中で、だんだ んはっきりしてきたんですが、「本」だったり「本棚」が、誰かの知識の座標になっ ていることが多いんですよ。それは文学書でも、大衆小説でも、学術書でもそう ですが、何かの話をするとき本や本棚が、その知識にポイントをおけるアンカー
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    21特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 (錨)になっているケースが多いんです。たぶん、生みの苦しみを経たものは、そ うなる確率が高いと思うんですね。例えば長尾さんのこの文章も、私は PDF で読 みましたが、これはアンカーだと思うんですよ。 高橋:本にも一般の書店で売っている本と、同人誌みたいなものがあるでしょ う。自分の中では、両者はだいぶ違うものだという区別があって、同人誌はあま り「本」とは言わないんです。でも、電子になるとあまりその区別がなくなるんで すよ(笑)。 ――なるほど。それはなぜですか? 高橋:なぜなんですかね。その違いがどこからくるのか、自分でもあまり分かっ てないのですが。結果論として、たまたまできているものが違うだけかもしれま せんが……。 ――「達人出版会」は、電子書籍専門ですよね。今の話からすると、紙だとそうい う差が出てしまうけれど、電子では出ないというあたりを意識したりしません か? 高橋:ええ、だからうちで出しているものが「同人誌」なのか「同人誌じゃない書 籍」なのか、あまりよく分からない(笑)。それはどこかで区切れるものではなくて、 「同人誌っぽいもの」と「同人誌っぽくないもの」が、「本」の中でなめらかに混ざっ ているみたいな感じがします。 内沼:「社会を変えたい」とか「誰かに強い影響を与えたい」という使命感で書か れたものが、例えば「同人誌じゃないもの」で、そんなに生みの苦しみを経てな い、自分が書きたいものを書いたものが「同人誌」というニュアンスなのですか ね。ひょっとしたら「苦しんでない」感じが「同人誌っぽさ」なのかもしれませんね。 もちろん「苦しんでいる同人誌」もあると思いますが(笑)。 吉本:生みの苦しみの原点が何かというと、「固定化」みたいなところにあるので しょうか。ようするに、あとで直せるというのは、苦しみに対するかなりの緩和
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    22 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 剤になっているのかもしれない。印刷するとなると、うっかり間違ったことを書 いたら直せない。そのせいで世の中が変わっちゃうって(笑)。もうちょっとライ トに考えても、ここで間違えると、直すためにはさらにお金が飛んでいく、とい うプレッシャーもあります。そこが生みの苦しみのもとですよね。 ―― 電子だと「生みの苦しみ」はないですか? 高橋:紙に比べると、ほとんどないですね。紙の本は、書き手としてしか関わっ たことがありませんが、書く方のプレッシャーは紙の方がぜんぜん大変です(笑)。 吉本:紙の新聞とウェブニュースの関係に近いのかもしれない……。 内沼:「本」をどう定義するかというのは、今はかなり個人の考え方によって違っ てきていると思うんです。その中でも「本」とは「生みの苦しみである」という定 義は、個人的にはかなりいい線をいってる。今まで聞いた中でも、相当しっくり きたんですよ。 吉本:ほんとですか?(笑)。 内沼:ただ、それさえも 100%の定義かというと、きっとそうではない。例えば、 誰かが居酒屋で、何も苦しむことなく適当にしゃべったことを文字に起こして出 版されたような本が、世の中には存在するでしょう? これは「本じゃない」の かというと、違うという人もいるかもしれないけど、全員が「本じゃない」とはい わないと思うんですよね。生むときに全く苦しんでないものも、それが印刷され て紙に綴じられて 、本屋さんが売ったり、図書館が所蔵したりするという側面で は「本」なんだと思う。 今ちょうど、『本の逆襲』(座談会当時。2013 年 12 月に刊行)というタイトルの 本を書いているんです。たぶん僕も、何かを「網羅しよう」と思って書いているん ですね。「本」というものがいま、どういう状況にあって、これから本の仕事をす る人たちは、どういう仕事をすることになるのかということを書いている。この 本の中でも、やっぱり本の定義について話をするんですよ。でも最後は自分の中
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    23特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 でも、定義ができないんですね。 ツイッターの 140 文字を「本」だと言う人がいてもいいし、今こうやって喋っ ている時点で、もうこれが「本」なんだよね、みたいなことを言うのもありだと思 うんです。リアルタイムで取られている音声データが .mp3 の音声形式になって、 その音声を誰かが書き起こして .txt のファイルになったり、それをレイアウトし た .pdf のファイルになった瞬間に、「これは本だ」って言う人がかなりいるわけ でしょう? でも、その中身が「本」ならば、同じようなファイルとして並ぶわけ だから、.mp3 の時点で「本」だということにしてもいいじゃないか、というよう なことをその本で書いているんです。 「本の定義」はわりとどうでもよくて、それぞれ本に関わる人が自分なりに 「本ってこういうものだよね」と思って行動すればいいと思っています。「カーリ ル」「リブライズ」「達人出版会」、それぞれにとっての「本」があるように、長尾さ んにとっても「本」はこういうものだ、という話の流れでここまで来たのかなと いう気がしています。 河村:今の話をふまえて、もういちど長尾さんのテキストを読み直してみると、 長尾さんは、「映画は本だ」と思っているんですよ。全ての情報体は本だと思って いるわけですから、彼の中では「本」の概念が「情報」と、ほぼ一致しているんじゃ ないのかと思います。 ――そうですね。だから定義づけというよりは、どちらの側から考えるか、とい う問題なんだと思います。長尾さんは、「知識」とか「情報」から本を考えている。 それらのアウトプットとして「本」というかたちがあるわけです。でも本を書く 人たちからすると、「生みの苦しみ」の方が先なわけです(笑)。 内沼:そうだと思いますね。「生みの苦しみ」という定義がかなりいいなと思った のは、ふわっとした定義ではあるけれど、一本の数直線上に「苦しい」と「苦しく ない」があって、「この線より苦しんだものが本」だと、それぞれが決められると ころがいいと思うんです。例えばウィキペディアで「本とは何か」を調べると、す でに「冊子」という形態の話をしているんですよね。でもそうすると、企業広告の パンフレットみたいなのも「本」だということになるし、実際そう思う人もいる わけです。だけどそこで切っちゃうと、0 か1か、これは本だけどこれは本じゃな
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    24 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 い、みたいな話になる。それが「苦しい」「苦しくない」という線だと、どこでどう 切るかは個人のさじ加減になる。だからいいなあって(笑)。 あと『WIRED』の創刊編集長のケヴィン・ケリーが、「『本』は物体のことではない。 それは持続して展開される論点やナラティヴだ」と言っていますが、これも悪く ない定義だと思います。 ――ケヴィン・ケリーの著作選集が、「達人出版会」からフリーで出ています。こ の本は技術書ではなくて、一種のマニフェストですよね。長尾さんのテキストは、 「工学者が書いたマニフェスト」だと思うので、同じように「達人出版会」から出 ることが感慨深いです。 デジタルならではの「生みの苦しみ」 内沼:さきほどのケヴィン・ケリーの「本とは持続して展開される論点やナラティ ヴである」という定義は、ウィキペディアの「本とは冊子である」という定義とは 別の話で、「本とは生みの苦しみである」という定義に似ている気がします。そも そも生むのが苦しくなかったら、論点とかナラティヴが持続しないと思うんです よ。 ――ただケヴィン・ケリーの言葉だと、紙の本かどうかという話は抜きになるん ですよね。紙だからこそ「生みの苦しみ」があるとしたら……ああ、こっちも紙か 電子かは関係ないのか(笑)。 吉本:紙の方が「生みの苦しみ」がより強制的に……。 内沼:そう。比較的に起こりやすい、というだけの話で(笑)。 河村:それに、紙の方が手触りやレイアウトによって、行間に込められた「苦しみ」 が分かりやすいんですよ。デジタルの場合は全てがバイトの情報になってしまう から、コンテンツの中身ぐらいでしか勝負ができない。でも、それだと素人目に は、どう苦しんでいるのかが分からないんです。 高橋:紙の本という「モノ」をつくること自体、けっこう大変ですよね。物質を組
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    25特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 み上げる作業は、電子の場合のように自動化してパーッとつくるかたちには絶対 ならない。だからこそ、誰かの意思やコストがそこにかかってくるわけです。 内沼:吉本さんが仰る「紙の方が、苦しみが強制的」という話は、たぶんシンプル に締切の話ですよね(笑)。つまり、そこでコンテンツが「固定される」か「固定さ れない」かの違いでしかない。「固定される」というのはやり直しが利かないので、 やり直しが利かないから、本気を出さなきゃいけない。本気を出さなきゃいけな いから苦しい、という話かなのかと思います。 吉本:そういう意味では、電子書籍はまだいろんな点で統合されていないから、 紙の本を出すのと同じようなことが起きます。 内沼:そう、電子書籍もまあまあ苦しいんです(笑)。ただ、苦しさに違いがある。 ――「達人出版会」で電子出版された「未来の図書館を作るとは」の付録に収録さ れた岡本さんとの対談の中で長尾さんは、紙の本が粛々と電子化されている現在 の電子書籍や電子図書館は「第一ステップ」にすぎないと仰っています。「第二ス テップ」では、それらがフラットなネットワーク構造になる。「第三ステップ」で はさらに進んで、ある視点をもって「第二ステップ」でできたネットワークの中 に立ったとき、自分の関心の文脈に特化された部分的なネットワークが浮かび上 がってくる。そこまでをシステム側で実現できないだろうか、と仰っていました ね。 今はまだ「第一ステップ」なので、電子書籍の「生みの苦しみ」は紙の本に比べ ると楽ですが、これからはデジタルならではの、新しい「生みの苦しみ」が生まれ てくるのではないでしょうか。 吉本:新しい「生みの苦しみ」ってなんでしょうね。人は楽な方に行きたいです から、なくてもいいなら締め切りがない方を選ぶ(笑)。生きている限り、苦しみ のない方に行くのは否定できないわけです。実はプログラマーが抱えている問題 も、物書きの人と一緒なんですよ。今まで僕が関わってきたファームウェアや製 品のプログラムは、いったん出してしまったら回収できない。するなら全部回収 するしかないわけです。そういう点では本と一緒だったのが、ウェブサービスに
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    26 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 なった瞬間、全く違ってきた。 河村:そういう意味では、僕らはすでに新しい「生みの苦しみ」を味わっている のかもしれません。誰からも強制されてないのに毎日「リブライズ」を開発して いて、締切状態がずっと続いている。紙の本だと、締切が終わったときに解放さ れる爽快感があるんですが、開発にはそれもない(笑)。 吉本:インターネットによる創造行為が、本だけじゃなくてソフトウェアやサー ビスといった業界において、そのビジネスを変化させましたよね。今までのビジ ネスは、「箱」をつくってそこに商品を並べて、こういう店舗をつくれば売れる ……という発想でやってきたけれど、それでは済まなくなってきた。 河村:イベントのあり方も、完全に変わってきました。先日、駅前でファッショ ンショーがあったんです。100 人くらいの女の子が、下北沢の地元のお店の服を 着て歩くんですが、その観客は基本的に、みんなファッションショーに出る女の 子たちの友だちなんです。今までは「イベント」だけのパッケージをつくってい ましたが、今はもうそこが崩れている。インターネット上だけじゃなく現実のイ ベントでも、全般的にそういう揺り戻しが来ているのではないでしょうか。 固定化とコストの関係 ――イベントの話は、「場所」の話でもありますね。ここまでは紙の本や電子書籍 をめぐる話でしたが、図書館という「場所」の方に広げていきましょうか。河村さ んと内沼さんは、それぞれ自分たちの場所(お店)を構えていらっしゃいます。 吉本さんと高橋さんは、特に場所を構えておられない。本や電子書籍、電子図書 館がもっている意味は、場所性と何か関係があるのでしょうか。 河村:長尾さんのテキストの最初の方に、「思想の形成」というくだりがあります よね。そこで「新しい創造のための議論は言葉の世界だけでなく、それを発信す る人の全人格が相手に伝わることが大切」だと仰られています。それは設定され 「場所」のもつ意味
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    27特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 た会議のような場だけでなく、むしろ普通のコミュニケーションにおいて、最も よく機能する。だからこそ、そうした場所に人が集まるんだと長尾さんは書いて おられる。ここにはすごく賛成なんです。 僕は日々の仕事の中で、雑談のようなところから生れてくる新しいものが好き なんです。「下北沢オープンソースカフェ」も、そのためにやっている。会議も新 しい創造がうまれる一つのきっかけにはなりますが、そこで会うだけだと、お互 いの関係がまだキレイすぎる。もっと「普段着の状態」になったところから、面白 いものが出てくるんですよ。 ――つまり、ここは「一時的なイベントをするための場所」というより、「持続性 をもった場所」という考えなんですね。 河村:そうです。むしろイベントは副次効果というか、サービスなんです。人が 集まると、なぜかみんなイベントをやりたがる(笑)。だからイベントもやります が、それが目的ではない。むしろ人が集まる循環をつくり出すためのキーとして、 イベントをやっているんです。 内沼:「B&B」の場合も、かなり似ていますね。毎日しているイベントは「本」の編 集と同じで、誰と誰をどういうふうにしゃべらせたら、面白いコミュニケーショ ンや新しい「知」が生まれるのか、それをつねに考えています。僕たちが「街の本 屋」というときにイメージしているのは、街の中で「知的好奇心の渦の中心」にな るような場所なんです。 この話をあえて図書館の話につなげると、長尾さんもお書きになっているとお り、特に国立国会図書館では「すべての知を集める」ことを理想とされています よね? でも、現在において「すべての知」と言ったとき、どこまでを指すんで しょうか。ウェブサイトや電子書籍の知も集めようとしていますが、それはきり がないから、僕はやめた方がいいと思っているんです。例えば、たまたま出会っ た人同士の会話に「知」があったら、理屈上、それも収集しないといけないわけで す。 「本」の価値は「書かれたこと」が全てではなくて、それを読者がどう受け取って、 頭の中でどう理解し、どう考えるかによって違ってくるし、そういうことが生ま れてくるのが、本の良さでもある。でも「どう読むか」は人によって違うし、他者
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    28 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 と読み方がぶつかったときに、そこから新しい方向に発展したりする。こうした ことを含めた全てが「本」だとすると、「知」はいろんなところに渦巻いている。い ま、話しているこの座談会も、突き詰めれば図書館の収集対象になってしまう。 ――高橋さんは電子書籍を販売する立場からみて、場所性についてはどう考えま すか? 例えば米光一成(1964 年∼。電子書籍にも積極的に取り組むゲームデザ イナー、インターフェイスデザイナー)さんが、以前「電書フリマ」という「実際 の場所で電子書籍だけを売る」というイベントをなさっていますよね。 高橋:場所ってコストが高いじゃないですか(笑)。電子書籍の場合、紙の本より 儲からないというか、あまり利益をとらないでやっていきましょうという方向な んです。しかもうちの方針としては、紙だと出せないようなものを、電子で出そ うという発想をしています。 なぜ紙で出せないかというと、ようするに売れないからです。紙の本だと、 2,000 ∼ 3,000 部ぐらい刷らないと採算がたちませんが、電子なら 100 ∼ 200 部 売って利益を出すといったモデルがつくれるわけです。それをするには、とにか くコストを削らないといけない……という話になったとき、コスト的に場所をも つのは難しい部分があります。場所が嫌いというのではなくて、「リアルなもの」 というのはとにかく高い(笑)。 河村:それに、あえて「場所」でやることの意味が、電子書籍という文脈の中では よく分からないですよね。 高橋:そうですね。やってみたら面白そうな感じではあるんですが。 河村:「達人出版会」の本を限定部数でオンデマンド印刷して、「下北沢オープン ソースカフェ」に置かせてもらうことができたら、買ってくれる人はけっこうい るはずです。でも、普通の本屋で売ってもダメだと思うんです(笑)。ここは少し 特殊な人たちが集まる場所なので、そういう特定のターゲットには響く。ただ、 そういう人たちが集まるリアルな場所をつくるにはコストがかかるので、半端な 気持ちではできない。
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    29特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 内沼:いまの話はすごく面白い。つまり「家賃は高い」という話と、「印刷代は高い」 という話が一緒だということですよね(笑)。「電子書籍は、印刷するほどのもの でないもの」という話は、ある場所を維持してそこで語られてたこと、つまり「知 として収集する必要があるかどうか分からないものまで、全て記録しておくべき なのか」という話と似ている。記録しておきたくなるけれど、実際は、全てを記録 することはできない。ましてや記録した瞬間に、国立国会図書館の収集対象にな るとしたら……。 河村:固定化には、つねにコストがかかるんですよ。そういう意味では、電子書 籍はまだコストが低い方にある。でも、今しゃべっているこの座談会を全て文字 に起こすかどうかは、内容によりますよね(笑)。つまり、その部分にどのくらい コストをかけるかという話が、固定化するかどうかの判断にかかってくる。「生み の苦しみ」とは別に、コストをどうするかという問題がある。 内沼:そうです。だから全部は収集できない。紙に印刷されたものだって、実際、 全部は収集できていないわけです。でも、それを分かったうえでも、理想として は「全部」と言わなければならない。でも、それだと図書館の人は辛いんじゃない かな。 図書館はどこまでを集めるべきか 河村:国立国会図書館の場合は、「全部を収集する」という理想を掲げて行ける ところまで行くのは分かるんです。でも、街の図書館にまで、その理想は求めら れない。蔵書にある程度の網羅性が求められる半面、置ける冊数が限られる中で、 司書さんは選書をしなければならないわけです。 内沼:長尾さんが書かれているような未来として、リアルな現場で起こってい る「知」をすべて収録するとしたら、その尖兵としての役割を、地域の図書館が担 うしかない。世田谷区の図書館の人が「B&B」とかに来て、イベントでの会話とか、 誰かがしゃべっていたら、「いまちょっといいことを話していましたね。録音させ てください」と言って、会話を録音して帰る(笑)。さらにそれを文字に起こして、 とりあえず電子書籍にする……というのはファンタジーですが、ありうる気はし ますね。
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    30 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 吉本:新聞社の地方支社は、まさにそういうことをやっているわけですよね。 内沼:「下北沢経済新聞」のような、「みんなの経済新聞ネットワーク」(地域密着 型のインターネット新聞。渋谷で誕生し、国内外に次々とネットワークを広げて いる)も、今までは新聞記事にならなかったような地域の話題、例えば近所に新 しいお店ができましたといったちょっとしたことを新聞記事ふうに書いてニュー スにしているわけです。 河村:そうだとすると、図書館自身が「知」を固定化する義務を負うかどうかが ポイントかもしれないですね。「みん経」は、今まで固定化されてこなかったもの をニュースとして固定化している。それはとても面白いと思いますが、街の図書 館がそれをやるべきかというと、私にはとてもそうは思えないんですよね。 ――「固定化」というのは、電子であれ紙であれ、なんらかの記録に残すってこと ですか? 河村:今までは「記録に残す」という作業が一段階しかなかったはずなのに、今 は二段階になっているんですよ。「みん経」が街の中で起きていることを記事に するような作業が、最初の固定。次にそれだけだと散逸するので、例えば国立国 会図書館に一つのアーカイブとして遺すといった二段階目の固定化がある。でも、 「みん経」の記事はすでにインターネットに上がってるわけだから、インターネッ ト自体を「ライブラリー」だと言えばいいんですよね。 内沼:実際、国立国会図書館が世の中にあるすべての「知」を集めるよりも、本を はじめ全てをインターネットに上げてしまって、「インターネットが世界の図書 館です」と言ってそれで終わりの方が楽かもしれない(笑)。 ――アメリカではインターネット・アーカイブ(インターネット上に公開された Web ページを保存し、サーバー上から削除されたコンテンツも閲覧できるサー ビスの名称)が、ウェブページだけでなく、映像・音声・ソフトウェア・テレビ・ 紙の本などの収集を、本気で始めていますね。国立国会図書館もどこまでできる か分からないですが、インターネットの資料も収集し始めている。さらに文化庁
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    31特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 との間で、映像やゲームといった、いわゆるメディア芸術までも収集の対象をひ ろげるという話も決まっています。 ところで、「カーリル」はリアルな図書館に足りない部分のサービスを、図書館 をネットワークでつなぐことで埋めるところから生まれたわけです。また新事業 として、「カーリルタッチ」という図書館の「書棚」を支援するサービスを始めら れていますが、吉本さんは「場所」と本や情報の関係を、どう考えておられます か? 吉本:図書館との仕事をしていると、正直、図書館がもっているのは「場所」しか ないんだということがよく分かります。本に対する力なんてもっていないし、「本 のデータ」すら、今は自分の力ではなんともならない。図書館がいちばん自由に できることは、実はシステムとはあまり関係ないことなんです。例えば、本棚に 本をどう並べるかは、図書館の側で自由にできる。でも、本を置く場所を変える こと自体が、今は相当に大変なことになっている。なぜかというと、最初に図書 館を建てたときの並べ方で固定化してしまうんですよ。おかしな話だと思うんで すが、「背」を見せて並べていた本を「面見せ」にするだけでも一大事なんです。 「カーリルタッチ」という新しいサービスを始めたのは、僕たちが現場に行ける ことが大きかった。図書館のことをさらに知るには、図書館ともっと絡まないと ならない。でも正直、その先に何があるかはよく分かっていなかったんです。た だ、「カーリル」の最初のコンセプトである「ウェブと図書館をつなぐ」のうち、「図 書館からウェブにつなぐ」方はやっていなかった。それをつくれたら、図書館の 人ともっといろいろなことが一緒にできるんじゃないかと思いました。 これまで図書館と「カーリル」は役割分担がはっきりしていて、なかなか何か を一緒にやることがなかった。 最近、図書館の人には「カーリルは図書館に人を 送客するサービスです」と説明しています。 立ち位置としては「ぐるなび」と一 緒なんですよ(笑)。 河村:先日、「カーリル」で本を探して図書館に借りに行こうとして感じたことが あるんです。今、ここから最寄りの代田図書館が改築工事で閉館しているので(座 談会当時。2014 年 4 月にリニューアルオープン)、しばらく電車を使わないと図 書館に行けないんです。それで「カーリル」で検索したら図書館がずらっと出て きて、どこに行くかすごく迷ってしまった。図書館ごとの個性がないからなんで
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    32 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 すね。今までは距離でしか選んでこなかったんですが、それはなんだかもったい ないなと。 図書館の設置場所は、区内における配置の網羅性を維持するためにすごく苦労し て選ばれている。でも同じ区内に十何館も図書館があって、配置の網羅性は満た されているのですから、各館が個性的な選書をして、区全体で網羅性が保たれれ ばいいんじゃないか。さらにいえば、選書の網羅性は東京都全体で保たれていれ ばいい。「カーリル」ができたおかげで、そういうことが言えるようになった気が するんです。 内沼:さきほどの話とつなげると、それぞれの館で生まれた「読み」みたいなも のが、それぞれの館で記録されていたら面白いですよね。長尾さんが仰るように 「知」とか「データ」がインターネット上ですべて共有されるとしたら、地域にあ るリアルな図書館の財産は、突き詰めればそこにある情報ではなくて、むしろ周 りにある「環境」や周辺に住んでいる「人」だということになります。 完全に未来の話になってしまうけれど、例えば、ある本を読んでこう考えた人 がいる。その人はどうやら世田谷区にある図書館の近くに住んでいて、そこでそ の本を読んだらしい。だったら自分も図書館に行って、その人とちょっと話をし てみたい、ということで出会った二人が話したことが、またインターネット上で 共有される……みたいな。 河村:「下北沢オープンソースカフェ」は、実際にそういう場を目指してるところ があります。基本的に、どんな人でもウェルカムなんですが、プログラムやオー プンソースに関連するテーマの本を本棚に置くことで、来る人を特定の知識層に 固定化しているんです。本棚にはそういう使い方もあるのかな、ということが一 つ。それからもう一つ、いまの話を聞いていて思ったのは、図書館には住民から のリクエストというものが反映されますよね。街の図書館には、周辺住民を代表 するような知識があるといい。 吉本:いま、まさにそれを図書館の人と話していて、「カーリル」でやりたいこと のリストに入っています。図書館の側も、住民が何に興味をもっているのかに注 目し始めていますが、正直な話、そういうマーケティング的なことが図書館にい
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    33特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 るとよく分からないんです。 河村:いままでは、その部分で住民に迎合しすぎると、図書館に置かれる本の網 羅性が失われてしまって、あまりよくないかたちだったかもしれない。でも逆に、 司書の人が「網羅性がある」と信じて選んでくれた本が、いつの間にか偏ったも のになっていないとも限らない。そこの部分の担保はとりようがない以上、どこ の館も同じような平均値を求めるのではなくて、それぞれが選書すればいいと思 います。最終的に、それがインターネット経由で 網羅性やバランスがとれていれ ば、その方が自然な感じがするんです。 本屋も図書館もない地域 ――ここまでの話は、東京のような、国立国会図書館があり、都立中央図書館も あり、公共図書館もたくさんもあって、「立川まんがぱーく」もできて、そして「リ ブライズ」がやっている「下北沢オープンソースカフェ」もあり、「B&B」をはじめ とするユニークな本屋さんもたくさんある環境だから成り立つ部分もありました よね。 けれども地方となると状況は全然違ってきます。今、離島の本屋さんの本(『離 島の本屋∼ 22 の島で「本屋」の灯りをともす人々』朴順梨、ころから 、2013 年) が出ていますけれど、離島では図書館さえまともになくて、本屋さんが図書館の 役割をしていることも多々ある。もっと厳しいところだと、本屋さえもありませ ん。そういう状況の中で、図書館のこと、あるいはもう少し広く「パブリック」と いうことを考えてみたいんです。 地方でも、東北では震災というたいへん不幸なことがあったために、現地の人 たちが他の地方から集まってきた人と一緒に動き始めて、新しいコミュニティが 生まれているところもありますが、おそらく、そうした動きが起きていない、ま た起きていても可視化されない、といったところがたくさんあると思うんです。 電子書籍とか電子図書館がもっている可能性は、そういったリアルな本で埋めき れない場所に対しても本来は有効なはずなんですが、みなさん、そのあたりはい 図書館にとってパブリックとは
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    34 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 かがでしょう? 吉本:僕が住んでいる岐阜県の中津川市は、過疎でもないですが、都市でもない。 まさに平均的な田舎です。こういうところが、世の中で実はいちばん広大なエリ アだったりするんですが、本当にどこに行っても同じ店があって……という感じ なんですよ。 僕が生まれたころから、家の周辺には書店というものがなかった。もちろん図 書館もない。では、どうやって本を手に入れたかといえば、親が年に何度か名古 屋に買い物に行くときに、頼むんです。でも、親が行く本屋にどの本があるかは、 前もっては分からない。親からすれば、コンピューターのことが書かれている本 ならなんでもいいと思って、全然、欲しい本と違うのを買ってこられて、「これで いいだろ」って言われるという……(笑)。 つまり、本に対するディスカヴァリーが全くない状態だったんです。本と出会 うためのインデックスが何一つなかった状態からすると、いまは完全に変わって いて、なんら不自由もストレスもない。そこに関しては圧倒的な変化だと思って います。 僕が紀伊國屋とかジュンク堂のような書店に出会ったのは大学に入ってからで、 それは公共図書館に行くのと体験としては非常に近い。つまり自分の知りたいと 思ったことが、そこに行けばなんとなく見つけることができた。でも、「本が網羅 されている空間はいいよね」「書店や図書館はそうあるべきだよね」と言われても、 それらと出会う前に、アマゾンが存在する世界に行ってしまった。原体験がない ので、いい空間だということは分かるけれど、それがなくなったときに困るかと 言われると、率直に言ってよく分からないんです。 内沼:今の話は、さっきのコストの話とも関係があるし、当然、問題にすべきこ とだと思います。さらにいえば、これは「本はタダで読めるべきか、それともお 金をとるべきか」という話ともつながってくる。仮に図書館ですべての「知」が完 全に解放されたとすると、極論すればアマゾンさえも要らなくなる。もちろん長 尾さんは、完全にそういう状態になることを目指しているわけではないでしょう。 ただ、図書館の歴史の方が、本屋の歴史よりもはるかに長い。だからこそ、「知識」 の公共性とは何かという話になると、どうしても図書館というものにつながって いくわけです。
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    35特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「本」は紙に印刷して全国の本屋に撒くという、複製と流通の部分に多大なコス トがかかる。だからこそ、本を「商品」として売るわけですよね。でももっと昔は、 手元に欲しい本は書き写して所蔵していた。書き写す手間という意味ではコスト がかかりますが、大量生産される「商品」ではなかった時代があるわけです。 誰 でも本が買えるものになってからの歴史はまだ短いし、今ではまた「売れない商 品」になってきている。 そうであれば、極論すれば、もう本を売るのをやめればいいという話もありう る。そこで僕からみなさんにお尋ねしたいんですが、「そもそも本からお金をとる 方が間違っている」という考え方についてどう思いますか? つまり、本は今だ にお金を払って買うものなのか否か、という。 高橋:どうなんでしょうかね。電子書籍の場合、ウェブと違うのは読むのにお金 がかかるというところですよね。無料ならウェブでもいいという話も、「電子書籍 元年」と騒がれた2010年ぐらいから延々とやってきているわけです。 ただ、内沼さんが仰った「昔は、本は商品ではなかった」という話と同時に、「昔 は誰もが知識にアクセスできるわけではなかった」という面もある。ビジネスや 商品になることによって本はパッと広まった。つまり、お金さえ払えば誰もがア クセスできるようになった面もあるわけです。さらに、今ではウェブを使えば無 料で知識にアクセスできるようになった。いったいどうしましょうと、正直困っ ているところではありますね(笑)。 吉本:本が売られるようになると、売れる本を書いて流通させれば儲かるから、 投機的な意味で出版社がそのための資本を出すというビジネスの流れが出てきま すよね。そこにあらたに電子書籍が登場して、ある意味、その部分を中抜きしま す、みたいな話になってきた。さらに最近ではクラウドファンディングをつかっ て、「こういう本を書きたいのでお金を集めたい」という流れも出てきている。あ れも書く人に対して「生みの苦しみ」というか、ものすごくプレッシャーになり ますよね。 河村:「READYFOR?」(日本で最大のクラウドファンディングサービス)でお金を 集めて図書館をつくろうという動きもありましたね。ただ、クラウドファンディ ングというのは、実はお金の問題よりも責任の方が強い。得たお金で私腹を肥や
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    36 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 すわけにはいかないから、自分自身の分は手弁当でやるわけじゃないですか。よ うするに、投機的にやるのか、先に後押ししてもらうのかぐらいの違いでしかな い。でもこの差がけっこう本質的なのかもしれないですね。 吉本:本が売れなくなったということに関していえば、投機的なメリットがなく なってきたというのが決定的なんでしょうね。 「知」の体系と「物語」 ――もともと売られる対象ではなかった「本」や「知」の大衆化とビジネス化は、 実は同時に相互関係のもとで進んできた。さきほどのクラウドファンディングの 話もそうですが、電子書籍 、あるいはそれ以前にインターネット自体が、「知」の 大衆化や民主化を生み出したと総じていわれます。今後に起きる変化は、その大 衆化あるいはビジネス化がさらに広がるという、スケーラビリティだけの話なの か、それともより本質的な変化が起きるんでしょうか? 河村:こういう話をするときにいつも疑問に思うのは、学術書や技術書のように、 知識の体系のどこかに埋め込まれることを想定されて書かれている本と、物語性 やエンターテインメントの方に向かっていく本を、同列に扱っていいのかどうか ということなんです。 私自身は技術書しか書いたことはないんですが、時間給で考えると 200 円とか 300 円の仕事なんです(笑)。本を出すことの経済的なメリットは自分自身には全 然なくて、むしろ身を削るだけなんですが、ここ 10 年間に関しては、インター ネットに出すよりも本として出した方がひろがるし、読んでもらえるという場面 があったんです。 内沼:しかも、知識の体系の中に正しく配置されますよね。 河村:そう、それが最初に私が言った「アンカー」ということです。そのことにメ リットを感じてするのが「本を書く」という行為だったと思うんですよね。だか ら逆に、「物語を書く」というかたちで本に関わってる人たちのマインドが、私に はよく分からないんですよ。
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    37特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 内沼:そこは同じような気もします。「物語」という言葉を抽象的に使いすぎてい るかもしれないですが、物語を書く人は「まだ足りてない物語」を書こうとして いるんだと思うんですよね。どこかで書かれた物語ならもう必要ないけれど、プ ロとして責任をもって書こうとしている人は、社会に足りていない物語を埋めよ うとしている。自分自身の癒しのために書いている人と、プロの作家の違いはそ こだと思います。 ――ただ、そういう意味では同人の作家も「足りてないところを埋める」ことへ の欲望はすごく強いですよね。 内沼:そういう人もいますよね。「同人」というときにイメージしているものが、 もしかしたらお互いにずいぶん違うのかもしれないですが。 吉本:同人作家の場合、社会の中での「足りない物語」を埋めるというよりも、自 分の中の欠落を埋めるところが強いのかな。 内沼:僕もそういうイメージで話をしていました。 ――たぶんお二人と同じイメージで話をしていると思いますが、同人の場合も、 歴史の中に物語を埋めたいという欲望をもっているように感じます。ある種の 「歴史」ではあるけれど、それが複数ありうるところが同人カルチャーの動力だっ たりする。「複数の歴史を埋めていく」というのは、学術書のような意味で「体系 を埋める」のとは違うかもしれませんが。 内沼:ただそのときにも、自分の「そうあったかもしれない物語」を書きたい、「自 分がいちばん気持ちいいものが書きたい」という欲望の強いものが、同人の場合 はどうしても多くなってしまうと思います。それが自分だけでなく、誰か他の人 の癒しになると思って書くという意識の有無が、プロかそうでないかの線引きか なと思うんです。これは「仕事」か「趣味」かという話でもある。「お金をもらうこ と」イコール「仕事」という定義もありうるけど、そうではない定義もありうるわ けです。簡単に言ってしまうと、社会を向いていれば「仕事」で、自分の方を向い ていれば「趣味」といった。
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    38 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 たとえ時給 200 円でも 300 円でも、あるいは 1 円も貰えなくても、この体系を 「埋める」ためと思って書く人は、「仕事」をしているとも言えると僕は思ってい て、そういう本は図書館が収集すべきものかもしれない。逆に、例えば最も分か りやすく言うと、自分がいちばん性的に興奮できる絵を描きたいというようなの が「自分に向かっている」ということで、それと他人のために書くこととの差は、 やっぱりあるのではないでしょうか。 ――両者の間で明確に線が引けるものでしょうか? 内沼:明確には引けないでしょうね。グラデーションはあると思います。 河村:「本」を書くのが自分のためなのか、社会の中に足りてないと思うからやる のか、ということの間には、やはり微妙なラインがあるような気がします。こう いうコワーキングスペースをやっていると、社会との距離感をどのくらいでとれ ばいいのか、ということへの考えがガラッと変わってきたんです。 同人作家の人も、少なくとも 10 ∼ 20 人には認められるから活動をしているわ けでしょう。こういう場所でも、10 ∼ 20 人がわらわらと集まってきて、自然発 生的にイベントなどが生れる。そしてそれは、たんなるプライベートでもないし、 かといってパブリックでもない。集合させていくといつかはパブリックになる、 セミパブリックな集まりという感じのものができてくるんです。だから単純に人 の数だけで、社会的かどうかという線引きができないなという感があります。 これを図書館の話に強引につなげていくと、図書館が「社会」と「個人」のどち らの側につけばいいのかが、実はよく分からなくなってきたんです。長尾さんの テキストの中でも、図書館という場所は「コモンズになるべきだ」という部分と、 「知を体系的・網羅的に集めるべきだ」という両方が出てきて、両者は一致すると ころがない感じがする。そこに図書館のジレンマが見える気がして、どちらに行 くべきのかなと思います。 「サードプレイス」と「教会」 ――今の話から、オルデンバーグの「サードプレイス」を思い浮かべました。第一 の場所が家、第二の場所は職場や学校、そして家や職場での役割から離れてくつ ろげる場所としての第三の場所がサードプレイスです。図書館や公園などの公共
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    39特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 の場がサードプレイスとして機能することもあれば、カフェや居酒屋などの飲食 店がサードプレイスとなることもあります。例えば、スターバックスコーヒーは サードプレイスをコンセプトとして掲げて店舗展開してきました。 サードプレイスは必ずしも公共の場所ということではありませんが、その中立 性は部分的な公共性を持っているともいえます。スターバックスなどのカフェも 商業空間でありながら、ある種の公共性を含むサードプレイスとして機能してき ました。 河村:ただ、サードプレイスという言い方は、従来の働き方の上にのっていると 思うんです。今はもう、それは崩れているんですよ。プレイスは一つしかなくて、 プライベートもなくパブリックもないんです。 吉本:うちの事務所も、人が勝手に来て仕事をしていて、「オープンスペース」と はいってないけれど、空間としてはもうオープンなんでね。生活空間がパブリッ クに近づいていて、ここから先は入られちゃ嫌というところはないんです(笑)。 ――それにあえて反論をすると、「コミュニティ」と「パブリック」が混同され ていることがあって、すごく気になるんです。例えば先日の「マイクロライブラ リー・サミット」で言われていた「オープン」で「パブリック」な空間も、「コミュ ニティ」の場合がすごく多かったんですね。 河村:そこにもう一回反論をするとすれば、私は「パブリック」は幻想だと思っ ているんですよ。人が関わるうえで、パブリックをどう実現できるかということ に対して、図書館は答えが出せないし、僕らも答えを知らないんですね。だから 幻想かもしれない「パブリック」に近づく階段としては、今のところ「コミュニ ティ」以外の手段がないような気がするんです。 高橋:パブリックは「大きいコミュニティ」みたいなものでしかないと……。 ――この「マイクロライブラリー・サミット」には、河村さんも登壇されていま した。吉本さんと私は客席で見ていましたが、これについては、河村さんから説 明していただいた方が分かりやすいかもしれません。
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    40 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 河村:2013 年 8 月 24 日に大阪の「まちライブラリー @ 大阪府立大学」で、世界初 の「マイクロライブラリー・サミット」という催しがありました。小規模な図書 館(マイクロライブラリー)を、全国から 17 個集めて、朝 10 時から夕方 6 時ぐら いまで、30分ずつ話をしてもらいました。 いま僕らが把握しているだけで、全国でマイクロライブラリーが 300 とか 400 ぐらいある。まだ把握してないところも含めると無数にありそうな気配がします。 その基準は、大きくいうと「本が集まる場所」なんですが、たいていは「人も集ま る場所」でもある。基本フォーマットは「本」、つまり本とか本棚、図書館なんで すが、うちみたいなコワーキングスペースもあれば、公共図書館の中に市民が集 まる場所を別につくって、市民が自由に本を持ち寄っている本棚があったり、聞 いてみるとけっこうみんないろいろ違うことやっている。 例えば長野県の小布施町では、街中のお店の店主が自分の好きな本を店内に並 べていて、それらのことも「図書館」と呼んでいる。小布施の町全体が「図書館」で、 その中心に町立の図書館(まちとしょテラソ)がある。他にも個人の趣味で少女 マンガを集めだしたら全国からどんどん集まってきて、今 5 ∼ 6 万冊の蔵書があ る「少女まんが館」という私設図書館もありました。そんな人たちが集まるサミッ トでした。 ――大阪や京都にも、カフェにライブラリーがあったり、そこでイベントをして いるお店がたくさんあって、一つ一つの事例は面白かったんです。このサミットに 「B&B」や「カーリル」や「達人出版会」が出ていても、全くおかしくない感じでした。 河村:本屋さんでは、「放浪書房」(旅をしながら、旅の本を売り歩く人力移動式 の旅本専門店)がきていましたね。 ――そう、書店も来ていたし、「リブライズ」のように、本に関するシステム的な ことをやっているところも出ているのが面白かった。さきほど河村さんが「パブ リックは幻想だ、でもそれを分かってやっているんだ」という話を聞いて、すご く納得がいったんです。 というのも、このイベントはまだ 1 回目なので話が総論的になるのは仕方ない んですが、参加した人たちの全部とは言わないまでも、その多くが「強いコミュ ニティ」を志向する場であるように感じられた。中にいる人たちは気づかないか
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    41特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 もしれないですが、そういう「強いコミュニティ」は、外から見ている人に対して は、「閉鎖性」として立ちあがる。コミュニティがあることも、コミュニティの多 様性も自然なことですが、その中で「リブライズ」のやろうとしていることだけが、 ちょっと違ったんですね。自分たちの場所も持っているけれど、パブリックが一 種の幻想だと分かっているがゆえに、コミュニティ同士をつなぐことで、その限 界にチャレンジしようとしているように見えました。 河村:コミュニティは、地の縁があると絶対に閉鎖的になるんですよ。でも、い まのコワーキングスペースや、もう少し緩やかにインターネット上で起きている コミュニティは、オーガナイザーのやり方次第なんですが、そういう意味での閉 鎖性はあまり強くない。 「リブライズ」がコワーキングスペースを拠点にすることで、他の利用者の活動 も見られるようにしているのは、コミュニティにどっぷり浸かって、自分の平均 値の中で固定化されていくのが、すごく嫌だからなんです。その中で流動性をど ういうふうに確保するかというときに、「コミュニティ同士をつなぐ」という話に なっていった。 ただ、「コミュニティ同士をつなぐ」というのはけっこう抽象的な話であって、 実体があるわけではないんです。本質的にやりたいところは、その中にいるプレ イヤーを自由に行き来させることなんですよ。そうやって流動性が高い状態を維 持しないと、コミュニティが腐るんです。 ――「実体がない」というのは、多様なものがあって、リブライズはその「間」を やっている、ということだと思うんです。齋藤純一さんが『公共性』(岩波文庫、 2010)という本で、公共性は人びとの「間」に形成される空間であると書いていま す。 河村:「リブライズ」は地藏真作さんというプログラマーと二人でやっているん ですが、僕らには共通見解があって、その「間」はシステム、もう少し具体的にい うとプログラムだと思っているんです。 ――今回のサミット参加者の中では、システムをつくっているのは「リブライズ」
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    42 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「第1回マイクロライブラリー・サミット」会場展示風景 撮影(見開きとも)=嶋田綾子 「第1回マイクロライブラリー・サミット」での「リブライズ」ブースは、サービスのデモンストレーションができる体験型の展示
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    43特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「第1回マイクロライブラリー・サミット」での「放浪書房」ブース風景 「第1回マイクロライブラリー・サミット」での「少女まんが館」ブース風景
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    44 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 だけでした。 高橋:今は理想像としてあるのが「リブライズ」ぐらいだとしても、「それ以外の システム」もありうるわけですよね。複数のシステムがあって、それらの「AND 集合」か「OR集合」の中に、公共みたいなものができるのかもしれない。 河村:ただ、それだと「人」からすごく遠く離れている感じがしてしまうんです。 「パブリック」を議論するとき、それがいったい何を指しているのか、という疑問 がいつもつきまとうんですよ。 高橋:「公共性」というのは、「人」ではないんじゃないですか? 河村:なんというか、公共性が「程度の問題」だったり、たんに形容詞として使わ れるだけなら、コミュニティも公共の一つだという気がするんです。 内沼:「公共性が高い」とか「低い」と言うとしたら、それは「程度の話」ですよね。 そもそも大前提として、なぜパブリックということが必要なんでしょうか? ――パブリックがなぜ必要か、というのはすごく難しい話ですね。これまでの話 の流れをまとめると、「マイクロライブラリー・サミット」のような動きの中で、 「僕らはパブリックに対して開いていますよ」と言葉を聞くことが多くなってき た。例えば公共図書館というのは、まさにパブリックの場なのですが、河村さん が仰ったように、実はそれは幻想でしかなくて、図書館がパブリックを体現して いるわけでもないという話だったと思います。 内沼:幻想なら、幻想でもいいじゃないかというのが、今聞いていて思ったこと です。そういう意味では、僕も公共性というのは「程度の話」かなという気がして います。
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    45特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 グーグルは「パブリック」といえるか 吉本:もう一つ、「図書館という場所は、オープンであるべきか」という問題もあ ると思うんです。すごくインターネット的ですけど、一つの考え方として「誰で も入れるような場にしておいて、あまりにひどいようなら排除する」というのが ある。もう一つが「入場券があってお金を払った人じゃないと入れない」という 考え方です。そういう意味では、書店もオープンな場所ですよね。 高橋:長尾さんのテキストからも「知のユニバーサル・アクセス」というか、図 書館への普遍的なアクセスへの志向性が感じられました。 河村:でもそれは、インターネットがすでに実現している気がするんです。 高橋:そうですか? 私は、インターネットは全然オープンじゃないと思います よ。「玄関」までは入れても、その先に行けない「プライベート・リポジトリ」(ソー スを公開したくない開発の場合などで、許可したユーザーのみに公開し、開発を 進めること)とか、アクセスできないところがいろいろある。でも図書館は、建前 としてはユニバーサル・アクセスを保証することになっていて、「閲覧禁止」とい う特殊な例外を除けば、きちんと手続きさえ踏めば見られます。 河村:今の話は「グーグルで検索できないものは、この世に存在しないのと同じ」 という感覚とちょっと似ているのかもしれません。僕たちのようなオープンソー ス系の人間は、世の中にパブリックになっているものをふだんから享受しつづけ ているせいか、他のものの存在をけっこう忘れてしまっている。だから、いま高 橋さんに言われて「そうだよな」と思ってハッとしました。 吉本:「カーリル」の原点はまさにそこの部分なんです。「図書館の本をインター ネットに載せる」というのが、「カーリル」を始めたときのコンセプトでした。 ――今の話はとても大事ですね。「カーリル」は図書館の蔵書をネット上に広げ、 「オープン」や「ユニバーサル・アクセス」を一部実現したかもしれない。でもイ インターネットがあれば図書館はいらない?
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    46 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 ンターネット自体が、それを実現したといえるんでしょうか。 吉本:インターネットがそれを実現しているかという問いは、すごく難しい話な ので、いったん「パブリック」の話題に戻します。例えばグーグルにとってのパブ リックとは、パーマリンクを持っているかどうか、つまり「そこにいつでもアク セスできる」ということだと思うんです。でも、そこまでをパブリックとしてし まっていいのか……。 内沼:「カーリル」で本を探すと、「その本はこの図書館にあります」という情報 が出てくる。でも、「いま、ここ」でその本は見られない。もしもグーグルで検索 できるところまでがパブリックなのだとしたら、その本に書いてある中身は、イ ンターネット上ではパブリックだとはいえないし、鍵が掛けられたツイッターな どの場所で起きている議論もパブリックじゃないという話になります。 河村:その鍵がお金を払えば開けられるとしたら、それもパブリックだといって いいんですか? 内沼:アマゾンで電子書籍を買うのは、「お金を払えば鍵が開く」ということと一 緒だと思います。 ――長尾さんと岡本さんの対談でお二人が仰っていたのは、「グーグルはあくま でも私企業なので、もし将来なにかの理由でグーグルがなくなったらアクセスで きなくなる、そういうものはパブリックとはいえない」ということでした。 吉本:僕はそこには少し異論があります。グーグルはもう、一種の公共だと言っ てしまっていい。向こうにとってはビジネスでも、そこには僕らの求めているも のがあるのですから。 河村:グーグルは国の枠を越えているわけだから、ある意味、国以上にパブリッ クですよね。 吉本:よりパブリックだと思うんです。「カーリル」も図書館の人からは、「企業
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    47特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 がやっているサービスだから続かない」と言われ続けてきたんです(笑)。でも僕 は、そのところでは図書館の人たちとかなり違う考えをもっています。パブリッ クを担うのが、企業なのか国や地方公共団体やコミュニティなのかは、もうあま り関係ない。企業だからといって好き勝手やっていいわけじゃなくて、パブリッ クをかたちづくる要素は散在しているんです。 ――仮にグーグルという会社がなくなったとしても、グーグルが築いた環境は残 ると思いますか? 吉本:なくなったら、こんどは僕たちがつくればいい。それを再現するための知 識も、オープンソースライブラリもすでにある。技術的に「できる」ということが 分かっている以上、もはや未踏の道というわけではないんですよ。 河村:もしグーグルがだめになっても、百度/ Baidu(バイドゥ 中華人民共和 国の Baidu, Inc. が運営するアジア最大級の検索)をはじめ検索エンジンが他にい くらでもありますからね。 内沼:そう。グーグルが潰れたとしても、検索エンジンがなくなるわけではない。 インターネットと「自由」 河村:ところで、みなさんは普段の生活の中で公共との接点はありますか? な ぜこういうぼんやりした質問をするかというと、私は起業してから 10 年経つん ですが、その間に「公共に関わった」という意識をもったことが皆無なんです。公 共サービスを利用する機会も多くないし、選挙に行くときだけ突然パブリックと 対峙させられて、そのあとまたずっと断絶があります。でも、ここでコワーキン グスペースを始めたときに、むしろここにパブリックがあるなという感覚がした んです。 内沼:そのときの「公共」や「パブリック」ってなんでしょうね。そこがまだふ わっとしている気がします。さきほど「スターバックスはある種の公共性を含む サードプレイスだ」という話が出ましたけれど 、スタバにはお金を払って入りま すよね。そこにコミュニティが存在するようには思えない。じゃあ、スタバはパ
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    48 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 ブリックなんでしょうか? ――コミュニティとパブリックの中間というか、先ほど話したとおり「部分的に パブリックな場」ということではないでしょうか。 吉本:マクドナルドは限りなくパブリックに近いかも(笑)。 内沼:例えばそういう話なんです。 ――「場所の公共性」のような意味でパブリックについて考えるなら、「運営主体 が、国や地方自治体かどうか」が一つの基準としてあるでしょう。その意味では、 私企業はパブリックの担い手ではない。しかし現実には、コマーシャルな消費の 空間が、部分的な公共性を担うようなことがさまざまな場面で起こっています。 例えばカフェやショッピングモールなどもそうですよね。「公共の場」と「消費の 場」の差が曖昧になって混じりあっているという状況が現実にはあります。 吉本:だからこそ、図書館の人から「公共性が」と言われると、すごく嘘くさく感 じてしまうんですよ(笑)。 内沼:そのときに図書館の人がいわれる「公共」というのは何か、ということで すよね。例えば国や自治体は、税金を集めてそれを使ってみんなのために何かを する。図書館の本はタダで読めるけど、元をただせば誰かが払っている税金です。 その一方で、私企業であるグーグルが限りなく「公共」に近く感じられるのも、彼 らのサービスが無料で使えるのは広告収入のおかげで、本来は広告宣伝費として 回り回って商品に乗っているのだけど、そのことを利用者が感じにくいからなん でしょうか。 吉本:それはすごく正しいかも。「お金を払っている感」がない、というのは図書 館も同じです。 内沼:税金を払っている自覚のある人からすると、グーグルの方が図書館よりも ずっと「お金を払っている感」はない。それなのにグーグルは私企業で、しかもど
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    49特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 んどん大きくなっていますよね。ひょっとしたら僕がいちばん「公共」的なもの を日常に感じるのは、インターネットを使っているときかもしれません。 ――高橋さん、そのあたりはどうですか? 高橋:ちょっと違う話になるかもしれないけれど、「インターネットと公共」とい う話を聞いていて思ったのが、やっぱり「自由」の問題なんですよ。オープンソー ス・ソフトウェアという言い方に対して、もう一つフリー・ソフトウェアという 言い方がある。じつは私は「フリーソフトウェアイニシアティブ」(FSIJ)の会員な んですけど、最近あまりみんなが「自由」って言わなくなっている。インターネッ トからも自由がなくなりつつあって、ソフトウェアもどんどん自由じゃなくなっ ている、ということがFSIJでは話されたりしています。 これまでは、例えばリナックスで頑張ってデスクトップ OS をつくることがで きましたが、スマートフォンの時代になったときに、スマホの OS はあまり自由 ではないとか、最近デバイスでも自由に起動できない仕掛けが入れられていたり というのが一般的になっているんです。そういう中でネットの自由はどうやって 守っていけばいいのか、いや、もう守り切れないのではないか、という感じの暗 い話が、私の半径 10 メートルの狭いところではされている。そういう中で聞くと、 インターネットの明るい可能性みたいな話には、だいぶ違和感がありますね。 吉本:最近、本の書影を撮るためのプログラムをつくっていたときに、ロシアの 人たちがキヤノンのデジカメをハックしていることを知ったんです。ファーム ウェアまで全部ハックして解析しているから、デジカメで自由自在になんでもで きる。量産型のデジカメで自由にソフトウェアが組める時代が到来していて、こ れがすごく楽しい(笑)。つまり、限りなくハックは続けないといけない、という ことなんだろうと思います。 ただ、それがパブリックとか、オープンにする方向に寄ったところでは、まだ されていない。ある程度のところまではできるようになっているんだけど、例え ば iPhone をジェイルブレイク(ユーザー権限に制限を設けている情報機器でそ の制限を取り除き、開発者が意図しない方法で機能を拡張すること)するのは流 行らない、みたいなことがあります。
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    50 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 ――インターネットが現実の嫌なところに近づいていて、高橋さんが仰る「自由 がどんどんなくなっている感」もそこから来ていると。 河村:ただ、現実の方から見ると、インターネットはまだ全然自由な感じがしま す。「リブライズ」の文脈からいうと、街の中に埋もれて「クローズ」な状態になっ ている本棚を救い出して、「オープン」にしたい。そうやってインターネットに現 実をくっつけることで、ずっとオープンな世界になるだろうと思っているんです。 「2 ちゃんねる」が始まったときのような自由奔放さは、きっと今のインターネッ トからは失われてきているのでしょうし、あの自由さがこれからまた訪れるのか どうかは、もう分からない感じがありますが。 ――「自由さ」といったときに、もう一方には「見られない自由」のようなものも あります。例えばウィキリークスは「弱者にプライバシーを、強者に透明性を」と いった理念で活動していますが、そこにはプライベートなものを守るという「見 られない自由」も含まれています。しかし、元CIA職員スノーデン氏の告発によっ て、我々の「見られない自由」が既に失われていることが明らかになったわけです。 河村:そうですね。実はオープンソースでの開発も、オープンソースのコードを 入れてしまうと、逆に自由にソフトがつくれないというジレンマがある。全部 オープンにしなくちゃいけないために、開発における自由度が失われるんです。 そこはたぶんトレードオフなんでしょうが、「オープンにしない自由」はつねにあ るべきだと思います。 「固体」としての知識から、「水」のような知識へ ――最初の方で内沼さんが仰った「本」の定義にも関わるんですが、「本」という ものを、中身としてであれ、モノとしてであれ、「単体」として捉える考え方があ るのに対して、長尾さんが考えている図書館のベースにあるのは、「本は、それ自 体よりも大きな知識の一部である」という「感覚」だと思うんです。だからこそ、 そこには「第二のステップ」としてのネットワークが必要だし、さらにその先に、 「本」のネットワークをいかにつくるか
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    51特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 知や情報との我々の関わり方として「視点ごとに見えるものが変わるネットワー ク」のような壮大な夢を語っておられる。「本」というものを単体として考えてい たら、こういう概念にはならないと思うんです。 知識はもともと現実世界や現実の環境にあったもので、それを所有したいとい う欲望のもとで、「本」として固定化していったわけです。その歴史は木の葉や粘 土板から始まり、革やパピルスの時代を経てグーテンベルクの活版印刷術の発明 があって、次第に今のような「本」になった。そうやって知識が固定化されたこ とには、知識が社会化していくうえで大いにメリットがあったし、今もあるわけ です。でも長尾さんはそれとは別の観点から、「知」を固定化された状態からもう 一度解放することを提案している。というのも紙の本でネットワークをつくるこ とはすごく難しいし、電子書籍も既存の紙の本を電子化しているだけの状況では、 ネットワークを完全につくっていくのは難しい。 河村:ネットワークをつくるのは、そんなに難しいのでしょうか。紙に固定され たものに、リンクのような技術的な意味でのネットワーク性をあとからつくろう とすると大変だけれど、あいだに「人」が介在すると、あまり難しい感じがしない んですよ。例えば、ここ「下北沢オープンソースカフェ」には、放っておいてもプ ログラム関連の人が来て情報交換している。本棚に置いてある本も、話題になっ ている本が勝手に集まってきて、固定化と収集が成り立ってしまっている。ある 意味で、長尾さんの仰る「第二ステップ」と「第三ステップ」の段階に踏み出して いる。 これは長尾さんがお書きになった文章に出てくる intellectual commons に相 当すると思うんです。そこでは網羅性ではなく「普遍的にあるものの中から、ど ういう本を選書してくるのか」という編集能力的なところから図書館が捉えられ ている。何かテーマを決めて切り出しさえすれば、あとは人がそこに勝手にリン クしてくれるという意味で、網羅性とは逆であるような気がするんです。 吉本:今の話を概念的に聞いていると、情報の粒度が「本」という個体より下がっ てきていて、たとえて言うなら「水」みたいなものになってしまっている気がし ます。これまでは個体の本に対して、例えば ISBN のような ID をつけて流通性を よくしようというふうに考えられてきたけれど、「水」は液体だから置いておくと 混ざっちゃうし、いったん混ざるとそれだけを取り出せない。知識や情報が個体
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    52 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 から液体になってしまうと、図書館の側でもこぼれちゃうから、それはうちじゃ 無理ですという話になって、保存できずにいるわけです。 河村:粒度が細かくなりすぎた情報や「知」を受け止めきれるのは、今は国立国 会図書館しかないのかもしれません。 吉本:あるいはグーグルですね。グーグルは、ある意味で「水」の中から「欲し いもの」を取り出す技術なんです。でも図書館では、あくまでモノとしての「本」 でしか知識や情報が流通してできない。アマゾンもその点では図書館に近くて、 「水」の部分は扱いきれていない。でも、ツイッターではもっと粒度の細かいもの が流れているし、グーグルならそこも全て掬えてしまう。そういう流れでいうと、 図書館もこれからは「水」を受け止めるべきなのか、という話だと思います。 ――本や図書館の発展の歴史は、もともとは「水」のままでは知識を扱えないから、 「本」や「図書館」として固体化するという手続きだったわけです、でもそれが今 は技術の発展によって、「水」も扱えるようになってきたと。 吉本:そうですね。アメリカの議会図書館(LC)が、世界中すべてのツイッターの つぶやきを収蔵しているのも、とりあえず水を貯蔵するタンクを国が設置しまし た、という話なのかもしれません。 河村:いわゆるダーク・アーカイブ(非常時の利用のみで、通常時はアクセスで きない電子アーカイブのこと)ですね。実際に使うかどうかはともかく、とりあ えずとっておくという。 ――長尾さんが仰るデジタル・アーカイブも、思考の原点は同じだと思うんです。 ちなみに、水に近いような電子書籍を扱っている「達人出版会」は、国立国会図書 館に納本していますか? 高橋:いや、していません。する予定もないですね。いままでは ISBN がつけられ ている本じゃないと納本できないんですよ。電子書籍に関してはそこをオープン にしましょうという話になっているんですが、いまは無料の本に限られている。
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    53特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 だからうちの電子書籍も、有料のものは納本できないんですよ。 吉本:僕がつくったプレゼン資料は、無料だから納本義務があるというヘンな話 になってくるわけですよね(笑)。 ――有料の電子書籍でも納本できるようになれば、そうしたいですか? 高橋:そうなれば納本することになると思います、たぶん。 河村:今でも都立の図書館には納本できますよ。郷土資料のようなものには ISBN はつかないので。 吉本:公共図書館の場合は「納本」ではなく、「寄贈」ですね。 ――2014 年 1 月から、国立国会図書館が電子化した 200 万点以上の大規模デジタ ル化資料が、他の図書館でも閲覧できるようになります(すでに実現)。基本的に は著作権保護期間が切れたものが対象ですが、今までは国立国会図書館の端末で しか見ることができなかった資料を、地方の公共図書館や大学図書館やそれらに 準ずる施設でも端末を置けば見られるようになる。まだその程度なのかという話 でもあるのですが、公共図書館にとってはかなり大きな一歩です。その枠のなか にフリーの電子書籍でも入ってくれば、より広く読んでもらえる場になる気がし ます。 高橋:でも、もともとインターネットはオープンなので、ネット上に転がしてお けば、図書館に入れる必要はあるのかという……。 内沼:そう、そこがやっぱり疑問なんです。 ――これはさきほどの東京と地方の違いという話と近くて、インターネットだけ に存在が限られると、見ることがきないという人がまだまだたくさんいるんです。 年配の人だけでなく、デジタルネイティブ世代といわれる若い人でも、モバイル だけの限定的なインターネット利用ということも多い。そういう人たちにとって
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    54 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 は、ただネットに置いてあるだけでは出会うことは難しいです。 吉本:僕は地方にいるからすごく感じるんですが、現実として、人々が物を買う 手段はすっかり楽天やアマゾンになっている。他に買う手段がないんです。世 代に関してもだいぶ様変りしていて、うちの祖父母は 70 代を過ぎていますが、 イー・トレードで株の取引をやっています(笑)。 河村:そのへんは逆に、うちの実家は遅れています。買い物は新宿に行けばいい やと思っているから(笑)。 内沼:さきほどから何度か同じことを言っているような気がしますが、「ネット 上にあるものを収集する」という流れが向かう方向がよく分からないんです。大 事なのはむしろ「消えてしまうものをアーカイブする」という役割じゃないです か? 放っておくと消えてしまうから、図書館がそれをアーカイブして集めたい という話なら分かるんです。インターネット・アーカイブの考え方はそうですよ ね。でも、みんなに見せるために図書館がわざわざ無料のものを集めたり、イン ターネット上にあるものまで集めるというのは、ネットにアクセスできない人の ためにオープンにするという話とも違うでしょう? ――それをしなければならない理由の一つは、日本にはアメリカのインターネッ ト・アーカイブに相当するものが、まだ民間にないからですよね。 紙の本に次のイノベーションはあるか 高橋:既存のものを保存・保管・所蔵するアーカイブの重要性の他に、長尾さん のテキストには博物館の話が出てきますよね。ある意味で、図書館には「本の博 物館」みたいなことが期待されている。つまり「モノとしての本が、その時代には こういうかたちで使われていたんですよ」ということを未来まで保持しつづける 役割までが、図書館に期待されている。それとは別に、モノとしての本は措りて、 情報だけでいいから電子で頑張りましょうという考えもある。この 2 つは別の次 元の話なんですが、図書館の役割として両方とも大事です。 吉本:ところで紙の本には、次のイノベーションがありうるのでしょうか。特に
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    55特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 印刷機とか、ハードウェアの面で。今までの印刷業のビジネスモデルは、大きな 印刷機や製本機を買い、大きな工場で回してきた。でも印刷業自体、コスト感覚 がすっかり転換してしまって、ペラの印刷物はパーソナルプリンターでもっと安 い値段でつくれるから、町の印刷屋さんはもういらないという話が現実化してい ます。それに対して本の印刷・製本の現場がどうなっているのかがあまりよく見 えないんです。 高橋:一つはプリント・オン・デマンド(受注を受けて印刷する方法。プリンター を大型高速化させたデジタル印刷機の登場で可能となった)ですよね。 ――ただ、プリント・オン・デマンドはある意味、流通の話ですよね。吉本さん が仰るのは、もっと純粋に技術的な革新という話じゃないでしょうか。 吉本:実は最近、韓国で印刷したらすごく安い値段で 、桁が全然違うんですよ。 桁が違うというのはすごく大きくて……。 内沼:日本でも、コストを下げるためにほとんどの本を中国で印刷・製本してい る出版社があります。その代わり、制作のスピードを早めているんです。11 月に 出す本の場合、日本で刷るなら 10 月に入稿すれば間に合いますが、安く上げたい から8月には入稿して中国に送って、できあがると船で運ばれてくる。 ――今の話はプリント・オン・デマンドより、技術的にはさらに新しくない(笑)。 もともと他の業界ではやられていたオフショア化を出版にも導入しただけの話で すよね。 吉本:でもコストが桁違いに安くなると、開発面で大きいんですね。例えばプリ ント基板(樹脂などでできた板状の部品。電子部品や集積回路、それらをつなぐ 金属配線などを高密度に実装したもの)を日本でつくると、今までは 20 万円必要 だったんですよ。それが中国に発注すると、けっこうな数をつくっても 1 万円で つくることができる。そのことが、実は試作の速度を圧倒的に速めている。大手 はそういうことをやらないから、いまだに 2 ケ月かけて 50 万∼ 100 万も払って やっていますが、小さなところはその値段でできるようになると、すごくメリッ
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    56 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 トがあるんです。 河村:個人が動かせる価格帯に落ちてくるかどうかは、とても大きいですね。 内沼:どこまでを「本」というかによりますが、コンビニにもあるコピー機でzine をつくってきた人たちが昔からいるわけで、本の場合は個人レベルでも昔からや られてきたことですね。ちなみに個人がつくる本でいちばんすごいのは、「一点も の」なんですが、それを国立国会図書館に納本しろと言われたら、つくった人は 当然「1冊しかないからいやだ」と言うはずです。 河村:個人がつくる zine や「一点もの」もふくめて、「本はパブリックである」と 言えるのかという問題が残りますね。 ――ところで、知識や情報は「パブリックである」といいやすいけれど、「本はパ ブリックだ」というのは、どこかいいづらい部分があるのはなぜでしょうか? 吉本:「本はパブリックだ」といわれてきたことに根拠があるとしたら、それは量 産されていたからですよね。 河村:しかも本がパブリックなものになったのは、歴史的には比較的に新しい話 ですよね。図書館というものがつくられたときの時代背景を考えると、本や知識 はむしろクローズドなものだったわけです。
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    57特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「人」と「場所」をどう活かすか ――そろそろ締めくくりに入りたいと思います。みなさんはこれから図書館に対 して、どういう関わりをしていきたいですか。なるべく具体的かつ固有の話を順 番に伺えるとありがたいです。 吉本:僕の場合、これからやりたいことははっきりしています。正直に言って、 公共図書館は斜陽産業なんですね。いま、「カーリル」がやっているようなことは、 この先はなくなっていく仕事だと思っている。そもそも自分自身がそれほど公共 図書館を使っていないことからしても、本の貸出返却のような、今の公共図書館 の仕事に対しては、それほど大きな意義を感じていないんです。 ただし図書館には必ず窓口があり、そこには人もいる。そういう「場所」である ことを武器として、図書館の人たちは次に何をやっていくのか。僕は図書館につ いての体系的な知識や技術はもっていませんが、「カーリル」を始めたときから図 書館の人に応援してもらう中で、彼らとはいろいろな議論をしてきたから、そこ にはとても興味があるんです。 例えば、かつて炭鉱で働いていた人たちは、炭鉱がなくなったときどうしたの か。それまでの知識や経験を活かして次の仕事ができたのだろうかという観点で 考えてみるといいかもしれない。「生業(なりわい)」ということでいえば、うちの 実家も時代の変化とともに家業の業態を変えてきたんです。そうした変化が起き ること自体はいいことだし、図書館が変化する場面に立ちあえたら面白い。その ときに「図書館」という名前や場所はまだ残るかもしれないし、あるいはなくな るかもしれませんが。 内沼:それはとてもよく分かる話ですね。 河村:図書館が「場所」として残ったとき、最後に期待されるのは、自由を標榜 する「コモンズ」としての機能だと思うんです。個別のお店でやっているかぎり は、いくら「ここはライブラリーだ」といっても、実質はコミュニティどまりに なってしまう。少なくとも、こういうカフェのような場所では、「そこでは自由が 保証されている」という言い方はしない。だけど公共の図書館ならば、一種のファ 未来の図書館をつくる
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    58 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 ンタジーかもしれないけれど、コモンズとしての自由を描ける余地が残っている。 そこに対して「リブライズ」の側で協力できることがあったら、どんどん支援し ていきたいんです。 それからもう一つ、公共図書館の蔵書は「カーリル」が一気にオープンにして くれたけれど、近所にある小中学校の図書室にどんな蔵書があるかは、外には見 えてこない。つまり、まだ電子化されてない「図書館」や「ライブラリー」は無数 にあるんです。特に学校というクローズドな場所を、周りにいる人たちで見守っ ていく手段の一つとして、図書館の蔵書をオープンにすることには意味がある。 そこの部分も「リブライズ」でやっていきたいですね。 高橋:私は基本的に紙の本が好きなんですが、紙の本の図書館というものには あまり接点がなかったし、正直にいうと、これから期待するところもあまりない。 あと、人にもあまり興味がないんです(笑)。 じゃあ何に興味があるかといえば、アーカイブです。例えば電子書籍はちょっ と前まで、アプリでつくっていました。そうしたアプリの中には、もう動かない 「読めない電子書籍」がたくさんある。こういう問題は昔からソフトウェアでは あったことだけど、電子書籍の場合、さらに DRM をかけてわざわざ読めないよ うにしてあって、しかもそれを破ろうとすると刑法にひっかかる。そんな世界で どうやって電子書籍を未来に遺していけるんだろうと思うんです。 その一方で、電子書籍もウェブページと同じようにどんどん消えていきます。 つくった本人が消していくものもあれば、いつの間にかなくなっていくものもあ る。それらをどうやってアーカイブしていくか。当分はダーク・アーカイブにし ておいて、誰もアクセスできなくてもいいですが、すごく時間がたったあとで誰 かがアクセスしたいと思っても、そもそも存在が知られていなければアクセスで きない。だから少なくとも「そこに何かがある」ことは分かるようにしておきた いんです。 図書館にはこれまで 100 年、1000 年の単位で本を遺してきた実績がある。そ うした経験は電子書籍にはまったくないわけで、図書館がもっている技術的な蓄 積は、紙の本以外のものを遺していくうえでもすごく役に立つ気がします。 ――紙の本に対して図書館が 1000 年単位でやってきた経験の中に、電子書籍の アーカイブが参照すべきことがあるということですか?
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    59特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 高橋:ええ、ないはずがないと思うんです。ただ、いきなり図書館の現場の人を 連れてきて、「なんとかしてください」と言ってもダメでしょう(笑)。そのために 何が必要なのか、まだよく分からないですが、図書館がもっている技術や人材と テクノロジーを上手くあわせていけば、なんとかなる気がします。 河村:図書館に、これまでに出た電子書籍が再生できる完璧なエミュレーター(あ るシステム上で、他の OS や CPU の機能を再現し、その OS や CPU 向けのアプリ ケーションソフトを動作させるソフトウェア)を置けばいいと思うんです。ある 世代の電子端末が使えなくなったら、それらを包含するエミュレーターをつくる。 何十種類かのエミュレーターがあれば、100 年前に出た電子書籍であっても、読 めるようにするのは技術的には難しくないはずです。 吉本:それはやりたいですね。 内沼:すごくいいと思います。 河村:例えば、さきほど紹介した「少女まんが館」の館長は、電子書籍の出版をし ていたこともある人なんです。ですが電子書籍は 2、3 年たつと読めなくなってし まうので嫌になって、最後には少女マンガを紙の本で保存する蔵を建ててしまっ た(笑)。でも、電子書籍のエミュレーターをつくるとなると DRM の話が入って くるし、そもそも iPhone のエミュレーターをつくっていいのか、という微妙な話 も出てくる。 実は開発者向けにはアップルから iPhone のエミュレーターが配られているん ですが、それはアップルストアが使えないので、アプリが買えない。したがって インストールもできないし、当然エミュレーションもできない。そうした事態を 回避するには、開発者用のエミュレーターとは別に、実機とほぼ同じ動作をする ものを図書館向けにつくってもらわないといけない。 任天堂のファミコンや DS、ソニーのプレイステーション用にはオープンなエ ミュレーターがあって、これらはだいたい実機と同じ動作をするところまできて います。でも、電子書籍のエミュレーターはまだみたことがない。Kindle は中身 が基本的にリナックスらしいので、エミュレーターがつくれないはずはないので すが、Kobo とかも含めて、現時点では電子書籍のエミュレーターをつくるには
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    60 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 メーカー側の協力がいりますね。 内沼:完璧なエミュレーターがあれば、どんなデータでもそこに持ってくれば読 めるという安心感がありますね。全てのメーカーに協力を仰がなければならない という意味でも、公共事業に相応しいと感じます。 高橋:もう一つ障害があるとしたらライセンスですね。エミュレーションとは、 ようするに通常の商品に与えられているライセンスに則らずに使うということで す。電子書籍のコンテンツは単体アプリや、リーダーにダウンロードして読むか たちなどいろいろとあるわけですが、「このコンテンツは正規のビューワーで読 んでください、正規のビューワーは正規の ID でログインしてください」というラ イセンスになっているものを別のやり方で使おうとすると、「その権利をあなた はもっていません」という話になる。だからメーカーだけでなく、アプリをつくっ ている人や、コンテンツの権利を持っている人たちの協力も必要になります。 河村:ネットワークに依存しているタイプの電子書籍の場合、サーバーが落ちて いると開けない。 高橋:さらにそのサーバーで DRM の認証をしている場合には、もうやりようが ないんですよね。 河村:「達人出版会」で売っている電子書籍のように、EPUB や mobi や PDF のよ うなオープンなデータ形式になっているものは、いつでもエミュレーターできる でしょう? 高橋:うちの電子書籍は DRM がかかっていないので、エミュレーターがなくて も大丈夫です。とくに PDF は ISO の規格になっているし、公共機関のデータも PDF でつくる方向になってきているので、将来も読めなくなることはなさそうで す。 河村:今の世代のコンピュータが全てなくなる時代がいつか来ます。そのとき のことを考えると、EPUB はまだ怪しい。ブラウザ依存があって、例えば最新の
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    61特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 Safariじゃないと見られなかったり、表示が崩れてしまったりしますから。 内沼:昔のワープロ専用機のフロッピーからデータを救い出すサービスがありま すが、そういうことが図書館でできたらとてもいいですよね。全てのデータを集 めようという理想よりも、まずはどんなデータでも読めるサービスを提供するこ との方が、公共性が高いような気がしてきました。僕が年をとったときに、もう 開けなくなった東芝ルポのフロッピーを持っていったら、データを救い出しても らえる、といったことは、図書館がやるべきことの一つという感じがします。 高橋:サービス業者の中には、自前でコンバーターをつくってるとこがありま すね。古いワープロ専用機をちゃんと動くようにメンテナンスしていて、なにか あったときにはそのソフトを使ってコンバートするという。ただ、許可をとれな ければ難しいこともあるかもしれませんし、メーカーの協力にも限界があるかも しれません。そういう意味では、ネットワークが発達してなかった頃の方が障害 は少なかったんですよ。ネットワーク認証が前提だと、サーバーが動かないと本 当にアウトなので。 河村:ネットワーク越しのものをエミュレートする、もう一つ別のエミュレー ターが必要になってしまう(笑)。それに、コンテンツに DRM が付いているかぎ りはアーカイブできないんですよね。DRM 付きのものは、国立国会図書館が画面 を全部スクリーンショットして標準フォーマットにすることを認めるといった合 法化の必要がでてきます。 ――国立国会図書館の存在意義は、その時代ごとに変わっていくでしょうね。「長 尾ビジョン」はまだ実現できてはいませんが、国立国会図書館の館長がヴィジョ ンを打ち出したのは画期的な話でしたし、その結果として、大規模デジタル化資 料もできた。今はまだその段階にとどまっているけれど、電子書籍のアーカイブ を実現できる唯一の可能性をもっていることが、国立国会図書館の新たな存在意 義という気がします。
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    62 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 リファレンスの未来 ――内沼さんからも、これからの図書館とご自身の関わり方について最後にひと ことお願いします。 内沼:吉本さんと同じで、一つは図書館に関わっている「人」が今後どうなるの かで、もう一つが「場所」です。図書館のこれまでの役割が失われても、その建物 や場所には、かならず別の役割が残る。これから先、僕が図書館に関わるとした ら、その場所に新たな魅力を付与したり、その意味を変えていくためのお手伝い をすることになると思います。 例えば、図書館における「選書」という話が長尾さんのテキストに出てきます が、今の公共図書館では選書や棚づくりができる部分はとても限定的です。最初 の方で吉本さんが、「図書館では棚指しの本を面出しするだけでも大変だ」と仰っ ていましたが、それでもみなさん苦労して、特集コーナーをつくったりしている。 ですが、これからは、「B&B」みたいに毎日イベントやる図書館があってもいいし、 一館一館が地域の魅力を活かした独自のサービスやセレクトをして差別化をはか ろうという意思を示されることもあると思うので、そのお手伝いをする機会があ りそうだと考えています。 ――この座談会は、長尾真さんがお書きになった「未来の図書館を作るとは」と いうテキストをみなさんに読んでいただくところから始めたわけですが、これま でにいろんなご意見が出たとおり、長尾さんご自身も揺れながらも進まれている と感じました。今日、お集りいただいたみなさんは、それぞれ立ち位置は違うわ けですが、つながる部分、共有できる部分もあったと思います。またみなさんは すでに、それを「図書館」と呼ぶかどうかは別として、「図書館的なもの」をつくっ ていらっしゃるので、それら同士がネットワーク的に広がっていけばいいと思い ました。 最後に一つ、長尾さんがいま、お考えになっていることとして、図書館用のスー パー・レファレンス・エンジンというものがあるんです。図書館にとってレファ レンスはとても重要なサービスです。ただ、人の能力だけに依存するようなサー ビスには、持続性がない。だったら図書館の本のレファレンスに徹底的に特化し た人工知能をつくれないか。もちろん、それはとても難しい話ですが、ある種の
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    63特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 制限を設ければ部分的には可能じゃないかというんです。 そのヒントになったのが、IBM がつくった「ワトソン」です。「ワトソン」が人 間のクイズ王を破った直後に、僕は長尾さんにお会いしたのですが、すごく悔し がっていらした。そのときは国立国会図書館長になられたあとだったので、ご自 身で挑戦できないのが歯がゆい、でもいつかそういう強い人工知能をつくりたい と仰っていました。だったら、その人工知能を、図書館のレファレンスに特化し たものとしてつくれないか。まだちょっと妄想的な部分もあるんですが、長期的 なプロジェクトとしてやってみたいと思っています。 河村:私にとって、今はフェイスブックとこの場所(下北沢オープンソースカ フェ)がレファレンス・サービスみたいなものなんです。知りたいことを投下す ると、誰かが答えてくれることが多くて、そこそこ「集合知」が機能する状態には なっている。 内沼:すごくいいレファレンス・エンジンをつくるのと、フェイスブックのよう な SNS に問いを投下するのとでは、どちらの方がいい答えが返ってくるか、とい う話ですよね。 河村:フェイスブックやこのカフェが、それなりにレファレンスの機能を果たし てくれるのは、もちろん特殊な話題の場合であって、普遍化できることかどうか は分からない。いわゆる「強い人工知能と弱い人工知能」の問題でいうと、レファ レンスのためにはやはり「強い人工知能」がいるのかもしれない。そのあたりは いつも気になっているんです。 内沼:図書館の現場でレファレンスをしている人同志は、つながってないんです か?「強い人工知能」を否定する気はないんですが、レファレンス業務をしてい る人間が何万人もいるとしたら、単純にその人たち全員を SNS でつなげて、「こ んな質問がきたんですけれど」と書きこんだら、すぐに誰かが返してくれるよう になるのが、いちばん早いように思うんです。 河村:仮にレファレンスの司書さんが数万人いるとしたら、クラスターごとに 100 人ずつ程度にわけて、その人たちを専門分野やテーマごとに勝手に分類する
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    64 特別座談会 未来の図書館をつくる  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 部分は「弱い人工知能」がやっていけばいい。 内沼:そのテーマにあったクラスターに人をあてがう選択を「弱い人工知能」が やるわけですね。 ――既存の SNS の中でそれをやってもいいけれど、「これはレファレンスのみで 成り立っています」という専用の SNS をつくった方が分かりやすいかもしれない ですね。 内沼:それがあれば、日本国内のどの図書館に行っても、一定レベルのレファレ ンス・サービスが受けられるようになりますね。 河村:かつ、それぞれの司書さんが自分の強い分野を明確にもつことにも意味が でてきます。 内沼:ただ、それがインターネットで公開されてしまったら、図書館にわざわざ 行く理由はなくなりますね(笑)。 河村:この仕組みがつくれたら、たぶんそれこそが「パブリック」なんですよ。 ――「電子書籍のエミュレーター」と「レファレンス専用 SNS」という、具体的に これからつくれるものが2つも見つかったので、これを各々の環境で、時には集 まって、実装に向かえるといいですね。 座談会の続編ということに限らず、この座談会の続きがどのように展開してい くのか、とても楽しみです。今日は長い時間、みなさんありがとうございました。 (編集協力:伊達 文)
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    66 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 いま、図書館に期待されている役割の一つに、「コモンズとしての図書館」がある。 コモンズとは、共有空間。インターネットなどデジタル情報の浸透が私たちの 知的環境を激変させる中、本をただ貸出するだけでなく、図書館を「学びの場」 「人々が集う場」「そこから何かが生み出される場」としてとらえ、実践しようと する活動が広がっているのだ。 本誌では今回、こうした「コモンズとしての図書館」、もしくは図書館同様、本 を媒介にコモンズとして機能している地域やスペースを取材し、そのあり方をレ ポートする。公立図書館や大学図書館が、公共図書館の大部分を占めていること は周知の事実だが、あえて今回は民間の取り組みも紹介したいと思う。図書館と いうその枠を一度取り払い、「コモンズとしての機能」にフォーカスすることによ り、これからの「コモンズとしての図書館」に何らかの助言となるのではないか という期待からだ。 まず、最初に焦点を当てるのは、「日本一のラーニング・コモンズ」と呼ばれる 同志社大学の「ラーニング・コモンズ」だ。 ラーニング・コモンズとは、大学図書館を中心に広がっている新しい学びのか たちである。文部科学省の用語解説によると、「複数の学生が集まって、電子情報 も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学 習スタイルを可能にする『場』を提供するもの。その際、コンピュータ設備や印刷 物を提供するだけでなく、それらを使った学生の自学自習を支援する図書館職員 によるサービスも提供する」とある。 文科省では、科学技術・学術審議会に学術情報委員会を設け、大学図書館や学 術情報流通などの学術基盤整備のあり方について検討、2013 年 8 月に「学修環境 充実のための学術情報基盤の整備について」というまとめを公表している。他に も、デジタル化社会に対応した北米の大学図書館における先進例も紹介されるよ うになり、こうした背景から、各地では積極的にラーニング・コモンズを開設す る大学が増えている。その一つである同志社大学の「ラーニング・コモンズ」は、 従来の大学図書館から独立、まったく新しい大学の学びの場をつくり出してい 学び、集い、生み出す──これからの図書館へ 猪谷千香
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    67コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 る。「ラーニング・コモンズ」で大学教育はどう変わっていこうとしているのか。 その最前線をリポートした。 次に紹介するのは、「奈良県立図書情報館」。「情報」というキーワードをコンセ プトに開館してから間もなく 10 年、県立図書館としての機能に加え、コミュニ ティ形成の場としても活用されている。落語の寄席やコンサート、ビブリオバト ル、さまざまなワークショップなど、連日のイベントでは、図書館としてのリソー スが余すところなく利用され、さらにはそこに集う人々のコミュニケーションか ら新たな試みが生まれている。図書館のあり方をいま一度、考える事例になると 思われる。 続いては、東京都の「江戸川区立篠崎子ども図書館」を取り上げる。この図書館 は、「江戸川区子ども未来館」の 1 階にあり、両館が協力して子どもたちが科学や 自然、地域の歴史などを学べるよう、半年から通年の体験型プログラムを運営して いる。子ども未来館と子ども図書館の連携は、全国でも珍しい事例となっており、 子ども図書館の可能性を感じさせるものとなっている。その舞台裏を取材した。 また、民間における「コモンズとしての図書館」として、最近注目を集めている 千葉県船橋市の NPO 法人「情報ステーション」の活動に着目した。「情報ステー ション」では、地域活性化を目的として、船橋市内を中心に民間図書館を増やし ていこうという「船橋まるごと図書館プロジェクト」を手がけている。蔵書はす べて寄贈、スタッフはボランティアという手作りの図書館だが、地域で愛され、 定着しようとしている。その民間図書館でスタートしたのが「船橋みらい大学」 だ。コミュニティの場となることを目的とした図書館が、生涯学習の場としても 機能し始めている。 最後に、地域の有機的なコミュニティから誕生したコモンズとして、東京都の 谷中、根津、千駄木地域で展開する「不忍ブックストリート」と「一箱古本市」の 活動を取り上げる。通称「谷根千」と呼ばれるこの地域では、個性的な新刊書店や 古書店、ブックカフェが点在する“本の町”で、毎年ゴールデンウィーク中に「一 箱古本市」が開催されている。現在、全国で展開する「一箱古本市」発祥の地であ り、図書館に頼らない本を媒介としたコミュニケーションが活発に行われてい る。こうした活動は、図書館にとっても何かのヒントになるのではないだろうか。 以上、5 つの図書館や活動を中心に「コモンズとしての図書館」について、いま 一度考えてみたいと思う。また、5ヶ所以外にも先駆例を取り上げた。こちらもぜ ひ、参考としていただきたい。
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    68 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「日本一」と称されるラーニング・コモンズがある。京都市の同志社大学が 2013 年4月にオープンした「ラーニング・コモンズ」。面積にして 2,550 平方メー トルと日本の大学としては最大級、さまざまな学習に対応した新たな学びの場と して運営されている。 近年、ラーニング・コモンズを設置する大学は増えているが、そのコンセプト や運営は大学によって異なる。同志社大学の「ラーニング・コモンズ」の最大の 特徴は、大学図書館からは独立し、「学習支援・教育開発センター」に属している ことだろう。大学図書館から独立した「ラーニング・コモンズ」では、実際にどの ようなことが実現されているのか。多い日には延べ人数にして 54,000 人の学生 が訪れるという、最先端の学びの改革をリポートする。   同志社大学の「ラーニング・コモンズ」は、重要文化財にも指定されているレ ンガ造りの建物が並ぶ今出川キャンパスの中に新しく建築された「良心館」に設 置されている。 従来、1・2 年次生と 3・4 年次生が別キャンパスで学修していた文系学部を市 内の今出川校地に統合することに伴い、その際約 7,000 人もの学生が戻ることに なった。そこで新たな校舎として「良心館」の建設が決まった。その名は、創立者 である新島襄が重んじ、同志社教育の原点ともいえる言葉「良心」にちなんだと いう。 単なるキャンパス整備に終わらせることなく、文系、特に人文・社会系学部の 学習に焦点をあてた新しい学習空間を創造し、教学改革の起爆剤にしたいとの想 いで「ラーニング・コモンズ」を設置したわけである。 いわゆる従来の大学図書館のイメージを覆すこの施設の案内をしてくださっ たのは、「ラーニング・コモンズ」のアカデミック・インストラクターで助教の 同志社大学ラーニング・コモンズ 「日本一のラーニング・コモンズ」が目指す大学教育の改革 大学図書館から独立、「学習支援・教育開発センター」がつくる学びの場
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    69コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 岡部晋典さん。「ラーニング・コモンズ」に所属する 3 人の教員のうちの 1 人で、 図書館情報学が専門だ。岡部さん以外にも、それぞれ教育社会学と日本語学の専 門の教員が所属して学生の学習支援をしている。 岡部さんと一緒に 2 階にある「ラーニング・コモンズ」のゲートを通り、入館。 フロアは 2 階と 3 階にまたがっているが、その機能はそれぞれ異なっている。2 階は「クリエイティブ・コモンズ」と呼ばれ、コンセプトは「学びの交流と相互啓 発」。3 階は「リサーチ・コモンズ」と呼ばれ、コンセプトは「アカデミックスキル の育成空間」となっている。      まず、2 階には「ラーニング・コモンズ」の象徴ともいえる空間が広がる。「プ レゼンテーションコート」と呼ばれる円形スペースだ。遮る壁は一切なく、円形 のパーテーションすらスリットが入り、中で何が行われているか一目瞭然となっ ている。これは、館内のどこでも同じようなしつらえになっている。 「とにかく視線を遮らないことがラーニング・コモンズのコンセプトです。壁 にもスリットを入れていますし、カーテンも糸状のストリングカーテンにしてい ます。静かにしろと言われることもない。図書館と別館にした利点ですね」。 「プレゼンテーションコート」では、静かにパソコンを開いて自習している学生 もいれば、にぎやかにディスカッションしているグループも。慣れた様子で、学 生たちはこの空間を使っていた。 「ここで TED ごっこやスティーブ・ジョブズごっこができるよ、と言っていま す」と笑う岡部さん。TED とはアメリカで毎年、開かれている世界的なカンファ レンスで、さまざまな分野の著名人が素晴らしいプレゼンテーションを行ってい る。アップルの創始者、スティーブ・ジョブズもプレゼンテーションの名手とし て知られる。 いわれてみると、移動できるステージ、120 型ワイドスクリーンが 2 面、天井か ら HD カメラ 2 台、さらにはマイク、スピーカー、録画機能、テレビ会議設備と、 あらゆる仕掛けがここには施されている。100 席までの本格的な講演会から、気軽 なトークセッションまで、「何をしたいか」によって可変の空間になっているのだ。 「プロジェクト/プロブレム・ベースド・ラーニング(PBL)という学生主体の 未来のスティーブ・ジョブズを生む? プレゼンテーションコート
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    70 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 学習方法があります。例えば、京都西陣の織物をもっとハッピーな状況にするに はどうしたらいいか、学生たちは半年かけて右往左往して、プロジェクトを考え ます。その研究発表の場として、ここでプレゼンテーションするのです」。 一方的に教授の講義を聞き、ノートを取るだけのものとは違うスタイルの学習 が、ここでは行われているようだ。この空間で創造的なプレゼンテーションを研 鑽した学生が、やがて未来のスティーブ・ジョブズになるのかも? そんなことも 予感させる空間だった。 さて、フロアの奥へと進む前に、ゲート付近のインフォメーションカウンター とその横にある赤いロッカーに注目。インフォメーションカウンターでは、施設 の案内やデジタルビデオカメラなどの機器の貸出をしてくれる。赤いロッカーは 荷物を入れるものではなく、館内で使用するパソコンが入っている。 「『DoKoDeMoPC』と呼んでいますが、学生証でこのロッカーにあるパソコンを 借りることができます。80 台が用意されていて、テストやレポート提出の時期に なると、あっという間に全部貸し出されますね。ですから、うち 20 台については スマホなどから予約して 2 時間はキープできるようにしています」。 必要があれば、まずパソコンをここで借りて、館内へ。私たちも奥へと進んで みよう。2 階フロアは、プレゼンテーションコートの他に 3 つのエリアで構成さ れている。 最初のエリアは、国際交流を目的とした「グローバルビレッジ」。同志社大学は 海外との結びつきが強い学風で、「ラーニング・コモンズ」でも積極的に海外留学 を志望する学生のサポートを行っている。 この「グローバルビレッジ」に来れば、常駐している国際課の職員に気軽に留 学相談することができる。忙しい時期になると、職員はランチを取る時間もない ほど、学生が絶えず訪れる人気コーナーだ。備え付けのパソコンのキーボードは 各国の言語に対応した仕様となっていて、ストレスなく入力、情報を収集できる よう気を配っている。 この他、海外 100 ケ国 60 言語の海外の新聞が写し出される大型モニターや、 BBC やアルジャジーラなど海外放送を流しているコーナーもあり、教員にも好評 「日本語禁止」ゾーンもある、海外との文化交流の接点
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    71コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 プレゼンテーションコートを仕切る糸状のカーテンによって、オープンな空間がつくられている  撮影=岡本真 学生証で自動貸出が可能なロッカー  撮影=猪谷千香
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    72 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 という。 ユニークなのは、「グローバルビレッジ」の一角にあるハイカウンターのテーブ ルや大勢で集まれる大型テーブルのスペース。他のエリアと少し違うのは、「日 本語禁止」と書かれていることだ。「ここは留学生と日本語以外の言語での交流に チャレンジしてもらうところです。留学生の方もよく訪れてくれます」と岡部さ ん。海外との文化交流の接点が、いくつも仕掛けられているのだ。 「学生時代、ファミリーレストランに集まって勉強したことはないですか? こ こはそんなコンセプトなんです」。 岡部さんが次に案内してくれたのは、「インフォダイナー」。ファミレス風の ボックスシートが並んでいるが、ファミレスと違うのは、短焦点のプロジェク ターがテーブルに仕込んであることだろうか。壁に備え付けられた白板に直接 アイデアを書くこともできるし、プロジェクターで資料を投影することも可能だ。 仲間とリラックスして、アイデアを練る――そんな空間になっている。 フロア中央のエリアは「グループワークエリア」だ。台形や勾玉形になるテー ブルが置かれ、自由に組み合わせることで、数人から数十人までのグループ作業 ができるようになっている。天井からホワイトボードを吊って、書いたらまた新 しいホワイトボードを加えていく。そんなことも可能だ。 「とにかく什器は動かせるということが必須です。軽いものを選び、キャスター がついているものを選んでいます。学習空間を学生が自分たちでつくっていくこ とができるというコンセプトになっています。ですから、テーブルもイスもボー ドも倉庫にしまいこまない。倉庫には脚立が入っているぐらいですね。何でも置 いておくと、学生が持っていって使いますから」。 このエリアの一角に、畳型の台座まであった。もちろん移動できるもので、寄 せれば 8 畳のスペースになる。「留学生に人気の畳コーナーです。留学生向けに華 道やお茶の実習をしています。僕がびっくりしたのが、ある時にお坊さんが禅と は何かを英語で流暢に留学生相手に話をされていた。恐らく地域と連携している 研究室が近くのお寺から呼んだのだと思いますが、さすが京都です」。 ファミレス風のボックスから畳型の台座まで、使い方は学生次第
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    73コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 さまざまな国からの留学生を意識した、多言語に対応したPC  撮影=猪谷千香   畳型の台座は、中に机を入れれば掘りごたつになる  撮影=猪谷千香
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    74 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「近年、アクティブ・ラーニングという考え方が、大学教育の中で盛んになって きています」と岡部さん。アクティブ・ラーニングとは、教員の講義を受けると いうこれまでの受動的な学習ではなく、学生自らが課題解決をしたり、プレゼン テーションを行ったりする能動的な学習のことを示す。では、いよいよ 3 階フロ アへ。ここでは、2 階とはまた異なる機能があふれ、アクティブ・ラーニングの支 援を行っている。 2 階でグループワークを行って方向性が決まったものの、その後、具体的にど うまとめたらよいのか、どうやって資料を集めたらよいのか、さらには機材を 使ってプレゼンテーションするにはどうしたらよいのかなど、学生がぶつかる壁 は少なくない。その壁を取り払ってくれるのが、3 階の中央にある「アカデミック サポートエリア」だ。 岡部さんたち教員はここに常駐し、学生からの相談や質問に対応している。サ ポートするのは教員だけではない。博士後期課程を主力とした大学院生も、「ラー ニング・アシスタント」として、常時 2 人が在席、細かな部分まで相談に乗って くれる。大学図書館からも司書が派遣され、ここに加わっている。 「エンベディッド(embedded =組込み型)・ライブラリアンというかたちで、図 書館から司書と連携を図っています。僕たちがチームでいろいろな方向から議 論していると、司書がこういう文献があります、こういうデータがありますとサ ポートしてくれます。学生がなかなか先生には聞けないようなことも対応する。 教員と学生のギャップを埋めるのが我々の役目です。図書館のレファレンスだけ では、なかなか内容にまで踏み込めませんが、ここでの僕の立場は司書ではなく 教員なので、レファレンスのちょっと先をやっています」。 「アカデミックサポートエリア」は、いわば「ラーニング・コモンズ」のエンジ ンにあたる部分のようだ。この他、同じフロアには、透明ガラスで仕切ったスタ ジオ仕様の「ワークショップルーム」や、やはり机やイスが自由に動かせる「グ ループスタディルーム」があり、より集中できる環境が調っている。 図書館のレファレンスの「ちょっと先」をする
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    75コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 2 階で活発にアイデアを出し合い、3 階でインストラクターのサポートを得な がらそれを練り上げる。さて、最後にプレゼンテーションをしたい場合に助けて くれるのが「マルチメディアラウンジ」で、ここではアイデアやまとまった結果 を分かりやすく人へと伝えるための画像制作や、動画編集などが可能だ。ソフト の使い方を知らなくても、「青ジャン君」と呼ばれる青いジャンパーを着たスタッ フが教えてくれる。また、赤いジャンパーを着ているのは「赤ジャン君」で、ワー ドやエクセル、パワーポイントのソフトのサポートを担当する。 作成した画像を出力したい場合、たとえばポスターセッション用の大判ポス ターを刷ろうとした時に頼りになるのが、「プリントステーション」だ。「ここは 京都市内の印刷会社が担当してくださっています。ポスターだけではなく、T シャツやステッカー、予稿集も作成できます。著作権にも詳しいスタッフの方が 常駐してくださっているので、無断転載など著作権侵害がないようにしていま す」と岡部さん。編集からアウトプットまで、このフロアでは一本のラインでで きるようになっている。 何かをしようと思ったら、何でもできる同志社大学の「ラーニング・コモンズ」。 学生たちによる主体的な学習を促すよう、コンセプトと空間が綿密に設計されて いた。しかし、実際に利用する立場の学生たちに戸惑いはなかったのだろうか。 「オープンして最初にここを本格的に使用したのは、法学部の有志でした。上級 生が法学研究会を立ち上げていて、開館して 1 週間ぐらいで自主的に勉強会を開 き、後輩たちと憲法とは何かを議論していました。大したものだなと感心してし まいました」と岡部さんは話す。「1 年目は学内でラーニング・コモンズのことを 知ってもらうための活動をしてきましたが、今年は成果につなげていくというこ とを目標にしています」。   では、同志社大学はこの「ラーニング・コモンズ」を、どのようにしてつくりあ げたのだろうか。最初に述べたように、大学図書館内に「ラーニング・コモンズ」 をつくる大学が多い中、同志社大学ではその道を選択しなかった。企画段階から アイデアや成果をかたちにするためのサポートも SNSのコミュニティがリアルになる空間
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    76 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「グローバル・ビレッジ」では、留学のアドバイザーが常駐する  撮影=岡本真 アカデミックサポートの掲示  撮影=猪谷千香
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    77コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 オープンタイプのワークショップルームでは、講習会などが開催される   撮影=岡本真 アイディアを成果物としてかたちにできる「プリントステーション」  撮影=猪谷千香
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    78 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 関わってきた学習支援・教育開発センターの事務長、井上真琴さんはこう振り返る。 「新しい校舎(良心館)を建てるという話が出たのが 2006 年度末でした。2013 年に建てるという。では、新しい時代の学びに、何が必要か。学長から、学内の各 部門に次世代にやるべきことを考えるよう言われました」。当時、大学図書館に所 属していた井上さんは、「図書館による学習支援、特にアクティブ・ラーニングを どうサポートするかが焦点になる」と考えた。 「その時に、ラーニング・コモンズという話をしましたが、周囲に意図が伝わら なかった。これは図書館がすべきものなのか、どうなのか、分からなかった。でも、 ぴんと来たのが、システム系の人たちでした。彼らは、学内の教育プログラムで 利用するための SNS システムを構築中でした。学生が勉強する時にコミュニティ をつくりますが、このグループはこんなことをやっている、ここではこんなこと をしていると分かるような検索システムをつくっていた。その自分たちがつくっ ている SNS のシステムが、リアルな空間のコミュニティと相似形ではないかと。 そこで、2007 年度に学長にアイデアを上げることになりました」。 しかし、そのあとは難航する。2008 年度から 2009 年度にかけて、大学図書館 内で「ラーニング・コモンズ」の構想を議論して原案を出したが、採用されなかっ た。「それは、自習ルームの延長線上にありました。新しい時代の学びを呼び込め そうなものではなかった。メディアセンターや図書館のブックカフェみたいなも のでしかなかった。図書館は蔵書にこだわり、その物神性から離れることは難し いです。それは良い面もありますが、新しいラーニング・コモンズは生まれなかっ た」。 「ラーニング・コモンズ」の構想は大学図書館の手を離れ、井上さんも企画部へ と異動。井上さんが周囲と相談して構想を練り、学長提案として学内に説明した。 「そこに従来の図書館の考え方は入っていませんでした。本棚が中心で、できるだ け光が入らないように、できるだけ人の姿が見えないようにつくられているのが 従来の図書館。これを改装してつくることは難しかったと思います。これまでの 図書館の施設とアクティブラーニングは、水と油です」。空間の構造だけでなく、 レファレンスにおいても、図書館とは異なっているという。 「図書館では、利用者に『どういう情報源が欲しいのですか?』ということしか 聞かない。『最終的に何をしたいのですか?』ということが分からなければレファ レンスになりません。でも、ここでは岡部先生たちが『最終目的地』を聞いてくれ るので、そこまでの道筋を逆算できるわけです。司書はレポートの内容までは関
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    79コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 係ないと思うかもしれませんが、教育ではそれらは包含されるものなのです。そ して、図書館が生き残るために本当に大事なのは、情報源ではなくて、情報源を 利用してどのように知的な学習成果を出すか、知的な創造をするかというプロセ スです」。 見てきたように、同志社大学の「ラーニング・コモンズ」は極力、空間が可視化 されている。ただ「お洒落」や「流行」で設計されているわけではない。「常に他の 人の勉強が見えている状態です。他の人が勉強しているし、自分も頑張ろうとい う発奮させるだけの相互刺激性ではなく、このような勉強の方法があるんだとい う、他者の学習行為自体が情報になるような空間です。このラーニング・コモン ズが良心館だけではなく、キャンパス内に広がればいいと思っています。理想は、 キャンパス全体がラーニング・コモンズになることです」と井上さんは語る。 そして、それは学生の学習支援だけではなく、今後 10 年をかけた教育改革で もあるという。「学生の質を高めるという目標はありますが、大学教員の教育力を 向上させていくことも大切です。大学教員にラーニング・コモンズを使ってもら い、『こういう課題を出せば、学生たちはここまでできる』ということを目に見え るかたちにしないといけない。これは、大学の教育力全体を上げていく活動です」。 オープンから 1 年、手応えは着実にある。「初年次に教育の授業を持っている先 生が、ラーニング・コモンズの使い方を教えてほしいと聞いてきてくれます。正 課の授業でお手伝いすることも増えてきた。忙しくなってきました」と岡部さん は笑った。 2 年目を迎え、同志社大学の「ラーニング・コモンズ」はまた進化しようとして いる。 同志社大学 良心館 ラーニング・コモンズ 〒602-8580 京都府京都市上京区今出川通烏丸東入 tel : 075-251-3895 fax : 075-251-3988 http://ryoshinkan-lc.doshisha.ac.jp/ 学生の質と教員のレベルを上げて、大学の教育力を高める改革
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    80 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 図書館という枠組みから自由になった時、図書館はどうなるのか。2005 年の 開館以来、さまざまなイベントや企画を通じて、図書館のあり方を探ってきたの が、奈良県立図書情報館だ。フォーラム、ワークショップ、展覧会、ビブリオバト ル、コンサート、落語会など、一見、図書館とは思えないほど多彩なイベントが年 間を通じて開かれていることで知られる。しかし、10 年近くに及ぶこれらの活動 は単なる「にぎやかし」ではない。奈良県立図書情報館では、情報やつながりを求 めてイベントなどに集まってくる人たちの中からコミュニティが形成され、その コミュニティから新たな情報が発信されるなど、新たな動きが生まれている。こ のような仕組みは、型にはまってしまった図書館を一度解体し、自然発生的な学 びの場として再構築させるものでもあった。その舞台裏を奈良県立図書情報館の 総務企画グループ企画・広報チームリーダー、乾聰一郎さんに聞いた。 以前の奈良県立図書館は文化会館に併設され、都道府県立図書館の中では最低 ランキングに近い予算規模で、県民の利用も活発ではなかったという。そんな県 立図書館を何とかしようと、県が新しい県立図書館のあり方を検討し始めたのは、 1992 年のことだった。その 3 年後の 1995 年には、新しい県立図書館構想が策定 される。構想は、当時盛んに言われ始めていた「情報化社会」を意識したものと なった。 新しい県立図書館は、構想から 10 年をかけて完成するが、後半の 6 年間、開設 準備に携わったのが乾さんだ。 「新しい図書館の最初の仮称は『奈良県総合情報センター』でした。計画を進め ていた当時の知事は、情報化社会における図書館のあり方にこだわりがあり、館 の名称にも『情報』という言葉を入れようということで、最終的に『奈良県立図書 情報館』という名称になりました。そうした経緯からも、この図書館の大きなコ 奈良県立図書情報館 人と人がつながり、情報を編集し発信する図書館 「情報」にこだわって構想された新しい「奈良県立図書館」
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    81コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「奈良県立図書情報館」外観  写真提供=奈良県立図書情報館 玄関の外より見たエントランス風景  写真提供=奈良県立図書情報館
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    82 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 ンセプトの一つとして、「情報」というキーワードをもつ施設になりました」と振 り返る。 「一般的な公立図書館は、『図書館法の規定に基づいて設置する』と自治体の条 例に書かれることが通常ですが、奈良県の場合は『県民の教育、学術及び文化の 発展に寄与するため、奈良県立図書情報館を奈良市に設置する』とされています。 これにはふたつの意味があります。一つは、図書館法に掲げられた事業をするこ と、もう一つは、奈良県の公文書館として、公文書館法に基づく事業をすること です。こちらから見たら図書館、あちらか見たら公文書館という施設なのです」。 今年 4 月に開館した三重県総合博物館も公文書館機能を持つなど、こうした複 合機能を持たせる施設は増えている。自治体が単独施設として運営する体力がな くなっていることや、資料の「保存」や「活用」といった基本的な活動は、図書館 も博物館も公文書館も共通しているためだ。 「そういう意味で、奈良県立図書情報館は今までのかっちりとした図書館の枠 を外してしまったという一面もあるでしょうか。公文書館には、いわゆる行政文 書だけではなく、古文書があったり、絵図があったり、奈良県に関わるさまざま な資料が集まってくる場所でもあります。ですから、当初の仮称だった奈良県の 『総合情報センター』というイメージともそれほど遠くない気がしています」。 奈良県立図書情報館は完成後、教育委員会の所管から知事部局の観光局に、さ らに現在は地域振興部の所管となっている。このようなことも、従来の図書館の 枠組みから一歩踏み出しているゆえんの一つかもしれない。 奈良県立図書情報館では、開館当初からイベントが開かれていた。 「最初はこういう施設ができたということを知らしめたいという目的で、打ち 上げ花火的な役割としてイベントを企画していました。開館時間中にコンサート を開けば、クレームがあるんじゃないかと戦々恐々としていました。今でもオー ソドックスな図書館観をお持ちの方は、やかましいとおっしゃいます。でも、そ れよりも利用者の方の満足度が高いですし、毎日コンサートを開いているわけで はない。何週間も前から告知もしますので、どうしても嫌な方はその数時間だけ はご協力くださいということでやっています」。ちなみに、最初に開催されたコ コンサートホールで開かれるコンサートとの違いは?
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    83コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 ンサートは、心理学者で文化庁長官も務めた故・河合隼雄さんのフルート演奏会 だったという。 もちろん、コンサートホールのコンサートとは違う。ここではただ演奏を聞く だけではないのだ。 「始めた頃は確信を持ってやっていたわけではないのですが、例えばコンサー トホールのような専用の施設で開くことと何が違うのかというと、当館でのそれ は興行ではないということです。ホールなら、どうしても収支も意識しないとい けない。当然、たくさん来ていただけるようなプログラムや企画を考えないとい けない。しかし、当館では興行というよりは、ここで、新しい出合いを演出したい。 だから、よく知られた曲ではなく、あるテーマに沿って、本当にそのアーティス トが演奏したい曲をやってくださいとお願いします。そして、そのプログラムに 対して、僕たちは本でジョイントする。必ず、来場者には関連する本を徹底的に 紹介するブックリストをお渡しします。来場者全員が目を向けてくれるわけでは ないでしょうが」。 このブックリストはコンサートだけでなく、フォーラムや企画展、落語会など 「大阪フィルハーモニー交響楽団団員」によるクラリネット五重奏 コンサートの風景  写真提供=奈良県立図書情報館
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    84 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「東アジア現代アート展−アートで創る東アジアの絆」展示風景 写真提供(見開きとも)=奈良県立図書情報館 ファッションショー「tribute to 光明 Fashion Show」の様子
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    86 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 すべてのイベントのために作成される。他の文化施設にはない、幅広い分野の所 蔵資料というリソースがあってこその展開が実現している。 こうしたイベントが、図書館から一方的に発信されているものではないことも、 奈良県立図書情報館の大きな特徴だ。 「例えば、公立図書館としては初めてビブリオバトルを開催したのですが、きっ かけは、当館で開催している仕事に関するフォーラムの参加者の方からの相談で した。大学でビブリオバトルをやっていた方で、『まだ、公立図書館でビブリオバ トルを開催しているところがないのですが、この図書情報館でやれないでしょう か』と言われて始めたのが、最初でした。東日本大震災の翌日、2011 年 3 月 12 日 に 1 回目を開催しました。同じフォーラム参加者が次々に加わって、「奈良県立 図書情報館ビブリオバトル部」というコミュニティができて、そこが主催、館が 共催というかたちでこれまで 40 回以上、開いてきました。大学生、サラリーマン、 フリーランスのデザイナーとさまざまな方たちが集まる緩やかなコミュニティで す。フライヤーもビブリオバトル部でつくるし、進行も自分たちでやる。じゃあ、 僕はビブリオバトル部顧問になってイスでも並べようかと(笑)」。 ビブリオバトル部から起きた展開も、奈良県立図書情報館ならでは。「ある時、 部誌をつくろうということになったのですが、いろいろなスキルが必要です。こ こには 30 台のパソコンを備えたセミナールームがあるので、そこを使って画像 処理や組版のスキルを持った部員が、他の部員を集めて講習会をやろうというこ とになったんです。自然発生的に教えたい人と教わりたい人が集まって講習会を 開く。そういう動きが生まれてきました。僕たちも全力でフォローしています」。 これこそが、奈良県立図書情報館で実現している「学びの場」なのだ。「日本人 は何かを学びたいと思った時に、スクール形式にたどりつきます。スクールで何 か役に立つ知識を得るのも悪いことではありませんが、学びの場の原点を考えて みたいです」と乾さんは語る。 「来年、開館 10 周年を迎えますが、いろいろある中で浮かび上がってきてい ることがあります。誰か先生を呼んできて学ぶスクール形式よりも、イベントを きっかけに集まった人たちがコミュニティをつくって自然発生的にスキルや知 教えたい人と教わりたい人が自然発生的に集まるという「学びの原点」
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    87コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 印刷物の原稿作成や、Webデザイン、画像編集ができる「アトリエ」  写真提供=奈良県立図書情報館 撮影機材を用いた資料、商品などの撮影や、録画、録音ができる「デジタルスタジオ」  写真提供=奈良県立図書情報館
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    88 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 識を共有する。館は何かを提供するというより、館に集まって来た人たちが自主 的に始めたことをうまくフォローする。それがうまく成立し始めている。ビブリ オバトル部で人がつながって、また違うテーマが生まれ、新たなコミュニティが 生まれる。そういう動きの中で、学ぶことや交流することの喜びが生じる。中世 のヨーロッパにおける大学の起源を考えた時に、キャンパスはありませんでした。 学びたい人が集まって、教えてあげるよという人を引っ張ってきて、その場が学 びの場になる。そういう学びの原型みたいな場所に戻ることができるのが、図書 館じゃないかと思っています。あそこはイベントばっかりやっていると言われま すが、そんなつながりの中でいろいろな企画が生まれ、新たな人のつながりの中 で、イベントがかたちになったりしています。コミュニティと図書館が、互いに フォローする、されるという関係性の中で知的好奇心がかたちになっていくとい うことは、図書館の有り様の一つとして大切なことだと思います」。   こうしたコミュニティの活動について、乾さんは、いわゆる「図書館ボランティ ア」とは一線を画している。コミュニティの活動は、館の業務の補助ではなく、彼 らの持つ主体性がすべてだからだ。「ボランティアというと図書館が募集してい るみたいですよね。そういうあり方とは全然違います。僕はあえてコミュニティ としか呼んでいません」と乾さんは話す。 「フォーラムやワークショップは、何かを知ったり学んだりするだけではなく、 まったく知らない人同士が出会って、一緒に未知の森へわけ入るきっかけにも なります。何人かが集まって、『ここでこんなこともやりたいね』となれば、こち らの思いが届いたというか。そんなことがかたちになっていくと、結果的に、こ ちらがフォローされていることもある。従来言われているように、図書館が支援 するということに、僕は違和感があります。フォローする、されるという軸足は、 あっちへ行ったり、こっち行ったりしながら、新しいものが生まれてくるのだと 思います。そして、知識や情報を通じて、こんな世界もあるのかと一人でも多く の人が、何かの機会に持って帰ってもらえたら、図書館としては良いゲートウェ イになっているという気がします」。乾さんは持論を重ねる。 「便宜的に利用者という言葉を使っていますが、図書館と利用者の関係が溶解 大木型の知の拠点ではなく、有機的な集合としての図書館
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    89コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 した中で、お互い動いていくというのが良いのかもしれません。本来、知のあり ようとはそういうものかなと思ったりもします。図書館は『知の拠点』とか、かっ こいいことをいいますが、こちらに大木があってみんながぶら下がっているとい うイメージではなく、立ち位置が入れ替わって、それでいて、みんなが一つの固 まりになっているみたいなイメージ。いろいろなものに変形したり、ちょっと離 れたり、またくっついたり。そういう知が、生物が本来、原型として持っているも のと呼応するような気がします。人と人がつながりながら、情報がダイナミック に編集され、また再編集され、触発し、され、化学変化が起き、知の森が有機的に 拡大していくようなイメージ、それが実は図書館だと思っています。少なくとも、 美術館や博物館など他の文化施設と比べると、一番、やりやすいのかなと思いま す」。 奈良県立図書情報館は、そうした原点に立ち戻ろうとする一方、図書館が図書 館たるゆえん、自分たちが所蔵する「本」についても深く探ろうとしている。2014 介護民俗学者と本の原点を探るワークショップ フォーラム・ワークショップ「本の原点を探る2日間」の様子 左・乾 聰一郎さん、中・六車由美さん 右・アサダワタルさん   写真提供=奈良県立図書情報館
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    90 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 年 1 月、「本の原点を探る 2 日間」というワークショップが開かれた。『驚きの介 護民俗学』(医学書院 、2012 年)の著者で、民俗研究者、介護福祉士の六車由実さ んと日常編集家のアサダワタルさんが講師。人々の日常の中にある思い出や記憶 は、聞き書きされ、記録されることによって初めて情報として他者へ伝えられる。 これを「本の原点」の一つとして捉えようというものだった。 「1 日目はお二人のクロストークを、2 日目は、最初に六車さんによる『聞き書 きワークショップ』を、次に、アサダさんによる『借りパクワークショップ』を開 いていただきました。『聞き書きワークショップ』は、『思い出の味』などのテー マで、参加者が互いに聞き書きを体験するもので、『借りパクワークショップ』は、 借りたまま、結果的にそのまま返さずに手元にもっている(パクってしまった) CD を持ち寄って、そのストーリーをつむぐというワークショップでした。物語 られたことを編集することによって、本の原点を体感したい。それが、このプロ ジェクトのキックオフです」。 奈良県立図書情報館が所蔵するのは「本」だが、別の方向からみれば、それは 人々の「情報」や「記憶」でもある。「本を分解していった時に、紙か電子かという テクニカルな話ではなく、長い年月をかけてつくられてきた本のかたちをたどっ てみることで、全然違う知的好奇心が刺激され、本との対話が可能になります。 そこで、今年は、図書館として改めてさまざまな切り口で本について考えるイベ ントを企画、開催しています」。 どうして図書館がこんなにイベントを開くのか。その問いに対して、一つ一つ、 乾さんは答える。開館時から続けている落語会も、本に通じるのだ。 「寄席は年 5 回開いていますが、『語られる書籍』と呼んでいます。僕が聞き書 きに注目するのは、もともとは語りや口伝え、口承で伝えられてきたものが原点 と考えるからです。それが結果として、本というかたちになっているのではない かと。物語らないと何も残りません。それは、有名な方が語ったものだけではな く、無名な人たちの語りも蓄積されて融合されることで、ある時代を表すことが ある。そういうアプローチからすれば、落語は『語られる書籍』です。そうやって 本の持っている広い裾野を体感することができればと思っています」。 図書館の枠組みを外して見えてくること
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    91コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 奈良県は国内でも有数の優れた文化財を擁する。「でも、財とは、あくまでも蓄 積されたものであり、それに触発されることがなければ、誰も物語らなくなって しまう。物語り、文化を担っていく一つの装置としての図書館というのも、あり かなと思います。単なる鑑賞から一歩踏み込むことができる施設は、他になかな かない。絵も文化財も鑑賞はできても、一歩踏み込むことは難しいです。でも、本 なら読書するだけでなく、読書を終えてからもっと奥へと分け入ることができる。 言い換えると、本はかたちとしては完結していますが、実は読むという「始まり」 でもあると思います。そのためにも、持っているリソースをどう再編集して発信 していくのか、あらゆる機会をとらえて考えなくてはいけません」。 イベントには必ずブックリストがつくというのは、述べてきた通りだが、これ も「再編集」による「発信」だ。「図書館は、求める人に求める情報を提供するとい うスタンスでずっとやってきました。それも大切なことですが、しかし、僕はむ しろ、求めない人にアプローチしたい。求めない人の中にも、求める情報はある と認識してもらいたいのです。大半の人がまだ、図書館を使っていません」 つい先日、乾さんは県の書店商業組合の講演でこんな話をしたという。どんな に売れている本でも、読んでいない人の方が多い。「だったら、Amazon が脅威と 言う前に、リアルの書店も出版社もやることがいっぱいあるんじゃないか。書店 も、もっと自分たちがやれること、リアルでしかやれないことを考える必要があ るのではないか。これは図書館も同じことなのです。出版社、書店、図書館が一つ のコミュニティをつくって、各々のもつスキルを共有しながら、読まない人、来 店しない人、利用しない人たちにアピールしませんかと」。 また、乾さんはこの 9 年間をこう振り返る。「従来の図書館という枠組みを一旦、 外してみた時に、どんなものが要素としてあるのか、またどんな可能性の地平が 開けているのかが見えてくるのではないでしょうか」。 奈良県立図書情報館 〒630-8135 奈良県奈良市大安寺西 1-1000 tel : 0742-34-2111(代表) fax : 0742-34-2777 http://www.library.pref.nara.jp/
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    92 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 東京都江戸川区。あまり知られていないが、区民の平均年齢が 42.63 歳(2014 年 1 月 1 日現在)と、23 区では中央区に次いで若く、子どもが多い区となっている。 江戸川区は「子育てに強い区」として、さまざまな施策を打ち出しており、その一 貫として 2010 年にオープンさせたのが、「江戸川区立篠崎子ども図書館」だ。ま ず注目したいのは、その立地。「篠崎子ども図書館」は、同じく江戸川区の施設で ある「子ども未来館」の 1 階にある。 この「子ども未来館」はいわゆる展示施設ではなく、子どもたちが科学や自然、 地域の歴史などを専門的または継続的に学べる施設として、実験室や工作室を完 備。半年から通年の体験型プログラムを中心に運営されている。そのプログラム に深く関わっているのが、併設されている「篠崎子ども図書館」だ。未来館のプロ グラムと図書館の活動を連携させることにより、知識を共有し、子どもたちの創 造力を育むユニークな活動が生まれているという。実際、どんなプログラムが行 われているのか。「子ども未来館」と「篠崎子ども図書館」を訪ねてみた。 4 月 20 日、子どもたちが続々と「子ども未来館」に集まってくる。すぐ近くに は江戸川河川敷にあるポニーと触れ合える「篠崎ポニーランド」があり、周囲は 家族連れが遊ぶ、のんびりとした風景が広がる。 建物 2 階にある「子ども未来館」の部屋で、小学 4 年生から 6 年生までの子ど もたちが 5 人ずつ、6 班に分かれて座る。彼らが待っているのは、「社会のしくみ 〈法律入門〉もしきみが裁判官だったら ? !」というゼミの開講だ。 このゼミは、毎月第 3 日曜日の午後に開かれ、1 年間を通して憲法や民法、刑法 について学んでいくというもの。定員 24 人のところ、それを上回る応募数があり、 急遽、定員を 30 人に拡大したという人気プログラムとなっている。 「楽しんで学んでくださいね」と「子ども未来館」の藤原達也館長が挨拶し、ゼ 江戸川区立篠崎子ども図書館 子どもたちの考える力を養う「白熱教室」開講中 「もしきみが裁判官だったら?!」と投げかける法律入門ゼミ
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    93コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 ミがスタート。最初に参加者全員でフルーツバスケットのゲームで緊張を解し、 お互い自己紹介をしていく。場が暖まったところで、いよいよメインであるぬい ぐるみによる寸劇が始まった。 舞台はたくさんのサルと数家族のウサギが暮らす「サル山共和国」。サル山小学 校の同級生であるウサギのヤスヒコとサルのトーマスは、学校で悪ふざけをして、 友だちのサルであるリサにケガをさせてしまう。それを知った先生は、ヤスヒコ とトーマスに倉庫の掃除という厳しい罰を与えた。 寸劇を進めながら、子どもたちは「なぜ先生はヤスヒコとトーマスに倉庫の掃 除をさせたのか」を考える。さらに、寸劇では交通事故を起こしてしまったゴリ ラも登場。この日は、これらの物語を通じて、「刑罰ってなんだろう?」と子ども たちに疑問を投げかけた。   「子ども未来館」「子ども図書館」エントランス風景  撮影=猪谷千香
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    94 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 このユニークなゼミの舞台裏はどうなっているのだろうか。子ども相手の人 形劇と侮ってはいけない。寸劇のシナリオを考えた講師陣には、早稲田大学の 仲道祐樹准教授や西原博史教授、東京大学の大村敦志教授など、そうそうたる法 律の専門家が参加している。他にも、江戸川区内の司法書士や行政書士、ボラン ティアなど大勢の大人たちが、このゼミの運営を支える。 大人でも理解するのが難しい法律の話を、どうやって子どもたちに伝えていく か。講師と「子ども未来館」は綿密な打ち合わせをしてきた。ただ法律の知識を伝 えるのではなく、模擬裁判やディスカッションなどの体験的な活動を交えながら 学び、自分自身で考える力を養ってもらうことが目的だ。そして、「筋の通った意 見を言えるようになること、相手の意見を聞けるようになること」に重点が置か れた。 もちろん、「篠崎子ども図書館」もこのゼミに深く関わっている。打ち合わせ段 階から司書も参加、寸劇でも活躍した。また、「六法全書」(有斐閣)をはじめ、『ぬ すまれた宝物』(評論社、1977 年)や『はじめての法教育 みんなでくらすために 必要なこと』(岩崎書店、2007 年)、『裁判のしくみ 絵事典』(PHP 研究所、2012 年) など、子ども向けに書かれた法律関係書のブックリストを配布し、実際に本を ブックトラックに並べて紹介。これらの本は、江戸川区内の図書館から取り寄せ たり、新たに購入するなどして準備する。その日のゼミが終われば、子どもたち は本を借りて帰ることもできる。 このゼミは 2012 年度に初めて実施された。24 人の子どもたちが参加し、『サル 山共和国』の寸劇は、イラスト入りの本『うさぎのヤスヒコ、憲法と出会う サル 山共和国が守るみんなの権利』(西原博史著)と『おさるのトーマス、刑法を知る  サル山共和国の事件簿』(仲道祐樹著)として、2014 年 4 月初旬に出版された(2 冊とも太郎次郎社エディタス)。 当初、出版の予定はなかったが、ゼミの面白さを知った新聞記者や編集者の後 押しがあり、「子ども未来館」のプログラムの書籍化第 1 号となった。4 月 20 日付 の朝日新聞「天声人語」でも取り上げられ、高い評価を得ている。   プロの大人たちが支える寸劇「サル山共和国」が書籍化
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    95コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 子どもたちが社会のしくみを自発的に考えるための人形寸劇  撮影=猪谷千香 「子ども未来館」の法律ゼミを書籍化したもの  撮影=猪谷千香
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    97コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 ゼミでのディスカッション風景  撮影=猪谷千香
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    98 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「子ども未来館」では 2014 年度、この「社会のしくみ〈法律入門〉もしきみが裁 判官だったら ?!」以外にも、「子どもアカデミー」と称して、数多くのゼミを開講 している。 たとえば、地学の分野に関することを実験しながら学ぶ「宇宙と地球の実験室」 や江戸川区に流れる川の生き物観察、ボート試乗などのフィールドワークも行う 「川がつなぐ!ぼくらの未来」。いずれも、大学や企業、研究機関から講師を招く 本格的なゼミだ。気象予報士の資格者など、経験豊富な「子ども未来館」の職員が 講師を務めているものも多い。今年度の前期だけで 17 のゼミが開講、ほぼ毎日 曜日に何かのゼミが開かれていることになる。 「今年度の前期に開講する 17 のゼミのうち、12 のゼミに図書館は関わってい ます」と話すのは、「篠崎子ども図書館」の吉井潤館長だ。 「2 階の子ども未来館では色々なプログラムがあり、子どもたちはさまざまな体 験をします。私たち子ども図書館では、その体験で得たものの復習や考え方を補 強するために本の紹介をしています。子どもたちが図書館で学習する場合、単純 に本を探してまとめるというのが一般的だと思いますが、ここでは子ども未来館 のプログラムと連動して、それを本で調べたり読んだりしたらどうなるかという ことが行われていて、他の図書館とは方法が違っています」。 館長以下 10 人の図書館職員全員が「子ども未来館」のプログラムに関わりを 持ち、密に打ち合わせをすることによって、全国でも例をみない学びの場をつく り出しているのだ。こうした「子ども未来館」と「篠崎子ども図書館」のあり方に、 他の自治体から多くの視察が訪れているという。 では、なぜこのような連携が可能なのだろうか。「篠崎子ども図書館」のバック グラウンドはやや特殊だ。 「図書館は社会教育施設ですので本来は教育委員会所属の施設となります。そ のため多くの自治体では教育委員会所管ですが、江戸川区においては文化共育部 が事務執行するということで教育委員会から委任を受けています。篠崎子ども図 「子ども未来館」のゼミで体験したことを「篠崎子ども図書館」の本で復習 教育委員会から離れて区長部局の文化共育部へ
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    99コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 展示を意識した図書館カウンターで子どもの心を刺激する  撮影=猪谷千香 肉食爬虫類研究所代表・富田京一さんの講演会「恐竜は生きている!」にあわせた展示  撮影=猪谷千香
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    100 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 書館は文化共育部文化課に属します。そして、子ども未来館も同じく文化共育部 健全育成課に属します。2008 年から学校教育をメインとする教育委員会から切 り離され、文化や教育、スポーツ行政というものを一体の施策としてできるよう、 区長部局に移されています」。 「篠崎子ども図書館」は開設時から、「子ども未来館」と一体の運営が設計され ていた 2008 年 2 月から 3 月にかけての区議会では、多田正見区長が今後の区政 について所信をこう表明している。 「未来を担う子どもたちの創造力を養い、子どもの可能性を広げる新たな場と して、現在の篠崎図書館の場所に 2010 年春の開設を目指し、夢のある施設を建 設してまいります。1 階を子どもライブラリー、2 階を子どもアカデミーとして、 隣接するポニーランドや中篠崎公園と一体的に整備するものであります」。 そして、それまで区長部局と教育委員会に分かれていた文化とスポーツに関す る事務が、区長部局の「文化共育部」に新設。「子ども未来館」と「篠崎子ども図書 館」は同じ部となった。「課は違いますが、文化教育部長は一人なので、話は通じ やすいです。お互い何をしているのかが分かりやすい」とそのメリットは大きい ようだ。 当然のことながら、「篠崎子ども図書館」は「子ども未来館」との連携だけでなく、 子ども図書館として独自の運営も行っている。蔵書は児童書 4 万 6,000 冊がメイ ンで、中央図書館に次ぐ冊数の児童書を所蔵している。2013 年4月からは江戸川 区立図書館全館に指定管理者制度が導入、図書館流通センターが受託している。 「子ども未来館のプログラムは基本的に小学生向けですので、図書館ではもう 少し小さな子どもをターゲットにしたおはなし会などを毎週開いています。土日 はほぼすべてプログラムが行われているので、なかなか部屋が空きませんが、月 曜日の祝日などに図書館独自のイベントを企画しています」と吉井潤館長。 昨年度は絵本作家のあべ弘士さんの講演会やぬいぐるみのお泊まり会、人形劇 などが実施された。おはなし会は 116 回実施して 3,184 人の参加、工作会は 20 回 実施して 469 人参加と実績を積んでいる。今年度も、肉食爬虫類研究所の富田京一 さんの講演会を開催するなど、子どもたちが楽しみながら学べるイベントを企画 「篠崎子ども図書館」独自のイベントや講座も
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    101コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 中だ。 「夏休みになると自由研究のために子どもたちが来ます。子ども未来館のプロ グラムは自然科学や工作が多いので、図書館では文系のテーマを選んでお互いか ぶらないように、単発の講座をほぼ連日行っています」。 2 つの施設が連携してつくる、子どもたちの学びの場。今年度からは「ゼミを終 了したが、さらに学びたい」という子どもたちの声に応え、土曜日午後に月 1 回 の「アカデミー研究室」をスタートさせた。子ども自身が興味を持ったことや疑 問に感じたことについて、自分で計画を立てて研究していくことをサポートする 目的だという。 吉井館長に、ここを訪れる子どもたちに変化はあったのか聞いてみた。「細かく 分析する方法はないのですが、ここに来ている子たちは、物語よりは図鑑など学 習に直結するような本を借りて行くことが多いですね」。 開館から 4 年。徐々に「子ども未来館」と「篠崎子ども図書館」が播いた種が芽 吹き始めているようだった。 江戸川区立篠崎子ども図書館 〒133-0061 東京都江戸川区篠崎町 3-12-10(篠崎ポニーランド隣) tel : 03-5664-2011 fax : 03-5243-6811 https://www.library.city.edogawa.tokyo.jp/toshow/child/index.html
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    102 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 船橋まるごと図書館プロジェクト 千葉県船橋市の民間図書館で、夜な夜な開かれる「大学」 公立図書館だけが、公共図書館ではない。千葉県船橋市でいま、運営は NPO 法人、蔵書は寄贈、スタッフはボランティアという民間図書館が急増している。 2006 年 5 月にオープンした、船橋駅前にある商業ビル「FACE」にある「ふなばし 駅前図書館」。ビルの 2 階フロアの一角に 500 冊ほどの本が並ぶ小振りな図書館 だが、通勤や通学、買い物途中の人たちがひっきりなしに立ち寄り、本を借りて 行く。船橋市内にこうした民間図書館を 30 館つくってしまおうというのが、「船 橋まるごと図書館プロジェクト」だ。船橋市外を含めれば、これまでに 25 館もの 図書館を開設してきた。 このプロジェクトを手がけているのが、NPO 法人「情報ステーション」。代表 理事の岡直樹さんたちが「地域での交流」をテーマに、町づくりを目的として立 ち上げた。順調に図書館数を増やす中、2014 年 3 月から本格的にスタートしたの が、生涯学習コミュニティ「船橋みらい大学」だ。さまざまな分野の人を講師と して招き、定期的に勉強会を開いている。地域に根ざした民間図書館は、どのよ うに学びの場として機能しているのだろうか? まず、「船橋まるごと図書館プロジェクト」の成り立ちから紹介しよう。船橋 生まれ、船橋育ちの岡さんは、自分の町を良くしたいという思いから、学生だっ た 2004 年に高校時代の友人たちと NPO 法人「情報ステーション」を立ち上げた。 最初は情報サイトを開設し、地元でフリーマーケットなどを企画した。しかし、 一過性のイベントより、もっと日常的に人が集まれる場をつくれないかと、継続 性のある事業を展開したいと考えた。 同じ頃、駅前ビルの「FACE」は、2 階フロアスペースの活用方法について苦慮し ていた。岡さんがその相談を受けて、思いついたのは「図書館」だった。岡さんは 当時、早稲田大学理工学部の大学生で、船橋から都内のキャンパスへ通っていたが、 地域の交流の場としてスタートした民間図書館
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    103コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 講義を終えて地元へ戻ってくると、船橋市立図書館は閉館時間になっていて本を借 りられない日々が続いた。「自分にとって便利な図書館がほしい」と考えたのだ。 しかし、蔵書を買う予算はない。岡さんは連日、FACE のスペースに座り、蔵書 の寄贈を訴えたところ、少しずつ集まるようになり、「ふなばし駅前図書館」を無 事に開設することができた。 この小さな図書館を訪れたことがある人ならご存知だとは思うが、決してのん びり滞在できるような場所にはない。目の前は、電車の乗降客が途切れることな く行き交う通路になっている。しかし、通学、通勤の途中で立ち寄る人だけでな く、買い物に来た地元の人たちも本を借りていくようになった。しかも、本の貸 し借りだけではなく、いつしか利用者同士や図書館ボランティアの人たちとの間 に交流が生まれ始める。 「船橋みらい大学」は、さまざまなテーマのもと、誰もが講師に、誰もが生徒になれる市民大学  撮影=猪谷千香
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    104 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 図書館がコミュニティの場としての役割を果たせることが分かった岡さんは、 「船橋まるごと図書館プロジェクト」を立ち上げ、市内に30館の開設を目標とした。 なぜ 30 館かというと、大体、市立中学校の数と同じで、「頑張れば歩いて行ける 距離」に図書館を一つずつ、つくりたいという思いからだ。図書館が設置される 場所はさまざまだ。今までに、酒類の小売店や親子カフェ、高齢者施設、マンショ ンの共用施設などで図書館が誕生してきた。 「僕らは地域活性のために民間図書館を運営しています。そこは皆さんの交流 の拠点となり、誇りや愛情を育むコミュニティとなります。図書館は開かれたコ ミュニティです。僕らが運営する図書館の蔵書は、その全てが寄贈いただいた書 籍です。日々の運営は、多くのボランティアの方によって支えられています。ま た、この図書館の利用にあたっては、簡単な会員登録で誰もが無料で利用するこ とができます。これらのサービスを無償で提供するために、おもに広告主として 事業を支えてくださる企業の方がいます。本の寄贈・ボランティア・利用者・支 援者。その全てにおいて制限するものは何もなく、誰もが参加することができる 公共空間なのです」。 「僕らはそんな小さな図書館をたくさんつくりたいと思っています。本を借り たり、世間話をしたり、ボランティアをしたりと毎日ついつい寄りたくなるよう な、家でも会社でもない居場所として、いずれは誰もが家から歩いていけるぐら いの距離に図書館がある街をつくっていきたいと思っています」。 NPO 法人「情報ステーション」のサイトには、その目的がこう書かれている。 図書館によっては飲食も可能。夜まで開いているところもあり、地域の人は気軽 に立ち寄り、本を囲んで語り合う。緩やかなコミュニティの場として、地域に浸 透している。   NPO 法人「情報ステーション」が運営する図書館は、商店街の空き店舗であれ ば商店街振興組合、高齢者施設であれば運営会社、マンションであれば管理組合 からの運営費によって賄われている。さらに、会社でいえば「株主」にあたる「正 歩いて行ける距離に「小さな図書館」をつくる 図書館閉館の危機を救うためにネーミングライツの募集
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    105コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 会員」(個人の場合は 1 口 1,000 円/月、法人の場合は 1 口 10,000 円/月)を募集 し、寄付を募るなど徐々に軌道に乗りつつあるが、NPO 法人としては厳しい経営 状態が続いている。 そこで起こったのが「船橋まるごと図書館プロジェクト」で開館した図書館 25 館の一つ、「船橋北口図書館」の閉館危機だった。JR 船橋駅から徒歩 5 分、ビルの 1 階にある「船橋北口図書館」は、2008 年 9 月に開館した。図書の貸出以外にも、 「ビブリオバトル」や絵本の読み聞かせ会をはじめ、夜にお酒を飲みながら語り合 う「図書館 BAR」、男性向けの「図書館メンズヨガ」、編み物をする「ニットカフェ」 など、ユニークなイベントを開催、利用者やボランティアの人たちが集い、やり たいことや思ったことを実現できる場として、活用されてきた。 しかし東日本大震災以降、スポンサー企業の寄付が減少、光熱費や通信費など 経費の負担も重く、2014 年に入って図書館の継続が難しくなってしまった。コ ミュニティの場としてすでに定着している図書館でもあり、なんとか継続できな いか。最後のあがきとして、岡さんたちが挑んだのが、「ネーミングライツ(命名 権)の募集」だ。ネーミングライツの募集は、これまで多くの公共施設で利用され てきた手法でもある。 2 月 1 日からヤフーオークションで、150 万円の価格からネーミングライツを 出品。図書館のネーミングライツは、地元紙でも紹介され注目を集めたが、入札 には至らなかった。そこで、再チャレンジしたのが、「クラウドファンディング」 だった。「クラウドファンディング」とは、ネット上で支援を募る方法。今回は 「READYFOR?」というクラウドファンディングのサイトで、「民間図書館らしい 企画を生み続けた船橋北口図書館を助けて下さい!」というタイトルで寄付を募 集した。 「寄贈本とボランティアでつくるこの図書館が増えれば、社会に出たばかりの 若者も、社会に出て働きたいけど、ちょっと気後れする、でも社会とはつながっ ていたいと思う人も、子育て中のお母さんも、家にこもりがちな専業主婦も、会 社と家の往復が日課のサラリーマンも、定年退職をしてお金も時間を余っていて パチンコばかりして奥さんに怒られているシニア層も、学生時代に学んだことや 15日間で164万円が全国から集まる
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    106 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「VZONE津田沼図書館」は、JR津田沼駅前にあるパチンコ店にある  写真提供(見開きとも)=NPO法人情報ステーション 「VZONE津田沼図書館」エントランス
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    107コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「ここち西船橋図書館」は住宅型有料老人ホーム「ここち西船橋」の中にある 「ここち西船橋図書館」館内。ホーム入居の人の他、近隣の人など、無料で誰でも利用できる
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    108 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 特技をいかしたいと思っている人も、すべての人にとっての居場所となりえ、ま た誰もがボランティアとして地域社会での活躍の場を得る事ができます!」。 岡さんたちは、クラウドファンディングのプロジェクトでこう訴えた。支援額 は、最も手軽なもので 1,000 円。そして、ネーミングライツのプレゼントをして もらえる 100 万円と 120 万円の口も用意した。目標金額は 150 万円で、15 日間と いう期間以内に目標金額に達成しない場合は、プロジェクトは不成立になるとい うのがルールだ。 ネーミングライツを求める人がなかなか現れず、不成立になるかと思われた募 集期間が終わる前日、ネーミングライツを購入したいという人が出現、最終的に 164 万 4,000 円の支援が集まった。 「うちを応援したいという人なんて来るのかしらと思いましたが、多くの方か らご支援いただけました。ネーミングライツを購入していただいたのは、遠方の 方でした。僕たちの図書館にいらしたことがなくても、潜在的に僕たちの活動を 応援してくださる全国の方々と会うことができて、本当に嬉しかったです」と岡 さんは振り返る。 図書館は誰でも使える公共の施設であり、それだけに期待も大きい。船橋市を 拠点とする NPO による民間図書館の活動に、地域を超えた多くの人たちが賛同 した証左だろう。    しかし、クラウドファンディングによる支援は一時的なものだ。長期的に安定 した運営を続けるための一つの取り組みとして、2014 年 3 月からスタートさせ たのが「船橋みらい大学」である。気軽な「コミュニケーションの場としての図書 館」から一歩進め、「生涯学習の場」として講座を開いている。講座一つにつき参 加費は 1,000 円で、図書館の運営費となる。 「誰もが講師に、誰もが生徒になる事ができる市民大学として、市民みんなが主 役の社会教育コミュニティを目指します」として、「講義の様子を写真・文章・動 画など様々な形で残し、伝えていく事で『いまをみらいに』つなげ、船橋の文化・ 経済に多少なりとも寄与できればと願っています」とその目的を掲げる「船橋み らい大学」。これまでに、古書を扱う「株式会社バリューブックス」の廣瀬聡さん 誰もが講師になり、生徒になれる「市民大学」
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    109コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「酒どっとコム前原図書館」は、酒類小売店の中に誕生。お酒の棚とともに本棚が置かれている 写真提供=NPO法人情報ステーション 情報ステーションの読書アドバイザーが出向して開催した、スターバックスイオンモール船橋店での「読み聞かせ」風景 写真提供=NPO法人情報ステーション
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    110 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 がデジタル時代の古書ビジネスについて語った講座や、元・在南スーダン大使館 二等書記官の石川亮さんによる南スーダンの講座の他、『走れ!移動図書館』(ち くまプリマー新書、2014 年)の著者で「シャンティ国際ボランティア会」の鎌倉 幸子さんが復興支援について話す講座などを開催している。5 月中だけでも、7 つ もの講座が開かれた。 民間図書館が仕掛ける生涯学習の場とは、どのようなものか。4 月 27 日夜に開 催された岡さんによる「NPO 法人∼制度と経営∼」の講座を聞きに、「船橋北口 図書館」を訪ねてみた。岡さんが 2004 年に法人格を取得して今年で 10 年目。そ の経験から、NPO 法人の制度と経営について話すという。 この日は、就労支援施設や公立図書館で働いている人など、NPO 法人の運営や 図書館事業について興味を持つ人たち約 10 人が参加していた。岡さんは、株式 会社と NPO 法人の相違点を分かりやすく解説し、資金調達の方法や制度の課題 なども具体的に説明。「情報ステーション」が NPO 法人として活動することの意 義について、こう語った。 「いま、ボランティアをしたいという人の行き場がない。これから 10 年後の日 本が抱えるのは、団塊世代の厚い層です。毎日会社に行っていたのに、65 歳で退 職して急に行き場所がなくなる。そういった人たちが、自分たちが暮らしている 家の近所で参加できるボランティア活動は、日本社会にとって大事ではないかと 思います。それから、公共サービスと呼ばれるものの中で、果たして行政がすべ てやらなければいけないのかというところがあります。社会保障費がどんどん上 がる一方、さらに質の良いサービスが求められる。ボランティアの受け皿と、『行 政ではない公共』が NPO 制度の中で求められているところじゃないかなと思い、 これを基軸に経営をしています」。    なぜ、「船橋みらい大学」を始めたのか、もう少し岡さんにその理由を訊ねてみ た。 「きっかけは、図書館の利用者の方たちが、顔見知りにはなるものの、そこから なかなか先に進めなかったことです。利用者の方たちが一歩踏み込んでもらえる ものをと考えました。行政でやっている市民大学が定員を超えて、抽選になるぐ 船橋市立図書館とも連携し、新たな「公共図書館」へ
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    111コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 らい人気がある。でも、半年や 1 年という長期なので、もっと気軽に単発で参加 できる市民大学を図書館という箱でやりたいと。スタートにあたって、コンセプ トとしては『誰でも参加できる』は、もう図書館で実現できていたので、『誰でも 講師になれる』にしよう思いました。そして、ここで話してもらったことをアー カイブもしていきたいです」。 当面は月 10 回から 15 回の開催を目指し、いずれは毎日開催できるようになる のが目標だ。現在は、「船橋北口図書館」で開かれているが、他の図書館にも広げ たいとする。 「最終的には、その辺を歩いているおじさんを捕まえて、自分の生涯を語っても らうぐらいにしたい」と岡さんは笑う。「自分にとって当たり前でも、他の人から 聞くと面白いことってたくさんあるので、そういうところを拾いたい。『今を未 来に』というのが、キャッチコピーなんですが、この場でしゃべってもらうこと で、未来につないでいく。公共図書館本来が持つアーカイブ機能に近いです。た とえば、船橋にずっと住んでいて、戦争を経験している人たちから話を聞けるの は、長くはありません。そういう記憶を残したい」。 地域のコミュニティに深く根ざす「情報ステーション」の民間図書館。この秋 からは、「情報ステーション」が運営する民間図書館に、船橋市立図書館の返却ポ ストを設置、船橋市立図書館で借りられた本が返せるという連携も予定されてい る。「船橋みらい大学」も加わることで、さらに新たな公共図書館として、活動の 幅が広がっている。 NPO 法人情報ステーション 〒273-0005 千葉県船橋市本町 1-3-1 船橋 FACE tel : 047-419-4377 fax : 047-767-8313 http://www.infosta.org/
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    112 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 本好きが集まり、本と人、人と人が出会う場となっている町がある。かつては 文豪、森鴎外や夏目漱石が暮らし、現在も作家や編集者が数多く住む東京の谷中、 根津、千駄木界隈。通称「谷根千」と呼ばれるこの一帯は、新刊書店「往来堂書店」 や古書店「古書ほうろう」など全国的に知られる個性派書店やブックカフェが点 在、知る人ぞ知る「本の町」なのだ。谷根千付近を走る不忍通りにちなみ、その名 も「不忍ブックストリート」という。 この「不忍ブックストリート」が最も活気づくのが、毎年ゴールデンウィーク 中に開催されている「一箱古本市」だ。書店やカフェなどの軒先に、参加者が一箱 だけ好きな本を詰めて、“古本屋”を開く。2014 年は 4 月 27 日に 56 箱、5 月 3 日 に 44 箱の合計 100 箱が出店され、本好きの人たちが町にあふれた。 2005 年から始まったこの「一箱古本市」は現在、全国へ広がっている。名古屋 や博多などの政令指定都市をはじめ、これまでに 80ヶ所以上で開催されている とのこと。中には、長野県小布施町の「まちとしょテラソ」のように図書館が中 心となって企画されたものもある。本によるネットワークがどのように拡散し、 「場」を形成しているのか。10 周年を迎えた「不忍ブックストリート」を訪ねてみ た。 絶好のお散歩日和となった 4 月 27 日。千駄木駅からほど近い「特別擁護老人 ホーム谷中」まで歩くと、前庭に箱がいくつも並んでいた。「いらっしゃいませ」 「お手に取ってみてください」という箱の店主たちの声に誘われて箱を覗くと、数 十冊の本が詰まっている。屋号もそれぞれ個性的。中には安部公房の本だけを並 べたという、こだわりの店主もいた。 さらに「往来堂書店」へも足を伸ばしてみた。古本だけなく、自ら作成した本を 販売する店主も。ディスプレーに凝った箱も目立つ。往来堂書店オリジナルのトー 不忍ブックストリートの「一箱古本市」 本による地域のネットワークが全国に拡散 一箱古本市のスタンプラリーで町を回遊
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    113コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 店主は思い思い屋号をつけ、本を入れる箱を飾り付ける  撮影=猪谷千香 手書きの屋号が印象的だ  撮影=猪谷千香
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    114 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 トバッグも店頭に並び、さっそく買って入手したばかりの古本を入れる人もいた。 箱を見ている人たちが手にしているのは、スタンプラリーの用紙だ。箱を出店 させてもらう場所は「大家」と呼ばれる。前述の「特別擁護老人ホーム谷中」や「往 来堂書店」もその一つ。この他、古書店やカフェ、ギャラリーなど、開催の 2 日間 で 25 ヶ所の「大家」が場所を提供。「一箱古本市」を回っている人たちは、「大家」 でお茶をしたり、展示を見たりして楽しめるようになっている。万が一、雨天の 場合でも雨がしのげるのが好評だ。 この「大家」すべてを回ってスタンプを集めると、実行委員会からプレゼント がもらえることもあり、訪れた人たちは、思い思いに町を回遊していた。 「単純に野外で古本市をやってみたいという気持ちがありました。それも、プロ の古書店ではなく、素人が古本を売ると面白いんじゃないかと。素人はプロのよ うに大量の本は用意できませんが、一人一箱だけ、自分の好きな本を選んで出す のであればやりやすいのではないかと思いました」。 そう振り返るのは、「一箱古本市」の実行委員会代表で、「不忍ブックストリー ト」と「一箱古本市」を発案した南陀楼綾繁さん。谷根千在住の編集者で、『一箱古 本市の歩きかた』(光文社新書、2009 年)の著者でもある。古書に造詣が深く、京 都の神社などで開かれている古本市を東京でもできないかと考えたのがきっかけ だった。 「一箱古本市」を訪れていた人たちは、スタンプラリーの用紙だけでなく、地図 を持って歩いていた。この地図こそ、「不忍ブックストリート」のマップだ。 南陀楼さんには、古本市以外にもう一つアイデアがあった。谷根千の街歩きを するためのマップをつくること。当時から、谷根千は観光スポットではあったも のの、熟年以上の人が散策に使用する「渋い地図」しかなかった。しかし、谷根千 にも「若い世代の感性による多種多様なカフェやギャラリーなどのお店が増えて きていました」と南陀楼さん。古い建物をリノベーションして店舗にしたり、有 数の本の町である東京・神保町には敵わないまでも、個性的な書店もあった。 「ただ、そうしたお店は点としてしか認識されていなくて、お目当てのお店へ 行ってそのまま帰ってしまうパターンが多かった」という。たとえば、「往来堂書 点在する書店やブックカフェをつなぐ地図
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    115コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 「不忍ブックストリート」のマップを手にした南陀楼綾繁さん  撮影=猪谷千香 「不忍ブックストリート」のマップは、楽しく町を回遊するためのツールだ  撮影=猪谷千香
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    116 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 店」と「古書ほうろう」をはしごして、ギャラリーを覗き、ブックカフェでコーヒー を飲んで帰る。本を中心にして町を回遊してもらう。「そのための地図をつくった ら面白いんじゃないか」と思ったのだ。これが、「不忍ブックストリート」の地図 の原型となった。 2004 年末、南陀楼さんがこれらのアイデアを「往来堂書店」や「古書ほうろう」 など地元の書店や、地元誌の編集部のメンバーに相談すると、賛同してくれた。 翌 2005 年にマップを作成、ゴールデンウィークには「一箱古本市」を開くことも 目指して、活動をスタート。そうして、「本と散歩が似合う街」とうたったマップ が完成した。 書店、図書館などは「本マーク」で示し、お洒落なカフェや雑貨店など約 100 店 を掲載。2 万部を地図上にある店舗や都内の書店、ブックカフェなどで無料配布 してもらった。 「非常に好評で、手応えがありました。実際にこの地図を持って歩いている人 をたくさん見かけました」。以来、内容は毎年刷新され、部数も伸びて今年は 4 万 部が印刷された。谷根千の店舗をはじめ都内だけで 200ヶ所ほどで配布。この他、 地方 50ヶ所にも送っている。印刷費はマップに掲載する広告でまかなっている が、年々枠も増えて谷根千になくてはならない地図となった。 「不忍ブックストリートという言い方も、こちらの勝手な願望です。神保町のよ うに本屋さんが特に多いわけではない。でも、図書館や書店だけではなく、お店 の中にも本はある。町中に本がある空間があればいいなと思って、そういう名前 にしました。実際、やっているうちに、根津に古書とギャラリーを兼ねた『タナカ ホンヤ』ができたり、ブックカフェができたりしています。谷根千に本の好きな 方が来る機会は確実に増えました」。 こうして 10 年かけて築いてきた地域の人たちとのつながりを、南陀楼さんは 2014 年 4 月に『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE 出版)として出版している。 「不忍ブックストリート」に集まる本好きな人々
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    117コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 オリジナルのトートバッグを販売する「往来堂書店」の店先  撮影=猪谷千香
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    118 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 2005 年 4 月に開かれた最初の「一箱古本市」には、75 箱がそろって出店。予想 を超える反響を呼んだ。「最初はプロの古本屋とか古本マニアの人が出店するの かなと思っていましたが、そういう人ではなく、読んだ本のことをブログで書い ている人や大学生、本が好きな若い夫婦だったり。どういう屋号をつけるか、ど んな本を売るか、すごく力を入れてくれる人が多かった。高じて、本当に古本屋 になってしまった人もいます」。 試行錯誤を経て、2014 年のゴールデンウィークで 16 回目の開催になった。そ れと同時に、谷根千で始まった「一箱古本市」は、全国へも広がっている。これま で札幌、仙台、福岡、名古屋、仙台、長野をはじめ、東日本大震災の被災地、宮城 県石巻市でも開かれた。南陀楼さんによると、小さなものも含めれば少なくとも 80ヶ所で開催されているという。 場所と箱と本があれば、誰でも手軽に本屋さんになれる。参加した人がネット で発信、さらに新しい参加者を呼ぶ。参加者同志がつながって、別の場所で一箱 古本市を開く。本と人、人と人がつながって、一箱古本市は各地で人気イベント となっているのだ。 「それまではプロが中心のものだった本のイベントを、誰でも参加することが できるようにした最初のものだった」と南陀楼さん。書店や図書館で本に関する イベントは多いが、素人である読者が参加できるイベントはほとんどなかったの だ。 「一箱古本市は好きな人はいるだろうと予測していましたが、路地が多い谷根 千で、町歩きとセットで企画したイベントなので、ここ特有の地域イベントだと 思っていました。その後、福岡や名古屋、仙台で一箱古本市が開かれると聞いて 見に行ったら、商店街の両側に箱を並べていたり、古い商店街のアーケードを利 用していたり。方法は谷根千と違うけれども、その場所の特性に合っていて、面 白いなと思います」。 「一箱古本市」という言葉は、特に商標登録されているわけではない。「僕たち が知らない場所で開かれている時もあります。ただ、うちのサイトには一応、『開 催する時は連絡ください』と書いてありますので、企画する時にはご相談いただ けるとうれしいです。つながることで、より楽しいものができるかもしれない。 また、『一人が段ボール一つ分の古本を販売する』というコンセプトがあるので、 「一箱古本市」を支える人々
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    119コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 それを守ってやるのが面白い。最近、読者が参加できるイベントとして『ビブリ オバトル』がありますが、これも守らないといけないルールがあるのと同じで す」。   10 周年を迎える谷根千の「一箱古本市」を支えてきたのは、南陀楼さんをはじ めとする実行委員会の 15 人。それから、「助っ人」と呼ばれるボランティアの人 たちだ。今年は実に 75 人もの助っ人が「一箱古本市」に携わっている。 「一箱古本市は、助っ人さんたちがキーだと思っています。店主さんは本を売る ことを目的に参加している。大家さんは無償ですけれど、一箱古本市に来たお客 さんが入店してくれるというメリットがある。お客さんは、好きな本を探しなが ら散歩できる。でも、助っ人さんは目に見えるメリットがない。大家さんでスタ 千駄木にある出版社「羽鳥書店」は、一箱古本市に合わせて「羽鳥書店ギャラリー」を開催する  撮影=猪谷千香  全国の人気イベントになった「一箱古本市」
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    120 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 ンプ押したり、地図を配布したり。交通費も自腹なのに、6 割ぐらいの方が他の地 域から手伝いに来てくださっています」。 一体、どうして助っ人をしてくれるのか、南陀楼さんは尋ねたことがある。「そ れが楽しいんです」というのが、助っ人をしてくれる人たちの返答だったという。 「職場や学校で、本の話をする機会がない。大学生にいたっては、本の話をすると 変わった人みたいに思われる。でも、一箱古本市だったら、若い人と 70 代のおじ いさんが江戸川乱歩の話なんかを普通にしています」。 年齢や職業を選ばずにできる本を媒介としたコミュニケーションが、一箱古本 市の魅力なのだ。「中には、ネットで一箱古本市のことを知り、手伝いたいと言っ てきた中国人留学生の 17 歳の女の子もいます」。 そして、「不忍ブックストリート」は進化を続けている。谷根千では、今年 4 月 19 日から 5 月 6 日までの 18 日間、「不忍ブックストリート week2014」と称して、 町のあちらこちらでさまざまなイベントが開催された。 千駄木にある出版社「羽鳥書店」では 4 月 27 日に、一日だけ事務所をギャラリー として開放し、写真展を開催。5 月 4 日には、「台湾で本を売ること、作ること」と して、台北で書店と出版社を営む陳炳 さんをゲストに、台湾の本事情をテーマ にしたトークイベントが開かれた。 また、全国で「一箱古本市」をはじめとするブックイベントが盛んになってい ることから、その主催者を招いた「全国ブックイベント・シンポジウム」が 4 月 26 日に開催された。岩手県や宮城県石巻市、新潟県、徳島県でブックイベントを 手がけている人たちが参加。本を通じた地域活性化や交流の場をどのようにつ くっていくかが話し合われた。 そこで気になるのは、「一箱古本市」と地元図書館の連携だ。谷根千にも地域の 公立図書館はあるが、あまり協力は得られていなかった。「指定管理者制度が良い ブックイベントをテーマにシンポジウムも 「一箱古本市」と図書館の連携は?
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    121コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 か悪いかは別にして」と前置きしながら、南陀楼さんは「地域の図書館に指定管 理者制度が導入されてから、ユーザー目線になって、『不忍ブックストリートの地 図を置きたい』と言ってくれるところがあります。一箱古本市にも、図書館で働 く方が個人的に参加してくれることはよくあります」と話す。 図書館が「一箱古本市」を企画するケースも少なくない。長野県小布施町の「お ぶせまちとしょテラソ」では、図書館が中心となって定期的に「一箱古本市」を開 いてきた(今年は開催されないと告知されている)。愛知県田原市図書館や鹿児島 県指宿市図書館、福岡県春日市民図書館でも「一箱古本市」は企画されている。「秋 田で開催された一箱古本市では、別の日に図書館の見学会が開かれたとも聞いて います。地域に根ざした活動をして、つながりがある地方の図書館の方が、一箱 古本市との親和性が高いのかもしれません」。 そして、南陀楼さんには新たなアイデアがある。 「子ども一箱古本市です。子どもが店主になるとすごく張り切ってくれます。3 時間ぐらいしか保ちませんが(笑)。子どもと本の関わりというと、読み聞かせに いきがちですが、それだけではつまらないと思っています。一箱古本市を学校や 図書館でも開けばいい。その中で、1 円でも 5 円でもお金のやりとりをすること はすごく大事です。自分で価値判断をすることを小さいうちから学べますし、本 との関わり方が深くなります」。 地域の図書館が学びやコミュニケーションの拠点として、さらに活動の幅を広 げるためのヒントが、「不忍ブックストリート」には詰まっているのだ。 不忍ブックストリート 不忍ブックストリートに関するお問合せは shinobazu@yanesen.org 助っ人さんのお申し出・お問合せは suketto@yanesen.org http://sbs.yanesen.org/
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    122 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 放課後、近隣の子どもたちが続々と集まってくる図書館がある。2011 年にオー プンした東京都武蔵野市の「武蔵野プレイス」だ。図書館を中心とした複合機能 施設で、武蔵境駅から徒歩 1 分という好立地に加え、カフェやギャラリーを併設 したり、館内は無線 LAN が飛び交っていたりと、「図書館」のイメージはことご とく覆される。白く丸いフォルムが特徴のおしゃれな建築も評判を呼び、武蔵野 市のみならず市外からも大勢の人が訪れる人気スポットになっている。 「武蔵野プレイス」には、「図書館機能」以外に「市民活動支援機能」「生涯学習支 援機能」、そして「青少年活動支援」という 3 つの機能が備わっている。まず、「図 書館」は地下 2 階から地上 2 階までにまたがり、4 層をブラウジングしながら回 遊する構造になっている。 「市民活動支援」は、3 階「ワークラウンジ」にあり、地元の NPO などの市民団 体が活動できるよう、ミーティングスペースや資料などを印刷できる工房、市民 団体の紹介がまとめられているファイルが置かれたコーナーなどが備えられてい る。「生涯学習支援」は、3 階から 4 階にその機能があり、生涯学習の窓口やさま ざまなワークショップが開けるフォーラムがある。 その一つが、3 階に事務局がある「武蔵野地域自由大学」の取り組みだ。武蔵野 市と武蔵野地域の 5 つの大学が連携し、「高度で継続的、体系的な生涯学習の機会 を提供する学習空間(仮想大学)」とうたっている。自由大学では独自のキャンパ スはないものの、5 大学のキャンパスや武蔵野市全域を学習スペースとしている。 地元の大学や文化人と市民をつなぐ生涯学習の窓口として「武蔵野プレイス」は 活用されているのだ。  しかし、最も特徴的なのは、地下 2 階の「ティーンズスタジオ」だろう。このフ ロアを訪れる人を迎えてくれる貼り紙には、「一般の方は利用することができま せん」とあり、20 歳以上の大人の利用はできないことがわかる。つまり、子ども たちだけが使えるスペースが確保されているのだ。ここが、武蔵野市の青少年支 援機能の拠点となっている。 正確には、平日 14 時 30 分以降の時間帯と、土日祝日や学校の夏休み期間など 武蔵野プレイス 放課後、子どもたちで満員御礼の図書館
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    123コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 の終日が子どもたち専用になる。小学生以下は 17 時までだが、それ以上の子ど もたちは 22 時まで利用することができ、最寄り駅が路線乗り換えにも使われて いることから、放課後には続々と近隣の子どもたちが集まってくる。 フロア中央にはグループでも学習できるよう机が配置され、そのスペースを取 り囲むようにサウンドスタジオ、パフォーマンススタジオ、オープンスタジオ、 クラフトスタジオが並ぶ。これらのスタジオでは、ダンスやバンド演奏をはじめ、 ボルダリングまでできる。もちろん、同じフロアには「図書館」もあり、そのスペー スの半分は、アニメ雑誌やファッション誌、受験雑誌など、小中高生向けのライ ブラリーとなっている。 武蔵野プレイス 〒180-0023 東京都武蔵野市境南町 2-3-18 tel : 0422-30-1905 http://www.musashino.or.jp/place.html kw+hgアーキテクツの比嘉武彦氏による設計は、滞在時間が長くても疲れないようにデザインされている  撮影=猪谷千香
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    125コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 数十個の「ルーム」の集合体から成る「武蔵野プレイス」内館風景  撮影=岡本真
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    126 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 岩手県紫波町は人口約 3万 4,000人、うち 4分の 1にあたる約 8,500人が農家で、 食糧自給率は 170%にもなる。そんな紫波町の初の図書館として 2012 年 8 月、紫 波町図書館は誕生した。 紫波町図書館の立地は少しユニークだ。紫波町が JR 紫波中央駅前の都市整備 事業として立ち上げた「オガールプロジェクト」の重要施設の一つとしてオープ ンした「オガールプラザ」内にある。「オガールプラザ」は公民連携の手法を用い た官民複合施設。3 棟にわかれており、中央棟は図書館など町の公共施設、東西棟 には民間のテナントが入居する。 紫波町図書館は運営方針のひとつに「紫波町の産業支援をする」ことを掲げ、 この複合施設で紫波町の産業基盤である農業の支援を展開している。 農業支援では関連資料の収集はもちろん、農薬情報などの最新版が分かるデー タベース「ルーラル電子図書館」の講習会を開催。専門的な質問にも対応できる よう、農山漁村文化協会から講師を招き、その使い方などを説明している。 初回は、生産者の参加はわずかだったが、2 回目には農業の企画展示と連動さ せたり、口コミで広まったりするなどして、生産者の参加も増え、3 回目開催の要 望も出て実施され、図書館と生産者がつながり始めている。 「オガールプラザ」内にある県内最大級の産直ショップ「紫波マルシェ」とも連 携し、季節の野菜やフルーツの図書館所蔵の料理本を紹介する POP を設置して いる。マルシェの来場者に、料理への興味を通じて紫波町の農産物の魅力を知っ てもらったり、図書館には暮らしの情報があることなどを知ってもらうためだ。 図書館でのイベントとして、「こんびりカフェ」も開かれている。「こんびり」と は、紫波の方言で、農作業の合間に小腹を満たすために軽いものを食べる「小昼 (こびる)」という習慣。「こんびりカフェ」では、「こんびり」のように、仕事や団 体の垣根を越えて集まり、気軽に話し合う場を設けている。 また、最近の新しい企画として「夜のとしょかん」がスタート。開館時間にな かなか来られない社会人にも足を運んでもらおうと、閉館後に飲みものを持ち込 み、ゲストスピーカーと語り合うイベントだ。2014 年 5 月 29 日に 1 回目が開催、 紫波町図書館 町民の「知りたい」「学びたい」「遊びたい」に応える図書館
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    127コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 岩手県農薬アドバイザーとして活動する「しわ・まち・コーディネット」の河野 和広さんが、「知って得するめっちゃ面白い農の話」をテーマに話した。定員を大 きく上回る 65 人が参加。好評を得ている。 紫波町は 1985 年以降、年少人口の減少と老年人口の増加が続いていた。2013 年末の高齢化率は 25.6%。50 代から 60 代の世代が多く、今後も高齢化にともな う生産人口のマイナスは、自治体の財政的な危機を招きかねないと指摘される。 財政危機はさらなる住民離れを起こすというスパイラルも予想された。 しかし、独自の農業支援によって注目を集める紫波町図書館は今後、紫波町の 新たなコミュニティの場、学びの場となり、紫波町の課題解決にひと役買うかも しれない。そんな期待を抱かせる新しい図書館だ。 「夜のとしょかん」実施風景  写真提供=紫波町図書館 紫波町図書館 〒028-3318 岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前 2-3-3オガールプラザ中央棟情報交流館内 tel : 019-671-3746 fax: 019-672-3618 http://lib.town.shiwa.iwate.jp/index.html
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    128 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「すべての本棚を図書館に」をコンセプトに掲げるサービス「リブライズ」。街 の中に点在するカフェやコワーキングスペース、お寺などコミュニティスペース に置かれている本棚をサイトで管理して、気軽に本の貸し借りができるようにす るサービスだ。2012 年 9 月にスタート。現在は 17 万冊を超える本が登録、管理 され、本棚が登録されている場所は「ブックスポット」と呼ばれる。「リブライズ」 の使い方は簡単だ。 たとえば、「本棚のあるカフェ」が、本棚の本をお客さんに貸出したいとしよう。 カフェではパソコンとバーコードリーダーを準備して、「リブライズ」のサイトに ログイン、自身がオーナーの Facebook ページを選んでブックスポットを開設す る。あとは、本の裏表紙にある ISBN バーコードをバーコードリーダーでひたす ら読み取れば、自動的に書誌情報が登録される仕組み。カフェで本を借りたい人 は、スマートフォンにリブライズの貸出カードを表示して、その本の ISBN コー ドとともにバーコードリーダーで読み込んでもらう。これで貸出は完了。誰がど のような本を借りたか、Facebook で自動的に共有される。 「リブライズ」は、千葉県船橋市の NPO 法人「情報ステーション」(P102 参照) とも連携。「情報ステーション」が運営する民間図書館の本も登録されている。ま た、東京都内の公立図書館で大量の『アンネの日記」やその関連書籍が破損され るという事件を受けて、図書館以外にある「アンネの日記」を可視化するプロジェ クト「アンネ・フランク・ライブラリー」にも参画している。 このような、公立図書館ではない、ちょっとした町のコミュニティスペースを 利用した小さな図書館は「マイクロ・ライブラリー」と呼ばれ、近年増えている。 詳しくは『マイクロ・ライブラリー図鑑 全国に広がる個人図書館の活動と 514 のスポット一覧』(まちライブラリー文庫、2014 年)を参照していただきたい。 さて、どこでも本さえあれば、手軽に「図書館」になってしまう「リブライズ」。 この画期的なサービスが生まれたのが、東京都世田谷区にあるコワーキングス ペース「オープンソースカフェ」だ。オーナーの河村奨さんと同スペースで仕事 をしていた地藏真作さん、2 人のプログラマーが開発した。 オープンソースカフェ 世界の本棚を図書館化する「リブライズ」発祥の地
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    129コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 きっかけは、「オープンソースカフェ」の壁に備え付けられていた本棚。プログ ラミングやデザインの専門書など 700 冊あまりが並んでいる。「オープンソース カフェ」の利用者が、本を持ち込んだり借りたりするケースが増え、個人的な本 棚を管理するサービスがほしいと考えて開発が始まったという。 「オープンソースカフェ」では、「リブライズ」の開発以外にも、さまざまな活動 が行われている。その一つが、毎週日曜日に開かれている「寺子屋 at CoderDojo 下北沢」。小中学生を対象にした無料のプログラミング道場で、プログラミングが 初めてという子どもから、ある程度、自習できる高学年まで、自由に学べる場を 提供している。自分たちのほしいものを自分たちの手でつくる。そんなコワーキ ングスペースから、「リブライズ」に続く新しいサービスが生まれてくるかもしれ ない。 オープンソースカフェ 〒155-0033 東京都世田谷区代田 6-11-14-G1 tel : 090-6113-5196 http://www.osscafe.net/ja/ 「下北沢オープンソースカフェ」は、用途別の2つの部屋から成る  写真提供=OSSCafe
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    130 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 2013 年 1 月、東京・五反田にオープンした「ゲンロンカフェ」。作家・思想家 の東浩紀さんが設立した株式会社ゲンロンによる新しいイベントスペースだ。ゲ ンロンは書籍の出版や展覧会、ツアーのプロデュースなどを手掛けている。ゲン ロンのコンセプトにはこうある。 「いままで象牙の塔に囲い込まれてきた人文知を、市場に開き、社会改革の足が かりにし、新しい価値を実現する企業です。知を市場に開くとは、知を『商品』に すること、知を『楽しいもの』に変えることを意味します。いままでのアカデミズ ムにおいては、知は商品であってはならない、楽しみの対象であってはならない と教えられてきました。ゲンロンはその制約を破壊し、新しい知の世界を開きま す。ゲンロンは、知を『楽しいもの』に変える組織、シンクタンクならぬ『クリエ イティブタンク』を目指しています」。 その拠点として、「ゲンロンカフェ」では、政治、思想、美術、ジャーナリズム、 情報社会などをテーマにした有料のトークイベントを開催している。平均で月 12 回、年間 150 回にも及び、来場者は月平均 800 人にものぼる。これまでにジャー ナリストの田原総一朗さん、美術家の村上隆さん、経営者の川上量生さん、アニ メ監督の細田守さん、政治家の細野豪志さんらが登壇。イベントは動画サイト「ニ コニコ動画」で中継、アーカイブ化している。ゲンロンカフェは 2014 年 2 月 1 日 に 1 周年を迎えるのと同時に、累計来場者数が 1 万人を突破。学術的なテーマば かりのイベントスペースとしては異例の集客力を発揮している。 また、ゲンロンカフェでは 5 月 13 日、同人誌ライブラリーを開設した。東さん の蔵書を中心に批評系同人誌を揃えている。ライブラリーは「ゲンロンカフェ」 営業時間中であれば、閲覧可能だ。  その目的について、「批評系同人誌の隆盛は、この 10 余年、日本の批評シーン を語るうえで欠かせない重要な役割を果たしてきました。岡田斗司夫や東浩紀な ど、商業出版でも活躍する多くの書き手がコミックマーケットや文学フリマで同 人誌を出版し、2000 年代後半には、宇野常寛のように同人市場での成功を糧にメ ジャーデビューを果たす批評家も現れました。ゲンロンではこのたび、そのよう ゲンロンカフェ イベント、カフェ、ライブラリーが織りなす知のプラットフォーム
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    131コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 な歴史の蓄積を保存し新しい読者にアクセス可能なものにするため、ゲンロンカ フェ内に批評系同人誌を中心とした小さな図書館を開設いたしました」とする。 ゲンロンカフェのユニークさは、その多面的な運営にある。例えば、ゲンロン が 2013 年に発行した書籍『福島第一原発観光地化計画』の展覧会や関連トークを ゲンロンカフェで開催するなど多様な展開によって集客。2014 年 8 月にも優先 的にサービスを受けられる有料会員を対象とした、福島第一原発災害被災地への スタディツアーを実施するという。学校や研究機関に依拠しない独立した知のプ ラットフォームとして機能しているのだ。 「ゲンロンカフェ」の本棚に囲まれたスペースは、スタジオにもなる  撮影=猪谷千香 ゲンロンカフェ 〒141-0031 東京都品川区西五反田 1-11-9 司ビル 6F tel : 03-5719-6821(ゲンロンカフェ店舗) http://genron-cafe.jp/
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    132 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 港町・横浜の官庁街・関内。八重桜の並木が続く「関内桜通り」の途中に、5 階 建ての雑居ビルがある。これといった特徴のない玄関は、気づかずに行き過ぎて しまいそうなほど地味だ。 階段を上った 2 階、エレベーターをはさんだ左右に、不思議な空間が広がって いる。コールタールを塗ったような黒い床、砕けたガラスでデコレーションした キッチン周り、打ちっ放しの天井はタペストリーのように様々な色で塗り分けら れている。横浜市内のアーティストたち延べ 20 人が関わってリノベーションし たスペース「さくら WORKS <関内>」は、延床面積約 450 平方㍍の広さ。左右 のスペースに、1 台 300 冊が入る 15 の書架が設けられている。 ヨコハマ経済新聞・LOCAL GOOD YOKOHAMA(ローカルグッドヨコハマ) という 2 つの独自ウェブメディアを展開する「NPO 法人横浜コミュニティデザ イン・ラボ」が運営するこの「さくらWORKS<関内>」は、2011年にシェアオフィ スが、2012 年末に多目的イベントスペースがオープンした。 編集者、グラフィックデザイナ−、翻訳家、NPO 法人など多様な会員による シェアオフィスでは毎週のようにアート、環境、政策、演劇、IT 勉強会、ものづ くり(ファブラボ)、復興支援、パーマカルチャーなど多様なテーマによるコミュ ニティイベントが開催されている。時に、同時多発的に開かれるイベントの利用 者は入り交じって、さまざまな創発的な出会いが生まれている。 シェアオフィス内の書架にある本はコミュニティと本をつなぐ「ラボ図書環」 というプロジェクトのもと集められた。混沌とした蔵書が「場」を縁取るように 壁面に並べられている。約 300 人いる NPO 会員が「自分は読み終わったがいい 内容なので、誰かに読んでもらいたい」と贈呈した本がここに来る。 シェアオフィスを運営する「横浜コミュニティデザイン・ラボ」の事業内容を反 映し、情報技術(IT 系)の本を中心にアート、都市デザインの本が多い。もちろん、 横浜の歴史や調査統計、横浜のアーティストの写真集などもそろう。また、2013 年 秋から「ファブラボ関内」を運営していることもあって、最近はものづくりやデザ インに関する本も増えている。本の貸し借りは、アナログな「ノート」を使っている。 さくらWORKS<関内> ユニークなコモンスペースに人の縁で集まった本たち
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    133コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 多目的イベントスペースでは、「本」をテーマにしたイベントも継続的に実施し ている。横浜在住の著者・編集者が出版した本、横浜ゆかりのテーマの本をとり あげて話を聞く「ラボ図書環オーサートーク」シリーズだ。現在、18 回を数え、こ れまでに横浜の教育、地域活性化、アート、障害者雇用、デジタルアーカイブなど 様々なテーマの本の著者、編集者が「さくら WORKS <関内>」を訪れ、本では 紹介できなかったエピソードや視点などについて、約 1 時間半ほどトークを展開 した。終了後にはカジュアルな懇親会が行われ、ゲストと来場者が直接話をする 機会にもなっている。 1冊の本をリアルな「関係」に接続し、本を通じたコミュニティをつくってい るのだ。(宮島真希子・筆) コミュニティをデザインするメンバーたちが、知識や経験を交換する さくら WORKS <関内> 〒231-0012 神奈川県横浜市中区相生町 3-61 泰生ビル 2 階 tel : 045-664-9009 fax : 020-4666-6061 http://sakuraworks.org/
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    134 コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「林の中の小さな図書館」は、長湯温泉の宿泊施設「BBC 長湯」に設置された図書 館である。長湯温泉は、世界でも有数の炭酸泉を湧出し、長期滞在による湯治と、 点在する外湯を巡る楽しみを打ち出した温泉地である。そこに位置する「BBC 長 湯」は、自炊ができるミニキッチンを備えるなどリーズナブルに長期滞在が可能な 施設となっている。その施設内に、山岳資料コレクションを備える図書館がある。 図書館には、登山家であり、旅行作家でもある野口冬人さんが収集した山岳資 料を中心に約 1 万 3000 冊を所蔵する。宿泊施設にありがちな娯楽本中心のライ ンナップではなく、山に関する資料や温泉に関する資料など、他に類を見ない専 門図書館の趣がある。また、併設した講座室では、ちょっとした講演会や小さな 音楽会も開催できる。読書や研究の環境も整っている。都会の喧騒を離れた温泉 町の居心地のいい宿では、図書館内の閲覧スペースはもちろん、各部屋に書斎が あり、個々人のペースで、読書や研究に没入できる。時代が時代であれば、長湯温 泉を訪れる文化人も執筆活動に励んだことだろう。現在でも大量の本を持ち込ん で、長期間滞在し読書に浸る、といった使われ方をしている。イベントなどを開 催してみんなで学ぶ、といったことこそ少ないが、個人が自らの学びに没入する 環境が提供されているのだ。 また、長湯温泉は、全国的な PR の一環として、多くの文化人を招いた過去があ り、街なかに、歌碑やゆかりを持つ宿泊施設などが点在している。 このような長湯温泉と文学の関係は、明治から昭和初期にまでさかのぼる。長 湯温泉を日本中に知らしめることに尽力した御沓重徳が、野口雨情や与謝野晶子 などの文化人を長湯温泉に招いたのだ。長湯温泉に逗留した文化人たちは、温泉 を楽しみ、それぞれの活動に励んだ。その結果、町には歌碑が点在し、長湯温泉滞 在をきっかけとした作品が生み出された。 ゆかりのある施設では、作家の直筆原稿を飾ったり、関連資料を置いた小さな ライブラリーを開設して、その縁を伝えている。町全体が、温泉とともに、文学を 親しめるようになっているのだ。外湯文化を中心としたまち歩きの中で住民と湯 治客が文学を接点としてつながるしかけがある。(嶋田綾子・筆) BBC長湯と「林の中の小さな図書館」 読書に体ごと浸かれる環境を、温泉文化の中で育む
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    135コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 林の中の小さな図書館 〒878-0402 大分県竹田市直入町長湯 7788-2 e-mail : bbcnagayu@bbcnagayu.com http://bbcnagayu.com/ 「林の中の小さな図書館」 天井の高い館内にしつらえた本棚には、山岳資料が中心に揃えられている  撮影=岡本真 コテージ風の外観の「林の中の小さな図書館」  撮影=岡本真
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    137コモンズとしての図書館  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年春号 長湯温泉にある公共温泉「御前湯」。座敷の左奥に小さなライブラリー  撮影=岡本真
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    138 司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド2014 年 春号 ――経歴を拝見すると、図書館員になる前には、臨床心理士をされていたんですね。 谷一:もともと心理学を勉強しており、大学を出てからすぐ、臨床心理士として倉敷中 央病院の精神科に入りました。実際には大学 4 年生から働いていて、そのまま就 職しています。臨床心理士の仕事で食べていくつもりだったのですが、私がつい ていた先生がお辞めになり、病院の経営方針が変わって、私も居づらくなってし まったので、3 年で退職しました。当時、臨床心理士以外に司書資格も持っていた ので、退職直後に募集のあった、倉敷市と岡山市の採用試験を受けました。司書 資格は手に職をと思い、大学で取っていました。本当は、司書か学芸員のどちら かを取ろうと思ったんですが、当時付き合っていた学芸員の彼(現在の夫)から「学 芸員は採用がない」と言われ、また、司書の勉強は、レポートなど文献を調べるこ とに役立つので、自分の仕事にも活用できると考え、司書資格を取りました。結局、 倉敷市は落ちて、岡山市にある母校の中学校で学校司書に採用され、そこから図 書館員としての生活が始まりました。 ――学校図書館ではどのようなお仕事を? 谷一:学校図書館では、問題を抱えている子どもの話を聞いたり、古くなったり、汚れた りしている本をきれいにしたり、おすすめの本を紹介する便りをつくってみたり、 ということをしていました。    当時の岡山市は、市内の全校に学校司書を配置し、現在は就実大学で先生をされ ている永井悦重さんや宇原郁世さん(故人)など、司書のトップランナー的な方々 が活動されていました。「ブックトークやります」とか、「授業の空き時間があった ▶図書館員になる前に 司書名鑑 No.3 谷一文子 さん 海老名市立中央図書館 株式会社図書館流通センター 株式会社図書館流通センター会長でもあり、2014年4月からは海老名市立中 央図書館の館長として、10 年ぶりとなる図書館の現場に立たれた谷一さんの 知られざるライフヒストリーをご紹介します。
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    139司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 ら、図書館の時間にしましょう!」とか、そういう活動をたくさん教えてもらいま した。私はブックトークなどを知らなくて、永井先生のブックトークを見て、「す ごい!」なんて感激して。実際に、私もいろいろと経験させてもらって、学校司書 を2年続けました。 ――学校図書館のあとに、岡山市立中央図書館へ移られたんですよね? 谷一:岡山市立中央図書館へ正規職員として採用され、整理係に配属されました。中央 図書館は前年に新館ができ、学校司書も拡充の時期と、ちょうどいい時期に図書 館に入ることができました。そのころの上司・田井郁久雄さんにはとても鍛えら れました。分類はこうするとか、選書はこうするとか。当時は目録カードも書い て、ばっちり鍛えられました。ぶつかったり、ケンカもしたけれども、図書館の生 き字引のような田井さんに教えてもらえたのが、すごくよかったと思います。あ の出会いがなかったら、公務員でたらたらっとやっていたんじゃないでしょうか。    整理係として働くと、「本とはなにか」がとてもよく分かるんです。その時期は、 いろいろなことを吸収しました。もちろん土日とか忙しい時期は、カウンターに も出ていたので、一通り学んだという感じです。逆にカウンターに配属された方 たちは、整理関係の仕事をしていないので、「整理のことは分からない」という感 じでした。この環境は本当によかったです。    当時の館長はもともと図書館司書だったのですが、市長公室長にもなり、市役所 の市長に近いポジションで仕事をされた優秀な方でした。中央図書館の新館がで きた時に図書館に戻ってきて館長を務められたのですが、行政に強い司書でした。 まさに理想の館長です。もちろん現場が大好きなので、郷土資料も詳しく、フッ トワークも軽くて、その姿にとても影響を受けました。この時期に、このおふた りに巡り会えたというのが、私にとって非常にいい経験だったと思います。    しかし、仕事も 4 年、5 年目になって、もっと上を目指したくなってきたころ、女 性は昇進しづらいとか、年功序列で昇進するなど、公務員の不合理さが見えてき たんです。 もういいかなぁと思っていたところへ、夫が東京の大学に移ることに なって、辞めるちょうどいいタイミングだと思いました。 Directory of librarian
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    140 司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド2014 年 春号 ――東京に出るのに合わせて、転職されたんですね。 谷一:東京でも働きたいと思って、何社か履歴書を出しましたが採用されなかったんで す。そこで、TRC の営業がたまたま大学の先輩だったので、相談したら TRC の新卒 採用を紹介されて、受けたんです。バブル時代で、運よく採用されました。10 歳 も年下の新卒の方たちと一緒に研修を受けて、データ部に配属されました。 ――データ部ではどのようなお仕事を? 谷一:まだ作業にコンピューターが導入されてない時期なので、目録も一枚のシートに 書くというような仕事をしていました。本を分類するのも仕事の 1 つで、当時は、 本の数も今と比べると少なくて、1 日 150 冊くらいが入ってくるのですが、その半 分くらいを毎日分類していました。    データ部は、どの図書館員よりも多く目録を取っています。膨大な数をこなして いるからこそ、優秀なんだと思います。そういう経験をさせてもらえたことが、す ごくよかった。それがあとに生きています。    私がデータ部にいたころ、『週刊新刊全点案内』に作家のインタビュー記事を載せ ていました。上司の国岡さんが、自分で目利きした作家さんに直撃インタビュー するんです。現在の有名作家がまだそれほど有名でなかった時期に、「これから売 れるぞ」という方にインタビューをしていました。私もインタビューを振られた のですが、私が選んだ人は採用されなかった(今も活躍中の有名作家です)。それ がきっかけというわけではないですけど、なぜか新刊の担当から遡及のほうに移 りました。    遡及というのは、行政資料とか展覧会の図録だとかとそういう資料のデータを取 る仕事です。それもまたすごく面白い仕事でした。どうとってよいか分からない 難しい資料や面白い資料じゃないですか、レアものでもあるし。ちょうど愛知芸 術文化センターの展覧会図録が大量に入っていた時期で。こういういい経験をし ばらくさせてもらいました。    そのあと、今度は特注という班に移りました。そこでは、新規に大学の目録作成の 仕事に進出しよう、という会社の方針がありました。しかし、大学の目録をやる には、学術情報センター(学情/現・国立情報学研究所)の NACSIS のデータが扱 えなければならないのですが、当時は民間に一切公開していなかったのです。仕 事をするにも、ID が発行されないので、その大学で派遣として仕事をしなければ ならない。だけど、やり方も分からない、洋書もやらなければならない。そのよ うな状況だったので、当時取引のあった関西学院大学に 2 ヶ月間お世話になって、 ▶図書館員から図書館を支援する民間企業へ
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    141司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 「データの取り方を覚えて会社に戻って来い」と言われました。自分の仕事なので、 これを持って帰らないとだめだと思って、本当に必死でしたね。でも、関西学院 大学の方たちがすごくいい方たちで、一人の新人が入ったのと同じように扱って くれて、仕様書の読み方も、目録の取り方も、花文字の読み方なども、全部丁寧に 教えてくれました。私はそういうことを全然知らなかったので、まず洋書目録の 取り方から覚えて、それから学情のシステムの仕組みを教えてもらいました。た だ、目録はもともと取れたので、洋書の目録の取り方も意外と簡単でした。2 ヶ月 で取得して持ち帰ることができました。    持ち帰って、すぐに仕事があるかというと、ありました。ちょうど私学が所蔵資 料の目録をデータ化して登録するということがよく行われていた時期だったので、 仕事のニーズはたくさんありました。    一番思い出深いのは、東京大学文学部図書館の資料 2 万冊を、2 週間で全て登録す るという仕事です。地下鉄サリン事件があったころです。    本当に困って、ありとあらゆる手段を使って、機械も人も動員して、夫にも、夫の 学生さんにも手伝ってもらって、人海戦術で 2 万冊を仕上げました。その納期で 仕上げられたことは担当の職員からすごくびっくりされました。でも、それが自 信につながりました。お仕事だから、絶対納期は守る。完ぺきではないかもしれ ないけど、「お客さんには迷惑をかけない仕事をするぞ」というのはその時に思い ましたし、自信としてもあるので、それは絶対やるべきことだと思っています。    そこからあとは、その仕事をずっと拡大していったのですが、後任も育ってきた ので、営業デスクへ異動になりました。 ――データ部内での異動から、会社全体を見る仕事へと変わられたんですね。 谷一:営業デスクというのは、社長の秘書のような、営業マンのまとめ役のような仕事 です。それは、社内で起こっていることが全て見えるポジションです。社の数字 も分かります。社の一部署だと、その部署のことしか分かりませんが、営業デス クというのは、物流もあるし、仕入部もあるし、データ部もあるし、発送部もある し、といろいろな部門がどのように会社の中でつながっているのか、あるいは外 部のお客さんや、取次、出版社さんなどとも、どのようにつながっているのかと いうこともそのとき初めて分かったので、とても貴重な経験をさせてもらったと 思っています。    江東区立図書館や墨田区立図書館が業務委託を始めた 2002 年に、TRC では子会社 を立ち上げました。株式会社 TRC サポート&サービスという会社です。「谷一は図 書館員やっていたから、分かるだろう」と社内で言われて、2004 年 4 月にその部 署に移されました。移ったその日に高山へ行けと言われて。高山市の図書館は 4 月の中旬くらいに全面委託で開館したのですが、以前の図書館は職員さんが一人
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    142 司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド2014 年 春号 だけで、新しい図書館ではスタッフが何も分からなくて、みんな泣きそうになっ ていて、エリアマネージャーや統括責任者と一緒に、みんなで開館準備して、オー プンしました。図書館の現場の仕事に再び就いたのは、そのときです。コンピュー ター化もされていて、私がいたころとはかなり違っていたので、私がやろうとす ると、手伝いに来ていたチーフに「谷一さん、違います」とか「カウンターに出な いでください」とか言われてしまいました。    そのあと桑名市立中央図書館が 2004 年 10 月にオープンするので、最初は研修を 行うために行ったのですが、急遽、統括責任者を務めることになりました。PFI な ので、いろいろ書類もあって大変だったし、スタッフもまだ素人同然でしたが、頑 張ってくれました。お客様には、幸いにも非常に喜んでいただけて、これも本当 にいい経験でした。    そのあと、TRC サポート&サービスの社長になりました。当時、売上 8 億円くらい の事業だったんですが、これが大赤字です。損益分岐点というのがあって、計算 すると 10 億円以上の売り上げがないとだめでした。スタッフの数を増やさずに、 本社も少数先鋭でやるっていうことを真剣に考えました。ちょうど委託業務がど んどん増えていく時期で、桑名市と高山市は 2004 年オープン、2005 年が北九州 市の指定管理が始まるというところで、すごいタイミングだったんですね。そこ から、ほぼ倍々で受託館を増やしてきました。    でも、そのときに「司書の子たちが勉強する機会がすごく少ないなぁ」と思った んです。技術的な部分はいいのですが、たとえば選書やレファレンスなどをやら せてもらってないように思いました。ほとんどが臨時職員だったので、一番いい 仕事をやらせてもらってないので、「ここ、弱いなぁ」と感じる部分がありました。 ですから、研修には力を入れたいとずっと思っていて、eラーニングなども導入し ました。人材育成こそ、この仕事でやらなければいけないことですね。    あとは、制度的にも人事の制度を整えました。人事の担当者は社労士の資格を 持った方を何人も入れたりとかして。制度も整えつつ、スタッフたちにプラスア ルファしていくということを、この10年でやったかと思います。    また 10 年で、いろんな図書館を見る機会をいただきました。業務拡大と同時に、 挨拶や研修で、私は全部の図書館へ行かないとならないじゃないですか。もとも と地方の図書館と都会の図書館は絶対違うし、地方の図書館でも非常に豊かなと ころもあれば、疲弊している図書館もあります。そういういろいろな図書館を見 せてもらえたのも、10年の収穫でしたね。    仕組みを整えるといえば、社内のグループウェアの仕組みもつくりました。もう 何もしなくてもみんなが情報をアップしてくれたり、地域ごとの情報交換にも 使ってくれていたり、みんなが面白がって使ってくれて。私も実は参考にさせて もらっていて、「教えて」っていえば、みんなすぐ教えてくれるんですよ。「これも、 この10年やってきたおかげかな」って思っていますね。
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    143司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号    私自身は全然スキルがないので、目録ぐらいは分かるけど、それ以上のことはで きないし、今の子たちは、10 年選手がいっぱいいて、非常に力もあるので、教え られることばっかりです。海老名市の現場に来て、ものすごく楽しいですね。「そ うだった、そうだった」って感じで、書庫なんか入ると、もうワクワクします。 ――現場を見てきて、なにか伝えたいことはありますか? 谷一:ちょっとだけ言いたいのは、司書が「これだけでいいや」とか、「偉くならなくて いい」と思っていることに対してです。よくある「専門家でいればいい」とか。私、 それは違うと思うんです。やっぱり管理職になってもらいたい。トップを目指し てほしいと思っているのですよ。それは、一握りかもしれないけれども、「館長を やって、次の後進を育てるぞ」とかね、そういう気概を持っていかないといけない と思うし、仮に公務員制度の中でやっている方も、やっぱり本庁行くのがいやだ とか、いろいろ思っている人いるじゃないですか。そんなことはないと思うんで すよ。すべて、次の仕事につながるんです。税務課に行ったって、「そこで人脈を 広げて、次は図書館の応援団つくれるんだ」と思えばいいのではないでしょうか。 偉くならないまま、司書のままでいく方たちもいるけど、それは世界をすごく狭 めていると思う。もっとチャレンジしていいんじゃないかなと思っています。    みんなチャレンジしないじゃないですか。うちのスタッフなんかも、「いい仕事や ろうよ」と言うとすごく尻込みするのね。リスクをすごく言う。なんでリスクばっ かり言うんだろう。もっと柔軟に、失敗したっていいじゃないですか。臨床やっ ていたから分かるんですけど、臨床心理の現場だと、昨日まで元気だった患者さ んが突然、首つりしちゃった、みたいなことが何回もあったわけね。図書館は、そ ういう人が死ぬっていう現場ではないんです。図書館に来た時、何が一番よかっ たかって、「明るい世界だなぁ」と思ったのよ。ダークな世界じゃない。だから、い ろいろなことをやっても全然 OK で、チャレンジしたほうがいいと思います。今、 ちょうど潮時というか、変わり目じゃないですか。だから、いろんなやり方でい いんじゃないかなと。今度、プラネタリウムでコンサートするんだけど、やって みたら意外と音がいいのよ。こうドームになっているから、薄暗い雰囲気もいい ですね。そんなのも、みんなからのアイデアなんだけど。既成概念にとらわれて ダメだと思うとできないです。でも、やればいい。これは、とても言いたい。 ▶司書へ伝えたいこと
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    144 司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド2014 年 春号 ――いろんな偶然が重なって、でもそれを大切にしつつ、生かしていけることはすごい ことだと思います。 谷一:いつも思っているのですが、過去のことを大切にしないと、将来に結びにつかな いと思います。過去に起こったことが、すべて、結局、今に生きています。だから、 そのときそのときを大事にしてきたことがよかったと思っているし、関学とのお 付き合いにしても、その当時の方々はみんな偉くなっていて、今でもお声を掛け てくださるので、非常にありがたいと思っています。もしあのときないがしろに 仕事していたら、今声を掛けていただけるようなことは絶対になかったと思って いますし、「TRCなんか」って言われたと思うんです。    そう思ってみんなが一つひとつの仕事を大切にしてくれれば、きっとすごくいい 将来が見えてくると思いますね。 ――最近の図書館について、なにか思うところはありますか? 谷一:『つながる図書館』(猪谷千香・著、ちくま新書・刊)じゃないですけど、やっぱり 図書館って地域にあるものじゃないですか、地域密着ですし。そこへ人が来て、図 書館という場もあるし、資料もあるし、人間どうしのつながりもあって、いろい ろミックスされて新しいものが出てくるような場だと思っているのです。だから、 そこのミックスさせる部分をもっとうまく仕掛ければ、いい成果が出ると思うん ですよ。それにはもちろん、いろいろなパワーもいると思うし、いろいろな方の 力が必要だと思うんだけども、だからそうなったときに、この図書館の価値が発 揮されると思うんですよ。    私は「地域のアイデンティティってあるな」って、すごく感じているんです。海老 名市の国分寺にしても、市民はどこかでアイデンティティにしていると思います。 そこを大事にしないといけない。そのためには、資料収集もしなければならない し、発信もしなければならないし、教えていくこともあるかと思います。そうい うことはすごく大事です。それは、どの図書館でもあることですよね。「うちには 何もない」という図書館員も多いけど、そんなことはない。その地域を変えていく 原動力になっていくような図書館になってもらいたいと思っています。私は図書 館にカフェがあってもいいと思うし、ちょっとぐらいは本が買えてもいいと思っ ています。それは時代が求めていることだから、時代に合わせてやればいいんで すよ。    スウェーデンのとある図書館に行ったときに、サイレントルームというのがあっ たんです。最近流行ってきているそうですが、「静かに読書をしたい人は、ここの ▶地域のアイデンティティを大切にする図書館
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    145司書名鑑 No.3  ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 春号 部屋を利用ください」っていう。住み分けられればいいと思います。図書館にも、 にぎやかな空間が今は求められているようにと思うんです。昔はしーんとした図 書館がイメージされたし、今もそうかもしれないけど、時代とともに変わってく のを敏感に察知しないとって思います。    ここの図書館、インターネット機能がないんですよ。「世の中の人が当たり前み たいに使っているのに、なんでそれに図書館が対応できないのかなぁ」と思って。 Wi-Fiくらいあったって当然だし、外国の図書館では、どこでもあるじゃない?     首長が決め事としてやるのであれば、現場も上へのアピールが必要ですよね。教 育委員会だけでは難しい部分もあるのかもしれないし、指定管理のような形だと、 企画課とかまちづくり政策課とかから予算がついて、バーッと動くじゃないです か。スピードが全然違うんですよ。そういうところに認知されると大きく動くん です。そういうポイントみたいなのを、もっと司書の人たちがよく学ばないと。だ から、公務員だったら役所の人と付き合う、民間だったら館長がことあるごとに 役所へ挨拶に行く。ちょっとでもアピールすることによって、「あー、頑張ってい るんだな」って認知されて、図書館が思っているのと違うところから予算がつい たり、「図書館って役に立つ」と思われる事業ができるようになる。図書館の事業 というのは、道路をつくるよりはるかに少ないお金でできますし、費用対効果が 高いですからね。そのためにも教育委員会だけじゃなくて、広い世界を考えたほ うがいい。    指定管理になったことで、管轄が教育委員会から市長部局へ移る図書館も最近、 多くなってきて、そのほうがいいなぁとも思っています。ただし忘れてはいけな いのは、やはり教育機関だということ。ベースは絶対に崩してはいけないと思っ ています。だから、アメリカへ行った時に「あ、この人たちって当たり前のことを やっている」とすごく思ったのね。「当たり前」の上にサービスが加味されている わけです。そこを押さえながら、図書館をつくっていきたいと思っています。そ れには自分一人ではできなくて、今いる図書館のスタッフとともにつくっていき たいと思っています。 臨床心理士から図書館員へ、図書館員から民間企業へと転身を重ねてきた谷一さん。そ れは、ある意味偶然がもたらした転身なのですが、その一つひとつの機会を大切にし、過 去を生かして次へとつなげていくその姿が非常に印象的でした。 (インタビューアー:嶋田綾子) 谷一文子(たにいち・あやこ) 海老名市立中央図書館 神奈川県海老名市上郷474−4 Tel:046-231-5152 Fax:046-235-5880 Email:info@ebina-library.jp 株式会社図書館流通センター 東京都文京区大塚3-1-1 Tel:03-3943-2221(代)
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    148 ARG 業務実績定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号 『ライブラリー・リソース・ガイド』の発行元であるアカデミック・リソース・ ガイド株式会社の最近の業務実績のうち、対外的に公表可能なものをまとめてい ます。各種業務依頼は、お気軽にご相談ください。 2014 年 3 月 3 日(月)に福島県の白河市立図書館で、「図書館総合展フォーラム 2014 in 白河」が開催されました。弊社では、2013 年から図書館総合展の地方展開につき、企 画・実施を受託しており、今回の白河開催でも企画から実施までを請け負いました。当 日は 200 名ほどの参加があり、たいへんな盛況でした。ご参加の方々に心から御礼申し 上げます。 また、2014 年 5 月 18 日(日)に 岡山大学で開催された「図書館総 合展フォーラム 2014 in 岡山」で も同様の役割を果たしました。ま た、いずれのフォーラムでも弊社 代表の岡本真が司会を務めました。 なお、図書館総合展の地方展 開 は、2014 年 7 月 11 日( 金 )に 新潟県立図書館で「図書館総合展 フォーラム 2014 in 新潟」として 開催されます。 アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 図書館総合展フォーラム2014 in 白河、同岡山を開催
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    149ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド2014 年 春号 ニコニコ学会β実行委員会によ る「第 6 回ニコニコ学会βシンポ ジウム in ニコニコ超会議 3」が、 2014 年 4 月 26 日(土)、27 日(日) に幕張メッセで開催されました。 弊社では、同委員会の創設依頼、 事務局を務めており、今回も事務 局として、事前事後はもとより、 開催当日の諸業務を担当しまし た。 株式会社石本建築事務所からの委嘱のもと、長崎県と大村市が進める一体型図書館・ 郷土資料センターの整備基本計画の策定につき、業務支援を実施しました。 なお、この業務に従事していた約半年間、長崎県内の図書館関係者には多大なるご助 力を頂戴し、また見学も快く受け入れていただきました。心から御礼申し上げます。 第6回ニコニコ学会βシンポジウム in ニコニコ超会議3を開催 長崎県の一体型図書館・郷土資料センター整備基本計画の作成を支援
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    150 ARG 業務実績定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号 株式会社乃村工藝社からの委嘱 のもと、2013 年度、2014 年度の 2 年間に渡って、現在富山市が進め る西町南地区公益施設整備事業に ついて、主に富山市立図書館本館 の建て替えと移転に関わる業務の 支援を実施しました。 この業務に従事した 2 年間、富 山県内はもとより、北陸各地域の 公共施設・商業施設の方々には見 学等を快く受け入れていただきま した。心から御礼申し上げます。 2014 年 3 月 4 日(火)に淡路島 で開催された第 6 回データ工学と 情報マネジメントに関するフォー ラム(第 12 回日本データベース学 会 年 次 大 会 )(DEIM2014)で BoF セッション として、アイデアソン 「リクルートテクノロジーズとつ くる、ライフイベントの高付加価 値サービス」を開催しました。 DEIM2014 でアイデアソン「リクルートテクノロジーズとつくる、ライフ イベントの高付加価値サービス」を実施 富山市の西町南地区公益施設整備事業を支援
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    151ARG 業務実績 定期報告  ライブラリー・リソース・ガイド2014 年 春号 これはリクルート社のサービス 「ホットペッパービューティー」の 口コミデータを活用し、エンジニ ア機能とデータサイエンティスト 機能の協働により、ライフイベン ト(進学、就職、結婚)における高 付加価値サービスを生み出すため のアイデアをグループごとにまと めていくもので、弊社ではワーク ショップのデザインと実施にあ たってのファシリテーションを担 当しました。 2014 年 5 月 24 日(土)∼ 25 日(日)に島根県隠岐の離島・海士町(中ノ島)で、「ARG 第 4 回 Web インテリジェンスとインタラクション研究会」(ARG WI2 研究会)を開催し ました。  今回は、ARG WI2 研究会がこれまでに蓄積してきた学術成果を地域振興に活かす可能 性を検討する会と位置づけ、実施しました。当日は、IT を利用した離島発のサービス提供 を行っている先進的地域の海士町において、研究会参加者と島の皆さまが交流を図り、 現場の知と学術の知の交易を行いました。   mail:info@arg-corp.jp  全  般:070-5467-7032(岡本) LRG関係:090-8052-0087(嶋田) 弊 社 業 務 問 合 せ 先 ARG 第4回Webインテリジェンスとインタラクション研究会を開催
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    LRG Library ResourceGuide ライブラリー・リソース・ガイド 定 期 購 読● 誌名:ライブラリー・リソース・ガイド(略称:LRG)  ● 発行:アカデミック・リソース・ガイド株式会社 ● 刊期:季刊(年4回)   ● 定価:2,500円(税別)  ● ISSN:2187-4115 ● 詳細・入手先:http://fujisan.co.jp/pc/lrg 「ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)」はアカデミック・リソース・ガイド株式会社が、2012年11月に 創刊した、新しい図書館系専門雑誌です。さまざまな分野で活躍する著者による特別寄稿と、 図書館に関する事例や状況を取り上げる特集の2本立てで展開していきます。第5号からは 「司書名鑑」も連載を開始しました。最新情報は公式Facebookページでお知らせしています。 公式Facebookページ:https://www.facebook.com/LRGjp 定価 2,500円(税別)B A C K I S S U E 1年4号分の定期購読を受付中です。 好きな号からのお申し込みができます。 定   価:10,000円(税別) 問い合せ先:090-8052-0087(嶋田)       lrg@arg-corp.jp SOLD OUT 元国立国会図書館長の長尾真さんの図書館への思いを書き上げた「未来の図 書館を作るとは」を掲載。図書館のこれまでを概観し、電子書籍などこれからの 図書館のあり方を論じている。 特集は、「図書館100連発」と題し、どこの図書館でも明日から実践できる、小さ いけれどきらりと光る工夫を100事例集めて紹介している。第4号では、100連 発の第2弾として、創刊号で紹介後に積み上げた100事例を紹介している。 特別寄稿/ 特  集/ 内  容/ 創刊号・2012年秋号(2012年11月発行) ※品切れ 長尾真 「未来の図書館を作るとは」 嶋田綾子 「本と人をつなぐ図書館の取り組み」 みわよしこさんによる特別寄稿では、社会的に弱い立場とされる人々の知識・ 情報へのアクセス状況を概観し、知のセーフティーネットであるべき公共図書 館の役目を考える。 特集では、株式会社カーリルの協力により、図書館のシステムの導入状況を 分析している。全国の図書館では、それぞれ資料管理用のシステムを導入し ているが、その導入の実態を分析する、これまでにないものとなっている。 特別寄稿/ 特  集/ 内  容/ みわよしこ 「『知』の機会不平等を解消するために──何から始めればよいのか」 嶋田綾子(データ協力:株式会社カーリル) 「図書館システムの現在」 第2号・2013年冬号(2013年2月発行) 残部稀少 152 定期購読・バックナンバーのご案内  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
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    特別寄稿「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」は、「これからの街の本屋」をコンセ プトにした本屋「B&B」を運営するnumabooks代表の内沼晋太郎さん、自宅を開 放する「住み開き」を提唱する日常編集家のアサダワタルさん、「ビブリオバトル」を考 案した立命館大学の谷口忠大さんの3名にお話をいただく。 特集は、「本と人をつなぐ図書館の取り組み」として、図書館で行われている、本と人 とをつなぐさまざまな取り組みについて紹介する。新連載「司書名鑑」は、関西学院 聖和短期大学図書館の井上昌彦さんを紹介する。 特別寄稿/ 特  集/ 司書名鑑/ 内  容/ 第5号・2013年秋号(2013年11月発行) 内沼晋太郎・アサダワタル・谷口忠大 「本と人、人と人をつなぐ仕掛けづくり」 嶋田綾子「本と人をつなぐ図書館の取り組み」 No.1 井上昌彦(関西学院 聖和短期大学図書館) 東日本大震災は図書館にも大きな被害をもたらした。その被害状況と復興の歩み、 そしてそこから見えてくる図書館の支援のあり方を、宮城県図書館の熊谷慎一郎 さんに論じていただいた。 特集では、地域に残された災害の記録を伝える図書館、災害資料を使い地域防災 について啓発活動を行う図書館などの取り組みについて紹介する。 特別寄稿/ 特  集/ 司書名鑑/ 内  容/ 第6号・2014年冬号(2014年2月発行) 熊谷慎一郎 「東日本大震災と図書館─図書館を支援するかたち」 嶋田綾子「図書館で学ぶ防災・災害」 No.2谷合佳代子(公益財団法人大阪社会運動協会・大阪産業労働資料館 「エル・ライブラリー」) 東海大学の水島久光さんによる特別寄稿は、著者自身の私的アーカイブの試 み、夕張・鹿児島・東北の地域の記憶と記録を巡って、地域アーカイブの役割と 重要性を論じている。 特集は「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」として図書館での資金 調達の取り組みを紹介。昨今の自治体財政状況により、図書館の予算も十分と は言い難い。そのなかでさまざまな手段を講じて資金を集め、事業を行っていこ うとする図書館の取り組みを集めた。 特別寄稿/ 特  集/ 内  容/ 水島久光 「『記憶を失う』ことをめぐって∼アーカイブと地域を結びつける実践∼」 嶋田綾子・岡本真 「図書館における資金調達(ファンドレイジング)」 第3号・2013年春号(2013年5月発行) 残部稀少 特別寄稿は、前号(第3号)での特集「図書館における資金調達(ファンドレイジン グ)」を受けて、実際に資金調達を行っている組織からの視点、資金調達のサービス を提供する事業者からの視点と、より理論的に図書館での資金調達に迫る。第4号 が理論編、第3号が実践編という位置づけであり、2号併せて読むことをお勧めする。 特集は、創刊号で大きな反響を呼んだ「図書館100連発」の第2弾。さまざまな 図書館で行われている小さくてもきらりと光る工夫や事業から、創刊号以降の 1年で集めた100個を紹介する。 特別寄稿/ 特  集/ 内  容/ 岡本真・鎌倉幸子・米良はるか 「図書館における資金調達(ファンドレイジング)の未来」 嶋田綾子 「図書館100連発 2」 第4号・2013年夏号(2013年8月発行) 残部稀少 153定期購読・バックナンバーのご案内  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
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    LRG LRG 8号 2014年9月 発行予定 LibraryResource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 次回予告 LRGライブラリー・リソース・ガイド 定価(本体価格2,500円+税) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特別寄稿 特 集 猪谷千香「教育委員会制度改革」(仮) 公共図書館は、教育委員会の下に位置付けられるのが基本です。しか し、最近では首長部局直轄の図書館が現れるなど、自治体のなかで位 置付けが変化してきています。さらに、教育委員会自体も制度を見直す 改正地方教育行政法が成立するなど大きな動きがあるなかで、図書館 を取り巻く制度や、位置付けなどを論じます。 採録「第2回LRGフォーラム」菅谷明子×猪谷千香 『社会インフラとしての図書館─日本から、アメリカから』 2014年7月2日に開催した、菅谷明子さんと猪谷千香さんのトークセッショ ンを編集し掲載します。 2003年に刊行された『未来をつくる図書館』の著者・菅谷さんと2014年 に刊行された『つながる図書館』の著者・猪谷さんが、「図書館×ジャー ナリズム」「図書館×子育て」「図書館×IT」「図書館×リテラシー」といっ たさまざまなテーマから、「社会インフラとしての図書館」のあり方を語り、 問いかけます。 155次号予告  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 春号
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    LRG ライブラリー・リソース・ガイド https://www.facebook.com/LRGjp 第7号/2014年 春号 無断転載を禁ず 発 行日 発 行 人 編 集 人 編  集 デザイン 発  行 2014年6月30日 岡本真 岡本真 大谷薫子(モ*クシュラ株式会社) アルファデザイン(佐藤理樹 + 小野寺志保) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 Academic Resource Guide, Inc. 〒231-0012 神奈川県横浜市中区相生町3-61 泰生ビル さくらWORKS<関内> 408 Tel.090-8052-0087(嶋田) http://www.arg.ne.jp/ lrg@arg-corp.jp ISSN 2187-4115 写真提供/奈良県立図書情報館 表 紙:奈良県立図書情報館 3階から2階をのぞむ 裏表紙:「世界のブックデザイン2012-13」展示風景
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    定価(本体価格2,500円+税) Library Resource Guide 第7号/2014年春号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 ISSN 2187-4115 LRGライブラリー・リソース・ガイド