COPD急性増悪に対しての
抗菌薬治療について再考する
一宮西病院 研修医1年目 彦坂宜紀
国際ガイドライン
• Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD) 2020
• European Respiratory Society/American Thoracic Society (ERS/ATS)
Eur Respir J. 2017 Mar 15;49(3):1600791.
GOLDの推奨する抗菌薬の適応
• 呼吸困難の増加、痰量の増加、痰の膿性化 のうち3つを満たす
• 上記3症状のうち、痰の膿性化を含む2つを満たす
• 人工呼吸器管理が必要
のいずれかを満たす患者において
5~7日間の抗菌薬投与を推奨する。
推奨の根拠
Anthonisen NR et al.
Annals of Internal Medicine 1987;106(2):196‐204.
急性増悪の以下のようなタイプごとにサブ解析を施行。
以下Type1、2,3の順で抗菌薬投与の治療効果が高かった。
*急性増悪の定義:呼吸困難、喀痰量の増加、または喀痰膿性化
Type1: 上記3症状を満たす
Type2: 上記3症状のうち2つを満たす
Type3: 上記3症状のうち1つに加え、
5日以内の上気道症状、喘鳴・咳の増加、呼吸数・心拍数の20%の増加
また後半で取り上げます。
ERS/ATSによる抗菌薬の適応 2017 Mar 15.
過去のガイドラインでは明確に回答されていないCQに対して検討。
独自にシステマティックレビューを行っている。
CQ:COPD急性増悪の外来患者に対して抗菌薬は有効か。
5件の関連試験のうち、2件のRCT(n=483)を分析
* 3件のRCTはCOPDの診断基準が不十分であったり、
データが5日目に収集されていたため、除外された。
* GOLDで推奨されている群への抗菌薬投与がされているかは不明
ERS/ATSによる抗菌薬の適応 2017 Mar 15.
Ans. 抗菌薬投与は治療の失敗を有意に改善させる。
(RR:0.67、95%信頼区間:0.51–0.87)
抗菌薬投与が推奨される。
** 治療失敗の定義:症状の悪化または改善なし、もしくは死亡
* Placebo群でも58%ほどは治療の失敗を回避しており、
全ての患者で抗生剤投与が必要ではない可能性がある。
システマティックレビュー
• Cochrane Database Syst Rev 2018 Oct 29;(10):CD010257
• Ann Intern Med 2020 Mar 17;172(6):413
Cochrane Review 2018 Oct 29
19のRCT(n=2663)を分析したシステマティックレビュー
うち11本が外来患者、7本が入院患者、1本がICU患者が対象。
Patient
• Inclusion Criteria
・40歳以上で喫煙歴あり
・臨床的にCOPDと診断された患者
・呼吸機能検査によりCOPDと診断された患者
急性増悪の定義:
呼吸困難、咳、痰量の増加、痰の膿性化などの症状を伴う
安定期と比較し悪化した状態
• Exclusion Criteria
・予防的抗菌薬投与の使用
・急性気管支炎、肺炎、喘息、気管支拡張症の患者
Intervention
• 最低2日間経口または静脈内で抗菌薬を投与
• 実際の使用された抗菌薬
AMPC, AMPC/CVA, PIPC, SBT, CPFX, CCL, CAZ,
LVFX, OFLX, DOXY, OTC, ST合剤, CP
• そのうち現在使用されている抗菌薬
AMPC, AMPC/CVA, ST合剤, DOXY → サブ解析へ
• C :Placebo群
• O :治療開始後7日から1ヶ月までの治療の失敗
(症状の悪化もしくは改善なし、または死亡)
Result
• 外来患者、入院患者、ICU患者ともに
抗菌薬投与は治療の失敗を有意に減少させた。
@外来 RR:0.69 [95%信頼区間:0.53~0.90]
@入院 RR:0.76 [95%信頼区間:0.58~1.00]
@ICU RR:0.19 [95%信頼区間:0.08~0.45]
Result
*現在使用されている抗菌薬で評価したRCTに限定した場合...
(PCG, AMPC/CVA, ST合剤, DOXY)
・外来患者ではOutcomeを有意に改善させたが、
入院患者では有意差は出なかった。
@外来 RR:0.72 [95%信頼区間:0.56~0.94]
@入院 RR:0.65 [95%信頼区間:0.38~1.12」
外来患者(現在使用されている抗菌薬を評価したRCT)
入院患者(現在使用されている抗菌薬を評価したRCT)
Conclusion
• 軽度~中等度(外来)、最重症(ICU)の患者では
有意に治療の失敗を減少させる。
• 重症(入院)の患者でも同様の効果を示していたが、
現在使用されている抗菌薬によるRCTに限定すると、
統計的に有意な差は出なかった。
• 入院期間はICU患者で大幅に短縮。
• 抗菌薬の有害事象は統計的に有意な増加なし。
Limitation
• 「外来患者=軽症~中等症、入院患者=重症」と分離して研究しているが、
増悪の重症度については一定の定義がなく、
入院の閾値については各研究で統一されていない。
• Primary Outcomeである治療の失敗の定義についても
標準化できない要素が多いため、RCT間の不均一性あり。
• ICU settingのRCTは2001年の1本のみであり、
今回の結果の解釈には注意を要する。
その他のシステマティックレビュー
Annals of Internal Medicine 2020 Mar 17
• 特徴:
介入時よりICU管理や気管挿管必要例を対象にした研究は除外
• 増悪の重症度に関わらず、抗菌薬投与は治療の失敗を有意に減少させた。
• 抗菌薬の効果を評価するのに対象としたRCTは7本。
全てCochrane Reviewに採用されているRCTで、
使用されている抗菌薬は全て現在使用可能な抗菌薬であった。
• 外来患者、入院患者のサブ解析がCochraneのサブ解析と対象論文が異なる。
(何故か数本の論文を対象から外している。除外した根拠の記載なし。)
小括
• COPD急性増悪患者に対して抗菌薬投与は
概ね全ての重症度の患者で治療の失敗を減少させた。
• ただし、現在使用されている抗菌薬に絞ったサブ解析では、
入院患者に対する抗菌薬投与の効果は有意差なかった。
• Cochrane Reviewでは入院患者において有意差なかった。
Annals of Internal medicineは入院患者でも有意差があったが、
信頼性に疑問が残る。
• Placebo群においても半数以上は治療の失敗を回避しており、
全例に抗菌薬投与が推奨されるとは言えない
➡ 痰やCRPなどの細菌感染を予測する所見により
抗菌薬投与が有用な群の特定が必要
代表的なRCT
• Annals of Internal Medicine 1987;106(2):196‐204.
• International Journal of Infectious Diseases 2016;48:40‐5.
• Lancet 2001;358:2020-5.
Anthonisen NR et al.
Annals of Internal Medicine 1987;106(2):196‐204.
計173人、延べ362人の外来COPD急性増悪患者を対象としたRCT
P:呼吸機能検査および臨床診断でCOPDと診断され、急性増悪をおこした35歳以上の患者
深刻な他の疾患(脳卒中、心不全など)や喘息、その他感染性疾患は除外
*急性増悪の定義:呼吸困難、喀痰量の増加、または喀痰膿性化
Type1: 上記3症状を満たす
Type2: 上記3症状のうち2つを満たす
Type3: 上記3症状のうち1つに加え、
5日以内の上気道症状、喘鳴・咳の増加、呼吸数・心拍数の20%の増加
I:ST合剤1.9g/day or AMPC1g/day or DOXY0.1~0.2g/dayを10日間経口投与
C:10日間のPlacebo
O:治療開始後、21日以内の治療の成功率
(成功の定義:急性増悪の全ての症状の改善)
Anthonisen NR et al.
Annals of Internal Medicine 1987;106(2):196‐204.
計173人、延べ362人の外来COPD急性増悪患者を対象としたRCT
Result:
治療の成功:68.1% vs 55.0% (p<0.01)
*Type別の結果
Type1:62.9% vs 43.0%
Type2:70.1% vs 60.0%
Type3:74.2% vs 69.7%
Conclusion:
抗菌薬は、外来COPD急性増悪の治療成功率を改善する。
呼吸困難、喀痰量の増加、および痰の膿性化のある患者に特に有用。
Wang JX et al.
International Journal of Infectious Diseases 2016 ; 48:40‐5.
計194人の入院COPD急性増悪患者を対象としたRCT
P:GOLD2014基準により診断された、
PCT 0.1ng/ml未満の40歳以上のCOPD急性増悪患者
除外基準: 発熱(≥38.0°C)、入院後24時間以内の気管挿管、入院時のPCT≥0.1ng/ml、
肺炎、慢性腎不全、悪性疾患の病歴、免疫抑制療法
I:PIPC/SBT or CAZ or LVFX 最低3日間の抗菌薬投与
C:Placebo
O:入院後10日目の治療成功率
(治療の成功の定義:症状の消失または改善)
*ITT解析とPP解析双方で評価された。
Wang JX et al.
International Journal of Infectious Diseases 2016 ; 48:40‐5.
計194人の入院COPD急性増悪患者を対象としたRCT
Result:
ITT解析: 治療成功率は介入群で93.7%(89/95)、対照群で95.8%(92/96)
➡ p=0.732と有意差なし
PP解析: 治療成功率は介入群で93.7%(89/95)、対照群で98.7%(78/79)
➡ p=0.193と有意差なし
入院期間、挿管率、入院中の死亡率、再入院なども有意差なし(ITT解析)
Wang JX et al.
International Journal of Infectious Diseases 2016 ; 48:40‐5.
計194人の入院COPD急性増悪患者を対象としたRCT
Conclusion:
PCT 0.1ng/ml未満のCOPD急性増悪患者において抗菌薬投与は有用とは言えない
Limitation:
・三カ月以内の抗菌薬使用率が高い。(51.6%, 43.9%)
・長期の治療効果は不明である。(フォローアップ期間は30日)
・PIPC/SBT、CAZ、LVFXはすべての病原菌に対して効果があるわけではない
*PCT0.1~0.25ng/mlである患者に対する治療効果についてさらなる研究が必要としている。
Nouira S et al. Lancet 2001;358:2020-5.
計93人の人工呼吸管理を必要としたCOPD急性増悪患者を対象としたRCT
P:人工呼吸管理を必要としたCOPD急性増悪患者
I:オフロキサシン400mg/day 10日間投与
C:10日間のPlacebo
O:入院中の死亡、追加の抗菌薬投与
Result:死亡率は介入群で有意に低下。( 4% vs 22%)
絶対リスク低下:17.5% [95%信頼区間4.3-30.7], p=0.01
追加の抗菌薬投与についても介入群で有意に減少。
絶対リスク低下:28.4% [95%信頼区間12.9-42.9], p=0.0006
Conclusion:
オフロキサシン投与は人工呼吸器管理を必要とするCOPD急性増悪患者の治療に有用。
バイオマーカーガイドによる抗菌薬管理
• CRPガイド
N Engl J Med 2019 Jul 11;381(2):111.
• PCTガイド
European Respiratory Review 2017 26:160073.
Pulm Ther. 2020 Dec;6(2):201-214.
CRPガイドの抗菌薬管理
N Engl J Med 2019 Jul 11;381(2):111
COPD急性増悪の抗菌薬管理における
CRPの有用性を吟味したRCT。
イギリス国内86施設(N=635)で行われた
CRPガイドの抗菌薬管理
P:
・Inclusion Criteria
40歳以上の男女で既にCOPDと診断され、急性増悪をおこした軽症の患者。
急性増悪の判断基準:
Athonisen Criteria(呼吸困難の増悪、痰量増加、膿性痰の増加)の1つ
以上を満たし、症状持続が24時間から24日以内であること。
・Exclusion Criteria
呼吸不全、緊急入院が必要、妊娠中、他の感染症の合併例、
炎症性疾患合併例、気管支拡張症、気管切開、免疫抑制状態、抗生剤使用中
CRPガイドの抗菌薬管理
• I :CRPを参照に抗菌薬を使用する群
参考基準:CRP<20mg/Lで抗生剤使用を推奨しない
20~40mg/Lは膿性痰などの臨床症状を基に判断
CRP>40mg/Lで抗生剤使用を推奨する
• C :通常の治療
• O :試験開始4週間以内のCOPD増悪に対する抗生剤の使用率
2週間時点での電話調査によるCCQ(Clinical COPD Questionnaire)の点数
CRPガイドの抗菌薬管理
Result:
使用率: CRP参照群が57.0%(263人中150人)
通常治療群が77.4%(274人中212人)
(95%信頼区間:0.20~0.47、p<0.001)
CCQ: CRP参照群のCCQ平均値が2.6
通常治療群が2.8
(90%信頼区間:ー0.33~ー0.05)
CRPガイドの抗菌薬管理
• Conclusion:
軽症のCOPD急性増悪に対して、
臨床症状に加えCRP測定値を参考とすることで、
QOLを下げずに抗菌薬の使用を約20%削減することができる。
• Limitation:
・イギリス国内のみで行われた研究であるため、
外的妥当性は担保されているとは言えない
・急性増悪の判断基準が不明瞭
現在システマティックレビューが進行中 (Medicine. 2020;99(29):e21152.)
PCTガイドの抗菌薬管理
European Respiratory Review 2017 26:160073;
8本のRCT(n=1062)を分析。
• P :GOLDガイドラインにより
抗菌薬投与されたCOPD急性増悪患者
• I :PCTガイドによる抗菌薬管理
• C :標準的治療(10日間)
• O :抗生剤投与期間、
症状改善、死亡率、入院期間
• 特徴:院内感染、ICU管理、免疫不全例は除外
PCTガイドの抗菌薬管理
European Respiratory Review 2017 26:160073;
PCTガイド法:
ex. PCT>0.25μg/Lで抗菌薬推奨
PCT<0.25μg/Lで抗菌薬中止を考慮
Result:
PCTガイド下での抗菌薬管理は標準的治療と比較し
症状の悪化や入院期間を延長させることなく、
抗菌薬投与期間が約4日間短くなった。
(MD:-3.83、-4.32~-3.35)
PCTガイドの抗菌薬管理
Pulm Ther. 2020 Dec;6(2):201-214.
合計14件のRCTと観察研究を分析。
入院及びICUでのCOPD急性増悪患者が対象。
• PCTガイド VS 標準的治療
Primary Outcome
抗菌薬の投与期間
Secondary Outcome
入院期間、症状改善なし、死亡率など
PCTガイドの抗菌薬管理
Pulm Ther. 2020 Dec;6(2):201-214.
Result: PCTガイドによる抗菌薬管理は臨床的に重要なアウトカムを改善させなかった。
この論文を根拠にGOLDはPCTガイド使用の推奨を弱めた。
だだし、、、
*観察研究も含めたシステマティックレビューであり、信頼性は高いとは言えない。
• メイン解析では有意差あったが低RoBに絞った感度解析では有意差でなかったため、
PCTガイドを用いた抗菌薬管理を推奨しないとしている。
➡ 論理が飛躍しすぎでは? 推奨しない根拠としては弱い。
まとめ
• 個人的な見解としては, COPD急性増悪患者に対する抗菌薬使用はGOLDの基準が有名であ
るが、ある程度閾値を低く処方しても良いのではないか.
• ただ、抗菌薬投与を必要としない患者群も少なからず存在することは認識しておく。
• CRPやPCTなどのバイオマーカーによるガイド下での抗菌薬管理は
治療効果を損なうことなく、抗菌薬投与期間を短くする可能性がある。
• GOLDでは未だPCTガイドによる抗菌薬管理は推奨されていないが、
その根拠となる論文には論理の飛躍があり、GOLDの論文選択には疑問が残る。
• GOLDはガイドラインの根底に思想があり、エビデンスの解釈がバイアスがかかっている
可能性があるというのが個人的な印象。

COPD急性増悪に対しての抗菌薬治療についての再考