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呼吸器内科医の行う
ベーシック集中治療
一宮西病院呼吸器内科 城下彰宏
✓ 患者の目標に向かって、基本的なことを行う。
✓ 高額な手技・薬剤はハードアウトカムを改善する
確固たるエビデンスがない場合は使用しない。
✓ ミスを少なくするために極力方法を統一化する。
✓ 我々呼吸器内科医は決して集中治療のエキス
パートではないので、エキスパートオピニオンなど
存在しないことを頭にいれておく。
原則
A: Airway
B: Breathing
C: Circulation
D: Disability
E: Exposure
の順にアセスメントする。
A, Bが切迫している状況は特に挿管を考慮する。
ショック患者や意識障害患者でもA,Bの問題が起き
る可能性が高いときは挿管の閾値は低く考える。
患者の初期アセスメント
患者のアセスメント
挿管前の準備
M: Mask seal
O: Obesity
A: Age > 55yo
N: No teeth
S: Stiff neck/snores
L: Look externally
E: Evaluate 3-3-2
M: Mallampati
O: Obstruction
N: Neck mobility
換気困難 挿管困難
患者のアセスメント
挿管前の準備
M: Mask seal
O: Obesity
A: Age > 55yo
N: No teeth
S: Stiff neck/snores
L: Look externally
E: Evaluate 3-3-2
M: Mallampati
O: Obstruction
N: Neck mobility
換気困難 挿管困難
リスクが高い場合はICUもしくは呼吸器外科に
バックアップしてもらう。
準備の確認
挿管前の準備
S: Suction
O: Oxygen
A: Airway
P: Pharmacy & posture
M: Monitor
D: Denture
マスク換気時の酸素投与、挿管後に換気す
るジャクソンリースの準備を忘れないように。
✓ 100% O2でよほどのことがない限りバックバルブマ
スク換気を行う。 N Engl J Med. 2019;380:811-21.
✓ 挿管のPremedicationはフェンタニル(原液・
2μg/kg)→プロポフォール(原液・1mg/kg)→エス
ラックス(原液・1mg/kg)。筋弛緩が効いてきたら挿
管する。
✓ マッキントッシュ、マックグラス、C-MACの選択肢が
ある。感染防御の面からC-MACを当院救急で使用
している。時間のかかる気管支鏡下挿管はしない。
✓ 血圧低下時の予備のためにネオシネジン(1mg+生
食9ml)を準備しておく。
気管内挿管
重症患者はBy problemではなく、By systemでアプ
ローチしよう!
By system approach
✓ 神経
✓ 呼吸
✓ 循環
✓ 腎臓・電解質
✓ 消化器・栄養
✓ 代謝・内分泌
✓ 血液
✓ 感染
✓ 予防
✓ デバイス
✓ 鎮痛>鎮静の順。筋弛緩は使用しない(ARDSも)。
Crit Care Med 2013;41:263-306, N Engl J Med. 2010;363(12):1107-16.
✓ RASS -2~0, NRS 0~4を目標にする。
✓ 鎮痛:フェンタニル0.5mg+生食40ml(開始2ml/hなど)
✓ 鎮静:プロポフォール原液(開始2ml/hなど)
✓ 鎮静の必要性を常に考える。
Lancet. 2010;375(9713):475-80, N Engl J Med. 2020;382(12):1103-1111.
✓ せん妄は予防を最重視する。
✓ デックスメデトミジンは低血圧、抜管間際、自発を残し
た場合などに有効かもしれないが、高価であることを
認識する。 N Engl J Med. 2019;380(26):2506-2517.
神経
✓ よほどの閉塞性換気障害がない限りpressure
control ventilationで行う。Chest 2015;148(2):340-55.
✓ Low tidal, high PEEP、permissive hypercapniaで
管理(Tidal volume 6~8ml×理想体重、Plat ≦
30 cmH2O、pH > 7.2)。
N Engl J Med. 2000;342(18):1301-8, JAMA. 2010;303(9):864-73.
✓ まずはFiO2 100%からスタートしてどんどん下げて
いく。PEEPはゆっくりと下げていく。
呼吸
✓ 体液評価に絶対的な指標はない。
✓ Mean 65以上を目標にする。
N Engl J Med. 2014;370(17):1583-93.
✓ 敗血症の場合の輸液量は30ml/kgを初期量として、生
食ではなく、乳酸リンゲル液を投与する。
N Engl J Med. 2018;378(9):829-839.
✓ 昇圧薬の第一選択はノルアドレナリン。β作用を加えた
いときはドブタミン。ドパミンは使用しない。
Crit Care Med. 2012;40(3):725-30.
✓ CVCよりノルアドレナリン6mg+5%ブドウ糖100ml、体
重/投与量がγ計算になる。
✓ Refillingの時期に利尿薬を使用しても良い。
循環
✓ 尿量0.5~1ml/kg/hを目標にして、volumeを負荷する。
✓ ただし、初期にはどうしても乏尿になるため、over-
volumeによるAKI悪化や呼吸不全には注意する。
✓ 血清Cr値を信用しない。例:6時間畜尿して尿クレア
チニン値を測定、血清Crは畜尿4時間目のタイミング
で測定してクレアチニンクリアランスを計算する。
✓ 透析はAKIでも早期に導入しなくて良い。
N Engl J Med 2016;375:122-133.
✓ PMXを使用しない。
Intensive Care Med. 2018;44(2).167-178, JAMA. 2018;320(14):1455-1463.
腎臓・電解質
✓ できるだけ早期(24~48時間以内)より経腸栄養を
開始する。 Crit Care Med. 2018;46(7):1049-1056.
✓ メイバランス10ml/kgから開始して、徐々に
25kcal/kgまで増量していく(permissive
underfeeding)。
N Engl J Med. 2016;374(12):111-22, JAMA. 2012;307(8):795-803.
✓ 高蛋白(少なくとも1.2g/kg/d)を目標にする。
J PEN J Parenter Enteral Nutr. 2016;40(6):795-805.
消化器・栄養
✓ 血糖は180以下を目標にする。
N Engl J Med. 2009;360:1283-1297.
✓ 敗血症、重症肺炎、ARDSについてのステロイドは
コントラバーシャル(別途資料参照)。
✓ 副腎不全の絶対的指標はない。
代謝・内分泌
✓ Hb≧7を目標にする。
N Engl J Med. 1999;340(6):409-17.
N Engl J Med. 2014;371(15):1381-91.
✓ 血小板は1~2万程度を目標にする。手技を行う場
合は輸血を考慮する。
✓ DICに対してアンチトロンビンやリコモジュリン投与
は行わない。
Cochrane Database Syst Rev. 2016;2(2):CD005370.
JAMA. 2019;321(20):1993-2002.
血液
✓ 敗血症の場合、血液培養採取後、1時間以内に抗
菌薬(バンコマイシン、ピペラシリン・タゾバクムやメ
ロペネム)、輸液を開始にする。
Intensive Care Med. 2017;43(3):304-377.
✓ VAPの診断は難しいので、総合的な判断を行う。
Am J Infect Control 2010;38:237.
感染
✓ DVT予防は出血のリスクが低い場合に未分画ヘパ
リンを使用する。
Crit Care Med. 2013;41(9):2088-98.
✓ 潰瘍予防は呼吸器内科領域では人工呼吸器、抗
血小板薬、NSAIDs使用者、凝固障害などにPPIを
使用する。ステロイド使用以外のリスクのない患者
や経腸栄養を開始している患者に漫然と使用しな
い。 Intensive Care Med. 2018;44(1):1-11
Crit Care Med 1994;22:939-944.
✓ VAPの予防の口腔ケアを忘れないようにする。
Lancet Infec Dis 2011;11:845-54.
予防

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