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肺癌治療の基礎について
一宮西病院呼吸器内科 城下彰宏 (PGY7)
内容
 TNM分類
 RECIST
 CTCAE
 肺癌治療の概要
内容
 TNM分類
 RECIST
 CTCAE
 肺癌治療の概要
TNM分類(第8版)
TNM分類(第8版)
 UICC(Unio Internationalis Contra Cancrum)がTNM分類を定めて
いる。
 2017年に第8版に改訂された。
 予後・治療方針を決める指針になる。
 Clinical(治療前に決定される)とpathological(追加の切除時の標
本から修正)の病気分類がある。
例:cT1aN0M0やpT1aN0M0
 リンパ節生検(術中生検でも)のみではpathologicalにはならない。
 1回決めたら変更はできない。
 はっきりしないときはdownstageする。
TNM分類の決め方
 基本的にはUICCとAmerican Joint Commission on Cancer
(AJCC)が同じTNM分類を作成しているが、肺癌はInternational
Association for the Study of Lung Cancer (IASLC)の提言が関
わっている。
 IASLCがデータ作成を行っている(J Thorac Oncol 2014;9:1618-
1624)。
 実はNカテゴリーについてのデータは日本の症例が75%程度を占め
ている。
 2024年に第9版に改訂予定。
Tカテゴリー
Tカテゴリー
 Sizeが1cm刻みになった。
 無気肺や気管内浸潤はT2でもT3でも予後変わらないためT2に統
一された。
 横隔膜浸潤はT3→T4に変更された。
 縦隔胸膜浸潤はまれなので撤廃された。
 縦隔は基本T4だが、心膜浸潤や横隔膜浸潤はT3のままである。
Nカテゴリー
Nカテゴリーの変更なし。
Mカテゴリー
単臓器単発転移はM1b、単臓器多発転移はM1cとなった。
内容
 TNM分類
 RECIST
 CTCAE
 肺癌治療の概要
RECIST
 Response Evaluation Criteria in Solid Tumor (RECIST)
 RECIST working groupが作成。
 臨床試験のための有効性の評価指標。あくまで第三相試験へ進む
かの判断の指標である。
 正確さではなく、精密さを重視している。
 1981年のWHO効果判定基準では不明確な点が多く、各グループ
で解釈が異なっていた。評価対象病変の選択、総合効果の算出方
法、進行の定義など。
 現在はRECISTv1.1が使用されている。
RECIST
 一方向計測
 すべての病変を測定可能か測定不可能かに分類する
(腫瘍病変長径10mm以上、リンパ節短径15mm以上)。
 測定不能病変は小病変と真の測定不能病変(胸水など)に分かれ
る。短径10mm~15mmのリンパ節病変は小病変、溶骨性骨転移
は測定可能病変である。癌性リンパ管症は真の測定不能病変。
 測定可能病変から5個(径の大きいものから順に1臓器2個まで)の
標的病変を選択する。
 標的病変、非標的病変、新病変のカテゴリーごとにそれぞれ(CR、
PR、SD、PD)、(CR、Non-CR、Non-PD、PD)、(あり、なし)を判定
する。総合評価のうち、最良のものを最良治療効果判定とする。
 計測しにくい病変は避ける。
RECIST
 標的病変の効果
CR:すべての腫瘍病変の消失、リンパ節は短径10mm未満
PR:ベースラインと比較して径和が30%以上減少
SD:CR、PR、PDの定義を満たさない
PD:最小の径和と比較して径和が20%以上増大、かつ径の和が最小
値から5mm以上増大
 非標的病変の効果
CR :すべての腫瘍病変の消失、リンパ節は短径10mm未満
Non-CR、Non-PD:一つ以上の非標的病変の残存、腫瘍マーカーが基
準範囲上限を超える
PD:非標的病変の明らかな増大で、腫瘍量全体の増加が治療中止に
値する程度(一つの非標的病変の径の増大ではない)
 新病変の有無
治療効果判定
標的病変 非標的病変 新病変 総合効果
CR CR No CR
CR Non-CR/Non-PD No PR
PR Non-PD No PR
SD Non-PD No SD
PD Any Any PD
Any PD Any PD
Any Any Yes PD
免疫療法の治療効果判定
 免疫療法はflare effect(早期のPD→遅れて効果がでてくる)があ
る。およそ4%に認められる。
 リンパ球の集簇からこのような反応が起こる。
 皮膚腫瘍領域からImmune-related Response Criteria (irRC)、
irRECISTが提唱された。
 ただ、RECISTとの比較がないのであくまで副次的な評価項目。
 基本的にはRECISTで評価をして、治療をどうするかは臨床判断に
なる。Clinical benefitが認められる限りは継続していく。
irRC
 二方向積和。
 ベースラインでは測定可能病変の2方向積和をすべて足して総腫
瘍量(total measured tumor burden)を計算する。測定不能病変
は含めない。
 効果判定は測定可能病変と真病変の総腫瘍量として含める。
 PDの判定はconfirmationを要する。
 4週間以上の間隔で同じ総合効果が継続して確定。
 25%以上の増加でirPD、50%以上の縮小でirPR。ベースラインで
測定不能病変があるとirCRではない。
irRECIST
 irRCとRECISTの融合。
 基本はRECISTで、総腫瘍量の概念は取り入れている。
 irPDのconfirmationはflare effectが疑われる場合のみ。
内容
 TNM分類
 RECIST
 CTCAE
 肺癌治療の概要
CTCAE
 Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE)
 臨床試験のための安全性指標。
 National Cancer Institute(NCI)が作成。
 癌以外でも使用されている。
 治療や処置との因果関係を問わない(adverse event、adverse
reaction、adverse drug reaction)。
 現在はCTCAE v5.0が使用されている。
 System Organ Class(26種類)、Adverse Event(837個)、Grade
(0~5)
 https://ctep.cancer.gov/protocoldevelopment/electronic_applica
tions/ctc.htm
CTCAE
 Grade(ベースラインの情報が必要)
Grade 0:正常
Grade 1:軽度の症状がある。臨床所見や検査所見のみ。治療を要さ
ない。
Grade 2:非侵襲的治療を要する。日常生活の制限がある。
Grade 3:重症であり、入院または入院期間の延長を要する。
Grade 4:緊急処置を要する。
Grade 5:有害事象による死亡。
それぞれ詳細に定義されているので確認しながら定義すること。
実際になされたことで定義するのではなく、なされるべきことで定義する。
それぞれの項目内の小項目はもっとも近い内容の分類に定義する。
項目全体の評価は迷うときは高いgradeを採用する。
PRO-CTCAE
 Patient-Reported Outcome version of the Common
Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE)。
 患者の訴えが重要。
 リコール期間は7日とされている。
 CTCAEと同時に評価することが大切。
内容
 TNM分類
 RECIST
 CTCAE
 肺癌治療の概要
フォローアップ期間
良く使用される効果判定時期
 腫瘍マーカー:1か月毎
 頸胸腹骨盤造影CT:2か月毎
 頭部造影MRI:3か月毎(規定されていないことが多い、頭部CTで
も可)
 PET-CT:6か月毎(規定されていないことが多い)
必ずしも従う必要はないが参考までに。
各ステージの治療概要を1ページで
 Stage Ⅰ~ⅡB(肺尖部胸壁浸潤癌除く)
手術(+テガフール・ウラシル配合剤療法)。
 StageⅡB(肺尖部胸壁浸潤癌)
肺尖部胸壁浸潤癌の場合は術前化学放射線療法→手術。
 StageⅢA(N1M0, T4N0-1M0)
術前もしくは術後化学療法+手術。
 StageⅢB、StageⅢC
根治照射可能な場合は根治的化学放射線療法→デュルバルマブ(免
疫チェックポイント阻害薬)、不可能な場合はStageⅣに準じる。
 StageⅣ(mutationあり)
分子標的薬。
 StageⅣ(mutationなし)
免疫チェックポイント阻害薬+殺細胞薬。
各ステージの治療概要を1ページで
 Stage Ⅰ~ⅡB(肺尖部胸壁浸潤癌除く)
手術(+テガフール・ウラシル配合剤療法)。
 StageⅡB(肺尖部胸壁浸潤癌)
肺尖部胸壁浸潤癌の場合は術前化学放射線療法→手術。
 StageⅢA(N1M0, T4N0-1M0)
術前もしくは術後化学療法+手術。
 StageⅢB、StageⅢC
根治照射可能な場合は根治的化学放射線療法→デュルバルマブ(免
疫チェックポイント阻害薬)、不可能な場合はStageⅣに準じる。
 StageⅣ(mutationあり)
分子標的薬。
 StageⅣ(mutationなし)
免疫チェックポイント阻害薬+殺細胞薬。
各患者でmodifyする!
実際には
 TNM分類はしっかりと決めているが、治療方針はStageだけで決
めるわけではなく、患者のperformance statusや併存疾患、施設
の状況、外科医の意見などを参考に判断する。
 RECIST、CTCAEはあくまでおおざっばに定義しており、臨床判断
で副作用対策、治療選択を行っている。
 肺癌治療はガイドライン通りに行われているイメージがあるが、か
なりテイラーメイドに行っている。

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