ー日常臨床でのEBMの実践ー
論文を読むだけでなく使うために



     名郷直樹
今日お話しすること

 EBMの全体像
  EBMの5つのステップ
 臨床試験の論文結果を「統計学的」に読む
  相対危険、95%信頼区間
 臨床試験の結果の食い違いを検討する
  統計学的な検討、バイアスからみた検討
  推定・検定からベイズへ
 臨床医の役割
EBMの5つのステップ

1.   問題の定式化
2.   問題についての情報収集
3.   得られた情報の批判的吟味
4.   情報の患者への適用
5.   1-4のステップの評価
批判的吟味のポイント

研究方法は妥当か?
 論文のPECOを読む
 ランダム化かどうか読む
 ITT解析かどうか読む
 割り付けの隠蔽を読む
 マスキングを読む
結果は何か?
 一次アウトカムの結果を信頼区間で読む
取り上げる論文

Rehabilitation after myocardial infarction
 trial (RAMIT): multi-centre randomised
 controlled trial of comprehensive cardiac
 rehabilitation in patients following acute
 myocardial infarction
Heart 2012;98:637e644.
論文のPECO:RAMIT
 Patient:急性心筋梗塞で入院し、28日以内に退院し自
 宅へ戻った患者

 Exposure:心臓リハビリ(運動、健康教育、カウンセリン
 グ、二次予防のためのアドバイス)を毎週、または隔週
 で20時間、6-8週継続

 Comparison:通常治療

 Outcome:2年次の死亡率(一次アウトカム)
                    Heart 2012;98:637e644.
介入研究のバイアス




  ランダム化、ITT、マスキング、隠蔽
抽出、割付、追跡、評価、解析
選択バイアス    交絡因子     情報バイアス




  ランダム化



         隠蔽      マスキング   ITT解析
ランダム化とITT解析

ランダム化
  割り付け時の交絡因子の排除
ITT(Intention to Treat)解析
  脱落者を含め解析
  解析時の交絡因子の排除
  リアルワールドでの解析
隠蔽と盲検
隠蔽
 これから割り付けようとするものがどちらか不明
 これまでの割付表が伏せられている
盲検
 既に割り付けられたものがどちらか不明


情報バイアスを排除する
研究デザインのチェック1

ランダム化
 表題にランダム化比較試験と書かれている
ITT解析
 Sample size and analysesに記載あり
研究デザインのチェック2

隠蔽(concealment)
 Randomisationに「中央割り付け」の記載あり
マスキング
 Patient assessments at baseline and at
  follow-up were undertaken ‘blind’ by trained
  researchers independently of care providersと
  記載あり
 PROBE法
結果を表す指標
相対危険 Relative Risk: RR
  a/(a+b) / c/(c+d)
  1より小さければ有効、1より大きければ有害
治療必要数 Number Needed to Treat: NNT
   1/( (c/(c+d)- a/(a+b) )
  小さければ小さいほど有効

                              Exp   Control
                Event(+)       a      c
                Event(-)       b      d
                              a+b    c+d
信頼区間

研究結果は一部の対象からのデータ
一部のデータから全体を類推する
 世の中の超高齢者高血圧患者全体で検討した
  らどれくらいの範囲に収まるか
 95%の確率で収まる範囲
  95%信頼区間
  有意水準0.05に対応する
母集団における真の値を類推する
標本から母集団を類推する

         15-50%減少
   母集団



             区間推定




    標本   36%減少
危険率と信頼区間:読み方のまとめ

 Pの見方
 0.05未満なら有意差あり
 95%信頼区間の見方
 上限・下限のチェック
   有意な差あり→「有効」ではない!
   有意な差なし→「無効」ではない!
結果1

介入群での死亡 9.1% (82/903)
対照群での死亡 9.2% (84/910)
相対危険 0.98 (0.74~1.30)
メタ分析の結果をみる

Exercise-Based Rehabilitation for
 Patients with Coronary Heart
 Disease: Systematic Review and
 Meta-analysis of Randomized
 Controlled Trials
Am J Med. 2004;116:682– 692.
論文の概要

P:冠動脈疾患患者、6か月以上の追跡期間
E: 構造化された運動プログラム
C: 通常ケア
O:総死亡、心死亡、非致死性心筋梗塞、血
 行再建術、リスク因子の変化、健康関連QOL

48のRCTのメタ分析
主な結果

オッズ比(相対危険)
 総死亡     0.80 (0.68 to 0.93)
 心臓死     0.74 (0.61 to 0.96)


RCTの結果との比較(総死亡)
 相対危険 0.98 (0.74~1.30)
信頼区間はかなり重なっている!
結果をブロボグラムで見る
結果の違いをバイアスで考える

出版バイアス
 小規模で有効という結果が出た試験のみが出版
  された
異質性バイアス
 内科治療、カテーテルによるインターベンション、
  手術治療の進歩により、以前はインパクトがあっ
  たリハビリの効果が相対的に小さくなった
実際の論文でどうか

出版バイアス
 Funnel plot、Eager testで出版バイアスは認め
  られない
異質性バイアス
 論文の出版時期によって効果に違いはない
このメタ分析に決定的なバイアスはない?
大規模RCTの結果との食い違いの解釈は?
ベイズ統計による結果の解釈




  検定とっくに捨てた
  さらに信頼区間も捨てる
推定・検定統計とベイズ統計

推定・検定統計
 真の値が想定されている
 真の値を類推する
ベイズ統計
 主観的な事前確率からスタートする
 真の値も変数である
危険率からベイズ統計へ

仮説の確からしさは事前確率に左右される
有意水準0.05で棄却された仮説であっても、
 事前確率が高い仮説であれば、まだ有効な可
 能性は高い
 有効というメタ分析がある仮説の事前確率は高い
 それを一つのRCTで否定してよいのか
危険率(αエラー)と検出力(1-β)

       真の差
             (-)   検出力=
       (+)
                   a/(a+c)
統計上の
差(+)   a     b     危険率=
                   b/(b+d)
(-)    c     d
ベイズの定理

事前オッズ x 尤度比 = 事後オッズ
事前オッズ
 臨床試験開始以前の仮説の確からしさ
尤度比
 危険率と検出力から求められる
 陽性尤度比=検出力/危険率
 陰性尤度比=(1-検出力)/(1-危険率)
有効というメタ分析が出た

検討以前には有効かどうか五分五分と仮定
 事前確率 1/2   事前オッズ 1
危険率0.05、検出力0.9で有意に有効という
 メタ分析
 事前オッズ×陽性尤度比=事後オッズ
 陽性尤度比=検出力/危険率=0.9/0.05=18
 1×18=18
 事後確率 18/19=95%
差がないというRCTの後で

有意水準0.05で有効というメタ分析がある
 事前確率    95% 事前オッズ 95/5
危険率0.05、検出力0.9で計画されたランダ
 ム化比較試験で統計学的な差なし
 陰性尤度比 (1-検出力)/(1-危険率)=0.1
 事後オッズ (95/5)・0.1 = 1.9
 事後確率 約66% = 1.9/(1+1.9)
ベイズ統計学的な解釈

メタ分析以前に有効かどうか五分五分と仮定
有意水準0.05で有効というメタ分析の後で、
 有意水準0.05で無効というRCTが発表
 有効である確率はまだ65%以上残る
 危険率0.05で有意差なしとは異なる解釈
 さらなるRCTが必要
 バイアスは別ですが
エビデンスのあいまいさ

あらゆるエビデンスは
 統計学的に曖昧
 バイアスの影響により曖昧
対処法として
 研究デザインの批判的吟味
 信頼区間、ベイズ解析
しかし、それを現場につなげるのは臨床医
EBMの5つのステップ

1. 問題の定式化
2. 問題についての情報収集
3. 得られた情報の批判的吟味
4. 情報の患者への適用
5. 1-4のステップの評価
臨床医の役割

曖昧なエビデンスをいかに個別の患者に生
 かすか
 臨床能力に
 統計学と研究デザインの知識を加味して
 いくつかのエビデンスを追加し
 個別の患者に最善の医療を提供するのが
 臨床医の役割
実際の現場で

リハビリをがんばらない患者を叱るのはやめ
 よう
リハビリをがんばりすぎる患者には、そんな
 に無理しなくてもと言えるかもしれない
心カテのようにコストが大きくないから、やれ
 ばいいと思う
リハビリの害についての評価が重要
参考までに

ステップアップEBM実践ワークブック(南江堂)
続EBM実践ワークブック(南江堂)
臨床研究のABC(メディカルサイエンス社)
コモンディジーズ常識のうそ(ケアネットDVD)
質問があれば




  何でも聞いてください
  反論、感想でも結構です

2012心臓リハビリ