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回復期リハビリテーション病棟入院中の
   脳卒中患者の自己効力感・統制感と
       ADL ・ QOL の関係
      Relationship of self-efficacy,locus of control and ADL,QOL of stroke patients
                           in convalescent rehabilitation wards




 西川俊永 1)2)  藺牟田洋美 3)  小野麻耶 1)  松本薫 1)

 3)湯河原厚生年金病院 リハビリテーション室
 4)首都大学東京大学院 人間健康科学研究科 作業療法科学域  博士後期課
 程
 5)首都大学東京大学院 人間健康科学研究科

2012/6/15
目的
在宅脳卒中後遺症者では,
b.ADL が向上することで自己効力感や統
制感が高まり,障害を肯定する ( 外富ら
, 2006)
c.QOL の向上と自己効力感の向上に相関
関係がある(神島ら, 2004 )
              と言われている.
     回復期リハビリテーション病棟(以下回復期
     病棟)に入院している脳卒中後遺症者で自己
     効力感・統制感と ADL ・ QOL の関係は?
2012/6/15
自己効力感とは
自己効力感とはある行動をうまくやることが
できるという自信がある時はその行動を取る
可能性が高いという考え
( Bandura , 1977 ).
            できるという自信が強い




             やってみよう!


2012/6/15
統制感とは
統制感とは自分の行動を決める強化として自
身の支配下にする(内的統制)か,外的な力
にする(外的統制)かで,行動の生起可能性
が左右されるという考え( Rotter , 1966 )
.
   内的統制            外的統制

病気は自分のせい        病気は運が悪かった

     病気を自分の行動によって変えられると
     考える ( 内的統制感が高い ) 人は,治療
     行動を行いやすい ( 松本, 2002)
方法
・対象者:
2011 年 5 月~ 2012 年 5 月に Y 病院の回復期病棟に入院した
   脳卒
中患者の内,除外規定を満たさず,研究内容に同意した 24
   名
( 男性 17 名,女性 7 名, 69.71±10.97 歳 ) .
・測定材料:
f. 転倒関連自己効力感尺度(以下 FES ,加藤ら, 2010 )
g. Health of Locus of control 尺度(以下 HLOC ,渡
   辺, 1985 )
h. SF-8 (素点を使用,福原ら, 2005 )
i. Functional Independence Measure (以下 FIM )
・研究デザイン:
回復期病棟の入院時,退院時に上記材料を測定.
・結果の処理:
入院時・退院時の測定値に対して Mann-Whitney の U 検定 ,
Spearman の順位相関係数を求めた.
・倫理的配慮:
測定内容(質問項目)
ES                    HLOC
際にできるかどうかは別として,転      「そう思う」,「ややそう思う」
ことなく行える自信の程度を 10 尺度   ,
て回答                   「ややそう思わない」,「そう思
                      わない」の 4 尺度にて回答
入浴する
戸棚やタンスを開ける           ・病気になった場合,その原因を
簡単な食事を用意する           自分がとった行動にあると思いま
ベッドの周りを歩く            すか
ベッドに寝たり,起き上がったりする    ・病気になる時は,努力しても避
椅子に坐ったり立ったりする        けられないと思いますか
                     ・病気になる時,それは自分のお
               など 10 項目
                     かれている環境のせいだと思いま
 点満点,得点が高い方が自己効      すか
感が高い.                ・適切な行動をとっていれば健康
                     に暮らせると思いますか
                                    
  2012/6/15           など 14 項目
結果①
   <基本的属性>
   疾患:脳梗塞 15 名,脳出血 9 名
   平均在院日数: 51.17±23.87 日
   退院先:自宅 21 名,施設 3 名
                            入院時           退院時       p値
   FIM セルフケア+運
           動           58.46±16.97    73.75±14.95   p<.05
        ( 平均値 )
    FIM 合計 ( 平均値 )     86.71±18.71   104.00±14.95   p<.05


   <入退院時の FIM ・ FES の相関係数
   > 入院時 退院時    いずれも有意な正の相関関係が認められた
            0.66     0.77      (p<.05).


2012/6/15
結果②




               内的

入院時, ADL に応じ          退院時,獲得した ADL によって, HLOC
                      と
て, HLOC が高いと SF-8 は   SF-8 の関係が異なった.
低い傾向が認められた.           FIM91 ~ 108→HLOC が高いと SF-8 が高
                      い
考察①
(1)FIM と FES で正の相関関係が認められた.
→ADL が改善すると同時に転倒関連自己効力感も
改善している.
(2) 先行研究では
① 脳卒中後遺症者は内的統制感であるほど「してい
    る ADL 」「できる ADL 」が一致している ( 大嶋
    ら, 1999) .
② 一般的に内的統制であるほど自己効力感は高い
( 東條, 1983) .
 以上を考慮すると,「内的統制であるほどでき
    る ADL は行えており,それらへの自己効力感
    も高く,
健康関連 QOL も高い」はずである.
2012/6/15
考察②
① 退院時 FIM109 ~ 126 点の対象者
→ 内的統制感が高いと QOL は高く,外的統制感が高いと QOL
は低い結果となった.先述の患者像と一致した.
② 退院時 FIM91 ~ 108 点の対
象者
→ 内的統制感が高いと QOL は低
く,外的統制感が高いと QOL は
高い結果となった.


ADL 能力によって, QOL と統
制感の関係は変化し,ニーズ
を踏まえた関わりが必要.
 2012/6/15
考察②
① 退院時 FIM109 ~ 126 点の対象者
→ 内的統制感が高いと QOL は高く,外的統制感が高いと QOL
は低い結果となった.先述の患者像と一致した.
② 退院時 FIM91 ~ 108 点の対
象者
→ 内的統制感が高いと QOL は低
く,外的統制感が高いと QOL は
高い結果となった.


ADL 能力によって, QOL と統
制感の関係は変化し,ニーズ
を踏まえた関わりが必要.
 2012/6/15

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回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者の自己効力感・統制感とadl・qolの関係

  • 1. 回復期リハビリテーション病棟入院中の 脳卒中患者の自己効力感・統制感と ADL ・ QOL の関係 Relationship of self-efficacy,locus of control and ADL,QOL of stroke patients in convalescent rehabilitation wards 西川俊永 1)2)  藺牟田洋美 3)  小野麻耶 1)  松本薫 1) 3)湯河原厚生年金病院 リハビリテーション室 4)首都大学東京大学院 人間健康科学研究科 作業療法科学域  博士後期課 程 5)首都大学東京大学院 人間健康科学研究科 2012/6/15
  • 2. 目的 在宅脳卒中後遺症者では, b.ADL が向上することで自己効力感や統 制感が高まり,障害を肯定する ( 外富ら , 2006) c.QOL の向上と自己効力感の向上に相関 関係がある(神島ら, 2004 ) と言われている. 回復期リハビリテーション病棟(以下回復期 病棟)に入院している脳卒中後遺症者で自己 効力感・統制感と ADL ・ QOL の関係は? 2012/6/15
  • 4. 統制感とは 統制感とは自分の行動を決める強化として自 身の支配下にする(内的統制)か,外的な力 にする(外的統制)かで,行動の生起可能性 が左右されるという考え( Rotter , 1966 ) . 内的統制 外的統制 病気は自分のせい 病気は運が悪かった 病気を自分の行動によって変えられると 考える ( 内的統制感が高い ) 人は,治療 行動を行いやすい ( 松本, 2002)
  • 5. 方法 ・対象者: 2011 年 5 月~ 2012 年 5 月に Y 病院の回復期病棟に入院した 脳卒 中患者の内,除外規定を満たさず,研究内容に同意した 24 名 ( 男性 17 名,女性 7 名, 69.71±10.97 歳 ) . ・測定材料: f. 転倒関連自己効力感尺度(以下 FES ,加藤ら, 2010 ) g. Health of Locus of control 尺度(以下 HLOC ,渡 辺, 1985 ) h. SF-8 (素点を使用,福原ら, 2005 ) i. Functional Independence Measure (以下 FIM ) ・研究デザイン: 回復期病棟の入院時,退院時に上記材料を測定. ・結果の処理: 入院時・退院時の測定値に対して Mann-Whitney の U 検定 , Spearman の順位相関係数を求めた. ・倫理的配慮:
  • 6. 測定内容(質問項目) ES HLOC 際にできるかどうかは別として,転 「そう思う」,「ややそう思う」 ことなく行える自信の程度を 10 尺度 , て回答 「ややそう思わない」,「そう思 わない」の 4 尺度にて回答 入浴する 戸棚やタンスを開ける ・病気になった場合,その原因を 簡単な食事を用意する 自分がとった行動にあると思いま ベッドの周りを歩く すか ベッドに寝たり,起き上がったりする ・病気になる時は,努力しても避 椅子に坐ったり立ったりする  けられないと思いますか ・病気になる時,それは自分のお                など 10 項目 かれている環境のせいだと思いま 点満点,得点が高い方が自己効 すか 感が高い. ・適切な行動をとっていれば健康 に暮らせると思いますか                 2012/6/15  など 14 項目
  • 7. 結果① <基本的属性> 疾患:脳梗塞 15 名,脳出血 9 名 平均在院日数: 51.17±23.87 日 退院先:自宅 21 名,施設 3 名 入院時 退院時 p値 FIM セルフケア+運 動 58.46±16.97 73.75±14.95 p<.05 ( 平均値 ) FIM 合計 ( 平均値 ) 86.71±18.71 104.00±14.95 p<.05 <入退院時の FIM ・ FES の相関係数 > 入院時 退院時 いずれも有意な正の相関関係が認められた 0.66 0.77 (p<.05). 2012/6/15
  • 8. 結果② 内的 入院時, ADL に応じ 退院時,獲得した ADL によって, HLOC と て, HLOC が高いと SF-8 は SF-8 の関係が異なった. 低い傾向が認められた. FIM91 ~ 108→HLOC が高いと SF-8 が高 い
  • 9. 考察① (1)FIM と FES で正の相関関係が認められた. →ADL が改善すると同時に転倒関連自己効力感も 改善している. (2) 先行研究では ① 脳卒中後遺症者は内的統制感であるほど「してい る ADL 」「できる ADL 」が一致している ( 大嶋 ら, 1999) . ② 一般的に内的統制であるほど自己効力感は高い ( 東條, 1983) .  以上を考慮すると,「内的統制であるほどでき る ADL は行えており,それらへの自己効力感 も高く, 健康関連 QOL も高い」はずである. 2012/6/15
  • 10. 考察② ① 退院時 FIM109 ~ 126 点の対象者 → 内的統制感が高いと QOL は高く,外的統制感が高いと QOL は低い結果となった.先述の患者像と一致した. ② 退院時 FIM91 ~ 108 点の対 象者 → 内的統制感が高いと QOL は低 く,外的統制感が高いと QOL は 高い結果となった. ADL 能力によって, QOL と統 制感の関係は変化し,ニーズ を踏まえた関わりが必要. 2012/6/15
  • 11. 考察② ① 退院時 FIM109 ~ 126 点の対象者 → 内的統制感が高いと QOL は高く,外的統制感が高いと QOL は低い結果となった.先述の患者像と一致した. ② 退院時 FIM91 ~ 108 点の対 象者 → 内的統制感が高いと QOL は低 く,外的統制感が高いと QOL は 高い結果となった. ADL 能力によって, QOL と統 制感の関係は変化し,ニーズ を踏まえた関わりが必要. 2012/6/15

Editor's Notes

  1. よろしくお願いします. 一部本発表と抄録が異なります. ご了承ください.
  2. 先行研究では在宅脳卒中後遺症者の自己効力感・統制感と ADL ・ QOL の関係について ADL が向上することで自己効力感や統制感が高まり,障害を肯定するようになること, QOL の向上と自己効力感の向上に相関関係があることが指摘されています. そこで本研究の目的は回復期リハビリテーション病棟,以下回復期病棟に入院している脳卒中患者で,自己効力感・統制感と ADL ・ QOL の関係を明らかにすることです.
  3. ここで自己効力感とはある行動をうまくやることができるという自信がある時はその行動を取る可能性が高いという考えのことをいいます. ある行動に対してできるという自信が強ければやってみよう,と思い,実際に行動するとされます.
  4. 次に統制感とはスライドにあるような定義であり,病気について自分の行動によって病気になったと考える人,つまり内的統制感が高い人は,治療行動を積極的に行う,逆に病気について運が悪かったと考える人や他人に依存すれば治ると考える人,つまり外的統制感が高い人は,治療行動を主体的に行わないことが明らかになっています.
  5. 方法です. 対象者は 2011 年 5 月~ 2012 年 5 月まで当院回復期病棟に入院した脳卒中患者のうち,改訂版長谷川式簡易知能検査で 19 点以下,失語症・見当識障害・病識の低下が認められるなどの入院患者を除外した上で,研究内容を説明し同意した 24 名でありました. 測定材料は転倒関連自己効力感尺度,以下 FES ,統制感の尺度として Health of Locus of control 尺度,以下 HLOC , QOL 測定のために SF-8 , Functional Independence Measure ,以下 FIM を使用しました. 研究デザインはそれら測定材料を回復期病棟の入院時,退院時の 2 回測定を行いました. 結果の処理と倫理的配慮はスライドにあるように行いました.
  6. FES と HLOC の測定内容をスライドに示します. FES は入浴する,戸棚やタンスを開ける,簡単な食事を用意するなどの質問項目に対して実際に出来るかどうかは別として,転ぶことなく行える自信の程度を 10 尺度にて回答します. 10 項目,合計 100 点で得点が高い方が自己効力感が高いとします. HLOC は病気になったときその原因を自分が取った行動にあると思いますか,病気になる時は努力しても避けられないと思いますか,など「そう思う」「ややそう思う」「ややそう思わない」「そう思わない」の 4 尺度にて回答し, 14 項目, 56 点満点で得点が高い方が内的統制感が強いとします.
  7. 結果です. 基本的属性はスライドに示す結果となりました. FIM 合計は入院時 86.71±18.71 ,退院時 104.00±14.95 でした.入退院時で有意な差が認められました. 入退院時の FIM と FES の相関係数は入院時 0.66 ,退院時 0.77 といずれも有意な正の相関関係が認められました.
  8. FIM 合計点でスライドに示すように 90 点以下, 91 点から 108 点, 109 点から 126 点の 3 群に分け,入退院時の SF-8 と HLOC との散布図を求め示します. SF-8 は素点で処理しているため,得点が低い方が QOL が高いことを示します. HLOC は得点が高い方が内的統制感を持つことを示します. 入院時は ADL が高いほど HLOC が高いと SF-8 は低くなる傾向が散布図から読み取れました. 退院時は ADL 能力によって HLOC と SF-8 に傾向の違いが認められました. FIM が 91 ~ 108 ではオレンジ色の円のように HLOC が高いと SF-8 が高く, FIM が 109 ~ 126 では逆にピンク色のように HLOC が高いと SF-8 が低い傾向が散布図から読み取れました.
  9. 本結果の FIM と FES で正の相関関係が認められた結果から, ADL が改善すると同時に転倒関連自己効力感も改善していることが明らかになりました. 先行研究では入院している 脳卒中後遺症者で内的統制感であるほど「している ADL 」「できる ADL 」が一致していること, 一般的に内的統制であるほど自己効力感は高いこと,から 内的統制であるほどできる ADL は行えており,それらへの自己効力感も高く,健康関連 QOL も高いはずである という患者像が考えられます.
  10. 退院時 FIM109 ~ 126 点の対象者は内的統制感が高いと QOL は高く,外的統制感が高いと QOL は低い結果となり,先述の患者像と一致しました. 一般的に内的統制感が高い対象者には,その健康行動を伸ばすことが必要であると考えられ,脳卒中後遺症者もそのような関わりが必要ではないかと考えられます. 一方,外的統制感が高い対象者は ADL ができるにも関わらず, QOL が低く,何ができないと考えているのか具体的に理解する必要があると考えます.
  11. 退院時 FIM91 ~ 108 点の対象者は ADL が見守り~自立レベルであり,一人でできるかできないかの境界にいると思われます.内的統制感が高いことでもっと治るはずだ,できないことが多すぎるという心理状態も考えられ,本人の障害への理解,ニードを踏まえた上での関わりが必要であると思われます. 以上の結果から ADL 能力によって, QOL と統制感の関係は変化するという 3 つの指標の関係が明らかになりました. 今後の課題として,回復過程で ADL 能力により相関関係が逆転したことの分析が必要だと思われます. さらに,これら 3 つの指標の関係が在宅生活の中でどう変化し,在宅生活をどう過ごしているのか追跡することが必要であると考えます. 以上で発表を終わります.ご静聴ありがとうございました.