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1 0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について 0.1.1 ゼータ函数の特殊値 ゼータ函数 ζ(s) の特殊値について、少し述べてみたい。ご存知のように、ゼー タ函数の変数 s にある値(特に整数値)を代入れて、その函数の値 ζ(s) を計算し た結果を「特殊値」といいます。一番簡単な例として s = 2 を代入すると下記の ようになります。 ∞ 1 1 1 π2 ζ(2) = (2) = 1 + + 2 + 2 + ··· = (1) 22 3 4 6 n=1 ここですでに驚くべきことがあります。左辺のゼータの定義には「円」の姿も形 も一見ないのですが、右辺の分子には π 2 という「円」の片鱗が現れてくること です。自然数の二乗の逆数の無限和から π 2 という超越数が出てくるのです。何 故このようなことが起きるのかがまず不思議で神秘的です。1735 年頃に Euler が 非常に苦労した末、この結果を示したようです。ゼータ函数の特殊値の研究は、 その後も永い年月を経ても系統的に研究が進められています。数論に興味のある 人はみなこの不思議と神秘に惹かれるのではないかと思うわけです。1 ゼータ函数は、数論の不思議を一身に背負っている函数です。1 での値は極と なるのですが、これが最も数論の不思議を体現しています。例えば次の式の第一 の式(無限和)は無限大になりますので、無限積も無限大にならねばならず、こ のことは素数が無限に存在することを意味しています。もし素数が有限個であれ ば第二の式(無限積)は有限の値になります。 ∞ 1 1 1 ζ(1) = (1) = 1 + + + + ··· 2 3 4 n=1 ∞ 1 1 1 = (1 − p−1 )−1 = 1 ··· (2) p (1 − 2 ) (1 − 3 ) (1 − 5 ) 1 1 この背景にゼータ函数が(整数についての無限和)=(素数についての無限積) の形にかけることがあります。 ∞ ∞ −s ζ(s) = n = (1 − p−s )−1 (3) n=1 p 1 この等式 (1) と同じく、以下の式も定義を変えたゼータ函数の特殊値です。 (Leibniz の公式) 1 1 1 1 1 π 1− + − + − + ··· = 3 5 7 9 11 4 1 1 1 1 π3 1− + 2 − 2 + 2 − ··· = 32 5 7 9 32 (Dirichlet 公式) 1 1 1 1 1 1 1 √ 1− − + + − − + · · · = √ log (1 + 2) 3 5 7 9 11 13 2 この log がでてくるところも非常に興味深いところです。(単数基準として類数公式で重要な役目 を果たします。 )
2.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
2 Euler は、任意の偶数 2m でのゼータ函数の値を求めるため、(1) を一般化 して、 B2m 2m ζ(2m) = (−1)m+1 22m−1 π , m ∈ 1, 2, 3, . . . (4) (2m)! であることを示しました。ここで Bn はベルヌイ数と呼ばれる有理数で、 ∞ t tn t−1 = Bn (4) e n! n=1 として無限級数展開の係数として定義されます。 2m でのゼータ函数の値は、 (有理数)× π 2m で書くことができます。このよ うなことができること自体がきわめて不思議です。ここで具体的に 2m の値、B2m の分子、B2m の分母、ζ(2m) の値を一覧表にします。 正の偶数でのゼータの値 2m B2m の分子 B2m の分母 ζ(2m) の値 2 1 6 ζ(2) = 1 π 2 = 2×3 π 2 6 1 4 1 30 ζ(4) = 90 π = 2×312 ×5 π 4 1 4 1 6 1 42 ζ(6) = 33 ×5×7 π 6 1 8 1 30 ζ(8) = 2×33 ×52 ×7 π 8 1 10 5 66 ζ(10) = 35 ×5×7×11 π 10 691 12 691 2730 ζ(12) = 36 ×53 ×72 ×11×13 π 12 . . . . . . . . . . . . 脚注 (1) のように、ゼータ函数を全複素平面に解析接続2 すると、この正の偶 数での値と負の奇数での値は本質的には同じであり、 B2m ζ(1 − 2m) = − 2m となることが示せます。この不思議なところは、負の奇数でのでゼータ函数の値 は、(π を含まない) 純粋な有理数となることです。これも同様に一覧にします。 2 ゼータ函数は、Re(s) > 1 のとき絶対収束するので、全複素平面に解析接続されます。さらに 函数等式 „ « „ « s 1−s π −2/3 Γ ζ(s) = π −(1−s)/2 Γ ζ(1 − s) 2 2 を満たします。ここでガンマ函数は Z ∞ Γ(s) = e−x xs−1 dx 0 で定義されます。このことはリ−マンにより示されました。このことより、偶数でのゼータの値 (4) は、2m ≥ 2 とすると B2m ζ(1 − 2m) = − 2m となります。
3.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
3 虚数軸 ● 非自明なゼロ点は実部1/2 オイラーの発見した ● の直線上にあるであろう 自明なゼロ点 リーマン予想 ○ ○ -4 -2 -1 0 1/2 1 2 実軸 実部が1より大きい 領域にはゼロ点はない ● ● Figure 1: ゼータ函数のゼロ点 負の奇数でのゼータの値 2m ζ(1 − 2m) の値 2 ζ(−1) = − 12 = − 221 1 ×3 1 1 4 ζ(−3) = 120 = 23 ×3×5 6 ζ(−5) = − 252 = − 22 ×32 ×7 1 1 1 1 8 ζ(−7) = 240 = 24 ×3×5 10 ζ(−9) = − 132 = − 22 ×3×11 1 1 691 691 12 ζ(−11) = 32760 = 23 ×32 ×5×7×11 . . . . . . さらに、負の偶数部分に対しては、ζ(1 − 2m) = − B2m での 2m = n として 2m 適用できて、ここでのゼータの特殊値がゼロとなります。これらはオイラーが発 見した自明なゼロ点と言います。例えば、ζ(−2) = 0, ζ(−4) = 0, . . . となります。 また ζ(0) = − 1 でこのことは函数等式から示すことができます。一方、s > 1 の 2 領域にはゼロ点はありません。このことをまとめて「ゼータ函数のゼロ点」に図 示します。また、ゼータ函数の性質について • オイラー積を持つ(公式 (3))をもつ。 • 函数等式を満たす。f (s) = f (1 − s) の形となる。 がでてきましたが、もうひとつ重要な性質として、リーマンのゼータ函数につい て証明されていませんが、リーマン予想があります。それは、 • ゼータ函数の非自明なゼロ点は、実部が 1/2 上のみにあるであろう。 というものです。このことは、この図では実部が 1/2 の直線上に (非自明な) ゼロ 点が載っていることになります。
4.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
4 0.1.2 奇数での値の不思議 正の偶数については式 (4)3 のように法則性もあり、超越数であることがわかっ ています。それに対して、奇数でのゼータの値については、多くの努力にもかか わらずよくわかっておりません。ナイーブに、偶数については法則性があるから、 奇数にも法則性があってもよいのではないかと考えるのです。これが見つかって いないということが現状で、しかし、事態は少しづつ打開されつつあるようです。 • 1735 年頃オイラーは偶数でのゼータの値の研究のみならず、ζ(2m + 1) の 研究もしていて、ζ(3) を三重 sin 函数で表すことをやっていたようです。オ イラーも奇数でのゼータの値には注意を払っていて、何らかの法則性を期 待していたのだと思います。4 • 1882 年、リンデマンは π の超越性を証明しました。数の超越性研究の出発 点でしょう。 • 1979 年、アぺリが ζ(3) の無理性を証明しました。 • 1884 年-1885 年にボイカースらにより、アぺリの結果の再評価がなされま した。 • 2000 年 リボワールにより、アペリの結果が拡張されました。(ζ(s) の奇数 の値を持つ線型系を構成し、ζ(3), ζ(5), ζ(7), . . . の中に無限個の超越数が 存在することを示し、ζ(3), ζ(5), . . . , ζ(a) で張られる空間の次元 δ(a) は、 a → ∞ のときに、 log a δ(a) ≥ (1 + O(1)) 1 + log 2 であることを示しました。(奇数でのゼータの値は、線型独立な超越数に なっているものが無限にあるということを意味します。) • 2004 年頃、ズディーリンにより、ζ(5), ζ(7), ζ(9), ζ(11) のうち、どれか一 つは超越数であることが証明されました。 奇数でのゼータの値の超越性の証明と値そのものの研究は、比較的最近になって 少しづつ前進し始めているように思われます。5 3 奇数でのゼータ値の研究者の W.Zudilin さんは次のように (4) を次のように表しておられま す。彼は岩波の数学辞典に第 4 版となってから名前が出ています。奇数でのゼータの値の超越性を 研究しておられます。 ∞ X 1 (2πi)2k B2k 2 =− , k = 1, 2, 3, . . . n=1 n2k (2k)! 式 (4) の書き方も複数通りあるようです。 4 黒川先生の本か雑誌の記事にかいてありました。 5 期待を込めて想像するには、ゼータ函数の漸近的に評価する式に現れる微分方程式が、K3 曲面 の Picard-Fuchs 方程式になっていて、これをミラー対称性を使って Landau-Ginzburg モデルへ 写して評価するようになっているという。なんとこんなところにも数理物理の最近の結果が登場し ています。Sato-Tate 予想の証明にも Calabi-Yau 多様体の族が出てきていました。楕円曲線(複 素1次元) K3 曲面(複素2次元) Calabi-Yau 多様体(複素3次元)と、高次元の Calabi-Yau 、 、 多様体が数論で大活躍する日も近いのではないでしょうか。ご存知のように 1 次元は既に大活躍 しています。
5.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
5 Ramanujan の多くの原稿の中に既にあるらしいのですが、2006 年以後に、論 文サーバに下記の結果が提出されています。 ∞ 7π 3 1 ζ(3) = −2 180 n3 (e2πn − 1) n=1 だとか、 ∞ 19π 7 1 ζ(7) = −2 56700 n7 (e2πn − 1) n=1 や、奇数 4m − 1 に対して、 ∞ 2m 1 1 B2j B4m−2j ζ(4m − 1) = −2 (e 2πn − 1) − (2π)4m−1 (−1)j n4m−1 2 (2j)!(4m − 2j)! n=1 j=0 これらの等式がどのように導出されるのかの原理を理解しておりませんので、背 景や評価は述べられませんが、長い間、奇数でのゼータ函数の値はほどんどわ かっていない時代が過ぎ、21 世紀になりとっかかりだけはある時代へ移行してき ているように感じます。何かの規則性がきっとあるはずです。 ところで、全くの後知恵であり、おそらく厳密さや収束の問題はあるかもし れないのですが、ゼータ函数の特殊値を求める面白い式を紹介します。 2003 年 ( 頃の私のノートにあったものです。 6 sin を Taylor 展開する。 ) ∞ (−1)m 2m+1 x3 x5 sin x = x =x− + ··· (2m + 1)! 3! 5! m=0 一方、sin x を多項式と見て、根は Z にあるとすると、 ∞ x2 sin x = x (1 − ) n2 π 2 n=1 x2 x2 x2 = x(1 − )(1 − 2 2 )(1 − 2 2 ) × · · · π2 2 π 3 π ∞ 1 1 =x− 2 x3 + · · · π n2 n=1 ここで、x3 の係数を考えると、Taylor 展開からくるところの係数は 1/6 であり、 1 強引に多項式で近似した第二式の x3 の係数は π2 ζ(2) であるから、 π2 ζ(2) = 6 6 と書いたのであるが、9 月 20 日に図書館で数論 I(岩波出版)を始めて手にしてみました。何 とこの式と全く同じ論法が、 「ゼータの値の不思議」の先頭に書いてありました。驚くというより 安堵したというのが正直なところです。しかも数論 I には Euler の導出した式 (4) の導き方(有理 多項式の微分による漸化式を使う)が証明付きで記載されています。どの数論の本にも書いてある のかもしれません。私はどこかの雑誌で見たものを 2003 年にノートに書いておいただけです。経 過はともあれ、この論法は非常に面白い。多分オイラーもこの方法だったのだろうと思ったわけで す。
6.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
6 が出てきます。この方法で考えると n = 2, 4, 6, 8, . . . の偶数でのゼータの値は何 とか出てきそうですが、奇数での値は全く出てきません。このことは直観的にも 理解いただけると思います。 正の奇数でのゼータの値は、ζ(5), ζ(7), ζ(9), ζ(11), . . . について、素数での値 は代数的に独立な超越数ではないかというのが、 「勝手な憶測」といったところ です。しかもこれらの値は多重対数関数となっている。7 0.1.3 特殊値の分子と分母 ゼータ函数の整数での値を整理します(ゼロと 1 を除いて)。 • ゼータ函数の s が正の偶数であるときの値は、ζ(s) =(有理数)×π s • ゼータ函数の s が正の奇数であるときの値は、未だ良く理解されていない • ゼータ函数の s が負の偶数であるときの値は、ζ(s) = 0 • ゼータ函数の s が負の奇数であるときの値は、ζ(s) =(有理数) であることをご理解いただけたと思います。これ自体が不思議ですが、さらに進 んで、この有理数がどのようになっているかを考えます。すると特に有理数の分 子が、数論の重要な情報を教えてくれるようです。 もう一度、負の奇数でのゼータの値の表を書き直します。分子と分母の値を それぞれ Nr , Dr を加え、再度掲げ直します。 (本質的には函数等式が成り立つの で負の値でも正の値でも同じことが言えます。 ) 1. 負の奇数でのゼータの値は、2/m が偶数のとき(2m が 4 で割りきれると き)は正の値、2/m が奇数のとき(2m が 4 で割りきれないとき)は負の 値です。 2. この有理数の分母を Dr としますと、任意の素数 p が分母 Dr を割りきるこ とと、p − 1 が 2m を割ることとは同値。 これを確かめます。項目 1 については、 ζ(−1) < 0, ζ(−3) > 0, ζ(−5) < 0, ζ(−7) > 0, ζ(−9) < 0, ζ(−11) > 0, . . . となっていて、確かに成立しています。このことはゼータ函数の函数等式から証 明ができます。s → −∞ となるとゆっくりと振動が収まるような動きをしてい ます。 項目 2 については、確かに先頭のいくつかについて成立していることがわか ります。このことから分母には 2m + 1 よりも大きな素数は出現しないこともわ 7 Zagier さんは、ζk (s) の正整数点での値が多重対数関数の適当な代数点での値を用いて表され ることを予想し、s = 2 の場合に、ζk (2) が 3 次元双曲多様体の体積として現れることを使って証 明しました。この方向の研究は多く研究されています。
7.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
7 かります。この証明は岩沢理論からすぐに出てくるのだそうです。これを正しい と認めると分母については有限回の操作でほぼ求められることがわかります。 この表の最後に ζ(−11) の分子に 691 が突然出現しています。この突然は一回 きりではなく無限に続きます。 負の奇数でのゼータの値 2m 分子 Nr 分母 Dr ζ(1 − 2m) の値 p =? にて p が Dr を割るとき○ p − 1 が 2m を割るという条件が同値 2 1 22 · 3 ζ(−1) = − 12 = − 221 1 ×3 p=2○ p=3○ p=5× 4 1 23 · 3 · 5 1 1 ζ(−3) = 120 = 23 ×3×5 p=2○ p=3○ p=5○ p=7× 6 1 22 · 32 · 7 ζ(−5) = − 252 = − 22 ×32 ×7 1 1 p=2○ p=3○ p=5× p=7○ p = 11 × 8 1 24 · 3 · 5 1 1 ζ(−7) = 240 = 24 ×3×5 p=2○ p=3○ p=5× p=7× p = 11 × 10 1 22 · 3 · 11 ζ(−9) = − 132 = − 22 ×3×11 1 1 p=2○ p=3○ p=5× p=7× p = 11 ○ p = 13 × 12 691 23 · 32 · 5 · 7 · 11 691 691 ζ(−11) = 32760 = 23 ×32 ×5×7×11 p=2○ p=3○ p=5○ p=7○ p = 11 ○ p = 13 × . . . . . . . . . . . .
8.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
8 0.1.4 691 の不思議 Fermat は 350 年ほど前に最終定理として本に欄外に「このは証明を書くこの 余白は狭すぎる」とした有名な問題で、1994 年に Wiles さんが苦労に苦労を重ね た結果、解決しました。任意の 3 以上の正の整数 a に対して、以下の方程式の整 数解は x = y = z = 0 以外にはないであろうというのがこの問題です。 xa + y a = z a 19 世紀になりこの問題を解くために、Kummer は円分体の中でこの式を素因数 分解して解明しようと考えました。 素因数分解は代数的整数論の中心となる考え方です。有理数体 Q を拡大して いくと素因数分解の一意性が成立しなくなったり、イデアルの生成元がひとつ以 上になったりしてしまいます。(これらの例は多くの本に書かれていますので参 照ください。)ここでの分解法則(素因数分解)が問題になります。代数的整数 論の基本となる定理に次の2つがあります。 • Dirichlet の単数定理 代数体 k の元 ε でその逆元 ε−1 もその整数環 Ok の 元となるものを単数と言います。この単数達の作る群が、階数 r = r1 +r2 −1 の自由アーベル群をなす(r1 は実数の生成元の数、r2 は複素数の生成元の 数) 。記号を使って書きますと、 Ok ∼ Zr ⊕(有限巡回群) × = となります。(有限巡回群の部分はねじれ部分です。) • イデアル類群の有限性 ある元を掛けると整数環に含まれるイデアルを分 数イデアル Ik と言います。ひとつの元で生成されるイデアルと単項イデア ル(もしくは主イデアル)Pk といいますが、これらの商 Cl(k) = Ik /Pk を イデアル類群といいます。このイデアル類群が有限群です。 このイデアル類群の元の数のことを類数と言います。単数群の構造を求めたり、 類数を求めたりすることが 19 世紀数論の中心テーマだったようです。類数が 1 と いうことは、全ての(分数)イデアルが主イデアルであることを意味します。 √ • 類数が 1 の虚二次体 (生成元が虚数の二次体) = Q( −m) は、 個しかない k 9 ことがわかっています。証明は 1967 年で、独立に Baker と Stark により得ら れました。 それほど古い話ではありません。 m = 1, 2, 3, 7, 11, 19, 43, 67, 163 ( の場合のみ類数が 1 となる。m が大きくなるほどに類数が大きくなること は Siegel が証明しています。) √ • 実二次体(実数を生成元とする二次体)k = Q( m) では、類数が 1 である 実二次体は無限個あるであろうことが既に Gauss により予想されています が、現時点でも予想です(証明されていません) 。 これだけ見てもイデアル類群が素因数分解の不思議を背負っていることがわかり ます。ここに代数的整数論が出発点があると言ってもよいように思います。
9.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
9 ところで、ゼータの特殊値に現れる有理数の分母はほぼ解明できていること を述べましたが、この分子について Kummer は、Fermat の最終定理を解くため に、次の判定法を与えました。Kummer は、有理数体 Q に 1 の n 乗根 ξ を付け加 えた体 Q(ξ) (ξ n = 1) を考えました。この体を円分体と呼ばれ、Q(e2πi/p ) で(p は素数)を考えることになります。 p が Q(e2πi/p ) の類数を割り切るのはどのよ 「 うなときか」ということに立ち至り、そして 1850 年頃に次のことを示しました。 p を奇素数として、h を円分体 Q(e2πi/p ) の類数とします。h の約数でない場 合に p を正則な素数8 といいます。p が正則であるためには、ゼータ特殊値の分子 達であるベルヌイ数 B2m , m = 1, 2, . . . , (p − 3)/2 の分子がどれも p で割り切れな いことと同値です。p が正則な素数ならば、方程式 xp + y p = z p は x = y = z = 0 以外の整数解を持たないというのが Kummer の判定法です。 繰り返しになりますが、もう一度整理しますと、(円分体では) • (1)2 ≤ 2m ≤ p − 3 となるすべての偶数 2m については、ゼータの特殊 値の(有理数)の分子が p で割れない。 • (2)Q(e2πi/p ) の類数が p で割れない。 が同値となり、 これが素数 p が正則数であることが Fermat 問題を解くための Kum- mer の条件です。ひるがえると、691 はゼータの特殊値 ζ(12)(もしくは ζ(−11)) の分子に突然登場していますので、Kummer の判定法からは x691 + y 691 = z 691 の有理数解が存在しないということが出てきません。691 はゼータの特殊値の分 子に出てくる最初の非正則な素数ということになります。これが 691 の出現の ” 意味深さ ” だと思われます。 この Kummer の判定法を詳しくした Herbrand と Ribet の定理というものが あります。Kummer の判定法(2)で、イデアル類群への Galois 群の作用を考え ∼ たものです。ω : σ ∈ Gal(Q(e2πi/p )/Q − → (Z/p)× は自然な写像とします。 − • (2’)イデアル類群 Cl(Q(e2πi/p )) の位数 p の元 x で、任意の σ ∈ Gal(Q(e2πi/p )/Q に対して σ(x) = ω(σ)(1−r) x となるものが必ず存在する。 (2’)から(1)は 1930 年代に Herbrand により証明されていましたが、 1) ( から(2’)は Ribet により 1976 年に証明されました。この Galois 群の作用につ いて詳しくなっているところが、岩澤理論に連なっていくようです。この Ribet の証明に 691 が出てきます。保型形式の理論を援用するようで、Ramanujan の ∆ 函数も出てきます。ここで申し上げたいことは、Ribet さんは 1980 年代には、 Frey さんとともに Fermat の最終定理の問題を楕円曲線の問題に還元するアイデ アを提出されておられるということです。このアイデアによって Fermat 最終定 理は(散発的な問題どころか)数論のさらに深い背景の中に位置付いていること 8 h の約数となる p を非正則な素数といいます。37, 59, 67, 101, . . . が非正則な素数で、これら は無限にあることがわかっています。
10.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
10 を、思い知らされることになります。どこからアイデアが出てきたのか全く不思 議ですが、結果は素晴らしい理論に結実しています。 0.1.5 様々な予想へ 1 1 + + ··· ζ(1) = 1 + 2 3 は、こく当然ですが、収束せずに発散します。Riemann のゼータ函数は唯一 1 で 極を持ちます。 Re s > 1 で収束しますが、それ以外の領域では発散します。し ( たがって解析接続して、発散する領域でも意味を持っている値を引き出せるわけ です。)このことは素数が無限個あることを意味していることについては既に述 べました。一方、 lim (s − 1)ζ(s) = 1 s→1+0 が証明されていて、このことは、ζ(s) の 1 での大きくなり方が、s の 1 への近づ き方と相殺できる程度の大きくなり方であることを意味しています。9 今では、有理数体 Q についてのゼータ函数でしたが、これを一般の数体 F に 拡張します。この式の代数体への一般化が Dirichlet の類数公式で下記のように なります。 2r1 (2π)r2 hF lim (s − 1)ζF (s) = RF s→1 |DF | wF となります。 ζF (s) hF lim r1 +r2 −1 =− RF s→0 s wF 9 実はこの式の証明が 9 月 20 日に初めて手にした数論 I に問題(回答付き)として出ています。 1 1 1 1 log(2) = 1 − + − + − ... 2 3 4 5 を使い、この式を証明せよというものです。まず、Re s > 1 の領域で、 1 1 1 1 (1 − 21−s )ζ(s) = 1 − + s − s + s − ··· 2s 3 4 5 を示せという問題があって、このあとにこの問題が出ています。 lim (s − 1)ζ(s) s→1+0 (s − 1) = lim · (1 − 21−s )ζ(s) s→1+0 1 − 21−s 1 = · log 2 log 2 =1 が回答にありました。二段目の第二項が最初の問題の答えで、そこに s = 1 を代入して、次の問題 の回答となっています。ここに第一の脚注にも書いた log が出てくるのですが、ゼータの特殊値に なぜ π がでてくるのかと同様に、なぜ log が出てくるのかということへの答えは書いてありませ んでした。式をいじることはできても、その心が理解できていません。若いときに π は不思議で したが、log の方は何かしら説明がされていたような錯覚が私にはありました。もちろん、単数基 準の定義の中に log があって、類数公式を認めればゼータの値に log が出てくるのは当然と言えば 当然なのですが、何故そのように定義するのが自然なのかが不思議なのです。類数公式の中には π だって登場しています。
11.
0.1 ζ 函数の特殊値の不思議について
11 とが同値となります(この同値性も証明が必要です) 。ここで説明をしないとい けないのが、r1 は(単数定理とときにでてきた)実数の生成元の数、r2 は複素 数の(共役は数に含ない)生成元の数、hF は F の類数、wF は F に含まれる 1 のベキ根の数、DF が F の判別式、最後の RF が F の単数基準です。 この単数基準とは、α ∈ F に対して, log |α(i)| (i = 1, . . . , r1 ), l(i) α = 2 log |α(j)| (j = r1 + 1, . . . , r1 + r2 ) とおいて、単数群である自由アーベル群の生成元 η1 , . . . , ηr に対して l(1) η1 l(1) η2 · · · l(1) ηr l(2) η1 l(2) η2 · · · l(2) ηr R[η1 , . . . , ηr ] = ··· ··· ··· ··· l (r) η 1 l (r) η 2 · · · l(r) ηr を (η1 , . . . , ηr ) の単数基準と言います。 数論の教科書の引き移しになるので実例を挙げることは遠慮することにしま す。何が言いたいかというと、この類数公式の一般化が • Beilinson 予想 • Birch-Swinnerton-Dyer 予想 という2つの未解決の大きな予想となっていることです。 Ramanujan 予想と Selberg 予想とが Langlands 予想で統一されている。と いうことをここで言いたかったのですが、私の力が不足です。このゼータの特殊 値の話題にもっていくにはさらに予備知識を必要とします。別の機会にさせてい ただきます。 0.1.6 数理物理との関係へ期待を込めて 2005 年あたりから、Witten さんたちは数理物理と Langlands 対応の研究を されていて、ミラー対称性に新しい見地を確立しつつあるようです。この 6 月の Witten さんの論文で「6 次元に超対称性をもつ量子論が存在して、その 4 次元 への次元簡約が 4 の現実に近いゲージ理論を与えるのではないか」というものを 見ました。そこでは S-双対がどこから来るのかが解明されているらしい。一方、 Schimmrigk さんは数論幾何(q-進の世界)に基礎付けられた弦理論を提唱され ています。いわく、 「志村-谷山予想(Langlands 対応)が時空を創出する」との こと。特に Witten さんたちの Arthur の 1989 年の予想が該当するのではないか との指摘に引っ掛かりました。そして Langlands 対応(数論)の深い谷底へ転げ 落ちました。その中で感じていることは、今まではなかった10 数論と数理物理と の間で ” 壁越え ”が起きてほしいと思っていることです。数理物理で数論の問題 を解くか、逆に数論を使って数理物理の新しいステートメントを作るかのどちら かが起きるような気がします。また、起きてほしいと期待しています。 10 湯川先生は「理論物理に役に立っていない数学は基礎論と数論だけだ」とおっしゃっていると のこと、この話は甲元様より教わりました。
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