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機能性(心因性)難聴について
治療につなげていくために
国立病院機構西埼玉中央病院 耳鼻咽喉科選択研修
初期研修医 西岡 未来 指導医 和田 圭史
目次 本日の目標
機能性難聴の病態と診断
自覚的検査
他覚的検査
機能性難聴を診断したら
精神医学的アプローチ
精神科で行われる治療
症例概要
・器質性難聴と機能性難聴の鑑別ができるようになる
・機能性難聴をそのまま投げ出さないようになる
本日の目標
最終的には精神科コンサルトになるかもしれないけど
何もわからずに投げるのとちゃんと考えるのは違うよねって話
です
目次 本日の目標
機能性難聴の病態と診断
自覚的検査
他覚的検査
機能性難聴を診断したら
精神医学的アプローチ
精神科で行われる治療
症例概要
機能性難聴とは
難聴の訴え、または純音聴力検査で閾値の上昇が認め
られるにもかかわらず器質的障害が否定的である状態
あくまで器質性疾患の除外を!
機能性難聴の病態と診断
「機能性難聴における誘因解消と聴力改善期間との関係」Audiology Japan 61, 562~567, 2018
まずは問診
器質性難聴の除外 機能的難聴の検索
症状 他の身体症状の有無 日常生活に支障がないか
既往歴 自己免疫疾患、薬剤投与 原因不明の体重減少、不眠症
家族歴
中耳炎、耳硬化症、
腫瘍、遺伝性疾患
精神疾患歴
生育・
生活歴
騒音曝露、外傷
器質的な難聴者を知る機会があるか、
ストレス要因
機能性難聴の特徴
一般的には
・小児
・女性
・両側性 に多い
日常生活に支障はなく健診での聴力検査等で発覚することも
ある
身体所見は正常もしくは軽度異常
両側性の難聴であれば背中側から話しかけて気づくか
どうかも診断の一助になる(片側性では無効)
目次 本日の目標
機能性難聴の病態と診断
自覚的検査
他覚的検査
機能性難聴を診断したら
精神医学的アプローチ
精神科で行われる治療
症例概要
音叉を用いた検査
純音聴力検査
伝音性難聴、感音性難聴を
簡単に可視化できる自覚的検査
自記オージオメト
リ
音が鳴っている間ボタンを押し続け、止まったら離す
持続音と断続音での差で分類したものがJerger分類
JergerⅠ型:正常 JergerⅡ型:内耳の障害
自記オージオメト
リ
内耳障害では
断続音(I)>持続音(C)
逆転しているJergerⅤ型は機能性難聴
Audiology Japan 50, 2007
目次 本日の目標
機能性難聴の病態と診断
自覚的検査
他覚的検査
機能性難聴を診断したら
精神医学的アプローチ
精神科で行われる治療
症例概要
この反射が出現しているときは
大脳まで音刺激が伝達されている
アブミ骨筋反射
リオン株式会社「インピーダンスオージオメーターRS‐32」
聴性脳幹反応(ABR)検
査
音に対する蝸牛、蝸牛神経及び脳幹
の聴覚路の反応をみる
上尾中央総合病院「聴性脳幹反応(ABR)」
聴性定常反応(ASSR
)
音刺激に反応した脳からの電位を測る他覚的検査
ABRより低音域までの測定が可能
リオン株式会社「誘発反応検査装置 Auderaカタログ」
頭部CT,MRI
器質性疾患除外のために必要
耳小骨の骨折や腫瘍など確実に除外を
目次 本日の目標
機能性難聴の病態と診断
自覚的検査
他覚的検査
機能性難聴を診断したら
精神医学的アプローチ
精神科で行われる治療
症例概要
機能性難聴を診断した
ら
・本人には聴こえていないということを尊重する
・多くは自然軽快することを説明して安心させる
・ステロイド投与は機能性難聴単体の適応ではない
ただし無治療で放置していると失語症や視覚障害などに波及することも
→難聴の誘因を解消することが難しいときは心理療法を
目次 本日の目標
機能性難聴の病態と診断
自覚的検査
他覚的検査
機能性難聴を診断したら
精神医学的アプローチ
精神科で行われる治療
症例概要
精神医学的アプロー
チ
機能性難聴は
変換症 / 転換性障害(機能性神経症状症)に該当する
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
詐聴:障碍者認定などの利益を得るために
悪意をもって症状を偽装、誇張すること
転換性障害:葛藤やストレスといった心理的要因が
身体症状として表れていること
これらは基本的にはあえて区別をつけるべきではないとされてい
る
精神医学的アプロー
チ
目次 本日の目標
機能性難聴の病態と診断
自覚的検査
他覚的検査
機能性難聴を診断したら
精神医学的アプローチ
精神科で行われる治療
症例概要
精神科で行われる治療
転換性障害は病態が多岐にわたり
明確なエビデンスのある診療はできていないのが現状
→複数の治療を組み合わせて対応する
・ストレス要因の除去
・認知行動療法
・作業療法 など
・原因さえはっきりしていれば最も効果的
・耳鼻科でも実施可能
・患側付近を強打したエピソード
→器質的疾患の否定で軽快しやすい
・児童症例の場合はいじめや虐待に注意
ストレス要因の除
去
「行動科学と認知科学を臨床の諸問題へ応用したもの」
患者と話者(心理士)が行動を分析し
改善のためには何をすればいいか考える
患者自身が自分の考え方を客観的にとらえることが狙い
認知行動療法
作業療法
スポーツ、ハンドクラフト、映画鑑賞など
・生活リズムを整える
・ストレス発散をする
・他者との交流の練習をする
機能性難聴と混同されやすいADHDは作業療法が奏功する
森田療法
症状をあるがままに受け入れるようにする訓練を行う
症状の緩和、治療が難しい場合に
日常生活に支障をきたさない範囲で共存することを目的とする
紹介先としての精神科
機能性難聴に特化した病院は当院近辺で発見できず
→機能性難聴が好発する小児の場合
埼玉医大かわごえクリニックでは外来で児童精神専門医が診
察を行っている
→転換性障害として紹介する場合
東京慈恵会医科大学附属の森田療法センターは転換性障害を多
く扱っている
目次 本日の目標
機能性難聴の病態と診断
自覚的検査
他覚的検査
機能性難聴を診断したら
精神医学的アプローチ
精神科で行われる治療
症例概要
症例 20代女
性
【現病歴】5年前に右突発性難聴を発症し現在右聾。
X-2日に左の難聴を自覚し、近位を受診。
突発性難聴の診断で前医を紹介されたが満床で入院不可のた
め
X日に当院を紹介され、PSL漸減治療目的に当科入院とな
った。
【既往歴】右突発性難聴(5-6年前)、糖尿病(内服治療自己中断)
【家族歴】特記事項なし
【生活歴】介護系の仕事をしていたが
9月に入所者から噛みつかれたことを機に休職中
症例 20代女
性
【身体所見】耳鏡で両側の鼓膜に異常所見なし
めまいの自覚症状あり
頭位変換眼振検査で明らかな眼振は指摘できな
い
側頭骨CTに異常所見なし
入院後経過
PSL漸減治療を行い、めまいの自覚症状には若干の改善がみられた
が聴こえには大きな変化なし
純音聴覚検査でも変化なく、両側スケールアウト
一方でマスク越しでの会話は可能→検査結果との解離
機能性難聴が疑われ、他覚的聴力検査施行目的に前医へ紹介
紹介先での検査結果
純音聴力検査 両側スケールアウト
紹介先での検査結果
聴性脳幹反応(ABR)
めまい症状のため安静が保てず90dBのみ測定
両側ともV波を認め反応あり
左の方が強く反応している
紹介先での検査結
果
聴性定常反応(ASSR)
右:80~90dB程度の閾値低下
左:閾値低下を認めるが低音域は40dB程度
症例まとめ
・他覚的聴力検査結果との解離がみられ、機能性難聴が疑われる
・ASSRでは左の閾値低下は認めており、急性感音難聴はありそう
→急性感音難聴による難聴+機能性難聴による増幅が疑われる
・ステロイド投与は行ってよかったのかもしれない
・今後も聴力検査との解離が遷延すれば精神医学的アプローチを検
討
まと
め
・機能性難聴を診断する際には丁寧な除外診断を行う必要がある
・自然軽快することが多いが遷延することもあるので定期的なフォローを
・難治性が予見されるなら精神科に相談を

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機能性(心因性)難聴について

Editor's Notes

  1. 1.7.2013
  2. 1.7.2013
  3. 1.7.2013
  4. 1.7.2013
  5. 1.7.2013
  6. まずは問診から行いましょう。器質的難聴の除外の他に、難聴によって日常生活に支障が生じているかどうか、また既往にストレスの存在を示唆する原因不明の体重減少や不眠症がないかを聞くことも大切です。
  7. 1.7.2013
  8. 1.7.2013
  9. 1.7.2013
  10. 1.7.2013
  11. 1.7.2013
  12. 1.7.2013
  13. 1.7.2013
  14. 1.7.2013
  15. 1.7.2013
  16. 聴性定常反応、ASSRは繰り返す音刺激に対しての誘発反応が互いに干渉しあうことで一定振幅のサイン状波になることを利用して聴覚神経が反応する閾値を解析するものです。ABRと比べて低音域の測定が可能となっています。
  17. 器質的疾患除外のためには頭部の画像診断も重要です。耳小骨の骨折や神経の腫瘍など画像で判断可能なものについては確実に除外しましょう。
  18. 1.7.2013
  19. 1.7.2013
  20. 1.7.2013
  21. 精神科領域では機能性難聴は他の器質的な異常がみられない感覚機能の変化と合わせて変換症、転換性障害、機能性神経症状症に分類されています。ここでも器質的疾患を否定しておくことが診断基準の一つとなっています。
  22. なんらかの利益のために悪意をもって症状を偽装、誇張することを詐聴といいます。転換性障害の場合はあえて嘘をついているわけではないので別のものともいえますが、それを分類することは外部からの評価では難しく、またグラデーション状に推移するものでもあるため基本的にはあえて区別をつけるものではないとされています。ただし、利益目的に偽装している明らかな証拠があれば詐聴と診断します。
  23. 1.7.2013
  24. 精神科に紹介された際に実際に行われる治療についてですが、転換性障害は病態も治療方法も多岐にわたり明確なエビデンスのある診療はできていないのが現状です。根本的なストレス要因の除去のほかに、認知行動療法や薬物療法などを組み合わせて対応しています。
  25. ストレス要因の除去は原因さえ明確であればもっとも効果的な治療で、これは耳鼻科でもある程度実施可能です。患側付近を強打した後から聴力が低下したと訴えがあった場合、器質的疾患の存在をはっきり否定して安心させると軽快しやすいといわれています。ストレスの原因がいじめや虐待などの背景に基づくものであることもあるので患者と個別になる環境を用意するなど注意する必要があります。
  26. 認知行動療法の定義は行動科学と認知科学を臨床の諸問題へ応用したものとあり、臨床心理士が患者との面接や簡単なテスト等を通して患者の行動と心理状態を分析し現状を改善するためには何をすればいいかを一緒に考えることをいいます。患者自身が自分の考え方を客観的にとらえることが狙いです。
  27. 作業療法ではスポーツ、ハンドクラフト、映画鑑賞などさまざまなアクティビティを通して心身の調子を整えます。
  28. 認知行動療法では改善しない場合に、ほぼ真逆の概念ではありますが森田療法が有効な場合もあります。今の症状をあるがままに受け入れることによって、症状が出現するかもしれないという自己への不安感を解消して症状の緩和を図ります。
  29. 当院から紹介する想定で探してみたのですが、機能性難聴に特化した病院は発見することができませんでした。児童精神専門医がある程度在籍している病院だと埼玉医大に附属するかわごえクリニック、転換性障害として紹介する場合は東京慈恵会医科大学の森田療法センターは転換性障害を多く扱っており良いのではないかと考えました。
  30. 1.7.2013
  31. 1.7.2013
  32. 1.7.2013
  33. 1.7.2013
  34. 前医で実施した検査の結果を示します。まず純音聴力検査ですが、両側でスケールアウトしておりほぼ聞こえていない状態となっていました。
  35. ABR検査では、めまい症状があり安静にできず90dB波形のみの測定となりました。五波は左優位に両側に出現しており著しい聴力の低下を示唆するものではありませんでしたが、90dBでの計測であること、波形の潜時がやや延長していることからある程度器質的疾患の背景もうかがえます。
  36. 聴性定常反応は右でやや感度の低下が見られ、やはり器質的疾患としての突発性難聴が背景にあることが考えられました。
  37. 症例まとめです。当患者は他覚的聴力検査結果と自覚症状との間に解離があり、機能性難聴が疑われます。しかしながら、ASSRでは左の閾値低下を認めており急性感音難聴を背景として機能性難聴による増幅が起きたことが考えられます。このため、当患者の場合は迅速なステロイド投与を行ってよかったかもしれません。聴力検査との解離が続くようであれば精神医学的アプローチも検討した方が良いと考えます
  38. 全体のまとめです。機能性難聴を診断する際には他の器質的疾患を丁寧に除外してから診断する必要があります。診断後は、基本的には自然軽快することが多いですが遷延した際に気づきやすいよう定期的なフォローを推奨します。また、明確なストレス源が分からない場合など難治性が予見される場合は精神科に早めにご相談ください。