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自律分散型信号システム:
その技術と新しい都市交通の可能性
UTMobIフォーラム 2021年1月25日
東京大学 生産技術研究所 伊藤昌毅
トヨタ・モビリティ基金 受託研究
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伊藤 昌毅
東京大学 生産技術研究所 特任講師
ユビキタスコンピューティング
交通情報学
経歴
静岡県掛川市出身
2002 慶應義塾大学 環境情報学部卒
2009 博士(政策・メディア) 指導教員: 慶應義塾大学 徳田英幸教授
2008-2010 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別研究助教
2010-2013 鳥取大学 大学院工学研究科 助教
2013-2019 東京大学 生産技術研究所 助教
2019- 現職
委員(国土交通省)
バス情報の効率的な収集・共有に向けた検討会 座長
公共交通分野におけるオープンデータ推進に関する検討会 委員
MaaS関連データ検討会 委員
交通政策基本研究小委員会 委員 他
委員(その他)
経済産業省 官民データの相互運用性実現に向けた検討会 座長
沖縄 観光2次交通の利便性向上に向けた検討委員会 委員長 他
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信号が状況を認識して動けばいいのに!
青なのに
右折が詰まり
進めない
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自律分散型信号システム研究開発
・柔軟な制御ロジック: 安全性と円滑性のバランスのパラダイム・シフト
・センサ機能: 別のインフラとせずに,三色信号灯器に一体化
・無線通信機能: 4方向の灯器同士も結線せずに無線で情報共有
・電源装置: 三色信号灯器で発電・蓄電を完結(レジリエンス)
独立電源
装置
無線通信
制御用
センサ
制御ロジッ
ク
三色信号灯器に4つの機能をビルトインした自律分散型システム
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課題1: 車両認識のためのセンサ
交差点周辺の自動車の状況をどこまで正確に、容易に把握出来るか?
一般的なカメラと最新の画像認識技術を組み合わせることで、どこまで高
性能なセンサシステムを開発出来るかに挑戦
※ 東京電機大学 岩井将行教授らと共同研究
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現在使われている感知器
超音波式車両感知器
路面からの反射で車が通過しているか
どうかを連続的に判定
光ビーコン
https://www.seiss.co.jp/products/its/sensor/
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車両認識のためのセンサを開発
・ 画像認識により交差点進入車両の位置、速度、ウィンカーを検知
・ リアルタイムの車両検出システムをNVIDIA Jetson Xavier NX上で稼働
車両検知イメージ
NVIDIA Jetson Xavier NX
機械学習に最適化された小型省電力の
組み込みコンピュータ
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システム構成と開発状況
画像認識
• YOLO ver. 4を使い実装
• Deep Learningによるリアルタイム画像認識
フレーム間追跡
• SORT (Simple Online and Realtime Tracking)を元に開発
2次元投影
• 射影変換によりビデオ画像から地図上へ位置を変換
開発環境
• Linux PC上で開発、Jetsonでも動作確認しチューニング
Webカメラ
画像認識
フレーム間追跡
2次元へ投影
FullHD 30フレーム/秒
自動車の位置と大きさ
車に一貫したIDを付与
平面での位置・速度付与
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車両認識センサ動作デモ
画像認識
歩道橋からの撮影動画(Full HD 秒30フレーム)動画がカクつくのはMatlabによるもの
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小型・省電力の組み込み機器でどこまで可能か
Jetson Xavier NX + Webカメラ
によるリアルタイム画像認識
交差点の動画を再生してデモ実施
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課題2: 信号制御ロジック
信号制御の常識に囚われずに、より効率よく、不公平ではない信号制御を
どのように実現出来るか?
交差点周辺の自動車の状況を正確にセンシング出来るとして、それを活
用した手法を開発
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制御ロジック1/2 : 「動線交錯」を考慮し選択肢を列挙
1: それぞれの方向で赤か青を選択
できるとして、交差点のすべて選
択肢を列挙
2: 導線の交錯を考慮し可能な
選択肢を選択
片側1車線4流入路の交差点の
すべての選択肢|24 = 16
A
B
D
C 交
錯
関
係
可能な選択肢|16 のうち 7
◯ 交錯あり
× 交錯なし
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制御ロジック2/2 : 各選択肢の際の交通を予測し最善のものを選択
• 今の交通状況(交差点に進入する車の位置、速度、右左折)をセンシング
• 各選択肢に切り替えた場合の15秒後の姿を交通シミュレータで予測
• 制御器内でシミュレータソフトが7プロセス稼働している
• 遅れ時間(各車が制約なく走った場合との差)の合計がいちばん小さい候補を選択
• 5秒おきに15秒後を予測し制御を繰り返す
➢シミュレータ
で15秒後を予測
選択肢1 選択肢2 選択肢3 選択肢4
選択肢5 選択肢6 選択肢7
選択肢1
総遅れ|118秒
⻘信号| 2
選択肢2
総遅れ|110秒
⻘信号| 1
選択肢3
総遅れ|135秒
⻘信号| 2
選択肢4
総遅れ|138秒
⻘信号| 1
選択肢5
総遅れ|117秒
⻘信号| 1
選択肢6
総遅れ|135秒
⻘信号| 1
選択肢7
総遅れ|138秒
⻘信号| 0
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オープンソース交通シミュレータ SUMOを用いて評価
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提案手法を交通シミュレータSUMOを用いて検証
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柔軟な制御を実現した例
「右折の詰まり」に対して、状況に応じた最適な制御が行われた
★ 10秒だけ右折を止めて「対向車を通す」
A
B
C
D
10 10 10 10
★ 5秒だけ対向車を止めて「右折を通す」
A
B
C
D
継続時間 (s)
10 10 5 20
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評価結果 遅れ時間の比較(1/2)
白畑健, 伊藤昌毅, 鳥海梓, 新倉聡, 大口敬, "交差点におけるセンサを活用した自律型交通信号制御手法の評価",
第62回土木計画学研究発表会・講演集, 2020年11月14日.
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評価結果 遅れ時間の比較(2/2)
白畑健, 伊藤昌毅, 鳥海梓, 新倉聡, 大口敬, "交差点におけるセンサを活用した自律型交通信号制御手法の評価",
第62回土木計画学研究発表会・講演集, 2020年11月14日.
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・通信方式:
IEEE 802.11n 2.4GHz
・開発プラットフォーム:
Raspberry Pi 4 4台
➔ RabbitMQを利用Pub/subモデルに
対応したオープンソースAMQPミド
ルウェアをベースに通信ソフトウェ
アを開発
➔オープン仕様、高信頼性の通信プ
ロトコルAMQP (Advanced Message
Queuing Protocol)を採用
課題3: 信号灯器同士を無線通信で接続
通信ソフトウェアブロック図
Raspberry Pi
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Pub/Subモデルに基づいた通信により拡張性を実現
Pub/Subモデルの採用
• 送受信が疎結合であり、スケーラブルで動的な構成が可能
• メッセージ送信者: 特定の送信者を想定せずにメッセージ送信
• メッセージ受信者: 興味のあるメッセージの条件を設定。送信者を決めない
AMQP(Advanced Message Queuing Protocol)
• TLSをベースとしSecurity, Reliability, Interoperability, Standard, Openの5点を重
点をおいたプロトコル
• Pub/sub, Transactional messaging に対応
• Cisco, Microsoft, Goldman Sachsなどソフトウェア・金融など高信頼プロトコルが
必要な場面で採用されている
• 機能拡張性・AMQPによるプロトコル信頼性が高く、MQTTに比べ高信頼性で高
度なメッセージングが行える
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Raspberry Pi 4 上で RabbitMQ を用いた実装
RabbitMQとは
• AMQPを実装したオープンソースによるミドル
ウェア
• win, mac, Linux(amd64, arm64, armhf) で動作
• Erlangで実装、Python, Java, Ruby, C#, js, Go等か
ら呼び出し可能
Raspbian (DebianベースのLiunx OS)上に移植
• 灯器制御データ、センサによる認識データの送
受信プロトコルを設計
• 通信障害発生時の速やかな検出機能
• 通信: Wi-Fi(2.4GHz)を想定、実験は主に有線
LANにて実施
CarData
Queue:sensor01~
SignalData
Queue:trafficsignal
Camera Input
Image processing
Data Output
CarData Intput
Intesection Simulation
SignalData output
Decision of Light
SignalData Input
Set LightSignal
Light
ハードウェア
(Raspberry Pi or Jetson)
プロトコル
Sensor01(timestamp,car1(平面座標,ベクトル),car2()…)
Sensor02(timestamp,car1()…)
Sensor03(…)…
交通シミュレータ(1基)
センサ(4基)
灯器制御(4基)
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課題4: ソーラー電源によって自立して動作
既製品街灯照明のソーラー
電源部分をベースに、信号
機や計算機を駆動
ソーラー+バッテリにより、
曇りや夜間でも動作可能
容量的には、24時間稼働の
ためには更なる省電力が必
要
選定機器イメージ
出典:エル光源HP
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・実環境の信号灯器のプロトタイプとして、テスト用信号灯器を開発
・実物の信号灯器を改造してDC電源で動作可能、RS-232Cで接続したPCからの制
御や明るさの調光が可能な信号灯器
研究室においてテスト用信号灯器の開発
テスト用
信号灯器全体
信号灯器内部 信号灯器外部IF
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柏キャンパスで自律分散型信号システム実際に稼働させる予定
・柏キャンパスITS実験フィールドにあるテストベッドを拡張、改装
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ソーラー、カメラ、組み込みコンピュータをポールに取り付け
ソーラー+蓄電池
横型灯器
縦型灯器
組み込みコンピュータ
IPカメラ
• DC12V, 5Vを供給
• ソーラー+蓄電池で安定した電源供給を目指す
• (実際に取り付けるものは小型であり、24時間駆動はおそらく不可能)
• 自動車通行状況のセンシングに利用
• 画像認識と組み合わせ、リアルタイムで交差点へ進入する自動車の
位置や速度などを把握
• 信号制御ロジックとして交通状態に最適な信号制御
• 画像認識として、カメラ画像から自動車を抽出、速度などを算出
• 通信機能として、複数の信号機同士を接続、情報交換
NVIDIA
Jetson
Xavier NX
Raspberry Pi
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信号灯器の位置: Far Side / Near Side
x
Far Side
Near Side
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灯器をNear Sideに置くメリット
• どの信号が自分に向けた信号か判断しやすい
• 対向車の動きが予想出来ず、停止か発進かを確かめてから動くことに
なる。そのため、複雑な信号制御を行っても混乱を招かない
• 全体最適のために、個人が(少しだけ)待たされたとしても、気付きにく
い
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東大+慶應大+東京電機大の学生中心チームで開発
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信号制御は未来ある若者が取り組む
価値のある仕事か?
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信号制御の研究開発はオワコンではないか?
自動運転が拡がったら、信号は必要?
• 信号ではなく、平面交差、交通制御と読み換えればむしろこれから価値
が出てくる
日本で信号を研究しても、実際の信号に技術が取り入れられることはない
のでは?
• そこそこちゃんと動いている信号機
• 乏しい研究開発の機会や資金
• 硬直化した業界
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オワコン業界こそチャンス
(伊藤は2010年〜鳥取にてバスIT化の研究を開始)
過剰なほどの最先端技術を投入してみると
やがて世界がついてくる
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若いIT人材を呼び込む仕掛け作り
今の社会の成長を駆動しているのは情報技術
最先端の情報技術の応用先になるようにアピール
バスにおいては世界標準GTFS形式でのオープンデータ
バス停/駅+路線 時刻 運賃
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標準的なバス情報フォーマット広め隊
標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)
データ整備に関わる有志によるコミュニ
ティ
2017年夏頃から、国交省検討会の関係者ら
を中心に自然発生的に誕生
普及に関わるツール開発、勉強会やイベント
開催、関係者への働きかけなどを継続的に
実施
チャットなどによる活発な情報交換
参加者
大学研究者
乗換案内サービスデータ整備担当
バス事業者向けツール開発者
公共交通コンサルタント
交通事業者職員
自治体職員 等 20名程度
40
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東京都小池知事も期待を表明
東京都交通局のバス・地下鉄データをAPIで
提供した。 民間がデータを使って新しい
サービスを展開でき、スタートアップに繋が
る可能性。 また住民がテクノロジを活用し
て社会や地域の課題を解決するシビック
テックの取り組みによりQoSを向上」 との言
及
「ポスト・コロナを見据えた東京のDXの推進に向けたオンラ
インシンポジウム」での発言(2020年10月12日)
https://www.youtube.com/watch?v=R_-CQIiVwpc
1:14:50 頃〜
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技術書展6で同人誌を販売
公共交通オープンデータの紹介や、それ
を利用したプログラミング方法を解説
GTFSとODPTデータを紹介
QGIS、SQL、Processing、Lineボットなどで
活用
122ページの書籍を300部以上販売
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地域のデータ活用を支援
地域のITエンジニアが住民を集
めてアイデアソン、ハッカソン
地域交通をデータに基づき議論
富山県資料
Code for Saga
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学生・若手エンジニアの台頭
データが公開されたこと
で、技術と社会課題に興
味がある二十歳前後の
人材に活躍の場が
Code for Japanの活動と
もリンク・シンクロ
https://www.gtfs.jp/blog/cfjsummit2020/
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コロナ禍は交通の未来像を大きく変える
「乗合」の意味が問い直される今、どれだけ未来に繋がる都市交通ビジョ
ンを描けるか
• 「オンデマンド乗合交通」推進は難しいのでは?
多分野の最先端を集める価値のある課題
出典: i-SUSTAIN https://www.i-sustain.com/projects
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交通は技術と社会とが最先端でぶつかる界面
コロナ禍を経て大きく価値観が変わる社会の中で
強いビジョン、確かなデータ、しなやかなコミュニティの元に
多様な人材を集めることで、新しい交通作りを先導

自律分散型信号システム: その技術と新しい都市交通の可能性