高専生の知ってる数学・知らない数学
    ~線型代数って何~

      Web version

          小鳥遊優葵
        2011年10月8日
  つくば理学カンファレンス at 筑波大学
諸注意

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  良したものです。
• あっさり派のあなたはこのスライドをなんとな
  く眺め、こってり派のあなたはプロシーディン
  グと紙と鉛筆を持ってどうぞ。
• 補足のページは飛ばしても構いません。
• 疑問・質問・意見・誤植等ありましたら、
  Twitter:@yuki_mathkまで
プレゼンの動機

高専の数学は学校によって違う
 →知ってたり知らなかったり

エンジニアにとっていろんな数学の知識が必要
  →学校でやらないなら独学
  →モチベーションが…
  →興味を持つきっかけとしてプレゼンしよう!
プレゼンの内容:線型代数

なぜ線型代数なのか
 ⓪ 高専生が知ってたり知らなかったり(前提)
 ① 簡単(ほかの数学に比べるとね)
 ② 役に立つ(連立方程式とか解けるよ!)
 ③ 幅広い応用(物理とか経済学にも使える)
 ④ 数学っぽい(抽象的に話が進む)
 ⑤ 知らない(忘れた)人が相当いる(よね)
 ⑥ 面白いネタを思いつかなかった
                  れっつ、すたーと~
数学的準備 ~集合~

集合:”もの”の集まり
  何も含まない空集合                          も集合
元:集合に含まれる”もの”
たとえば
 {りんご, みかん, もも} とか {α, β, γ, δ, ε, θ, η}が集合で
   ”りんご”とか”みかん”とか”β”が元
元がたくさん(無限に)あるときの表しかた
 { a | aは正の偶数} = {2, 4, 6, …} 「|の後ろが条件」
いくつかのものの組合せが元になることも
 { (a, b) | a, b ∈ {0, 1} } = { (0, 0), (0, 1), (1, 0), (1, 1) }
                                                     ここまでは簡単だよね。
数学的準備 ~写像~

写像:集合の各元から別の集合の元への対応
     集合A         集合B

   元→




違うAの元が同じところに行っても良い
 (Aの元がそれぞれ行先が違うような写像を単射という)
Bの全部の元に行かなくても良い
 (Bの元全部がAの元の行先になってるような写像を全射という)
                        ついてきてる?
数学的準備 ~写像の続き~

全単射(可逆):元の対応が1対1の写像
前ページの言葉で言えば全射でもあり単射でもあるってこと
        集合A                集合B

     元→



逆写像:写像が全単射の時の逆向きの対応
 上の図の赤→の写像の逆写像が青→
変換:集合AとBが同じである写像
 たとえば、{1, 2, 3}から{1, 2, 3}への変換   ちゃんと分かってる?
数学的準備 ~写像の続きの続き~

数の無限集合だと写像=関数と思ってもいい
 実数 から への写像(関数)の例
          集合の関係
          元の関係
   の行先を とすれば    で
  この写像は1次関数を表している!

  この話では無限集合しか出てこないので
     写像は関数と思って大丈夫  次、いっくよー
補足:数学的準備 ~同値類と商集合~

同値関係:次の条件を満たす関係~
①     ②                        ③
例: 整数 で                        が3の倍数

同値類:同値関係を満たすものを集めたもの
上の例: {0, 3, 6, …}, {1, 4, 7, …}, {2, 5, 8, …}
代表元:各同値類から一つずつ適当に選んだ元
商集合:同値類から代表元を集めて新しく作った集合
上の例:
          ↑こういう記号であらわす
線型代数的準備 ~ベクトルと行列~

縦(列)ベクトル:数を縦に並べたもの

横(行)ベクトル:数を横に並べたもの

行列:数を長方形に並べたもの

ここでいう数は全部下で紹介してる”体”の元のこと
体:加減乗除ができて、結合・交換・分配則が
 成り立つ(1を含む)集合
 ここでは実数体 か複素数体   整数は割り算が
                      できないからダメだよ
線型代数的準備 ~いろいろな行列~

正方行列:正方形の形の行列
零行列:成分が全部0の行列
単位行列:左上から右下の対角線上が1でほかが0
対角行列:左上から右下の対角線上以外が0
正則行列:逆行列がある行列
逆行列:掛けると単位行列になるような行列

上三角行列:対角線から下側が全部0
べきぜろ

冪零行列:何乗かすると零行列になる行列
線型代数の効能1:連立1次方程式の解法




              この(n+1)×n行列に基本変形
              ①ある行を定数倍
              ②ある行に別の行の定数倍を加える
              ③ある行と別の行を入れ替え
              を何回かして整理する

係数を成分とみた行列の基本変形で必ず解ける
(実際にはただの加減法)
  結果はただ1つ,   たくさん, 存在せず のどれか


                             次、いくよ
線型代数のはじめの第一歩

行列を使って連立方程式が解ける!
⇒でも、どんな時に答えが1つだけになるの?

⇒線型代数を勉強すればわかる
⇒線型代数って何?
 “線型空間”と”線型写像”の関わりを調べる数学の分野
線型空間とは ~縦ベクトル全体のこと~

線型空間とは、ある体Kと集合Vがあって、
①加法に関する結合・交換法則
②零元の存在                 なる0が存在する
③加法の逆元の存在               なる   が存在する
④スカラー倍に関する結合則
⑤スカラー倍に関する分配則
⑥1倍
を満たす集合V
おおざっぱに言えば,
 線型空間とは(縦)ベクトル全体の集合
                 例えば、どんなのが線型空間なの?
線型空間の例

例 平面ベクトル全体
 平面ベクトルの元は    とかける
  ①~⑥はそれぞれ成り立つ (体は )

実係数1変数多項式全体




こんな風にベクトルの形にすれば一目で線型空間と分かる
この例の場合は成分の数が無限のベクトルになる
                        なんだ、そんなことなの
線型空間用語

1次結合:線型空間の元を足したりスカラー倍したもの

1次独立:元がほかの元の1次結合で書けないこと
        (書けるときは1次従属という)
        と   は1次独立
基底:任意の元がいくつかの1次独立な元の線形結合で書け
 るとき、それらの元のこと


  の 任意の元は↑のように2つの元の線形結合で書ける
次元:基底の個数        の場合は2(2次元空間)
                          ちょっと、まって、、、
部分空間とは

部分空間:線型空間の部分集合の線型空間
   の部分空間の例


           これらは線形空間のきまり(公理)①~⑥
          を満たしている
           部分空間の次元は元の線形空間の次元
          以下になる

          {0} は0次元空間だよ




               うーん、難しくなってきたかも
補足:商空間とは

商空間:線型空間の次のような商集合
  線形空間をV, 部分空間をWとする。
  同値関係
 に関する商集合をとる。
  そこに加法とスカラー倍をもとの線形空間と
 同じように計算して、その同値類の代表元を
 値とすれば、商集合は線形空間となり、商空
 間と呼んで、    であらわす。
線型写像とは ~行列のこと~

線型写像:
 線型空間から別の線型空間への写像で
 足し算と定数倍を保存する
行先の線形空間が元の線形空間と同じ時は線型変換という

おおざっぱに言えば, 線型写像とは行列を掛けること



ベクトルに左から行列を掛けると別のベクトルになる
掛けてから足すのと、足してから掛けるのが等しい
掛けてからスカラー倍と、スカラー倍してから掛けるのが等しい
                        なるほどね~
線型写像用語

像空間(image):各元の行先全体
核空間(kernel):0に行く元全体
次元定理:核空間と像空間の次元の和は最初
 の空間の次元に等しい
           雰囲気⇒

                  核      像
同型:全単射な線型写像
同型写像の2つの空間は同一視できる→同形とも書かれる
ここから”線型”も→”線形”に
                      イメージとカーネル!
補足:次元定理

商空間を知ってればもうちょっと詳しく言えて、
     が線型写像ならば、

が成り立つ。
ここからさらに、有限次元で


がいえる。この定理は同型を調べるのに便利。
線型写像の例
           ↓ 3次元

線型写像の例


           線型写像とは行列を左から掛けること
像空間
                              ←2次元


核空間
                       ←1次元

次元定理の通り像と核の次元の和が元の空間の次元になっている!

                         なるほどね~
補足:双対空間 ~横ベクトルはなんだ~

線型写像は行列でした
n次元空間から1次元空間への線形写像        を
行列で表すと           横ベクトルの形をしてます

縦ベクトル全部集めてきたものが線型空間でした
 この空間に対応した横ベクトルの全部の集まりを

と表して元の線形空間の双対空間という
 さらに有限次元(基底が有限個)なら双対空間の双対空間は
もとの空間と同型になる
             双対
   縦ベクトル全体        横ベクトル全体
             双対
固有値と固有ベクトルと固有空間

線型変換は正方行列(をかけること)
対角化とは 変換を見やすくすること
基底を取り替えることで行列を簡単(対角行列)にできる


となるλ, x ≠ 0があったとき、
λが固有値, xが固有ベクトル
固有ベクトルがなす空間           が固有空間
固有値が全て異なれば、線型空間は固有空間で分解できる
線型変換を固有空間の変換とみれば全体が掴める
                      なるほど、わからん
対角化の計算方法
                   次のページの例を参照!

①固有値を計算する
 0以外に         を満たすxがあるには   は正則でない

②固有ベクトルを計算する
 ①で求めたλを使って        を満たすxを1つ求める

③対角化
 固有ベクトルを並べてできた行列は正則で、これで挟むと対角化

④固有空間分解
 線形空間は固有空間の直和になる
 すなわち、②で計算した固有ベクトルが線型空間の基底になる

 元の空間と行先の空間の基底を取り替えることで
 基底を定数(固有値)倍するだけの線形写像になる
対角化の計算例
             ①固有値の計算




②固有ベクトルの計算




③対角化の結果


                       ④固有空間分解




                                 計算してみよう!
対角化とジョルダン標準形
対角化できないとき(固有値が重根となる時)
→できるだけ対角行列に近くする
→ジョルダン標準形
(ジョルダンブロック   を対角に並べたもの)




特徴:対角化できないと固有空間だけの分解はできないが
   固有空間を拡張した一般固有空間        でなら分解できる

                        行列の場合
                            む、むずかしいよ
ジョルダン標準形の計算方法
                   次のページの例を参照!

①固有値を計算する
 対角化の時と同じ 重根が出てくることに注意

②固有ベクトルを計算する
 1次独立な固有ベクトルが重複度の数だけないときは
 一般固有ベクトルとして        を満たす1次独立なxを重複
度の数に足りるまでnを増やしてとる

③ジョルダン化
 (一般)固有ベクトルを並べてできた行列は正則で、これで挟むとジョル
ダン化

④固有空間分解
 線形空間は一般固有空間の直和になる
 すなわち、②で計算した一般固有ベクトルが線型空間の基底になる
ジョルダン標準形の計算例
                 ①固有値の計算




②(一般)固有ベクトルの計算




③ジョルダン標準形の結果


                           ④(おまけ)一般固有空間分解




                               対角化とどこが違うかな?
行列のべき乗計算・指数計算
ジョルダン標準形が       だとする
                はジョルダンブロック




                    うぎゃー
線型代数の効能2:定係数線形常微分方程式




                  とおくと



これを解くと、

前ページの指数計算を使うと(計算機なら)すぐに計算できる
                 線型代数で微分方程式が解ける!
線型代数の応用

線型代数からちょっと進んだら・・・
 ・2次曲線, 2次曲面
 ・テンソル空間
 ・マルコフ過程
 ・関数解析
 ・フーリエ解析
 ・量子力学
 ・表現論 etc
                いろいろあるんだね
ご覧いただきありがとうございました




ちょっとでも数学・数理科学に興味
を持っていただけたら幸いです。

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