第10回
垂直統合方針の決定(2/2)
経営戦略論
大阪大学大学院経済学研究科
中川功一
Allegro_assai@hotmail.com
垂直統合方針の決定には、
もっと複雑な、
さまざまな要因が絡んでくる。
今回はその「さまざまな要因」を学びます。
市場メカニズムが使えない状況:取引費用の存在
組織のメカニズムが使えない状況:リソース不足
製品アーキテクチャの影響
未来への布石を打つ
市場メカニズムが使えなくなる条件:取引費用の存在
取引費用=市場取引の利用に発生するコストやリスクのこと。取引費用
が大きい時、市場メカニズムの利用は狙った成果を上げられない可能性
がある。
取引費用の主要因
○機会主義的行動=取引相手が誠実に契約を履行しないリスク。
○交渉力の差が大きい=価格が釣り上げられたりするリスク。
○交渉に時間と費用がかかる。
組織のメカニズムが使えなくなる条件:
統合先を管理するための十分な資源があるか
統合?
条件①
技術など、統合先領域で必要とな
る資源を保有しているか
条件②
2部門を上手く連結させられる
経営手腕はあるか
製品アーキテクチャが与える影響
製品アーキテクチャとは、製品を構成している部品の相互依存
性に関する設計思想。インテグラル型とモジュラー型とがある。
インテグラル型の場合には協業:組織のメカニズムが有効となり、
モジュラー型の場合には市場メカニズムのほうが有効となる。
乗り
心地
コンポーネント
サスペン
ション
乗用車
機能
走行
安定性
ボディ燃費
エンジン
機能
PC
コンポーネント
出力
表示
演算
処理
データ
記録
ディスプレイ
HDD
CPU
モジュラー型 インテグラル型
モジュラー型アーキテクチャの製品
AUO
インテル
サムスン
日立
シーゲート 中国メー
MS
典型的なモジュラー型製品は、パソコンである。パ
ソコンは、CPU、OS、メモリ、ハードディスクなどあら
ゆる部品が、ばらばらに作られる。パソコンメーカー
は、それを組み合わせるだけでよい。
インテグラル型アーキテクチャの製品
インテグラル型の場合は、全ての部品が相互に関連し
ており、互いにすり合わせなければならない。自動車
はその典型的製品で、開発段階から、企業内・企業間
で密接なすり合わせを行い、製品を作り込んでいく。
すり合わせ
製品アーキテクチャによって異なる、
製品としての特徴
モジュラー型 インテグラル型
製品の
特徴
製品バリエーション
を増やしやすい
まとまりのよい製品を
作りやすい
部品単位で技術進
歩できる
極限性能を引き出しや
すい
インテグラル型には垂直統合が、
モジュラー型には垂直絞込み型が適する
マイクロプロセッサ
OS
周辺機器
アプリケーションソフト
ネットワークサービス
ハードウェアの組立
IBM DEC BUNCH
Microsoft
Seagate
IBM
Intel
DELL
図2.1 コンピュータ産業における垂直統合から水平分業への構造変化
出所:Grove(1995)
モジュラー化
最後の判断要素:
戦略的な「将来への布石」という考え方
将来、重要となる可能性を考慮しての垂直統合
将来の必要性が読めないので、統合しない
今はまだ重要ではないが、将来的にその資源を握っておくこと
が他社との重要な差別化要素になる場合。
トヨタなど大手自動車メーカーは、将来的な電気自動車化やハ
イブリッド化を見込んで、二次電池製造部門を内部化している。
将来的にどの技術・資源が必要になるか、流動的で予測が立
たない場合には、特定の技術・資源を内部化することがリスク
となってしまう。そうした場合には、柔軟性を維持するため、統
合しない方が良い。
まとめ(1/2)
垂直統合の判断は、高度に戦略的
垂
直
統
合
垂
直
絞
込
み
取引費用高 低
保有資源十分 不十分
市場か組織か 市場組織
将来布石リスク低 リスク高い
製品アーキテクチャインテグラル モジュラー
垂直統合の判断事項は多岐に上る。
さらに、垂直統合度の変更には、買収や撤退など、莫大な費用が
発生する。つまりは、それだけ戦略的に重要な意思決定事項だと
いうこと。
理論と実践の
最先端へ
演習:スマートフォン産業
垂直統合方針の決定は、
現代のグローバル競争のひとつの焦点。
現在、スマートフォン市場で優位に立っているのはアップル。
アップルは製品開発と販売に垂直絞込みし、生産をホンハイ
に委託している。そのホンハイもサムスン、アップルに次ぐ世
界第3位の家電メーカーになろうとしている。
他方、日本のスマートフォンメーカー(シャープ、ソニーなど)
は、開発・生産・販売を垂直統合しているが、いずれも業績は
悪い。
ちなみにスマートフォン市場で2位につけるサムスンは、日本
と同じく垂直統合をしているが、こちらは業績好調だ…
日本メーカーの、何が問題なのか?同じ垂直統合方針を採
るサムスンがうまくいっているのに、何が違うのか?
組織と市場の
ハイブリッド
組織と市場のハイブリッド①
スマートフォン2強それぞれのハイブリッド
アップルの場合
アップルはiPhoneの生産を鴻海に全量委託している。アップルは
常に鴻海以外の委託先を模索し下交渉を行っており、鴻海に対し
て競争圧力を働かせているが、同時に、2社は新製品開発や生産
計画などで密な連携体制を構築し、あたかも垂直統合企業のよう
に統合されたオペレーションを実行している。
サムスンの場合
Galaxyは自社開発・自社生産。企業内連携を駆使して優れた製品
を作る。同時に、サムスンは社内競争を激しく行わせるほか、外部
委託先を社内部門と競争させるなどして、各部門に強い競争圧力
をかけ続けている。
組織と市場のハイブリッド②
トヨタのサプライヤー・システム
トヨタ系列下にあるサプライヤーは、取引、人材、資金、技術などあ
らゆる面で援助がある。その一方で、品質・価格・納期といった取引
の条件では非常に厳しい条件のもとでコンペが設定され、受注獲
得後も厳しく条件順守・改善の実現が求められる。
完成品メーカー 部品メーカー
支援
取引・人材・資金・技術
厳守
納期・品質・価格 18
• 先端的な経営戦略学術誌では、すでに15年前に
実証済みのこと。
• 世界の有力企業は、その知恵をしっかり経営に取
り入れているから、垂直統合方針の決定において
も他社の先を行っている。
• この「ビジネス知識への貪欲さ」「新しいマネジメン
ト手法への進取的精神」における後発性こそが、
問題の本質なのではないか。
「競争」と「協力」のハイブリッドが、現代のトレ
ンド
まとめに代えて(2/2)
• ビジネスに新しい知恵を、
ビジネスにイノベーションを!
• その土台となるのは、学ぶことのほかに無い
経営戦略論10

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