那須南病院のCPS勉強会資料です。問題あればご連絡ください。

1. Painful Purple Toes
57歳男性 有痛性足趾紫色変化
N Engl Med 2010;362:67-73

2. これまで
• 慢性下痢、腹痛:ガストリノーマ
• 難治性気管支喘息:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
• 高Ca血症、貧血、腎障害、骨病変:サルコイドーシス
• 疲労感、遂行障害：PRES
• 不明熱：血管内リンパ腫
• 頭痛、発熱後の発疹：発疹チフス
• 肺胞出血、糸球体腎炎：Goodpasture’s症候群
• MVP、頭痛：IE
• 慢性下痢：VIPoma
• 出血傾向：多発性骨髄腫による後天性von Willebrand
病
• 腹部膨満感：好酸球性胃腸症
• 妊婦の突然発症の両側頭部頭痛と息切れ：褐色細胞腫
• 難治性VT：心サルコイドーシス
• 突然の霞目、複視：好酸球増多症候群に伴う心内膜炎
• ４週間続く倦怠感：強皮症腎クリーぜ
• 全身浮腫：心アミロイドーシス
• 心不全、CK上昇：脳挫傷後汎下垂体機能低下症
• 口腔内乾燥、頻尿：乳癌脳転移による尿崩症
• 病的骨折：腫瘍性骨軟化症
• 病的骨折：骨形成不全症
• 劇症肝炎：HSV感染症

3. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
上記で救急外来受診
他院 通院していたが、評価途中で当院受診
2週間前から有痛性の左第1趾の変色に気づいていた
左第2、3足趾まで変色が広がり、疼痛も増悪
過去3週間で間欠的に視界がぼやけたり、胸痛があったり、倦怠
感、食欲不振、寝汗、6.8kgの体重減少を認めた
同居人は、患者は少し困惑しているようだと述べた
鑑別診断は？

4. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
既往：高血圧、不安神経症、慢性背部痛、GERD
ベトナムで海兵隊にいた頃はマラリアに罹患し、臀部と頭蓋に怪我を
したことがある。PTSDあり
2年前にCS施行され良性のポリープを指摘された
内服：アルプラゾラム（BZ系抗不安薬）、オキシコドンとアセトア
ミノフェンの合剤、エソメプラゾール（ネキシウム）
郵便局に勤めており友人と同居している
喫煙：15本/日を30年間、毎週飲酒、たまにコカイン吸入するが、経
静脈的な違法薬物使用はない
離婚し、性生活はなし
癌、自己免疫疾患、DM、凝固異常の家族歴なし

5. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
BT36.4、BP167/86、PR104、RR16、SpO2 96%(RA)
眼底にRoths斑なし、頸動脈波異常なし、
肺音清
心音整 雑音なし、4音聴取
腹部平坦軟、肝脾腫なし
リンパ節腫脹なし

6. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
足背動脈、後脛骨動脈は減弱しているが触知可能、末梢は温かい
左足趾3本が境界明瞭で、冷たく、圧痛のある暗紫色変化してい
る部位がある
CRTは正常、下肢に発赤・浮腫・リベド（コレステロール塞栓で
見られる）なし
複数の指で爪下出血あり、Janeway斑やOsler結節なし
神経所見では左視野障害を認めた
MMSE 29/30 復唱に問題があった

7. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化

8. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
WBC 15510（80%顆粒球、14%リンパ球、5%単球、1%好酸球）
Hb、pltは正常、赤沈19mm/hr
電解質、BUN、Cre、Alb、グロブリンは正常
CRP32、CK40、CK-MB2.7、tropI2.22
PT-INR1.1、APTT25.7、fib264
末梢血スメアでは低色素血で破砕赤血球はなし
心電図では洞調律で下壁・前壁中隔誘導にST上昇あり

9. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
MRI・MRA

10. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
MRIでは右側頭葉と後頭葉、右視床、両頭頂葉、左前頭葉、両小
脳半球に複数の小さな病変を認めた
右後頭葉、右頭頂葉には造影効果を伴う大きな領域もあった
頚部・頭部MRAでは後交通動脈の血流低下を認めた

11. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
心エコーではM弁の軽度の肥厚、mild MRを認めた
そのほかの弁は正常
EFも正常、壁運動低下なし
鑑別診断は？追加検査は？

12. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
心エコーではM弁の軽度の肥厚、mild MRを認めた
そのほかの弁は正常
EFも正常、壁運動低下なし
他院で施行された静脈エコーと肺動脈造影CTでは両大伏在静脈
と右下葉の肺動脈血栓を認めた
診断は？治療は？

13. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
ECGではST上昇を認め、tropIも上昇しているが、
2領域に及んでいることから塞栓と考えられること
現在の胸痛もないこと
中枢神経の塞栓も出血のリスクがあることから
心カテは行われなかった

14. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
抗凝固はそのほかの検査が出るまでpending
（中枢神経に感染性塞栓がある場合、出血のリスクとなるから）
経食道心エコー

15. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
抗凝固はそのほかの検査が出るまでpending
（中枢神経に感染性塞栓がある場合、出血のリスクとなるから）
経食道心エコーではM弁後尖の大動脈よりに7mmの可動性のあ
る腫瘤を認めた
膿瘍なし、弁の穿孔なし、mild-to-moderateのM弁逆流あり
IEとしてセフトリアキソン、バンコマイシン、ゲンタマイシンが
開始された
しかし抗菌薬開始前に取られた血培は真菌も含め全て陰性

16. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
HIV、コクシエラ、バルトネラ、トレポネーマ、B肝は陰性
C肝は調べていない
抗カルジオリピン抗体は検査せず、ループスアンチコアグラント
は陰性

17. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
腹部造影CT

18. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
腹部CTでは肝に複数の低吸収域があり、転移性病変を示唆して
いると考えられた
膵頭部にも小さな低吸収域を認めた
胃・肝臓のリンパ節腫脹があり、両側腎に楔状の梗塞巣あり
肝のCTガイド下針生検が行われ、原発不明の未分化な
adenocarcinomaを認めた
血中のAFP、PSAは正常
HCGのβサブユニット（悪性腫瘍で上昇。膵臓癌では肝転移が
あると上昇）は20、CEA4.7、CA19-9 16611

19. 57歳男性 有痛性足趾紫色変化
入院8日目に未分画ヘパリンが開始され、その後低分子ヘパリン
に変更された？
その翌週に進行性の腎障害、視野障害、ベトナム戦争のフラッ
シュバックを伴う精神病が出現した
進行性の多臓器不全と予後が見込めないことから化学療法は計画
されなかった
患者希望で緩和ケア病院に転院し、初診から数週間以内に死亡し
た
病理解剖は行われなかった

20. 診断：悪性腫瘍（非感染性血栓性心内膜炎）による多発
塞栓症
57歳男性 有痛性足趾紫色変化

21. 動脈塞栓の鑑別
DIC（悪性腫瘍など）による過凝固状態、IEによる塞栓
心内シャントによる奇異性塞栓、クリオグロブリン
小血管炎、膠原病（SLEなど）による二次性の血管炎
・大動脈瘤がある患者や血管治療を最近受けた患者ではコレステ
ロール塞栓
・喫煙者ではバージャー病
→盗汗、体重減少、発熱などの全身疾患を示唆する所見があるか、
経静脈的薬物の使用がないか、過凝固の家族歴がないかチェック

22. 非感染性血栓性心内膜炎の原因
最多は癌 特に膵臓癌が多い。ほか、肺癌、大腸癌、前立腺癌
そのほかSLE、熱傷、HIV、結核、尿毒症、放射線被曝、ヘビ咬傷、
肺のカテーテルによる損傷

23. Painful Purple Toes
当院で挙がった鑑別診断
塞栓 or 血管炎
コレステロール塞栓、リンパ腫、IE、PN、心膜炎、心筋炎
抗リン脂質抗体症候群、ベーチェット病、傍腫瘍症候群