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心理的要因からのアプ
ローチにおける英語学習
言語学習における動機づけ研究の実証分析
産業能率大学 猪俣 真由美
1. はじめに
英語学習においては、「同じ授業を受けているにかかわ
らず、なぜ英語ができる学生とできない学生がいるので
あろう」、もしくは、「Yさんは授業が理解できるのに、
Xさんはなぜ授業を理解できないのであろう。」と教員
が疑問を感じることがよくある。これは、学生の心理要
因の差に起因していることが多い
2
2. 目的と仮説 (目的)
本稿の目的は、大学生の英語学習におけるラー
ニング目標の程度とふだんの学習行動との関係
を調べ、その2つの変数の関係により、言語学
習における動機づけの要因を明らかにすること
である
3
2. 目的と仮説 (仮説)
仮説1
ラーニング目標はふだんの学習行動の要因
として認められる
仮説2
ラーニング目標が高くなればふだんの学習
行動も高くなるとする
4
3.分析方法
方法としては、英語学習の視点における心理的要因からのアプ
ローチを考察するにあたり、竹綱ら(1995)をみならい、質問法
を用いる。学生10人にラーニング目標とふだんの学習行動のそ
れぞれ15の項目の質問紙を用いて、相関分析ならびに最小二乗
法における回帰分析をおこなった
5
3. 質問紙法 ラーニング目標
 1 自分の能力を高めることができるから
 2 問題を解くことが面白いから
 3 今勉強することが次の勉強に役立つと思うから
 4 実力が伸びたことを知ることが楽しいから
 5 難しいことに挑戦することが楽しいから
 6 わかることが楽しいから
 7 話せるようになることがおもしろいから
 8 つまずきや失敗を乗り越えることが楽しいから
 9 新しい解き方や、やり方をみつけることがおもしろいから
 10 新しいことを知ることができるから
 11 努力すれば実力がつくから
 12 難しい問題が解けると感動するから
 13 頭を使うことが好きだから
 14 GPAを上げたいから
 15 就職に有利になるから 6
3. 質問紙法 ふだんの学習行動
 1 自分で目標や計画を立てて勉強する
 2 毎日、復習する
 3 毎日、予習する
 4 わからないことがあっても、とにかく覚える
 5 自分に合った勉強の仕方を工夫する
 6 ふだんから、きちんと計画を立てておく
 7 学外以外で、毎日一定の時間、勉強する
 8 勉強で興味を持ったことがあれば、本を読んだり見学に行ったりする
 9 わからない問題でも、時間をかけて考える
 10 勉強で興味を持ったことを、納得できるまで考えたり調べたりする
 11 新聞や雑誌で、広く勉強することが好きである
 12 テストでわからない問題はとばして、たくさんの問題を解くようにする
 13 ふだんからテストに出そうなところだけを勉強する
 14 テストがなければ勉強しない
 15 テストに関係のない勉強はしない 7
相関分析
𝑟 =
𝑖≡1
𝑛
𝑥𝑖 − 𝑥 𝑦𝑖 − 𝑦
𝑖=1
𝑛
𝑥𝑖 − 𝑥 2 𝑦𝑖 − 𝑦 2
ただし、𝑥は𝑥の平均値であり、𝑦は𝑦の平均値である。
8
回帰分析
Y=α+βX+u
ただし、uは誤差項である。
上式の回帰直線に観測データを当てはめると、
Yi=α+βXi+ui 、i=1、2、…n
となる。
9
回帰分析
𝑏 =
1
𝑛 𝑖=1
𝑛
𝑥𝑖 − 𝑥
−
𝑦 − 𝑦
1
𝑛 𝑖=1
𝑛
𝑥 − 𝑥 2
=
𝑠𝑥𝑦
𝑠𝑥
2
𝑎 = 𝑦 − 𝑏𝑥
10
4. 分析結果
1 記述統計
2 ヒストグラム
3 相関分析ーピアソンの積率相関係数
4 回帰分析
5 分散分析表 1
6 分散分析表 2
7 ラーニング目標と学習行動の散布図
11
記述統計量
12
度数 最小値 最大値
学習行動 15 21 41 33.47 6.058
ラーニング目標 15 32 49 41.07 5.257
有効なケースの数(リストごと) 15
平均値 標準偏差
相関分析ーピアソンの積率相関係数
14
回帰分析
回帰統計
15
分散分析表1
16
分散分析表2
17
ラーニング目標と学習行動の散布図
18
5. 結論
本稿の目的は,大学生の英語学習におけるラーニング目標の程
度とふだんの学習行動との関係を調べ,その2つの変数の関係に
より,言語学習における動機づけの要因を明らかにすることで
あった。
19
仮説1
ラーニング目標はふだんの学習行動の要因として認められる
仮説2
ラーニング目標が高くなればふだんの学習行動も高くなる
1つ目の仮説である「ラーニング目標はふだんの学習行動の要因とし
て認められる」という結果となり、
「ラーニング目標が高くなればふだんの学習行動も高くなる」とし
た2つ目の仮説も認められた。
20
これにより、言語学習の心理的要因はラーニング目標とした学習における動機づけが高けれ
ば、ふだんの学習行動を起こす動機づけも高くなるという結論が実証分析によりわかった。
このことにより、教師がラーニング目標である学習者の動機づけを高くするように、学生に
精神革命を生じさせる有益な授業をおこなうことにより、学習行動を高めることができ、言
語習得にプラスを生じさせる要因となることがわかった。
21
6. 参考文献
竹綱誠一郎、鎌原雅彦、青柳賢治、高梨実、庄司奈々枝、1995、生徒の学習目標と学習行動―私立中高一
貫校と公立中学との比較―、帝京大学文学部紀要(心理学)、3,69-82
芝裕順、1975、行動科学における相関分析法、第2版、東京大学出版会
芝裕順、1984、統計的方法Ⅰ、新曜社
芝裕順、南風原朝和、1990、行動科学における統計解析法、東京大学出版会
鎌原雅彦、宮下一博、大野木裕明、中澤潤、2010、心理学マニュアル質問紙法、第15版、(株)北大路書房
村野井仁、渡部良典、尾崎直子、富田祐一、2012、総合的英語科教育法、株式会社成美堂
山崎勝之・内田香奈子(2005)「調査研究における質問紙の作成過程と適用上の諸問題」
鳴門教育大学研究紀要(教育科学編)第20巻、2005
F・W・テーラー著、上野陽一訳、1974、科学的管理法、第7版、産業能率短期大学出版部
22
ご清聴ありがとうございました
心理的要因からのアプ
ローチにおける英語学習
産業能率大学 猪俣 真由
美
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