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学習指導要領の改善の方向性 ―オーストラリアの外国語教育のカリキュラムの分析に基づく一考察―

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学習指導要領の改善の方向性 ―オーストラリアの外国語教育のカリキュラムの分析に基づく一考察―

オーストラリア(豪州)の豪州・カリキュラム評価報告機構(ACARA)が策定したナショナル・カリキュラム(NC)を分析し、日本の英語の学習指導要領(CS)の改善の方向を提案する。豪州のNCは教科学習での汎用的能力の育成を重視している。次期の日本のCSでは現行CSの汎用的能力の「学びに向かう力、人間性等」の指導内容を明記して、学校英語教育での育成を確実にしたい。豪州のNCはテクストタイプやテクストの特徴・慣習などのジャンルの知識の指導を明記している。日本の次期CSにもジャンルの知識の指導を詳しく書き込んで、学習者がまとまりのある英語のテクストを適切・効率的に理解・表現できるように導きたい。豪州のNCは一貫して二言語・複言語能能力の育成に努め、訳や通訳などのメディエーション技能を伸長している。日本の次期CSでもメディエーション技能を指導目標に位置付けて、複言語主義の学校英語教育を展開したい。

オーストラリア(豪州)の豪州・カリキュラム評価報告機構(ACARA)が策定したナショナル・カリキュラム(NC)を分析し、日本の英語の学習指導要領(CS)の改善の方向を提案する。豪州のNCは教科学習での汎用的能力の育成を重視している。次期の日本のCSでは現行CSの汎用的能力の「学びに向かう力、人間性等」の指導内容を明記して、学校英語教育での育成を確実にしたい。豪州のNCはテクストタイプやテクストの特徴・慣習などのジャンルの知識の指導を明記している。日本の次期CSにもジャンルの知識の指導を詳しく書き込んで、学習者がまとまりのある英語のテクストを適切・効率的に理解・表現できるように導きたい。豪州のNCは一貫して二言語・複言語能能力の育成に努め、訳や通訳などのメディエーション技能を伸長している。日本の次期CSでもメディエーション技能を指導目標に位置付けて、複言語主義の学校英語教育を展開したい。

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学習指導要領の改善の方向性 ―オーストラリアの外国語教育のカリキュラムの分析に基づく一考察―

  1. 1. 松沢 伸二(新潟大学) 学習指導要領の改善の方向性 ―オーストラリアの外国語教育のカリキュラムの分析に基づく一考察― 1. はじめに オーストラリア(以下,豪州)は以前は州(New South Wales州など)別にカリキュラムを策定していたが,2008年に豪州 の各州政府が合意してThe Australian Curriculumをナショナル・カリキュラム(以下,NC)として策定することになり,そ の初版(Version 1.0)を2010年に公表した。現在は豪州・カリキュラム評価報告機構(Australian Curriculum, Assessment and Reporting Authority, ACARA)がNCの責任部局となっている。NCは21世紀に向けたカリキュラムとして 2011年に初めて実施され,今年で10年以上実施されているカリキュラムである(Price, 2022)。ACARA(2015)は豪州の 外国語としての学校フランス語(以下,仏語)教育の現行版NC (Version 8.4)であり,ACARA(2022a, 2022b)はその改 訂版NC(Version 9.0)である。本研究は豪州のこの2つのNCを分析し,日本の英語の学習指導要領(以下,CS)の改善の方 向を提案する。 a. 文部科学省のCSを説明するサイト(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/idea/index.htm)では,CSは 一般向けには次のとおり説明されている:「学習指導要領」とは,全国どこの学校でも一定の水準が保てるよう,文部科学省が 定めている教育課程(カリキュラム)の基準です。およそ10年に1度,改訂しています。子供たちの教科書や時間割は、これを 基に作られています。 b. 現行の中学校のCS(文部科学省,2018a,2018b他)は平成29(2017)年に告示され,令和3(2021)年から3学年一斉 に実施されている。次期の改訂版CSが告示されるのは令和9(2027)年頃と予想される。 c. 本研究は,約5年後に告示予定の改訂版CSの改善の方向性を,上記の豪州のNCを基に考察する。 d. 以下に,「汎用的能力の指導」,「ジャンル準拠のテクストレベルの指導」,そして「メディエーション技能の指導」を順に 取り上げる。 1
  2. 2. 2. 汎用的能力の指導(2の1) 豪州のNCは教科学習での汎用的能力(general capability)の育成を重視している。例えば,ACARA(2022a, p. 15)の「仏語でテクストを創作すること」の指導目標には,ACARAのサイトの該当ページで,汎用的能力と しての① ICT技能,②リテラシー,③個人的・社会的能力も指導する,と併記されている。日本の現行CSの汎用的 能力の「学びに向かう力,人間性等」は,「知識及び技能」と「思考力,判断力,表現力等」の資質・能力の働か せ方を決める「重要な要素」(文部科学省, 2018a, p. 38)だが,学習内容が示されていない。次期CSにはその 内容を明示して,学校英語教育での育成を確実にしたい。 a.「オーストラリアのカリキュラム」の特徴は,端的に言えば,いわゆる教科にあたる各学習領域(discipline- based learning areas)の教授・学習と,汎用的能力(general capabilities)の育成,および領域横断的な優 先事項(cross-curriculum priorities)の扱いとが同程度に重視されていることである。(青木, 2014, p. 3) b.「汎用的能力」は,各学習領域をまたがって必要とされる知識,スキル,行動および態度を示したものである。 具体的には,リテラシー,ニューメラシー,ICT技能,批判的・創造的思考力,倫理的行動,異文化理解,個人 的・社会的能力の七つの能力が含まれる。これらはいずれも21世紀を生き抜く上で必要不可欠な知識,スキルや 態度と見なされている。(同上) c. このように同国初のナショナル・カリキュラムにおいて,汎用的能力が各学習領域と同等に重視される背景に は,変化が激しく益々多様化する世界を生きる21世紀の学習者(21st Century learners)にとって,柔軟で分 析的な考え方や他者と協働する資質,学問横断的な能力が必要不可欠だとの政府の強い信念が存在する。(同上) d. ACARA (2022a, p. 15)には「仏語でテクストを創造すること(Creating text in French)」の指導目標が Years 9-10(日本の中3・高1に相当)向けに、次のように示されている(冒頭にStudents learn to: を補う)。 2
  3. 3. 2. 汎用的能力の指導(2の2) e. 目標記述文の下に示されている3つのアイコンは,この指導目標で,仏語の言語的技能を伸長する指導とあわせ て,3つの汎用的能力を指導することを教師に明示している。それらは順に,①ICT技能,②リテラシー,③個人 的・社会的能力である。 f. このうち③は,日本の現行CSが「学びに向かう力,人間性等」の資質・能力の1つとして挙げる「互いのよさ を生かして協働する力」(文部科学省,2018a, p. 39)を含む。豪州の小学校は特に③を重視し、インフォーマ ルな形であるが,単元指導計画に予定し,通知表で個人の伸びを報告している(Carter & Buchanan, 2022)。 g. ③の指導は,「指導要領には書かれていないが大切にしていること」として従来から日本の学校教師も行って きた(松沢・三浦・峯島,2018,p. 37)。次期の日本のCSでは豪州のNCのように,汎用的能力を含む,「学び に向かう力・人間性等」の指導目標を,英語科の各指導目標・指導内容・言語活動ごとに具体的に明示して,学校 英語教育でその資質・能力の育成をより確実に図れるようにしたい。 3 仏語でテクストを創作すること AC9LF10EC06 [生徒は次を学ぶ]身近な,またはいくらか身近で ない文脈や目的に応じて,さまざまな読者を惹きつ けるように,語彙,表現,文法構造,テクストの慣 習を選択し,口頭,書面,マルチモードの情報テク ストや想像テクストを創作する
  4. 4. 3. ジャンル準拠のテクストレベルの指導(2の1) ACARA(2015, 2022a)はテクスト(text),テクストタイプ(ジャンル) (text type [genre]),テクス トの特徴・慣習(textual feature/convention),言語の特徴(language feature)などの指導を重視している。 これらの知識は,母語や外国語でまとまりのあるテクストを聞く・話す・読む・書く・訳すなどの際に必須な知識 であり,「ジャンルの知識(genre knowledge)」と呼ばれている。日本の次期CSにもジャンルの知識の指導を 詳しく書き込んで,学習者がまとまりのある英語のテクストを適切・効率的に理解・表現できるようにするテクス トレベルの指導を各教師が行うようにしたい。 a. ACARA (2015, p. 35)には用語集があり,そこではテクストタイプ(ジャンル)は次のように説明されてい る。 Text types (genres): Categories of text, classified according to the particular purposes they are designed to achieve, which influence the features the texts employ. For example, texts may be imaginative, informative or persuasive; or can belong to more than one category. (後略) b. 以下はACARA (2015)に規定されている,ジャンルの知識についてのステージ別指導内容である。 [就学前~2年生]Understand that language is organised as ‘texts’, which take different forms and use different structures and features to achieve their purposes (p. 50) [3・4年生]Notice differences between simple spoken, written and multimodal French texts used in familiar contexts, and compare with similar texts in English (p. 64) [5・6年生]Understand how different French texts use language in ways that create different effects and suit different audiences (p. 77) [7・8年生]Analyse the structure and organisation of a range of texts created for purposes such as information exchange or social interaction (p. 91) [9・10年生]Analyse how different types of text incorporate cultural and contextual elements (p. 4
  5. 5. 3. ジャンル準拠のテクストレベルの指導(2の2) c. 豪州と同様の指導は,日本でも以下の国立教育政策研究所(2021, p. 83)で高校生向けに示されている。 d. 上はACARA (2015)のtext type(genre)の代わりに「文体」,同imaginative, informative or persuasive textの代わりに「叙述文・説明文・論証文」を用いてジャンル準拠のテクストレベルの指導と評価を 説明している。 e. 日本のCSでは上のbやcの記述が不十分なため教科書で扱うジャンルの幅が狭い(今井・峯島・松沢,2019)。 f. NCは産出技能に加えて読む等の受容技能の活動も,次例のようにジャンル準拠で記述している。Analyse how different types of text incorporate cultural and contextual elements ... analysing cultural differences in genres such as cover letters for job applications or letters of complaint, noting protocols and conven-tions (for example, stating the purpose of a formal letter at the beginning: le recyclage propos dans notre ville [当市のリサイクルについて] (9-10年,中3・高1向け,ACARA , 2015, p. 105). 次期日本のCSにもこうした記述を加えて,まとまりのある英語のテクストを種々の技能で駆使する能力を 5 文体 書く内容(例) 効果的な論理構成や展開(例) 叙述文 経験や人物伝,歴史上の出来事。人や場所,物 の描写など。 (例:日記,物語,紹介文,人物の 伝記など。 ) ・〔経験や出来事〕時間軸に沿って書く。 ・〔描写〕特徴を重要な順や空間的配置等に従っ て書く。 説明文 主題に関する客観的事実や情報など。 (例:絵や 写真などの説明,新聞や雑誌の記事など。 ) ・ 要点を項目立てて整理し,説明すべき物事の 定義や具体例などを添える。 論証文 意見や主張を掲げた,相手を説得するための議 論など。 (例:新聞等の意見欄などへの投稿,レ ポートや論文など。 ) ・ 序論→本論→結論の構成で書く。 ・ 理由付けや具体例などの証拠を用いて,説得 力のある意見や主張を書く。
  6. 6. 4. メディエーション技能の指導(2の1) 豪州のNCは一貫して「世界の多くの地域では二言語能力や複言語能力が普通である」(ACARA, 2022b, p. 3)と捉え,学校仏語教育では中学生が「短いテクストを仏語から英語またはその逆に訳す・通訳する」などを 行っている。訳や通訳はメディエーション技能と呼ばれ(ACARA, 2015, p. 27),「ヨーロッパ言語共通参照 枠」も外国語学習の重要な目標に位置付けている(Council of Europe, 2020)。日本の次期CSでもメディエー ション技能を指導目標に位置付けて,複言語主義の学校英語教育を展開したい。 a. 豪州の現行のNC は指導内容を2つのストランドと8つのサブストランドに分けて示している。第1ストランドは 伝達すること(Communicating)で,①社交的に活動すること (Socialising),②伝えること(Informing), ③創造すること (Creating),④訳すこと(Translating),⑤振り返ること (Reflecting)のサブストランドがある。第2ストランドは理解 すること(Understanding)で,⑥言語の仕組み(Systems of language),⑦言葉の変種と変化(Language variation and change),⑧言語と文化の役割(The role of language and culture)のサブストランドがある( ACARA, 2015, p. 9)。 b. 豪州の改訂版NCでは,2つのストランドもその各サブストラン ドも右図のように改編されたが,上の④訳すこと(Translating) は改訂版では「言語内と言語間で意味を仲介すること(Mediating meaning in and between languages)」と言い改められたもの の,変わらずに重要な指導目標に位置付けられている(ACARA, 2022b, p. 5) 。 6
  7. 7. 4. メディエーション技能の指導(2の2) c. 豪州の学校仏語教育では日本の小学校5年生から高校1年生までの学習にメディエーション活動を含めている。 例)Year 9-10: apply strategies to interpret and translate non-verbal, spoken and written interactions and texts to convey meaning and intercultural understanding in familiar and unfamiliar contexts (ACARA, 2022a, p. 14) (中3・高1:慣れ親しんだ,あるいはなじみのない文脈で,意味や異文化 理解を伝えるために,非言語・口頭・書面のやり取りとテクストを解釈し,訳す方略を適用する)。 d. 日本のCSは,「もしこれまで日本語での文法説明や本文の和訳などに偏った授業を行っていたならば,そうし た授業の在り方自体を見直し,必要な意味内容をいかに英語で伝えることができるかを考えて授業を工夫改善して いかなければならない」(文部科学省, 2018b, p. 87)と,教師のメディエーション活動に言及しているが,学 習者のメディエーション活動には言及していない。そこではメディエーション技能は学習目標に設定されていない。 e. 一方,学習者は授業中に訳を活用して学習したり(Masuda, 2021),大学教師から訳を求められたり(増田, 2022),高校入試や大学入試で英文和訳問題・和文英訳問題・下線部日本語説明問題などのメディエーション問 題に解答したりするなどして,メディエーション活動を日々行っている。 f. 教師はと言えば,中学校教師の場合は高校入試でのメディエーション問題の出題が都道府県ごとに,または年ご とに異なることに困惑している。メディエーション問題を出題する国公立大学を受験する生徒を指導する高校教師 は,正規の英語科目の授業では5領域の言語活動中心の授業をし,メディエーション技能を伸長する精読の授業は 放課後や休暇期間の「講習」で行ったりしている。英語の「授業は英語で行うことを基本とする」(文部科学省, 2018b, p. 86)の原則のもとで,メディエーション活動を行うことに罪悪感を感ずる教師が中高どちらにもいる。 g. 次期日本のCSにはメディエーション能力を育成する目標を追加して,入試でもその能力を測ることを提案する。 7
  8. 8. 5. おわりに 豪州のNCは,ステージ毎に到達スタンダード(achievement standard)を記述する。日本のCSにはこの記述 がないが,小中の接続の問題や中学校の評定の学校間格差の問題を解決する記述になりうる。今後に検討したい。 引用文献 Australian Curriculum, Assessment and Reporting Authority (ACARA). (2015). The Australian Curriculum: Languages French (Version 8.4). https://www.australiancurriculum.edu.au/download?view=f10 Australian Curriculum, Assessment and Reporting Authority (ACARA). (2022a). Australian Curriculum: Languages – French F–10 (and 7–10) Version 9.0 Curriculum content 7–10 sequence. https://v9.australiancurriculum.edu.au/downloads/learning-areas# accordion-4f750b9a53-item-c71c0ed634 Australian Curriculum, Assessment and Reporting Authority (ACARA). (2022b). Australian Curriculum: Languages: F–10 (and 7-10) Version 9.0 About the learning area. https://v9.australiancurriculum.edu.au/downloads/learning-areas#accordion-4f750b9a53- item-c71c0ed634 Carter, D., & Buchanan, J. (2011). Implementing the general capabilities in New South Wales government primary schools, Curriculum Perspectives, 42, 145–156. https://doi.org/10.1007/s41297-022-00169-5 Council of Europe. (2020). Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment – companion volume. https://rm.coe.int/common-european-framework-of-reference-for-languages-learning-teaching/16809ea0d4 Masuda, M. (2021). Exploring Japanese junior high school students’ use of translation in speaking pre-tasks. KATE Journal, 35, 15-28. Price, D. (2022). The Australian Curriculum over a decade: The status of the promises, problems, and possibilities. Curriculum Perspectives, 42, 181–183. https://doi.org/10.1007/s41297-022-00171-x 青木麻衣子. (2014).「第7章 オーストラリアの教育課程」独立行政法人国際協力機構地球ひろば・株式会社 国際開発センター(IDCJ)『文 部科学省国立教育政策研究所・JICA地球ひろば共同プロジェクト グローバル化時代の国際教育のあり方国際比較調査最終報告書(第1分冊)』 pp. 1-16. https://www.jica.go.jp/hiroba/teacher/report/prmiv10000002siq-att/comparative_survey01_07.pdf 今井理恵・峯島道夫・松沢伸二 (2019).「高校英語におけるジャンルの意識:学習指導要領及び解説、検定教科書の調査から」『関東甲信越英 語教育学会誌』第33号, 55-68. 国立教育政策研究所.(2021).『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料高等学校外国語』 増田瑞穂. (2022).「Cross-linguistic mediation活動のニーズ―予備調査―」『全国英語教育学会第47回北海道研究大会発表予稿集』82-83. 松沢伸二・三浦孝・峯島道夫. (2018).「新学習指導要領の『学びに向かう力,人間性等』を英語教育はどう構想すべきか」『英語教育』67 (5), 34-39. 文部科学省. (2018a).『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説総則編』東山書房. 文部科学省. (2018b).『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説外国語編』開隆堂. 8

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