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趙武霊王①(趙の武霊王、胡服令を出す)
- 1. 戦国篇 第 16 集
趙武霊王①(趙の武霊王、胡服令を出す)
長い袖の伝統的な衣服(上)を脱ぎ捨て、胡服(下)を身にまとう趙武霊王
- 2. 第 16 集 趙武霊王①(趙の武霊王、胡服令をだす) -戦国篇-
―背 景―
現在の河北省、山西省、内蒙古などに領土をもつ趙国は、北方の異民族・東胡、匈奴(き
ょうど)からの度重なる侵略を受けていた。
蘇秦(そしん)が合従(がっしょう)を説いた趙の粛侯(しゅくこう)の子にあたる武霊
王(ぶれいおう)は、この状況から脱却するための方法を模索していた。
―あらすじ―
死体が累々(るいるい)と横たわる戦場、それら死体の中から趙の公子・何(か)が現れ、
しきりに父・武霊王を捜す。と、そこへ趙の重臣・李兌(りたい)と肥義(ひぎ)がやって
来るが、二人とも武霊王に会わなかったと言う。東胡との戦いに敗れた武霊王は、東胡に拉
致されてしまったのであろうか…
こちらは、東胡の陣営。趙との戦いに勝ち、喜んで踊り狂う東胡の兵士ら。
そこへ、縛られた公子・何が連れられて来る。すると東胡の兵士の一人が、何の縄を解き、
彼と力比べをする。その兵士は図体が大きく、何はたちどころに投げ飛ばされてしまう。劣
勢を悟った何は、近くに居た馬にまたがり、逃げようとする。
と、その兵士も又馬にまたがり、何を追う。そして弓に矢をつがえて彼を射殺そうと思い
きや、なんと東胡の護衛兵を射殺し、何と共に趙国に向かって逃走。その兵士は、実は、行
方不明になっていた趙武霊王その人であったのだ。
東胡になりすましてい
た趙の武霊王
- 4. 武霊王(左)の
怒りを解こう
と、躍起になっ
て何(右)を跪
かせようとす
る呉娃(中)
もともと呉娃にぞっこんであった武霊王は、ついに負けて、剣を収めて行ってしまう。
武霊王は、ふと先ほど何が言った言葉を思い出す。それは「胡服を着て馬上から弓を射る
(胡服騎射/こふくきしゃ)」であった。“胡服騎射”か。なるほど、これでいこう!」なに
「
やら閃いた武霊王はそう呟(つぶや)くと、満足そうに出て行く。
それから数日がたった。武霊王は腹心の部下である肥義に、趙軍の軍事訓練の様子を見せ
た。彼ら趙兵達は、胡兵よろしく、馬上から敵に見立てたワラ人形を切りつけ、標的めがけ
て槍を飛ばしていた。その勇壮な様子は、まさに胡兵ではないかと見間違うほどである。
けげんな顔をする肥義に対し武霊王は言う:
「胡人の気性は狼のようなもの。だから、狼と
戦うには自らも狼にならねばならぬ。つまり奴らが着ている胡服を着、小回りのきかない戦
車は止めて、奴らと同じように馬上から弓を射る。こうしてこそ、初めて勝利が得られるの
だ」
肥義はその斬新なアイデアに驚くが、富国強兵を進めるためには、なんらかの手を打たね
ばないと感じていたため、武霊王の先見の明にいたく感激する。が、問題は、肥義以外の大
臣たちと公子・何であった。
「孔子の
先ず、武霊王の叔父にあたる趙成(せい)は、その話を聞いて大いに怒って言う:
- 5. 唱えた礼儀が、未だ趙国にいきわたっていないのに、さらに野蛮人の真似をせよと言うのか!?
孔子の教えを破ったり、古来からの法を変えるべきではない!」
一方、武霊王は三人の息子(長男の趙章、次男で呉娃が生んだ趙何、三男の趙勝=後の平
原君)を呼んで、
「胡服騎射」の是非を問う。すると、趙章と趙勝は模範的な答えをするのだ
が、一人趙何(公子・何)だけは、相変わらず胡服騎射に反対する。そして更に言う:
「胡人は君臣、父子の別を知らず、目上の者を敬うという礼儀を心得ておりません。ですか
ら、もし胡人にならって胡服にすれば、将来趙の人間も目上の者を敬わなくなり、君主や父
親を殺すといった事件も起こるかもしれません」
左から趙勝(三
男)、趙何(二男)、
趙章(長男)
ところがその話を聞いた武霊王、胡服を止めるどころか、かえってその気になって言う 「う
:
~む。ワシはもともと胡服にすることに迷いがあったが、お前の言葉で決意がついた。よし、
明日にでも胡服を着て朝廷を開くぞ。今後、一体どんな奴がワシを殺そうとするか、とくと
拝見しようじゃないか」
一方、胡服に反対する趙成とその食客らは集まり、胡服の非を論じては気勢を上げていた。
と、突然そこへ武霊王が入ってくる。武霊王は言う:
「礼法というものは、元々人間が決めたものであり、時勢が変れば、礼法も変えねばならぬ。
かつて呉・越の人は髪をザンバラにし、体に入れ墨をほどこし、着物を左前に着ていたが、
中原で次々と覇を称えた。彼らは勇猛かつ素朴な気風をもっていたからである。一方、趙国
- 7. 趙国で胡服令がいきわたると、武霊王は早速、中山征伐の軍備を整え、重臣たちを招集す
る。ところが、重臣の中に趙文、趙俊(しゅん)
、周紹の三人の姿が見当たらない。みな病気
だと言う。そこで武霊王は嫌味たっぷりに言う:
「これは胡服病だな。そして彼らはみな趙成
の食客だ。趙成、ご苦労だが彼らを呼んできてくれ」
すると趙成は巧みな言葉で辞退する:
「私は皆を説得できるような権威を持っておりません
ので、『呼んで参ります』と申し上げたところで、空約束に終わってしまいます」
武霊王は言う:「分かった。では、ワシが自分で処理することにしよう。(護衛兵に向かっ
て)趙文、趙俊、周紹の三人を誅殺せよ。そしてその証拠として、奴らの首をここに持て!」
それを聞いた趙成はびっくり仰天。慌てて「王様、彼らは王族であり、かつ朝廷の重臣で
す。もし彼らに罰を与えるのであれば、代わりに私に罰をお当て下さい!」それに答えて武
霊王は言う:「よし、では願いをかなえてやろう。(護衛兵に向かって)趙成の首を斬り、そ
れを、さらしものにするのじゃ!」
「王様、
本当に私
を殺すお
つ も り
か!?」
殺される
間際にな
って事態
の深刻さ
に気付く
趙成(右)
左は胡の
軍服を着
た武霊王
それには公子・何や他の重臣たちもびっくり。慌てて趙成の命乞いをするが、武霊王の決
意は固い。彼は言う:
「趙成は謀叛を企てていたのだ。その罪は誅殺に値する。これ以上、趙
成の命乞いをする者は同罪だ!」 (→「趙武霊王②」につづく)