1. 84 三分帰晋（蜀、魏、呉滅び、晋 天下を統一す）
魏帝・曹奐から譲られた玉璽(即位の正統性を示す印章)を
高々とかかげる司馬炎(司馬昭の子)

2. 第 84 集 三分帰晋（蜀、魏、呉滅び、晋 天下を統一す）2009.12.9 更新
―「３時間で～」第 87、88、(89)話参照
チャプター① 剣閣。孔明の位牌の前で跪く姜維と武将たち～
チャプター② 司馬昭から鄧艾追討の命を受けた鍾会、早速 姜維と相談する～
チャプター③ 解説「洛陽に連れて来られた劉禅を、司馬昭は安楽公に任じた。劉禅はその礼を
述べるため、自ら司馬昭邸を訪れた」～
チャプター④ 劉禅に再度「蜀が恋しくないか？」と尋ねる司馬昭～
～解説「司馬昭の死後、長男の司馬炎は魏主・曹奐に退位を迫り、魏は滅びる。
265 年、司馬炎は晋の皇帝の位につく。280 年、晋は呉に出兵。呉主・孫皓は
投降し、呉も滅びる。こうして 72 年におよんだ三国時代は幕を閉じ、天下は
晋に統一された」
本第 84 集のあらすじは以下の通り(１→６)：
１成都で劉禅が鄧艾に城を明け渡したと知った姜維、悲憤に堪えない。が、孔明の位牌の前で祈
りをささげている内に蜀復興の計を思いつく。それは漢中を占領している鍾会に偽の投降をし、
鍾会陣営に潜入して魏軍の内部分裂を図り、その隙に蜀を復活させようというもの。
こうして投降した姜維に対し、鄧艾と反目している鍾会は、「姜維を仲間にすれば鄧艾と対抗
できる」と考え、大喜び。義兄弟の契りを結ぶほど姜維を信頼する。
「敵の敵＝味方」
という論理から、
姜維(左)を、兄と
して礼遇する鐘
会(右)

3. ２一方、成都でこのことを伝え聞いた鄧艾は、鍾会にライバル意識を燃やし、「成都における自
分の人望を高め、司馬昭にも自分の功績を認めてもらおう」と躍起になる。そこで劉禅および
蜀の役人たちを優遇し、司馬昭には「こうしておけば呉もやがて帰順するでしょう」と手紙を
書く。しかし、司馬昭は逆にこの手紙によって「鄧艾が成都で専制を行うのではないか」と疑
いはじめる。
３かたや漢中の鍾会は、「ライバルの鄧艾が成都一番乗りの手柄を立て、地位も自分より上にな
ったこと」を根にもち、何とか鄧艾を陥れようと考える。密かに蜀の復興をもくろむ姜維は、
この二人の仲たがいを利用しようと、彼らの闘争を応援。司馬昭が鄧艾に疑惑をもったことに
乗じて、更に鄧艾に不利な情報を流させる。その結果、司馬昭は鍾会に鄧艾討伐を命じる。こ
うして鄧艾父子は捕らえられ、洛陽への護送が決まる。が、一方司馬昭は、今度は鍾会も専制
を行うのではないかと疑い、それを確かめるべく自ら長安に親征する。
それを知った鍾会、慌てて姜維に相談すると、姜維は暗に魏からの独立を示唆。そこで鍾会は
心を決め、その直前に亡くなった郭皇太后が「密かに『司馬昭を討て』との詔を出していた」
とのデマを飛ばし、成都に集まっていた魏の将軍たちに「共に司馬昭を討伐してくれ」と頼む。
しかし諸将は動揺、あせった鍾会は、剣を振りかざし、やっと諸将の同意をとることになる。
４諸将の反応に不安を感じた鍾会は、彼らを成都宮中に幽閉。その後、姜維の入れ知恵もあって、
全員殺害することにする。ところが、鍾会の部下の中に内通者が出たため、城外で待機してい
た諸将の部下たちが一斉に城内に突入。先ず鍾会が射殺され、
あっけなく射殺
されてしまう鐘
会

4. 剣を抜き放って応戦しようとした姜維も、心臓発作が起こって思うように戦えず、柱を背に自
分の腹に剣を貫通させ、柱に体を釘付け状態にして自害する。
５こうして鍾会と姜維、そして鄧艾父子も、この魏の内紛によって亡くなる。
一方、劉禅は身柄を洛陽に移され、司馬昭によって安楽公に任じられる。喜んだ劉禅はそのお
礼に司馬昭邸を訪れる。司馬昭は彼のために宴会を開き、先ず魏の女歌舞団の舞を見せた後、
きらびやかな衣装を着け、
優雅に踊る魏の舞
別の女歌舞団を呼んで蜀の舞を舞わせ、
可憐で悲哀を感
じさせる蜀の舞
(この写真の前後
に、足を高く上げ
るアクロバティ
クな場面もある)

5. 劉禅の反応をうかがう。劉禅はどちらの舞に対しても感心した様に眺め、いかにも楽しそうで
ある。蜀の舞いの最中、司馬昭は劉禅に「蜀が恋しくないか？」と尋ねる。しかし、劉禅は「洛
陽の生活が楽しいため、蜀が恋しいとは思いません」と答え、司馬昭を呆れさせる。
最後の最後までバカ殿ぶ
りを発揮する劉禅
いやはや...
６司馬昭はその後間もなく亡くなり、長男の司馬炎は、魏主・曹奐に退位を迫る。そして禅譲の
儀式を行い、魏は滅び、司馬炎は晋の初代皇帝となる。
玉璽(帝王の印章)を
じっと見入る司馬炎
その十五年後(AD280)、司馬炎は呉をくだし、呉も滅ぶ。これによって魏・蜀・呉三国鼎立の
時代は終わり、天下は晋によって統一される。

6. いよいよ最終回。比較的長いストーリーがこの１集にまとめられているため、見どころが盛りだ
くさんの第 84 集である。
しかし、その中で特に印象に残った場面がある。それは、姜維が死ぬ場面(上記あらすじ４のア
ンダーラインの部分)である。
その映像をここで忠実に再現すると「姜維は『わが計成らず、これも天のさだめ』と言うなり剣
を腹に突き通し、柱に釘付けの状態になったまま息が絶える。その姿は、両手を天に掲げ、目は
天をにらみつける様に見開いたまま。
立ち往生(？)で亡くなる姜維➝
この時、にわかに雷が轟き、大雨が降り始めた。姜維の死体を取り巻く魏兵たちも、その光景の
異様さにたじろぐばかりで、身動きすらできない。そこへ魏の参謀・邵悌がやって来て死んだ姜
維に向かって拝礼し、『蜀が滅びたのは姜維殿の責任ではなく、劉禅の不徳の致すところです』
と語りかける。すると姜維の目が閉じられ、同時に天に向けられていた顔や手が、ガックリと下
に垂れさがる。
姜維の遺体(左)に語りか
ける邵悌(右)

7. それを見届けた邵悌、部下の魏兵に向って『姜維殿を手厚く葬るように！』と命じる」
中国語の諺に“死不瞑目”という言葉がある。表面的な意味は「死んでも目をつぶらない」だが、
本当の意味は「（生前にやるべき事がやれなくて）死んでも死にきれない」ということ。だから、
この姜維が死んでも目を閉じないのは、正に「蜀を復興させることができず、志半ばで倒れた。
悔しい～」という思いを象徴しているのであろう。そして邵悌の「蜀が滅びたのは姜維殿の責任
ではなく...云々」でやっと姜維の無念さの一部が晴れ、目を閉じて成仏(?)できたといったとこ
ろか。
一方、演義の原文の描写は、これとはかなり趣が違う。つまり「姜維は『わが計成らず、これも
天のさだめ』と言うなり剣で首をはねて死んだ。...魏の兵士らは姜維に復讐しようとその死体
に群がり、腹を切り裂いた。すると姜維の胆(たん)は、なんと鶏の卵くらいの大きさがあった。
また、彼らは姜維の家族を捕らえて皆殺しにした」となっている。
こちらは結構残酷かつグロテスクな描写だ。だが、この魏兵たちの気持ちも分からない訳ではな
い。確かに姜維は蜀(孔明の遺志)に忠誠を尽くす英雄だが、これはあくまでも蜀側から見た話。
もし魏の人間の目から見たらどう映るだろう？ 姜維は元々魏の武将である。それが孔明に引き
抜かれて蜀に寝返った。そして孔明の指導のもと、蜀のために魏と戦い続けた。魏の大将軍・曹
真に偽の投降書を送って騙し討ちにしたこともある。そして孔明の死後も、厭戦ムード漂う蜀の
中でただ一人、北征を強行した。彼は主に鄧艾と戦い、数多くの魏の武将を殺している。特に最
後は、「鍾会に偽の投降を演じ、彼をすっかり信用させて、魏軍の中をかき回し、諸将一斉殺害
を計画する」など、魏の将兵たちにとって最も憎むべき存在。姜維が一旦不利な立場になった途
端、今までの復讐をしようとするのもうなずける。
だが、蜀側の立場で考えると、姜維のこの最期はあまりにも可哀想である。孔明という後ろ盾を
失い、皇帝・劉禅がどんどん堕落して足を引っ張るという最悪の環境の中、あれほど力を尽くし
て戦いぬいたのに、こんな死に方をしたのでは浮かばれない。たぶん、この映像を作った演出家
(もしくは脚本家)もそう思ったのだろう。だからこの場面、演義では登場しない魏の参謀・邵悌
を出し、ねぎらいの言葉をかけて姜維の霊を慰めるという演出をしたようだ。
この場面、なかなか見応えがあった。そして私自身「絶対こちらの解釈の方がいい！」と思った
(^O^)