「オンライン授業」は
高等教育を変えるか
重田勝介(北海道大学)
JSET2020 シンポジウム1
9/12(土)10:40〜12:20
− オンライン授業 −
“永遠のなかになお消え去ろうとしているこの言葉、私がおそ
らく完全には理解していないこの言葉のことを考えると、不
安になるのです。”
--- ミシェル・フーコー「言説の領界」
ジャネの患者の語り
高等教育におけるオンライン授業の
実施状況
• 2020年7月1日時点で83.9%の大学および高等専門
学校が遠隔授業を実施
• 全ての高等教育機関で授業が実施された
北海道大学のICT活用教育 推進体制
• ICTインフラ面:情報基盤センター
• ICT教育支援面:高等教育推進機構 オープンエ
デュケーションセンター
• 全学的なオープン教材(OER:Open Educational
Resources)を活用した教育・学習支援を実施
• OERに関する研究開発を推進
4
オープンエデュケーションセンターの取組
• 「教育改善」のためのICT活用教育の導入と
オープン化
• 学内教育改善のためのOER開発、授業支援
• プラットフォーム構築、LAツール開発
• 国際化と広報のためのMOOCとOCW
5
全学的なオンライン授業実施への対応
• 令和2年度前期の授業は全てオンラインで実施
• 教職員と学生に向けた情報提供
• 「オンライン授業導入ガイド」の公開(4/8〜)
• 教職員と学生向け
• オンライン授業についての考え方の整理とtipsの提供
• ウェビナーの開催
• 「オンライン授業検討会」毎週1,2回の定期開催
• 累計で1800人以上が参加
• 同時配信授業の支援
• 医学部における遠隔授業の実施支援(2〜4年生)
オンライン授業導入ガイドの公開
https://sites.google.com/huoec.jp/onlinelecture/
オンライン授業導入ガイド 運用状況
• 本日までに17万ページビュー、14万人の訪問
• 検討会の開催概要・配布資料・録画映像の公開
• FAQの更新(約300件)
• 寄せられた質問に対する回答の掲示(随時更新中)
• 全学LMSの稼働状況を掲載
• 英語版の公開
「異常」に使われたLMS
• 設計仕様の4倍を超える同時利用
• 同時ログイン数2,000名以上,同時接続数46,000名
• (北大の教職員3,937名,学生17,756名)
• ストレージの逼迫(通常の5倍のペースで消費)
北大のオンライン授業 実施状況
• オンデマンドのみが4割程度,同時配信のみが
2割程度,3割程度が両方を利用
• 新入生を対象とした調査
• 授業時間を含めた1週間あたりの平均総学習時間が
29時間から40時間以上に増加
• 新入生は課題の多さと教員とのコミュニケーショ
ン不足を感じる
• 他大学では2年生以上の満足度が高いとの調査もあり
さて,「教育のデジタルトランス
フォーメーション(DX)」は近づく?
• 全国規模で教育者と学習者の双方が否応なしに
オンライン学習を経験した
• この経験が教育における新しい常態の実現やデジ
タルトランスフォーメーション(DX)を促進する
• 本当か?
教育のデジタル化の
「課題」と「善さ」を
再考する必要がある
3点について検討したい
(1)「オンライン授業」を続けられるか?
• 教育現場は「無い無い尽し」だった
• 同期型授業を行うビデオ会議サービス
• 非同期型授業を行うための学習管理システム(LMS)
• 有ったとしてもキャパシティ不足で不安定
• オンライン教材
• ID管理システム(教員・学生)
• 教員と学生が自宅から教え学ぶ環境の不足
• PCやWi-Fiルータの貸し出し
• 学生に対する経済的援助
高等教育機関を対象とした2017年度
ICT利活用調査(AXIES)
• ICTの利活用は継続して進む
• ICTの重要性はますます認識されている(9割)
• 学習管理システム(LMS)の普及
• 授業外学習における利用も増加
• eポートフォリオの普及
• 大学で47%
• 無線LANやメール等の基礎的な
インフラは整備が完了
「オンライン授業」をやり続ける
ために必要なインフラ
• 高等教育機関のいまのインフラでは不十分
• クラウドサービスを買ったからなんとかなっている
• LMSのパフォーマンス ストレージ圧迫大問題
• 人的リソースも十分でない
• 多くの大学では全学組織または部局等においてワーキ
ンググループを組織 寸暇を惜しんで対応した
• オンライン授業を継続実施するためのシステム面
人的面のリソースが圧倒的に不足している
(2)オンライン教育の「受容」
• なぜ私たちは「オンライン授業」という言葉を用
いたのだろうか?
• 「遠隔教育」でも
• 「eラーニング」でも
• 「遠隔授業」でも
• 「メディア授業」でもない
• それぞれの言葉が「オンライン授業」に
沿わないイメージを持っていたからでは?
「遠隔教育」
https://www.kyushu-u.ac.jp/oldfiles/magazine/kyudai-koho/No.7/topix.htm
http://ds0n.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~morikawa/hmsys/HMabst02.htm
SCS(Space Collaboration System) HyperMirror
「eラーニング」
研究倫理研修 研究経費利用の不正防止研修 情報セキュリティ研修 etc..
「素朴」で「手軽」なオンライン授業
言葉
(一般の教職員学生の)
イメージ
遠隔教育
高額な機材 ハイテク 難しい
大学間・キャンパス間の学習
eラーニング
画面に出る教材で学ぶ 退屈
コンプライアンス対応
オンライン授業
普段の授業を「そのまま」ネットで
行う・受ける 自宅から受講する
「遠隔教育」「eラーニング」という旧い革袋から「オンライン授業」という新
しい革袋へ元の酒を移すだけなのか? 学ぶ・教える効果・効率・魅力は?
(3)オンライン授業は「変革」か?
https://www.youtube.com/watch?v=ZQTx2UQQvbU
SAMRモデル:Puentedura(2013)が提唱する
教師が教育技術を導入するレベルを整理したモデル
導入レベル 特徴 事例
Redefinition
再定義
デジタルツールで
以前は想像できな
かった学習をする
化学の授業でシミュレーションツー
ルを使い,研究者のように化学合成
を試す探究型学習をする
Modification
変更
デジタルツールに
より学習プロセス
が変わる
社会の授業で電子地図を使い,ある
地域で生徒の興味に応じた調査を行
い,結果を地図上で重ね合わせる
Augmentation
増幅
機能を増やした
デジタルツールを
用いる
関連教材やリファレンス情報を参照
できるE-bookの利用
Substitution
代替
機能はそのままに
デジタルツールを
用いる
紙がデジタル化された
E-bookの利用
Puentedura (2013)とPuenteduraのインタビュー動画より重田が作成
豊福先生@GLOCOMの解説も必見!https://gakko.site/wp/archives/1181
Transformation
Enhancement
教育の「デジタル変革」
• 「オンライン授業」は「代替」の導入レベル?
• SAMRモデルから見えるデジタル化の利点
• 「増幅」:多様な学習要素・学習経路を提供
• 「変更」:一方向的な教育ではなく,学習者が相互に
関わりながら学ぶ学習環境を提供
• 「再定義」:デジタル環境のみで可能な学び方の発明
• そもそもコロナ禍を経て,教育者と学習者は「増幅」
以上の何かを急に求めるだろうか?
• 教育工学的なやり方が全て受け入れられるわけではない
意義のある「デジタル変革」のために
• オンライン授業を続けるためのリソース拡充
• 今はあくまで感染防止対策としてのICT利用
• 対面授業への過剰な揺り戻しもあり得る
• 教える側と学ぶ側に必然性のあるeラーニングを
• これまでの教育課題と連続的に捉える
• 「いい」ラーニングの原点に立ち返る
• ICTの導入自体が目的化しないように

「オンライン授業」は高等教育を変えるか