ORと経済学の
「結婚」問題
大阪大学大学院経済学研究科
安田洋祐
1
おおまかな講演の内容
日本OR学会20152
}  ORと経済学の両分野にまたがる研究テーマは多い!
}  両分野にまたがって活躍する研究者たち
}  分野の垣根を超えた共同研究
⇒  ORと経済学の蜜月関係!
}  しかし,実は両分野には大きな違いもたくさんある!
}  「工学部ヒラノ教授」による手厳しい経済学批判…
⇒  ORと経済学に別れの危機!
}  果たして,幸せに「結婚」(再婚?)できるのだろうか?
(時間があれば,最後に経済理論の力もご紹介)
ORと経済学の蜜月関係
日本OR学会20153
経済学と言えば「市場」の分析
日本OR学会20154
}  経済学は理想的な市
場の分析を行ってきた
}  完全競争市場
}  「需要と供給」が分析
のメインツール
}  これがどうやって導か
れるのかと言うと…
市場理論の土台は最適化問題
日本OR学会20155
}  消費者の効用(満足度)最大化
}  これを解いて,答えを集計すると…
 → 右下がりの需要曲線に
}  生産者の利潤最大化
}  これを解いて,答えを集計すると…
 → 右上がりの供給曲線に
}  両者の交点で市場が描写できるとして分析を進める
}  その土台は標準的な(制約条件付き)「最適化問題」
その金字塔が“一般”均衡理論
日本OR学会20156
}  一般均衡: すべての市場で同時に需要と供給が一致
}  部分均衡: 個別の市場での需要と供給が一致(=バッテン)
}  経済学者的関心?
}  どのような条件の下で一般均衡が存在するのだろうか?
}  Arrow-Debreu (1954 Econometrica) などの貢献
}  二階堂,根岸,宇沢ら日本人経済学者も大活躍!
}  OR学者的な関心?
}  一般均衡を簡単に見つけるアルゴリズムはあるだろうか?
}  Scarf (1967 SIAM) などの貢献
ORのノーベル賞「フォンノイマン賞」
日本OR学会20157
経済学でもおなじみの受賞者が多数!
}  1976 --- Richard Bellman
}  マクロ経済分析 = 動学的一般均衡理論 → DPそのもの
}  1978 --- John F. Nash (2004)
}  1980 --- David Gale, Harold W. Kuhn, and Albert W.Tucker
}  1981 --- Lloyd Shapley (2012)
}  1983 --- Herbert Scarf
経済学でも活躍したゲーム理論家が目立つ
(そもそもノイマン自身がゲーム理論の開祖!)
経済学との距離が離れつつある?
日本OR学会20158
}  1986 --- Kenneth J.Arrow (1972)
}  1988 --- Herbert A. Simon (1978)
}  1989 --- Harry M. Markowitz (1990)
}  1996 --- Peter C. Fishburn
}  2004 --- J. Michael Harrison
}  2005 --- Robert J.Aumann (2005)
この25年ほどは経済学にゆかりのある受賞者が激減!
⇒  蜜月関係は終わった!?
ORと経済学に別れの危機
日本OR学会20159
ORと経済学のここが違う! (1)
日本OR学会201510
以下はあくまで報告者のイメージ(思い込み)です!
}  とにかく実務に使えるか? (OR)
}  理論的に正しいか? (経済学)
}  個別具体的でもOK
}  一般的でないとNG
}  定量的な評価は重要
}  定性的な性質だけが重要
ORと経済学のここが違う! (2)
日本OR学会201511
}  他分野との協業に寛容? (OR)
}  孤立主義/唯我独尊? (経済学)
}  使える知見を積極的に評価
}  異なるアプローチに不寛容
}  エージェントは何らかのパターンに従って行動する
}  エージェントは何らかの最適化を必ず行っている
}  しばしば査読誌のレフェリーが暖かい
}  下位ジャーナルですら辛辣なレフェリー
ざっくりまとめると
日本OR学会201512
ORを一言で形容すると
}  革新的,実践的,希望の学問!
いっぽうの経済学は
}  保守的,理論的,陰鬱な学問…
}  つまり,「工学部ヒラノ教授」は正しい!
}  今すぐORに転向したくなってくる(笑)
}  経済理論のアプローチを実務に生かす方法もあるはず…
ORと経済学の幸せな結婚
日本OR学会201513
経済理論の希望の光が…
日本OR学会201514
}  マーケットデザイン = 仕組み作りの科学
}  経済理論(特にゲーム理論)で得られた知見をいかして,
現実の市場や制度を修正・設計する新しい分野
}  「マーケット」はいわゆる市場よりも広い概念なので注意
}  理論だけでなく,実験やシミュレーションを通じて事前に
実用性の検証を行う ⇒ 工学的
}  経済学者の提案した新たな制度がそのまま現実に応用
され役にたっている ⇒ 実践的
15
代表的な実践例
}  オークション設計
}  周波数オークション
}  国債の販売方法
}  アドワーズ (Google)
}  マッチング・メカニズム
}  研修医マッチング
}  臓器交換メカニズム
}  公立学校選択制
日本OR学会2015
16
2012年にノーベル経済学賞を受賞!
二人ともORにゆかりの深い経済学者
日本OR学会2015
新たなコラボレーションの進展
Algorithmic GameTheory	 HB of Market Design	
日本OR学会201517
最適化と制度設計(来年度の講義)
日本OR学会201518
}  ORの手法 → 最適化/数理計画法
}  経済学 → 制度設計の理論
}  整数計画問題と社会選択理論
}  社会選択理論: 個々のメンバーの選好を集計して社会全体
の選好(結果の優先順位)をどうやって形成すべきか?
}  ネットワークフロー問題とメカニズムデザイン
}  メカニズムデザイン: 個々のメンバーが持つ私的情報をうまく
聞き出して社会にとって望ましい結果をどう実現するか?
超入門メカニズムデザイン
日本OR学会201519
制度設計の科学:メカニズムデザイン理論	
}  ステップ1	
}  望ましい結果の定式化	
}  ステップ2 	
}  その結果が理論的に達成可能なものであるかをチェック	
}  ステップ3	
}  望ましい結果をもたらすメカニズム(ゲーム)を探し出す	
	
⇒  市場や仕組みをイチから設計することが可能に!	
日本OR学会201520
メカニズムデザインの注意点	
}  「(与えられた)ゲーム→結果の分析」	
ではなく	
}  「(望ましい)結果→メカニズムの探求」	
という正反対のプロセスを取る点が特徴的	
}  マーケットデザインではステップ3が特に重要	
}  メカニズムデザイン理論研究はステップ1と2に焦点	
}  実際に提示されるメカニズムは複雑!	
}  理論上は機能しても非現実的なものが多い,のも事実…	
日本OR学会201521
例:ソロモン王のジレンマ	
}  「ソロモン王の知恵」	
}  『旧約聖書』列王記(3章16~28節)	
}  「大岡裁き」にも同じようなストーリーが!	
}  二人の女性が赤ん坊の母親を名乗り出る	
}  女性達はどちらが本物の母親であるかを知っている	
}  しかし,ソロモン王は知らない…	
⇒ 	果たして,ソロモン王は本物/偽物を見破れるか?	
日本OR学会201522
ソロモン王の解決策	
1.  どちらの女性も自分の子どもであるといって譲らない	
2.  そこで,赤ん坊を二つに切って女性達に分け与えるよ
うに判決を出す	
3.  すると片方の女性が,相手の女性に赤ん坊を渡すよ
うに申し出る	
4.  ソロモン王は申し出てきた女性を真の母親だと見抜き,
彼女に赤ん坊を与える	
	
素朴な疑問	
}  本当にこんなにうまく行くだろうか?	
日本OR学会201523
ソロモン王の落とし穴	
}  ソロモン王の解決策は,女性達が十分賢い場合には望
ましい結果を達成できない!	
}  嘘をつくインセンティブがあるかもしれない	
}  相手に譲れば赤ん坊がもられるのであれば,偽者の母親も
相手に譲ろうとするはず!	
}  ソロモン王のジレンマを解決することができるメカニズム
は果たして存在するのだろうか?	
}  2007年にノーベル経済学賞を受賞したマスキンの研究
に答えが!	
日本OR学会201524
マスキンの定理:その1	
}  【定理1】 もしも社会目的が(ナッシュ均衡によって)
達成可能であれば、それはマスキン単調性と呼ばれ
る性質を必ず満たさなければならない	
⇒  マスキン単調性を満たさない社会目的はどうやって
も達成することができない!	
}  マスキン単調性とは?	
}  いま,ある選好の組に対して実現したい結果が「x」だとする	
}  このとき,全てのメンバーにとって「x」がより望ましいように
(つまり“単調に”)選好が変化した場合には,引き続きこの
社会は「x」の実現を目指さなければならない	
日本OR学会201525
マスキンの定理:その2	
}  【定理2】 社会メンバーが3人以上いる場合に、マス
キン単調性を満たすほぼ全ての社会目的をナッシュ
遂行することができる	
}  2人の場合はより強い条件が必要(どちらが嘘をついている
のかを見破ることができないので)	
}  具体的なメカニズムもマスキンによって与えられている(が,
かなり複雑で実用性は低い)	
}  (定理1と合わせると)ありとあらゆるメカニズムをチェッ
クする手間を省き,社会目的がマスキン単調性を満た
すかどうかをチェックするだけで良い!	
日本OR学会201526
ソロモン王のジレンマ解題1	
}  実現可能な結果は以下の3つ	
}  a:赤ん坊を女性Aに与える	
}  b:赤ん坊を女性Bに与える	
}  c:赤ん坊を2つに切り裂く	
}  社会状況(私的情報)には2通りの可能性	
}  「Aが真の母親」か「Bが真の母親」	
}  ソロモン王(社会)の目的	
}  真の母親に赤ん坊を与える:A	→	a,	B	→	b	
}  この目的はマスキン単調性を満たすだろうか?	
日本OR学会201527
ソロモン王のジレンマ解題2	
}  Aが真の母親の場合	
}  Aの選好:a	>	b	>	c	
}  Bの選好:b	>	c	>	a	
}  Bが真の母親の場合	
}  Aの選好:a	>	c	>	b	
}  Bの選好:b	>	a	>	c	
}  選好パターンがAからBへ変わっても(Aで達成したい結
果)aの優先順位は下がっていない	
}  単調性は,Bでも引き続きaが選ばれることを要求!	
}  しかし,ソロモン王の目的はaではなくbを選ぶこと…	
⇒  マスキン単調性を満たさない(=実現不可能)!	
日本OR学会201528
出版社のジレンマ	
}  ある出版社が一般向けの経済書執筆者を探している	
}  二人の経済学者(真の経済学者とダメな経済学者)が執
筆者の候補に挙がった	
}  彼らはどちらが真の経済学者かを知っているが,出版社
は知らない	
}  このとき,出版社は真の経済学者に執筆を依頼すること
ができるだろうか?	
⇒  ソロモン王のジレンマと状況が酷似!	
日本OR学会201529
出版社のジレンマ解題1	
}  実現可能な結果は以下の3つ	
}  a:経済学者Aに依頼する	
}  b:経済学者Bに依頼する	
}  c:第3者(素人)に依頼する	
}  社会状況(私的情報)には2通りの可能性	
}  「Aが真の経済学者」か「Bが真の経済学者」	
}  出版社(社会)の目的	
}  真の経済学者に依頼する:A	→	a,	B	→	b	
}  この目的は果たして実現可能だろうか?	
日本OR学会201530
出版社のジレンマ解題2	
}  Aが真の経済学者の場合	
}  Aの選好:a	>	b	>	c	
}  Bの選好:b	>	c	>	a	
}  Bが真の経済学者の場合	
}  Aの選好:a	>	c	>	b	
}  Bの選好:b	>	a	>	c	
}  選好パターンの解釈	
}  真の学者は素人よりもマシなダメな学者を好む	
}  ダメな学者は専門家からの批評や糾弾を恐れる	
⇒  出版社の目的は絶対に達成できない!	
日本OR学会201531
現実的なメカニズム	
B	
A	
名乗り出る	 相手に譲る	
名乗り出る	
	
c	 a	
相手に譲る	 b	 c	
日本OR学会201532
Aが真の学者の場合の利得表	
B	
A	
名乗り出る	 相手に譲る	
名乗り出る	
	
1	
0	
0	
2	
相手に譲る	 2	
1	
1	
0	
日本OR学会201533
BはAの出方によらず「名乗り出る」のが最適	
B	
A	
名乗り出る	 相手に譲る	
名乗り出る	
	
1	
0	
0	
2	
相手に譲る	 2	
1	
1	
0	
日本OR学会201534
ナッシュ均衡
出版社の悲劇	
}  真の経済学者Aではなく,ダメな経済学者Bが選ばれる
のが唯一のナッシュ均衡	
}  真の経済学者がBの場合には,同様の議論により今度はAが
選ばれてしまう	
}  現実的なメカニズムのもとでは,常にダメな経済学者が
仕事を依頼されてしまう!	
}  著者自身からの申し出に頼るようなナイーブな依頼方法
だとダメな経済学者の本ばかり出版する羽目になる!	
日本OR学会201535
解決策? 新たな結果(d)の導入	
}  Aが真の経済学者の場合	
}  Aの選好:a	>	d	>	b	>	c	
}  Bの選好:b	>	c	>	a	>	d	
}  Bが真の経済学者の場合	
}  Aの選好:a	>	c	>	b	>	d	
}  Bの選好:b	>	d	>	a	>	c	
}  新たな結果dの解釈	
}  ダメな学者批判で有名な辛辣な学者への執筆依頼	
}  辛辣な学者への書評依頼を事前にコミット	
⇒  マスキン単調性が満たされるように!	
日本OR学会201536
新たなメカニズム	
B	
A	
名乗り出る	 相手に譲る	
名乗り出る	
	
d	 a	
相手に譲る	 b	 d	
日本OR学会201537
Aが真の学者の場合の利得表	
B	
A	
名乗り出る	 相手に譲る	
名乗り出る	
	
0	
2	
1	
3	
相手に譲る	 2	
1	
0	
2	
日本OR学会201538
AはBの出方によらず「名乗り出る」のが最適	
B	
A	
名乗り出る	 相手に譲る	
名乗り出る	
	
0	
2	
1	
3	
相手に譲る	 2	
1	
0	
2	
日本OR学会201539
ナッシュ均衡
出版社の平和	
}  今度は真の経済学者Aが選ばれるのが唯一のナッシュ
均衡に	
}  真の経済学者がBの場合にも,同様の議論によりきちんとBが
選ばれる	
}  修正版メカニズムのもとでは,常にきちんと真の経済学
者が仕事を依頼される!	
}  研究業績や研究者としてのキャリアがあり,労を厭わず
にダメな学者批判を行う人がキーパーソン?	
日本OR学会201540

ORと経済学の「結婚」問題