経済学で読み解く
「働き方」と「イノベーション」 2.0
安田洋祐
大阪大学 大学院経済学研究科 准教授
Eメール: yasuda@econ.osaka-u.ac.jp
ウェブ: https://sites.google.com/site/yosukeyasuda/jp
2019年6月 1
簡単な自己紹介
• 1980年 東京都生まれ
• 2002年 東京大学経済学部卒業
(大内兵衛賞、経済学部卒業生総代)
• 2007年 プリンストン大学Ph.D.
• 2007年 政策研究大学院大学助教授
• 2014年 大阪大学経済学部准教授
• 研究領域
– 経済理論、ゲーム理論、インセンティブ設計
• 学術研究の傍らマスメディアを通した一
般向けの情報発信や、政府等での委員
活動にも積極的に取り組んでいる。
2019年6月 2安田洋祐|大阪大学
メディア出演
• レギュラー・準レギュラー
– 関西テレビ 「報道ランナー」
– 読売テレビ 「情報ライブ ミヤネ屋」
– テレビ東京 「ワールドビジネスサテライト」
• 特別番組
– NHK BS1 「欲望の資本主義」シリーズ
– NHK 総合 「NHKスペシャル マネーワールド」 シリーズ
• ネット配信
– 日経ビジネス「入山章栄・安田洋祐の業界未来図鑑」
• 動画・テキスト・コメント欄と三拍子そろった注目の新企画です!
– News Picks: WEEKLY OHIAI 「資本主義をアップデートせよ」
2019年6月 3安田洋祐|大阪大学
著作など
2019年6月 4安田洋祐|大阪大学
6月28日発売!
講演会・イベント登壇(2019年)
• APIR・ERIA共催シンポジウム
• NTT DATA Innovation Conference
• PMI(Public Meets Innovation)政策会議
• 静岡情報産業協会
• 紀州有田商工会議所
• PPI主催第4回公開シンポジウム
• 問題解決のためのOR講座
• ナレッジイノベーションアワード最終選考会
• ナレッジキャピタル大学校
• ジュンク堂書店池袋本店
• 日経BP総研人材開発セミナー
• 日本の人事部 HRコンファレンス2019
• 三井住友銀行SMBC経営者研究会
• ONE JAPAN代表者会議
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 5
本日の報告の流れ
1. 働き方改革を妨げるブラック均衡
2. グローバル化と世界経済の行方
3. デジタル化と日本経済のチャンス
4. 金融化と資本主義の再起動 ←オマケ
2019年6月 6安田洋祐|大阪大学
働き方改革を妨げるブラック均衡
制度を導入しても“改革”できない理由とは?
2019年6月 7安田洋祐|大阪大学
日本の低い労働生産性
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 8
2015年の日本の労働生産性(就業1時間当たり)は、42.1 ドル。OECD加盟35か国の
中では、第20位。1970年以来、主要先進7か国の中では最下位の状況が続いている。
米国の約6割
米国
日本
失われた20年の「負のスパイラル」
低賃金
(安い労働力)
設備投資減少
(機械より人)
労働の限界生産
性も減少
更なる賃下げ
(徐々に人不足)
【需要面】
投資需要低迷 => 金利低下
【供給面】
技術革新低迷 => TFP低下
(日本版の)
ルイスの転換点?
長時間労働
労働分配率低下
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 9
消費需要
低迷?
(TFP: Total Factor Productivity)
「正のスパイラル」へと逆転!?
高賃金
(高い労働力)
設備投資増加
(人より機械)
労働の限界生
産性も増加
更なる賃上げ
(徐々に人余り)
【需要面】
投資需要増大 => 金利上昇
【供給面】
技術革新促進 => TFP増加
働き方改革
深刻な人手不足
定型化された仕事がAI・ロボット
に徐々に置き換わっていく
AI活用の鍵は「人への投資」!
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 10
働き方改革が進まないのはなぜ?
[主人公が社長に直談判して…]
• 結衣 「制度だけを整えてもダメだ
んじゃないでしょうか?」
• 灰原 「なぜ、ダメなんだろう」
• 結衣 「……孤独だから、じゃない
でしょうか」
• 灰原 「仕事だけしていたら孤独
になるのは当然だ。家と会社の
往復。狭い人間関係。変化にも
弱くなるさ。自信もなくなる。そん
なんでいい仕事ができるか?」
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 11
働き方改革の壁 - QWERTYの罠
QWERTY型のキー配列はタイプに不向き
↓
なぜ使われ続けているのだろうか?
(経路依存性/コーディネーションの失敗)
ゲーム理論で考えよう!
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 12
孤独な社員が陥る「ブラック均衡」!
• 自分だけ定時に帰ることができるか?
– どちらの社員にとっても、みんな定時退社するのがベスト
– 自分だけ「定時退社」すると人事などで不利益を被る
– みんながサービス「残業」すると働き方改革は進まない…
社員2
社員1
定時退社 残業
定時退社 3
3
1
-10
残業 -10
1
0
0
ホワイト
均衡
ブラック
均衡
どちらも
安定的な状況
(ナッシュ均衡)
まわりがちゃんと定
時退社するという
「期待」が重要!
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 13
有給・育児休暇問題も「ブラック均衡」
• 自分だけ休暇を取得できるか?
– どちらの社員にとっても、みんな休暇取得するのがベスト
– 自分だけ「休暇取得」すると人事などで不利益を被る
– みんなが取得を「見送る」と働き方改革は進まない…
社員2
社員1
休暇取得 見送る
休暇取得 3
3
1
-10
見送る -10
1
0
0
ホワイト
均衡
ブラック
均衡
どちらも
安定的な状況
(ナッシュ均衡)
まわりがちゃんと休
暇取得するという
「期待」が重要!
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 14
ブラック均衡を打破するには?
• 空気を読まない人材の採用
– 定時退社・休暇取得に対して抵抗が無い
– 空気を読んでいた社員の期待も変化
– 本人だけでなくまわりも行動が変わり得る
→ プレイヤーが変わるとゲームチェンジが起こる!
• 経営陣/上司のコミットメント
– 社員の期待を大きく変えるようなきっかけに
– 例1) 日本郵船:男性の育休取得に奨励金
– 例2) ナリス化粧品:肌休暇
→ 会社が本気で休暇取得を推奨するシグナルに!2019年6月 安田洋祐|大阪大学 15
参考文献(ゲーム理論)
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 16
第2章「なぜ人は行列に並ぶの
か?[ゲーム理論]」(安田洋祐)
グローバル化と世界経済の行方
グローバリゼーションには3段階ある!
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 17
引用・参照した文献
2019年6月 18安田洋祐|大阪大学
分断と二極化
2019年6月 19安田洋祐|大阪大学
“象”の曲線
2019年6月 20安田洋祐|大阪大学
グローバル中間層
(中国・インドなど)
最貧困層 先進国
の中間層
所得が突き抜ける
グローバル・リッチ
グローバリゼーション
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 21
大分岐から大収斂へ
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 22
グローバリゼーション前
大
分
岐
大
収
斂
3つのグローバリゼーション
• 移動費用の低下 ⇒ グローバリゼーション
(モノ・アイデア・ヒト)
• モノ:古いグローバリゼーション
– 生産拠点は先進国に集中 (大分岐)
• アイデア:新しいグローバリゼーション
– 新興国の一部でオフショア (大収斂)
• ヒト:未来のグローバリゼーション?
– デジタル革命 ⇒ 遠隔勤務・コミュニケーション2019年6月 安田洋祐|大阪大学 23
古いグローバリゼーション(物流革命)
1. 北は工業化、南は空洞化
2. 世界中で貿易が急増
3. 北が急成長、世界全体も成長
4. 大分岐(Great Divergence)
5. 南の多くが保護貿易
6. 北で都市化が加速
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 24
新しいグローバリゼーション(ICT革命)
1. 北が空洞化、南の一部が工業化
2. 北-南の往復貿易が急増
3. 工業化した南の一部が急成長
4. 大収斂(Great Convergence)
5. 南の多くが貿易自由化
6. 恩恵を受けた南は地理的に限定
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 25
デジタル化と日本経済のチャンス
マイナスをプラスに! テイクからギブへ!!
2019年6月 26安田洋祐|大阪大学
AI・IoTの進展:国内での影響
AIの進展により、ロボットが人間の代わりをするようになる時代がくる!
人口減少、少子高齢化を他国に先駆けて迎える日本にとってチャンス!
 労働代替型のニーズが高い(日本は人手不足)
例: 農業従事者、建設・物流、介護、廃炉、熟練工の後継者、etc
 ロボット工学が強い (研究者が多い)
 ロボットに対する潜在意識が米国とは異なり、世代を超えた理解がある。
 日本: 人とテクノロジーが共存する。(アトム、ドラエモンなど)
 米国: 人とロボットが闘う (ターミネーターなど) 。
人工知能による「もの×コト」づくりへ!
言語データから
行動データ
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 27
利便性から
安全性
ヴァーチャル
からリアル
強すぎる物差し→お金の奴隷?
• 賃金によって労働はモノと同一化され、労働が有す
る支払い不能な尊厳を、価値のうちに覆い隠してし
まい、人間の労働とサービスは、モノと同じように商
業的価値をもつものとみなされてしまう。
• 人間はその能力を貨幣によって評価され、経済的シ
ステムへと統合され、経済的発展のさまざまな段階
において値段をつけられる存在になってしまう。
– エマニュエル・レヴィナス『貨幣の哲学』
• 「悪魔のひき臼」(カール・ポラニー『大転換』)
2019年6月 28安田洋祐|大阪大学
新美南吉 童話『手袋を買いに』
• 手袋のお使いのため、母狐は子狐の片手を
人間の手に変え、町に送り出す。
– 狐だとバレると手袋が買えない!(差別)
• 子狐は店で間違って狐の手で白銅貨を差し
出すが、店の主人は手袋を売ってくれる。
• なぜ? 主人が親切だった??
– お金がホンモノだった!→ 貨幣の下の平等
– 市場/貨幣は偏見や慣習への対抗力
2019年6月 29安田洋祐|大阪大学
物差しの多様化=トークン・エコノミー2.0
「テクノロジーの進歩+再分配(BI)」は価値評価の更なる固定を生む
⇒ 最低限のサービスの提供(BS) +評価の多様化を目指すべき!?
貨幣経済は効率的(+) ⇔ 価値評価が一元化(-)
⇒ 貨幣を無くすのではなく、種類を増やす!(多様化・多次元化)
 複数の経済圏が共存すれば弱者の数が減らせる!
 各経済圏のトークン交換を不自由/不可能にせよ!
 受け取るもの(take)ではなく、与えるもの(give)の見える化?
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 30
多様な価値評価+「社会的共通資本2.0」
宇沢弘文
令和の合言葉 「マイナスをプラスに!」
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 31
【ポジティブな撤退戦】
• 売り手市場
• AI、RPA、リモートワーク
• 合併による過当競争解消
• 日本型 「働き方1.0 + 3.0」
→死蔵した富・人材を活用!
【ポジティブな賛同】
• ×延ばす|〇邪魔しない
• ×経験と勘|〇データ
• ×テイク|〇ギブ
• ×織田信長|〇坂本竜馬
→挑戦しやすい空気を作る!
金融化と資本主義の再起動
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 32
世界経済のGDP
2019年6月 33安田洋祐|大阪大学
経済“成長”は新しい現象
2019年6月 34安田洋祐|大阪大学
&
資
本
主
義
金融(信用)革命:近代の「魔法の循環」
2019年6月 35
将来を信頼
する
信用が発生
する
建設業者に
支払う
新しいベーカ
リーを開く
パンを焼いて
ローン返済
安田洋祐|大阪大学
急成長のビフォー&アフター
近代以前の経済
将来を信
頼しない
信用がほ
とんど発
生しない
経済成長
が遅い
近代の経済
将来を信
頼する
信用が
盛んに
発生する
経済成
長が速
い
2019年6月 36安田洋祐|大阪大学
「主義」としての資本主義
Wealth (死蔵) Capital (再投資)
生産利益
2019年6月 37安田洋祐|大阪大学
生産利益
資本“主義”の定義(ハラリ『サピエンス全史』)
→ 利益は生産活動に(再)投資される“べき”
「制度」としての資本主義
• 私的所有
– 公的機関、再分配、規制
• 利潤動機
– シェア最大化、CSR、三方よし
• 市場経済
– 組織、家族、地域共同体
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 38
デジタル化による資本主義の多様化
• 私的所有
– 公的機関、再分配、規制
– ⇒ ベーシックインカム、シェアリング
• 利潤動機
– シェア最大化、CSR、三方よし
– ⇒ ESG投資、SDGs、クラウドファンディング
• 市場経済
– 組織、家族、地域共同体
– ⇒ トークン、コミュニティ、シェアリング
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 39
安田による関連記事
• 令和で進む「撤退戦」と「ギブ」文化
– https://note.mu/yagena/n/n443b08c9aaa6
• 「市場で再分配が可能」という前提を疑え
– http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/032900296/
• 次なる資本主義を訪ねて:マクロ編
– https://note.mu/yagena/n/n8721fec86acf
• 次なる資本主義を訪ねて:ミクロ編
– https://note.mu/yagena/n/nfdc376b85b4e
• マッチング理論に何ができるか<やさしい経済学 前編>
– https://note.mu/yagena/n/nf9c9b87ce4a2
• マッチング理論に何ができるか<やさしい経済学 後編>
– https://note.mu/yagena/n/n26475f9a23ef
• ノーベル経済学賞って何だろう?
– https://note.mu/yagena/n/nb4119b82726d
2019年6月 安田洋祐|大阪大学 40

経済学で読み解く「働き方」と「イノベーション」2.0