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G275 岡本悠・津田友理香・片岡真紀・小玉紗織・成田彩乃・いとうたけひこ・井上孝代(2017, 11月:東洋大学) 臨床心理士養成大学院生を対象としたグループ表現セラピー体験ワークショップに関する試み 日本心理臨床学会第36回秋季大会プログラム, 394. PB2-44 パシフィコ横浜
- 1. 臨床心理士養成大学院生を対象とした
体験型のグループ表現セラピーワークショップに関する試み
岡本 悠1・津田 友理香1・片岡 真紀2・小玉 紗織3・成田 彩乃4・いとう たけひこ5・井上 孝代6
1) 国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、2) 社会福祉法人諸岳会母子生活支援施設 アーサマ總持寺、3) 練馬区立学校教育支援センター、
4) 捜真学院、5) 和光大学、6) 明治学院大学
本研究では、JICTERのワークショップを基にして、臨床心理士養成大学院に在籍する学生を対象とする、体験
型のグループ表現セラピーのワークショップを企画したため、その報告と考察を行う。なお、本ワークショップ
は、1)学生の自己理解を深めること、2)セルフケアの技術を高めること を目的として開催された。
対象者: A大学大学院臨床心理学コース在籍中の大学院生5名のクローズドグループ
ファシリテーター: JICTERのトレーニングを受けた臨床心理士1名および臨床心理士2名(経験年数3年〜5年)
実施期間: X年10月~X+1年3月17:45~19:45(月1回90分)
実施場所: A大学大学院教室
プログラム内容:表1に示した。
分析:以下の量的・質的データを分析対象とした。すなわち、①アンケートの自由記述およびグループおよび参
加者の様子や発言に関する逐語記録、 ②アンケート調査(5件法):a) グループへの安心感、b) ワークショップ
への満足感の程度、c) 一個人としての気付きの深まりの程度、 ③コラージュ作品の経時変化:ワークショップの
初期と終期に、「私のリソース」をテーマとするコラージュを実施し、作品の変化 の3点であった。
解析:アンケートの自由記述および逐語記録は、KJ法の手法に従って分析された。また、アンケート調査の結果
は、統計的検定に耐えうるデータ数を得ることはできなかったため、記述統計のみ算出し、補助的なデータとし
て用いた。
倫理的配慮:参加者には、グループの守秘義務およびアンケートおよび写真の取り扱い等についての説明を事前
に十分に行い、書面にて同意を得た。
対象者は、体験型のワークショップの中で、グループに対して一定程度の安心感を体験しており、その中で自己表現
することへの抵抗感が弱まり、体験的に自己への気付きを深めていたことが示唆された。すなわち、
1)アンケート・逐語記録より
①「(ワークを通して)大変リラックスすることができた」、「自由で安心する場だと感じることができました」
といった、自己表現に対するグループへの安心感を抱いていたことが示された。
②「自分の気持ちの動きを普段よりも感じ、自分について理解が深まったように感じた」「自分の気付かない気持
ち(?)の変化を木を通して感じ取ったことが興味深かった」「解釈とは違う自己理解の視点を知ることができた」
「自分について意識しないうちに理解が深まっているということに気付くことができました」などの、自分への気付
きの深まりを示す語りが多く聞かれた。
③量的項目も、上記のような語りと概ね一致する傾向を示した。すなわち、WSへの満足感、グループへの安心感、
一個人としての自己への気付きに関する項目は、いずれも「1」の回答が最も多くみられ、平均スコアは、1.2~1.6
の範囲であった。
2)コラージュ作品について
♯2および♯6の回において、「私のリソース」をテーマにコラージュを作成した。テーマ自体に変化は見られない
が、♯6の作品の方が明らかに整理されており、ワークョップを通して、セルフケアのための「リソース」をよりク
リアに認識できるようになったことが推察された。
以上より、体験型のワークショップは、臨床心理士養成大学院の教育において、有用である可能性が示唆された。
表現セラピーは「絵やコラージュ、粘土や造形といった視覚(ビジュアル)アートや、身体を使った表現、声
や音楽、詩や散文、物語を書く、ドラマを演じるなど、様々な表現を用いる統合的な芸術療法」などと定義さ
れている(小野,2005)。表現セラピーは、病院、学校などにおいて、様々なクライエントを対象に実施されて
おり(Case, 1992など)、現代の日本が抱える大きな問題の一つである、トラウマケアにも用いられている
(井上・いとう・福本・エイタン, 2016など)。しかし、日本においては、表現セラピーについて、系統的に
学ぶ機会がほとんどないのが現状である(関, 2008)。
そのような中で、Japan International Center for Trauma-care and Emergency Relief(JICTER)は、体験型の
グループ表現セラピーによるPTSD/トラウマケア専門家養成プログラムを提供してきた。同ワークショップの
参加者は、表現セラピーの体験に加え、参加者間の対話をはじめとするグループ体験によって一個人としての
気付きや、専門家としての気付きを得ていたことが示されている(岡本・小玉・片岡・津田・成田・いとう・
井上, 2016)。
本研究は、JSPS科研費 JP15K04148の助成を受けた。
井上孝代・いとうたけひこ・福本敬子。エイタン・オレン(編) (2016)。 トラウマケアと PTSD予防のためのグループ表現セラピーと語りのちから:国際連携専門家 養成プ
ログラム開発と苦労体験学の構築 風間書房
津田友理香・片岡真紀・岡本悠・小玉紗織・成田彩乃・いとうたけひこ・井上孝代 (印刷中) 中国蘇州における表現性心理療法国際学会での発表報告「臨床心理養成
大学院生を対象としたグループ表現アートセラピー研修プログラムの開発と評価」
プログラムの内容
回数 内容 趣旨
#1 X年10月
①スクイグルのペアワーク ・グループ表現セラピーの目的および趣旨の理解
②作品袋の制作:作品を保管するための袋を様々な画材を用いて制
作する
・ウォーミングアップ
#2 X年11月
①「私の安心」のアート:「安心」をテーマに画材を用いて、湧い
てきたイメージをアートで表現する
・自己理解
②「私のリソース」のコラージュ: 安心、自分の強みなどレジリ
エンスにつながるものを表現する
・臨床家としてのコンピテンス向上
#3 X年12月
①「自分の木」のアート:さまざまな画材を用いて、自分を木に喩
えて表現する
・グループ表現セラピーの目的および趣旨の理解
②「みんなの森」のアート: 個々の「自分の木」の作品を生かし
ながら、ひとつの森を作り上げるグループワーク
・自己理解の深化
・グループ体験の深化
#4 X+1年1月
①「木」のワーク:「自分の木」の作品を眺めて、自分と向き合う
時間を取り、加えたいものを加える
・臨床家としてのコンピテンス向上
②「木」のペアワーク: 互いの「木」を見せ、シェアリングし合
い、それに基づいてギフトを作り合う
・ペアワークによる他者理解および自己理解の深
化
#5 X+1年2月
①「自分の器」作り:素材(粘土)と触れ合うウォーミングアップ
後、粘土で「自分の器」を形作る
・自己理解、自己内省
・臨床家としての自己理解およびスキル向上
・グループ体験の深化
#6 X+1年3月
①「私のリソース」のコラージュ:#2で実施したコラージュとの
比較、自己分析
・自己分析、グループプロセスによる変化の検討
②グループ体験プロセスの理解: 全体のセッションを振り返り、
自分にとっての意味やグループ体験のプロセスについて共有する
・感情理解およびグループ体験の言語化
ワークショップの様子
図1:ワークショップ前半と後半でのコラージュ作品の変化
参加者Aの作品 Before&After
図2:参加者によるワークショップのまとめ
参加者Bの作品 Before&After
今後の課題として、以下の2点が挙げられた。第一に、「木を描くことを通して自己開示するのは難しく感じまし
た」といった、グループの中で非言語的な表現をすることへの抵抗感が聞かれたことであり、第二に、5名中3名が結
果的に中断になったことである。中断の理由の中には、現実的な理由も含まれていたが、グループの安心感を十分醸
成できなかったことや参加者のレディネスのアセスメントが不十分であったことといった、ファシリテーターのグ
ループファシリテーション経験の乏しさが考えられたため、その点は今後の課題としたい。
PB1-35