SlideShare a Scribd company logo
PAC 分析研究
2019
第 3 巻
Journal of PAC Analysis
Vol.3
ISSN 2432-9355
PAC 分析研究
第 3 巻
目次
第3巻の発刊にあたって...................................................................................................................... 内藤 哲雄 1
【原著】
留学生・日本人学生混合クラスで教師に求められるものとは
―PAC 分析による大学初年次文章表現授業の教師の振り返り―
................................................................................................. 坂井 菜緒, 中川 純子, 長松谷 有紀, 服部 真子 2
進路面談に求められる高校教師の柔らかな鏡役割 -学校適応感に差がある二人の高生比較-
.......................................................................................................................................... 森本 篤, 青木 多寿子 13
店内保安員における高齢者の万引きへの対応に関する PAC 分析
..........................................................................................................................................................大久保 智生 24
【2018 年度第 12 回大会発表抄録】
教員の教職に対する態度構造の検討 ―教職につまずきを抱える若手教員を対象として―
.......................................................................................................................................... 山 瑞己, 青木 多寿子 35
進路指導における高校教師の指導方針について -中日比較を通して-
............................................................................................................................................. 許 暁,青木 多寿子 39
図書を用いた PAC 分析の試み ‐図書に対する子どもの興味を題材として‐
..............................................................................................................................................三島 悠希, 松村 敦 42
高齢者の万引きへの対応に関する PAC 分析
..........................................................................................................................................................大久保 智生 46
PAC 分析によるインタビュー・データの 質的分析の可能性 -混合クラス担当教師 3 人の比較から-
................................................................................................. 坂井 菜緒, 中川 純子, 長松谷 有紀, 服部 真子 50
PAC 分析の応用 集合知からイノベーションのための新しいアイデアを得る
............................................................................................................................................................. 藤枝 祐子 54
「普通」をテーマにした発達障害の診断別PAC分析の比較
............................................................................................................................................................. 今野 博信 58
高齢保育士の活用に関する研究(その1) -高齢保育士の PAC 分析から-
........................................................................................................................午来 和子, 江幡 芳枝, 内藤 哲雄 62
高齢保育士の活用に関する研究(その2) -中堅保育士の PAC 分析から-
......................................................................................................................... 午来 和子, 江幡 芳枝, 内藤哲雄 66
人との対人コミュニケーションでの違和感 ―地位と性の異同の影響についてスリランカ人が感じるイメージ―
............................................................................................................................................................. 内藤 哲雄 66
第 3 巻の発刊にあたって
「PAC 分析研究」の第 3 巻が発刊される。機関誌編集担当の土田義郎先生、論文を審査いただ
いた先生方、お世話様、お疲れ様でした。採択されたみなさんおめでとうございます。
本年 2019 年の夏シーズンは、3 つの学会で PAC 分析の研修やワークショップを実施した。最初
は、日本応用心理学会での研修「PAC 分析の理論と実施技法」(日本大学商学部)で、8 月 25 日
午前 11 時から 1 時間であった。2 度目は日本混合研究法学会でのワークショップ「PAC 分析:質
的・量的方法を組み合わせた日本発の研究法」(静岡文化芸術大学)で、午前 9 時から 12 時まで
の 3 時間、3 度目は日本質的心理学会でのワークショップ(明治学院大学)「PAC 分析の理論と実
践:技法の有効性を引き出すためのポイント」で、2 時間であった。司会はいずれも、PAC 分析学会
事務局長いとうたけひこ先生で、実施時間は異なるが、「研究テーマ発見の方法」「連想刺激の作
成」「刺激文や被検者の連想項目とクラスターの読み上げ方」「イメージ聴取の方法」「総合的解釈
の方法」についての説明と実演であった。被検者が潜在的に持つ認知構造、スキーマを引き出す
ための方法、被検者の長期記憶にアクセスするための技法を伝えようとした。連想反応は当事者で
ある被検者が自身の認知的枠組みに沿って想起したものである。クラスターを第 2 次の連想刺激と
して被検者の内面深くを、検査者とともに探索する。個人独自の経験やイメージに沿って喚起され
る連想項目とクラスターから生じたイメージについての被検者による報告、レビンの心理的場の構
造や場の移行を図示したものを用いて、被検者と検査者の間で生じる相互作用のプロセスで、実
際に生起していることを解説した。
それでは研修やワークショップの内容をこのようにしたのはなぜか。親しい知人や友人から、PAC
分析の高度な実施技術を修得した専門家の育成を急ぐ必要があるとのアドバイスによる。直截な
表現を避け、婉曲ではあるが、内藤が直接伝授できる年月は限られていることの指摘である。今年
の 1 月に軽い尻餅をついただけで、脊髄を圧迫骨折し、2 カ月近く入院し、8 カ月を過ぎた今でも
コルセットを使用し、ビタミン D を摂取している。骨密度に問題がある。胃には腫瘍もなく、ピロリ菌
もいないが、粘膜は 80 歳相当である。55 歳近くまで、睡眠時間を削り、毎日 4 箱も喫煙し、日に 6
杯を超えるコーヒーを飲んでいた付けが 71 歳の身体をむしばんでいる。左足の半月板は断裂萎
縮しており、右の踵は大きな骨折でひび割れ、軟骨が潰れている。PAC 分析の理論や技法は未だ
発展を続けており、伝えるべきことは多い。昨年の 3 月に福島県伊達市の霊山に移り、8 人程度が
合宿研修できるように改修した。希望者があれば 2 泊 3 日でも、3 泊 4 日でも応じるようにしたい。
また、10 人、16 人を超えるような参加希望者がいれば、内藤の方から泊まり込みででかけることもし
たい。会員の皆様から、専門家を唸らせる独創的な研究が陸続し、「PAC 分析研究」に次々と投稿
されることを期待しております。
2019 年 9 月吉日
「PAC 分析研究」編集委員長
内藤 哲雄
PAC分析研究 第3巻
1
留学生・日本人学生混合クラスで
教師に求められるものとは
―PAC 分析による大学初年次文章表現授業の教師の振り返り―
坂井 菜緒, 中川 純子, 長松谷有紀, 服部 真子
1.はじめに
2008 年に文部科学省が発表した「留学生 30 万人
計画」は順調に進められ、法務省の報告では 2017(平
成 29)年末に「留学」の在留資格を持つ外国人は 30
万人を超えている(1)
。文部科学省(2018)「ポスト留
学生 30 万人計画を見据えた留学生政策(現状・課
題)」によると、「我が国に優秀な留学生を確保する
ため、これまで以上に戦略的な受入れ政策が必要」
であるとしている。現在、日本の大学教育機関では、
これに伴ってグローバル人材育成を積極的に進めて
おり、留学生の受け入れ数が急増している。英語だ
けで単位を取得でき、卒業が可能な大学も増えてい
る一方で、日本人学生と共に正規科目で学ぶ留学生
も増加しているのが現状である。本研究では、日本
人と留学生が正規科目において混ざっているクラス
を「混合クラス」と呼ぶ。初めから文化交流を目的
として意図的に作られた混合クラスを別とすれば、
一般科目が偶然混合クラスになったような場合、授
業を担当する教師の専門は様々で、留学生への対応
に不慣れな場合も多いと思われる。本研究では初年
次教育でライティングの一斉授業を担当する教育歴
の異なる3名の教師にPAC分析インタビューを行い、
個人の意識を調査した後で、それをもとに「混合ク
ラスの教師に求められるもの」を明らかにすること
を試みた。
2.先行研究と本研究の位置付け
大学のグローバル化に関しては様々な議論がある。
舘岡(2015)は、グローバル化大学とは日本人学生・
留学生が共に学び合えるような場であり、留学生数
や英語に堪能な人材の数が問題なのではないと述べ
ている。また、グローバル化大学の課題は、共生化
の実現であり、日本語が母語ではない留学生と日本
人学生が、共に学び合える場を創出することだと論
じている。この点については、既に池田(2008)で
も、留学生受け入れ計画について、日本社会全体の
人的基盤形成の一部分であり、単に物理的空間の拡
大措置や教育システムの改定では不十分であると述
べている。そして、学生集団、教職員、その他大学
に関わる全ての人の「意識」の問題こそが大切であ
ると指摘していた。しかし、実際の現場は本当に日
本人学生と留学生が共に学び合う場になっているの
だろうか。日本語力が異なる学生が共に学び合う現
場で、我々教師に求められるものとは何であろうか。
最近は日本人学生と留学生が共に学ぶ多文化共修
科目(2)
が注目されているが、それらは「グローバル
人材」や「高度外国人材」の育成を目的に基本的に
英語の共修科目として行われているものが多い(3)
。
だが、来日する留学生の中には英語で学ぶよりも将
来日本で働くために必要となる、さらに高度な日本
語力を身に着ける機会を求めている学生も増えてお
り(4)
、村田(2018)は、「国内でのトレーニングに主
眼を置いて」、「インバウンドでのトレーニングを真
剣に考えてもらいたい」と述べ、「複言語のプログラ
ムのデザインを検討することが必要である」と主張
している。
実際、グローバル化の問題はそのように特別に設
定されたコースの中だけではなく、アカデミック・
ライティングなどのスキルを身に着けるような一般
の授業の中でも起こっている。前述のように近年で
は正規留学生として日本語で試験を受けて学部に入
学し、学部の日本人学生と共に一般の授業を受講し
ている留学生も、もはや珍しい存在ではなく、むし
ろそのような現場での共生、共修のあり方を研究す
ることなしに、現在の日本における多文化共生とい
う喫緊の課題を乗り越えることは難しくなってきて
いるといえる。教師も大学も新たな事態への対応に
迫られているのが現状である。こうした文化交流目
的ではない大学教養課程、専門課程における「混合
クラス」を担当する教師についての研究は、管見の
限りまだほとんど見当たらない。
PAC分析研究 第3巻
2
【原著】
______________________
2019年1月5日 原稿受理
2019年6月7日 掲載決定
3.研究概要
3-1 研究目的
本研究は、留学生対象の教育経験の異なる教師の
意識を個別に調査・分析し、比較することによって、
混合クラスの担当教師に何が求められるのかを明ら
かにすることを目的とする。そこで、まずは教師個
人の意識や態度を調査するため、PAC 分析(個人別
態度構造分析、Analysis of Personal Attitude
Construct)の手法を用いた。個人を研究することは
内藤(2002)、伊藤(1996)によれば、個別的普遍性
だけでなく、共通的普遍性につながるということで
ある。PAC 分析は、質的研究でありながら統計的手
法を用いているために分析のプロセスは再現性が高
く、結果は安定的である(5)
。
本研究は PAC 分析後、さらに 2 段階目としてその
インタビューを詳細にスクリプト化し、発言された
内容をデータとして質的に分析、比較した。PAC 分
析のインタビューによる発話をスクリプト化し、ナ
ラティブデータとして分析する方法はすでに行われ
ており(6)
、インタビューの中に具体的な言葉として
見られる価値のある情報を得るために有効であると
考えられる。
3-2 調査対象者
調査対象者は同一内容のクラスを担当した教師
ABC の 3 名で、本稿執筆者の 4 名のうちの 3 名であ
る。インタビューはもう 1 名の教師 D が行った。教
師 ABC はそれぞれ約 20 年の教育経験を持っている。
教師 A は大学の教養課程や専門課程で、主に学部の
日本人学生対象の授業を担当してきた。教師 B は、
日本語学校や大学の教養課程および別科で主に留学
生を担当してきた。教師 C は、日本語学校や大学の
教養課程および専門科目で、学部の日本人学生と留
学生の両方の授業を担当し、混合クラスを教えた経
験もある。これら 3 名の教師を選んだのは、各教師
の発言や悩みから教育歴がクラス運営に影響するの
ではないかと予測したからである(7)
。
3-3 コース概要
本研究で対象となったクラスは、2016 年度から全
学共通で開講された「日本語リテラシー」というア
カデミック・ライティングのクラスである。8 週間
で、2500 字のレポートを書かせ、クラス人数は 40 名
から 80 名程度、留学生比率は 0%~50%以上である。
本研究の対象クラスの留学生比率は、教師 A が 60.3%、
教師 B が 29.2%、教師 C が 15%であった。
授業は全 8 回で、プロセスライティングを行う。
ブレインストーミング、資料収集、見本レポート読
解、アウトライン執筆、第 1 稿、第 2 稿、最終稿と
3 回執筆させる。最終的には、全授業で統一された
ルーブリック評価を行う(8)
。
授業の特徴としては、レポートのテーマは学生の
興味・関心を基に自由に設定できる点、授業内活動
としてピア・レスポンスが多く取り入れられている
点が挙げられる。ピア・レスポンスとは、レポート
など文章作成時の推敲のために学習者同士がお互い
の原稿を読み合い、検討する活動である。(池田・舘
岡 2007)
4.分析
4-1 分析の手順と方法
第 1 段階では PAC 分析の手法を用い、各教師の意
識構造を調査、分析した。方法手順の概略は、以下
の通りである。インタビュイーは、予め用意された
連想刺激文から連想した言葉を書き出す。今回は分
析ソフト PAC-helper(9)
を用い、連想語の重要度に
よる並べ替えを行い、それぞれの言葉のイメージの
近さを7段階で評定する。調査者は、そのデータを
統計分析ソフト Had(10)
にかけてデンドログラム(樹
形図)を作成し、作成されたデンドログラムに基づ
いたインタビューを行う。PAC 分析では、このデン
ドログラムを見て、インタビュアーがメモを取りな
がら(11)
インタビューを行った。今回、分析に用いた
連想刺激文は次の通りである。「あなたは、全学共通
科目であるアカデミック・ライティングのクラスで
留学生と日本人を同時に教えてみてどうでしたか」。
刺激文の作成にあたっては、こちらが聞きたいこと
を直接聞くのではなく、相手に自由に語って欲しい
と考えたこと、混合授業に関して幅広い観点からイ
メージを掘り起こして欲しいと考えたことから、連
想を狭める可能性のある具体的な問いを避けるよう
にした。インタビューはそれぞれ約 1 時間行った。
第 2 段階では、混合クラスの担当教師に何が求め
られるかを明らかにするために、3 名の教師の PAC
分析のインタビューを詳細にスクリプト化し、①こ
れまでのクラスとどのような違いを感じたか、②指
PAC分析研究 第3巻
3
導の際に特に意識して行ったことがあるか、③混合
クラス授業の課題は何か、という 3 つの観点から内
容を整理し比較、分析を行った。作業手順は以下の
通りである。1)録音インタビューを詳細に文字起こ
しし、自然な意味のまとまりで区切る、2)意味内容
のまとまりから意味の縮約を行う、3)その意味の縮
約したものを短冊状の紙に書き出し、似た意味内容
のもの同士を集める、4)その中心的意味をラベルに
書き出し、上記 3 つの問いに振り分け、比較表を作
成した(12)
。
4-2 PAC 分析の結果(第 1 段階目)
3 名の教師の個人別態度構造の結果は、以下の通
りである。
これまで日本人を主に教えてきた教師 A の結果は
付録図1に示す。教師 A のデンドログラムの項目は
4 つに分けられた(13)
。分けられたグループのまとま
りをクラスターと呼ぶ。(以下 CL と略す。)インタビ
ュイーは、それぞれ上からイメージするものを語り、
その後、クラスターごとにタイトルをつけた。CL1 は
「教師と留学生と日本人の出会い」、CL2 は「コミュ
ニケーションの楽しさと難しさ」、CL3 は「混合クラ
スの授業運営の難しさ」、CL4 は「学生の授業の目的
は何か」である。教師 A が連想語の中でもっとも重
要だと思っていたのは「刺激が多い」ということで
あった。インタビューの中で教師 A は、「日本人を教
えている時とは違う刺激だった」「日本人学生にとっ
ても刺激になれば良い」と語っている。また、留学
生については、「刺激が多かったかはわからない」が
「むしろ自分のことを教師や日本人学生に一生懸命
言いたいという感じ。こんなに大変なんだよとか、
話を聞いてくれる日本人がもしかしたら普段は少な
いのかなという感じ」と語っている。
付録図 1 のデンドログラムの+-△は各項目につ
いてのイメージである。ポジティブかネガティブか、
どちらでもないかを示す。結果は、連想語が 16 で、
+が 4、-が 6、△が 6 であった。内訳を見ると主に
教室での経験について語った CL1、2 では、混合クラ
スが双方の学生にとって異文化理解に有益だという
点で+イメージであることがわかる。他方 CL3 のク
ラス運営についての自身の取り組みや成果には懐疑
的であり、CL4 の「学生の授業の目的」に対しても、
迷いや無力感を感じていたことがわかった。
続いて、今まで留学生を主に教えてきた教師 B の
結果は付録図 2 に示す。教師 B のデンドログラムの
項目は、5 つに分けられた。上から順に CL1「自分の
問題意識」、CL2「混ざって欲しい」、CL3「いかに教
えるか」、CL4「学生を見て思うこと」、CL5「留学生
への対応」である。教師 B が連想語の中でもっとも
重要だと思っていたのは「複眼的思考」であった。
教師 B は複眼的思考とは、一人の人間が「いろんな
立場をいろいろな考え方からイメージできる」こと
だと述べ、インタビューの中で、本人が中学時代に
帰国子女であった経験が影響していると語っている。
しかし、実際のクラスで日本人学生の態度を見てい
ると、横を向いてしまい、留学生と話し合おうとし
ない場合もある。一方、留学生も日本人学生に対し
て構えていることがあり、お互いに慣れておらず、
越えなければならない壁のようなものがあると感じ
ていた。そのようなことから「せっかく私の授業で
出会っているので、学生にはそういうものの見方を
身に着けてほしい」と述べ、「複眼的思考というのが
自分の中で相当に大きい位置を占めているので、そ
れがコアというか、中核になっている」「将来的に複
眼的思考を持ってものが考えられる人になってほし
い」と語っている。
結果は連想語が 20 で、+が 7、-が 5、△が 8 で
あった。日本人と留学生が交流することは「複眼的
思考」獲得のためになると考えており、CL1、2 を見
るとそのために有効なことには+イメージが、障害
と考えられる点には-イメージがあることがわかる。
CL3、4、5 では文章表現技術をいかに教えるかとい
う点への言及が多く、特に留学生への対応や調整、
指導法に意識が向いていたことがわかる。
最後に、混合クラス経験がある教師 C の結果は、
付録図 3 に示す。教師 C のデンドログラムの項目は
4 つに分けられた。各クラスターへの名づけは、CL1
「学び合い」、CL2「個人作業」、CL3「教師の学生へ
の配慮」、CL4「必要なツール」である。教師 C が連
想語の中でもっとも重要だと思っていたのは「クラ
スの雰囲気作り」であった。教師 C は「教師という
のは生身の学生を相手にしているので、できるだけ
終わった時に良かったという気持ちになるように、
勉強できたなという気持ちになるように」と考えて
いた。また「最後まで気持ち良く終われるというの
PAC分析研究 第3巻
4
が一番大事」で、「クラスの雰囲気作りが一番大事」
「絶対に来るのが嫌だと思わないように」というこ
とを強く意識していた。さらにクラスでの学びが「授
業外にもつながるいい機会」「そこでできた人間関係
がクラス外でも続いて 4 年間のキャンパスライフが
楽しく過ごせる可能性がある授業」だと考えていた。
結果は連想語が 18 で、内訳は+が 12、-が 0、△
が 6 であった。教師 C の意識は、CL1の「学び合い」
に大きく向けられていた。CL1 の「学び合い」に必
要なピア・レスポンスや CL2 の個人作業を実現する
ために、CL3 で述べられたような学生への配慮が行
なわれていた。CL4 ではツールの利用などの面への
配慮が語られ、全体としてうまく機能していたこと
が肯定的な評価へつながったと考えられる。
4-3 インタビュー内容比較の結果(第 2 段階目)
さらに本研究の問いの答えを見出すために行った
2 段階目の分析の結果について示す。インタビュー
内容の詳細なスクリプトを意味内容で縮約し、グル
ーピングした上で、中心的意味を 3 つの問いに振り
分けた。その上で、混合クラス担当者に求められる
ものは何か議論を行い、仮説を導き出した。
4-3-1 これまでのクラスとの違い
まず、①これまでのクラスとどのような違いを感
じたか、3 名の教師の共通点と相違点を明らかにし
た。結果の全体像は付録図 4 に示す。以下はその中
から各教師の共通点を( )で、相違点を( )で
示したものである。
教師 A
*留学生がいると、クラスの話し合いが活発になり、刺
激があっていい印象を持った
*授業の目標はライティングのスキルアップなのか、
異文化コミュニケーションなのか分からなくなっ
た。
教師 B
*留学生が正規の授業に入るために、AJ(アカデミック・
ジャパニーズ)授業は重要だ。留学生がいると日本人
にとって複眼的思考を学ぶのに意味がある。
*日本人がいた方が異文化理解が深まって、教師自身
が楽しかった。
*留学生が日本人に混ざって大丈夫かと思っていた
が、自分が選んだテーマなので、差があっても文章表
現の授業が成り立った。
教師 C
*日本人と留学生の混合クラスはお互いに刺激をし合
って、活気のあるクラスになり、学生にとっても授業
外の繋がりができるチャンスになるので、価値があ
る。
*混合クラスでは留学生の日本語力の問題が出てくる
ので、日本人はサポートの役割を求められる。
共通点としては、教師 A と教師 C は、混合クラス
は「刺激」があると感じ、教師 B と教師 C は、「意
味・価値」があると感じていた。つまり 3 名とも日
本人学生と留学生が授業時に話し合ったり、学び合
ったりして異文化理解を深めることに価値を感じて
いた。
相違点としては、教師 A は混合クラスだからとい
って、目的がライティングの向上ではなく、「異文化
コミュニケーションになってしまってもいいのか」
という葛藤を感じていた。一方、教師 B は今まで教
えてきた留学生が日本人学生と実際に交流する場を
見て、「異文化理解が深まって楽しかった」と感じ、
同時に「アカデミック・ジャパニーズの重要性」を
痛感していた。また、自分自身の授業への工夫が学
生の理解を助け、学生からよいフィードバックを受
けて、結果として学生の日本語力に「差があっても
成り立った」と感じていた。さらに、教師 C はこれ
まで行っていた混合クラスとの違いはあまり感じて
おらず、今回のクラスでも「やはり、日本人はサポ
ート役を引き受けざるを得ない」と感じていた。授
業目的に葛藤を感じた教師 A と日本語力が劣る留学
生でも授業が成り立ったと感じていた教師 B の違い
は何か、議論を行ったところ、教師 A が持ったクラ
スは留学生比率が 6 割を超え、3 割以下の教師 B や
教師 C のクラス以上に日本語力の差などの問題が顕
著に現れたため、授業運営の難しさにつながったと
考えられる。また、教師 B の授業への工夫があげら
れるのではないかと考えられた。この点については、
4-3-2 の②での分析でより明確になった。
4-3-2 指導の際に行った対応
次に、②指導の際に特に意識して行ったことが
あるか、3 名の教師のビリーフや行動の共通点と相
違点を明らかにした。結果の全体像は付録図 5 に示
PAC分析研究 第3巻
5
す。以下は、各教師の共通点を( )で、相違点を
( )で示したものである。
教師 A
*(グループ活動で)日本人学生をサポートのように使
い、日本人学生へのフォローが手薄になり、それがよ
かったのかわからない。
教師 B
*帰国子女の経験から複眼的思考が大切だと考え、授
業の中核としている。
*レポートの授業ではあるが、日本人と留学生に混じ
ってほしくてグループ活動に比重を置き、様々な工
夫をし、やりとりができることを高く評価している。
留学生は、授業についていくのに聴解力が必要だと
考え、講義速度や内容の調整をしている。
教師 C
*様々な背景の学生がいる中で、一番気を使っている
のはクラスの雰囲気づくりであり、学生たちに絶対
来るのが嫌だと思われないように配慮している。
*授業が終わった時に、勉強できたなという気持ちに
なるように、また学んだことで四年間のキャンパス
ライフが楽しく過ごせるように気を使っている。
*教員がコメントするより、学生同士のコメントの方
がダイレクトに受け止めるので、協働作業を促して
いる。
*課題達成のため、学生が指示や注意点を理解してい
るかどうか確認し、特に留学生には配慮している。
教師 A は、留学生が日本語表現につまずいた時に、
日本人学生を教師のサポートのように使ってしまい、
それで良かったのかわからないと言っている。この
点についての葛藤は、教師 C(4-3-1 参照)と共通の
ものである。両者の発言から、日本人学生と留学生
の効果的な協働をいかに行うかという点が大きな問
題となっていたことがわかる。
また教師 B は、「複眼的思考」の獲得についての
トピックに時間を割き,留学生が苦手な引用などの
項目について授業内容を補ったり、留学生目線での
調整をしたりしていた。話し方も留学生に合わせ、
少しゆっくり、漢語を和語に言い換えて話していた。
しかし、日本人学生もいる中で、このようなやり方
でよいのかわからないとも言っている。ただ、この
ような留学生へのケアは、結果として授業が成り立
ったと感じた点につながっていると考えられる。
さらに、教師 C は、クラスの雰囲気作りを最も大
切に考えていた。また特に留学生が授業についてこ
られるようにリソースの使い方などにも配慮してい
た。留学生がリソースの使い方に難しさを感じると、
課題の提出が遅れ、ピアが機能しなくなり、結果と
してクラスの雰囲気も悪くなるおそれがあると考え
たからである。教師 C の対応を見ても、日本語力の
劣る留学生への適切な対応の必要性がわかる。
3 名の教師に共通していた対応は留学生・日本人
学生が協働するように様々な配慮をしている点であ
る。例えば、毎回別の座席を指定して、違う日本人
学生と留学生がピアで組めるようにしていた。また
ピアの時間を十分にとるように心がけ、話し合いの
際に学生に声掛けを行い、話し合いがうまくいって
いない学生に対しては、学生同士の話がうまく進む
ように間を取り持つようにしていた。そして、授業
では、留学生と日本人学生がお互いの考えにコメン
トをしあうような機会は貴重であるということを繰
り返し伝えていた。これは、3 名ともが学生の異文
化理解の促進に価値を見出していたからであろう。
4-3-3 混合クラス授業の課題
最後に、③混合クラス授業の課題は何か、各教師
の問題意識を明らかにした。全体像は付録図 6 に示
す。以下では、各教師が特に意識していた点を( )
で示す。
教師 A
*うまく教室運営するには経験の浅い教師はどうすべ
きか。
*混合クラスで日本人学生のライティング力アップの
ために、どうしてあげたら良かったのか。
*日本人と留学生のピアでの文章チェックはどのよう
にしたら、うまく機能するのだろうか。
*留学生にとって変な成功体験は良くないし、厳しす
ぎてもやる気を失うので、何を基準にどのレベルを
目標にすればよかったのか、わからなかった。
*同じ混合クラスといっても日本人と留学生の比率に
よって問題も変わってくる。
*日本語力が達していない留学生をどうしてあげたら
良かったのか。
PAC分析研究 第3巻
6
教師 B
*留学生と日本人が積極的にコミュニケーションをと
り、混ざり合って学ぶためにはどうすればいいのか。
*より効果的にスキルとしての文章表現を身につける
には、何をどう教えたらいいのか。
*特に中級レベルの留学生が上級になるためには、要
約する力が大きな課題なので、教師はどう教えるべ
きか。
*正規の授業で日本人と混ざる留学生には聴解力が重
要だが、聴解力が弱い学生がいた時に教師はいかに
ケアするべきか。
*コピペがでないようにするには、どうするべきか。
教師 C
*クラスマネージメントが教員のやることとして重要
なことであり、より良い学び合いができるようにど
うしたらいいかが課題。
*教師側の確認指示が細かいので、理解できるよう配
慮すべき。
教師 A は何をこの授業の目的にするのか、評価基
準は日本人学生と留学生で同じでいいのかなど、疑
問が多いと述べている。ライティングのスキルアッ
プが目的の授業であるのだが、実際にやっているこ
とが結果として交流目的のような活動が多く、本来
の授業目的とずれているのではないかと感じていた。
しかし、混合クラスの強みは留学生と日本人学生が
コミュニケーションをとり、協働することであると
感じていたので、ここで得られる学びを活かしたい
という気持ちも生まれ、ライティング力向上だけを
考えた授業運営もできず、葛藤していた。また、こ
れまでの経験から、同じ授業を受けている学生の評
価は同一基準であるべきだと思っており、留学生の
評価に葛藤を感じていた。留学生は日本人学生に比
べて日本語力にハンディがあり、文法や漢字の間違
いも多く、同一基準であれば当然評価も低くなった
からである。また、基準を下げて評価を留学生向け
に変え、留学生の課題を寛大に評価することによっ
て過剰な自信を持ってしまうのは好ましくないと考
えていた。実力に見合わない過大な評価は向上心を
妨げ、先のことを考えると学生のためにならないこ
ともあると考えているからである。
教師 B は留学生のことを考えた課題が多く、特に
ピア活動が多い混合クラスにおけるライティングの
授業の中で、留学生の要約力・聴解力が課題だと考
えていた。これは日本人学生と留学生の間の日本語
力の差に課題があると感じているためである。ライ
ティングのクラスなので、最も大切な力は引用のた
めの要約力であると考え、それを留学生が日本人学
生と同じ 8 週間で身につけるには、日本語のハンデ
ィをどう乗り越えさせるか、いかに教えるかという
ことを課題だと考えていた。また、特に留学生の聴
解力については、ピア活動が機能するためにも、教
師の指示の理解のためにも、聴解力が十分でなけれ
ば、授業が成立しない恐れがあると考えていた。
一方、教師 C は、担当教師のクラスマネージメン
トが最も重要だと考えていた。「混合クラス」で学ぶ
意味・価値を学生に理解させ、その機会を十分に活
かすために教師ができることは、1 学期間、積極的
な学びの機会が得られるように気持ちよく学習でき
るクラス作りであると考えている。また日本人学生
と留学生のコミュニケーションが円滑に進むように、
正しいタイミングで意味のあるサポートを行うこと
が大切だが、そのためには教師が学生の授業活動の
様子をよく確認することが重要であると考えていた。
以上、PAC 分析インタビュー内容の質的分析、比
較から、どの教師も留学生と日本人学生の協働に意
味や価値を見出し、学び合いを促そうとしていたこ
とがわかった。特に教師 B からは混合クラスの利点
を生かした「複眼的思考の獲得」の重要性が語られ、
異文化理解に価値を見出していた教師 A、C にとっ
ても、「複眼的思考の獲得」のために教師側からの「い
い刺激をしあえるような協働への配慮」が不可欠で
あるという点が共有された。また、授業の目的と評
価の点で葛藤があった教師 A の発言を共有すること
で、学生のために基準を下げるのではなく、「成長に
つながるような評価」をすることの重要性がわかっ
た。さらに、これまで留学生を主に教えてきた教師
B の留学生への対応や授業時における調整から、日
本語力が劣る留学生がいる際に必要な「日本語力を
見極めた適切な対応」によって、授業活動が成り立
ちうることも明らかになり、混合クラスを教えた経
験のある教師 C の発言から、「学生の個性を活かし
たクラスマネージメント」が、教員が行うこととし
て大変重要であるということがわかった。
PAC分析研究 第3巻
7
本研究を始める前に、「教育歴がクラス運営に影響
する」という予測をしていたが、インタビュー内容
の詳細な比較から、教育歴の違いだけでなく、個人
の生育環境や経験からくるビリーフの差、担当クラ
スの状況などの影響も少なくないことがわかった。
5.結論
本研究の目的は、文化交流を目的としない正規科
目において留学生と日本人学生が混ざっているアカ
デミック・ライティングのクラスを担当する教師の
意識はどのようなものかということと、このような
混合クラス担当教師に何が求められるのかを明らか
にすることである。
第 1 段階の PAC 分析によって現れた各教師の意識
構造は、次のようにまとめられる。教師 A は「混合
クラス」について、日本人学生と留学生の交流のき
っかけになるが、授業の目的がそれでよいのか悩み、
自分を責める傾向にあった。教師 B は日本人学生と
留学生の交流に意義を感じ、また、文章表現技術を
「混合クラス」でいかに教えるか、特に留学生をケ
アすることに意識が向いていた。教師 C は「混合ク
ラス」は日本人学生と留学生が学び合える貴重な機
会だと捉え、授業を成立させるために指示の明確化
などの配慮に意識が向けられていた。
次に第 2 段階の質的内容分析により、混合クラス
の担当教師に求められるものは何かという研究の問
いに関わる具体的な要素を抽出し、結論として「複
眼的思考の獲得を目指した授業」、「いい刺激をしあ
えるような協働への配慮」、「学生の日本語力を見極
めた適切な対応」、「学生の成長につながる評価」、「学
生の個性を活かしたクラスマネージメント」の 5 点
を導き出した。「複眼的思考の獲得を目指した授業」
は混合クラスの利点を最大限に活かすために必須で
あるが、そのような授業を行うためには担当教師に
よる「いい刺激をしあえるような協働への配慮」が
必要となる。日本語力の劣る留学生の混合するクラ
スでは、「学生の日本語力を見極めた適切な対応」を
とることで、混合クラスで目指す授業活動の実現が
可能となるが、「学生の成長につながる評価」のため
には、日本語力の差があるという理由で評価基準を
下げてはならない。全体的に「学生の個性を活かし
たクラスマネージメント」を行うことで、日本人、
留学生双方の学びが促進されると考えられる。
今回取り上げたような正規科目のアカデミック・
ライティングのクラスにおいて、学生に到達目標を
達成させるためには、以上 5 つの点から授業を振返
って改善していくことが今後このような授業を担当
する教師に求められると考える。
6.おわりに
今回、PAC 分析と質的内容分析の 2 段階分析によ
り、本研究の問いへの答えにつながる 5 つの要素が
導き出された。個人の態度構造から明らかにされた
ものを、即一般化することはできないが、複数の当
事者の語った授業時の具体的な行動やビリーフ、問
題意識を比較することによって導き出された結論か
ら、同様の立場に立つ教師にとっても有益な知見が
得られるものと考える。今後は引き続きアカデミッ
ク・ライティングの授業における混合クラスのアク
ション・リサーチや、さらに高等教育機関の一般的
な科目において混合クラスを受け持つ教師の意識を
知るための PAC 分析を継続することによって同様の
立場の教師の抱える悩みや工夫をさらにすくい上げ、
考察を深めていきたい。
現在、日本の大学教育機関で進んでいるグローバ
ル人材育成のためには、混合クラスは学びの大きな
チャンスとなり得るが、一方で難しさもある。その
中で、混合クラスを担当する教師にできることは、
日本人学生・留学生双方のために、このチャンスを
活かすことであり、それが共生社会の実現にも寄与
すると考える。
注
(1) 日本学生支援機構が 2017 年 5 月に発表した留
学生総数は 267,042 人であり、前年度より 11.6%
も増えている。また、法務省入国管理局による報
道発表、「平成 29 年末現在における在留外国人数
について(確定値)」によると、平成 29 年末の留
学生数は 311,505 名とある。
(2) 坂本他(2017)では、「多文化間共修」を「文化
的背景が多様な学生によって構成される学びのコ
ミュニティ(正課活動及び正課外活動)において、
その文化的多様性を学習リソースとして捉え、メ
ンバーが相互交流を通して学び合う仕組み」と定
PAC分析研究 第3巻
8
義し、さらに、教育的意図をもってその仕組みを
構築することを、「多文化間共修支援」としている。
(3) 村田(2018)に詳しい。
(4) 宮本(2015)などでは、日本語を用いた多文
化共修の実践を取り上げて論じている。
(5) 内藤(2002)参照。
(6) 小澤・坪根(2015)参照。
(7) 教師 A は以前から文章表現の授業を担当してお
り、本人の力に見合わない高評価は将来的にため
にならいと話しており、日本語力が劣る留学生の
評価をどうするか悩みを話していた。教師 B は留
学生しか教えていなかったので、留学生がクラス
についていけるような補助資料などを用意し、授
業の進度が遅れがちになることを悩んでいた。
(8) 詳細は、藤浦他(2017)参照。
(9) PAC Helper
https://www.vector.co.jp/soft/winnt/edu/se504168.
html (2018 年 12 月 29 日参照)
(10) 統計分析ソフト HAD http://norimune.net/had
(2019 年 5 月 11 日参照)
(11) メモを取りながらのインタビュー手法は、PAC
分析学会(2018 年 12 月 8 日(土)於 立命館大学)
で開発者の内藤氏自身が推奨している。
(12) 意味の縮約に関しては、クヴァ―ル(2016)、
比較表に関しては佐藤(2008)参照。
(13) 類似度距離行列によって出されたデンドログ
ラムを右から見ていき、どこでデンドログラムを
切るかは、インタビュイーに確認して決める。
参考文献
(1) 池田玲子(2008)「協働学習としての対話的問題
提起学習―大学コミュニティの多文化共生のため
に ―」細川英雄・ことばと文化の教育を考える会
『ことばの教育を実践する・探求する―活動型 日
本語教育の広がり―』、60-79、凡人社
(2) 伊藤隆二(1996)展望/教育心理学の思想と方法
の視座:「人間の本質と教育」の心理学を求めて
教育心理学年報,35,127-136.
(3) 小澤伊久美・坪根由香里(2015)「日本語を母語
とする現役教師Aの「いい日本語教師観」PAC 分
析を活用してわかること」、舘岡洋子編『日本語教
育のための質的研究入門』、221-46、ココ出版
(4) スタイナー・クヴァール、野智正博・徳田治子
訳(2016)『質的研究のための「インター・ビュ
ー」』、155-183、新曜社
(5) 坂本利子・堀江未来・米澤由香子編著(2017)『多
文化間共修』、学文社
(6) 佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法』、新曜社
(7) 清水裕士 (2016)「フリーの統計分析ソフト
HAD:機能の紹介と統計学習・教育、研究実践にお
ける利用方法の提案」、 メディア・情報・コミュ
ニケーション研究 1、59-73.
(8) 舘岡洋子(2015)「留学生と日本人学生がともに
学ぶ「日本語クラス」ーグローバル化する大学の
学習環境のデザインとしてー 早稲田日本語教育
学 19、61-71 早稲田大学大学院日本語教育研究科
(9) 独立行政法人日本学生支援機構(JASSO) 「1.
留学生数の推移(各年 5 月 1 日現在)」『平成 29
年度外国人留学生在籍状況調査結果』
(10) 内藤哲雄(2002)『PAC 分析実施法入門[改訂
版]「個」を科学する新技法への招待』、ナカニシ
ヤ出版
(11) 法務省入国管理局「平成 29 年末現在における
外国人数について(確定値)
www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokuk
anri04_00073.html (2019 年 5 月 11 日参照)
(12) 藤浦五月・宇野聖子・小針奈津美・坂井菜緒・
柴田幸子・服部真子・中川純子・長松谷有紀
(2017)「【調査報告】初年次レポートライティ
ング教育におけるルーブリック開発と改善プロセ
スに関する研究」、『武蔵野大学しあわせ研究所
紀要』Vol.1、3-24
(13) 宮本美能 (2015)「留学生と日本人学生の国際
共修授業における一考察 -言語の問題へのアプ
ローチと学習効果-」、『大阪大学大学院人間科学
研究科紀要』41、173-191
(14) 村田晶子(2018)「国内・海外を結ぶ多文化体
験学習の意義と学びの可視化」村田晶子編著『大
学における多文化体験学習への挑戦』、2-22、ナカ
ニシヤ出版
(15) 文部科学省 HP「ポスト留学生 30 万人計画を見
据えた留学生政策 (現状・課題)」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chu
kyo4/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/05/28/14
05510_4.pdf (2019 年 5 月 11 日参照)
PAC分析研究 第3巻
9
<付録>
1 刺激が多い +
16 夢や悩みを語る +
2 異文化理解 △
15 お互いに得たもの +
4 発見 △
5 意味のある時間 △
6 賑やかな印象 +
12 コミュニケーション △
3 反省 –
9 やり方の失敗 –
7 ついてこられない –
11 日本人と留学生 △
13 レベル設定 –
8 日本語力 –
10 日本人の役割 △
14 留学生の戸惑い –
図 1 教師 A の結果(日本人を主に教えてきた教師)
1 複眼的思考 +
2 話し合い +
3 日本人の壁 –
4 留学生向け AJ 授業の重要性 +
12 留学生向けの対応 △
19 緊張している –
8 学生の積極性 +
13 日本人学生向けの対応△
15 座席の場所工夫 +
18 活発さ +
20 おもしろかった +
5 引用の難しさ –
6 要約の方法指導 △
9 講義内容の調整 △
11 授業進度の調整 △
17 見本の難しさ –
14 コピペのおそれ –
16 テーマの難易度 △
7 聴解力の必要性 △
10 講義速度の調整 △
図 2 教師 B(留学生を主に教えてきた教師)
1 クラスの雰囲気作り +
3 クラスの活性化 +
4 意味のある協働作業 +
2 貴重な機会 +
5 ピアが生きているか △
6 日本人の学びの機会 +
8 ブレインストーミング +
7 留学生への配慮 +
12 ハンドアウトの配布 +
11 指示の明確化 +
17 声掛け △
10 ルールの確認 △
15 書式設定 △
16 確認 △
18 期限を守る +
9 学内リソースの利用 +
13 ポータルサイトの利用 +
14 資料検索 △
図 3 教師 C(混合クラス経験がある教師)
CL1 教師と留学生と日本人の出会い
CL3 混合クラスの授業運営の難しさ
CL4 学生の授業の目的は何か
CL2 コミュニケーションの
楽しさと難しさ
CL1 自分の問題意識
CL3 いかに教えるか
CL4 学生を見て思うこと
CL2 混ざって欲しい
CL5 留学生への対応
CL3 教師の学生への配慮
CL1 学び合い
CL4 必要なツール
CL2 個人作業
PAC分析研究 第3巻
10
分析
①共通点 1:刺激があった(教
師 A・教師 C)
②共通点 2:意味・価値がある
(教師 B・教師 C)
③相違点 1:異文化コミュニケ
ーションについて教師 A(そ
れでよいのか)/教師 B(理
解が深まって楽しかった)
④相違点 2:日本人はサポー
トを引き受けざるを得ない
(教師 C)
⑤アカデミック・ジャパニーズ
の重要性(教師 B)
⑥差があっても成り立った
⇒意味・価値があるような授
業にすることが大切で、そ
のことに気づかせるように授
図 4 これまでのクラスとどのような違いを感じたか 業を持っていくことが大切
分析
・留学生と日本人学生が協
働するように配慮してい
る(A,B,C)
・日本人学生がサポートの
ように使ったが、それが
よかったのかわからない
(A)
・授業内容な震度を留学生
に合わせて調整をしてい
る(B)
・雰囲気づくりを重視(C)
図 5 指導の際に特に意識して行ったことがあるか
教師 A 教師 B 教師 C
うまく教室運営するには経験の浅い教師
はどうすべきか。
留学生と日本人が積極的にコミュニケー
ションをとり、混ざり合って学ぶために
は、どうすればいいのか。
クラスマネージメントは教員がやること
として重要なことであり、より良い学び合
いができるようにどうしたらいいかが課
題である。
混合クラスで日本人学生のライティング
力アップのために、どうしてあげたら良か
ったのか。
より効果的にスキルとしての文章表現を
身につけるには、何をどう教えたらいいの
か。
教師側の確認指示が細かいので、理解でき
るよう配慮すべきである。
日本人と留学生のピアでの文章チェック
はどのようにしたら、うまく機能するのだ
ろうか。
特に中級レベルの留学生が上級になるた
めには、要約する力が大きな課題なので、
教師はどう教えるべきか
留学生にとって変な成功体験は良くない
し、厳しすぎてもやる気を失うので、何を
基準にどのレベルを目標にすればよかっ
たのか、わからなかった。
正規の授業で日本人と混ざる留学生には
聴解力が重要だが、力が弱い学生がいた時
に教師はいかにケアするべきか。
同じ混合クラスといっても日本人と留学
生の比率によって問題も変わってくる。
コピペがでないようにするには、どうする
べきか。
日本語力が達していない留学生をどうし
てあげたら良かったのか。
図 6 混合クラス授業の課題は何か
教師 A 教師 B 教師 C
留学生がいると、クラスの話し合
いが活発になり、刺激があって
いい印象を持った。
留学生が正規の授業に入るため
に、AJ 授業は重要だ。
日本人と留学生の混合クラスはお互
いに刺激をし合って、活気のあるクラ
スになり、学生にとっても授業外の繋
がりができるチャンスになるので、価
値がある。
授業の目標はライティングのスキ
ルアップなのか、異文化コミュニ
ケーションなのか分からなくなっ
た。
留学生がいると日本人にとって
複眼的思考を学ぶのに意味があ
る。
混合クラスでは留学生の日本語力の
問題が出てくるので、日本人はサポ
ートの役割を求められる。
日本人がいた方が異文化理解が
深まって、教師自身が楽しかっ
た。
留学生が日本人に混ざって大丈
夫かと思っていたが、自分が選
んだテーマなので、差があっても
文章表現の授業が成り立った。
教師 A 教師 B 教師 C
日本人学生をサポートのように
使い、日本人学生へのフォロー
が手薄になり、それがよかったの
かわからない。
帰国子女の経験から複眼的思考
が大切だと考え、授業の中核とし
ている。
様々な背景の学生がいる中で、一番
気を使っているのはクラスの雰囲気
づくりであり、学生たちに絶対来るの
が嫌だと思われないように配慮してい
る。
レポートの授業ではあるが、日本
人と留学生に混じってほしくてグ
ループ活動に比重を置き、様々
な工夫をし、やりとりができること
を高く評価している。
授業が終わった時に、勉強できたな
という気持ちになるように、また学んだ
ことで四年間のキャンパスライフが楽
しく過ごせるように気を使っている。
留学生は、授業についていくの
に聴解力が必要だと考え、講義
速度や内容の調整をしている。
教員がコメントするより、学生同士の
コメントの方がダイレクトに受け止める
ので、協働作業を促している。
課題達成のため、学生が支持注意点
を理解しているかどうか確認し、特に
留学生には配慮している。
PAC分析研究 第3巻
11
留学生・日本人学生混合クラスで教師に求められるものとは
―PAC 分析による大学初年次文章表現授業の教師の振り返り―
Considerations for Teachers in Linguistically Mixed Classes with International and Japanese Students
-Reflections on First Year University Academic Writing Classes through PAC Analysis-
【執筆者】
坂井 菜緒 SAKAI Nao(武蔵野大学 非常勤講師)
中川 純子 NAKAGAWA Junko(慶応義塾大学 非常勤講師)
長松谷有紀 NAGAMATSUYA Yuki(東海大学 非常勤講師)
服部 真子 HATTORI Shinko(東京ひのき外語学院 専任講師)
【要旨】
近年、大学では日本語で行われる正規科目を日本人学生と共に留学生が履修する機会が増え、教師の授業運営にも問題
が生じているが、このような混合クラスの研究はまだ少ない。本研究は、混合クラスの担当教師に求められることを明ら
かにするため、全学共通初年次文章表現授業を担当した留学生指導経験の異なる 3 名の教師を対象に PAC 分析を行い、
その後インタビュー内容の質的内容分析比較を行った。この手法では、本人の個別の背景を深く理解した上でインタビ
ューを行うため、従来のインタビュー調査分析よりも、議論を深めるために有効なデータが得られる。本研究の結論とし
て、「複眼的思考」、「協働への配慮」、「適切な対応」、「成長につながる評価」、「学生の個性を活かしたクラスマネージメ
ント」の 5 つの要素を導き出した。本研究は今後、グローバル化が進む日本の教育機関において、学生の多様化に直面す
る教師の 1 つの指針になると考える。
Recently at universities, there have been increases in opportunities for Japanese and international students to
take regular courses together, creating new classroom management challenges for instructors. However, relatively
little research has been conducted on teaching such linguistically mixed classes. In order to identify the
requirements for instructors in charge of mixed classes, this research conducted PAC Analysis on three instructors
with different levels of teaching experience and later compared qualitative content analysis of interviews.
Compared to traditional interview survey analyses, these methods allow for better understanding of individual
backgrounds to obtain valuable data for further debate to find solutions to the problem. The results of this research
derived five necessary elements of mixed classrooms, which include: (1) multi-faceted thinking, (2) consideration
towards cooperation, (3) appropriate responses, (4) evaluations that lead to growth, and (5) classroom management
that utilize student character. As globalization penetrates Japanese educational institutions, this research shall
serve as a guiding principle for instructors facing student diversity.
PAC分析研究 第3巻
12
進 路 面 談 に 求 め られ る 高 校 教 師 の 柔ら か な 鏡 役 割
- 学 校 適 応 感 に 差が あ る 二 人 の 高 校生 の 比 較 -
森本 篤, 青木 多寿子
1 問 題
学校での教育相談は,子どもの悩みや問題の解決を
援助することによって,学校生活の充実と人格の成長
への援助を図ろうとするものである(文部省,1981)。
特に,すべての子どもに対する発達促進的な「一次的
援助サービス」は,開発的な意味がある(石隈,1999)。
欧米と比較するとき,日本での教育相談(カウンセリ
ング)の特徴は,専任のカウンセラーではなく,学級
担任を主役にした,学校全体が関与するもの,という
点にある(國分,2009)。
教師が行う教育相談の中で,生徒の「生き方」につ
いての指導・援助が進路指導であり(伊藤,2010),高
校生の受ける進路指導の重要な機会として,進路面談
がある。進路面談は生徒一人ひとりに対する個別的指
導・援助であり(橋本,2011),従前から文部省は進路
面談を,生徒の問題解決能力と自己指導能力を促すた
めの援助活動と位置づけている(文部省,1977)。また,
近年その重要性が指摘されている「キャリア教育」に
おいても,進路面談は「児童生徒の個別支援のために
は,日々児童生徒に接している教職員が,カウンセリ
ングに関する知識やスキル及びその基盤となる生徒と
円滑にコミュニケーションをとるための方法を修得す
ることが重要」(文部科学省,2011)と提言されている
ように,教師によるカウンセリング活動として,その
意義が示されている。これらの視点に立てば,高等学
校における進路面談は,生徒一人ひとりの「発達・開
発」の支援に重点が置かれた,カウンセリングの中核
をなす活動ともいえよう(池場,2006)。
学校における生徒の支援を考えるとき,まず生徒が
学校生活にどの程度適応できているかを把握すること
が必要になる(河村,1999)。生徒の学校適応を含め,
学校の教育活動では,生徒と教師の間の人間関係が重
要な役割を果たしていることを考慮する必要がある
(平岡・豊嶋,1991)。
とりわけ日本の進路面談では,前述のように学級担
任が中心となって生徒と関わるため,個々の生徒と担
任との関係が重要となる。進路面談のように,教師が
生徒にカウンセリングを行う場合にも,「面接に,それ
以外の場面の児童生徒と教員の人間関係が反映しがち
である」ことが指摘されている(文部科学省,2010)。
そこで,本研究では,まず,生徒と教師との関係を中
心とした,学校適応の実態を把握することとする。
次に,高校生の,教師に対する態度に関しては,JELS
(2006)が次のような結果を示している。それによる
と,進路選択の際に高校生が相談する相手の第 1 位は
38.9%で「高校の教師」であり,また,高校生が進路
指導について要望しているのは「進路に関する情報提
供をしてほしい」(32.6%)に次ぎ,「もっと生徒のこ
とを理解してほしい」(24.6%)という,教師の生徒へ
の関わりを求めるものであった(全国 PTA 連合会・リ
クルート,2011)。他方,高校生の教師への自己開示度
は,身近な他者の中で最下位であった(小西・宮下,
2003)。これらは,進路選択に関し,信頼する教師には
「わかってほしい」という気持ちを持つ一方で,「自分
のことは知られたくない」いう,高校生の時期に特徴
的な,両価的な心理(佐藤,1999)が反映されている
と考えられる。したがって,生徒の側からの認知をと
らえる際には,この両価性についても留意しておく必
要があると考えられる。本研究では,両価性をふまえ
た,進路面談に臨む生徒の心情を捉えたい。
以上を踏まえ,研究 1 では,まず,生徒の学校適応
の程度には,どのような差異があるのかについて意識
調査を実施する。また,研究 2 では,学校適応感,と
りわけ「教師関係」と「進路意識」に差がある生徒に
ついて,①両価的な心情,②理想的な面談イメージは
どのような違いや共通点があるのか,について PAC 分
析を用いて検討する。以上の 2 研究の結果をもとに,
教師はどのような点に配慮して生徒との進路面談に臨
むべきかを考察する。
PAC分析研究 第3巻
13
【 原 著 】
______________________
2019年2月6日 原稿受理
2019年9月2日 掲載決定
2 研究1
生徒の進路面談に関する学校適応の程度の差につい
ての,質問紙による調査研究
研究 1 では,高校生の,進路面談に関する学校適応
の程度には,どの程度の差異があるのかを,高校生用
学校適応感尺度(内藤・浅川・高瀬・古川・小泉,1986)
の下位尺度「教師関係」「進路意識」得点を比較して調
べる。
学校適応の指標としては,出席状況などのように客
観性の強いものの他に,高校生が自分の学校生活をど
のように認知しているかという,高校生自身の学校適
応感がある。この指標は,主観性が強いものであるが,
本人の心理状態を直接問うという点で重要な意味をも
つと考えられる(古川・高田,1999)。この学校適応感
に関して,内藤ら(1986)は,「高校生用学校適応感尺
度」を開発し,高校生の学校適応感の構造として,「学
習意欲」「進路意識」「教師関係」「規則への態度」「特
別活動への態度」の 6 因子を抽出した。尺度としての
信頼性,妥当性が検討されており,「教師関係」「進路
意識」という,進路面談に関して重要と考えられる下
位尺度を含んでいることから,本研究 1 では,この尺
度を採用した。
2.1 方 法
調査対象者 公立普通科高校(生徒数 960 名の進学
校)2 年生 313 名(男子 129 名,女子 184 名)。
手続き 高校生用学校適応感尺度(内藤ら,1986,
一部語句を修正・改組)を用いた質問紙調査を,ロン
グホームルームの時間中に実施した。実施者は各ホー
ムルーム担任であった。高校生用学校適応感尺度の 6
つの下位尺度とその代表的な項目を Table 1 に示す。
質問紙では,各項目ごとに「全くあてはまらない」か
ら「非常によくあてはまる」までの 5 件法(1~5 点)
Table 1 高校生用学校適応感尺度の 6 つの下位尺度とその代表的な項目(各 2 つ)
下位尺度 代表的な項目
1.教師関係 私は,この学校の先生を信頼している。/ 私には,まるで友達のように
親しみを感じる先生が,この学校にいる。
2.進路意識 私は,自分の進路のことを真剣に考えている。/ 私は,自分の将来に
希望を持っている。
3.学習意欲 私は,勉強に積極的である。/ 私は,勉強の目標を持って,毎日コツ
コツと努力している。
4.友人関係 私は,明るく,楽しい友人関係をもっている。/ 私は,性格的に明るい
方である。
5.規則への態度 私は,学校の規則を真面目に守っている。/ 私は,学校の規則がある
のはあたりまえだと思う。
6.特別活動への態度 私は,部活や学級活動や学校行事に楽しさを感じる。/ 私は,部活や学
級活動や学校行事等に積極的に,一生懸命取り組んでいる。
Table 2 高校生用学校適応感尺度の 6 つの下位尺度と項目数,
調査対象校の質問紙調査での平均点・最高点・最低点(各 30 点満点) (n= 313)
下位尺度 項目数 平均点 最高点 最低点
1.教師関係 6 19.2 30 6
2.進路意識 6 20.9 30 6
3.学習意欲 6 18.4 30 6
4.友人関係 6 22.6 30 8
5.規則への態度 6 24.1 30 10
6.特別活動への態度 6 25.7 30 9
全 体 36 130.9 171 53
PAC分析研究 第3巻
14
で回答を求めた。次いで,各生徒について下位尺度ご
とに(6 項目・30 点満点)得点を比較した。
2.2 結 果
対象校での調査結果を Table 2 に示す。全体での平
均点は130.9,最高点は171,最低点は53であった。「教
師関係」についての平均点は 19.2,最高点は 30,最低
点は 6 であった。また,「進路意識」についての平均点
は 20.9,最高点は 30,最低点は 6 であった。これらの
結果から,調査対象校の生徒の,進路面談に関わる学
校適応感には,全体として 171 点から 53 点までの差が
あることが示された。「教師関係」得点,「進路意識」
得点についても,生徒間にはそれぞれ満点(30 点)か
ら最低点(6 点)まで,大きな差がみられた。
研究 1 で明らかになった,進路面談に関わる生徒の
学校適応感(「教師関係」得点・「進路意識」得点)の
差異は,進路面談における態度に,どのように反映さ
れているのであろうか。これについて,続く研究 2 で
検討する。
3 研究2
教師への信頼感が進路面談にどのように反映される
のかについての,PAC 分析を用いた研究
研究 2 では,学校適応感(「教師関係」得点・「進路
意識」得点)が高い生徒と低い生徒の,面談に臨む態
度や教師に期待することを,PAC 分析を用いて比較・
分析する。
具体的には,①学校適応感の高低によって,「理解し
てほしいこと」「話しづらいこと」などの両価的な心情
に,どのような差異が見られるのか,②学校適応感の
差は,それぞれの生徒にとっての「理想的な面談」の
イメージにどのような影響を与えるのか,の 2 点に焦
点を当て,進路面談における生徒と教師との関係の意
味について検討する。
本研究で用いる PAC 分析は,個人の態度構造やイメ
ージを測定するために,内藤(1993)によって開発さ
れた手法であり,個人の内面の構造を明らかにするこ
とにその特徴がある。本研究で取りあげる進路面談は,
生徒や保護者と担任教師の間で行われる個別場面での
営みであり,各教師と生徒との関係性もそれぞれ固有
のものであることから,分析手法として PAC 分析を用
いることが適していると考えられた。
また,PAC 分析は,態度やイメージの構造だけでな
く,心理的場,アンビバレンツ,コンプレックスまで
測定できることが確認されており(内藤,2008),進路
面談に臨む高校生の,両価的な心理や,表明しづらい
内面の探索についても有効であると考えられたので,
本研究での分析手法とすることとした。
3.1 方 法
調査対象者 研究 1 と同じ公立高校 2 年生の 2 名(女
子 1 名,男子 1 名)である。この 2 名は,質問紙調査
に参加した 313 名のうち,個別調査に協力を表明した
生徒で,高校生用学校適応感尺度(内藤ら 1986,一部
語句を修正・改組)のうち,a「教師関係」得点と,b
「進路意識」得点の高い A(a:8 位,b:1 位)と,低
い B(a:313 位,b:310 位)であった。A については,
a,b の平均得点がより高い生徒が 1 名いたが,研究 2
の調査期日前に海外留学の予定があったので,調査可
能な生徒のうちで最上位の得点であったAを対象者と
して選定した。B については,a,b の平均得点が最も
低く,調査可能であったので,対象者とした。
Table 3 に,担任教師からの情報も加えた A,B の進
路面談に関わるプロフィールを示す。
Table 3 A,B のプロフィール
A(女子) B(男子)
「教師関係」得点(6 項目・各 5 点)と順位 27(8 位) 6(313 位)
「進路意識」得点(6 項目・各 5 点)と順位 30(1 位) 8(310 位)
全体の得点(36 項目・各 5 点)と順位 146(53 位) 53(313 位)
実技科目以外の学業成績 下位 上位
第 1 志望校 海外の音楽大学 国内の,いわゆる難関大学
明るく朗らか 口べた
担任による,進路面談の際の生徒の印象 感情豊か 気持ちを伝えることに不慣れ
楽しそうに話す とっつきにくい
PAC分析研究 第3巻
15
手続き 標準的な PAC 分析の手順(内藤,2002)によ
った。それは,①教示②自由連想③類似度の評定④ク
ラスター分析⑤デンドログラムの解釈の 5 段階をふ
む。このうち①~③をセッション1として実施,④を
筆者が行ったのち,セッション 2 として⑤を実施した。
教示文の設定については,以下の経緯があった。筆
者は教師カウンセラーとして,生徒のカウンセリング
を行う機会がある。その際,生徒が担任教師の面談に
ついて不満を述べることが見受けられた。対照的に,
担任への信頼感を示す生徒もいた。これらのことを踏
まえ,今回の研究に先んじて,2 年生 1 クラスで「進
路面談では,担任の先生にどのような配慮があればよ
いと思いますか?」という調査(自由記述)を実施し
たところ,「自分のことをわかってほしい」「言いにく
いこともある」という,両価的な記述が比較的多く見
られた。また,「~してくれると理想的です」という表
明も複数あった。教示文はこれらを踏まえて作成した。
①教示文については,は『進路面談の際,あなたが
先生に「話しづらい」こととして,どのようなことが
あるでしょうか。また,先生に「わかってほしい」こ
とは,どのようなことでしょうか。そして,どんな先
生との,どんな進路面談があなたにとって「理想的」
でしょうか。』とした。
②教示の後,白紙のカード(タテ 3cm,ヨコ 9cm)
を 30 枚程度 A,B の前に置き,自由連想させ,記入さ
せた。その際,各連想項目のイメージが肯定的(+),
否定的(-),どちらともいえない(0)のいずれに該
当するかかを付記させた。この後,A,B にとって重
要と感じられる順に記入したカードを並べ替えさせ
た。
③次に,各項目間の類似度(距離)を 7 段階(非常
に近い…1,かなり近い…2,いくぶんか近い…3,どち
らともいえない…4,いくぶんか遠い…5,かなり遠い
…6,非常に遠い…7)で評定させた。
④上記の類似度評定に基づき,調査対象者別にクラ
スター分析(ウォード法,ソフトは HALWIN)を行っ
た。
⑤析出されたデンドログラム(樹状図)に各連想項
目の内容を付記し,A,B の解釈を尋ねた。各クラス
ターには,それぞれにふさわしいタイトルをつけても
らい,新たに生じたイメージ等について,筆者にも了
解できるよう,質問を加えた。クラスターの区分やイ
メージ理解については,内藤(2002)に沿い,A,B
の解釈を尊重した。
以下における A,B と筆者(Co.)とのやりとりは,A,
B の了解を得た上でセッション 2 を録音し,テープ起
こしをしたもののうち,各クラスターがそれぞれどう
まとまるかが了解される部分を抜粋したものである。
なお,逐語記録中の( )を付した補いの語は,筆者
がやりとり全体の文脈から判断して加えたものであ
る。
1 (0) |___. クラスター1「安心できるアドバイス」
5 (0) |___|___.
11 (+) |___. |
13 (+) |___|___|_______________.
6 (+) |___. |
9 (+) |___|_____. | クラスター2
10 (0) |_________|_________. | 「理想の面談形式」
7 (0) |___. | |
8 (0) |___| | |
12 (+) |___|_______________|___|_________________________.
2 (-) |___. |
3 (-) |___| |
4 (-) |___|_____________________________________________|
クラスター3「(先生への)お知らせ」
*左の数値は重要順位。 **数値の後の( )内の符号は各項目のイメージ。
Figure 1 A のデンドログラム
PAC分析研究 第3巻
16
3.2 結 果
A,Bの事例を以下に示す。
A の事例
セッション①:2011 年 7 月 6 日(30 分),②:2011
年 7 月 7 日(40 分)。デンドログラムを Figure 1,重要
度順の各項目を Table 4 に示す。A は Figure 1 のデンド
ログラムを,3 つのクラスターに区分した。筆者は,
客観的なデンドログラムの読み取りでは,1)~12)まで
の部分と,2)~4)までの部分の,2 つのクラスターに
分けられると考えていたが,A の解釈を尊重した。
A の逐語記録(抜粋) (斜体字:A の発言,Co.:
筆者の発言,番号は逐語記録順。ここで筆者の記号を
Co.と記しているのは,臨床心理士の資格を有する教師
カウンセラーであり,今回の調査において対象者には
研究 2 のセッションを行う際に,担任に対する率直な
気持ちを表明することが対象者にとって不利にならな
いよう配慮していることを伝えていることによる。)
A.5:これ(下の三つ)は,(内容は略)(先生への)
「お知らせ」。(クラスの友人関係について,先生に知
っておいてもらうと進路を含めて対処してもらいやす
くなる。)A.7:(真ん中の 8 項目は)「理想の面談形式」。
A.12:…(担任の)M 先生とかは,「本人の意志がいち
ばん大切だから,もう親は黙っといて」っていう感じ
なんですよ,…やっぱり,そういう先生が理想だな,
って思って。Co.14:M 先生は,ほぼ理想に近い。A.14:
はい。ただドイツ人じゃないだけ(笑)。Co.16:1 と
か 5 などは M 先生が実際してくださってる。A.16:は
い。してくださってます。Co.17:では,全く問題なし。
A.17:そうなんです。A.20:(「まず生徒と面談」につ
いて)中学校の時に,この(項目 10 の)やり方をやっ
てる先生がおられて。Co.21:まず,生徒に聞いてほし
い?A.21:はい。A.25:…事前に,ほんとうの,生徒
の(ことを),親とか関係なしにして,「言わないから
教えて」と。Co.26:本音のことを。A.26:はい。本音
を。Co.27:7・8 で「ストレートに」というのは?A.27:
ほんとに私(の実力)で大丈夫なのか,っていう。心
配で。コンクールとか実績そんなにないですし。で,
「大丈夫,行けるよ」というのも言ってほしいんです
けど,ダメなときはほんとうにダメって,はっきり言
ってほしいんです。「もっとがんばれば,~なるよ」っ
ていうあやふやな答えじゃなく,「こうしたら,こうな
る」というのをはっきり示して欲しい。A.31:…先生
に言ってもらえるから,「あ,そうなんだ」ってわかる
時があるし。Co.32:そう。成績などは先生から言われ
ると。A.32:説得力がある。そういうの(成績など)
は,先生の口から言ってほしい。Co.39:全体として,
いまの A さんの,この高校での進路面談は何点くら
い?A.39:M 先生がいいんでね。75 点くらいかな。
Co.40:(マイナスの)25 点は?A.40:ドイツ人でない
(15 点),とか,これは面談じゃないのかもしれない
ですけど,留学とか,などの支援システムがない(10
点)。
A のクラスター解釈
クラスター1:(1,5) A は「安心できるアドバイ
ス」と解釈した。これらは,現在 A の担任でもあるベ
テランの音楽科・M 教諭が実際に「してくださってる」
Table 4 A の各クラスター内の連想項目(項目前の数値は重要順位)
クラスター1
1) 身のまわりの人での,実体験などをあげて しめしてほしい
5)実際の状況を教えてほしい
11)できれば 音楽家の先生がいいです
13)私が大学は外国をうけるので,先生は外国人(ドイツ人)がいいです。
6)面談中だけでもきんちょう感ももちながらも,なごやかな感じ
9)親と話すのではなく,生徒とはなしてくれてる感じがして,よかった
クラスター2 10)最初に親抜きで1対2で面談をして,からの2対2がいい
7)今の私がおかれている立場や,実際どのレベルなのかをはっきりストレートに言ってほしい
8)ストレートに言ってほしい
12)進路に限っては,まじめで正直な先生がいい
2) 2)3)4)は,あまり望ましくない言動をとる級友の存在について,
クラスター3 3) 担任の先生は一応知っておいて,そういう目でクラスを見てほしい
4) という内容(そのままの表現は控えた)
PAC分析研究 第3巻
17
(A.16)ので,A にとっては全く問題はない(A.17)。
クラスター2:(11,13,6,9,10,7,8,12) 「理
想の面談形式」。まず,「親とか関係なしにして」
(A.25),教師は生徒の「本音」(A.26)を聞いてほし
い。そして,希望する進路先に行けるかどうか,「はっ
きり言ってほしい」(A.27)。それは,「ほんとに私で大
丈夫なのか」「心配」(A.27)だからであり,また,「先
生に言ってもらえるからわかる」(A.31)ことがあるか
ら,でもある。さらに,「(音楽大学への)留学などの
支援システム」(A.40)があればありがたい。
クラスター3:(2,3,4) 「お知らせ」。クラスの
友人関係について,先生に知っておいてもらいたいこ
と(A5)としてまとまっている。
全体として: 各項目の単独のイメージを見ると,
プラスが 5 項目,どちらともいえない0が 5 項目,マ
イナスが 3 項目。マイナスの項目群については,いず
れもあまり好ましくない言動をとる級友についてのも
ので,A は教師との面談自体については悪くないイメ
ージを持っているといえる。そのことは,A.14 や A.17
の応答にあるように,「ほぼ理想に近く」「問題ない」
と表明されていることからもうかがえる。
B の事例
セッション①:2011 年 6 月 29 日(25 分),②:2011
年 7 月 1 日(30 分)。デンドログラムを Figure 2,重要
度順の各項目を Table 5 に示す。B は Figure 2 のデンド
ログラムを,6 つのクラスターに区分した。筆者は,
客観的には,1)~5)までの部分と 6)~13)までの部分,
9)~10)までの部分の,3 つのクラスターに分けられる
と考えていたが,B の解釈を尊重した。
B の逐語記録(抜粋) (斜体字:B の発言,Co.:
筆者の発言,番号は逐語記録の順。)
B.7:(いままで,面談は)なんか,聞き流しておし
まい,みたいな。Co.9:じゃあ,先生の言葉がそんな
に響いてこない。B.9:はい(きっぱりと)。B.10:な
んかこう,ズバッとくる一言みたいなのがない。
Co.12:…例えば?B.12:「正直言って,今のままじゃ
絶対落ちますよ」,みたいな。B.14:(それがないから)
適当に流しちゃってる。Co.16:マイナスのことでも,
ビシッと言ってくれたらいいのに,と。はっきり言っ
て欲しいんだね。B.16:はい。Co.17:そう言われて,
つらくなったりしないの。B.17:しません。逆に,「見
返してやろうか」って。B.20:(親について)…先生だ
と,自分の学力とか,何もかも知り尽くしてるからい
いだろうけど,あまり知りもしない親からそういうこ
とをいちいち言われるのは,何か腹が立つ。Co.21:「親
が横で聞いていると」,というのは?B.21:ろくに知り
もせずに口を出してこられるのが嫌。B.22:(今の面談
は)マンネリ化というか…。おんなじ話を聞いて終わ
っちゃってる。Co.23:というと。B.23:成績で,たい
して良くなかった時に,この(4,5 を指す)ような。
Co.24:ああ,「頑張ったら大丈夫」では響くところが
ない。B.24:はい。Co.25:で,聞きたいのはこの 8?
1 (0) |___.
2 (0) |___|__. クラスター1「理想と現実の対比」(理想)
3 (0) |______|____________.
4 (-) |___. | クラスター2「『頑張ったら…』は響かない
5 (-) |___|_______________|_____________________________.
6 (-) |___. |
11 (-) |___|____________________. クラスター3「親はいら |ない」
8 (-) |________________________|___________. クラスター |4「大丈夫?」
7 (0) |________. クラスター5「具体的に」 | |
13 (-) |________|___________________________|_________. |
9 (+) |____________. | |
12 (0) |____________|____.
クラスター1(現実)
| |
10 (-) |_________________|____________________________|__|
クラスター6「こんな先生がいい」
*左の数値は重要順位。 **数値の後の( )の符号は各項目のイメージ。
Figure 2 B のデンドログラム
PAC分析研究 第3巻
18
B.25:はい。この,8 番がいちばん知りたい。Co.26:
大丈夫,というのは,B 君の思っている進路について?
B.26:はい。いつもは,ごまかされているような感じ。
B.32:(先生の言うべきことはきちっと言い,自分の意
見は聞いてくれるなら)話そうという気になります。,
Co.33:いまの面談は B 君にとって 10 点満点で何点く
らい?B.34:3 点です。Co.35:ああ,3 点はあるんだ。
B.35:成績とかを教えてくれるし。Co.36:残りのマイ
ナス 7 点は?B.36:ごまかされているみたいな…。そ
れと,自分の意見を言えていない。Co.42:では,ビシ
ッと言ってくれて,君の意見をしっかり聞いてくれた
ら。B.42:あ,それなら満点です。Co.46:(保護者は)
面談のときも,できたらそばにいてほしくない?
B.46:はい。三者じゃなくて二者がいい。
B によるクラスター解釈
クラスター1:(1,2,3,13) 「理想と現実の対
比」と B は解釈した。B の考える理想の面談は,「本
音で話し合え」(2),こころに「ズバッとくる一言」
(B.10)を「はっきり言って」(3)もらえ,それによ
って「奮起できる」(3)ものなのだが,現実にはそう
ではないので「面談の有効性をあまり感じ」ず(13),
「適当に聞き流しちゃってる」(B.14)。
クラスター2:(4,5) 「『頑張ったら…』は響か
ない」の 2 項目。B.23 のように,良くなかった成績を
取った時,「頑張ったら大丈夫」という「マンネリ化」
(B.22)した教師の言葉は,「もうやめてほしい」(4)。
クラスター3:(6,11) 「親はいらない」。いわゆ
る「三者懇談(生徒・保護者・担任)」の形式では「話
しにくい」(6)し,「ろくに(学力などについて)知り
もせずに」(B.20)「口を出してこられるのが嫌」
(B.21)という。
クラスター4:(8) 「大丈夫?」。「今の成績で本
当に大丈夫なのか」(8))が,「いちばん知りたい」
(B.25)。しかし,「いつもは,ごまかされているよう
な感じ」(B.26)である。
クラスター5:(7) 「具体的に」。これが項目 13
(クラスター1)と結節しているのは,いずれも B が
望んでいることなのだが,現実の面談場面では物足り
ないと感じていることによるのかもしれない。
クラスター6:(9,12,10) 「こんな先生がいい」。
「ベテランで,口調がやわらかい人」(9)と「(親はな
しで)1 対 1」(12)で話せれば,「話そうという気にな
る」(B.32)。しかし,現実としては「自分の意見を言
えていない」(B.36)。
全体として: 各項目の単独でのイメージを見る
と,プラスは 1 項目のみで,マイナスが 7 項目,どち
らともいえない0が 5 項目。以上から,B は進路面談
をネガティブなイメージでとらえていることがわか
る。理想では「はっきり言って」もらえ,「奮起」した
いのだが,現実ではそうでなく,「ごまかされている感
Table 5 B の各クラスター内の連想項目(項目前の数値は重要順位)
1) 今の学力のレベルなら落ちる,受かるとはっきり言ってもらえる面談
クラスター1 2) ちゃんと本音で話し合える面談が理想的
3) だめだ,無理だというのをはっきり言ってもらった方が逆に奮起できる
クラスター2
4)「頑張ったら大丈夫」とか言うのをやめてほしい
5)「頑張ったら大丈夫」とかでは,ああ大丈夫かと思って逆にやる気が失せる
クラスター3
6) 親が横で聞いているので話しにくい
11) 親が聞いていると,だめだと言われると家で余計うるさく言ってくる
クラスター4 8) 今の成績で本当に大丈夫なのか
クラスター5 7)具体的な勉強法とかを教えてほしい
クラスター1 13)正直言って,面談の後々の有効性をあまり感じない
9)ベテランで,口調がやわらかい人
クラスター6 12)親はなしで,ある程度受験に精通している先生と1対1がいい
10)口調がきついひとだと一方的に言うだけでこちらの意見を言えなさそう
PAC分析研究 第3巻
19
じ」がし,「親がそばで聞いている」ことも含めて不満
を覚えている。10 点満点では 3 点の評価(B.34)であ
る。
4 考 察
研究 2 の目的は,学校適応感(「教師関係」「進路意
識」の両得点)が高い A と低い B について,進路面談
に臨む態度を PAC 分析を用いて比較し,(ア)「理解し
てほしいこと」「話しづらいこと」の両価的な心情にど
のような差異や共通点が見られるか,(イ)「理想的な
面談」のイメージの異同はどうか,の 2 点を検証する
ことであった。また,それらを踏まえ,教師がどのよ
うなことに留意すれば,進路面談がより意義のあるも
のになりえるのか,について考察することであった。
まず,(ア)について考察する。A が実際の面談を「理
想的」と表しており,両価的な心情は特に示されなか
ったのに対し,B はインタビューを通して両価的な心
情が確認された。具体的には,B の進路面談の主観的
評価は10点中3点であり,「ごまかされているみたい」
(B.36)と感じているが,だからといって面談に期待
していないか,といえば,「ビシッと言ってくれ,自分
の意見を聞いてくれたら満点」(B.42)とあるように,
教師に期待するところも同時に大きいことが示唆され
た。
続いて,(イ)について考察する。A と B の PAC 分
析結果からは,Table 6 にあるように,全体的な進路面
談に対するイメージには対照的な差異が認められた。
これらには,A,B それぞれの,教師との関係が反映
されていると考えられる。だが,そうした対照的な教
師関係を有する両者には,進路について感じているこ
と,理想とする進路面談イメージ,教師に対して願っ
ていること,の 3 点については共通点が見られた。
①自分の進路に関して,「不安」を感じている。A
は「ほんとうに私で大丈夫なのか」「すごい心配なんで
すよ」(A.27)と語っている。また,B の連想項目 8 で
は,「今の成績で本当に大丈夫なのか」とある。
②三者面談(生徒・保護者・担任)ではなく,二者
面談(生徒・担任)を望んでいる。A の連想項目 10
では「最初に親抜きで 1 対 2 で面談をして,からの 2
対 2 がいい」とあるが,これは「親とか関係なし」の
「ほんとうの,生徒の」(A.25)「本音を」(A.26)聞い
てほしいということである。B の連想項目 6,11 では
「親が横で聞いているので話しにく」く,「うるさい」
と感じていることが示された。それは「(学力などを)
ろくに知りもせずに口を出してこられるのが嫌」
(B.20,B.21)だから,という。
③進路面談では,自分の置かれている状況を,教師
の視点から率直に伝えてほしいと願っている。A の連
想項目 7・8 には「ストレートに言ってほしい」と記さ
れ,これは逐語記録では,先生の生徒に対する「本音
を」(A.26),「『もっとがんばれば,~なるよ』ってい
うあやふやな答えじゃなく」「ダメなときは本当にダ
メって」「はっきり言ってほしい」(A.27)ということ
であると話している。B も,連想項目 1,2,3 で「今
の学力レベルなら落ちる,受かるとはっきり言っても
らえ」,「ちゃんと本音で話し合える」面談が理想的で
あり,その方が「逆に奮起できる」とし,続けて項目
4,5 では「『頑張ったら大丈夫』とか言うのをやめて
ほしい」,そう言われると「ああ大丈夫かと思って逆に
やる気が失せる」と記している。逐語記録では「ズバ
ッとくる一言があればいい」(B.10)という思いが確認
されている。
次に,研究 1 で得られた,A,B のプロフィール(Table
3)と照らし合わせ,研究 2 の結果を考察する。
実技科目以外の学業成績では,A は下位,B は上位
Table 6 A,B の PAC 分析に見られる差異
A(女子) B(男子)
各連想項目の+の数 5 1
各連想項目の-の数 3(面談自体については 0) 7
実際の面接の主観的評価 75 点(100 点中) 3 点(10 点中)
(担任の評価) ほぼ理想(A.17) 言葉が響いてこない(B.9)
逐語記録 (担任との関係) 全く問題なし(A.17) ごまかされているみたい(B.36)
(自分について) 言いにくいことは特になし(A.9) 自分の意見を言えていない(B.36)
PAC分析研究 第3巻
20
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)
『PAC分析研究』第3巻(2019年)

More Related Content

What's hot

Ryan McGrady Transcripts SNHU 6MR7024651
Ryan McGrady Transcripts SNHU 6MR7024651Ryan McGrady Transcripts SNHU 6MR7024651
Ryan McGrady Transcripts SNHU 6MR7024651Ryan McGrady
 
Punjab Public Service Commission (PPSC)
Punjab Public Service Commission (PPSC)Punjab Public Service Commission (PPSC)
Punjab Public Service Commission (PPSC)
educationfront
 
Transcripts
TranscriptsTranscripts
Transcripts
debrajean333
 
SFSU Unofficial Transcript
SFSU Unofficial TranscriptSFSU Unofficial Transcript
SFSU Unofficial TranscriptYang Lin
 
UW - transcript
UW - transcriptUW - transcript
UW - transcriptJason Hall
 
Transcript Master\'s Degree
Transcript Master\'s DegreeTranscript Master\'s Degree
Transcript Master\'s Degree
S L
 
Współpraca pomiędzy organami władzy państwowej przy tuszowaniu oszustwa nauko...
Współpraca pomiędzy organami władzy państwowej przy tuszowaniu oszustwa nauko...Współpraca pomiędzy organami władzy państwowej przy tuszowaniu oszustwa nauko...
Współpraca pomiędzy organami władzy państwowej przy tuszowaniu oszustwa nauko...
habilitacjawpolsce
 

What's hot (9)

Ryan McGrady Transcripts SNHU 6MR7024651
Ryan McGrady Transcripts SNHU 6MR7024651Ryan McGrady Transcripts SNHU 6MR7024651
Ryan McGrady Transcripts SNHU 6MR7024651
 
Punjab Public Service Commission (PPSC)
Punjab Public Service Commission (PPSC)Punjab Public Service Commission (PPSC)
Punjab Public Service Commission (PPSC)
 
Transcripts
TranscriptsTranscripts
Transcripts
 
UWUnofficialTranscript
UWUnofficialTranscriptUWUnofficialTranscript
UWUnofficialTranscript
 
SFSU Unofficial Transcript
SFSU Unofficial TranscriptSFSU Unofficial Transcript
SFSU Unofficial Transcript
 
UW - transcript
UW - transcriptUW - transcript
UW - transcript
 
Transcripts
TranscriptsTranscripts
Transcripts
 
Transcript Master\'s Degree
Transcript Master\'s DegreeTranscript Master\'s Degree
Transcript Master\'s Degree
 
Współpraca pomiędzy organami władzy państwowej przy tuszowaniu oszustwa nauko...
Współpraca pomiędzy organami władzy państwowej przy tuszowaniu oszustwa nauko...Współpraca pomiędzy organami władzy państwowej przy tuszowaniu oszustwa nauko...
Współpraca pomiędzy organami władzy państwowej przy tuszowaniu oszustwa nauko...
 

More from Takehiko Ito

R232 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2019). Setting Achievable Goals to M...
R232  Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2019). Setting Achievable Goals to M...R232  Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2019). Setting Achievable Goals to M...
R232 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2019). Setting Achievable Goals to M...
Takehiko Ito
 
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
Takehiko Ito
 
G313 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代 (2019, 6月). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリー:テキストマイニングによる手記『自殺...
G313 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代 (2019, 6月). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリー:テキストマイニングによる手記『自殺...G313 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代 (2019, 6月). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリー:テキストマイニングによる手記『自殺...
G313 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代 (2019, 6月). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリー:テキストマイニングによる手記『自殺...
Takehiko Ito
 
R221 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2018). How do speech model proficienc...
R221 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2018). How do speech model proficienc...R221 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2018). How do speech model proficienc...
R221 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2018). How do speech model proficienc...
Takehiko Ito
 
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
Takehiko Ito
 
R227 佐口清美・いとう たけひこ (2018) 訪問看護における高齢者の強みの活かした実践に関する研究  マクロ・カウンセリング研究, 11, 2-11.
R227 佐口清美・いとう たけひこ (2018) 訪問看護における高齢者の強みの活かした実践に関する研究  マクロ・カウンセリング研究, 11, 2-11.R227 佐口清美・いとう たけひこ (2018) 訪問看護における高齢者の強みの活かした実践に関する研究  マクロ・カウンセリング研究, 11, 2-11.
R227 佐口清美・いとう たけひこ (2018) 訪問看護における高齢者の強みの活かした実践に関する研究  マクロ・カウンセリング研究, 11, 2-11.
Takehiko Ito
 
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
Takehiko Ito
 
G308 Ito, T., & Uda, H. (2019, March). The spirituality of family members of ...
G308 Ito, T., & Uda, H. (2019, March). The spirituality of family members of ...G308 Ito, T., & Uda, H. (2019, March). The spirituality of family members of ...
G308 Ito, T., & Uda, H. (2019, March). The spirituality of family members of ...
Takehiko Ito
 
R229 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019, 3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りの...
R229 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019, 3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りの...R229 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019, 3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りの...
R229 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019, 3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りの...
Takehiko Ito
 
R228 Takehiko ITO, Hitomi UDA (2019). The spirituality of family members of t...
R228 Takehiko ITO, Hitomi UDA (2019). The spirituality of family members of t...R228 Takehiko ITO, Hitomi UDA (2019). The spirituality of family members of t...
R228 Takehiko ITO, Hitomi UDA (2019). The spirituality of family members of t...
Takehiko Ito
 
G305 井上孝代・いとうたけひこ (2018, 11月) トラウマケアとPTSD予防のためのグループ表現セラピーとコミュニティ構築:スリランカ研修会の...
 G305 井上孝代・いとうたけひこ (2018, 11月) トラウマケアとPTSD予防のためのグループ表現セラピーとコミュニティ構築:スリランカ研修会の... G305 井上孝代・いとうたけひこ (2018, 11月) トラウマケアとPTSD予防のためのグループ表現セラピーとコミュニティ構築:スリランカ研修会の...
G305 井上孝代・いとうたけひこ (2018, 11月) トラウマケアとPTSD予防のためのグループ表現セラピーとコミュニティ構築:スリランカ研修会の...
Takehiko Ito
 
G306 松岡康彦・いとうたけひこ (2018, 11月)  海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント:ベトナムの職場文化・風土における実態と改善 第25回...
G306 松岡康彦・いとうたけひこ (2018, 11月)  海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント:ベトナムの職場文化・風土における実態と改善 第25回...G306 松岡康彦・いとうたけひこ (2018, 11月)  海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント:ベトナムの職場文化・風土における実態と改善 第25回...
G306 松岡康彦・いとうたけひこ (2018, 11月)  海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント:ベトナムの職場文化・風土における実態と改善 第25回...
Takehiko Ito
 
G309 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテ...
G309 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテ...G309 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテ...
G309 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテ...
Takehiko Ito
 
G303小平・いとう(2018, 10月8日) 当事者研究を研究する 第15回当事者研究全国交流大会発表(ポスター) 要旨 名古屋 10月8日
G303小平・いとう(2018, 10月8日) 当事者研究を研究する 第15回当事者研究全国交流大会発表(ポスター) 要旨  名古屋 10月8日G303小平・いとう(2018, 10月8日) 当事者研究を研究する 第15回当事者研究全国交流大会発表(ポスター) 要旨  名古屋 10月8日
G303小平・いとう(2018, 10月8日) 当事者研究を研究する 第15回当事者研究全国交流大会発表(ポスター) 要旨 名古屋 10月8日
Takehiko Ito
 
G302 佐口清美・いとうたけひこ・丹後キヌ子 (2018, 9月). 認知症当事者の語りにおける強みの分析:「健康と病いの語りデータアーカイブ」を対象...
G302 佐口清美・いとうたけひこ・丹後キヌ子	 (2018, 9月). 認知症当事者の語りにおける強みの分析:「健康と病いの語りデータアーカイブ」を対象...G302 佐口清美・いとうたけひこ・丹後キヌ子	 (2018, 9月). 認知症当事者の語りにおける強みの分析:「健康と病いの語りデータアーカイブ」を対象...
G302 佐口清美・いとうたけひこ・丹後キヌ子 (2018, 9月). 認知症当事者の語りにおける強みの分析:「健康と病いの語りデータアーカイブ」を対象...
Takehiko Ito
 
G301 いとう たけひこ(2018, 9月). 混合研究法または質的研究法としてのPAC分析.第4回日本混合研究法学会年次大会(2018年度)9月29日...
G301 いとう たけひこ(2018, 9月). 混合研究法または質的研究法としてのPAC分析.第4回日本混合研究法学会年次大会(2018年度)9月29日...G301 いとう たけひこ(2018, 9月). 混合研究法または質的研究法としてのPAC分析.第4回日本混合研究法学会年次大会(2018年度)9月29日...
G301 いとう たけひこ(2018, 9月). 混合研究法または質的研究法としてのPAC分析.第4回日本混合研究法学会年次大会(2018年度)9月29日...
Takehiko Ito
 
G298 いとうたけひこ (2018, 9月). ビジュアル・ナラティヴ教材を用いた心理学教育:「ディペックス・ジャパン:健康と病いの語りデータベース」を...
G298 いとうたけひこ (2018, 9月). ビジュアル・ナラティヴ教材を用いた心理学教育:「ディペックス・ジャパン:健康と病いの語りデータベース」を...G298 いとうたけひこ (2018, 9月). ビジュアル・ナラティヴ教材を用いた心理学教育:「ディペックス・ジャパン:健康と病いの語りデータベース」を...
G298 いとうたけひこ (2018, 9月). ビジュアル・ナラティヴ教材を用いた心理学教育:「ディペックス・ジャパン:健康と病いの語りデータベース」を...
Takehiko Ito
 
G297小平朋江。いとうたけひこ(2018, 9月). 浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ: 当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化された...
G297小平朋江。いとうたけひこ(2018, 9月). 浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ: 当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化された...G297小平朋江。いとうたけひこ(2018, 9月). 浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ: 当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化された...
G297小平朋江。いとうたけひこ(2018, 9月). 浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ: 当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化された...
Takehiko Ito
 
G296加藤恵美・井上孝代・いとうたけひこ(2018, 9月)離婚後の子どもの“荒れ”への保育:<あいまいな喪失>の一事例 日本カウンセリング学会第51回...
G296加藤恵美・井上孝代・いとうたけひこ(2018, 9月)離婚後の子どもの“荒れ”への保育:<あいまいな喪失>の一事例 日本カウンセリング学会第51回...G296加藤恵美・井上孝代・いとうたけひこ(2018, 9月)離婚後の子どもの“荒れ”への保育:<あいまいな喪失>の一事例 日本カウンセリング学会第51回...
G296加藤恵美・井上孝代・いとうたけひこ(2018, 9月)離婚後の子どもの“荒れ”への保育:<あいまいな喪失>の一事例 日本カウンセリング学会第51回...
Takehiko Ito
 
G294いとうたけひこ・森田夏美・射場典子 (2018, 8月). 一般心理学講義におけるDIPExの活用:大学教育における患者インタビュー動画教材の有用...
G294いとうたけひこ・森田夏美・射場典子 (2018, 8月). 一般心理学講義におけるDIPExの活用:大学教育における患者インタビュー動画教材の有用...G294いとうたけひこ・森田夏美・射場典子 (2018, 8月). 一般心理学講義におけるDIPExの活用:大学教育における患者インタビュー動画教材の有用...
G294いとうたけひこ・森田夏美・射場典子 (2018, 8月). 一般心理学講義におけるDIPExの活用:大学教育における患者インタビュー動画教材の有用...
Takehiko Ito
 

More from Takehiko Ito (20)

R232 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2019). Setting Achievable Goals to M...
R232  Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2019). Setting Achievable Goals to M...R232  Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2019). Setting Achievable Goals to M...
R232 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2019). Setting Achievable Goals to M...
 
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
R232★ 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代(2018). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリーの過程:手記『自殺って言えなかった』のテキス...
 
G313 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代 (2019, 6月). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリー:テキストマイニングによる手記『自殺...
G313 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代 (2019, 6月). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリー:テキストマイニングによる手記『自殺...G313 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代 (2019, 6月). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリー:テキストマイニングによる手記『自殺...
G313 加藤恵美・いとうたけひこ・井上孝代 (2019, 6月). 自死遺児の語りにおける自己開示・発見・リカバリー:テキストマイニングによる手記『自殺...
 
R221 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2018). How do speech model proficienc...
R221 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2018). How do speech model proficienc...R221 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2018). How do speech model proficienc...
R221 Okada, Y., Sawaumi, T., & Ito, T. (2018). How do speech model proficienc...
 
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
 
R227 佐口清美・いとう たけひこ (2018) 訪問看護における高齢者の強みの活かした実践に関する研究  マクロ・カウンセリング研究, 11, 2-11.
R227 佐口清美・いとう たけひこ (2018) 訪問看護における高齢者の強みの活かした実践に関する研究  マクロ・カウンセリング研究, 11, 2-11.R227 佐口清美・いとう たけひこ (2018) 訪問看護における高齢者の強みの活かした実践に関する研究  マクロ・カウンセリング研究, 11, 2-11.
R227 佐口清美・いとう たけひこ (2018) 訪問看護における高齢者の強みの活かした実践に関する研究  マクロ・カウンセリング研究, 11, 2-11.
 
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
G310 堀 恭子・いとうたけひこ・安藤孝敏 (2019, 3月). 学校飼育動物作文のテキストマイニング:原文参照による性差の検討 日本発達心理学会第3...
 
G308 Ito, T., & Uda, H. (2019, March). The spirituality of family members of ...
G308 Ito, T., & Uda, H. (2019, March). The spirituality of family members of ...G308 Ito, T., & Uda, H. (2019, March). The spirituality of family members of ...
G308 Ito, T., & Uda, H. (2019, March). The spirituality of family members of ...
 
R229 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019, 3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りの...
R229 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019, 3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りの...R229 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019, 3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りの...
R229 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019, 3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りの...
 
R228 Takehiko ITO, Hitomi UDA (2019). The spirituality of family members of t...
R228 Takehiko ITO, Hitomi UDA (2019). The spirituality of family members of t...R228 Takehiko ITO, Hitomi UDA (2019). The spirituality of family members of t...
R228 Takehiko ITO, Hitomi UDA (2019). The spirituality of family members of t...
 
G305 井上孝代・いとうたけひこ (2018, 11月) トラウマケアとPTSD予防のためのグループ表現セラピーとコミュニティ構築:スリランカ研修会の...
 G305 井上孝代・いとうたけひこ (2018, 11月) トラウマケアとPTSD予防のためのグループ表現セラピーとコミュニティ構築:スリランカ研修会の... G305 井上孝代・いとうたけひこ (2018, 11月) トラウマケアとPTSD予防のためのグループ表現セラピーとコミュニティ構築:スリランカ研修会の...
G305 井上孝代・いとうたけひこ (2018, 11月) トラウマケアとPTSD予防のためのグループ表現セラピーとコミュニティ構築:スリランカ研修会の...
 
G306 松岡康彦・いとうたけひこ (2018, 11月)  海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント:ベトナムの職場文化・風土における実態と改善 第25回...
G306 松岡康彦・いとうたけひこ (2018, 11月)  海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント:ベトナムの職場文化・風土における実態と改善 第25回...G306 松岡康彦・いとうたけひこ (2018, 11月)  海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント:ベトナムの職場文化・風土における実態と改善 第25回...
G306 松岡康彦・いとうたけひこ (2018, 11月)  海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント:ベトナムの職場文化・風土における実態と改善 第25回...
 
G309 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテ...
G309 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテ...G309 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテ...
G309 いとうたけひこ、・宇多仁美 (2019,3月). 東日本大震災の遺族のスピリチュアリティ: 『私の夢まで、会いに来てくれた』における夢の語りのテ...
 
G303小平・いとう(2018, 10月8日) 当事者研究を研究する 第15回当事者研究全国交流大会発表(ポスター) 要旨 名古屋 10月8日
G303小平・いとう(2018, 10月8日) 当事者研究を研究する 第15回当事者研究全国交流大会発表(ポスター) 要旨  名古屋 10月8日G303小平・いとう(2018, 10月8日) 当事者研究を研究する 第15回当事者研究全国交流大会発表(ポスター) 要旨  名古屋 10月8日
G303小平・いとう(2018, 10月8日) 当事者研究を研究する 第15回当事者研究全国交流大会発表(ポスター) 要旨 名古屋 10月8日
 
G302 佐口清美・いとうたけひこ・丹後キヌ子 (2018, 9月). 認知症当事者の語りにおける強みの分析:「健康と病いの語りデータアーカイブ」を対象...
G302 佐口清美・いとうたけひこ・丹後キヌ子	 (2018, 9月). 認知症当事者の語りにおける強みの分析:「健康と病いの語りデータアーカイブ」を対象...G302 佐口清美・いとうたけひこ・丹後キヌ子	 (2018, 9月). 認知症当事者の語りにおける強みの分析:「健康と病いの語りデータアーカイブ」を対象...
G302 佐口清美・いとうたけひこ・丹後キヌ子 (2018, 9月). 認知症当事者の語りにおける強みの分析:「健康と病いの語りデータアーカイブ」を対象...
 
G301 いとう たけひこ(2018, 9月). 混合研究法または質的研究法としてのPAC分析.第4回日本混合研究法学会年次大会(2018年度)9月29日...
G301 いとう たけひこ(2018, 9月). 混合研究法または質的研究法としてのPAC分析.第4回日本混合研究法学会年次大会(2018年度)9月29日...G301 いとう たけひこ(2018, 9月). 混合研究法または質的研究法としてのPAC分析.第4回日本混合研究法学会年次大会(2018年度)9月29日...
G301 いとう たけひこ(2018, 9月). 混合研究法または質的研究法としてのPAC分析.第4回日本混合研究法学会年次大会(2018年度)9月29日...
 
G298 いとうたけひこ (2018, 9月). ビジュアル・ナラティヴ教材を用いた心理学教育:「ディペックス・ジャパン:健康と病いの語りデータベース」を...
G298 いとうたけひこ (2018, 9月). ビジュアル・ナラティヴ教材を用いた心理学教育:「ディペックス・ジャパン:健康と病いの語りデータベース」を...G298 いとうたけひこ (2018, 9月). ビジュアル・ナラティヴ教材を用いた心理学教育:「ディペックス・ジャパン:健康と病いの語りデータベース」を...
G298 いとうたけひこ (2018, 9月). ビジュアル・ナラティヴ教材を用いた心理学教育:「ディペックス・ジャパン:健康と病いの語りデータベース」を...
 
G297小平朋江。いとうたけひこ(2018, 9月). 浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ: 当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化された...
G297小平朋江。いとうたけひこ(2018, 9月). 浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ: 当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化された...G297小平朋江。いとうたけひこ(2018, 9月). 浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ: 当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化された...
G297小平朋江。いとうたけひこ(2018, 9月). 浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ: 当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化された...
 
G296加藤恵美・井上孝代・いとうたけひこ(2018, 9月)離婚後の子どもの“荒れ”への保育:<あいまいな喪失>の一事例 日本カウンセリング学会第51回...
G296加藤恵美・井上孝代・いとうたけひこ(2018, 9月)離婚後の子どもの“荒れ”への保育:<あいまいな喪失>の一事例 日本カウンセリング学会第51回...G296加藤恵美・井上孝代・いとうたけひこ(2018, 9月)離婚後の子どもの“荒れ”への保育:<あいまいな喪失>の一事例 日本カウンセリング学会第51回...
G296加藤恵美・井上孝代・いとうたけひこ(2018, 9月)離婚後の子どもの“荒れ”への保育:<あいまいな喪失>の一事例 日本カウンセリング学会第51回...
 
G294いとうたけひこ・森田夏美・射場典子 (2018, 8月). 一般心理学講義におけるDIPExの活用:大学教育における患者インタビュー動画教材の有用...
G294いとうたけひこ・森田夏美・射場典子 (2018, 8月). 一般心理学講義におけるDIPExの活用:大学教育における患者インタビュー動画教材の有用...G294いとうたけひこ・森田夏美・射場典子 (2018, 8月). 一般心理学講義におけるDIPExの活用:大学教育における患者インタビュー動画教材の有用...
G294いとうたけひこ・森田夏美・射場典子 (2018, 8月). 一般心理学講義におけるDIPExの活用:大学教育における患者インタビュー動画教材の有用...
 

『PAC分析研究』第3巻(2019年)

  • 1. PAC 分析研究 2019 第 3 巻 Journal of PAC Analysis Vol.3 ISSN 2432-9355
  • 2. PAC 分析研究 第 3 巻 目次 第3巻の発刊にあたって...................................................................................................................... 内藤 哲雄 1 【原著】 留学生・日本人学生混合クラスで教師に求められるものとは ―PAC 分析による大学初年次文章表現授業の教師の振り返り― ................................................................................................. 坂井 菜緒, 中川 純子, 長松谷 有紀, 服部 真子 2 進路面談に求められる高校教師の柔らかな鏡役割 -学校適応感に差がある二人の高生比較- .......................................................................................................................................... 森本 篤, 青木 多寿子 13 店内保安員における高齢者の万引きへの対応に関する PAC 分析 ..........................................................................................................................................................大久保 智生 24 【2018 年度第 12 回大会発表抄録】 教員の教職に対する態度構造の検討 ―教職につまずきを抱える若手教員を対象として― .......................................................................................................................................... 山 瑞己, 青木 多寿子 35 進路指導における高校教師の指導方針について -中日比較を通して- ............................................................................................................................................. 許 暁,青木 多寿子 39 図書を用いた PAC 分析の試み ‐図書に対する子どもの興味を題材として‐ ..............................................................................................................................................三島 悠希, 松村 敦 42 高齢者の万引きへの対応に関する PAC 分析 ..........................................................................................................................................................大久保 智生 46 PAC 分析によるインタビュー・データの 質的分析の可能性 -混合クラス担当教師 3 人の比較から- ................................................................................................. 坂井 菜緒, 中川 純子, 長松谷 有紀, 服部 真子 50 PAC 分析の応用 集合知からイノベーションのための新しいアイデアを得る ............................................................................................................................................................. 藤枝 祐子 54 「普通」をテーマにした発達障害の診断別PAC分析の比較 ............................................................................................................................................................. 今野 博信 58 高齢保育士の活用に関する研究(その1) -高齢保育士の PAC 分析から- ........................................................................................................................午来 和子, 江幡 芳枝, 内藤 哲雄 62 高齢保育士の活用に関する研究(その2) -中堅保育士の PAC 分析から- ......................................................................................................................... 午来 和子, 江幡 芳枝, 内藤哲雄 66 人との対人コミュニケーションでの違和感 ―地位と性の異同の影響についてスリランカ人が感じるイメージ― ............................................................................................................................................................. 内藤 哲雄 66
  • 3. 第 3 巻の発刊にあたって 「PAC 分析研究」の第 3 巻が発刊される。機関誌編集担当の土田義郎先生、論文を審査いただ いた先生方、お世話様、お疲れ様でした。採択されたみなさんおめでとうございます。 本年 2019 年の夏シーズンは、3 つの学会で PAC 分析の研修やワークショップを実施した。最初 は、日本応用心理学会での研修「PAC 分析の理論と実施技法」(日本大学商学部)で、8 月 25 日 午前 11 時から 1 時間であった。2 度目は日本混合研究法学会でのワークショップ「PAC 分析:質 的・量的方法を組み合わせた日本発の研究法」(静岡文化芸術大学)で、午前 9 時から 12 時まで の 3 時間、3 度目は日本質的心理学会でのワークショップ(明治学院大学)「PAC 分析の理論と実 践:技法の有効性を引き出すためのポイント」で、2 時間であった。司会はいずれも、PAC 分析学会 事務局長いとうたけひこ先生で、実施時間は異なるが、「研究テーマ発見の方法」「連想刺激の作 成」「刺激文や被検者の連想項目とクラスターの読み上げ方」「イメージ聴取の方法」「総合的解釈 の方法」についての説明と実演であった。被検者が潜在的に持つ認知構造、スキーマを引き出す ための方法、被検者の長期記憶にアクセスするための技法を伝えようとした。連想反応は当事者で ある被検者が自身の認知的枠組みに沿って想起したものである。クラスターを第 2 次の連想刺激と して被検者の内面深くを、検査者とともに探索する。個人独自の経験やイメージに沿って喚起され る連想項目とクラスターから生じたイメージについての被検者による報告、レビンの心理的場の構 造や場の移行を図示したものを用いて、被検者と検査者の間で生じる相互作用のプロセスで、実 際に生起していることを解説した。 それでは研修やワークショップの内容をこのようにしたのはなぜか。親しい知人や友人から、PAC 分析の高度な実施技術を修得した専門家の育成を急ぐ必要があるとのアドバイスによる。直截な 表現を避け、婉曲ではあるが、内藤が直接伝授できる年月は限られていることの指摘である。今年 の 1 月に軽い尻餅をついただけで、脊髄を圧迫骨折し、2 カ月近く入院し、8 カ月を過ぎた今でも コルセットを使用し、ビタミン D を摂取している。骨密度に問題がある。胃には腫瘍もなく、ピロリ菌 もいないが、粘膜は 80 歳相当である。55 歳近くまで、睡眠時間を削り、毎日 4 箱も喫煙し、日に 6 杯を超えるコーヒーを飲んでいた付けが 71 歳の身体をむしばんでいる。左足の半月板は断裂萎 縮しており、右の踵は大きな骨折でひび割れ、軟骨が潰れている。PAC 分析の理論や技法は未だ 発展を続けており、伝えるべきことは多い。昨年の 3 月に福島県伊達市の霊山に移り、8 人程度が 合宿研修できるように改修した。希望者があれば 2 泊 3 日でも、3 泊 4 日でも応じるようにしたい。 また、10 人、16 人を超えるような参加希望者がいれば、内藤の方から泊まり込みででかけることもし たい。会員の皆様から、専門家を唸らせる独創的な研究が陸続し、「PAC 分析研究」に次々と投稿 されることを期待しております。 2019 年 9 月吉日 「PAC 分析研究」編集委員長 内藤 哲雄 PAC分析研究 第3巻 1
  • 4. 留学生・日本人学生混合クラスで 教師に求められるものとは ―PAC 分析による大学初年次文章表現授業の教師の振り返り― 坂井 菜緒, 中川 純子, 長松谷有紀, 服部 真子 1.はじめに 2008 年に文部科学省が発表した「留学生 30 万人 計画」は順調に進められ、法務省の報告では 2017(平 成 29)年末に「留学」の在留資格を持つ外国人は 30 万人を超えている(1) 。文部科学省(2018)「ポスト留 学生 30 万人計画を見据えた留学生政策(現状・課 題)」によると、「我が国に優秀な留学生を確保する ため、これまで以上に戦略的な受入れ政策が必要」 であるとしている。現在、日本の大学教育機関では、 これに伴ってグローバル人材育成を積極的に進めて おり、留学生の受け入れ数が急増している。英語だ けで単位を取得でき、卒業が可能な大学も増えてい る一方で、日本人学生と共に正規科目で学ぶ留学生 も増加しているのが現状である。本研究では、日本 人と留学生が正規科目において混ざっているクラス を「混合クラス」と呼ぶ。初めから文化交流を目的 として意図的に作られた混合クラスを別とすれば、 一般科目が偶然混合クラスになったような場合、授 業を担当する教師の専門は様々で、留学生への対応 に不慣れな場合も多いと思われる。本研究では初年 次教育でライティングの一斉授業を担当する教育歴 の異なる3名の教師にPAC分析インタビューを行い、 個人の意識を調査した後で、それをもとに「混合ク ラスの教師に求められるもの」を明らかにすること を試みた。 2.先行研究と本研究の位置付け 大学のグローバル化に関しては様々な議論がある。 舘岡(2015)は、グローバル化大学とは日本人学生・ 留学生が共に学び合えるような場であり、留学生数 や英語に堪能な人材の数が問題なのではないと述べ ている。また、グローバル化大学の課題は、共生化 の実現であり、日本語が母語ではない留学生と日本 人学生が、共に学び合える場を創出することだと論 じている。この点については、既に池田(2008)で も、留学生受け入れ計画について、日本社会全体の 人的基盤形成の一部分であり、単に物理的空間の拡 大措置や教育システムの改定では不十分であると述 べている。そして、学生集団、教職員、その他大学 に関わる全ての人の「意識」の問題こそが大切であ ると指摘していた。しかし、実際の現場は本当に日 本人学生と留学生が共に学び合う場になっているの だろうか。日本語力が異なる学生が共に学び合う現 場で、我々教師に求められるものとは何であろうか。 最近は日本人学生と留学生が共に学ぶ多文化共修 科目(2) が注目されているが、それらは「グローバル 人材」や「高度外国人材」の育成を目的に基本的に 英語の共修科目として行われているものが多い(3) 。 だが、来日する留学生の中には英語で学ぶよりも将 来日本で働くために必要となる、さらに高度な日本 語力を身に着ける機会を求めている学生も増えてお り(4) 、村田(2018)は、「国内でのトレーニングに主 眼を置いて」、「インバウンドでのトレーニングを真 剣に考えてもらいたい」と述べ、「複言語のプログラ ムのデザインを検討することが必要である」と主張 している。 実際、グローバル化の問題はそのように特別に設 定されたコースの中だけではなく、アカデミック・ ライティングなどのスキルを身に着けるような一般 の授業の中でも起こっている。前述のように近年で は正規留学生として日本語で試験を受けて学部に入 学し、学部の日本人学生と共に一般の授業を受講し ている留学生も、もはや珍しい存在ではなく、むし ろそのような現場での共生、共修のあり方を研究す ることなしに、現在の日本における多文化共生とい う喫緊の課題を乗り越えることは難しくなってきて いるといえる。教師も大学も新たな事態への対応に 迫られているのが現状である。こうした文化交流目 的ではない大学教養課程、専門課程における「混合 クラス」を担当する教師についての研究は、管見の 限りまだほとんど見当たらない。 PAC分析研究 第3巻 2 【原著】 ______________________ 2019年1月5日 原稿受理 2019年6月7日 掲載決定
  • 5. 3.研究概要 3-1 研究目的 本研究は、留学生対象の教育経験の異なる教師の 意識を個別に調査・分析し、比較することによって、 混合クラスの担当教師に何が求められるのかを明ら かにすることを目的とする。そこで、まずは教師個 人の意識や態度を調査するため、PAC 分析(個人別 態度構造分析、Analysis of Personal Attitude Construct)の手法を用いた。個人を研究することは 内藤(2002)、伊藤(1996)によれば、個別的普遍性 だけでなく、共通的普遍性につながるということで ある。PAC 分析は、質的研究でありながら統計的手 法を用いているために分析のプロセスは再現性が高 く、結果は安定的である(5) 。 本研究は PAC 分析後、さらに 2 段階目としてその インタビューを詳細にスクリプト化し、発言された 内容をデータとして質的に分析、比較した。PAC 分 析のインタビューによる発話をスクリプト化し、ナ ラティブデータとして分析する方法はすでに行われ ており(6) 、インタビューの中に具体的な言葉として 見られる価値のある情報を得るために有効であると 考えられる。 3-2 調査対象者 調査対象者は同一内容のクラスを担当した教師 ABC の 3 名で、本稿執筆者の 4 名のうちの 3 名であ る。インタビューはもう 1 名の教師 D が行った。教 師 ABC はそれぞれ約 20 年の教育経験を持っている。 教師 A は大学の教養課程や専門課程で、主に学部の 日本人学生対象の授業を担当してきた。教師 B は、 日本語学校や大学の教養課程および別科で主に留学 生を担当してきた。教師 C は、日本語学校や大学の 教養課程および専門科目で、学部の日本人学生と留 学生の両方の授業を担当し、混合クラスを教えた経 験もある。これら 3 名の教師を選んだのは、各教師 の発言や悩みから教育歴がクラス運営に影響するの ではないかと予測したからである(7) 。 3-3 コース概要 本研究で対象となったクラスは、2016 年度から全 学共通で開講された「日本語リテラシー」というア カデミック・ライティングのクラスである。8 週間 で、2500 字のレポートを書かせ、クラス人数は 40 名 から 80 名程度、留学生比率は 0%~50%以上である。 本研究の対象クラスの留学生比率は、教師 A が 60.3%、 教師 B が 29.2%、教師 C が 15%であった。 授業は全 8 回で、プロセスライティングを行う。 ブレインストーミング、資料収集、見本レポート読 解、アウトライン執筆、第 1 稿、第 2 稿、最終稿と 3 回執筆させる。最終的には、全授業で統一された ルーブリック評価を行う(8) 。 授業の特徴としては、レポートのテーマは学生の 興味・関心を基に自由に設定できる点、授業内活動 としてピア・レスポンスが多く取り入れられている 点が挙げられる。ピア・レスポンスとは、レポート など文章作成時の推敲のために学習者同士がお互い の原稿を読み合い、検討する活動である。(池田・舘 岡 2007) 4.分析 4-1 分析の手順と方法 第 1 段階では PAC 分析の手法を用い、各教師の意 識構造を調査、分析した。方法手順の概略は、以下 の通りである。インタビュイーは、予め用意された 連想刺激文から連想した言葉を書き出す。今回は分 析ソフト PAC-helper(9) を用い、連想語の重要度に よる並べ替えを行い、それぞれの言葉のイメージの 近さを7段階で評定する。調査者は、そのデータを 統計分析ソフト Had(10) にかけてデンドログラム(樹 形図)を作成し、作成されたデンドログラムに基づ いたインタビューを行う。PAC 分析では、このデン ドログラムを見て、インタビュアーがメモを取りな がら(11) インタビューを行った。今回、分析に用いた 連想刺激文は次の通りである。「あなたは、全学共通 科目であるアカデミック・ライティングのクラスで 留学生と日本人を同時に教えてみてどうでしたか」。 刺激文の作成にあたっては、こちらが聞きたいこと を直接聞くのではなく、相手に自由に語って欲しい と考えたこと、混合授業に関して幅広い観点からイ メージを掘り起こして欲しいと考えたことから、連 想を狭める可能性のある具体的な問いを避けるよう にした。インタビューはそれぞれ約 1 時間行った。 第 2 段階では、混合クラスの担当教師に何が求め られるかを明らかにするために、3 名の教師の PAC 分析のインタビューを詳細にスクリプト化し、①こ れまでのクラスとどのような違いを感じたか、②指 PAC分析研究 第3巻 3
  • 6. 導の際に特に意識して行ったことがあるか、③混合 クラス授業の課題は何か、という 3 つの観点から内 容を整理し比較、分析を行った。作業手順は以下の 通りである。1)録音インタビューを詳細に文字起こ しし、自然な意味のまとまりで区切る、2)意味内容 のまとまりから意味の縮約を行う、3)その意味の縮 約したものを短冊状の紙に書き出し、似た意味内容 のもの同士を集める、4)その中心的意味をラベルに 書き出し、上記 3 つの問いに振り分け、比較表を作 成した(12) 。 4-2 PAC 分析の結果(第 1 段階目) 3 名の教師の個人別態度構造の結果は、以下の通 りである。 これまで日本人を主に教えてきた教師 A の結果は 付録図1に示す。教師 A のデンドログラムの項目は 4 つに分けられた(13) 。分けられたグループのまとま りをクラスターと呼ぶ。(以下 CL と略す。)インタビ ュイーは、それぞれ上からイメージするものを語り、 その後、クラスターごとにタイトルをつけた。CL1 は 「教師と留学生と日本人の出会い」、CL2 は「コミュ ニケーションの楽しさと難しさ」、CL3 は「混合クラ スの授業運営の難しさ」、CL4 は「学生の授業の目的 は何か」である。教師 A が連想語の中でもっとも重 要だと思っていたのは「刺激が多い」ということで あった。インタビューの中で教師 A は、「日本人を教 えている時とは違う刺激だった」「日本人学生にとっ ても刺激になれば良い」と語っている。また、留学 生については、「刺激が多かったかはわからない」が 「むしろ自分のことを教師や日本人学生に一生懸命 言いたいという感じ。こんなに大変なんだよとか、 話を聞いてくれる日本人がもしかしたら普段は少な いのかなという感じ」と語っている。 付録図 1 のデンドログラムの+-△は各項目につ いてのイメージである。ポジティブかネガティブか、 どちらでもないかを示す。結果は、連想語が 16 で、 +が 4、-が 6、△が 6 であった。内訳を見ると主に 教室での経験について語った CL1、2 では、混合クラ スが双方の学生にとって異文化理解に有益だという 点で+イメージであることがわかる。他方 CL3 のク ラス運営についての自身の取り組みや成果には懐疑 的であり、CL4 の「学生の授業の目的」に対しても、 迷いや無力感を感じていたことがわかった。 続いて、今まで留学生を主に教えてきた教師 B の 結果は付録図 2 に示す。教師 B のデンドログラムの 項目は、5 つに分けられた。上から順に CL1「自分の 問題意識」、CL2「混ざって欲しい」、CL3「いかに教 えるか」、CL4「学生を見て思うこと」、CL5「留学生 への対応」である。教師 B が連想語の中でもっとも 重要だと思っていたのは「複眼的思考」であった。 教師 B は複眼的思考とは、一人の人間が「いろんな 立場をいろいろな考え方からイメージできる」こと だと述べ、インタビューの中で、本人が中学時代に 帰国子女であった経験が影響していると語っている。 しかし、実際のクラスで日本人学生の態度を見てい ると、横を向いてしまい、留学生と話し合おうとし ない場合もある。一方、留学生も日本人学生に対し て構えていることがあり、お互いに慣れておらず、 越えなければならない壁のようなものがあると感じ ていた。そのようなことから「せっかく私の授業で 出会っているので、学生にはそういうものの見方を 身に着けてほしい」と述べ、「複眼的思考というのが 自分の中で相当に大きい位置を占めているので、そ れがコアというか、中核になっている」「将来的に複 眼的思考を持ってものが考えられる人になってほし い」と語っている。 結果は連想語が 20 で、+が 7、-が 5、△が 8 で あった。日本人と留学生が交流することは「複眼的 思考」獲得のためになると考えており、CL1、2 を見 るとそのために有効なことには+イメージが、障害 と考えられる点には-イメージがあることがわかる。 CL3、4、5 では文章表現技術をいかに教えるかとい う点への言及が多く、特に留学生への対応や調整、 指導法に意識が向いていたことがわかる。 最後に、混合クラス経験がある教師 C の結果は、 付録図 3 に示す。教師 C のデンドログラムの項目は 4 つに分けられた。各クラスターへの名づけは、CL1 「学び合い」、CL2「個人作業」、CL3「教師の学生へ の配慮」、CL4「必要なツール」である。教師 C が連 想語の中でもっとも重要だと思っていたのは「クラ スの雰囲気作り」であった。教師 C は「教師という のは生身の学生を相手にしているので、できるだけ 終わった時に良かったという気持ちになるように、 勉強できたなという気持ちになるように」と考えて いた。また「最後まで気持ち良く終われるというの PAC分析研究 第3巻 4
  • 7. が一番大事」で、「クラスの雰囲気作りが一番大事」 「絶対に来るのが嫌だと思わないように」というこ とを強く意識していた。さらにクラスでの学びが「授 業外にもつながるいい機会」「そこでできた人間関係 がクラス外でも続いて 4 年間のキャンパスライフが 楽しく過ごせる可能性がある授業」だと考えていた。 結果は連想語が 18 で、内訳は+が 12、-が 0、△ が 6 であった。教師 C の意識は、CL1の「学び合い」 に大きく向けられていた。CL1 の「学び合い」に必 要なピア・レスポンスや CL2 の個人作業を実現する ために、CL3 で述べられたような学生への配慮が行 なわれていた。CL4 ではツールの利用などの面への 配慮が語られ、全体としてうまく機能していたこと が肯定的な評価へつながったと考えられる。 4-3 インタビュー内容比較の結果(第 2 段階目) さらに本研究の問いの答えを見出すために行った 2 段階目の分析の結果について示す。インタビュー 内容の詳細なスクリプトを意味内容で縮約し、グル ーピングした上で、中心的意味を 3 つの問いに振り 分けた。その上で、混合クラス担当者に求められる ものは何か議論を行い、仮説を導き出した。 4-3-1 これまでのクラスとの違い まず、①これまでのクラスとどのような違いを感 じたか、3 名の教師の共通点と相違点を明らかにし た。結果の全体像は付録図 4 に示す。以下はその中 から各教師の共通点を( )で、相違点を( )で 示したものである。 教師 A *留学生がいると、クラスの話し合いが活発になり、刺 激があっていい印象を持った *授業の目標はライティングのスキルアップなのか、 異文化コミュニケーションなのか分からなくなっ た。 教師 B *留学生が正規の授業に入るために、AJ(アカデミック・ ジャパニーズ)授業は重要だ。留学生がいると日本人 にとって複眼的思考を学ぶのに意味がある。 *日本人がいた方が異文化理解が深まって、教師自身 が楽しかった。 *留学生が日本人に混ざって大丈夫かと思っていた が、自分が選んだテーマなので、差があっても文章表 現の授業が成り立った。 教師 C *日本人と留学生の混合クラスはお互いに刺激をし合 って、活気のあるクラスになり、学生にとっても授業 外の繋がりができるチャンスになるので、価値があ る。 *混合クラスでは留学生の日本語力の問題が出てくる ので、日本人はサポートの役割を求められる。 共通点としては、教師 A と教師 C は、混合クラス は「刺激」があると感じ、教師 B と教師 C は、「意 味・価値」があると感じていた。つまり 3 名とも日 本人学生と留学生が授業時に話し合ったり、学び合 ったりして異文化理解を深めることに価値を感じて いた。 相違点としては、教師 A は混合クラスだからとい って、目的がライティングの向上ではなく、「異文化 コミュニケーションになってしまってもいいのか」 という葛藤を感じていた。一方、教師 B は今まで教 えてきた留学生が日本人学生と実際に交流する場を 見て、「異文化理解が深まって楽しかった」と感じ、 同時に「アカデミック・ジャパニーズの重要性」を 痛感していた。また、自分自身の授業への工夫が学 生の理解を助け、学生からよいフィードバックを受 けて、結果として学生の日本語力に「差があっても 成り立った」と感じていた。さらに、教師 C はこれ まで行っていた混合クラスとの違いはあまり感じて おらず、今回のクラスでも「やはり、日本人はサポ ート役を引き受けざるを得ない」と感じていた。授 業目的に葛藤を感じた教師 A と日本語力が劣る留学 生でも授業が成り立ったと感じていた教師 B の違い は何か、議論を行ったところ、教師 A が持ったクラ スは留学生比率が 6 割を超え、3 割以下の教師 B や 教師 C のクラス以上に日本語力の差などの問題が顕 著に現れたため、授業運営の難しさにつながったと 考えられる。また、教師 B の授業への工夫があげら れるのではないかと考えられた。この点については、 4-3-2 の②での分析でより明確になった。 4-3-2 指導の際に行った対応 次に、②指導の際に特に意識して行ったことが あるか、3 名の教師のビリーフや行動の共通点と相 違点を明らかにした。結果の全体像は付録図 5 に示 PAC分析研究 第3巻 5
  • 8. す。以下は、各教師の共通点を( )で、相違点を ( )で示したものである。 教師 A *(グループ活動で)日本人学生をサポートのように使 い、日本人学生へのフォローが手薄になり、それがよ かったのかわからない。 教師 B *帰国子女の経験から複眼的思考が大切だと考え、授 業の中核としている。 *レポートの授業ではあるが、日本人と留学生に混じ ってほしくてグループ活動に比重を置き、様々な工 夫をし、やりとりができることを高く評価している。 留学生は、授業についていくのに聴解力が必要だと 考え、講義速度や内容の調整をしている。 教師 C *様々な背景の学生がいる中で、一番気を使っている のはクラスの雰囲気づくりであり、学生たちに絶対 来るのが嫌だと思われないように配慮している。 *授業が終わった時に、勉強できたなという気持ちに なるように、また学んだことで四年間のキャンパス ライフが楽しく過ごせるように気を使っている。 *教員がコメントするより、学生同士のコメントの方 がダイレクトに受け止めるので、協働作業を促して いる。 *課題達成のため、学生が指示や注意点を理解してい るかどうか確認し、特に留学生には配慮している。 教師 A は、留学生が日本語表現につまずいた時に、 日本人学生を教師のサポートのように使ってしまい、 それで良かったのかわからないと言っている。この 点についての葛藤は、教師 C(4-3-1 参照)と共通の ものである。両者の発言から、日本人学生と留学生 の効果的な協働をいかに行うかという点が大きな問 題となっていたことがわかる。 また教師 B は、「複眼的思考」の獲得についての トピックに時間を割き,留学生が苦手な引用などの 項目について授業内容を補ったり、留学生目線での 調整をしたりしていた。話し方も留学生に合わせ、 少しゆっくり、漢語を和語に言い換えて話していた。 しかし、日本人学生もいる中で、このようなやり方 でよいのかわからないとも言っている。ただ、この ような留学生へのケアは、結果として授業が成り立 ったと感じた点につながっていると考えられる。 さらに、教師 C は、クラスの雰囲気作りを最も大 切に考えていた。また特に留学生が授業についてこ られるようにリソースの使い方などにも配慮してい た。留学生がリソースの使い方に難しさを感じると、 課題の提出が遅れ、ピアが機能しなくなり、結果と してクラスの雰囲気も悪くなるおそれがあると考え たからである。教師 C の対応を見ても、日本語力の 劣る留学生への適切な対応の必要性がわかる。 3 名の教師に共通していた対応は留学生・日本人 学生が協働するように様々な配慮をしている点であ る。例えば、毎回別の座席を指定して、違う日本人 学生と留学生がピアで組めるようにしていた。また ピアの時間を十分にとるように心がけ、話し合いの 際に学生に声掛けを行い、話し合いがうまくいって いない学生に対しては、学生同士の話がうまく進む ように間を取り持つようにしていた。そして、授業 では、留学生と日本人学生がお互いの考えにコメン トをしあうような機会は貴重であるということを繰 り返し伝えていた。これは、3 名ともが学生の異文 化理解の促進に価値を見出していたからであろう。 4-3-3 混合クラス授業の課題 最後に、③混合クラス授業の課題は何か、各教師 の問題意識を明らかにした。全体像は付録図 6 に示 す。以下では、各教師が特に意識していた点を( ) で示す。 教師 A *うまく教室運営するには経験の浅い教師はどうすべ きか。 *混合クラスで日本人学生のライティング力アップの ために、どうしてあげたら良かったのか。 *日本人と留学生のピアでの文章チェックはどのよう にしたら、うまく機能するのだろうか。 *留学生にとって変な成功体験は良くないし、厳しす ぎてもやる気を失うので、何を基準にどのレベルを 目標にすればよかったのか、わからなかった。 *同じ混合クラスといっても日本人と留学生の比率に よって問題も変わってくる。 *日本語力が達していない留学生をどうしてあげたら 良かったのか。 PAC分析研究 第3巻 6
  • 9. 教師 B *留学生と日本人が積極的にコミュニケーションをと り、混ざり合って学ぶためにはどうすればいいのか。 *より効果的にスキルとしての文章表現を身につける には、何をどう教えたらいいのか。 *特に中級レベルの留学生が上級になるためには、要 約する力が大きな課題なので、教師はどう教えるべ きか。 *正規の授業で日本人と混ざる留学生には聴解力が重 要だが、聴解力が弱い学生がいた時に教師はいかに ケアするべきか。 *コピペがでないようにするには、どうするべきか。 教師 C *クラスマネージメントが教員のやることとして重要 なことであり、より良い学び合いができるようにど うしたらいいかが課題。 *教師側の確認指示が細かいので、理解できるよう配 慮すべき。 教師 A は何をこの授業の目的にするのか、評価基 準は日本人学生と留学生で同じでいいのかなど、疑 問が多いと述べている。ライティングのスキルアッ プが目的の授業であるのだが、実際にやっているこ とが結果として交流目的のような活動が多く、本来 の授業目的とずれているのではないかと感じていた。 しかし、混合クラスの強みは留学生と日本人学生が コミュニケーションをとり、協働することであると 感じていたので、ここで得られる学びを活かしたい という気持ちも生まれ、ライティング力向上だけを 考えた授業運営もできず、葛藤していた。また、こ れまでの経験から、同じ授業を受けている学生の評 価は同一基準であるべきだと思っており、留学生の 評価に葛藤を感じていた。留学生は日本人学生に比 べて日本語力にハンディがあり、文法や漢字の間違 いも多く、同一基準であれば当然評価も低くなった からである。また、基準を下げて評価を留学生向け に変え、留学生の課題を寛大に評価することによっ て過剰な自信を持ってしまうのは好ましくないと考 えていた。実力に見合わない過大な評価は向上心を 妨げ、先のことを考えると学生のためにならないこ ともあると考えているからである。 教師 B は留学生のことを考えた課題が多く、特に ピア活動が多い混合クラスにおけるライティングの 授業の中で、留学生の要約力・聴解力が課題だと考 えていた。これは日本人学生と留学生の間の日本語 力の差に課題があると感じているためである。ライ ティングのクラスなので、最も大切な力は引用のた めの要約力であると考え、それを留学生が日本人学 生と同じ 8 週間で身につけるには、日本語のハンデ ィをどう乗り越えさせるか、いかに教えるかという ことを課題だと考えていた。また、特に留学生の聴 解力については、ピア活動が機能するためにも、教 師の指示の理解のためにも、聴解力が十分でなけれ ば、授業が成立しない恐れがあると考えていた。 一方、教師 C は、担当教師のクラスマネージメン トが最も重要だと考えていた。「混合クラス」で学ぶ 意味・価値を学生に理解させ、その機会を十分に活 かすために教師ができることは、1 学期間、積極的 な学びの機会が得られるように気持ちよく学習でき るクラス作りであると考えている。また日本人学生 と留学生のコミュニケーションが円滑に進むように、 正しいタイミングで意味のあるサポートを行うこと が大切だが、そのためには教師が学生の授業活動の 様子をよく確認することが重要であると考えていた。 以上、PAC 分析インタビュー内容の質的分析、比 較から、どの教師も留学生と日本人学生の協働に意 味や価値を見出し、学び合いを促そうとしていたこ とがわかった。特に教師 B からは混合クラスの利点 を生かした「複眼的思考の獲得」の重要性が語られ、 異文化理解に価値を見出していた教師 A、C にとっ ても、「複眼的思考の獲得」のために教師側からの「い い刺激をしあえるような協働への配慮」が不可欠で あるという点が共有された。また、授業の目的と評 価の点で葛藤があった教師 A の発言を共有すること で、学生のために基準を下げるのではなく、「成長に つながるような評価」をすることの重要性がわかっ た。さらに、これまで留学生を主に教えてきた教師 B の留学生への対応や授業時における調整から、日 本語力が劣る留学生がいる際に必要な「日本語力を 見極めた適切な対応」によって、授業活動が成り立 ちうることも明らかになり、混合クラスを教えた経 験のある教師 C の発言から、「学生の個性を活かし たクラスマネージメント」が、教員が行うこととし て大変重要であるということがわかった。 PAC分析研究 第3巻 7
  • 10. 本研究を始める前に、「教育歴がクラス運営に影響 する」という予測をしていたが、インタビュー内容 の詳細な比較から、教育歴の違いだけでなく、個人 の生育環境や経験からくるビリーフの差、担当クラ スの状況などの影響も少なくないことがわかった。 5.結論 本研究の目的は、文化交流を目的としない正規科 目において留学生と日本人学生が混ざっているアカ デミック・ライティングのクラスを担当する教師の 意識はどのようなものかということと、このような 混合クラス担当教師に何が求められるのかを明らか にすることである。 第 1 段階の PAC 分析によって現れた各教師の意識 構造は、次のようにまとめられる。教師 A は「混合 クラス」について、日本人学生と留学生の交流のき っかけになるが、授業の目的がそれでよいのか悩み、 自分を責める傾向にあった。教師 B は日本人学生と 留学生の交流に意義を感じ、また、文章表現技術を 「混合クラス」でいかに教えるか、特に留学生をケ アすることに意識が向いていた。教師 C は「混合ク ラス」は日本人学生と留学生が学び合える貴重な機 会だと捉え、授業を成立させるために指示の明確化 などの配慮に意識が向けられていた。 次に第 2 段階の質的内容分析により、混合クラス の担当教師に求められるものは何かという研究の問 いに関わる具体的な要素を抽出し、結論として「複 眼的思考の獲得を目指した授業」、「いい刺激をしあ えるような協働への配慮」、「学生の日本語力を見極 めた適切な対応」、「学生の成長につながる評価」、「学 生の個性を活かしたクラスマネージメント」の 5 点 を導き出した。「複眼的思考の獲得を目指した授業」 は混合クラスの利点を最大限に活かすために必須で あるが、そのような授業を行うためには担当教師に よる「いい刺激をしあえるような協働への配慮」が 必要となる。日本語力の劣る留学生の混合するクラ スでは、「学生の日本語力を見極めた適切な対応」を とることで、混合クラスで目指す授業活動の実現が 可能となるが、「学生の成長につながる評価」のため には、日本語力の差があるという理由で評価基準を 下げてはならない。全体的に「学生の個性を活かし たクラスマネージメント」を行うことで、日本人、 留学生双方の学びが促進されると考えられる。 今回取り上げたような正規科目のアカデミック・ ライティングのクラスにおいて、学生に到達目標を 達成させるためには、以上 5 つの点から授業を振返 って改善していくことが今後このような授業を担当 する教師に求められると考える。 6.おわりに 今回、PAC 分析と質的内容分析の 2 段階分析によ り、本研究の問いへの答えにつながる 5 つの要素が 導き出された。個人の態度構造から明らかにされた ものを、即一般化することはできないが、複数の当 事者の語った授業時の具体的な行動やビリーフ、問 題意識を比較することによって導き出された結論か ら、同様の立場に立つ教師にとっても有益な知見が 得られるものと考える。今後は引き続きアカデミッ ク・ライティングの授業における混合クラスのアク ション・リサーチや、さらに高等教育機関の一般的 な科目において混合クラスを受け持つ教師の意識を 知るための PAC 分析を継続することによって同様の 立場の教師の抱える悩みや工夫をさらにすくい上げ、 考察を深めていきたい。 現在、日本の大学教育機関で進んでいるグローバ ル人材育成のためには、混合クラスは学びの大きな チャンスとなり得るが、一方で難しさもある。その 中で、混合クラスを担当する教師にできることは、 日本人学生・留学生双方のために、このチャンスを 活かすことであり、それが共生社会の実現にも寄与 すると考える。 注 (1) 日本学生支援機構が 2017 年 5 月に発表した留 学生総数は 267,042 人であり、前年度より 11.6% も増えている。また、法務省入国管理局による報 道発表、「平成 29 年末現在における在留外国人数 について(確定値)」によると、平成 29 年末の留 学生数は 311,505 名とある。 (2) 坂本他(2017)では、「多文化間共修」を「文化 的背景が多様な学生によって構成される学びのコ ミュニティ(正課活動及び正課外活動)において、 その文化的多様性を学習リソースとして捉え、メ ンバーが相互交流を通して学び合う仕組み」と定 PAC分析研究 第3巻 8
  • 11. 義し、さらに、教育的意図をもってその仕組みを 構築することを、「多文化間共修支援」としている。 (3) 村田(2018)に詳しい。 (4) 宮本(2015)などでは、日本語を用いた多文 化共修の実践を取り上げて論じている。 (5) 内藤(2002)参照。 (6) 小澤・坪根(2015)参照。 (7) 教師 A は以前から文章表現の授業を担当してお り、本人の力に見合わない高評価は将来的にため にならいと話しており、日本語力が劣る留学生の 評価をどうするか悩みを話していた。教師 B は留 学生しか教えていなかったので、留学生がクラス についていけるような補助資料などを用意し、授 業の進度が遅れがちになることを悩んでいた。 (8) 詳細は、藤浦他(2017)参照。 (9) PAC Helper https://www.vector.co.jp/soft/winnt/edu/se504168. html (2018 年 12 月 29 日参照) (10) 統計分析ソフト HAD http://norimune.net/had (2019 年 5 月 11 日参照) (11) メモを取りながらのインタビュー手法は、PAC 分析学会(2018 年 12 月 8 日(土)於 立命館大学) で開発者の内藤氏自身が推奨している。 (12) 意味の縮約に関しては、クヴァ―ル(2016)、 比較表に関しては佐藤(2008)参照。 (13) 類似度距離行列によって出されたデンドログ ラムを右から見ていき、どこでデンドログラムを 切るかは、インタビュイーに確認して決める。 参考文献 (1) 池田玲子(2008)「協働学習としての対話的問題 提起学習―大学コミュニティの多文化共生のため に ―」細川英雄・ことばと文化の教育を考える会 『ことばの教育を実践する・探求する―活動型 日 本語教育の広がり―』、60-79、凡人社 (2) 伊藤隆二(1996)展望/教育心理学の思想と方法 の視座:「人間の本質と教育」の心理学を求めて 教育心理学年報,35,127-136. (3) 小澤伊久美・坪根由香里(2015)「日本語を母語 とする現役教師Aの「いい日本語教師観」PAC 分 析を活用してわかること」、舘岡洋子編『日本語教 育のための質的研究入門』、221-46、ココ出版 (4) スタイナー・クヴァール、野智正博・徳田治子 訳(2016)『質的研究のための「インター・ビュ ー」』、155-183、新曜社 (5) 坂本利子・堀江未来・米澤由香子編著(2017)『多 文化間共修』、学文社 (6) 佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法』、新曜社 (7) 清水裕士 (2016)「フリーの統計分析ソフト HAD:機能の紹介と統計学習・教育、研究実践にお ける利用方法の提案」、 メディア・情報・コミュ ニケーション研究 1、59-73. (8) 舘岡洋子(2015)「留学生と日本人学生がともに 学ぶ「日本語クラス」ーグローバル化する大学の 学習環境のデザインとしてー 早稲田日本語教育 学 19、61-71 早稲田大学大学院日本語教育研究科 (9) 独立行政法人日本学生支援機構(JASSO) 「1. 留学生数の推移(各年 5 月 1 日現在)」『平成 29 年度外国人留学生在籍状況調査結果』 (10) 内藤哲雄(2002)『PAC 分析実施法入門[改訂 版]「個」を科学する新技法への招待』、ナカニシ ヤ出版 (11) 法務省入国管理局「平成 29 年末現在における 外国人数について(確定値) www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokuk anri04_00073.html (2019 年 5 月 11 日参照) (12) 藤浦五月・宇野聖子・小針奈津美・坂井菜緒・ 柴田幸子・服部真子・中川純子・長松谷有紀 (2017)「【調査報告】初年次レポートライティ ング教育におけるルーブリック開発と改善プロセ スに関する研究」、『武蔵野大学しあわせ研究所 紀要』Vol.1、3-24 (13) 宮本美能 (2015)「留学生と日本人学生の国際 共修授業における一考察 -言語の問題へのアプ ローチと学習効果-」、『大阪大学大学院人間科学 研究科紀要』41、173-191 (14) 村田晶子(2018)「国内・海外を結ぶ多文化体 験学習の意義と学びの可視化」村田晶子編著『大 学における多文化体験学習への挑戦』、2-22、ナカ ニシヤ出版 (15) 文部科学省 HP「ポスト留学生 30 万人計画を見 据えた留学生政策 (現状・課題)」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chu kyo4/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/05/28/14 05510_4.pdf (2019 年 5 月 11 日参照) PAC分析研究 第3巻 9
  • 12. <付録> 1 刺激が多い + 16 夢や悩みを語る + 2 異文化理解 △ 15 お互いに得たもの + 4 発見 △ 5 意味のある時間 △ 6 賑やかな印象 + 12 コミュニケーション △ 3 反省 – 9 やり方の失敗 – 7 ついてこられない – 11 日本人と留学生 △ 13 レベル設定 – 8 日本語力 – 10 日本人の役割 △ 14 留学生の戸惑い – 図 1 教師 A の結果(日本人を主に教えてきた教師) 1 複眼的思考 + 2 話し合い + 3 日本人の壁 – 4 留学生向け AJ 授業の重要性 + 12 留学生向けの対応 △ 19 緊張している – 8 学生の積極性 + 13 日本人学生向けの対応△ 15 座席の場所工夫 + 18 活発さ + 20 おもしろかった + 5 引用の難しさ – 6 要約の方法指導 △ 9 講義内容の調整 △ 11 授業進度の調整 △ 17 見本の難しさ – 14 コピペのおそれ – 16 テーマの難易度 △ 7 聴解力の必要性 △ 10 講義速度の調整 △ 図 2 教師 B(留学生を主に教えてきた教師) 1 クラスの雰囲気作り + 3 クラスの活性化 + 4 意味のある協働作業 + 2 貴重な機会 + 5 ピアが生きているか △ 6 日本人の学びの機会 + 8 ブレインストーミング + 7 留学生への配慮 + 12 ハンドアウトの配布 + 11 指示の明確化 + 17 声掛け △ 10 ルールの確認 △ 15 書式設定 △ 16 確認 △ 18 期限を守る + 9 学内リソースの利用 + 13 ポータルサイトの利用 + 14 資料検索 △ 図 3 教師 C(混合クラス経験がある教師) CL1 教師と留学生と日本人の出会い CL3 混合クラスの授業運営の難しさ CL4 学生の授業の目的は何か CL2 コミュニケーションの 楽しさと難しさ CL1 自分の問題意識 CL3 いかに教えるか CL4 学生を見て思うこと CL2 混ざって欲しい CL5 留学生への対応 CL3 教師の学生への配慮 CL1 学び合い CL4 必要なツール CL2 個人作業 PAC分析研究 第3巻 10
  • 13. 分析 ①共通点 1:刺激があった(教 師 A・教師 C) ②共通点 2:意味・価値がある (教師 B・教師 C) ③相違点 1:異文化コミュニケ ーションについて教師 A(そ れでよいのか)/教師 B(理 解が深まって楽しかった) ④相違点 2:日本人はサポー トを引き受けざるを得ない (教師 C) ⑤アカデミック・ジャパニーズ の重要性(教師 B) ⑥差があっても成り立った ⇒意味・価値があるような授 業にすることが大切で、そ のことに気づかせるように授 図 4 これまでのクラスとどのような違いを感じたか 業を持っていくことが大切 分析 ・留学生と日本人学生が協 働するように配慮してい る(A,B,C) ・日本人学生がサポートの ように使ったが、それが よかったのかわからない (A) ・授業内容な震度を留学生 に合わせて調整をしてい る(B) ・雰囲気づくりを重視(C) 図 5 指導の際に特に意識して行ったことがあるか 教師 A 教師 B 教師 C うまく教室運営するには経験の浅い教師 はどうすべきか。 留学生と日本人が積極的にコミュニケー ションをとり、混ざり合って学ぶために は、どうすればいいのか。 クラスマネージメントは教員がやること として重要なことであり、より良い学び合 いができるようにどうしたらいいかが課 題である。 混合クラスで日本人学生のライティング 力アップのために、どうしてあげたら良か ったのか。 より効果的にスキルとしての文章表現を 身につけるには、何をどう教えたらいいの か。 教師側の確認指示が細かいので、理解でき るよう配慮すべきである。 日本人と留学生のピアでの文章チェック はどのようにしたら、うまく機能するのだ ろうか。 特に中級レベルの留学生が上級になるた めには、要約する力が大きな課題なので、 教師はどう教えるべきか 留学生にとって変な成功体験は良くない し、厳しすぎてもやる気を失うので、何を 基準にどのレベルを目標にすればよかっ たのか、わからなかった。 正規の授業で日本人と混ざる留学生には 聴解力が重要だが、力が弱い学生がいた時 に教師はいかにケアするべきか。 同じ混合クラスといっても日本人と留学 生の比率によって問題も変わってくる。 コピペがでないようにするには、どうする べきか。 日本語力が達していない留学生をどうし てあげたら良かったのか。 図 6 混合クラス授業の課題は何か 教師 A 教師 B 教師 C 留学生がいると、クラスの話し合 いが活発になり、刺激があって いい印象を持った。 留学生が正規の授業に入るため に、AJ 授業は重要だ。 日本人と留学生の混合クラスはお互 いに刺激をし合って、活気のあるクラ スになり、学生にとっても授業外の繋 がりができるチャンスになるので、価 値がある。 授業の目標はライティングのスキ ルアップなのか、異文化コミュニ ケーションなのか分からなくなっ た。 留学生がいると日本人にとって 複眼的思考を学ぶのに意味があ る。 混合クラスでは留学生の日本語力の 問題が出てくるので、日本人はサポ ートの役割を求められる。 日本人がいた方が異文化理解が 深まって、教師自身が楽しかっ た。 留学生が日本人に混ざって大丈 夫かと思っていたが、自分が選 んだテーマなので、差があっても 文章表現の授業が成り立った。 教師 A 教師 B 教師 C 日本人学生をサポートのように 使い、日本人学生へのフォロー が手薄になり、それがよかったの かわからない。 帰国子女の経験から複眼的思考 が大切だと考え、授業の中核とし ている。 様々な背景の学生がいる中で、一番 気を使っているのはクラスの雰囲気 づくりであり、学生たちに絶対来るの が嫌だと思われないように配慮してい る。 レポートの授業ではあるが、日本 人と留学生に混じってほしくてグ ループ活動に比重を置き、様々 な工夫をし、やりとりができること を高く評価している。 授業が終わった時に、勉強できたな という気持ちになるように、また学んだ ことで四年間のキャンパスライフが楽 しく過ごせるように気を使っている。 留学生は、授業についていくの に聴解力が必要だと考え、講義 速度や内容の調整をしている。 教員がコメントするより、学生同士の コメントの方がダイレクトに受け止める ので、協働作業を促している。 課題達成のため、学生が支持注意点 を理解しているかどうか確認し、特に 留学生には配慮している。 PAC分析研究 第3巻 11
  • 14. 留学生・日本人学生混合クラスで教師に求められるものとは ―PAC 分析による大学初年次文章表現授業の教師の振り返り― Considerations for Teachers in Linguistically Mixed Classes with International and Japanese Students -Reflections on First Year University Academic Writing Classes through PAC Analysis- 【執筆者】 坂井 菜緒 SAKAI Nao(武蔵野大学 非常勤講師) 中川 純子 NAKAGAWA Junko(慶応義塾大学 非常勤講師) 長松谷有紀 NAGAMATSUYA Yuki(東海大学 非常勤講師) 服部 真子 HATTORI Shinko(東京ひのき外語学院 専任講師) 【要旨】 近年、大学では日本語で行われる正規科目を日本人学生と共に留学生が履修する機会が増え、教師の授業運営にも問題 が生じているが、このような混合クラスの研究はまだ少ない。本研究は、混合クラスの担当教師に求められることを明ら かにするため、全学共通初年次文章表現授業を担当した留学生指導経験の異なる 3 名の教師を対象に PAC 分析を行い、 その後インタビュー内容の質的内容分析比較を行った。この手法では、本人の個別の背景を深く理解した上でインタビ ューを行うため、従来のインタビュー調査分析よりも、議論を深めるために有効なデータが得られる。本研究の結論とし て、「複眼的思考」、「協働への配慮」、「適切な対応」、「成長につながる評価」、「学生の個性を活かしたクラスマネージメ ント」の 5 つの要素を導き出した。本研究は今後、グローバル化が進む日本の教育機関において、学生の多様化に直面す る教師の 1 つの指針になると考える。 Recently at universities, there have been increases in opportunities for Japanese and international students to take regular courses together, creating new classroom management challenges for instructors. However, relatively little research has been conducted on teaching such linguistically mixed classes. In order to identify the requirements for instructors in charge of mixed classes, this research conducted PAC Analysis on three instructors with different levels of teaching experience and later compared qualitative content analysis of interviews. Compared to traditional interview survey analyses, these methods allow for better understanding of individual backgrounds to obtain valuable data for further debate to find solutions to the problem. The results of this research derived five necessary elements of mixed classrooms, which include: (1) multi-faceted thinking, (2) consideration towards cooperation, (3) appropriate responses, (4) evaluations that lead to growth, and (5) classroom management that utilize student character. As globalization penetrates Japanese educational institutions, this research shall serve as a guiding principle for instructors facing student diversity. PAC分析研究 第3巻 12
  • 15. 進 路 面 談 に 求 め られ る 高 校 教 師 の 柔ら か な 鏡 役 割 - 学 校 適 応 感 に 差が あ る 二 人 の 高 校生 の 比 較 - 森本 篤, 青木 多寿子 1 問 題 学校での教育相談は,子どもの悩みや問題の解決を 援助することによって,学校生活の充実と人格の成長 への援助を図ろうとするものである(文部省,1981)。 特に,すべての子どもに対する発達促進的な「一次的 援助サービス」は,開発的な意味がある(石隈,1999)。 欧米と比較するとき,日本での教育相談(カウンセリ ング)の特徴は,専任のカウンセラーではなく,学級 担任を主役にした,学校全体が関与するもの,という 点にある(國分,2009)。 教師が行う教育相談の中で,生徒の「生き方」につ いての指導・援助が進路指導であり(伊藤,2010),高 校生の受ける進路指導の重要な機会として,進路面談 がある。進路面談は生徒一人ひとりに対する個別的指 導・援助であり(橋本,2011),従前から文部省は進路 面談を,生徒の問題解決能力と自己指導能力を促すた めの援助活動と位置づけている(文部省,1977)。また, 近年その重要性が指摘されている「キャリア教育」に おいても,進路面談は「児童生徒の個別支援のために は,日々児童生徒に接している教職員が,カウンセリ ングに関する知識やスキル及びその基盤となる生徒と 円滑にコミュニケーションをとるための方法を修得す ることが重要」(文部科学省,2011)と提言されている ように,教師によるカウンセリング活動として,その 意義が示されている。これらの視点に立てば,高等学 校における進路面談は,生徒一人ひとりの「発達・開 発」の支援に重点が置かれた,カウンセリングの中核 をなす活動ともいえよう(池場,2006)。 学校における生徒の支援を考えるとき,まず生徒が 学校生活にどの程度適応できているかを把握すること が必要になる(河村,1999)。生徒の学校適応を含め, 学校の教育活動では,生徒と教師の間の人間関係が重 要な役割を果たしていることを考慮する必要がある (平岡・豊嶋,1991)。 とりわけ日本の進路面談では,前述のように学級担 任が中心となって生徒と関わるため,個々の生徒と担 任との関係が重要となる。進路面談のように,教師が 生徒にカウンセリングを行う場合にも,「面接に,それ 以外の場面の児童生徒と教員の人間関係が反映しがち である」ことが指摘されている(文部科学省,2010)。 そこで,本研究では,まず,生徒と教師との関係を中 心とした,学校適応の実態を把握することとする。 次に,高校生の,教師に対する態度に関しては,JELS (2006)が次のような結果を示している。それによる と,進路選択の際に高校生が相談する相手の第 1 位は 38.9%で「高校の教師」であり,また,高校生が進路 指導について要望しているのは「進路に関する情報提 供をしてほしい」(32.6%)に次ぎ,「もっと生徒のこ とを理解してほしい」(24.6%)という,教師の生徒へ の関わりを求めるものであった(全国 PTA 連合会・リ クルート,2011)。他方,高校生の教師への自己開示度 は,身近な他者の中で最下位であった(小西・宮下, 2003)。これらは,進路選択に関し,信頼する教師には 「わかってほしい」という気持ちを持つ一方で,「自分 のことは知られたくない」いう,高校生の時期に特徴 的な,両価的な心理(佐藤,1999)が反映されている と考えられる。したがって,生徒の側からの認知をと らえる際には,この両価性についても留意しておく必 要があると考えられる。本研究では,両価性をふまえ た,進路面談に臨む生徒の心情を捉えたい。 以上を踏まえ,研究 1 では,まず,生徒の学校適応 の程度には,どのような差異があるのかについて意識 調査を実施する。また,研究 2 では,学校適応感,と りわけ「教師関係」と「進路意識」に差がある生徒に ついて,①両価的な心情,②理想的な面談イメージは どのような違いや共通点があるのか,について PAC 分 析を用いて検討する。以上の 2 研究の結果をもとに, 教師はどのような点に配慮して生徒との進路面談に臨 むべきかを考察する。 PAC分析研究 第3巻 13 【 原 著 】 ______________________ 2019年2月6日 原稿受理 2019年9月2日 掲載決定
  • 16. 2 研究1 生徒の進路面談に関する学校適応の程度の差につい ての,質問紙による調査研究 研究 1 では,高校生の,進路面談に関する学校適応 の程度には,どの程度の差異があるのかを,高校生用 学校適応感尺度(内藤・浅川・高瀬・古川・小泉,1986) の下位尺度「教師関係」「進路意識」得点を比較して調 べる。 学校適応の指標としては,出席状況などのように客 観性の強いものの他に,高校生が自分の学校生活をど のように認知しているかという,高校生自身の学校適 応感がある。この指標は,主観性が強いものであるが, 本人の心理状態を直接問うという点で重要な意味をも つと考えられる(古川・高田,1999)。この学校適応感 に関して,内藤ら(1986)は,「高校生用学校適応感尺 度」を開発し,高校生の学校適応感の構造として,「学 習意欲」「進路意識」「教師関係」「規則への態度」「特 別活動への態度」の 6 因子を抽出した。尺度としての 信頼性,妥当性が検討されており,「教師関係」「進路 意識」という,進路面談に関して重要と考えられる下 位尺度を含んでいることから,本研究 1 では,この尺 度を採用した。 2.1 方 法 調査対象者 公立普通科高校(生徒数 960 名の進学 校)2 年生 313 名(男子 129 名,女子 184 名)。 手続き 高校生用学校適応感尺度(内藤ら,1986, 一部語句を修正・改組)を用いた質問紙調査を,ロン グホームルームの時間中に実施した。実施者は各ホー ムルーム担任であった。高校生用学校適応感尺度の 6 つの下位尺度とその代表的な項目を Table 1 に示す。 質問紙では,各項目ごとに「全くあてはまらない」か ら「非常によくあてはまる」までの 5 件法(1~5 点) Table 1 高校生用学校適応感尺度の 6 つの下位尺度とその代表的な項目(各 2 つ) 下位尺度 代表的な項目 1.教師関係 私は,この学校の先生を信頼している。/ 私には,まるで友達のように 親しみを感じる先生が,この学校にいる。 2.進路意識 私は,自分の進路のことを真剣に考えている。/ 私は,自分の将来に 希望を持っている。 3.学習意欲 私は,勉強に積極的である。/ 私は,勉強の目標を持って,毎日コツ コツと努力している。 4.友人関係 私は,明るく,楽しい友人関係をもっている。/ 私は,性格的に明るい 方である。 5.規則への態度 私は,学校の規則を真面目に守っている。/ 私は,学校の規則がある のはあたりまえだと思う。 6.特別活動への態度 私は,部活や学級活動や学校行事に楽しさを感じる。/ 私は,部活や学 級活動や学校行事等に積極的に,一生懸命取り組んでいる。 Table 2 高校生用学校適応感尺度の 6 つの下位尺度と項目数, 調査対象校の質問紙調査での平均点・最高点・最低点(各 30 点満点) (n= 313) 下位尺度 項目数 平均点 最高点 最低点 1.教師関係 6 19.2 30 6 2.進路意識 6 20.9 30 6 3.学習意欲 6 18.4 30 6 4.友人関係 6 22.6 30 8 5.規則への態度 6 24.1 30 10 6.特別活動への態度 6 25.7 30 9 全 体 36 130.9 171 53 PAC分析研究 第3巻 14
  • 17. で回答を求めた。次いで,各生徒について下位尺度ご とに(6 項目・30 点満点)得点を比較した。 2.2 結 果 対象校での調査結果を Table 2 に示す。全体での平 均点は130.9,最高点は171,最低点は53であった。「教 師関係」についての平均点は 19.2,最高点は 30,最低 点は 6 であった。また,「進路意識」についての平均点 は 20.9,最高点は 30,最低点は 6 であった。これらの 結果から,調査対象校の生徒の,進路面談に関わる学 校適応感には,全体として 171 点から 53 点までの差が あることが示された。「教師関係」得点,「進路意識」 得点についても,生徒間にはそれぞれ満点(30 点)か ら最低点(6 点)まで,大きな差がみられた。 研究 1 で明らかになった,進路面談に関わる生徒の 学校適応感(「教師関係」得点・「進路意識」得点)の 差異は,進路面談における態度に,どのように反映さ れているのであろうか。これについて,続く研究 2 で 検討する。 3 研究2 教師への信頼感が進路面談にどのように反映される のかについての,PAC 分析を用いた研究 研究 2 では,学校適応感(「教師関係」得点・「進路 意識」得点)が高い生徒と低い生徒の,面談に臨む態 度や教師に期待することを,PAC 分析を用いて比較・ 分析する。 具体的には,①学校適応感の高低によって,「理解し てほしいこと」「話しづらいこと」などの両価的な心情 に,どのような差異が見られるのか,②学校適応感の 差は,それぞれの生徒にとっての「理想的な面談」の イメージにどのような影響を与えるのか,の 2 点に焦 点を当て,進路面談における生徒と教師との関係の意 味について検討する。 本研究で用いる PAC 分析は,個人の態度構造やイメ ージを測定するために,内藤(1993)によって開発さ れた手法であり,個人の内面の構造を明らかにするこ とにその特徴がある。本研究で取りあげる進路面談は, 生徒や保護者と担任教師の間で行われる個別場面での 営みであり,各教師と生徒との関係性もそれぞれ固有 のものであることから,分析手法として PAC 分析を用 いることが適していると考えられた。 また,PAC 分析は,態度やイメージの構造だけでな く,心理的場,アンビバレンツ,コンプレックスまで 測定できることが確認されており(内藤,2008),進路 面談に臨む高校生の,両価的な心理や,表明しづらい 内面の探索についても有効であると考えられたので, 本研究での分析手法とすることとした。 3.1 方 法 調査対象者 研究 1 と同じ公立高校 2 年生の 2 名(女 子 1 名,男子 1 名)である。この 2 名は,質問紙調査 に参加した 313 名のうち,個別調査に協力を表明した 生徒で,高校生用学校適応感尺度(内藤ら 1986,一部 語句を修正・改組)のうち,a「教師関係」得点と,b 「進路意識」得点の高い A(a:8 位,b:1 位)と,低 い B(a:313 位,b:310 位)であった。A については, a,b の平均得点がより高い生徒が 1 名いたが,研究 2 の調査期日前に海外留学の予定があったので,調査可 能な生徒のうちで最上位の得点であったAを対象者と して選定した。B については,a,b の平均得点が最も 低く,調査可能であったので,対象者とした。 Table 3 に,担任教師からの情報も加えた A,B の進 路面談に関わるプロフィールを示す。 Table 3 A,B のプロフィール A(女子) B(男子) 「教師関係」得点(6 項目・各 5 点)と順位 27(8 位) 6(313 位) 「進路意識」得点(6 項目・各 5 点)と順位 30(1 位) 8(310 位) 全体の得点(36 項目・各 5 点)と順位 146(53 位) 53(313 位) 実技科目以外の学業成績 下位 上位 第 1 志望校 海外の音楽大学 国内の,いわゆる難関大学 明るく朗らか 口べた 担任による,進路面談の際の生徒の印象 感情豊か 気持ちを伝えることに不慣れ 楽しそうに話す とっつきにくい PAC分析研究 第3巻 15
  • 18. 手続き 標準的な PAC 分析の手順(内藤,2002)によ った。それは,①教示②自由連想③類似度の評定④ク ラスター分析⑤デンドログラムの解釈の 5 段階をふ む。このうち①~③をセッション1として実施,④を 筆者が行ったのち,セッション 2 として⑤を実施した。 教示文の設定については,以下の経緯があった。筆 者は教師カウンセラーとして,生徒のカウンセリング を行う機会がある。その際,生徒が担任教師の面談に ついて不満を述べることが見受けられた。対照的に, 担任への信頼感を示す生徒もいた。これらのことを踏 まえ,今回の研究に先んじて,2 年生 1 クラスで「進 路面談では,担任の先生にどのような配慮があればよ いと思いますか?」という調査(自由記述)を実施し たところ,「自分のことをわかってほしい」「言いにく いこともある」という,両価的な記述が比較的多く見 られた。また,「~してくれると理想的です」という表 明も複数あった。教示文はこれらを踏まえて作成した。 ①教示文については,は『進路面談の際,あなたが 先生に「話しづらい」こととして,どのようなことが あるでしょうか。また,先生に「わかってほしい」こ とは,どのようなことでしょうか。そして,どんな先 生との,どんな進路面談があなたにとって「理想的」 でしょうか。』とした。 ②教示の後,白紙のカード(タテ 3cm,ヨコ 9cm) を 30 枚程度 A,B の前に置き,自由連想させ,記入さ せた。その際,各連想項目のイメージが肯定的(+), 否定的(-),どちらともいえない(0)のいずれに該 当するかかを付記させた。この後,A,B にとって重 要と感じられる順に記入したカードを並べ替えさせ た。 ③次に,各項目間の類似度(距離)を 7 段階(非常 に近い…1,かなり近い…2,いくぶんか近い…3,どち らともいえない…4,いくぶんか遠い…5,かなり遠い …6,非常に遠い…7)で評定させた。 ④上記の類似度評定に基づき,調査対象者別にクラ スター分析(ウォード法,ソフトは HALWIN)を行っ た。 ⑤析出されたデンドログラム(樹状図)に各連想項 目の内容を付記し,A,B の解釈を尋ねた。各クラス ターには,それぞれにふさわしいタイトルをつけても らい,新たに生じたイメージ等について,筆者にも了 解できるよう,質問を加えた。クラスターの区分やイ メージ理解については,内藤(2002)に沿い,A,B の解釈を尊重した。 以下における A,B と筆者(Co.)とのやりとりは,A, B の了解を得た上でセッション 2 を録音し,テープ起 こしをしたもののうち,各クラスターがそれぞれどう まとまるかが了解される部分を抜粋したものである。 なお,逐語記録中の( )を付した補いの語は,筆者 がやりとり全体の文脈から判断して加えたものであ る。 1 (0) |___. クラスター1「安心できるアドバイス」 5 (0) |___|___. 11 (+) |___. | 13 (+) |___|___|_______________. 6 (+) |___. | 9 (+) |___|_____. | クラスター2 10 (0) |_________|_________. | 「理想の面談形式」 7 (0) |___. | | 8 (0) |___| | | 12 (+) |___|_______________|___|_________________________. 2 (-) |___. | 3 (-) |___| | 4 (-) |___|_____________________________________________| クラスター3「(先生への)お知らせ」 *左の数値は重要順位。 **数値の後の( )内の符号は各項目のイメージ。 Figure 1 A のデンドログラム PAC分析研究 第3巻 16
  • 19. 3.2 結 果 A,Bの事例を以下に示す。 A の事例 セッション①:2011 年 7 月 6 日(30 分),②:2011 年 7 月 7 日(40 分)。デンドログラムを Figure 1,重要 度順の各項目を Table 4 に示す。A は Figure 1 のデンド ログラムを,3 つのクラスターに区分した。筆者は, 客観的なデンドログラムの読み取りでは,1)~12)まで の部分と,2)~4)までの部分の,2 つのクラスターに 分けられると考えていたが,A の解釈を尊重した。 A の逐語記録(抜粋) (斜体字:A の発言,Co.: 筆者の発言,番号は逐語記録順。ここで筆者の記号を Co.と記しているのは,臨床心理士の資格を有する教師 カウンセラーであり,今回の調査において対象者には 研究 2 のセッションを行う際に,担任に対する率直な 気持ちを表明することが対象者にとって不利にならな いよう配慮していることを伝えていることによる。) A.5:これ(下の三つ)は,(内容は略)(先生への) 「お知らせ」。(クラスの友人関係について,先生に知 っておいてもらうと進路を含めて対処してもらいやす くなる。)A.7:(真ん中の 8 項目は)「理想の面談形式」。 A.12:…(担任の)M 先生とかは,「本人の意志がいち ばん大切だから,もう親は黙っといて」っていう感じ なんですよ,…やっぱり,そういう先生が理想だな, って思って。Co.14:M 先生は,ほぼ理想に近い。A.14: はい。ただドイツ人じゃないだけ(笑)。Co.16:1 と か 5 などは M 先生が実際してくださってる。A.16:は い。してくださってます。Co.17:では,全く問題なし。 A.17:そうなんです。A.20:(「まず生徒と面談」につ いて)中学校の時に,この(項目 10 の)やり方をやっ てる先生がおられて。Co.21:まず,生徒に聞いてほし い?A.21:はい。A.25:…事前に,ほんとうの,生徒 の(ことを),親とか関係なしにして,「言わないから 教えて」と。Co.26:本音のことを。A.26:はい。本音 を。Co.27:7・8 で「ストレートに」というのは?A.27: ほんとに私(の実力)で大丈夫なのか,っていう。心 配で。コンクールとか実績そんなにないですし。で, 「大丈夫,行けるよ」というのも言ってほしいんです けど,ダメなときはほんとうにダメって,はっきり言 ってほしいんです。「もっとがんばれば,~なるよ」っ ていうあやふやな答えじゃなく,「こうしたら,こうな る」というのをはっきり示して欲しい。A.31:…先生 に言ってもらえるから,「あ,そうなんだ」ってわかる 時があるし。Co.32:そう。成績などは先生から言われ ると。A.32:説得力がある。そういうの(成績など) は,先生の口から言ってほしい。Co.39:全体として, いまの A さんの,この高校での進路面談は何点くら い?A.39:M 先生がいいんでね。75 点くらいかな。 Co.40:(マイナスの)25 点は?A.40:ドイツ人でない (15 点),とか,これは面談じゃないのかもしれない ですけど,留学とか,などの支援システムがない(10 点)。 A のクラスター解釈 クラスター1:(1,5) A は「安心できるアドバイ ス」と解釈した。これらは,現在 A の担任でもあるベ テランの音楽科・M 教諭が実際に「してくださってる」 Table 4 A の各クラスター内の連想項目(項目前の数値は重要順位) クラスター1 1) 身のまわりの人での,実体験などをあげて しめしてほしい 5)実際の状況を教えてほしい 11)できれば 音楽家の先生がいいです 13)私が大学は外国をうけるので,先生は外国人(ドイツ人)がいいです。 6)面談中だけでもきんちょう感ももちながらも,なごやかな感じ 9)親と話すのではなく,生徒とはなしてくれてる感じがして,よかった クラスター2 10)最初に親抜きで1対2で面談をして,からの2対2がいい 7)今の私がおかれている立場や,実際どのレベルなのかをはっきりストレートに言ってほしい 8)ストレートに言ってほしい 12)進路に限っては,まじめで正直な先生がいい 2) 2)3)4)は,あまり望ましくない言動をとる級友の存在について, クラスター3 3) 担任の先生は一応知っておいて,そういう目でクラスを見てほしい 4) という内容(そのままの表現は控えた) PAC分析研究 第3巻 17
  • 20. (A.16)ので,A にとっては全く問題はない(A.17)。 クラスター2:(11,13,6,9,10,7,8,12) 「理 想の面談形式」。まず,「親とか関係なしにして」 (A.25),教師は生徒の「本音」(A.26)を聞いてほし い。そして,希望する進路先に行けるかどうか,「はっ きり言ってほしい」(A.27)。それは,「ほんとに私で大 丈夫なのか」「心配」(A.27)だからであり,また,「先 生に言ってもらえるからわかる」(A.31)ことがあるか ら,でもある。さらに,「(音楽大学への)留学などの 支援システム」(A.40)があればありがたい。 クラスター3:(2,3,4) 「お知らせ」。クラスの 友人関係について,先生に知っておいてもらいたいこ と(A5)としてまとまっている。 全体として: 各項目の単独のイメージを見ると, プラスが 5 項目,どちらともいえない0が 5 項目,マ イナスが 3 項目。マイナスの項目群については,いず れもあまり好ましくない言動をとる級友についてのも ので,A は教師との面談自体については悪くないイメ ージを持っているといえる。そのことは,A.14 や A.17 の応答にあるように,「ほぼ理想に近く」「問題ない」 と表明されていることからもうかがえる。 B の事例 セッション①:2011 年 6 月 29 日(25 分),②:2011 年 7 月 1 日(30 分)。デンドログラムを Figure 2,重要 度順の各項目を Table 5 に示す。B は Figure 2 のデンド ログラムを,6 つのクラスターに区分した。筆者は, 客観的には,1)~5)までの部分と 6)~13)までの部分, 9)~10)までの部分の,3 つのクラスターに分けられる と考えていたが,B の解釈を尊重した。 B の逐語記録(抜粋) (斜体字:B の発言,Co.: 筆者の発言,番号は逐語記録の順。) B.7:(いままで,面談は)なんか,聞き流しておし まい,みたいな。Co.9:じゃあ,先生の言葉がそんな に響いてこない。B.9:はい(きっぱりと)。B.10:な んかこう,ズバッとくる一言みたいなのがない。 Co.12:…例えば?B.12:「正直言って,今のままじゃ 絶対落ちますよ」,みたいな。B.14:(それがないから) 適当に流しちゃってる。Co.16:マイナスのことでも, ビシッと言ってくれたらいいのに,と。はっきり言っ て欲しいんだね。B.16:はい。Co.17:そう言われて, つらくなったりしないの。B.17:しません。逆に,「見 返してやろうか」って。B.20:(親について)…先生だ と,自分の学力とか,何もかも知り尽くしてるからい いだろうけど,あまり知りもしない親からそういうこ とをいちいち言われるのは,何か腹が立つ。Co.21:「親 が横で聞いていると」,というのは?B.21:ろくに知り もせずに口を出してこられるのが嫌。B.22:(今の面談 は)マンネリ化というか…。おんなじ話を聞いて終わ っちゃってる。Co.23:というと。B.23:成績で,たい して良くなかった時に,この(4,5 を指す)ような。 Co.24:ああ,「頑張ったら大丈夫」では響くところが ない。B.24:はい。Co.25:で,聞きたいのはこの 8? 1 (0) |___. 2 (0) |___|__. クラスター1「理想と現実の対比」(理想) 3 (0) |______|____________. 4 (-) |___. | クラスター2「『頑張ったら…』は響かない 5 (-) |___|_______________|_____________________________. 6 (-) |___. | 11 (-) |___|____________________. クラスター3「親はいら |ない」 8 (-) |________________________|___________. クラスター |4「大丈夫?」 7 (0) |________. クラスター5「具体的に」 | | 13 (-) |________|___________________________|_________. | 9 (+) |____________. | | 12 (0) |____________|____. クラスター1(現実) | | 10 (-) |_________________|____________________________|__| クラスター6「こんな先生がいい」 *左の数値は重要順位。 **数値の後の( )の符号は各項目のイメージ。 Figure 2 B のデンドログラム PAC分析研究 第3巻 18
  • 21. B.25:はい。この,8 番がいちばん知りたい。Co.26: 大丈夫,というのは,B 君の思っている進路について? B.26:はい。いつもは,ごまかされているような感じ。 B.32:(先生の言うべきことはきちっと言い,自分の意 見は聞いてくれるなら)話そうという気になります。, Co.33:いまの面談は B 君にとって 10 点満点で何点く らい?B.34:3 点です。Co.35:ああ,3 点はあるんだ。 B.35:成績とかを教えてくれるし。Co.36:残りのマイ ナス 7 点は?B.36:ごまかされているみたいな…。そ れと,自分の意見を言えていない。Co.42:では,ビシ ッと言ってくれて,君の意見をしっかり聞いてくれた ら。B.42:あ,それなら満点です。Co.46:(保護者は) 面談のときも,できたらそばにいてほしくない? B.46:はい。三者じゃなくて二者がいい。 B によるクラスター解釈 クラスター1:(1,2,3,13) 「理想と現実の対 比」と B は解釈した。B の考える理想の面談は,「本 音で話し合え」(2),こころに「ズバッとくる一言」 (B.10)を「はっきり言って」(3)もらえ,それによ って「奮起できる」(3)ものなのだが,現実にはそう ではないので「面談の有効性をあまり感じ」ず(13), 「適当に聞き流しちゃってる」(B.14)。 クラスター2:(4,5) 「『頑張ったら…』は響か ない」の 2 項目。B.23 のように,良くなかった成績を 取った時,「頑張ったら大丈夫」という「マンネリ化」 (B.22)した教師の言葉は,「もうやめてほしい」(4)。 クラスター3:(6,11) 「親はいらない」。いわゆ る「三者懇談(生徒・保護者・担任)」の形式では「話 しにくい」(6)し,「ろくに(学力などについて)知り もせずに」(B.20)「口を出してこられるのが嫌」 (B.21)という。 クラスター4:(8) 「大丈夫?」。「今の成績で本 当に大丈夫なのか」(8))が,「いちばん知りたい」 (B.25)。しかし,「いつもは,ごまかされているよう な感じ」(B.26)である。 クラスター5:(7) 「具体的に」。これが項目 13 (クラスター1)と結節しているのは,いずれも B が 望んでいることなのだが,現実の面談場面では物足り ないと感じていることによるのかもしれない。 クラスター6:(9,12,10) 「こんな先生がいい」。 「ベテランで,口調がやわらかい人」(9)と「(親はな しで)1 対 1」(12)で話せれば,「話そうという気にな る」(B.32)。しかし,現実としては「自分の意見を言 えていない」(B.36)。 全体として: 各項目の単独でのイメージを見る と,プラスは 1 項目のみで,マイナスが 7 項目,どち らともいえない0が 5 項目。以上から,B は進路面談 をネガティブなイメージでとらえていることがわか る。理想では「はっきり言って」もらえ,「奮起」した いのだが,現実ではそうでなく,「ごまかされている感 Table 5 B の各クラスター内の連想項目(項目前の数値は重要順位) 1) 今の学力のレベルなら落ちる,受かるとはっきり言ってもらえる面談 クラスター1 2) ちゃんと本音で話し合える面談が理想的 3) だめだ,無理だというのをはっきり言ってもらった方が逆に奮起できる クラスター2 4)「頑張ったら大丈夫」とか言うのをやめてほしい 5)「頑張ったら大丈夫」とかでは,ああ大丈夫かと思って逆にやる気が失せる クラスター3 6) 親が横で聞いているので話しにくい 11) 親が聞いていると,だめだと言われると家で余計うるさく言ってくる クラスター4 8) 今の成績で本当に大丈夫なのか クラスター5 7)具体的な勉強法とかを教えてほしい クラスター1 13)正直言って,面談の後々の有効性をあまり感じない 9)ベテランで,口調がやわらかい人 クラスター6 12)親はなしで,ある程度受験に精通している先生と1対1がいい 10)口調がきついひとだと一方的に言うだけでこちらの意見を言えなさそう PAC分析研究 第3巻 19
  • 22. じ」がし,「親がそばで聞いている」ことも含めて不満 を覚えている。10 点満点では 3 点の評価(B.34)であ る。 4 考 察 研究 2 の目的は,学校適応感(「教師関係」「進路意 識」の両得点)が高い A と低い B について,進路面談 に臨む態度を PAC 分析を用いて比較し,(ア)「理解し てほしいこと」「話しづらいこと」の両価的な心情にど のような差異や共通点が見られるか,(イ)「理想的な 面談」のイメージの異同はどうか,の 2 点を検証する ことであった。また,それらを踏まえ,教師がどのよ うなことに留意すれば,進路面談がより意義のあるも のになりえるのか,について考察することであった。 まず,(ア)について考察する。A が実際の面談を「理 想的」と表しており,両価的な心情は特に示されなか ったのに対し,B はインタビューを通して両価的な心 情が確認された。具体的には,B の進路面談の主観的 評価は10点中3点であり,「ごまかされているみたい」 (B.36)と感じているが,だからといって面談に期待 していないか,といえば,「ビシッと言ってくれ,自分 の意見を聞いてくれたら満点」(B.42)とあるように, 教師に期待するところも同時に大きいことが示唆され た。 続いて,(イ)について考察する。A と B の PAC 分 析結果からは,Table 6 にあるように,全体的な進路面 談に対するイメージには対照的な差異が認められた。 これらには,A,B それぞれの,教師との関係が反映 されていると考えられる。だが,そうした対照的な教 師関係を有する両者には,進路について感じているこ と,理想とする進路面談イメージ,教師に対して願っ ていること,の 3 点については共通点が見られた。 ①自分の進路に関して,「不安」を感じている。A は「ほんとうに私で大丈夫なのか」「すごい心配なんで すよ」(A.27)と語っている。また,B の連想項目 8 で は,「今の成績で本当に大丈夫なのか」とある。 ②三者面談(生徒・保護者・担任)ではなく,二者 面談(生徒・担任)を望んでいる。A の連想項目 10 では「最初に親抜きで 1 対 2 で面談をして,からの 2 対 2 がいい」とあるが,これは「親とか関係なし」の 「ほんとうの,生徒の」(A.25)「本音を」(A.26)聞い てほしいということである。B の連想項目 6,11 では 「親が横で聞いているので話しにく」く,「うるさい」 と感じていることが示された。それは「(学力などを) ろくに知りもせずに口を出してこられるのが嫌」 (B.20,B.21)だから,という。 ③進路面談では,自分の置かれている状況を,教師 の視点から率直に伝えてほしいと願っている。A の連 想項目 7・8 には「ストレートに言ってほしい」と記さ れ,これは逐語記録では,先生の生徒に対する「本音 を」(A.26),「『もっとがんばれば,~なるよ』ってい うあやふやな答えじゃなく」「ダメなときは本当にダ メって」「はっきり言ってほしい」(A.27)ということ であると話している。B も,連想項目 1,2,3 で「今 の学力レベルなら落ちる,受かるとはっきり言っても らえ」,「ちゃんと本音で話し合える」面談が理想的で あり,その方が「逆に奮起できる」とし,続けて項目 4,5 では「『頑張ったら大丈夫』とか言うのをやめて ほしい」,そう言われると「ああ大丈夫かと思って逆に やる気が失せる」と記している。逐語記録では「ズバ ッとくる一言があればいい」(B.10)という思いが確認 されている。 次に,研究 1 で得られた,A,B のプロフィール(Table 3)と照らし合わせ,研究 2 の結果を考察する。 実技科目以外の学業成績では,A は下位,B は上位 Table 6 A,B の PAC 分析に見られる差異 A(女子) B(男子) 各連想項目の+の数 5 1 各連想項目の-の数 3(面談自体については 0) 7 実際の面接の主観的評価 75 点(100 点中) 3 点(10 点中) (担任の評価) ほぼ理想(A.17) 言葉が響いてこない(B.9) 逐語記録 (担任との関係) 全く問題なし(A.17) ごまかされているみたい(B.36) (自分について) 言いにくいことは特になし(A.9) 自分の意見を言えていない(B.36) PAC分析研究 第3巻 20