ゲームの面白さを解明する
構造化IRFモデルと自動ゲームデザインの未来
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井戸 里志 - @kan_jiro
既存理論と構造化IRFモデル
MDAフレームワーク(Hunickeら, 2004)
– ゲームを、ルール(Mechanics)、展開(Dynamics)、
面白さ(Aesthetics)の三層構造で記述する枠組み
– 面白さの分類に理論的な根拠はない
構造化IRFモデル
– 面白さの要素を Influence, Reward, Fictionality に
理論的に分類し、ゲーム全体の目標の構造と結びつけたモデル
– 戦略からアクション、ストーリーまで
ほとんどの面白さをひとつの枠組みで説明
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本発表の構成
1. ゲームとは何か?
– ゲームプレイとゲームを区別することで境界問題を解決
2. ゲームの面白さとは何か?
– 「インフルエンス」「リワード」「フィクショナリティ」
3. ゲームの構造をどう表現するか?
– 分類されたゲームプレイと、大小に連なる目標を結びつける
4. 未来のゲームデザインプロセス
– ゲームデザイナーの仕事の大半が自動化される時代は目前
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1.
ゲームとは何か?
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ゲームと非ゲームの境界問題
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数学の試験はゲームか?
– 試行錯誤して複雑な問題を解く面白さは
ゲームの面白さに通じるように感じられる
– 数学の試験から面白みを感じてもなお
ゲームでないとしたら、それはなぜか?
三目並べはゲームか?
– 最善手順を知っているプレイヤー同士の対戦では
交互にマスを埋めるだけの作業になる
– 三目並べが最善手順を知られていてもなお
ゲームであるとしたら、それはなぜか?
ゲームプレイとゲームの定義
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能動的活動
– 何らかの目標を達成することを意図して
事物や他人・自分に影響を与える活動
– 労働、学習、ゲームなど
ゲームプレイ
– 能動的活動から生まれる
面白さ・楽しさ・気持ち良さ
ゲーム
– 苦痛・労力を抑えながら、
大きなゲームプレイを生み出すことを
意図してデザインされたシステム
境界問題への解答
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数学の試験はゲームではない
– 複雑な問題に対して、解かれた状態になることをめざして
自分が影響を与えるとき、ゲームプレイが得られる
– だとしても、試験はゲームプレイを生み出すことを
意図して作られたシステムではないので、ゲームではない
三目並べはゲームである
– 最善手順を知っていて勝利をめざしている場合、影響を与える
ような判断をする余地がないため、ゲームプレイが得られない
– だとしても、三目並べはゲームプレイを生み出すことを
意図して作られたシステムであるので、ゲームである
2.
ゲームの面白さとは何か?
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基礎的なゲームプレイの分類
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インフルエンス
– 自分の行動が、ゲームに強く
影響を与えているように感じられる
リワード
– 目標を達成することによって
もたらされる事態が
魅力的に感じられる
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インフルエンスの分類
インタラクション
– 現在の自分がゲーム内の事物へ
影響を与える操作と反応
コミュニケーション
– 他のプレイヤーのゲーム内の事物への
影響の与え方に関与するやりとり
ストラテジー
– 将来の自分のゲーム内の事物への
影響の与え方を画策する思考
主要なインタラクション
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操作のインタラクション
– 対象を操作すること自体に生理的な気持ち良さがある
– 例|プラットフォームゲーム
波及のインタラクション
– 操作による影響が、直接的・間接的に多くのものに波及する
– 例|物理パズル
コミュニケーションの分類
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敵対型コミュニケーション
– 敵、または敵である可能性のあるプレイヤーとのやりとり
特に、得られる情報に差がある場合
– 例|ポーカー
友好型コミュニケーション
– 味方であることがわかっているプレイヤーとのやりとり
– 例|TRPG
ストラテジーの分類
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ゲーム型ストラテジー
– 明確な目標が与えられている
与えられた目標の達成をめざす
– 例|将棋、囲碁
トイ型ストラテジー
– 明確な目標が与えられていないか、非常に緩い
プレイヤー自身が自発的に指向する目標の達成をめざす
– サンドボックス的な要素
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解決のリワード
– 不安定・不明・中途半端な状態が解消される
– 例|宝探し、パズル(複雑なものはストラテジーも含む)
破壊のリワード
– 何かが破壊される
– 例|シューティング
主要なリワード – 1/2
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賞賛のリワード
– 自分の成果を高く感じられたり、自己陶酔感を得られたりする
– 例|ソーシャルゲーム、音楽ゲーム
成長のリワード
– プレイヤーの影響力が高まる
– 例|RPGのレベルアップ
実益のリワード
– プレイヤーの現実生活にとっての利益がある
– 例|脳トレ
主要なリワード – 2/2
ゲームメカニクスと虚構世界
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ゲームメカニクス
– 広義の「ルール」
プログラムによって実装される
ものや物理法則も含む
– インフルエンスとリワードは
ゲームメカニクスへの関心に由来する
虚構世界
– 例|「地球が宇宙人に攻撃されている」
「ルイージはマリオの弟だ」
– 虚構世界への関心に由来する
ゲームプレイを
「フィクショナリティ」と呼ぶ
主要なフィクショナリティ
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愛好のフィクショナリティ
– 影響を与える対象をプレイヤーの好きなものに見立てたり、
影響の過程をプレイヤーの好きなことに見立てたりする
– 例|育成ゲーム、スポーツゲーム、
魅力的な世界を舞台にしたゲーム
物語のフィクショナリティ
– プレイヤーの行動に物語上の意味をもたせる
– 例|ノベルゲーム
体験のフィクショナリティ
– 虚構世界が自分自身の出来事としてリアルに感じられる
– 日本におけるいわゆる“ナラティブ”
ゲームプレイ分類まとめ
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ゲームメカニクス由来のゲームプレイ
インフルエンス
 インタラクション
– 操作のインタラクション
– 波及のインタラクション
 コミュニケーション
– 敵対型コミュニケーション
– 友好型コミュニケーション
 ストラテジー
– ゲーム型ストラテジー
– トイ型ストラテジー
リワード
– 解決のリワード
– 破壊のリワード
– 成長のリワード
– 賞賛のリワード
– 実益のリワード
虚構世界由来のゲームプレイ
フィクショナリティ
– 愛好のフィクショナリティ
– 物語のフィクショナリティ
– 体験のフィクショナリティ
3.
ゲームの構造をどう表現するか?
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目標の種類
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主目標
– ゲームへ参加する時点で意識される、一回のプレイングの目的
– 例|麻雀で試合終了時に1位になること
明目標
– 開始と終了のタイミングが明確である目標
– 主目標は、ほとんどの場合、明目標
– 例|アクションゲームでステージのひとつをクリアすること
暗目標
– 開始と終了のタイミングが明確でない目標
– 例|アクションゲームで
ステージに含まれる関門のひとつをクリアすること
目標間の関係
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上下統合(下目標/上目標)
– 下目標を繰り返し達成することで、上目標が達成される
– 下目標A1が完了 ∧ 下目標A2が完了 ∧ … = 上目標Aが完了
– 例|麻雀で「一局ごとにできるだけ高い点を得ること」 と
「試合終了時に1位になること」
前後統合(前目標/後目標)
– 後目標の達成には、先に前目標を達成する必要がある
– 前目標Aが完了 ⊂ 後目標Bが完了
– 例|TCGで「強いデッキを構築すること」 と
「試合で勝つこと」
進行型統合と創発型統合
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進行型統合
– 上目標/後目標を達成するための下目標/前目標の評価関数が単純
– 例|麻雀の一局と一試合
試合でトップになるために一局ごとにめざす結果は
自分とトップとの得点差くらいを考慮すればほぼ問題ない
創発型統合
– 上目標/後目標を達成するための下目標/前目標の評価関数が複雑
– 例|麻雀の一巡と一局
トップとの得点差を小さくするために
一巡ごとにめざす結果には複雑な判断基準が必要となる
進行/創発とゲームプレイ
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進行型統合のメリット
– プレイヤーの行動への評価を即座に明確にフィードバックできる
リワードを最大限に活かせる
創発型統合のメリット
– インフルエンスを大きくする
とりわけ、ストラテジーには必須
分析例『スーパーマリオブラザーズ』
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分析例『ゼルダの伝説』
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分析例『ポケットモンスター』
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分析例『ぷよぷよ』
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分析例『脳を鍛える鬼トレーニング』
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分析例『MOTHER』
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目標の機能
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目標の機能の分類
① 主目標
② ゲームプレイに直接結びついた目標(コア目標)
③ ゲームプレイに直接結びついた統合(コア統合)を
構成する目標
④ 成長のリワードが寄与する統合を構成する目標
⑤ 主目標を繰り返し楽しめるようにする上目標(メタ目標)
⑥ ひとつの上目標に対する下目標が
多くなりすぎないよう、間に挟む目標
 メリハリをつける
(他にもあるかも)
構造化IRFモデルと既存理論の接続
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EMSフレームワーク(中村, 2014)
– 手段と目的の構造でゲームを言い表す
– ゲームデザイン初心者でも
ゲームのアイデアを出すことができる
MDAフレームワーク
– ゲームをルール、展開、面白さの
三層構造で捉える
– 狙っている面白さを、具体的な
アルゴリズムやデータに
落とし込むことができる
4.
未来のゲームデザインプロセス
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自動ゲームデザイン(AGD)
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AGD (Automated Game Design)
– AIによるバランス調整、レベルデザイン、メカニクス生成など
– 2005年頃から発展、これからが期待される分野
IRFモデルによるAGDの可能性
– 各ゲームプレイを定量化
– 進化的アルゴリズムで
より大きなゲームプレイを生み出すデザインを生成
ゲームプレイ定量化の難度
– ストラテジー < コミュニケーション << インタラクション
< リワード <<< フィクショナリティ
– ストラテジーとコミュニケーションは既存の技術でおおむね可能
AGDによる詰将棋の生成
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面白い詰将棋の自動生成方法案
1. 逆算法などを用いて詰将棋を列挙
2. 列挙された詰将棋をAIにプレイさせる
3. ストラテジーの大きな詰将棋を抽出
将棋のストラテジーの定量化
– 複数の有力な着手候補の間の、
それぞれを選んだ場合から予測
される将来の局面の差異の大きさ
– それぞれの局面を、評価関数の
各項目の値を基に高次元空間内の
1点にプロットし、その距離を計算
AGDによるゲームメカニクスの創造
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Yavalath(Browne, 2007)
– 世界で初めて、完全にAGDで
作られた商用ゲーム
– ボードゲームファンからも
評価が高い
LUDI - Yavalathを生み出したAGDシステム
– 進化的アルゴリズムで、既存のアブストラクトゲーム
(囲碁、オセロ、五目並べなど)のメカニクスの要素を遺伝子とする
– 自己対戦と57項目のゲームデザイン評価基準で適応度を測定
– 生き残るゲームは五目並べに似たものばかりという問題も
汎用AGDの実現可能性
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あらゆるゲームを生成できるAGDは可能か?
– あらゆるジャンルやターゲットに適した評価基準と、
あらゆるゲームを人間らしくプレイできるAIプレイヤーが必要
 将来的にディープラーニングで自動生成可能
汎用AGDの段階 - 1/2
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第0段階|自動テストプレイ
– 与えられたゲームメカニクスを、プレイしながら学習
– AIの予想を大きく外れる(バグの可能性が高い)展開が
発生したら報告
第0.5段階|ゲームプレイの定量評価
– 人間が行った数値・配置調整に対してテストプレイを行い
ストラテジーやコミュニケーションの変化量を評価
第1段階|自動パラメータ調整
– 与えられた変数や素材に対して、ストラテジーや
コミュニケーションを最大化するように数値・配置を調整
第2段階|自動レベルデザイン
– すべてのゲームメカニクス由来のゲームプレイを定量化
– 与えられた基本のゲームメカニクスに基いて
付加的なメカニクスやアイテム、スキル、敵、ステージを生成
– 人間は、採用するステージを選び、虚構世界上の意味
(森林、砂漠など)を割り当て加工する
第3段階|自動ゲームメカニクスデザイン
– あらゆるゲームメカニクスをゼロから生成
– 人間は、採用するメカニクスを選び、虚構世界上の意味
(モンスターの収集・育成、国家の運営など)を割り当て加工する
第4段階|完全な自動ゲームデザイン
汎用AGDの段階 - 2/2
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AGD時代のゲームデザイナー
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個々のゲームに合わせたAGDの運用
– AGDにどのような素材を与え、何を生成させるか?
– 生成された無数のコンテンツに対して評価を下し、教育する
フィクショナリティ部分の制作
– フィクショナリティは文脈に依存するため、単純な
パターン認識だけでは生成の精度が上がらない可能性がある
コンテンツのボリューム増加
– ただし、ユーザーが遊ぶ時間には限りがある
人間ならではの味わいを追究
– AGDによるコンテンツには独特の癖が出ることが予想される
まとめ
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ゲームの定義
– ゲームプレイを生み出すことを意図してデザインされたシステム
ゲームプレイの分類
– インタラクション、コミュニケーション、ストラテジー、
リワード、フィクショナリティに分けられる
ゲーム構造の図示
– ゲームプレイを目標や統合と結びつける
自動ゲームデザイン
– ゲームプレイのうち定量化しやすいものを中心とした
ゲームデザインは、近い将来に自動化される

ゲームの面白さを解明する ―構造化IRFモデルと自動ゲームデザインの未来―