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第52回全国研究大会
基調講演「指導の最前線」
個人差と教育条件の織りなす
動的状況における
学習指導の位置づけ
平成24年8月8日
文部科学省国立教育政策研究所
総括研究官 山森光陽
3. リアルタイムで
質問・ご意見・ご感想を
受け付けます
@koyo_q
できる限り時間内に回答します
この内容は文部科学省や国立教育政策研究所の公式見解ではありません
4. はじめに
4
学級編制基準と教職員定数の適正化
5. はじめに
5
学級編制基準と教職員定数の適正化
6. はじめに
6
学級編制基準と教職員定数の適正化
11. 教育条件・学習指導・学習成果
11
教育条件による児童生徒の学習成果の違い
制度 家庭など
学校の
教育条件
P 状況
従前の学力
一時点の学習成果は
様々な要因による交互作用の結果
12. 教育条件・学習指導・学習成果
12
児童・生徒レベルと学校レベル
y=ax+d
outcome
a=b
d≠e
y=bx+e
classsize
18. 学級規模による学習成果の変化の違い
18
学級編制の基準と期間による分類
平均学級規模
学校
学級編制
3年 4年 5年 数
3年間,または第4~5学年の2年間,現
(1) 行を下回る基準による学級編制を実施した 28.1 25.6 25.5 13
学校
3年間現行の基準による学級編制を実施し,
(2) 1度以上平均学級規模が30人を超えた学 34.2 33.8 33.6 47
校
3年間現行の基準による学級編制を実施し,
(3) 25.9 26.0 25.9 41
平均学級規模が30人以下の学校
第3~5学年の間のいずれか1年間のみ,
(4) 現行を下回る基準による学級編制を実施し 36.9 34.4 26.7 9
た学校
19. 学級規模による学習成果の変化の違い
19
学校内と学校間のモデルを仮定した分析
s
標準得点 標準得点
学校内 (4年) (6年)
e
※標準得点(4年)は学校ごとの平均値で中心化した
学校間
標準得点の学校ごとの平均値(4年) d
標準得点
(6年)
第3学年から第5学年の間で京都式少人 の切片
(参照集団) 数教育としての少人数学級を選択せず,
第3学年から 3年間で1度以上平均学級規模が30人を
第5学年まで 超えた学校
の3年間,ま
たは第4学年 第3学年から第5学年の間で京都式少人
から第5学年 数教育としての少人数学級を選択せず,
の2年間京都 3年間の平均学級規模が30人以下の学校
式少人数教育 d
としての少人
数学級を選択 第3学年から第5学年の間のいずれか1 標準得点
した学校 年間のみ,京都式少人数教育としての少 (6年)
人数学級を選択した学校 の傾き
20. 学級規模による学習成果の変化の違い
20
学級編制の基準と期間による学習成果の変化
の違い:国語
3年間,または第4~5学年の2年間
現行を下回る基準による学級編制を
実施した学校
3年間現行の基準による
学級編制を実施し,
1度以上平均学級規模が
30人を超えた学校
21. 学級規模による学習成果の変化の違い
21
学級編制の基準と期間による学習成果の
変化の違い:国語
3年間,または第4~5学年の2年間
現行を下回る基準による学級編制を
実施した学校
3年間現行の基準に
よる学級編制を実施し,
平均学級規模が
30人以下の学校
22. 学級規模による学習成果の変化の違い
22
学級編制の基準と期間による学習成果の
変化の違い:算数
3年間,または第4~5学年の2年間
現行を下回る基準による学級編制を
実施した学校
3年間現行の基準に
よる学級編制を実施し,
平均学級規模が
30人以下の学校
23. 学級規模による学習成果の変化の違い
23
学級編制の基準と期間による学習成果の
変化の違い
• 教科によって結果が異なる。
– 国語:編制基準引き下げによる小規模学級継続
のほうが大規模学級よりその後の学力が高い。
– 国語:編制基準引き下げによる小規模学級継続
のほうが現行基準により編制された小規模学級
とくらべて学力の底上げ。
– 算数:編制基準引き下げによる小規模学級継続
のほうが現行基準により編制された小規模学級
とくらべてその後の学力が高い。
学級規模縮小の継続の優位と単なる少人数学級との違い
24. 学級規模による学習成果の変化の違い
24
学級編制の基準と期間による学習成果の
変化の違い
学級規模縮小の継続の優位と
単なる少人数学級との違い
学級規模の縮小
→学級数の増
→学年付教員の増
26. 学級規模と学年学級数による学級の状況の違い
26
クラス替え・人間関係的問題・集団づくり
• 1年間の授業は授業開きで決まる
• 1年間の学級の状況はクラス替え
で決まる
クラス替え
• ピアノ,球技,リーダー,問題を起こす児童生
徒,学校や教員に非常に高い関心を示しご意見
ご要望を多く寄せてくださる保護者の子ども
→分散させる。
• 一緒にしてはいけない児童生徒
→一緒の学級には所属しないようにする。
28. 学級規模と学年学級数による学級の状況の違い
28
クラス替えの効果と学習集団としての学級
学級規模 学年学級数
の縮小 の増
落ち着いて,安心して学習活動に
取り組める生活集団/学習集団
としての学級の実現
35. 学級規模の違いがもたらす学級の状況や児童生徒の個人差の違い
35
理論的背景
• 児童生徒が積極的に学習活動に参加できる機会が増
える。
• 教師にとっては児童生徒個人の学習の進み具合を見
たりといった,必要な支援を行う時間が増える。
• より多くの児童生徒が学級集団において尊重される
存在となりうる。学級全体で学習活動に取り組む際
にも多くの児童生徒が積極的に取り組むことが可能
となり,協同学習が実現しやすくなる。
心理的コミュニティ感覚(PSOC)
動機づけ・目標理論
社会的手抜き(social loafing)
38. P/T比と指導方法
38
P/T比の縮小(少人数指導)と指導方法
教科 数学 英語
学習集団の規模 ~20人 ~30人 31人以上 ~20人 ~30人 31人以上
(学校数) (32校) (6校) (21校) (25校) (6校) (27校)
学力や学習適性の個人差に
46.9% 50.0% 19.0% 32.0% 33.3% 25.9%
あわせた計画をたてている
個
人 学力や学習適性の個人差に
差 あわせた学習プリント等を 59.4% 50.0% 28.6% 40.0% 33.3% 40.7%
に 作成している
応
じ 学力や学習適性の個人差に
た あわせた教具(掛図,ピク
31.3% 33.3% 19.0% 32.0% 16.7% 33.3%
指 チャーカード等)を用意し
導 ている
の
計 単元導入時等に,どのよう
画 な指導行えばよいかを知る
・ 28.1% 0.0% 33.3% 16.0% 33.3% 29.6%
ための評価(診断的評価)
準 を行っている
備
・
評 単元の途中に,指導方法の
価 改善や個別指導の資料を得
62.5% 83.3% 85.7% 44.0% 66.7% 77.8%
るための評価(形成的評
価)を行っている
注:項目ごとに最も実施割合の高い学習集団の規模の数値に下線を付した。
39. P/T比と指導方法
39
P/T比の縮小(少人数指導)と指導方法
教科 数学 英語
学習集団の規模 ~20人 ~30人 31人以上 ~20人 ~30人 31人以上
(学校数) (32校) (6校) (21校) (25校) (6校) (27校)
生徒全員にノート点検や学習プリ
43.8% 33.3% 81.0% 88.0% 66.7% 81.5%
ントへのコメントつけをしている
1単元につき一度以上,生徒の実
態を把握しながら,授業展開のし 81.3% 100.0% 85.7% 92.0% 100.0% 81.5%
個 かたを変化させている
人
差
に 1単元につき一度以上,グループ学
28.1% 33.3% 38.1% 60.0% 50.0% 48.1%
応 習を行っている
じ
た
指 1単元につき一度以上,生徒どう
78.1% 66.7% 81.0% 56.0% 50.0% 74.1%
導 しで教えあう機会を設けている
の
実
施 1単元につき一度以上,生徒自身
56.3% 83.3% 61.9% 64.0% 33.3% 66.7%
で学習を進める機会を設けている
1単元につき一度以上,どのように
勉強を進めれば良いかといった方 62.5% 83.3% 81.0% 56.0% 66.7% 63.0%
法(学習方略)を教えている
注:項目ごとに最も実施割合の高い学習集団の規模の数値に下線を付した。
40. P/T比と指導方法
40
教育条件に合わせた指導は実現しにくい
制度 動かしがたいゴール
なんと
教育条件 なくの
T 理想
蓄積された先行経験
直面した教育条件の変化よりも
長期的に形成された先行経験の影響
41. P/T比と指導方法
41
理論的背景
• 教師が児童生徒の個人差に注意を向けやす
くなる。
• 学級や学習集団に対する働きかけや学級経
営がしやすくなる。
• 採点など授業外の負担が減少する。
教師に与える認知的負荷
42. P/T比と指導方法
42
「少人数指導」という制度では説明できない
学習成果の変化の違い
43. P/T比と指導方法
43
「少人数指導」という制度では説明できない
学習成果の変化の違い
• 特定の教科に限ってP/T比を減じる
少人数指導の場合,少ないP/T比を
活かした授業が実施されている場
合もあれば,そうでない場合もあ
る。
• 取り組みのばらつきが著しいた
め,制度全体としてみると効果が
あるとは言いにくい。
45. P/T比の減によって実現しやすくなる指導の工夫
45
学力と動機づけとの関係の違い
(
内
• 学習集団の規模が小さいとaの 発
2 学
値が小さくなる 期
的
動
– 学習集団の規模の縮小は学力が 末 機
動機づけに与える影響を低める )
ことができるのではないか y=ax+b
(
• 個に応じた指導の準備を行うと 内
aの値が小さくなる 2 発
学 的
– 個に応じた指導の準備を行うと期 動
学力が動機づけに与える影響を 末 機
低めることができるのではない )
か y=ax+b
• 授業中における個に応じた指導 ( 内
を実施するとbの値が大きくな 2 発
学 的
る 期 動
– 授業中における個に応じた指導 末 機
を実施するとその学校は全体的 )
に動機づけが高くなるのではな y=ax+b
いか
学力(1学期末)
46. P/T比の減によって実現しやすくなる指導の工夫
46
教師による指導の工夫の余地
• P/T比の減と,P/T比の減によって実現しや
すくなる指導の工夫が,児童生徒に好まし
い変化をもたらすと考えられる。
• P/T比の減によって実現しやすくなる指導の
工夫がなされていない場合が多いと思われ
る。
• 教師を指導方法の工夫改善の取り組みに向
かわせる難しさ。
50. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
50
論点
• 学習指導の計画・実施は,教育条件の違い
が教育環境に,教育環境が学習者の個人差
に影響するという動的な状況に常に直面し
ている。
• 教育条件の変化が授業が実施される場と授
業を受ける児童生徒に違いをもたらす。
• それでもなお,教師が実施する授業は変わ
りにくい。
どうすればよいか?
51. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
51
効果的な指導のモデル
Plan for instructional Classroom Establish a
density
Management democratic classroom
Individualize instruction
using assessment data Monitor behavior
rather than punish
Organize engaging Encourage
context and activities self-regulation Foster classroom community
Model thinking Balance appropriate
processes challenge level
Classroom Classroom
Instruction Atmosphere
Provide informative feedback
Focus on improvement and effort
Express high expectations
Foster interest and engagement (Roehrig, et al., 2012)
52. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
52
効果的な指導のモデル
Plan for instructional Classroom Establish a
density
Management democratic classroom
Individualize instruction
using assessment data Monitor behavior
rather than punish
Organize engaging Encourage
context and activities self-regulation Foster classroom community
Model thinking Balance appropriate
processes challenge level
Classroom Classroom
Instruction Atmosphere
Provide informative feedback
Focus on improvement and effort
Express high expectations
Foster interest and engagement (Roehrig, et al., 2012)
53. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
53
形成的フィードバックに着目する理由
Plan for instructional Classroom Establish a
density
Management democratic classroom
Individualize instruction
using assessment data Monitor behavior
rather than punish
Organize engaging Encourage
context and activities self-regulation Foster classroom community
Model thinking Balance appropriate
processes challenge level
Classroom Classroom
Instruction Atmosphere
Provide informative feedback
Focus on improvement and effort
Express high expectations
Foster interest and engagement
• 日本の小中学校では,学級経営を主軸にしながら,
これらのことの多くに十分に取り組まれている。
• 評価については適切な方法論を知らない教員が多く,
十分になされているとはいえない。
54. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
54
形成的フィードバックに着目する理由
• 名人芸的要素が強い授
業。
• 技術的要素が強い評価。
• 改善された教育条件によって実施しやすい
状況が生じる。
• 適切な手順さえ理解すれば誰でも実施可能。
• メタアナリシスなどによって効果が実証済。
55. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
55
形成的フィードバックの効果
この20年程度の間に実施された形成的
フィードバックの実証研究の結果のメタ
分析によって得られた効果量の中央値
(Neal & Brooke, 2011)
d=.25
1SD
57. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
57
Informativeな形成的フィードバック
自らを伸ばす方法を自身で立案する
達成目標と実現状況との差
実現状況 達成目標
実現状況から達成目標に至るための方法の提示
自らを伸ばす方法を外(教師)から与えられる
58. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
58
形成的フィードバックの内容
形成的評価として与えられる情報 効果
正誤や出来具合 ○
その先どのような方法で取り組めばよいか ◎
その先どのような知識を使って処理すればよいか ◎
個人の努力の程度 △
59. 個人差と教育条件の織りなす動的状況における学習指導
59
形成的フィードバックの方法
授 エビデンス ストラテジー
業 • 思考を巡らせながら課題解決に取り組んでいる最中に
中 フィードバック(言葉がけなど)を行うことは課題解 • 思考力・判断力の
決の妨げになることがある(Corno & Snow, 育成を目指すこと
1986)。 に重みが置かれる
• 知識・技能の獲得を目指す学習活動の場合には即時 学習活動ではじっ
フィードバックが適切だが,概念形成を目指す学習活 くり考えさせる余
動においては遅延(少し時間をおく)フィードバック 裕を持つ。
の方が適切であると考えられている。
• 評価規準(達成目
• 評価規準や判定基準を共有することが学力を高めること 標)とそれに対す
る実現状況を判定
評 に寄与する。特に低学力層においてその傾向が見られる。
する基準(判定基
価 準)の両方を用意
結 する。
果 • 得点だけを示され
の • 学習内容や課題の内容に関連したフィードバックを与え ても,自身の学習
報 ることが学力の伸びと肯定的な学習観を持たせることに 活動を振り返るの
告 寄与する。 は難しい。なぜそ
・ の得点(または評
返 • 得点や順位の情報は学力の伸びに寄与しない。低学力層
価)がついたのか
却 に対しては否定的な学習観を持たせることにつながる。 を説明する。
61. まとめ
61
所与の教育条件と学習者の個人差を
考慮しながら計画・実施される学習指導
教育条件の違いが教育環境に,教育環境が
学習者の個人差に影響するという動的な状況
工夫の重要な視点
としての評価
動的な状況下での
指導の計画と実施のありかた