入院患者の発熱へのアプローチ
島根県立中央病院
救命救急科医長
樋口 大
こんな経験ありますよね
肺炎で入院。セフトリアキソン1週間で速やかに解熱し、
経口摂取も良好。明日退院予定です。
先生、明日退院予定の〇〇さん、
38度5分の熱が出ています。
そんな時
外来患者の発熱 ≠ 入院患者の発熱
感染症
偽痛風
薬剤熱
癌
膠原病
熱中症
Hospitalist. 2013; 1(2): 169-178
入院患者の発熱の鑑別疾患
先人たちによると・・・
56%
25%
19%
入院患者の発熱
感染症 非感染症 不明
36%
20%
11%
11%
22%
入院患者の感染症
尿路感染 手術部位感染 肺炎 カテーテル関連感染 その他
N Engl J Med 2014;370:1198-208.
Am J Med 1993;95:505-12
Public Health Rep 2007;122:160-66
樋口の思考回路
• まず感染症の評価を行う
• ただし、感染症に関しては、やみくもな評価はしない
• 入院中の感染症は以下の3つに頭の中を分けて整理する
① 初期診断感染症の治療不全パターン
② 初期診断感染症が根本的に未解決パターン
③ 初期診断感染症と違う新規感染症パターン
• 感染症を除外しながら、関節・薬剤・血栓の確認を行う
肺炎
胆嚢炎
尿路感染
手術部位感染
カテーテル感染
化膿性関節炎
髄膜炎
腸炎
…
①初期診断感染症の治療不全パターン
≒ 膿瘍形成パターン
• 尿路感染症からの腎膿瘍・前立腺膿瘍
• 肺炎からの膿胸・胸膜炎・肺化膿症
• ブドウ球菌/腸内細菌血流感染からの深部膿瘍(化膿性脊椎炎、腸腰筋膿瘍、硬膜外膿瘍)
• 胆管炎からの肝膿瘍
• 褥瘡感染の深部波及
起因菌がブドウ球菌か腸内細菌の時には特に頻度多し。
ドレナージを要する病変がないか、造影CTでの評価を行う。
補液+抗菌薬介入により、入院翌日だけ少し全身状態が良くなる。が、それ以降は
少しずつ再増悪し、経口摂取不良が遷延する。本人の来院時の主訴が改善していない。
特徴
介入
ポイント
36
36.5
37
37.5
38
38.5
39
39.5
day1 day3 day5 day7
①治療不全・膿瘍形成パターンのイメージ
体温 食欲
入院翌日はやや解熱し活気も改善
以後発熱遷延して活気低下へ
②初期診断感染症が根本的に未解決なパターン
• 肺炎の原因が誤嚥性肺炎
• 尿路感染症の原因が排尿障害
• 胆道感染の原因が胆管結石・胆泥トラブル
特徴
介入
ポイント
入院後全身状態は改善。入院1週間後前後で、
来院時と類似の身体所見を呈しながら再熱発。
再度同様の治療を行うと共に、根本問題への介入が必要。
36
36.5
37
37.5
38
38.5
39
39.5
day1 day3 day5 day7 day9
②根本未解決パターンのイメージ
体温 食欲
解熱して活気も改善
入院一週間後、緩やかに再熱発
③初期診断感染症と違う新規感染症のパターン
以下の4つを確認する
1. やっぱり尿路感染症+誤嚥性肺炎は外せない
2. CD関連腸炎
3. 留置デバイスによる感染症(抜去後の点滴痕/静脈も確認)
4. 胆嚢炎(特にCTRX投与後・絶食や臥床時間の長い患者)
全身の詳細な診察、異物確認が診断の決め手。
良好な全身状態がスイッチが入ったように急に増悪。
特徴
介入
ポイント
③ 初期診断感染症と違う新規感染症パターン
36
36.5
37
37.5
38
38.5
39
39.5
day1 day3 day5 day7 day9 day11 day13
③新規感染症パターンのイメージ
体温 食欲
経過良好だったのに
突然の発熱と活気低下
薬剤熱の際には、皮疹、肝障害、好酸球上昇、なども可能性を
上げるサインになる。偽痛風は発熱の翌日に関節痛が顕在化し
てくることもある。
非感染症
• 偽痛風
• 薬剤熱
• (DVT・悪性リンパ腫などの血液疾患)
発熱のわりに全身状態はよく、頻脈や頻呼吸など
他のバイタルサインの悪化がない。
特徴
介入
ポイント
36
36.5
37
37.5
38
38.5
39
39.5
day1 day3 day5 day7 day9 day11 day13
非感染症パターン(偽痛風)のイメージ
体温 食欲
突然の高熱
活気あり
36
36.5
37
37.5
38
38.5
39
39.5
day1 day3 day5 day7 day9 day11 day13
非感染症パターン(薬剤熱)のイメージ
体温 食欲
感染症の発熱は改善も、だらだら微熱
活気あり
入院患者の発熱:Take Home Massage
• まずは感染症の評価:血液培養採取。
• 感染症は、入院時診断した感染症を意識しながら、
①膿瘍形成パターン、②根本未解決パターン、
③新規感染症パターン に頭の中で分けて評価する。
• ①はよくならない全身状態と起因菌がサインになる。
• ②は同じ病歴の繰り返しがサインになる。
• ③は尿+肺炎+デバイス+CD+胆嚢炎を評価する。
• 非感染症としては、痛い関節探し+薬歴確認をする。

入院患者の発熱へのアプローチ【ADVANCED】