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120502助産学会・講演1.8
- 1. 120502第26回日本助産学会学術集会 札幌・教育講演 医療者育成のサイエンスと方法論 卒前教育、卒後研修、エキスパート養成を つなぐために 池上敬一 日本医療教授システム学会 獨協医科大学越谷病院救命救急センター 1
- 2. トピック • キャロルの時間モデル • デザインの原理 • 教える技術 • 究極の鍛錬 2
- 3. 「ツルカメ算」を4時限教えました。 テストをしました。 合格が20名、不合格が5名でした。 「あんなに一生懸命に教えたのに・・・」 3
- 4. よくある場面 • （テストを返しながら）「今度は頑張 りましょうね」 • （家に帰ってから）「寝てたんじゃな いの？」「もっと勉強しなきゃ」 • 「わたしって、できないんだ・・・」 4
- 5. なぜ、不合格？ 1. 教え方が悪かった 2. 生徒の頑張りが足りなかった 3. もともと生徒には能力がない 4. 上記のすべて 5
- 7. 成績の差を「時間差」で 説明する 7
- 8. 学習に費やされた時間 学習率 = 学習に必要な時間 8
- 9. ・学習の機会 ・学習持続力 学習に費やされた時間 学習率 = 学習に必要な時間 ・課題への適性、動機 ・授業の質 ・授業理解力 9
- 10. 教授システム学 ・学習の機会 ・学習持続力 学習に費やされた時間 学習率 = 学習に必要な時間 ・課題への適性、動機 教員の責任 ・授業の質 学習者の責任 ・授業理解力 （教員の責任） 10
- 11. キャロルの時間モデル • 学習の質を改善する • 効果・効率・魅力を高める • 教授システム学を活用する • 動機付けモデル（後述） • インストラクションの原理（後述） • 学習経験モデル 11
- 13. 授業時間 実際に授業が 行なわれた時間 実際に学習に 費やされた時間 学習の質 ・高い ・中等度 ・低い 13
- 14. 授業時間 実際に授業が 行なわれた時間 実際に学習に 費やされた時間 学習の質 ・高い Academic Learning Time ・中等度 (ALT) ・低い 14
- 15. 授業の条件 授業の方法 教育設計の 授業の成果 記述的理論 「こうしたら」、「こうなった」 15
- 16. 授業の条件 授業の方法 教育設計の 授業の成果 記述的理論 「教えたのに出来ない・・・」 16
- 17. 授業の条件 授業の方法 教育設計の 授業の成果 処方的理論 「結果を出すために」、「こうする」 17
- 18. 処方→デザイン （教授設計） 18
- 19. デザイン 「僕がアップルで学んだこと」 • 優れたデザインは役に立ち、問題を 解決してくれる。 • 顧客の体験をデザインする。 • 環境を最適化する。 • ニューヨークの凶悪犯罪75％減少 • 軽微な犯罪を徹底的に取り締まった 19
- 20. 選ばれる教育機関 • 選抜・オリエンテーション • 「目標を立て、協力して頑張り、目標を達成する」経験 • 学習の質が高い • 「キャロルの時間モデル」でデザイン • 教員のISD（教授システム学）能力 • 卒業生の質が高い • 学習者として学習能力が高い • 「あの学校に行けば自分が成長できる」 • 成長ストーリーがある 20
- 21. デザイン 「僕がアップルで学んだこと」 • 優れたデザインは役に立ち、問題を 解決してくれる。 • 顧客の体験をデザインする。 • 環境を最適化する。 • ニューヨークの凶悪犯罪75％減少 • 軽微な犯罪を徹底的に取り締まった 21
- 22. 医療者育成のサイエンス • ジョン・ケラーのARCSモデル • 「動機」をデザインする • エンゲージメント（没入）へ誘導 • メリルのID第一原理 • すべての状況に利用可能な原理 22
- 23. 23
- 24. ARCSモデル • 「メリルのID第一原理 スクリーンショット 2012-04-30 10.01.25 • すべての状況に利用可能な原理 24
- 25. 25
- 26. 26
- 27. ムービー 27
- 28. 28
- 29. ARCSセミナー 2011 29
- 30. ジョン・ケラー先生「ISD & ARCSセミナー」 • 2012年8月11、12日午前9時-午後5時 • 科学技術館 • 東京都千代田区 30
- 31. メリルのID第一原理 31
- 32. 32
- 33. 真性な課題に取り組む • 教室で教えやすいように要素に還元しな い • 実際にあった事例で学習目標を教える • 卒前教育、卒後研修、エキスパート • 学習するレイヤーの深さが異なる • 事例の難易度を高め応用力を獲得する 33
- 34. 活性化 Activation すでに知っている知識を動員する □学習者の過去の関連する経験を思い起こさせる □新しく学ぶ知識の基礎になりそうな過去の経験から得た知 識を思い出させ、関連づけ、記述させ、応用させる □新しく学ぶ知識の基礎になるような関連する経験を学習者 に与える □学習者がすでに知っている知識やスキルを使う機会を与える 34
- 35. 例示 1 Demonstration Tell me でなく Show me □新しく学ぶことを「伝える」のではなく「例示」する □学習目的に合致した例示方法:(a)概念学習には例になるもの と例ではないものを対比させて, (b)手順の学習には「やって みせる」ことを, (c) プロセスの学習には可視化を, そして (e) 行動の学習にはモデルを示す 35
- 36. 例示 2 Demonstration Tell me でなく Show me □適切なガイダンス(指針)を学習者に与える:a) 関係する情報に 学習者を導く, (b) 例示には複数の事例・提示方法を用いる, あ るいは (c) 複数の例示を比較して相違点を明らかにする □メディアに教授上の意味を持たせて適切に活用せよ 36
- 37. 応用 1 Application 応用するチャンスがある(Let me) □新しく学んだ知識やスキルを使うような問題解決を学習者 にさせよ □応用(練習)と事後テストをあらかじめ記述された(あるいは 暗示された)学習目標と合致させよ (a) 「~についての情報」の練習には、情報の再生(記述式)か 再認(選択式) (b) 「~の部分」の練習には、そ の部分を指し示す・名前を言 わせる・説明させること 37
- 38. 応用 2 Application □応用(練習)と事後テスト (c) 「~の一種」の練習には、その種類の新しい事例 を選ばせ ること, (d) 「~のやり方」の練習には、手順を実演させるこ と、そして(e) 「何が起きたか」の練 習には、与えられた条 件で何が起きるかを予測させるか、予測できなかった結末の 原因は何だったかを発見 させること □学習者の問題解決を導くために、誤りを発見して修正した り、徐々に援助の手を少なくしていくことを含め て、適切な フィードバックとコーチングを実施せよ 38
- 39. 応用 3 Application □学習者に異なる問題を連続的に解くことを要 求せよ 39
- 40. 統合 Integration 現場で活用し、振り返るチャンスがある □学習者が新しい知識やスキルを日常生活の中に統合(転移)す ることを奨励する □学習者が新しい知識やスキルをみんなの前でデモンスト レーションする機会を与える □学習者が新しい知識やスキルについて振り返り、話し合 い、肩を持つように仕向ける □学習者が新しい知識やスキルの使い方について自分なりの アイディアを考え、探索し、創出するように仕向ける 40
- 41. シミュレーション医療学習における経験 学習理論の応用 具体的経験・シミュレーション 省察 試行・行動変容 デブリーフィング 概念化 数週間後のデブリーフィング • 具体的経験 (concrete experience) – シミュレーションで具体的な経験をする • 省察 (reflection in) – 経験直後に自分自身の経験を多様な観点から振り返る • 概念化 (refection on) – 他の状況でも応用できるように、一般化、概念化する • 試行 (active experimentation, behavioral change) – 新しいフレームのもとで、新たな行動変容を獲得する 41
- 42. デブリーフィング 振り返り • 理論：デューイ、バンデュラ、レイブ他 • プラス＆デルタ • 「できた」こと（プラス）を記述してもら う • 「改善できること」（デルタ）を記述して もらう • 振り返り：「直後」と「熟成」 42
- 43. 統合（integration）により 行動変容が起こるプロセス シミュレーション ・経験 行動変容 前状態 デブリーフィング ・デブリーフィング シミュレーション医療学習により行動変容を引き起こす一連のプロセス・・・ユニット スキル・パフォーマンス 時間 シミュレーションとデブリーフィングによる行動変容を継続する・・・成長と発達を支援 43
- 44. 教える技術 44
- 45. 教える技術・ポイント1 • 「教えたつもり」ではなく、相手がで きなかったことが一人でできるように なって、初めて「教えた」と呼べる。 45
- 46. 教える技術・ポイント2 • 教えるということは、コミュニケー ションの一つなので、相手にあわせて 教え方を変えなければいけないという こと。 46
- 47. 教える技術・ポイント3 • 相手の心を変えるのでなくて、「行 動」を変えること。その行動は明確な ゴールとして決めること。 47
- 48. 運動スキル • スモールステップの原則 • 即時フィードバック • おおげさにほめない • 叱らない • 学習経験の質 48
- 49. 認知スキル • どのようにうまく思考するかを教える ことが、認知スキルのゴール • 記憶する • 問題解決 • 話す＆書く 49
- 50. 記憶する • 集中よりも分散学習の方が効果的 • 覚える内容とすでに知っている知識を 結びつけると記憶できる • 物語を聴く、またはイメージを見る 50
- 51. 問題解決 • 解き方のパターンを習得させて問題解 決を教える • 解き方のパターン（スキーマ）のバリ エーションを拡張する • 応用問題にスキーマを使う練習をする 51
- 52. 話す＆書く • 後から見てすぐに記憶がよみ がえるノートの取り方を定着させる • 「コーネル式ノート」 • 文章は「小さなステップを踏んで書く」 • 型を教える • スピーチメモの作成と練習 52
- 53. 態度スキル1 • 相手をその気にさせて決断させる • 相手の心に触れることで態度スキルを教える ことができる • 質問をして、やってほしいことに目を向けさ せる • 命令ではなく、質問を使って相手の気持ち を動かす 53
- 54. 態度スキル2 • 「なぜ必要か」「どんないいことがあ るか」がわかると態度が変わる • 対話をしながら相手の中にストーリー を作る • 答えを引き出すような質問をすると、 ストーリーが見えてくる 54
- 55. 5000時間で上手になれる • 1日5時間、毎日練習・・・5年間 • 料理、スポーツ、語学：領域に無関係 • 「キャロルの時間モデル」 • 才能、能力・・・無関係 • 「誰でも」ひとつのことに上達できる 55
- 56. シミュレーション医療学習により 行動変容が起こるプロセス シミュレーション ・経験 行動変容 前状態 デブリーフィング ・デブリーフィング シミュレーション医療学習により行動変容を引き起こす一連のプロセス・・・ユニット スキル・パフォーマンス 時間 シミュレーションとデブリーフィングによる行動変容を継続する・・・成長と発達を支援 56
- 57. 10000時間で一流になれる • Deliberate practice、「究極の鍛錬」 • よくデザインされている • 何度も繰り返すことができる • 結果へのフィードバックが継続的にある • 集中知て努力することが求められる • しつこく取り組むことが求められる 57
- 58. 卒前教育・卒後研修・生涯学習の包括的モデル 発達レベル 専門医・エキスパート養成 研修医・advanced beginner からCompetentレベルに養成 学習環境 （厚労省臨床研修の目標達成） 医学生・医療者として beginnerに養成 学習環境 パフォーマンストレーニング 学習環境 Deliberate Practice パフォーマンストレーニング、 認知プロセスの学習 Instruction, Debriefing, 態度・知識・知的スキル・手技 Coaching Teaching, Instruction Simulated-Learning Environment, Authentic Learning + Job Training 時間 58
- 59. 職場環境＝学習環境 不安ゾーン 過度な期待、やらされ感は 逆効果 学習ゾーン ARCSモデル、ID第一原理、 共同学習、正統的周辺参加 快適ゾーン 漫然と同じ業務を続けていると 出来ている感が生まれるが、 パフォーマンス能力は落ちていく 59
- 60. 学習経験のデザイン パリッシュのID美学第一原理 60
- 61. 環境、経験、人間形成 • ナイチンゲール・・・環境の重要性 • 眺めの良い部屋・・・回復が早い • 家庭環境・生活環境・・・人生を左右 • 学習環境・・・学習経験の質を左右 • 学習者要因・・・意図、心身がそこにあ る、変化を拒まない、環境への信頼 61
- 62. 学習経験モデル （パリッシュのID美学の第一原理、2008） • 学習経験の質には段階がある • 無経験→機械的な繰返し→ • バラバラな活動→心地よい繰返し→ • 挑戦的な企て→フロー状態 62
- 63. 無経験 • 何も気づかず、何も試みず、何も 学ばず楽しまず • 環境との交流がない 63
- 64. 機械的繰り返し • 強制的にやらされたり、機械的な 繰り返しで「たいくつ」する • そこに成長はない • 類似の経験への嫌悪感だけが残る 64
- 65. ばらばらな活動 • 没入しようとするが中断・脇道へ の迂回・障害発生 • 中途半端 • 人生の大半の経験はこれ • 不満は残るが記憶に残らない日々 65
- 66. 心地よい繰り返し • 没入や投資が試みられ、それに見合う反応 がある • しかし、結実が長期を要するので効果が顕 著でない • 庭の手入れが典型例 • 日々の繰り返し作業に重要性は感じられな いが、やがて訪れる結実が予感できる 66
- 67. 挑戦的な企て • 結果が成功であっても失敗であっ ても、多くを学べるチャレンジで 本腰を入れて、それに見合う手応 えがある • その瞬間の没入感も大切である が、計画や事後の振り返りも重要 67
- 68. 美的経験 • 日常的な経験とは一線を画す、楽 しめて忘れられない、時として人 生を変えるような影響力を持つ洗 練されたもの 68
- 69. ID美学第一原理 • 文芸批評の４つの観点 • 学習経験にはプロットがある • 学習者は自分の学習経験の主人公である • 教科ではなく学習活動がインストラクションのテーマ を設定する • 文脈がインストラクション場面への没入感に貢献する • デザイナーとインストラクターは作者であり助演者であ り主人公を盛り上げる 69
- 70. デザイン 「僕がアップルで学んだこと」 • 優れたデザインは役に立ち、問題を 解決してくれる。 • 顧客の体験をデザインする。 • 環境を最適化する。 • ニューヨークの凶悪犯罪75％減少 • 軽微な犯罪を徹底的に取り締まった 70
- 71. 選ばれる教育機関 • 選抜・オリエンテーション • 「目標を立て、協力して頑張り、目標を達成する」経験 • 学習の質が高い • 「キャロルの時間モデル」でデザイン • 教員のISD（教授システム学）能力 • 卒業生の質が高い • 学習者として学習能力が高い • 「あの学校に行けば自分が成長できる」 • 成長ストーリーがある 71
- 72. 卒前教育 • 動機づけのデザイン（ARCSモデル） • 教授法（メリルのID第一原理） • 学習者としての成長（パリッシュのID 美学第一原理） 72
- 73. 卒後研修 • 職場環境＝学習環境 • ラーニングゾーン • パフォーマンスシミュレーションを基盤と した拡張した経験学習 • ロールモデル＝インストラクター・コーチ • 学習者としての成長物語を紡ぐ共同作業 73
- 74. エキスパート • 究極の鍛錬 • パフォーマンスシミュレーション • 振り返り • インストラクター、ファシリテー ター、コーチの経験 74
- 75. まとめ • 卒前教育・卒後研修・エキスパート養成を つなぐサイエンスと方法論は既に存在する • デザインとインストラクションを実践から 学ぶ必要がある • 実践と学習のプロセスを研究成果としてま とめる必要がある 75
- 76. それが日本医療教授システム 学会のミッション 76
- 77. 資料 • 鈴木克明 • http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/ ksuzuki/resume/books/1995rtv/ rtvcont.html • 向後千春 • http://kogolab.chillout.jp/textbook/ 2012_ID_text.pdf • スライドセット • 77