ベイジアン・アダプティブ・デザイン
を用いた臨床試験の報告事例
2017/3/18
医療経済研究機構 主任研究員
清水 沙友里
第28回REQUIRE研究会
Bayesian Adaptive Designのよいとこわるいとこ
2
US Food and Drug Administration. Guidance for the Use of Bayesian Statistics in Medical Device Clinical Trials –Guidance for Industry and FDA Staff, Feb 2010
Pros
•事前情報と治験結果を連続的なデータの流れ
とみなして推論の更新ができる
•試験が小規模・短期となる可能性がある
•事前情報が無い場合でも、中間解析にもとづ
いて試験計画の変更が可能(望ましくない治
療の中止、組入計画の変更)
•頻度論で近似的な解析しかできない場合でも
実行可能
•Adaptive designを実施する場合はベイジア
ンの方が実施がラク
•欠測に対する柔軟性が大
•多重性の調整に対するアプローチは頻度論よ
りベイジアンの方が有利
Cons
•事前情報と治験で得られる情報、それを組み
合わせるモデルについてデザイン段階で規定
し、臨床試験開始前に当局との協議を行う必
要がある
•治験後期の事前情報ないしはモデルの変更は
科学的正当性を損なう
•計算が非常に大変(技術的コスト)
👉FDAは同じ条件で検算する
•実装には工夫が必要(バイアスを回避するた
めデータの機密性を高める、第三者による解
析、登録速度のコントロール)
•事前情報が治験結果と十分に一致しない場合、
頻度論的な手法と比較し保守的な標本サイズ
になる
第Ⅱ相試験の役割
新薬に対する効果の初期評価の提供
無効な治療を除外・有望な薬剤の同定
臨床試験あるある:第Ⅱ相で成功、第Ⅲ相で失敗\(^o^)/
その時行っている試験と先行して行っている試験では、患者・
基準・実施機関に差異がありバイアスを持ち得るが、単群の第
Ⅱ相試験では、試験薬が標準的な反応率又は既存データと比較
バイアスと交絡を除去し、患者特性を揃えたい
3
Ratain MJ, Sargent DJ. Optimising the design of phase II oncology trials: the importance of randomisation. Eur J Cancer. 2009 Jan;45(2):275–80.
…詳細はこの後の発表で
■死屍累々「変わらなければ無駄な試験で貴重な臨床研究の資源を消費し続ける」
4
Rubin EH, Anderson KM, Gause CK. The BATTLE Trial: A Bold Step toward Improving the Efficiency of Biomarker-Based Drug Development. Cancer Discov. 2011 Jun 1;1(1):17–20.
そもそも分子標的薬とは…
標的の同定 → 化合物の開発
適切な(効果の)予測因子:interactionが同定されているもの
は少ない
5
製薬協 http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q48.html
分子標的薬とは、体内の特定の分子を狙い撃ちし、その機能を抑えることによって
より安全に、より有効に病気を治療する目的で開発された薬。がんの治療薬を例に
とりますと、抗がん薬の多くは、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまう
ので、重い副作用を発現させることも少なくありません。従来はがん細胞を死滅さ
せる作用によって治療の効果を得てきましたが、近年、がんに関する研究が進み、
がん細胞が増殖や転移をするのは、異常な遺伝子からできた物質が悪さをしている
ためであることがわかりました。つまり、悪さをする物質の働きを抑えることがで
きるなら、がん細胞の増殖や転移が抑えられるはずです。こうした考え方から誕生
したのが「分子標的薬」です。
昔 今
正常細胞に対する毒性は殆
ど無く、腫瘍抑制効果も無
い
殺細胞性抗がん剤とプロ
ファイルの異なる毒性が存
在し、腫瘍抑制効果が高い
こともある
なぜイマイチなのか…
• 開発段階では予測因子がわからない
• 分子標的薬の効果はありそうだがバイオマーカーがわからない
• バイオマーカーの候補は複数ある
• 無治療やプラセボ対照が望ましいが倫理的に適切でない
• マーカーを発現しているサブグループはがん種全体からすると
一部にしか過ぎない→ヒストリカルコントロールがない
• はっきりしないバイオマーカーの妥当性の検証のみに、大規模
にならざるを得ないランダム化試験を組むのはリーズナブルで
はない(主効果に加えて予測因子(交互作用)を明らかにする必
要があり、マーカーと治療の交互作用の評価にはサンプルサイ
ズが大きくなる)
• その上ランダム化は患者同意が困難
• レトロスペクティブな解析でもできるが要件が厳しい
何か組み合わせないと(・・;
6
第Ⅱ相試験 Bayesian adaptive randomization
1.The BATTLE Trial
シームレスⅡ/Ⅲ相試験
2. The AWARD-5 Trial
7
The BATTLE Trial:Personalizing Therapy for
Lung Cancer Biomarker-integrated Approaches of Targeted Therapy for Lung Cancer Elimination
8
Kim ES, Herbst RS, Wistuba II, Lee JJ, Blumenschein GR, Tsao A, et al.
Cancer Discov. 2011 Jun;1(1):44–53.
According to Thomson Reuters' Journal Citation Reports® (2016):
Cancer Discovery's impact factor has increased to 19.783!
Cancer Discovery is now ranked 6th of 213 journals in the Oncology category in terms
of impact factor.
なぜBATTLE Trialが実施されたか?
• 肺がんの分子標的薬は一部患者に有効だが、乳がんや結腸がん治療のように治療
前にそれを同定する腫瘍バイオマーカーは明らかになっていなかった
• 従来の治療/標的ごとに行われるバイオマーカー評価の臨床試験は、組み入れ可能
な患者集団が限定的で非効率だった
• 第Ⅲ相は多数の治験参加者が必要だが、肺がんでは、効果が少ないかもしれない
治療を大規模におこなうことには倫理的課題がある
アダプティブ・ランダム化により可能なこと
• 最初はランダム割り付けされるが、試験中の中間解析の結果で、より有効な薬剤
に割り付けが行われ、無効と判断されれば減らされるか中止となる
• 第Ⅱ相で治療効果のあるバイオマーカーを同定することにより、第Ⅲ相での必要
患者数が減少する
• 個別化医療の概念になじむ→治験参加者への説明がしやすい
9
■背景
10
■研究デザイン
Liu S, Lee JJ. An overview of the design and conduct of the BATTLE trials.
Chin Clin Oncol. 2015 Sep;4(3):33.
ランダム化Ⅱ相試験,単施設,オープンラベル
Lin J, Bunn V. Comparison of multi-arm multi-stage design and adaptive randomization in
platform clinical trials. Contemp Clin Trials. 2017 Mar;54:48–59.
アンブレラ(包括的)・プロトコル
明確な定義は無いものの、概ね特定のがん種にお
いて、いくつかのサブタイプに対して複数の治療
を同時に評価する臨床試験を指す
11
■webベースのデータ登録インターフェイスを開発
Liu S, Lee JJ. An overview of the design and conduct of the BATTLE trials. Chin Clin Oncol. 2015 Sep;4(3):33.
ベイジアン・アダプティブ試験に必須なのはタイムリーな計測&レポーティン
グ!個々の患者のデータがアップデートされたらすぐにランダム化の確率と早期
中止が自動的に算出される
化学療法難治性の非小細胞肺癌患者のバイオマーカー
プロファイルによる、4つの標的薬剤の有効性評価
(NCT00409968, NCT00411671, NCT00411632, NCT00410059, NCT00410189)
Primary: 8週間時点での疾患制御率(disease control rate)
Secondary:奏効率(response rate)、無増悪生存期間(PFS:
progression-free survival), 全生存期間(OS: overall
survival), 毒性
DCRは類似の患者のヒストリカルコントロールによる
推定値(30%)と比較
12
■目的
■エンドポイント 全生存率の優れた指標
• エルロチニブ(タルセバ)1日1回150mg投与群
• ソラフェニブ(ネクサバール)400mg1日2回投与群
• バンデタニブ(ザクティマ)1日1回300mg投与群
• エルロチニブ1日1回150mg、ベキサロテン(タルグレチン) 1
日1回400mg/m2投与群
• テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの患者でベースラ
インの生検に同意した化学療法難治性の非小細胞肺癌患者
• 18歳以上でECOGが0-2(活動可~歩行可能だが作業は困難)
• エルロチニブの事前治療歴は可(エルロチニブを含んだarmは
NG)、少なくとも4週間は状態がstable、脳転移に対する治療
は可
• ECOGがOKならば複数のラインの前治療歴可
• 生検の適正判断のため、腫瘍のX線撮影画像で検討
13
■対象薬剤
■対象患者
• 直径約1mm、長さ1.2cm〜1.8cmの1-3個の組織コアを得た。
各CNB標本は ①臨床試験バイオマーカー分析用の組織 ②
将来の遺伝子発現およびプロテオミクスバイオマーカー分析
のための組織 に二分した
• 各患者は下記の5群のうち1つに割り当てられた。 2つ以上の
群のバイオマーカーを有する患者は、最も高い順位(1が高い)
を有する群に割り当てられた
14
■生検
Liu S, Lee JJ. An overview of the design and conduct of the BATTLE trials. Chin Clin Oncol. 2015 Sep;4(3):33.
1. 最初のコホートは患者をランダム割り当て。各マーカー群
の少なくとも1人の患者が治療を完了できるようにし、その
後の患者のDCの事前確率を推定するのに十分なデータを提
供する
2. 最初のコホートの後に登録された患者は、①のデータを組
み込んだベイジアンアダプティブアルゴリズムに従って、
ランダムに割り当て
3. 事後確率は、個々の患者のDCとバイオマーカーのデータの
蓄積毎に絶えず調整される
新たな患者は、同じマーカー群を有する患者に効果があった薬
剤に多く割り付けされ、効果があまり認められない薬剤への割
り付けは最小限に抑えられるか中止される。
15
■ランダム化
• 患者は各治療サイクル(4週間)の終わりに評価され、2サイク
ルまたは8週間ごとに画像検査を受ける
• DCは、放射線科医が、8週間の終わり(2回の治療サイクルの
終了)に固形腫瘍の応答評価基準(RECIST15)に従って評価
• PFSは、ランダム化の日から、病状の進行または全死亡まで
の間を評価
• OSは、ランダム化の日から全死亡までを評価
• 腫瘍の奏功は、病状が進行するまで8週間ごとに評価
• 毒性は、国立がん研究所の有害事象のCommon
Terminology Criteria for Adverse Event 3.0に準拠して評
価
16
■臨床評価
17
■CONSORT diagram
• 2006年11月30日から2009年10月28日までの間に341例
の患者を登録
• 最初の97例については等しくランダム化、残りの158例に
ついてはアダプティブ
• 治療群当たりの無作為化患者数は59(エルロチニブ)、54
(バンデタニブ) 、37(エルロチニブ+ベキサロテン)、
105(ソラフェニブ)
18
■治療別の患者特性
19
■マーカー群別の患者数
20
■奏効率、OS
• 8週間時点の疾患制御率は46%
• 全生存期間中央値は9カ月、1年生存率
は38%
• 無増悪生存期間中央値は1.9カ月
• 4剤の毒性は非常に少ない
• バンデタニブはVEGFRの過剰発現が認
められる患者には効果が認められたも
のの、KRASに変異がある患者は中止
21
■アダプティブ・ランダム化の確率と奏効率
• マーカー群4は6名しかいないため
図から除外
• 腫瘍にKRAS変異がありソラフェニ
ブを投与された患者の疾患制御率は
61%
• その他3剤の投与患者では32%
• エルロチニブはEGFR変異に対して
最も有効
• バンデタニブはVEGFR-2の陽性に対
して最も有効
• エルロチニブとベキサロテンの併用
はサイクリンD1の異常(染色陽性)も
しくはEGFR遺伝子の増幅に対して
最も有効
Liu S, Lee JJ. An overview of the design and conduct of the BATTLE trials. Chin Clin Oncol. 2015 Sep;4(3):33.
22
■ディスカッション
• 個別化治療のための新しい臨床試験の手法を実行できた先駆者である
• 標的薬剤のバイオマーカーを同定した(追加研究は必要)
• 治療歴のある患者では、8週間のDCがOSの代理指標として優れてい
た
• エンドポイントが短期間であることは、アダプティブ・ランダム化の
有用性を高め、試験前後でのその他治療の影響を受けにくいと考えら
れる
• バイオマーカーのプロファイルは、腫瘍の進行により変化する可能性
あり、リアルタイム生検を行うことが重要
[リミテーション]
• バイオマーカーの予測は困難であった
• エルロチニブの前治療を組み入れ可としたこと(エルロチニブで治療
された患者の割合は次第に増加した)
■BATTLEその後
BATTLE-2が実施されるも、KRAS変異を含むどのマーカーもPFSの治療間差異
とは関連せず、OSと関連したのはPSのみだった
23
■BATTLE談義
• 確かに肺がんの臨床試験は課題山積であり、アダプティブ・ランダム
化のスキームで臨床試験を実施にこぎつけたこと自体が個別化治療に
とって革新的
• エルロチニブの前治療があった患者を部分的に除外したことで、アダ
プティブ・ランダム化のプロセスが混乱し、結果の解釈が複雑になっ
た
• 技術的報告が欠けており、バイオマーカーのグループ分けに用いられ
るアッセイのカットオフの選択(腫瘍がバイオマーカー群に対し「陽
性」か「陰性」かの判定)には疑問がある
• 「予測バイオマーカーに関する事前検証された仮説を検証した」と書
かれているが、正確なバイオマーカー仮説、ならびに関連するタイプ
IおよびⅡエラーは明確ではない。この研究は、特定のバイオマー
カーの仮説を確認するのではなく、仮説を生成するものとみなすべき
• BATTLEの結果が、その後の研究開発に影響を与えるかどうかは興味
深い。BATTLEの後続試験は、複数の製薬会社の支援を受けている。
• BATTLEに文句を付けることは簡単だが、それ以上の効率的で革新的
なアプローチはあるかと問われると難しい
第Ⅱ相試験 Bayesian adaptive randomization
1.The BATTLE Trial
シームレスⅡ/Ⅲ相試験
2. The AWARD-5 Trial
24
シームレスⅡ/Ⅲ相試験登場の背景
• 新薬創出へのプレッシャーが高まる中、ヒストリカル・データがなくアウ
トカムが患者選択や治療によって大きく影響を受けるような領域において、
第Ⅱ相試験で小規模なランダム化試験が増加
• ランダム化Ⅱ相試験が必須の場合もあるが、小規模ランダム化Ⅱ相試験に
対し、偽陰性率の高さや治療効果の推定値の不安定さという批判はあまり
考慮されていない
• むしろランダム化Ⅱ相試験は小規模第三相試験?
• 第Ⅱ相の形骸化に対処し、臨床試験効率性の向上が可能なシームレス
Ⅱ/Ⅲ相試験
• 第Ⅱ相「短期的エンドポイント(DCやPFS)」第Ⅲ相「長期的エンドポイン
ト(OS)」をモデル化するような試験
• シミュレーション上では、少ない患者数で同じの過誤確率を保てる
25
Redman, Mary, and John Crowley. "Small randomized trials." Journal of Thoracic Oncology 2.1 (2007): 1-2.
Lin J, Bunn V. Comparison of multi-arm multi-stage design and adaptive randomization in platform clinical trials. Contemp Clin Trials. 2017 Mar;54:48–59.
26
The Award-5 Trial: Assessment of Weekly AdministRation of Dulaglutide in Diabetes
27
■AWARD6兄弟
AWARD-1
AWARD-2
AWARD-3
AWARD-4
AWARD-5
AWARD-6
2009/10 2012/7 2013/11末
東京ステーションシティ運営協議会
前半部分の説
明が中心です
28
■研究デザイン
ランダム化,二重盲検,多施設(12ヵ国111施設),プラセボ
コントロール,アダプティブ、用量探索、第Ⅱ/Ⅲ相シームレ
ス・デザイン\(^o^)/
Skrivanek Z, Gaydos BL, Chien JY, Geiger MJ, Heathman MA, Berry S, et al. Dose‐finding results in an adaptive, seamless, randomized trial of once‐weekly
dulaglutide combined with metformin in type 2 diabetes patients (AWARD‐5). Diabetes, Obesity and Metabolism. 2014 Aug 1;16(8):748–56.
29
■研究デザイン2
Geiger MJ, Skrivanek Z, Gaydos B, Chien J, Berry S, Berry D. An adaptive, dose-finding, seamless phase 2/3 study of a long-acting
glucagon-like peptide-1 analog (dulaglutide): trial design and baseline characteristics. J Diabetes Sci Technol. 2012 Nov;6(6):1319–27.
2つのランダム化スキーム:2ステージデザイン
ベイジアン・アダプティブ・スキーム
• アダプティブ用量探索アプローチ
• 用量選択と早期中止の決定用量
• dulaを皮下注/week,経口で1錠/dayを服用
• プラセボ群は、プラセボ錠剤および注射剤
を6ヶ月間投与し、その後、盲検的にシタ
グリプチン100mg/day、プラセボ皮下注
/week。
• 選択が行われた場合、
試験はステージ2へ
固定スキーム
• 選択された用量を継続的評価
• 完了時には試験全体が第3相試
験へ
ステージ1
2型糖尿病患者におけるGLP-1受動体作動薬デュラグルチド週
一回皮下注の用量選択とその他用量の中止
ステージ2
高用量のデュラグルチド投与患者の52週時のベースラインから
のHbA1c変化量について、シタグリプチンに対する非劣性の検
証(非劣性マージン0.25%)
長期追跡
デュラグルチドとDPP-4阻害薬シタグリプチンの104週追跡
データの有効性と安全性を比較(NCT00734474)
Primary:血糖コントロール
Secondary:FEB、体重、安全性、QOL
30
■目的
ステージ1
• デュラグルチド7用量 /プラセボ /シタグリプチン
ステージ2
• デュラグルチド2用量(低用量0.75mg/高用量1.5mg)/プラセボ/ シタグリプ
チン
• 18歳~75歳までの2型糖尿病患者(6ヶ月以上)
• HbA1c値が、食事療法および運動単独で8%以上9.5%未満、メトホルミンか
その他経口高血糖薬の単剤両方で7%以上9.5%未満
• BMIが25~40kgであり体重が安定
• 除外基準は、1型糖尿病、スクリーニングから6ヶ月以内のCVイベント、コン
トロールできない高血圧・糖尿病、重大な胃排出障害、肝不全、慢性または
特発性膵炎の病歴、腎障害
• ランダム化時に安定化したHbA1c値を検出するため、患者のレジメンに応じ
た導入期間(4〜11週間)でウォッシュアウト
• ランダム化の前に最低6週間、少なくとも1500mg /日の用量でメトホルミン
が投与。患者は、食事と運動の遵守、低血糖、血糖検査、治験薬の注射につ
いて教育され、ランダム化の前に2週間のプラセボが投与される
31
■対象薬剤
■対象患者
① 固定スキームにより最初の45人をランダム化し、9つの治療群に
均等に割り付け(バーンイン期間としてデータ蓄積、シミュレー
ションにより、プラセボとの分離には治療アームあたり5名)
② バーンイン期間の後、新しい患者は、プラセボ、シタグリプチン、
dulaに1:1:3の比率でランダム化
③ ベイジアン・アダプティブ・スキームによって、安全性(HR、
DBP、体重)および有効性(HbA1c)尺度、 CUI:clinical utility
indexを用いて7用量の割り付け
④ データは2週間ごとに分析する。1週間に約5〜8人の患者の登録
率を維持する
⑤ 200名登録された時点で、用量毎に定められた安全性および有効
性の評価をい、用量選択、停止、患者登録の継続の何れかを決定
⑥ ランダム化を続けている場合、治療の割りつけ確率は2週間ごと
に更新され続け、同時に、アルゴリズムは決定ルールが満たされ
ているかどうかを評価
⑦ ステージ1は、十分なデータが蓄積されるか、または400人が登
録されるまで継続し、400人のデータ蓄積後にアルゴリズムが決
定できない場合は試験は終了。このため、ステージ1のサンプル
サイズは200〜400人に変動する
32
■ステージ1
① DPは、十分な情報が収集され、アダプティブ・アルゴリズムが最大2つ
の用量を選択するか、試験中止を決定できる時間として定義される
② アルゴリズムによる決定後、DMC(独立したデータモニタリング委員
会)はデータを検討する。アルゴリズムが2つの用量を選択した場合、
DMCは用量の1つ、両方、またはどちらも推奨しない を選択できる。
1用量が選択された場合、DMCはその用量を推奨するか否かを決定する。
DMCは、アルゴリズムが選択しない用量を推奨することはできず、有
効中止することはできない。また、アルゴリズムの決定を無視して無効
中止もできない
③ DMCの勧告が出た後、Lilly IRC(内部レビュー委員会)はDMCに提供さ
れたものと同じデータパッケージを検討する。IRCは、治療選択肢を提
供しない場合、試験を終了ができる。 IRCは、アルゴリズムが選択し
なかった用量を推薦することはできない。また、試験中止を覆すことは
できない
④ 試験の完全性を維持するために、選択されたdulaの用量のみが、dula
チーム、研究調査員、倫理審査委員会、および規制当局に伝達される
⑤ 選択された用量と比較対照群に割り当てられた患者は、最大24ヶ月間
治療を継続し、選択されていない用量に割り当てられた患者は試験を中
断する。
33
■Decision point(DP)
① SAC(統計解析センター)は、事前に定義されたサン
プルサイズの再推定を行う。規制当局が試験全体
(ステージ1,2)を受け入れない場合は、ステージ
2のみのデータを使用し、第Ⅲ相試験とする。
② ステージ1に参加しているサイトは、継続してス
テージ2に登録することができる。サンプルサイズ
要件が満たされるように新しいサイトが追加され
る。ステージ2の登録は、迅速に進めることが可能。
適格基準は変わらない。
③ ランダム化は、HbA1cおよび国によって層別化
④ すべての患者が12ヶ月の治療を完了した後、暫定
的にデータベースがロックされ、プライマリー分
析が行われる。患者および治験責任医師は、治療
期間中は盲検のまま。
34
■ステージ2
35
■固定スキームの患者特性
36
■用量反応モデルとCUI
• 最初の患者がランダム化されてか
ら24週間後、200人の患者が登録
され、アルゴリズムが各用量の評
価を開始
• DMCは3.0mg群へのさらなるラン
ダム化を中止し、潜在的な長期安
全性リスクのためにその投与量の
中止を勧告した(差し迫った安全
性懸念はない)IRCはこの勧告を
支持
• アルゴリズムは0.75mgおよび
1.5mgの用量を選択し、DMCと
IRCは、両方の用量を承認した。
37
■DP後の患者特性(継続論文)
38
■結果
• ベースラインから104週後のHbA1c
の変化は,シタグリプチン群にくらべ,
dula1.5mg群(群間差 -0.67%),
0.75mg群(群間差 -0.39%)とも
に,それぞれ有意に大きく低下した
• ベースラインから104週後の体重変化
は,dula 1.5mg群 -2.88,dula
0.75mg群 -2.39,シタグリプチン
群 -1.75であり,dula 1.5mg群で
シタグリプチン群にくらべて有意に減
量した(群間差 -1.14kg)。
• 消化管の有害事象(吐き気,下痢,嘔
吐)はdula 1.5mg群,0.75mg群で,
シタグリプチン群にくらべて多かった。
膵臓,甲状腺,心血管,過敏性の安全
性は全群で同程度であった。
39
■結論
デュラグルチドは1.5mg,0.75mgともに血糖コン
トロールに優れ,デュラグルチド群では体重減少も
大きく,GLP-1受容体作動薬でみられる消化器症状
などの有害事象も投与初期の2-4週以降は漸減した。
dulaは、シタグリプチンに対し、長期の有効性・安
全性が優ることが明らかとなった。
40
■裏方は大変だよ論文
Liu S, Lee JJ. An overview of the design and conduct of the BATTLE trials. Chin Clin Oncol. 2015 Sep;4(3):33.
• あらゆるところでスゴく大変だった。完全な初期計画を立てなければならない
• 今まで使用していた臨床試験のインフラを組み直して柔軟性を持たせる必要があった
• あらゆる関係者はアダプティブの経験が少なく、規制当局、調査者、倫理審査委員会など
の内部/外部レビュー用に大量のドキュメンテーションが必要
• とりわけ倫理審査委員会はこれまでアダプティブの経験が無く、説明が非常に困難だった
• 社内のコンプライアンス基準の見直しとインフォームドコンセント文書の再作成が必要
• 試験中の様々な変更に耐えうる意思決定とコミュニケーションのプランが必要
• 6カ国50以上のサイトで患者登録のスピードをコントロール(リアルタイムデータからベ
イズで患者登録の推定値を推計)し、申請プロセスの開始時期を決めなくてはならない
• タイムリーで正確なデータ登録から分析、レポーティングのため、プロセス全体を統合し
可能な限り全てを自動化。割り当て確率は2週間毎に計算される
• ITアプリケーションのコンサル、プロジェクト管理の医薬品サービス組織、アダプティブ
とベイズの専門知識を持つ統計コンサルの3社が協力して開発
• データ取得から48時間以内にデータ登録、ラボは1週間毎に検査値を転送(通常1ヶ月)
• ステージ1で全世界で50以上のサイトがありドーズは7種類あったため、割り付けが変わ
ると9つの治療群の治験薬の在庫を再評価する必要があった。治験期間中の治験薬ロジの
複雑さは増した(限られたスタッフのみでロジをコントロールし、ブラインドを保つ必要
がある)。緊急出荷されることもあった
• 第Ⅱ相の容量選択の決定をやりながら、第Ⅲ相で使用する製剤やプロセスを確立せねばな
らず、これはこれまでの第三相よりも早く初期投資はリスクでもあった
• このアダプティブ試験で得られた経験と知見は、今後のアダプティブデザインを用いた臨
床試験の計画、承認、実施、および薬物開発プロセス全体の効率化につながるはずだ
その他参考文献
1. Kim ES, Herbst RS, Wistuba II, Lee JJ, Blumenschein GR, Tsao A, et al. The BATTLE trial:
personalizing therapy for lung cancer. Cancer Discov. 2011 Jun;1(1):44–53.
2. Papadimitrakopoulou V, Lee JJ, Wistuba II, Tsao AS, Fossella FV, Kalhor N, et al. The
BATTLE-2 Study: A Biomarker-Integrated Targeted Therapy Study in Previously Treated
Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer. J Clin Oncol. 2016 Aug;
3. Kim C, Giaccone G. Lessons learned from BATTLE-2 in the war on cancer: the use of Bayesian
method in clinical trial design. Ann Transl Med. 2016 Dec;4(23):466.
4. Liu S, Lee JJ. An overview of the design and conduct of the BATTLE trials. Chin Clin Oncol.
2015 Sep;4(3):33.
5. Park JW, Liu MC, Yee D, Yau C, van ’t Veer LJ, Symmans WF, et al. Adaptive Randomization of
Neratinib in Early Breast Cancer. N Engl J Med. 2016 Jul;375(1):11–22.
6. Weinstock RS, Guerci B, Umpierrez G, Nauck MA, Skrivanek Z, Milicevic Z. Safety and
efficacy of once-weekly dulaglutide versus sitagliptin after 2 years in metformin-treated
patients with type 2 diabetes (AWARD-5): a randomized, phase III study. Diabetes Obes Metab.
2015 Sep;17(9):849–58.
7. Antoniou M, Kolamunnage-Dona R, Jorgensen AL. Biomarker-Guided Non-Adaptive Trial Designs
in Phase II and Phase III: A Methodological Review. J Pers Med. 2017 Jan;7(1).
8. Hatfield I, Allison A, Flight L, Julious SA, Dimairo M. Adaptive designs undertaken in
clinical research: a review of registered clinical trials. Trials. 2016 Mar;17(1):150.
9. Berry, S.M., Carlin, B.P., Lee, J.J., and Muller, P.(2011).Bayesian Adaptive methods for Clinical Trials.
10. US Food and Drug Administration. Guidance for the Use of Bayesian Statistics in Medical Device Clinical Trials –
Guidance for Industry and FDA Staff, Feb 2010
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JustGiving 統計学で検索! http://justgiving.jp/p/886 REQUIRE研究会は、臨床疫学系の研究者が、統計学の継続学習をする場です。こうした取り組みは、公的研究費や民間財団からの支援を受けることは難しい状況です。しかし、運営費を確保するた
めに参加費や年会費を高く設定することは、大学院生の参加を妨げ、かつ「参加者が講師」というスタンスを貫くために採用したくないと考えています。継続的に健全な研究会を運用可能な仕組みにするため、どうか、ご支援を頂けると幸いです。

ベイジアン・アダプティブ・デザイン報告事例

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